小劇場 - 携遊
1
00:00:09,600 --> 00:00:14,520
──張成嶺は手に入れた大荒を胸に抱き
馬の背に伏して涎を垂らしながら居眠りしていた
2
00:00:14,520 --> 00:00:18,100
高小怜は彼らと特に親しいわけではなく
物静かに後ろを付いて来ていた
3
00:00:18,100 --> 00:00:19,140
曹蔚寧:高姑娘
4
00:00:19,140 --> 00:00:21,160
高小怜:曹少侠 どうしました?
5
00:00:21,160 --> 00:00:21,860
曹蔚寧:ああ
6
00:00:21,860 --> 00:00:23,340
阿湘がどうも少しおかしいので
7
00:00:23,340 --> 00:00:25,580
前に行って彼女を見てみようかと
8
00:00:25,660 --> 00:00:29,100
でも張小兄弟が馬の上で眠ってるんです
9
00:00:29,820 --> 00:00:31,540
高小怜:張小公子の手綱を私にください
10
00:00:31,540 --> 00:00:33,020
私が引いて行きます
11
00:00:34,140 --> 00:00:35,580
曹蔚寧:ありがとう高姑娘
12
00:00:40,180 --> 00:00:41,460
阿湘
13
00:00:41,900 --> 00:00:43,220
顧湘:ん?
14
00:00:43,540 --> 00:00:45,980
曹蔚寧:どうしたの? 君もよく眠れなかった?
15
00:00:45,980 --> 00:00:49,100
だったら張小兄弟みたいに馬の背で一眠りすれば
16
00:00:49,100 --> 00:00:51,100
僕が手綱を引くのを手伝う
17
00:00:51,660 --> 00:00:52,980
顧湘:いらない
18
00:00:54,060 --> 00:00:57,980
(曹蔚寧):普段は溌剌としてる人が
突然こんなしおらしくなって
19
00:00:57,980 --> 00:01:00,020
病に罹ったんじゃないよね
20
00:01:00,020 --> 00:01:00,940
──慌てて手を彼女の額に伸ばした
21
00:01:00,940 --> 00:01:03,580
曹蔚寧:阿湘 一体どうしたの?
22
00:01:03,580 --> 00:01:07,500
昨晩 毒蝎どもがやって来て以降 ずっと変だよ
23
00:01:08,500 --> 00:01:10,420
怪我はしてないはずだよね?!
24
00:01:10,420 --> 00:01:12,300
顧湘:アイヤ 違うよ
25
00:01:12,300 --> 00:01:14,020
──顧湘は彼の手を振り払って
後ろの二人を振り返った
26
00:01:14,020 --> 00:01:16,260
顧湘:ん〜……えっと……
27
00:01:17,020 --> 00:01:18,520
あっ あのさ
28
00:01:18,520 --> 00:01:19,340
曹蔚寧:ん?
29
00:01:19,340 --> 00:01:22,420
顧湘:例えばあんたが 篤実で
ちょっと馬鹿だと思っていて
30
00:01:22,420 --> 00:01:24,540
いつも三回蹴っても屁も出ない
31
00:01:24,540 --> 00:01:26,340
他人が言うこと何でもいい
32
00:01:26,340 --> 00:01:28,820
まるで頭が生えてないみたいな人が
33
00:01:28,820 --> 00:01:35,940
一体どうしたら全ての人に背を向けて
みんなを陥れる大魔頭になれるんだ?
34
00:01:36,780 --> 00:01:38,540
曹蔚寧:それ……
35
00:01:42,260 --> 00:01:43,180
ああっ
36
00:01:43,740 --> 00:01:44,900
阿湘
37
00:01:44,900 --> 00:01:48,580
君は張小兄弟を何か誤解してるね?
38
00:01:49,100 --> 00:01:51,100
顧湘:曹って奴は死んでこいよ!
39
00:01:51,100 --> 00:01:52,140
曹蔚寧:やめてよ
40
00:01:52,140 --> 00:01:54,060
僕が死んだら君は後家になってしまうよ
41
00:01:54,060 --> 00:01:56,780
年若くしての後家暮らしは あまりに可哀想だよ
42
00:01:57,820 --> 00:01:59,820
(顧湘):うん……それもそうだ
43
00:01:59,820 --> 00:02:04,100
主人が約束した二条半の嫁荷を
まだ手に入れてないのは 損だ
44
00:02:04,100 --> 00:02:05,260
顧湘:ふん!
45
00:02:05,260 --> 00:02:07,260
──顧湘は振り上げた腕を下ろした
46
00:02:07,260 --> 00:02:08,380
曹蔚寧:阿湘
47
00:02:08,380 --> 00:02:10,900
一体何が原因で不機嫌なの?
