接着剤の種類と使い方 #2

前回に引き続き、接着剤についてご紹介します。
今回は使い方と、その根拠になる理屈について解説します。
「接着剤の塗り方を見れば、その人がどれぐらいレザークラフトをやっているかがわかる」と師匠に言われたことがありますが、まさにその通りで、接着剤の塗り方ひとつで仕上げの手間や美しさまでその先の作業すべてに影響を与えます。やればやるほど、その重要性を実感することになります。

前回の記事についてはこちらをご覧下さい。


接着時のポイント

はじめに接着の際に気を付けるポイントをおさらいします。

・接着面の汚れを取り除き、ヤスリ等で軽く荒らす
・薄く、まんべんなく塗る
・(ゴム糊系)乾かしてから貼る
・(酢酸ビニル系)乾く前に貼る
・(ゴム糊系)貼ったら圧着する
・(酢酸ビニル系)貼ったら乾燥するまで固定する
・特に何も処理していない床面はそのまま塗ってOK
・トコノールなど、床面処理をしている場合はその部分にヤスリがけする
・特に銀面の接着は表面を荒らしておく

次に、今回は何で接着面を綺麗にして荒らすのかということについて解説します。


強い接着力を得るために

前回、接着は素材に浸透し、溶かしている成分が揮発することにより硬化、対象をつなぎ合わせることによって接着力が発現するとご説明しました。

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ここをもう少し掘り下げてみます。
十分な接着力を得るためには、接着剤が十分表面に接していることが重要になります。すなわち、接着では「濡れ」の状態として説明される要素ですが、接着剤によって十分に濡れている状態にする、言い換えると弾かれていない状態(親和性が高いといいます)を想像していただければわかりやすいと思いますが、何とかしてその状態をおぜん立てしてあげることが重要になります。
濡れの状態を説明する方向から始めると接触角などの話が出てきて難しいので、弾かれやすい(親和性が低い)状態から弾かれない(親和性が高い)状態にするためには何が障害になっているかという方向から考えます。

レザークラフトで主に接着の障害になるのは油分(ヨゴレ)と仕上剤(表面処理など)です。

油分に弾かれるということは日常でも良く目にすることがあると思いますので、想像は難しくないかと思います。フライパンに油を敷いて調理するのは、食材がはじかれることによって焼き付くことを防ぐという役割を担っているわけです(ほかにも効果はありますが割愛します)。
それと同様、接着剤も汚れや油分などが付着している場合、それらに阻まれて革まで接着剤が十分に食いつかず、表面の油分ごと剥がれてくるといったことが起きてしまいます。

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仕上げ剤については、色落ち・色移りなどを防ぐために水分が侵入したり、あるいは染料がこすれて染み出たりするのを、薄い樹脂層でコーティングすることによって防ぐ目的のために塗布されます。または、さらに汚れにくくするような機能を持たせるために親和性が低い状態(つまり汚れの元になる水分や油分を弾きやすい状態)にするコーティングを施す場合もあります。特に水をはじくほど親和性を下げるものでは、シリコンやフッ素が主成分のいわゆる防水スプレーなどがあげられます。このような処理が施されているものは接着剤が十分に濡れた状態にならず、カンタンに剥がれてしまう原因になるわけです。

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このどちらも接着という作業においては都合が悪いものなので、十分な接着力を得るためには取り除いてやる必要があります。ちなみに顔料仕上げの革であったりトコノール等で処理した床面も同じ状態なので、これはどちらかの面――もとより革――に限った話ではありません。床面も処理した後に接着する箇所はヤスリ等で削り落としてやる必要があります。


さらに、接着力を高めるためには接着面積を多くしてやることでも高くできます。しかし、単純にのりしろを大きくしてしまうと形に影響が出るため、そういうわけにはいきません。ではどうするか。
この場合も、接着面を荒らしてやることで実現します。

接着面がフラットな場合と細かくギザギザと荒れている状態では、大きなスケールで見ると同じ長さや面積だとしても、細かく見ると実際の表面積は大きく異なります。

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仕上剤などによって表面が均質になっているときも同じようなフラットな状態とみなすことができます。いずれにせよ接着面が滑らかな場合はヤスリなどで荒らすことによって表面積が増大させ、さらにギザギザの隙間に入り込むことによって接着剤と革ががっちり絡みやすくなるので、接着力が大幅に向上します。

このように接着前に表面を荒らすという行程は、汚れやコーティングの除去と、表面積を稼ぐという二つの効果を期待して行われる作業という事になります。


ちなみにこれらは塗装の場合も同様です。塗料は接着剤の溶質(溶けているもの)が接着力のない色のついた小さな粒子になったものと考えられますから、同じように汚れなどに阻害されて染み込まなければ染料は色が付きませんし、表面処理などによって表面の食いつきが悪ければ顔料は剥がれてしまうという事になります。


