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第八集

1
00:00:31,680 --> 00:00:34,080
顧湘:主人! 主人──

2
00:00:34,480 --> 00:00:37,060
──小さな刺繍靴は水しぶきを跳ね上げ
顧湘の衣の裾を濡らしていた

3
00:00:37,160 --> 00:00:39,840
顧湘:傘を差そう ずぶ濡れだよ!

4
00:00:41,760 --> 00:00:43,040
温客行:ん……

5
00:00:43,920 --> 00:00:46,680
顧湘:主人はまたどこで情事に耽ってたんだ?

6
00:00:52,840 --> 00:00:54,440
温客行:人と喧嘩してきた

7
00:00:54,840 --> 00:00:56,600
顧湘:牀の上で?──

8
00:00:56,600 --> 00:01:00,160
おっと お前の嘴はなんでデタラメを言うんだ?

9
00:01:00,160 --> 00:01:02,120
ほんとの事を好き勝手言っていいとでも?

10
00:01:02,120 --> 00:01:04,840
太陽が東から昇るみたいな事実を
好き勝手唱えていいものか……

11
00:01:04,840 --> 00:01:06,360
温客行:阿湘

12
00:01:06,360 --> 00:01:08,200
顧湘:ん……うん?

13
00:01:10,880 --> 00:01:12,880
温客行:彼は……

14
00:01:14,520 --> 00:01:16,200
もうすぐ死ぬらしい

15
00:01:16,200 --> 00:01:18,880
顧湘:ん? 誰が死ぬって?

16
00:01:20,640 --> 00:01:22,200
温客行:周絮

17
00:01:27,200 --> 00:01:29,480
彼の体には内傷がある

18
00:01:31,120 --> 00:01:34,120
初めはあんなにぴんぴんしていてる彼を見て

19
00:01:34,120 --> 00:01:35,960
何でもないと思った

20
00:01:37,000 --> 00:01:38,800
今日やっと分かった

21
00:01:39,880 --> 00:01:42,400
それが治らないと

22
00:01:43,560 --> 00:01:46,000
ただ二、三年の命数が残ってるだけだ

23
00:01:48,920 --> 00:01:51,720
私は聞いてすぐ 彼が何者か分かったのに……

24
00:01:57,080 --> 00:01:59,160
そうと分かっていたら

25
00:01:59,880 --> 00:02:02,400
彼に付いて行って何をした?

26
00:02:03,800 --> 00:02:05,960
顧湘:……周絮?

27
00:02:10,800 --> 00:02:15,040
温客行:私はもともと 彼は“天窗”の人の
はずがないと思っていた

28
00:02:15,040 --> 00:02:17,800
あそこは入れど出られず

29
00:02:17,800 --> 00:02:23,600
おおよそ脱出を企図する者は
必ず七本の“七竅三秋釘”を受けねばならない

30
00:02:23,600 --> 00:02:26,600
武功は全て衰退し 六感を失う

31
00:02:27,200 --> 00:02:31,920
七竅三秋釘を受けた者が
あんな彼みたいのはあり得ない

32
00:02:33,240 --> 00:02:34,440
そう思ってた……

33
00:02:36,760 --> 00:02:39,600
今日 別の者の話を聞いてやっと分かってきた

34
00:02:40,520 --> 00:02:46,360
彼は多分 何か特殊な方法で 釘の被害を軽減したんだ

35
00:02:48,200 --> 00:02:50,360
それでも生きられるのは三年だけ

36
00:02:52,160 --> 00:02:56,980
顧湘:主人……どうしてその
七とかなんとかって釘を知ってるんだ?

37
00:02:56,980 --> 00:02:58,280
温客行:私が?

38
00:03:01,560 --> 00:03:06,880
もし私が少しでも多くを知らなかったら
今まで生きてこれたか?

39
00:03:08,160 --> 00:03:11,240
顧湘:じゃあ……あの周絮は……

40
00:03:11,240 --> 00:03:15,000
温客行:これまで“天窗”の
あの生きた死人の刑罰を逃れた者はいない

41
00:03:15,680 --> 00:03:17,720
むしろ彼は逃れた

42
00:03:18,480 --> 00:03:21,920
彼は少くとも大家令より上の
階級だろうと思っていたが

43
00:03:22,760 --> 00:03:24,480
それどころか……

44
00:03:25,600 --> 00:03:27,720
前の首領だった可能性がある

45
00:03:33,760 --> 00:03:37,160
顧湘:主人 悲しいの?

46
00:03:38,040 --> 00:03:39,640
温客行:私が何を悲しむ?

47
00:03:40,400 --> 00:03:42,000
彼は顔を易容していて

48
00:03:43,360 --> 00:03:46,080
まことの美人かどうかも分からないのに……

49
00:03:46,400 --> 00:03:47,800
それに

50
00:03:48,760 --> 00:03:53,320
私が好きなのは いい匂いで
ふわっとした 色白の柔肌だ

51
00:03:54,480 --> 00:03:56,840
彼がまことに美人だったとしても

52
00:03:57,240 --> 00:03:59,080
私の好みには合わない

53
00:03:59,080 --> 00:04:01,240
顧湘:主人はっきり言ってたじゃないか

54
00:04:01,240 --> 00:04:04,800
好きなのはくびれた腰で背が高くて
一対の美しい蝴蝶の骨を持ってる……

55
00:04:04,800 --> 00:04:06,440
温客行:お前の記憶違いだ

56
00:04:11,600 --> 00:04:12,880
私はただ……

57
00:04:14,760 --> 00:04:17,520
彼には同病相憐れむと感じただけ──

58
00:04:23,080 --> 00:04:24,520
この幾年

59
00:04:26,640 --> 00:04:28,800
お前たち皆それぞれが私を見て

60
00:04:29,040 --> 00:04:30,560
恐れるか

61
00:04:30,560 --> 00:04:35,120
気違いじみて理屈が通らないと思っているだけで

62
00:04:35,680 --> 00:04:37,840
夜の景色の中にあって

63
00:04:37,840 --> 00:04:41,320
焚き火のそばに座って私の
調子外れに歌う曲を聴いて
(*荒腔走板《万暦野獲編・詞曲・弦索入曲》)

64
00:04:41,760 --> 00:04:45,440
私だけが知っている幾つかの物語を
話してやった者が幾人いる?

65
00:04:54,440 --> 00:04:55,720
阿湘

66
00:04:55,720 --> 00:04:56,840
付いて来るな

67
00:04:56,840 --> 00:04:58,880
顧湘:主人 どうしてなの?

68
00:04:58,880 --> 00:05:00,760
あたしまたあなたに悪いことした?

69
00:05:00,760 --> 00:05:02,320
温客行:お前はしゃべりすぎだ

70
00:05:04,480 --> 00:05:06,520
顧湘:せっかく親切にしたのに
(*好心没好报=親切が仇になる)

71
00:05:43,120 --> 00:05:44,720
温客行:周絮……

72
00:05:45,920 --> 00:05:47,960
周子舒:私がいつ乞食だと言った?

73
00:05:47,960 --> 00:05:50,760
壁の隅を陣取って日向ぼっこしてるだけだ

74
00:05:50,760 --> 00:05:51,400
この顔を見て 美人だと言うのか?
壁の隅を陣取って日向ぼっこしてるだけだ

75
00:05:51,400 --> 00:05:54,480
この顔を見て 美人だと言うのか?
 

76
00:05:55,040 --> 00:05:57,360
温……客行

77
00:05:57,360 --> 00:06:01,280
お前の……先祖をいたぶってやる……!

78
00:06:02,320 --> 00:06:04,520
もし一人の一生 己しかなく

79
00:06:04,520 --> 00:06:08,240
何時でも何処でも常に己以外の全ての人を
警戒しているとしたら

80
00:06:08,240 --> 00:06:09,320
あまりにも哀れじゃないか?

81
00:06:09,320 --> 00:06:10,000
もし俺にこのような日があるなら
本当に明日死ぬとしても 本望だ
あまりにも哀れじゃないか?

82
00:06:10,000 --> 00:06:15,560
もし俺にこのような日があるなら
本当に明日死ぬとしても 本望だ
 

83
00:06:17,000 --> 00:06:19,040
この二、三年だ

84
00:06:25,360 --> 00:06:27,080
温客行:二、三年

85
00:06:28,920 --> 00:06:31,720
あっという間にいなくなるのでは?

86
00:06:33,080 --> 00:06:36,720
天下にあって 得れば高歌(こうか)し失せば休み
(*得即高歌失即休《自遣》羅隱)

87
00:06:37,240 --> 00:06:39,880
今朝酒あれば今朝酔うことなんて誰ができる?

88
00:06:41,120 --> 00:06:42,600
温客行

89
00:06:44,400 --> 00:06:46,240
お前はできるか?

