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第四集

1
00:00:05,400 --> 00:00:10,920
──四方から飛び出す刀刃はまっすぐ温客行を
狙っていたが、彼の軽功は周子舒の想像より
優れていて、狼狽もしていない

2
00:00:12,360 --> 00:00:13,400
温客行:はっ……

3
00:00:13,400 --> 00:00:15,040
周子舒:温客行……

4
00:00:15,320 --> 00:00:16,560
黒衣の男:やったぞ!

5
00:00:16,560 --> 00:00:17,720
周子舒:どこだ!──

6
00:00:20,440 --> 00:00:21,760
死ね!

7
00:00:21,760 --> 00:00:25,080
──黒い影が姿を現すと周子舒はすかさず一掌を
打ったが男は血を吐きながらもまた走り出した

8
00:00:25,080 --> 00:00:26,440
周子舒:まだ逃げるか

9
00:00:27,000 --> 00:00:31,880
──突然、影が鬼魅のように現れ黒衣の男の
首を掴んで持ち上げると壁に押し付けた

10
00:00:33,220 --> 00:00:34,760
温客行:予想外か?

11
00:00:34,880 --> 00:00:40,040
私はただ刀刃を挟んで
傷を受けたようにお前に見せただけだ

12
00:00:40,040 --> 00:00:41,920
周子舒:お前を信じるとは

13
00:00:41,920 --> 00:00:43,560
こんな阿呆な下手人は初めて会った

14
00:00:43,560 --> 00:00:47,360
温客行:彼が駄目なんじゃなく
周兄の眼力が大変優れて……

15
00:00:48,760 --> 00:00:50,680
おや まだ金絲軟甲を着ていたのか……

16
00:00:51,040 --> 00:00:53,720
どうりで周兄のあの一掌を受けても
倒れなかったわけだ

17
00:00:54,720 --> 00:00:55,760
良い物は

18
00:00:55,760 --> 00:00:58,920
お前が持ってると 無駄になる

19
00:00:58,920 --> 00:01:00,560
黒衣の男:し……主……あぁ!

20
00:01:03,080 --> 00:01:07,600
──周子舒は何も聞かずに殺したその一瞬の功夫を
眺めると、腕を組んで壁に寄りかかった

21
00:01:07,600 --> 00:01:09,960
温客行は男の面具を剥ぎ取った

22
00:01:10,240 --> 00:01:13,040
温客行:このような神技の如き容姿の者は
(*鬼斧神工=人の手で作られたと思えないほど技術が卓越しているたとえ《荘子・達生》)

23
00:01:13,040 --> 00:01:15,360
まことに殺すべきです

24
00:01:15,360 --> 00:01:17,760
周兄 そう思いませんか?

25
00:01:19,200 --> 00:01:21,080
周子舒:お前は本当に碌でもないな

26
00:01:21,080 --> 00:01:23,840
温客行:とんでもない まことに恐縮です

27
00:01:29,920 --> 00:01:33,360
周子舒:黄金軟甲はかなり前に
すでに江湖から消失しているが

28
00:01:34,000 --> 00:01:35,920
なぜこの者の手にあるんだ

29
00:01:36,560 --> 00:01:38,080
彼は一体何者だ

30
00:01:39,080 --> 00:01:40,640
……ん?

31
00:01:40,640 --> 00:01:42,560
鬼面の入れ墨?

32
00:01:42,800 --> 00:01:44,560
温客行:え?私に見せて……

33
00:01:44,560 --> 00:01:46,320
(周子舒):まさか本当に吊死鬼か?

34
00:01:46,320 --> 00:01:48,120
彼になぜ于天傑を殺す必要が?

35
00:01:49,040 --> 00:01:51,280
それにあの別の方向に逃げた一人は

36
00:01:51,280 --> 00:01:53,880
それも本当に喜喪鬼本人なのか?

37
00:01:54,760 --> 00:01:58,680
鬼谷が今この時に趙家荘の外で
正派名流を殺しに狙うなら

38
00:01:58,680 --> 00:02:01,280
張家一門の殲滅を認めることに等しいが

39
00:02:01,280 --> 00:02:03,400
これまた何のためだ?

40
00:02:06,560 --> 00:02:11,440
周子舒:温兄は家を離れ江湖に入って以降
一人も殺していないと自称してなかったか?

41
00:02:11,440 --> 00:02:15,200
どうして今日はこんな颯爽と戒めを破ったんだ?

42
00:02:15,400 --> 00:02:18,040
温客行:まず彼が私を殺すつもりだったのは
明白でしょう

43
00:02:18,040 --> 00:02:20,480
もし私が聡明怜悧で 臨機応変でなければ
(*聪明伶俐=賢明で利口 *临危不乱=危機に直面しても慌てないこと)

44
00:02:20,480 --> 00:02:23,360
先程の彼の刀刃を受けて挽き肉になっていました

45
00:02:23,360 --> 00:02:28,880
周子舒:温善人 あんたが先にひと噛みして
この災禍を引き起こしたんじゃないか?

46
00:02:28,880 --> 00:02:31,280
温客行:彼の腰にある
鬼面人形を見てください

47
00:02:31,280 --> 00:02:33,680
それから外にぶら下がってる若者もです

48
00:02:33,680 --> 00:02:36,640
嫁を娶るのも間に合わずに頭がなくなった

49
00:02:36,640 --> 00:02:37,960
これは何を意味すると?

50
00:02:37,960 --> 00:02:42,360
意味するのは彼が悪人で それも特別に
極悪なその類だということです

51
00:02:42,360 --> 00:02:44,280
悪人は良い人を殺します

52
00:02:44,280 --> 00:02:45,760
これに理由が要りますか?

53
00:02:46,000 --> 00:02:47,640
周子舒:ふむ……

54
00:02:47,760 --> 00:02:51,800
温客行:あなたも大の大人でしょうに
このちょっとした道理も分からないなんて

55
00:02:51,800 --> 00:02:53,520
どうやってこんなに大きくなれたんでしょう

56
00:02:53,520 --> 00:02:55,160
全く悩ましい

57
00:02:57,880 --> 00:02:59,400
周子舒:ご教授いただいた

58
00:02:59,400 --> 00:03:02,160
温客行:滅相もない ご謙遜を

59
00:03:04,800 --> 00:03:07,400
周子舒:ん?錦嚢(きんのう)だ

60
00:03:11,880 --> 00:03:12,880
琉璃?

61
00:03:13,080 --> 00:03:14,380
温客行:わぁ

62
00:03:14,440 --> 00:03:16,120
周子舒:それは何なんだ?

