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依頼者の利益のために尽くすのが職業代理人だけど裁判所はそう思っていない

被告人を弁護する代理人はまずは無罪を主張することが責務であり、その主張に沿った行動をする
そんな代理人に対して世間の風当たりは強い
代理人とは100%依頼者のために尽くすのだから、世間が何と思うが依頼者の利益を実現しなければならない

代理人の守秘義務は、そんな依頼者の利益を守るためのもの
依頼者の不利益になる事実を知っていたとしてもそれを口外せずに依頼者の利益を実現する
依頼者の不利益になることを口外すれば、それは守秘義務違反である

弁理士が弁護士のような守秘義務を求めれるとすれば、例えば、侵害事件だろう

特許権者である依頼者から競合会社の権利侵害の話しが持ちかけれたとしよう
特許権があるのだからそれに基づいて権利行使するのは当たり前
とはいえ特許権に無効消滅はつきもの
無効理由を知っていながら権利者の権利行使を代理したとしたらどうなるか

依頼者が権利行使を希望するのだから代理人は依頼者の希望を叶えるために行動しなければならない
たとえ無効理由があることを知っていたとしてもだ

この考えにNOを突きつけた裁判例があった

知的財産権に基づいて権利行使をしたり,その前提として警告書を発することが許されるのは当然である。しかし,権利行使をしようとする者は,その基礎となる権利について,明らかな無効理由がないか否か,また,対象製品等が当該権利の技術的範囲等に属するか否かを,あらかじめ十分に調査,検討すべき義務があるものというべきである。中略 弁理士として被告から依頼を受けて警告書の発送を代理するに当たり,過失があるというべきである。したがって,本件警告書を発した被告らの行為は不法行為を構成する。

東京地裁平成 11(ワ)6249不正競争民事訴訟事件

依頼者にとって不利益な事実が存在していることを知りつつ、依頼者の希望を叶えようとしとした代理人の行為が不法行為となり得る

殺人事件の容疑者の代理人弁護士が、(容疑者の不利益をしりつつも)無罪を主張することが認めらているなら
特許権者の代理人弁理士が、(無効理由の存在をしりつつも)警告書を送付することも認められてもいいはず

弁護士が守るのは人権、弁理士が守るのは私権
私益だけを考えた行動は慎むべきということか

警告書の送付を依頼されることはよくあるし実務的に難しいということもない
しかし無効理由の調査、技術的範囲の属否について、あらかじめ十分に調査検討すべき義務があるなんて言われたら警告書送付の受任はリスクが大きすぎる

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