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第二十一集

1
00:00:12,200 --> 00:00:13,800
周子舒:老温

2
00:00:13,800 --> 00:00:16,480
──周子舒は腕を組んで一本の大木に凭れた

3
00:00:16,480 --> 00:00:21,640
周子舒:実のところ 吊死鬼薛方なんかいないんだろ

4
00:00:22,000 --> 00:00:26,480
──温客行はわずかに緩めた指の間から
何かが漏れ出ているかのようにうっとり眺めた

5
00:00:26,480 --> 00:00:29,120
温客行:見抜いたのか

6
00:00:32,040 --> 00:00:34,400
周子舒:ならば本物の鍵は?

7
00:00:36,000 --> 00:00:40,400
温客行:……折ったあと 山頂から投げ捨てたよ

8
00:00:40,760 --> 00:00:42,400
周子舒:うん

9
00:00:42,920 --> 00:00:47,040
鍵がなければ 琉璃甲があっても無駄だ

10
00:00:53,400 --> 00:00:55,680
あいつらは生きるか死ぬかで争っていたが

11
00:00:55,680 --> 00:00:57,320
争ってたのは

12
00:00:57,320 --> 00:00:59,520
ガラクタの山だったと知らなかった

13
00:01:03,240 --> 00:01:05,840
温客行:私は三年の時を費やして

14
00:01:05,840 --> 00:01:08,340
密かに孫鼎を盛り立てた

15
00:01:09,240 --> 00:01:14,960
でなけりゃ あんな壁にも塗れない腐った泥の粗忽者

16
00:01:14,960 --> 00:01:19,880
どうやって無常鬼 吊死鬼と対峙させるの
(*分庭抗礼=互いに対立して争うこと)

17
00:01:19,880 --> 00:01:22,880
周子舒:その後 彼らの諍いが白熱している時に

18
00:01:22,880 --> 00:01:25,560
吊死鬼が鍵を盗み出すよう誘惑した?

19
00:01:26,960 --> 00:01:28,960
温客行:してない

20
00:01:31,000 --> 00:01:34,000
彼ら全員が欲しがっただけ──

21
00:01:34,280 --> 00:01:36,720
三十年前

22
00:01:36,720 --> 00:01:42,440
鬼谷中の大小さまざまな
悪鬼たちが 武庫に垂涎し出した

23
00:01:43,200 --> 00:01:46,520
琉璃甲が五大家に分配されると

24
00:01:46,520 --> 00:01:51,120
悪鬼たちは羽翼が未熟で 軽挙妄動できず
(*羽翼未丰=若くて経験が浅いこと)

25
00:01:51,120 --> 00:01:54,160
鍵から手を付けるしかなかった

26
00:01:58,520 --> 00:02:04,440
温客行:当時 容夫人は私の父に鍵を渡した

27
00:02:05,040 --> 00:02:08,560
彼らはその場に 三人しかいないと思っていた

28
00:02:08,560 --> 00:02:11,000
周子舒:第四の者がいたのか?

29
00:02:11,600 --> 00:02:13,960
温客行:容夫人は死んだ

30
00:02:14,360 --> 00:02:17,920
龍雀は死に至ってもこの秘密を守った

31
00:02:18,800 --> 00:02:20,980
もしそうなら

32
00:02:20,980 --> 00:02:23,600
天下太平になってても

33
00:02:24,000 --> 00:02:26,880
良いんじゃない?

34
00:02:27,720 --> 00:02:29,280
周子舒:趙敬か?

35
00:02:29,280 --> 00:02:33,720
彼は当時 実力がなく 正派に対しては物申せず

36
00:02:33,720 --> 00:02:36,520
密かに鬼谷と連合していたということか?

37
00:02:40,800 --> 00:02:42,960
温客行:おおよそね──

38
00:02:48,200 --> 00:02:51,360
どうせ彼らは皆死んだ

39
00:02:53,960 --> 00:02:56,200
おかしなことに

40
00:02:57,320 --> 00:03:00,720
容夫人たちは秘密を守るため

41
00:03:00,720 --> 00:03:06,240
渡した彼の鍵が何だったのかを
最後になっても私の父に知らせなかった

42
00:03:08,160 --> 00:03:12,960
父はただ とても重要で
失ってはいけないものと見なして

43
00:03:13,460 --> 00:03:17,080
母を連れて小さな村に身を隠した

44
00:03:17,080 --> 00:03:20,400
隠れて丸十年……

45
00:03:22,400 --> 00:03:24,760
だけどね

46
00:03:25,720 --> 00:03:28,200
私が九歳の年

47
00:03:28,200 --> 00:03:32,000
村にとても不吉な事が起こった

48
00:03:33,200 --> 00:03:35,680
一羽の梟が……

49
00:03:35,680 --> 00:03:37,040
周子舒:もういい

50
00:03:39,040 --> 00:03:40,880
もういいんだ

51
00:03:40,880 --> 00:03:43,120
そんなに長い間

52
00:03:43,120 --> 00:03:45,120
お前は……

53
00:03:45,120 --> 00:03:46,520
温客行:うん

54
00:03:49,040 --> 00:03:51,000
私の両親は

55
00:03:51,000 --> 00:03:54,960
彼らが村の人を巻き添えにしていると思って

56
00:03:54,960 --> 00:03:58,240
決死で戦い抜くつもりだった

57
00:03:58,240 --> 00:04:01,880
それで夜のうちに私を送り出した

58
00:04:02,400 --> 00:04:05,040
でも私は心配で

59
00:04:05,160 --> 00:04:10,120
こっそり彼らのところに駆け戻った……

60
00:04:22,880 --> 00:04:25,200
私は見たよ

61
00:04:26,600 --> 00:04:31,280
父上の身体が 二つに切り離されているのを

62
00:04:32,680 --> 00:04:35,320
母上は傍らに倒れていて

63
00:04:35,320 --> 00:04:37,840
頭髪は散らばり

64
00:04:38,880 --> 00:04:42,080
衣服はもとの色とも見分けがつかない

65
00:04:42,080 --> 00:04:45,280
少年温客行:父さま……母さま……

66
00:04:45,280 --> 00:04:49,280
母さま……

67
00:04:51,080 --> 00:04:55,400
温客行:彼女の血肉が張り付いてぼやけた面持ちは

68
00:04:56,560 --> 00:04:59,040
鼻が削ぎ取られ

69
00:04:59,720 --> 00:05:03,400
目鼻立ちの輪郭ももう見えない

70
00:05:03,640 --> 00:05:09,480
身体は一本の槍に胸から背中まで貫かれ

71
00:05:09,480 --> 00:05:12,440
蝴蝶の骨の下を通っていた

72
00:05:15,240 --> 00:05:18,600
どうして私が彼女だと認識できたか分かる?

73
00:05:22,360 --> 00:05:27,840
私は小さい頃は美しい人が好きで

74
00:05:27,840 --> 00:05:32,120
母上は天下第一の大変美しい人だと思っていた

75
00:05:32,880 --> 00:05:35,480
彼女に引っ付くのが好きで

76
00:05:35,480 --> 00:05:39,160
彼女の背中の蝴蝶骨を見慣れていたんだ

77
00:05:39,160 --> 00:05:41,440
谷妙妙:阿行は最近よく勉強してるね

78
00:05:41,440 --> 00:05:45,080
温客行:死んでも忘れない

79
00:05:45,080 --> 00:05:48,060
──周子舒は黙って彼を見ていた

80
00:05:56,160 --> 00:05:58,880
周子舒:鍵が鬼谷の手中に落ちたのに

81
00:06:00,280 --> 00:06:02,800
お前はどうして……

82
00:06:03,080 --> 00:06:04,480
温客行:私?

83
00:06:11,520 --> 00:06:12,920
周子舒:はぁ

84
00:06:12,920 --> 00:06:16,820
──周子舒はわずかに喉を動かして、眉をひそめた

85
00:06:21,400 --> 00:06:23,120
温客行:私か?

86
00:06:23,120 --> 00:06:26,880
──空はもう暗くなっていて
あたりは極めて静謐だった

87
00:06:26,880 --> 00:06:30,280
温客行:私は戻りの道で何度も転んで

88
00:06:30,840 --> 00:06:34,400
とっくに泥だらけで薄汚れていた

89
00:06:36,840 --> 00:06:40,200
その悪鬼たちがこっちを見た瞬間

90
00:06:41,440 --> 00:06:44,840
私はもう自分は死ぬんだと思って

91
00:06:45,840 --> 00:06:48,960
ぼんやりとそこに立ち尽くしていた

92
00:06:49,160 --> 00:06:51,600
悪鬼:うん? 小僧め こっちに来い!

93
00:06:51,600 --> 00:06:52,320
少年温客行:やめろ!

94
00:06:52,320 --> 00:06:53,440
やめろ!

95
00:06:53,440 --> 00:06:56,040
悪鬼:うぁ! ふん!

96
00:06:56,800 --> 00:07:00,080
チッ……この気狂い小僧め!

97
00:07:00,080 --> 00:07:02,560
ハハハハハハ

98
00:07:03,000 --> 00:07:06,240
気狂い小僧か ちょうど上着が一つ足りなかったんだ

99
00:07:06,240 --> 00:07:10,240
お前の皮を剥いでやるよ
戻ったら人皮の羽織りにする

100
00:07:11,320 --> 00:07:13,040
少年温客行:放して!

101
00:07:13,440 --> 00:07:16,480
放してよ! 放せ──

102
00:07:16,480 --> 00:07:18,400
温客行:すごく怖かった……

103
00:07:19,440 --> 00:07:21,960
だから方法を考えたんだ

104
00:07:21,960 --> 00:07:23,840
周子舒:老温

105
00:07:23,960 --> 00:07:25,480
しゃべるな

106
00:07:26,880 --> 00:07:28,720
温客行:私は

107
00:07:29,640 --> 00:07:32,800
私は彼ら衆人環視のもと

108
00:07:32,800 --> 00:07:34,840
地に這いつくばって

109
00:07:35,400 --> 00:07:40,800
一口一口と父上の屍体を噛み締めた

110
00:07:52,080 --> 00:07:54,040
とても噛みにくくて

111
00:07:54,640 --> 00:07:57,840
噛み千切るのに長い時間が掛かった

112
00:07:58,400 --> 00:08:03,240
それから彼の血肉を腹に収めた……

113
00:08:04,640 --> 00:08:06,560
それでも

114
00:08:07,880 --> 00:08:11,320
それでも 自分に少し心の支えをあげた

115
00:08:12,480 --> 00:08:16,040
私はもともと彼の肉と骨じゃなかったか?