63
00:03:16,880 --> 00:03:20,840
温客行:恐らく伝説の
五つの琉璃甲のうちの一つ……

64
00:03:22,040 --> 00:03:26,120
江湖の言い伝えだと思っていましたが
まさか本当だったとは

65
00:03:27,480 --> 00:03:30,120
五つの琉璃甲を繋ぎ合わせれば

66
00:03:30,120 --> 00:03:35,000
以降 いかなる無名の小卒でも中原武林全体を
制覇するに足るのだと聞きます

67
00:03:36,240 --> 00:03:38,600
ある人は中には絶世の武功が隠されていると言い

68
00:03:38,600 --> 00:03:42,480
ある人は中には地図があり 従って探せば

69
00:03:42,480 --> 00:03:46,440
人が心の内で夢にまで見た最も欲する物を
得られると言う
(*梦寐以求=眠っている間でも求める)

70
00:03:46,840 --> 00:03:47,920
周子舒:うん

71
00:03:48,400 --> 00:03:49,880
温客行:これは良い物です

72
00:03:50,760 --> 00:03:53,960
周兄 ちゃんと取っておいて

73
00:03:53,960 --> 00:04:01,980
──彼が周子舒の手のひらに琉璃甲を乗せ
そっと指を包むと、周子舒は彼の手を叩いて
琉璃甲を錦嚢に戻すと傍らに置いた

74
00:04:02,960 --> 00:04:05,280
周子舒:しかし厄介だな

75
00:04:06,800 --> 00:04:07,840
おい

76
00:04:07,840 --> 00:04:09,560
俺たちどうやって出るんだ?

77
00:04:10,640 --> 00:04:13,320
温大善人 お前に聞いてるんだ

78
00:04:14,120 --> 00:04:16,360
お前が手早く この野郎を始末したら

79
00:04:16,360 --> 00:04:18,480
俺たちは鼠に抜け出る穴の
掘り方を教えてもらうのか?

80
00:04:18,480 --> 00:04:22,160
温客行:あなたは……それ要らない?

81
00:04:22,520 --> 00:04:26,600
周子舒:もし丸ごと琉璃の精緻な物なら
いくらか価値もあっただろうが

82
00:04:27,120 --> 00:04:30,200
今はこんな欠片しか残ってない 何に使えるんだ

83
00:04:30,200 --> 00:04:31,920
質屋の番頭も受け取らない

84
00:04:33,600 --> 00:04:37,920
温客行:周兄は警戒心が強く 江湖の噂は
信じないということですね?

85
00:04:38,960 --> 00:04:41,200
あなたは夢にまで見た物なんてない?

86
00:04:41,200 --> 00:04:43,240
周子舒:大路の李(すもも)を採る者はいない

87
00:04:43,240 --> 00:04:44,640
きっと苦い

88
00:04:44,840 --> 00:04:47,880
お前も要らないのに
俺がこの面倒を抱えてどうするんだ?

89
00:04:47,880 --> 00:04:52,000
まさか温善人は夢にまで見た物などないのか?

90
00:04:52,000 --> 00:04:54,000
──温客行は錦嚢を丁寧に懐に収め──

91
00:04:54,000 --> 00:04:55,920
温客行:私が必要だったら?

92
00:04:56,680 --> 00:04:57,560
周子舒:おっ

93
00:05:00,840 --> 00:05:03,000
穴の口を見に戻ってみるぞ

94
00:05:03,000 --> 00:05:06,960
前回 俺が出ようとして
その穴の口で無数の刀刃が射出されたなら

95
00:05:06,960 --> 00:05:10,000
その時その吊死鬼は必然的に付近にいて

96
00:05:10,000 --> 00:05:13,840
そこのカラクリも付近で制御していたはずだ

97
00:05:14,240 --> 00:05:15,720
もう一度探すぞ

98
00:05:17,720 --> 00:05:24,280
晋江文学城 Priest原作 猫耳FM
音熊聯萌連合出品

99
00:05:24,720 --> 00:05:31,640
古風武侠ラジオドラマ《天涯客》
第四集「琉璃甲」

100
00:05:41,040 --> 00:05:46,120
──二人は奇門遁甲の術について十のうち
九に通じていたが残りの一について
何も分からず半日探しても何も見つからなかった

101
00:05:47,520 --> 00:05:50,240
周子舒:こんな長く探しても
何のカラクリも見つからないとは

102
00:05:50,760 --> 00:05:52,440
まさかここに出口はないのか?

103
00:05:55,360 --> 00:05:58,280
(周子舒):七竅三秋釘がまた蠢き出そうとしている

104
00:05:58,280 --> 00:06:01,680
一日食事していない 体力が持たない

105
00:06:03,880 --> 00:06:06,200
まさか本当に犬肉を食いに行くのか?

106
00:06:06,320 --> 00:06:08,960
温客行:周兄 お腹空いた?

107
00:06:09,760 --> 00:06:13,560
それならやはりあの怪獣を焼いて食べましょうか

108
00:06:13,560 --> 00:06:15,320
周子舒:食うなら食いに行け

109
00:06:15,600 --> 00:06:17,880
顧湘:早く早く この場所で捜すよ

110
00:06:17,880 --> 00:06:19,600
あたしが一声掛けてみる──

111
00:06:19,920 --> 00:06:21,800
周子舒:空耳か……?

112
00:06:21,800 --> 00:06:24,760
顧湘:主人!主人!聞いてるかな……

113
00:06:24,760 --> 00:06:28,080
主人 まだ息できてる?

114
00:06:28,080 --> 00:06:31,680
息できてるならこの墓を掘るよ

115
00:06:31,680 --> 00:06:36,640
もしもう閻王に会いに行ったなら
あなたの安息を邪魔しないよ!

116
00:06:36,800 --> 00:06:38,000
周子舒:顧湘だ

117
00:06:39,520 --> 00:06:43,080
顧湘:聞こえないのはやっぱりもうくたばった?

118
00:06:43,760 --> 00:06:48,160
主人 声を出さないなら
あたし行っちゃうよ 本当に行くよ!

119
00:06:48,160 --> 00:06:49,640
温客行:阿湘

120
00:06:50,120 --> 00:06:54,440
お前は口が多くて手が少ない女子が
どんな末路を辿るか知ってるか?

121
00:06:55,000 --> 00:06:58,600
顧湘:あぁ!早く早く
主人が口が多くて手が少ないって言ってるよ

122
00:06:58,600 --> 00:07:00,040
とっとと彼を掘り出せ

123
00:07:01,840 --> 00:07:04,080
周子舒:あんたのその伝音の功夫は悪くない

124
00:07:04,080 --> 00:07:05,160
温客行:えぇ?

125
00:07:05,560 --> 00:07:07,120
教えてあげましょうか?

126
00:07:07,120 --> 00:07:09,880
私にあなたの顔を見せてくれれば……

127
00:07:11,840 --> 00:07:17,200
周子舒:お宅の美人さんは手が少ないんじゃなく
端から手を出してないんだ

128
00:07:21,400 --> 00:07:23,880
顧湘:さあ掘って掘って! 早く!

129
00:07:27,720 --> 00:07:29,680
どうしてまだ出てこないんだ?

130
00:07:33,600 --> 00:07:35,840
あぁ出て来た!出て来た!

