接着剤の種類と使い方 #1

今回はレザークラフトでよく使われる接着剤の解説と、ついでに生活の中で時々出てくるかもしれない接着剤を紹介します。使い方までまとめようと書き出してみたらなかなかの分量になってしまいましたので、今回はPart.1としてまず接着剤と基本的な使い方を紹介させていただき、Part.2で実際の使用方法についてもう少し細かく解説したいと思います。

接着の仕組み

接着の仕組みには様々な種類がありますが、レザークラフトで使用する接着剤は液体の状態で素材に浸透し、溶剤成分が揮発することによって固体となり、素材同士が硬化した接着剤によりガッチリと繋ぎ合わされる物理架橋によってくっ付きます。

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昔、理科の授業で溶液や溶媒・溶質なんて単語を習ったことがあるかもしれません。例えば食塩水でしたら食塩が溶質(溶けているもの)、水が溶媒(溶かしているもの)、出来上がった食塩水が溶液というような具合です。接着剤もある種の溶液で、溶質と溶媒に何が使われているかで接着剤の性格が決まります。また、接着性を向上させるために粘度を高くするような添加物を混ぜて調整されていたりもします。


レザークラフトで使用する主な接着剤の種類と特徴

・ゴム糊系(クロロブレンゴム、ニトリルゴム系など)
レザークラフトで最も使用されている接着剤の一つです。
使用上の注意点をまとめますと

貼り合わせる両面に塗る
乾燥させてから貼り合わせる
・貼り合わせたら圧着する
・貼り合わせた瞬間から接着強度を発揮
・硬化後も柔軟性が残る
・位置調整ができない
・切削が難しい

ポイントは少し乾かしてから接着すること、できるだけ薄く塗ることです。厚塗りしてしまうと乾燥に時間がかかるほか、乾きが甘いまま貼り合わせてしまうと接着不良を起こしてしまうこともあります。もし吸い込みやすい素材やしっかりと接着が必要な場合は薄く塗って乾燥させた後、再度薄く塗り重ねます。ただし、厚塗りしすぎると革と革の間に接着剤の厚い層ができてしまい、コバの処理が必要な場合作業が大変になります。

貼り合わせた瞬間に接着力を発揮する(コンタクト接着といいます)性質から、位置調整ができないという短所はありますが、逆に広い面(あるいは細長い接着面など)を貼り合わせたり、押さえていないと反り返ってくるような素材の張り合わせ、または曲げ貼りのように曲げたままでキープされていてほしい箇所の接着にはこの性格が非常に便利です。後述する酢酸ビニル系の接着剤では乾燥までにずれないように固定したまま待たなければなりませんが、ゴム糊系では即座に接着力が発現しますから作業性が高くなります。厚めの革でバッグを作る際のマチの接着などで力のかかる接着作業が必要な場合はゴム糊が向きます。また、乾燥後も柔軟性が残るため、完成後も柔らかさが必要な部分の接着にも向いています。

ゴム糊が硬くなってきた場合は専用の溶剤を使用して薄めることができます。薄めるコツは溶剤を入れたしばらく密閉して放置する(出来れば一晩ぐらい)ことです。溶剤を入れてかき混ぜてもそんなにすぐに溶けることがなく、どんどん飴のようになってしまいますので、容器にラップをするなどして静かに寝かしておく方がうまく緩めることができます。ただし、一定以上硬くなってしまうと元の粘度にはほぼ戻らないので、硬くなりすぎる前に緩めること、また使用中は小まめに蓋を閉める(重要)などして溶剤の揮発を少なくしましょう。気を付けないと半分も使う前にコテコテになって使えなくなってしまいます。繰り返します。小まめに蓋閉めて下さい。お願いします。

スーパーゴム糊(誠和)、スリーダイン(クラフト社)、エルスーパーボンド(協進エル)などがこのゴム糊系です。ご家庭でおなじみのボンドG17やGクリヤーもこのタイプになります。