116
00:08:17,840 --> 00:08:24,200
彼らは私を見て 次第に笑わなくなった

117
00:08:28,320 --> 00:08:32,200
最後には私に噛まれた男の一存で

118
00:08:32,320 --> 00:08:35,720
私は生まれつきの小鬼で

119
00:08:35,720 --> 00:08:38,560
人間(じんかん)に止めておくべきでないから

120
00:08:39,080 --> 00:08:42,840
鬼谷に連れ帰ると決まった

121
00:08:45,320 --> 00:08:47,160
周子舒:はぁ

122
00:08:47,160 --> 00:08:51,200
──周子舒は突然身をかがめて
片手を彼の頬に伸ばした

123
00:08:51,200 --> 00:08:53,120
周子舒:老温

124
00:08:53,120 --> 00:08:55,760
もう過ぎたことだ

125
00:08:55,760 --> 00:09:01,880
──温客行の眼光は鈍っていて
皮膚は非常に冷たかったが、暖かさを感じると
無意識に頭を傾け手のひらに擦り寄った

126
00:09:01,880 --> 00:09:04,920
温客行:私はここに丸二十年いた

127
00:09:06,120 --> 00:09:07,920
最初の十二年は

128
00:09:07,920 --> 00:09:13,280
命懸けで生き残り 命懸けで地を這い回った

129
00:09:14,080 --> 00:09:15,880
あとの八年は

130
00:09:17,000 --> 00:09:19,480
とうとう這い上がって

131
00:09:20,520 --> 00:09:23,800
私の大仕事の準備を始めた

132
00:09:26,780 --> 00:09:28,820
周子舒:お前は密かに喜喪鬼に手を貸して

133
00:09:28,820 --> 00:09:31,360
吊死鬼を後のない状況に追い詰めた

134
00:09:36,400 --> 00:09:39,480
吊死鬼が鍵を盗み去ってから

135
00:09:43,200 --> 00:09:45,360
彼を殺した

136
00:09:46,040 --> 00:09:50,040
それから 彼の死体と鍵をまとめて捨てた

137
00:09:50,040 --> 00:09:52,920
吊死鬼が逃走を図ったように見せかけ

138
00:09:52,920 --> 00:09:57,680
鬼谷には巣から傾(なだ)れ出し 吊死鬼を追わせた
(*倾巢而出=悪い勢力などが総出で出撃する)

139
00:09:58,720 --> 00:10:00,040
その後の彼らを見れば……

140
00:10:00,040 --> 00:10:01,880
温客行:この世に

141
00:10:02,400 --> 00:10:05,280
鬼蜮を壊せるものは
(*鬼蜮=こっそり人に害を与えるもの)

142
00:10:05,280 --> 00:10:08,240
ただ一つ──

143
00:10:08,840 --> 00:10:11,000
周子舒:人の心だけだ

144
00:10:19,520 --> 00:10:21,080
周子舒:老温

145
00:10:21,940 --> 00:10:25,820
──内息がひとしきり逆巻くと
窒息感が広がってきた

146
00:10:25,820 --> 00:10:30,780
突然、片手が背中に当てられ柔らかい内力が
一瞬で七経八脈に散っていった

147
00:10:39,340 --> 00:10:42,540
彼の意識がわずかにはっきりした

148
00:10:42,540 --> 00:10:46,560
彼が一息ついたのを見て
周子舒はすぐに功力を収めた

149
00:10:46,560 --> 00:10:48,480
周子舒:お前は過度に疲労している

150
00:10:48,480 --> 00:10:51,320
しかし外傷がかなり酷い 縛って止血するぞ

151
00:10:51,320 --> 00:10:55,040
でなけりゃ 内力の運行を手伝えない

152
00:10:58,820 --> 00:11:01,140
──温客行の目を見た

153
00:11:01,920 --> 00:11:03,840
周子舒:答えろ

154
00:11:04,440 --> 00:11:06,760
お前は生きたいか?

155
00:11:11,060 --> 00:11:14,540
──温客行は静かに彼を見た

156
00:11:15,140 --> 00:11:17,280
温客行:……あなたは

157
00:11:20,520 --> 00:11:23,640
行ってしまうの?

158
00:11:26,040 --> 00:11:28,040
周子舒:いいや

159
00:11:35,240 --> 00:11:37,360
温客行:生きる──

160
00:11:37,360 --> 00:11:42,540
──温客行は必死で歯を食いしばり、彼の手を
握りしめて自分を支え起こした

161
00:11:42,960 --> 00:11:45,320
温客行:なぜ生きたくないの?

162
00:11:46,520 --> 00:11:49,800
なぜ生きられないの?!

163
00:11:50,080 --> 00:11:56,680
この世の厚顔無恥な者
悪虐無道な者どもは皆生きていて

164
00:11:56,680 --> 00:11:58,280
私はなぜ

165
00:11:58,480 --> 00:12:01,600
私がなぜ生きられないの?

166
00:12:01,840 --> 00:12:04,360
意地でも私は……

167
00:12:08,160 --> 00:12:10,920
周子舒:気息を整えろ

168
00:12:10,920 --> 00:12:17,660
──周子舒は彼の穴道を封じると
まるごと抱き上げた

169
00:12:17,660 --> 00:12:20,120
温客行:どこへ……

170
00:12:21,640 --> 00:12:24,080
どこへ行くの?

171
00:12:27,600 --> 00:12:30,240
周子舒:人の世に帰る

172
00:12:33,920 --> 00:12:40,920
晋江文学城 Priest原作 猫耳FM
音熊聯萌連合出品

173
00:12:40,920 --> 00:12:49,120
古風武侠ラジオドラマ《天涯客》
第二十一集「終極」

174
00:13:14,080 --> 00:13:15,800
張成嶺:どうして

175
00:13:15,800 --> 00:13:18,120
どうして……

176
00:13:18,120 --> 00:13:20,440
曹兄さんはあんなにいい人だった

177
00:13:20,440 --> 00:13:23,080
阿湘姐さんと仲良く一緒にいたのに

178
00:13:23,080 --> 00:13:25,120
なのにどうして……

179
00:13:26,880 --> 00:13:29,760
正か邪かがそんなに重要なのか?

180
00:13:30,640 --> 00:13:33,040
阿湘姐さんが何をした?

181
00:13:33,320 --> 00:13:35,360
何をしたんだ?

182
00:13:39,760 --> 00:13:40,880
高小怜:誰か来た!

183
00:13:40,880 --> 00:13:42,560
張成嶺:隠れましょう!

184
00:13:48,800 --> 00:13:51,000
毒蝎だ

185
00:13:53,720 --> 00:13:57,480
高小怜:彼らの……これは内紛?

186
00:13:58,520 --> 00:13:59,640
成嶺見て

187
00:13:59,640 --> 00:14:04,040
蝎子と戦ってるあの男って 趙敬の傍にいた
あの顔に刀傷のある男人じゃない?

188
00:14:04,040 --> 00:14:05,080
張成嶺:え?

189
00:14:06,000 --> 00:14:07,960
刀傷の……

190
00:14:08,160 --> 00:14:09,200
あぁ……

191
00:14:09,320 --> 00:14:11,260
刀傷の男:そちらの姑娘には少しお待ち願おう……

192
00:14:11,260 --> 00:14:13,060
皆さまはお気付きでないでしょう

193
00:14:13,060 --> 00:14:15,340
こちらの姑娘がたった今出てきた方向が

194
00:14:15,340 --> 00:14:18,700
その実すでに風崖山鬼谷の境界であることに

195
00:14:18,700 --> 00:14:20,380
彼女は無断で鬼谷に侵入したが

196
00:14:20,380 --> 00:14:23,000
何ゆえ今もって悪鬼たちに動きがないのでしょう?
 

197
00:14:23,000 --> 00:14:24,160
何ゆえ今もって悪鬼たちに動きがないのでしょう?
張成嶺:はっ……

198
00:14:24,160 --> 00:14:24,220
何ゆえ今もって悪鬼たちに動きがないのでしょう?
張成嶺:彼だ

199
00:14:24,220 --> 00:14:25,680
張成嶺:彼だ

200
00:14:25,680 --> 00:14:27,920
彼は蝎子の者だった

201
00:14:28,640 --> 00:14:30,600
だからあの時風崖山の麓で

202
00:14:30,600 --> 00:14:34,880
わざと全員に曹兄さんと
阿湘姐さんへ敵意を向けさせた──

203
00:14:39,400 --> 00:14:41,760
高小怜:成嶺 君は……

204
00:14:42,460 --> 00:14:44,040
張成嶺:高さん

205
00:14:44,040 --> 00:14:46,080
この毒蝎どもは悪行を重ね

206
00:14:46,080 --> 00:14:49,120
この瞬間に重傷を抱えても自ら非道に殺し合ってる

207
00:14:49,120 --> 00:14:50,760
私は……

208
00:14:53,200 --> 00:14:55,680
しばらくここで身を隠していてください

209
00:14:55,680 --> 00:14:57,440
もし……

210
00:14:57,440 --> 00:14:59,620
もし私に何かあれば──

211
00:14:59,620 --> 00:15:01,080
高小怜:共に行きましょう

212
00:15:01,080 --> 00:15:03,200
私も戦力になります

213
00:15:04,240 --> 00:15:06,340
張成嶺:うん 気をつけて!

214
00:15:06,340 --> 00:15:07,680
高小怜:ええ

215
00:15:13,200 --> 00:15:14,960
蝎:誰だ!

216
00:15:15,060 --> 00:15:17,080
張成嶺:やぁぁぁ──!

217
00:15:19,640 --> 00:15:21,240
蝎:張成嶺か?

218
00:15:21,240 --> 00:15:22,080
は?

219
00:15:22,080 --> 00:15:24,800
それは 大荒?

220
00:15:24,800 --> 00:15:26,800
刀傷の男:誰だ! 気をつけろ!

221
00:15:32,140 --> 00:15:33,200
高小怜:こちらは私が!

222
00:15:33,200 --> 00:15:35,320
構わずに蝎子を追い掛けてやっつけて!

223
00:15:35,840 --> 00:15:37,640
張成嶺:ありがとう!

224
00:15:49,400 --> 00:15:52,640
蝎:張小公子はやはり……

225
00:15:52,640 --> 00:15:55,360
名師は高弟を出すか……

226
00:15:58,080 --> 00:15:59,640
張成嶺:逃げるな!

227
00:16:00,120 --> 00:16:03,640
流雲飛絮 九宮を踏む!

228
00:16:06,660 --> 00:16:08,620
やぁぁぁ──

229
00:16:09,280 --> 00:16:10,800
蝎:うぁぁ!

230
00:16:13,160 --> 00:16:14,880
うぅ……

231
00:16:17,280 --> 00:16:19,040
高小怜:無事ね!

232
00:16:20,480 --> 00:16:22,280
張成嶺:大丈夫です

233
00:16:23,880 --> 00:16:25,760
私が……

234
00:16:25,760 --> 00:16:27,880
彼を殺した

235
00:16:27,880 --> 00:16:29,760
蝎子を殺した……

236
00:16:29,760 --> 00:16:30,760
高小怜:えぇ

237
00:16:30,760 --> 00:16:33,640
早く山を下りましょう 早く!

238
00:16:55,720 --> 00:16:57,360
周子舒:老温

239
00:16:58,720 --> 00:17:00,640
耐えろ

240
00:17:07,920 --> 00:17:09,680
老温

241
00:17:09,680 --> 00:17:11,240
老温?

242
00:17:11,240 --> 00:17:13,040
ん?

