見出し画像

第二集

1
00:00:23,400 --> 00:00:25,560
温客行:気をつけて 美しい人

2
00:00:27,400 --> 00:00:30,440
周子舒:この人は いつの間に出てきた?!

3
00:00:31,440 --> 00:00:32,520
顧湘:主人 来たのね

4
00:00:32,520 --> 00:00:35,520
ここは死体が多すぎるから
座る場所を片付けてきてあげる

5
00:00:35,520 --> 00:00:36,520
温客行:ん……

6
00:00:37,240 --> 00:00:41,560
──彼を助けたのはまさしく酒楼にいた
灰色の衣の眉目秀麗な二十八、九の男だった

7
00:00:43,200 --> 00:00:44,440
周子舒:感謝するこちらの……

8
00:00:45,160 --> 00:00:48,800
温客行:温 温客行です

9
00:00:49,680 --> 00:00:51,200
周子舒:感謝する温兄

10
00:00:51,200 --> 00:00:52,520
温客行:無用です

11
00:00:55,320 --> 00:00:59,400
──彼の周子舒を見つめる目は
顔の皮の下に潜り込むようで酷く不躾だった

12
00:00:59,880 --> 00:01:01,360
周子舒:あなたは……

13
00:01:02,160 --> 00:01:06,360
温客行:あ……あなたをずっと
見つめているつもりではなかったのですが

14
00:01:06,800 --> 00:01:09,840
周子舒:私の顔には温兄にこんなに長く
研究されるような

15
00:01:09,920 --> 00:01:12,920
何かいけないものが付いてるのか?

16
00:01:13,560 --> 00:01:16,680
温客行:あなたは……易容してますか?

17
00:01:17,200 --> 00:01:18,160
周子舒:ん?

18
00:01:18,800 --> 00:01:20,680
(周子舒):見破られるなどあり得ない……

19
00:01:20,680 --> 00:01:21,600
温客行:あ

20
00:01:21,760 --> 00:01:23,000
周子舒:何だ?

21
00:01:23,720 --> 00:01:25,200
温客行:奇妙だ……

22
00:01:25,440 --> 00:01:27,240
実に奇妙です

23
00:01:27,520 --> 00:01:30,000
私があなたの易容を見抜けないなんて

24
00:01:30,040 --> 00:01:32,600
小細工をしてないと言われましても

25
00:01:32,840 --> 00:01:34,000
ん〜

26
00:01:34,000 --> 00:01:37,440
私は長い間 まだ人を
見間違えたことがありませんので

27
00:01:37,440 --> 00:01:41,640
あなたの背中の蝴蝶の骨をひと目見れば
美人に違いないことが分かります

28
00:01:45,000 --> 00:01:46,960
しかし私が綻びを見抜けないなんて

29
00:01:47,680 --> 00:01:54,320
この江湖の子供騙しに どれだけの腕があれば
私に綻びを見破られないようにできるんです?

30
00:01:54,320 --> 00:01:57,200
恐らくまだ出てきてないだけでは?

31
00:01:58,240 --> 00:02:03,200
私はいまだ 人を見間違えたことがないので
あなたはきっと易容です

32
00:02:04,200 --> 00:02:09,200
顧湘:主人 あなた前回は豚の屠殺夫の後ろ姿を
指して美人だって断言してたよね

33
00:02:09,960 --> 00:02:12,040
温客行:あの人は屠殺夫だったが

34
00:02:12,040 --> 00:02:16,000
あの水光煌めく双眸が 見返す生姿だけで
(*水光潋滟=水が波打ってきらきらしている様子《飲湖上初晴后雨二首・其二》蘇軾 *顾盼生姿=振り向いた時に見える素晴らしい様《贈秀才入軍》嵆康)

35
00:02:16,000 --> 00:02:18,000
彼を美人と称することができる

36
00:02:19,360 --> 00:02:22,840
英雄でさえ出自を問わぬのに 屠殺夫はなぜ問う?

37
00:02:23,320 --> 00:02:24,360
お前に何が分かる

38
00:02:24,360 --> 00:02:27,320
子供には美醜が分からぬ

39
00:02:27,320 --> 00:02:30,720
顧湘:水光煌めく 見返す生姿?

40
00:02:31,480 --> 00:02:34,280
あくびして涙を拭いてなかっただけじゃないの?

41
00:02:34,280 --> 00:02:38,280
ましてやあの鼻と口が広がってて
肥えた頭に大耳は……

42
00:02:38,280 --> 00:02:39,520
温客行:阿湘

43
00:02:39,720 --> 00:02:41,320
お前は目が悪いね

44
00:02:42,440 --> 00:02:46,480
こちらの公子はきっと美人です

45
00:02:50,080 --> 00:02:56,640
晋江文学城 Priest原作 猫耳FM
音熊聯萌連合出品

46
00:02:57,000 --> 00:03:03,320
古風武侠ラジオドラマ《天涯客》
第二集「美人骨」

47
00:03:25,000 --> 00:03:27,360
張成嶺:はぁ はぁ

48
00:03:33,160 --> 00:03:35,560
黒衣の男2;頭目 薬が効き始めました

49
00:03:35,840 --> 00:03:37,280
黒衣の男1:張玉森はどの部屋だ?

50
00:03:37,280 --> 00:03:38,680
黒衣の男2:中で眠っています

51
00:03:38,680 --> 00:03:40,760
我らはただ押し入って殺せばいいだけです

52
00:03:40,760 --> 00:03:41,840
黒衣の男1:やるぞ

53
00:03:41,840 --> 00:03:42,520
黒衣の男2:はっ

54
00:03:54,120 --> 00:03:56,680
家僕:旦那さま 山荘の食客は皆やられました
どうしましょう

55
00:03:57,640 --> 00:03:59,960
旦那さまを救い出せ 早く!

56
00:03:59,960 --> 00:04:00,720
若君を守れ!

57
00:04:00,720 --> 00:04:02,000
黒衣の男1:物はどこだ

58
00:04:02,000 --> 00:04:02,720
家僕:旦那さま奥方さま早く逃げて!

59
00:04:02,720 --> 00:04:05,120
母君:お前たちは何を言ってるの
知らない 私は知らないわ!

60
00:04:05,120 --> 00:04:05,760
黒衣の男1:彼女を殺せ

61
00:04:07,240 --> 00:04:08,240
張成嶺:母さま──

62
00:04:10,680 --> 00:04:12,040
李漁樵:こら!小僧 行くぞ!

63
00:04:14,560 --> 00:04:15,520
張成嶺:父上!