他、いくつか紹介します。

・ゴムのり(ひうちや燧商店、弱粘着)
ゴム糊系の中では比較的安く、さらさらと伸ばしやすい。が、ちょっと接着力が弱い。一度塗りだとたまに剥がれてくるので、薄く二度塗りすると接着力良好。しっかり乾かして圧着します。

・ノーテープ9820(ノーテープ工業、強粘着)
製靴などにも使われる、皮革で使うゴム糊の中では最強の部類の強粘着。無理にはがそうとすると革の方がちぎれて剥がれてくるほど強力。ただ取り扱っている店が少なく手に入りにくいのと、角缶なので口の広い容器に移さないと使いにくいのが難点。そして誠和やクラフト社などで扱ってるゴム糊で強度は十分ということから、あまり出番はなさそう。販売する製品作りや、革対合皮などでもっと接着強度が欲しいという時に。


・酢酸ビニル系(酢酸ビニル樹脂エマルジョン接着剤)
ちょっと難しい名前がついていますが、黄色いボトルに赤いキャップでおなじみの木工用ボンドのような白いアレです。こちらもレザークラフトで最も使用される接着剤の一つです。木工用と比べ濃度や添加物などの違いはありますが、基本的な性格は同じです。

乾く前に貼り合わせる
・乾く前に位置調整ができる
・乾燥までしばらく固定が必要
・硬化後は少し硬く、ハリが出る
・乾燥すると無色透明に
・酸を含むので金属に付着した場合は早めに取り除く
・切削できる

木工用ボンドは使ったことがある方は多いかと思いますが、使い方のポイントは同じで、乾く前に貼り合わせて、乾くまで固定します。ゴム糊とは違い、接着力が発現するまでにしばらく時間がある(特に水分の揮発によって硬化するタイプの接着剤は硬化時間が長め)ため、貼り合わせた後も微妙な位置合わせが可能です。逆に乾燥までにしばらく時間が必要ということは、それだけ固定しておかなければならないということでもありますから、折ぐせの強いものでクリップなどで固定できない部分の接着には不向きです。また、乾く前に貼り合わせなければならないため、広い面の接着にもあまり向かない(初めに塗った部分がどんどん乾いていってしまう)という性格です。さらに、水分量が多いため紙などを接着する際にふやけてしまったり、水分が揮発した分体積が縮むのでしわになったりしてしまうこともあるため注意が必要です。

一方で、乾くと無色透明になる事(ゴム糊系は黒くなりがち)や、硬化するとヤスリで削れる硬さになる(ゴム糊はやすりで削りにくい。伸びてちぎれて出てきてしまう)という事から、コバ処理がしやすい接着剤でもあります。柔軟性が必要なく、カチッと仕上げたい場所にはこちらの接着剤を好んで使います。
また、レザークラフトではあまりない場面ではありますが、ゴム糊系ではできない、筒状の穴に棒を差し込むような接着が可能です(すっぽぬけた木槌を修理する状況をイメージして下さい)。ゴム糊では入り口で接着してしまい、奥まで差し込めません。

接着は片面塗布でも可能ですが、レザークラフトで使用する際は薄めに両面に塗った方が接着性は良好です。

硬くなってきた場合は水で多少伸ばすことができますが、成分のバランスが変わってしまうため(レザークラフト用途としては)あまりお勧めはしません。ちょっとの加水でも結構しゃびしゃびになってしまって、浸透しすぎたり接着力が著しく低下するなど不都合が出てきますので、加水するにもほんとに少しずつ、使う分だけ出して調整します。間違ってもボトルにドバドバ水は入れない方が良いでしょう。

主要メーカーでは皮革用ボンドエース(誠和)、サイビノール(クラフト社)が酢酸ビニル系です。こちらは木工用ボンド(コニシ)が日常生活では有名すぎて、ほかにあまり選択肢がないように思えます。


比較的新しいもので、ボトルが緑色の木工用多用途(コニシ、2014年)が片方が金属や塩ビでも接着できるのでがま口作りに使ったりしています。

酢酸ビニル系の接着剤のいいところはほかに比べてかなり安いことですね。


・アクリル樹脂系
前者2つに比べるとなじみは薄いですが、たまに出てくる速乾のりグルー21がこのタイプになります。金属、ガラス、プラスチックなども接着することができる、(レザークラフト界では)存在感が地味ながらにゴム糊並みの接着対象の広さ、硬化後無色透明の酢酸ビニル系の良さを併せ持つ接着剤です。