243
00:17:15,800 --> 00:17:17,800
張成嶺:誰?

244
00:17:18,480 --> 00:17:19,220
周子舒:成嶺?

245
00:17:19,220 --> 00:17:19,800
張成嶺:師父?
周子舒:成嶺?

246
00:17:19,800 --> 00:17:20,200
張成嶺:師父?
 

247
00:17:20,200 --> 00:17:22,160
周子舒:高さん?

248
00:17:22,680 --> 00:17:25,780
張成嶺:師父 曹兄さん 曹兄さんが……

249
00:17:25,780 --> 00:17:26,280
高小怜:曹公子が……
張成嶺:師父 曹兄さん 曹兄さんが……

250
00:17:26,280 --> 00:17:27,600
高小怜:曹公子が……
 

251
00:17:30,400 --> 00:17:32,160
周子舒:分かってる……

252
00:17:32,160 --> 00:17:33,920
老温が俺に教えた……

253
00:17:34,460 --> 00:17:36,560
張成嶺:温前輩はどうしたんですか?

254
00:17:36,560 --> 00:17:38,240
周子舒:死んではない

255
00:17:38,760 --> 00:17:41,040
俺たちはまず山の麓の町で落ち着こう

256
00:17:41,040 --> 00:17:42,200
老温の傷を治してやる

257
00:17:42,200 --> 00:17:43,600
張成嶺:あぁ……

258
00:17:44,960 --> 00:17:46,520
師父……

259
00:17:46,520 --> 00:17:47,960

260
00:17:47,960 --> 00:17:50,200
私も人を殺しました

261
00:17:50,200 --> 00:17:51,880
人を殺しました

262
00:17:51,880 --> 00:17:53,360
周子舒:お前が?

263
00:17:53,400 --> 00:17:54,920
高小怜:私にも一因があります

264
00:17:54,920 --> 00:17:57,680
蝎子は悪人です 殺すべきです!

265
00:17:57,880 --> 00:17:59,760
張成嶺:彼は片方の腕を断たれて

266
00:17:59,760 --> 00:18:01,520
毒針に中ったみたいで

267
00:18:01,520 --> 00:18:04,600
配下の毒蝎たちを抑え切れないようでした

268
00:18:04,720 --> 00:18:09,040
彼らは 内輪揉めしていました

269
00:18:09,040 --> 00:18:10,400
周子舒:それで

270
00:18:10,400 --> 00:18:12,400
お前たちがどさくさ紛れで蝎子を片付けたと?

271
00:18:12,400 --> 00:18:13,800
張成嶺:うん……

272
00:18:13,800 --> 00:18:15,120
私は……

273
00:18:15,120 --> 00:18:19,760
私たちのこれは 人の危機に
乗じているのでしょうか……

274
00:18:21,360 --> 00:18:23,840
周子舒:彼の運命とはそうあるべきだったのだ

275
00:18:24,500 --> 00:18:25,800
そうだ 成嶺

276
00:18:26,800 --> 00:18:28,960
無常鬼は死んだ

277
00:18:28,960 --> 00:18:31,440
お前の家の仇も……

278
00:18:31,440 --> 00:18:35,360
今後 もう過去を背負う必要はない

279
00:18:35,560 --> 00:18:37,960
しっかりと己の道を行け

280
00:18:38,400 --> 00:18:40,320
張成嶺:はい

281
00:18:43,000 --> 00:18:44,440
はい!

282
00:19:00,640 --> 00:19:02,160
酒楼の客:おい 酒もう一壺

283
00:19:02,160 --> 00:19:02,640
給仕:へい 承知!
酒楼の客:おい 酒もう一壺

284
00:19:02,640 --> 00:19:03,160
給仕:へい 承知!
酒楼の客:茶を冷たいのにしてくれよ

285
00:19:03,160 --> 00:19:05,160
酒楼の客:茶を冷たいのにしてくれよ

286
00:19:06,760 --> 00:19:09,880
給仕:お客さまは個室ですね 上階へどうぞ

287
00:19:14,060 --> 00:19:15,720
七爺:ふう……

288
00:19:19,260 --> 00:19:25,320
──七爺は酒楼で茶を片手に、頼れる
八卦見のような厳しい顔色で棒をかき回していた

289
00:19:25,320 --> 00:19:26,800
七爺:ん〜?

290
00:19:28,240 --> 00:19:29,800
この卦は……

291
00:19:30,080 --> 00:19:32,680
何やら意味ありげだね

292
00:19:33,240 --> 00:19:34,280
大巫:どうした?

293
00:19:34,280 --> 00:19:35,440
七爺:うん?

294
00:19:36,880 --> 00:19:38,840
君は私の見立てを嫌っていたんじゃなかった?

295
00:19:38,840 --> 00:19:40,600
話したら信じるのかい?

296
00:19:40,600 --> 00:19:42,240
大巫:私がいつ言った?

297
00:19:42,640 --> 00:19:44,160
七爺:ふ〜

298
00:19:44,160 --> 00:19:45,680
──七爺は指折り数えて──

299
00:19:45,680 --> 00:19:49,360
七爺:十年前の京城で 君の手相を見てあげた

300
00:19:49,360 --> 00:19:52,720
果たして小僧の君は 尽くたわ言で
掠りもしていないと言ったね

301
00:19:52,720 --> 00:19:54,840
──大巫は少し懐かしそうに目を細めた

302
00:19:54,840 --> 00:19:55,920
大巫:そうだ

303
00:19:55,920 --> 00:19:57,640
覚えている

304
00:19:57,800 --> 00:20:00,880
私の主な縁結びの天紋は長く深く

305
00:20:00,880 --> 00:20:03,680
感情豊かで愛に一途な者であり

306
00:20:03,680 --> 00:20:07,560
恋愛は必然的に大吉大利で
百の禁忌なしと言っていた
(*大吉大利=縁起良く全てが順調 *百无禁忌=何をやってもいい)

307
00:20:07,840 --> 00:20:12,840
更に私の心から慕う者も忠貞を守る女子であるとも

308
00:20:13,440 --> 00:20:16,480
当時私は信じなかったが 後になってみると

309
00:20:16,600 --> 00:20:19,120
“女子”というのが多少の誤りであることを除けば

310
00:20:19,120 --> 00:20:21,840
むしろ十に八九は離れておらぬ
(*八九不离十=当たらずとも遠からず)

311
00:20:21,840 --> 00:20:24,960
──七爺は少し顔を赤らめて俯くと
お茶を飲む振りをして彼の目線を避けた

312
00:20:24,960 --> 00:20:27,920
七爺:この小僧は はっきり覚えているんだね

313
00:20:29,640 --> 00:20:33,320
大巫:君の八卦で 周宗主たちを占ったのか

314
00:20:33,320 --> 00:20:34,800
どうだったのだ?

315
00:20:35,800 --> 00:20:39,360
七爺:之れ死地に置かれて後に生く
(置之死地而后生=決死の戦いのあとに活路がある)

316
00:20:39,400 --> 00:20:41,520
卦象では……

317
00:20:41,600 --> 00:20:42,920
大巫:うん?

318
00:20:42,920 --> 00:20:45,620
──七爺は笑顔のまま固まって階下の戸口を見た

319
00:20:47,060 --> 00:20:49,940
客桟の客:顔を見れば若々しいのに
どうして髪は真っ白なんだ?

320
00:20:49,940 --> 00:20:50,780
壺を抱きかかえているぞ
客桟の客:顔を見れば若々しいのに
どうして髪は真っ白なんだ?

321
00:20:50,780 --> 00:20:51,500
壺を抱きかかえているぞ
 
 

322
00:20:51,500 --> 00:20:52,140
壺を抱きかかえているぞ
 
待てよ 背にあるのは……

323
00:20:52,140 --> 00:20:53,700
待てよ 背にあるのは……

324
00:20:53,700 --> 00:20:54,960
あれは──

325
00:20:54,960 --> 00:20:58,400
大巫:彼が背負っているのは “古刃 龍背”か

326
00:20:58,400 --> 00:21:00,640
この者は……

327
00:21:00,640 --> 00:21:02,960
──何かを感じたかのように大巫と目を合わせた

328
00:21:02,960 --> 00:21:05,920
葉白衣:ここに周絮と言う者が泊まっているか?

329
00:21:06,480 --> 00:21:07,840
七爺:あなたは……

330
00:21:08,000 --> 00:21:10,800
あなたはもしや 葉白衣?

331
00:21:10,800 --> 00:21:12,000
葉白衣:うむ

332
00:21:12,840 --> 00:21:14,680
俺は周絮を探している

333
00:21:14,720 --> 00:21:16,920
七爺:周絮は毒蝎を追って風崖山へ

334
00:21:16,920 --> 00:21:18,800
葉兄はここで待ってもよいが

335
00:21:18,800 --> 00:21:21,600
或いは何か話があるなら 私が連れて行ってもいい

336
00:21:22,500 --> 00:21:27,680
葉白衣:お前が曹という奴の言っていた
周絮の小僧を治せる者か?

337
00:21:28,080 --> 00:21:29,600
七爺:彼だ

338
00:21:30,640 --> 00:21:34,000
大巫:あなたのそれは まことの六合心法であろう

339
00:21:34,000 --> 00:21:35,240
七爺:えぇ?

340
00:21:35,640 --> 00:21:39,000
大巫:“六合心法”を練功する者は 二つの道しかない

341
00:21:39,000 --> 00:21:42,400
走火入魔か 終極に至るか

342
00:21:42,400 --> 00:21:47,200
これがいわゆる 天人合一 破らずば立たずの功だ

343
00:21:47,400 --> 00:21:50,160
葉白衣:世に天人合一の功はない

344
00:21:50,160 --> 00:21:52,880
人が天と互いを分けぬなら

345
00:21:52,880 --> 00:21:54,800
生きていてもつまらんぞ

346
00:21:54,800 --> 00:21:56,440
大巫:うむ

347
00:21:56,520 --> 00:22:01,400
六合心法が最上位に達せば
天下無双の神功を得たと言ってよい

348
00:22:01,400 --> 00:22:05,400
不老不死ではあるが 欠陥もある

349
00:22:05,400 --> 00:22:08,720
これより後は 温かい物を飲食できぬのだ

350
00:22:08,720 --> 00:22:13,160
常に氷雪を食み 冷たき物を食すしかできぬ

351
00:22:27,560 --> 00:22:33,200
閣下の功力を以てすれば 全くの白髪や
死の気配を身に映すはずがない

352
00:22:33,360 --> 00:22:37,800
今このように 極寒の地 長明山を離れ

353
00:22:37,800 --> 00:22:40,340
常人の物を飲食した所以では?

