第六集
1
00:00:10,200 --> 00:00:13,880
張成嶺:はぁはぁ……
2
00:00:24,680 --> 00:00:26,600
見失った……
3
00:00:29,040 --> 00:00:31,480
黒衣の男1:お前は本当に張玉森のせがれか?
4
00:00:31,480 --> 00:00:35,600
これしきで着いてこれなくなるとは
全く役立たずだな
5
00:00:36,760 --> 00:00:42,000
(張成嶺):そうだ 張成嶺お前は役立たずだ
6
00:00:42,000 --> 00:00:45,200
どうして李おじ上が決死で
救い出したのがお前だったんだ
7
00:00:45,200 --> 00:00:47,680
どうしてお前だったんだ?
8
00:00:49,840 --> 00:00:53,600
──彼を連れ出した男が目の前で止まり
悪意ある目が張成嶺を捉えた
9
00:00:53,600 --> 00:00:57,400
男の後ろに影が幾筋か落ち
同じような黒衣が張成嶺を包囲した
10
00:00:57,840 --> 00:00:59,960
黒衣の男1:そちらで蔵頭露尾してるご仁兄
11
00:00:59,960 --> 00:01:04,640
あんたはこんなチビのために我らの主に
これだけの人を使って探させたのか?
12
00:01:04,640 --> 00:01:08,160
こんな役立たずに これだけ大勢を
動員する必要があったか?
(*兴师动众=大規模に出兵すること《呉子・励士》)
13
00:01:16,080 --> 00:01:18,000
黒衣の男1:覚悟を決めて出てきたか
14
00:01:18,000 --> 00:01:20,040
黒衣の男2:彼の顔にあるあの痣は……
15
00:01:20,040 --> 00:01:21,040
黒衣の男1:黙れ!
16
00:01:21,480 --> 00:01:24,440
許してくれ 手下は掟を分かってない
17
00:01:24,440 --> 00:01:27,000
我らはすでに連れて来た 一刻も無駄にするな
18
00:01:30,760 --> 00:01:32,360
張成嶺:真相はどうなんだ?
19
00:01:32,360 --> 00:01:33,920
お前たちは私がここに来たら
言うんじゃなかったのか……
20
00:01:33,920 --> 00:01:35,280
うぅっ!
21
00:01:35,520 --> 00:01:36,960
紅衣の男:答えろ
22
00:01:37,360 --> 00:01:39,520
あの日の夜 張家荘で
23
00:01:39,520 --> 00:01:43,720
手指を一本欠けた男を見なかったか?
24
00:01:45,160 --> 00:01:47,680
張成嶺:見……見てない……
25
00:01:48,360 --> 00:01:50,160
紅衣の男:見てない?
26
00:01:50,840 --> 00:01:54,120
良い子だ もう一度しっかり考えてみろ
27
00:01:54,120 --> 00:01:57,840
見たのか それとも見てないのか
28
00:01:59,720 --> 00:02:02,280
張成嶺:う……くそったれめ!
29
00:02:03,480 --> 00:02:04,360
紅衣の男:もう一度聞く
30
00:02:04,360 --> 00:02:07,080
いたか? いなかったか?
31
00:02:08,680 --> 00:02:14,920
──「いた」と言わせようとする男の顔に
唾を吐くと、喜喪鬼は鬼気迫る笑みを浮かべ
彼の首を万力のように締め上げた
32
00:02:14,920 --> 00:02:18,920
(張成嶺):私は……死ぬのかな?
33
00:02:20,280 --> 00:02:22,760
紅衣の男:あぁ? 誰だ!
34
00:02:24,920 --> 00:02:28,120
──紅衣の男は数歩退くと、危うく
手首を折るところだった小石を見つめた
35
00:02:28,120 --> 00:02:30,400
紅衣の男:暗がりに身を隠して奇襲するだけで
36
00:02:30,400 --> 00:02:32,840
名乗りを上げる勇気はないのか?
37
00:02:34,240 --> 00:02:38,260
──曲がり角からゆっくり出てきたやせ細った男は
見てもすぐに忘れてしまいそうな容貌をしていた
38
00:02:38,260 --> 00:02:42,000
周子舒は「無名の小卒だ」と軽く言おうとしたが
こんな連中に遠慮の必要はないと思った
39
00:02:42,000 --> 00:02:43,440
周子舒:お前は何様だ
40
00:02:44,080 --> 00:02:46,880
厚かましくも俺が誰かだと?
41
00:02:46,880 --> 00:02:51,220
──紅衣の男は眉をしかめると、不意に
産毛が逆立つような戦慄を背筋に感じた
42
00:02:52,040 --> 00:02:54,640
周子舒:小僧 起きろ
43
00:02:55,680 --> 00:02:57,680
五体投地なんて なんて有り様だ
44
00:02:57,680 --> 00:02:58,920
張成嶺:あ……
45
00:02:58,920 --> 00:03:00,900
──周子舒は張成嶺の襟首を無理やり持ち上げた
46
00:03:00,900 --> 00:03:02,360
張成嶺:あなたは……
47
00:03:02,360 --> 00:03:03,840
紅衣の男:そちらの兄さん
48
00:03:03,840 --> 00:03:07,640
我らはこの子に少し聞かねばならんことがあって
捜していただけだ
49
00:03:07,640 --> 00:03:08,680
でしゃばるんじゃ──
50
00:03:10,600 --> 00:03:11,960
黒衣の男1:うっ!お前は……
51
00:03:11,960 --> 00:03:13,520
紅衣の男:どういうつもりだ?
52
00:03:13,520 --> 00:03:15,360
周子舒:お前のじいさんだろ?
(*我是你爷爷=相手より立場が上、侮辱的)
53
00:03:15,360 --> 00:03:16,600
黒衣の男1:き……うっあぁ!
54
00:03:18,080 --> 00:03:19,080
周子舒:なあ
55
00:03:20,680 --> 00:03:22,720
お前のじいさんだよな?
56
00:03:29,640 --> 00:03:33,920
俺はこの畜生に少し
聞かねばならんことがあって来ただけだ
57
00:03:34,760 --> 00:03:36,640
でしゃばるのはやめておけ
58
00:03:36,640 --> 00:03:38,000
黒衣の男2:兄貴
59
00:03:38,000 --> 00:03:39,360
馬鹿にするのも大概にしろ!
60
00:03:39,360 --> 00:03:40,720
周子舒:おいチビ
61
00:03:40,720 --> 00:03:41,120
周子舒:向こうで隠れてろ
62
00:03:41,120 --> 00:03:42,200
黒衣の男2:かかれ!
周子舒:向こうで隠れてろ
63
00:03:42,440 --> 00:03:43,600
黒衣の男3:やっ!
64
00:03:43,780 --> 00:03:48,080
──張成嶺は不意に体が軽くなり重さを感じる前に
壁際に放り出され立っていた
65
00:03:49,960 --> 00:03:51,400
黒衣の男4:奴を殺せ
66
00:03:52,060 --> 00:03:56,840
──男たちが手に持った蠍の尾針のような鉤爪は
幽かに青く光り謎めいた冷たさを放っていた
67
00:03:58,080 --> 00:04:00,220
黒衣の男2:取り囲め 怯むな
68
00:04:02,120 --> 00:04:03,880
張成嶺:……師父
69
00:04:05,200 --> 00:04:08,680
──張成嶺は瞬きさえ惜しんで見ていた
70
00:04:08,680 --> 00:04:10,120
張成嶺:これは父上が言ってた
71
00:04:10,120 --> 00:04:14,640
“翩えること驚鴻のごとく
重きを挙げること軽きがごとし”の武功だ……
(*翩若惊鸿《洛神賦》曹植 *举重若轻《甌北詩話》趙翼)
72
00:04:14,640 --> 00:04:16,240
なんてすごい
73
00:04:16,240 --> 00:04:19,960
あの十何人 完全に彼の相手じゃない……
74
00:04:24,000 --> 00:04:30,360
晋江文学城 Priest原作 猫耳FM
音熊聯萌連合出品
75
00:04:30,720 --> 00:04:37,640
古風武侠ラジオドラマ《天涯客》
第六集「悪鬼」
76
00:04:41,640 --> 00:04:46,040
──周子舒は素手でたまに半歩程度動くだけで
その体は非常に柔らかく男たちは
近付くこともできなかった
77
00:04:48,700 --> 00:04:51,720
周子舒は紅衣の男をしばらく
無言で眺めてから首を傾げた
78
00:04:51,720 --> 00:04:53,600
紅衣の男:お前は何者だ?