131
00:07:37,640 --> 00:07:39,400
もう一人いた

132
00:07:41,880 --> 00:07:45,520
周子舒:お嬢ちゃん そんなに喚く必要はない

133
00:07:45,520 --> 00:07:47,400
温客行:黙ってればいい

134
00:07:47,400 --> 00:07:48,560
顧湘:あぁ

135
00:07:49,160 --> 00:07:51,080
労工風の男:主上 遅くなりました

136
00:07:51,360 --> 00:07:54,040
顧湘:実のところ あたしたちとっくに主人が残した
標を見つけたんだけど

137
00:07:54,040 --> 00:07:57,400
その辺になぜか知らないけど二つ死人があって

138
00:07:57,400 --> 00:08:00,560
趙家荘は今日一日号哭と罵声の驚天動地で

139
00:08:00,560 --> 00:08:03,720
道では無能どもが集まってるしで
捜すのに都合が悪くて

140
00:08:03,720 --> 00:08:06,240
夜になるのを待ってやっと捜しに来れた──

141
00:08:09,400 --> 00:08:11,080
あなたたち二人してどうして
そんな形(なり)になったんだ?

142
00:08:11,080 --> 00:08:13,360
温客行:我らは一羽の梟が笑うのを聞いたのだ

143
00:08:14,040 --> 00:08:14,920
周子舒:はぁ……

144
00:08:14,920 --> 00:08:16,200
顧湘:はぁ?

145
00:08:16,200 --> 00:08:19,040
温客行:梟が笑うのを聞くと 不運に見舞われる

146
00:08:19,040 --> 00:08:22,480
人命に関わる可能性が高いので
地底に隠れていて

147
00:08:22,480 --> 00:08:25,360
策命小鬼にお前はもう死人だと思わせてこそ
(*索命小鬼=死神)

148
00:08:25,360 --> 00:08:26,960
災難を避けることができる

149
00:08:26,960 --> 00:08:28,200
顧湘:おぉ!

150
00:08:28,680 --> 00:08:31,760
温客行:覚えておけ 今後
お前の命を救うかもしれない

151
00:08:33,960 --> 00:08:35,160
老孟(モン)

152
00:08:35,160 --> 00:08:36,000
老孟:主上

153
00:08:36,000 --> 00:08:37,920
温客行:労工の身なりはお前には似合わない

154
00:08:37,920 --> 00:08:40,360
次回は豚の屠殺夫の衣服を着るべきだ

155
00:08:40,600 --> 00:08:42,400
老孟:はっ 御意

156
00:08:42,400 --> 00:08:43,600
温客行:行け

157
00:08:43,600 --> 00:08:45,600
こんなに多く人が集まってはいけない

158
00:08:45,600 --> 00:08:48,200
我らが集まって
凶行に及ぶと人に思われるのは避けたい

159
00:08:48,200 --> 00:08:49,400
老孟:はっ

160
00:09:00,120 --> 00:09:02,080
周子舒:周某の浅学をご容赦頂きたいが

161
00:09:02,080 --> 00:09:05,680
墓掘りの労工がそれぞれ軽功を
会得してるとは知らなかった

162
00:09:05,680 --> 00:09:08,240
来往は迅速で 訓練されている
(*来去无踪=出没は極めて迅速で痕跡がない *训练有素=常に厳しい訓練をしている《二十二史箚記》)

163
00:09:09,320 --> 00:09:11,880
温客行:周兄 あなたに付いて行っても?

164
00:09:11,880 --> 00:09:12,720
周子舒:必要ない

165
00:09:12,720 --> 00:09:17,440
温客行:私は大善人です あなたに
善行の積徳とは如何なるものかを指導してもいい

166
00:09:19,520 --> 00:09:20,840
顧湘:う……あぁ?

167
00:09:21,320 --> 00:09:23,760
温客行:周兄 反対しても無駄です

168
00:09:23,760 --> 00:09:25,400
私は付いて行けます

169
00:09:27,080 --> 00:09:30,200
周子舒:ならば温兄どうぞ

170
00:09:32,280 --> 00:09:40,900
──顧湘は周子舒を見てたちまち“牽けば動かず
打てば退く”を理解し、また温客行を見て“恥知らずは
天下無敵”を深く理解し、得意げに後を付いて行った

171
00:10:10,520 --> 00:10:11,960
給仕:お料理ですよ

172
00:10:14,680 --> 00:10:16,000
どうぞごゆっくり!

173
00:10:16,000 --> 00:10:17,160
周子舒:ありがとう

174
00:10:27,200 --> 00:10:35,460
──二人のうち一人は食に極めて大きな情熱があり
一人は食べぬのは損、奪わぬのは損と
食卓に刀光剣影の殺伐とした空気が漂った

175
00:10:37,480 --> 00:10:41,080
温客行:ん〜 なかなかの味です

176
00:10:44,440 --> 00:10:45,720
アイヤ

177
00:10:45,720 --> 00:10:47,600
まことに好敵手が相手だと
(*棋逢对手=対戦相手と互角の戦いをすること《晋書・謝安伝》)

178
00:10:47,600 --> 00:10:50,160
食事さえも美味しく感じる

179
00:10:51,200 --> 00:10:53,560
顧湘:主人 今まで阿湘との食事が
不味かったのは

180
00:10:53,560 --> 00:10:56,080
阿湘があなたと奪い合いしなかったから?

181
00:10:56,080 --> 00:10:57,400
周子舒:俺は奪い合ってない

182
00:10:57,400 --> 00:10:59,000
彼がどうしても奪わなければならなかったんだ

183
00:10:59,320 --> 00:11:01,000
ちゃんとした食卓では

184
00:11:01,000 --> 00:11:02,720
剣抜弩張して刀光剣影するんだろう
(*剑拔弩张=剣を抜き弩をつがえる一触即発状態《古今書評》袁昂 *刀光剑影=今にも戦いが起こりそうな殺気立った状態《戦城南四首》呉筠)

185
00:11:02,720 --> 00:11:05,560
温客行:阿湘 お前には分からない

186
00:11:05,560 --> 00:11:08,720
美人との食事 これを情趣と言う

187
00:11:12,720 --> 00:11:19,400
顧湘:主人 どうして易容するなら
自分を醜くするはずだって判断したんだ?

188
00:11:23,400 --> 00:11:27,040
温客行:人は美醜に関わらず 五官は天成のものだ
(*五官=目鼻口耳体、容姿)

189
00:11:27,040 --> 00:11:29,760
自然に調和のとれた韻律がある

190
00:11:29,760 --> 00:11:34,600
小細工を施す限り
無論 如何様にしても天衣無縫ではない

191
00:11:34,600 --> 00:11:38,720
もし理由もなく美しくすれば
他の者は両の目でじっくり見たくてたまらなくなり

192
00:11:38,720 --> 00:11:40,600
綻びが見破られてしまうんじゃないか?