354
00:22:40,340 --> 00:22:41,720
葉白衣:ふん

355
00:22:41,800 --> 00:22:43,240
若造

356
00:22:43,240 --> 00:22:46,840
お前も俺ぐらいの年を生きてみれば 分かることだ

357
00:22:46,840 --> 00:22:49,640
一年 生きた人をやって そして死ぬというのは

358
00:22:49,640 --> 00:22:54,240
あの場所で幾百年 生きながらの
死人となって過ごすよりもましなのだ

359
00:22:54,680 --> 00:22:56,160
大巫:私はしっかり生きているので

360
00:22:56,160 --> 00:22:58,960
あの生きた死人の功夫を習いに行ったりはせぬ

361
00:23:02,860 --> 00:23:07,180
──葉白衣は彼の無礼を気にせず、遠くを
見透かすように、ただ杯中の水を眺めていた

362
00:23:07,560 --> 00:23:14,140
葉白衣:何年も前に 俺のある友人が
六合心法の練功で手違いを生じた

363
00:23:14,140 --> 00:23:16,880
──彼は隠していた話を今話さなければ
もう一生、話す機会がない気がした

364
00:23:16,880 --> 00:23:18,400
葉白衣:俺は彼を救うも

365
00:23:18,400 --> 00:23:20,800
お前のような技術はなく

366
00:23:20,800 --> 00:23:23,800
この道を行くしかなかった

367
00:23:25,880 --> 00:23:28,240
以来 彼は申し訳なく思って

368
00:23:28,240 --> 00:23:32,880
彼の妻を連れ 俺の隠居している長明山に付き添った

369
00:23:33,560 --> 00:23:40,520
そこにある破れ寺は 山の麓の者は知らぬが
得道した高僧が中に住んでいるのだと思っていた

370
00:23:43,160 --> 00:23:47,560
俺の友人はバカ正直で 実際面白みがなく

371
00:23:47,560 --> 00:23:53,400
その一家三人が 一日中俺の
目の前をうろつくのが 目障りだった

372
00:23:53,680 --> 00:23:56,760
俺はそいつの小僧に功夫を教えた

373
00:23:57,400 --> 00:24:00,120
だがいつからか知らぬが

374
00:24:00,120 --> 00:24:04,200
その小僧は六合心法に興味を示し出した

375
00:24:04,640 --> 00:24:07,280
彼の母親はもともと阿呆な女人ではなかった

376
00:24:07,280 --> 00:24:08,640
だが

377
00:24:09,000 --> 00:24:12,080
結局のところ 母親だったのだ

378
00:24:13,000 --> 00:24:18,520
考えもしなかったが もし良いものならば
俺は彼にやれなかったか?

379
00:24:18,720 --> 00:24:21,800
俺は彼が俺自身の……

380
00:24:21,800 --> 00:24:23,400
はぁ

381
00:24:23,400 --> 00:24:26,880
──彼は暗然と首を振った

382
00:24:26,880 --> 00:24:30,760
大巫:三十年前 山河令が一度出た

383
00:24:31,200 --> 00:24:33,760
あなたは容炫の師父か?

384
00:24:34,720 --> 00:24:36,320
葉白衣:そうだ

385
00:24:36,960 --> 00:24:39,120
俺自身は山の麓にしばらく留まり

386
00:24:39,120 --> 00:24:42,880
当時の四季荘の老荘主 秦懐章を訪ね

387
00:24:42,880 --> 00:24:45,760
あの小僧の足跡を追わせた

388
00:24:46,160 --> 00:24:50,720
だが当時の四季荘は羽翼がひ弱で
能力にも限りがあり

389
00:24:50,720 --> 00:24:53,400
容炫の屍体を見つけてからは

390
00:24:53,400 --> 00:24:58,560
五大家の後人と琉璃甲の事に
微かに触れていただけだった

391
00:24:59,440 --> 00:25:04,160
その後の調査がここで途絶えたのは 俺の友人

392
00:25:04,280 --> 00:25:05,960
長青が

393
00:25:06,480 --> 00:25:12,440
俺に申し訳ないと思っており
また突然子を喪った痛みが 心を蝕んで
(*心病难医=心の病は治りにくい)

394
00:25:12,880 --> 00:25:15,280
もう無理だったからだ

395
00:25:18,580 --> 00:25:21,800
大巫:その容長青 容前輩だったのか

396
00:25:21,800 --> 00:25:23,360
七爺:誰?

397
00:25:24,680 --> 00:25:30,000
大巫:容前輩は当時 “鬼手”と呼ばれた 一代の名匠だ

398
00:25:30,600 --> 00:25:34,520
君が子供にやった“大荒”と 周荘主の軟剣

399
00:25:34,520 --> 00:25:37,440
どちらもあの前輩の手によるものだ

400
00:25:37,440 --> 00:25:39,560
──葉白衣は口元だけ笑みを浮かべ
無意識に茶杯の口を指で撫でた

401
00:25:39,560 --> 00:25:41,480
葉白衣:その彼だ

402
00:25:41,480 --> 00:25:46,280
周という若造のあの軟剣は 実際は“無名”剣なのだ

403
00:25:46,280 --> 00:25:51,240
剣はもともと名がなく 俺の手を経て
“白衣”と改められたのだ

404
00:25:51,880 --> 00:25:53,920
ただあの若造は鈍い

405
00:25:53,920 --> 00:25:56,960
恐らく自身はずっと知らぬままだろうな

406
00:26:00,440 --> 00:26:03,160
七爺:その容前輩が世を去ってからの何年か

407
00:26:03,160 --> 00:26:06,800
あなたはひょっとして 容夫人と
朝な夕なに顔を合わせていたんです?

408
00:26:07,920 --> 00:26:09,800
葉白衣:そうだな

409
00:26:10,120 --> 00:26:12,240
長青が死んで

410
00:26:12,240 --> 00:26:18,240
俺は彼女が何ゆえ俺のような死にぞこないに付いて
あの生きた棺材の地にいたのかは知らん

411
00:26:19,360 --> 00:26:22,200
彼女とは何も話すことがなかった

412
00:26:22,520 --> 00:26:27,600
普段は 俺は練功して 彼女は彼女自身で暮らしていた

413
00:26:27,680 --> 00:26:32,600
最初はまだ頷いたり 話題がなくても
話題を探して時候の挨拶もできたが

414
00:26:32,880 --> 00:26:34,720
その後は

415
00:26:35,760 --> 00:26:38,920
その後は全くお互い無言だった

416
00:26:39,080 --> 00:26:40,520
数えてみれば

417
00:26:40,520 --> 00:26:45,000
俺と彼女は十数年 一言も話さずに過ごしていたのだ

418
00:26:48,620 --> 00:26:54,260
──葉白衣は熱い茶を一気に飲み干すと
持っていた小さな瓶を卓の上に置いて立ち上がった

419
00:26:55,040 --> 00:26:57,120
葉白衣:俺は戻りはせぬぞ

420
00:26:57,120 --> 00:27:00,160
お前たちが周の若造と長明山に登るからには

421
00:27:00,160 --> 00:27:03,680
容炫と彼の妻の遺灰を連れ帰るのを手伝え

422
00:27:03,680 --> 00:27:07,360
彼ら一家四人で過ごさせてやってくれ

423
00:27:07,360 --> 00:27:10,560
大巫:葉前輩はどちらへ?

424
00:27:10,560 --> 00:27:14,780
葉白衣:俺は本来 あのぶん取っては奪われての
者どもが武庫を開けるのを阻止するつもりだった

425
00:27:14,780 --> 00:27:19,020
だが あの茶番劇を見ていたら いささか草臥れもした

426
00:27:19,020 --> 00:27:23,460
彼らのような者の生き死にが
俺と何か関係があるか?

427
00:27:23,540 --> 00:27:25,860
俺はただのさっさと死にたい老いぼれだ

428
00:27:25,860 --> 00:27:29,020
この人生 何も気に掛ける事はないんだ

429
00:27:29,020 --> 00:27:32,940
辿り着く場所へと行き 天下の美食を味わう

430
00:27:33,140 --> 00:27:35,700
いつか歩けなくなるかも知れぬなら

431
00:27:35,700 --> 00:27:38,180
死ぬまで続けるだけだ

432
00:27:43,420 --> 00:27:44,860
七爺:葉前輩

433
00:27:45,660 --> 00:27:47,460
こんな何年も経って

434
00:27:47,980 --> 00:27:50,580
その人を放り出すんです?

435
00:27:50,580 --> 00:27:52,800
──葉白衣は振り向いて彼を一瞥した

436
00:27:52,800 --> 00:27:55,140
葉白衣:手にしたことがないのに

437
00:27:55,140 --> 00:27:57,980
手放す話をしてどうする

438
00:27:58,900 --> 00:28:02,540
──重剣を背に大股で去っていった

439
00:28:02,540 --> 00:28:04,460
(葉白衣):長青

440
00:28:04,460 --> 00:28:07,140
ようやくお前の息子をお前に返してやれる

441
00:28:07,140 --> 00:28:09,900
お前たちは一家団らんしてろ

442
00:28:09,900 --> 00:28:12,580
龍背は俺に付き合わせろ

443
00:28:13,580 --> 00:28:15,420
来世は……

444
00:28:17,180 --> 00:28:20,540
もう会うこともなかろう

445
00:28:20,840 --> 00:28:24,700
──帰りなんいざ 吾れ何処へ帰ろう

446
00:29:20,360 --> 00:29:23,900
少年温客行:母さん あそこにいる梟を見て!

447
00:29:23,900 --> 00:29:27,200
谷妙妙:大宝 小行 遊び疲れたら 水を飲みにおいで

448
00:29:27,200 --> 00:29:27,620
少年温客行:うん

449
00:29:27,620 --> 00:29:28,120
大宝:うん
少年温客行:うん

450
00:29:28,120 --> 00:29:29,100
大宝:うん
 

451
00:29:33,440 --> 00:29:34,900
少年温客行:大宝……

452
00:29:36,460 --> 00:29:37,780
村の女:血が……

453
00:29:37,780 --> 00:29:39,740
大宝!!!

454
00:29:46,080 --> 00:29:49,100
悪鬼:琉璃甲の鍵は この村にあるのだ

455
00:29:49,100 --> 00:29:51,660
隈なく捜せ 一つも見逃すな!

456
00:29:51,660 --> 00:29:52,980
小鬼衆:はっ!

457
00:30:00,960 --> 00:30:04,300
(少年温客行):父さま ごめんなさい……

458
00:30:04,300 --> 00:30:06,580
ごめんなさい……

459
00:30:06,900 --> 00:30:08,500
悪鬼:ははははは

460
00:30:08,940 --> 00:30:15,340
この小僧は生まれ持っての小鬼だ
人の世に留めおかねば

461
00:30:23,120 --> 00:30:24,580
周子舒:老温

462
00:30:25,380 --> 00:30:27,700
お前は生きたくないか?

463
00:30:28,180 --> 00:30:30,140
温客行:生きたら……

464
00:30:31,500 --> 00:30:34,140
どこへ行くの?