90
00:07:06,120 --> 00:07:11,400
涼雨に秋を知り 青梧は老いて死す

91
00:07:12,320 --> 00:07:16,160
一宿の苦寒を薄衾で欺き

92
00:07:17,120 --> 00:07:20,120
幾番の世事に蹉跎たり……

93
00:07:22,240 --> 00:07:24,400
それもただ一言

94
00:07:25,360 --> 00:07:28,760
“相見えることの晩きを恨む”
(*相见恨晚=もっと早くに出逢いたかった、やっと出会えた《史記・平津侯主父列伝》)

95
00:07:32,000 --> 00:07:33,680
阿絮……

96
00:07:37,200 --> 00:07:43,620
晋江文学城 Priest原作 猫耳FM
音熊聯萌連合出品

97
00:07:44,000 --> 00:07:51,320
古風武侠ラジオドラマ《天涯客》
第八集「鬼主」

98
00:08:10,360 --> 00:08:13,020
曹蔚寧:周兄! 周兄! 起きましたか?

99
00:08:13,120 --> 00:08:15,700
──周子舒は混乱した一夜を経て
頭の中の糊が溶け切ってないようだった

100
00:08:15,700 --> 00:08:17,480
周子舒:曹兄 どうした?

101
00:08:17,480 --> 00:08:19,080
曹蔚寧:ほら 早く来てください!

102
00:08:19,080 --> 00:08:20,260
周子舒:どうした?

103
00:08:20,260 --> 00:08:23,820
曹蔚寧:あなたが室内でのんびりしてるうちに
あなたのお弟子の命がもうすぐなくなりますよ!

104
00:08:23,820 --> 00:08:24,800
周子舒:誰が?

105
00:08:24,800 --> 00:08:26,120
張成嶺のことか?

106
00:08:26,120 --> 00:08:27,840
また何か良からぬ事が起こったか?

107
00:08:27,840 --> 00:08:30,000
曹蔚寧:昨夜 突然誰かが奇襲して
あの子を殺そうとしました

108
00:08:30,000 --> 00:08:33,240
幸い隣室の趙大侠が阻止したので
この賊は捕まりましたが

109
00:08:33,240 --> 00:08:34,600
結局その者はなんと死士で

110
00:08:34,600 --> 00:08:37,160
捕まるとすぐ毒を飲んで自尽してしまいました

111
00:08:38,120 --> 00:08:40,320
(周子舒):次から次へと切りがない

112
00:08:40,320 --> 00:08:42,640
俺がこれだけの年月を無為に過ごして

113
00:08:42,640 --> 00:08:44,940
俺の死を願う者の数さえはっきりしないが

114
00:08:44,940 --> 00:08:48,280
今までも この最高級の殺しの待遇はなかった

115
00:08:48,280 --> 00:08:50,120
このチビは全く……

116
00:08:50,880 --> 00:08:52,120
武林人士:毒蝎だわ……

117
00:08:52,120 --> 00:08:54,520
死士が二人がかりで一人の子供を
どうにかしようとするとは!

118
00:08:54,520 --> 00:08:55,960
趙大侠は怪我を?

119
00:08:57,320 --> 00:08:58,680
恐ろしすぎるな

120
00:08:58,680 --> 00:09:00,520
奴らは一体何がしたいんだ?

121
00:09:00,520 --> 00:09:02,680
医者:趙大侠 薬を塗りますよ

122
00:09:02,680 --> 00:09:03,260
少し痛いでしょう

123
00:09:03,260 --> 00:09:04,280
武林人士:琉璃甲とは結局どんなものなんだ……
少し痛いでしょう

124
00:09:04,280 --> 00:09:06,340
武林人士:琉璃甲とは結局どんなものなんだ……
 

125
00:09:09,400 --> 00:09:13,500
──周子舒が思っていたより少年は怯えておらず
壁際で俯いて沈黙していた

126
00:09:13,500 --> 00:09:16,000
高崇は腰をかがめ愛想の良い顔で尋ねた

127
00:09:16,280 --> 00:09:18,800
高崇:成嶺 高おじに答えよ

128
00:09:18,800 --> 00:09:21,360
お前を殺そうとしたあの者を知っておるか?

129
00:09:22,080 --> 00:09:23,720
張成嶺:知りません

130
00:09:24,960 --> 00:09:27,240
高崇:坊主 心配するな

131
00:09:27,240 --> 00:09:31,400
これだけのおじ上たち 皆がお前の後ろ盾になる

132
00:09:31,680 --> 00:09:33,080
言いなさい

133
00:09:33,080 --> 00:09:36,160
この二人の悪人は お前に何を話していたのだ?

134
00:09:38,120 --> 00:09:39,560
張成嶺:何も

135
00:09:40,560 --> 00:09:43,440
封暁峰:高大侠 あんたのこんな質問が何の役に立つ

136
00:09:43,440 --> 00:09:45,560
我ら 幾らか年を経た者なら知ってる

137
00:09:45,560 --> 00:09:47,920
この両人は毒蝎の死士だ

138
00:09:47,920 --> 00:09:49,840
死士はただの殺人の刀だ

139
00:09:49,840 --> 00:09:51,680
凶器が言葉を話せるか?

140
00:09:51,680 --> 00:09:54,040
こんな捨てられる命の蝎に注目したって

141
00:09:54,040 --> 00:09:55,800
一組失敗しても また一組来て

142
00:09:55,800 --> 00:09:57,120
切りがないし執拗だ

143
00:09:57,120 --> 00:10:00,880
誰がこんな大量に元銭を払って
こんなチビを殺しに来る?

144
00:10:00,880 --> 00:10:02,880
あんたはとっとと聞いてみた方がいい

145
00:10:02,880 --> 00:10:06,840
他の人が知らないことを何か知ってるかどうか

146
00:10:07,600 --> 00:10:08,720
趙敬:封矮人!

147
00:10:08,720 --> 00:10:12,200
そんなこと よくもお前が言えたな
良心を犬に食わせたのか?

148
00:10:12,560 --> 00:10:17,680
封暁峰:趙大侠 あんたは張家の遺児を
引き取って以降 寸歩も彼から離れてない

149
00:10:17,680 --> 00:10:21,640
彼みたいな引っ張りだこ同然のを
ずっとそばに連れてるのは一体何のためだ?

150
00:10:21,640 --> 00:10:25,000
あんた自身に心当たりがあるなら
他の者が愚か者だと思うのもやめろ!

151
00:10:25,000 --> 00:10:25,560
武林人士:え……何だって?

152
00:10:25,560 --> 00:10:27,560
武林人士:坊主 お前が何か知ってるなら
武林人士:え……何だって?

153
00:10:27,560 --> 00:10:28,760
武林人士:坊主 お前が何か知ってるなら
勇気を出して言うんだぞ

154
00:10:28,760 --> 00:10:30,080
趙大侠もまさか何か隠してるのか?
勇気を出して言うんだぞ

155
00:10:30,080 --> 00:10:30,920
趙大侠もまさか何か隠してるのか?
そうだそうだ言え言え

156
00:10:30,920 --> 00:10:32,160
これだけの人がいるんだから……
そうだそうだ言え言え

157
00:10:32,160 --> 00:10:32,680
これだけの人がいるんだから……
まさか琉璃甲のため?

158
00:10:32,680 --> 00:10:33,700
まさか琉璃甲のため?

159
00:10:33,700 --> 00:10:34,240
これだけの人がいるのに……
まさか琉璃甲のため?

160
00:10:34,240 --> 00:10:35,320
これだけの人がいるのに……
封暁峰:小僧 本当のことを言え

161
00:10:35,320 --> 00:10:36,200
武林人士:え?琉璃甲?
封暁峰:小僧 本当のことを言え

162
00:10:36,200 --> 00:10:37,320
武林人士:え?琉璃甲?
封暁峰:張家の琉璃甲は

163
00:10:37,320 --> 00:10:37,840
武林人士:怖がるな
封暁峰:張家の琉璃甲は

164
00:10:37,840 --> 00:10:38,760
武林人士:怖がるな
封暁峰:どこにあるかお前は知ってるか?

165
00:10:38,760 --> 00:10:40,040
封暁峰:どこにあるかお前は知ってるか?

166
00:10:40,040 --> 00:10:41,800
お前の手元にあるのか?

167
00:10:41,800 --> 00:10:44,440
その後またこちらの趙……

168
00:10:44,440 --> 00:10:47,520
ははは 趙大侠が着服か?

169
00:10:48,520 --> 00:10:49,760
趙敬:クソ矮人め

170
00:10:49,760 --> 00:10:51,920
お前の祖先十八代を嬲ってやろうか

171
00:10:52,480 --> 00:10:55,800
封暁峰:趙大侠 図星だったのか
(*恼羞成怒=恨みと恥ずかしさで怒りだす)

172
00:10:55,800 --> 00:10:57,280
下品(げぼん)に落ちたんじゃないか?