接着剤の粘度による変化

また、前回瞬間接着剤の項目で、粘度が低すぎるために使用に適さないというようなことを書きました。接着剤本来の接着力を発揮させるためには粘度も重要で、これが高すぎても低すぎても接着力は下がってしまいます。

粘度が高い場合はしっかりと染み込むことができず、間に空気などが入ってしまいはがれやすくなってしまいます。これは一見革の表面を覆っているように見えても、ただ単に乗っているだけで、濡れている状態とは言えません。しかも硬くてノリベラで伸びにくく、最悪ダマなります。

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逆に粘度が低すぎると、染み込みやすい素材に対しては張り付ける前にどんどん吸い込まれてしまって表面に十分な接着剤が残らず、また伸びが悪くてノリベラで使いづらいというような不都合が出てきてしまいます。

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使っているうちに溶剤が揮発してしまって粘度が高くなってきてしまった場合は、溶剤などを使用して適度な粘度に調整して使用するようにします。さらさら過ぎずコテコテ過ぎない、適度なとろみが使いやすさの重要なポイントです。

同じような主成分の接着剤はたくさんありますが、レザークラフト用などといった風に特に○○用と名乗っているものは、その素材への使用に適した調整をするための副成分が異なっているとイメージしてみて下さい。革は比較的接着しやすい部類の素材ではありますから大体のもので接着は可能ですが、それでも適した接着剤を使う方が良い結果が得られます。


実践テクニック

最後に表面を荒らすときや接着剤を塗るときに役立つテクニックを紹介します。

・ドレッサー(ヤスリ)を使用した辺の荒らし
NTスモールドレッサーのようなヤスリを使用して革の外周部分を荒らす場合は、ゴム板や机の隅などで段差を作り、ドレッサーを短く持って使用します。短くつまむように持った人差し指をガイド代わりに段差に当てて滑らせることで、均等な幅でヤスリがけをすることができます。
紙ヤスリなどを折って使用するときも同様です。

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削る幅に合わせてつまむようにして持ちます

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ゴム板などで段差を作り、革をゴム板の端に合わせておいて、人差し指をガイド代わりにして均等の幅で削ります。

・カッターナイフを使用した荒らし
カッターナイフを使用して荒らす場合は、刃の付いていない先端の部分を使用します。これは単純に刃の部分を使用するよりも角度的に作業しやすく、なおかつ刃でなくても十分削れるというのが理由ですが、もう一つ(これは個人的なこだわりでもあるのですが)、刃を横に滑らせると切れ味が悪くなりやすいからというのもあります。したがって同じような理由で革包丁を使って荒らす場合でも同じことが言えて、切り出しにはあまり使わない手前側の刃を使用したほうが良いでしょう。

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寝かした刃を手前に引くようにして削ります。


・ノリベラを使用した接着剤の塗り方
ゴム糊を塗る際のポイントは、ノリベラには少量ずつ取る、ノリベラの片面にだけ取るノリベラが軽くしなるぐらいの力で押さえつけるようにして塗り伸ばす、です。ゴム糊は乾いてから接着するので、焦らず丁寧に薄く塗ることが肝心です。たくさん取るとノリベラから塊がはみ出してくるので厚塗りになってしまいます。また両側に取ってしまうと、塗り伸ばしている最中に反対側から流れてきてこれまた厚塗りになってしまいます。

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そして、軽い力でさっさか伸ばすと塗りムラになってしまいますので、軽く押し当ててじっくり擦り込むようなイメージで塗ると良好です。
また、ドレッサーを使用するときと同様、外周に塗るときはゴム板等を使用して段差を作りましょう革の端を段差に揃えておいて、ノリベラが革から離陸した際に出来る糸状に伸びた接着剤をしっかり段差を使って切ることがポイントです。段差を使わず真上にノリベラを上げてしまうと、伸びた接着剤がコバに集中してコバ処理が大変になります。

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まとめ

・接着剤の性格を知り、適切に使い分けましょう
・薄く、満遍なく、最小限に
・接着前の下準備も大切
・ひたすら接着剤を塗る練習も〇

接着剤は、単に強度だけではなくその後の工程すべてに影響を与えます。特にコバの仕上がり部分で大きな差が出ますので、日々の制作中に意識するのも然ることながら、接着剤を塗る練習そのものをメインテーマにする日があっても良いでしょう。私も最低でも1週間は練習しろと言われたことがありました。そして実際に接着が上達してくると、作品の仕上がりもあわせて上達することを経験しました。ワークショップでは時間に限りがありますからあまりじっくりと触れることはないテーマなのですが、もしご自身で基礎からレベルアップされたい場合は、接着を見直してみることをお勧めします。

長くなりましたが接着剤のお話でした。
良いレザークラフトライフを!

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