465
00:30:40,800 --> 00:30:44,680
温客行:食というのは 必ず人の手で
作ったのを食べるからこそ

466
00:30:44,680 --> 00:30:45,920
精気があって風味がある

467
00:30:45,920 --> 00:30:46,300
周子舒:こ……この薪が悪い
精気があって風味がある

468
00:30:46,300 --> 00:30:47,900
周子舒:こ……この薪が悪い
それに愛情もあるかもしれない……

469
00:30:47,900 --> 00:30:48,460
それに愛情もあるかもしれない……

470
00:30:48,460 --> 00:30:52,260
周子舒:こんなに煙が出るのは
大概湿りすぎてるからだ

471
00:30:53,760 --> 00:30:55,740
温客行:この年は

472
00:30:56,020 --> 00:30:59,300
まことにこの一生で最も楽しいものだった

473
00:31:10,260 --> 00:31:13,740
(温客行):ただ願わくば 君が心が我が心に似て

474
00:31:13,740 --> 00:31:17,820
定めて相思の意に負かざらんことを

475
00:31:17,820 --> 00:31:20,520
周子舒:温客行 この下衆野郎!

476
00:31:20,520 --> 00:31:22,060
温客行:なんのなんの

477
00:31:22,220 --> 00:31:22,700
周子舒:なんでもない

478
00:31:22,700 --> 00:31:23,300
狂人め
周子舒:なんでもない

479
00:31:23,300 --> 00:31:23,940
狂人め
犬に咬まれた

480
00:31:23,940 --> 00:31:25,140
犬に咬まれた

481
00:31:35,700 --> 00:31:37,940
俺と共に

482
00:31:37,940 --> 00:31:40,140
人の世に戻れ

483
00:31:44,540 --> 00:31:47,540
周子舒:醒めたか? 気分はどうだ?

484
00:31:48,340 --> 00:31:50,180
温客行:阿絮……

485
00:31:50,180 --> 00:31:51,860
うっ……

486
00:31:54,500 --> 00:31:56,340
阿絮

487
00:31:58,100 --> 00:31:59,540
これは

488
00:31:59,540 --> 00:32:01,460
どこなの?

489
00:32:03,840 --> 00:32:05,780
周子舒:風崖山の麓の町だ

490
00:32:06,300 --> 00:32:08,180
お前は二日眠ってたんだ

491
00:32:09,900 --> 00:32:12,140
俺は一度戻ってから

492
00:32:12,140 --> 00:32:13,420
捜しに行った……

493
00:32:13,420 --> 00:32:15,820
顧湘を

494
00:32:16,740 --> 00:32:19,540
曹蔚寧は彼の師叔に連れて行かれた

495
00:32:19,980 --> 00:32:26,060
俺も追い掛けて行って 彼らを共に
安らかに眠れるようにした

496
00:32:26,060 --> 00:32:27,460
莫懐空:あ……

497
00:32:27,580 --> 00:32:30,100
あの小娘も……

498
00:32:33,060 --> 00:32:34,380
はぁ……

499
00:32:34,780 --> 00:32:36,740
ただ残念だ

500
00:32:36,740 --> 00:32:42,180
わしも彼らの子供の満月酒を
飲む機会がなくなったのだな……

501
00:32:44,060 --> 00:32:46,020
蔚寧

502
00:32:46,220 --> 00:32:48,900
お前に預けるぞ

503
00:32:57,160 --> 00:32:58,940
温客行:ありがとう……

504
00:33:02,400 --> 00:33:04,100
周子舒:それから──

505
00:33:04,220 --> 00:33:06,040
蝎子は死んだ

506
00:33:06,040 --> 00:33:07,180
温客行:え?

507
00:33:08,280 --> 00:33:10,460
周子舒:成嶺と高小怜が山を下りる時

508
00:33:10,460 --> 00:33:13,060
ちょうど蝎子と配下の者の内紛に出くわし

509
00:33:13,340 --> 00:33:17,380
彼らが どさくさ紛れで蝎子を殺したんだ

510
00:33:22,340 --> 00:33:24,700
温客行:いいね

511
00:33:27,460 --> 00:33:31,060
これこそ 頭上に三尺の神明あり だ……

512
00:33:32,260 --> 00:33:33,680
ケホケホ

513
00:33:33,680 --> 00:33:36,300
周子舒:目が醒めたばかりだ 興奮しすぎるな

514
00:33:38,440 --> 00:33:40,620
温客行:二人は?

515
00:33:41,560 --> 00:33:44,860
周子舒:この数日 お前の傷は
見る間に良くなっていってる

516
00:33:44,860 --> 00:33:48,220
高さんは別れを告げて 高家荘に帰った

517
00:33:48,540 --> 00:33:52,140
成嶺は 外で練功してる

518
00:33:53,620 --> 00:33:55,980
温客行:ケホケホ

519
00:33:57,580 --> 00:34:00,580
周子舒:もう数日休んで 更に回復したら

520
00:34:00,580 --> 00:34:04,740
俺らは洛陽に戻って 七爺たちと会う

521
00:34:06,420 --> 00:34:08,260
温客行:うん……

522
00:34:16,580 --> 00:34:18,180
周子舒:老温

523
00:34:19,500 --> 00:34:21,420
温客行:ん?

524
00:34:22,280 --> 00:34:24,140
周子舒:風崖山で……

525
00:34:25,860 --> 00:34:27,300
答えろ

526
00:34:27,700 --> 00:34:29,860
お前は生きたいか?

527
00:34:29,860 --> 00:34:31,700
温客行:……あなたは

528
00:34:32,380 --> 00:34:35,180
行ってしまうの?

529
00:34:36,940 --> 00:34:38,900
周子舒:いいや

530
00:34:43,620 --> 00:34:46,260
周子舒:俺が応えた以上は

531
00:34:46,860 --> 00:34:49,460
必ずやってやる

532
00:34:54,940 --> 00:34:56,860
温客行:……ああ

533
00:35:10,220 --> 00:35:16,920
──張成嶺は周子舒たち二人を伴って
洛陽で七爺と大巫と合流したあと
容炫と容夫人の遺灰を持って長明山に登った

534
00:35:21,020 --> 00:35:26,620
養生して一ヶ月、大巫はようやく周子舒の
釘を取り除き、経脈の再構築を始めた

535
00:35:26,620 --> 00:35:30,180
その日、長明山は突然大雪が降った

536
00:35:44,460 --> 00:35:45,740
七爺:ん?

537
00:35:48,300 --> 00:35:52,940
我々がこの長明山に来て久しいが
こんな大雪を見るのは初めてだ

538
00:35:53,100 --> 00:35:56,660
君は本当に ずっと外で見守るつもりかい?

539
00:35:57,760 --> 00:36:02,060
温客行:少しでも彼に近いと 心が落ち着くんです

540
00:36:04,880 --> 00:36:06,660
七爺:安心して

541
00:36:06,860 --> 00:36:09,060
君たちが戻って来て 子舒も一ヶ月養生した

542
00:36:09,060 --> 00:36:11,420
もう準備も整ってる

543
00:36:11,420 --> 00:36:12,860
ましてや

544
00:36:12,860 --> 00:36:14,700
他の者にとっての三割の見込みなら

545
00:36:14,700 --> 00:36:18,020
子舒に対して 手違いがあるはずがない

546
00:36:23,220 --> 00:36:28,180
子舒は手を下すことができたし 当時
自身に打ち入れた釘に耐えて過ごした以上は

547
00:36:28,180 --> 00:36:30,580
まさか抜き取るのが怖いとは言わないだろう?

548
00:36:31,860 --> 00:36:33,900
彼ならね……

549
00:36:41,620 --> 00:36:42,180
どうした?
 

550
00:36:42,180 --> 00:36:42,660
どうした?
(温客行):この小白瞼は

551
00:36:42,660 --> 00:36:44,340
(温客行):この小白瞼は

552
00:36:44,340 --> 00:36:46,460
本当に狐狸の精みたいだから
(*狐狸精=男を色香で惑わす妖婦)

553
00:36:46,460 --> 00:36:49,100
しっかり用心してないと

554
00:36:49,100 --> 00:36:50,420
七爺:ん?

555
00:36:53,220 --> 00:36:54,780
温客行:はっ……

556
00:36:55,580 --> 00:36:58,660
大巫 阿絮は……

557
00:36:58,660 --> 00:37:00,100
七爺:どうだい?

558
00:37:02,300 --> 00:37:03,980
大巫:うん

559
00:37:04,240 --> 00:37:05,860
温客行:ありがとう!

560
00:37:39,780 --> 00:37:45,560
──長明山は一年中雪が積もっており
見渡す限り全てが真っ白で、足元には雲霧が広がる

561
00:37:45,560 --> 00:37:51,180
周囲には幾つかの茅葺きの小屋と一つの
小院があり、世外の仙人が住んでいるようだった

562
00:38:06,200 --> 00:38:07,220
七爺:小毒物

563
00:38:07,220 --> 00:38:08,100
大巫:ん?

564
00:38:08,100 --> 00:38:09,820
七爺:子舒はどうなった?

565
00:38:10,440 --> 00:38:13,460
大巫:無事だ 数日経てば目覚めるだろう

566
00:38:14,220 --> 00:38:15,860
七爺:なら良かった

567
00:38:15,980 --> 00:38:19,900
あの温客行は ほぼ不眠不休で
三ヶ月 子舒の面倒を見ていた

568
00:38:19,900 --> 00:38:23,580
子舒がもう目覚めないと 彼も倒れてしまうだろうね

569
00:38:23,580 --> 00:38:25,680
──大巫は話題を探しながら彼の手を握った

570
00:38:25,680 --> 00:38:27,460
大巫:寒くないか?

571
00:38:28,260 --> 00:38:29,620
七爺:まあね

572
00:38:32,100 --> 00:38:33,580
この場所をごらん

573
00:38:34,140 --> 00:38:39,580
いわゆる “千山飛ぶ鳥絶え 万経人跡滅す”と称される

574
00:38:39,940 --> 00:38:44,300
住んでるうちに 今夕(こんせき)が
何たる夕(ゆうべ)かも分からなくなったよ
(*今夕何夕=良い時を過ごすことの称賛)

575
00:38:44,860 --> 00:38:46,620
大巫:ここが好きか?

576
00:38:46,620 --> 00:38:47,940
七爺:はぁ?

577
00:38:48,500 --> 00:38:54,260
私が好きと言えば 君は ひょっとして
私とまだ居続けるとでも?

578
00:38:54,960 --> 00:38:56,540
大巫:ふむ

579
00:38:56,940 --> 00:38:59,620
今はまだ路塔が幼い──

580
00:39:00,140 --> 00:39:02,420
だがもし まことにここが好きならば

581
00:39:02,420 --> 00:39:04,900
私は帰って彼をしっかり指導し

582
00:39:04,900 --> 00:39:09,980
もう二、三年経ったら南疆を彼に渡し
再び君を伴って戻って来る

583
00:39:09,980 --> 00:39:11,660
よいか?

584
00:39:15,360 --> 00:39:16,940
七爺:まったく

585
00:39:16,940 --> 00:39:19,700
君はたたき棒を渡すと本当に真に受けるね
(*棒槌=洗濯用のたたき棒、ボケの隠喩)

586
00:39:19,700 --> 00:39:23,060
誰がこんな酷いところに住むんだ
天地が凍りついてる

587
00:39:23,060 --> 00:39:24,820
やはり南疆の賑やかさだね

588
00:39:24,860 --> 00:39:28,500
数日過ごして 子舒が大丈夫だったら
我らも失礼しよう

589
00:39:28,500 --> 00:39:30,380
南疆に帰ろう

590
00:39:30,560 --> 00:39:31,700
大巫:うん

591
00:39:32,980 --> 00:39:34,740
酒が温まった

592
00:39:36,840 --> 00:39:38,000
七爺:小毒物見てごらん

593
00:39:38,000 --> 00:39:38,960
大巫:ん?