48
00:02:11,300 --> 00:02:14,420
ねえ 君がもしすっきりしないなら
僕を殴ってもいいよ
49
00:02:14,420 --> 00:02:16,220
やり返さないって保証する
50
00:02:16,220 --> 00:02:17,580
顧湘:殴るわけないよ!
51
00:02:17,580 --> 00:02:19,780
あたしはまだ後家さんになりたくない
52
00:02:22,060 --> 00:02:26,140
あたしがただ理解できないだけだ
53
00:02:26,140 --> 00:02:29,220
いつもだいたい 主人の言うことは全然分からなくて
54
00:02:29,220 --> 00:02:31,500
彼の飲食や寝起きに仕えるのを除いても
55
00:02:31,500 --> 00:02:34,540
たまにおしゃべりして彼の気晴らしするだけ
56
00:02:34,980 --> 00:02:36,500
あたしと彼……
57
00:02:37,260 --> 00:02:38,660
彼らは
58
00:02:38,660 --> 00:02:40,320
全然同じ人間じゃない
59
00:02:40,320 --> 00:02:42,400
──解語の花にも紅顔の知己にもなれない
60
00:02:42,400 --> 00:02:43,600
曹蔚寧:阿湘
61
00:02:43,600 --> 00:02:44,700
僕と君
62
00:02:44,700 --> 00:02:46,900
僕と君は同じ人間だよ
63
00:02:51,540 --> 00:02:54,940
(顧湘):風崖山の下にいる者は
みんな碌でもない奴だ
64
00:02:55,300 --> 00:02:58,900
だけど主人がいるから 彼らは誰も
あたしに目をつける勇気はなかった……
65
00:02:58,900 --> 00:03:00,500
その上 老孟は更に
66
00:03:00,700 --> 00:03:02,820
主人に対して いつも言を聞き計に従い
(*言听计从=人の言いなり)
67
00:03:02,820 --> 00:03:04,420
誰に会ってもへらへら笑って
68
00:03:04,420 --> 00:03:09,220
果ては主人の飼ってる犬と
言われても反論しなかった……
69
00:03:10,860 --> 00:03:13,020
こんな人なのに……
70
00:03:13,340 --> 00:03:15,460
まさか本当に彼が鍵を盗んで
71
00:03:15,460 --> 00:03:17,700
鬼谷を裏切ったのか?
72
00:03:18,300 --> 00:03:22,940
まさか最初に張家を滅ぼしたのも
薛方の名を騙った老孟か?
73
00:03:23,020 --> 00:03:27,140
その時から始まって 趙の奴と繋がってたのか?
74
00:03:27,140 --> 00:03:29,220
──曹蔚寧はまだ彼女が眉をひそめているのを見た
75
00:03:29,220 --> 00:03:30,220
曹蔚寧:阿湘……
76
00:03:30,220 --> 00:03:31,140
顧湘:ん?
77
00:03:31,220 --> 00:03:33,780
曹蔚寧:実は昨日 周兄たちの話を聞いて
78
00:03:33,780 --> 00:03:35,640
少しだけど分かったんだ
79
00:03:35,640 --> 00:03:36,500
顧湘:え?
80
00:03:36,500 --> 00:03:37,780
──杏核のように大きな目を見開いた
81
00:03:37,780 --> 00:03:39,580
曹蔚寧:君にちょっと分析を聞かせてあげるよ……
82
00:03:39,580 --> 00:03:42,500
彼らが昨日話していた“琉璃甲”とそれから“鍵”だけど
83
00:03:42,500 --> 00:03:44,940
彼らは琉璃甲の中のものを得るために
84
00:03:44,940 --> 00:03:47,460
その五つの欠片のものを
すっかり探さないといけなくて
85
00:03:47,460 --> 00:03:49,500
更に鍵も必要だった
86
00:03:49,500 --> 00:03:50,700
この鍵はね
87
00:03:50,700 --> 00:03:54,460
張小兄弟が言うには
そのびっこの悪人の手にあるんだ
88
00:03:55,340 --> 00:03:56,620
顧湘:うん……
89
00:03:57,300 --> 00:03:58,340
曹蔚寧:まず始めに
90
00:03:58,340 --> 00:04:00,460
この悪人と趙敬は仲間で
91
00:04:00,460 --> 00:04:03,900
一緒になって悪事を働いて
他の琉璃甲を奪い取って来た
92
00:04:04,140 --> 00:04:07,620
趙敬は沈家の家主を殺害して
また高大侠に罪を擦り付け
93
00:04:07,620 --> 00:04:09,780
全部の琉璃甲を手に入れた
94
00:04:09,900 --> 00:04:13,260
彼らは今 一人は琉璃甲を 一人は鍵を持ってる
95
00:04:13,260 --> 00:04:16,500
それで 分け前が不均衡だって
やってるんじゃないかな
96
00:04:17,580 --> 00:04:20,540
顧湘:そういうことらしいね──
97
00:04:20,860 --> 00:04:22,980
それじゃ誰が張成嶺を殺そうとしてるんだ?
