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X-GEAR5章「ファイト トゥ ディストピア」

【第5章】
5章:ファイト トゥ ディストピア

【サブタイトル】
70話「The point night」

【本文】
GEAR70:The point night

・水曜日の夜だ。本来ならば週半ば、或いは後半戦に向けて盛大にだらけるうってつけの日程。しかも今週は期末テストと言うこともあってよりだらける時間は必須だ。と言うか、勉強する時間も必要なくただただ時間の経過を恨みながら惰性を興じるのが学生が育て上げるべき特権だろう。今日とて本来ならば昼下がりにラーメンをおごられて家に帰ってから適当にゲームでもやりながら消化を待ち、代理シフトで道場に来てくれている赤羽とか鈴音とかにセクハラをするためだけに道場へと向かう予定となっていたのだ。だのに蓋を開けてみればトラックほどの大きさを持ったダハーカとの戦い、それより強いはっきり言ってチートの類である魔王との戦い、さらには探し続けてきた少女の真の姿である天死との
戦い。さらにさらにその後にはよく分からない白銀キザ野郎からしこたまよく分からない情報を片っ端から叩き込まれた末に昔の仲間と再会していろんな力とか記憶を思い出して、混乱を2段3段どころか万里飛び越えてまたもや混乱に戻ってきてこのまま何もせずに惰眠を貪りたいと思っている今日この頃。
「それにしてもつくづくよく分からないものに恵まれている人だね、あなたは」
声はすぐ隣から聞こえている。裸の肩と肩が触れ合う温もりと共にその衝撃は零のGEARでは消せない。尤もまだ零のGEARの効力は赤でも青でも濡れないように二人で全体重とそれ以上を押し付けているこのベッド全体に委ねたままなのだが。
いやいや。その前にこの肩だ。どんなに気を張っていたとしてもこの何も隠されていない、されど小さな肩口が目や口以上にものを言うのが男のロマンと言う名の世界だ。男のそれとは大きく違うその小ささ!狭さ!!細さ!!!フェチ布教用に言うが見てみろ、どんなに気の強い女であろうとも隠し切れないデオキシリボ核酸のいたずらとしか思えないこの小ささ!!確かに肩口を見ればその下に続く胸の大小も何となく分かるかもしれないがそんなことは二の次だ。抱いて眠ればそんなものはすぐにわかる。しかし人の多くは肩を隠さず……見せる!!そこから続く細い腕!それが可憐な少女らしさを物語っていないで何が語れるというのだ!!皆も見てみよ、夏のプール開きの時に!自分のと、そして嫌でも見
ることになる他のくそ男どもと比べてなお小さいその肩にぃぃぃぃぃ!!!……こほん。少しはしゃいでしまったようだ。
「驚いているのはこっちの方だ。どうしてまだこのクルーダの天空宮殿があるんだ?少なくとも1度世界のリセットと共に消えてなくなってるんじゃないのか?」
「それは違う。世界をリセットしているブランチと言う存在は何も超常的な力を以て世界の時間を巻き戻したりしてリセットしているわけじゃない。月光蝶とか∀とかああいう感じの力技で地上の文明をすべて消し去ってそしてまたやり直しているんだ」
「尚更どうしてここが無事なのかよく分からないんだが」
「ここはあなたが……今は私に預けているプラネットの力で作られ、そして守られている場所だからだ。調停者としての力と記憶をほとんどなくしたブランチではここへは干渉できない。もっと言えば私やあなたにも、そして私達が特に強く関わってきた者達にも。……廉、風邪ひきそうだからそろそろ服を着た方がいい。GEARも元に戻して」
「あ、ああ」
2度目はないのかとちょっとだけ落胆しながらヒエンはベッドから起き上がり、零のGEARを自身に戻しながら服を着なおした。その間にルーナもベッドから起き上がって服を着なおす。
「正直ブランチとか世界のリセットとかよく分かってないんだが」
「ブランチはあなたの対となっている存在だよ。まあ、元のあなたと言った方がいいかもしれないけどね。奴は全宇宙の調停者<ディオガルギンディオ>と呼ばれる存在のひと柱。奴らは色々な文明へと干渉しては調停と称してあらゆる実験を行っている。1億年以上前のこの星にやってきたのがそのブランチっていう調停者であって、今もなお断続的に歴史が無理やりリセットさせられている。尤も連中的には今のこの矛盾の安寧って呼ばれる仮想世界が面白いみたいでしばらくリセットする気はないみたいだけれど」
「で、その矛盾の安寧が小夜子ちゃんの兄貴で八千代ちゃんの弟って奴のGEARで出来ているこの仮想世界って奴か」
「そう。話を聞く限り2年前に死んだはずの少女を生き返らせたってこと以外には別段法則を変えたりとかはしていないみたいだけれどもそれでもたった一人の人間が1つの世界を新しく作ったってことが連中にはとても面白いみたいだね。ううん。それだけじゃないか。この矛盾の安寧が作られたことによって世界に歪みが生じて、その歪みに乗じていろんな実験要素を呼び寄せている。……パラドクスとかダハーカとか、そして私達プラネットとか」
「……そのプラネットだけどお前に貸しているって話だが僕に正式に返すってことは出来ないのか?別に必要ってわけでもないけど」
「今のあなたじゃ無理。もう少し力を取り戻してからじゃないと完全には制御できない。この力は文字通りこの星そのものに強く関係する力なんだ。指1つ動かすだけで大陸1つを飲み込み、沈めるだけの大津波や、それこそブランチのように力ずくで文明をリセットさせられるだけの大地震や竜巻、パンデミックと言った天災をいくらでも起こせる。およそ地球にいる限りは絶対に無敵で何でも出来るような力なんだ。それを制御できない人に預けたらどうなるか、わかるでしょ?」
「ルーナなら制御できるのか?」
「3割程度だけだけれどね。それでも例えばこの日本から四季を消したり、サハラ砂漠を熱帯雨林に変えたりとかくらいなら出来るはずだ。もちろんするつもりはないけど」
「3割でそれかよ」
「……それにしてもあなたはどこまで自分やその力に関する記憶を失っているんだ?今まで何度かGEARによる記憶のリセットを見てきたけれど失ったのはエピソード記憶だけでこの辺りの知識は当たり前のように持っていたのだけれど」
「さあね。どこかのベル王子兄弟みたいにこの世界に来た途端にもう片方に記憶を奪われたとかそんな感じとかだったりしてな」
「もしそうだとしたら復活しているかもしれない」
「ん?」
「あなたのパラドクス……裏闇裏丸(うらやみらまる)が」
「なんだその小学生が考えたような如何にもな名前は」
「実際に小学校時代のあなたから生まれた存在だ。……そういう感性は昔のままみたいだね」
クスッと彼女は笑った。どうやらただのクールビューティではないようだ。
「パラドクスって何だったか?」
「世界の歪みが生んだ存在だよ。あなたは事故とはいえ小学校時代に十三騎士団のナイトスパークスになっている。しかも、2代目が健在なのにもかかわらず初代から直々にその力を与えられてその3代目になった。本来あってはならない事だ。十三騎士団なのに14人になっちゃうからね。その矛盾によって世界に悪影響が及ばないようにその歪みを実体化させた姿がパラドクス。とはいえそれが多すぎても世界に悪影響が及ぶからその数は31体までしか増えないようになっててそれ以上生じた存在に関しては一番近い現存するパラドクスに吸収されて力を増す」
「……世界の歪みって事は今のこの状態ってとてもヤバいんじゃないのか?」
「そうだよ。きっと彼と同じような形で作られてしまったパラドクスは今頃信じられないくらい強くなってるだろうね。まあそっちは他の騎士たちが何とかすると思うけど」
「……十三騎士団だっけ?そいつらは何なのさ」
「この宇宙を司る邪神オーディンに仕える13人の存在。……まあ、オーディン自身の戦闘化身も含まれているから実際には12人かな。全宇宙における森羅万象の安定と秩序を保つために宇宙最強の力を与えられた存在達の集団だよ。存在意義からしてパラドクスやディオガルギンディオとは相反しているから敵対関係にある」
「どうして邪神に仕える奴らが宇宙の秩序を守るんだ?」
「昔のあなた曰く清いだけの神々は滅びしか考えていないから、だそうだよ」
「何じゃそりゃ」
昔の自分はよく分からない事ばかりだな。そう思った時だ。不意に寝室のドアが開かれた。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん。こどもにはあぶないぷろれすおわった?」
まほろが部屋に入ってきた。
「ああ、終わったよ」
ルーナが答えればまほろはまるでホバー移動しているみたいにすいーっと彼女の傍までやってきてその胸に招き入れられる。
「……その子も昔の仲間なんだったっけな」
「そうだ。あんd……本郷まほろと言う。1つの世界がリセットされた時に生じる世界そのものの残留思念とも言えそうな存在:ピクシーだ」
「つまり人間じゃない、ダハーカや天死とも違うまた新たなよく分からない存在って事か」
おかしいな、零のGEARを使っているのに頭が痛くなってきたぞ?
「前の世界であなたと私が保護していた子だ。何故か分からないがこちらの世界に来てしまったようだ」
「……その1つ前の世界ってのはまだ無事なのか?」
「この世界的に言えばもう滅んでいるだろうね。けどまほろはタイムスリップか何かで直接前の世界からこの世界にやってきてしまったみたいなんだ。私もそれを追って物理的にワープしてきた。あらかじめこの子がどこへ行ってもいいように私の能力で使役している微生物を付着させておいてその微生物を中心に周囲の微生物を集約させ、私に足りるだけの質量が足りた瞬間に私がそこへワープして微生物と入れ替わるっていう仕掛けだ。まさか世界線を超えてタイムスリップみたいなことまで出来るとは思わなかったけど」
「ルーナの力は微生物を操る力だったか?」
「ああ、そうさ。この世界に来た途端、自然のGEARって名前になったみたいだけど能力そのものは一切変わっていない。あなたや甲斐爛のような相手じゃなければ数秒で粉々に出来る。あとは存在そのものが現象であるこのまほろみたいなのには通用しないかな」
「すー……すー……」
見ればまほろは睡眠状態に入っていた。まるで繭のように体を丸めて白い糸みたいな光で全身を覆っている。しかも浮いてる。確かにこれでは人間ではないだろう。
「待った。GEARってのはこの世界にしか存在しないのか?」
「そういう仕組みになっているっていうのは確かだ。でもあなたの零のGEARのように1つ前どころか本当に文明の始祖から存在するGEARってのもある。少なくとも1つ前の世界ではGEARっていう概念はなかったよ。だからこの世界が始まった時に何者かがそういう設定をしたんだと思う。ブランチか別のディオガルギンディオか、はたまたそれでもない別の存在かは知らないけれども」
「……分からないことばかりだな。ルーナ、気晴らしにもう一回やらないか?」
「……私はあなたのお嫁さんでも恋人でもない。あなたの正妻戦争にも参加していなかったしする気もなかったんだけど」
「……過去の自分はそんなもの開催してたのか?」
「それで滅んだ世界もあるくらいにはね。言っておくけれど私はあなたと関係する中では一番付き合いが短いんだ。それでも2つ前の世界からだけれどね」
「……キーちゃんって子が嫁なんだよな?」
「ああ、そうだよ。私も実は会った事はないんだけれど」
「ってことは少なくとも3つ以上前の世界か」
「……ひどいことを言うけれど、いい?」
「ん?」
「彼女は1つ前の世界にも2つ前の世界にもいなかった。だからきっとこの世界にもいない。そしてきっともうこれ以上彼女が誕生することはない」
「……こっちもきっと記憶を失う前の自分に殺されかねないことを言うが、その子に関する記憶はもうない。だから悲しみとかは覚えないんだ。でも興味はある。正妻戦争って言ってたな?しかもルーナは参加していない。と言うことはキーちゃんとやらの他に最低でもあと一人は女の子がいたはずだ。教えてくれ」
「……ちょっとだけ癪な気がする。よし、廉。お望み通りもう一度やろう。私に勝てたら教えてやる」
「ああ、いいぜ!!」
そして二人同時に服を脱ぎ捨てた。

・4時間後。
服を着るのも億劫なほど体力を消耗(しょうこう)した二人がベッドに横たわる。幸いまほろはまだ起きていない。
「くっ、卑怯だぞ廉!!途中からGEARを使ったな!?」
「勝ちは勝ちだルゥゥゥゥナ!!」
「……くっ!!しかたない。約束だからば、教えてやる。あの一度スーパーヒーローな世界を滅ぼしてしまった正妻戦争の参加者は、あなたの幼馴染であり後の正妻となるキーちゃんと、今はもうDNAの彼方に消えた初代赤羽美咲と、今なおどこかの世界で生き残っているであろう禁忌の巫女姫でありあなたの妹である甲斐和佐ことナイトアルテミス!!この3人だ!!」
ルーナが叫ぶと同時、ヒエンはベッドから転げ落ちた。まほろが起きたのはその直後だった。

------------------------- 第78部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
71話「それぞれの重畳」

【本文】
GEAR71:それぞれの重畳

・矢尻達真は白い天井を見上げながら目を覚ました。同時に腹部より鈍い痛みが名乗りを上げた。そこで昨日自分が撃たれたことと、痛み止めが切れたことを理解する。そして、
「GEAR……か」
よく分からない世界の組織とか力とかについての説明を受けた。当然普通ならばにわかに信じられるようなものではないがしかし説明を受ける前にあんなどこぞの漫画かアニメかにありそうなバトルを見させられてしまえば信じざるを得ないというものだ。それにあの、最上火咲の触れた相手を一瞬で粉砕する力。ずっと何かしらの武術かと思っていたが破砕のGEARなどと呼称されてしまえばいやでも納得するというものだ。そしてあの女のことを思い出すのと同時に別のことも思い出した。確か学校では今日から期末テストだ。普段から予習復習には予断を許していないため改まって勉強をする必要はないが銃撃された翌日と言う事態であれば話は別だ。昨日……は確か朝学校に行ってすぐに襲われたから、前に勉強
をしたのは一昨日か。その一昨日が嫌に遠く感じる。まあ、いつも通り過不足ない点数を取れればそれで十分か。
「……で、ここはどこなんだ?」
昨夜のことを思い出す。大倉機関と名乗ったあの道場のメンツやそれ以上が集まって小難しい話をしたところまでは覚えている。その後にジアフェイ・ヒエンからGEARやら機関やらの説明を受けたことも何となく覚えている。しかしそこから先が思い出せない。こうして普通に寝かせられている以上危害を加えられたわけではないだろう。一番あり得る可能性としては痛み止めが切れて失神し、そのまま今を迎えた……だろうか。だとすればここは大倉機関とやらの施設か。
トントン……
「ん、」
ノックの音だ。返事をしたら顔を見せたのはリバイスだった。クラスメイトで同じ道場生でそしてここに所属しているメンバー、鈴音=天笠=リバイス。
「傷はどう?矢尻君」
「さっき痛みで目を覚ましたところだ。ここは病院か?だったら痛み止めが欲しいんだが」
「病院だけど痛み止めは必要ないわ。来てくれる?」
意外と厳しいな。そう思ってベッドから起き上がり、床に立ち上がった。見れば制服のままだ。
「ジアフェイさん、着替えさせてくれなかったのね」
「男が最も敬遠するのは男だからな。そう言う事情だろう」
痛みを我慢するために口を走らす。と、どこからか黒い物体が近づいてきた。それはゴリラだった。
「!?」
「あ、大丈夫よ。その人(ゴリラびと)知り合いだから。肩貸してくれるんだって」
「……」
言っている間に本当にゴリラによって肩をつかまれ、そのまま体が浮き上がってしまった。散々権現堂のことをゴリラだと疑っていたが本物は違った。じゃなくて、なぜ平然とゴリラがいる?着ぐるみ……ではないだろう、匂いとか息遣いとか雰囲気とか。いや、そう言えば前に長倉から聞いたことがある。リバイスは動物とひどく仲がいいと。完全に意思疎通が出来るのだと。あの時は寝言だと思っていたがまさか本当だったとは。これもGEARと言う奴なのだろうか。また、移動する際に見えた時計がさす時間は既に8時を過ぎていた。ここがどこだか知らないがこのままでは遅刻だろう。
「あ、学校は気にしないで。矢尻君は怪我して休みだって伝えてあるから」
「……テストだぞ?」
「ちゃんと後で追試出来るから心配しないでいいって。まあ、適正な理由がない私はそうもいかないかもしれないんだけど」
「ならどうして休んでここにいる?さぼりたいからって理由以外に何かないのか?」
「……そこは否定させてくれないんだ」
「長倉からお前は意外と怠惰だと聞いている」
「……おほん。それで、今から向かうところは治療室なの。本当なら昨日の内に行っておくべきだったんだけど色々バタバタしててね。痛み止めだけ2リットルくらい傷口にぶぁぁぁって塗りたくっておいたんだ」
「なるほど。通りで撃たれた直後の昨日より痛いのか」
長倉には悪いが一撃くらい浴びせたいものだ。しかしゴリラに体重握られて動けないのでは仕方ない。だからこいつはただのドジだと心に言い聞かせる。……息を詰まらせるほどに痛みが増していく。これは厳しい。
「着いたわよ」
時間にしてみれば5分程度だろうが中々しんどかった。案内された部屋に入るとカプセルのようなものがあった。MRIでもやるのだろうか?
「甲斐機関から取り寄せたばかりの回復用カプセル。ジアフェイさんから矢尻君で試しておけって言われたから入ってくれる?」
「……」
ここの組織の人間にまともな奴はいないのか?昨夜介抱してくれていた青い髪の女子……確か噂の双子の妹の方はまだまともだったと思いたいが、しかし噂の片割れだから安心は出来ない。と言うか、だ。
「……これに入れば傷が癒えるとでもファンタジックを言うつもりか?」
「それを確かめたいのよ。大丈夫。隣の2号機には龍雲寺(いけにえ)君がもう既に入ってるから」
見れば確かに隣のカプセルには同い年くらいの男子が入っていてひどく安らかな表情で微動だにしていなかった。……安楽死するんじゃないだろうか?しかし、先程からの激痛がもう限界に近い。ここはやぶれかぶれでカプセルの中に入ってみよう。そう決心するとゴリラは親切にもカプセルの前まで進み、やさしくダンクでカプセルの中に落としてくれた。その時のことを覚えていないのはきっとダンクで気を失ったからだろう。
・大倉機関治療室からセグウェイで15分。一応同じ施設続きで、しかし一番離れた場所にある大倉機関本部指令室。そこに鈴音はやってきた。
「失礼します」
「ん、ああ。鈴音ちゃんか」
そこにはヒエンとルーナがいた。
「矢尻君を治療室に送っておきました。あ、ルーナさん。ゴリラさんを貸してくれてありがとうございました」
「いいさ。気にすることじゃない」
「あの、ところでルーナさんはともかくとしてジアフェイさんは学校行かなくていいんですか?」
「この2週間、一切書類にサインしてなかったから今それに追われてる。来週には加藤さんがここに戻ってくるんだ。それまでに終わらせておかないと」
「……やってなかったんですね」
「しかも昨日ので必要な書類が増えやがったんだ。鈴音ちゃん、もしよかったら振り分けでもいいから手伝ってくれないかな?」
「え、あ、はい。分かりました」
そうして鈴音は空いてる席に座り、ルーナから書類の山を受け取る。
「宛先ごとに分けておいてほしい。基本的には内務省、警察署、自衛隊の3つだから」
「わ、わかりました」
思った以上に宛先の名前が豪華で一気に緊張が生まれてきた。しかし持ち前の器用さで次々とふるい分け作業を行っていく。少しするとゴリラがお茶を運んできた。
「ありがとう」
受け取りながら一瞬ゴリラにも手伝ってもらおうと思ったけど、言葉は通じても人間の文字は読めないから無理だと気付いた。そもそも同系統の能力っぽいルーナがそれをしない以上こんな空想をしてしまう時点で負けだった。それを思いながらルーナの方を眺めた。名前の通り日本人には見えない蒼銀の髪、雪のように白い肌、自分と同じくらいの年齢に見えるがしかしそうとは思えないくらいの貫禄が感じられる。昨日の話から推測すれば何らかの事情でヒエン同様に不老不死に近い存在なのだろう。リセット前の世界から来たって言ってたし、その1つ前の世界って確か100年以上前だし。ヒエンにはすでに奥さんがいると言っていたがだとしたらこの人はどういう関係なんだろうか。幼馴染とか?名前で呼
び合ってるし。何となく自分と大悟の関係に似ている気もするし。
「あ、」
「ん、どうかしたか?」
「いえ、そう言えば今日は紫音の初段審査日だなぁって」
そう言いながら1枚の書類を出す。書いてある通り今日は鈴城紫音の初段昇格審査日だった。しかし印刷されたのが2か月前で、まだ大倉所長の名前が載っていて、しかも審査官が岩村となっていた。当然今はどちらもいない。
「これに合格したら紫音ちゃんは初段、黒帯になるのか」
「はい。でも今の状態じゃ厳しいかもしれませんね。本来の対戦相手は早龍寺さんでしたから」
「呼べば来そうなものだけどな。この前もぴんぴんしてた気がするし。でも、そうなると相手がいないか。こっちがやってもいいんだが……」
「廉はまだどれが空手かを思い出していない。それに昨日力を解放したばかりだからまだ一般人の相手は無理だろう」
「だとすると……鈴音ちゃんはどうなんだ?」
「私じゃ全然紫音には及びませんよ」
「むう、困ったな。まあ、始まりが今日の4時だからせめて昼までにはだれか適当な相手を探しておくか」
「……」
会話を聞きながらルーナは1枚の書類を眺めていた。大倉道場に正式に所属することになった人物の書類を。その少しの沈黙に気付いたヒエンが首を伸ばして書類を覗く。
「……なるほど。そいつがいたか。ちょうど昼くらいだし、いいかもな」
「?」
あくどく笑うヒエンに鈴音は首をかしげた。

・市民病院。
「もう、あまり心配させないでよ」
「ごめんごめん」
夏目の兄妹……黄緑と紫音がいた。昨夜家に帰った紫音が黄緑が病院に運ばれたと知ってやって来てみればちょっとした筋肉痛で倒れただけだった。様子見のため一晩だけ病院にいたのだが当然今日にはもう帰宅だ。一応湿布を何枚かもらった。
「そう言えば紫音、今日は初段テストの日だっけ?」
「……そうだけど今いろいろと忙しいから多分やらないと思う。多分中止じゃなくて延期だから年内にはやると思うんだけどね」
「初段って言ったら黒帯だろう?もう僕じゃ絶対に勝てないや。これからは肉体労働も任せよう」
「……ずっと私の担当だったと思うんだけど。まあいいけど。またちょっとしたことでこんな筋肉痛になられたら困るし」
タクシーを呼び、待っている間紫音は違和感に気付いた。筋肉痛だけにしてはいつも以上に黄緑がばてている。まるでひと試合やった後みたいに体力を消耗しているように見える。一晩眠ったはずなのに。
「ひょっとしてまだ痛い?筋肉痛じゃなくて肉離れとかじゃないの?」
「いや、そんなことないよ。ただちょっと病院の枕じゃよく眠れなくてね」
「……そ、そう。じゃあ今日はもうゆっくり家で寝ているといいよ。あ、でも今日テストだっけ?」
「お兄ちゃんは前言撤回は許しません」
「も、もう……!」
嘆息。そして次にメールが届いていることに気付いた。ヒエンからで、今日は予定通りに審査を行うと書いてあった。
「……早龍寺君入院してるのに誰が相手になるって言うのよ」
しかし気になりながら、やってきたタクシーに乗った。

------------------------- 第79部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
72話「3人の戦場」

【本文】
GEAR72:3人の戦場

・昼下がり。駅前のホテル。
「ただいま戻りました」
赤羽が学校より帰宅する。少し前までは一人でこのホテルの個室に住んでいたのだが今は同居人がいる。
「あ、お帰りなさい。赤羽さん」
「美咲ちゃん!!待ってたよー!!」
ソファの上に二人の少女がいた。ライランド・円cryンと馬場久遠寺だ。
「……ライランドさんはともかくとしてどうして久遠がいるんですか?学校はどうしたんですか?」
「えへへ。今日は創立記念日で休みなんだ。そ・れ・に、久遠ちゃんの大事な大事な美咲ちゃんが他の女の子、しかも生えてる子と一緒に暮らすことになったって聞かされたらそりゃこうなるよ」
赤羽がリビングまで足を運ぶと、初めてその光景を目にした。
何故なら久遠がライラの上に跨ってそのスカートをめくり、さらには下着までめくって中に手を突っ込んでいたからだ。
「……事情を知りながらあなたはそこで何をしているんですか久遠」
「実物いじり」
「ライランドさんも相手は小学生なんです。流石に自重してください」
「え?いや、僕はちゃんと心に決めた人がいるので……。それに久遠ちゃんは妹と同い年ですし。ただこのJS調教逆レイプシリーズ全214巻に書かれていた事を実践してみようかと」
「……ヒエンさんの入れ知恵ですね。もう手遅れなほどにまで悪化しているようですからあえてこれ以上は何も言いませんけれどそこに書かれていることを実際にしてはいけませんよ。何より作者さんの迷惑になってしまうんですから」
「あ、そうだったんですね。すみません。僕の時代にこういう漫画ってなかったもので……。久遠ちゃん、ごめん。降りてくれる?」
「ちぇっ、もしかしたら3Pとかってやれると思ったのに。と言うか2時間くらい触ってたけど全く反応しないね。これって飾りなの?」
「いえ。ただ、常日頃から神テクな方々と夜過ごしてるもので。今更素人に何されても……って感じです」
「美咲ちゃん!!この人死神さんよりやばいよ!?」
「……」
嘆息。そして赤羽は制服から私服に着替えつつ今日の日程を見た。今日は4時半から稽古が入っている。本来同じクラスであるはずの龍雲寺が昨日の戦いに巻き込まれて両腕骨折となってしまったため代わりに誰か来るはずなのだがヒエンからの連絡はない。かつては犯罪的なまでにちょっかい出してきたというのに最近はあまりない。寂しくないと言えばそれは正義だがしかしどこか物足りない気がするのも事実だ。
「でもさ、美咲ちゃん。さっき小夜子ちゃんからメールで昨日について教わったけど色々マジなの?」
「私もまだ全部理解をしたわけではありませんし、信じられない事実が多すぎてまだ何も言えません」
「……それもそうだけど、その、美咲ちゃんが実は別にいるって……」
「……最上火咲さんですか。確かに最初に会った時は全くと言っていいほど感じませんでしたが、昨日見た時には明らかに姿が変わっていました。私のクローンシリーズに共通している骨格、癖。それ以上に私の胸の奥のどこかで懐かしい信号を捉えているんです。まるで母親のような、もしくは姉のような感覚を。今思えば私もあの人のクローンに過ぎないのかもしれませんね」
そう言いながらも赤羽は自身の裸の胸を見下ろした。そして嘆息。
「赤羽さん。気を落とさないでください。あなたのお年頃でいえば平均以上の大きさだと思いますよ。2歳年上の僕よりも大きいんですから」
「……そう言う事を言っているわけではないですけれど……」
「もう可愛いな美咲ちゃんは〜!!ほらおいで。久遠ちゃんが全力で可愛がってあげるよ?」
久遠は笑う。オシャレもほとんど知らない小学生が両手を広げてこちらを誘っている。赤羽は上半身裸のまま久遠へと飛び込んだ。ライラが部屋を出て散歩に向かったのはその直後だった。
・病室。
「おい、死神。どういうことだ?」
100キロのベンチプレスをしながら言葉を投げたのは馬場早龍寺だ。
「何の事だ?」
とりあえず書き上げた200枚の書類を加藤に渡しながらヒエンはとぼけた。
「俺はこの通り全然問題ない。なのにどうして紫音の対戦相手を俺にしなかった?」
「べっつに〜。ただ他の奴のラブロマンスなんて見たくないだけだ。あ、女の子同士は別だぜ?」
「貴様の歪んだ性癖なぞ訊いていない!しかもだ。女子ならまだしも俺以外の男子を相手にさせるらしいじゃないか」
「嫉妬が見苦しいから道場には来るなよ?審査自体は加藤さんか雷龍寺にやってもらう」
「なら俺はここで一人で何してろと?」
「そのまま筋トレでもしてたらどうだ?と言うか学校行けよ」
「お前に言われたくない」
「早龍寺、その辺にしておけ」
その後ろ。逆立ちしながらジャンピングを断続的に行いながら雷龍寺は続けた。
「死神、こいつも連れていくぞ。もちろん邪魔はさせない。リハビリをしたいからな。審査での組手で勝った方を早龍寺とやらせる。で、俺はお前と戦ってみたい」
「いいのか?旧友曰く今のこっちは常人を相手にするにはあくどすぎるくらいの力を持っているそうだが」
「零のGEARは使わないでもらいたい。あれを使われたら勝負にならないからな」
「いいぜ。その代わりこれは使わせてもらう」
ヒエンはザインの風を懐から出す。
「刃物や鈍器には変形させない。今までよりまともに扱えそうなんだ。けど相手がいない。お前なら役不足なほど試せるだろうからな」
「面白い。我が稲妻がお前を倒して見せる」
「……で、審査は何時からなんだ?」
「4時からだが、ウォーミングアップを30分前から行う。少なくともその10分前には全員集合だな。それまでに家に胴衣を取りに行くんだな」
「……何だか今日はずいぶんと楽しい一日になりそうだな」
書類に目を配らせながら加藤が笑った。
・3時間が過ぎて午後3時10分。
「……」
紫音と鈴音が道場に入った。
「ごめんね紫音。私は小夜子ちゃんと交代しなくちゃいけないから審査自体は見れないと思う」
「うん。大丈夫だよ、鈴音。でも約束だよ、勝手にいなくならないって」
「……うん。まだ平気だとおもうから大丈夫」
話しながら二人で女子更衣室に入る。と、そこには火咲がいた。
「あなた、最上さん……!?」
「別にそう驚かなくていいでしょ?女子同士だし。昨日ここを紹介されたわけだしね。ただ今日のスケジュールを聞かされておもしろそうだと思って見に来たのよ」
「面白そう?」
「そう。助けたい側と助けたくない側。同じ他人の命を懸けた戦いで勝敗がどう動くのかってね。安心してよ、邪魔するつもりは本当にないからさ」
「……」
紫音と鈴音は一度顔を見合わせ、しかし何も問題ないことを知ると火咲の存在を許した。
「いいわよ、別に」
言いながら紫音は胴衣へと着替える。
「でも気が散るからこれ以上は終わるまで話しかけないでね。赤羽さん」
「……私はもう最上火咲よ」
それだけ言って火咲は更衣室から出た。
「……一番動揺しているのは最上さんなのに」
「それを強がりで解決するタイプなんでしょ。あるいは慰めてもらうための相手を探しているとかじゃない?」
着替え終わり、更衣室を出て畳部屋に入る。もちろん一礼は忘れていない。逆に制服のままの鈴音はその敷居を跨がずに紫音の背を見送る。ただ、別の物が視界に入っていた。靴箱だ。そこには靴が4足置いてあった。鈴音、紫音、火咲以外に誰か来ているということか。誰かと考えているとその相手が男子更衣室から出てきた。
「……リバイスか」
それは胴衣を着た達真だった。……今日の紫音の対戦相手。一礼してから畳部屋に入る。気配だけで気付いた紫音が振り向いて歩み寄る。
「矢尻君、今日はよろしく」
「こちらこそよろしくお願いします。鈴城先輩」
「ここでは、畳の上ではみな平等よ。紫音でいいわ」
「なら俺も達真でお願いします、紫音先輩」
「わかったわ、達真君」
握手。そして互いに準備運動やら黙想やらを始めて、来るべき時間を待つ。
やがて30分前になれば予定通りにヒエン、雷龍寺、早龍寺、加藤がやってきた。
「流石に早いな。もう出来上がってるとは」
「いや死神。このくらいは当然だ。出来上がるという概念がないお前には分からないだろうが」
「早龍寺、嫉妬を挟むな」
「早龍寺……?」
その言葉を聞いた達真は畳部屋から駆けてきた。
「あなたが本来の紫音先輩の対戦相手だった馬場早龍寺先輩ですか?」
「……ああ。そうだ」
「すみません。力不足な俺が代理になってしまって」
「それは俺のセリフだ。どうぞ気にせず全力を尽くしてくれ」
「押忍!」
「おい、矢尻。ちゃんと年上に先輩って呼称と敬語が使えるのにどうしてこっちにはしないんだ?」
「……そんなことないですよ、ジアフェイ先輩」
「思い出したように言うなっての。……じゃあうちらは着替えてくるから準備運動でもして待ってろ」
「押忍!」
4人が更衣室に消える。と、まるで4人が残した影のようにそこに火咲が立っていた。
「お前か」
「一応私もそろそろここの所属になるから。文句ある?」
「別に。ただ胴衣を持ってないなら敷居はまたぐなよ」
「……それだって一応注文しようとしたけれど合うサイズのがなかったのよ」
「そりゃそんなメロンみたいな胸していればな」
「あら。神聖な道場でそんなセクハラ発言していいのかしら。ねえ、天笠さん」
「ふぇ!?あ、いや、その、矢尻君。畳に戻ってください」
「……ああ」
薄く笑いながら達真は畳の方に戻っていった。
「あの、最上さんは矢尻君と付き合ってるの?」
「まったく。全然。ただセックスしただけの仲よ」
「せ……!?」
「尤も向こうが一方的に倒れて動けない私を嬲ってきただけだけど……った!!」
話している途中に火咲の顔面にアームミットが投げ込まれた。
「……ったく」
畳部屋で達真が鼻を鳴らす。
「達真君。本番はまだでももう準備運動の時間よ。あまりはしゃがないで」
「……押忍失礼しました」
くすくすと笑う誰かさんの声を無視して達真は最後の仕上げに入った。
そして30分後。加藤指揮のもと紫音の審査会が始まった。最初の30分でみっちり厳しく基本稽古の審査を行う。その締めは黒帯を承るに必須な型・征遠鎮(せいえんちん)だ。単純なように見えて意外と複雑で、しかし紫音のそれは全く淀みのない円滑な切れ味を空気と周囲に解き放っていた。
なお、この間は達真は畳に入らず風景を観察していた。
征遠鎮。なるほど。見たことはあるがここまで精度の高いものは初めてだ。1年後までには自分もこれをマスターして初段をとりたいものだ。
自然に手足が動きそうになるのを脊髄反射で止めて、もしくはその逆を行いながら30分経過するといよいよ達真の出番だ。とはいえいきなり組手を行う訳ではなく片方がミットを持ち、各技を実際に行ってその精度を見る。先程のとの違いはタイミングなどを見るためと、防御の技を見るためだ。ミットを外し、達真の技を一瞬で測り、適切な技で防御ないしいなしを行う。防御率は100%。達真の技が技として完成しきる前に完璧のタイミングですべて防がれてしまっている。実戦でない、まだ練習と言ってもいいように互いに役割分担がされている今だがしかし、実戦でも同じ結果になるんじゃないかと疑うほどのレベルの差を実感している。同じ初段を目指す者同士でこうも実力に差があるとは。
「それでは5分の休憩の後、組手審査を始める!」
加藤が宣言し、互いに礼をすると同時に達真は膝を折った。
「大丈夫か、矢尻?」
何とか畳の外まで来たところでヒエンが肩をたたく。
「ここから先は俺が代わってもいいぞ」
正面に早龍寺。
「いえ、大丈夫です」
深呼吸。紫音が景色の片隅に見えた。あちらは息ひとつ切らしていない。そして、にやにやしながら両者の間に火咲が位置を整えた。
「あんたそれでいいの?相手は来音とやらのためにこの世界をもとに戻したくないそうだけど」
「!?」
「あんた……!!」
紫音が振り返り、火咲の肩をつかむ。
「事実でしょ?昨日の様子を見ていれば分かるわよ。その来音ってのと何があったのかは知らないけど」
「じゃあ黙っていなさいよ赤羽美咲!」
「だから私は最上火咲だっての。私が相手になってあげようか?畳が真っ赤になるだろうけど」
「そうしたらあんたも同じ目に遭うわよ?」
「はい、そこまで」
迫る両者の間に黒い帳が敷かれた。ヒエンの右手から伸びていたザインの風の形態だ。
「あんた、邪魔しないでよ」
「火咲ちゃん。目的を忘れてるんじゃないのか?矢尻と紫音ちゃんを本気でぶつかり合わせたいんだろ?矢尻の成長のために。結局君も赤羽の延長線だな、やることが複雑だ」
「あなたは突発すぎますけどね」
声。それは扉を開けて入ってきた赤羽のものだ。傍らには久遠、ライラもいる。
「……じゃあもっと突発的なことをしよう。火咲ちゃん、僕と戦ってもらおうか」
「は?」
「それっ!!」
元の形に変形されたザインの風による突き。それが火咲の大きな胸の中心やや左寄りに打ち込まれた。
「……っ!!」
火咲の小さな体が宙に浮き、2メートル離れた後ろの壁に叩きつけられる。
「あんた何を……」
「口を出さずにいられなくなったか矢尻。だったら紫音ちゃんに勝ってから止めてみな」
嘲笑。直後に半身を切れば、空いた僅かなスペースに火咲の膝が放たれる。伸びきった膝を叩き落とし、開いたザインの風をふるえば、発生したつむじ風が火咲を吹き飛ばし、再び壁にへこみを作る。そこから抵抗のために火咲が指を動かすと同時に再びつむじ風が巻き起こり、その強風で火咲は壁に押しつぶされんばかりの圧力で身を封じられる。この様子では呼吸も出来ないだろう。
「……あんたらが何をしようと関係ない。紫音先輩、時間だ。やろう」
「……そうね」
背後に戦いを置き、達真と紫音が畳の上に戻る。同時に風がやみ、火咲は床に倒れて気絶した。それを確認してからヒエンは声を飛ばす。
「矢尻、お前が勝てば大倉機関は矛盾の安寧を崩す方向で進めるぜ」
「え……!?」
「おいヒエン!!誰がそこまでお前に渡したか!」
「加藤さん。二人が待ってるぜ」
「……ぬ、しかたない。ヒエンの言ったことは確定ではない。とにかく今は集中するんだ。正面に礼、お互いに礼、構えて……はじめっ!!」
号令と同時、紫音が前に倒れた。
「!」
が、次の瞬間達真の鳩尾に紫音が拳を突き入れていた。前に倒れる勢いを使って前方に移動する……よく火咲やヒエンなどのパワーファイターが行うテクニックだ。紫音はあらゆる技術をバランスよく整えた選手だが、だからこそこのようなパワー一辺倒の技を達真は予想できなかった。
「ぐっ!!ごはっ!!」
下がるより以上に達真はそのまま後ろに倒れた。一瞬景色が黒く染まり、次の瞬間にはあまり見慣れない天井が視力を焼いていた。
「……紫音、やりすぎだ」
思わずジャッジよりも先に加藤は零した。
「……」
対して乱れてもない服装を整える紫音の足元で達真は意識が薄くなっているのを感じた。大文字に倒れ、逆さに見えるのは同じく倒れた火咲の顔。
「……くっ!」
右手で畳をたたき、達真は立ち上がる。
「矢尻、行けるのか?」
「はい、問題ありません」
「……」
紫音が構えを戻す。やや遅れて達真も構えを直し、今度は攻めた。
歩行の勢いに乗せた前蹴り。想定内の防御と想定外の後ろ廻し蹴り。回避は間に合わず気合で耐え抜き、敵下腹部に狙いをつける。
大きく腋を上げ、前に出した右ひざを折り、相手の上段廻し蹴りをしゃがんで回避しながら腰の回転だけを頼りに左拳をハンマーのようにして紫音の丹田へと叩き込む。
「っ!!」
体勢を立て直す寸前の紫音に不意打ちのカウンター。それにやや体位を下に崩すと左の前蹴上。前蹴りの要領で、踵を傾いてきた相手の顎に叩きこんだ。
「……」
両足が離れ、仰け反った紫音。止まらない達真は2つの打点の中間となる鳩尾に右の飛び蹴りを放った。
「へえ、奇麗に決まったな」
ザインの風で仰ぎながらヒエンは思わず零した。
「離れた2か所の打点。その中心点に攻撃を入れると3つの点を有した1つの線が出来上がります。そうなると実際に打たれた3つの点だけでなく線となっている部分全てに痛みが流れ出す。まるで血液が痛みを運んでいるように」
「ライラちゃんよく分かるじゃないか。赤羽よりも腕が立つんじゃないのか?」
「……プロレスラー相手じゃ不利ですから」
「で、鈴音ちゃんはどうして笑顔のままなんだ?紫音ちゃん結構重いの食らったぞ?」
「あの程度、大したことないですよ紫音なら」
鈴音が発すると同時、畳を踏み割る音がした。視線を戻すと、紫音は倒れてもいなかった。
「はあ……はあ……はあ……!!」
先程まで全く乱れてなかった呼吸が大いに乱れていた。そしてその度に痛みが往復する。無理もない。本来なら気絶するレベルの攻撃を3発立て続けに受け、しかも痛みの連鎖まで作られているのだ。しかし畳を踏み割った左足がアースとなってその連鎖の逃げ道を作っていた。正確に言えばただのごまかしに過ぎないが精神的には意味がある。そして復帰した紫音は再び前に倒れる勢いで前に進み、拳を放つ。
「ぬうううう!!」
防いだ達真の左腕が唸りを上げた。アドレナリンで誤魔化されているが骨折の音だ。が、音はそれだけじゃなかった。
「……ううっ!!」
衝撃は2つ。紫音の攻撃の直後に達真の左足が紫音の鳩尾に叩き込まれていた。
バランスタイプにはありえない肉を切らせて骨を断つ技・征(スカート)。
「あれはひどいですね」
赤羽が表情を変えた。
「ああ。下手すりゃどっちも死ぬ技だ」
ヒエンが言うと同時、確かに達真も紫音も共に倒れた。
「そこまでっ!」
見計らった加藤が止め、二人を担ぎ上げてこちらにやってくる。
「おい!!」
「はっ!!」
加藤が声を飛ばすと同時に扉の向こうから担架を2台持って黒服達が来た。そして一切のインターバルなしに二人を乗せて下まで運んでいく。
「流石数のGEAR」
「ヒエンは矢尻の、鈴音は紫音の荷物を持って続け。赤羽は最上を運べ」
「「「押忍!!!」」」
そうして速やかな行動が続けられた。
「……空手もなかなかすごいんですね」
「いや、ここまではそうそうないから」
女子更衣室に向かいながらライラと久遠が締める。

------------------------- 第80部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
73話「魔王の夜」