79
00:04:53,920 --> 00:04:55,800
周子舒:お前の顔のその痣
80
00:04:55,800 --> 00:04:57,640
世間では小鬼の平手と言う
81
00:04:58,120 --> 00:05:02,560
お前が穆雲歌と方不知を殺した喜喪鬼 孫鼎だな?
82
00:05:02,560 --> 00:05:03,560
紅衣の男:う……
83
00:05:05,640 --> 00:05:07,720
周子舒:鬼谷には鬼谷の掟がある
84
00:05:07,720 --> 00:05:11,600
悪鬼となれば 再び人には戻れず 光を見ることはない
85
00:05:11,600 --> 00:05:14,720
七月半ばを除いて 出てくる道理はない
86
00:05:15,240 --> 00:05:17,040
お前の度胸は特大だな
87
00:05:17,040 --> 00:05:19,200
この豪侠が雲集する洞庭の地で
88
00:05:19,200 --> 00:05:23,560
たった一人の子供に対処するために
“毒蠍”の連中を雇った……
89
00:05:23,560 --> 00:05:25,400
孫鼎:しゃべりすぎだぞ
90
00:05:25,400 --> 00:05:26,480
はっ!
91
00:05:27,540 --> 00:05:31,040
──血生臭い死臭を含んだ風が襲い
周子舒は唐突に後方へ三丈飛び上がった
92
00:05:31,040 --> 00:05:37,040
紅衣の男が手を振り下ろすと
周子舒が立っていた地面に平手の窪みができ
秋風に揺れていた草が見る間に枯れていくのを
張成嶺ははっきりと見た
93
00:05:37,040 --> 00:05:40,480
周子舒は木の枝を折って気合を発し
喜喪鬼の両手の間に差し入れると枝が枯れ出したが
94
00:05:40,480 --> 00:05:45,040
周子舒が枝から手を離さず内力を注ぐと
一瞬枝が生命を持ったようで喜喪鬼は怯んだ
95
00:05:45,040 --> 00:05:46,600
孫鼎:ぐっ……
96
00:05:46,600 --> 00:05:50,200
──喜喪鬼は脇腹に周子舒の一掌を受けて
三、四歩後退ってから躊躇わず姿を消した
97
00:05:50,200 --> 00:05:51,440
張成嶺:逃げた!
98
00:05:51,440 --> 00:05:52,520
周子舒:ふん
99
00:05:53,760 --> 00:05:55,920
張成嶺:え?師父!追わないんですか?
100
00:05:55,920 --> 00:05:58,120
周子舒:どこにお前の師父が?
101
00:05:58,120 --> 00:06:00,760
張成嶺:あなたは周叔で 大恩人で 師父です
102
00:06:01,280 --> 00:06:05,120
あなたは今 易容していますが
あなたの手も武功も変わってません!
103
00:06:05,120 --> 00:06:09,800
それに師父以外に 誰が洞庭大会で私に注意を払って
私の命を救いに来てくれるんです?
104
00:06:10,040 --> 00:06:11,160
師父!
105
00:06:11,160 --> 00:06:12,440
周子舒:まず手を放せ……
106
00:06:12,680 --> 00:06:13,760
避けろ!
107
00:06:13,760 --> 00:06:14,880
張成嶺:あぁ!
108
00:06:17,240 --> 00:06:18,560
周子舒:死にたいのか!
109
00:06:18,560 --> 00:06:20,120
毒蠍1:あぁっ……
110
00:06:23,080 --> 00:06:25,200
(周子舒):こいつは死を装っていたのか……
111
00:06:26,760 --> 00:06:28,440
周子舒:この地に留まるのはよろしくない
112
00:06:28,440 --> 00:06:29,440
お前は戻れ
113
00:06:29,440 --> 00:06:30,600
張成嶺:師父……
114
00:06:30,600 --> 00:06:31,840
周子舒:着いて来るな
115
00:06:31,840 --> 00:06:33,520
張成嶺:師父……
116
00:06:34,040 --> 00:06:38,200
──突如灰色の衣の男が現れ周子舒の
行く手を遮り、伸ばした手を腰に回した
117
00:06:38,200 --> 00:06:39,200
周子舒:あぁ?
118
00:06:39,200 --> 00:06:40,720
温客行:阿絮!
119
00:06:41,040 --> 00:06:42,560
周子舒:温客行?
120
00:06:42,560 --> 00:06:45,560
──周子舒は空中で身を翻したが、なぜか
動きが鈍り、その男の懐に抱かれてしまった
121
00:06:45,560 --> 00:06:47,160
温客行:周聖人師父
122
00:06:47,480 --> 00:06:50,520
こんなに慌ただしいのは 何のためです?
123
00:06:50,520 --> 00:06:51,640
周子舒:手を放せ
124
00:06:55,320 --> 00:06:58,680
──周子舒の右腕には毒虫に刺されたような
紫に染まった小さな二つの傷跡があった
125
00:06:58,680 --> 00:07:00,920
温客行:どうしてこんなに早く行くのかと思ったら
126
00:07:00,920 --> 00:07:03,400
なるほど あの毒蠍に刺されたからですね
127
00:07:03,400 --> 00:07:04,480
周子舒:俺は──
128
00:07:06,240 --> 00:07:07,560
温客行:黙ってなさい
129
00:07:08,360 --> 00:07:12,040
──温客行は身を屈めると
少しも意に介さず毒血を吸い出した
130
00:07:12,040 --> 00:07:13,920
周子舒:お前──
131
00:07:33,360 --> 00:07:36,280
温客行:毒血を吸い出せば
何も問題ないはずです
132
00:07:42,120 --> 00:07:46,680
ちょうどこの断った袖が巻くのに使えます
133
00:07:47,620 --> 00:07:53,760
──周子舒の点穴を解くと、懐から薬瓶を摸り出し
丸薬の一粒を自分の口に入れ、もう一粒を
にこやかに周子舒の口元に差し出した
134
00:07:53,760 --> 00:07:55,600
温客行:ほら 阿絮
135
00:07:55,600 --> 00:07:57,120
口開けて
136
00:07:57,120 --> 00:07:59,040
お薬飲んで
137
00:08:01,120 --> 00:08:04,640
見るだけ見て 口付けもして
138
00:08:04,640 --> 00:08:06,920
何をまだ恥ずかしがることが?
139
00:08:07,380 --> 00:08:08,440
周子舒:寄越せ
140
00:08:12,120 --> 00:08:14,620
張成嶺:師 師父……
141
00:08:14,620 --> 00:08:15,920
温客行:少年
142
00:08:16,720 --> 00:08:20,480
君の師父がせっかく逃げるのをやめたのに
どうして着いて行かないの?
143
00:08:20,480 --> 00:08:21,760
張成嶺:あ……あぁ!
144
00:08:29,200 --> 00:08:31,560
──もう日が暮れかけていた
145
00:08:31,560 --> 00:08:35,520
周子舒はしばらく出かけて
数羽の野兎を持って帰ってきた
146
00:08:35,520 --> 00:08:40,140
彼は口では何も言わないが
他の二人の食料まで一緒なっていた
147
00:08:48,360 --> 00:08:50,120
温客行:いい匂いだ
148
00:08:50,120 --> 00:08:51,280
阿絮
149
00:08:51,280 --> 00:08:54,920
あなたの焼き兎の腕は間違いないね
150
00:08:58,300 --> 00:08:59,680
温客行:少年
151
00:08:59,680 --> 00:09:03,120
この場所が 前に村なく後に宿なしなのは
(*前不着村后不着店=旅路を急いだあまりに前後に何も見えず進退窮まること)
152
00:09:03,120 --> 00:09:05,560
君が彼らに着いて行ったお陰でもある
153
00:09:05,560 --> 00:09:10,480
張成嶺:私は……ごめんなさい……
154
00:09:15,400 --> 00:09:16,640
周子舒:食え
155
00:09:16,640 --> 00:09:18,880
張成嶺:ありがとうございます師父
156
00:09:21,320 --> 00:09:22,920
美味しい!
157
00:09:25,400 --> 00:09:26,800
温客行:少年
158
00:09:27,440 --> 00:09:32,560
君は世界で二番目に可愛い人が
どんな人か知ってるかな?
159
00:09:33,120 --> 00:09:33,880
張成嶺:う?
160
00:09:33,880 --> 00:09:36,280
温客行:それは口堅く心柔らかな人──
161
00:09:36,280 --> 00:09:41,400
では世界で最も可愛い人はどんなか知ってるかな?