173
00:10:57,280 --> 00:10:59,240
高崇:老趙 冷静に

174
00:10:59,960 --> 00:11:01,400
封暁峰:高山奴!

175
00:11:06,960 --> 00:11:09,920
高崇:封大侠 根拠のない話は
我らが最も控えていることであろう

176
00:11:09,920 --> 00:11:11,440
不和を生じる──

177
00:11:11,880 --> 00:11:14,880
とりあえず数人で この死体を片付けなさい

178
00:11:15,360 --> 00:11:18,400
そのあとの事は 我々は再度検討を……

179
00:11:18,400 --> 00:11:20,960
武林人士:高大侠 あんたはいつも
そうやって話を終わらせる

180
00:11:20,960 --> 00:11:23,280
しかし誰かが従っても誰かは従わないんだぞ?

181
00:11:23,280 --> 00:11:28,000
皆がいるこの時に その坊主にはっきり
答えさせれば 彼のためにもなるし

182
00:11:28,000 --> 00:11:30,740
しょっちゅう彼の命を気にかける人も
減らせるんじゃないか?

183
00:11:30,740 --> 00:11:32,000
そうだ! そうだ!

184
00:11:32,000 --> 00:11:33,200
すぐに言うんだ
一体どんな秘密があるんだ?

185
00:11:33,200 --> 00:11:34,160
一体どんな秘密があるんだ?

186
00:11:34,160 --> 00:11:36,040
武林人士:そうだよな そうだそうだ
張成嶺:私……本当に

187
00:11:36,040 --> 00:11:36,560
武林人士:そうだよな そうだそうだ
張成嶺:何も知らなくて……

188
00:11:36,560 --> 00:11:37,360
張成嶺:何も知らなくて……

189
00:11:37,360 --> 00:11:40,240
封暁峰:お前は知らないのか
それとも言いたくないのか?

190
00:11:40,240 --> 00:11:41,920
それとも言えないのか?

191
00:11:41,920 --> 00:11:42,280
武林人士:知らない? あり得ないだろ?

192
00:11:42,280 --> 00:11:43,500
張成嶺:私は……
武林人士:知らない? あり得ないだろ?

193
00:11:43,500 --> 00:11:44,520
武林人士:知らない? あり得ないだろ?

194
00:11:44,520 --> 00:11:47,120
武林人士:まさかあまりの衝撃で 忘れたの?

195
00:11:47,120 --> 00:11:49,280
人に脅されてて 話せば命が危ないのでは?

196
00:11:49,280 --> 00:11:51,200
これだけここにいて 何か怖いものがあるか?
人に脅されてて 話せば命が危ないのでは?

197
00:11:51,200 --> 00:11:52,160
これだけここにいて 何か怖いものがあるか?
 

198
00:11:53,240 --> 00:11:56,040
張成嶺:違う…… 私は本当に何も……

199
00:11:56,040 --> 00:11:59,440
武林人士:張家にはこんな わけも分からぬ
子供だけが残ったのか

200
00:12:01,120 --> 00:12:03,640
曹蔚寧:張小兄弟があまりにも可哀想だ

201
00:12:04,640 --> 00:12:05,960
周子舒:ふぅ……

202
00:12:06,440 --> 00:12:09,480
(周子舒):謀りて後に動く 三思の後に行う……
(*三思=熟考すること)

203
00:12:09,480 --> 00:12:14,320
周子舒 お前の人生は
殻を背負って首を縮めた亀だった

204
00:12:14,320 --> 00:12:18,000
間もなく死ぬというのに
まだ右顧左眄(うこさべん)なんかしてるのか?
(*瞻前顾后=注意深く周りを見る、優柔不断)

205
00:12:18,760 --> 00:12:21,840
もし人の生涯で純粋な衝動に
駆られることが全くなかったとしたら

206
00:12:21,840 --> 00:12:25,420
あまりにも抑圧的で 悲しすぎやしないか?

207
00:12:26,120 --> 00:12:30,100
──彼は突然、自分の願いは殻のない
首を縮めない亀になることだったと気付いた

208
00:12:31,220 --> 00:12:33,760
周子舒:諸君 大庭の公衆の下で

209
00:12:33,760 --> 00:12:37,480
子供を困らせるとは これはどんな道理だ?

210
00:12:40,040 --> 00:12:41,120
高崇:周兄弟

211
00:12:41,120 --> 00:12:43,320
周子舒:小僧 こっちに来い

212
00:12:43,320 --> 00:12:44,320
張成嶺:うん!

213
00:12:45,080 --> 00:12:46,600
封暁峰:あんたはまた何者だ?

214
00:12:46,760 --> 00:12:50,160
周子舒:矮人 お前は親父すら分からないのか?

215
00:12:50,160 --> 00:12:51,360
封暁峰:貴様!

216
00:12:51,360 --> 00:12:52,800
高山奴:うるぁ──!

217
00:12:52,800 --> 00:12:56,600
──人の頭ほどもある流星錘を振り回し
周子舒を肉味噌にしようとした

218
00:12:56,600 --> 00:13:00,240
封暁峰を虐める者は彼の父親の敵のようで
この二人の関係も実に奇妙だった

219
00:13:00,240 --> 00:13:03,320
人影が閃くとそこに周子舒の姿はなく
流星錘は地面を抉った

220
00:13:03,960 --> 00:13:07,860
高崇:趙兄 この周兄弟はおぬしの顔見知りか?

221
00:13:07,860 --> 00:13:11,360
かような達人は 本来なら
見たことがあれば絶対に忘れぬが

222
00:13:11,360 --> 00:13:13,760
意外なことに未だかつてこの者を
気に留めたことがなかった

223
00:13:13,760 --> 00:13:16,400
それに ただ彼の周の姓を何とか思い出せても

224
00:13:16,400 --> 00:13:18,120
却って彼の名は出てこぬのだ……

225
00:13:18,520 --> 00:13:20,560
おぬしは彼の経歴を知っておるか?

226
00:13:21,000 --> 00:13:21,800
趙敬:その……

227
00:13:21,800 --> 00:13:23,320
私も分からない

228
00:13:23,320 --> 00:13:24,640
高山奴:うぉ──!

229
00:13:24,640 --> 00:13:25,640
周子舒:ふん

230
00:13:25,920 --> 00:13:27,040
返してやる──

231
00:13:27,040 --> 00:13:30,920
──なぎ払った流星錘の鎖の上につま先を乗せ
錘頭が向かってくる方向に一蹴り力を加えた

232
00:13:30,920 --> 00:13:32,040
高山奴:うぁ──!

233
00:13:32,040 --> 00:13:33,360
封暁峰:高山奴!

234
00:13:33,360 --> 00:13:37,340
──どれほどの力で蹴ったのか人々が反応した時
すでに流星錘は主に飛びかかって肩を砕いた

235
00:13:37,600 --> 00:13:38,720
封暁峰:どういうことだ?

236
00:13:40,240 --> 00:13:41,760
貴様!

237
00:13:44,620 --> 00:13:46,220
周子舒:小僧 行くぞ

238
00:13:46,220 --> 00:13:47,220
張成嶺:うん!

239
00:13:47,220 --> 00:13:48,340
于丘烽:止まれ!

240
00:13:49,360 --> 00:13:50,440
そちらの侠士は

241
00:13:50,440 --> 00:13:53,920
このようにその子供を
天下の英雄たちの面前で連れて行かれる

242
00:13:53,920 --> 00:13:56,280
しかし皆が目に入ってなさすぎるのでは?

243
00:13:57,360 --> 00:13:59,200
周子舒:ならば于掌門はどうしろと?

244
00:13:59,200 --> 00:14:00,560
于丘烽:行きたくば

245
00:14:00,560 --> 00:14:04,400
おぬしはまず彼になぜ幾度も
殺しに来る者がいるのか申させよ

246
00:14:04,400 --> 00:14:07,400
張家は結局 琉璃甲と関係があるのかどうか

247
00:14:07,400 --> 00:14:10,280
その琉璃甲は今一体誰の手にあるのかもだ!

248
00:14:10,280 --> 00:14:13,960
三十年前の出来事には 今でも結果があるはずだ!

249
00:14:15,120 --> 00:14:16,920
周子舒:お前は彼が何のことを
言ってるか分かるか?

250
00:14:17,320 --> 00:14:18,480
張成嶺:分かりません

251
00:14:18,760 --> 00:14:21,360
周子舒:奴が聞いていることに お前は答えたいか?