【本文】
GEAR73:魔王の夜

・審査会は終わった。結果としては紫音の点数は9割を超えていたため無事初段への昇格が決まった。ほぼ同時に専用の機織り工場では紫音完全専用の黒帯が2帯製造を開始した。また、達真に関しても以前まで所属していた空手道場では四級だったが予め二級までの型を見ていたことと今日の紫音との試合を見たことで2級として大倉機関へ正式に所属することが決まった。
その二人は治療室で普通科学による治療を受けてからそれぞれ帰宅した。なお達真は左腕が骨折していたのだが今朝カプセルによる治療を受けたばかりだったためカプセルによる治療は出来なかった。だからせっかく正式配属が決まってなお一か月の休日が与えられた。
「何だか久々に普通の空手を見た気がするな」
病室から出て夜風を浴びながらヒエンは笑う。ゆっくりしているのは道場を馬場兄妹や偶然近くに来た八千代に任せていたからだ。
「あなたの戦い方が激しく空手からずれているのが原因でしょうに」
対して赤羽。
「しかも今日の最上さんとのアレは何ですか。武術どころか明らかにフィクションな攻撃ばかりだったじゃないですか」
「いやぁ、火咲ちゃんムエタイやってるし。それなりの実力あるから真っ向勝負じゃ分が悪いかなって」
「……過去の私と彼女の組み手を見たでしょう?彼女は手が使えないんですからあなたの方が有利では?」
「いや、もう手は回復しているはずなんだがな。クローチェ姉妹曰く三船の治療用カプセルを使って両手の神経は回復されているって聞いたぞ。まあ、空手じゃ肘が禁止だからそうなると足技がメインになってくる空手は使う必要がないってのもあるな」
「第一彼女のGEARは触れれば体のどこだっていいんですから。だとしたら一番リーチのある足を使うのが一番でしょうに」
「一番面積のある胸を使うって手もあるな。そんなことあんなことこんなことをやった矢尻がどうして生きているのか疑問だな」
その先を言おうとした瞬間、ヒエンのスマホが振動した。
「ん、電話か?」
受信する。出てきたのは鞠音だった。
「先輩。こんばんわ、鞠音ですわ」
「よう、鞠音ちゃん。こんな夜にどうした?ホテルの予約でも終わったのか?」
言葉が終わると同時に突然ヒエンの眼前にルーナが出現してヒエンを背負い投げした。
「っが!!」
「あらあらどうなさいましたの先輩。相変わらず何かセクハラでもして赤羽さんや円cryンさんを怒らせてしまったんですの?いや、円cryンさんは私の潮音と同様におとなしくて聡明な方なのでそんなことはありませんからルーナさんですの?……ああ、なるほど。やっぱりルーナさんでしたのね。そしてやはり私のGEARは100%のGEARを発動しているあなたにも通用するようでこれは何よりおっほっほっほっほ!!!ですわ!!」
「……で、鞠音ちゃん。そんなことの確認のために僕に電話をしたのかい?」
「いえいえ。ただ目に入る景色に異常は見当たらないまでも、しかし魔王のGEARが最大規模で発動されていますわ。しかもその持ち主である甲斐爛さんは強力な敵視と恐怖を今抱いていらっしゃいますわ」
「……は?あの魔王野郎が?あいつ確かダハーカにすら勝てるんだろ?時間が止まってる様子もないし一体誰と戦うってんだ」
「分かりません。ただ、そのお相手の願いの色が非常にあなたに似ていたのでお電話差し上げたまでですわ」
「……なんじゃそりゃ」
いつしか聴き耳立てていた赤羽とライラも疑問の表情を整える。
「先輩はご兄弟……はいませんわよね?いたとしてももういないでしょうし」
「だろうな」
「だとしたら非常に偶然なだけでしょうか。ただ遠く離れていてもそこに先輩の色を感じます。また、潮音も警戒をしているようですから。円cryンさんはどうですの?」
「僕は問題ありません」
そのままライラが答える。声はスマホ越しには届かなかったが、しかし鞠音はその答えの色を感じ取った。
「だとしたらどうなんでしょうか。あの甲斐爛さんはスマホを今持っていないようなのでご連絡も差し上げられませんし」
「場所は分かるか?」
「はい。今先輩がいる位置から北東に10キロほどですわ。近くにはあの嘘のGEARの持ち主……甲斐月仁さんもいらっしゃいますわ」
「そいつはGEARを使っているのか?」
「いえ。まだ戦闘は行われていないようです。あと、彼のGEARは一瞬しか発動そのものはしないタイプなので私の力では使用後なのかどうかは分かりませんわ」
「……数の黒!!」
ヒエンが呼べば夜空から音もなくヘリが飛来した。
「……まさか上から来るとは」
「加藤さんの采配により我が機関で高性能ヘリを2台購入することになったので早速これでお迎えに上がりました」
「……まあいいや。君達も来るか?」
「お邪魔じゃなければ」
「ヒエンさんのお力になれるなら」
そうして3人がヘリに乗り込む。
「鞠音ちゃん達はどこだか知らないがそこにいてくれ。潮音ちゃんをリラックスもさせといてくれ。まだ満月だからな」
「分かりましたわ。では、お気をつけて」
電話が切れ、ヘリが夜の空へと舞い上がる。それからすぐに座席の空いた部分にルーナが出現した。
「もはやテレポートだな」
「……それよりも廉。この気配はまずい。パラドクスだ」
「パラドクス?……ってあの歪みがどうとかって言う?」
「そう。ダハーカや天死では勝ち目がない。アレに対抗できるのは十三騎士団であるあなただけだ」
「あの魔王の奴でもか?」
「今は会話でもして時間を稼いでいるだろうけれど爛でもパラドクスをどうにかするのは絶対に不可能。戦闘が始まったら多分10秒でも時間稼ぎが出来たら上々だと思う。嘘のGEARが近くにいたとしても30秒程度が限界。私が先に行って援護しても1分持たずに全滅すると思う」
「だからあの二人を盾にしている間にうちらが……僕がやるってことか。おい、数の黒!全速力で向かえ!」
「よろしいのですか?全速力(スピードフルブラスト)を用いてしまえば零のGEARの持ち主であるあなた以外は体がもちませんよ?」
「おい、このヘリはYF21か何かなのか?だとしたら他のメンツにも害がない程度で全速力だ」
「了解いたしました」
するとヘリは瞬く間に加速。加速!!加速!!!新幹線よりも速いスピードを以て夜空を貫いていく。
「何だかスカイカーみたいで懐かしいです。ティラさんやラモンさんは元気かな?」
「……ううっ!!そんなこと言ってる場合じゃ……くううっ!!」
郷愁のライラ、Gやら何やらで苦しむ赤羽。ルーナも少し顔色が悪そうだ。見れば黒服もいつの間にか赤服になっていた。
「うおっ!?こいつらアクセルボタン押しながら気絶してるぞ!?いや死んでる!?仕方がない。零のGEARの範囲を広げて落とすか……!!」

・アパートメントストア:甲斐の家。会社が無くなったことで月仁の家でゆっくり傷を癒していた爛は夜、突如強大な力を感じて家の外に飛び出した。
「旦那か!?いや、違う!?」
パジャマのままそとに出ると、人気のない歩道をゆっくりと歩く影があった。なんてことない通行人に見える奴はきっと野性の全てを失った人間障碍者だろう。その人影が一歩進むたびに爛は世界が核の炎に包まれたのではないかと錯覚する。その影が近くの電柱を通過すると同時にその電柱は一瞬、許容量の数億倍もの電気を背負って大爆発する。
「ダハーカ……天死……いや、まさかパラドクスか!?」
滝のような汗が体を通って足元に滴る頃、それは姿を見せた。
「……」
「あれは黒主零!?」
それはヒエンとうり二つの姿だった。陰陽図のような模様の服を着こみ、右の腰には2本の刀。時折稲妻の様子がモニターのように映る真っ白なマントを風に靡かせて爛へと歩み寄る。
「まさかこいつがパラドクスだってのか……!?十三騎士団の、プラネットの、零のGEARのパラドクス……!?」
「そうさ」
そいつはヒエンそのものの声で返した。
「我が名は裏闇裏丸。パラドクスとしての名前はカオスナイト・スパークス」
「……そのカオスナイトスパークス様が俺なんかに何の用だよ」
「大した用なんてない。ただ、表のスパークスがかつて貴様に殺意を抱いた。だのに殺さずに今その程度のけがで生き残っているのは矛盾じゃないかな?」
「気まぐれ生んでくれたんじゃないのか?」
「そう。その気まぐれで私はこうしてまた蘇った。まさか世界が何度も巡りまわっている未来だとは思わなかったがな」
「蘇る!?パラドクスってのは不死身なのか!?」
「不死身と言うよりかは無限に生まれ出でるものだと言った方がいいだろう。なにせこの宇宙にはいくらでも知的生命体が存在する。知的生命体が群れを成して社会などと言う世界を作っている以上必ずそこに矛盾と言うものは生じる。そしてその度に我々パラドクスは誕生する。……それにパラドクスは生命ではなく現象だ」
「そんな太古の昔から存在していてどうしてあの男の姿をとっている?あの男が初めて生を受けたのはせいぜい2000年前くらいのはずだ」
「その2000年前にあの男はとんでもない矛盾、歪みを作ってしまった。そのために本来は30柱しか存在しないはずのパラドクスにありえないはずの31柱目が誕生した。この矛盾の安寧など比べ物にならないくらいの歪みだ。私と奴はこの2000年で幾度となく戦ってきた。だが何故かここ数百年は目覚めることがなかった。何某かの原因で死んでしまったかと思ったがこうして私が蘇り、そしてただの人間であるお前が奴のことを知っている以上は奴はまだ生きているということだな」
「……数百年ぶりにパラドクスを蘇らせるレベルとかあいつはどんだけ俺のことを殺したがってたんだよ」
「おいバカ兄貴。急に走り出してどうしたんだよ。ん、あいつは昨日の……」
「月仁!!すぐに大倉機関に行け!!そしてパラドクスが出たと伝えろ!!!!」
「は?」
「いいから早く!!!俺でもあいつ相手じゃ10秒も持たねえ!!」
「……実力差がよくわかっているじゃないか。所詮10階級と思ったがどうしてこれが中々」
裏闇裏丸は刀の一本をわずかに抜いた。ただそれだけで幾百もの稲妻の塊が空から落ち、アパートを飲み込み、跡形もなく消し飛ばした。
「月仁!!!」
叫ぶ爛。が、次の瞬間には元通りの風景がそこにはあった。
「……化け物め」
そこでは完全に表情を殺伐としたものに変えた月仁がいた。
「月仁!!」
「むしろ兄貴が走った方が速いだろ!!俺が食い止めてやる!!」
「奴の狙いはまだ俺だ!!それに嘘のGEAR程度じゃ奴の攻撃はもう止められないぞ!」
「その通りだ」
直後、裏闇裏丸は月仁の背後にいた。
「!?」
そして電光が迸る。それはただの手刀だった。にも拘らず月仁の体は腹を中心に左右上下前後に引き裂かれた。
「……あ」
「月仁!!」
爛が叫ぶと左手の吸引で月仁の残骸を集め、右手からは最大出力の炎を放つ。それは一瞬でアパートを火事にすらならずに廃屋にした。そうしている間に回復の力を使ってぎりぎりで月仁の命を繋ぎ止め、バラバラの状態でありながらも意識を取り戻した月仁が自らの力で元の体に戻す。が、次の瞬間には爛の胸に拳が撃ち込まれていた。
「ぐっ!!」
裏闇裏丸の拳。爛がそれを認識する頃には既にその体はマッハ30を超える速度で夜空高く吹っ飛ばされ、空気摩擦で五体がズタズタになる。
「兄貴!!」
「させない」
月仁が夜空の彼方を見やると同時に裏闇裏丸は指をパチンと鳴らす。すると、月仁の脳が活動を停止し、月仁だった物体はその場に倒れ落ちた。
「……余計な矛盾を生まない。その矛盾を力に」
裏闇裏丸が再び指を鳴らすと、無に帰したはずのアパートが一瞬で再生し、脳死した月仁が自室に転がされる。
「しかし、GEARか。以前までは世界の根幹に必須なごく一部の物のみ一部の人間に譲与されていたはずだがいつしか何でもない一般人にまで普及しているとは。一体この世界に何が起きた?」
裏闇裏丸が顎に手をやり、思考をめぐらす。次の瞬間だ。そこへ音速のヘリが突っ込んだのは。
「……随分と遅い登場だな」
それを見向きもせずに片手で止めながら裏闇裏丸は言葉を投げた。
「なるほど。パラドクスってのはああいう悪趣味な連中なのか」
ドアを蹴破り、ヒエンが外に出る。同時にルーナも横に並ぶ。
「やはり裏闇裏丸……カオスナイト・スパークス!」
「ほう、瑠那まで一緒だったか。だが、天使の力を感じない。堕天したのか?」
「あなたがこの世に存在していない間にも時間と言うものは動き続けるものだ」
裏闇裏丸が初めてこちらを見やった。同時に片手でつかんでいたヘリが一瞬で野球ボール程度の大きさにまで凝縮した。
「挨拶代わりだ」
そしてそれをマッハ40の速度で、手首だけのスナップで投げた。
「!?」
対して反応すら出来ずにヒエンの鳩尾に打ち込まれ、ヒエンは50メートル以上も後ろに吹っ飛び、車を3台巻き込み、スクラップにした。
「……何の真似だ?」
それに対して一番の驚きを示したのは他でもない、裏闇裏丸だった。
「……ちっ、本当に攻撃力はあの魔王野郎以上だな」
炎の中でヒエンは立ち上がる。当然無傷だった。そしてその手にはザインの風が握られていた。
「どこのどいつだか知らないが覚悟できてるんだろぉなぁ!!」
踏み込み、弾丸のような速度で裏闇裏丸に迫り、槍に変形させたザインの風を勢いのままに放つ。が、それは防がれることはなくしかし一切の手傷を与えることもかなわなかった。裏闇裏丸は反応していなかった。その由来は速さではなく、ヒエンの行動すべてだった。
「貴様、いったい何があった?なぜこんな脆弱な姿になり果てている?まだ……まだ人間だった頃の方が強かったはずだ……!!一体何の贄にこれほど情けない姿を晒す事になったんだ甲斐廉!!!」
裏闇裏丸は激昂と共に刀を抜いた。完全に抜ききるまでの0,0001秒で放った稲妻の数は数億を超え、それが周囲の地形をも大きく変え、放たれた刀の一閃の速度は光の55兆倍を超えてヒエンの肉体に叩き込まれた。その一撃は零のGEARの効力の限界を超える威力を有していた。
「廉!!」
ルーナの手前でヒエンは膝を折った。大きく開いた傷口から叫んだ無数の血液全てが一瞬で電気分解され、傷口どころかヒエンの全身の細胞を1ナノミリ単位で完膚なきまでに焼き尽くした。

------------------------- 第81部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
74話「至上の万雷」

【本文】

GEAR74:至上の万雷

・一縷。多くの物にはその程度にしか映らなかったであろう。しかしもはや数と言う概念で測るのが馬鹿々々しくなるほどの質量の稲妻が刹那の刹那に解き放たれ、そしてヒエンは倒れた。
「…………」
全身の細胞の全てが炭となり、もはや指一本でも動かせば全身が瓦解して粒子となって消えるだろう。とは言えもはや電気信号や神経、血管などと言うものはちり一つすら残されていないのだが。
「瑠那、聞かせろ。一体何があってこの程度で壊れる奴になったのだ」
「……私はルーナ・クルーダだ。理由は分からない。だが、廉は全盛期の1%ほどの力も取り戻せていない。そしてあなた達パラドクスの存在も覚えていない。……いや、自分の本当の姿すらも」
「……記憶喪失?零のGEARのリセット効果か?しかしそれでも消えるのはエピソード記憶だけでそれも望めばいつでもいくらでも思い出せるはずだ。いや、それだけじゃない。こいつはどこまで力を失っている。これではせいぜい6階級程度。万雷も使わずにこんな天使界の人間どもが作ったおもちゃなどで私に向かってくるなどありえない」
「初めはあなたが奪ったものだと思った。だが、違うのだな」
「十三騎士団から力を奪えるなど同じ十三騎士団かせいぜい上位の調停者程度。それにしてもここまで奪いつくせるとは思えない。これではまるで……」
「……自らの判断で自らの力のすべてを捨てた……か」
ルーナは微生物を走らせてヒエンの状態を探る。しかし、既に生物としてはおろか物体としても死滅している。しかもこの状態でも零のGEARは発動しているためヒエンはこの状態のまま固定されていた。このままでは仮に何らかの方法で回復する手段があったとしてもまた別に何らかの方法で零のGEARの効力を無効化しなければならない。しかしそうしてしまえば一瞬にも満たない時間でヒエンは完全に死滅する。
「十三騎士団の一人を倒したとなれば他の10人も黙ってはいないはずだ」
「しかしその矛盾で私はまた強くなった。あと2,3ほどゆがみを取り込めばインフェルノの奴をも超えて第二階級に到達するやもしれない。そうすれば奴らとは互角だ。場合によれば私が十三騎士団になってもいい。そうすればその歪みで私はまた強くなる」
「……強くなることしか考えていないのか。その歪み大好きなパラドクスがどうして今更になってこの矛盾の安寧に手を出してきた?」
「パラドクスに秩序などない。そこに歪みがあれば摂りに向かう。況してやそこに自分の表が存在するとなればな」
そう言うと裏闇裏丸はヒエンに歩み寄り、その右手を伸ばした。
「あなた、まさか奪うつもりか!?」
「今のこいつなら十分私でも奪えるはずだ。零のGEARを。戦う相手が十三騎士団ならば頼りない事この上ないが、調停者どもやお前のようなプラネットもといそのなり損ないが相手なら少しは役に立つだろう」
裏闇裏丸の右手の爪がヒエンの肌に触れようとしたその時だ。
「!?」
夜空……否、もっと遠く高いところから流星のように何かが飛来して裏闇裏丸の右手を貫通し、一瞬で灰にしてからそれはヒエンの左手の甲に突き刺さった。それは黄金の剣だった。
「バカな、これは万雷……至上の万雷だと!?どうして宇宙から飛んできた!?こいつ以外に誰がこいつを使えるというんだ!?」
「……まさか!」
ルーナがそれに気付いた瞬間。手の甲に刺さった万雷が黒く輝き、電光を走らせる。その電光が瞬く間にヒエンの全身を再生させていく。そして、
「……う、」
ヒエンは立ち上がった。既に万雷は引き抜かれて、ザインの風が変形した鞘の中に納まれていた。
「廉!!」
「……これは、なんだ?思い出せない。だが、ものすごく懐かしい」
万雷の柄を握る。
「ルーナ、下がってろ」
「あ、ああ!!」
「!」
ルーナが下がり、裏闇裏丸が右手を再生させると同時。
「轟け、万雷ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
ヒエンはそれを引き抜き、幾億もの電光を迸らせ、束ねられた稲妻が大気圏を貫き、どこまでもその輝きで宇宙を貫く。
「うおおおおおおおおおおおおおおおあああああああああああああ!!!」
そしてそれをそのまま正面の裏闇裏丸向けて振り下ろした。
「ちっ!!」
裏闇裏丸もまた抜刀してその馬鹿々々しい量の稲妻の塊を受け止める。その激突は地球全土に激しい電気の津波を起こした。EMPではない、純粋な高電圧が幾重にも重なって広がり、世界を一瞬で荒野へと変えた。その激突の中心点で裏闇裏丸は膝すら折ることなく抵抗していた。ばかりか僅かに押し返しつつあった。
「……驚いたな。だが、所詮万雷を取り戻しただけでは人間だった頃に毛が生えた程度だぞ!!」
そして気合を入れた一閃がついにその一撃を跳ね返し、真っ二つに両断した。
そこからの光景をルーナは目で追えなかった。
体勢を立て直した二人は光の数万倍もの速さで縦横無尽に移動しながら幾度となく激突を繰り返した。そして数秒。
「……しばらくぶりの大敗だな……」
ヒエンが着地するとその足元にバラバラになった裏闇裏丸の残骸が落ちた。
「だが、私の力は継続される。次はまたもっと面白い歪みを期待しているぞ、ナイトスパークス」
「……言ってろ」
ヒエンが納刀すると同時に最後の電光が迸り、裏闇裏丸は跡形もなく消し飛んだ。そしてそれが完了すると同時、地球はこの戦いが始まる前の姿に戻った。
「廉、どこまで思い出した?」
「さてな。とりあえずこいつの使い方くらいか。お、ザインの風の帯になってる。こりゃ楽でいい」
万雷をザインの風の帯にし、さらにそのザインの風を虚空にかき消すと、パジャマ姿の爛が歩いてきた。
「よう、魔王。最近の魔王はパジャマ姿で現れるものなのか?」
「冗談はもう結構だ。お前あれだけ俺をボコボコに殴ったくせにまだ足りなかったのかよ」
「は?」
「今お前が倒したパラドクスはその未練が原因で復活したって言ってたぞ」
「そうか。けどあの程度ならまた来ても大丈夫だ。けどルーナ。十三騎士団……しかも完全に力を取り戻していない奴とパラドクスってここまで実力に差があるのか?」
「そうだ。十三騎士団は第二階級。パラドクスは3から4階級。裏闇裏丸は強力な方だから第3階級。3分の1くらいの力を取り戻した十三騎士団なら裏闇裏丸とはいい勝負だと思う。でも本来のあなたは十三騎士団の中でも異例。本来兼任されるはずのないプラネットの力をその身に宿している」
「けど今はルーナがもってるんじゃないのか?」
「そう。でもこの戦いで無理やり私の中から引きずり出された。だから地球は元通りになった。……そしてあなたが持っているのはこの二つだけじゃない」
「零のGEARか?」
「それは人間のあなたが元々持っていたものでさっき裏闇裏丸が言っていた通り自分より上の階級相手にはほとんど通用しないちょっと便利なもの程度だよ。あなたが持っている第三の力。それはディオガルギンディオとしての力だ」
「は?ディオガルギンディオ!?それって確か全宇宙の調停者とか言う実験屋だろ?パラドクスはともかく十三騎士団とは敵対しているんじゃなかったのか?」
「そう。でも兼任してしまった。本来重なり合うはずがない3つの力をあなたはすべて有してしまっているんだ。そしてそれが生んだ歪みによってあの裏闇裏丸、あなたのパラドクスが生まれてしまった」
「……ディオガルギンディオって具体的にどんな力だよ」
「今のあなたにはない」
「は?」
「私もさっき気付いたばかりだけれどあなたの力の源であるその至上の万雷は宇宙の彼方にいるディオガルギンディオ・ブフラエンハンスフィアがもっていたみたいだ」
「ぶう……なんだって?」
「ブフラエンハンスフィア。邪神オーディンによってあなたから切り離された調停者の一人。彼が司るのは「進化」。今のあなたにはその進化の力は備わっていない。でも、一時期備わっていた時期があった」
「今はない力なのにそれを持っていた過去があったってだけでどうしてあの野郎を叩きのめせるだけの力になるんだ?」
「元々の持ち主と言う因果さえ持っていれば十分だ。あなたとてもう既にプラネットではないにもかかわらず私からその力を一方的に引き出すことが出来る」
「つまりその調停者の力を持っていた過去があるから昔ほどでなくともこっちは少しだけその力を使えるって事か」
「そう。でも記憶がまだ戻っていないみたいだから自由度はないし、ほとんどまぐれみたいなものだけれど。……うん、話していけば自分でも理解が及ぶと思ってたけれどそうもいかないみたいだね」
「おい」
突っ込んだのは二人同時。
「まあいい、それでパラドクスってのはしばらく現れないんだな?」
「恐らくは。でもそこの魔王を殴り殺さなかったってだけであなたはあのパラドクスを蘇らせた。今のあなたは些細な事でもすぐにパラドクスを復活させられるだけの要因になっているみたいだ」
「……そう言えば過去にも何回もあいつと戦ってるんだろ?つまりパラドクスってのは腐れ縁みたいなものか」
「普通ならパラドクスの発生原因となる歪みは個人で賄えるものじゃない。数百年数千年もの時間をかけて文明が生み出してしまった矛盾から作られる現象。けれどあなたは3つの要因を兼任してしまっているからかなりの異例。きっとあの裏闇裏丸は世界で一番消滅と復活を繰り返しているパラドクスだね」
「ルーナちゃんや。今回あいつが現れたのはこいつが一時的とはいえ俺をはるかに超える力を君が貸したのが原因じゃないのか?だってこの数百年あいつは現れてないんだろう?でも少なくとも君の来た世界、100年前にはそいつは要る。だからそいつがプラネットないし十三騎士団の力を取り戻さなければパラドクスも姿を見せなかったんじゃないのか?」
「きっとそうだろう」
「おい」
重なる突っ込み再び。
「でもただでさえこの矛盾の安寧はとんでもない歪みの塊だ。だからもし仮に私がこの世界にも来なくてそしてあなたが本来の目的通りに長倉大悟を子飼いにしてずっとこの世界を存続させていたとしても必ず他のパラドクスがやってきてはこの世界を破滅させるだろう。そうなってしまえば一体誰がそのパラドクスを倒すと言うの?」
「……十三騎士団とやらはどうなんだよ」
「彼らは基本的に一つの文明圏に一人しか送らない。この太陽系にいる十三騎士団は廉だけだ。そしてパラドクスの中でも異例である裏闇裏丸があれほど貪欲に強化を繰り返しても結果として本来の力の3分の1も取り戻せていない廉相手にあれほどあっさり倒される程度には実力差がある。だから十三騎士団はあまりパラドクスを、そしてこの地球ですら重要視していない。それはすでに何度も文明がディオガルギンディオによってこの星を何度もリセットさせられていることからも確定だろう」
「……完全にこの星は放ったらかしにされてるってわけか。けどよ、パラドクスって言うなら知り合いに一人いるぜ?」
「知っている。夏目群青……カオスナイト・ダハーカ。でも彼はどういう意図があるのか分からないけれどもダハーカとしてもパラドクスとしてもほとんど活動していない。最低でも4つ前の世界には既にいたけれども十三騎士団からは無害認定(ノーマーク)。確かに今までこの世界をパラドクスが狙わなかったのは彼が止めていてくれたからと言う可能性はなくはないけれども基本的にパラドクスは我々の敵。だから私達は彼を信用することは出来ない。それに間違いなく今の廉の方が強いから彼の説得に任せるよりはやってきたパラドクスを片っ端から迎撃して粉砕していった方が早い」
「……おい、お前の幼馴染。発想が些かクレイジーじゃねえか?」
「まあ、故郷である天使界をパラドクスに滅ぼされればそうもなるか。……さっきのがこれからも続くとか勘弁してほしいが」
妙に達弁でちょっと興奮しているようにも見えるルーナ。しかしその表情が一瞬で少しだけ変わった。
「廉、まずいぞ。あのダハーカが長倉大悟のところに向かっている!」
「あのダハーカってパラドクスのか?」
「違う!その息子の方!!」
「……息子って黄緑が……!?どうして黄緑がそいつのところに行くんだ?」
「黒主、昨日の話を忘れたのか!?鈴音リバイス天笠の代わりに元の世界に置いて行かれてしまった少女の片方……月美来音は夏目黄緑の大事な人だぞ!」
「……まさかあいつ、他のどのダハーカも見捨てて見殺しにして、元の世界を、大事な人を取り戻すつもりか!!ルーナ!すぐに僕を飛ばせ!!」
「……他人に対して行けるかどうか分からないけども……!」
ルーナはあらかじめ地球上の、ある場所/座標を思い描き、その周辺に存在する無数の微生物たちを操作。質量を集中させ、ヒエンの物と同じ質量を満たせたと同時、ヒエンとその微生物たちの座標を交換した。
そしてヒエンは今にも牙を使って大悟に襲い掛かろうとしていた黄緑に向かっていった。

------------------------- 第82部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
75話「選択肢2」

【本文】
GEAR75:選択肢2

・夜。本来ならもうとっくに閉店している大倉機関の本社ビルに二日連続で照明がついている。そしてそれだけではなくまた再び同じメンバーがそこに集まっていた。違いとしては鈴音、小夜子、八千代、紫音、崇がいない代わりに黄緑がいることだ。
「まずは紹介するよ。こいつがダハーカのハーフで紫音ちゃんの義理の兄貴な夏目黄緑だ」
「……どうも」
ヒエンに紹介された黄緑はぶっきらぼうに答えた。ここへ来るまでの車内である程度昨日の情報を話し、知らない情報が増えているのか焦燥している様子がうかがえる。とりあえず先ほどまでの大悟に対する殺意などはもうないようだ。その大悟も黒服に調べさせたり、八千代に連絡したりですでに家に帰って鈴音と八千代が様子を見ていることが分かっている。ただ、何故か小夜子とは連絡がつながっていないそうだ。そのことを鞠音に尋ねると、
「彼女は今一人じゃありませんの。先輩がいるので多分大丈夫だと思いますわ」
と返された。
「一人じゃないってどういうことだ?無関係の友達と一緒にいるってことか?」
「いいえ。……ひょっとすれば加藤さんならご存知じゃありませんの?大倉所長がこの2年間、このビルの地下で幽閉していた彼女のことを」
「……!!まさか、出会っているのか!?あの小夜子が!」
「ええ」
「加藤さん、一体何の話をしているんだ?」
「……今から2年前に所長は一人の少女を保護したんだ。この少女はオンリーGEARの持ち主だから地下の検査室で調べが終わるまでの間保護すると。その少女はどっからどう見ても小夜子そのままの姿をしていたんだ」
「は?じゃあ小夜子ちゃんが二人いるとでも?……いや待てよ。そう言えばどこかでそんなような子を見たような気が……」
「所長から詳しい話は聞いていなかったから小夜子に重大な関係がある謎の存在としか見ていなかった。だが、先月、所長が無くなった日を境にその少女は地下室から姿を消していた。俺はてっきり利伸が三船に連れ出したものだと思っていた」
「……残念ながら私も三船の所長も彼女についてはほとんどの情報を知らなかった。それに彼から言われていたのは飽くまでも乃木坂姉妹が有する天死の血液を奪って来いというものだけだった。……結局それも誰に奪われ、どこへ行ったかはわからずじまいだったんだがな」
「……岩村さんあんたいたのか」
「俺が連れてきた。と言うか昨日にもいたんだがな」
「……ふん、GEARのせいで少し認知されにくくなっているだけだ」
「岩村さんは影が薄いから久遠ちゃんくらいじゃないと気が付かないんだよね」
にぱぱと笑う久遠を赤羽が抱きしめ、それを見て岩村が舌打ちを放つ。それを見てヒエンは報告書から岩村と久遠のGEARとその相性についてを思い出した。
「で、話を戻すけど鞠音ちゃんはそのもう一人の小夜子ちゃんの正体を知っているのか?」
「ええ。昨日あの方がおっしゃっていましたので」
「崇が言っていた話だな」
話の続きは爛が引き継いだ。
「矢尻陽翼や月美来音のように元の世界に置いてけぼりにされちまった子の一人で、どういう訳かその子だけは2年前までの記憶だけを引き継いだコピーと、何故か全く違う存在にされてしまった本物との二人に引き離されちまったらしいぜ」
「……うちらが知ってる小夜子ちゃんはどっちなんだ?」
「前者ですわ。そして先輩。今あなたの思考を読み取りましたけれども、ライラさんと初めて会ってすぐに出会った両足のない少女とマントの少女。そのうち片方、マントの少女が後者たる本物の小夜子さんですわ」
「両足のない少女……ヘカテーか!?」
黄緑がその考えにたどり着いた時だ。まるでダハーカの時間停止のように空間の時間が停止された。動けるのはヒエンと黄緑だけだ。そして二人がそれに気づくのと同時に二人の前にヘカテーが姿を見せた。
「やっほー、お二人さん」
「ヘカテーちゃん、ひょっとして時間止めないと姿見せられないのか?」
「まあ、私もうとっくに死んじゃってる人間だしね。で、呼ばれたから来たけどあの子のことを知りたいんだって?」
「そうだ。君確かあの時一緒にいたよな?」
「そうだけど。私もあまりあの子のことは知らないんだよね。何回か夜のお散歩のときに会うだけでさ」
「ヘカテー、君は時間を止めている間じゃないと活動できないはずだ。それなのにどうして他の少女と出会える?」
「それはあの子が私と同じで生きた人間じゃないからだよ。あの子の持ってる浮遊のGEAR。この矛盾の安寧が作られた時にそれが暴発でもしちゃったのか、文字通り浮世離れした存在になっちゃったんだと思う」
「……待て。じゃあその二人が、小夜子ちゃんの二人が今出会っているってことは何か良くない事でも起こるんじゃないのか?」
「だろうね。コピーの方は間違いなく本物の方を知ってるし、本物がいる限り浮遊のGEARを制御することは出来ない。反対に本物の方はそのまま存在そのものをコピーに奪われている。彼女は本当の自分を覚えている存在の前にしか姿を見せることが出来ない。この世界の持ち主が2年と言わず何年でもコピーの方と一緒にいればいるほど本物に関する記憶は失われていき、やがて本物の方はこの世界で存在を維持できなくなって消滅する。だとすれば偽物のくせに自分のお兄ちゃんとイチャイチャしているコピーを始末したくなるのは当然だよね」
「……酷な話だがそれでどちらかが死んだことで何かデメリットはあるのか?」
「そうだね。今すぐどうだって話はないけれど。あの二人は別にさっきのあなた達みたいに別々に発生したわけじゃない。この世界が作られた時に一人だったのが無理やり二人に引き裂かれたんだ。まあ、誰のせいでもないあの子自身が有していた浮遊のGEARの暴発でね。だから片方が失われると残った方の望みは叶う。でもGEARの力は半減されたままだろうし、きっと大幅に寿命が縮むだろうね。純粋に考えれば半分。事故とか事件とかで内臓の半分を失ったとかって仮定するならもって数年とかかな?でもさっきあなたが言ったように結局はあの二人の問題。あの二人は別にこの世界を続けようとか壊そうとか思っていないから世界そのものには何の影響もないと思うよ。まあ、決着次第ではこの世界の持ち主であ
る彼がどういう決断をするかを左右する可能性はあるかもだけどね。今、ちょうどその二人と一緒にいるみたいだし」
「……昨日の話は知っているか?」
「何となくね」
「君にも聞いてみたいが、この世界は続けるべきなのか?それとも元の世界に戻した方がいいのか?」
「私としては別にどっちでもいいかな。この通りもう既に実態を失ってるからね。どれだけ強くても天死じゃ物理的な攻撃しか取れない分私を消滅させるなんてことは出来ないよ。ひどいことを言えば私はダハーカとは直接的な関係はないからダハーカが全滅になってもあり方に変わりはない」
「……もう誰も君と話をしてくれる人がいなくなるよ、ヘカテー」
「……うん。でもこの際私のことは別にいいかなって。で、話を戻すけどもこの世界を続けるって言ったね?でもそれはもうあと一週間くらいしかできそうにないよ」
「何だって?」
「だって十三騎士団でも調停者でもないただの人間がちょっと強力なGEARを持っていたところで本来こんな仮想世界だなんて作れるものじゃないんだよ?それを2年も継続できてるだなんて普通じゃない。……まあ、そうだろうね。だって本来なら彼には強い負担がかかるはずなのにそれをお姉さんが肩代わりしてたんだから」
「……八千代ちゃんが……」
「でもそれももう限界。彼女はここ最近ずっとダウンしてるし。多分もう2,3日くらいしか彼女は持たないね。で、そこから本来の持ち主に負担が行くようになるけど、この2年で散々カオスになるまで育まれてきて精神的にも肉体的にも人間一人が抱えるにはあまりに強すぎる。そんなものをいきなり渡されてみたらどうなるかな?」
「まあ、速攻で精神崩壊するわな」
「だからどのみちこの世界はあと一週間くらいしか持たない。まあ、でも方法がないわけでもないんだけどね」
「え?」
「……君の命を使うのか」
「どういうことだ黄緑?」
「ヘカテーには理屈は不明だけど彼女自身の命を使うことでどんな奇跡でも引き起こすことのできる力があるんだ。僕も何回か誘われたことがあるけど当然断ってきた。けど、もしそれを今ここで使えばその世界の限界って言うのを無視してこの世界を存続させることが可能になる」
「そう言うこと。だからあなた達なら選べることが出来るんだ。この世界を終わらせるか存続させるかを」
「……今の話、この時間が再開された後にみんなにしてもいいかな?」
「別にいいよ。でも出来れば早めにした方がいいかな。終わらせるにも存続させるにも今のままだとどんどん大きな歪みが生じていく。それが原因でパラドクスがやってくるかもしれない。そして一度そういう結果を作ってしまったら願いを使ってもそういう仕組みまで保存されちゃう。定期的にパラドクスが誕生する世界だなんて平和とは言えないんじゃないかな?」
「……」
黙るヒエン。対して黄緑は、
「……逆にこの世界を今すぐ終わらせる方法はないのかな?」
「あるよ。負担者とこの世界の持ち主のどちらか片方、ないしは両方を殺せばすぐにこの世界は終わる」
「……」
「待て黄緑。本当にそうするつもりか?」
「女の子を殺すなって言うのなら弟の方だけをやるよ」
「だが黄緑、いいのか?仮にこの世界を壊して元の世界に戻してお前の大事な人とやらに会えたとする。けどダハーカさえも圧倒されて絶滅寸前な世界に備えもなしにいきなりなってみろ。お前もその子も無事に生き延びられる保証はどこにもないぞ。それどころか場合によっちゃ元の世界には戻ったけど肝心のその子が既に死んでいましたなんて落ちもあり得るんだぞ?」
「じゃあどうしろって言うんだ!?」
「……一日だけ待て。その間に出来ることを考える」
「……ヘカテー、一日……24時間くらいなら問題ないかな?」
「世界そのものはね。でもさっきも言ったように今から始まる二人の決着次第では絶望してすぐにこの世界を終わらせてしまうかもしれないよ?」
「……よし、時期尚早だと思っていたが大倉機関は長倉大悟の身柄を確保しよう。それも今すぐにな」
ヒエンが決断すると同時、ヘカテーの姿が消え、時間は再開された。
それを確認してからヒエンが言葉を作ろうとした時だ。
「ひっ、ひゃあああああああああああああ!!!」
突然鞠音が悲鳴を上げた。
「鞠音ちゃん!?どうしたんだ!?」
悲鳴を上げ、床に倒れて悶える鞠音。
「せ、先輩……急に情報が……おおすぎて……くっ、きゃあああああああああああん!!!」
「姉さん!!」
震え始めた鞠音を潮音が抱きかかえる。
「な、何があったんだ?」
「先輩、さっきまで姉さんは先輩の言葉から脳内の情報を読み取ろうとしていました。もう日常茶飯事なためもう問題ありませんが、本来は負担のかかる行為なんです。もしかしたら何か先輩はこの一瞬で深く深く考え込んだりしていませんでしたか?それこそ脳がショートしそうになるくらいの……」
「そんなこと言われてもそんな考え込んだ覚えは……」
「……ヒエン、確かにそこまで考えてはなかったかもしれないけれど情報ならこの一瞬に満たない時間でかなり手に入ったじゃないか」
「へ?……あ、そっか!!」
「どういうことですか?」
「いや、今時間が止まっててな。黄緑やさっき話したヘカテーって子と話をしていたんだ。その話が終わったからこうして時間が再開されたんだけど、そこでの会話内容とかがもしかしたら鞠音ちゃんに一気に流れ込んだのかもしれない」
ヒエンは心に冷や汗をかきながら嘆息し、鞠音の傍によると貫手で鞠音の胸のあたりを小突いた。小さな柔らかい感触が得られ、次の瞬間には鞠音は意識をなくしていた。
「……悪いな、鞠音ちゃん。潮音ちゃんも」
「……いえ」
「……っと、そうだった。加藤さん、急ぎだ。急いで長倉大悟を保護しないといけないんだ」
「何があった?」
「もしかしたら今夜にも世界は終わるかもしれない。それがいいか悪いかはともかくとして備えはしておきたい。とにかく話してる時間が勿体ない。長倉大悟のところに行って多少無理にでも保護をさせてもらう。八千代ちゃんに連絡を。それと赤羽と火咲ちゃんは空から向かってくれ」
「……空からですか?」
「ああ。もしかしたら空中戦が始まるかもしれないからな。そうしたら止められるのは空を飛べる君たちくらいだ」
「おい黒主。俺も一応空飛べるんだけど」
「お前に女の子を任せたくないんでな!」
「女の子?空?……ああ、そうか。いよいよ小夜子ちゃん達が決着着けようって話か」
「とにかく行くぞ!」
ヒエンが椅子から立ち上がった時だ。
「いいえ、その時にはまだ早い」
「!?」
声が響いた。次の瞬間には乃木坂姉妹の傍らに赤黒を中心とした中世の紳士のような姿をした男が立っていた。
「だ、誰だ!?」
「甲州院(こうしゅういん)幽致(ゆうち)。またの名をカオスナイト・インフェルノ」
「カオスナイト……!?ってことはパラドクスか!と言うかその名前、その響きは……!!」
「おやおや。一文字違いなのに覚えていないと。かわいそうな愚弟ですね。まあそれはそうとして。この子たちは預からせていただきますよ」
「何!?」
インフェルノが姉妹の肩に触れるとその姿が見えないほどに凝縮され、インフェルノが首から下げている水晶のペンダントの中に吸い込まれた。
「その子たちを離せ!!」
ヒエンがザインの風を抜いてインフェルノに挑むも、片手で止められた。
「この室内で我々が全力を出したらどうなるかお判りいただけないと?」
「くっ!!」
「では、天死(アルデバラン)の血。頂きましたよ!」
高笑いが消える頃には既にインフェルノの姿はなかった。

------------------------- 第83部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
76話「時空、破られる刻」

【本文】
GEAR76:時空(とき)、破られる刻

・この世のどこでもない空間を走り抜ける人物があった。
「……」
甲州院幽致(カオスインフェルノ)はパラドクス故に通常の生命体ではない。逆説して通常の生命体の範疇にある双子はこの空間を認識できていなかった。まるで時間が止まっているかのように鞠音も潮音も微動だにしない。苦しみ、小さく吐息をこぼしていたはずの鞠音も警戒して視線を尖らせていた潮音もまるで人形のようだ。
インフェルノの目的はこの矛盾空間を移動して矛盾の安寧の持ち主である長倉大悟のもとへ行くことだ。もちろんそれだけではない。今この世界の持ち主である彼はその精神に深い衝撃を帯びようとしている。まさか本来はそれを防ぐために2年間も表に出なかった存在が率先して自ら彼の前に姿を見せ、世界崩壊のカギを握ろうとしているなどとは同じ目的を持っていたものには夢にも思っていなかったことだろう。そして彼女たちの思い通りにいつまでもこの世界を不確かに生き永らえようとすればするほどにこの世界は混沌を増してとても自分達がその存在のまま生存できなくなるとは夢の彼方にすら想像できることではなかろう。さらにさらにそれを利用して糧として贄として嘲笑うために彼らの人知にさえ及
ばない存在が暗躍しているなどとはもっととてもとても……。
「ん?」
思わず笑いが零れそうになった時だ。ありえないことが起きた。いつしかインフェルノは通常空間を歩いていた。場所で言えば剣峰中学のすぐそば。インフェルノの足で行けば二っ飛びもあれば届く距離。そこからさらに跳躍を3つ使えば目的地にたどり着く。そして本来ならばその2つも3つも必要なくたどり着けるはずだった。だが何故か今自分はその5つを必要としなければならない空間に立っている。
「……パラドクス。それも私のような上位存在の行動を阻害出来る存在などそう多くもない。……彼ではないだろう。だとすれば可能性があるのは……」
インフェルノは双子をやや乱雑に地べたに投げ捨て、その衝撃に小さな吐息が漏れると同時。正面に無数の黒い物体が出現するのを確認した。いずれもがまるで零した液体が逆再生して地面から不定形な姿に集約されたようなそんな不気味な姿を形成していた。そしてそれらは物理法則を無視していた。目に見えるすべての景色と言う絵画に直接黒いそれをまき散らしたかのように、平面や立体を無視して出現している。これを他の言葉で表現しろと言っても正確さを纏えるものはそう相違ないだろう。だが、ここに数少ない例外はいた。
「やはり、あなたですか。ディオガルギンディオ」
「矛盾の代行者よ。我がせっかく見つけ出したこの最大限のフラスコでこれ以上の狼藉を許すわけにはいかない。況してやアルデバラン星人を貴様たちに渡すわけにはな」
空間を揺るがす音なき声が響き渡ると同時、黒い物体たちが一斉に襲い掛かった。どこぞの黄色い悪魔のように体を前方から少しずつ黒い泡のような物体に分散させて前方に飛ばす。目に見えないほど小さな微生物たちがそれに触れると一瞬で数億が集まり、トラックほどの大きさもある三つ首の獣となって襲撃に加担する。既にその獣の数は百を超えていた。だが、
「ふん、気に入りすぎたおもちゃを前に遊びすぎて自我も役割も壊してしまった小童が随分な口を利くではないか」
インフェルノが手にした杖をふるうとそれだけでアスファルトから溶岩が吹き上がり、自分に襲い掛かるすべてを焼き尽くした。
「ぬ」
「実体すら碌に取り戻せていない分際で、たかが数千万年生きているだけの小童が4億年を生きている私に物事を騙ってタダで済むと思っているか!?」
もう一度ふるうとさらに奥にいた黒い物体がすべて粉々に砕け散った。
「……ふん、」
数秒ほど様子を見るが黒い気配も一丁前に話しかけてきたあの声も再びを見る気配はなさそうだった。
「あの程度の依り代しか場に出せないような雑魚が随分粋がってくれる。……しかし今ので14秒もロスしてしまった。そろそろ終わりが始まってしまう……」
振り向いた時だ。電光が光の速さで飛んできた。
「貴様の終わりもな!!」
ヒエンだ。抜いた万雷を右手に構え、左手で持ったザインの風を鎖分銅へと変えて先に投げる。投げられた鎖分銅はただ真っすぐ飛ぶだけではなくまるでUFOのように不規則に軌道を変えてインフェルノへと迫った。
「ちっ、進化の柱はどうしてこうも邪魔をしたがるのか」
インフェルノが杖をふるえば鎖分銅は粉々になり、そのまま迫ってきたヒエンの斬撃を受け止めた。
「はああああああああああああ!!!」
防がれると同時に刀身から5億万ボルトの電撃を発してインフェルノの体を焼き尽くしながらぶっ飛ばす。
「今のうちに」
同時にその背後でルーナが出現して双子を抱えると走り出した。
「ちっ、邪魔を!」
唾を吐くインフェルノは無傷のまま力ずくでヒエンを弾き飛ばし、虚空から呼び出した無数の溶岩を滝のような数と勢いに乗せてヒエンに叩き込む。
「ぐううううううううううう!!」
高圧電流の発射で数万の溶岩を破壊したがそれでも流れ込む無数に押し流され、背後にいたルーナや抱えられていた双子もろとも近くの民家に突っ込み、炎の海に囲まれる。
「くっ!ルーナ、平気か!?」
「な、何とか……。でも今のは運が良かっただけ。この子たちを抱えていなかったら間違いなく灰になってた」
ルーナの視線の先には気絶した双子と、この家の住人だと思われる灰の残骸があった。
「けどあいつ何だってんだ。さっきの奴はあっさり倒せたのに全然勝てる気配ないぞ!?」
「あのカオスインフェルノはパラドクスの中でもかなり上位。まだ力を取り戻し切っていないあなたでは確かに不利」
「そう。その通り。あなたを10とするならばあなたのパラドクスは5か6程度。しかし私はその理論で行けば13は確実!今のあなたなど片手で十分なのですよ!」
直後、インフェルノが眼前に迫り左手でヒエンの首を固く締めあげる。
「ぬうううううううううううう!!!」
零のGEARなど全く意味がなくヒエンの首が骨ごと悲鳴を上げる。その17センチの手に込められた握力は30万トン以上。そのあまりの力にヒエンは万雷を手から落としそうになる。しかし、その時だ。突然にヒエンの手首から先が不自然な方向に湾曲し、高圧電流を纏った刃先がインフェルノの胴体を逆袈裟に切り裂いた。
「が、があああああああああああ!!!」
「……はあ、はあ、今のは何だ?勝手に動いたぞ?まあいい!!」
解放されたヒエンは血液の代わりに闇と電光を激しくまき散らすインフェルノに突撃。
「だぁぁぁっ!!!」
突撃の勢いを殺さぬまま万雷を相手の腹に突き刺し、そのまま放った電撃で相手の両腕を炭にする。
「消し飛べええぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
そして電撃を放ったまま万雷に横向きの力を込めてインフェルノの体を真横に両断した。その断面の細胞は既に炭となっていた。
「ちっ、進化の柱めが……!!この体は捨てるしかないか!!」
叫ぶと同時、インフェルノの体は高速で燃え尽きる蝋燭のように消えてなくなりしかしその炎のように魂のような部分は瞬く間に夜空へと消えていった。
「……何とかなったか。ルーナ、二人は?」
「……問題ない。気絶しているだけだ。……今二人の赤羽さんが近くまで来ている。でも、間に合わないかもしれない」
「どういうことだ!?」
「……もう二人の勝負は決着がついている。……本物の方が偽物を殺した。後はこの世界の持ち主と再会を果たすだけ」
「……そうか。もしそうならこの世界はもう終わってしまうのか」
「……いいえ、まだ終わらないわ」
声があった。二人が振り向くと、そこには寝間着姿の八千代がいた。
「八千代ちゃん……?」
「……今ならまだ間に合うかもしれない。嘘のGEARの持ち主を連れて早く大倉機関に」