193
00:11:40,600 --> 00:11:42,040
(周子舒):こいつはよく分かってる

194
00:11:42,040 --> 00:11:45,360
温客行:易容の術に含まれる手法は一つではない
(*兼容并包=あらゆる事柄を包括する《史記・司馬相如列伝》)

195
00:11:45,360 --> 00:11:50,520
顔料を塗抹する場合 巧妙な手技が必要だ

196
00:11:50,520 --> 00:11:55,120
また顔に人皮面具を貼り付ける場合 更に効果が高く

197
00:11:55,120 --> 00:11:59,880
もし易容する者の手法が卓越していれば
真贋を曖昧にする効果がある
(*以假乱真=偽物に本物を混ぜること、本物に成りすましたりすること《顔氏家訓》顔之推)

198
00:12:02,080 --> 00:12:03,320
顧湘:見せてみて

199
00:12:05,000 --> 00:12:08,800
──彼女の手は柔らかく、袖から少女特有の
清々しく安らいだ香りがして
周子舒は避けもせずにこやかに触らせた

200
00:12:08,800 --> 00:12:10,760
周子舒:まだ探り出せないか?

201
00:12:10,760 --> 00:12:12,080
顧湘:ん〜……

202
00:12:12,800 --> 00:12:17,240
主人 やっぱり彼は本物みたいだと思うんだけど……

203
00:12:17,240 --> 00:12:19,720
温客行:彼は当然人皮面具を着けてるんじゃない

204
00:12:19,720 --> 00:12:21,720
そいつだと密着して風を通さず

205
00:12:21,720 --> 00:12:25,680
もし長く着けているとすると
必然的に剥がして換気の時間がいる

206
00:12:25,680 --> 00:12:27,400
私が彼をこれだけ長く追いかけたのは

207
00:12:27,400 --> 00:12:30,600
彼が人皮面具を剥がす必要が
ないかどうか見るためです

208
00:12:31,520 --> 00:12:36,840
顧湘:主人あなた はっきりと追求するために美人と
よろしくやる時間をそんなに無駄にしたのか

209
00:12:36,840 --> 00:12:40,480
温客行:彼が美人ならば
私は一時半刻も無駄にしていない

210
00:12:42,280 --> 00:12:44,320
周子舒:俺がいつお前とよろしくやった?

211
00:12:44,720 --> 00:12:48,480
温客行:今までなかったですが 将来きっとあります

212
00:12:48,920 --> 00:12:50,840
あの日 あなたの肩に触れて

213
00:12:50,840 --> 00:12:54,640
顔の皮膚の質感と同じには思えなかった

214
00:12:55,760 --> 00:12:57,880
周子舒:温兄 慎んでくれ

215
00:12:58,720 --> 00:13:01,480
温客行:彼女に触らせるのはよくて 私は駄目?

216
00:13:01,480 --> 00:13:04,440
周子舒:お前も彼女の容姿なら
言うまでもなく顔を触れ

217
00:13:04,440 --> 00:13:07,040
俺はすっかり脱いで
お前の好きに触らせてやってもいい

218
00:13:07,960 --> 00:13:10,440
温客行:阿湘 行ってもいいぞ

219
00:13:10,440 --> 00:13:13,320
顧湘:あぁ? 主人はあたしにどこへ行けって?

220
00:13:13,320 --> 00:13:18,160
温客行:天地は広い 洞庭以外ならどこにでも消えろ

221
00:13:18,160 --> 00:13:19,920
(周子舒):洞庭以外……?

222
00:13:22,600 --> 00:13:25,360
顧湘:主人あなたもしかして
奴婢の酢を飲んでるんだな?
(*吃醋=酢を飲む、嫉妬する)

223
00:13:25,920 --> 00:13:27,120
ペイペイペイ

224
00:13:27,120 --> 00:13:29,720
お前は口が悪い しゃべりすぎだ
本当のことを言うな 言っちゃだめ……

225
00:13:29,720 --> 00:13:31,160
温客行:阿湘

226
00:13:31,760 --> 00:13:33,080
顧湘:消えます 消えます

227
00:13:33,080 --> 00:13:35,160
主人ご安心を 奴婢は間違いなく遠くに消えます

228
00:13:35,160 --> 00:13:36,840
世の中に三本脚のガマは見つからないし

229
00:13:36,840 --> 00:13:38,440
二本脚の男は更に少ないよね?

230
00:13:38,440 --> 00:13:42,640
奴婢は熊の心臓と豹の胆嚢を食べても
ご主人さまと男を奪い合う勇気はないので
(*吃了熊心豹子胆=熊や豹の心肝を食べるような勇ましさ、大胆さ、野蛮さも含まれる)

231
00:13:42,640 --> 00:13:45,320
お二方はご自由に くれぐれもご遠慮なく……

232
00:13:52,120 --> 00:13:55,600
給仕:こちらの公子 あなたは言葉遣いも身なりも
垢抜けて見えますが

233
00:13:55,600 --> 00:13:57,360
どうして覇王餐をなさるつもりなんです?
(*霸王餐=無銭飲食)

234
00:13:57,360 --> 00:14:02,000
筆墨でお返しって あなた八割がた
講談をお聞きになりすぎたのでは?

235
00:14:02,000 --> 00:14:03,480
酒楼の客たち:はははははは!

236
00:14:03,480 --> 00:14:06,160
青袍の公子:違います 本当に銭を盗まれて……

237
00:14:06,160 --> 00:14:09,960
それか まず私を師叔のところに戻らせてください
絶対に踏み倒しませんから……

238
00:14:09,960 --> 00:14:12,000
温客行:秀麗な美人か……

239
00:14:12,000 --> 00:14:14,600
酒楼の客たち:どうしたどうした?
覇王餐だと?どいつだ?

240
00:14:14,600 --> 00:14:16,040
温客行:何を笑ってるんです?

241
00:14:16,040 --> 00:14:19,600
周子舒:見たところ 彼が身につけている
袍の素材はこだわっていて

242
00:14:19,600 --> 00:14:21,720
腰に挿した玉の簫の色も極めて良い

243
00:14:21,720 --> 00:14:23,360
銭のない人のようには見えない

244
00:14:24,160 --> 00:14:30,440
こう言う表面上は人の耳目を引きたくないが
実際は非常に賑やかな出で立ちの旧友を思いだした

245
00:14:31,400 --> 00:14:35,360
(周子舒):しかし あの人は京城随一の有閑貴族だ

246
00:14:35,360 --> 00:14:38,360
一生飲み食べ遊んで 遊刃の余地が有るのに
(*游刃有余=技術がすぐれ問題処理に余裕がある《荘子》)

247
00:14:38,360 --> 00:14:41,480
いつからあんな茫洋と
取り留めない様子になったのか

248
00:14:42,320 --> 00:14:43,680
分からぬが……

249
00:14:43,680 --> 00:14:45,800
給仕:お聞きしますが お客様は
どこの王朝年代の名家で

250
00:14:45,800 --> 00:14:47,720
今はどの科の状元郎なんです?
(*状元郎=科挙、進士の主席合格者)

251
00:14:47,720 --> 00:14:49,960
貴重な書画で返すって……?