64
00:04:19,720 --> 00:04:20,760
ここは──

65
00:04:22,040 --> 00:04:22,720
周子舒:覚めたか?

66
00:04:22,720 --> 00:04:23,560
張成嶺:あ……

67
00:04:31,480 --> 00:04:33,120
あなたは何を……

68
00:04:34,720 --> 00:04:36,200
周子舒:笛(てき)を削ってる

69
00:04:36,320 --> 00:04:37,440
な?

70
00:04:39,640 --> 00:04:42,600
君は悪夢を見ていたのか?

71
00:04:44,000 --> 00:04:44,960
張成嶺:私は……

72
00:04:48,560 --> 00:04:50,400
ううう……

73
00:04:50,480 --> 00:04:53,640
父上……母上……

74
00:04:59,360 --> 00:05:00,120
温客行:阿湘

75
00:05:00,840 --> 00:05:02,800
その小さいのは何者?

76
00:05:03,200 --> 00:05:05,160
顧湘:張玉森の息子だってさ

77
00:05:06,280 --> 00:05:07,640
温客行:張玉森か

78
00:05:09,600 --> 00:05:13,240
張家は貧乏で何もないが
銭だけは余ってると聞いていた

79
00:05:14,240 --> 00:05:18,680
どうして彼の息子が浮浪児のごとき
有り様なんだ?

80
00:05:18,680 --> 00:05:24,320
顧湘:一昨夜 張家は人に嵌められて
一門は壊滅だって 目下巷で風聞が広がってる頃かな
(*满城风雨=街中で噂になること)

81
00:05:24,320 --> 00:05:29,440
主人 あなたは昨晩遊び歩くのに夢中すぎて
きっと聞いてないよね

82
00:05:30,600 --> 00:05:33,240
温客行:どうりで死人(しびと)だらけなわけだ

83
00:05:35,040 --> 00:05:37,440
その彼は 一体何を?

84
00:05:37,880 --> 00:05:40,360
顧湘:その物乞いは周絮って言ってる

85
00:05:40,360 --> 00:05:44,320
昨日人に二銭の銀子をもらって
その浮浪児に自分を売ったんだ

86
00:05:44,320 --> 00:05:46,160
太湖に彼を送るつもりだ

87
00:05:46,560 --> 00:05:48,160
温客行:ん〜……

88
00:05:50,280 --> 00:05:52,360
ならば彼は美人に違いない

89
00:05:52,920 --> 00:05:54,320
普通は無理だ

90
00:05:54,320 --> 00:05:57,800
世の中で美人だけがこんなに愚かになれる

91
00:05:57,800 --> 00:05:58,880
顧湘:あぁ……

92
00:06:00,640 --> 00:06:01,680
温客行:周兄

93
00:06:01,880 --> 00:06:03,880
笛を削ってどうするんです?

94
00:06:04,120 --> 00:06:05,400
周子舒:暇潰しだ

95
00:06:22,680 --> 00:06:23,800
まあいい

96
00:06:27,160 --> 00:06:28,240
張のお坊ちゃん

97
00:06:28,360 --> 00:06:30,120
ここに長居はよろしくない

98
00:06:30,120 --> 00:06:33,040
少し休めたなら 起きて支度しろ

99
00:06:33,040 --> 00:06:39,320
周某は人に頼まれ 少なくとも全ての手足で
君を太湖の趙家まで送らねばならん

100
00:06:40,240 --> 00:06:43,400
──張成嶺は飛び起きて周絮の脚にすがりつき

101
00:06:43,400 --> 00:06:44,720
張成嶺:周叔!

102
00:06:46,800 --> 00:06:50,560
周子舒:男児の膝下には黄金がある
君の父君は教えなかったのか?

103
00:06:51,240 --> 00:06:53,000
張成嶺:天地君親師に拝します
(*天地君亲师=儒教における崇拝の対象)

104
00:06:53,000 --> 00:06:54,480
天の経なり 地の義なり
(*天经地义=疑う余地のない絶対不変の真理《春秋左氏伝》)

105
00:06:54,480 --> 00:07:00,400
周叔は大恩人ですから
成嶺にあなたを師と仰がせてください!

106
00:07:01,960 --> 00:07:06,760
顧湘:昨日はまだへらへら馬鹿笑いしてた奴が
どうしてこんな機転が利くようになったんだ?

107
00:07:06,800 --> 00:07:08,000
周子舒:ひとまず立て

108
00:07:08,000 --> 00:07:11,160
張成嶺:師父がお答えにならないなら
私は立ちません

109
00:07:11,160 --> 00:07:16,360
一門壊滅の大仇 報いられぬなら
この張成嶺を人と言えましょうか

110
00:07:17,320 --> 00:07:18,680
師父……

111
00:07:19,600 --> 00:07:20,720
周子舒:立て

112
00:07:22,960 --> 00:07:24,120
張成嶺:師父

113
00:07:28,480 --> 00:07:30,280
周子舒:私はすぐ土に入る廃人だ

114
00:07:30,400 --> 00:07:34,240
一日生きて また一日だ 君に何を教えられる

115
00:07:34,680 --> 00:07:38,200
聞いた話では太湖の趙敬(ジャオ・ジン)大侠は
君の父親の旧知だ

116
00:07:38,920 --> 00:07:41,600
私は君を送って行くだけ それ以上求めるな

117
00:07:41,600 --> 00:07:45,760
当然 君に功夫を教えて
報復を手伝ってくれる人は居並んでいるさ

118
00:07:45,760 --> 00:07:46,920
行くぞ

119
00:07:47,080 --> 00:07:49,880
君を連れて食う物を探しに行く

120
00:07:49,960 --> 00:07:52,040
張成嶺:師父 待ってください

121
00:07:54,680 --> 00:07:58,800
──温客行は興味深げに二人の後ろ姿を眺め
しばらく思案してから、太ももを叩き立ち上がった

122
00:07:58,960 --> 00:08:02,520
温客行:さぁ 彼らを追って 太湖へ行こう

123
00:08:06,200 --> 00:08:07,240
顧湘:主人

124
00:08:07,240 --> 00:08:08,760
張成嶺が言ってたんだけど

125
00:08:08,760 --> 00:08:12,080
昨日 張家を皆殺しにした青竹嶺の悪鬼衆に

126
00:08:12,200 --> 00:08:14,560
吊死鬼もいたんだって

127
00:08:15,400 --> 00:08:17,320
温客行:ん? それで?