162
00:09:42,280 --> 00:09:45,720
周子舒:そのつまらん話をやめて
もっと薪を拾って来い
163
00:09:50,320 --> 00:09:55,000
温客行:それは腰細く脚長く
且つ口堅く心柔らかな人ですよ
164
00:09:55,240 --> 00:09:56,280
周子舒:おい小僧
165
00:09:56,280 --> 00:09:58,240
奴の自慢を聞くな
166
00:09:58,240 --> 00:09:59,720
張成嶺:彼は師父のことを言って……
167
00:09:59,720 --> 00:10:00,880
周子舒:奴から離れてろ
168
00:10:00,880 --> 00:10:02,520
奴は若草を食いたい老牛だ
(*老牛吃嫩草=男が若い女を好むことを揶揄)
169
00:10:02,520 --> 00:10:05,240
温客行:阿絮 私の心を折り過ぎですよ
170
00:10:05,240 --> 00:10:06,840
周子舒:お前がもしまだ薪拾いに行かないなら
171
00:10:06,840 --> 00:10:10,520
こちらの兎の兄弟たちと一緒に腹を捌いてやる
172
00:10:10,520 --> 00:10:11,760
温客行:アイヨ
173
00:10:12,680 --> 00:10:13,800
阿絮
174
00:10:14,200 --> 00:10:16,320
今焼いてるのは私に残しておいて
175
00:10:16,320 --> 00:10:18,840
その小僧にまたやったら許さない!
176
00:10:26,440 --> 00:10:27,840
(周子舒):……あの野郎
177
00:10:27,840 --> 00:10:31,400
毒血を吸い出した直後に まさか舐めるとは
178
00:10:31,400 --> 00:10:33,480
絶対にわざとだ
179
00:10:35,240 --> 00:10:38,440
奴はどうして男色を好んで
こんな飢えると見境がなく
180
00:10:38,440 --> 00:10:42,640
こんな公明正大に
こんな所構わず発情できるんだ?
181
00:10:42,640 --> 00:10:44,720
こんな長年生きて
182
00:10:44,720 --> 00:10:49,160
こんなたった一輪のイヌタデみたいな
変わり者に初めて会った
(*奇葩=珍しい花、優れた人、奇妙な様子)
183
00:10:50,760 --> 00:10:52,160
張成嶺:師父
184
00:10:52,600 --> 00:10:53,720
師父
185
00:10:53,720 --> 00:10:54,920
焦げそうです
186
00:10:55,200 --> 00:10:57,320
周子舒:あ? ンンッ
187
00:11:00,400 --> 00:11:01,400
おい
188
00:11:01,400 --> 00:11:04,360
お前の足だと 今日は恐らく戻れまい
189
00:11:04,360 --> 00:11:09,440
野宿して 明日朝一番で
また趙大侠のところに送り返す
190
00:11:10,440 --> 00:11:11,960
張成嶺:私は……
191
00:11:14,360 --> 00:11:16,160
はい
192
00:11:20,480 --> 00:11:22,120
周子舒:それは一体何だ?
193
00:11:23,360 --> 00:11:24,880
まっすぐ立て
194
00:11:24,880 --> 00:11:26,000
顔を上げろ
195
00:11:26,000 --> 00:11:27,080
張成嶺:あ
196
00:11:33,040 --> 00:11:34,800
周子舒:顔をちゃんと拭け
197
00:11:34,800 --> 00:11:36,640
男じゃなかったのか?
198
00:11:36,640 --> 00:11:39,240
大した事でもないのに 泣くのか?
199
00:11:39,240 --> 00:11:41,480
張成嶺;師父……私も
200
00:11:41,480 --> 00:11:44,200
泣いてばかりじゃありません
201
00:11:44,200 --> 00:11:48,000
わ……私はあなたを見て
202
00:11:48,000 --> 00:11:51,560
あなたを見たら悔しくて……
203
00:11:51,560 --> 00:11:56,920
私……私は……
204
00:12:00,080 --> 00:12:01,360
周子舒:はぁ……
205
00:12:04,840 --> 00:12:07,640
温客行:え? どういうことです?
206
00:12:09,040 --> 00:12:10,640
周子舒:薪をくべて来い
207
00:12:14,360 --> 00:12:15,160
温客行:あのねえ
208
00:12:15,160 --> 00:12:18,280
彼が着いて行きたいなら
着いて行かせればいいじゃない
209
00:12:18,280 --> 00:12:22,200
もし彼を受け入れないなら
幾度も彼を救ったのはまたどうしてです?
210
00:12:22,960 --> 00:12:24,480
周子舒:やぶさかではなかった
211
00:12:27,480 --> 00:12:30,080
張成嶺:師父はやはり私を連れて
行かないでください
212
00:12:30,080 --> 00:12:34,200
私は面倒ですし 沢山の人が私を殺したがってる
213
00:12:35,400 --> 00:12:39,840
わ…私は功夫もダメで
とばっちりで師父に怪我させてしまった……
214
00:12:39,840 --> 00:12:42,240
温客行:大丈夫 彼の皮は粗く肉は厚い
215
00:12:43,480 --> 00:12:45,240
私を睨んでどうしたんです
216
00:12:45,800 --> 00:12:47,440
他の人は皆 皮は一枚ですが
217
00:12:47,440 --> 00:12:52,840
あなたは一日中自分をちまきみたいに包んでも
まだ不十分でもう一重貼り付けた
218
00:12:52,840 --> 00:12:54,880
張成嶺:えぇ?
219
00:12:54,880 --> 00:12:56,800
温客行:彼のその腕を見て
220
00:12:56,800 --> 00:12:59,920
手首から下と手首から上では二色になってるでしょ
221
00:12:59,920 --> 00:13:02,440
君の師父は蔵頭露尾して
222
00:13:02,440 --> 00:13:06,040
今に至っても私に誠意を見せる気がない
(*坦诚相见=誠実さを持ってお互い接すること)
223
00:13:06,040 --> 00:13:07,400
周子舒:お前はご婦人方の生まれ変わりか
224
00:13:07,400 --> 00:13:09,240
体中 紅白粉の匂いがする
225
00:13:09,640 --> 00:13:12,840
手巾を持ち歩いているだけならまだしも
更にこんなに話がくどい
226
00:13:12,840 --> 00:13:15,120
どこからそれだけの無駄話が出てくるんだ?
227
00:13:16,720 --> 00:13:18,680
黙って食ってろ
228
00:13:23,440 --> 00:13:25,720
温客行:阿絮が焼いたのは本当に美味しい
229
00:13:29,600 --> 00:13:30,680
少年
230
00:13:31,040 --> 00:13:32,920
君の功夫はどうしてダメなの?
231
00:13:32,920 --> 00:13:35,120
君の父君は君に教えなかった?
232
00:13:35,120 --> 00:13:37,320
張成嶺:教わりました
233
00:13:37,320 --> 00:13:41,360
ただ私の素質が愚鈍で 真面目に学ぶ気もなく
234
00:13:41,360 --> 00:13:43,480
ほとんど覚えることが出来ませんでした
235
00:13:44,400 --> 00:13:47,680
温客行:小さい頃 父が私に功夫を教える時
236
00:13:47,680 --> 00:13:49,560
私も真面目に学ぶ気がなかった
237
00:13:50,360 --> 00:13:52,080
君とほぼ同じだ
238
00:13:52,520 --> 00:13:56,320
ただ 素質がさほど愚鈍ではなかっただけ……
239
00:13:58,480 --> 00:14:01,560
君は功夫を学びたいの?
240
00:14:02,920 --> 00:14:03,960
張成嶺:うん!
241
00:14:04,680 --> 00:14:06,400
温客行:……このおチビさんは
242
00:14:06,400 --> 00:14:09,320
どうしてこれを聞いただけで
飢えた狼みたいになるの?
243
00:14:10,640 --> 00:14:13,280
張成嶺:前輩!私にご指導ください
244
00:14:13,280 --> 00:14:15,120
何でもいいのでさせてください!
245
00:14:16,200 --> 00:14:18,000
温客行:何を言ってるんだ
246
00:14:18,600 --> 00:14:22,840
君みたいな若いのは全く興味がない……ンン!
247
00:14:24,640 --> 00:14:27,640
張成嶺:これまで 家にいて
父が私に武功を教える時は
248
00:14:27,640 --> 00:14:29,760
私は怠けて学ぶ気がなく
249
00:14:29,760 --> 00:14:33,560
趙家荘に来て以降は
仇を討ちたくてしっかり練功したいのに
250
00:14:33,560 --> 00:14:38,120
でも全ての人が計画で忙しく
私に功夫を指導する時間がなく……
251
00:14:38,120 --> 00:14:40,080
今に至りました……
252
00:14:45,280 --> 00:14:46,760
温客行:分かったよ
253
00:14:47,280 --> 00:14:48,560
君に幾つか手を教えよう
254
00:14:48,560 --> 00:14:51,880
張成嶺:ええ!ありがとうございます前輩!