・2時間が過ぎた。もう朝方と言っていい時間に再び大倉機関に小夜子以外のメンバーが集まった。緊急事態故に紫音もその場に集められた。
「兄さん!?どうしてここにいるの!?」
「……紫音……」
「紫音ちゃん、話はあとだ。それより八千代ちゃん。全員集めたがこの後どうするんだ?」
「……」
八千代は椅子に座り、その膝に泣き崩れている鈴音を抱きながらゆっくりと口を開いた。
「嘘のGEARで一晩だけリセットを掛ける」
「は!?」
声を上げたのは月仁だ。ただでさえテスト期間だってのによく分からない組織の運営やら世界の命運やらを話された挙句よく分からない奴に殺されかけた上に帰って寝ようとした夜更けにまた緊急招集で呼び出されそして再び自分の名前を碌に話したこともない女に口にされ話題の的にされてしまった。不機嫌に火がつけられた。
「ここに呼び出されたことを嘘にしてでもさっさと帰って寝たいんだが?と言うか俺のGEARは万能じゃねえよ。直前に起きた出来事や無機物の破損を嘘に出来たとしても時間の巻き戻しなんて出来るわけないだろ。と言うかもうこうなっちまったら仕方なく世界の終わりとやらを迎えた方がいいんじゃねえのか?」
「……私は鞠音ちゃんほどじゃないけど他の人のことがよく分かる。あなたのGEARを最大限使えば一晩だけならリセットは掛けられるはずよ」
「だぁかぁらぁ!どうして俺がこんなことをしなくちゃいけないんだ!俺はあんたらの敵じゃあないが味方でもないんだぞ」
「……味方じゃないと使いたくない技があるみたいね」
「……それも見捨てる予定の味方じゃないとな」
「おい月仁。いつの間にそんな技を覚えたんだ?」
「いつか兄貴がバカなことをして俺を大変なことにしちまいそうになった時に兄貴自信を生贄に捧げてリセットを掛けるつもりの小細工だ。俺の力を最大限に使うだけじゃない。誰かの犠牲が必要なんだ。それも兄貴みたいなバカな力を持った奴か、生まれたばかりの命みたいにこの世界にとって大きな意味を持った存在を犠牲にする必要がある。そしてその犠牲になった奴は何をしてももう蘇らない。たとえ俺が二人いたとして同じ方法を使ったとしても使った二人目の生贄もろとも余計な犠牲になるだけだ」
「……誰かを犠牲にしてリセットを掛ける能力か。まあ確かにこのままにして世界の終焉を迎えるよりかはマシそうだな。で、八千代ちゃんは誰を犠牲にするつもりだ?君自身にすれば簡単かもしれないがそうしたら矛盾の安寧の負担を君が背負えなくなって結局奴はこの世界をやめる。どうせ消える命かもしれないが鈴音ちゃんをやっても答えは一緒だ。命を犠牲にする以上こっちだってその生贄になってやるわけにはいかない」
そう言いながらヒエンは一瞬爛の方を向く。だが次の瞬間、八千代は自らの下腹部を小さく撫でた。
「……この子の命を使う」
「は?」
その言葉に周囲は呆気にとられた。いち早く現実を取り戻したルーナが調べると、
「……確かに彼女の子宮(なか)には新たな命がある。本来ならいつ生まれてもおかしくないくらい時間が経っているように見えるけど全然その気配はない。まるで流産寸前の状態だ」
「……八千代ちゃん?」
「……この子は私とあの子の子」
「……鈴音ちゃん。確か小夜子ちゃんはあいつの義理の妹なんだよな?」
「……はい」
「……じゃあ八千代ちゃんは?」
「……実の姉です」
「…………」
閉口。それはヒエンだけではない。それを一周見据えた八千代は赤面しながら咳払いして続けた。
「この世界の負担を受け続けて私には栄養が足りなくなった。だからこの子も生まれるだけの力がなかった。でも、この世界を一晩救うだけの嘘にはなれる。だから、この子の命を使って」
「……ただ命を使うだけじゃない。この技を使えば俺は死ぬほど疲れる。もしかしたら本当に死んじまうかもしれない。だからその保障と、半年の間一切の生活費を負担してくれるなら」
「……野郎の面倒は見たくないんだが八千代ちゃんの頼みだ。引き受けてやる」
ヒエンの決断に加藤は何か言いたそうにしたがしかし飲み込んだ。
「……分かった。じゃあやるぜ。俺が寝てる間兄貴の暴走は止めてくれよ」
「……だぁれがお前なんぞに心配されるか阿呆。さっさとやっちまえ」
「……やっぱりこいつを生贄にしたい」
「生憎だがそういう即死系は俺には通じない。最初から俺対策には無理があったな。けど褒めてやるぜ。さっさとやっちまえよ」
鼻を鳴らす月仁。ゆっくりと八千代に近づき、一瞬その豊かな胸に手を伸ばそうとしたがすぐ近くに鈴音がいたため方向転換して下腹部に向かった。その手が触れ、その存在を月仁が認識し、生贄に選んだ瞬間。世界は時間を巻き戻した。

------------------------- 第84部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
77話「流離の要人達」

【本文】
GEAR77:流離(さすらい)の要人達

・ヒエンはスマホの日付を確認した。
「……本当に戻ってるんだな」
そこは24時間前の時間を示していた。つまり先程の行為はおとぎ話ではなく本当に起きた出来事だったと言う訳だ。だから、担架で運ばれていった月仁の容態を一応は心配してやろうと思う。
「確保しました!」
しかしそれ以上に気がかりなことがある。加藤率いる黒服達によって厳重に鎖とロープとで縛られながら連れてこられたのは一度しか会った事がないもう一人の、本物の小夜子だった。
「加藤さん、その子が?」
「ああ。この2年間大倉機関で保護されていた本物の長倉小夜子だ。八千代からの報告通りに昨夜偽物を殺してそのまま本物として長倉の家に居座っていた」
「それで偽物の方は?」
「無事だ。俺達以外は時間が戻っているせいかこの24時間に起きた出来事を経験すらしていないらしい。だからまだ何も知らないままいつも通りの生活をしているはずだ」
「……」
聞きながらヒエンはその小夜子の方へと歩み寄った。
「よう、久しぶりだな」
「……黒主零」
「何だ、知ってたのか」
「あのダハーカの巫女から聞いた。それでせっかく長倉小夜子としての僕を取り戻せた僕をこんな目にあわせて何がしたいの?」
「そのあたりは気の毒だと思うが生憎まだ世界を終わらせるわけにはいかないんでね。お詫びと言っちゃなんだが準備が出来てからまた改めて君とあの子の決闘の機会は用意させてもらうさ」
「……人道的に言うなら僕を止めるはずだけれど?」
「これは君たち二人の問題だ。本当なら今回も止めるつもりもリセットするつもりもなかった。ただちょっとタイミングが合わなかっただけだな。ぼくもまだ記憶が戻り切っていない。だから自分を取り戻そうって言うのはよく分かる話だ。君とは少し意味が違うがな。それにボクッ娘を放って置くなんて出来ないしな」
「……なにそれ」
「そう言えばあれ、どういう意味なんですか?」
ライラがルーナに尋ねた。ルーナは瞳を閉じてから小さく答えた。
「あの人の思い人がボクッ娘だったそうだ。多分そこからだと思う。私も会ったことないから分からない」
その言葉を後ろで聞いたヒエンはちょっとだけめまいを覚えるがなかったことにして改めて小夜子に向き直る。
「とりあえず知ってることを話してほしいからな。もう監禁なんてしないから一度機関に来てもらうぞ」
「……わかった」
それから小夜子は車に乗せられ、ヒエン達も車に乗って機関へと向かった。とりあえず先行していた黒服から先日ハンコを押して提出したはずの書類がハンコを押されていない未提出の状態に戻っていたとの報告があったため憂さ晴らしに赤羽の胸を揉もうとしたが当然に叩き落とされた。
「どうしてこういうところは変わっていないのですか。もう亡くなられているとはいえ奥さんまでいるというのに」
「その奥さんとやらの記憶だけがぽっかり空いてるんだから仕方ないだろ。ああ、あと妹とやらもか」
「見事に近親者ばかりですが何かあったのですか?」
赤羽の視線はルーナに。
「……いや、分からない。もしも私がそのままこの人と同じように世界のリセットを経験したうえでここにいるなら分かっていたかもしれないけれども私は1つ前の世界から直接来てしまった。だからそこからここまでの空白の期間と言うのは私でも分からない」
「……ならその1つ前の世界について聞きたいです。それともタブーとかそう言うのあったりしますか?」
「……この世界になく別の世界にあったものを伝えると言うのは多分世界のタブーになると思うが今回のは別にそこまでの物じゃない。個人が個人に個人の情報を教える程度だから」
「……あなたの世界にも私はいたのですね?」
「いたよ。正確に言えばあなたではなくもう彼女は最上火咲と言う別の存在になっていたけれども」
「どうしてあの方は世界のリセットを経験すると最上火咲になってしまうのですか?」
「それはあの人だけでなくもし、次の世界と言うのがあればあなたもいずれ新しい最上火咲となるし、そうなったらあの最上火咲はこの世のどこにもいなくなる。まあ、本来ならそれが普通なんだけれども。そして理由に関しては私にもよく分からない。初代のあなた方が何かをした可能性があるけれどもそれは私が誕生するよりも前の世界だから……。知っているとなれば廉かその妹か彼女くらいしかいない」
「言っておくが僕にもその記憶はない。ルーナが言う1つ前の世界についてはぼんやりと覚えているけれどそれ以上前の世界の記憶はほとんどない。……けど確かにそうだな。君と初めて会った時に感じた妙な懐かしさはこれまでの世界と会って来た君達のことをどこかで覚えていたからかもしれない」
「……そうですか」
「あ、おい。ちょっといいか」
車に乗っていた爛が声を上げた。
「どうかしたか?」
「いや、この辺りが俺の家だ。月仁が病院に行ったってことを伝えたい子がいるんだ。ちょっと寄ってってもいいか?」
爛の提案。ヒエンは加藤の顔色をうかがうがそれすら気付いていないくらいに問題はなさそうだった。
「いいぞ」
「あいよ。ありがとさん」
車が止まり、爛が下りては常人離れしたスピードで近くのアパートに走っていった。
「桃丸ちゃん、いるかー?」
部屋に入る。が、カギは空いてるのに誰もいない。そう言えば昨夜はここをあのパラドクスが消し飛ばしたから一瞬くらい考えを脳裏に泳がせたがしかしその後にちゃんと元には戻ったことは確認済みだ。第一さっきここに住んでいるおばさんとすれ違った。時計を見れば確かにそろそろ学校に向かう時間なのだろうが月仁がいない状態で桃丸がひとりで学校に行くとは思えない。
「それに、あの子がいないな」
一度しか見たことはないが月仁と桃丸が預かっているというピクシーの少女。確か世界がリセットを経験すると発生する1つ前の世界の残滓と言った存在。普通の生命体じゃないしそもそも生命体ではないがあの子自身にそこまでの力はない。せいぜい食事が必要なかったり宙に浮けたりするくらいだ。けどだからと言って行方不明にさせておくには少々不安が強すぎる。自分と同じくらいに強さの、記憶や情報に関するGEARを持っている奴がいればもしかしたらあの子から1つ前の世界に関する情報が引き抜かれてしまうかもしれない。それで何が起きるとは分かったもんじゃないがだからこそ何かあったら大変なことになるかもしれない。
「悪いが桃丸ちゃんよりは先にあのピクシーから探さないとな」
一応桃丸に電話をしてみる。
「もしもし爛兄ぃ?」
「よう桃丸ちゃん。急いでいるから悪いけど俺の用件だけ伝えさせてもらうよ」
「いいけどどうしたの?」
「まず月仁だけどちょっと野暮用で今日はそっちに行けないと思う。別に何かあったわけじゃないけどな。で、次に。あのまほろちゃんって子知らないか?」
「え?お留守番してると思うよ?」
「どこで?」
「月仁の家」
「……いないんだけれど」
「え?……う〜ん、どうしたんだろ」
「いつまでは一緒にいたんだい?」
「朝起きるまでは一緒だったよ」
「……分かった。ありがとう。俺の方で探してみるよ」
「ん。じゃね」
通話が切れるとスマホをしまって急いで空へと飛翔する。全身の感覚をレーダーみたいに鋭く広くして周囲の様子をうかがう。と、その背後にルーナが出現した。
「何があった?」
「あのピクシーがいない」
「まほろが!?」
「あの子、放って置いたらどうなる?」
「……この世界には狩人達はいないし、三船機関も滅亡したって聞くから私の知りうる限りではあの子を狙いそうな連中はいない。パラドクスや調停者が狙ったところであの子が知っている情報は全部自分の目で見ているはずだから意味がないはず」
「……その割には周囲5キロにはあの子の気配はないんだがな」
「……私の方でも探してみる」
ルーナは一度消えると、ヒエン達にその旨を伝え、町全体を探し始めた。

・ルーナたちの苦労も知らずにまほろは無事で呑気に道すがらをぷかぷか浮きながら散歩していた。しかし何の意味もない散歩ではない。だったとしたらこんな30キロ以上も離れた地方まで来たりはしない。
「あ、きゃりちゃん!」
声を飛ばした先には一人の少女がいた。
「うわ、まほろちゃんだ!本当にいるよ!!」
腰まである金髪ツインテ、中学生くらいの外見からは想像できない巨乳(ナイスバデー)、日本人離れした外見なのに流ちょうな日本語。その名前はキャリオストロ・ギミー。
「きゃりちゃんだー!やっぱりいたんだー!」
「いたんだってそんなことないよ。いきなりどっか消えちゃうし、ルーナちゃんはいなくなっちゃうしで仕方ないから自由に次元超えられるあたしがやってきたんだよ。もしもの時のためにってご主人様たちの武器まで持ち出してさ」
キャリオストロは腰にライフルとカードを携えていた。しかし外見が外見のため誰もそれが本物ないしは何かに使えるものだとは思わないだろう。そのキャリオストロはぷかぷか浮いてきたまほろを抱きとめると再び片手で時空に壁を開けた。
「さ、帰ろう。ご主人様たちも待ってるからさ」
「でもルーナちゃんいるんだよ?」
「ルーナちゃんが?まほろちゃんほったらかしにしてどうしたんだろう、あの人らしくもない」
キャリオストロがスマホを出した時だ。
「これは妙な客人がいたものだ」
声がすると同時に二人の前方に黒い異形が姿を見せた。片腕がキャノン砲のようになったミノタウロスとでも形容しようか。そしてそれは1体や2体ではなかった。
「……なるほど。風の旅人を引き寄せたのはお前か」
キャリオストロは先程までとは違う声色でいつしか自分達を囲む数十の異形に飛ばした。
「そのような昔話は覚えていないな。しかしだが、面白い姿になったものだな三次元人」
「我とて想像だにしていなかったさ。だがこの星の人間はいつだって可能性を持っている。それはお前が育てたものじゃない」
「否、我が育てたのだ。貴様も知っての通りこの星は既に何万年も前から我が実験場に過ぎない」
「……どうして去年に地球の化身が風の旅人を葬り去ったのか、やっと合点がいった。貴様の身勝手を狂わせるためだったのか!」
「やも知れぬ。しかしそれも無駄に終わったわけだがな」
「何!?」
「話はここまでだ。我も彼の者も外(と)つ星人(ほしびと)の存在は望んでいない」
内1体がそのキャノンを二人に向けた時だ。
「まあまあそう言わずにもっと吐いてくれよ退屈しない話みたいだからよ」
「!?」
声。同時に爆音が轟くと、次々と怪物が消し飛ばされていく。
「何奴だ?」
視線の先には巨漢がいた。腰まで伸びた長い赤髪、タバコをふかした口、そして右手に持ちあげたショットガン。
「雅劉(がりゅう)さん、時間は30秒だけですよ」
「アイアイ、わかってるぜ。麻衣ちゃんよ」
傍らには少女もいた。雅劉と呼ばれた青年の背が大きすぎるから小さく見えるが外見年齢だけならキャリオストロよりも上だった。そしてその雅劉は煙草をくわえたままショットガン片手に怪物たちの方へと駆け抜けた。
「たかが人間が何をするつもりだ?」
「そのたかが人間でもこちとら命がけでてめぇら化け物どもを相手してきたんだ。てめぇもそのうちの1つになりな!」
言いながら発砲。本来ならこの男ほどの巨漢であっても片手で撃てば尋常じゃない衝撃に動きを封じられるはずだがしかし男は怯まない。まるで水鉄砲でも打つように軽々と連射に連射を重ねて次々と怪物たちを粉砕していく。やがて玉切れなのかショットガンを捨てると今度はどこからか刀を引き抜き、より接近して次々と敵を両断していく。
「……人間の動きじゃない。でも人間以外の何かの気配は感じない。……何なんだあいつ」
キャリオストロは黙ったまま雅劉の戦いを見た。そして、始まってから30秒程度で立ちはだかっていた異形は姿を消していた。
「……ふう、数だけの雑魚だったな」
雅劉がタバコを吐き捨て、踏みにじってもみ消す。その時には既に刀は消えていた。が、代わりに拳銃を手にしていた。
「さて、次はお前さんたちだ。……あんた達二人そろって人間じゃないだろ?事情聴取をしたい」
「……あなたは何者だ?」
「伏見機関所属、伏見(ふしみ)雅劉(がりゅう)だ。抗戦の意思を見せなければこちらも何もしない」
「……」
キャリオストロがまほろを背にして身構える。別にこの男が怖いわけでも敵だと思っているわけでもない。だが、自分もまほろも無関係の人間に素性を知られるわけにはいかない。せめてルーナと合流して元の世界に帰るまでは誰にも捕まるわけにはいかない。
キャリオストロが否定の拳銃を手に取った時だ。
「それには及ばない」
聞きなれた声が聞こえると同時、両者の間に無数の微生物たちが集まりやがてそれがルーナとなった。
「ルーナちゃん!」
「キャリオストロ、あなたまでこの世界に来ていたとは。……いや、あなたの出自を考えれば考えなかった今までの方がどうかしていたか」
「……増えた。怪物みたいな登場方法だが一応人間のようには見える」
警戒はしつつ分析の雅劉。すると、
「雅劉さん!」
後ろで麻衣が声を上げた。雅劉も振り向いてみると、背後の車道に3台もの黒塗りの車がやってきて中から無数の黒服達が姿を見せる。
「あれは、大倉機関の……」
「そこまでだ。雅劉」
そして最後に姿を見せたのは加藤だった。
「あんた……加藤さんか!?」
「10年ぶりくらいか?」
加藤の姿を見た雅劉は拳銃を下ろして警戒を解く。と、車からは別の男も姿を見せた。直接会った事はないが何度も本部で書類で見た顔だった。
「ルーナ!」
「廉……」
ヒエンが車から降りてルーナの方へと向かう。
「あ、ぜろさんだー」
「黒主さん……」
「まほろに、お前は確かキャリオストロ!?」
4人の再会をしり目に雅劉は加藤に向き直る。
「あれが例の零のGEARの保有者ですか?」
「ああ、そうだ。で、俺もよくは知らないがお前が襲っていたのはあいつの知り合いのようだな」
「……大倉機関の捕り物でしたら俺が出る幕じゃないっすね。麻衣、帰るぞ」
「でも……」
「お前はそろそろ学校だろ?送ってやるから行くぞ」
「……はい、分かりました」
加藤の脇をすり抜けて雅劉は麻衣を連れてバイクに乗って去っていった。
「加藤さん。今のは?」
「ああ。伏見雅劉って言うんだ」
「伏見ってことはまさか」
「そう。伏見機関の総帥である伏見雷牙司令の息子。当然彼も伏見機関の所属だ。伏見機関の目的はGEAR保有者の確保よりもむしろGEARを使った犯罪者や以前から確認されていた未確認生命体の撃退だ。きっとお前の仲間をそれと誤認したんだろうさ」
「……まあ、未確認生命体だってのは否定できないがな」
ヒエンが背後の3人を見やる。
「……廉、確かに私達は人間ではないし、一般的には確認されていない生物だが一番の規格外なあなたがその視線を送るのはおかしい」
「それに関しては全面的に肯定します」
ルーナとキャリオストロが抗議の声を上げた。ヒエンは嘆息し、とりあえずキャリオストロとまほろを保護することにした。

------------------------- 第85部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
78話「遅れてきたMarder order ruler」

【本文】
GEAR78:遅れてきたMarder order ruler

・学校。加藤がとりあえず指令室に復帰したことにより書類を書く必要が無くなったヒエンは必然的に学校を休む必要もなくなったために2時間目からの登校となった。そして黒服の車で制服に着替えたヒエンが学校に到着して見た光景は、
「だが我々は愛のため〜!!」「戦い忘れた人のため〜!!」
「そう、その調子で武器を構えて!!」
「1,2の3のタイミングでステップから……発射!!」
全校生徒の半分……女子が特攻服&晒しのスタイルで校庭に集まっては二丁拳銃両手にガン=カタの特訓をしていた。先導しているのは鴨と雲母だった。
「何やってるんだお前達」
「あ、隊長!」
「敵襲ですよ」
「敵?一体どこの誰が相手なんだ?」
周囲を見てみるが女子達以外に妙なものは見受けられなかった。以前に破壊された校舎もとっくの昔に元に戻っている。少なくともパラドクスとかの襲撃ではないようだが。
「あいつです!」
鴨が屋上の方を指さした。つられてヒエンがそちらに視線を飛ばす。
「走れ!明日へ続く進化の道は〜!!」「新たな伝説の決闘〜!!!」
「もっとだ!もっとアクセルを踏みちぎれ!!」
「もっとだ!もっと輝けぇぇぇぇッ!!!」
屋上の割とそこまで広くない空間を所せましなんてレベルじゃないほど狭く、数多くのバイクが走り回っていた。声からしてそちらは男子サイドだろう。憶測なのは下からではほとんど何も見えないからだ。しかし、それでも見える背中があった。
「ビリィィィィビンッッッッネェェェックサァァァァァァァァァッスゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!」
一人だけ逆走して熱唱しているそれは浮いていた。いや、人間関係的にではなく、物理的に。屋上よりも高い空をまるでジェットコースターのようにバイクで走り飛び回っているそいつの顔は紛れもなく見覚えのある顔だった。
「あいつ、十毛か!?」
「はい。あの富士山樹海での体育祭以来不登校だったんですが今朝いきなり帰って来まして……」
「しかもあのGEARの力を大幅に強化させてまして、あのどうにでもなるバイクで女の子を傷つければ都合よく服だけが消滅するとかって世界のシステムに細工をしているみたいで男子全軍を連れて女子達に襲い掛かる狼藉を犯しているんです」
「……それで?」
「あの突撃を回避しながら的確に相手を始末するためにガン=カタを習得しているんです。でも習熟度や数の問題でどうしても私達女子は劣勢なんです」
「だから隊長のご助力が必要なんです!どうか力をお貸しください!」
「……や、どう考えても女子側につくメリットが見当たらないんだが」
「……私を使って女子更衣室とかを覗いていたのをバラしちゃいますよ?」
「よし、まずはあの十毛をもう一回ぶっ飛ばすところから始めるか」
拳を握って空を走る十毛に向かって跳躍しようとした時だ。
「イィィィィリィィィィイィイイイィャァァァァッホゥゥゥゥゥゥゥイイイイイイイァァァッ!!!!!」
その足が地面を離れた瞬間に奇声を上げながら全裸のボディビルダー、透明ジャージのジョギングマン、露出民族少年がそれぞれバイクに乗って当然のようにヒエンを弾き飛ばした。
「な、何しやがる!?」
「ぬはははははは!!!それは私のセリフだぞ零君!よくも私の授業やテストをさぼってどっかで遊んでいてくれたではないか!」
「ぬぐ!い、いや、ちゃんと理由があるんだよ変人ライダー……」
「自分すら説得できぬような理由で私を諭せると思うなぁぁぁぁぁっ!!!」
そう言ってバイクのサイドミラーをぶっちぎってその鏡で自らの裸体を眺め始めた。
「……おぉぉ、美しい。流石は私だな!来た来た来た来た来た来たァァァァァッ!!!いつでもマッスルハッスルsuperbeautiful!イシハライダー!!」
変身を遂げたボディビルダーはゲッダンを開始する。それを見た他二人の変人もそれぞれ数学の参考書とカンディルを懐から取り出す。
ジョギングマンは猛烈な勢いで数学の参考書を読み漁り、露出民族少年はカンディルを自らの尿道に突っ込む。
「ぬぅぅぅぅぅぅん……カッ!!!素晴らしい方程式が浮かび上がってきたぞ!!いつでもレッスンマスティックsupermathman!カタブライダー!!」
「カぁン……っ!ディル……ッッ!!ぬおおおおおおお!!アァァァァァマァァァァァァゾオオオォォォォォォン!!!いつでもアクティブライティング!!タイライダー!!」
無駄に熱いパースな光が終わると3人は変身を完了した姿をさらしていた。
「うむ。世界線を超えたことで不安定になっていたがもはや完全復活のようだな」
「やはり久しぶりに味わう数学の味は素晴らしい!今ならどんな足し算でも難なくクリアできそうだな」
「Amazon……敵、倒す」
「オロロロロロロロロ、これはこれはとても素晴らしいシチュエーションだヴィンチ!!とてもとても芸術の味が深まってくルーベンス!!」
「……おい、最後なんか混じってなかったか?と言うかお前達色々ヤバいから変身するなっての」
「ぬハハハハハ!!気にすることではないぞ!どうやら君だけの手に負えない危機に瀕しているようなのでな!昔みたいに私が手を貸してやろうというのだ。頼もしいと言ってしまってもいいのだぞ?」
鼻くそほじりながら季節外れのカブトムシを踏み潰すとキレた兜がハイパークロックアップを用いてGODの時代まで遡ってまだ神父だった頃のイシハライダーを始末しようとするも同じように時間を超えてやってきた全フォームのイシハライダーに始末された。
「ついでに何かいたから連れてきたぞ」
「放せ!貴様!」
過去から戻ってきたイシハライダーが手につかんでいたのはまだ誕生したばかりの裏闇裏丸だった。
「!?」
「よく分からないが歪みの波動を感じる。俺に食わせろ!!」
殴る幼い裏闇裏丸。しかしイシハライダーは簡単に受け止めてはお手玉でもするように屋上まで投げ飛ばす。その数分後。
「色々吸収させてもらったぜぇぇぇぇッ!!!」
やや成長した姿になった裏闇裏丸がバイクに乗って帰ってきた。
「零君。彼の能力は何だったかな?」
「覚えてないのに雑魚の海に放ったのかよ!?奴の能力は、」
「強者特権(アブソリュートゼロ)!!」
叫んだ裏闇裏丸は100人に分身してしかも音速で突撃を始めた。
「ぬ、そうか。思い出したぞ!倒した相手の能力をコピーする能力だったな!」
「そう!しかも本来一人に1つの能力を奴は複数持てる上に奪われたら本来の持ち主は無能力者になる!……まだ零のGEAR持ってない頃だったのによくあの頃の自分こいつ倒せたな」
そう言いながら涼しい顔してザインの風を用いて次々と分身を倒していく。当然、会話していた3人のライダーも同じように軽々と相手を叩き潰していく。
「な、何だこいつら!?どんだけ強いんだよ!!」
「まあ、お前が誕生してから意味不明なくらい時間が流れた未来なんでな」
そしていよいよ残った最後の1体もヒエンの一撃によって粉砕された。
「……なんか今のどこかで見おぼえあるんだよな」
そう言いながら無良はパソコンの操作で一気に20台の重機を操作して壊れた建物の修復を始め、
「ふんんうぬあああああああああ!!!」
鎌が瓦礫を破壊していく。その他メンバーズも同じように復興作業に取り掛かっている。もう既に男女戦争は終わっていた。だが、
「で、お前はまだやろうってか?」
十毛だけは作業に加わらず、ヒエンの前にいた。
「当然」
その両手にはぼろ雑巾のようになった裏闇裏丸が4人ほど握られて引きずられていた。そしてそれらを空に投げ飛ばし、指をパチンと鳴らすと同時、4人は花火のように大爆発した。
「……汚い花火だな。だが、少なくともさっきの奴は一般人じゃ歯が立たない程度の強さはあった。それを4人訳もなく倒せるとは、確かに強くなったようだな」
「そりゃそうだ。この2か月。俺は人生で初めて修行をしてやったのだ。今までの俺や今までの相手と一緒に見てたらお前もさっきの奴みたいになるぞ?」
「試してやるさ。昨日の二人とどう違うのかな」

・体育館。1年生の女子が50キロのバーベルをバトンにチアをやっている中、ヒエンと十毛はステージの上に立っていた。
「ミュージックおすよー」
結衣の合図とともにBGMが流れ出し、両者ともに踊りだした。いつの間にかスケートリンクとなっていたステージの上でスケート靴を履いたまま二人が歌って踊りだす。
「イィィィズィドゥダァン!!」「イィィィズィドゥダァン!!」
「ドゥザダァッゲッダンエクスタシーオブクロスギャ!!」
「アァイキャヒァマボイッ!!」
「ゲッダンィマダキィィッ!!ハジケルリズムデゲットキィィィィック!!」
「「イッツクロスギャズィイィィズィドゥダァン!!」」
急に二人の体がフルCGへと変わり流暢に踊りだす。イントロが終わると同時に二人が前方にあったカメラを蹴り砕き、本編へと入るが当然歌詞はNG。
「流石は男子レベル。色々と意味不明ですね〜」
「……いや、あんなものと一緒にされても困るんだが」
「ウホッ!二人ともいい足してやがる」
鴨、蟹、龍が復興作業をさぼりながら観戦している。当然すぐに犬と鳥に引きずられていった。同時。サビの部分に突入した二人が突然に跳躍した。
「ライトニングスプラァァァッシュ!!」
「ブラックデモネイトスマァァァッシュ!!」
それぞれ稲妻と漆黒のオーラを纏った状態で激突を果たし、飛び散った衝撃波で様子を見に来た木村先生の生え際を3センチ後退させた。
「だ、だにしやがるんだ!!……もう許さねぇ!!」
木村先生は腰に下げたベルトに意識を込める。
「我が身の全ては復讐のために……!」
するとそこから漏れた闇のエネルギーがその体を包み込み、漆黒の姿へと変貌させていた。
「スカルライダー……!!」
スカルライダーに変身し、まだ踊りを続ける二人に向かっていく。と、
「2連続!!」
「!?」
「デスライトニングゥゥゥゥゥストォォォォォォム!!!」
「ヴァニティグレートアタアァァァァァック!!」
再びの激突により生じた衝撃波がスカルライダーを吹き飛ばし、その懐から数学の参考書が落ちる。
「しまった!!」
「マァァァァスティックゥゥゥゥゥゥッ!!!」
そしてその参考書のページから突然にカタブライダーが出現し、スカルライダーに膝蹴りを叩き込む。
「ふはははははは!!数千年ぶりの戦いと行こうじゃないか木村君!」
「いいだろう!!もとよりこの力は貴様への復讐が為に!!」
二人ががっちりと腕を組み合い、そして光の速さでどっかに飛んで行った。
「3連続!!」
宙に浮いたヒエンが念じるとその手に稲妻の剣が握られ、
「電光剣稲妻両断斬りぃぃぃぃぃっ!!!」
雷鳴を呼びながら何故かブリッジをしていた十毛の腹に叩き込む。が、
「!?効かないだと!?」
「これが俺のシックスハンドレッドパックフォートレスだぁぁぁぁッ!!!」
それを腹筋で受け止めた十毛。さらにはそのままヒエンの攻撃をはじき返し、あふれ出た謎の光でヒエンをぶっ飛ばす。
「バカな!?」
刀が折れ、ヒエンは地球を一周して途中でモアイを粉砕しながら2秒ほどで帰ってきて校庭に巨大なクレーターを発生させる。
「これが俺の力だ!このままメンバーズのお頭の座を頂かせてもらう!!」
高笑いの十毛が後光で天を貫くと、暗雲が呼び出され時のコーデを纏った無数の十毛が出現して次々とヒエンに向かってビームを発射していく。と、
「ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンマアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
同じように無数に分身したイシハライダーがそれらをすべてその裸体で受け止める。
「ぬ!」
「ふん!いまいち私のいた頃には活躍できなかった10人目風情がよくもまあここまでやってくれるじゃないか!」
「Amazon……戦う!!」
そのイシハライダーの肩を蹴ってタイライダーが空へと飛びあがり、高速回転を始めた。
「大車輪!!」
回る刃が次々と十毛の分身体(シルエット)を両断粉砕していく。が、数秒でそれは受け止められ、逆に無数のビームを受けて撃破された。
「ぬ、これは想像以上かもしれないな」
怯むイシハライダー。そこへ、十毛はさらなる飛翔を放った。
「4連続!!ブラスタァァァァマスタァァァァメテオオオォォォォォォォォォル!!!」
飛翔する十毛の背後に本来の大きさの100倍以上の太陽が出現して秒速30光年の速さで地球に迫る。
「……くっ、最初からいろいろひどかったがこれは最大限にひどいな」
ヒエンがやっと立ち上がり、迫りくる太陽を見上げた。
まあ、普通に考えればもう1分もしないうちにこの地球は滅ぶだろう。そうなったらこの矛盾の安寧がどうなるのかは分からない。強制的に打ち破られて元の世界に戻るのか、それとも元の世界ごと滅ぶのか。零のGEARの持ち主である自分ならばもしかしたら助かるかもしれない。だが、先程からどうもあいつの支配のGEARの方が効力が上な気がしてならない。だったらきっとこのGEARでも助からないだろう。十三騎士団としての力がまだ自由に制御できていない今の状態ではあれをそれで破壊するのも不可能。ならば……。
「ルーナ、」
「分かっている」
いつの間にか少し後ろにルーナがいた。そして彼女はヒエンの手を握り、自分が借りている力を一時的に本来の主へと返す。
「地球を危機から守るのだからこの力が使えないはずはないな」
「記憶を失ってからはきっと初めてだ。驚いて理性を失ってくれては困る。あの時みたいにね」
「それがいつだかは知らないが……やってやるぜ」
そして受け取った力を握りしめたヒエンはその姿を変えた。万雷の発動時のように異常なほどの稲妻が全身から吹き上がり、それがやがてヒエンの体を包み込んでは巨大な姿を形作った。
「ルウウウウウウウウウオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
それはまるで巨大な狼だった。そしてそれは先日、爛との戦いで出現したあの怪物と同じ姿でもあった。
「星を守る獣。それがプラネットの正体」
既にルーナはヒエンから数十キロ離れた場所にいた。そこからでも見えるほどヒエンの姿は大きく、放たれるエネルギーの本流も凄まじかった。
そして、その怪物の口から放たれた光線は一瞬で大気圏を超えて迫りくる太陽に激突。数秒の抵抗を生みながらもその後に跡形もなく粉砕した。
「何!?俺の最大技が破壊されただと!?」
驚く十毛。そこに怪物と化していたヒエンの拳が迫る。
「ふんんうおおおおおおおおおおおおおお!!!」
放たれた一撃を、十毛は全力を以て受け止めてその威力を防ぎ切った。しかし、
「ここまでだな」
その直後に本来の姿に戻っていたヒエンがルーナの力で十毛の眼前に立って拳を握っていた。
「ぜ、零……!!」
「さあ、覚悟しな!」
握ったまま、否それ以上の力をそのまま込めた拳が十毛の顔面に叩きこまれた。同時にそげぶのように異常な空間となっていた学校が元の空間に戻り、何事もなかったかのような平凡な校庭に十毛が頭から落下して倒れた。
「意外と苦戦したじゃない」
十毛の前に着地したヒエン。その隣にルーナが姿を見せて微かに笑う。
「そりゃそうだ。相変わらず持久力はなさそうだがそれでも昨日の二人よりは強くなってるぞこいつ。オンリーじゃないGEARがどうしてここまで強くなれるんだ?」
「……分からない。確かにまだGEARの伸びしろはあったからプラネットで強化されてない私くらいには並ぶんじゃないかとは思っていた。けど先程の彼は第3階級はあってもおかしくないと思う」
「……普通の人間が第3階級ってすさまじいな。色々やったあの魔王野郎ですら10階級だってのに」
「……だから多分同じなんだと思う」
「ん?」
「甲斐爛が矛盾の安寧と言う世界から力を受けて11階級から10階級に進化したのと同じように彼も何らかの力を受けてあそこまで強化されたと思う。それも矛盾の安寧……主人公のGEARを遥かに上回る強大な力によって」
「……ディオガルギンディオ……か?」
「かもしれない。昨日のインフェルノとの戦いの時にもその気配はあった」
「ディオガルギンディオとパラドクスが水面下で戦ってるのか?」
「……もしかしたら世界の終焉を一番重要視しているのはこの星の住人ではなく裏で蠢く連中かもしれない」
「……」
ヒエンは念入りに十毛を踏みにじってから学校の様子を見た。
「いぃぃずぃどぅだぁぁん!!」
「ドゥザダァンゲットバイ!!」
さっきまで二人が踊ってた体育館のステージリンクで同じ歌でバトルを始めたカタブライダーとスカルライダー。
「修行、付き合え!」
「いいだろう!」
空で何度も激突するタイライダーとイシハライダー。
「とにかくひん剥けば勝ちだ!!」
「リベリオンで!」
バイクで突進する男子軍をガン=カタで迎撃する女子軍。
「ん?何かあったのか?」
「さあな」
どっかで寝てたのか寝癖マックスで顔に落書きされてた犬と鳥がその3つの激突の中心に出現して巻き込まれる。
「……まあ今はこの状況をどうにかする方が先だな」
「昔なじみだ。あなたがどうにかするといい」
嘆息のヒエン。それをクスリと小さく笑ってからルーナがどこかに消えた。

------------------------- 第86部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
79話「監査」