252
00:14:21,360 --> 00:14:22,520
張成嶺:んん……

253
00:14:22,520 --> 00:14:23,800
周子舒:分かった

254
00:14:25,240 --> 00:14:29,360
于掌門 聞かれても 彼は答えられない

255
00:14:29,360 --> 00:14:31,560
我々はやはりここでお別れだ

256
00:14:31,560 --> 00:14:33,560
今後会う機会がないといい

257
00:14:33,560 --> 00:14:35,720
黄(ホアン)道人:若造め 眼中に人なしか!
(*目中无人=人を気にしない尊大な態度)

258
00:14:35,720 --> 00:14:36,720
周子舒:ふん

259
00:14:37,360 --> 00:14:43,160
──品の良い于丘烽の後ろにいた非常に容姿の悪い
黄道人が一手繰り出したが、誰であっても周子舒の
眼中になく電光石火で萎びたジャガイモになった

260
00:14:44,120 --> 00:14:44,760
武林人士:蒼山掌門!

261
00:14:44,760 --> 00:14:45,720
師父!
武林人士:蒼山掌門!

262
00:14:45,720 --> 00:14:46,240
師父!
どうしたんだ

263
00:14:46,240 --> 00:14:47,400
大丈夫か?
どうしたんだ

264
00:14:47,400 --> 00:14:48,040
大丈夫か?
于丘烽:ふん!

265
00:14:48,040 --> 00:14:48,580
于丘烽:どこから来た邪悪な外道だ

266
00:14:48,580 --> 00:14:49,800
武林人士:早く手当を……
于丘烽:どこから来た邪悪な外道だ

267
00:14:49,800 --> 00:14:50,880
武林人士:早く手当を……
于丘烽:もしやあの悪鬼どもの仲間か?

268
00:14:50,880 --> 00:14:51,920
于丘烽:もしやあの悪鬼どもの仲間か?

269
00:14:51,920 --> 00:14:52,880
奴を行かせてはならん!

270
00:14:52,880 --> 00:14:53,520
武林人士:そうだ! 奴を行かせるな!
奴を行かせてはならん!

271
00:14:53,520 --> 00:14:53,880
武林人士:そうだ! 奴を行かせるな!
 

272
00:14:53,880 --> 00:14:55,400
武林人士:取り囲め!逃がすな!
武林人士:そうだ! 奴を行かせるな!
 

273
00:14:55,400 --> 00:14:56,040
武林人士:取り囲め!逃がすな!
周子舒:打ち負かせないから
人に特大の罪名をなすり付けるんだな?

274
00:14:56,040 --> 00:14:57,760
周子舒:打ち負かせないから
人に特大の罪名をなすり付けるんだな?

275
00:14:57,760 --> 00:14:58,440
曹蔚寧:周兄……

276
00:14:58,440 --> 00:15:00,120
あなたは早く張小兄弟を連れて逃げて!

277
00:15:00,120 --> 00:15:01,560
張成嶺:師父 どうすれば?

278
00:15:01,560 --> 00:15:02,640
周子舒:どうすればだと?

279
00:15:02,640 --> 00:15:03,920
突破すりゃいい

280
00:15:05,240 --> 00:15:08,640
──周子舒は口を引き結び張成嶺を掻き抱え
一瞬で数丈離れると、場は混乱した

281
00:15:09,760 --> 00:15:11,080
于丘烽:取り押さえよ!

282
00:15:11,080 --> 00:15:14,100
──婆さんのようにしつこい華山掌門に腹が立ち
足を止めて彼と少し手を合わせようとすると

283
00:15:14,960 --> 00:15:15,960
于丘烽:何奴?

284
00:15:15,960 --> 00:15:18,520
──鞭の影が空を割り、于丘烽の行く手を遮った

285
00:15:18,520 --> 00:15:20,320
酒の匂いが漂って来た

286
00:15:21,000 --> 00:15:22,360
周子舒:温客行?

287
00:15:22,360 --> 00:15:24,920
──温客行の目は真っ赤で足取りは乱れていた

288
00:15:24,920 --> 00:15:26,360
温客行:阿絮……

289
00:15:26,360 --> 00:15:30,320
──振り向いて“眸回らせ一笑すれば百媚生じる”の
姿勢を取ろうとしたがしゃっくりに壊された

290
00:15:30,320 --> 00:15:31,520
温客行:……阿絮

291
00:15:32,320 --> 00:15:33,560
あなたは……

292
00:15:34,120 --> 00:15:35,840
あなたは先……に行ってね

293
00:15:37,400 --> 00:15:41,120
私が彼……彼らを引き受けてあげます

294
00:15:41,120 --> 00:15:42,760
于丘烽:どこから来た飲んだくれだ?

295
00:15:42,760 --> 00:15:43,980
温客行:えぇ?

296
00:15:43,980 --> 00:15:48,480
──風の中の起き上がり小法師のようによろめき
手にした鞭は“偶然”于丘烽の脛に絡んだ

297
00:15:48,480 --> 00:15:49,520
温客行:へへ……

298
00:15:49,520 --> 00:15:50,840
なぁ

299
00:15:51,700 --> 00:15:53,235
あの……その……

300
00:15:53,235 --> 00:15:55,680
頭が二つだ

301
00:15:56,480 --> 00:15:59,120
あん……あんたも飲みすぎたか?

302
00:15:59,760 --> 00:16:00,640
武林人士:こいつは酔っ払ってるのか
それとも酔ったふりか?
 

303
00:16:00,640 --> 00:16:02,720
武林人士:こいつは酔っ払ってるのか
それとも酔ったふりか?
温客行:地べたを這って何をしてる?

304
00:16:02,720 --> 00:16:03,120
温客行:地べたを這って何をしてる?

305
00:16:03,120 --> 00:16:03,840
武林人士:于掌門も奴に伸されちまったが 偶然か?
温客行:地べたを這って何をしてる? 

306
00:16:03,840 --> 00:16:05,720
武林人士:于掌門も奴に伸されちまったが 偶然か?
 

307
00:16:06,240 --> 00:16:07,960
どこのどいつだ?

308
00:16:08,200 --> 00:16:09,360
温客行:あぁ阿絮

309
00:16:09,360 --> 00:16:10,040
武林人士:そうは見えないな
 

310
00:16:10,040 --> 00:16:11,320
武林人士:そうは見えないな
温客行:後は……私がやっておく……

311
00:16:11,320 --> 00:16:12,800
温客行:後は……私がやっておく……

312
00:16:12,800 --> 00:16:16,360
あなたたち……早 早く行って

313
00:16:16,360 --> 00:16:17,560
ほらほら

314
00:16:17,560 --> 00:16:18,600
張成嶺:師父!

315
00:16:18,920 --> 00:16:20,160
周子舒:行くぞ

316
00:16:21,680 --> 00:16:22,640
武林人士:逃がすんじゃない!

317
00:16:22,640 --> 00:16:23,600
さっさと捕らえろ!
武林人士:逃がすんじゃない!

318
00:16:23,600 --> 00:16:25,360
さっさと捕らえろ!
 

319
00:16:25,640 --> 00:16:30,480
──周子舒は今度はこの華山派が温客行の
不倶戴天の敵になるのではと、心の中で頭を振った

320
00:17:05,960 --> 00:17:07,680
周子舒:ひとまずこの破れ寺で休もう

321
00:17:15,600 --> 00:17:17,320
張成嶺:すみません 師父

322
00:17:17,320 --> 00:17:19,880
私があなたを引っ張り込んだんです……

323
00:17:20,300 --> 00:17:21,360
周子舒:平気だ

324
00:17:23,120 --> 00:17:24,280
張成嶺:誰?

325
00:17:27,000 --> 00:17:28,920
温客行:んん……

326
00:17:30,840 --> 00:17:32,240
張成嶺:温前輩 無事でしたか……

327
00:17:32,240 --> 00:17:33,320
温客行:うぇ……

328
00:17:33,320 --> 00:17:34,760
周子舒:温客行!

329
00:17:34,760 --> 00:17:39,440
──温客行は頭のない蝿のように数歩歩き
周子舒の前で片膝をつくと前に倒れ込んだ

330
00:17:41,840 --> 00:17:43,720
温客行:阿絮……

331
00:17:46,240 --> 00:17:48,840
周子舒:お前は酒がめの中に嵌ってきたのか?

332
00:17:49,960 --> 00:17:51,880
温客行:私は昨日

333
00:17:52,560 --> 00:17:57,480
酒蔵を見つ 見つけて……

334
00:17:58,280 --> 00:18:01,600
中で一晩 時間を潰した

335
00:18:02,320 --> 00:18:05,120
十数かめ飲んで……

336
00:18:06,520 --> 00:18:10,343
実に愉快だった

337
00:18:12,880 --> 00:18:14,240
阿絮……

338
00:18:15,920 --> 00:18:18,760
あなたの膝枕は

339
00:18:19,960 --> 00:18:22,800
とても心地良い……

340
00:18:22,800 --> 00:18:23,840
周子舒:はぁ

341
00:18:25,160 --> 00:18:29,680
──周子舒は頭を傾け真っ昼間からぐうぐう
寝ている彼を見て腹一杯飲んだのだろうと断定し
何も言わなかった

342
00:18:30,120 --> 00:18:33,040
張成嶺:師父……その……

343
00:18:33,760 --> 00:18:35,280
周子舒:何か話があるなら率直に言え

344
00:18:35,280 --> 00:18:37,000
ぐずぐずと なんてザマだ

345
00:18:37,000 --> 00:18:38,080
張成嶺:あ……

346
00:18:40,560 --> 00:18:43,600
師父……琉璃甲って一体何ですか?