255
00:14:56,840 --> 00:14:58,280
温客行:よく見てて
256
00:14:58,280 --> 00:14:59,720
二度はないよ
257
00:15:16,880 --> 00:15:21,600
──張成嶺は瞬きも惜しんで最初から終わりまで
目を輝かせて彼を見つめていた
258
00:15:28,280 --> 00:15:29,560
温客行:見てたか?
259
00:15:29,560 --> 00:15:30,600
張成嶺:あぁ……
(周子舒):この剣法は……
260
00:15:30,600 --> 00:15:31,600
(周子舒):この剣法は……
261
00:15:32,080 --> 00:15:33,920
温客行……
262
00:15:33,920 --> 00:15:35,080
張成嶺:こうですか?
263
00:15:35,080 --> 00:15:36,080
(周子舒):温……
264
00:15:36,080 --> 00:15:36,640
張成嶺:こうですか?
(周子舒):温……
265
00:15:36,640 --> 00:15:37,040
張成嶺:こうですか?
266
00:15:37,040 --> 00:15:38,520
温客行:違う
267
00:15:38,520 --> 00:15:40,040
こうだ……
268
00:15:40,960 --> 00:15:41,880
こう……
269
00:15:41,880 --> 00:15:44,480
この一手は下げてから突き出す……
270
00:15:44,480 --> 00:15:45,480
張成嶺:うん
271
00:15:49,640 --> 00:15:50,760
温客行:アイヤ
272
00:15:55,800 --> 00:15:57,600
違うぞ
273
00:15:57,600 --> 00:15:59,720
こうするんだ
274
00:16:23,080 --> 00:16:24,440
周子舒:ふむ……
275
00:16:29,760 --> 00:16:30,760
温客行:ふぅ……
276
00:16:32,640 --> 00:16:35,600
周子舒:お前の温の姓……
277
00:16:35,600 --> 00:16:39,760
時の“聖手”温如玉(ウェン・ルユ)はお前の何だ?
278
00:16:41,320 --> 00:16:43,920
温客行:あぁ
279
00:16:44,640 --> 00:16:46,000
父だ
280
00:16:47,920 --> 00:16:50,600
周子舒:温如玉前輩聖手の慈心は聞き及んでいる
281
00:16:50,600 --> 00:16:54,720
早年 “秋明剣”を携え 妻 神医の谷妙妙
(グ・ミァオミァオ)と共に江湖を渡り歩いた折に
282
00:16:54,720 --> 00:16:56,220
無数の人を救った
283
00:16:56,220 --> 00:16:59,740
後年は共に隠遁し その行き先はもう誰も知らない
284
00:17:00,400 --> 00:17:03,640
ご尊父とご母堂であったとは 失礼した
285
00:17:05,240 --> 00:17:09,680
──温客行は微笑んでいるようであり、また
何とも言えない悲しみも身に纏っているようだった
286
00:17:10,400 --> 00:17:12,400
温客行:二十年余りだ
287
00:17:12,400 --> 00:17:17,400
今でも まだ彼の剣法を知る人がいるとはね
288
00:17:17,920 --> 00:17:18,920
張成嶺:こうだ……
289
00:17:20,000 --> 00:17:22,120
はっ!……はっ!
290
00:17:26,020 --> 00:17:27,240
少年温客行:──はっ!
291
00:17:31,600 --> 00:17:32,600
……はぃ!
292
00:17:32,600 --> 00:17:35,480
は……へ〜?
293
00:17:39,720 --> 00:17:40,800
温如玉:阿行!
294
00:17:40,800 --> 00:17:42,480
どこへ行くんだ!
295
00:17:43,480 --> 00:17:45,920
練功はまだ終わってないのに
また遊びに行くつもりか?
296
00:17:45,920 --> 00:17:49,560
少年温客行:皆遊んでるのに どうして私はダメなの
297
00:17:51,840 --> 00:17:54,480
谷妙妙:分かった分かった
阿行は最近とても熱心だし
298
00:17:54,480 --> 00:17:56,880
今日は一日 怠けさせてあげよう……
299
00:17:56,880 --> 00:18:00,400
温如玉:な……行きなさい
300
00:18:00,400 --> 00:18:01,640
少年温客行:はいな!
301
00:18:03,200 --> 00:18:05,000
温如玉:問題を起こすな!喧嘩するな!
302
00:18:05,000 --> 00:18:06,600
やたらと物を口に入れるな!──
303
00:18:06,600 --> 00:18:07,980
谷妙妙:晩ご飯の前には戻っておいで
304
00:18:07,980 --> 00:18:09,320
覚えておくのよ──
305
00:18:14,200 --> 00:18:17,020
──温客行は火のそばに座っていた
306
00:18:17,020 --> 00:18:23,280
肩と背を少し弓にして、悠遠にして静かに
張成嶺を眺める目は何とも言えず穏やかで
周子舒はかつての温如玉のあるべき姿と重ねた
307
00:18:25,120 --> 00:18:29,760
温客行:“彼(か)の黍(きび)離離(りり)たり、
308
00:18:29,760 --> 00:18:34,480
彼の稷(あわ)の苗。
309
00:18:34,480 --> 00:18:39,400
行き邁(ゆ)きて靡靡(びび)たり、
310
00:18:39,400 --> 00:18:43,960
中心遙遙たり。
311
00:18:45,120 --> 00:18:53,600
我知る者我が心憂うと謂い、
312
00:18:54,440 --> 00:19:03,440
我知らざる者 我何をか求むと謂う。”
(*荒れ果てた古都を嘆く《詩経・王風・黍離》)
313
00:19:05,120 --> 00:19:10,600
──その昔、平王が流離し家室が揺れ動いていた頃
周の大夫が行役で宗周の鎬京を通り掛かった
314
00:19:10,600 --> 00:19:15,020
その往年の宗廟宮室もすっかり
朽ち果て、若者は物寂しく思った
315
00:19:15,020 --> 00:19:21,360
荒れて草は伸び放題で、黍稷が鬱蒼と茂っている
物悲しい情景に触れこの悲歌が生まれたと伝え聞く
316
00:19:22,060 --> 00:19:25,200
この歌を聞き張成嶺は何を思うのか
317
00:19:25,200 --> 00:19:30,480
彼はまだ子供だが、恐らくその一生で
江南の景色を見る勇気はもうないだろう
318
00:19:30,480 --> 00:19:37,440
その多くの幸せな子供時代を過ごした場所には
今や幾つかの瓦の破片と腐った紅泥が
残っているだけかも知れない
319
00:19:46,280 --> 00:19:48,400
張成嶺:ふ……父上……
320
00:19:49,280 --> 00:19:53,960
──張成嶺は無造作に折られた枝を
絶世の剣のように大切に抱いたまま傾いて寝ていた
321
00:19:55,200 --> 00:19:56,490
周子舒:う……
322
00:20:02,920 --> 00:20:05,000
温客行:起きた?
323
00:20:07,200 --> 00:20:08,560
どうしたんです?
324
00:20:09,960 --> 00:20:11,920
周子舒:何でもない……
325
00:20:15,520 --> 00:20:16,960
寝てなかったのか?
326
00:20:20,160 --> 00:20:21,560
温客行:眠れない
327
00:20:22,380 --> 00:20:25,380
──周子舒は起きて衣を脱ぐと彼にそっと被せた
328
00:20:26,760 --> 00:20:30,560
周子舒:ご尊父の秋明十八式は
武林を欲しいままにしたと言う
329
00:20:31,020 --> 00:20:33,440
お前はその小僧に三手だけ教えた
330
00:20:33,440 --> 00:20:36,520
見たところ 一手もあの十八式の中にない
331
00:20:36,520 --> 00:20:40,840
だがよくよく考えてみれば
あの秋明十八式は千変万化で
332
00:20:40,840 --> 00:20:43,280
むしろ全てがその三手からの発展だ
333
00:20:44,440 --> 00:20:47,280
温兄……まことに藍より出でた青だ
334
00:20:48,560 --> 00:20:51,080
温客行:彼の剣法は私に遠く及ばないでしょう
335
00:20:51,080 --> 00:20:55,200
ですが彼の医術も 私はさっぱり分からない
(*一窍不通=何一つ知らない《呂氏春秋》)
336
00:20:55,200 --> 00:20:57,720
ただ傷口に包帯を巻くことができて
337
00:20:57,720 --> 00:21:01,120
風邪を引いたら身を覆って
汗を出すことを知ってるだけ
338
00:21:05,440 --> 00:21:09,480
かのご老人の剣法をこれだけ理解してるなんて
339
00:21:09,480 --> 00:21:12,120
まだ他に何か知ってるの?