【本文】
GEAR79:監査

・厚木。自衛隊基地。そこの一部施設は特別な任務を帯びた部隊が使っている事で特に新兵の間では荒唐無稽な噂が流布されている。しかしごく一部の幹部にしかその存在は知られていないためただ一時の暇つぶしの話題にしかならない。だから当事者たちもあまり気にしてはいないのだが。
「好きであります!付き合ってください!!」
「よし、突き合う!!」
飛び交う声の応酬。背丈2メートルを超すマガタリアン軍曹がクマをも鎮められそうなボディプレスを放つもそれを容易く掌底の一打で粉砕する少女がいた。名前は都築麻衣。高校1年生にして自衛隊員で、そして伏見機関の一員である。今日もラクロス部で吉沢・小高ペアに打ちのめされたそのストレスを発散するためにわざと一般基地をうろついては告白してきたロリコン兵士をなぎ倒している。確かに麻衣は鍛えてはいるものの鍛錬量自体は今叩きのめされた軍曹の方が上だろうし、体格は言わずもがな。しかしそれなのにこの結果を生み出したのには当然理由がある。麻衣には生まれつきあらゆる生物の体内の動きが分かるのだ。何か特殊な要因があるわけではないのに生まれつき相手の動きを事前に把握し
てはその弱点を的確につく。だからこうして体重なら倍くらいありそうな相手をも一撃で倒せる。医者に見せれば何らかの要因で相手の電気信号を感じ取れるのではないかと言われ、知り合いの武術の達人に聞けば世界中のどの格闘家よりも早い読みの力を持っているんじゃないかと言われるが正確なものは不明のままだ。
「ふう、今日は散々だった。まさか学校でバイクが飛び交うだなんて。まあ、ガン=カタなんて珍しいものも習得できたからいいんだけど。けどそれでもあの二人には勝てないんだよね。サイコキネシスなんて使えないから目と目でわかりあえてしまったらどうしようもないし」
ああだこうだ言いながら寄り迫る兵士を次々と粉砕していく。そして件の噂の施設=伏見機関の本拠地の中へと入った。
「都築軍曹、戻りました」
「ん?ああ、了解。早かったな」
入ってすぐの長机。そこには雅劉がいた。軍服ではないいつも通りのチャラチャラしたような服……そこは麻衣も制服だから文句は言えないが。ただ禁煙のはずのエリア内で煙草をくわえているどころか机に上に寝転がってはRED15コミックスを読んでいる。さらによく見れば近くの椅子にはTENGAらしき物体まである。もちろん封は切ってある。
「……雅劉さん、流石にやりすぎじゃないですか?」
「ん?まあ確かに今まで同人会で細々と続けられていたJS眼姦調教師シリーズが小説だけでなく漫画化されてるのはさっき見て驚いたな。何が凄いって一番賛否両論だった11歳ふたなり女児がかしこま言いながら9歳の妹の右目にモノをぶち込んだ結果盲目だった妹の目が治るっていうトンデモ展開を第一話に持ってきたのは衝撃的だったな。あの子は目が見えないからこそよかったのに。まあ、何だか三重人格になりそうでグッドな展開が待ち構えていそうで今から来月号が楽しみだが」
「……そんな話を華の女子高生に聞かせないでください。あと、時々提督だってここには来るんですからもう少し態度を何とかしてみたらどうなんですか?」
「とっくに黙認されてるから別にいいさ。それよりそこで倒れてる軍曹に煙草買いに行かせるように命令してくれ」
「私も軍曹なので命令は出来ません。雅劉さんは大佐なんですからご自身で命令すればいいじゃないですか」
「それじゃつまらない。……お、スパーククエストの新作が出るのか。へえ、ハードは2代前とは攻めてきたな」
「……もう。あ、虫さんだ」
窓際。バッタが窓に張り付いていたのを見た麻衣は鼻歌交じりに歩み寄る。それを確認した雅劉は嘆息。
「こんにちは、バッタさん」
「ああ、麻衣ちゃんですね。こんにちは」
「今日はいい天気だね」
「そうですね。このままここで居座り続けるなんてもったいないですよ。それじゃ私はこの辺で失礼を……」
「えい」
「ぎゃああああああああああ!!!前足がぁぁぁぁ!!」
「もうちょっとここにいてお話し相手になってくれないかな?」
「は、はい……な、なんでしょうか?」
「バッタさん」
「はい。なんで……ぐぎゃああああああああああああ!!!!翼がああああああ!!」
「うふ。呼んでみて……引きちぎっただけ♡」
麻衣はさっきまでの鬱屈やら不満やらがどこへ行ったのか分からないほど天使のような笑顔を見せていた。彼女はGEARの力で動植物と会話が出来る。特に昆虫に対しては異常なほどの執着を見せる。今も、どこからかライターを取り出すとそれで直接バッタの体を燃やした。
「あがじゃああああああああああ!!」
「うふふ。おいしい?体あったまるといいね。もう11月だし」
「ふああああああああああああああああああああああああ!!!」
「……ん。そろそろかな」
そして満面の笑みを浮かべたまま燃え上がるバッタを捕まえ、壁に何度も叩きつけて火をもみ消すとそのまま大きく開けた口の中に放り込んだ。
「むしゃむしゃむしゃむしゃ……ごっくん。ひゃああん、おいしかったよ?」
「……麻衣ちゃんや、絶対今のお前の奇行の方が軍で問題になるぞ」
「む、失礼ですよ。女の子に向かって奇行だなんて」
唇を尖らせる麻衣。すると、
「伝令です!」
一人の軍曹が慌てながら入室してきた。
「どうしたんですか?ここは第3特殊部隊待機室ですよ?」
「はっ!伏見中将から緊急の伝令です!伏見大佐にと!!」
「……んだよ。言ってみろ」
「い、いえ!自分にはこの中身を見ることは許されていないので!」
「では、」
麻衣が代わりに伝令所の封を開けて中を見る。緊張の表情が、何度も読み返されていく内にさらに緊迫したものとなる。
「……軍曹、下がってください」
「は!」
「……で、どうした?」
軍曹が下がってから雅劉が起き上がる。
「……大倉機関で保護されていた噂の双子が行方不明になったそうです。そしてこれは既に二度目。ですので今から伏見機関は大倉機関の監査をせよとの命令です」


・大倉機関。
「……ちっ、なんてことだ」
医務室前。コンクリートの壁に潰されながら加藤が血と共に吐き捨てる。その周囲には無数の黒服の残骸が散らばっていた。
「どうしたんですか!?」
雲母の力によって開けられたゲートからヒエンと赤羽がやってくる。
「ヒエン、やばい。あの二人が、乃木坂姉妹が拉致されてしまった!」
「は!?相手は!?」
「昨日の奴だ!」
「……パラドクス、カオスインフェルノ……!!」
「ヒエンさんが昨日倒したのでは?」
「いや、ルーナが言うには撃退しただけで裏闇裏丸(カオススパークス)のように倒し切ってはいないらしい。……けどまさかその次の日にすぐ来るとはな。しかも同じ対象を」
ヒエンが加藤を押しつぶしていたコンクリートを破壊する。しかし加藤は動けそうになかった。
「またしばらくこのわたくしめが指揮官ですかな?」
「……かもな。だが、これはちょっと今までよりもひどいな……!」
加藤が寝返り打つ。腹から下が完全に潰れていてもはや治療よりかも再生が必要なレベルだった。と言うか大量の出血から生死に直結するだろう。
「数の黒!」
ヒエンが呼べば新たに2,3人の黒服がやってきて加藤を担架に乗せて運んで行った。
「……数が少なかったな」
「あの方々も無尽蔵にいるわけではないので。この半年で1000人くらい亡くなっているそうですし」
「この会社ブラックすぎるだろ」
残った黒服と共に本社ビル内を病院もろともよく調べまわるが他の変化は見受けられなかった。そうしている内に連絡が行ったメンバーが全員揃う。
「……小夜子ちゃん、鈴音ちゃん、八千代ちゃんはいないか」
「八千代さんは倒れていて、他二人は対象の監視中だそうです」
「同じ理由で月仁もいないぜ」
「……黄緑、紫音ちゃんは?」
「……あれから口をきいてくれなくてね。僕が全部知ってたことがかなりショックだったみたいだ。……逆に僕がダハーカってことを知らなかったってこともあるし」
「……そうか」
「……それだけじゃないと思うけどね」
火咲が小さく告げる。
「とにかくまたあのパラドクス野郎が動いてるからルーナと協力して見つけ出してから双子を取り戻す」
ヒエンがメンバーに向けて繰り出した時だ。
「いや、それを行うのはお前達ではない」
声がした。同時、会議室にたくさんの入室者が姿を見せた。いずれも軍人であり、拳銃を所持していた。そして彼らの中心に立っていたのが雅劉と麻衣だった。
「アンタは今朝の……」
「伏見機関の伏見雅劉だ。面倒だがこれ以上大倉機関に任せておくわけにはいかなくなったんでな」
「どういうことだ?」
ヒエンの問いに答えたのは麻衣だった。
「どうもこうもないですよ。10月の三船機関との対決はまだ伏見機関の了承を得ているので問題ありませんがその直後にあった天死やダハーカの情報。魔王のGEARの持ち主の一騒動やら矛盾の安寧。さらにはパラドクスなんてよく分からないものとも大倉機関は単独で対処をしています。いくら責任者である大倉一也さんがご存命でないからと言って同盟関係にある伏見機関に対して考慮をしなさすぎじゃありませんか?」
「……」
ヒエンは考える。確か伏見は自衛隊も兼任していた。と言うか本職だ。先日の資料で先方が求めるものも書いた気がする。しかし時間が巻き戻ったことでそれは無効になったかもしれない。ならば今までの事、伏見機関には伝わってない可能性もある。尤もたった一日の報告書でこれだけの情報を報告されたら結局伏見からの監査は避けられなかった可能性も高いが。
「ふん、そう言いながらも伏見は既にPAMTの研究をしてるって聞いてるがな」
剛人は鼻で笑う。
「パムト?」
「そうだ。Potable Armerd Machinical Troopers……俺と美咲が三船の研究所で改造されたあの姿の事だ。研究を進め、実用化までたどり着いたのは三船だがその基礎を研究で見つけ出し、理論を完成させたのは伏見機関だ。さらに言えばだ。伏見はそれを使って三船も大倉も知らない何かと戦い続けてるって三船の所長は言ってたぜ?」
「……なるほど。あなたが赤羽剛人さんですか。確かにPAMTは伏見の製品ですが根も葉もないうわさ話はやめていただけませんか?」
「……ふん、その根も葉もない噂話に兄妹そろって巻き込まれた奴らもいるってことを知ってもらいたいものだがな」
「あれは三船所長の暴走でしょう?セン……伏見の責任とは違うと思われますが」
「……まさかね」
火咲は小さくつぶやいた。
「とにかく、今後は伏見機関がこれらの問題に取り掛かっていく所存です。大倉機関にはその補助をしていただきます。これは伏見機関総帥の伏見雷牙提督からの勅命です」
「……」
ヒエンは一度後目で後ろの仲間達を見やった。
先程加藤が病院に運ばれ、岩村はまだ退院していない。この場で一番の責任者は今は自分だ。年上なら雷龍寺がいるが何か言おうという雰囲気ではない。今までも自分の指示には異を示してはいない。……決めるのは自分だ。
「……確かにそちら側の意見はもっともだ。だが、伏見機関の戦力は何だ?」
「自衛隊です。その中でもGEAR覚醒者を中心とした特殊部隊。一般人のあなた方とは比べ物にならない戦力です」
「確かにそうだな。だが相手は時間を止める怪物ダハーカや空をも飛べる殺戮の獣人な天死、さらにはそいつらですら全く歯が立たない未知の怪物パラドクスやらディオガルギンディオだぞ。自衛隊で対処できそうなのはせいぜい天死くらいだ。その天死だけですら本来の世界では人類は絶滅寸前にまで追い詰められている。その世界で自衛隊がどうなったか、何をしていたかは分からないが戦力になっていたのならあんな結果にはなってないんじゃないのか?」
「……」
「それにその反応を見るにそちらも矛盾の安寧に至らなかった元の世界の情報はあまり持っていないと見える。……自衛隊の力は強いかもしれないが大倉で2番目に強いそこの魔王野郎だってパラドクス相手じゃ手も足も出ずに虐殺寸前にまで追い詰められることしかできなかった。そしてきっと自衛隊(あんたら)は全戦力合わせてもそこの魔王野郎一人にも勝てないだろう。その程度の力でどうするつもりだ?」
「最大戦力で言えばそうかもしれませんが平均戦力とそしてその数ならこちらの方が圧倒的に上です。もろもろの相手には勝てないかもしれませんが勝てる相手であるあなたが到着するまでの時間稼ぎなら可能なはずです。少なくとも今日と昨日の双子誘拐に関しても持ちこたえる事が出来たと思います」
「無理だな。魔王野郎やルーナでもパラドクス相手じゃ10秒も足止めは出来ない。……だから逆に伏見には大倉の補助をしてもらいたい。今まで使っていた数の黒がもう少なくなってきてるんでな。その代りだ」
「軍隊を走狗にするつもりですか?」
「奴らが相手じゃそれくらいしかできないだろうよ。とりあえず今ルーナと鴨が双子を探している。あんたらにはそのサポートを頼みたいな。あとはあんたの中で腕が立つ奴を何人か用意してほしい。あの魔王野郎相手でどの程度のものか見ておきたいからな」
「……俺はどんだけ基準点扱いされるのか」
「……じゃあ今から一戦してやろうか?」
口を開いた雅劉を見る。
「やってやれよ、魔王野郎。あいつはお前なら倒せると言っているぞ?」
「へえ、じゃあ久々に魔王気分でやってやろうじゃないか」
爛は窓から飛び降りるとすぐに飛翔して空に舞い上がる。同時。爆音が鳴り響き、火花が散った。
「ちっ、」
爛の左肩だ。そこに銃弾が命中していた。見れば雅劉が片手でショットガンを握っていた。
「なるほど。報告通り頑丈なようだな」
「……そのショットガン、ただのショットガンじゃないな」
「いや、こいつ自体はただのショットガンだ。違うのは……この俺だ」
次の瞬間、雅劉は爛の背後に回っていてその背中に拳銃を突き付けて連射。振り向いた爛の顔面にショットガンを発砲し、回し蹴りでぶっ飛ばす。
「……早龍寺と同じような強化系のGEARか?」
「雅劉さんのGEARは逆襲。追い詰められている時には通常の数倍以上の力が出せると言うGEARです」
「追い詰められている時?今攻めているのはあいつであいつは一切攻撃受けてないぞ?」
「……雅劉さんは脳以外の全てが戦闘用に改造されたサイボーグなんです。なので肉体的な部分で言えば99%追い詰められている状態にあります。そしてその強化サイボーグの肉体に99%分のブーストを加えているので常人の軽く10倍以上の戦力を持っているんです。だからあの人は伏見機関で間違いなく最強なんです」
「……やりたい放題だな」
「……」
その会話を火咲と赤羽兄妹は聞き限ると互い一瞬だけ視線を合わせた。
「どうした魔王!?俺にエンディングを譲るか!?」
「は!空から無数の赤ん坊を呼び出してやるぜ!」
爛は本社ビルにぶつかる寸前に体勢を立て直し、落下している雅劉に対して6万度の火炎弾を10発発射する。
「は!DODごときで俺の逆襲が止められるものか!しばらくぶりの全力だ、せいぜい楽しまさせてもらうぜ!」
雅劉がセリフと共に吐いた吐息が竜巻を生み、火炎弾をすべての見込み、相殺。それを見届けながら着地……する寸前に爛が迫り雅劉の胸に拳を放つ。
それを雅劉は軸をずらして左肩で受け止める。が、威力が強すぎて左腕が肩口から引きちぎれる。
「雅劉さん!!」
麻衣の叫びは雅劉のちぎれた金属の断面を見た。直後、雅劉の右の拳が爛の顔面をひっぱたく。
「っ!!」
吹っ飛ばされた爛は、今度は減速できずにビルに突っ込み、無数の瓦礫を作る。
「……おいおい、まじかよ」
ヒエンもまた地声の言葉を作った。
……99%どころじゃない。雅劉はその機械の体を破壊されればさらに逆襲する。通常では爛より1枚下程度だが左腕を失いさえすれば爛とは互角以上。いや、速度だけなら相手の反射以上。だが、持久力なら?


・2時間後。
「はあ……はあ……いいぜ小僧。とりあえず気に入った」
「……そうかいおっさん。俺はもうこりごりだね……!」
両手足なくし、しかし背中のブースターで浮遊する雅劉と、汗と血まみれで倒れる爛が互いに笑う。
「ここまでだな」
ヒエンが言葉と共に一歩すれば両者は力尽きたのか気絶した。
「魔王野郎(こいつ)とほぼ互角か。とは言え完治までに時間のかかるこいつとは違い、そのおっさんは」
「はい。本部に回収されれば12時間後には元に戻ります」
麻衣が雅劉の上半身を抱く。
「この二人が力を合わせれば時間稼ぎも可能なのでは?」
「……いや、足りないな。二人掛かりでもパラドクス相手じゃ厳しすぎる。……せめてもう一手何かが欲しいもんだな」
言いながらも渋々ヒエンは伏見機関からの改定文書にサインをした。これで形式上大倉機関と伏見機関は同盟を組むこととなった。

------------------------- 第87部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
80話「アッパーとダウナー」

【本文】
GEAR80:アッパーとダウナー

・それは伏見機関との協定を結んだ次の日だった。
「おはようございます、ヒエンさん」
「……ん、赤羽か」
声を聴いたヒエンは布団から起き上がる。ワンルームの小さな賃貸:ヒエンの家。そこでヒエンが寝ているのは当然の事であるがしかしここ最近は違う。ここ数日は大倉機関本社ビルの宿直室で眠っていたためしばらくぶりの我が家での就寝だった。その安寧ゆえか少し寝坊してしまっていたらしく、今までなら下で待っているはずの赤羽が玄関まで来ていた。
「お疲れのようですね」
「……まあな。学生やりながら指揮官やるってのがここまできついとは思わなかった。加藤さんが代わってくれると思ってたけど結局リタイアしちまったしなぁ」
「それなんですけれど……」
「どうした?」
「……加藤さんはお亡くなりになられてしまいました」
「……そうか。まあ、ひどい出血だったしな。これで大倉機関は代表者を失ったってわけか。それでこれからどうすればいいんだ?」
「分かりません。残った数少ない黒服(スタッフ)さんが乃木坂姉妹を探していますが未だに見つかっていないようですし。とりあえず今日の放課後に一度会議を行うようです。その会議には伏見機関の方も参加するようです」
「……そうか。けどなんだかなぁ。今日は学校にも行きたくない気分だ」
「加藤さんが亡くなったからですか?」
「あの人には悪いがそんな玉じゃない。……ただ、ここ最近忙しいうえに休む暇もないし、それでいて問題が山積みだ。せっかく頑張って無我夢中に努力して超えたハードルの先には行き止まりしかありませんでしたじゃ、英気も散るってもんだ」
「……」
赤羽は靴を脱いでヒエンの正面に座った。
「……すみません」
「ん?」
「元はと言えば私があの日、ここに来たからあなたを大倉機関の問題に巻き込んでしまった。それだけならまだしもその後は私がご迷惑をかけてしまったためにあなたを多忙の渦に。……だからヒエンさん。もう、あなたは大倉機関(わたしたち)の問題から遠ざかってもいいんですよ?逃げてしまってもいいんです。元々あなたは何も関係がなかった。ただの記憶喪失の学生でいられたんです」
暖房もない冬の冷たい朝。赤羽はしっかりとヒエンの顔を見つめながらその言葉を放った。
「零のGEARの保有者だからって疲れないわけじゃないですよね、心を痛めないわけではないですものね。遠い昔に無くしてしまった奥さんと似た名前だった私が誑かしてしまっただけなんですよね……?」
「……正直考えることが多すぎる。パラドクスにさらわれてしまった噂の双子、それを取り戻せたところで今度は世界の終わりの危機。それが終われば今度は本来の、地獄のようになってしまった世界での生活が始まる。今、この世界にいる人間が全員そのまま元の世界に帰るのかどうかも分からない。どこまでこの世界の物を引きずっていいのかもわからない。零のGEARのせいで僕は元の世界に帰ることも出来ないかもしれない。元の世界に帰れたとしても周りは地獄で、自分一人だけが助かる世界がまた始まるんだ……」
「……」
赤羽は数秒を置いてからまだ布団に下半身を突っ込んだままのヒエンにさらに近づいた。そしてその温もりをヒエンの腕にこすりつける。
「赤羽?」
「ヒエンさん、もういいんです。もうその運命からは逃れられないかもしれない。でも、少しは傷をふさぐことが出来るかもしれません。誤魔化しになるかもわかりませんが……私をお使いください」
「……どういう意味で言っているんだ?」
「……あなたの思いのままに。元々あなたが機関にいる目的はそれだったはずです。……奥様に比べられてしまえばこんな中学生では、不満かもしれませんが……それでもあなたの支えになれるのであれば……」
「……」
ヒエンは、しかし右手で軽く赤羽の肩をたたくだけにとどまった。
「え?」
「君まで無理をすることはない。それに、君に関わり合ったからこそ僕は本当の名前を取り戻せたし、少しずつだけど記憶も取り戻しつつあるんだ。確かに今の状況は厳しい。僕だって逃げ出したい。出来るて言うならルーナに頼んで何人かの親しい連中だけで元の世界に移住するって事だって考えてる。その中には君だって入ってるさ」
「……それは、」
「まあ、無理だろうさ。や、ルーナ的に言えば可能なのかもしれないが君やライラちゃんが許さないだろうしね」
「……ライラさんはどうだかわかりませんが、私なら……」
「……ん、」
「恥ずかしい話ですがここまでスケールが大きくなってしまっているんですからもはや私では何の役にも立たないでしょう。……こうしてあなたの傷を癒してあげることさえままならない。あなたの慰み者にもなれない。けれどもしもあなたが望んでくださるのであれば私は喜んでこの身を預けたいと思います」
「……」
改めて見るまでもなく正面から赤羽はその言葉を作ってぶつけてきている。紛れもない本気なのだろう。だが、正気とは限らない。確かに今の状況はスケールが大きすぎる。十三騎士団だプラネットだよく分からない要素を複数持っている自分でさえここまで頭を悩ませているのだからただ空を飛べるってだけの彼女では確かに戦力面では何の役にも立たないだろう。そしてそれを彼女自身もひどく実感しているに違いない。戦力面で言えばそれは他のメンツも同じことが言えるだろう。ただ、赤羽の場合は少し違う。自分を導いてしまった。そのきっかけ1つが彼女を追い詰めてしまっているのだろう。いつしか聞いたとおり彼女は感情があまり豊かではない。でも、発生しないわけではない。今までとここまで様
子が違うのだから相当にため込んでいるかもしれない。
再び彼女の方を見る。無表情の鉄仮面に見えるその表情もどこか不安そうな趣があるのは気のせいではないはずだ。そしてその上で彼女の言葉を思い出す。
「……あ、そう言えば零のGEARのせいでその……しゃ、しゃ、射精が出来ないんでしたよね。すみません、私もまた……」
「いや、それはもう解決したから大丈夫。そういうことをされればちゃんと君にだって反応はするだろうさ」
「……では、やはり私がまだ子供だからでしょうか?」
「……そうじゃない。ただ、君相手じゃ遠慮が勝る。そんな思いつめた表情をした中学生を相手にすることなんてできやしない。少なくともその程度にはまだ余裕がある」
「……では、どうなさるのですか?」
「最初に言っただろう?あの時は君が自らパンツを見せてまで遠ざけた笑顔。それを見たいってな。今は逆に遠ざかっているじゃないか。……うん、初志貫徹だ。この世の全てなんざ偽善者ぶるつもりはないがせめて君だけでも笑顔にしなくちゃいけないな。……よし、今日は学校をさぼろう」
「……いや、私もあなたも期末テストのはずでは?」
「……だったら午後からは一緒に遊べるな」
「多分大丈夫でしょうが、一緒に遊ぶんですか?」
「そうだ。最近はどうも個人的に楽しむ機会が少なくなってきてるからな。かといって今まで住居費稼ぐためのバイトくらいしかやったことはなかったからな。だから今日は君と一緒に遊ぶ。デートって奴だな」
「……不倫になるのでは?」
「……いちいち現実的だな、君は。……そうは言うけど君の案だって君を慰み者にするってだけでも浮気とか不倫とかって含まれてもある意味文句は言えないぞ。それに君には言ったかどうか知らないがその過去の女の子だって記憶がないんだ。ルーナが言ったキーちゃんって名前もあまり呼び馴染みがない。顔も浮かんでこないし、声も覚えていない。まあ、だからってこういうことをする理由付けにはならないかもしれないが、あまり気にするな。今日はただの気晴らしだ」
「……分かりました」
時計を見る。そろそろ車でも危ない時間帯だ。着替えて学校に行くとしよう。


・さてはて、期末テスト。高2の12月のテストだから流石に気を引き締めなおす生徒もいるし逆に諦めてなんか色んな意味で近寄りがたい生徒もいる。そんな中ヒエンが考えているのは進路のことでも諦観の事でもない。
……赤羽とどこでどうやって遊ぼうか。
「……あいつどうしてテスト中に笑ってられるんだ?」
「この地理のテスト、作った先生が各国の銘酒飲んでトチ狂いながら作られた超高難易度のテストだぞ?」
「ついに頭おかしくなったのか。……可愛そうに」
「そこのお前達の方が可哀想だよ。何が起きるか知ってるくせに」
「ですよねー」
トゥオゥンダ、ジキル、十毛の3人が仲良く返事をしながら全裸のボディビルダーに窓の外までぶっ飛ばされていった。
「……おいおい、他二人ならともかく十毛は一応監視対象なんだからどっかやんないでくれよ」
「かかっ!そんなこと私が知った事ではない。それより零君、アメリカの首都はニューヨークではなくワシントンだぞ」
言って数秒。ヒエンが消しゴムを持った瞬間に頭を抱えたボディビルダーが窓を突き破ってどっかに飛んで行った。教師自らが答えを言ってしまう誘導尋問。普通ならラッキーチャンスなのだが間違えていたのがヒエンだけだったため大して被害も恩恵も大きくなかった。

・放課後。いつものように校門前に赤羽が待っていた。いつもならトゥオゥンダとジキルが茶化しに来るのだがあいにくながらまだ彼らは流れ星のままだ。
「と言う訳でデートに名目が出来た。十毛を探そう。でも自動で勝手にそのうち戻ってくるから頭の隅に置いておく程度でいいぞ」
「……一応異常なほど発達したGEARの持ち主で新しい戦力の最有力候補なんですからもう少し存在価値を尊重してください」
しかし変わらず二人は、黒服の車を使わずに制服のまま街を歩くことにした。この半年間で嫌と言うほど見てきた街泪がしかし最近ヒエンには違和感がまとわりついていた。
「……はぁ」
「どうかなさったんですか?」
「いや、僕故郷が東京の町田市なんだけどどうして新しい根城は千代田区なのかなぁって」
「町田市……何だか懐かしい気がします。私自身は行ったことないはずなのに」
「火咲ちゃんの方はちゃんと出身は町田市だからその記憶があるのは分かるが赤羽がそれを持っているのは少し不自然だな。まあどうして歴代の赤羽美咲が最上火咲になって次の世界でも存在しているのかの謎がまだ不明のままだからその一環とすれば別におかしくはないか」
「……最上火咲さんですか。あれが私の未来の姿だとすればいったい今の私は何なのでしょうか?私自身があの人もしくは0号機であるシフルさんのクローンかもしれないというのに」
「そう言うのは気にするな。自分が何者であろうと結局自分自身に変わりはないんだから。どっかの性悪な神様によって未来が確定してしまっている君に対して言えたことじゃないがこっちだって記憶のない過去がいくらでもある男なんだ。少しは気晴らしに使ってもいい」
「……女子中学生に言えるセリフじゃないですよ、それ。……でも少しは気が楽になりました。ありがとうございます。……でもごめんなさい。本当なら私があなたを慰める計画なのに」
「逆だ。そう弁えているといい。さて、腹が減ったな。昼飯としてまずはラーメンだ」
「……食事してもいいんですか?」
「以前までは零のGEARのせいであまり食事出来なかったが今は零のGEAR自体が必要ないくらい意味不明な存在になったからな。零のGEAR使ってる時と同様に食事なんて必要ないから普段の生活費は浮くんだがラーメンだけは別だ。君もラーメンミウキムを摂取しなさい」
「……よく分からない化学物質を生成しないでください」
しかし鼻血を出しながら赤羽は答えた。
「……順当な残念な反応だな、赤羽さんや」
「気のせいです。では、ラーメン屋に向かいましょうか。よく私が久遠と行っているところでよろしいでしょうか?」
「ああ、いいぞ」
進路は決まった。今まで通りの街並みを歩いてみれば世界の終わりが近付いてきている事を忘れてしまいそうだった。当然ながらそのことを知っているのは大倉機関と伏見機関のごく一部だけだ。
「最近はライラさんもラーメンにはまっているみたいですね。何でも元の世界にはなかったみたいですから」
「そりゃ勿体ない世界だな。……と言うかライラちゃんの世界ってこの世界の……矛盾の安寧じゃない元の世界の未来じゃなかったっけか?だとしたら遠くないうちにラーメンと言う文化はなくなってしまうのか」
「……もしかしたら元の世界ではもう滅亡が進みすぎててそうなっているかもしれませんね」
「だとしてもまだそんなに時間は経っていない筈だ。世界が分岐してまだ2年。人類が絶滅していない限りはまだ大丈夫なはずだ」
「……ラーメンのためなら名世界を救う覚悟が出来るんですか?」
「特撮!百合!ラーメン!女の子!世界はこの4大元素さえあればいいって過去の自分が言っていた気がする」
「記憶を失おうが失うまいが結局あなたはあなたなんですね。正直少しだけ記憶を失う前のあなたは少しはまともな人間なのかと思っていた時期が私にもありました」
「まあ、ルーナ曰くもう人間じゃないみたいだからなぁ」
「とおっしゃいますと?」
「ん、ああ。まだ赤羽には話してなかったのか。実は、」
歩きがてらにあの夜にルーナから聞いた話をそのまま赤羽に話してみる。パラドクスに関しては昨夜説明を受けていたがプラネットや十三騎士団、ディオガルギンディオに関しては初耳だった。今朝言っていたような気もするが。
「そんなことがあったんですね」
「まあ、よく分からないし俄かには信じがたいものばっかなんだけど実際にパラドクスなんて化け物がいるし、それに立ち向かえるだけの力も持ってるしな。第一まだすべてを思い出したわけではないにせよ、ルーナの事は何となく覚えている。あの子が嘘やでたらめでこんな事を言うとは思えないな」
「……ルーナさんってどんな方なんでしょうか?前の私……最上火咲さんはご存じだったみたいですけれども」
「あの子は天使だよ」
「え?ライラさんや噂の双子と同じあの……?」
「ちがう。あれはアルデバラン星人の……使われる方じゃなくて死ぬ方の天死だ。ルーナは、もうこの世界ではとっくの昔に滅んでしまった使われる方の天使だ。まあ、正体に関してはいくつか前の世界の地球人が襲来したアルデバラン星人をモデルに作り上げた人工生命体なんだけどな。ルーナはそのうちの一人だ。まあ、その中でもかなり特別な存在なんだけども。いくつか前かは覚えてないがあの子のセリフからするに2つ前か。その世界であの子と会ったんだ。それから少なくとも1つ前の世界まではずっと一緒だったと思うんだが、この世界のルーナがどうなったかは分からない。1つ前の世界がどうなったのかも」
「……でもその世界にも奥様はいらっしゃられなかったんですよね」
「ああ。そうみたいだな。ルーナだか魔王野郎だか大倉所長だかが言っていたけれど零のGEARは100年生きて100年眠り、記憶をリセットしてまた100年生きるらしいからな。前の世界ってのが何年前だか知らないが100年ごとにリセット掛けられてちゃそんな昔のことなんざ覚えてるわけないさ」
「……どうしてそんな事になってるんでしょうか。GEARは戦いの道具でもなくて、ただちょっとだけ他の人間とは違うってだけですのに。それではまるでGEARのための人間、GEARのための人生じゃないですか」
「……オンリーGEARだからじゃないかと思うがね。だってほかのGEARと違ってオンリーGEARは所有者が世界で一人しかいないんだ。しかもGEARは世界の構成物質なんだろ?だったら世界に必要なものなんだからずっとそのままが一番いいさ。まあ、三船所長のあいつもオンリーGEARみたいだったけど何故か知らないが死んだし、あいつが生まれる前には別の誰かが持っていたみたいだからオンリーGEARがみんなそんな100年単位で長生きさせられてるってわけじゃないだろうがな」
「……じゃあヒエンさんの零のGEARって一体世界の何を司っているんでしょうか?」
「……さあな。まあどうせリセットされるっていうなら別にどれだけ不死身でもいいかなって思ってもいるから別にいいけれども」
「……そうですね。少なくともまだ100年は一緒にいられるわけですからね」
「そんな長い話をする時じゃないさ。まだ会って半年もたってないってのに」
「そうですね。……あ、ここです」
赤羽が立ち止まり指をさす。そうして見えたラーメン屋に二人は入っていった。

------------------------- 第88部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
81話「決意と漂流と再開と」

【本文】
GEAR81:決意と漂流と再開と

・ヒエンが赤羽とラーメンを食べている頃。同じように午前中に学校が終わって帰ってきた大悟は小夜子、八千代、鈴音を伴って街を歩いていた。
「噂の双子までどっか行っちまったのか」
「あの二人は特殊だから。……今まで狙われなかったのが不思議なくらいよ」
「まあ、その辺もあって大倉機関に所属していたっていうのもあるかもしれないけどね」
「それより本当にいいの?大倉機関に行って作戦に参加しても」
「ああ。いい加減ゲーム感覚でいるわけにはいかないしな。俺に何が出来るか分からないけどもとりあえずその加藤って人に会えばいいんだな?」
「そうね。少し前までは別の人が代理で指揮官やってたんだけど加藤さんが退院したからもう指揮官は加藤さんに戻ったはずよ」
「指揮官だの退院だの全然穏やかじゃないんだな、そこ」
「……少し前までは普通の場所だったよ。別に恨むはないけど変わったとすればあの人が来てからかも」
「あの人?」
「そう。さっき言った少し前まで代理の指揮官やってた人。あの人が来てから一気に忙しくなったって感じだね。まあ、あの人のせいでは100%ないんだけどね。むしろ被害者って言っていいかもしれない」
「被害者なのに代理の指揮官やってたのか」
「それまで代表やってた人があの人が来て少し経った時点で亡くなっちゃったのよ。おまけに幹部の方々もほぼ全員病院送りになっちゃったし。だから一番実力があるんじゃないかって言われてるあの人が代理の指揮官やってたの」
「……実力ってのは空手だけじゃないんだろ?GEARだっけ?俺の主人公のGEARもその一種だって聞いたけど」
「ええ、そうよ。大悟の持ってる主人公のGEARはあの人と同じでオンリーGEAR。世界に一人しかその能力を持っていいない希少な存在。前の所長にはその話をしてて、本来なら大悟はもうとっくの昔に大倉機関の一員になってたわ」
「でも、世界を作り出したなんてにわかに信じられないだろうし、事実だとしてもどうやって接したらいいのか分からないからずっと私達が監視兼護衛として兄さんのそばにいたんだよ。……まあ、普通に身内だったってこともあるけど」
「……ちょっと胡散臭い気もするけれどまあいいか」
「……大悟」
そこで今まで無言だった八千代が口を開いた。
「姉さん?」
「ごめんね」
「姉さんが謝ることなんて何もないよ。遅かれ早かれこの世界は終わっちまうんだろ?だったら俺も無関係じゃいられない。俺にその権利があるんなら、世界が勝手に終わっちまうよりかはまだ自分の手で終わらせた方がいい。まあ、そうならない事を祈って大倉機関ってところに行くんだからさ」
「……うん」
4人が連れ立って歩いていると、
「いたぞー!!あっちだー!!」
「ま、また見つかっちゃったぁぁぁぁっ!!」
喧噪が近付いてきた。逃げているのはキャリオストロとまほろ。追いかけているのは伏見機関所属の軍人達5人。
「な、なんだ!?片方浮いてるぞ!?」
「……共鳴がないから浮遊のGEARじゃないね。でも、どういうことだろう」
「ひったくりとかそう言うのでもなさそうだし、とりあえず助けてみようか」
「大悟!?」
大悟は走っている二人の前に立って通せんぼした。
「誰!」
「君達何か悪いことしたのか?」
「してない!してないよ!!」
「分かった」
そう言って大悟は道を譲った。が、直後にまほろが大悟の袖を握りそのまま浮遊ダッシュ。
「は!?」
「いっしょににげよーよー!」
幼い外見からは想像もできない力で大悟は引きずられていった。
「え、ちょっと!!」
「鈴音お姉ちゃん、あの追いかけてる人達伏見の人達じゃない?」
「え?……確かに帽子のバッジがそう見えるような気がするけど私伏見の人見たことないから……。千代姉は?」
鈴音の問いに八千代は首を横に振る。が、
「……でもあの人達は伏見で間違いない」
「何かの任務中かな?あの先頭にいた浮いてる女の子、普通じゃなさそうだからあの子を追いかけていたとか」
「とにかく追いかけてみよう」
そうして少し間をおいて3人も後を追いかけた。

・街はずれにあるソバ屋。
「あっしたー!!」
元気のいい声に見送られて中から出てきたのはトゥオゥンダ、ジキル、十毛の3人だった。
「うまかった。でもひどい目にあったもんだな」
「まったくだ。そのインパクトが強すぎてなんであんな目にあったのか忘れちまったぜ」
「それより貴様ら、ちゃんと後で俺がおごってやった分の金返せよ?」
「「はいはい」」
腹を膨らませた3人がとりあえず荷物を取りに学校へ向かう。そう決めた時だった。
「!?」
急に十毛が身構えるや否や全力で空間支配を行った。その瞬間、十毛の支配する空間では全ての時間が止まり、動けるものは十毛しかいなくなった。そのはずだった。
「ほう、お見事ですな」
「……くっ!!」
正面。時代を間違えたかのようなセンスの紳士。その右手に持ったスティックの先から刃が伸びて十毛の腹を貫いていた。
「な、なんだお前は……どうして動けるんだ……」
吐血と流血で苦痛に表情をゆがませながらも十毛は視線を下げなかった。
「それはまだ私の方が強いからですよ。ですがどこかの死にぞこないが力を貸したのか知りませんがあなたはそう遠くないうちに上位のパラドクスに匹敵するほどの力を持ってしまう。そうなってくると非常に面倒なのでね。……ん、」
紳士……インフェルノは眼前の十毛の沈黙の意味を悟った。
「お前達だけでも逃げろ!!」
「……へ?」
「なんだ?」
自分の能力による支配からトゥオゥンダとジキルを解除して、しかしその足は支配したまま可能な限り遠くへと走らせた。
「……未来計測ですか」
「まあな。このままだと30秒もしないうちにあいつらは死んでいた。けどあいつらがいない今手加減する必要がなくなった今、この俺がお前を倒してやる!」
「ふ、よくも抜かせたものです」
十毛は自分を貫いている刃を抜こうともせずにその時間を使って支配を高めた。まずは超重力。目の前の敵にかかる重力を数百倍にまで上げてみた。だが、まるでそれが妄想かのように相手は当然のように動き、刃をそのまま横薙ぎにしては十毛の脇腹を大きく抉り開く。
「ぐううううううううう!!!」
叫びながらも傷の回復を急がせるがそれより早く敵の攻撃が迫る。刃の攻撃はそれこそ止まっていた時間よりも早く十毛の五体を深く切り裂く。
「があああああああああああ!!」
「所詮は人間!たった十数年を生きているだけの低次元生命が我々パラドクスを倒すなどと粋がってはさらにその寿命を縮めるだけなのだよ!!」
再び刃が十毛の夥しい量流れる血の体を貫こうと迫ったその時だ。
「イイイィィィィィィィィリイイイヤァァァァァッホゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥイ!!!」
奇声を上げながらバイクで突撃してきたのは全裸のボディビルダー改め究極狂人ライダーであるイシハライダーWDだ。
「ぬ、これは……!!」
バイクの突撃は回避し、しかしインフェルノは無意識の追撃を避けて一歩を退いた。その二人の間にイシハライダーは停車してバイクから飛び降りる。
「変人ライダー……!?」
「いやあ投げ網の餌になってくれてご苦労だね、十毛くん」
「投げ網?まるであなたは私をおびき寄せるためにこの方を用意したとでも言いたげですね」
「その通りだ。この町に跋扈する悪党をこの私が許すと思っているのか?」
「……ふん、あなたの方がよほど悪党の様だと思うのですがね……!!」
インフェルノはさらに一歩を退くとスティックから川と表現すべき程の質量の火炎を放った。それは瞬く間にライダーだけを包み込み、
「ふん!!!」
そして一瞬のうちに粉々になった。
「何!?」
「炎は私には利かんぞ!!」
走る。秒速300キロの速さで迫り、インフェルノの腹に膝蹴りを打ち込む。
「イイァヤダバダバドゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!」
「ぬうう……!!」
まるでミサイルが命中したかのような爆音と衝撃が轟き、インフェルノの老体を激しくぶっ飛ばす。そしてその移動が終わる前に先回りして回し蹴りをその背中に叩きこむ。
「ぬ、」
「とうっ!!イシハライダァァァァキイイイィィィィック!!!」
さらなる高速超打撃のソバットが打ち込まれ、赤く染まった腹を中心に高速回転しながら地面に叩き落とされる。
「……ぐっ!!やはり見間違いではない……!!こいつ、十三騎士団の力を持っていやがる……!!!しかも二人も……!!」
受けた傷を瞬時に回復しながらインフェルノは余裕をなくした表情で空に浮かぶ変態を見上げた。全力状態の自分ならばまだ手段はあっただろう。状況次第では勝利も不可能ではない。だがしかし、一昨日に受けたダメージがまだ残っている今の状態では逃げることすら危うい。そもそもどうしてこんな人間かどうかも怪しい地上生命体が十三騎士団の力を宿しているのか。しかもこの感じからするに宿しているのは三権二位と三権三位の力だ。どんな事情があるのかこの変態には。それに、背後で既に全快となっている少年。この少年も下級パラドクスほどの力を持っている。もしかしたらあと1年でもすれば目の前の変態に立ち並ぶ怪物になるかもしれない。いくら進化を司る調停者の実験場とは言えこの星のレ
ベルは明らかにおかしい。これでは完全に消滅させられたにも拘らず数千年の時を経て自分が甦るだけの歪みにもなる。……いや、それすらも生ぬるい。これだけ歪んでいるのだからもっと強いパラドクスになっていてもおかしくない筈だ。そうなっていないのなら誰かが歪みを吸収しているのか或いはこの異常事態が通常になるだけの何かがこの宇宙では起きているのかもしれない。
「……いずれにせよ、分が悪すぎますね」
インフェルノは迫りくる変態を前に地面から火山もないのに大噴火を起こし、その間に実体を打ち消して虚数空間へと逃げ込んだ。
「む、奴め。どこへ行った?」
「……何とか追えそうな気はしなくもないが俺だけしか追えそうにないな」
十毛は虚数空間への出入り口を見つけるがしかしそこから先へ進むことは諦めた。


・戦場から離れた場所。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
未だに宙に浮いたまま逃走中な大悟。キャリオストロやまほろは車並みの速さで移動している。そのためにもう既に伏見の追手は完全に撒いていた。
「お、おい、もういいんじゃないのか!?」
「いや、この気配。私には分かる。…………見えた!!!」
キャリオストロの前方。そこには下半身を支配されてノンストップで走り抜けるトゥオゥンダとジキルの姿があった。
「ご主人様ああああああああああああああああああああ!!!!!」
「ん!?」
叫ぶキャリオストロ。そのまま一切の勢いを落とさぬまま二人と正面衝突を果たした。
「……だいじょーぶ?」
浮遊したまほろが見下ろすそこでは完全にグロッキーになって倒れてる4人の姿があった。キャリオストロのポケットからは1セットのカードの束と拳銃が落ちていた。

------------------------- 第89部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
82話「実戦配備」