128
00:08:17,600 --> 00:08:21,160
顧湘:あの吊死鬼が模造品なのは明らかだよ
昨日あたしに殺られたんだから

129
00:08:21,560 --> 00:08:22,400
主人……

130
00:08:22,400 --> 00:08:24,000
何かもう知ってるの?

131
00:08:26,360 --> 00:08:27,520
温客行:阿湘

132
00:08:28,320 --> 00:08:30,800
顧湘:はい 奴婢は喋りすぎた

133
00:08:33,000 --> 00:08:33,880
温客行:うん

134
00:08:35,040 --> 00:08:36,500
温客行:行くよ

135
00:08:36,500 --> 00:08:39,160
我らはあの周という者に付いて行くのだ

136
00:08:39,160 --> 00:08:41,080
私は絶対に見誤っていない

137
00:08:41,080 --> 00:08:43,120
彼は必ず美人だ

138
00:08:43,120 --> 00:08:48,360
ずっと付いて行けば
いずれ彼の狐狸の尾を引っ張り出せる

139
00:08:51,800 --> 00:08:57,960
──温客行は恐れを知らぬような少女に
明確に浮かんだ恐怖の表情を深々と眺めると
満足して先へ向かった

140
00:08:57,960 --> 00:09:02,200
顧湘はただ黙々と彼の後ろから
遠くない距離で付いて行った

141
00:09:12,560 --> 00:09:13,560
覆面の男:うぅっ……

142
00:09:18,560 --> 00:09:20,520
周子舒:今日来たのは二組目だ

143
00:09:25,160 --> 00:09:30,640
(周子舒):道中ですでにかなりの人波を退けたが
この先まだどれだけ待ち伏せているか分からない

144
00:09:31,080 --> 00:09:35,000
この二銭の銀子を受け取ったのは全くの大損だった

145
00:09:39,200 --> 00:09:42,280
この小僧 ぐっすり眠ってやがる

146
00:09:43,360 --> 00:09:48,640
早く太湖の趙家に投げ入れて
あのわけの分からない温客行から逃れて
(*莫名其妙=奇妙で意味のわからないこと《夜雨秋灯録》宣鼎)

147
00:09:49,000 --> 00:09:51,480
その後はあちこち遊歴するんだ

148
00:09:52,160 --> 00:09:54,440
三山五岳に大湖もいくつかまだ見てない

149
00:09:54,440 --> 00:10:00,840
北方は間に合わないが
南疆にまだ旧友の顔を拝みに行ってない

150
00:10:00,840 --> 00:10:06,120
少なくとも 黄泉(よみ)に下る前に彼に挨拶して
一杯の酒ぐらいは飲ましてもらわないと……

151
00:10:06,120 --> 00:10:07,440
張成嶺:やめろ 父上を殺すな……

152
00:10:07,440 --> 00:10:08,400
周子舒:ん?

153
00:10:11,000 --> 00:10:12,880
小僧 起きろ

154
00:10:16,960 --> 00:10:19,080
また悪夢にうなされていたぞ

155
00:10:24,280 --> 00:10:27,760
張成嶺:師父 あなたを起こすつもりじゃなかった

156
00:10:28,360 --> 00:10:31,880
父上の夢を見たんです……

157
00:10:32,920 --> 00:10:34,120
周子舒:はぁ……

158
00:10:34,440 --> 00:10:39,080
張成嶺:私はもう しっかり練功して
仇を討つとはっきり心に決めたのに

159
00:10:39,640 --> 00:10:41,800
毎日夜になると……

160
00:10:44,840 --> 00:10:46,120
それなら……

161
00:10:46,200 --> 00:10:48,600
それなら私は眠らない方が?

162
00:10:49,200 --> 00:10:50,600
周子舒:構わない

163
00:10:50,720 --> 00:10:54,640
君は寝てろ
悪夢だったらまた起こしてやる

164
00:10:55,680 --> 00:10:56,800
張成嶺:うん

165
00:11:12,920 --> 00:11:17,360
──耳元で炸裂した雷鳴のような音が
成嶺の五臓六腑を震わせ、激痛となって彼を襲った

166
00:11:17,760 --> 00:11:20,080
周子舒:魅音秦松(メイイン・チンソン)だ──

167
00:11:21,520 --> 00:11:26,480
──琴の音は、ごく細い蜘蛛の糸で
四方から縛りつけるように奇妙で殺伐としていた

168
00:11:31,040 --> 00:11:35,200
顧湘は機転をきかせ、耳を塞ぐと端座し調息した

169
00:11:35,280 --> 00:11:40,800
牀で眠っていた温客行は
いつの間にか月光の照らす窓辺に立ち
冷めた微笑で危険な空気を隠すことなく放っていた

170
00:11:41,400 --> 00:11:44,400
温客行:魅音秦松を寄越すとは……

171
00:11:44,560 --> 00:11:46,480
その度胸は小さくはないが

172
00:11:46,600 --> 00:11:49,840
誰を相手にしてるのか分かってない

173
00:11:51,360 --> 00:11:53,280
顧湘:この琴の音だけでも吐きそうだよ

174
00:11:53,360 --> 00:11:56,680
あたしの反応が早くなかったら
もうちょっとで彼の……

175
00:12:07,520 --> 00:12:09,040
え?琴の音が止んだ?

176
00:12:09,080 --> 00:12:13,520
隣の周絮がやったの?
琴を弾いてたのは死んだの?

177
00:12:14,800 --> 00:12:16,040
温客行:まだだね

178
00:12:18,640 --> 00:12:21,920
──再び鳴り出した琴の音は
獰猛な洪水のように殺意を強めた

179
00:12:22,040 --> 00:12:24,680
顧湘:この琴弾きは死ぬべきだろ

180
00:12:37,880 --> 00:12:43,840
──甲高い笛の音と極悪な琴の音がぶつかり合うと
琴弾きの弦は一瞬にして寸断された

181
00:12:55,680 --> 00:12:59,360
温客行:刀剣の長けたる者 必ず刀剣に死す

182
00:13:00,200 --> 00:13:02,720
古人 誠に我を欺かぬものなり

183
00:13:04,760 --> 00:13:08,840
顧湘:主人 つまり秦……秦なんとかってのは

184
00:13:08,840 --> 00:13:10,400
これで死んだの?

