送りバント不要論は正しい?

SNS上で時折目にする「送りバント不要論」。
その根拠は、
「無死1塁の得点期待値>1死2塁の得点期待値」
という統計データが知れ渡っているからでしょう。

一方、日本の野球現場では、送りバントは今でもメジャーな作戦としてプロアマ問わず活用されています。


送りバント不要論は現場を無視した偏った思考なのか?
データを無視する現場が攻撃の最適解を採用できていないのか?


この議論は尽きないでしょう。

ここでは、私見の中でこの件に関する見解を纏めたいと思います。

個人的見解としては、送りバントは
【必要だが優先順位は下げる】
というのが最適と考えます。


送りバントが現場で行われる理由

「必要だが優先順位は下げる」の理由を説明するにあたり、前提として
「なぜ現場では送りバントが常用されているか」
を理解する必要がありますが、主な理由は以下が想定されます。

  1. 併殺防止

  2. 打力<投手力

  3. 相手投手のクイック・一塁牽制のスキルが高い

  4. 打者に制約のない状態で勝負させたい

  5. そもそも得点自体を狙っていない

  6. 投手、捕手の打球処理能力が低い


一つずつ簡潔に解説します。


1.併殺防止


最も多い理由でしょう。
しかし、この観点では他のサインでも代用が効く為、他のサインプレーとの比較検討が必要なので、これは後程整理します。


2.打力<投手力

 
調子が悪い打者
相手投手との相性が悪い打者
ポジションが投手の打者
次打者の状態が現打者より明らかに良い
下位打順
といった場合、
バントの優先度は相対的に上がります。


3.相手投手のクイック・一塁牽制のスキルが高い


単に盗塁が狙いにくいという意味だけではなく、
クイック時のフォームの方がタイミングの観点で打ちにくくなる投手もいます。
その場合、ランナー2塁の状況を作る優先度がより高くなるので、送りバントの優先度が高くなりやすいです。
(勿論その逆もあり、そのケースではむしろ2塁に送らずランナー1塁から打者に勝負させる場合もある)


4.打者に制約のない状態で勝負させたい


強打のチームも、送りバントは意外と使うチームは多い印象です。
無死or1死1塁の場面では、打者に心理的制約(併殺、右打ち等)が生まれやすい為、フリースイングをさせたい監督ほどバントを好む傾向があるのではないでしょうか。


5.そもそも得点自体を狙っていない


Ex.8回裏の攻撃、4-0でリード、無死1塁という状況の場合、
監督の頭は「9回オモテの守備を相手優位の雰囲気で迎えないこと」が優先されます。つまり追加点を奪うことの優先順位が下がります。
したがって、ヒッティングで守備のファインプレーや併殺が生まれるリスクは取らずに、バントで送って攻撃の時間を確保します。


6.投手、捕手の打球処理能力が低い


シンプルにバント処理のミスによる出塁確率が高いなら、バントを使う確率は上がります。
雨天時やグランドコンディションが悪い場合も、同じ理由でバントが有効になりやすいです。


以上が、恐らく現場の指揮において送りバントが採用される主な理由でしょう。

野球は、不確定要素が多いスポーツです。
試合展開の中でBestだけでなくBetterを探していく必要があり、上記のような状況では、送りバントという引き出しは当然持ち合わせなければなりません。

試合展開や個別要素を度外視した得点期待値データを鵜吞みにし、送りバントを不要と片付けるのは現実的ではないでしょう。
よっぽど練習時間に制限がありそこに時間が割けないチームであれば、やむを得ない場合はあるはずですが。

したがって、結論としては「送りバントは必要」です。
では、送りバントという作戦をどこまで重視するべきか。これは他のサインとの比較から検討する必要があります。


サイン別の要素整理


ここでは、代表的な作戦の
「ヒッティング」「盗塁」「エンドラン」「送りバント」を整理します。

無死1塁 作戦別要素整理

ヒッティング


リターンありきで考えれば最も効率的です。
長打で得点できる可能性もあり、凡打でも打球次第では進塁打になります。エンドランと比べディスボールで実行する必要がない点もメリットです。

最も考えるべきは、当然ながら打者と投手の力関係です。
凡退、特に内野ゴロ併殺になる可能性がどこまで高いのか。
投手のボールの質やバラつき方、打者のスイング力やスイング軌道まで考慮し、凡退確率が高いと判断した時点で、別の選択肢を考えていくことになります。
投手の制球が定まっていない場合は、多少分が悪いマッチアップでも余計なサインは出さない方が得点効率は高まりやすいです。

次に、打者走力もここでは考慮する要素に加わります。
守備能力との見合いにもなりますが、打者が仮に内野ゴロを打ったとしても併殺崩れで塁に残る可能性が高いのであればヒッティングは選択しやすくなります。