【本文】
GEAR82:実戦配備

・大倉機関本社ビル。同じ私有地内に存在する体育館。普段ならば車で数分で到着する同情を使うのだが今日はまだ空いていないし、紫音以外の昇級審査の準備があるため使用できない。そう言う時にこの体育館を使うのだ。そして今その体育館にいるのは大倉機関の所属でもなければ空手の経験者でもない。
「ど、どうしていきなりこんな……」
大悟、トゥオゥンダ、ジキルがタイヤを引きずりながらランニングをさせられていた。
「ご主人様がんばれー」
「がんばれー」
「いや、ご主人様じゃねえしお前たちもやれし」
壇上ではキャリオストロとまほろが鈴音から出されたまんじゅうを食べながら適当に応援していた。
「おら長倉ー!!!もっとしゃんしゃんと走れ!トゥオゥンダとジキルは5周追加!30分以内に終わらなければ担任(ボディビルダー)呼ぶぞぉぉ!!……っと赤羽。それはコウだからまだ打てないぞ」
「あ、すみません」
そして鬼教官やってるヒエンは赤羽と一緒に囲碁を打っていた。それを見てブチ切れたトゥオゥンダが赤羽と選手交代してわずか3手でヒエンを詰ませる。
「何しやがるてめぇ!!」
「それはこっちのセリフだ!どうしていきなりこんなことになってんだよ!第一ここはどこであの子は誰なんだよ!」
「ここは大倉機関だ。超能力者集めて化け物どもと戦う組織だ。そしてあの子はキャリオストロ。お前の前世がひょんなことから生み出した異次元人の使い魔みたいなもんだ」
「それでどうして俺達をだませると思った!?」
「だますつもりなんてない事実だからだ!」
「……まあ、その隣のあの子浮いてるしな」
汗だくのジキルがまほろを見やる。
「ねーねーかこーえんさん」
「……当たり前のように俺の名前知ってるし」
「またあのおくるまみせてー。ぶぅんぶぅんするすごいの!」
「は?車?俺まだ高2なんだけど」
「まほろがお前達と会ったのは前世で大学生だった時だ。その時のお前は色々凄かったわけだ。で、キャリオストロ」
「はい。黒主さん」
キャリオストロがカードデッキと拳銃を出す。
「これは?」
「存在肯定のカードと存在否定の銃だな。かつてお前達が使っていたものだ。キャリオストロはこれを届けるためにわざわざ来たらしいからな」
「まあ、まほろちゃん探してたってのもあるけれど」
「……で、それと俺達が走らされてるのはどんな繋がりがあるんだ?」
「戦力になるからな。この2つを使えるのはお前達だけだ。で、この2つの武器はパラドクス相手にも有効だ」
「……どこまで真実なのか分からないし真実だとしても付き合う道理がないな」
「……ヒエンさん、やっぱり少し強引ではないでしょうか?力があってもいきなりパラドクスとの戦いに参加させるだなんて」
「永続的に戦力扱いするわけじゃない。けど今はどれだけ戦力があっても足りない状況だ。バイト代はちゃんと賄うからせめて今月いっぱいは走狗に……仲間になれ」
「今言い直した元の言葉を内に秘めてる奴をどうして信じられるんでしょうかねぇ?」
「まあまあ落ち着け」
「ごぼっ!!」
まるで尻尾のようにつながれていたタイヤをトゥオゥンダに叩きつけてからジキルは続ける。
「いろいろ詳しく聞かせてくれよ。ちょっと面白そうだから」
「ああ、いいだろう。……長倉もちょっと休んでいいからこっち来い!」
「あ、ああ!」
半周先に進んでいた大悟が中央を横断して戻ってくる。そしてそれを見計らいながらヒエンは大倉機関の事、GEARの事、パラドクスの事、天死の事、そして矛盾の安寧についての説明を行った。
「矛盾の安寧……か。この世界はそんな名前で呼ばれていたなんてな」
「じゃあ生みの親が新しく名前を付けてやるか?」
「……いや、いいさ。中々合った名前だからな。……けど姉さん達と言い、矢尻と言い、俺の周りは結構関わってたんだな」
「ああ、お前だけが知らない状態だった。と言うかこの矛盾の安寧についても知らされたのは先週くらいだしな。もっと早く言ってくれればもっとほかに手段とかもあったかもしれないってのに」
「……俺なら今すぐこの世界を終わらせられると思う」
「必要ない。と言うかやめてくれ。まだ準備ができていないんだ」
「準備?」
「そうだ。矛盾の安寧を破り、元の世界の戻ったらそこにあるのは地獄なんだ。どういうわけか知らないが元の世界はこの世界と分岐したその時から時間を止める怪物ダハーカや人型猛禽類の天死、さらには歪みの根源たるパラドクスで溢れている。この中で一番強いのはパラドクスで一番数が多いのが天死で一番厄介なのがダハーカだ。そしてこいつらは全員敵と言ってもいい。で、いまのところこいつらに対抗できるのはこっちくらいしかいないってわけだ」
「……それで少しでも多くの力を求めてるってわけか」
「ああ。どれだけ文明が破壊されているか分からないがそれでもまずは縦横無尽に好き放題してやがる連中を潰すところから始めないと再生もくそもないからな。お前たちはそのための戦力になる」
「……他の機関のメンバーはどうなんだよ?」
トゥオゥンダの問いに答えたのは赤羽だった。
「元々大倉機関はGEARに覚醒したものを集め空手道場を用いることでGEARの大小さまざまな力に屈しない強い精神力を持とうというのが目的でした。他の機関。三船機関はGEARや人間の可能性を信じてそれを広げるための研究を、伏見機関は自衛隊と連携してGEARによる犯罪者やテロリストが出た時にはその討伐を目的としています。何分、ダハーカや天死といった存在が明らかになったのはつい最近ですので、それらへの対策はまだどの機関でもほとんどとられていないのです」
「三船も大倉も代表が死んじまったし、大倉も今は指揮官が誰もいない状態だ。だから現在は唯一無事な伏見機関が先導して問題解決に当たっているがそれでも全然時間が足りていない。軍隊ゆえにそれなりの力はあるが大規模の集団だからか動かすにはやっぱり時間がかかるんだ」
「……何だかタイタニックだな」
「他に船がないのだからたとえ沈みゆく船だろうが乗っかっていくしかないだろう。それとも泳ぐ力もないのに荒海に飛び込むか?」
「……まあ、それもそうだな。時間が巻き戻せるわけじゃないし。今はこれがいいかもな。けど俺に運動させるな」
「じゃあどうしろって?」
「……そうだな。軍師でもやらせろ。歩兵よりかはこっちの方がいい」
「……まあ、いいだろう。お前のそのカードの力も前線で使う機会はあまり多くないからな。じゃあジキルはその護衛兼狙撃手ってことで」
「じゃあこのランニングもなしで!?」
「…………仕方ないな。その代り狙撃のテストを行うからなんか近くの自販機で飲み物でも買って来い。空き缶を的にする。それまでは休憩でいい」
「あいあいさー!!」
物凄い勢いでタイヤを外して二人は外に走っていった。残ったのは大悟だけ。
「……俺は何をすればいいんだ?」
「そもそもお前に何が出来るってんだ。精々あって便利なのは運転手くらいだがまだ中学生だからな。戦う力もないし。だから平常時における空手道場での手伝いが一番現実的だな。矢尻とかいるぞ」
「ってそれだけかよ!俺にも何かあいつらみたいに武器とかないのか?」
「ないな。ただお前の場合は勝手なことをしてくれないように見張ることもあって保護しただけだ。戦力として望んでなんていいない」
「けど!俺の周りの奴らはみんな一生懸命に何かしてるんだろ!?噂の双子なんて浚われちまったまま行方が分かってないんだろ!?それなのに俺は……!!」
「人にはそれぞれ役割ってのがある。お前の周りは忙しく力を振り絞る役目かもしれないがお前の場合その範疇じゃない。お前に出来る事は何もない」
「……そんな事ってあるのかよ。今まで全部を放ったらかしにして見て見ぬふりどころか見ようともしていなくて、その間にも姉さん達が傷ついて、苦しんで……。それでやっと動き出したとしても何もやることがないから何もするななんてそんな事ってあんのかよ!!」
「……じゃあテストをしてやる」
「え?」
ヒエンはザインの風を取り出すとそこに零のGEARを付加させるとそのまま大悟に手渡す。
「これは……」
「貸すだけだ。大事に扱えよ。そして今から組み手をしてやる。今から5分。こっちは全力で攻める。飽くまでも人間が使えるだけの力だけでやってやるがその代り全力で攻める。その5分間を耐え抜いてみろ」
「……自分の身は自分で守れって事か?」
「好きに受け取れ……!!」
「!」
大悟は反応出来なかった。ただ、気付けば左の頬を殴られていた。いや、腹にも重さを感じていた。それとは別に両足は地面から離れていた。
「ぐぶっ……うああああああああああああ!!!」
まだ外していなかったタイヤごと吹き飛び、3メートルくらい離れた場所に落下する。
今まで感じたこともないような鈍く重い痛みが全身の血を上書きするように流れ続ける。
「どうした!?ただの人間の拳だぞ!お前を狙う相手は電柱くらいなら指一本でへし折るし、小さなアパートくらいなら一撃で消し飛ばすような怪物揃いだ!お前が死ねばこの世界は終わる!お前の身の回りの女の子たちも死ぬ確率が格段と上がる!だのにお前はただそこで寝ているだけか!?すべてを知り、その責任取るために動き始めたんじゃなかったのか!?」
「……くっ!!」
大悟は立ち上がった。無意識にザインの風で自分とタイヤを繋ぐロープを切断してヒエンを見やった。
「うおおおおおおおおおお!!」
走り込み、ザインの風で殴りかかる。
「ふんっ!!」
が、ヒエンは自らの拳でそれを受け止める。
「!?」
太さ3センチのロープすら容易に切断するその一撃を生で受けたヒエンの拳は手首まで深く切り裂かれて一瞬で赤く染まる。が、それで作られた血の塊を握りしめると大悟の顔面に叩きつけた。
「め、目つぶし!?」
「せっ!!」
そしてそのまま重傷の拳で大悟の胸に威力を叩き込む。一撃で大悟は体内の酸素をすべて吐き出し、5メートルは離れた壁まで吹き飛んで甚大な威力を背中で受け止める。
「がはっ!!ごほっ!!!」
膝から落ちて血反吐を吐き散らす。上体を起こそうとするも瞬時に全身が痙攣して自らが吐き散らしたそこへ倒れ込む。生暖かさが体操着の上から素肌にまで染み込んで気持ちが悪い。しかしそれ以上の激痛が大悟を襲っていた。
「……5分どころか30秒も経っていないがもう終わりだな」
ヒエンは軽く手を振ると、深々と切り裂かれた右手が瞬時に再生し、大悟に歩み寄りザインの風をひったくる。
「今のお前は世界の危機とかそれ以前に人間相手にすらそのざまだ。せめてもう少し強くなれ。そのための練習ならここでいくらでもやっていて構わない」
ヒエンが指を鳴らすと黒服が二人やってきて片方が大悟を医務室まで運び、もう片方が掃除を始めた。トゥオゥンダとジキルが帰ってきたのはそれからであった。

------------------------- 第90部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
83話「Unnown Monster X」

【本文】
GEAR83:Unnown Monster X

・ここは大宇宙のどこか。他のあらゆる文明ではここにたどり着くことすら不可能であり、存在を知る事すら未だ数億年は至らないだろう一種のこの世の果て。あらゆる宇宙の因果から最も遠く、そして最も近い根源たる空間。
「……へえ、まさかここまで来れるとは思っていなかった」
声を飛ばすのは奇妙にも地球人と同じ姿をした存在だった。そして彼が相対する相手もまた地球人と同じ姿をした存在だった。
「……まさかオンリーGEARとは言えただの人間がこんな事象となっているとはね」
白銀のスーツやマントも今では見る影なくひたすらにボロボロ。ただでさえ色白い肌にはいくつもの赤がこびりついている。
その男……パラディンが視線を向けた先にいるのは進化を司る調停者……ブフラエンハンスフィア。
「……なるほど。記憶を読み取らせてもらったが地球ではそんなことになってるのか」
「あなたは何者なんだ……?プラネットでも十三騎士団でもあるあなたがどうしてこの場に調停者として存在する!?」
「簡単な話だ。もうお前の知るそいつとはとっくの昔に別人になった。たったそれだけの話さ。で、何か用があってきたんだろ?わざわざこんなところまで……幾百ものナイトメアカードを用いれば来れるか分からないような因果地平の彼方まで来たんだ。話を聞いてやるさ」
「……ズバリ聞くが、今地球で起きている大変動はあなたが起こしたものなのか?」
「違うな。こっちゃまったく関わっていない。それに今あの太陽系を管理しているのは別の調停者だ。他を当たれ……と言いたいところだがいくらナイトメアカードの司界者であったとしてもここまで来るだけで致命傷ではそれも叶わないか」
「……」
ブフラエンハンスフィアが眺めるパラディンはどうして生きているのか分からないくらいの重傷を負っている。それ以前にここは惑星上の生物況してや地球人が耐えられる環境ではない。宇宙空間であり空気がないのは当然として、生物であればその命を秒速数万年単位で削られていく特殊な放射線が縦横無尽のようにばらまかれ、1ナノ立米ごとに数万度以上の気温差が混ざり合い、光や音は単位と言う限界を無視して視覚と聴覚を意味のないものへと変えていく。そもそもここへ来るまでにブラックホールを740個越えなくてはならない。現在最も科学が進んでいるバビロニア星人であってもこのブラックホールの海を越えられる確率は0がいくつも付くほどだとされている。
パラディンの意識が風前の灯火となった頃合いにブフラエンハンスフィアは口を開いた。
「……なるほど。ついこの前軽く地球を覗いたがまさかこんな面白いことになってるとはな。で、お前は何の目的があってここへ来た?」
「……どうしたらあの世界は救えるんだ?分岐してしまった世界。そのままにしておけばいつか滅ぶ。かと言って崩してしまえば壊れた地獄のような世界に行きつく。もうあの世界に救いはないのか?」
「ある。それはお前の存在が証拠でもある」
「……どういうことだ?」
「確かにあの世界はひどい世界だがしかしお前はそれよりもひどい聖騎士戦争を生き抜いているだろう。そしてその末に新たな可能性が彩られる世界にたどり着いた。そしてあの世界はそこへ地続きでもある。生き抜くことができればお前の知るあの世界にたどり着けるだろう」
「……だが、私の時代までは1000年以上もある。今を生きる人間たちはそこまでは長生きできない。彼らは見捨てておけとでもいうのか?」
「逆に言わない筋合いはないだろう。お前とてあの地獄のような聖騎士戦争で全ての人間を救えたわけじゃあるまい。むしろ死んでしまった人間の方がはるかに多い。それが400年も続いた。そこからさらなる決着まではさらに数百年かかるだろうがしかし、確実に平穏な未来にはつながっていく。それを救いと呼ばずして何と呼ぶんだ?」
「……」
「お前にしてもわざわざまたあの地獄を眺める必要はないだろう。安心して今を生きた人間たちの生き就く未来(さき)で待っていればいいさ」
「……くっ、」
気付いた時。パラディンは見慣れた世界の夜景に立っていた。右手には完全に毒で汚染されつくされてしまった海、左手には当然のように空を行きかうスカイカーの群れ。……西暦31世紀の山TO氏。
「……随分親切な調停者様じゃないか」
己が無傷であることを嘲笑し、パラディンは夜空を舞った。

・それは夜に突然起きた。
数百年前に起きた謎の核爆発により未だ廃墟のままである旧仙台市。その爆心地であるクレーターを震源として大地震が発生した。
「……っと、」
大倉機関からの帰り道である大悟、鈴音、小夜子も外を歩いているにも拘らずその揺れに足を止める。
「どうしたの?」
「いや、地震かな。ちょっと大きいぞ」
「……あ、今自衛隊が出動したって」
「自衛隊って言うと伏見機関ってところか?」
「正確に言えば伏見機関はあくまでも自衛隊の一部だから必ずしも自衛隊の活動に伏見機関が関わっている訳じゃないけどね。あ、でも伏見機関の幹部の人も出撃してるみたいだからもしかしたら関係があるかもしれない」
「……今、大倉機関は指揮官いないからこういう時何が起こってるか分からないんだよね」
3人がゆっくりと歩みを取り戻す。その時だ。
「あ……れ……?」
「鈴音!?」
大悟の隣で鈴音が膝から崩れ落ちた。まるで貧血を起こしたように。そしてそれだけではない。
「え……なにこれ……」
鈴音の体が半透明になっていた。おまけに膝から下に力が入らず立ち上がることが出来ない。
「鈴音、大丈夫か!?」
「分からない……。でもこれ変だよ……」
「……まさかもうこの世界の寿命が……!?」
「いや、それは違う」
声。それは本来なら傍らから聞こえるべき声。それが正面の大通りから聞こえた。一台の車から降りたのは手足と首に鎖を繋がれた小夜子……カシワギサヨコだった。
「お前……!!」
「今はいい。それよりも兄さん。強い力がこの世界にやってきたんだ。だから兄さんが作った主人公のGEARに少し歪みが出ている。その影響で鈴音お姉ちゃんが一時的に動けなくなったんだ」
「……何が起きてるんだ?」
「言った通り。今この世界は不安定なくせに長く続きすぎたから色んな部外者が入り込んできている。今までは単発で調査だけが目的だった。でも、今来たのは本命。……まあ、伏見機関が取り合っているけれども時間稼ぎにしかならないと思う。兄さん達は邪魔にならないように大倉で預かるよ」
「……今日は家に帰れそうにないのか」
大悟がため息をつき、鈴音を抱えようと膝を折った時だ。
「ううん。それじゃつまらない」
「!」
直後。生まれた新しい声が聞こえると同時、大悟は背中から胸を穿たれた。
「「お兄ちゃん!!」」
同じ声が二つ前後から飛び交う中、大悟はしかし倒れずに吠えた。
「うがあああああああああああああああ!!!」
出血はない。しかし全身から血が流れ出るように熱いし、痛い。
「……!?」
それは遠く離れた夏目家。自室で横になってた黄緑が飛び起きた。
「……これはダハーカの気配……!?」
そのまま感情的に部屋を飛び出ると、
「ふんっ!!」
背後で鼻を鳴らす紫音の気配。
「……し、紫音……」
「行けば?ダハーカでしょ?」
「……ごめん」
「え……」
表情を変えた紫音を背に黄緑は走り出してそのまま家を後にした。
「……本当に行っちゃうんだ」


・旧仙台市から戦線は100キロ以上続いていた。
自衛隊は戦車の要請を続けているが出動したものから片っ端に破壊されていく。
「あれはなんなの……?」
麻衣が双眼鏡を使って密林の中から観察する。それはまるでクジラだった。しかしワニのような四足を生やしていて陸を移動している。大きさは高さが10メートル、長さが50メートルほど。今までで20発を超える戦車の砲撃を受けていながら足を止めることすらせず、カエルのように伸ばした舌で戦車を絡み取りそのまま握りつぶしている。
「まるで怪獣だな」
雅劉が野営テントから出て麻衣の傍らにつき、肩に手を置く。まだその手にはほとんど力が入らない、日常生活用の仮ボディだ。
「あれもダハーカとかパラドクスとかの一種なんでしょうか?」
「さあな。とりあえずこの世の通常生命体ではないのは確実だ。スキャンが効かないから放射能やらも通さない体質らしいな。……あんなのがどうして旧仙台に埋まってたのか」
「……一応大倉機関の彼にも連絡をしておきました。出来れば私達の手で何とかしておきたいところですけどね」
「まったくだな。力不足だから軍門に下れって言っておきながら力を貸してくださいじゃ笑い話にもなりゃしない。かと言ってアレが相手じゃあな。全力状態の俺ならまだ目玉の1つくらい潰せてざまあみろって出来たかもしれないが」
「無理ですよ。基地から発射されたICBM……報告によれば目玉に命中したそうですがそれであの通り傷一つないのですから」
「……元の世界にはあんな化け物がたくさんいるんだろうかねぇ」
雅劉がつぶやく。その合間に再び基地からミサイルが発射される。今度は4発だ。それがすべて標的に命中し、そして数分限りの砂埃だけを作った。
「……」
怪獣は何事もなかったかのよう闊歩を続けるだけだった。


・夜空を進むヘリの影がある。
「……ったく。最近はまともに風呂にも入らせてくれないのか」
中にはヒエンと赤羽がいた。
「……」
赤羽はどうも赤面のまま。
「でも、君まで来なくてもよかったんじゃないのか?相手は怪物だぞ」
「……いえ、足手まといにはならないのでせめてこれくらいはさせてください」
「……ふん、」
黒服が操縦するヘリが夜空を貫き、現場へと向かう。その道中。
「遅いなルーナの奴。どんな奴か偵察に出してたのに」
「何かあったんでしょうか?」
「頭と心臓さえ無事ならどんな物理攻撃すら無効に出来るあの蟲姫だぞ。ダハーカに丸呑みにでもされない限りは……。一応黄緑に連絡してみるか」

・怪獣出現の現場から120キロ。
「はあ……はあ……」
二人の小夜子が息を切らしながら夜空をバックに電柱から電柱への疾走を行っていた。そして、彼女達が踏み去ると同時にその電柱は液体へと姿を変えて溶けて消えていく。今、戦場は一点を中心に地上の渦と化していた。コンクリートの地面や植木、電柱、家屋。あらゆるものが溶け合い、混ざり合いミキサーのように渦を作る。その中心にその少女は立っていた。
「……ふふふ」
年の頃は十歳になったか否か。ルーナとはまた異質に日本人離れした風貌。まるで等身大となったフランス人形。しかしそう説明されても納得がいかないのはその両足。その両足は渦の中心として膝まで埋まっていた。そしてその両手には大悟と鈴音が抱えられている。胸を押さえもがき苦しむ大悟の首根っこを脇の間から通した手で握りしめ、もう片方の鈴音はもともと動けないのをいいことにその年相応の胸をこれでもかと言うほど揉みし抱かれている。そしてその視線の先にいるのは二人の小夜子ではない。
「……なぜこの世界にいる……!?」
ルーナだった。しかし彼女もまた普通の姿ではなかった。色白だったその肌の白さはまるでコンクリートのように灰色。否、実際にコンクリートを体の成分に融合させられていて動くことを封じられていた。たまたま偵察に来ていたルーナは異変を感じてここへ来たのだがまるでその動きを知られていたように、一瞬でこの状態にさせられた。
「ルネ……!!」
「あら、あなただってこの世界に来ているじゃない瑠那」
少女……ルネッサ=峰山はルーナを昔の名前で呼び、嗤う。
「だって父様がお遊びになられているんですもの。私が来ない理由はないでしょ?」
「あなたは天使界に封印されていたはず。この世界の天使界は既に滅んでいる。ならあなたはどうやって……」
「あの程度の封印で私を……禁忌を司る調停者である私をどうにか出来るとでも?」
「……調停者候補だろう、あなたは……!!」
「もう、瑠那は細かい事ばかり気にする」
ルネが指を鳴らすと渦巻くコンクリートがルーナの下半身を瞬く間に覆い尽くして固めた。ただでさえ体に異物が大量に含まれていて能力が封じられているうえこうまでされたルーナはもう移動する事も出来ない。
「もうこの世界は終わる。でもその前にせめて邪魔な食べ物は頂いておこうかなって」
「だからってどうしてあなたがダハーカの血を持っている!?そしてどうして世界の持ち主にそれを……!!」
「だって父様が望んだんじゃない。こいつはただの人間で役立たずだから何も出来ないって。だからルネはそれを手伝ってあげたの。ダハーカなんてあの世界にいくらでもいるわけだしね」
「……あなたはまさかあの世界から来たのか!?」
「そりゃ本来の世界はあっちだもの。いくら時間を止めて人間を貪るダハーカと言っても調停者(わたしたち)からしたらペットのようなもの。ペットをどうしようと勝手でしょ?だから10匹分の血液を持ってきたの。これくらいあれば少しはまともになるでしょ?」
「ダハーカ10匹分の血液を主人公のGEARの持ち主に融合させたのか!?」
激昂のルーナ。対してルネは笑ったまま大悟をルーナの前に放り投げる。
「ほら、お食べなさい。あなた好みの中学生ボディよ。たまには本来の意味の肉食的に女の子を食べてみなさいな」
「あ、ぐうううううううううう!!」
渦巻く地面の上でのたうち回る大悟はその背中からまるでワームのような触手……牙を出現させた。太さは余裕でルーナを上回り、それが5メートル以上の長さとなってルーナに迫ったその時だ。
「……随分じゃない。揃いも揃って邪魔をするだなんて」
ルネが忌々しそうに口ずさむ。その視線の先。
「……まさか世界の持ち主がダハーカになるなんてね」
大悟の牙を4つの牙で掴みながら黄緑が言う。そしてその後ろ。
「何だかどっかで見たことある倒錯だと思った」
「意味わからない事を言ってる場合か」
火咲がいて、触れただけで大悟の牙を粉々に破壊する。砕け散った牙を前にした大悟に達真が走り込み、殴り倒す。そして、
「おいおい、なんて頭痛だ」
コンクリートの塊となりかけていたルーナに手を触れ、それを一瞬で元に戻しながらヒエンがルネを見た。
「ルネ……お前を思い出したぞ。僕とあの子の間に生まれた娘……」
「父様……やっと会えた……!!」
一連の流れが終わり、ヒエンとルネが視線を交差させた。

------------------------- 第91部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
84話「禁忌達」

【本文】
GEAR84:禁忌達

・大蛇ほどもある太くて長い牙が崩れ落ち、しかし死することなく大悟は酷薄な意識の中で風景を見やった。正面にはヒエン、赤羽、黄緑、火咲、達真がいる。その奥にはルーナや二人の小夜子も。
「……おい黄緑。ルーナに伸びてたさっきのってダハーカの牙だよな?それを火咲ちゃんが破壊したわけだがあいつまだ生きてるぞ?」
ヒエンは尋ねる。相手は隣にいる黄緑だ。
「別に牙を破壊されたら即死するってわけじゃない。ただ獲物を捕食するための手段が1つ失われただけだ。それに、少しだけ話を聞いたけどその男はダハーカ10体分吸収しているんだろう、なら牙も1つじゃなくて10体分備わっているはずだ」
「……10分の1を殺しただけに過ぎないって事か」
「……それよりも目の前のあれだ。あの女の子は何なんだ?地形と融合しているぞ」
「……あれはルネッサ=峰山。一応僕の娘だ」
「あら父様。一応だなんてひどい。ちゃんとあなたの精子を受けた母様の子宮から生まれ出でたと言うのに」
「僕もあの子が生まれた時何がどうなっていたのかよく分からない。……ルーナ、」
「あれは天使界で作られたあなたと彼女の娘だ。確かに精子と卵子が結びついて生まれているけれども見た目でわかる通り人間ではない。元々遺伝子操作に長けていた天使界の元老院が朝霧の一族に天使と言う種族を滅ぼされないうちに生み出した半人型子供製造機と言ってもいい種族……ゼノセスター。見てのとおり生物としてかなり不安定だからか新しい種族として繁栄する前に自然と消滅していった。……けど彼女の場合は親が強すぎた。あの時のあなたは既に十三騎士団でありプラネットであり、そしてまだディオガルギンディオだった。その要素をわずかずつとはいえ引き継いだあの子は自然には死ななかった。ほとんどのゼノセスターが10年も持たずに死んでいく中あの子は数十年を生き延びた。そし
て2つ前の世界は滅びる原因となったんだ」
「瑠那はちょっと勘違いをしているんじゃない?私はゼノセスターなんて未完成で不安定な種族じゃない。もう調停者なんだよ?と言うか生まれた時からそう。ゼノセスターと同じ過程で肉体が作られただけで存在自体は最初からあんなものとは格が違うんだから」
「……」
「……それであんた、あいつをどうするの?あの怪物、長倉君に何かしたんでしょ?この世界、やばいんじゃない?」
火咲の耳打ち。そして一歩ずつルネへと近付いていく。
「へえ、誰かと思ったらあの女の末裔じゃない。まだ続いてたんだあのシリーズ」
「知らないわよそんなもの。どうだっていいじゃない初代の奴なんて」
「確かに初代の赤羽美咲はどうでもいいわね。3つ前の世界が滅びる原因になっていながら結局その中で唯一父様との間に子を宿せなかった。残り二人との間の子供はこうやってその贖罪をしているというのにね」
「ますます知らないわよそんなもの。で、あんたバラバラにされたいの?どうなの?」
そう言いながらも火咲は地面を爆発させて急接近。ルネの首をその手でつかみ取ると同時、その幼い体を一瞬でバラバラにした。まるで泥でできた人形のように。しかし、また同じく泥人形のようにその体は少し離れたところで元の姿に戻りだした。
「今までのシリーズより喧嘩っ早いのね。初代が慎重すぎた反動かしら?」
「……」
「火咲ちゃん、君じゃあの子相手は不利だ。それに別にあの子を相手にする必要はない」
いつの間にか火咲の隣にいたヒエン。火咲が軽く目を配らせると、既に大悟は意識を失っていて達真と黄緑が手足を掴んで回収していた。さらに鈴音も赤羽が抱きとめていた。
「ルネ、何の目的があってこの世界に来たんだ!?」
「空が落ちたから」
「は……?」
「私を封印していた天使界の宮殿は既に滅びて地上に落下したのよ。そのお陰で私は封印から解放されて、失った力を取り戻すためにとりあえず天死……両方のてんしをひたすら平らげたわ。だからもう生き残りの天使はほとんどいない。もう瑠那と祟くらいしか残ってないんじゃないかしら」
「……」
「さすがの私もよく分からない存在になった祟をどうにかする事はまだできないから先に瑠那から始末しておこうかな〜ってそれだけ。まああとは早くこの世界を終わらせて父様に会いたかったってのもあるしね」
「ルーナを殺すのは許さないがこうして会えたんだからもう戦う必要はないだろう?」
「だからって簡単に引き下がったんじゃ面白くないでしょ?ゲームをしようよ、父様。別に私が関係しているわけじゃないけども今東北の方ではUMX(アムクス)が来てる。大怪獣よ。そのUMXを今晩の間に始末出来たら父様の勝ち。帰るだけじゃなくて何か言うこと聞いてあげる。でもそれまでに倒せなかったら今朝くらいに元の世界にやってきたあの二人を好きにさせてもらう」
「……元の世界にやってきた二人……!?」
「そう。天死の血を引いているあの双子だよ」
「鞠音ちゃんと潮音ちゃんか!あの二人、元の世界に帰っていたのか……!」
「分からないけど、どう?」
「……ちなみに何をする気なんだ?」
「ヒエンさん?」
質問するヒエンに耳を傾ける赤羽。ルネは鼻を満足げに鳴らすとホバー移動しながらヒエンへと歩み寄り、
「生えてる姉妹同士の近親相姦」
「……よし、今日はもう寝るかな」
「白虎一蹴」
「ぐぎゃああああああああああああ!!!!」
頭に手を組んだヒエン。ちょうど二つの掌が重なった部分に赤羽の鋭い回し蹴りが決まった。


・ヘリ。一度大悟、鈴音、二人の小夜子、赤羽、達真、火咲を本社ビルに置いてからヒエン、ルーナ、ルネ、黄緑の4人はUMXと呼ばれる大怪獣が暴れている場所へ向かうことにした。その間にパイロットが何度か伏見機関と連絡を取っている。
「で、どうして黄緑まで?こうまで時間が遅いと紫音ちゃんが心配するんじゃないのか?」
「……あれから口利かれてないからどうしたらいいものかってね。今日だって半ば無理やり出てきちゃったし」
「……兄妹喧嘩から逃げてきたわけか。駄目な兄貴だな」
「あら父様だって母様との喧嘩から逃げて2つ前の世界に逃げたんじゃない」
両手を椅子につき、両足をパタパタさせながら膝から生やした手で持ったペロペロキャンディーを舐めながら得意気にルネは笑う。
「……ルーナ、そうなのか?」
「……思い出したくもない。3つ前の世界はルネ親子の襲来と調停者の都合がちょうど合ったみたいでそれで滅んだんだ。それが理由でルネは天使界に封印。そして彼女はどこかの世界に行方をくらませてしまった。十三騎士団の座も未だに空席のままだ」
「……正妻戦争恐るべし、だな」
「それが一夫多妻をしようとか言った男のセリフかな」
眉間にしわを寄せながらルーナがヒエンの腕の関節を決める。
「……ところでUMXって何だ?」
「Unnown Monster Xの略。元の世界……面倒だからセントラルって呼ぶよ?もうあの世界はセントラルっていう組織が指揮を執ってるからね。で、UMXは最近そのセントラル世界で出現するようになった怪物。詳しく正体は分かっていないんだけど今までも何体か出現してる」
「……天死やダハーカだけじゃなくてそんなものまでいやがるのかよ」
「この世界……矛盾の安寧にも雑魚が何体か姿を見せたことはあったらしいけど?」
「……知らないな。伏見か三船のトップシークレット情報にあるかもな」
「で、UMXだけど今来ているのはこれまで来ていた雑魚の類じゃない、本格的な奴みたい。多分父様が全力出さないと……父様が持ってる至上の万雷かそれ並みの出力を持つ力じゃないと倒せないかな」
「つまり十三騎士団の力が必要ってわけか」
「ううん。それだけじゃない。十三騎士団は確かに最強だけど父様はその中でもほとんど確実に最強。だってプラネットでもあればこの宇宙を作り出したとされるふた振りの刀の片方である至上の万雷を持ってるんだもの」
「……これってそんなすごいものなのか?十三騎士団なら誰でも持ってる類だと思ってたけど」
「とんでもない。確かに十三騎士団は全員それぞれ自分に合った武具を持っているけど至上の万雷に比べたらガラクタもいいところだよ。唯一匹敵できるとすれば絶唱の紅蓮くらいかな。それでもいくつかランクは落ちるけど」
「……つまりルネは極度のファザコンアピールをしたいと言う訳」
ルーナが嘆息。黄緑が苦笑。談話をしている間にヘリはいよいよ東北の戦地に到着する。窓の外を見ればまるで京都の大文字焼のように広大な昏い森の中にいくつかの火の線がある。それが見える程度の距離にヘリが着陸するとすぐに窓の外に敬礼している兵士が見えた。ヘリから降りたヒエン達は兵士の案内で前線指令室に到着する。
「ん、来たか」
雅劉がいた。流石に寝そべってはいなかったがタバコ吸いながら漫画を読んでいた。
「二日ぶりだなおっさんボーグ」
「お、俺のあだ名か?もっとかっちょいいのを頼みたいぜ?」
「そんなのはいいですから」
奥のテントから麻衣が歩いてきて敬礼。ヒエンも見様見真似で敬礼すると、1枚の書類を手渡された。標的の情報らしい。
「……確かにこりゃ大怪獣だな。大陸間弾道ミサイルが目玉に命中したのに無傷とかどんなコントだ?」
「漫才でも特撮番組の台本でもありませんよ。全部私達が今戦っている相手の現実です」
「まだ漫才の方が笑えたもんだがな」
「お、じゃあ坊主。これ読むか?」
漫画を手渡そうとした雅劉を麻衣が睨んだ。嘆息交じりに竦んだ雅劉を見てから麻衣は続ける。
「それでどういう作戦で行きますか?正直私達伏見機関としましてはもう牽制か時間稼ぎくらいしか出来ることはありませんが」
「とりあえず娘の期待に応えるためにもいっちょやってみるつもりさ」
「は?娘?」
小首をかしげる麻衣にホバーで歩み寄ったルネは右手を無数の細長い触手に変えるとそれで凌辱を始めた。
「きゃああああああああ!!な、なによこれぇぇぇ!?」
「父様父様!この子、処女だよ!」
「じゃあ鈴音ちゃんは?さっきの子」
「処女!」
「……そろそろいいかな?この色ボケ親子」
そこからルーナの目にもとまらぬしっぺが二人を襲った。


・夜の闇。木々から木々へヒエンが跳躍による移動を開始する。ヘリで近付くには既に近付きすぎで、戦車で移動するには遅すぎるからだ。
「……まるで蟹みたいだな。忍者のGEARの持ち主なあいつより今は忍者が出来るんじゃないのか?」
印を結んで影分身!……当然ながら出来なかった。しかし代わりに万雷を引き抜く。柄を握りしめた感触は確かにこれ以上にない程しっくりと来る安心感だ。こいつにルネが言うだけの凄まじい力があることを未だに実感できない。しかし、不信からくるものではなくむしろ逆だ。意識して振るえば何が相手だろうと一撃で倒せるはずだ。
「……見つけた」
立ち止まる。正面を見ればクジラがトカゲの足を生やしたような大怪獣がのっしのっしと歩いていた。それを見てから今度は斜め前方上空に跳躍。一気に相手の背上200メートルの位置までたどり着くと万雷を抜刀。
「やぁぁぁぁぁぁってやるぜ!!!!」
抜刀と同時に刀身に生じた電光が一瞬でその質量と長さを増して巨大な雷の刃を生む。それが全力で振るわれてはUMXの右わき腹に命中。秒速2メートルくらいの速度でその巨体を両断して行き、そのまま稲妻の刃は相手の左わき腹を抜けて真空に戻る。
「……いっちょ上がりだな」
血の柱をいくつも上げながら崩れ落ちる巨体の頭上に着地。直後にぶった切った際にその下の地面まで深く切り抉っていたためか地割れが発生してその巨体は飲み込まれていった。

------------------------- 第92部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
85話「セントラル」

【本文】
GEAR85:セントラル

・巨大生物UMXとの戦いから一夜明けた。大倉機関本社ビル会議室に集められたヒエン達一行。本当ならば組織としてまともに活動している伏見機関の基地にする予定だったのだが流石に用事があるとはいえ民間人がたくさん軍の主要施設に入るのは好ましくないということのほかにUMXとの戦いで伏見機関も決して無視できないダメージを負ってしまいその復旧作業で忙しいの二つによりこの場所を使うことになった。土曜日と言うこともあって学生のメンバーも達真を除いて全員が出席をしている。議題に関してはこれからの流れと、そしてこの場にはいないがルネから得た情報……噂の双子が元々の世界……セントラル世界にいると言う話だ。
「ところでどうして矢尻はいない?」
「テストの初日休んだからよ。その分のテストを今日やっているわ。まあ一日分だけだから午前中で終わると思うけれど」
退屈そうに、しかしどこか落ち着かなさそうに火咲が返す。
「……珍しいな、火咲ちゃんがあいつについていかないなんて」
「ねえ変態師匠?私をあいつの恋人かなにかと勘違いしてないかしら?……それにもっと気になることもあるからね」
火咲は黙ってヒエンを見た。すると今度は麻衣の方を見やる。
「伏見機関、昨日の事もっとよく聞かせなさいよ」
「……分かりました。では改めて昨夜起きた2つの事件についてご説明いたします。まず大きな方。昨夜午後6時57分に旧仙台市より巨大な生物が出現。そこから120キロ以上も進撃を続けました。伏見機関や自衛隊も力を尽くしたのですがまるで歯が立たず最終的にはジアフェイさんに倒していただきました。また、ジアフェイさんの娘を名乗るルネッサ=峰山さんの弁によるとあの怪物はUnnown Monster X……通称UMXと呼ばれる存在であり、元の世界でも現在何体か出現しては新たな人類の脅威となっているようです」
「そこで聞きたいんだがな。ルネのセリフじゃ今まで何度かUMXはこの世界にも来ていたらしいんだが伏見機関は何か知らないのか?あと、三船も」
「知らね」
背後にいた剛人は短く返事。赤羽も同じような反応。対して麻衣は少し悩んでから背後人物に視線を送った。
「……では私から説明しよう」
それは今まで見たことがない中年の軍人だった。心なしかどこか少し離れたところにいる雅劉に似た顔をしている。
「まずは自己紹介から始めようか。私の名前は伏見雷牙。伏見機関の総帥であり、大倉一也やラァールシャッハとは中学時代よりの友人だ」
「……あなたが伏見機関の……」
「そうだ。紹介が遅れてしまったな。で、UMXだが確かに今までも何度か目撃例はあった。2年ほど前から8件だ。それを私達伏見機関はとある兵器を以て迎撃していた」
「とある兵器?」
「そう。かつて三船機関から取引で手に入れたPotable Armerd Machinical Troopers……通称:PAMT(パムト)と呼ばれる人型兵器だ。君達が先月に三船機関で赤羽兄妹と戦った際に彼らが機械のような姿に改造されていただろう。あれはその技術を使っているのだ」
「……」
赤羽兄妹、火咲は閉口のまま。
「PAMTはもともと三船と我々伏見の共同で研究を行なっていた。もう20年以上も前になる。しかし当時の技術力ではまともな戦力にはならないと判断されたため研究は打ち切りになった。だが、三船はそれからも独自で研究を続けていたらしく、ある程度使い物になる程度まで研究が進んだことで我々との取引に出したのだ」
「……その説明をするということは」
「そう。ほぼ使い捨ての量産型だが君達にもいくつかPAMTを貸し出そうと思う。実験の類ではなく今から我々に必要なことだからだ」
「……元の世界に戻った時にうちらも含めてそのPAMTって奴を使ってUMX退治をするためですか?」
「そうだ。本来ならばパラドクスの相手もPAMTでしたいところだがまだその性能には至っていないようなのでな」
「いいかしら?」
そこまでの説明を終えて、火咲が手を上げた。
「何かな?」
「セントラルってのは何かしら?」
「……ほう、君はそれをどこで知ったのかな?」
「そこの変態」
挙手した手の指をそのままヒエンに向ける。
「……え!?あ、っと、さっき報告した通りルネッサ=峰山って言う子から元の世界ではセントラルって組織が先導しているって聞いたんですけども……」
ヒエンはちらっとだけ火咲を見た。しかし火咲は返さない。代わりに真剣に伏見提督の顔を見ていた。
「……セントラルと言うのは先程話した伏見と三船が共同してPAMTの研究をしていた機関の名前だよ。それが元の世界で先導しているというのであればどういうことかはわからないが元の世界には元々セントラルの組織だった者が少なからず残っているということかもしれないな」
「……その元の世界でもPAMTがあってUMXと戦ってるみたいですけどね」
「……」
それ以上伏見提督は答えなかった。
「それで元の世界にいる乃木坂姉妹ですが、」
「ああ。PAMTを総数配備して戦闘訓練を積み次第、この矛盾の安寧を終わらせて迎えに行こう」
「……それでは遅すぎるのでは?」
「なら今すぐにでも無謀にも双子だけを助けるために世界を壊すかね?」
「……」
「PAMTでの戦いを望まないものは今から配るリストに名前を書きたまえ。伏見の見習い兵として訓練を開始する」


・夜。
伏見との合同会議を終えたヒエンは一部のメンバーを集めて会議室に残っていた。その中には先程はいなかったルネの姿もあった。
「で、どうするつもりだ?」
途中参加だった達真がテスト用紙片手に、なぜか殴りかかりに来ている大悟を羽交い絞めにしながら問う。
「ああ。今からこのメンバーで双子を助けに行くぞ」
「……どうする気?」
火咲が訪ねる。その後ろにいたトゥオゥンダ、ジキルはもはや上の空。
「ルネとキャリオストロの力を使う。会議の間ずっと考えててな。で、終わった後にこの二人に聞いてみたら二人が力を合わせたら短い間だけだが時空を超えられるそうだ。その短い時間に二人を助けに行く」
「……どうして伏見提督の指示に逆らってまで今夜向かうのですか?」
「1つは偵察だな。何も知らないまま地獄に落ちるよりかは先にある程度どんな場所か見ておいた方がいい。今は準備機関ってこともあるからな。もしかしたら何か対策が可能かもしれない。2つに、少しでも敵となる連中の数を減らしておきたい。黄緑やライラちゃんには悪いがせめてダハーカと天死を100や200は倒しておかないと向こうに行った途端に全滅とかって事になりかねないからな。3つ、ああ言う冷徹のやり口は的確かも知れないがそれに対抗してみたいってのがアウトローの感情って奴さ」
「……それでこのメンバーを選んだのはどういう意味なんですか?」
赤羽が視線を送る。この場にはヒエン、赤羽、ライラ、達真、火咲、トゥオゥンダ、ジキル、大悟、ルネ、ルーナ、キャリオストロがいた。
「……ほとんどがヒエンさんより後に大倉機関に入ったものですけれど」
「そりゃそうだ。今からしようとしてるのは明らかな命令違反。普通は防ぐだろう。だからお堅そうな先輩組は呼んでない。それでいて出来る限り戦力を集めたんだ。黄緑がいないのは絶対暴走するから」
「……私もいるんですけど」
「赤羽は信じてるから安心できる。ただ今回は元の世界への同行はない。ルネとキャリオストロの手伝いをしてほしい。きっとかなり体力を使うはずだからな」
「……分かりました」
「それで俺はどうする?俺も戦力はないが向こうの世界に行ってもいいのか?」
「ああ。大悟の監視も含めてな」
「……そう言うとこアンタはよく隠さないよな」
大悟が嘆息。
「けど小夜子とか連れてこなくてよかったのか?ルーナさんの力がなければ抜け出せなかったぞ?」
「赤羽フォロー頼んだぞ」
「……私がパシリにされてる気がするのですが」
しかし無視してヒエンはルネとキャリオストロを見た。
「時間制限は?」
「15分くらいね。一応父様達の心の繋がりを利用して対象のすぐ傍まで送ることは出来るけど」
「だそうだ。僕が可能な限り敵影を消し飛ばすからその間にお前達はあの二人を探すんだ」
「……俺達ちょっとしかその子のこと知らないけどな」
「そもそもどうして俺達が呼ばれたのか」
「実戦に慣れて置くこと、キャリオストロの餌、前述」
「……これって冷徹って言いませんかね?」
ぼやくトゥオゥンダとジキル。
「ルーナ、捜索チームではお前が主力だ。任せたぞ」
「……分かった」
全員の顔を見渡し、それから最後にルネとキャリオストロを向く。
「よし、頼むぞ二人とも」
「はい、父様」
「分かりました」
そして二人がその力を使って会議室内の何でもない空間に穴を少しずつ開けていく。
「じゃあ、行くぞ!」
ヒエンの号令で8人がセントラル世界へと飛び込んだ。
「……どうかご無事で」
赤羽は、穴が消えた後もただ見やりながら言葉をつぶやき残した。