185
00:13:10,520 --> 00:13:13,840
温客行:死なずとも 経脈は完全に断たれただろう

186
00:13:14,240 --> 00:13:16,760
これ以降はただの廃人だ

187
00:13:17,560 --> 00:13:21,520
彼はやはり死んだほうが楽だっただろうね

188
00:13:22,480 --> 00:13:24,960
──温客行は窓を押し開け

189
00:13:26,360 --> 00:13:27,400
温客行:阿湘よ

190
00:13:27,520 --> 00:13:31,440
この世の中は そんな面白い事ばかりだ

191
00:13:31,520 --> 00:13:36,440
何かを欲するなら
本来は何かを支払わない道理はない

192
00:13:36,840 --> 00:13:40,640
七弦琴によって 目に見えぬところで
人を殺すというのは

193
00:13:40,800 --> 00:13:42,920
確かに爽快で面白い

194
00:13:43,040 --> 00:13:45,640
しかし他の者の反噬(はんぜい)にも用心しないと

195
00:13:46,400 --> 00:13:48,760
顧湘:いつ反噬に会うんだ?

196
00:13:48,920 --> 00:13:51,880
温客行:他の者がお前より強い時だ

197
00:13:54,000 --> 00:13:56,800
顧湘:何かやるのに自分より強い人と張り合うなら

198
00:13:56,800 --> 00:13:59,240
自分より弱いのを虐めに行けばよくないか?

199
00:14:01,440 --> 00:14:03,640
温客行:お前は誰も虐めなくていい

200
00:14:03,640 --> 00:14:06,840
私のように 良い人になりなさい

201
00:14:07,800 --> 00:14:09,200
顧湘:良い人?

202
00:14:09,600 --> 00:14:10,800
あ! え……

203
00:14:11,600 --> 00:14:15,920
──窓を押し開き出ていった“良い人”を
顧湘は怯えながら見送った

204
00:14:21,480 --> 00:14:23,880
張成嶺:う……

205
00:14:23,880 --> 00:14:25,400
師……師父……

206
00:14:26,760 --> 00:14:27,880
周子舒:集中しろ

207
00:14:29,880 --> 00:14:34,920
──幼い彼が心配で周子舒は
自分の調息もままならないまま
彼の背に手を当て内力を巡らせ助けた

208
00:14:37,720 --> 00:14:38,960
(周子舒):この小僧

209
00:14:39,080 --> 00:14:42,280
経脈が一般の者に比べて
生まれつきかなり広いのか……

210
00:14:45,880 --> 00:14:47,080
張成嶺:マシになりました

211
00:14:47,160 --> 00:14:49,360
ありがとうございます師父

212
00:14:52,800 --> 00:14:54,600
周子舒:師父と呼ぶなと言ったぞ

213
00:14:56,440 --> 00:14:57,720
休んでろ

214
00:14:57,800 --> 00:14:59,120
張成嶺:あぁ……

215
00:15:09,560 --> 00:15:13,280
温客行:此の夜 曲中に折柳(せつりゅう)を聞く

216
00:15:13,280 --> 00:15:17,560
何人(なんぴと)か故園の情 起こさざらん──
(*此夜曲中聞折柳 何人不起故園情、聞こえてくる笛の音に折楊柳が聞こえて故郷が恋しくなった《春夜洛城聞笛》李白)

217
00:15:17,760 --> 00:15:18,720
(周子舒):また彼だ

218
00:15:18,920 --> 00:15:21,160
温客行:此くの如き星辰の此くの如き月

219
00:15:21,880 --> 00:15:26,200
周兄と琴の音が笛を撫でるがごとくの
雅事(みやびごと)

220
00:15:26,200 --> 00:15:30,480
美人でなければできぬこと

221
00:15:35,080 --> 00:15:38,360
周子舒:この顔を見て 美人だと言うのか?

222
00:15:39,800 --> 00:15:44,600
温客行:ン……私めが周兄に隠された
憂いの処理をお助けすれば

223
00:15:44,960 --> 00:15:49,560
周兄は義理を見せて
その人皮面具を取ってくださいますか?

224
00:15:52,280 --> 00:15:56,120
周子舒:温兄が実際に興味を持ったなら
その手で私のこの皮袋を剥ぎ取って

225
00:15:56,120 --> 00:16:00,040
内側の肉や骨を見てみればいいのでは?

226
00:16:00,440 --> 00:16:01,640
温客行:それも良い

227
00:16:02,360 --> 00:16:06,760
──稲妻のように周子舒の顔に手を伸ばすと
周子舒は見計らって後方に体を反らせ
片足で温客行の手首を蹴り上げた

228
00:16:06,760 --> 00:16:12,160
意外なことに二人は互いに電光石火の応酬で
十手かけても目まぐるしい対応に暇がない

229
00:16:13,120 --> 00:16:18,040
周子舒は釘の鋭い痛みに襲われ
動きに遅れが生じると、刹那に彼の手が
胸に当たり強風が襲ってきた

230
00:16:18,160 --> 00:16:20,120
温客行はおもむろに手を止め──

231
00:16:20,600 --> 00:16:23,600
温客行:周兄 どうして躱さないんです?

232
00:16:24,880 --> 00:16:27,480
周子舒:温兄の手心に感謝……はっ
(*手下留情=手加減する、手心を加える)

233
00:16:29,600 --> 00:16:35,000
温客行:あなたのこの偽の顔は人皮で作ったのか
それとも豚皮で作ったのか

234
00:16:35,560 --> 00:16:38,800
どうして人の皮のような手触りなのか

235
00:16:38,800 --> 00:16:43,080
顧湘:主人 どうして──アイヨ 失礼だね!

236
00:16:43,080 --> 00:16:45,720
(周子舒):そうだ 失礼だね

237
00:16:45,720 --> 00:16:46,720
温客行:ん?

238
00:16:46,720 --> 00:16:49,840
顧湘:ものもらいだ ものもらいになったよ……

239
00:16:49,840 --> 00:16:51,080
温客行:ん〜……

240
00:16:53,520 --> 00:16:58,400
周子舒:温大侠 私めのこの顔が
何でできているか探り出せましたか?

241
00:16:58,400 --> 00:17:01,800
温客行:ん 皮と肉でできている

242
00:17:02,640 --> 00:17:06,920
奇妙だ 触ってみてもあなた自身のようでした

243
00:17:07,600 --> 00:17:11,160
周子舒:不才ながら まさに私め自身が育てたのです

244
00:17:19,440 --> 00:17:20,680
顧湘:やれやれだね

245
00:17:20,760 --> 00:17:25,800
うちの主人はたぶん現実を受け入れられなくて
勾欄院の彼の美人のところに行ったんだ
(*勾栏院=妓楼)

246
00:17:25,800 --> 00:17:29,880
彼が行ったなら みんなもとっとと顔洗って寝るぞ
(*洗洗睡了=洗洗睡吧、顔を洗って寝ろ、お前に用はない)

247
00:17:30,280 --> 00:17:31,280
温客行:阿湘

248
00:17:31,280 --> 00:17:33,240
お前が喋ってるのは人語か?