594
00:39:38,960 --> 00:39:40,620
七爺:雪が止んだよ

595
00:40:04,200 --> 00:40:06,380
温客行:阿絮……

596
00:40:06,380 --> 00:40:08,500
阿絮……

597
00:40:18,080 --> 00:40:19,940
(周子舒):昨日すでに死して

598
00:40:19,940 --> 00:40:22,220
年月は過ぎ去り

599
00:40:22,940 --> 00:40:30,340
俺もただ このように朝な夕なに対いあい
子(なんじ)の手を執る者を待っていたに過ぎない
(*执子之人 与子偕老=夫婦が一生共にあること)

600
00:40:31,680 --> 00:40:34,220
温客行:阿絮……

601
00:40:36,500 --> 00:40:37,740
周子舒:ん

602
00:40:38,140 --> 00:40:39,900
ここにいる

603
00:41:05,960 --> 00:41:10,340
張成嶺:呑吐を続け 任督を廻らせ

604
00:41:11,100 --> 00:41:13,460
百川が海に入るが如く

605
00:41:13,460 --> 00:41:15,900
痕跡を残さず──

606
00:41:17,720 --> 00:41:19,060
大巫:熱いぞ

607
00:41:19,060 --> 00:41:20,140
七爺:うん

608
00:41:20,200 --> 00:41:22,660
張成嶺:内息を意識し 精神は遊蛇の如く

609
00:41:22,660 --> 00:41:24,900
絶えず断たず──

610
00:41:24,900 --> 00:41:27,420
七爺:小僧 一先ず鍛えるのをやめて

611
00:41:27,420 --> 00:41:29,320
こっちで酒を飲んで身体を暖めなさい

612
00:41:29,320 --> 00:41:30,580
張成嶺:あい!

613
00:41:35,520 --> 00:41:36,780
七爺:アイヤ

614
00:41:36,900 --> 00:41:38,900
いわゆる 冷たさは百難隠す だね
(*一冷遮百丑=一俊遮百丑 一つの長所は醜さを隠す)

615
00:41:38,900 --> 00:41:42,700
煮たあとも変わらず芳醇な香りの
あるものだけが 高級品と言える

616
00:41:42,700 --> 00:41:48,140
曰く“三杯は大道に通じ 一斗は自然に合す”
(三杯通大道 一头合自然=飲酒で真理を解すること)

617
00:41:48,140 --> 00:41:51,980
人間世の百般の憂愁は ただ此の物にのみ解せる

618
00:41:51,980 --> 00:41:53,660
それこそが……

619
00:41:53,660 --> 00:41:54,820
え?

620
00:41:56,780 --> 00:41:58,340
チッ──

621
00:41:59,180 --> 00:42:00,740
あの蚤の番いめ

622
00:42:00,740 --> 00:42:05,140
朝から晩まで手を休めないから
耳元もまるですっきりしない

623
00:42:05,540 --> 00:42:07,340
子舒も大丈夫のようだし

624
00:42:07,340 --> 00:42:10,400
一両日中には 我らも失礼しよう

625
00:42:10,400 --> 00:42:11,400
大巫:ああ

626
00:42:11,400 --> 00:42:12,300
張成嶺:ええ?!

627
00:42:12,300 --> 00:42:14,180
七爺と大巫は行っちゃうんですか?

628
00:42:14,180 --> 00:42:16,960
私の師父の怪我は もう大丈夫なんですか?

629
00:42:16,960 --> 00:42:18,260
大巫:うむ

630
00:42:18,260 --> 00:42:22,220
目覚めさえすれば 最も危ない時は過ぎたと言えよう

631
00:42:22,220 --> 00:42:24,500
昨日が最後の服薬でもあった

632
00:42:24,500 --> 00:42:27,980
あとはしっかり養生すれば 何も問題ない

633
00:42:30,320 --> 00:42:34,020
張成嶺:そう言われましても 私はいつも心配です……

634
00:42:34,020 --> 00:42:36,780
師父はただ半月休養しただけで牀を下りて

635
00:42:36,780 --> 00:42:39,700
一月も経たずに温前輩と口喧嘩を始めては

636
00:42:39,700 --> 00:42:41,920
朝から晩まで繰り返して……

637
00:42:41,920 --> 00:42:43,660
七爺:片方の掌では打っても響かぬ
(一个巴掌拍不响=片方だけでは成立しない)

638
00:42:43,660 --> 00:42:46,500
この二匹の大馬猴はまことに抜群の相性だ
(*大马猴=マンドリル)

639
00:42:46,780 --> 00:42:47,700
はぁ

640
00:42:47,700 --> 00:42:49,700
子舒は以前 あんなに温柔な人であったが

641
00:42:49,700 --> 00:42:51,340
どうして……

642
00:42:51,340 --> 00:42:55,220
まこと 朱に近づけば赤くなり
墨に近づけば黒くなる か

643
00:42:56,800 --> 00:42:58,060
大巫:実際それも良い

644
00:42:58,060 --> 00:43:00,540
経脈の再構築の過程は比べるものなき苦痛だ

645
00:43:00,540 --> 00:43:02,740
ここはまた極寒の地だ

646
00:43:02,860 --> 00:43:07,060
普通の者が己で行動できるまで
回復するのは容易ではない

647
00:43:07,060 --> 00:43:11,340
周荘主が現在このように
経脈を強引に剥がし開くことは

648
00:43:11,340 --> 00:43:13,180
一時的には苦痛であろうが

649
00:43:13,180 --> 00:43:16,140
将来的には良いことなのだ

650
00:43:17,400 --> 00:43:18,340
張成嶺:あ〜

651
00:43:18,340 --> 00:43:19,980
そういうことでしたか

652
00:43:19,980 --> 00:43:23,540
どおりで私が以前 師父と温前輩の技から
何か学ぶつもりで見ていたら

653
00:43:23,540 --> 00:43:25,100
結局目にした全てが

654
00:43:25,100 --> 00:43:27,380
“黒虎掏心”で “猴子偸桃”で
(*黑虎掏心=心臓を狙う技 *猴子偷桃=金的攻撃)

655
00:43:27,380 --> 00:43:29,660
“乾坤大激転”の類いの技だったわけです

656
00:43:29,660 --> 00:43:32,580
私はすっかり磨かれる前に戻った
名手の技なのだと思っていましたが
(*返璞归真=飾り気のない基本に戻ること)

657
00:43:32,580 --> 00:43:35,760
師父の経脈がまだ完全に
回復していないせいだったんですね

658
00:43:35,760 --> 00:43:36,820
大巫:待て

659
00:43:38,880 --> 00:43:41,080
七爺:き 君は習いに行ったのかい?

660
00:43:41,080 --> 00:43:43,980
張成嶺:うん 師父はいつも
私の技が見苦しいと嫌ってますが

661
00:43:43,980 --> 00:43:48,920
でも師父も温前輩としょっちゅう
地面を転がり回っていて とても下品ですよね?

662
00:43:48,920 --> 00:43:49,940
七爺:アイヨー

663
00:43:49,940 --> 00:43:54,660
まことに風紀が乱れてる 風紀びん乱だ
(*有伤风化=社会や教育に悪影響な言動)

664
00:43:58,440 --> 00:43:59,520
大巫:飲め

665
00:43:59,540 --> 00:44:01,080
張成嶺:ありがとうございます

666
00:44:01,080 --> 00:44:02,320
大巫:学ぶな

667
00:44:02,320 --> 00:44:02,880
張成嶺:え?

668
00:44:02,880 --> 00:44:04,580
大巫:よくない

669
00:44:05,120 --> 00:44:06,740
七爺:アイヤ

670
00:44:06,820 --> 00:44:08,200
我々は飲んだら帰ろうか

671
00:44:08,200 --> 00:44:09,960
張成嶺:え? でも師父たちはまだ……

672
00:44:09,960 --> 00:44:11,780
七爺:彼らは気にするな

673
00:44:11,780 --> 00:44:14,460
普段 子舒は夕暮れ時
薬を飲んだ後に辛いだけだから

674
00:44:14,460 --> 00:44:15,860
彼ら二人 一晩休戦すれば

675
00:44:15,860 --> 00:44:17,620
翌日また再開できてた

676
00:44:17,620 --> 00:44:18,700
今日はね

677
00:44:18,700 --> 00:44:21,380
恐らくいつまで打ち合い続けるか
分からないだろうね

678
00:44:21,380 --> 00:44:22,400
行くよ

679
00:44:22,400 --> 00:44:23,580
大巫:うん

680
00:44:24,320 --> 00:44:25,700
張成嶺:ふぅ

681
00:44:25,700 --> 00:44:28,780
一緒にいたら仲良く過ごすべきじゃないのかな

682
00:44:28,780 --> 00:44:33,620
師父と温前輩は毎日もみくちゃになって
まるで子供みたいで

683
00:44:33,620 --> 00:44:37,940
ちょっと あまりにだらしないのでは……

684
00:44:37,940 --> 00:44:43,060
──二大名手は徹底して二大ゴロツキに
成り下がり、知らぬ間にうっかり子弟を
誤った道に導いてしまっていた

685
00:44:43,060 --> 00:44:46,060
次の日、大巫は七爺と共に
別れを告げて去って行った

686
00:44:47,540 --> 00:44:51,900
温客行が周子舒の肩に手をやり
彼を抱きしめようとすると、周子舒は
その力を利用して彼の腕から翻って抜け出した

687
00:44:51,900 --> 00:44:56,760
着地前に温客行の顎を蹴り上げて指弾を打つと
温客行は片膝を付きそうになったが、一瞬で
周子舒の脛を掬って二人団子になって転がった

688
00:44:58,940 --> 00:45:03,020
どうせ地上には氷か雪しかなく
幾ら転がっても綺麗で汚れもしない

689
00:45:04,180 --> 00:45:08,160
温客行はいやらしい笑顔で周子舒を下にして
両手を顔の両側についた

690
00:45:08,160 --> 00:45:11,040
温客行:今回は降参でしょ?

691
00:45:11,040 --> 00:45:13,220
周子舒:お前の技は卑しすぎる

692
00:45:13,600 --> 00:45:16,700
温客行:明らかにあなたが先に謀った

693
00:45:16,860 --> 00:45:18,220
周子舒:おい

694
00:45:18,220 --> 00:45:19,180
老温

695
00:45:19,180 --> 00:45:20,140
温客行:ん?

696
00:45:20,140 --> 00:45:22,300
──温客行は彼の首筋を舐めた

697
00:45:22,300 --> 00:45:23,980
温客行:何?