グルー21の紹介になってしまいますが、樹脂ヘッドでスティックタイプの使用感でノリベラいらず、直接さっと塗ってぱっと貼って試作するというような使い方では重宝します。ただ、ノリベラが使えない(使おうと思えば皿に出して使えますが)ということは、細かい分量調整や塗り分けが難しいという事でもありますから、容器に直接ノリベラを突っ込んで使う便利さには分が悪く、出番は少ないようです。

ちなみに誠和に取り扱いあります。


その他の接着剤

ここから先はあまりレザークラフトでは出番はありませんが、その性質と出番がない理由を紹介します。使わない理由として雑学的に流し読みしていただければ結構です。

・瞬間接着剤系(シアノアクリレート系接着剤)
セメダインなど有名な瞬間接着剤です。空気中や基材の水分と反応することによって急速に硬化します。粘度が低くサラサラしているため流し込んで接着することも可能で、またゴムや金属、プラスチックに至るまで接着対象が広いことも長所の優れた接着剤です。硬化後は硬く切削性も高いので、プラモデルで部分的な造形をするときに重宝しました。

レザークラフトに向かないのは、粘度が低すぎること、耐衝撃性が低いことが主な理由です。粘度が低すぎるため、にじんでいってコントロールがしにくいほか、染み込みすぎて接着面に十分な接着剤が残らない、乾燥が早すぎて一度に接着できる面が狭いといった不都合があります。また、硬化後は剥離強度(引きはがすような力に対する耐性)は高いのですが、曲げるような力を加えるとパリパリと粉のようになってしまい接着力が急激に低下します。さらに、革に含まれる水分量が多く急激に反応してしまい、高熱と目や鼻を強く刺激する煙が出ることがあり向かないばかりか危険もありますので、レザークラフトでは使用しない方が良いでしょう。

・エポキシ接着剤(エポキシ樹脂系)
セメダイン社やコニシ製のもので目にすることが多い、A液・B液を混ぜて使うタイプの接着剤です。耐熱、耐水、耐湿、耐薬品、耐衝撃、電気絶縁性などに優れ、宇宙にも行っちゃう高い信頼性を誇る接着剤です。しかも接着の相手を(日常生活レベルではほとんど)選ばない、オールマイティに超優秀なヤツです。ハンドメイドではアクセサリーやスノードーム、ハーバリウム的な液体モノにも使え(ガラスにも!)、ここぞというときに活躍してくれます。おまけに化学反応により硬化するため、収縮が極めて少ないのもポイント高。

向かない理由は、レザークラフトの時間感覚では硬化時間が長すぎる(早いタイプでも硬化開始が5分、完全硬化まで8時間など)、AとBを都度混ぜるのがめんどくさい高すぎるなどの理由です。革は比較的接着しやすい素材で、そこまで過酷な環境にも置かれないので、向かないというよりはこれを使う理由がありません。強いて言うなら、コンチョの裏のネジをロウ付けする代わりに使えます。

・デンプン系接着剤
最近また帰ってきた(?)フエキくんでおなじみのでんぷんのり、接着剤の中では数少ない天然植物由来のエコで安全な接着剤。トウモロコシ原料のコーンスターチが主流、飲んでも死なない、ひたすらに安い、園児にも安心の安全性

一見使えなくもなさそうなのですが、使わない理由は水分量が多すぎる、乾燥が遅い、待たせる割に強度が弱いなどです。特にタンニンなめしの革には余計な水分は変形・変色の原因になりますから、できれば水分量は少ない方が相性は良好です。環境には優しいので、1から10まで天然素材にこだわる方は使ってもいいかもしれません。

関係ありませんが、上で出てきた速乾のりグルー21はこっそりフエキくんの不易糊工業です。

次回Part.2は使い方について掘り下げて解説します。


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