249
00:17:33,240 --> 00:17:34,800
顧湘:バカ語だよ

250
00:17:39,160 --> 00:17:45,280
──周子舒はやっと一息ついてゆっくり
壁に寄りかかり歯を食いしばって耐えると
幸い痛みはすぐに収まった

251
00:17:47,760 --> 00:17:51,800
(周子舒):幾度となく私が気付かぬうちに
近づくことができるのは
(*三番两次=何度も何度も)

252
00:17:51,800 --> 00:17:56,000
この江湖の中に 全部で三人半いるが
(*三个半人=鬼主は人か鬼か定かでないので半分)

253
00:17:56,000 --> 00:17:58,000
いずれも恨みを買ってはならない……

254
00:17:58,440 --> 00:18:02,600
温客行というのは……一体誰だ?

255
00:18:16,800 --> 00:18:21,640
──三日後、周子舒は数日のうちに一回り痩せた
張成嶺坊ちゃんを連れ太湖に到着した

256
00:18:24,200 --> 00:18:27,520
太湖の趙敬 人呼んで秋山剣客 一代の名侠

257
00:18:27,640 --> 00:18:32,520
“天窗”の書物には武力で忌憚に触れる者を防ぐため
江湖五十年の名のある者や大小の事件が
記録されており周子舒は仔細に記憶していた

258
00:18:32,680 --> 00:18:37,320
華山派掌門の一人息子 于天傑(ユー・ティェンジエ)
断剣山荘荘主 穆雲歌(ムー・ユンゴ)
独眼侠 蒋徹(ジャン・チェ)も趙家にいるらしく

259
00:18:37,320 --> 00:18:41,520
名高い武林の名宿の真相をその目で見るのは
やはり少し楽しみだった

260
00:18:42,040 --> 00:18:45,040
張成嶺:趙おじ上の山荘は ここです……

261
00:18:45,520 --> 00:18:49,800
(周子舒):着いたか
善行で徳を積むのは本当に大変な苦労だ

262
00:18:50,400 --> 00:18:54,320
しかしまあ 地下に私の先祖を探しに行って
煩わせる者がいるという心配は不要になった

263
00:18:54,440 --> 00:18:56,880
張成嶺:師父 道中ずっとご苦労をお掛けしました

264
00:18:56,960 --> 00:19:00,880
山荘に着きましたし 留まって
しばらくはしっかりお休みになってください

265
00:19:00,880 --> 00:19:04,280
周子舒:不要だ やはり趙荘主に
もてなしを求めることはできない

266
00:19:04,920 --> 00:19:07,200
張成嶺:ダメです 趙おじ上は良い人です

267
00:19:08,040 --> 00:19:09,480
周子舒:誰かいるか?

268
00:19:15,000 --> 00:19:16,200
老家令:あなたは……

269
00:19:19,360 --> 00:19:21,520
君は成嶺か?

270
00:19:22,480 --> 00:19:23,920
成嶺ではないか

271
00:19:23,920 --> 00:19:25,160
張成嶺:劉おじ上……

272
00:19:26,320 --> 00:19:29,200
老家令:おぉ 成嶺 早く旦那さまのところへ

273
00:19:29,200 --> 00:19:33,400
成嶺坊ちゃんがお越しに!
成嶺坊ちゃんが生きておられた!

274
00:19:33,400 --> 00:19:35,160
丁稚:旦那さま 旦那さま!

275
00:19:36,560 --> 00:19:39,480
老家令:良かった 良かった さあ入ってください

276
00:19:39,480 --> 00:19:40,560
張成嶺:うん

277
00:19:43,920 --> 00:19:45,800
趙敬:成嶺! 生きていた!

278
00:19:45,800 --> 00:19:47,080
本当に良かった

279
00:19:47,320 --> 00:19:48,640
張成嶺:趙おじ上!

280
00:19:48,640 --> 00:19:50,080
趙敬:良い子だ

281
00:19:50,680 --> 00:19:53,480
張成嶺:父上と母上たちは……彼らは……

282
00:19:53,480 --> 00:19:55,800
趙敬:言わなくていい 我らも皆知っている……

283
00:19:56,160 --> 00:19:58,440
玉森は……

284
00:20:00,200 --> 00:20:01,800
張成嶺:うううう……

285
00:20:01,800 --> 00:20:05,800
君を捜しに 至る所に人を遣ったが
まさか自らやって来るなんて

286
00:20:05,800 --> 00:20:09,280
良い子だ 良い子だ……

287
00:20:16,040 --> 00:20:17,280
こちらは……

288
00:20:18,240 --> 00:20:23,880
張成嶺:周叔です 彼と李おじ上が
私を救ってくださったお陰で……

289
00:20:23,880 --> 00:20:24,960
周子舒:私めは周絮

290
00:20:25,400 --> 00:20:27,920
秋山剣客の趙敬 趙大侠のご高名は伺っております

291
00:20:28,040 --> 00:20:29,720
今日は張公子をお送りし──

292
00:20:30,960 --> 00:20:33,480
趙敬:恩人! 早く中へどうぞ 早く中へ

293
00:20:33,480 --> 00:20:34,560
周子舒:不要です

294
00:20:34,560 --> 00:20:35,840
張成嶺:お残りください……

295
00:20:35,840 --> 00:20:39,720
趙敬:さあさあ 決死で我が甥を
お救いくださった周大侠のご高義

296
00:20:39,720 --> 00:20:42,160
趙敬にしっかり最高のもてなしをさせてください

297
00:20:42,640 --> 00:20:44,040
どうぞ中へ……

298
00:21:03,120 --> 00:21:05,560
侠士たち:周大侠 周大侠 初めてお目にかかる

299
00:21:06,520 --> 00:21:08,360
周子舒:穆大侠 お噂はかねがね

300
00:21:08,360 --> 00:21:10,840
侠士たち:周大侠のことは聞いております
私めは感服しましたよ

301
00:21:10,840 --> 00:21:12,120
周子舒:お会いできてまことに光栄だ
まさに百聞は一見にしかず
(*三生有幸=前今来世において幸福である、この上ない幸せ)

302
00:21:12,120 --> 00:21:15,160
侠士たち:日を改めてご光臨いただけまいか?
周子舒:お会いできてまことに光栄だ
まさに百聞は一見にしかず
(*三生有幸=前今来世において幸福である、この上ない幸せ)

303
00:21:15,160 --> 00:21:16,400
侠士たち:周大侠のご出身は?
周子舒:私めの師伝は何処か?