340
00:21:12,880 --> 00:21:16,960
周子舒:江湖にあって医毒を分けぬという
謎めいていて計り知れない巫医谷
341
00:21:16,960 --> 00:21:19,960
また 死病からも救い出すという
済世の吊るし壺の神医谷
(*悬壶济世=大成した薬売り《後漢書》)
342
00:21:19,960 --> 00:21:24,840
ご母堂の谷女侠は神医谷 谷主の内弟子と聞く
343
00:21:24,840 --> 00:21:28,400
お若い頃は 蜀中で随一の美人であった
344
00:21:29,800 --> 00:21:32,360
後に突然嫁入りしたと情報が伝わり
345
00:21:32,360 --> 00:21:34,360
どれだけの人の心を傷めたかも分からない
346
00:21:35,360 --> 00:21:37,200
温客行:あなたみたいな大旦那が
347
00:21:37,200 --> 00:21:40,080
どうしてそんな塵芥な些事まで知ってるんです?
(*鸡毛蒜皮=鳥の毛やニンニクの皮のような取るに足らないこと)
348
00:21:40,080 --> 00:21:41,800
朝から晩まで何もせず
349
00:21:41,800 --> 00:21:44,400
この類の事を聞いてばかりだった?
350
00:21:45,440 --> 00:21:48,480
周子舒:違うのか? これだけが取り柄だった
351
00:21:53,760 --> 00:21:56,480
温客行:全てずっと何年も前の事です……
352
00:21:58,160 --> 00:22:01,760
周子舒:ご尊父ご母堂 どちらも稀に見る善人だ
353
00:22:01,760 --> 00:22:04,880
神仙眷侶が 江湖を遊弋(ゆうよく)し
(*神仙眷侣=完璧で理想的な思い合う恋人たち)
354
00:22:04,880 --> 00:22:07,280
その後また共に手を取り隠居した
355
00:22:07,280 --> 00:22:14,280
もし俺にこのような日があるなら
本当に明日死ぬとしても 本望だ
356
00:22:17,320 --> 00:22:18,840
温客行:善人?
357
00:22:20,040 --> 00:22:24,080
これだけの年月が経っても まだ彼らを覚えていて
358
00:22:24,600 --> 00:22:26,840
彼らによろしく伝えたい人がいるとは思わなかった
359
00:22:29,280 --> 00:22:33,040
ねえ……何をもって善人だと言うんです?
360
00:22:33,720 --> 00:22:36,960
人は またなぜ善人であろうとするんです?
361
00:22:38,280 --> 00:22:39,640
張成嶺:行かないで……
362
00:22:39,640 --> 00:22:41,000
ダメだ……
363
00:22:43,880 --> 00:22:48,000
──張成嶺は目を覚ましたが、周子舒の衣と
枝を抱えそのままじっとしていた
364
00:22:50,960 --> 00:22:52,840
周子舒:なぜなら善人であればこそ
365
00:22:52,840 --> 00:22:57,280
多くの人がお前と一緒にいたいと願い
お前に良くしたいと願うからだ
366
00:22:58,040 --> 00:22:59,160
考えてみろ
367
00:22:59,560 --> 00:23:01,720
もし一人の一生 己しかなく
368
00:23:01,720 --> 00:23:05,440
いつでもどこでも常に己以外の全ての者を
警戒しているとしたら
369
00:23:05,960 --> 00:23:07,960
あまりにも哀れじゃないか?
370
00:23:08,640 --> 00:23:12,440
悪人になるのは 辛すぎる
371
00:23:20,920 --> 00:23:22,320
温客行:阿絮
372
00:23:23,480 --> 00:23:25,560
あなたの言うことはもっともです
373
00:23:27,320 --> 00:23:33,120
憎むべき人には……必ず哀れなところがある?
374
00:23:34,120 --> 00:23:35,720
周子舒:間違いなく
375
00:23:39,680 --> 00:23:40,880
温客行:阿絮
376
00:23:41,360 --> 00:23:42,600
気付きましたが
377
00:23:42,600 --> 00:23:47,760
あなたがたとえ美人でなくとも
ますます私のお気に入りになってきました
378
00:23:50,000 --> 00:23:51,280
思うに
379
00:23:51,280 --> 00:23:54,960
あなたも連れ添う爺さん婆さんを羨む必要はない
380
00:23:54,960 --> 00:23:56,360
以後は私がついてますよ
381
00:23:56,920 --> 00:23:59,400
江湖を遊弋できて 共に手を取って隠居もでき
382
00:23:59,400 --> 00:24:01,120
また明日死ぬ必要もありません
383
00:24:02,080 --> 00:24:04,240
私はあなたと一緒になっても気にしません
384
00:24:04,240 --> 00:24:05,000
どうです?
385
00:24:05,000 --> 00:24:05,920
周子舒:申し訳ない
386
00:24:05,920 --> 00:24:07,480
俺は気にする
387
00:24:08,080 --> 00:24:11,480
温兄は俺を買い被り過ぎだ
388
00:24:14,120 --> 00:24:18,800
温客行:“美人なあなたは顔を隠すこともあるまいに
389
00:24:18,800 --> 00:24:22,680
哥哥の私は焦りを隠せない”
390
00:24:22,680 --> 00:24:24,300
周子舒:なんて下卑た小唄だ
391
00:24:24,300 --> 00:24:26,040
温客行:はははは
392
00:24:26,040 --> 00:24:31,000
“美人なあなたは顔を隠すこともあるまいに
393
00:24:31,000 --> 00:24:36,080
哥哥の私は焦りを隠せない”
394
00:25:04,800 --> 00:25:06,040
周子舒:行くぞ
395
00:25:06,040 --> 00:25:07,360
高家荘に戻る
396
00:25:10,840 --> 00:25:12,000
温客行:少年
397
00:25:13,120 --> 00:25:18,840
君の師父はもう天下の英雄と一緒の道を行くと
決心し 同類と結託して同じ穴のムジナです
(*沆瀣一气=科挙で沆が瀣を合格させた故事から *蛇鼠一窝=蛇と鼠が一つ穴)
398
00:25:18,840 --> 00:25:21,680
当面 高家荘に泊まっているから
399
00:25:21,680 --> 00:25:24,280
君は趙大侠のそばにいることにして
400
00:25:24,280 --> 00:25:25,960
いつでも彼のところに行っていいし
401
00:25:25,960 --> 00:25:29,760
もちろん いつでも私のところにも行っていい
402
00:25:29,760 --> 00:25:32,800
周子舒:俺がいつ残ってあの連中と
一緒になると言ったんだ?
403
00:25:33,500 --> 00:25:34,600
温客行:残らない?
404
00:25:34,760 --> 00:25:35,880
周子舒:残らん
405
00:25:37,000 --> 00:25:38,400
温客行:本当に残らない?
406
00:25:38,400 --> 00:25:39,520
周子舒:のこ……
407
00:25:40,120 --> 00:25:41,280
……はぁ
408
00:25:42,240 --> 00:25:46,880
──張成嶺は怯えた子兎のように瞬きもせず
周子舒を見つめていが
彼が目を向けると慌てて毅然とした顔をした
409
00:25:46,880 --> 00:25:49,720
周子舒は二の句が継げず背を向け歩き出した
410
00:25:51,400 --> 00:25:52,720
温客行:阿絮
411
00:25:52,720 --> 00:25:56,080
私たち まるで三人家族ですよね?
412
00:25:56,080 --> 00:25:57,880
──周子舒は歩く速度を上げた
413
00:25:57,880 --> 00:26:00,320
温客行:ふふふふ
414
00:26:00,320 --> 00:26:02,720
なぁ 少年
415
00:26:03,280 --> 00:26:04,600
どうせ何もないし
416
00:26:04,600 --> 00:26:05,840
道はまだ長い
417
00:26:05,840 --> 00:26:07,800
君に物語を話してあげようか?