252
00:14:49,960 --> 00:14:51,960
青袍の公子:その……私は……

253
00:14:51,960 --> 00:14:53,120
──つま先で温客行を蹴り──

254
00:14:53,120 --> 00:14:56,480
周子舒:温善人 善行で徳を積む好機だぞ

255
00:14:56,480 --> 00:15:02,400
温客行:うん その通り 美人に難有れば
手を差し伸べるのも当然……

256
00:15:03,600 --> 00:15:04,840
ん?

257
00:15:05,840 --> 00:15:06,880
周兄

258
00:15:06,880 --> 00:15:07,880
周子舒:うん?

259
00:15:09,160 --> 00:15:13,400
温客行:思いましたが やはりこの善行で
徳を積む機会はあなたに譲ってあげましょうか?

260
00:15:13,960 --> 00:15:17,320
私めは今生でもう十分すぎるぐらい
徳を積みましたので

261
00:15:17,320 --> 00:15:21,280
実際 兄さんの機会を奪う必要はないのです……

262
00:15:22,600 --> 00:15:29,520
先ほど街で 一人の小粋な男子が 蹴躓いて
倒れそうになったのを私めが手を伸ばし助けました

263
00:15:29,520 --> 00:15:31,560
それから彼が私に笑いかけた……

264
00:15:31,560 --> 00:15:35,120
周子舒:その後 お前の銭袋は見当たらないのか?

265
00:15:36,160 --> 00:15:39,480
温客行:もとは良き人の卿(チン)が
いかに賊になったのか
(*卿本佳人 奈何做贼《晋書》)

266
00:15:39,880 --> 00:15:41,720
給仕:あなたが今日 銭を渡さないなら
我らは官府に行くだけです

267
00:15:41,720 --> 00:15:42,960
周子舒:いいさ

268
00:15:42,960 --> 00:15:45,880
給仕:代官さまに見てもらお……誰だ?

269
00:15:46,440 --> 00:15:49,280
周子舒:そちらの公子の勘定は 私がしよう

270
00:15:49,280 --> 00:15:50,880
給仕:え?銀子!

271
00:15:50,880 --> 00:15:55,040
はいはい!いいですよ!
ありがとうございます旦那!ありがとう!

272
00:15:55,040 --> 00:15:55,620
旦那の善行の徳には必ず恩返しがあります
 

273
00:15:55,620 --> 00:15:56,280
旦那の善行の徳には必ず恩返しがあります
周子舒:彼を助けたのは俺だが この精算はお前だ

274
00:15:56,280 --> 00:15:59,040
周子舒:彼を助けたのは俺だが この精算はお前だ

275
00:15:59,040 --> 00:16:02,080
覚えておけよ 三両銀子の貸しだ

276
00:16:02,080 --> 00:16:04,600
温客行:私めの貞操を捧げるのはいかがです?

277
00:16:04,600 --> 00:16:09,200
周子舒:申し訳ない 私めはまだ
そんな食欲旺盛じゃない

278
00:16:09,200 --> 00:16:14,480
──二匹の禽獣は笑顔を収め、同じ轍から出た
“路の平らかならざるを見て抜刀し相助く”豪傑君子の
顔を並べ、階段を上ってくる曹蔚寧を迎えた

279
00:16:14,480 --> 00:16:17,080
青袍の公子:私めは曹蔚寧(ツァオ・ウェイニン)
お二方の仗義の手助けに感謝します

280
00:16:17,080 --> 00:16:18,440
どうか一礼をお受けください

281
00:16:18,440 --> 00:16:21,000
周子舒:滅相もない 曹公子恐縮です
温客行:滅相もない 曹公子恐縮です

282
00:16:21,000 --> 00:16:22,120
周子舒:ん?

283
00:16:23,800 --> 00:16:25,120
曹公子お掛けください

284
00:16:25,120 --> 00:16:27,520
私めは周絮 こちらは……

285
00:16:28,240 --> 00:16:29,760
温客行:温客行

286
00:16:29,760 --> 00:16:30,960
曹蔚寧:周兄 温兄

287
00:16:30,960 --> 00:16:33,080
曹某 そのご厚意に甘えます

288
00:16:35,600 --> 00:16:40,920
江湖に初めて入り 折悪しく師叔と別れて
賊に遭遇しましたが お二方のお陰で……

289
00:16:41,960 --> 00:16:45,120
周子舒:曹兄は何派に師事しておいでだ?

290
00:16:45,120 --> 00:16:48,440
曹蔚寧:私めは清風剣派 掌門
莫懐陽(モー・ホワイヤン)の弟子です

291
00:16:48,440 --> 00:16:51,440
周子舒:若い頃に聞いた話では
莫前輩は弟子の受け入れを拒んでいたらしいが

292
00:16:51,440 --> 00:16:54,280
曹公子がそうだったとは 失敬失敬

293
00:16:54,280 --> 00:16:55,440
曹蔚寧:滅相もない

294
00:16:55,440 --> 00:16:58,080
此度は師叔と洞庭大会に行くのですが

295
00:16:58,080 --> 00:17:01,760
数日前 趙家荘を通り掛かった時 あの辺りで
事件があったと聞くとは誰が予想できますか

296
00:17:01,760 --> 00:17:05,480
かのご老人は若い頃から趙大侠と仲が
良いですから行ってみることになり

297
00:17:05,480 --> 00:17:09,120
私を先に洞庭に向かわせ 高崇 高大侠に
遅れる非礼をお伝えせよと……

298
00:17:09,120 --> 00:17:10,480
周子舒:洞庭大会?

299
00:17:10,480 --> 00:17:11,480
曹蔚寧:まさしく

300
00:17:11,480 --> 00:17:15,480
周兄はあの江南張家の一門壊滅の事件を
お聞き及びではないですか?

301
00:17:16,080 --> 00:17:19,440
その張家のお一人の小公子が生き残り
目下趙家荘に留まってらっしゃる

302
00:17:19,440 --> 00:17:21,840
彼が言うには下手人は青竹嶺の悪鬼衆

303
00:17:21,840 --> 00:17:27,640
それだけでなく 数日前には
泰山掌門もご自身の部屋で非業の死を遂げたのです

304
00:17:27,640 --> 00:17:30,320
門下の三大名手が一夜のうちに全員一命を落とし

305
00:17:30,320 --> 00:17:32,200
状況は張家の人と極めて似ています

306
00:17:32,200 --> 00:17:37,840
洞庭大会は 高崇大侠が山河令を掲げて
天下の英雄の力を集め 鬼谷を平定するのです

307
00:17:37,840 --> 00:17:38,960
温客行:まことの事?