304
00:21:16,400 --> 00:21:17,000
周子舒:私めの師伝は何処か?

305
00:21:17,000 --> 00:21:18,720
周子舒:無名の小卒 取り立てて言うまでもない

306
00:21:18,720 --> 00:21:19,520
侠士たち:周大侠 ご無理とは存じますが……
周子舒:無名の小卒 取り立てて言うまでもない

307
00:21:19,520 --> 00:21:22,840
侠士たち:周大侠 ご無理とは存じますが……
周子舒:私めとあの李大侠とは何の面識もなく

308
00:21:22,840 --> 00:21:24,000
周子舒:私めとあの李大侠とは何の面識もなく

309
00:21:24,000 --> 00:21:25,760
悪事を見かけ 助太刀したまで
(*路见不平 拔刀相助=道で不正を見かけて助太刀を買って出ること《酷寒亭》楊顕之)

310
00:21:25,760 --> 00:21:28,240
侠士たち:周大侠のその風格 もしや丐幇では?

311
00:21:28,240 --> 00:21:29,760
周子舒:いやいや 丐幇ではない

312
00:21:31,240 --> 00:21:33,400
(周子舒):どこに高みによじ登る丐幇が?

313
00:21:33,400 --> 00:21:37,680
ダメだ このままでは 中風を起こしそうだ
(*中风=脳卒中)

314
00:21:38,640 --> 00:21:40,400
やはり早めに去るべきだ

315
00:21:50,760 --> 00:21:55,640
──暗くならないうちに眠っていた周子舒は
下弦の月の下、子の刻過ぎに目を開けた

316
00:21:55,640 --> 00:22:00,600
七竅三秋釘の発作が始まりかけていたが
久々の養精蓄鋭で痛みはあまり気にならなかった

317
00:22:04,800 --> 00:22:11,080
周子舒:“成嶺殿 青山改めず 緑水長流す”
(*青山不改 绿水长流=別れの挨拶)

318
00:22:12,280 --> 00:22:13,400
“周絮”

319
00:22:17,040 --> 00:22:19,560
私にもますます江湖人の気風が備わってきたな

320
00:22:23,720 --> 00:22:30,440
“歓待にあずかり 趙荘主に感謝します 周絮 拝”

321
00:22:44,040 --> 00:22:47,120
趙敬:成嶺 早く休みなさい 無理は禁物です

322
00:22:47,120 --> 00:22:49,960
張成嶺:趙おじ上 しばらく練功したら寝ます

323
00:22:51,840 --> 00:22:52,840
周子舒:はっ!

324
00:23:07,720 --> 00:23:11,280
──待ち構えていた温客行が
にこにこしながら抱拳して──

325
00:23:11,560 --> 00:23:14,640
温客行:周兄 奇遇ですね

326
00:23:16,760 --> 00:23:18,320
周子舒:……付き纏う亡霊か
(*阴魂不散=亡霊が付き纏う、災いは去ったはずがいつまでも悪影響があること)

327
00:23:19,320 --> 00:23:22,400
温客行:見たところ あなたと私には
浅からぬ縁があるようです

328
00:23:23,080 --> 00:23:27,200
再三 月下に相見えるのは
いわば心を寄せ合う仲なのでしょう
(*心有灵犀=お互い口に出さなくても考えが一緒、心が通じ合っていること《無題》)

329
00:23:27,560 --> 00:23:29,160
周子舒:偶然か 温兄

330
00:23:29,160 --> 00:23:31,440
(周子舒):偶然を装った疫病神だ

331
00:23:32,720 --> 00:23:34,440
周子舒:どうして顧姑娘が見えない?

332
00:23:35,360 --> 00:23:37,800
温客行:あの娘は足取りが重く 足手まといなので

333
00:23:38,160 --> 00:23:45,280
付いてこさせても邪魔になって 恐らく閣下のような
神出鬼没の……大人物を見失ってしまう
(*阁下=古い時代の相手への敬称、貴下、旦那)

334
00:23:47,360 --> 00:23:49,280
周子舒:たかが不才をも大人物とは

335
00:23:49,280 --> 00:23:55,560
ならば 長明山の古僧 南海観音殿の毒王
青竹嶺の鬼主はどうなんだ

336
00:23:56,640 --> 00:23:59,640
温客行:古僧は世事を問わず ただ修仙を求めるのみ

337
00:24:00,440 --> 00:24:03,800
毒王はすでに江湖に入ったと聞くが
痕跡はもとめ難い

338
00:24:04,440 --> 00:24:08,880
鬼主は 痕跡を辿れても
いまだかつて会ったことがない

339
00:24:08,880 --> 00:24:14,960
ただ蔵頭露尾のものだと知っているだけで……
人と言えるかどうか 定かじゃない

340
00:24:16,600 --> 00:24:19,120
周子舒:周某は通りすがりの者に過ぎない

341
00:24:19,120 --> 00:24:21,360
温兄は何もずっと私を見張って
離れずにいる必要はないぞ

342
00:24:21,520 --> 00:24:23,760
温客行:何も急用がないのなら

343
00:24:24,000 --> 00:24:27,400
周兄はどうして趙家に
もう数日でも留まらなかったのでしょう

344
00:24:27,560 --> 00:24:32,600
太湖の風光は 広く知れ渡っているのに
なぜこのように道を急いて行く必要が?

345
00:24:33,120 --> 00:24:35,960
周子舒:太湖の風光は すでに一つ二つ味わった

346
00:24:36,240 --> 00:24:38,560
趙大侠には少なからず面倒を掛けるだろうし

347
00:24:38,560 --> 00:24:42,440
周某は大した腕もなく 趙大侠とは所縁も何もない

348
00:24:42,440 --> 00:24:46,600
二銭の銀子の義理に過ぎず 彼らに付いて
生死を共にするほどでもない

349
00:24:46,960 --> 00:24:50,720
張のお坊ちゃんに付き添い 善行で徳を積んだだけだ

350
00:24:51,160 --> 00:24:56,280
百年後 閻王に会って 皮を剥ぎ筋を抜く苦しみが
幾らか減るなら それで満足だ
(*百年之后=死後のこと)

351
00:24:56,280 --> 00:24:58,560
温客行:善行で徳を積む

352
00:24:59,840 --> 00:25:00,880
間違いない

353
00:25:00,880 --> 00:25:04,040
周兄はまことに私と志す道を同じくする人だ
(*志同道合=同じ理想を持ち同じ道をゆく《三国志》)

354
00:25:04,680 --> 00:25:09,120
温某と志す道を同じくするのは
美人と決まっています

355
00:25:09,120 --> 00:25:10,280
これで分かるのは……

356
00:25:10,280 --> 00:25:11,720
穆雲歌:あぁーーー!