418
00:26:08,240 --> 00:26:09,360
張成嶺:ええ
419
00:26:12,000 --> 00:26:16,440
温客行:話しによると 五行山の下に
怪童がいたんだそうな
420
00:26:16,440 --> 00:26:18,800
名を紅孩兒(ホンハイアル)と言う
421
00:26:19,200 --> 00:26:21,960
妖魔鬼怪の連中と一緒に住んでいた
422
00:26:21,960 --> 00:26:27,560
もっとも 彼は実のところ
内心この輩どもがとても気に入らなかった
423
00:26:27,560 --> 00:26:32,840
彼らは一日中ざわざわ問題を引き起こすだけで
とても人に嫌われていると思っていた……
(*无事生非=何もないところにいざこざを起こす《鏡花縁》李汝珍)
424
00:26:32,840 --> 00:26:34,040
張成嶺:あぁ──
425
00:26:34,040 --> 00:26:37,240
温客行:その紅孩兒の身の上はとても非凡です
426
00:26:37,240 --> 00:26:40,640
彼の母親は一匹の白い大蛇の化身
427
00:26:40,640 --> 00:26:42,960
人呼んで白娘子(バイニャンズ)だ
428
00:26:42,960 --> 00:26:45,920
こっそり下界に下りて 凡人と私通したため
429
00:26:45,920 --> 00:26:47,960
法海(ファハイ)と呼ばれる一人の老和尚に見つかり
430
00:26:47,960 --> 00:26:50,640
華山の下に抑え付けられていた……
431
00:26:50,640 --> 00:26:52,200
──周子舒は急に石につまずき──
432
00:26:52,200 --> 00:26:53,040
温客行:阿絮 大丈夫です?
433
00:26:53,040 --> 00:26:54,240
張成嶺:師父!
温客行:阿絮 大丈夫です?
434
00:26:54,840 --> 00:26:56,080
周子舒:大丈夫だ……
435
00:26:56,080 --> 00:26:58,240
──危うく五体投地するところだった
436
00:26:58,800 --> 00:27:01,320
張成嶺:前輩 その続きは?
437
00:27:03,320 --> 00:27:05,640
温客行:紅孩兒は山を劈(さ)き母を救おうとした
(*劈山救母=母を救うため山を割るという神話)
438
00:27:05,640 --> 00:27:09,400
その老和尚 法海は関わる神仙に
連絡を取り邪魔をしたが
439
00:27:09,400 --> 00:27:11,840
その都度 彼に撃退された
440
00:27:11,840 --> 00:27:15,040
だがそのもとの洞窟の化け物どもも寝返っており
441
00:27:15,040 --> 00:27:17,600
彼を死地に追いやるつもりだった
442
00:27:17,600 --> 00:27:19,380
張成嶺:どうしてです?
443
00:27:19,380 --> 00:27:21,680
温客行:これには実は秘密があった
444
00:27:22,240 --> 00:27:24,800
その白娘子はもとは白蛇ではなく
445
00:27:24,800 --> 00:27:28,400
ただ少しばかり腕のある凡人に過ぎなかったのだ
446
00:27:28,400 --> 00:27:34,240
なぜ誤りが伝わって 人が妖かしになり
華山の下に抑え付けられたのか分からない
(*以讹传讹=間違った言葉を広め広めるほど違っていく《黙成定武蘭亭記》)
447
00:27:34,240 --> 00:27:35,880
考えてみて
448
00:27:35,880 --> 00:27:37,640
もし彼女が解放されたら
449
00:27:37,640 --> 00:27:41,280
紅孩兒の父母はどちらも
凡人ということにならないか?
450
00:27:41,280 --> 00:27:45,440
ならば法海自身も凡人なのでは?
451
00:27:49,280 --> 00:27:51,280
張成嶺:凡人?
452
00:27:52,120 --> 00:27:54,200
やっぱりよく分かりません……
453
00:27:54,840 --> 00:27:56,440
温客行:馬鹿だな
454
00:27:57,280 --> 00:28:01,800
我が族類に非ずば 其の心必ず異なる
(*非我族类 其心必异=同族でなければ心は異なっているはずだ《春秋左氏伝》)
455
00:28:01,800 --> 00:28:03,000
周子舒:……ん?
456
00:28:08,600 --> 00:28:10,360
張成嶺:ならば紅孩児は死んだのですか?
457
00:28:10,360 --> 00:28:12,080
山は割り劈いたのですか?
458
00:28:12,280 --> 00:28:14,080
温客行:まだそこまで作ってなかったな
459
00:28:14,080 --> 00:28:15,480
どう思う?
460
00:28:16,960 --> 00:28:20,160
張成嶺:彼はきっと化け物連中に打ち勝って
彼の母上を救い出しました
461
00:28:20,160 --> 00:28:22,960
最後は何一つ出来ぬことのない
大英雄になりました!
(*无所不能=万能《夢渓筆談》沈括)
462
00:28:23,800 --> 00:28:25,080
温客行:ん〜
463
00:28:25,080 --> 00:28:26,320
それもいい
464
00:28:26,880 --> 00:28:30,120
でもそれはちょっと面白みに欠け過ぎなようだ
465
00:28:30,840 --> 00:28:33,680
十の話のうち九はそんな話です
466
00:28:35,040 --> 00:28:36,400
ならば……
467
00:28:36,800 --> 00:28:40,240
紅孩兒はその後 凡人にして
468
00:28:40,680 --> 00:28:43,320
二度と図に乗らないようにさせた方がいいのでは?
(*腾云驾雾=雲に昇り霧に乗る、有頂天になる)
469
00:28:43,320 --> 00:28:44,720
張成嶺:ああ……
470
00:28:45,400 --> 00:28:46,520
温客行:どうしたの?
471
00:28:47,520 --> 00:28:49,440
張成嶺:少し残念だと思うのですが
472
00:28:49,440 --> 00:28:52,080
でも一体どこが残念なのか言えなくて……
473
00:28:52,960 --> 00:28:55,600
前輩 もっと物語を話してくれますか?
474
00:28:55,600 --> 00:28:56,600
温客行:いいよ!
475
00:28:56,920 --> 00:28:59,360
まだ“梟と一碗の紅い水”や
476
00:28:59,360 --> 00:29:01,800
“姜子牙 白骨夫人との大戦”
477
00:29:01,800 --> 00:29:03,880
“崔鶯鶯の怒沈百宝箱”がある
478
00:29:03,880 --> 00:29:05,920
君はまずどれを聞きたい?
479
00:29:06,700 --> 00:29:13,800
──温客行はついに忠実な聴衆を見つけて
得意になり、話の小箱を開けると一連の珍しくて
面白い物語をべらべらと語りながら高家荘に戻った
480
00:29:21,520 --> 00:29:23,080
曹蔚寧:周兄 温兄!
481
00:29:23,080 --> 00:29:24,200
周子舒:曹兄
温客行:曹兄
482
00:29:24,200 --> 00:29:26,000
曹蔚寧:え? 張小兄弟だ
483
00:29:26,000 --> 00:29:27,400
あなたたち どうして一緒にいるんです?
484
00:29:27,400 --> 00:29:30,200
知らないでしょうが 趙大侠が
君を探してもう発狂しそうです!
485
00:29:31,080 --> 00:29:34,960
周子舒:我々は偶然この子供が一人で
出て行くのを見掛けて追いかけたんだ
486
00:29:34,960 --> 00:29:37,560
別れも告げず ご海容頂きたい……
487
00:29:38,040 --> 00:29:39,440
曹蔚寧:お気になさらず……
488
00:29:40,080 --> 00:29:43,120
年若いのに やってくれましたね
489
00:29:43,120 --> 00:29:44,720
これからはもっと気をつけましょうね
490
00:29:45,080 --> 00:29:49,040
温客行:なんと あの者たちはまだ
琉璃甲の事で喚いてるんですか?
491
00:29:49,520 --> 00:29:51,520
もしや彼らが疑ってるのは 張家の……
492
00:29:51,520 --> 00:29:54,600
曹蔚寧:あなた方はご存知ないでしょうが
昨日は大変な騒ぎでした
493
00:29:54,600 --> 00:29:57,080
あの封暁峰が“琉璃甲”の三文字に言及すると
494
00:29:57,080 --> 00:29:58,720
その場はすっかり騒然としてしまって
495
00:29:58,720 --> 00:30:04,360
あの華山の掌門 于丘烽がその後また趙敬 趙大侠に
張家の琉璃甲を着服したのかどうか
496
00:30:04,360 --> 00:30:06,960
彼の子息が惨死したのは
これが原因なのかどうか問い質しました
497
00:30:06,960 --> 00:30:09,080
彼が鼻水を垂らし涙を流すその様は
498
00:30:09,080 --> 00:30:11,440
まるでわざわざ洞庭に来て哀号しているみたいで
499
00:30:11,440 --> 00:30:14,280
強引に 趙敬に趙家荘の外で発生した
事件について話させ
500
00:30:14,280 --> 00:30:16,760
その上 封暁峰どもが煽って火を点けるので
(*煽风点火=人を扇動し事件を起こさせること)
501
00:30:16,760 --> 00:30:18,320
騒々しい言い争いは止まることなく
502
00:30:18,320 --> 00:30:21,320
挙句の果てには拳を出せば蹴りが出ての殴り合いで
ほとんど犬の頭になりそうでしたよ!