98
00:04:23,300 --> 00:04:24,420
曹蔚寧:そう思うよね
99
00:04:24,420 --> 00:04:25,980
あの蝎子の話し方によると
100
00:04:25,980 --> 00:04:29,420
きっと彼らはあのびっこの悪人と
一緒に張家を滅ぼしたんだ
101
00:04:29,860 --> 00:04:33,620
あの時張小兄弟はずっと
隠れてその悪人を見ていた
102
00:04:33,620 --> 00:04:35,060
彼は一時的に忘れているけど
103
00:04:35,060 --> 00:04:37,940
悪人は彼が思い出して
自身の正体が露呈するのを恐れて
104
00:04:37,940 --> 00:04:39,700
人を雇って彼を殺そうとした──
105
00:04:39,940 --> 00:04:40,860
そうだ
106
00:04:40,860 --> 00:04:42,820
趙敬はこの事を知ってるに違いない
107
00:04:42,820 --> 00:04:45,100
そうでないと彼もあんな騒がしい時に
108
00:04:45,100 --> 00:04:47,220
周兄たちに張小兄弟を
連れて行かせるなんてできない
109
00:04:47,220 --> 00:04:48,980
張小兄弟が連れて行かれるのを待てば
110
00:04:48,980 --> 00:04:51,380
人を殺すのに都合がいいじゃないか
111
00:04:52,060 --> 00:04:56,580
だけど どうしてその鬼谷の悪人は
自身の正体がバレるのを恐れているのかな?
112
00:04:56,860 --> 00:04:59,060
夜中に考えて気付いた
113
00:04:59,060 --> 00:05:02,020
恐らく鬼谷内部でも叛徒(はんと)を調べていたんだ
114
00:05:02,020 --> 00:05:04,380
調べて出てきたら殺すつもりだった
115
00:05:04,460 --> 00:05:05,900
(顧湘):わぁ
116
00:05:06,500 --> 00:05:11,300
なんと全く 彼に目の見えない猫が
死んだ鼠に出くわされるとは
(*瞎猫碰见死耗子=まぐれ当たり)
117
00:05:11,660 --> 00:05:14,460
顧湘:曹兄さんやっぱりすごい
118
00:05:14,660 --> 00:05:18,300
曹蔚寧:僕のあてずっぽうなだけだよ
119
00:05:20,260 --> 00:05:22,940
僕たちもさ 庸人自ら擾(みだ)す をやめて
(*庸人自扰=不必要に事を荒立てる)
120
00:05:22,940 --> 00:05:25,660
趙敬の陰謀を暴いて 葉大侠を探したら
121
00:05:25,660 --> 00:05:27,580
戻ってゆっくり暮らそう
122
00:05:27,940 --> 00:05:29,500
君と僕でね
123
00:05:29,660 --> 00:05:33,780
顧湘:じゃあ もしあんたの師父が
父さん母さんのいないお転婆を嫌がって
124
00:05:33,780 --> 00:05:35,520
あたしたちが一緒になるのを
望まなかったらどうする?
125
00:05:35,520 --> 00:05:36,020
曹蔚寧:なら僕を拐(かどわ)かして
二人でかけおちだ!
あたしたちが一緒になるのを
望まなかったらどうする?
126
00:05:36,020 --> 00:05:38,060
曹蔚寧:なら僕を拐(かどわ)かして
二人でかけおちだ!
127
00:05:38,380 --> 00:05:40,220
顧湘:こら あたしがそんな飢えてんのかよ!
128
00:05:40,220 --> 00:05:42,340
曹蔚寧:いやちがうちがう ちがうよ
129
00:05:42,460 --> 00:05:45,820
じゃあ僕が花摘み強盗に鞍替えしたふりで
130
00:05:45,820 --> 00:05:48,220
君を拐かして 二人でかけおちだ
131
00:05:48,780 --> 00:05:50,540
顧湘:う〜ん
132
00:05:50,540 --> 00:05:53,100
どうにか行けそうだな!
133
00:05:53,100 --> 00:05:58,080
──顧湘はくだらないと思いながらも
まあまあ良いと思って満足気に頷いた
134
00:06:01,320 --> 00:06:01,940
曹蔚寧:阿湘
135
00:06:01,940 --> 00:06:03,020
顧湘:ん?