357
00:25:15,360 --> 00:25:17,040
温客行:道を同じくする人

358
00:25:17,040 --> 00:25:19,360
善行で徳を積む機会がまた来ましたよ

359
00:25:19,440 --> 00:25:22,320
周子舒:温兄 目の病は一大事だ

360
00:25:22,400 --> 00:25:25,040
早めに医者を見つけるのが正解だ

361
00:25:32,120 --> 00:25:35,160
温客行:ええ 周兄の説はごもっとも

362
00:25:35,560 --> 00:25:39,360
機会があれば 幾らか必ず名医を訪ねて
じっくり診てもらいましょう

363
00:25:39,360 --> 00:25:42,520
まだ年をとってもないのに
目がますます悪くなっているとは

364
00:25:42,800 --> 00:25:45,920
今でも周兄の顔の綻びを見抜けないというのに

365
00:25:45,920 --> 00:25:48,600
全く慚愧に堪えない

366
00:25:52,280 --> 00:25:55,680
周兄の踏雪無痕の軽功はまことに見事です
(*踏雪无痕=行動に痕跡を残さないことの武道用語、軽功の高さの比喩)

367
00:25:56,440 --> 00:25:57,120
周子舒:褒め過ぎだ

368
00:25:57,560 --> 00:26:01,120
温兄は私の背後で造作もなく
付いて来ることができている
(*毫不费力=簡単にできること)

369
00:26:01,120 --> 00:26:03,120
軽功はきっと 私以下ということはなかろう

370
00:26:13,240 --> 00:26:14,440
温客行:死んでる

371
00:26:17,720 --> 00:26:19,000
周子舒:これは……

372
00:26:19,520 --> 00:26:21,800
あの断剣山荘の荘主 穆大侠じゃないか?

373
00:26:22,200 --> 00:26:24,960
温客行:なんです? 周兄の旧知でしたか?

374
00:26:24,960 --> 00:26:28,920
周子舒:そんなでもない
ただ趙敬の山荘で出くわした

375
00:26:28,920 --> 00:26:32,760
昼間は私は部屋にいて
たっぷり小半刻は無駄話をしていた

376
00:26:35,080 --> 00:26:38,240
温客行:月夜に 夜行衣
(*夜行衣=夜に目立たない黒い衣服)

377
00:26:40,000 --> 00:26:41,720
こちらの穆荘主は……

378
00:26:42,280 --> 00:26:43,360
周子舒:どうした?

379
00:26:43,920 --> 00:26:46,040
温客行:もしかして花を摘みに出てきたのでは?

380
00:26:46,040 --> 00:26:47,240
周子舒:は?

381
00:26:51,920 --> 00:26:53,760
この掌印は……

382
00:26:55,120 --> 00:26:57,320
温客行:彼は人に餅を焼かれたのか
(*餅子を焼くように何度もひっくり返す)

383
00:26:57,320 --> 00:26:59,240
それとも 打ち抜かれたのか

384
00:26:59,880 --> 00:27:02,480
周子舒:こんな多大な労力を費やして
死人を殴る者はいない

385
00:27:02,480 --> 00:27:04,800
彼は誰かに一掌で打ち抜かれたんだ

386
00:27:06,880 --> 00:27:10,840
この掌法 この五十年で私が知るのはただ一人……

387
00:27:10,840 --> 00:27:13,760
温客行:喜喪鬼 孫鼎(ソン・ディン)の羅刹掌

388
00:27:20,080 --> 00:27:24,000
周子舒:足跡を見ろ ここには三人現れていた

389
00:27:24,920 --> 00:27:27,480
穆雲歌の足跡はここで終わっている

390
00:27:27,480 --> 00:27:31,840
他の二人はそれぞれ違う方向に向かって行った……

391
00:27:32,960 --> 00:27:34,520
温客行:追わないんです?

392
00:27:34,520 --> 00:27:35,640
周子舒:ん

393
00:27:36,080 --> 00:27:38,160
(周子舒):この件は大変な厄介ごとに違いない

394
00:27:38,160 --> 00:27:42,440
一旦手を出したら抜け出すのは非常に困難だ

395
00:27:43,640 --> 00:27:45,320
温客行:ならば私が追います

396
00:27:46,360 --> 00:27:48,840
周子舒:あんたは介入するつもりか?

397
00:27:48,840 --> 00:27:51,120
温客行:ある人が断剣山荘の荘主を殺した

398
00:27:51,120 --> 00:27:54,200
私は善行で徳を積むのが好きな良い人ですから

399
00:27:54,200 --> 00:27:56,720
構ってみることにしました

400
00:27:56,720 --> 00:27:58,360
どうせ暇といえば暇ですし

401
00:27:59,600 --> 00:28:01,720
周子舒:ならあんたはどうして
一人目の足跡を追わないんだ?

402
00:28:02,000 --> 00:28:06,160
そいつの足跡は極めて軽く
功力は大方この三人の中で最も深い
(*功力=武功の強さ)

403
00:28:06,520 --> 00:28:08,640
喜喪鬼の孫鼎で間違いないだろう

404
00:28:08,640 --> 00:28:10,800
温客行:あなたは自分で喜喪鬼を追ってください

405
00:28:10,800 --> 00:28:11,760
私は行きません

406
00:28:11,760 --> 00:28:16,040
私はお節介が好きな良い人ですが
死ぬのも怖いのです

407
00:28:19,400 --> 00:28:21,360
(周子舒):踏雪無痕の人が

408
00:28:21,360 --> 00:28:24,640
喜喪鬼が怖い 死ぬのが怖いと言う

409
00:28:24,640 --> 00:28:25,640
面白い

410
00:28:26,120 --> 00:28:30,240
今は むしろ私が付いて行って結果を見てみたい

411
00:28:42,840 --> 00:28:44,160
温客行:そこです

412
00:28:49,120 --> 00:28:50,440
吊るされて死んでますね

413
00:28:51,040 --> 00:28:52,800
周兄のお知り合い?