・意識的にはすぐ次の瞬間だった。
「……まさかこんなファンタジーがあるとはな」
到着し、一言。8人が見上げた空は見たこともないような暗い色をしていた。夜から来たとは言えよく見れば太陽らしきものが見えるためこちらではまだ日中のようだ。しかし、その空を尋常ではない数の異形が飛んでいた。
「まさかあれ全部が天死だってのか……!?」
「……みたいですね。僕の中の血がうずきます」
「……ん、GPSが起動してる……!?鞠音のGPS反応が近くにあるぞ!」
「じゃあ大悟……と矢尻と火咲ちゃん……それとルーナはその方向へ。うちらはお空の奴を片付ける」
「……空の、ね」
火咲は一度だけ空を見上げた。そこでは一瞬だけだが紫色の光が通り過ぎた。その刹那に視線を交わし、火咲は前の3人に続いて走り出した。
「……しかし思った以上の凄い事になってるな」
ヒエンが周囲を見渡す。どうやらこちらに気付いたのか幾百もの天死が向かってきている。
「トゥオゥンダは肯定のカードで自分達を守るバリアでも用意しておけ、ジキルは否定の銃で下手数放て。ライラちゃんは無理しないように自衛と攻撃を。……大多数はこっちがやる」
ヒエンは万雷を引き抜く。同時にザインの風を前方に駆け抜けた大悟向けて投げ飛ばす。
「え?うわ!?」
遠くから大悟の悲鳴がしたが大丈夫だろう。それよりも、とヒエンは万雷を一振りして迫りくる天死に向かって電撃を放つ。たった一度の閃きが軽く200は超えてる数の天使を消し炭へと変える。
「……ん、万雷が……」
振り切った後、ヒエンは握っているものの違和感に気付く。まるで生き物のように脈を打っていた。今までこのようなことは一度もなく、まるで何かと呼び合っているように小さく光の点滅も始めている。
「パラドクスの奴とも違う。何かがこの近くにいるのか……?」
疑問を放ちながらもヒエンはまた一閃を放ち、景色を変えた。
その一方でライラは地上に降りた天死と一騎打ちをしていた。緋瞳を用いて天死の動きを見切っては突撃を回避しながらコブラツイスト。人間相手にするのと同じでは軽く解かれてしまうため人間だったら首の骨が折れるレベルで力を放つ。それでやっと相手の動きが鈍くなる。
「……けどこのままじゃ……」
いつ空から別の天死が来るか分からない。一応後ろの方でジキルが空を撃っているが大して命中は出来ていない。むしろ突撃してきたところトゥオゥンダの展開したバリアに阻まれて墜落死している方が多いくらいだ。不安はあるが心配はいらなそうだ。だからこの場をどうするかと考えた時だ。懐から3枚のカードが飛び出てその勢いで天死を弾き飛ばす。
「これは……破滅(スライト)、水難(シプレック)、野獣(ビースト)!?」
3枚のナイトメアカードがライラの前に出てかつてと同じように輝きを発している。
「……どうして今まで反応しなかったのに……けど、今なら出来る!」
突撃を始める天死を前にライラは迷いなくカードを手に取った。
「破滅(スライト)・行使(サブマリン)!!」
鈍色の輝きが迫る天死の緋瞳を一瞬封じ、次の瞬間にはライラは漆黒の鎧を身にまとい、ハンドガンよりやや大きいサイズの銃を手にしていた。
「……」
そして引き金を引き、銃口から魔力の弾丸が発射される。その弾丸は回避行動をとろうとした天死の屍のような翼に命中し、そこからまるでひっくり返したジグソーパズルのように天死の体は粉々に砕かれた。だけにとどまらず発射された弾丸は空を貫き、背景と化していた天死の軍団を次々と貫き、同じ末路へと誘う。
「……あれがナイトメアカードか」
ヒエンが脇目に見る。と、前方。達真と火咲、ルーナ、そして鞠音と潮音が走ってきた。よく見れば大悟が達真に背負われていた。
「ジアフェイ!!」
「よし、帰るか」
「天死の数を減らしたい」
「お空の奴に任せればいい。こちらもこいつらと一緒にだいぶ数は減らしたんだ。それにこの、ここら一帯を満たしすぎている矛盾のエネルギー……長居していると奴らを呼び込んじまう。……目当ての彼女を守りたいんだったら今は退き、敵にうちらを追撃させることだ」
「……分かった」
妙に焦燥な達真から目を離し、ヒエンはルネとキャリオストロを呼び出して再びゲートを開いた。

------------------------- 第93部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
86話「M0N0CHR0ME」

【本文】
GEAR86:M0n0chr0me

・それはセントラル世界から帰ってきた次の次の日の事だ。そもそも帰ってきた日の夜時点で双子と大悟を病院に手配する際に伏見のメンバーに見つかってしまい、伏見提督からこっぴどく叱られて戦いで疲れてる状態でありながら全員夜に3時間マラソンをさせられていた。そのためにヒエン含むほとんどのメンバーが翌日たる日曜日を休息で費やすこととなった。
そして、月曜日。テストが終わり、久しぶりに部活が解禁になった放課後。
「……」
「……」
「……あ〜なんだ。どうした?お前達」
ヒエンが部室にやってくると仏頂面でトゥオゥンダとジキルが囲碁を打っていた。手合いが下であるジキルはトゥオゥンダに星目を置いてもらっているが、トゥオゥンダの方も星目侵されているゆえのハンデだけでなくどこかかなり遠慮のない攻撃的な打ち筋に傾いているように見える。そして何より互いに無口。対局となれば当たり前と言えば当たり前なのだが真剣にやっている場所と違い、この部活では月1でやってくる外部顧問への成果披露を除けば基本的に食っ喋りながらゆる〜く打っている。時にはゲームをプレイしながら打つことだってあるし、突如として覚醒して2回行動とか意味不明なルールを始めたりする。それが今日来た時にはこれだ。
「……ひょっとして先生来るの今日だったか?それとも3人でも出られる大会に参加することになったとか?」
隣の椅子に座りながら局面を見る。元からプロ初段並みの実力者であるトゥオゥンダはともかくアマチュア20級程度のほぼ素人なジキルでさえ殺人的な打ち筋だった。星目とは言えあのトゥオゥンダと互角の打ち合いをしている。そして滅茶苦茶な集中力だった。もしかしたら潜在的棋力はこいつが一番なのでは?
「……」
「……」
しかし二人が全くの無言なのはそれが理由とも思えないのはそれなりの付き合いの長さゆえの直感だからか?
「……キャリオストロ」
「はい、なんでしょう」
何故か掃除用具入れからキャリオストロ……とまほろが出てきた。
「……こいつ、どうかした?」
「……ああ、はい。結構キレてるみたいです」
「キレてる?」
「はい。1つ前の世界のご主人様もそうでしたけれど、ご主人様は基本的にあまり積極的な性格ではありません。なにせ、ご主人様の理想な姿&性格の私が四六時中ずっと一緒にいたのにまったくその気を見せないくらいですし。それなのにいきなりほとんど何も説明なしに命がけの戦いに巻き込まれた挙句、あまりお好きでない運動を徹夜でやらされて……。ジキル様も同じような感じです。前の世界では金を使って気晴らしも出来たんでしょうけどこの世界ではまだ無理そうですし」
「……そう言えばそれもそうだな。忘れかけてたが同じ姿、名前でもあいつらは前の世界の奴らとは別人だったな」
「記憶の継承もありませんし。まほろを使えば記憶の継承も可能なのですけどそれをするなとのご命令ですから」
「……」
ヒエンは二人の隣に戻る。ちょうど碁盤には280の石がある。ざっと見て白(トゥオゥンダ)の100目以上の勝勢。とは言えいつもならその半分程度の手数で全滅にさせられているのだからよく頑張った方か。
「おい、お前達。今からこっちと打ってもらうぞ。それで勝てたならもう戦わなくていい」
「……いいのか?俺ならともかく朝吹に勝てるのか?この前4子置きでも負けてたじゃねえか」
「まあ、確かに互先じゃ勝ち目はないな。だから2つだけ置かせてもらう」
「……たった2つで勝てるとでも?星目……は流石に無理だが5つは置いてもいいぞ」
「それで勝ってもお前が納得するとは思えない。絶対とまではいかないものの不利な状況から勝てないとお前の心は動かない。だから、2つでいい。逆にジキルは4つ置いていい」
「……分かった」
「その上で時間があまりあるとは思えないな。プラスで二面打ちだ。それでお前達に勝てなかったらもうお前達を戦いに呼ぶことはないと約束してやる」
ヒエンは棚から普段は使わない2個目の碁盤を取り出してそれをトゥオゥンダと対面になるように置く。同じようにヒエンを左右からはさむように机を並び替えてトゥオゥンダとジキルが対面する。
ヒエンが石を2つ置く間にジキルもまた4つ石を置く。はっきり言ってヒエンはかなり不利だ。格下であるジキル相手でも最初の頃はともかくここ最近は3つでも勝てなくなりつつある。そして今日はキレてる事で先程みたいに殺意でかなりのブーストが掛けられている。もしかしたらハンデなしの互先でも足元を掬われるかもしれない。そして格上であるトゥオゥンダ相手に2子だけのハンデなどもしかしたら50手も続かずに皆殺しにされかねない。通常なら持って80くらいか。
「……」
そして何よりもこの不利な条件を並べていながらその二人を同時に相手する必要がある。自分で言い出したことだが無謀なんてものじゃない。龍雲寺が早龍寺と雷龍寺を同時に相手するようなものか。……心なしかそれよりはまだ可能性があるんじゃないかと少しだけ心が明るくなる。
「「「お願いします」」」
礼を放ち、そして対局が始まった。


・赤羽は校門前で待っていた。いつもならヒエンが来るはずの時間を既に30分もオーバーしている。携帯にも何度かメールを送ったが未だに返事はない。何かあったのかと思いつつも校舎にも下校のため歩く生徒達にも異変らしきものは見当たらない、全くの日常だ。零のGEARの持ち主であるヒエンならば病気や怪我の類と言う事もあり得にくい。ならばまた何かトラブルにでも巻き込まれている?
「……女子更衣室にでも入って指導でもされているのでしょうか?」
最近はあまり多くないが会ったばかりの頃はそう言う面でのトラブルも多かったような気がする。と、考えていた時だ。
「ん、赤羽か」
昇降口から来たのは斎藤だ。
「……斎藤先輩、こんにちは」
「ああ。また甲斐を待っているのか?あいつ今日は部活の日だぞ?」
「部活……囲碁部でしたか?」
「ああ。この学校に空手部どころか武術系の部活もないしな。まあ、それでどうして囲碁やってるのかは知らないがね」
「……大体どれくらいに終わるんでしょうか?」
「さあな。あまり真面目にやってるわけじゃないみたいだし。一応下校時刻は6時だから長くても2時間くらいだな。……会っていくか?そこの部外者用面接室で手続きすれば中に入れるかもしれないぞ。それで許可が出たなら俺が部室まで案内するけど」
「……分かりました」
赤羽は自分で驚いていた。こんな返事をするつもりはなかった。気付けば返事をしてそして、斎藤の案内で手続きを済ませ、そして踏み入れたこともない高校の廊下を歩いていた。当然ながら中学の制服ではかなり目立っていて廊下では何度も視線を送られた。斎藤のクラスメイトらしき男子からはからかいの声もあったがあまり気にならなかった。緊張とか焦燥とかいろいろな何かでいっぱいでよく分からない。どうしてたかが高校に入った程度でここまで気持ちが混雑するのか。これもまた歴代の赤羽美咲テロメアに由来する何かなのだろうか?
そうしてよく分からない感情のまま到着したのが社会科準備室。
「部員が3人しかいなくてまともな部屋が用意されてないみたいだな。まあ、よほど大きい高校とかじゃないと正式な部室を用意される文化部とかほとんどないと思うけどな」
「……ありがとうございました。ここからは私一人でも大丈夫です」
「そうか。じゃあ俺はこれから稽古だから、またな」
「はい」
斎藤は笑顔で、しかし駆け足で去っていった。少ししてから男性教師の怒声が聞こえたような気がしたが今はそれより正面の沈黙だ。
「……失礼します」
中に入る。その沈黙の中に入る。そこは、正しくは沈黙ではなかった。
「……」
複数の息遣いと石を碁盤に打つ軽快で重厚な音が響いていた。ヒエンとトゥオゥンダとジキルが今まで見せたこともない程の集中力を以てその音を奏でていた。しかもよく見ればヒエンだけ二人を相手にしている。
「……ヒエンさん……」
声を漏らす。しかしヒエンには届いていないのか反応はなく、まるで録画映像のように光景は続いていく。だが、すぐに違和感を見つけた。
「……」
トゥオゥンダが既に5分以上も動いていない。死んでるとかそういうのではなく5分以上も全く身動きせずに盤上の様子を眺めているのだ。その間にヒエンとジキルがほとんどインターバルなしに石を打ち合っている。
「……今は邪魔しない方がいい」
「ルーナさん……」
何故か掃除用具入れからルーナ、キャリオストロ、まほろが出てきた。
「……いつもこんなに集中して囲碁をしてるんですか?」
「いや、いつもじゃない。ただ今日はみんな本気らしい。だから邪魔しちゃいけない。……尤も物理的に何かしない限りこの集中の均衡は崩れないと思うけれど」
「……」
4人は黙って3人の対局を見やる。


・ヒエンは手を止めて手に握った汗をズボンで拭う。今の相手はジキルだけだ。トゥオゥンダに関しては40手時点で相手が絶対に困り、思考を強制するようなそんな手で足止めしている。攻めている時でも攻められている時でもなく、好機が見えた時である。暗がりの森の中で光を見付けた時、あるいは砂漠でオアシスを発見した時にこそこの男は尋常でないほど慎重に思考を行う。実際これで既に20分ほど時間を稼いでいる。しかし、その先に待っているのは予想も出来ない完ぺきを通り越した猛攻だろう。
一方でジキル。互いに限界まで集中を練ったノンストップの殴り合い。今までのが嘘のような凄まじい采配だ。しかし、僅かずつだがこちらの風情に傾きつつある。その場しのぎでもがけばもがくほどにジキルの戦局は悪いものとなっていく。しかし、この状況になってもまだジキルはほぼノンストップで石を置いている。まだこの状況に気付いていないのか、それともいつしかこちらが嵌められていて実は既にオアシスを見付けてそちらに動いているのか。現在138手。白(こちら)に5目ほど優勢。普段のジキルの棋力ならばこの5目は決して見切れたものではない。だから未だ自分が有利か或いはどこまでやれるかの模索をしていると見るのが現実的か。だが、先日大倉機関で診断されたこいつのGEARは赤羽と
同じく狙撃。自身のGEARを理解している赤羽と違うのは分かるが初めて会った時から何度か赤羽には零のGEARにわずかに存在していた間隙を当然のように撃ち抜かれている。それと同じことが今のジキルに出来るとすれば……。
「……ん、」
別の方から石を置く音が聞こえた。トゥオゥンダだ。ここでトゥオゥンダの思考の嵐が晴れて必殺の一歩が踏み出された。ホシに対しての3三。小角を奪う見え見えの一手。恐らくこの時点でトゥオゥンダにはいくつもパターンが用意されている。右から攻めても左から攻めてもたとえ放置したとしても2,3手先にはもう勝負が終わっているだろう。トゥオゥンダほどの男が20分以上も費やして導き出した一手。それを思考で打ち破るには何時間あっても足りないかもしれない。それに忘れがちだが二面打ち。こちらがジキルを相手に繰り出した戦術をトゥオゥンダは生で見ながらリアルタイムで対策を練れる。元々定石を使った戦術はあまり得意ではない。ジキルを相手には今までつかってきた奇策やこれまで
隠していた罠の一手までをも繰り出している。もしも相手がジキルだけであったなら、もしくは一対一の2本勝負だったならもう少しは楽な勝負だったかもしれない。しかし、思った以上にこれはやばい。まずいではなく、やばい。


・トゥオゥンダは22分31秒ぶりに手元に置いていた美味死(おーいし)ねお茶のペットボトルを口に含んだ。
相手が定石を用いることが少ないばかりかそもそもろくに定石も知らないで奇策ばかりを用いる事は隣の様子を見るまでもなく今までの対局で十二分にわかっていることだ。この二面打ちの絶対的不利を少しばかりでも和らぐためにこちらに長考をさせてその間にジキルを仕留めようとしていることも分かっている。普通にやっていてもこの奇策の一手を破るのはそうそう難しいことではないだろう。いつもはわざとその手に引っかかったりして奇策の後の攻防の様子を研究したりもしている。
隣を見る。相手は気付いているかは分からないがジキルは相手の張った罠には気づいていない。状況はヒエンに2目有利。このまま進めばまず間違いなくジキルは負けるだろう。だが、その状況を作り出しただけの時間。それをこちらが最大限利用した。この勝負……もしも相手の潜在能力がこちらのそれを上回り、それをこの一番で叩きだせない限りはジキルは負けても自分は負けない。そうして相手に自分達の参戦を引き留める事が出来るだろう。
……しかし、碁はともかくとして世界が大変なのは自分も分かっている。ここ数日で意味不明なほど常識が、日常が変わってしまった。それでもジキルならともかく自分には分かる。これはドッキリでも何でもない。顕然たる事実であり、そして尽力しなければ打ち破れない絶望である。たかが自分達二人程度がどうしたってと思うこともある。実際ジキルは100%そう思っているだろう。自分も半信半疑だ。しかしその半信半疑と言う冷静な仮面の下には紛れももなくこれが真実であり、自分が手を貸さなければ自分はもっと安全ではない地獄とも言える境遇に立たされてしまうのではないかと言う臆病な疑念も存在する。先日の徹夜での体育会系懲罰が身に沁みすぎていて不貞腐れて見せてはいるものの世界の
危機ひいては自分の危機に関しては確かに見過ごせない。
「……」
ヒエンがこちらに対して返し手を打ってきた。それは想定内の極めて凡雑な防御だ。実際にヒエンの棋力はせいぜい5,6級程度。まだジキルでは3つ石を置かない限り決して勝てない程度だがかつて院生だった自分相手ではハンデを逆にしても差は50目以上。その院生時代の自分が相手でも差は10目以上はある。この2年、ヒエンやジキルは互いや自分を相手にすることで少しずつだが高め合ってきている。だが、逆に自分はほとんど相手をしてこなかった。下手に下手を相手すればそれに慣れて己が手の衰えに通じてしまう。代わりに毎日のようにネットを通じてかつての院生仲間や先輩を相手に対局している。別にプロの棋士になるのが夢だとかそう思っているわけではない。しかし数少ない趣味をわざわ
ざ見捨てるのも惜しい。だから打っている。少々退廃的な理由だがしかし情熱がないわけではない。だからヒエン程度の相手に負けてやる理由は……
「……ん、」
それから2手を続く。本来ならここでもうほぼ詰みの状態だったはずだ。しかし、状況はそこまで変わっていない。首の皮一枚……と言うほどではないにせよ相手はまだ生きていた。ギロチンに掛けたつもりが、血まみれではあるもののまだ首を落とされていない、首の骨にひびが入った程度な損害。先程まで80目ほどの差。さっきの手で挽回不可能と思う程度には必殺の一撃だった。しかし、今では100目差に広がったとは言えまだ生きている。
……手探りの一手を。
トゥオゥンダは打つ。本来なら死体蹴りとも形容すべき残虐な一手を。しかしそれに対してヒエンは微かに口元に笑みを浮かべながらほぼノンストップで次の手を打ってきてはジキルとの盤面に視線を戻した。
「……まさか、」
より冷静になって盤面を見た。内側から食い破るように、小角に至っては堅実に固めて敵陣を霧散させるように陣を作っていた。だが、先程ヒエンの打った天元。それが軛(くびき)となってこちらの陣をわずかにかき乱していた。そしてそこから生まれた歪みはある途方もない……戯言に相応しいような陣形を生み出していた。
「……総陣ウッテガエシ……!?」
気付けば自分がどう攻めようと守ろうとも中央の26個の石がすべてウッテガエシで奪い取られてしまうような形となっていた。思えば確かにこの対局は妙だった。本来小角などの外側が強力でそこを奪い合うのが囲碁の常。そうでありながらヒエンは中央に本陣を構えて鈍く遅くしかし深く碁盤で采配を奏でるタイプだった。実際隣のジキル相手にはそうしている。しかし、自分との対局では一切中央では地を作っていなかった。特異を捨てたただの奇策かそれが通じない時のための覚えたての定石のどれかだと思っていた。だが違った。相手はこちらにわざと中央にも陣を作らせてから中央の陣を奪うための手をかなり初期のころから練っていたのだ。このまま進めれば中央を捨てて小角を全て奪えたとしても3
目差でこちらが不利。わざわざ序盤からこの手を……わざわざジキルを相手にしながらも練って練磨してきたこの布陣を今更打ち破るのは不可能。
あの時間をかけさせる名目で打った手は本当にただ時間をかけさせるためだけの手で本当は既にその前に中央狙いで……ギリギリで勝てる程度の計算でこの勝負は終わっていた。
「……ないな」
結局それから20分ほど考えても対策はなく、トゥオゥンダは投了した。同じ頃に隣の盤面では整地が行われ、216手でヒエンの6目差による勝利が決まった。
「……ふう、勝った勝った。って赤羽!?」
背もたれに全体重をかけ、まるで嘔吐しそうなほどに息を吐き出してからヒエンは声を上げる。他の二人もそれで初めて赤羽に気付いたようだった。
「……少し遅いようなのでここまで来てしまいました。意外と真剣に部活をやっているのですね」
「まあ、今日のは負けられなかったからな。……ってわけだ。お前(め)ぇ達(ら)」
ヒエンは制服の第一ボタンを開けながら二人を見た。
「……好きにしろ」
「え?」
「強制したいわけじゃない。戦いたくないのに無理やり戦わせても意味がない。ここから先の戦いは誰が死んでもおかしくはない、地獄だ。一昨日みたいにちょっかい出す程度ならともかくそう遠くないうちにあの地獄が日常になる。寝付く暇もないだろうし、恐ろしい程事態は意味不明に悪くなっていく。お前ぇ達には幸いにも力がある。攻め入るには不足していたとしても最低限自分を守るくらいは出来るだろう。この前も言ったがこっから先は例えこっちが全力でやっても生き延びられる可能性は0じゃない。他の奴らにしてみれば無事に生き延びられる可能性はもっと低いだろう。だが、守りに徹すれば少しは可能性も上がる。だから、好きにしろ」
「……キャリオストロ」
「はい、なんですかご主人様?」
「後で継承はしないでいいけども前の世界での記憶を教えてくれ」
「……はい」
「ジキルはどうする?」
「……お前達がそういう答えに至ってんのに俺だけ楽するわけにもいかないだろうな」
「めぐっちがいるのにか?」
「……ずっと一緒にいたって守り切れるとは思えない。だったら協力してさっさと平和にしてしまった方が早くないか?」
「……ってわけだ赤羽。こういう馬鹿どもだがうちら3人まとめて大倉機関三船機関伏見機関の指示には従って世界を救うぜ。それがうちらの答えだ」
「…………馬鹿ですね。皆さんの力を使えば自衛くらい簡単なのに」
「それじゃつまらないし、いつまで経っても終わらなきゃ困るんでな」
「……分かりました。ならもう私からは何も言いません。……校門前でスタッフが待っています。大倉機関に行きましょう」
赤羽が背を向けると男3人は拳を突き合わせた。
「「「やぁぁぁぁぁぁってやるぜ!!!!」」」

------------------------- 第94部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
87話「最後の因縁」

【本文】
GEAR87:最後の因縁

・二人の説得を終えてヒエンと赤羽が大倉機関に向かう。ただでさえ定例会議に遅刻気味なのだからその表情は硬い。車内で色々言い訳を考えながら会議室に入った時だ。
「いい加減になさい!!」
怒号が響く、その声は紫音だ。それを飛ばす先には達真と黄緑がいた。
「……どういう状況?」
ヒエンは近くにいた鈴音に尋ねる。
「あ、はい……。ここ最近紫音が蚊帳の外でして、それでその間に矢尻君や黄緑さんが無茶してたことを知って……」
「……そう言えば黄緑の奴、紫音ちゃんと喧嘩してるみたいなこと言ってたな」
喧噪を脇目にヒエンは空いている席に座る。隣には早龍寺がいた。
「おい、止めなくていいのか?大体はお前も黄緑と同意見だろ?」
「……そうかもしれないがな。はっきり言ってここ最近は色々な事がある上、それが伝達されていない。あまりにお前や長倉大悟を中心として事件が起きすぎている。紫音ほどになることはないだろうがそれでもヒステリックや混乱を起こす奴は少なくないだろう」
「……まあ、下手すれば1日で世界を揺るがすような出来事が平然と複数起きるくせに会議そのものは週1のままだからな。まあ、そもそもメンツが全員揃えるっていうのが中々機会ないしな。……けど紫音ちゃんにしてはちょっとヒステリック過ぎないか?ブラコンだから黄緑相手にあれならまだ分かるがどうして矢尻相手にもあんなにキレてるんだ?」
「……今までは何かを知っている最上が一方的に紫音を挑発していてこの両者でのみ言い争いが起きていたんだが、昨日からどうも矢尻の様子がおかしくてな」
「と言うと?」
「……さっさとこの世界をやめて矛盾の安寧を終わらせたいって言い張っているんだ」
「……あいつ、あの世界で何かあったのか?」
「……会ったのよ」
声は火咲。こちらを見ずに腕を組みながら。
「死んだと思っていたガールフレンドにね。それからはまるで取りつかれたように」
「……それで君も少しご機嫌斜めなのか?」
「別に?あなたにはそう見えるのかしら。相変わらず節穴な目を持っていること」
「……前から思っていたが一体あの赤羽から何があればこんな性格になるんだ?」
「そうね。両親がいないまでも暖かな仲間や恩人に囲まれながら育っていたというのにいきなり訳も分からないうちにその世界が終わって、気付いたら最上火咲として幼い頃から実の父親から薬物レイプを繰り返されながらついには子を孕んで、でも何度も何度も止まらない終わらない暴力でそれを腹の中で死なせてしまった、あの日の光景から毎日のように夢で見るようになればこんなやさぐれ女になるんじゃないかしら?」
「……」
ヒエンは小さく俯いてから喧噪へと視線を逃す。
「達真君、この世界をすぐに終わらせるってどういうことか分かってる?」
「あなたの大事な人、後輩であり友達であるリバイスが消えてしまうということだろう。だがそれはもう本人たちも了解済みのはずだ。それに、確実に消える存在ともしかしたらまだ救えるかもしれない存在を天秤にかけることなんて出来ない」
「それはあなたが自分の気持ちを優先しすぎなだけでしょ!?」
「紫音、そこまでにするんだ。矢尻君だってお前をいじめたくてこうしているわけじゃない」
「兄さんは、来音と会いたいから達真君の味方をしてるんでしょ!?……二人そろって恋人に会いたいからってもう少し周りに目を向けてもいいんじゃないの!?」
「……し、紫音……」
「鈴音は黙ってて!」
後ろからのまさかの攻撃。振り返らずに止めて制して正面の二人への攻撃を続ける。未だに何かを言おうとしている鈴音のその表情を見るわけにはいかない。どうせ相手も今まで好き放題してきたのなら自分だって。
「伏見機関からPAMTとかって言うののマニュアルもらってるんだからまだその操縦を身に着けてからでも元の世界に戻すのは遅くないんじゃないかしら?それにヒエンさんだって前に言っていたようにまだまだこの世界でやるべき事はたくさんあるじゃない!」
「自分さえだませない嘘で現実逃避をしないでくれ!俺は元の世界に戻ったがあれくらいの脅威ならジアフェイがいればどうとでもなるはずだ!それでも事態は刻一刻とまずい方に向かっている!ここで一週間でも一か月でも待ちぼうけしてそれで戦力が整ったとしてもその倍以上に、ジアフェイすら太刀打ちできないような脅威に成長していたらどうするつもりなんだ!」
達真もまた椅子から立ち上がり、机を挟んで紫音を睨む。それを多くがどうしていいか分からない顔で見つめる中。
「……どっちも醜いわね。もっと叫びたい本音があるくせにどうでもいい見てくれの論を楯にして見せて」
火咲が嘆息と嘲笑をこぼしながら立ち上がった。
「どこかの誰かさんなら相反する二人の意見、それをどっちも貫いて見せる、それが倒錯だ英雄だなんて言うかもしれないけど、私はむしろ逆。……二人そろって掛かってきたらどう?もう面倒くさいから二人まとめて殺してあげる」
火咲が手をついた机は一瞬で粉々になり、にらみ合う両者への道を作った。
「邪魔ばかりして!!」
紫音は椅子を踏み台にして火咲に向かって跳躍、そのまま飛び蹴りの構えをとった。対して火咲は両手を前に伸ばす……制空圏を形成して迎え撃つ。
「玄武絶海」
火咲は口元に笑みを浮かべ、まっすぐミサイルのように飛び来る紫音をそのままに迎える。紫音の右足が火咲の左手に触れる寸前。その間にロープのようなものが飛来してその激突を止めた。
「そこまでだ」
ヒエンがザインの風を使っていた。同時に黄緑が牙を伸ばして紫音を中空で掴みあげる。
「君もだ」
「離して!!離してよ!!」
「……」
しかし止まらないものがいた。火咲だ。火咲はザインのロープをかいくぐり、紫音へと接近する。
「……くっ!しまった!!」
ヒエンが駆けるも、火咲の方がやや早かった。そして
「朱雀抉天……!!」
変調を繰り返し、もはや目で追えないほどの細かな動きを繰り返しながら火咲は動かない紫音に向けて飛び回し蹴りを放つ。ヒエンが手を伸ばすもわずかに届かない。しかし、火咲もまた届かなかった。
「!」
火咲の足が粉砕したのは赤羽が投げた椅子だった。
「邪魔しないで!!」
「あなたのやり方はやはり乱暴すぎます」
「ひな鳥のくせに!」
着地した火咲は、後ろから迫るヒエンの手を制空圏で払い、視線の先で地上に下ろされた紫音を睨む。
「あんたなんか!!」
「やめるんだ紫音!!」
「もうやめて紫音!!」
暴れる紫音を黄緑と鈴音が止める。それを見たヒエンはザインの風のロープを無数にまで分裂させて火咲をとらえるために繰り出す。当然自身から零のGEARの効力を直結させている。対して火咲は制空圏の効果を最大にしてそれらを可能な限り払いのけ続ける。
「どうして邪魔するのよ!一番簡単な方法でしょ!!第一こいつらのために割いていい時間なんてあるの!?」
「なかったとしても!!」
さらにロープの数を倍にしてついに火咲の両腕を絡めとる。次の瞬間だ。室内に大きな赤が咲いた。
「!!」
とらえたはずの火咲の両腕がその本体から切断されていた。否、二の腕のあたりの部分が粉々になっていた。
「まさか!!」
「っ!!」
激しい出血のまま火咲は地を蹴って紫音へと距離を縮めた。
「白虎凄愴……!!」
その爆発的な加速力を以て火咲はミサイルのように紫音に向かっていく。
「くっ!!」
紫音は瞬時に全力を以て自分をふさぐ黄緑と鈴音を押し退けるとその一撃を両腕で受け止める。同時に、
「ううううううううあああああああああああああ!!!」
紫音の両腕もまた赤く叫んだ瀑布の中に消える。しかし、怯まずに紫音は一歩を踏みこみ着地したばかりの火咲に頭突きを打ち込む。
「っ!!」
体格差やタイミングから火咲は真後ろに倒れ、同時に紫音は額からさらなる血を放つ。その中には額の骨も混じっていた。が、まだ紫音は止まらず赤く染まった視線で火咲を睨む。
「逆上(アベンジ)!!」
念じると無傷だった火咲の額から破裂したように血液と骨の欠片が混じって宙を舞う。心なしか両腕の出血も勢いを増したように見える。
「……っ、のおおおおおおおおおおっ!!!」
しかし立ち上がった火咲が回し蹴りを放つ。それを紫音は跳躍しながら敢えて左足で防ぐ。と、左足が膝から砕けて噴血でちぎれ飛ぶ。が、傾き、再び頭突きの形で火咲に倒れる紫音。しかし狙いは頭突きではなくその鼻。倒れる勢いのままそして激痛の怒りのままに火咲の鼻に食らいつき、一瞬で噛み千切る。
「……っ!!」
「アベンジ!!!」
さらにそこで2発目を放ち、火咲の左足が吹っ飛び、再び大量の出血を放ってその勢いで火咲が右に倒れる。が、紫音はただでは転がらず、先に倒れた火咲の右足……その膝に顎から倒れ込み、己の顎ごと骨を砕く。
「アベンジ!!」
砕けた顎を相手にも移し、火咲は喉と下あごの間から激しく血を吐く。
「こんのおおおおおおっ!!!」
さらにさらに紫音は右足一本で立ち上がる。その口に火咲のちぎれた左足を咥えながら。足首を咥えて血塗られた太ももを先端にしてまるでこん棒のようにして倒れたままの火咲を何度も殴る。2,3発もすれば火咲の肋骨から砕ける音が響く。
「ふんっ!!!ふんっ!!!!ふんっっっ!!!!!」
殴打を続けると歯が折れる。そして4発目を繰り出して火咲の前歯が全部砕ける。
「はあ……はあ……はあ……」
火咲の足が落ちて血だまりの中に落ちる。紫音もまた激しく吐血を繰り返す。と、急にバランスを崩して倒れた。見れば自分の体重を支えていた右足が足首のあたりから粉々になっていた。火咲の右足が触れていた。
「…………ううう、」
四肢を失い、もうどちらのものかも分からなくなった血だまりの中で紫音はうつぶせに倒れて眼光を虚ろにしていく。
「……ここまでだな」
ヒエンが声を捨てると、彼以外の時間が止まる。
「……どうして最後まで止めなかったんだ?」
同じく動ける黄緑がヒエンを睨んだ。
「決着くらいはつけさせてやった方がいい。まあまさかここまで本格的な殺し合いになるとは思わなかったがな」
「……もっと平和的な解決法もあったんじゃないのか?」
「あればとっくに平和になってるさ。とりあえず時間を止めている間に二人の残骸をなるだけ集めよう」
「……どうするつもりだ?ここまでズタズタになったらもう治らないんじゃないのか?」
「ここの施設の中には死にさえしなければ完治出来る装置があるんだ。それを使えば助けられるはずだ……多分な」
「……戻らなかったらどうするつもりだ?」
「可能な限り望むことをかなえてやるよ」
二人がザインの風を変形させた大袋にそれぞれ火咲と紫音の残骸を入れて、治療室へと向かう。それぞれカプセルの中に入れて電源を入れてから黄緑は時間を戻す。流石に損壊率が高いせいか完全修復には時間がかかりそうだった。
「……本当に修復してる。ここの医学は化け物か?」
「まあ、人間文明じゃない奴の技術取り入れてるらしいからな。……と言うかお前の父親発祥の技術なんだが」
「パラドクスだっけ?父さんもよく分からないものになってるよ」
「……前に紫音ちゃんにはお前は父親がパラドクスになる前の子供だって答えちまったが実際はどうなんだ?」
「……少なくとも僕が生まれる前にはもう父さんはダハーカではあったよ。まあ、僕がダハーカなのは遺伝とかじゃなくて普通に後天的なものだけど」
「……紫音ちゃんとはどうなんだったっけか?」
「紫音とは血のつながりはないよ。ただ家が近いし親同士が仲がいいだけ。兄妹みたいだけど実際はただの幼馴染さ」
「……なんだつまらない」
「……それでこれからどうするんだ?僕としても来音って子を早く迎えに行きたいから矢尻君の意見には賛成するよ」
「……こっちゃどっちかって言ったら紫音ちゃん側だな。けどどちらかと言ったらだし。この子が出まかせに言った言葉が都合の悪い物語でなく現実って可能性も否定はできない。だからこっちゃ長倉が目を覚ましてから鈴音ちゃんと二人で話し合わせてどうするか決めてもらうことにする。どのみちもう長くて一週間くらいだからな」
「……もっと短くなかったか?」
「ああ。それだが前までは八千代ちゃんが一人で負担を抱えていたけれどジキルの奴が定期的にその負担を否定することで少しだけ長引かせられるようになったんだ。あの魔王の弟の嘘つき野郎が無事だったらもうちょっと長引かせられたかもしれないけどな」
「その嘘つき君はどうしたんだ?」
「一度無理やり終わらせられてしまったこの世界を一日だけリセットさせた時の負担が強すぎてまだ安静中だそうだ。多分この世界の終わりまでには間に合わない」
「そうか。……僕が言えたことじゃないけれども新しい世界に臨む前に倒れる人が多すぎて不安になるな」
「まったくだ」
修復作業をしばらく見てから二人は会議室に戻る。と、そこではやはり当然のように伏見提督による大説教タイムが行われており、二人もまた渋々それに参加することになった。

------------------------- 第95部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
88話「最後の宴(けっせん)・前編」

【本文】
GEAR88:最後の宴(けっせん)・前編

・それはとある夜の事だった。正確に言えば夜明けに近い未明の頃合い。
「……ここも人が増えたな」
ヒエンが妙な気配を感じて目を覚ます。いつもは一人分しか敷かれていない布団。しかし今日は他に2つ敷かれていた。赤羽、久遠が泊まっていたからだ。二人はウェルカムだった。しかしヒエンの右に敷かれていた二つの布団。そこにはルーナとルネが眠っていた。……この二人の手前、特にルネの前で他の少女と事を構えるのは流石に気が引けた。それに大体赤羽はまだ中学生だし。久遠は流石に小学生だしそう言うサービスを担当させるならまだしも本番をやるには幼すぎる。まあ、赤羽よりかもルーナの方が肉体はやや幼く感じるのだがそれはそれだ。
「……さて、」
充電中のスマホを手に取る。そこにはやはりメールが届いていた。相手はライラだった。ライラは今晩泊りには来ていない。何でも、噂の双子の様子がどうしても気になるからと達真と一緒に大悟や双子の見張りについているからだ。そしてその見張りは意味を持ってしまったようだ。
「ヒエンさん、夜分遅くに申し訳ございません。潮音さんの天死の血が暴走を始めました。やはりセントラル世界でパラドクスに調整を受けたのが悪影響となっているようです。鞠音さんともども地下のかつてもう一人の小夜子さんが囚われていた場所で拘束しています。このメールにお気づきになったら一度大倉機関本社ビルに来てください」
「……まあ、ただの一度の暴走で済むわけもないよな」
布団を畳み、制服に着替えると音に気付いたのかルーナが目を覚ました。
「……何があった?」
「天死だ。噂の双子に異常が起きたらしい。ライラちゃんが動いているみたいだから様子を見に行く」
「私はどうする?」
「……」
時計を見る。時刻は4時半程度。赤羽は確か制服を持ってきている。久遠はランドセルも。
「……この子達を起こそう。問題が解決し次第それぞれ学校に行けるように。ルーナはそのサポートを」
「分かった」
ルーナは久遠を優しく、ルネの方にはどこから出したのか20キロのダンベルを叩きつけて起こす。
「ひぎいぃぃっ!?ちょっと瑠那あんた殺されたいの!?」
「……んみゅ。ルネちゃんどうかしたの?」
「……なんですか」
その騒ぎでヒエンが起こす前に赤羽も目を覚ました。その真っ赤で長い髪が下ろされている姿は確かに初めて見るはずなのに昔どこかで見覚えがある気がした。
「ライラちゃんからだ。噂の双子に異常が起きたから機関に行く。君達もすぐ用意をしてくれ。状況が終わり次第そのままそれぞれ学校にも行くように」
「分かりました」
「え~。せっかく休めると思ったのに」
ルネをなだめながらヒエンは二人に目配せ。すると二人はその場で寝間着を脱いだ。エアコンもないこの季節に下着姿の少女が二人。赤羽はブラジャーもしていないからその年かさにしては大きな胸が丸出しとなっている。なお久遠も何故か肌着を脱いでわざわざ胸を見せつけている。
今晩はこの5人で一緒に風呂にも入っているから胸だけでなく下も見ているのだがしかしそれでもトップレスの姿を見れば視線と時間を奪われるのは仕方がない事だろう。
「あ、死神さん。ズボンにテントが出来てるよ。もうお風呂でさんざん久遠ちゃん達の裸見てルネちゃん達に散々吸われたのにまだ勃っちゃうんだこの欲張りさんは」
半裸の久遠が指でヒエンの屹立したそこをズボンの上から撫でる。
「おい、久遠……」
「あ、久遠ちゃん!!父様のそこは私と母様だけのものなの!!」
「え~?久遠ちゃんにもちょっと分けてよルネちゃ~ん。久遠ちゃんも美咲ちゃんも死神さんとエッチして結婚すれば久遠ちゃんと美咲ちゃんでも女の子同士の夫婦になれるんだからさ~」
「久遠。まず重婚自体出来ません」
赤羽は既に制服に着替えていたがしかしどこか視線がしどろもどろ。
「……廉。とりあえずそのまま外に出てもいいものなのか?」
ルネの両脇を抱えて持ち上げることでルネの着替えを手伝うルーナは眉間にしわを寄せていた。
「……一応自然に元に戻ると思うがな」
「あ、じゃあ父様ルネで気持ちよくなって。さっきみたいに吸い尽くしちゃうよ?」
ルネの両足の断面からイカかタコの足のようなものが生えてきて先端がくぱぁと開く。
「……確かにこういう時には便利だがあまりそれは気持ちよくなかった。……感じてる暇もないし」
「あうっ!!」
本気で落胆したルネが両足を崩してルーナに全体重を預ける。が、
「仕方ないから瑠那でもいじめよう」
「あ、ちょっ……!!」
直後に両足から再び触腕を生やしてルーナのスカートの下から中にぶち込む。
「やっぱりゼノセスターは足で犯さないとストレスたまっちゃうのよね~」
「あなたは……んんっ!! ゼノセスターを否定……っ!!したくせに……ひゃっ!!」
「うふふふ。可愛いわよ瑠那。ゼノセスターなら相手が男でも女でも犯せるのがいいのよね。このまま瑠那との間に子供作っちゃおっと」
「や、やめ……ぁ、うううううぁぁぁん!!」
とうに下着は引き裂かれ、そこにぶち込まれたルーナの体重が触腕に支えられてルーナは空中でひたすら喘ぐ。挿入された時点でルーナの細胞の一部にルネの細胞が仕込まれて体の自由が封じられる。ルネが触れている限りさらにはそのルネが触れているものに触れている限りルーナはその能力を封じられる。最悪の相性だった。
「うわあ……」
その光景に今まで嬉々としてた久遠の表情が青くなる。既にその眼前ではルーナが寝ていた布団に大量の液体が零れてはシミを作っている。
そして5分もしない内にルーナはどうしようもない衝撃と感覚に襲われて空中で力尽きてはそのまま己が出した液体の中に倒れ込み、動かなくなった。
「……え、ルーナちゃん死んじゃったの?」
「大丈夫じゃない?まあ、しばらく立てないと思うけど」
キラッキラな表情のルネが背伸びをしてから外に向かう。
「じゃ、行こうよ父様。役立たずの瑠那なんか放っといてさ」
「……ちなみに聞くけどもルネ?」
「なぁに?」
「……ルーナに射精したのか?」
「もち。5,6発くらいは出したね。ゼノセスターの子種は凄まじい性能だから瑠那も2,3か月くらいでゼノセスターの子を何人か一気に出産すると思うよ?」
「……なんてインモラルな」
もう一度足元に転がるルーナを見る。
「…………」
ルーナは股間を押さえながら時折思い出したように痙攣するだけでその他一切の行動をしていなかった。意識があるのかも怪しい。
「……これでも非常時なんでな。置いてくけど恨むなよ?」
そして着替え終わった久遠達を連れてヒエンは部屋を出た。


