見出し画像

給与支払いが電子決済事業者に解禁予定

(記事の要点整理になります)
2019(令和元)年10月に消費増税法が改正され10%に引き上げられたことにともない、当時、影響緩和策(腰折れ防止)として主に次のような対策が施された。
・軽減税率制度の導入
・プレミアム付商品券事業の実施
・キャッシュレス決済に対するポイント還元制度
・マイナンバーカードを活用した消費活性化策
で、このうちキャッシュレス決済については、これを契機にPayPayをはじめとする多くの電子決済が、私たちの生活に普及していった。

おそらく以前から審議会で議論されていたことではあると思うが、タイトルにある通り電子決済事業者にも給与支払いが解禁される予定である。(関係法令の施行日がいつかは不明)
これにより、従業員の電子マネーアカウントに直接給与を支払うことが可能となるが、給与のデジタル払いのメリットと審議会で議論中の論点を整理していきたい。

給与のデジタル払いのメリット

メリットを挙げる前に給与に関係する規定をおさらいしておこう。

【労働基準法】(賃金の支払)
第二十四条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。
2 賃金は、毎月一回以上一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第八十九条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。

上記労働基準法第24条を引用した太字部分は、いわゆる「賃金支払いの5原則」と呼ばれている。
今回の給与のデジタル払いで関係する部分は、通貨と直接支払うという部分だろう。
「銀行振込をしているんだから目くじらを立てることではないのでは?」
だがちょっと、待ってほしい。論点は後述するとして、メリットとして考えられるのは、
・「日払い」や「週払い」がしやすくなる
・労働力の確保が期待できる
・ATMを利用せずに済む
・現金やキャッシュカードを持ち歩く必要がなくなる
(日本の人事部ほか引用)
などが挙げられる。
確かに、さまざまな電子決済が普及している現在、労働者(従業員)の便益が向上するという点では導入の検討の余地もあるだろう。特に2番目の労働力の確保が期待できる点については、外国人材を想定していることからも、理解できる。外国人材については、銀行口座を開設するのも容易ではないため、給与支払いのデジタル払いが認められれば、外国人材も働きやすくなるのではないだろうか。

給与支払いのデジタル払いの論点

では、審議会で論点として挙げられていることを見ていきたい。

▼資金の保全
→労働者保護に欠けてはならない
資金移動業者の場合は、送金の途中で滞留している資金の100%以上の額を履行保証金として保全することとなっているものの、破綻した場合、その全額が保障できるかどうかの確約はない。したがって、政府としても利用する資金移動業者については少なくとも「安全性」「保全性」「補償性」の面で銀行と同等であることを求めている。

▼不正対策
→振り込まれた後に不正利用されないか(「ドコモ問題」を例に)
・今回(の審議会)は資金保全・換金性・本人同意の方法について銀行との比較だったが、不正の場合の補償、セキュリティ等他にも比較する点があるのではないか。
・資金移動業者の健全性、安全性に大きな不安がある、リスクは労働者に負わせるべきではない。

▼導入にあたっての企業実務
→銀行振込の場合は、金融機関名・口座番号等の情報が必要だが、資金移動業者に送金依頼をするときは何の情報が必要なのか。

▼労働行政との関係
→労働行政がどこまで資金移動業者を監視できるのか
※資金決済法関係法令の所管は金融庁
・現行の運用のままで行くとして、分科会の議論が金融庁の監督業務に反映されるのか
・資金決済法関係法令を改正して基準をクリアした事業者のみ給与支払いができるようにさせる

▼換金性
・賃金は通貨払いが原則であることを踏まえれば、所定の賃金支払日に換金(出金)できることが必要ではないか。
※ 換金の手数料や換金の単位についても、検討が必要ではないか。

▼労働者の同意
・労働者の同意に当たっては、銀行口座等との違いも理解の上で同意できるようにすることが必要ではないか。
・破綻時の補償の受取方法等、同意の際の確認事項について、銀行口座等と比べて追加することが必要ではないか。

(厚生労働省「資金移動業者の口座への賃金支払について課題の整理」より一部引用/https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/000738986.pdf)

など、課題は多い。
資金移動業者は、いわばプラットフォーマーなので銀行とは性格が違うわけだ。
上記課題を受けて考えられるデメリットは次の通りではないだろうか。
・周知やフローに手間がかかる
・デジタルと現金の二重運用が発生する
・使い勝手が悪い(例:公共料金の支払いに使えない)
・セキュリティや保証に対して不安が残る
(https://ak4.jp/column/salary-digital-payment/より引用)

電子決済事業を抱えているLINEやソフトバンクなどはすでに先行して取り組みを始めているが、現在、給与ではなく交通費(LINE)や手当(ソフトバンク)を支払うのみにとどめている。

おわりに

私は文中に示したような電子決済はいずれも使用したことがない。
普段は、現金やデビットカード決済、クレジットカード決済で十分だからで、また電子決済のためにいくつもアカウントを保有しておきたくないためでもある。
電子決済が普及して現金を持たないことが当たり前となり、電子決済がない店はお客から嫌な顔をされることもあるそうだ。(事前に調べてほしいものだが)
労働者側の便益向上が、実は資金移動業者各社の我田引水になっていないだろうか。
メリットがあれしかない中で導入が考えられているのは驚きだし、何しろ検討中の課題を企業実務に落とし込んで考えるとかなり無理筋ではないか。LINEやソフトバンクは関連会社に資金移動業者があるので、同意の上で限定すればよいだろう。しかし、500名未満の一中小企業で実施しようとしたとき、資金移動業者を限定するのは困難だろうし、その場合には、会社側が給与支払いのために電子決済アカウントを複数持つのかという、懸念が生じる。
また、キャッシュレス決済を例に挙げると、手数料無料期間が終わったため取りやめた飲食店も少なくないことから、手数料に関しての取り扱いも十分に検討してほしい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?