308
00:17:38,960 --> 00:17:40,000
曹蔚寧:確実です
(*千真万确=極めて真実に近いこと《金字塔銀宝塔》)

309
00:17:40,000 --> 00:17:43,520
私と師叔は私の師父の命で
下山して洞庭大会に馳せ参じるのです

310
00:17:43,520 --> 00:17:47,160
温客行:周兄 あなたは善行で
徳を積むんじゃありませんでした?

311
00:17:47,160 --> 00:17:50,200
こちらの兄弟に一度付いて行った方が良いでしょう

312
00:17:50,200 --> 00:17:53,520
遏悪揚善(あつあくようぜん)は 大徳なり
(*惩恶扬善=悪を懲らしめ善を掲げる)

313
00:17:53,520 --> 00:17:55,600
曹蔚寧:とびきりの遏悪揚善は 大徳なのです

314
00:17:55,600 --> 00:17:58,160
温兄よくぞおっしゃった お二方は
義にとても直截だとお見受けしました
 
 

315
00:17:58,160 --> 00:17:59,760
温兄よくぞおっしゃった お二方は
義にとても直截だとお見受けしました
(周子舒):この馬鹿
 

316
00:17:59,760 --> 00:18:04,760
曹蔚寧:小生とも とても馬が合いますし
洞庭へ同行するのはいかがです?
(周子舒):清風剣派の掌門 莫懐陽は
徹頭徹尾の古狐だ

317
00:18:04,760 --> 00:18:05,480
温客行:それはまことに願ってもないことです
 
 

318
00:18:05,480 --> 00:18:07,080
温客行:それはまことに願ってもないことです
(周子舒):どうして狐狸の穴ぐらで
大兎の子が育つんだ?

319
00:18:07,080 --> 00:18:08,800
(周子舒):どうして狐狸の穴ぐらで
大兎の子が育つんだ?

320
00:18:13,000 --> 00:18:14,800
曹蔚寧:あの……周兄?

321
00:18:15,560 --> 00:18:17,720
温客行:阿絮は口には出さぬと言うものの

322
00:18:17,720 --> 00:18:20,320
心の内は喜びに溢れているのです

323
00:18:21,840 --> 00:18:23,720
曹蔚寧:お二方はまことに仲が良いのですね

324
00:18:24,400 --> 00:18:25,760
温客行:曹公子に感謝を

325
00:18:25,760 --> 00:18:27,200
何を隠そう
(*实不相瞒=決して嘘ではないこと《水滸伝》施耐庵)

326
00:18:27,200 --> 00:18:31,600
温某は今生を 周絮でなければ嫁がぬと
心に決めているのです

327
00:18:31,600 --> 00:18:32,720
曹蔚寧:あ……えぇ?

328
00:18:32,720 --> 00:18:34,840
周子舒:温兄のご厚愛を裏切るのではと心配だ

329
00:18:34,840 --> 00:18:37,640
私めは薄命で 不治の病を患っている

330
00:18:37,640 --> 00:18:40,880
どう見積もっても長くは生きられない

331
00:18:41,200 --> 00:18:44,800
この首の曲がった木は もうじき傾いで倒れる
(*摇摇欲坠=ぐらぐら崩れる寸前で不安定であること《三国演義》)

332
00:18:44,800 --> 00:18:47,120
恐らく温兄の御首を吊るしても死ねない

333
00:18:47,120 --> 00:18:48,640
換えの一本をお願いしよう

334
00:18:48,960 --> 00:18:51,000
天涯のどこにでも芳草はないか?
(*世の中に愛することができる相手は一人ではない《蝶恋花》蘇軾)

335
00:18:51,000 --> 00:18:54,360
温客行:あなたがいなければ
私は孤独に老いゆくことになる

336
00:18:54,360 --> 00:18:58,880
周子舒:貴殿のような天賦の奇才が
“高きところは寒きに勝らず”は必然
(*高处不胜寒=地位が高いと風当たりが強く孤独なものである《水調歌頭》蘇軾)

337
00:18:58,880 --> 00:19:02,280
孤独な老後も天命の許すところ

338
00:19:02,280 --> 00:19:07,240
私めはちっぽけな凡人
何の徳があって天命を改ざんできるのか

339
00:19:07,240 --> 00:19:08,400
温客行:なんのなんの

340
00:19:08,400 --> 00:19:11,640
阿絮あなたのその謙遜は 全く遠慮のしすぎです

341
00:19:11,640 --> 00:19:15,840
周子舒:とんでもない 実際一つも
遠慮などしていない

342
00:19:17,400 --> 00:19:22,280
曹蔚寧:……もしや周兄の身体の病が原因で
恋人のお二方は連れ合いになれないのでしょうか?

343
00:19:22,800 --> 00:19:26,600
──二人は同時に唖然とし、周子舒は
乾いた咳をして温客行の腕を肩から下ろした

344
00:19:26,600 --> 00:19:28,280
周子舒:曹兄 気を回す必要はない

345
00:19:28,640 --> 00:19:32,080
私とこちらの温兄は
どうあっても連れ合いにはなれない

346
00:19:32,080 --> 00:19:34,400
いがみ合う可能性が高い
(*怨偶=不調和で対立する夫婦、敵対すること《春秋左氏伝》)

347
00:19:35,280 --> 00:19:38,480
曹蔚寧:周兄のようなお人が
この苦しみを受けるべきじゃない

348
00:19:39,920 --> 00:19:41,320
周子舒:ありがとう曹兄

349
00:19:41,320 --> 00:19:42,520
私は少しも思ってなかっ……

350
00:19:42,520 --> 00:19:43,680
曹蔚寧:もし周兄がお嫌でなければ

351
00:19:43,680 --> 00:19:47,400
洞庭でしばらく待って 我々で邪魔歪道を
解決した後 私と一度帰っていただいてもいい

352
00:19:47,400 --> 00:19:49,920
師父のご老人ならきっと方法があります

353
00:19:50,960 --> 00:19:52,760
私はこれから師叔に
記号を残して消息を伝えてきますので

354
00:19:52,760 --> 00:19:57,080
お二人は先に発たれて 先にある来福客桟で
私をお待ちくだされば 私はすぐに戻ってきます

355
00:19:59,760 --> 00:20:03,120
温客行:律儀で人情に篤い まことの我が同朋です
(*古道热肠=誠実さと熱意を持って人を扱うこと《三借廬筆談》鄒濤 *我辈中人=同年代の人、自分と同じような人)

356
00:20:03,680 --> 00:20:05,160
我らも行きますよ

357
00:20:07,960 --> 00:20:10,280
阿絮はなぜそのように私を見るのです?