・本社ビル。
「お待ちしていました、ヒエンさん」
メールが来てから2時間くらい経ったが何も変わらず知らずライラは地下室前に立っていた。
「で、潮音ちゃんはともかくどうして鞠音ちゃんまで抑え込んでるんだ?」
「……潮音さんが鞠音さんを襲ったからです」
「……は?」
「セックスですよ。潮音さんが鞠音さんと。僕が駆け付けた時には潮音さんのあそこから大量の精子が噴き出ていたのでもしかしたら間に合わなかったかもしれませんでしたから。先程までこの部屋の細胞検査装置で調査していましたが鞠音さんの子宮内に潮音さんの精子は確認されませんでした。でも膣内には少しだけ含まれていたのでもしかしたらがあるかもしれません。なのでここで見張っておこうと」
「……二人は?」
「眠っています」
「……」
確か前に鞠音から聞いたことがある。彼女達の父親は元々女性で、しかし生えていた。そしてそのまま男性として成長として父親になった。これはライラから聞いた天死の話と同じだ。だから乃木坂姉妹の父親は天死で間違いない。そして天死のDNAはどれだけ子供を作ってもほぼ100%天死としてのDNAに支配されてそれが薄くなることはない。だが、母親の胎内で何があったのか本来双子両方に注がれるはずだったそのDNAの100%全てを潮音が引き継いだ。だから鞠音には天死としての力は備わっていないし生えてもいない。しかしその分、潮音には通常以上に天死の力が備わっている。そしてさらにパラドクスによって何らかの仕掛けも残されているとされる。
「どうして潮音ちゃんは鞠音ちゃんを襲った?ただの性欲か?」
「……お二人の口の中や胃には長倉さんの精液が含まれていたのでそう言うことをしていたのは確かです。もしかしたらそれがきっかけで鞠音さんを襲ったのかもしれません。そして天死としての本能によってその数を増やそうとしたのかも」
「……一応聞いておくけれどもどうしてライラちゃんは平気なんだ?」
「……僕には心に決めた人がいるので。それに元の世界にはちゃんと子供達もいます。あの世界ではこの世界以上に研究が進んでいて対策も可能なんです。それに、僕には子供が何人かいます。もしかしたら天死は無限に子供を作れるわけではなく一定の数を作ると性欲が薄くなるのかもしれません」
「……そうか」
「アルデバラン星人は性欲は強いしそれなりに厄介だけどゼノセスター程自由が利くわけじゃないのよね。自然発生と人工生成の違いかな?」
「……ヒエンさん、そちらの方は?」
「娘らしい」
「どうも。ルネッサ=峰山よ」
「……いつの間にお子さんまで……。けど娘かぁ、僕も久しぶりに会いたいな」
「……ライラちゃんは人妻でしかも非処女だったのか」
「や、僕は処女ですよ?童貞ではないだけで。と言うか天死ですから多分女性としての未来は期待できませんね。僕の父さんも天死で元は女性だったんですけど今は男性ですし。……外見以外は」
一瞬だけライラは遠い目をした。しかしそれを直してから検査室の方を見る。
「……あらあら先輩。おはようございますですわ」
鞠音が目を覚ましていた。その姿は全裸だった。
「……」
「あらやだ。結局先輩にはすべて見せてしまいましたわね。まあ、おそらく察するに検査の際に邪魔だったのではないかなぁなんて思ったり思わなかったりするのですがそのあたり如何様ですの?まあ私としてはもう見せてしまった以上はあまり構うようなことはありませんしかつても先輩に対してはほとんど見せたこともありましたしね。あの時は赤羽さんに止められてしまいましたが。それで、どうですか?私のおまんまん。処女は先程捨ててしまいましたがまだまだ現役女子中学生の素晴らしい新鮮さを保っていると思いますわよ?今なら多少価値が下がったとは言え先輩相手ならお頼み1つでご自由にして差し上げてもよろしいですわよ?初めてを失った代わりにある程度の楽しませ方は先程学ばせていただきましたので」
「……相変わらずフルスロットルだな、君は。で、お頼み事って何だい?」
「潮音を救ってあげてください。先程もそうでしたがあの子は今少しずつ自分と言う者が分からなくなっているようです。やっと制御できるようになった天死の力ももう抑えがきかないようですし」
「……ライラちゃん」
「……分かりました。天死のDNAは通常時には抑え込まれていてほとんど確認ができません。なのでもし次に活性化して天死の力を使うようになったら僕がお相手いたします。ナイトメアカードの力を使えば潮音さんの中から天死の力を完全に消し去る事も出来ると思いますので」
「……お願いいたしましたわ」
そう言って鞠音は再び眠りに就いた。
「……だいぶ消耗してるな」
「この数日、長倉さんを心配してあまり眠れていないようでしたから」
「……そう言えば今日は剣峰で文化祭か」
「はい、そうですね」
「……長倉も目を覚ましたようだし、おそらく今日が最後の日だ。鞠音ちゃんも潮音ちゃんも出してみるか」
「……そんなことしても大丈夫なんですか?」
「もちろん大倉機関は全面的にサポートに回るさ。……僕のカンも告げているが今日はやばいだろうな。嵐の一日になるだろう。パラドクスも本格的に攻めてくるに違いない。総力戦になる。が、元の世界に戻って何か悪影響来る前にこの二人の問題は解決しておいた方がいい」
「……本当に今日は大変な一日になりそうですね」
「……ちょっと手は足りないかもしれない。けど仕方がないさ。赤羽、君は長倉と鈴音ちゃんのサポートを。何かあったらすぐに連絡。ライラちゃんは双子を」
「死神さん、久遠ちゃんは?」
「……学校はどうした?」
「まさかと思うけどそんなことを理由に私を関わらせないつもりじゃないよね?いい加減にしてよ。美咲ちゃんが浚われた時とかライラちゃんが浚われた時、魔王の人が攻めてきた時もずっと私だけ関われなかった!今度は世界の危機だよ!最後の日なんだよ!?」
「……分かった。赤羽とライラちゃん二人のサポートだ。でも危なくなったらすぐに離れるんだぞ?」
「……それでこそだね!」
二人は軽く拳を突き合わせた。
「父様父様、ルネは?」
「ルネは戦力だ。パラドクスが相手じゃ歯が立たないだろうが天死やダハーカ程度なら問題ないだろう」
「……父様がそう言うならそいつら相手で我慢してあげる」
ヒエンはルネの頭を軽く撫でた。
「……もうすぐ7時か。会議室で一時間くらい休んでから作戦を開始する」

------------------------- 第96部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
89話「最後の宴(けっせん)・後編」

【本文】
GEAR89:最後の宴(けっせん)・後編

・わずかな休息の後、ヒエン達は剣峰中学へと向かった。文化祭のため一応部外者の入場も可能となっている。それもあってか現状大倉機関から出せるメンバーはほぼ全員が集合していた。
「じゃあ、配置を確認するぞ」
ヒエンが車の椅子に腰かけながら外に向かって言葉を出す。正面、車の外の駐車場にはたくさんの顔が揃っていた。
「赤羽、久遠、矢尻と火咲ちゃん、小夜子ちゃん、ルネの6人は長倉と鈴音ちゃんの護衛。ライラちゃん、早龍寺、雷龍寺、剛人は鞠音ちゃん潮音ちゃんと行動を共にする事。もし何もなければ1つ前の5人と合流して護衛を開始。十毛、トゥオゥンダ、ジキル、鴨、雲母、紫音ちゃん、黄緑は外回りだ。何か外から敵が来たら迎撃。何かあればあの変態共も来るだろうから対処が難しそうならそれまでの時間稼ぎを。キャリオストロ、ルーナ、魔王野郎はこっちと一緒に待機だ。……ってルーナは?」
「瑠那ならまだ潰れてるわよ。軟弱よね」
「……そりゃ自分の足並みに太いものをぶち込まれればな。仕方ない。キャリオストロはルーナを回収してきてくれ。ついでに今言った作戦の説明を」
「了解です」
キャリオストロが消えると他のメンバーも散り散りになった。ちなみに今回の作戦会議に鈴音、大悟、八千代は参加していない。前者二人はメールで大体の事を伝えてある。向こうも今日を最後の日にする腹積もりらしいから都合がいい。
「……問題は八千代ちゃんかな」
昨日ジキルや医療スタッフから報告があった。八千代の体、特に脳はもう限界だった。いくらジキルが否定しようとも文字通り無尽蔵に負担は彼女を襲っている。もうジキルなしでは一日も持たないし、ジキルによる否定があっても既に脳に重大な障害が発生しつつある。現在はカプセルの中で眠らせているがそれでもその崩壊を若干遅らせることしか出来ていない。
「……ちょっと中の様子を見てくる」
「あいよ。リーダーはロリコン、ッと」
隣の席でゲームをしていた爛に水をぶっかけ、ヒエンは校門から中に入る。まだ客はほとんどいないがそれでもチラホラと中学生ではない人影も見える。しかしその中に敵意は感じない。つまりまだ誰も敵はやってきていない。
「……ん、」
前方。昇降口から大悟が出てきた。
「よう、調子はいいようだな」
「ジアフェイ……さん」
「好きなように呼べばいい」
それから少しだけ大悟と会話をし、別れた。再び会えるかはきっと誰にも分らない。


・2年のフロア。乃木坂姉妹が久々にクラスに顔を見せてはただでさえ馬鹿げているその出し物にさらなる魔改造を加えていく。
「……えっと確かこの世界にはスカイカーないんですよね?」
「……ああ、そうだ」
「……車を運転するには免許って言うのが必要でそれをとれるのは18歳になってからなんですよね?」
「……ああ、そうだ」
「……もしかしてそう言う事故的な意味での護衛も僕達がしなくちゃいけないんでしょうか?」
「……頷きたくはないがな」
ライラ達がその光景を教室の外から眺めていた。実際いくら部外者に解放されているとはいえライラはともかく他の男どもはかなり目立っていて先程からひそひそ話が絶えない。その羞恥に耐えながら場所は移動され、姉妹が試運転を開始することになった。当然その後ろにはライラ達も着く。他の生徒には不審がられたがライラがスマイルを見せたことで何とかごまかせた。それを見届けてから、
「では、行きますわよお空の旅へ!」
鞠音は勢いよくアクセルを踏み、やや遅れてライラも後を追いかけて2台の車が縦横無尽に、ジェットコースターのように空を走るレーンに向かって走り出した。
「……あれ、でもこの車、自動ですよ?」
「まあ、中学生用だからな。乃木坂財閥で何か細工をしたんだろう」
「これなら安心なのでは?」
「君の世界ではどうだったか知らないがまだこの世界じゃ自動車は自動車になっていない。こんなのは文字通りファンタジー、夢のような代物だ」
「だから安全なのかもしれないが安心はできない。いつ暴走するか分かったものじゃない」
「……ふん、まるで手前を走る二人のようにな」
「……なるほど」
腕を組み、Gにびくともしていない男3人を背にライラは正面を見る。既に姉妹は自分達の運命を任せているように手放しで何か会話をしていた。雰囲気的にはいつもの二人にしか見えない。しかし突然に異変は起きた。急に姉妹がキスを始めたのだ。当然ほっぺとかおでことではなくマウストゥマウス。ちょっと関係の怪しいトモダチ同士のそれのように技術も何もない、ただ唇と唇を合わせただけのキスだ。
「……足りない。足りないですよ二人とも。そこはもっとベロを入れたりお互いに相手の胸をもんだりですねぇ……」
「円cryンさんや、レズの血が騒ぎすぎているぞ」
「あ、ごめんなさい。でもなんか、あの二人見てるとうずうずしちゃって。発情してるとかではなくむずがゆいと言いますか……」
「……初心者同士のプレイに気に入らないと?」
「はい。そうなんです。僕もまだレズ初めて半年も経っていませんけどそれでもキスは200回以上してますし。最初のうちはベロだけで一方的にイカされていたんですけど最近は少しずつ僕の方もいい勝負にまで持ち込めるようになったので歯がゆいと言いますか」
「……頼むからそんな生々しい事を学校で言わないでくれ。それよりあの二人放置してていいのか?服まで脱ぎ始めているぞ」
「え!?」
前を向きなおすと確かに姉妹はシャツのボタンをはずし、ブラをはずし、スカートの下からパンツを下ろす。同時に後ろの3人がスマホで録画を始めた。
「あ、もうだめですよ!」
ライラが鼻血を出しながら撮影を止めようとするも伸ばした手はすべて容易く払われる。その間にも前の車で姉妹は口づけを交わし、スカートの下同士を激しくこすり合わせている。それを見ていく内にその場の4人の下半身は少しずつ膨張していく。
「……やりたくないけど」
ライラは目を閉じ、何かを諦めたような表情をとると自らの屹立したそれで同じようになっていた3人の部分と正面から突き合った。
「……ひどい事をする」
たちまち3人はげっそりした表情となりそれぞれ別の場所を向いてしまった。それからライラも決して良くはない表情で前の様子を見る。既に鞠音は横になっていてスカートをたくし上げてはじわっと濡れているそこを露出させていた。
「……なんてフェロモンだ。この距離からでも……僕も鞠音さんの中に出したくなる……。もしかして天死でありながらその血を全くと言っていいほど持っていない鞠音さんに対して天死の本能が騒いでいるのか……!?」
制止が目的か同調が目的か分からないままライラは背中から翼を生やして飛行。前の車両に飛び移った。
「……ライランドさん」
「潮音さん……。この異常な性欲はいったい……?」
「これがあるから僕は姉さんをどうしても犯したくて仕方がないんだ。一度元の世界に行って帰ってきてからどうにもおかしい。どうしても姉さんを犯したくて仕方がない」
「天死としての本能ですよ……。ただでさえ天死は性欲が強い。人間の女性相手なら人間の男性以上に発情して欲情して種族を増やすために交わりたくなる。……今の鞠音さんは天死としては唯一と言っていい完ぺきなる女性体だ。異種族よりかは同種族の方がいいに決まってる。こんなの滅多にない機会だ。だから通常以上に、抑えきれないくらいに性欲が高まるのも仕方がない。でも、天死はその数を増やさない方がいいんですよ……。誰もがこの力を制御できるわけじゃない。出来たとしても初めはそうじゃない。……あなたにも経験があるはずです。この力で誰かを傷つけてしまったことが」
「……そうかもしれない。でも、僕はあなたとは違う。……他の天死の何倍も血が強いんだ……。姉さんに……鞠音に対する性欲は……もうどうしたって抑えられない……。狂ってしまいそうなんじゃない、もう狂いかけているんだ……」
「だったらあなたのその狂気に僕が破滅を与えます」
ライラは翼を収めると1枚のカードを取り出す。その時だ。
「それはちょっと困るんだよおね」
「!?」
突如として3人が乗っている車が動きを止めた。ライラが外を見れば、車のタイヤが消えていた。否、地面と一体化していると言った方が正しいか。
「何があった!?」
後ろの3人が車から降りて近寄るとやがてその両足もコンクリート地面の一部となって動きが封じられる。
「この力……噂のパラドクス!?」
ライラが姿勢を低くして身構える。と、コンクリートが砂のように細かく粒子化してまるで影のように滑らかに形を変える。そして全方位から津波のようにライラに襲い掛かった。
「破滅(スライト)!!」
同時にライラはカードの発動を行使する。そしてコンクリートに完全に囲まれる前に破滅の銃弾を撃ち込み、迫りくる全てを一瞬で消し飛ばす。その消し飛ばしたコンクリート粒子の先。潮音と鞠音の間に一人の少女が立っていた。
「あなたは……!?」
「カオスナイトアルケミー。ラァルシムタンカヤイと同じく色んな実験が大好きなパラドクスの女の子だよ。ま、8万年くらい生きてるけどね」
「……実験とは何をする気ですか……!?」
「天死同士の近親相姦。本来天死同士が交わるなんてありえないからどうなるのか見て見たいんだよね」
「そのために!?」
ライラは発砲した。当然、破滅を込めて。しかし撃ち放たれた弾丸はアルケミー眼前の空気に止まった。
「!」
「パラドクスとしては若い方だけどそれでも第4階級の私にそう言うの効くと思ってる?司界者と言っても所詮人間が生み出した力だよ?もうそのカードの可能性は遠い未来で見飽きたからそこにも至っていない今の君なんて実験の価値もないから見たいとは思わないんだよね」
アルケミーは眼前に止まった弾丸を舌でぺろりと舐める。一瞬だけ舌が欠けるがしかし見間違いのように次の瞬間には元に戻っていた。
「……ちょっとだけ痛かったかも」
僅かに表情をゆがめるアルケミー。次の瞬間には雨のように銃弾が連射されて降り注いだ。
「っと!っとと!!」
しかしそれらはすべて空中で止まり、1つにまとまっては勢いが殺されて地に落ちてはアルケミーのサンダル足に踏みつぶされた。サンダルには損傷は一切見られなかった。
「……」
「あれ、動じないんだ。確か君はこの技を破られたことは一度もないはずなんだけど」
「……」
ライラは続けて撃ち続ける。だが、どれだけ銃弾を撃ち尽くそうとも一撃とて届くことはない。
「もうあきらめたら?」
「……」
しかしライラはやや構えを変えてから発射した。その一発は今までと同じくアルケミーには届かずその脇を通り抜けていった。
「あは。それって体力使うのかな?空振りしちゃってるよ?」
「……いいえ。的中です」
「……へ?」
アルケミーは後ろを振り返った。2歩程度後ろには潮音がいた。しかしその表情は明らかに先程までとは違う。剣呑から驚愕を交えた平穏に。
「……待って。もしかしてまさか……!?」
アルケミーは目にもとまらぬ速さで潮音の頬に触れた。
「…………あ」
その手のひらに触れた感触……潮音から激情が消えていた。いや、消えていたのはそれだけではない。その身の上全てを覆すに等しい天死としての本能が完全に消えていた。念のために細胞まで調べたが9割ほど消えていた。
「……」
「これで僕の仕事は終わりです。潮音さんから天死の力を破滅させました。次第に人間と大差ない状態にまで戻っていくでしょう」
「……ひどいことするんだぁ、へえ?」
アルケミーは冷徹の笑顔で振り返るとそれだけでライラの身を守る漆黒の甲冑が砕け散り、ライラ本人が後方に吹き飛ぶ。
「くっ!」
「よくもこんなあっさりにせっかくの楽しみを奪ってくれたよね。本当は面倒だったからやりたくなかったのにせっかく見つけてインフェルノの奴に嫌々従ったってのにさ。ヒディエンスマタライヤンを滅ぼす要因を1つ消してあげたらどんな歪みが生まれるのかなあ?知りたいと思わない?きっとそれだけの歴史の歪みを食べてみたらインフェルノに匹敵するかもしれないくらい強くなれるかもよお?」
何を言っているかは理解できないがライラは無意味と知りながらも甲冑を再び装着しながら銃口をアルケミーに向ける。それと同時にアルケミーはライラの反射神経限界の何倍もの速さで接近してその銃を握る右手に手をかける。が、その手が掴んだものはライラの手ではなかった。
「ん?」
「せっ!!」
早龍寺の拳だった。それがアルケミーの右目に打ち込まれ、華奢な彼女の体を吹っ飛ばす。
「……どういうこと?」
空中でアルケミーが体勢を立て直すと今度は剛人がより高度の空から迫り来ては破砕を込めたかかと落としをその脳天に打ち込む。本来なら頭蓋骨粉砕から体を縦に両断している。しかし、
「……堅いな」
剛人が離れる。アルケミーはほとんど姿を変えていない。脳天の皮膚数枚を引き裂いたかどうか程度だった。しかしアルケミーの意識が剛人に向いた瞬間に再び早龍寺が接近し、アルケミーの鳩尾に膝蹴りを叩き込んだ。その一撃もまたアルケミーの華奢な体を宙に浮かせるには充分であったがだがあまりダメージは見られない。
「……けどどうして私が対応できない……!?」
アルケミーの表情の驚愕はそれが理由だった。100万分の1秒からあらゆる事象を見て取れるだけの反射神経を持つパラドクスが13階級にも満たない人間ごときの動きを見れない筈がない。攻撃そのものが通じないのは当然の話として。
「……」
雷龍寺がその場から少しも動いていないことに気付く。そして一瞬で状況の情報を解析する。それによれば雷龍寺が一時的に早龍寺に対して優先権のGEARを発動。早龍寺の動きを最優先に変え、早龍寺は調律のGEARで対戦相手であるアルケミーに大差ない程度にまで身体能力を上げている。生物としての格の違い故に早龍寺の攻撃は大したダメージにはなっていないが、それでも驚くには充分である。だが、それももう終わり。
「ちょっとは面白かったけどでもダメ」
アルケミーが軽く念じるとそれだけで早龍寺の両足は地面と融合を果たしてしまい、早龍寺は見動きを封じられる。
「くっ!」
「早龍寺!」
雷龍寺が駆け寄り、その足に手を伸ばそうとするがやがてその動きも止まる。
「……な、なんだ……」
「人間なんてあまりに脆弱な生き物だよね。いくら優先権のGEARを持っていても優先できる事象は1つだけ。確かにそれを使えば使い物にならなくなった部分を治す事は出来てもそれと同時に体に多くの不純物を混ぜられたら生物の肉体としての機能が不全する。だってただ血液と石を混ぜるだけで動かなくなるんだもの」
「……だったら、」
ライラが銃口を雷龍寺に向ける。しかし、そのライラも同じように血管に大量の砂礫を混ぜられて動きを乱す。その異変は早龍寺、剛人にも同時に放たれた。
「くっ!」
「まあ、人間にしてはやったんじゃない?20秒くらい時間稼がれたし。でもそのお陰でそろそろインフェルノが……ってどうして来ないの?」
アルケミーは時空の歪みを観測できなかった。時空の歪みはパラドクスの出現の予兆であり、第4階級以上が感じ取れるものだ。が、それが今はない。打ち合わせなんてしてはいないがあれだけ潮音と鞠音に執着していたのだからこの状況が分からないわけでもないのにどうしてか姿を見せない。姿を見せない理由があるのか?
「水難(シプレック)!!」
アルケミーが考えている間にライラは新たなカードを微動だにできない状態から発動。同時にその体を全て一度水に分解してから新しく、スク水姿の肉体を再構築する。そしてそれが完了すると同時、200リットルの水を可能な限り球体に凝縮させて放射。アルケミーを横からぶっ飛ばす。
「……くっ、」
再び空中で体勢を立て直したアルケミー。分からないことが起きたら茫然自失するのは悪い癖だ。パラドクスになってもなかなか治らない。猛省。でも今はそれよりもいい加減うるさい虫を殺す方が先だ。
「あ」
今度は視線すらよこさずにライラを氷漬けにした。2000年前に死んだ同僚ほどではないが氷も使えなくはない。人間相手ならこれで十分だ。
「壊れちゃえ」
そうしてライラの氷塊をその華奢からは信じられないほどあっさりと持ち上げ、ひとっとびで数百メートルまで飛び上がると、音速の速さで氷塊を地面にまで投げ飛ばす。
「……」
ライラは無言のまま地面に叩きつけられて粉々になった。が、その粉々になった氷の1つ1つが水になり、膨張。やがて形を変えて無数のライラとなる。
「撤退するしかない……!!」
無数のライラは既に動けなくなっていた5人を抱き上げると一目散に逃げだした。抱えていない個体はすべてアルケミーへの迎撃を行う。
「……何をしたらあそこまで面倒になれるの!?」
水球の攻撃を回避しながら距離を縮めていく。と、ある程度まで進むと今度は突然体がプールほどの質量の泡に包まれた。水圧でやや皮膚にかゆみが生じる。純粋な生物だったらきっと多くが圧死しているだろう。
「……くっ、これでもダメなんて……!!」
本体のライラは焦燥していた。これまでここまで力を振り絞って勝てなかった相手などいなかった。けど今はそれが目の前にいる。しかもこれから自分達が戦っていく存在の中ではかなり若く弱い方だと言う。一応既に潮音から天死の不安要素を取り除くと言う最優先任務は完了しているのだがこのままでは生き延びるのは難しいだろう。
「……ユイムさん……」
思い人の名を密かに呼ぶ。あの笑顔をもう一度見るためにもまだ死ねない。ならばそのためにどうするか。
「とりあえず圧力を!」
ライラは残る魔力の大半を注いでアルケミーを包み込む泡の水圧を上げた。アルケミーがようやく痛みらしきものを感じ始めた。


・10分程度前。
「……ん、来たか」
女子更衣室前の廊下に居座るヒエンが気配に気付いた。パラドクス、カオスナイトアルケミーの襲来の気配だ。
「あっちの方向は双子が近くにいるな。ライラちゃんや早龍寺たちがいるが、流石にパラドクス相手じゃ無理だな。行ってやるとするか」
ヒエンが足を向けた時だ。その時空の歪みとは別に感じるものがあった。
「……これは……時が止まっている……?ダハーカか!」
戦力としては天死やパラドクス相手に比べれば大きく劣るが対人性能に特化しているダハーカはある意味一番油断できない。この止まった時間内で動けるのはダハーカと9階級以上のみ。必然的に味方の多くが行動不能になる。それでいて敵のほとんどはそのまま行動可能だ。もしこの間に味方が片っ端から片付けられてしまえば……。
「ある意味一番面倒な……!!」
ルーナすらこの空間内では動けないからプラネットの力を返されない。あれがあれば範囲内のサーチは軽いのだが。しかしできないのなら仕方がない。とにかく超スピードで校内を回る。とりあえず大悟と鈴音は無事発見できた。お楽しみ中だったのか二人とも裸だった。大悟はともかく鈴音に関しては一度スマホで撮影しておいた。
「……確かダハーカの多くは矛盾の安寧の維持に賛成なんだったっけな。だからパラドクスとかと手を組んでもおかしくはないが。……この場合誰を狙うんだ?」
ダハーカの敵である天死関係……ライラ達か?しかしあちらにはパラドクスがいるからダハーカが出張ることはないだろう。けどそのパラドクスも放っては置けない。ここはパラドクスを……。
「ん?」
窓の外。黄緑がいた。その正面には一人の男が立っていた。
「……父さん……」
「黄緑、冷静になれ。この世界は最後の楽園だ」
「……悪いけど来音が待ってるんだ」
「元の世界ではすでに死んでいるのかもしれないんだぞ?」
「……それでもいい。それでも、来音が完全にいないこの世界で生きていくよりはましだ」
「そのためだけに他の全てを犠牲にするのか?」
「犠牲にはならないさ。僕一人だったならそうかもしれない。でも、僕は一人じゃない」
「……そこまで言うなら好きにすればいい。ただし、奴をどうにかしてからな」
「!」
男……夏目群青の視線の先。一瞬アニメ映像化と疑うような奇妙な物体が存在していた。まるで立体パズルのような姿をして、原色のマスをレウコクロリディウムのように毒々しくカラフルに変形させていく謎の物体。それは大きく姿形に歪さを纏ってはいるもののダハーカの一種に相違なかった。
立体パズルのダハーカは時の止まった世界においてごくごく短い距離を何度も瞬間移動しながら先に進み、前方を歩いていた学生の男女に迫る。
「…………」
ダハーカの体から小さなピースのようなものが飛び跳ねるように発射される。そのピースが男子生徒の胸のあたりに命中。するとその部分から少しずつ体が立体パズルのように細分化され原色のマスごとに分けられていき、数秒で立体パズルのダハーカと同じ姿となる。すると今度は増えたその元男子生徒の体が9かける9かける4のマス目の数だけ分離して銃弾のように1マスずつ女子生徒に向かってピースを飛ばす。飛ばされたピースはこともなげに女子生徒の体を貫通。貫通した部分はまるで平面パズルでピースを一部分だけ外したように消滅し、やがて全てのピースが発射され女子生徒の肉体は跡形もなく消滅した。そしてバラバラになったピースは吸い込まれるように本体のダハーカの中へと戻っていき、心なしか若干大きくなったように見える。
黄緑がそこまで確認すると既に正面に父の姿はなく、代わりに遠くから走ってくるヒエンの姿が見えた。
「黄緑!」
「ヒエン、あいつは僕がやる。君は長倉大悟を守るんだ」
「分かった。任せるぞ!」
それだけ言ってヒエンは黄緑の横を通り抜けていく。
「…………」
ダハーカが原色のピースをいくつかヒエンに対して飛ばすが、ヒエンはザインの風を引き抜くとそれを振り回すことで飛んできたピースを全て細切れにする。そしてそのままダハーカの横を通り過ぎるとそのすぐ後に黄緑が走ってきてその4つの大きな腕の形をした牙でダハーカに4つのパンチをぶち込む。
「はあっ!」
4つの牙はただ殴るだけでなくその瞬間に敵のピースをいくつか捕食する。が、敵もただ食われるのを待つだけではなかった。最初の男子生徒のようにダハーカは己の肉体を324のピースに細分分離して四方八方に散り、高速で縦横無尽に飛び回りながらあらゆる方向、角度から黄緑に突撃を繰り返す。
「くっ!!」
とても回避しきれたものではないその攻撃はただの突撃ではない。激突の際に少しずつだが黄緑の皮膚や骨肉を食いちぎっていた。最初は回避のための足捌きだったそれも数秒で打たれるがままに体重を右往左往するだけの弱いものとなっていた。そしてその足回りには無数の血が滴る。
「ぐうううう!!」
4つの牙を用いて迫りくるピースを可能な限り叩き潰し、握りつぶし、捕食していくのだが324対4ではあまりにも数に違いがありすぎる。やがて複数のピースが黄緑の両足を貫き、体重を支えられなくなった黄緑は前のめりに打ちのめされる。全身を細かく襲う激痛と出血。それを何とか支えていた両足はもう頑張ってはくれない。さらにそれは敵の攻撃が止まる理由にはならない。ばかりかさらに勢いを増し、まるで鳥葬のように勢いよく黄緑の背中に襲い掛かる。
「……くっ、」
100を超えるピースの雨を黄緑は牙の1本で受け止める。コンクリートの壁さえも容易く打ち砕ける頑強さもたった一度の衝撃でズタズタのボロボロに。が、黄緑はひるまなかった。残った3本の牙で挟み込むように今襲ってきた100以上のピースを叩き潰し一気に捕食する。蚊の大群がさらに集まったような敵の数は素人目で見てもかなり減ったように思える。
が、黄緑がそう僅かな安堵を見せた途端に、その残りのピース達は空高くに集合し、先程に比べてかなり小型化された集合体となって黄緑に向かって落下する。
「ぐっ!!!」
寝返りを打つことで回避の黄緑。しかし運悪く右腕が巻き込まれてしまい、敵の図体に潰される。尋常でない激痛は腕の骨が完全に粉砕された証拠だ。かなり小型化されたとはいえマンホールほどの広さとタイヤほどの高さのものが降ってきたのだ。下のコンクリートすら大きくへこむ。が、次はなかった。
「……捕まえた……っ!!」
敵は左右から黄緑の牙に挟み込まれていた。2本ずつが拳を握りこめかみをぐりぐりするように相手の体を挟み込み、万力のように押しつぶす。粉々になった相手の体は、しかしそのまま放っておくわけにもいかない。4つの牙によって風に飛ばされる前に全てが食い尽くされた。
「……勝った……」
地面に横たわったまま左腕で額の汗をぬぐう。ダハーカがダハーカを食ってもエネルギーの供給には至らない。右腕は見るも無残につぶされ、両足は貫かれた場所から血を吐き出しながら痙攣したままだ。このままでは世界の時間を止めたまま、しかし5分と待たずに止まった世界は時間を取り戻し、しかしその中に黄緑は戻ることが出来なくなるだろう。
「……来音に会いたい」
4つの牙を杖代わりにして黄緑は立ち上がる。そうして自身の足を使わずまるで蜘蛛のように移動を始めた黄緑は校舎内に入り、教室の出入り口に並ぶ生徒たちを見た。
「……」
傷ついた牙以外の3本で黄緑の体重を支え、傷ついた牙で次々と並ぶ生徒たちを捕食していく。5人食えば両足の傷がふさがっていき、さらに5人食えば右腕の形と機能が元に戻っていく。だが、捕食を行い続けているその牙の傷だけは治らない。
「……僕は厭だ。それでも……」
牙をしまい、回復した両足で自重を支えると黄緑は時間を再開させた。
「あれ?」
急に客の消えた廊下に疑問の声を上げる生徒の隣を黄緑は無言で通り抜けた。


・世界の時間が再開を始めたころ、ヒエンはグラウンドで足を止めた。正面。赤羽、久遠、火咲、達真が四方を囲むその中央に時空の歪みが見えたからだ。
「離れろ!パラドクスが来るぞ!!」
「そ、それは分かっているんですが……!!」
「あ、足が動かないんだよね……」
「むしろ引き寄せられて面倒……!!」
「くっ……!!」
4人は冷や汗をかきながら足を一切動かさずにその歪みに引き寄せられていく。
「ちっ!!」
ザインの風を引き抜き、先端を刃に変えてまっすぐ歪みに向かって伸ばし、そのまま串刺しにする。手ごたえはあった。それに応じるように歪みから煙が巻きあがると同時にヒエンは伸ばした刃を網に変えて4人を回収する。
「キヒヒヒヒ……!!」
4人を背後にしたヒエンの視線の先、煙が晴れたそこには背中からまったく同じ上半身が生えたピエロのような姿をした怪物が立っていた。
「パラドクスか!」
「いかにも。カオスナイトディンゴ!」
2つの顔から同じ醜い笑みと名乗りを零したディンゴは己の胴体並みに太い両足で地を蹴って4つの手にそれぞれ杖、釣り竿、ドリル、大鎌を握りしめて向かってきた。
「ふん、宇宙の大道芸人か?」
ザインの風を槍に変えてその刺突でドリルを粉砕し、薙ぎ払いで大鎌、杖、釣り竿を同時に防ぎながら回し蹴りで釣り竿をへし折る。が、いつの間にか破壊された武器の代わりにけん玉、ブーメランが握られていて200トンあるけん玉とブーメランが迫る。
「ちっ、」
けん玉を刺突で破壊し、後ろの4人に向かっていったブーメランを左手からの電撃で破壊する。すると今度は巨大なコンドームが出現し、ヒエンの体を包み込んだ。
「ぎゃああああああああ!!!気持ち悪いぃぃぃい!!!」
槍を振り回すが刃は刺さらず通らない。しかもディンゴはどこからかスライムを発生させてはコンドームの上からヒエンに叩きつけてねばねばの海に変える。
「ヒエンさん!!」
「……まずいわね。道具はふざけてるけどあの変態師匠を無力化してる。時間稼ぎには最適ね」
言いながら火咲は走り出す。そしてスライムやコンドームに手を伸ばす。が、
「邪魔駄目邪魔!」
アナコンダのように太くて長い猫じゃらしが伸びてくる。火咲はそれを片手で受け止めて破砕を念じるが僅かずつしかその質量を破壊出来ず、その間に全身をぐるぐる巻きにされてしまう。
「くっ!!」
「そんな、どうして火咲さんのGEARで破壊出来ないんですか……!?」
「……それがパラドクスって奴なんだろうな……!零のGEARさえ容易く打ち破るらしいならオンリーGEARじゃないあいつのGEAR程度目じゃないだろうさ」
言いながら達真は走り出した。
「どちらへ!?」
「長倉のところだ!せめて遠くまで連れていく!」
「でもさせない逃げるの駄目邪魔どきなさい」
走る達真、しかしディンゴは釣り竿を出すと無限に伸びる糸で追いかけてはその先端の針で達真の右肩を貫く。
「ぐうううっ!!」
貫いた上で針の先端が膨張してつっかえとなって達真を引きずり戻す。
「えええい!!離せ気持ち悪い!!」
ヒエンが電撃を放つがコンドームはびくともしない。
「スパークス死ね死ね死ね。お前なんか嫌い遊べない死ね死ね死ね」
ディンゴはさらにスライムを増量してコンドームを完全に包み込み、ヒエンは緑色の海の中に。その状態で電撃を放っても空間全域に電撃が分散し、激減した威力の電撃が空しくコンドームに吸い込まれていく。それを見て焦燥と怒りが限界を超えたヒエンは万雷を引き抜いた。
「万雷ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
今まで放っていたものの数万倍以上の電撃が放出され一瞬だけだがコンドームやスライムの海を消し飛ばす。しかし、すぐさま10倍の質量のものが用意されヒエンを包み込む。
「だぁぁぁぁぁっ!!!液体まみれのゴムの中に入れるなぁぁぁぁっ!!!」
万雷の刃で何度もコンドームを切りつけるがスライムに切れ味を奪われては弾力に勝てない。その間ディンゴは達真をお手玉にして妙なダンスを踊っている。赤羽と久遠は黙ってそれを見ていることしか出来ない。
「……せっかくついてきたのに……!!」
唇をかむ。と、久遠が手を繋いできた。
「久遠?」
「美咲ちゃん、このまま飛んで。そして久遠ちゃんを火咲ちゃんのところに落として」
「……分かりました」
赤羽はディンゴに視線を戻す。ダンスが激しさを増してきてついにはこちらに対して背を向ける。その瞬間に赤羽は久遠を掴んだまま飛翔する。そして狙撃のGEARを用いて正確に火咲の捕まっている場所に久遠を落とす。
「火咲ちゃん合わせられる!?」
「……あんたこそ失敗するんじゃないわよ!!」
空中で久遠は構える。意識を右足に集中させ、落ちながら火咲を縛る猫じゃらしに向かっていく。
「虎徹絶刀勢(こてつぜっとうせい)!!」
そして全体重と天才的な力の運動を込めた右足の回し蹴りが猫じゃらしに打ち込まれる。当然それだけでは猫じゃらしを破壊することは出来ない。しかしわずかに変形させることは出来た。その隙間に火咲は膝蹴りで僅かだけ部分を破壊してから外に身を投げ出す形で脱出。そのままスライディングして落下する久遠を受け止めた。
「あららホワイどうして女の子脱出?まあ別に構わないけど」
ディンゴは構わず達真をお手玉にし続ける。と、その手の5本指の関節全てに1発ずつ銃弾が撃ち込まれた。
「!?」
否定が込められた狙撃を急所に受け、ディンゴの握力は消え、達真は解放された。そして着地した達真にも新しい一発が撃ち込まれ、肩の傷が消える。
「……あんた達……」
達真の視線の先にはトゥオゥンダとジキル、キャリオストロがいた。
「次はあっちだな!」
トゥオゥンダが1枚のカードをヒエンに向かって飛ばす。しかし距離が足りず全然手前で落ちそうになる。
「……っ!!」
のを赤羽がギリギリで拾い、ヒエンに向かって正確に投げ飛ばす。投げられた1枚のカードはスライムもコンドームも貫いてヒエンの持つ万雷で止まる。
「使え!」
「分かった!」
トゥオゥンダの肯定を受けた万雷から発せられた電撃はスライムの海に減衰することなく100%が全域に流れ込んで蒸発。さらにコンドームにもその耐性ごと打ち破ってついに撃破、粉砕に成功する。
「そのまま行け!!」
「任せたぞ!!」
脱出したヒエンはそのまま走り出した。それも万雷で発生させた電磁力を使ってリニアモーターの仕組みを作り出した超光速で。さらに脇を通り抜けるついでにディンゴにも万雷で一撃打ち込む。その一撃は、まず文字通り1万もの雷に匹敵するような超高圧電撃によりディンゴの4つの腕が炭になり、続けて迫った斬撃で背中から生えた胴体が腰のあたりで切断される。
「……きひひひひひひ」
ヒエンが背後彼方に消えるとまるで嘘のようにディンゴは元通りの姿に戻っていて4つの腕に小さな竜巻を握っていた。
「竜巻ストーム終わらせる竜巻!!」
4つの竜巻は手のひらから離れると同時に何十倍もの大きさとなってトゥオゥンダ達に向かう。
「ジキル!」
「いいえご主人様!私の方が速い!」
ジキルが銃を構えるより先にキャリオストロが時空に穴をあけて竜巻を吸い込む。その間にトゥオゥンダは1枚のカードを取り出してある物体を肯定した。それは先程見たヒエンの万雷だった。トゥオゥンダが扱える程度には弱体化しているがたいていの性能は変わらず、トゥオゥンダが一振りするだけで発せられた稲妻は竜巻を余裕で貫き、その奥で踊っていたディンゴを包み込んでは途方もない高圧電流の渦に叩き落とす。地球そのものよりもはるかに頑丈なその肉体を一瞬で消し炭へと変える威力がトゥオゥンダの前で発生する。
「対閃光防御!」
赤いグラサンをかけて光による衝撃を防ぎながら手の中で粉々になる万雷を投げ捨てる。小さな音を立てて万雷が砕け散ると同時、稲妻の中から焼けただれた姿のディンゴが姿を見せた。
「……き、ひ、ひひ……もうだめしぬ」
それだけ言って倒れた。
「……すごい……」
自然に赤羽はその言葉を落とした。しかし、その隣にいた火咲は構えを下ろさなかった。
「ご主人様も気を付けてください!もっと強い何かが来ます!!」
「へ?」
グラサンを外し、座り込んだトゥオゥンダの正面。倒れたディンゴの焼けただれた肉体が砂の粒子に溶けると空から夥しいエネルギーが降り注ぎ、砂の粒子に新しい姿を与えた。
「……ふ、雑魚道化師も少しは役に立つというものだな」
その姿と声はカオスナイトインフェルノのものだった。
「……え!?別人になった!?」
「ご主人様!あれは以前にご主人様や私を狙っていて噂の双子をさらったカオスナイトインフェルノですよ!倒されたパラドクスの歪みエネルギーを使ってパワーアップして復活したようです!!」
「お喋りな異次元人だな。まずは貴様から消えてもらおうか」
やや若々しい姿となったインフェルノは今まで以上の速度でキャリオストロに迫り、掌打の一撃でその体の首から下を粉砕する。
「キャリオストロ!!」
トゥオゥンダが再生を込めたカードを飛ばす。が、それは空中に投げ出された次の瞬間には灰になって消えた。
「な……」
「驚く暇も与えない」
一瞬でトゥオゥンダとジキルの背後に移動していたインフェルノは手刀の一撃で両者を、胸の高さで両断する。
「燃えろ」
両断し終わった手刀の指がパチンと鳴れば反応出来ずに茫然としていた赤羽、久遠、達真の足元が大爆発する。
「くっ!!」
唯一反応して回避に成功した火咲。しかし、体勢を立て直したと思ったら後ろに倒れた。気付けばその両手足は切断されていた。
「……ウォーミングアップはこのくらいかな」
1秒にも満たない、戦闘にも満たない動作を終わらせたインフェルノは上空を見やった。
「イィィィィィィィィリイイィィィィイィヤッホゥゥゥゥゥゥゥイ!!!」
上空からは3人のライダーが降り注ぎ、3人同時のキックがインフェルノの胸に叩きこまれていた。テポドン30億個分の威力がその胸には刻まれていたはずだ。だが、インフェルノは表情も変えない。
「ぬ、」
「今度無様をさらすのは貴様達の方だ!」
3本の足をまとめて掴み、片手で3人をジャイアントスイングにする。3人が投げ飛ばされた衝撃で地表が300メートル以上削り取られ、その先にはボロボロの3人が跪いていた。その視覚情報を確認すると同時、3人はバイクに乗って一斉にアクセルを踏み、先程のキックの5倍以上のエネルギーを込めて突進する。
「ふん、」
それを再び片手で受け止めるインフェルノ。しかし、受け止めきれず五指がちぎれ飛ぶ。が、次の瞬間には再生されていて逆に3台のタイヤがドロドロに溶解する。インフェルノはその結果を見ずに上を見た。
「せええええええええええええええりゃあああああああああああああああ!!!」
3人はバイクを踏み台にして跳躍していた。
「ライダァァァァエタァァァァナルキイイイィィィック!!!」
「カタブゥゥゥゥゥルJupiter!!!」
「撃神粉砕大車輪ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃん!!!」
タイライダーが直径500キロメートルの巨大な丸鋸となり、カタブライダーが数学の参考書から木星を23個召喚し、イシハライダーは300万光年遠くまでジャンプしては6兄弟の長男と共に帰ってきて二人同時に飛び蹴りを、すべてインフェルノに向かって叩き込む。
「……小賢しくもない」
が、インフェルノは指パッチンからの大爆砕でそれらすべてを打ち破り、3人を地べたに叩きつけ、隊長を脳天炎上させながら別の宇宙まで吹き飛ばした。
「……くっ、」
変身が解除された3人は地べたに這いつくばり、もはや立つ事も出来ずに痙攣していた。
「では、繰り返そうか」
インフェルノは目を光らせると自身が以前に敗走してからそして現在までの時間を200回繰り返し、矛盾の安寧にとてつもない負荷をかけ、その矛盾を吸収してさらに強化する。戯れに体力を全回復させただけでなく500倍にまで強化させたイシハライダーを、デコピン一発で23万回消し飛ばす。
「ふははははははははははは!!!雌伏の時を待っただけのことはある!今の私は全盛期の力を完全に取り戻している!!いや、もしやそれ以上かもしれない!!今ならば三権三位クラスが相手だろうと負ける気がしない!!」
高笑いのインフェルノが指を鳴らすと全宇宙から地球以外の星が跡形もなく消滅する。
「十三騎士団が何だディオガルギンディオがどうした!?どんなものでもかかってくるがいい!!!」
高笑いのインフェルノ。既に10億倍以上強化され、100億人以上に増やされたイシハライダーが挑むが何をしても全くダメージを与えられず吐息1つでそのすべてが粉微塵に消し飛ぶ。そしてその残骸の中。
「……来たか」
インフェルノが小さく笑い、身構える。その正面。
「てめぇは少しやりすぎたようだな!!変態地獄爺!!!」
死んだ宇宙をすべて元に戻しながら少しずつ光が集まっていき、1つの姿を形作った。右手に身の丈以上の長さを持った深紅の槍を持った青年。
「……不肖のくそ兄貴に変わって……そして2000年前からの因縁を果たすためこのナイトバーニングがてめえをぶっ飛ばす!!」
「来ぉぉおい!!!甲衆院優樹!!!」
青年……甲衆院(こうしゅういん)優樹(ゆうき)ことナイトバーニングがその槍・絶唱の紅蓮を構えて走り出した。