414
00:28:52,800 --> 00:28:53,600
周子舒:ん……

415
00:28:53,600 --> 00:28:55,480
華山の于天傑(ユー・ティエンジエ)だ

416
00:28:55,480 --> 00:28:58,480
温客行:まだ温かいな 死んだばかりだ

417
00:28:59,240 --> 00:29:03,040
周子舒:この紐は 蜘蛛の糸だ

418
00:29:04,200 --> 00:29:06,200
吊死鬼の蜘蛛の糸か

419
00:29:07,440 --> 00:29:11,640
喜喪鬼の孫鼎に……吊死鬼の薛方……

420
00:29:12,240 --> 00:29:13,320
奇妙だ

421
00:29:14,240 --> 00:29:17,280
聞いた話では 鬼谷十大は悪鬼の中で最も極悪非道で
(*穷凶极恶=極端に残虐で貧しく不合理なこと《漢書》)

422
00:29:17,280 --> 00:29:21,840
また 喜喪鬼 吊死鬼 無常鬼をはじめ

423
00:29:22,360 --> 00:29:24,520
日頃は神出鬼没のはずが

424
00:29:24,760 --> 00:29:27,160
今夜 意外にも二人に出くわした

425
00:29:27,640 --> 00:29:30,040
鬼谷は一体何をするつもりだ……

426
00:29:31,000 --> 00:29:34,640
温客行:この太湖は 賑やかになる運命のようです

427
00:29:36,480 --> 00:29:37,600
周子舒:誰だ

428
00:29:39,200 --> 00:29:42,240
温客行:周兄! 私は死ぬのが怖い

429
00:29:43,640 --> 00:29:45,360
怖いのです……

430
00:29:47,440 --> 00:29:51,080
怖いからこそ一人でこの場所におれないのですよ

431
00:29:58,680 --> 00:30:01,200
周子舒:温兄 あんたは誰の恨みを買った?

432
00:30:02,200 --> 00:30:05,240
温客行:樹上の梟が 笑っていますね

433
00:30:11,040 --> 00:30:12,200
内傷を負ってるの?

434
00:30:12,200 --> 00:30:14,720
周子舒:このくそったれ黙ってろ

435
00:30:16,240 --> 00:30:17,520
温客行:動かないで

436
00:30:17,520 --> 00:30:19,440
傷口を拭って差し上げます

437
00:30:19,560 --> 00:30:21,760
“这人间困境几何”
(この世に苦境 幾ばくか)

438
00:30:21,760 --> 00:30:25,440
“得超脱又几个”
(逃れ得るのは幾人か)

439
00:30:25,440 --> 00:30:28,600
“如敢以生死来涉”
(敢えて生死を賭ければ)

440
00:30:28,600 --> 00:30:31,680
“孑然是天涯客”
(それは独りの天涯客)

441
00:30:31,680 --> 00:30:35,160
“谁辞别庙堂 醉山河”
(廟堂を離れ 山河に酔う人が)

442
00:30:35,160 --> 00:30:38,080
“沐得天光赏春色”
(天光浴びて 春色を味わえば)

443
00:30:38,080 --> 00:30:44,960
“欲做闲云鹤 偏又生纠葛”
(たゆたう雲間の鶴ならんとも しがらみまた生じる)

444
00:30:45,040 --> 00:30:48,080
“飞絮身 偏走黄泉路”
(身を飛絮として 黄泉路を進めば)

445
00:30:48,080 --> 00:30:51,520
“看尽英雄嗔癫群鬼舞”
(英雄は尽き憤懣の群鬼が舞うを見る)

446
00:30:51,520 --> 00:30:54,560
“黑白错 风崖起疑雾”
(黒白違えて 風崖に疑いの霧は立ち)

447
00:30:54,560 --> 00:30:57,960
“妙手设局待谁入”
(妙手の罠に誰かが嵌まれば)

448
00:30:57,960 --> 00:31:04,080
“六合渺渺 纵是无觅处”
(六合は遙か たとえ行くあてなくとも)

449
00:31:04,080 --> 00:31:10,960
“携酒来 拔剑去 自有归宿”
(酒を携え来て 剣を抜いて行く 帰る宿がある)

450
00:31:37,280 --> 00:31:39,640
“正邪道人心叵测”
(正邪で人心は測れず)

451
00:31:39,640 --> 00:31:43,040
“甘苦自取自舍”
(甘苦を自ら選び取り)

452
00:31:43,040 --> 00:31:46,480
“遇知己明眸澈澈”
(巡り合った知己の瞳は明澄にして)

453
00:31:46,480 --> 00:31:49,520
“如举灯过渊泽”
(灯を掲げ沢の淵を渡るなら)

454
00:31:49,520 --> 00:31:52,920
“谁以鬼行世 恨善恶”
(世を行く鬼として 善悪を恨む誰かの)

455
00:31:52,920 --> 00:31:55,800
“红袍褪身识得”
(紅い袍を落とせば見える)

456
00:31:55,800 --> 00:32:02,600
“一眼竟万年 情痴终不赦”
(一眼万年の恋情 ついぞ赦されることなし)

457
00:32:02,680 --> 00:32:05,680
“飞絮身 偏走黄泉路”
(身を飛絮として 黄泉路を進めば)

458
00:32:05,680 --> 00:32:09,120
“看尽英雄嗔癫群鬼舞”
(英雄は尽き憤懣の群鬼が舞うを見る)

459
00:32:09,120 --> 00:32:12,240
“黑白错 风崖起疑雾”
(黒白違えて 風崖に疑いの霧は立ち)

460
00:32:12,240 --> 00:32:15,840
“妙手设局待谁入”
(妙手の罠に誰かが嵌まれば)

461
00:32:15,840 --> 00:32:21,760
“六合渺渺 纵是无觅处”
(六合は遙か たとえ行くあてなくとも)

462
00:32:21,760 --> 00:32:28,120
“携酒来 拔剑去 自有归宿”
(酒を携え来て 剣を抜いて行く 帰る宿がある)

463
00:32:28,560 --> 00:32:31,760
“天欲晚 风雪袭巴蜀”
(天は暗きを欲し 風雪が巴蜀を襲う)

464
00:32:31,760 --> 00:32:35,200
“何幸借这温存 不孤独”
(幸いにもこの温もりがあれば孤独でなく)

465
00:32:35,200 --> 00:32:38,160
“问余生 怎舍好眉目”
(余生に問う 眉目の好しを)

466
00:32:38,160 --> 00:32:41,720
“三秋如梦也愿赴”
(三秋の夢の願いを手放せるかを)

467
00:32:41,720 --> 00:32:47,920
“六合渺渺 自有自在处”
(六合遙かに 己の居場所があれば)

468
00:32:47,920 --> 00:32:53,400
“竹林响 忘沉浮 寻光欲渡”
(竹林は響き 浮沈を忘れ 光を求め渡らん)







この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?