358
00:20:10,960 --> 00:20:14,040
先ほどの私めの肺腑の言で
(*肺腑之言=心からの誠実な言葉《代書詩一百韻寄微之》白居易)

359
00:20:14,040 --> 00:20:18,080
あなたの鉄石の心臓が感動して
身を許す気になったのでは?
(*铁石心肠=感情に左右されないこと、意思が強いこと《宋璟集序》)

360
00:20:19,920 --> 00:20:21,280
周子舒:私の愚鈍をお許し願うが

361
00:20:21,280 --> 00:20:22,720
しかし全く……

362
00:20:22,720 --> 00:20:25,080
温兄が洞庭に行く動機が

363
00:20:25,080 --> 00:20:27,000
撲朔謎離(ぼくさくめいり)に思う
(*扑朔迷离=雄兔脚扑朔 雌兔眼迷离 走り回る兎は雌雄の区別がつかず捕まえて吊るして初めて分かる、物事や事情がはっきりしない《木蘭詩》)

364
00:20:28,440 --> 00:20:31,400
温客行:危急に人を救い 義を重んじ財を疎んじる
(*仗义疏财=金品によって義をなすこと)

365
00:20:31,400 --> 00:20:33,000
これら全て小善です

366
00:20:33,400 --> 00:20:36,080
あなたは大善とは何か知ってますか?

367
00:20:37,920 --> 00:20:41,800
地獄一日空かぬなら 我一日も成仏せず

368
00:20:41,800 --> 00:20:45,680
いにしえより正邪は両立しません あなたの見解は?

369
00:20:47,400 --> 00:20:52,680
ここは人の世 人の世は
魑魅魍魎がいるべきではありません

370
00:20:53,520 --> 00:20:58,120
かの……徳望高き高崇 高大侠も

371
00:20:58,120 --> 00:21:00,400
民のために悪を排除します

372
00:21:00,400 --> 00:21:05,400
我らが手を差し伸べぬなら 聖賢の書を読んだ
多くの歳月は無駄になってしまうのでは?

373
00:21:05,960 --> 00:21:09,920
何千万年と修行して 初めてこの世に
来ることができると聞いています

374
00:21:09,920 --> 00:21:16,000
幾らか仕事をしないと 人としての数十年に
申し訳が立たないのでは?

375
00:21:16,720 --> 00:21:19,360
阿絮 そうでしょ?

376
00:21:22,240 --> 00:21:24,120
周子舒:そう言うと

377
00:21:24,800 --> 00:21:27,440
温兄がまるで正人君子のように聞こえる

378
00:21:27,440 --> 00:21:29,480
温客行:この世界には三種の人がいます

379
00:21:29,480 --> 00:21:32,560
肉を食べるのが好きなの あってもなくてもいいの

380
00:21:32,560 --> 00:21:34,040
それと肉が好きでないの

381
00:21:34,040 --> 00:21:37,080
これ皆生来のものです

382
00:21:37,720 --> 00:21:41,880
しかし時に 肉が好きな人が
あいにくと貧しい家に生まれたり

383
00:21:42,200 --> 00:21:46,080
肉が好きでない人が よりによって
山海の珍味の中で育ったりするのは

384
00:21:46,080 --> 00:21:48,200
おかしいんじゃないです?

385
00:21:49,880 --> 00:21:53,760
周子舒:温兄の謎掛けは 俺には分からないが

386
00:21:53,760 --> 00:21:57,520
一つの道理を聞いたことがある

387
00:21:58,040 --> 00:21:59,280
温客行:何です?

388
00:21:59,760 --> 00:22:05,440
周子舒:橘は 淮南に生まれれば橘となり
淮北に生まれれば枸橘(からたち)となる

389
00:22:08,880 --> 00:22:11,480
温客行:あはははははは……

390
00:22:11,480 --> 00:22:15,280
──温客行は前屈みになり涙が出るほど笑った

391
00:22:15,440 --> 00:22:20,560
温客行:あなたは私が今生で出会った中で
最も興味をそそる人だと分かりましたよ

392
00:22:20,800 --> 00:22:26,400
阿絮……その実 易容の術は私も多少は心得てます

393
00:22:26,520 --> 00:22:27,640
周子舒:そうか?

394
00:22:27,640 --> 00:22:32,840
温客行:ですから私もなんとかして自分を
阿湘のような容姿にすれば大丈夫です

395
00:22:32,840 --> 00:22:37,720
──しばらく呆然としていた周子舒は
まさに上三路下三路の下品な表情をして見つめる
温客行を見て何も言わず宿の方に向かった

396
00:22:37,840 --> 00:22:40,120
このような後ろ姿を持つ人が

397
00:22:40,600 --> 00:22:43,320
どうして美人じゃないなんて言える?

398
00:22:44,600 --> 00:22:48,400
私のこの双眸は この世に三十年近くあって

399
00:22:48,400 --> 00:22:52,000
いまだ一人も見逃したことがない

400
00:22:57,680 --> 00:23:00,120
橘の木もまた足が生えてなければ

401
00:23:00,120 --> 00:23:05,960
自分が橘になるか枸橘になるかどうして分かる?

402
00:23:06,680 --> 00:23:10,600
更に言えば 肉が好きな人であれ嫌いな人であれ

403
00:23:11,320 --> 00:23:15,120
もしある日 うっかり人里離れた場所に落ち入って
(*人迹罕至=人の痕跡の少ない荒涼とした場所《漢紀》)

404
00:23:15,120 --> 00:23:18,760
一日中 毛も血もそのまま食べて生きるとしたら
(*茹毛饮血=火を使わず原始的な獣の食べ方をすること《礼記》)

405
00:23:18,920 --> 00:23:21,480
それも大変な苦痛では?

406
00:23:56,600 --> 00:23:58,200
店員:お客さんどうぞ中へ!

407
00:23:58,200 --> 00:23:59,640
お食事ですかそれともお泊り?

408
00:23:59,640 --> 00:24:02,000
曹蔚寧:宿泊です 先に友人を捜します

409
00:24:02,400 --> 00:24:04,280
店員:はいな どうぞご自由に

410
00:24:08,320 --> 00:24:10,640
曹蔚寧:あっ 周兄!温兄!

411
00:24:16,760 --> 00:24:20,400
周兄と温兄は……仲違いですか?

412
00:24:20,680 --> 00:24:22,320
温客行:曹兄 気のせいです
周子舒:曹兄 気のせいだ

413
00:24:22,320 --> 00:24:25,760
──周子舒を見る温客行の鈎のように細めた目は
芝居がかっていて、彼は見なかったことにした

414
00:24:25,760 --> 00:24:30,040
曹蔚寧:実は……この事について私も
どう言えばいいか分からないのですが

415
00:24:30,040 --> 00:24:32,640
正直な話 以前に聞いたことはあっても

416
00:24:32,640 --> 00:24:36,680
こんなに大きくなって
やはり初めてお会いした男の方で……

417
00:24:37,560 --> 00:24:38,840
温兄 くれぐれも誤解のなきよう

418
00:24:38,840 --> 00:24:40,200
特別 意味などなく

419
00:24:40,200 --> 00:24:42,120
少し受け入れ難いと思いますが

420
00:24:42,120 --> 00:24:44,160
お二方も侠義の人ですし……

421
00:24:44,160 --> 00:24:44,800
まだちょっと違和感がありますが

422
00:24:44,800 --> 00:24:46,160
(周子舒):この馬鹿……
まだちょっと違和感がありますが

423
00:24:46,160 --> 00:24:47,240
曹蔚寧:ですが……

424
00:24:47,640 --> 00:24:48,920
くれぐれもお気になさらず

425
00:24:48,920 --> 00:24:51,080
私たちは正しく行い 真っ直ぐ立ってます……

426
00:24:52,240 --> 00:24:54,040
周子舒:この桂花酒は悪くない

427
00:24:54,040 --> 00:24:56,360
曹兄も味わってみればいい

428
00:25:00,880 --> 00:25:03,640
曹蔚寧:その……お二人の今晩の宿泊は

429
00:25:03,640 --> 00:25:08,480
お二人で一間ですか?それとも二間ですか?