347
00:18:44,280 --> 00:18:47,360
それに三十年あまり前に一体
どんな事が起きたんですか?

348
00:18:47,360 --> 00:18:49,840
どうして彼らは皆 私を問い詰めて
殺そうとするのですか……

349
00:18:50,360 --> 00:18:51,360
私は本当に……

350
00:18:55,520 --> 00:18:58,160
周子舒:俺はただ あらましを知ってるだけだ

351
00:18:58,160 --> 00:18:59,620
その中には疑問点も多い

352
00:18:59,620 --> 00:19:01,000
俺も決して納得はしてない

353
00:19:01,600 --> 00:19:02,780
お前は

354
00:19:02,780 --> 00:19:04,440
一つの物語と思って聞いておけ

355
00:19:06,680 --> 00:19:10,680
三十数年前 江湖に一人の武学の奇才が現れた

356
00:19:10,680 --> 00:19:12,880
名は容炫(ロン・シュエン)という

357
00:19:15,560 --> 00:19:19,240
彼は一振りの長剣を携えていて
四海のうちに敵う者は滅多になかった

358
00:19:19,240 --> 00:19:21,720
また雲遊し各地の豪傑と
交友を結ぶことも好んでおり

359
00:19:21,720 --> 00:19:26,440
当時の五大家の年若い一代とも
密かに交流があったそうだ

360
00:19:27,360 --> 00:19:29,520
張成嶺:でも私の父は彼を
話題にしたことはありません

361
00:19:30,000 --> 00:19:31,920
周子舒:お前の父君が話題にしなかったどころか

362
00:19:31,920 --> 00:19:35,600
この三十年は 彼の名も全てが禁句だった

363
00:19:38,600 --> 00:19:41,400
その後 容炫は嫁をもらった

364
00:19:42,160 --> 00:19:45,880
彼の妻君は神医谷の出身だったそうだ

365
00:19:46,720 --> 00:19:49,360
(周子舒):温客行の母君も神医谷の人だ

366
00:19:49,360 --> 00:19:51,040
なんでこんな偶然が……

367
00:19:53,720 --> 00:19:54,560
張成嶺:師父?

368
00:19:56,680 --> 00:20:00,880
周子舒:この二人は仲睦まじい伉儷で
もとは神仙眷侶であった

369
00:20:01,960 --> 00:20:03,680
それから

370
00:20:03,680 --> 00:20:08,160
ある日 その容炫の妻君が
人に殺害されるなど誰が分かる

371
00:20:09,920 --> 00:20:11,480
張成嶺:それはどうしてです?

372
00:20:13,800 --> 00:20:15,120
周子舒:多分だが……

373
00:20:15,120 --> 00:20:18,800
匹夫罪なし璧を懐いて罪ありだ
(*匹夫无罪怀璧其罪=分不相応なことをすると災難がある)

374
00:20:19,580 --> 00:20:21,680
容炫の剣法を未だ見たことはない

375
00:20:21,680 --> 00:20:25,920
ただ聞いた話では正真正銘
“空前絶後”の四文字に耐え得るそうだ

376
00:20:27,200 --> 00:20:29,920
彼はまだ而立の年になっていなかったが
自ら一派を形成し

377
00:20:29,920 --> 00:20:32,560
伝説の“封山剣”を編み出した

378
00:20:39,400 --> 00:20:40,920
お前は知るべきだ……

379
00:20:40,920 --> 00:20:43,200
単なる“絶世高手(ぜっせいのこうしゅ)”の四文字が

380
00:20:43,200 --> 00:20:45,280
人を狂わせることができると

381
00:20:50,320 --> 00:20:52,200
張成嶺:では その後は?

382
00:20:53,800 --> 00:20:57,000
周子舒:その後 容炫は内心ひどく嘆き悲しみ

383
00:20:57,000 --> 00:21:01,520
あろうことか魔に魅入られ
気性が大きく変化し 無差別に殺し始めた

384
00:21:02,640 --> 00:21:06,440
やむを得ず 当時の五大家は山河令の発動を求め

385
00:21:06,440 --> 00:21:08,560
連携し彼を殺そうと追いかけた

386
00:21:15,480 --> 00:21:17,920
容炫が逃げ込んだ風崖山の青竹嶺は

387
00:21:17,920 --> 00:21:19,920
現在の鬼谷でもある

388
00:21:20,280 --> 00:21:23,960
そこには 五大家をはじめとして
彼を殺そうとする者との

389
00:21:23,960 --> 00:21:25,560
激戦があった

390
00:21:33,080 --> 00:21:35,000
どれだけの者が死んだかも分からない

391
00:21:35,520 --> 00:21:39,960
今も変わらず 死人が夜に泣くのを
聞くことができるという

392
00:21:41,060 --> 00:21:42,600
誰が想像できたか

393
00:21:42,600 --> 00:21:45,360
それまで上等の褲子を穿いてた者が

394
00:21:45,360 --> 00:21:48,960
まさか刀兵相見えて 死なずば休まずとなるとは
(*刀兵相见=武力で解決 *不死不休=死ぬまで戦う)

395
00:21:51,400 --> 00:21:54,480
そして今でも 誰も分からないのが

396
00:21:54,480 --> 00:21:58,840
当時の悪鬼たちが どうして容炫側に立っていたか

397
00:22:00,720 --> 00:22:04,960
慈睦大師:……あの一戦でどれだけの日を
戦ったか分からぬ

398
00:22:04,960 --> 00:22:11,720
最後に容炫は自尽し 天下の英雄は半数以上を失った

399
00:22:12,320 --> 00:22:14,680
まさしくあの一度で

400
00:22:14,680 --> 00:22:18,280
双方ともが真に全ての元気を大きく損傷し

401
00:22:18,280 --> 00:22:23,680
だからこそ その後の鬼谷に
入らば出られずの掟があり

402
00:22:23,680 --> 00:22:26,640
換わりに三十年の太平を得た

403
00:22:27,800 --> 00:22:30,560
阿弥陀仏

404
00:22:31,200 --> 00:22:33,960
武林人士:慈睦大師 三十年前の容炫のこの出来事は

405
00:22:33,960 --> 00:22:35,720
琉璃甲と一体何の関係があるんですか?

406
00:22:35,720 --> 00:22:36,860
そうだそうだ!

407
00:22:36,860 --> 00:22:38,880
我らは琉璃甲が一体どうなったのか知る必要がある

408
00:22:39,600 --> 00:22:41,960
私らは物語を聞きに来たんじゃないんだよ!

409
00:22:41,960 --> 00:22:43,400
どんな魔功だ?

410
00:22:44,480 --> 00:22:47,160
趙敬:あぁ 沈世兄 来られたか
(*世兄=同年代の呼称)

411
00:22:47,400 --> 00:22:49,640
曹蔚寧:師叔 誰ですか?

412
00:22:49,640 --> 00:22:52,440
莫懐空:蜀中 沈(シェン)家の家主
沈慎(シェン・シェン)

413
00:22:52,440 --> 00:22:54,240
すでに金の盆で手を洗った
(*金盆洗手=悪事から手を引く)

414
00:22:54,240 --> 00:22:57,440
平素は大門出さず二門邁まずだ
(*大门不出二门不迈=家から一歩も出させない、深窓の令嬢)

415
00:22:57,560 --> 00:23:02,200
どうして今日はわざわざ遙か遠くから
洞庭の日差しを浴びに来たのだ?

416
00:23:02,200 --> 00:23:02,760
まことに珍しい

417
00:23:02,760 --> 00:23:03,600
沈慎:高世兄 趙世弟
まことに珍しい

418
00:23:03,600 --> 00:23:04,560
沈慎:高世兄 趙世弟
 

419
00:23:04,560 --> 00:23:08,440
各位に頼まれ 沈某が持って参った

420
00:23:15,040 --> 00:23:17,520
武林人士:これは?! 琉璃甲!

421
00:23:17,520 --> 00:23:18,200
これが琉璃甲か!

422
00:23:18,200 --> 00:23:20,080
だから噂は全部本当ってこと?!
これが琉璃甲か!

423
00:23:20,080 --> 00:23:20,480
だから噂は全部本当ってこと?!
伝説の琉璃甲は本当にあったのか!

424
00:23:20,480 --> 00:23:21,680
高崇:よかろう
伝説の琉璃甲は本当にあったのか!