(*成狗=人間をやめて犬になるぐらいひどい)
503
00:30:21,960 --> 00:30:24,440
(周子舒):豚の頭になろうと
俺には何の関係もない事だ
504
00:30:24,440 --> 00:30:26,680
今はただ酒楼を探して一服して
505
00:30:26,680 --> 00:30:28,360
また暗くなったら一眠りしたい
506
00:30:28,820 --> 00:30:34,220
頭の中でいかに紅孩兒が山を劈き白蛇を救うかの
物語を考えてしまうのを すっかり消し去るんだ
507
00:30:34,600 --> 00:30:35,920
温客行:一日会わぬうちに
508
00:30:35,920 --> 00:30:38,700
曹兄の口才はこんなに成長したのですね
509
00:30:39,480 --> 00:30:41,800
曹蔚寧:これは我が師叔ご老人の言です
510
00:30:41,800 --> 00:30:43,160
具体的にどういう事なのか
511
00:30:43,160 --> 00:30:46,400
実は昨日の大騒ぎについて
私もはっきり聞いていません
512
00:30:47,960 --> 00:30:51,360
周子舒:手間を掛けるが曹兄
この小僧を趙大侠のところに送り返してくれ
513
00:30:51,360 --> 00:30:52,640
感謝する
514
00:30:53,600 --> 00:30:55,840
曹蔚寧:え? 周兄 行ってしまうのですか?
515
00:30:55,840 --> 00:30:56,720
張成嶺:師──
516
00:30:59,360 --> 00:31:02,000
──突然、頭を撫でる手を感じ顔を上げた
517
00:31:02,000 --> 00:31:03,680
張成嶺:前輩……
518
00:31:03,680 --> 00:31:05,160
温客行:少年
519
00:31:05,160 --> 00:31:09,200
君はなぜ彼が誰に対しても猫を被っているのに
(*人模狗样=人が犬のように振る舞う様子《駱駝祥子》)
520
00:31:09,200 --> 00:31:11,280
君にだけこのように短気なのか分かってる?
521
00:31:12,360 --> 00:31:15,320
張成嶺:大方 私が間抜け過ぎるからでしょうか……
522
00:31:15,320 --> 00:31:18,520
温客行:君は一般的な間抜けだけど
間抜けが“過ぎる”ということはない
523
00:31:19,000 --> 00:31:21,640
彼が君にお上品で真面目を気取った
デタラメを言わないのは
524
00:31:21,640 --> 00:31:23,440
君とは親しくしたいと言うことです
525
00:31:23,440 --> 00:31:25,000
それに素気ない言葉は
526
00:31:25,000 --> 00:31:27,600
彼が恥ずかしがってるからでしょう
527
00:31:28,200 --> 00:31:29,440
張成嶺:本当に?
528
00:31:29,440 --> 00:31:31,200
温客行:彼を生むは 父母なり
529
00:31:31,200 --> 00:31:33,800
彼を知るは この私なり
(* 生我者父母 知我者鮑子也、管鮑の交わり、友情の深いこと《史記》)
530
00:31:33,920 --> 00:31:37,960
世の中に彼の知己になれる人は恐らく私だけ
531
00:31:37,960 --> 00:31:39,440
当然君を騙しはしない
532
00:31:40,200 --> 00:31:41,520
曹蔚寧:ずっと思っていたのですが
533
00:31:41,520 --> 00:31:44,160
お二人は同じ男性ですし
この様子は少し風変わりですが
534
00:31:44,160 --> 00:31:49,640
今見てみて 人の一生で もしこのような
たった一言で深意を汲む一人の知己がそばにいれば
535
00:31:49,760 --> 00:31:51,920
神仙眷侶よりももっと愉快なのでは
536
00:31:52,160 --> 00:31:54,160
男か女かに一体何の関係あるのでしょう?
537
00:31:55,680 --> 00:31:58,680
曰く 世間に問う 情とは何たるかを
538
00:31:58,680 --> 00:32:01,080
ただ人をして生死相い許す
539
00:32:01,080 --> 00:32:03,560
桃花潭水 深さ千尺にして
540
00:32:03,560 --> 00:32:05,000
及ばずは……え……
541
00:32:05,520 --> 00:32:08,720
最後の一句は何だったかな……
542
00:32:09,480 --> 00:32:10,320
張成嶺:……え?
543
00:32:11,520 --> 00:32:13,440
それは同じ一首の詩ですか?
544
00:32:13,440 --> 00:32:14,280
曹蔚寧:あ
545
00:32:14,280 --> 00:32:16,040
こちらは杜甫先生の書いた詩で
(*本当は元好問《摸魚兒》と李白《王倫に贈る》)
546
00:32:16,040 --> 00:32:17,600
少し難解で理解しにくいですが
547
00:32:17,600 --> 00:32:20,440
じっくり味わうと やはりとても深い意味があります
548
00:32:21,120 --> 00:32:24,200
温客行:清風剣派の高弟は思った通り
文武に長けてらっしゃる
549
00:32:24,440 --> 00:32:26,600
全く感服です
550
00:32:26,600 --> 00:32:27,680
曹蔚寧:なんのなんの
551
00:32:27,680 --> 00:32:29,480
私も二日掛けて文章を読んだだけで
552
00:32:29,480 --> 00:32:30,800
理解する気もないのです
(*不求甚解=深くは理解しない)
553
00:32:30,800 --> 00:32:31,840
莫懐空:蔚寧
554
00:32:32,480 --> 00:32:33,520
曹蔚寧:師叔!
555
00:32:34,560 --> 00:32:36,160
莫懐空:お前はここで何をしておるのだ?
556
00:32:36,160 --> 00:32:38,120
曹蔚寧:こちらは張家の小兄弟
557
00:32:38,120 --> 00:32:40,200
こちらは温兄 温客行
558
00:32:40,200 --> 00:32:43,320
幸い彼と周兄が張小兄弟を見つけて
戻って来られました
559
00:32:43,680 --> 00:32:44,760
莫懐空:ん?
560
00:32:45,160 --> 00:32:48,720
先ほど生死を相い許すとかなんとか聞こえたが?
561
00:32:48,720 --> 00:32:51,120
曹蔚寧:あぁ それは温兄と周兄のことです
562
00:32:51,120 --> 00:32:53,720
彼ら二人は非常に仲良しで……
563
00:32:54,920 --> 00:32:58,720
莫懐空:見つけたからには急いで彼を連れ戻り
趙敬に引き渡さねばならぬのでは?
564
00:32:58,720 --> 00:33:00,840
彼らが一匹の悪鬼を捕まえた
565
00:33:00,840 --> 00:33:02,600
張成嶺:悪鬼?
莫懐空:送り届けた後 わしのところに来なさい
566
00:33:02,600 --> 00:33:03,960
莫懐空:送り届けた後 わしのところに来なさい
567
00:33:05,080 --> 00:33:07,680
曹蔚寧:はい 師叔お気をつけて
568
00:33:11,040 --> 00:33:14,240
すみません温兄 私の師叔は癇癪持ちなんです
569
00:33:14,240 --> 00:33:15,480
温客行:構いません
570
00:33:15,480 --> 00:33:18,280
曹蔚寧:では私は先に張小兄弟を
趙大侠のところへ送って来ます
571
00:33:18,280 --> 00:33:21,040
温兄にお待ちいただいて一緒に
その悪鬼を見に行ってみませんか?
572
00:33:21,040 --> 00:33:22,120
温客行:やめておこう
573
00:33:22,560 --> 00:33:26,400
私は非常に仲良しの周兄のところに行かないと
574
00:34:15,440 --> 00:34:16,720
周子舒:ん?
575
00:34:16,720 --> 00:34:20,080
侠士群衆:悪鬼十悪許すまじ!
あっさりと殺してやれ!
576
00:34:20,080 --> 00:34:23,480
言え 張家の件もお前がやったのか?
577
00:34:24,880 --> 00:34:28,320
周子舒:なあ兄弟 ちょっと聞きたいんだが
これはどういうことだ?
578
00:34:29,080 --> 00:34:30,120
侠士1:知らないのか?
579
00:34:30,120 --> 00:34:33,840
高家荘が捕まえた鬼谷の悪鬼を
街中引き回して見せしめにしてるんだ
580
00:34:33,840 --> 00:34:34,880
周子舒:あぁ?