また、試合展開も考慮すべきです。
例えば、お互い0点の投手戦の終盤無死1塁であれば当然狙うは複数点ではなく1点なので、ヒッティングを選択する難易度は高くなります。
逆に、打高投低の試合展開が予想される場合は、ヒッティングを積極的に選択していくとなります。


盗塁

盗塁は走者の能力ありきの作戦です。
無死では出しにくく、2死では出しやすい作戦でもあります。
上記の記事の通り、得点期待値から換算すると盗塁成功率が7割を超えれば有効な作戦として機能するとデータに出ていますが、盗塁企画のタイミングと走力次第では7割は十分越えられる基準だと思います。

盗塁のサインを出せるかの基準は、
【1塁走者2塁到達タイム<
投手クイックタイム+捕手2塁送球タイム+捕球からタッチまでのタイム】
が成り立てば良いですが、他にも考慮すべき要素はあります。

・配球(ディスボールの盗塁サインは変化球カウントを狙う)
・帰塁に割く意識が増えてしまう投手かどうか(牽制の技術等)
・帰塁に割く意識が増えてしまう場面かどうか(僅差の終盤等)
・足場(雨天時など)

このような要素を考慮し、ディスボールorグリーンライト(ランナーのタイミングでスタート)を使い分けることになります。

リターンがあるものの、いつでも誰でも出来る作戦ではないという側面を考えると、送りバントより先に考慮するべき作戦と言えるでしょう。


エンドラン


成功すればリターンは大きいが、運悪く内野のライナーになれば併殺という博打要素が大きい作戦であり、成功要素の有無を見極める重要性が高い作戦とも言えます。

打者要素としては、
・空振りが少ない打者かどうか
・スイングの出力の調整ができる打者かどうか
という観点で考慮します。

投手要素としては、
・空振り率の高いボールはあるか
・コントロールは良いか
・ボールは低めにまとまっているか
という観点で考慮します。
分かりやすい例を出すと、
ライズ成分の強いストレートがあるが荒れ球でボールが浮き、空振りやフライアウトが多い投手の時ほどエンドランは仕掛けにくく、
ムービング系の球質でゾーン周辺から低め周辺にまとまっていてゴロ凡打が増えやすい投手ほどエンドランは有効になります。

場面要素としては、ストライクを取りに来るカウント(直球系)で仕掛けられるかが重要。
試合展開はあまり限定されませんが、博打要素が強い為、点差がある終盤ほどエンドランは仕掛けにくくなるでしょう。

また、使い方を間違えなければ最低限1死2塁は作れる作戦なので、リターンの上振れを考えれば送りバントより優先度は高くするのが妥当だと思います。

また、作戦的な側面ではないですが、
打力があるのに見逃し癖が強い打者を無理やり振らせる為にエンドランを企画するという場合もあります。

要するに、打者と投手の力関係で決まるヒッティングとは違い、
・選手のエンドラン適性
・配球の読み
・運
がエンドランの結果を左右する。
監督の勝負勘、大局観が影響しやすい作戦ともいえるでしょう。


送りバント


打力・走力が大きく影響しないので、他に有効な選択肢がない場合の消去法的な位置づけにするのが妥当です。


サイン別の序列整理


つまり、ここまでの話を整理し序列をつけるとすると、

①ヒッティング
 └凡退・併殺の可能性高い
 ↓
②盗塁
 └盗塁死の可能性高い
 ↓
③エンドラン
 └フライアウト・空振りの可能性高い
 ↓
④送りバント

という順になります。(②と③が逆のチームもあるように感じますが)

不確定要素が多い野球の試合の中ではまずはリターンを大きく取れる手から優先して検討するべきでしょう。
勿論同一打席内でも状況は都度変わるので、一球毎にこの順で検討する為、指揮官はその場その場で状況把握し決断していく必要があります。


まとめ


以上が、私が「送りバントは必要だが優先順位は下げる」と述べる根拠です。

あくまで一般論であり、年代や試合の形態(リーグ・トーナメント)等が変わればバントの位置付けも変わるでしょう。


その上で重要なのは、日頃の練習でこれらの各作戦でリターンを大きくとれるだけの準備をどこまで行えているかということです。
更に言えば、どの選手にどの適性があるのかを指導者が練習の段階で事前に把握しておくことが重要です。

どのサインの成功確率が高いかの裏付けを最も知り得るのはチームの指導者であり、日頃の練習の取組や各選手の特徴を本質的に理解するのが難しい外部の人間には、サインの最適解は分かりにくいものです。

これを理解した上で、野球の試合を観戦するようにすると、より采配に対する見方が変わるのではないでしょうか。




不定期ではありますが、備忘も兼ねてまた何かしら記事にしてみたいと思います。


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