425
00:23:21,680 --> 00:23:22,640
伝説の琉璃甲は本当にあったのか!

426
00:23:23,360 --> 00:23:24,160
高崇:諸君

427
00:23:24,160 --> 00:23:27,840
これは沈家が保管していた 琉璃甲のうちの一つだ

428
00:23:28,240 --> 00:23:31,040
容炫との鬼谷での一戦の後より

429
00:23:31,040 --> 00:23:33,760
我々が琉璃甲を五つに分け

430
00:23:33,760 --> 00:23:36,280
五大家で別々に保管することで

431
00:23:36,280 --> 00:23:39,480
再び魔功を江湖に出現させなかったのだ

432
00:23:39,480 --> 00:23:43,400
これは我々がずっと皆さんに
お伝えできていなかった過去である

433
00:23:44,480 --> 00:23:45,680
諸君

434
00:23:46,040 --> 00:23:50,040
これまでは私と趙兄は琉璃甲の事について
慎重に口を閉ざしておった

435
00:23:50,040 --> 00:23:53,320
それは武林が琉璃甲の事により

436
00:23:53,320 --> 00:23:57,120
再び波瀾が起き 三十年前の
惨劇が再演されるのを懸念したまで

437
00:23:57,120 --> 00:24:00,560
現在 張家一門は害され

438
00:24:00,560 --> 00:24:04,200
泰山掌門は横死 趙家の琉璃甲は盗まれ

439
00:24:04,200 --> 00:24:07,560
更に幾人もの侠士の命を折りたたんでしまった

440
00:24:08,280 --> 00:24:10,520
我々は諸君を召集し

441
00:24:10,520 --> 00:24:15,720
沈慎世弟と我が手中の二つの琉璃甲を
適切に保管せねばならなくなったのだ

442
00:24:17,480 --> 00:24:21,020
慈睦大師:鬼谷が三十年後に捲土重来し
(*卷土重来=一度負けたものが再び襲いかかる)

443
00:24:21,020 --> 00:24:23,880
彼らにもし五つを集められてしまえば

444
00:24:23,880 --> 00:24:27,840
江湖は必ずや惨事に見舞われるであろう

445
00:24:28,400 --> 00:24:31,240
善哉善哉
(*善哉=仏教用語、承認と不満や贖罪の感嘆の語)

446
00:24:31,240 --> 00:24:33,400
武林人士:もとはそんな事だったのか……
 
 

447
00:24:33,400 --> 00:24:34,040
武林人士:もとはそんな事だったのか……
高崇:琉璃甲の事は 今日すでに
一から皆さんに告知致した

448
00:24:34,040 --> 00:24:37,000
武林人士:高大侠がそう話せば 我らも分かるんだ
高崇:琉璃甲の事は 今日すでに
一から皆さんに告知致した

449
00:24:37,000 --> 00:24:38,240
武林人士:三十年前にそんな事が……
高崇:琉璃甲の事は 今日すでに
一から皆さんに告知致した

450
00:24:38,240 --> 00:24:39,800
武林人士:三十年前にそんな事が……
 
高崇:諸君は部屋に戻りしばしご休息を

451
00:24:39,800 --> 00:24:40,800
高崇:諸君は部屋に戻りしばしご休息を

452
00:24:40,800 --> 00:24:43,040
高崇:用意した昼膳の後

453
00:24:43,040 --> 00:24:45,400
再度 共に話し合おう

454
00:24:46,520 --> 00:24:48,920
趙敬:沈世兄 中へどうぞ

455
00:24:50,280 --> 00:24:51,160
于丘烽:待たれよ!

456
00:24:55,080 --> 00:24:56,800
張家は滅ぼされ

457
00:24:56,800 --> 00:24:58,560
泰山派の掌門は横死した

458
00:24:58,560 --> 00:25:01,640
これはただ 二つの欠片が
趙大侠の手の中にあるというだけでは?

459
00:25:01,640 --> 00:25:02,640
封暁峰:そうだ!

460
00:25:02,640 --> 00:25:04,960
皆さん恐らくまだ説明し尽くしてないぞ

461
00:25:05,480 --> 00:25:09,000
趙敬:趙家の琉璃甲は 数日前に盗まれたのだ

462
00:25:09,000 --> 00:25:10,200
封暁峰:趙大侠

463
00:25:10,200 --> 00:25:11,320
あんたは我々をからかってるのか?

464
00:25:11,320 --> 00:25:13,480
あんたが失くしたと言ったら失くしたのか?

465
00:25:13,760 --> 00:25:16,440
あんたは手の中の欠片を失くしてないだけでなく

466
00:25:16,440 --> 00:25:19,240
張家の欠片もあんたによって隠されてるんだろ!

467
00:25:19,240 --> 00:25:20,720
趙敬:人に血を噴くのか!
(*血口喷人=暴言で人を侮辱すること《羅湖野録》)

468
00:25:20,720 --> 00:25:21,800
高崇:諸君!

469
00:25:22,440 --> 00:25:24,960
我々の現在の敵は鬼谷だと一致しておる

470
00:25:24,960 --> 00:25:27,120
これ以上の邪推は不要だ

471
00:25:27,120 --> 00:25:28,920
身内の仲に差し障る

472
00:25:28,920 --> 00:25:29,920
趙敬:ふん

473
00:25:30,840 --> 00:25:31,800
高崇:諸君

474
00:25:31,800 --> 00:25:33,360
まずは休息を

475
00:25:33,360 --> 00:25:34,680
武林人士:分かった分かった

476
00:25:34,680 --> 00:25:35,960
行くぞ行くぞ

477
00:25:35,960 --> 00:25:37,160
とりあえず一休みだ……

478
00:25:37,160 --> 00:25:38,480
封暁峰:高山奴 行くぞ
とりあえず一休みだ……

479
00:25:38,480 --> 00:25:38,760
封暁峰:高山奴 行くぞ
 

480
00:25:39,200 --> 00:25:40,200
于丘烽:ふん

481
00:25:40,200 --> 00:25:43,120
黄道人:于掌門 部屋に戻って再び相談だ

482
00:25:43,120 --> 00:25:44,340
于丘烽:行こう

483
00:25:51,960 --> 00:25:58,340
──夕方、周子舒はついに衣服を引っ張る
温客行の手を剥がし、野生の物を獲って来て
焼いて食べ、考えていた

484
00:25:58,340 --> 00:26:02,600
自分はどこへでも行けるが
こんなチビを連れているのは足手まといになる

485
00:26:02,600 --> 00:26:07,020
それでも無理強いはせず、ただ張成嶺が
何を捨て何を取るか自分で考えさせるべきだと

486
00:26:08,100 --> 00:26:11,020
温客行は相当酔っていて
日暮れまで泥のように眠っていた

487
00:26:11,020 --> 00:26:16,760
周子舒はまた張成嶺にいくつか口訣を教え
自分で理解するよう言いつけると
端で凭れて少し目を閉じていた

488
00:26:25,460 --> 00:26:31,440
しばらくして彼がうとうとしていると
突然 彼の身体を摸り
上衣の釦子を外そうとする片手を感じた

489
00:26:32,680 --> 00:26:35,040
周子舒はその人の脈門を掴み目を開けた

490
00:26:35,720 --> 00:26:38,480
周子舒:温兄 酔いは醒めたか?

491
00:26:42,120 --> 00:26:46,920
温客行:私は伝説の七竅三秋釘が
どんな様子か見てみようと思っただけで

492
00:26:47,320 --> 00:26:49,680
あなたをどうこうする気はありません

493
00:26:50,280 --> 00:26:51,860
故意にイタズラしてるわけでもありません

494
00:26:54,160 --> 00:26:56,660
──温客行は突然近寄り彼の鬢の髪を一筋すくった

495
00:26:57,080 --> 00:26:58,520
阿絮

496
00:26:59,440 --> 00:27:01,120
“周絮”は

497
00:27:01,520 --> 00:27:03,920
あなたのまことの名?

498
00:27:05,840 --> 00:27:07,960
周子舒:温兄 何をおかしなことを

499
00:27:08,400 --> 00:27:11,000
まるで“温客行”があんたの本名のようだ

500
00:27:11,800 --> 00:27:13,840
──それを聞いて温客行は眉を跳ね上げた

501
00:27:14,880 --> 00:27:17,360
温客行:ならばあなたによると

502
00:27:17,880 --> 00:27:19,600
私はなんて呼ばれるべきなんです?

503
00:27:20,960 --> 00:27:22,120
周子舒:温兄

504
00:27:22,120 --> 00:27:23,960
あんたは本当に温姓か?