136
00:06:03,340 --> 00:06:04,980
曹蔚寧:これらの事がうまく行ったら
137
00:06:04,980 --> 00:06:06,420
僕たちで場所を見付けて
138
00:06:06,420 --> 00:06:07,780
小さな家を建てて
139
00:06:07,780 --> 00:06:09,660
小さな中庭も設けて
140
00:06:09,660 --> 00:06:13,660
それに何人かまるまる肥えて
ふわふわ柔らかい子供を作ろう
141
00:06:13,820 --> 00:06:15,660
顧湘:誰がお前の子を生むんだ?
142
00:06:15,660 --> 00:06:17,140
曹蔚寧:君だよ!
143
00:06:17,140 --> 00:06:18,660
僕たちに子供ができたら
144
00:06:18,660 --> 00:06:19,740
毎日 夜にさ
145
00:06:19,740 --> 00:06:22,580
君は子供と僕にご飯だって呼ぶんだ
146
00:06:22,940 --> 00:06:24,500
顧湘:嬉しそう
147
00:06:25,820 --> 00:06:26,620
(曹蔚寧):これからは
148
00:06:26,620 --> 00:06:28,660
阿湘は僕のお嫁さんだ
149
00:06:28,660 --> 00:06:30,540
お嫁さんを持つのはとてもいい
150
00:06:30,540 --> 00:06:32,500
いい香りで柔らかくて
151
00:06:32,500 --> 00:06:34,420
暑さ寒さを知っていて
(*知冷知热=夫婦が相手を思い遣ること)
152
00:06:34,420 --> 00:06:36,940
一生を連れ添う人だ
153
00:06:39,740 --> 00:06:40,980
曹蔚寧:アイヤ
154
00:06:41,480 --> 00:06:44,260
金風玉露 一たび相逢わば
(*金风玉露一相逢《鵲橋仙》秦観)
155
00:06:44,260 --> 00:06:47,100
天上人間(じんかん)数(かず)算(かぞ)えず
(*便勝欲人间无数《鵲橋仙》秦観)
156
00:06:47,260 --> 00:06:49,620
願わくば天に在りては比翼の鳥と作(な)り
(*在天愿作比翼鸟《長恨歌》白居易)
157
00:06:49,620 --> 00:06:53,220
願わくば地に在りては連理の樹と成らん
(*在地愿为连理树《長恨歌》白居易)
158
00:06:53,220 --> 00:06:56,020
顧湘:何の鳥が何の樹だって?
159
00:06:57,380 --> 00:06:59,140
曹蔚寧:阿湘 今度教えるよ
160
00:06:59,140 --> 00:07:00,340
顧湘:うん
161
00:07:02,140 --> 00:07:03,420
曹蔚寧:そもそも
162
00:07:03,420 --> 00:07:06,380
あの人たちは一日中あれを計算してこれを計算して
163
00:07:06,380 --> 00:07:08,220
争って奪い合って 生きるか死ぬか
164
00:07:08,220 --> 00:07:10,020
何の意味があるんだろう?
165
00:07:10,220 --> 00:07:13,740
天下第一 千秋万代 鍛えた絶世の神功に
166
00:07:13,740 --> 00:07:15,780
また何の意味があるんだろう?
167
00:07:15,780 --> 00:07:17,180
そう考えるとね
168
00:07:17,180 --> 00:07:18,940
僕は彼らが可哀想だとも思うんだ
169
00:07:18,940 --> 00:07:20,860
顧湘:あんたが彼らを哀れんでどうするんだ
170
00:07:20,860 --> 00:07:23,780
あたしら自身が楽しく
過ごせたらそれでいいじゃないか
171
00:07:24,180 --> 00:07:26,540
曹蔚寧:そうだ 阿湘の言う通り
172
00:07:26,540 --> 00:07:27,380
顧湘:うん
173
00:07:28,880 --> 00:07:31,180
曹蔚寧:僕たち自身が良ければそれでいい
174
00:07:32,460 --> 00:07:34,340
顧湘:あ あんた……
175
00:07:34,700 --> 00:07:35,980
何してんだ
176
00:07:35,980 --> 00:07:39,460
曹蔚寧:僕に手綱を引かせないなら
僕は君を引っ張るしかないよ
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00:07:41,460 --> 00:07:43,220
これらの事が全部終わったら
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00:07:43,220 --> 00:07:46,180
僕は君を一生引っ張って行くんだよね……
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00:07:48,780 --> 00:07:50,700
顧湘:馬鹿……
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