698
00:45:25,480 --> 00:45:27,700
周子舒:俺はな……

699
00:45:28,780 --> 00:45:30,540
──その瞬間、胸に肘を打ち込んだ

700
00:45:30,540 --> 00:45:34,800
一瞬にして持ち上げられ回転すると周子舒に
背中を向けて地面に押さえつけられた

701
00:45:34,800 --> 00:45:36,500
周子舒はさっきの真似で耳に息を吹きかけた

702
00:45:36,500 --> 00:45:38,020
周子舒:おい

703
00:45:38,020 --> 00:45:39,740
どうだ

704
00:45:40,300 --> 00:45:42,420
今回は降参か?

705
00:45:42,420 --> 00:45:43,940
温客行:阿絮

706
00:45:43,940 --> 00:45:46,280
もしかして私を縛るつもりなの?

707
00:45:46,280 --> 00:45:47,420
周子舒:ふむ

708
00:45:47,420 --> 00:45:49,420
いい考えだ

709
00:45:49,420 --> 00:45:53,220
──手を伸ばして穴道を突いて
彼が動けなくなったのを見てから脇に腰を下ろし
彼の顔を撫でた

710
00:45:53,220 --> 00:45:54,860
周子舒:小娘子

711
00:45:54,860 --> 00:45:56,860
お前を押さえるために

712
00:45:56,860 --> 00:45:58,920
夫は汗をかいてるんだぞ

713
00:45:58,920 --> 00:46:00,380
温客行:えぇ?

714
00:46:00,380 --> 00:46:02,060
見せてみて

715
00:46:02,060 --> 00:46:03,380
アイヨ

716
00:46:03,380 --> 00:46:04,560
本当に汗かいたの?

717
00:46:04,560 --> 00:46:05,360
周子舒:おま──

718
00:46:05,360 --> 00:46:07,100
温客行:風邪引かないでね

719
00:46:07,100 --> 00:46:08,760
──額に手を伸ばされると
周子舒は驚いて飛び退いた

720
00:46:08,760 --> 00:46:09,960
周子舒:穴位(ツボ)を移せるのか?

721
00:46:09,960 --> 00:46:11,700
温客行:できることは多いんだよ

722
00:46:13,620 --> 00:46:15,920
周子舒:もうやらん 戻るぞ

723
00:46:15,920 --> 00:46:17,340
温客行:え?

724
00:46:18,580 --> 00:46:20,020
ねぇ

725
00:46:20,020 --> 00:46:23,460
大巫の薬をもう飲まないのは どんな感じ?

726
00:46:23,720 --> 00:46:26,340
周子舒:まるで凌遅されるような薬を
我慢して飲まなくていいんだ
(*凌迟=生きたまま肉を削ぎ落としていく拷問)

727
00:46:26,340 --> 00:46:28,140
もちろん良いぞ

728
00:46:30,380 --> 00:46:31,660
えぇ?

729
00:46:32,140 --> 00:46:33,820
酒か?

730
00:46:34,980 --> 00:46:36,540
温客行:うん

731
00:46:39,340 --> 00:46:43,060
あなたが午後に坊主の訓練をしてる時に
下山して買って来たんだ

732
00:46:43,060 --> 00:46:46,420
──彼は周子舒に擦り寄ってくっつき
周子舒の横顔をキラキラとした目で見つめた

733
00:46:46,420 --> 00:46:47,460
周子舒:ん?

734
00:46:47,660 --> 00:46:49,460
何を見てるんだ?

735
00:46:51,180 --> 00:46:53,420
温客行:私が薬を盛るのは怖くない?

736
00:46:53,420 --> 00:46:55,100
周子舒:何の薬だ?

737
00:46:55,300 --> 00:46:57,740
温客行:何の薬だと思う?

738
00:46:58,400 --> 00:47:00,060
周子舒:お前にはできんさ

739
00:47:00,060 --> 00:47:02,460
俺に春薬を盛って

740
00:47:02,460 --> 00:47:06,540
俺が狂気に陥ってお前を
やってしまうのは怖くないか?

741
00:47:06,920 --> 00:47:08,820
温客行:アイヤー そうだ

742
00:47:08,820 --> 00:47:11,380
やっぱりちょっと面倒だね

743
00:47:11,380 --> 00:47:13,740
──頬杖をついて周子舒を眺め回した

744
00:47:13,740 --> 00:47:15,820
温客行:思い切って私に一回譲ってよ

745
00:47:15,820 --> 00:47:17,140
そうでないと

746
00:47:17,140 --> 00:47:19,060
もうこのままだったら

747
00:47:19,060 --> 00:47:21,700
我々二人とも僧侶になってしまうと思うよ

748
00:47:22,300 --> 00:47:25,060
周子舒:ならどうして俺に譲らないんだ?

749
00:47:25,180 --> 00:47:26,580
温客行:私が?

750
00:47:26,580 --> 00:47:29,220
あなたに何度か譲ってもいいけど

751
00:47:29,220 --> 00:47:31,060
だけど……

752
00:47:31,260 --> 00:47:32,940
周子舒:まだやるのか?

753
00:47:32,940 --> 00:47:35,460
──彼の腰を這い回る手を周子舒が掴むと

754
00:47:35,460 --> 00:47:37,900
温客行は酒壺を奪い取った

755
00:47:41,680 --> 00:47:43,900
温客行:もういい もうしない

756
00:47:45,580 --> 00:47:47,380
アイヨー

757
00:47:47,540 --> 00:47:49,860
今日は力が出ないな

758
00:47:49,860 --> 00:47:52,020
──この旦那のその言葉で周子舒はホッとした

759
00:47:53,100 --> 00:47:55,060
周子舒:俺の場所を空けろ

760
00:48:02,380 --> 00:48:05,580
──温客行は牀の奥に移動して天蓋を仰ぎ見た

761
00:48:05,580 --> 00:48:08,640
突然神が現れたかのように
しばらくぼんやりしていた

762
00:48:08,640 --> 00:48:10,260
温客行:阿絮

763
00:48:12,020 --> 00:48:14,620
あなたがすっかり良くなったら

764
00:48:14,620 --> 00:48:16,940
私と一度山を下りよう

765
00:48:17,760 --> 00:48:19,100
周子舒:うん

766
00:48:19,620 --> 00:48:23,100
俺は今もうほぼ治ってる 下山できる

767
00:48:23,860 --> 00:48:25,780
何をしに行くんだ?

768
00:48:28,980 --> 00:48:30,580
どうした?

769
00:48:30,580 --> 00:48:33,500
──温客行は瞼を震わせて辛うじて笑った

770
00:48:33,940 --> 00:48:35,780
温客行:何でもない

771
00:48:36,460 --> 00:48:39,140
当時 私の両親は荒野に屍を晒して

772
00:48:39,540 --> 00:48:41,860
衣冠塚さえもない

773
00:48:42,420 --> 00:48:44,100
私は不孝者だ

774
00:48:44,100 --> 00:48:47,940
二十年以上も 戻ってみようとしなかった

775
00:48:48,300 --> 00:48:50,180
だから必ず……

776
00:48:52,020 --> 00:48:55,540
──周子舒はゆっくり手を伸ばし、彼の腰に回した

777
00:48:55,540 --> 00:49:03,420
温客行は大人しく横を向き
彼の背中を引き寄せて指を蝴蝶の骨に添わせ
その輪郭をなぞると、彼の肩に顔を埋めた

778
00:49:03,420 --> 00:49:05,860
温客行:それから阿湘……

779
00:49:06,740 --> 00:49:09,500
私ももう一度彼女を見てやりたい

780
00:49:11,240 --> 00:49:12,900
周子舒:ああ

781
00:49:16,840 --> 00:49:19,100
温客行:私の半生は

782
00:49:19,260 --> 00:49:21,900
ずっと一人ぼっちの人間だった

783
00:49:23,460 --> 00:49:25,980
阿湘がいると思ってた……

784
00:49:27,620 --> 00:49:30,500
でも阿湘もいなくなった

785
00:49:31,220 --> 00:49:33,740
あなたがずっと目覚めなかった時

786
00:49:34,420 --> 00:49:37,220
大巫のように落ち着いていられなくて

787
00:49:37,580 --> 00:49:39,500
考えてしまった

788
00:49:39,660 --> 00:49:41,780
万一あなたが……

789
00:49:42,020 --> 00:49:44,260
私は……

790
00:49:44,260 --> 00:49:45,560
──周子舒は肩が濡れた気がして下を見た

791
00:49:45,560 --> 00:49:47,820
周子舒:老温……

792
00:49:48,360 --> 00:49:50,580
温客行:私を見ないで

793
00:49:50,580 --> 00:49:52,860
──温客行は手を振って灯りを消した

794
00:49:53,260 --> 00:49:57,620
周子舒はあまり人を慰めたことがなく
ただ彼がきつく抱きしめるに任せるしかなかった

795
00:49:57,620 --> 00:49:59,420
温客行:阿絮

796
00:49:59,420 --> 00:50:01,900
──ゆっくりと温客行の手が
彼の身体をさまよい始めた

797
00:50:01,900 --> 00:50:04,340
温客行:阿絮

798
00:50:04,940 --> 00:50:07,020
阿絮……

799
00:50:07,020 --> 00:50:10,420
──周子舒は些か不快だったが
その人に茶化す意図は少しもなく

800
00:50:10,420 --> 00:50:14,200
ただ極めて不確かな、少しの
怯えと焦りを帯びているようだった

801
00:50:14,200 --> 00:50:15,620
(周子舒):はぁ

802
00:50:15,860 --> 00:50:17,740
もういい

803
00:50:18,220 --> 00:50:20,460
なんとも哀れだ

804
00:50:20,460 --> 00:50:24,260
一度だけ 一度だけ譲ってやる

805
00:50:24,840 --> 00:50:27,020
温客行:阿絮……

806
00:50:28,020 --> 00:50:33,860
──彼は多大な自制の力で自身を弛緩させ
生まれて初めて無防備に別の者に自分を明け渡した

807
00:50:33,860 --> 00:50:36,100
温客行:阿絮

808
00:50:36,100 --> 00:50:39,420
──髪が絡まって鬢が縺れた

809
00:50:39,900 --> 00:50:42,340
温客行:もうどこにも行かないで……

810
00:50:48,320 --> 00:50:49,820
周子舒:行かない……

811
00:50:50,860 --> 00:50:52,900
行かないさ

812
00:50:52,920 --> 00:50:55,100
温客行:阿絮……

813
00:51:06,620 --> 00:51:14,300
──たとえ極寒の地であっても
ほんのりとした温かさが牀の下から静かに伝わって
一輪の花が咲くかのようだった

814
00:51:28,620 --> 00:51:32,080
次の日の朝、周子舒は珍しく遅くまで眠っていた

815
00:51:32,800 --> 00:51:36,180
温客行は目を開くと懐の人を
眺めて少し満足げに微笑んだ

816
00:51:36,180 --> 00:51:38,240
彼が動くと周子舒が目覚めた

817
00:51:38,240 --> 00:51:41,800
誰かさんに必死に抱きしめられている気がした

818
00:51:41,800 --> 00:51:43,220
温客行:あ?

819
00:51:43,220 --> 00:51:44,540
(温客行):起きた?