505
00:27:24,640 --> 00:27:29,320
俺はむしろ 容姓のはずだと思ったが

506
00:27:32,960 --> 00:27:38,720
──彼はゆっくり身体を正して座り
長い足を組んで膝を指で叩いた

507
00:27:40,920 --> 00:27:42,240
温客行:私の姓は容じゃない

508
00:27:43,680 --> 00:27:48,840
私は今生今世であの容の姓に
出会わなかったことだけが恨めしい

509
00:27:50,520 --> 00:27:53,960
さもなけりゃ彼に一度会えば その一度で始末してた

510
00:27:54,480 --> 00:27:55,480
周子舒:ほう?

511
00:27:58,440 --> 00:28:00,200
俺の見当違いだったか

512
00:28:00,720 --> 00:28:02,600
俺はただ……

513
00:28:04,800 --> 00:28:08,560
今の鬼主は容家の後人なのかと思っていた

514
00:28:11,160 --> 00:28:17,200
──温客行はゆっくり笑顔を見せたが、いつもの
目を細めた笑顔ではなく、目尻の皺もなく
漆黒の双眸は冷たさを湛え微かに光を反射していた

515
00:28:17,400 --> 00:28:18,480
温客行:ほう?

516
00:28:20,200 --> 00:28:22,440
周子舒:喜喪鬼は銭を払って毒蝎を雇い

517
00:28:22,440 --> 00:28:24,440
ずっとその小僧に纏わりついていたが

518
00:28:24,440 --> 00:28:26,480
その実 決して彼を殺しはしなかった

519
00:28:27,200 --> 00:28:29,000
それよりどうしても知りたかったんだ

520
00:28:29,000 --> 00:28:34,040
張家荘の悲惨なあの一件で
指が一本欠けた者に会ったのかどうか

521
00:28:34,960 --> 00:28:37,080
俺の知る限りでは

522
00:28:37,080 --> 00:28:40,880
吊死鬼薛方は指が一本欠けているのだ

523
00:28:41,680 --> 00:28:44,520
だがあの日 破れ寺であの連中が顔を見せ始めてから

524
00:28:44,520 --> 00:28:51,000
俺には張家壊滅の件は 決して
鬼谷の者の仕業じゃないと分かった

525
00:28:52,240 --> 00:28:54,280
温客行:またどうして分かったの?

526
00:28:56,080 --> 00:28:58,880
周子舒:十万の悪鬼衆の手の内から傷一つなく

527
00:28:58,880 --> 00:29:02,040
両腕両足であの小僧を太湖まで護送し通した

528
00:29:02,840 --> 00:29:05,040
俺がもし本当にそんな大層な腕前があるなら

529
00:29:05,040 --> 00:29:06,640
とっくに武林に覇を唱えてる

530
00:29:06,640 --> 00:29:08,360
まだここで 何をぐだついてるんだ?

531
00:29:09,480 --> 00:29:11,640
温客行:……そんな謙遜しなくてもいい

532
00:29:11,640 --> 00:29:14,960
周子舒:しかしなぜ喜喪鬼は
この小僧を追いかけ回すんだ?

533
00:29:15,800 --> 00:29:19,280
俺が思うに 一つだけ説明がつくとすれば

534
00:29:20,360 --> 00:29:22,600
たとえ張家の件が誰の仕業であれ

535
00:29:22,600 --> 00:29:26,840
この中には きっと無断で谷を出た青竹嶺の
悪鬼がいて それに加担したということだ

536
00:29:27,960 --> 00:29:30,040
喜喪鬼は疑っている……

537
00:29:30,040 --> 00:29:31,280
或いは

538
00:29:31,280 --> 00:29:35,080
そいつは吊死鬼なのかと
他の者に疑わせたいのだろう

539
00:29:36,120 --> 00:29:40,960
付け加えると あの日顧湘が破れ寺で殺した
黒衣の男が死の間際に

540
00:29:40,960 --> 00:29:43,800
言った一文字“紫”は

541
00:29:46,040 --> 00:29:47,480
何の紫だ?

542
00:29:47,840 --> 00:29:49,040
俺が思うに……

543
00:29:49,360 --> 00:29:52,160
“鬼谷の紫煞(ズーシャー)”ではないか?

544
00:29:56,000 --> 00:29:57,240
温客行:そうです

545
00:29:58,360 --> 00:30:01,360
我ら二人は江南から太湖までずっと付いて行って

546
00:30:01,360 --> 00:30:03,540
また洞庭までも付いて行った

547
00:30:03,920 --> 00:30:07,060
やたら偶然に 姿を現すのも怪しい

548
00:30:07,360 --> 00:30:09,680
さらに洞穴内であの小鬼を殺したのも

549
00:30:09,680 --> 00:30:11,920
奴が私の正体を吐くのを恐れたからだ

550
00:30:12,440 --> 00:30:13,560
でしょう?

551
00:30:15,920 --> 00:30:17,440
周子舒:これは決して難しい推測じゃない

552
00:30:17,440 --> 00:30:18,600
温兄

553
00:30:18,600 --> 00:30:20,320
江湖全体を見渡しても

554
00:30:20,320 --> 00:30:24,040
俺に出所を推測できない者は
実のところ ほとんどいない

555
00:30:24,040 --> 00:30:25,920
南疆 北漠はともかく

556
00:30:25,920 --> 00:30:29,720
中原武林では その数は
せいぜい片手で数えて足りるほどだ

557
00:30:30,360 --> 00:30:32,320
あんたとこれだけ多くの日を共にして

558
00:30:32,320 --> 00:30:33,800
もしまだ分からないとすれば

559
00:30:33,800 --> 00:30:35,440
呆けすぎじゃないか?

560
00:30:41,600 --> 00:30:45,520
温客行:あなたの知ってる事は本当に多すぎます

561
00:30:45,520 --> 00:30:46,680
周……

562
00:30:47,360 --> 00:30:48,500
荘主?

563
00:30:49,640 --> 00:30:50,800
周大人?

564
00:30:52,600 --> 00:30:54,640
周子舒:今や一介の民草だ

565
00:30:54,640 --> 00:30:55,680
鬼主は

566
00:30:55,920 --> 00:30:57,940
実に謙虚だ

567
00:30:59,400 --> 00:31:04,920
──その瞬間、温客行は口の回る男色家の
ペテン師ではなくなり、周子舒も口の悪い
落ちぶれた流浪漢ではなくなった

568
00:31:07,040 --> 00:31:09,160
周子舒:鬼主がずっとこの子に付いて来たのは

569
00:31:09,160 --> 00:31:12,200
もしや彼が何か知ってると思ったからじゃないのか

570
00:31:12,560 --> 00:31:13,920
例えば……

571
00:31:13,920 --> 00:31:16,360
禁忌を犯して鬼谷を逃げ出し

572
00:31:16,360 --> 00:31:19,440
その後 またずっと彼を付け狙った者は一体誰なのか

573
00:31:24,320 --> 00:31:27,960
温客行:あなたはどうして私が彼に
付いて行ったと分かるんです?

574
00:31:28,520 --> 00:31:30,120
周子舒:あんたは彼に付いて行ったんじゃなく

575
00:31:30,120 --> 00:31:32,160
まさか俺に付いて来たとでも言うのか?

576
00:31:32,320 --> 00:31:34,960
──彼はただ笑っているだけだったが恋人を
見つめていると人に誤解させやすいものだった

577
00:31:34,960 --> 00:31:36,360
温客行:阿絮

578
00:31:37,280 --> 00:31:41,120
私たち二人ますますお似合いだと思わない?

579
00:31:41,120 --> 00:31:42,760
周子舒:全く思わん

580
00:31:43,760 --> 00:31:45,520
お前は何かの薬を間違って飲んだか

581
00:31:45,520 --> 00:31:48,120
それとも我を失うほど練功した後遺症か?

582
00:31:48,660 --> 00:31:53,220
──温客行は不意に彼の指を掴み手探りで掌を
握ると、頭を下げて手の甲にそっと口付けた

583
00:31:53,760 --> 00:31:55,720
温客行:あなたはどう思う?

584
00:31:57,160 --> 00:31:59,360
周子舒:温兄は実に食い意地が張っている

585
00:31:59,360 --> 00:32:00,760
温客行:そうね

586
00:32:01,840 --> 00:32:04,640
ただあなたを見るだけで食欲が涌いてくる

587
00:32:05,640 --> 00:32:07,680
どうすればいいでしょうね?