430
00:25:10,000 --> 00:25:14,320
──温客行でさえまっすぐ彼を眺めて
拾ったのはこんな奇妙な花だったのかと思った

431
00:25:14,320 --> 00:25:17,320
温客行:あなたが今晩もし私と合い部屋するなら

432
00:25:17,320 --> 00:25:21,440
易容して阿湘の容姿になってあげましょう

433
00:25:22,160 --> 00:25:27,320
周子舒:ご厚愛に預かっては むしろ
私めは厩(うまや)で眠るべきだ

434
00:25:29,040 --> 00:25:30,920
温客行:風情を分かってない

435
00:25:30,920 --> 00:25:32,480
店員:あ……あぁ!

436
00:25:32,800 --> 00:25:34,000
店員:死……人が死んでる!

437
00:25:34,000 --> 00:25:35,160
曹蔚寧:何だって?

438
00:25:35,160 --> 00:25:36,520
周子舒:ん?

439
00:25:44,800 --> 00:25:46,080
温客行:周聖人

440
00:25:46,080 --> 00:25:49,960
桂花酒の味わい まことに素晴らしい

441
00:25:49,960 --> 00:25:53,240
周子舒:温客行 くそったれ

442
00:25:53,240 --> 00:25:56,160
趙敬:成嶺 恐れるな 高おじ上と趙おじ上がいる

443
00:25:56,160 --> 00:25:58,160
君の産毛一本 動かせる者はおるまい

444
00:25:58,160 --> 00:26:01,640
高家人:火事だ!火事だ! 火を消せ!誰か!

445
00:26:02,920 --> 00:26:06,560
温客行:用心なさい 少年よ

446
00:26:07,200 --> 00:26:09,400
“这人间困境几何”
(この世に苦境 幾ばくか)

447
00:26:09,400 --> 00:26:13,080
“得超脱又几个”
(逃れ得るのは幾人か)

448
00:26:13,080 --> 00:26:16,240
“如敢以生死来涉”
(敢えて生死を賭ければ)

449
00:26:16,240 --> 00:26:19,320
“孑然是天涯客”
(それは独りの天涯客)

450
00:26:19,320 --> 00:26:22,800
“谁辞别庙堂 醉山河”
(廟堂を離れ 山河に酔う人が)

451
00:26:22,800 --> 00:26:25,720
“沐得天光赏春色”
(天光浴びて 春色を味わえば)

452
00:26:25,720 --> 00:26:32,600
“欲做闲云鹤 偏又生纠葛”
(たゆたう雲間の鶴ならんとも しがらみまた生じる)

453
00:26:32,680 --> 00:26:35,720
“飞絮身 偏走黄泉路”
(身を飛絮として 黄泉路を進めば)

454
00:26:35,720 --> 00:26:39,160
“看尽英雄嗔癫群鬼舞”
(英雄は尽き憤懣の群鬼が舞うを見る)

455
00:26:39,160 --> 00:26:42,200
“黑白错 风崖起疑雾”
(黒白違えて 風崖に疑いの霧は立ち)

456
00:26:42,200 --> 00:26:45,600
“妙手设局待谁入”
(妙手の罠に誰かが嵌まれば)

457
00:26:45,600 --> 00:26:51,720
“六合渺渺 纵是无觅处”
(六合は遙か たとえ行くあてなくとも)

458
00:26:51,720 --> 00:26:58,600
“携酒来 拔剑去 自有归宿”
(酒を携え来て 剣を抜いて行く 帰る宿がある)

459
00:27:24,920 --> 00:27:27,280
“正邪道人心叵测”
(正邪で人心は測れず)

460
00:27:27,280 --> 00:27:30,680
“甘苦自取自舍”
(甘苦を自ら選び取り)

461
00:27:30,680 --> 00:27:34,120
“遇知己明眸澈澈”
(巡り合った知己の瞳は明澄にして)

462
00:27:34,120 --> 00:27:37,160
“如举灯过渊泽”
(灯を掲げ沢の淵を渡るなら)

463
00:27:37,160 --> 00:27:40,560
“谁以鬼行世 恨善恶”
(世を行く鬼として 善悪を恨む誰かの)

464
00:27:40,560 --> 00:27:43,440
“红袍褪身识得”
(紅い袍を落とせば見える)

465
00:27:43,440 --> 00:27:50,240
“一眼竟万年 情痴终不赦”
(一眼万年の恋情 ついぞ赦されることなし)

466
00:27:50,320 --> 00:27:53,320
“飞絮身 偏走黄泉路”
(身を飛絮として 黄泉路を進めば)

467
00:27:53,320 --> 00:27:56,760
“看尽英雄嗔癫群鬼舞”
(英雄は尽き憤懣の群鬼が舞うを見る)

468
00:27:56,760 --> 00:27:59,880
“黑白错 风崖起疑雾”
(黒白違えて 風崖に疑いの霧は立ち)

469
00:27:59,880 --> 00:28:03,480
“妙手设局待谁入”
(妙手の罠に誰かが嵌まれば)

470
00:28:03,480 --> 00:28:09,400
“六合渺渺 纵是无觅处”
(六合は遙か たとえ行くあてなくとも)

471
00:28:09,400 --> 00:28:15,760
“携酒来 拔剑去 自有归宿”
(酒を携え来て 剣を抜いて行く 帰る宿がある)

472
00:28:16,200 --> 00:28:19,400
“天欲晚 风雪袭巴蜀”
(天は暗きを欲し 風雪が巴蜀を襲う)

473
00:28:19,400 --> 00:28:22,840
“何幸借这温存 不孤独”
(幸いにもこの温もりがあれば孤独でなく)

474
00:28:22,840 --> 00:28:25,800
“问余生 怎舍好眉目”
(余生に問う 眉目の好しを)

475
00:28:25,800 --> 00:28:29,360
“三秋如梦也愿赴”
(三秋の夢の願いを手放せるかを)

476
00:28:29,360 --> 00:28:35,560
“六合渺渺 自有自在处”
(六合遙かに 己の居場所があれば)

477
00:28:35,560 --> 00:28:37,160
“竹林响 忘沉浮 寻光欲渡”
(竹林は響き 浮沈を忘れ 光を求め渡らん)







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