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映画駄話#3『目指せメタルロード』

メタラーでも、そうでなくても観て損なし

Netflixオリジナル『目指せメタルロード』早速観ました。所謂ボーイミーツガール要素もある「バンドやろうぜ」系音楽映画であるが、素材になっている音楽ジャンルがヘビーメタルである。おっと、大丈夫だろうか。

でも結果から言ってしまうと、(信念としての)メタル好きだったら安心してお勧めできるし、青春系音楽映画としても良作でした。ざくっと書いていきます(以下ネタバレ注意)。

ディティール・考証がばっちり

音楽プロデューサーとしてトム・モレロの手が入っているので、楽器演奏のシーンはもちろんのこと、機材やファッションなど、HR/HMカルチャーの描写に微塵の違和感も感じられないのは流石。冒頭、主人公の親友ハンター君が自作曲のギターソロがなかなか思うように弾けず鬱憤をまき散らすシーンがあるのだが、ここには物語の本筋とは全然関係のない、でもクライマックスのライブシーンに繋がる、プレイヤー(ギタリスト)目線ではとっても大事な伏線が埋め込まれていたことに感嘆を覚えた。こういう緻密かつ説得力のあるディティール描写は、ファンの拘りが強いヘヴィメタルというジャンルを扱う上でとても大事だ。トム・モレロさんって、革新的なプレイや、やっているバンド(RATMやAudioslave)の尖りっぷりが表沙汰にされがちだと思っているのだが、彼自身は非常に懐の広く、博識なHR/HM育ちのアーティストでもあることが、インタビューなどからも良く分かる。彼をプロデューサーに据えたことが、効果的に本作の音楽映画としての信頼度・品格を何段階もアップさせていることは自明であろう。

みんなかわいい

「バンドやろうぜ」系の映画を良作・名作たらしめる必須条件はなんだというと、スクール・カーストの底辺にあったり、自身や家庭に問題を抱えていたりするメインキャラ達が、音楽を始めて行く過程で起きる内面外面のメタモルフォーゼを経て、本来持っている愛らしさをさらにピカピカに輝かさせていく、一連のあの流れに尽きるのではないか。

80年代のダブリンを舞台に、気になる女子を振り向かせようと一念発起してバンドを結成するという(だいたいおんなじフォーマットである)ジョン・カーニー監督の傑作『シング・ストリート』でも、内気でパッとしない主役のコナー君が、バンドをやることでどんどんイケ男子化していくのが見どころの一つであるのだが、本作の主役ケビン君も、幼くて華奢でメタルとは無縁っぽい雰囲気からドラマーとして開眼していくプロセスが素晴しく、筋肉をつけ、演奏時は袖をカットオフしたブラック・サバスのバンドTを着、髪型や服装などもしっかりビジュアルがそれっぽくなっていくのと並行して、自身のコンプレックスである対女子問題を真正面からクリアしていく姿が何とも爽快。いうなれば彼はバンドマンのライト(光)サイド担当で、それがドラマーっていうのも結構リアルだと個人的に思う。

一方のダークサイドはやはりギターボーカル、ハンター君がしっかり担っている。彼は所謂「ステレオタイプなヤツ」で、ティーンエイジャーの鬱屈を全部メタルの世界観につぎ込んで放出、なまじ親の財布が太くて自由にお金が使えるものだから、自身のアイデンティティを守るメタル要塞(あまりに立派すぎて笑った)を高校生にして築き上げてしまっている。酒タバコ薬はやらずクリーンだがスクールカーストの上位にはケンカをしかけるので、学校では浮いてるし校長からは目を付けられる。ユリシーズなどのエピックな文学的知識も有しており、彼なりの信念・行動理念を貫き通す。まさにメタラーの鑑、ヘヴィメタルとは何か?を体現するような男である。

ヒロインのエミリーは、この手のジャンルでは避けようのないことかもしれないけれど、衝撃の登場シーンからラストのライブシーンのステージング含めちょっと完璧で、作り手の理想というか願望がだいぶ詰め込まれてるなと思った。なので嫌いなわけがあるはずがないのである。とにかくみんな総じてちゃんと愛せるキャラになっているのが良い。

賞賛すべきなのはそれだけでなく、メタルファンの中ではいまだに根強く残っている「メタルは男のもの」といったマチズモに囚われているハンター君(象徴的にMANOWARのアー写が使われていたのも秀逸であった)の意識が、きちんと最後にはアップデートされていたという点。伝統的なメタル野郎の彼にとって、表面的ではあるものの異質に感じてしまう「女子」「チェロ」という要素を持ったヒロイン、エミリーとの衝突と和解が、優しくて元々良くも悪くもメタルに偏見のないケビンの手引きもあって、彼をよりヴァーサタイルなメタラーに進化させていく。

そもそもメタルという音楽はダイバーシティ(多様性)あってこそのジャンルであり、僕らのように現実世界・人間社会の中で不自由や違和感や無力感を人一倍感じているような人々にパワーを与えてくれる音楽であって、今更説明するのもアレだが、メタルシーンで活躍している女性はなんぼでもいて、チェロでメタルをやっているグループも世界的に有名であるということをちゃんと申し添えておきたい。90分余りの尺で、こういった要素をきちんと入れてくるあたりも地味に凄いとことだと思うし、2022年という時代のNetflix作品らしくて素晴らしい。

ほかにも色々と

・見た目ばっちり過ぎる奴ほど演奏いまいち
・ジャンル問わずバンドやってるのは良い奴
などのバンドマンあるあるネタも利いていたほかにも
・エドシーランの曲でドラム手数入れ過ぎ
・本物のレジェンド出演
という、メタル愛好家なら思わず笑ってしまうシーンも要チェックである。

「青春系音楽映画」って・・・

もともとちょっと苦手であった。こんな10代の過ごし方、羨ましすぎてある訳がないだろうが!と思っていて、眩しすぎて辛かったからである。でもある程度年を重ねると、ちょっと観方というか考え方が変わってきてからは大好きなジャンルになった。これはどこまでもファンタジーなのだ。多分、監督したり脚本書いたりするクリエイターの人って、10代は限界までエネルギーを貯めていた人が比較的多いのではないか。そうやって産み出される作品は、彼らのある種の妄想の再現というか、「こういう高校時代が良かったのう・・・」というように、10代の頃の自分の供養をしたかったのだろう、と。そう思うようになってからは、「これは自分のために作られた映画だ!」と受け止められるようになったのである。

GWに観るにはちょうどいい映画でした。
今日はバンドTを着て出かけようと思います。


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