588
00:32:14,440 --> 00:32:16,080
ずっと何年も前

589
00:32:16,080 --> 00:32:18,680
私は路端で一つの死屍を見ていた

590
00:32:19,600 --> 00:32:21,400
頭髪はすっかり枯れていて

591
00:32:21,400 --> 00:32:23,680
束になって固まって散らばり

592
00:32:23,680 --> 00:32:26,280
衣服はもとの色とも見分けがつかない

593
00:32:26,280 --> 00:32:29,320
血肉が張り付いてぼやけた面持ちは

594
00:32:29,320 --> 00:32:31,400
鼻が削り取られ

595
00:32:31,400 --> 00:32:34,480
目鼻立ちの輪郭ももうはっきりとは見えない

596
00:32:35,360 --> 00:32:38,320
身体は一本の槍に胸から背中まで貫かれ

597
00:32:39,760 --> 00:32:42,080
蝴蝶の骨の下を通る

598
00:32:44,720 --> 00:32:46,200
私はしげしげと眺めて

599
00:32:47,480 --> 00:32:49,320
その対になった骨を見て

600
00:32:49,320 --> 00:32:50,920
分かった

601
00:32:51,760 --> 00:32:54,560
これは生前 絶世の美人だったに違いないと

602
00:32:57,120 --> 00:32:59,120
その後どうしたでしょう

603
00:33:00,000 --> 00:33:01,120
周子舒:ん?

604
00:33:01,800 --> 00:33:03,700
温客行:私はこの人生で人骨を見て

605
00:33:03,700 --> 00:33:05,840
いまだ見誤ったことがありません

606
00:33:07,000 --> 00:33:09,040
だからね 阿絮

607
00:33:09,440 --> 00:33:11,680
あなたは思い切って易容を洗い流し

608
00:33:11,680 --> 00:33:14,000
私に心ゆくまで口付けたり
抱きしめたりさせてみてください

609
00:33:14,000 --> 00:33:18,040
世間に美人は稀ですが
特別珍しいと言うほどでもありません

610
00:33:18,360 --> 00:33:20,960
私は天下の美人を愛で尽くすという大志を胸に抱き

611
00:33:20,960 --> 00:33:22,800
これまで絶対に付き纏うことはなかったので

612
00:33:22,800 --> 00:33:24,720
ひょっとすると あなた本来の容貌を見て

613
00:33:24,720 --> 00:33:27,320
天雷が地火を煽り あなたと一晩を共にすれば
(*天雷勾地火=一発で火がつく)

614
00:33:27,320 --> 00:33:29,040
もう気にもしないかもしれません

615
00:33:30,600 --> 00:33:32,040
あなたがこんななので……

616
00:33:32,440 --> 00:33:35,200
私はむしろあなたと共に一生を過ごしたい

617
00:33:39,280 --> 00:33:41,600
はははははは!

618
00:33:42,400 --> 00:33:44,320
びっくりしたね

619
00:33:44,960 --> 00:33:46,640
周子舒:くそったれ

620
00:33:53,120 --> 00:33:54,600
もういいさ

621
00:33:55,320 --> 00:33:57,200
あんたもお気の毒だったな

622
00:33:57,720 --> 00:33:58,800
温客行:なっ……

623
00:33:59,440 --> 00:34:00,360
なんて?

624
00:34:00,360 --> 00:34:01,640
周子舒:俺は休む

625
00:34:02,560 --> 00:34:03,920
邪魔するな

626
00:34:04,800 --> 00:34:07,720
──周子舒はもう何も言わず
端に凭れ再び目を閉じた

627
00:34:18,480 --> 00:34:20,160
(周子舒):どうしてこんな何年も後になっても

628
00:34:20,160 --> 00:34:24,400
今なお一人の死人の様子を
そんなにはっきりと覚えていられるのか

629
00:34:25,800 --> 00:34:30,160
それはもう数え切れないほど追憶し
すでに心に刻まれているからに他ならない

630
00:34:31,320 --> 00:34:34,960
ひと度またひと度と何食わぬ顔を装い
口から出任せの格好で話す

631
00:34:34,960 --> 00:34:38,060
ただ己がその様子を忘れてしまうことだけを恐れて

632
00:35:09,880 --> 00:35:10,960
周子舒:小僧

633
00:35:11,440 --> 00:35:13,960
お前の首の上に乗ってるそいつは一体
頭なのかそれとも夜壺なのか?

634
00:35:13,960 --> 00:35:18,040
温客行:ねえ 私たちまるで三人家族みたいじゃない

635
00:35:18,040 --> 00:35:21,880
君の師父が厳しい母なら私は慈愛の父だ

636
00:35:21,880 --> 00:35:24,080
葉白衣:この狂犬のような醜女はどうしたんだ?

637
00:35:26,680 --> 00:35:28,400
温客行:夫殺しするのか──

638
00:35:28,400 --> 00:35:29,640
周子舒:温鬼主

639
00:35:29,640 --> 00:35:32,880
あんたは今日も薬を飲むのを忘れたのか?

640
00:35:34,820 --> 00:35:37,020
“这人间困境几何”
(この世に苦境 幾ばくか)

641
00:35:37,020 --> 00:35:40,700
“得超脱又几个”
(逃れ得るのは幾人か)

642
00:35:40,700 --> 00:35:43,860
“如敢以生死来涉”
(敢えて生死を賭ければ)

643
00:35:43,860 --> 00:35:46,940
“孑然是天涯客”
(それは独りの天涯客)

644
00:35:46,940 --> 00:35:50,420
“谁辞别庙堂 醉山河”
(廟堂を離れ 山河に酔う人が)

645
00:35:50,420 --> 00:35:53,340
“沐得天光赏春色”
(天光浴びて 春色を味わえば)

646
00:35:53,340 --> 00:36:00,220
“欲做闲云鹤 偏又生纠葛”
(たゆたう雲間の鶴ならんとも しがらみまた生じる)

647
00:36:00,300 --> 00:36:03,340
“飞絮身 偏走黄泉路”
(身を飛絮として 黄泉路を進めば)

648
00:36:03,340 --> 00:36:06,780
“看尽英雄嗔癫群鬼舞”
(英雄は尽き憤懣の群鬼が舞うを見る)

649
00:36:06,780 --> 00:36:09,820
“黑白错 风崖起疑雾”
(黒白違えて 風崖に疑いの霧は立ち)

650
00:36:09,820 --> 00:36:13,220
“妙手设局待谁入”
(妙手の罠に誰かが嵌まれば)

651
00:36:13,220 --> 00:36:19,340
“六合渺渺 纵是无觅处”
(六合は遙か たとえ行くあてなくとも)

652
00:36:19,340 --> 00:36:26,220
“携酒来 拔剑去 自有归宿”
(酒を携え来て 剣を抜いて行く 帰る宿がある)

653
00:36:52,540 --> 00:36:54,900
“正邪道人心叵测”
(正邪で人心は測れず)

654
00:36:54,900 --> 00:36:58,300
“甘苦自取自舍”
(甘苦を自ら選び取り)

655
00:36:58,300 --> 00:37:01,740
“遇知己明眸澈澈”
(巡り合った知己の瞳は明澄にして)

656
00:37:01,740 --> 00:37:04,780
“如举灯过渊泽”
(灯を掲げ沢の淵を渡るなら)

657
00:37:04,780 --> 00:37:08,180
“谁以鬼行世 恨善恶”
(世を行く鬼として 善悪を恨む誰かの)

658
00:37:08,180 --> 00:37:11,060
“红袍褪身识得”
(紅い袍を落とせば見える)

659
00:37:11,060 --> 00:37:17,860
“一眼竟万年 情痴终不赦”
(一眼万年の恋情 ついぞ赦されることなし)

660
00:37:17,940 --> 00:37:20,940
“飞絮身 偏走黄泉路”
(身を飛絮として 黄泉路を進めば)

661
00:37:20,940 --> 00:37:24,380
“看尽英雄嗔癫群鬼舞”
(英雄は尽き憤懣の群鬼が舞うを見る)

662
00:37:24,380 --> 00:37:27,500
“黑白错 风崖起疑雾”
(黒白違えて 風崖に疑いの霧は立ち)

663
00:37:27,500 --> 00:37:31,100
“妙手设局待谁入”
(妙手の罠に誰かが嵌まれば)

664
00:37:31,100 --> 00:37:37,020
“六合渺渺 纵是无觅处”
(六合は遙か たとえ行くあてなくとも)

665
00:37:37,020 --> 00:37:43,380
“携酒来 拔剑去 自有归宿”
(酒を携え来て 剣を抜いて行く 帰る宿がある)

666
00:37:43,820 --> 00:37:47,020
“天欲晚 风雪袭巴蜀”
(天は暗きを欲し 風雪が巴蜀を襲う)

667
00:37:47,020 --> 00:37:50,460
“何幸借这温存 不孤独”
(幸いにもこの温もりがあれば孤独でなく)

668
00:37:50,460 --> 00:37:53,420
“问余生 怎舍好眉目”
(余生に問う 眉目の好しを)

669
00:37:53,420 --> 00:37:56,980
“三秋如梦也愿赴”
(三秋の夢の願いを手放せるかを)

670
00:37:56,980 --> 00:38:03,180
“六合渺渺 自有自在处”
(六合遙かに 己の居場所があれば)

671
00:38:03,180 --> 00:38:10,280
“竹林响 忘沉浮 寻光欲渡”
(竹林は響き 浮沈を忘れ 光を求め渡らん)





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