820
00:51:44,540 --> 00:51:47,720
──身体のどこも違和感しかなかった

821
00:51:47,720 --> 00:51:48,260
周子舒:温客行お前……

822
00:51:48,260 --> 00:51:49,820
温客行:阿絮……

823
00:51:49,900 --> 00:51:53,620
──彼が罵るのを警戒して、瞬時に笑顔を殺し
複雑な顔つきで深く周子舒を見つめた

824
00:51:53,960 --> 00:51:54,940
周子舒:お

825
00:51:55,260 --> 00:51:57,300
お前は勝手に起きろ

826
00:51:57,300 --> 00:51:58,960
騒ぐな

827
00:51:58,960 --> 00:52:00,500
(温客行):ふっ

828
00:52:00,500 --> 00:52:03,180
──温客行は再び背後から抱き込んで横たわった

829
00:52:03,180 --> 00:52:07,260
(温客行):心が柔らかいのは
腰が柔らかいのに比べて魅力的だけどね

830
00:52:08,860 --> 00:52:09,940
だけど……

831
00:52:10,420 --> 00:52:13,020
もしかして今後はしたくなるたびに……

832
00:52:13,020 --> 00:52:16,660
尤もらしく泣いたふりをする必要があるの?

833
00:52:16,660 --> 00:52:18,180
──心配になってちらりと横の人を見た

834
00:52:18,180 --> 00:52:19,420
温客行:まあいい

835
00:52:19,420 --> 00:52:21,780
船が橋を通るときは自然と真っ直ぐになるものだし
(*船到桥头自然直=案ずるより産むが易し)

836
00:52:21,780 --> 00:52:23,940
きっとなんとかなる

837
00:52:24,700 --> 00:52:28,440
──だけどちょっと……悲劇のようだ

838
00:52:57,640 --> 00:53:00,340
周子舒:私がいつ乞食だと言った?

839
00:53:00,460 --> 00:53:02,600
壁の隅を陣取って日向ぼっこしてるだけだ

840
00:53:02,600 --> 00:53:04,020
温客行:ここは人の世 人の世は
魑魅魍魎がいるべきではありません
 
壁の隅を陣取って日向ぼっこしてるだけだ

841
00:53:04,020 --> 00:53:06,680
温客行:ここは人の世 人の世は
魑魅魍魎がいるべきではありません
 
 

842
00:53:06,680 --> 00:53:07,740
温客行:ここは人の世 人の世は
魑魅魍魎がいるべきではありません
葉白衣:一年 生きた人をやって
そして死ぬというのは

843
00:53:07,740 --> 00:53:09,340
葉白衣:一年 生きた人をやって
そして死ぬというのは

844
00:53:09,340 --> 00:53:13,000
あの場所で幾百年 生きながらの
死人となって過ごすよりもましなのだ

845
00:53:13,000 --> 00:53:15,500
張成嶺:どうしてお前たちは私の死を願うんだ?

846
00:53:15,500 --> 00:53:17,620
私が何か悪い事をしたのか?

847
00:53:17,620 --> 00:53:20,540
どうして他の人は生きて 私はダメなんだ?!

848
00:53:20,540 --> 00:53:23,740
顧湘:掟は人が決めたものだ

849
00:53:24,000 --> 00:53:26,300
彼らに従いたくなかったら

850
00:53:26,300 --> 00:53:28,220
すぐに

851
00:53:28,860 --> 00:53:29,740
覚悟を決めて……

852
00:53:29,740 --> 00:53:30,620
曹蔚寧:師父
覚悟を決めて……

853
00:53:30,620 --> 00:53:30,900
曹蔚寧:師父
 

854
00:53:31,180 --> 00:53:35,420
あなたの幼い頃からの教え 言必ず行 行必ず果

855
00:53:35,620 --> 00:53:36,940
私は一人の姑娘に対し
食言して肥えることはできません

856
00:53:36,940 --> 00:53:38,860
龍雀:そうか そうか
私は一人の姑娘に対し
食言して肥えることはできません

857
00:53:38,860 --> 00:53:39,420
龍雀:そうか そうか
 
 

858
00:53:39,860 --> 00:53:42,380
めくれてよかった……

859
00:53:43,580 --> 00:53:45,180
莫懐空:はぁ

860
00:53:45,180 --> 00:53:46,700
この江湖では

861
00:53:47,900 --> 00:53:53,660
常に生死を顧みぬ勝負を望む者が
いることは 避けられぬのだ

862
00:53:53,800 --> 00:53:55,960
“不过 蓬蒿旧梦”
(ただ 草葉の旧き夢に過ぎぬ)

863
00:53:55,960 --> 00:53:59,920
“自在余生 懒知欢与恨”
(自在なる余生に 愛憎を知ることなく)

864
00:53:59,920 --> 00:54:02,400
“偏要 刀剑交锋”
(ひとえに 刀剣を交え)

865
00:54:02,400 --> 00:54:06,680
“把盏笑问 慰这孤独人”
(盃を掲げ笑って問えば 孤独なる人の慰めになろう)

866
00:54:06,680 --> 00:54:09,920
“渺渺黄泉 只葬狂嗔”
(渺渺たる黄泉に ただ葬られし狂気)

867
00:54:09,920 --> 00:54:14,240
“茫茫鬼蜮 谁为谁掌灯”
(茫々たる悪意の中で 誰がために火を灯すのか)

868
00:54:14,240 --> 00:54:20,120
“此处长明 有红尘”
(ここは長明 紅塵に有り)

869
00:54:46,600 --> 00:54:53,040
“万鬼成窟寸光微漏”
(万鬼の巣窟 かすかな光を漏らす)

870
00:54:53,040 --> 00:54:59,680
“以免惊鸿白衣瘦”
(細き白衣の美しき君を離さぬよう)

871
00:54:59,680 --> 00:55:04,560
“倾心日久薄衾胜貉裘”
(日々心寄せれば毛皮に勝る薄衾)

872
00:55:04,560 --> 00:55:11,880
“如厮守 巴山夜雪也暖昼”
(寄り添い合えば 巴山の夜雪も昼は暖かく)

873
00:55:11,880 --> 00:55:15,120
“玉壶冰心碾转谁手”
(一片の氷心 誰の手に渡ろうとも)

874
00:55:15,120 --> 00:55:19,000
“情丝剥尽才知剔透”
(情の糸を解けば透徹たるを知る)

875
00:55:19,000 --> 00:55:25,560
“最不忍一眼春风难如旧”
(吹きゆく春風 耐え難くともいつかは変わる)

876
00:55:26,240 --> 00:55:28,360
“不过 蓬蒿旧梦”
(ただ 草葉の旧き夢に過ぎぬ)

877
00:55:28,360 --> 00:55:32,520
“自在余生 懒知欢与恨”
(自在なる余生に 愛憎を知ることなく)

878
00:55:32,520 --> 00:55:34,800
“偏要 刀剑交锋”
(ひとえに 刀剣を交え)

879
00:55:34,800 --> 00:55:39,200
“把盏笑问 慰这孤独人”
(盃を掲げ笑って問えば 孤独なる人の慰めになろう)

880
00:55:39,200 --> 00:55:42,320
“渺渺黄泉 只葬狂嗔”
(渺渺たる黄泉に ただ葬られし狂気)

881
00:55:42,320 --> 00:55:46,640
“茫茫鬼蜮 谁为谁掌灯”
(茫々たる悪意の中で 誰がために火を灯すのか)

882
00:55:46,640 --> 00:55:51,680
“此处长明 有红尘”
(ここは長明 紅塵に有り)

883
00:55:51,680 --> 00:55:54,320
“不过 天光一缕”
(ただ 一縷の天光に過ぎぬ)

884
00:55:54,320 --> 00:55:58,480
“生死几轮 何幸付热忱”
(重ねた生死に 情熱注ぐことの幸運を)

885
00:55:58,480 --> 00:56:00,760
“哪管 前尘旧闻”
(どんな過去の風聞でも)

886
00:56:00,760 --> 00:56:05,040
“是假是真 心动有余温”
(嘘か真か 心動かす余熱があり)

887
00:56:05,040 --> 00:56:08,160
“迢迢风崖 无可容身”
(迢迢たる風崖 身の置き場なく)

888
00:56:08,160 --> 00:56:12,400
“痴痴人间 从不止方寸”
(痴れたる人の世 思いのままに)

889
00:56:12,400 --> 00:56:18,480
“天涯解剑 好寻春”
(天涯に剣を放ち 春を尋ねる)

890
00:56:36,720 --> 00:56:38,140
温客行:阿絮

891
00:56:38,140 --> 00:56:40,520
お酒が温まったよ 飲んでみて

892
00:56:40,520 --> 00:56:41,700
周子舒:ん

893
00:56:48,620 --> 00:56:52,500
成嶺は最近武功の型の練習にとても精進している

894
00:56:52,700 --> 00:56:53,400
思うに……

895
00:56:53,400 --> 00:56:55,560
温客行:成嶺に一度 経験を積ませたいの?

896
00:56:55,560 --> 00:56:57,060
周子舒:うん

897
00:56:58,660 --> 00:57:00,380
彼は江湖から来たから

898
00:57:00,380 --> 00:57:03,060
いずれ帰るなら一度は単身で行く必要がある

899
00:57:06,200 --> 00:57:07,580
温客行:ん

900
00:57:07,780 --> 00:57:09,620
なら行かせよう

901
00:57:09,620 --> 00:57:13,100
我々は後ろで見ていれば 問題にならない

902
00:57:13,100 --> 00:57:14,380
ん?

903
00:57:16,580 --> 00:57:18,740
江湖がごたごた乱れても

904
00:57:18,860 --> 00:57:20,940
あなたの相伴があれば

905
00:57:20,940 --> 00:57:24,420
見えるもの全てが人の世だ

906
00:57:27,480 --> 00:57:28,420
周子舒:老温

907
00:57:29,140 --> 00:57:31,080
言うなれば……

908
00:57:31,080 --> 00:57:32,460
温客行:何?

909
00:57:32,820 --> 00:57:35,020
それって心動かされたから

910
00:57:35,020 --> 00:57:37,660
私に気持ちを全部ぶちまけるつもりなの?

911
00:57:37,800 --> 00:57:39,260
周子舒:そうだ

912
00:57:39,900 --> 00:57:41,860
俺が言いたいのは──

913
00:57:41,860 --> 00:57:45,700
言葉少なく 酒多く

914
00:57:46,980 --> 00:57:48,060
温客行:チッ

915
00:57:48,060 --> 00:57:49,900
本当にのんべえだね

916
00:57:49,900 --> 00:57:53,380
いつでも一杯の酒を忘れない……

917
00:57:56,320 --> 00:57:59,260
(周子舒):俺の心にお前がいる

918
00:58:02,160 --> 00:58:05,140
温客行 周子舒:晋江文学城 Priest原作

919
00:58:05,140 --> 00:58:08,220
猫耳FM 音熊聯萌連合出品

920
00:58:08,220 --> 00:58:12,260
古風武侠ラジオドラマ《天涯客》

921
00:58:12,260 --> 00:58:14,340
終劇






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