581
00:34:35,400 --> 00:34:38,080
侠士1:殺せ!奴を殺せ!──
582
00:34:42,680 --> 00:34:47,000
周子舒:もしやあの“琉璃甲”には
まだ何かとんでもない秘密があるのか
583
00:34:47,000 --> 00:34:50,840
鬼谷の悪鬼どもを人の世に
戻してしまうほどとんでもないのが
584
00:34:51,280 --> 00:34:54,200
あの高崇に厳重に口を閉ざし黙して語らせず
(*三缄其口=三重に封をした口、口が堅い)
585
00:34:54,200 --> 00:34:58,160
その上この時に このように下手な企みを用いて
586
00:34:58,160 --> 00:35:00,240
人々の視線を逸らさせているのか?
587
00:35:03,040 --> 00:35:04,200
温客行:阿絮
588
00:35:04,840 --> 00:35:06,800
丸一日捜しましたよ
589
00:35:06,800 --> 00:35:08,160
どこに行ってたんです?
590
00:35:10,200 --> 00:35:14,200
周子舒:ところで あの悪鬼は
本物かそれとも偽物か?
591
00:35:17,040 --> 00:35:19,600
温客行:腰に刺された悪鬼の彫り物
592
00:35:19,880 --> 00:35:22,880
これより 白日の下に
現れてはならないことを示しています
593
00:35:23,560 --> 00:35:26,040
何事もないのに誰が偽って出て来るんです?
594
00:35:26,360 --> 00:35:32,520
ですがこの不運なのも誰かを怒らせ 陥れられて
ここに張り付けられているのかも
595
00:35:32,880 --> 00:35:36,880
周子舒:鬼谷に入った者 皆が皆
悪鬼となって生き残れるわけではない
596
00:35:37,480 --> 00:35:43,760
全ての者に警戒し 全ての者に横暴でこそ
生き残る資格があり この刺青を施される
597
00:35:44,040 --> 00:35:48,880
温客行:あなたの言うのは もし本物の悪鬼なら
こんな易々と捕まえられたりしないということ?
598
00:35:48,880 --> 00:35:52,840
こんなじっと大人しく雁字搦めになって
張り付けにもされない?
599
00:35:52,840 --> 00:35:56,960
あなたはこれが高崇の
視線を逸らす手段だと疑っているの?
600
00:35:58,160 --> 00:35:59,640
阿絮
601
00:35:59,640 --> 00:36:01,080
気付きましたが
602
00:36:01,080 --> 00:36:03,360
あなたは本当に沢山知っているのですね……
603
00:36:05,120 --> 00:36:06,600
温客行:あぁ あの──
604
00:36:06,600 --> 00:36:09,960
──周子舒は一粒の水滴が大海に
落ちるようにすうっと姿を消した
605
00:36:10,480 --> 00:36:12,720
温客行:私の目の前で姿を消すなんて
606
00:36:12,720 --> 00:36:15,640
(温客行):もとからこの人はいつでも
消えることができたのか──
607
00:36:15,640 --> 00:36:18,200
たとえ私が彼の正体の見当を付けたとしても
608
00:36:18,200 --> 00:36:20,200
彼の思惑の見当を付けたとしても
609
00:36:20,200 --> 00:36:25,000
彼はいつでも姿を消すことができる
──ただ彼が願うだけで
610
00:36:27,760 --> 00:36:31,640
温客行:あなたは天窗の天地の網目から抜け出した
(*天罗地网=四方八方に張った包囲網)
611
00:36:31,640 --> 00:36:35,760
世の中で最も狡猾な一尾の魚だ
612
00:36:42,000 --> 00:36:43,800
温客行:先ほどのは古僧の後人?
613
00:36:43,800 --> 00:36:46,320
私は白イナゴかと思いましたよ
614
00:36:46,680 --> 00:36:49,560
曹蔚寧:世の中にまさかこんな
美しい女子がいたなんて
615
00:36:49,560 --> 00:36:52,000
顧湘:主人 彼は何か疚しいことがあるのか?
616
00:36:54,680 --> 00:36:56,720
周子舒:ならば私は疑う余地なく死ぬのでは?
617
00:36:56,720 --> 00:36:58,160
温客行:幸い……
618
00:36:59,600 --> 00:37:02,880
私はまだ特別あなたを好きになってない
619
00:37:03,340 --> 00:37:05,540
“这人间困境几何”
(この世に苦境 幾ばくか)
620
00:37:05,540 --> 00:37:09,220
“得超脱又几个”
(逃れ得るのは幾人か)
621
00:37:09,220 --> 00:37:12,380
“如敢以生死来涉”
(敢えて生死を賭ければ)
622
00:37:12,380 --> 00:37:15,460
“孑然是天涯客”
(それは独りの天涯客)
623
00:37:15,460 --> 00:37:18,940
“谁辞别庙堂 醉山河”
(廟堂を離れ 山河に酔う人が)
624
00:37:18,940 --> 00:37:21,860
“沐得天光赏春色”
(天光浴びて 春色を味わえば)
625
00:37:21,860 --> 00:37:28,740
“欲做闲云鹤 偏又生纠葛”
(たゆたう雲間の鶴ならんとも しがらみまた生じる)
626
00:37:28,820 --> 00:37:31,860
“飞絮身 偏走黄泉路”
(身を飛絮として 黄泉路を進めば)
627
00:37:31,860 --> 00:37:35,300
“看尽英雄嗔癫群鬼舞”
(英雄は尽き憤懣の群鬼が舞うを見る)
628
00:37:35,300 --> 00:37:38,340
“黑白错 风崖起疑雾”
(黒白違えて 風崖に疑いの霧は立ち)
629
00:37:38,340 --> 00:37:41,740
“妙手设局待谁入”
(妙手の罠に誰かが嵌まれば)
630
00:37:41,740 --> 00:37:47,860
“六合渺渺 纵是无觅处”
(六合は遙か たとえ行くあてなくとも)
631
00:37:47,860 --> 00:37:54,740
“携酒来 拔剑去 自有归宿”
(酒を携え来て 剣を抜いて行く 帰る宿がある)
632
00:38:21,060 --> 00:38:23,420
“正邪道人心叵测”
(正邪で人心は測れず)
633
00:38:23,420 --> 00:38:26,820
“甘苦自取自舍”
(甘苦を自ら選び取り)
634
00:38:26,820 --> 00:38:30,260
“遇知己明眸澈澈”
(巡り合った知己の瞳は明澄にして)
635
00:38:30,260 --> 00:38:33,300
“如举灯过渊泽”
(灯を掲げ沢の淵を渡るなら)
636
00:38:33,300 --> 00:38:36,700
“谁以鬼行世 恨善恶”
(世を行く鬼として 善悪を恨む誰かの)
637
00:38:36,700 --> 00:38:39,580
“红袍褪身识得”
(紅い袍を落とせば見える)
638
00:38:39,580 --> 00:38:46,380
“一眼竟万年 情痴终不赦”
(一眼万年の恋情 ついぞ赦されることなし)
639
00:38:46,460 --> 00:38:49,460
“飞絮身 偏走黄泉路”
(身を飛絮として 黄泉路を進めば)
640
00:38:49,460 --> 00:38:52,900
“看尽英雄嗔癫群鬼舞”
(英雄は尽き憤懣の群鬼が舞うを見る)
641
00:38:52,900 --> 00:38:56,020
“黑白错 风崖起疑雾”
(黒白違えて 風崖に疑いの霧は立ち)
642
00:38:56,020 --> 00:38:59,620
“妙手设局待谁入”
(妙手の罠に誰かが嵌まれば)
643
00:38:59,620 --> 00:39:05,540
“六合渺渺 纵是无觅处”
(六合は遙か たとえ行くあてなくとも)
644
00:39:05,540 --> 00:39:11,900
“携酒来 拔剑去 自有归宿”
(酒を携え来て 剣を抜いて行く 帰る宿がある)
645
00:39:12,340 --> 00:39:15,540
“天欲晚 风雪袭巴蜀”
(天は暗きを欲し 風雪が巴蜀を襲う)
646
00:39:15,540 --> 00:39:18,980
“何幸借这温存 不孤独”
(幸いにもこの温もりがあれば孤独でなく)
647
00:39:18,980 --> 00:39:21,940
“问余生 怎舍好眉目”
(余生に問う 眉目の好しを)
648
00:39:21,940 --> 00:39:25,500
“三秋如梦也愿赴”
(三秋の夢の願いを手放せるかを)
649
00:39:25,500 --> 00:39:31,700
“六合渺渺 自有自在处”
(六合遙かに 己の居場所があれば)
650
00:39:31,700 --> 00:39:39,300
“竹林响 忘沉浮 寻光欲渡”
(竹林は響き 浮沈を忘れ 光を求め渡らん)
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