------------------------- 第97部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
90話「ファイト トゥ ディストピア」

【本文】
GEAR90:ファイト トゥ ディストピア

・いくつかの戦火を抜けてヒエンが視線の先に大悟と鈴音の姿を見た。
「……まだ大丈夫なようだな。だが、さっきのあの力……とんでもないパラドクスが現れたみたいだな。十毛やライダーズだけで何とかなればいいんだが。……さて、あの二人はドライブするつもりか。それで戦場から離れてくれれば巻き込まれずに済むだろうが、逆に監視の外に出られても面倒だな」
視線の先で二人が車に乗ると、ヒエンが一歩する。と、それを1つの人影が遮った。
「……話がある」
それは裏闇裏丸だった。


・おおよそ地球のどんな物体でも耐えられる筈がない水圧を打ち破り、アルケミーはライラへと迫った。
「さあ、もっと限界を見せてちょうだい。人間なんてマウスがどこまで力を示せるのかを!」
「くっ!!」
アルケミーの右手がマッコウクジラ並みに巨大化。ライラを中心に直径100メートルを範囲に振り下ろす。人間の反射神経を大いに超えた一撃。コンクリートは粉々に砕け散り、水道管、ガス管は破裂。周囲には汚水の雨が降りしきり、有毒性の高いガスが霧散する。ガスは非常に水溶性が高く、見る見るうちに目に見えなくなり汚水の雨に吸い込まれていく。
「……どうかな?人類の科学を利用した攻撃は?」
アルケミーが傘をさしながら声を飛ばす。
「……くっ、」
発生した巨大なクレーター。そこからやや離れたところにライラが倒れていた。先程の一撃そのものは体を水に変えることで回避していた。だが、その後降りしきる汚水の雨に有毒ガス。肉体の再錬成の際にそれらが混ざり、全身が状態異常と化していた。もう一度再錬成して有毒なものを排除すれば回復するのだが未だ有毒の雨が降りしきる状態ではそれも不可能。早龍寺達を既に遠方まで運んでいたから巻き込まれたのが自分だけで済んだのが幸いか?
「……うふふ」
大股歩きでアルケミーが歩み寄り、倒れているライラの腹に蹴りをくらわす。
「がはっ!!」
見たこともないような汚い色をした血液を吐き散らしながらライラは後方に吹っ飛び、めくれ上がったコンクリートに激突。背骨ごと背後のコンクリートが粉砕される。
「そう言えばあなたもアルデバラン星人だったわねえ。それならあの子の代わりにあなたをマウスとして使ってあげようかしら。お相手は誰がいいかな?あの金髪ドリルちゃん?生意気小学生義妹?右腕の娘?それとも他にもいろいろ体に魂住まわせているあの息子君がいいかな?」
ルンルンと鼻歌を混ぜながらライラへと歩み寄り彼女のスク水の股布部分を一気にはぎ取る。そこには顔や外見に見合った可愛らしい縦筋と、見間違いを疑うような陰茎、睾丸が共存していた。アルケミーがその睾丸を指でなぞると睾丸から精子が指先にたまり泡となる。そしてそれを今度は縦筋へと走らせる。
「……うううぐっ!!」
精子の泡がダイレクトに女の穴から子宮へと進んでいき、そこでアルケミーが指を鳴らすと一瞬でライラの下腹部が膨れ上がる。
「自分自身の精液で妊娠しちゃうだなんて贅沢で淫乱な女の子よね。それ」
「ぎっ……ぎゃああああああああああああああ!!!!」
そしてアルケミーはライラの下腹部を指で貫くと、そこから胎児を引きずり出した。体の外に出たその胎児は瞬く間に急成長を遂げ、あっという間に現在のライラと同い年くらいの少女の姿となる。そして当然ながら彼女もまた股間には2種類の性器を宿していた。
「このままずっとずっとずぅぅぅっと子供を作り続けてその子供に犯され続けてどこまでも新しいアルデバラン星人を生み出す苗床にしてあげる」
笑うアルケミー。動けないライラに無表情のまま少女が向かっていく。しかし、突然にその動きが止まった。
「……え?」
驚くアルケミーの前でライラの傷が治っていく。そしてさらにその奥。
「……危ない危ない。サボってる間にとんでもないことになるところだった」
そこには十毛がいた。
「……支配のGEAR。インフェルノが危険視していた人間、か。せっかくいいところだったのに邪魔するだなんてね」
「いいところか。……ふん、パラドクスと人間のハーフでも作ってやろうか?」
「……ふうん、GEARがなければ何も出来ないどころか存在すら保てない脆弱なネズミのくせに」
「……GEARがなければ……?」
ライラは口ずさみ、シプレックを解除。代わりにスライトを発動させる。
「あら?まだ何かするつもりなのかしらあ?」
「……」
ライラは無言のまま引き金を引き、発射された銃弾はアルケミーの額に命中する。しかし、もはや傷一つ与えられず銃弾は形を変えながら地面に落ちていく。
「……無理矢理子づくりさせられた痛みでどうにかなっちゃのかしら?安心して、すぐに続きを……っ!?」
言葉の途中、アルケミーはその先を続けられなかった。急に体に力が入らなくなり、膝から崩れ落ちる。
「……何よ、これ。どうして力が入らないの……!?」
「……!そうか!!」
事態を理解した十毛は支配を再開。その力は今まで全く届かなかったアルケミーを容易く巻き込み、その体内で伸縮を痛々しいほど繰り返す小さなものを凍らせて動かなくさせた。
「……一体、何が……!?」
「うちのお頭から聞いて知ってるぜ?人間以外がこの世界にやってくると元通りの自分自身と言うシステムを保つためのGEARを保有すると。だからお前はこの世界に来た時点でパラドクスってGEARを保有している。だから、」
「僕がスライトの力であなたのそのGEARを破滅させました。尤も完璧に消せるわけではないみたいですぐに復活してしまいそうですけれども」
「そこは心配ない。俺が支配してその復活を止めた。よってお前は今パラドクスの力を失ったただの小娘だ」
「……そ、そんな……!?」
アルケミーは何度も力を行使しようとする。周囲に発生している毒の雨を直接あの二人の体内に移動させて殺す。しかし、今までならばそう思考した時点で現実では既に実行されていた。だが、今はそれがない。それどころか未だに手足がまるで言うことを聞かず立つ事も出来ない。
「パラドクスのGEARを失ったわけじゃないからその存在を完全に消滅させられることは出来ないみたいだがその有様じゃもうどうしようもないみたいだな」
「……僕達の勝ち、ですかね?」
「ああ、そうだ。……ふん、」
十毛が一瞥するとアルケミーの傍らで無表情の少女がその存在の時系列を逆転され、元の精子と卵子に戻り、ライラの下腹部に戻っていった。
「……ど、どうも」
「これでもういいだろう。さあ、これからは俺が好き勝手する番だ」
十毛はズボンのチャックを下ろしながら下衆の笑みを浮かべつつアルケミーへと歩み寄った。


・地面から。空から。その間のあらゆる空間から。いくつもの炎の柱が束となって縦横無尽に飛び交っては幾度も激突を果たし続ける。その激突が爆発を生み、その中心部。
「でやあああああああああああああああ!!!!」
優樹が紅蓮を振りまわり、炎の中を突き進んではそのついでとばかりに回避しようとしていたインフェルノの右腕を粉砕する。
「ぐっ!」
「オラオラオラ!!オラオラオラオラオラオラオラァぁァァッ!!!
一度攻撃を加えてからはまるで捕まえたと言わんばかりに憑かず離れずひたすら連続攻撃を叩き続けていく。インフェルノがこの事象をなかったことにするためアカシックレコードに手を伸ばせばそれを無理矢理に抑えて掴んで止めては現実世界に連れ戻し、全力の頭突き。ついでに腰めがけて全力のキック。そのキックが胴体を両断しては発生した衝撃波で上下の胴体が粉々に消し飛ぶ。……ついでに自らも衝撃波に負けてどっかぶっ飛んで行く。
「いてぇぇぇっ!!」
いくつもクレーターを作りながらも、しかし優樹は着地して敵の姿を見上げる。1秒にも満たない激突の嵐が大爆発と言う終焉を迎えて静寂が生まれた空の中心からボロボロの姿でインフェルノがゆっくりと地面に降りていく。
「……相変わらず暑苦しいだけのガキが随分とまた面倒になったようだな」
「そりゃあ2000年も色んな宇宙旅してお前みたいな小悪党をぶっ倒しまくってたらな」
「その2000年、こちらは貴様のせいで随分と格下に落ちてしまった。……やっと元に戻った。この力で今度は貴様を消し去ってくれるわ!!」
インフェルノは両手から杖を出すとそれに炎を纏わせ、全長数百メートルものバカでかい刃に変えて優樹に対して振り回す。
「ちいっ!!」
優樹は紅蓮の槍で時には薙ぎ払い、時には横腹で受け止め、時には刺突で相殺する。
「ぬあああああああああ!!」
左右から挟み込むようにしてインフェルノは攻撃を繰り出す。優樹はそれを槍の両端で受け止め、
「これで身動きが取れまい!!」
インフェルノが鳴らした指先から迸る爆炎を真向から受け止める。
「ぐっ……!」
「ふっ!!」
その猛攻に、優樹がわずかに揺らげばインフェルノは高速で接近して吐息。その吐息が直径数百メートルの炎の竜巻となって優樹を巻き込み、背後の地形を変える。炎が止まれば既に周囲の地形は火山のようになり、そこら中の地面から噴火が起きている。ここが日本の中学校だったなどと信じられるものはいないだろう。そしてその吹き上がるマグマの中。
「……」
静かに優樹が立ち上がる。
「相変わらずしぶとい奴だ。しかし我々パラドクスとは違い生命と言う概念が……死と言う結果が存在する十三騎士団がどこまで耐えられるかな?」
「確かにてめぇらとは違って不老不死じゃねえがな、生き物は、生きてるからこそ強ぇんだよ!!」
優樹は紅蓮の槍を掲げる。すると、周囲のマグマや炎がすべてその刃先に集約されて1つの巨大な炎の刃となる。
「そんなものをここで使うと?この星は……地球は消し飛ぶぞ!?」
「地球?ばっかだな。いつの話をしているんだ?」
「何!?」
インフェルノは空を見上げ、自身の体をアンテナにして宇宙の座標を確認する。
「馬鹿な……ここはいったいどこなんだ……!?」
「地球からは既に数百億光年離れた……俺が1000年くらい前に作り出した使用済み太陽の残骸ってところだな」
両足がゆっくりと地面を離れて青く広がる宇宙を背にする。
「さあ、食らいやがれ!!炎神大帝覇断戟(えんしんたいていはだんげき)ぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」
銀河よりも長大となった炎の刃を振り下ろし、インフェルノを惑星ごと両断にする。
「ぬうううう……!!だが、無駄だ……!!!我々パラドクスは不死!!この宇宙に心がある限り決して消えることなく何度でも甦るだろう!!」
「だったら、何度でも倒してやるまでだ!」
刃が元に戻り、優樹が背を向けて叫べば、惑星はインフェルノごと大爆発して宇宙の藻屑となった。
「……さて、オーディンに言われたから手を貸してやったけどボランティアはここまでだぜ。廉」
優樹はそれだけ遠く彼方の青い星に飛ばすと瞬く間にその場から飛び去っていった。


・地球。円谷町。車を走らせた大悟達が視界の彼方に消えていく中、ヒエンは同じ顔をした男と対面していた。
「それで、パラドクスが何の話があるって?」
「貴様はこの星が妙だと思わないか?」
「ディオガルギンディオとかって奴が実験場にしているんだろ?なら何が起きても不思議じゃないんじゃないのか?」
「……GEARの発生、それが地球上の全生命だけでなくこうして外宇宙からやってきた俺達にすら制約が掛けられる……。そしてただの中学生のガキがGEAR1つだけでこうした架空の世界を作り出しているんだぞ。この地球を実験場にしている調停者は連中の中でも決して弱い方ではないが、だからと言って十三騎士団やパラドクスが入り乱れて争い合うような大事件を起こせるほどのものでもない」
「……何が言いたい?」
「つまりだ。この星を司るお前に何か問題があるんじゃないかって話だ」
「……こっちにか?」
「そうだ。少し前まで十三騎士団としての力も記憶もなくしていたそうだがそれはいくら何でもありえない。調停者としてのお前も存在するのは知っているがもう完全に別人となっている関係上、しかも敵対している力を引き受けることなど本来なら不可能だ」
「……それで?お前は何がしたい?この星の異常は歪みとなるらしいからお前達パラドクスにしてみれば都合のいい餌なんじゃないのか?」
「……だが、調停者は気に入らない。お前が乗らないのであれば俺がこの手で貴様を倒してプラネットの力を奪い、この地球を元に戻してやる」
「やってみろ……!」
互いの抜刀は一瞬。一筋の万雷と稲妻を纏った双剣が同時にぶつかり合う。剣術も何もないただのぶつかり合い。それが何度も続いていく。出力(パワー)で上回る万雷の衝撃波が裏闇裏丸の肩口を大きく焼き切り払い、手数(スピード)で勝る双剣がぶつかり合う前と後にヒエンの体を切り刻む。そして互いに飛び散った血液は電圧により一瞬で蒸発する。
「つおおおおりゃああああ!!」
ヒエンが万雷を横薙ぎに振るう。
「ふんっ……!!」
裏闇裏丸は刃先を伸ばした双剣で攻撃を受け止め、伸びた刃先が蛇のように蠢き、ヒエンの両手首を貫く。
「ぐっ……があああああああああああああああああっ!!」
が、次の瞬間には力ずくで振り回された万雷が双剣を腹から叩き砕き、裏闇裏丸の両手首から先を切断してから電圧で焼き焦がす。そして互いに一歩を退くと両手の傷を修復する。
「少しは力を取り戻したようだな。だったらこれはどうだ!?」
裏闇裏丸は少しの笑みをこぼすと背後に跳躍。すると地面から稲光が巻きあがりその体を包み込む。そして次の瞬間には全長300メートルを超える狼のような姿となっていた。
「なんじゃりゃあああああああああああ!?って確かプラネットの力でビーストになった時もあんな姿だったか!?こいつプラネットの力は持ってないんじゃなかったのか!?」
「そうだ!!」
裏闇裏丸は50坪くらいはありそうな面積の足でヒエンを踏み下ろす。
「ぬっ!!」
万雷で切り上げようと構えて受け止めるがその足底は電気で構成されていて万雷の最大出力でやっと相殺できるほどだった。残った体重は腕力で何とか受け止める。同時に鞘からザインの風の変形したロープが伸びて右200メートル先の電柱に巻き付き、それを引き寄せることでヒエンは右側に高速移動してスタンプから脱出する。
「で、どういうことだ!?」
「確かに俺にはプラネットの資格はないし力も持たない。だが、かつての貴様からこの姿への変貌能力は頂いているのだよ!!」
移動したヒエンを見もせずに裏闇裏丸は大きく口を開き、電気の束を吐き散らす。その電圧は万雷の最大出力をわずかながら超えていて、一瞬で視力は役に立たなくなった。
「くっ!!」
とりあえず敵の巨体以上の高さまで跳躍し、攻撃を回避。すると今度は全長数キロもあるような長い6本の尻尾が迫ってはヒエンをぶっ飛ばす。
「がああああっ!!」
700メートル先の民家を貫き、その地下室でバウンドし、200メートル先の地面からコンクリートを貫いて跳ね上がってくる。
「確かに人間の姿同士では貴様の方がやや強いかもしれない。だが俺はさっきまでの10倍は強い!瑠那なしでは元の力を扱えないお前に勝ち目があるものか!」
言葉を載せて咆哮。それだけで万を超える億の雷が空から轟き舞い落ちては一瞬で周囲を荒野へと変える。
「……参ったな。スケールが違う」
ゆっくりとたちがあるヒエン。まだ少しだけ余裕はあるがしかしあと何発も耐えられるものではないと判断できる。どうしたものかと考えた時だ。懐のスマホが揺れ動いた。
「死ぬほど取り込み中なんだが!!」
「すみません、ヒエンさん」
「赤羽!?」
「今ルーナさんと合流してそちらに向かっています。なのでもう少しだけ耐えてください」
「……いや、ルーナだけなら瞬間移動できるだろ?まだ動けないのか!?」
「そのようです。でもプラネットの力の返却は可能だそうなので……!」
「分った!なるだけ急いでくれ!」
スマホを切ると同時に稲光が迫り、スマホは一瞬で消し炭になった。
「ちっ!」
「遺言は済ませたか!?」
裏闇裏丸がこちらをにらみ、さらなる電撃の束を飛ばす。対して可能な限り万雷で迎撃、相殺するが数秒で限界に達してヒエンは弾き飛ばされる。
「ぐうううううううううううう!!!」
首から下が炭となりながら弾き飛ばされる。粉々になる前に修復するが体力の消耗は避けられない。万雷を杖代わりにして立ち上がると同時、疲労から来る立ちくらみに襲われてふらつく。すると、物凄い殺気を感じた。正面を見た時にはすでに遅かった。
「ぜああああああああああっ!!!」
「があああああああああああっ!!!」
雷を纏った裏闇裏丸が突進してきた。バカでかいものが信じられない出力とスピードで迫り、ヒエンを容易く轢き飛ばす。いつしか手から万雷が零れ落ち、ヒエンの体は無抵抗に空へと投げ出される。激痛と消耗から無気力が誘われ、ヒエンはそのまま無防備を大空にさらしていた。
その時だ。
「ヒエンさん!!」
声がした。赤羽の声だ。右方だ。見れば何か赤い物体がこちらに向かってきていた。
「あれは……三船の時の……」
外見はまるで違うがシルエットは似ていた。女神像のような女性型の物体を中心に深紅の装甲と翼を持った10メートルほどの物体。女神像部分の額の宝石部分に赤羽の姿が見えた。
「……ルーナさん、行きますよ」
「……ああ、頼む」
声がした。赤羽が念じると右翼から一発のミサイルが発射された。……そこにルーナが乗っていた。
「……は?」
音速で空を貫くミサイル。そこからルーナはヒエンの真上で飛び降りる。ミサイルが裏闇裏丸に命中すると同時、ルーナもまたヒエンと空中で激突を果たした。
「アレは何なんだ……?」
「赤羽美咲のPAMT:姫火(ひめか)だ」
「PAMTって……完成していたのか……?」
「私は見ていなかったがあなたは2か月くらい前にアレと戦ったのだろう?そこからの修復だったから短く済んだそうだ。おまけに伏見機関の技術もあって完全な完成系となった。パラドクス相手ならともかくUMXが相手ならば問題ないだろう……。さあ、廉。力を譲渡する……!」
ルーナは弱弱しくヒエンと口づけを交わす。するとプラネットの力がルーナからヒエンへと移り、
「ふん!!」
ヒエンが念じると二人の体力が完全に回復され、町は元通りに再生する。空中でルーナが一度姿を消すと、そこから離れた場所にワープする。そして背後となった戦場を振り向くとそこには2体の巨大な狼がにらみ合っていた。
「……力を取り戻したか……スパークス!!」
「目には目を歯には歯をってな!!」
言葉が終わった。同時に両者は稲妻を纏っては突撃を放つ。とんでもない出力と質量とが真向からぶつかり合い、せっかく修復された街並みがまた廃墟へと変わっていく。そしてそれは1度や2度ではなく、何度も激突を果たす。時には地で時には空で。
「……ん、」
一度だけ真下に何かいるのに気付いた。建物の屋上に大悟と鈴音らしき影が見えた。対して真上を見れば裏闇裏丸が口を開けて稲妻の束を吐こうとしていた。
……避けたら後ろの二人が消し飛ぶな……。
思考した直後のこと。
「問題ありません」
敵のさらに真上。姫火がそこを飛んでいた。その翼から数えるのもばかばかしい程のミサイルが発射され、裏闇裏丸の背中を焼き焦がす。それにより一瞬口内のエネルギーがかき消され、動きが止まる。その瞬間にヒエンは加速。裏闇裏丸向けて突撃。
「ぐうううっ!!」
そのまま大気圏の外まで裏闇裏丸をぶっ飛ばす。
「……くっ、」
しかしヒエンは大気圏の外までは行けず、少しずつ人間の姿に戻っていく。
「無様だなスパークス!!全宇宙を飛び回る正義の味方のくせに地球を離れる事が出来ないとは!!」
笑いながら裏闇裏丸は再び口にエネルギーを集約し始めた。チャージの時間が長い。つまり今までのよりもさらに高出力の一撃が来ると言うことなのだろう。
「……まずいかもな」
元の姿に戻ったヒエンはちらりと背後を見る。と、青いはずの星が完全に黒く染まっていた。
「……矛盾の安寧の終わりか。長倉の奴は上手くいったか……?」
「それが遺言だなスパークス!!」
裏闇裏丸が光電子砲を放つ。その一撃は地球上の消費電量50年分以上だ。このまま進めば間違いなく地球は消し飛ぶだろう。
「……矛盾の安寧の終わりでただでさえ普通じゃない状態の地球にそんなもの与えられっかよ!!」
地球を背後にヒエンは呼び寄せた万雷を握りしめる。その時だ。
「……ガイアフォースを使って……」
「え!?」
声が聞こえた。少女の声だ。
「地球を守るためにガイアフォースを使うの……。出来るはずだよ……」
「ガイアフォース……」
何故だか、よくまっすぐ心に聞き入れた。この声か言葉かどちらかその両方かに聞き覚えがあるからだろうか。ただ、ヒエンは万雷を鞘にしまうと拳を握り迫りくる光電子砲を睨んだ。……地球を守ると言う強い意志を込めた瞳で。
「ガイアフォオオォォォォォォォォォス!!!!」
拳を解き放った……正拳突きの形で……。右手から発射された紫色の光弾は拳の形をしていて、光電子砲と真向からぶつかり合う。が、その拮抗は一瞬で終わった。
「何!?」
地球の光は容易く光電子砲を打ち破り、そのまま裏闇裏丸を包み込む。
「この光はまさか……取り戻したとでもいうのか……!?ぐああああああああああああああああ!!!」
断末魔を宇宙に残し、裏闇裏丸は紫色の光の中に消えていった。
「……地球の光……か」
それを見届けながらヒエンは静かに、ゆっくりと暗闇にのまれていく地球の大地へと落ちていった。

------------------------- 第98部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
88-ちょい少し話「清き女子中学生のための夜」

【本文】
GEAR88-ちょい少し:清き女子中学生のための夜

・それは火咲と紫音の割とガチ目な殺し合いが行われた日の夜のことだ。パラドクス由来の完全治癒マシンのおかげでぎりぎりで一命をとりとめた両名を背に伏見提督からの3時間説教&修正タイムが行われて数時間。
「ん、カギがない?」
ヒエンは聞く。それは機関からの帰り道。
「はい。私のホテルの部屋の鍵ですが、ライラさんが持ったままなのです」
「そのライラちゃんが今日は帰れそうにないって言うんだよね。だから美咲ちゃんを久遠ちゃんのところに泊めてあげようとも思ったんだけどここからだと死神さんの家の方が近いと思うんだよね」
赤羽に後ろから抱かれながら歩く久遠。それを聞いた赤羽は少し赤面する。ヒエンもまた決して意識しないと言う訳ではなかったがしかし同時に表情は蒼くした。
「……ってことはまたこっちから早龍寺の奴に詫びを入れなきゃいけないってことか」
「死神さんそんなこと気にしなくていいんだよ?」
「そうしたいのはやまやまだが久遠が少しでも家に帰る時間が遅れるとあいつから電話がかかってくるんだ」
「……早龍寺さんと仲がよろしいんですね」
「別にそう言うことじゃない。前に三船から君たち兄妹を救うためにあいつと一緒に戦ったことがあってその時にメアドの交換をしておいたんだ。さらに臨時の指揮官になった際にはそれ用にって電話番号まで教える羽目になった。……僕がスマホを買ったのは赤羽といつでもお喋りしたかったがためだというのに」
「おやおや?奥さんがいるって言うのに死神さんが美咲ちゃんと不倫をしているよ?」
「もうとっくに時効だそんなもの」
意を決してヒエンは早龍寺に電話をかけた。

・そしてヒエンの部屋。
既に先に帰っていたルーナが写真楯を拭いていた。
「ああ、お帰り廉。……なんだ女連れか。彼女が悲しむぞ」
「記憶がないんでセーフだな。少なくとも情状酌量の余地はあるだろう」
「……お邪魔します」
「しまーす!」
赤羽と久遠が荷物を持って中に入る。赤羽がここへ来たのは別に珍しい話じゃない。毎朝黒服によってヒエンと待ち合わせをしているうえたまに上がらせてもらっている。しかし久遠は初めてだ。
「へえ、これが死神さんの部屋か。ルーナちゃんの荷物?なんかかわいいのいっぱいあるけど」
「まあな。いらっしゃい。赤羽美咲、馬場久遠寺。赤羽さんはともかく久遠さんとは初めてかな」
「あれ?前の世界にはいなかったの?」
「ああ。どうしてかね。ただ初代赤羽美咲は君を知っていた。だからたまたま前の世界に君はいなかったってだけだろう」
「へえ、変なの」
「……それよりもルーナそれは……」
ヒエンは写真を見た。
「ああ、懐かしいだろう。英雄部の写真だ。一度だけ元の世界に帰らせてもらった際にコピーして持ってきたんだ」
「……聞くがそっちにも僕はもういないんだな?」
「ああ、いない。あなたはどの世界においても一人しか存在しえない。……パラドクスと調停者に一人づついるけどね」
会話の中で赤羽は写真を見た。そこには少し成長して大人っぽくなっているとはいえどう見ても自分にしか見えない女性が映っている。
「……これが最上さんですか」
「ああ、そうだ。彼女ならまだいたよ。当然最上火咲としての記憶はない。もちろんあちらにも最上火咲はいたからその存在自体は知っている。当然自分達の関係についても」
「……そうですか」
「……ところでルーナ」
「何?」
「この子、何となくそれ以上に見覚えがあって、しかしどうしても思い出すわけにはいかないみたいな感覚があるんだが」
ヒエンは写真の中の巫女服の少女を指さした。
「……彼女は君の妹である甲斐和佐だ。そして十三騎士団の一人ナイトアルテミスでもある」
「……あ~……なるほど。って事はつまり……」
「そ。お母さまだよ!」
と、元気な声。同時に触手がルーナに巻き付いて胸と口と陰部を同時に侵略した。
「!!!」
「ルネか」
部屋の奥から来たのはルネだった。
「うわあ……」
くねくねうねる触手を見て久遠が表情を蒼くする。一方でルーナの陰部からあふれ出てくるいやらしい音に赤羽は赤面する。
「……お母様ってルネさんはあなたの3番目のお子さんと聞きました。つまりあなたは妹さんとそういうことをしたのですか?」
「……考えたくはなかったが推測はしていた。これが一番現実的にしっくりくる答えなんだろうなぁとは思っていた。……けどまさか真実とはなぁ……」
顔を伏せるヒエン。とりあえず触手と言う形を使っているとはいえ一応ガチなセックスを見せつけられているためか赤羽は久遠の目を
手で覆った。……が、今度は逆に凌辱されているルーナの喘ぎ声が目立ち始めた。
「……ルネさんがこのような性格になったのも全部あなたが近親相姦したからですよねきっと」
「……面目ない」
「でも赤羽美咲?別にそこまで変じゃないんじゃない?あんただって触手とかあったり男だったりしたら久遠ちゃんとセックスしたくならない?私も瑠那とは2つ年が離れてるけど」
「……あなた方にも一応年齢って概念はあるんですね」
「そりゃそうだよ。一番幸せだった3つ前の世界だとみんな普通の年だったよ?私が13歳で瑠那が15歳。第一子で長女の怜悧が20歳で第二子の正輝が16歳。お父様は38歳で、お母様は36歳。2代目の赤羽美咲は15歳だったかな?」
「死神さん38歳だったの!?」
「……いや3つ前の世界ってことは最低でも300年以上前だ。肉体年齢はリセットされているから問題ないと思うが存在年齢で言えば300歳は軽く超えているはずだ」
「と言うか2000歳超えてるはずだよ?3つ前の世界が始まったのって2000年前だし」
「る、ルネ……少し違う」
何とか触手を払いのけ、上下二つの口から大量の液体を吐き散らしながらルーナは続ける。
「あなたが言っているその世界は2つ前の世界と3つ前の世界の間……3つ前の世界が滅ぼされて新しい世界が作られるまでの天使界での話だ。……あといい加減挨拶代わりに私をレイプするのはやめてくれ。いったい何人あなたの子供を産まなくちゃいけないんだ」
「だってゼノセスターはもうほとんど絶滅危惧種だもの。最初はゼノセスターとは程遠い天使が生まれるけどその天使同士で何代も近親相姦し続けることでやっと新しいゼノセスターが誕生するんだから」
「……とりあえず久遠がいる前で近親相姦とかいう話はやめてください」
「そう言いながらレズレズするのは望んでるくせに。赤羽美咲はいつからバイになったのかしら」


・夕食。ヒエンもルーナもルネも人間ほど食事は必要としない。しかし赤羽と久遠は別だ。だからルーナが買い物をして夕食を作った。
「…………」
その食事を前にルネは難しい顔をしていた。
「どうしたのですか?」
「ゼノセスターは本来食事をしない。その種属性に甘えて今まで食事を与えたことがなかったからどうしていいか分からないんだろう。ルネ、無理に食べなくてもいいんだぞ?」
「で、でもせっかくだし……」
「そんなにルーナの飯が食べたいのか?」
「別に瑠那は関係ないじゃない」
「……昔の世界にもツンデレってあったんだね。はい、美咲ちゃん。あーんして、あーん」
「……久遠、恥ずかしいです……あーん」
「廉、料理にかかるから鼻血を出すのはやめてくれ」


・夜。いつもは気にしていなかったが今日は風呂に入らねばならない少女が二人いる。なので風呂を焚く必要があるのだが今まで碌に使ったことがないためかやり方が分からない。ヒエンが四苦八苦している間に背後では少女たちは何やらよからぬ話をしていた。
「……それでどうしてこうなるのか」
浴槽。本来ならぎりぎり二人が入れる程度の狭い場所だがヒエンが入るとルネの力で近くの銭湯と融合でもさせられているのか10人くらいは平気で入れるような広い状態になっていた。しかも露天だ。それもただの夜景ではない。ルネがルーナの記憶から奪ったのかそこは天使界の様子に近かった。
「……」
「……」
「……げ、結羽(ゆん)に雷歌(らいか)……歌音(かのん)ちゃんまでいるのか」
知った顔がいくつかある。しかし当然彼女たちは実在していた人物であり現実に生きている存在ではない。飽くまでも立体映像のようなものだ。
「……だからって匂いまで再現するなよ、ルネ」
「えへへ。ごめんなさい」
後ろを見る。タオルで頭を巻いたルネがいた。しかしいつもの触手はなく、両足はない。裸の上半身だけで器用に風呂の床を這って歩いている。見かねたヒエンが持ち上げてやれば視線が合う。
「……少し大きくなったか?」
「おっぱいが?」
「……確かに少しは大きくなってるがまだまだだな。久遠とどっこいくらいだ」
「それはどうかな!?」
その声とともに久遠がやってきた。もちろん場所通りに全裸だった。下半身がないうえに発達も年かさにしてはよくないルネと比べてもなおそのスタイルは決して幼いという範疇を超えてはいない。ルネとは違い下の毛もまだ生えていない。しかしそんな幼い久遠であってもいつも顔を合わせている少女が裸を見せていることに興奮していないと言えば嘘になる。とりあえず脳裏で3兄弟に謝る姿(シミュレーション)が浮かぶ程度には。
「どう?」
「……いや、まだルネの方が大きいな」
「がーん!1つしか歳の差ないのに……」
「甘いよ久遠ちゃん。私は体は13歳だけどそれでも200年は生きてるからね!」
「……いいもん。そのうち抜かして見せるもん」
そう言いながら久遠は裸のままヒエンに抱き着いてきた。
「お、おい」
「なぁに死神さん。久遠ちゃんに興奮してるの?まだ小学生の久遠ちゃんに」
「いや、お前の兄貴達に殺される」
「あれ?」
違和感を感じた久遠は視線を下に転がす。当然そこには自分の裸の股間と何度か触れ合っている男のそれが見えるわけだが。
「……小さいというか短い?そー君とかの昔見たことあるけど当時のそー君たちのより短くない?」
「……それは……」
「昔ある人物に切られたからだ」
声。それはルーナの物だ。隣の赤羽同様にタオルで体を隠している。顔の赤面具合では赤羽の方が10倍以上だが。
「きられたっておちんちんを?」
久遠が赤羽の方に走ってくる。赤羽は多少誤魔化しも込めて久遠を強めに抱く。しかし久遠が離れたことでヒエンの裸が完全に露になっていた。
「……や、まあ、どうも」
「……すみません」
視線と言葉をぎこちなく交わす。
「で、ルーナちゃんどういうこと?」
「……まずは湯に入ろう。このままでは風邪をひいてしまう」
ルーナは一度タオルを外してから近くのシャワーを使う。赤羽はちらちらとヒエンを見てから、しかしタオルを外してその裸体を晒した。下着までなら見たことがあるがそれより先を見るのは初めてだし、その機会があるとも思わなかった。改めて見ると隣のルーナよりかもいいスタイルをしていた。
「お父様、視線がエッチだよ」
「っと、悪い」
とりあえず桶を使って湯を掬い、自分とルネの体を洗う。よく覚えていないが昔もこうしていた記憶がある。そしてその際にはもう一人隣にいた。
「で、廉のそこが切れている原因だが」
湯舟。5人全員が肩を並べて暖をとる。いつもよりも丁寧に湯船に入っているのは周囲の光景が由来だろう。特にルーナは知人がいる。だからかその顔の赤もいつも以上だ。
「先程カミングアウトしたようにルネは廉とその妹である甲斐和佐から生まれた。確かに廉は好色だがしかしさすがに実の妹にまで手を出すほどのものではない。……これは天使界の元老院から聞いた話だが第一子を生んだ彼女が、しかし調停者によって起こされた地球のリセットによって亡くなってしまってからの廉はひどかったという。そして甲斐和佐は少なからず彼女に対して後ろ暗い感情があった。複雑な関係だったそうだ。だから甲斐和佐はひどく傷心してほとんど精神崩壊に近い状態となった廉をその傷を癒すため、自分が彼女に成り代わるために誘惑した。その末に生まれたのがそこにいるルネだ。ルネが生まれてから数年。意識を取り戻した廉はその際の贖いとして自らの陰部を切断した」
ちゃぽんとどこからか水の音が生まれた。それは沈黙を作った。発言したルーナはもちろんいきなりそんな暗すぎる自身の過去を知らされたヒエンも他のメンツもみな躊躇いの沈黙しか作れない。唯一の例外は、
「でもお父様?ルネは嬉しいんだよ?だってお母様の禁忌がなければルネは生まれなかった。お父様の娘として生まれることがなかったんだよ?」
「……そうだな」
膝の上に乗せたルネの頭をなでてやる。まだ、この少女の父親としての記憶や認識はほとんどないがしかし傷つけてやるにはいかないと無意識が感じていた。
「……それに十三騎士団の廉からすれば局部の切断など自然と修復される。たった200年で割礼程度のサイズに納まっているのだからな。精液はまだほとんど出ないがそれでも十分事そのものは出来るわけだし」
「う、」
何だか赤羽あたりから痛い視線を感じてヒエンは誤魔化しにより強くルネの頭をなでてやる。
「そうだよね。毎晩のように瑠那とセックスしてるもんね」
「……そ、そういうことはいわなくてもいい!」
ルーナが微生物を使ってルネの膣奥をくすぐる。
「あ、ちょっと、瑠那やめ……くっ、届かな……!!」
「おいルーナ、あまり怒ってやるな」
「相変わらず娘には甘い奴……」
ルーナは代わりにルネの両足の断面をくすぐってやることにした。それを見ながら赤羽は口を開く。
「あの、少し質問が……」
「何だ?」
「先程ルネさんが生まれたのは本来の奥様がお亡くなりになられてすぐだとおっしゃいましたよね?でも先程の話によれば第一子の怜悧さんと第二子である正輝さんの間は4年空いているのでは?もしかしてその正輝さんと言う方も妹さんが?」
「いいや違う」
ルネを酸欠させながらルーナは続ける。
「長女である怜悧を生んで2年ほどで彼女は亡くなったそうだ。しかし次の世界誕生までの間に天使界の存亡を図る元老院たちは種の存続のためにあらかじめ採取していた彼女の遺伝子と廉の遺伝子を使って人工的に人間を作り上げた。それが第二子である黒主正輝だ。甲斐怜悧、黒主正輝、そしてルネッサ=峰山。全員苗字も誕生法も異なるが廉の子供たちだ」
「……」
赤羽は得心したようにうなずき、しかしヒエンはどこか腑に落ちない表情だった。
「……まあいいや、それよりルーナ。そろそろルネを解放させてやってくれ」
「おっと、すまない。忘れていた」
ルーナは完全に呼吸を止めた状態で胸の中で転がっていたルネを浴室の床に転がした。立体映像相手とは言えちょうど股間部が知人たちに見えるような形で。
「……ぐっ、瑠那め……。復讐してやりたいけど力が出ない……お父様」
「ん、どうした?のぼせたか?」
「セックスしよ?」
沈黙。空気壊れる。赤羽が久遠の耳をふさぐ。しかし久遠は勢いよく湯船から上がる……目をキラキラさせて。
「……あ~、どういうことだ?」
「廉、その子は近親相姦で作られた。しかもただの人間ではない。正式なGEARではないがその子の中には禁忌の役割も備わっている。だからそう言うことをすることで存在の回復を行うことが出来るんだ。だが、まだ安心していい。何もペニストゥワギナの行為ではない。彼女はまだ処女だ。ただ彼女の触手で体液を採取されればいい」
見ればルネの口から舌と見まがうような小さな触手が伸びていた。
「体液って唾液とかか?それとも血液か?」
「いや精液だ」
「……おい、僕はまだ精液出せるほど治ってないぞ」
「普通のやり方ではな。そもそも一応女性同士でありながら何度も私に卵を出産させているこの子が普通のやり方をすると思うか?」
「……それはそれで怖いんだが」
しかしヒエンは湯船から上がり下腹部を娘の口に近づけた。中途半端に屹立したそれが口の中に入り、部分に触れては次の瞬間。まるで下半身の血液や神経がもろとも持って行かれるような強烈な刺激が迫った。
「な、何だこりゃ!?」
思わず零のGEARを脱衣所から回収しそうになるがルネに両足をつかまれていて動けない。
「ぐっ……うううう!!」
想像以上にきついしひどい。一種の拷問として成り立ちそうな感覚。電気ショックのように下半身が焼き尽くされるようだ。これを毎回やられているのだからルーナの心労もたまるわけだ。何よりも吸われている部分そのものは確かに気持ちいいのだが発散するための物が生成されると同時に体内から直接吸われていくため我慢汁すら出させてくれない。それくらいなら出るかもしれないというのに。そしてがっしりと両足の付け根を掴みながら血走った目で吸ってくる娘が怖い。時折歯が当たってるのも怖い。諸共にかみ砕かれそうな恐怖感覚。
「……ふう、」
数分後。ルネは回復した。代わりにヒエンは勃起させたまま浴室の床に転がる。
「ありがとうお父様。お礼に今度は普通にしてあげるね」
ルネがこちらの局部をわしづかみにする。恐怖が蘇る。思わず手が出そうになる寸前に、
「はい。そこまで」
ルーナが来てルネを抱き上げた。
「瑠那!」
「あなたは……女性の扱いも最低だが男性の相手が出来るほどでもまだない」
「何よビッチ!正妻戦争にも参加しなかったくせに!それなのに今更お父様と何度もセックスしてて恥ずかしくないの!?」
「……」
ルーナは何も言わず直径20センチほどの微生物の塊をルネの口の中にぶち込んだ。
「……この子は私がどうにかするから君たちはゆっくり休んでてくれ」
そう言ってルーナはルネを抱いたまま浴室を去った。同時。それまでとんでもなく広かった浴室は本来のサイズに戻る。
「……死神さん大丈夫?」
久遠が歩み寄り、肩を揺らす。
「あ、ああ」
振り向けば久遠だけでなく赤羽までこちらに歩み寄っていて、ローアングル故にどちらの股間も見えていた。それを認識すると同時局部に力が復活する。先程の恐怖、それ以前の自分の突然の衝撃的経歴、それが魔を挿した。
「……やってくれないか」
屹立したそれが天に伸びるようにヒエンは仰向けになった。頭がぼうっとする。そのために二人の表情を見ることは出来なかった。ただ、数秒後に柔らかく温かい心地よさが下半身を刺激した。ルーナとした時のような独特の締めつけは感じられない。ならば本番ではないだろう。しかし複数の息遣いや刺激は感じられた。……やがて時は来た。
「…………やっちまった」
深いため息。一気に解放された感のある心地よい疲労感が下半身にはあった。起き上がると床には二人がうずくまっていた。どちらも口元と股間を覆っていた。何を思ったのか
赤羽がそうしている右手を掴んで持ち上げる。そこには彼女が隠したがっていた股間があった。淡い繁みの中にそれは確かにあった。彼女の少女たる証。そこから血液が流れたような跡は一切ない。ただしいくつか皮がむけていた。それを察したヒエンは一言。
「……そういうやり方も知ってたんだな」
直後、ヒエンの頬を叩く乾いた音が浴室に響いた。

------------------------- 第99部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
忙しい人向けのX-GEARあらすじ4章5章

【本文】
3章後夜
・セックスしながらヒエンはルーナから自分の過去について聞く。
十三騎士団、ザ・プラネット、パラドクス、全宇宙の調停者<ディオガルギンディオ>、初代赤羽美咲、妹の和佐、かつての嫁について。

一日目
・小夜子に朝フェラされて目を覚ます大悟。元気がない鈴音や大分お疲れ気味な八千代、怪我で学校を休む達真と火咲、突然学校帰りに襲い掛かってきた黄緑など日常に変化が起きていることを実感する。
・銃撃された怪我から目を覚ました達真はカプセルによる治療後、紫音の初段昇格試験の相手に任命される。
・早龍寺に睨まれながらも紫音と対決する達真。火咲やヒエンも絡む。
・遅ればせながら世界の事実を知った黄緑が大悟を襲う。矛盾の安寧と名付けられたこの世界に上書きされた世界には彼の思い人である来音がいる可能性が高いためここで大悟を殺して来音と会おうとするがヒエンに止められる。
・その帰り。ついに矛盾をエサとする宇宙の悪魔騎士パラドクスの一人カオスナイト・スパークスが襲来。爛を瞬殺しヒエンすら圧倒。しかし宇宙の彼方からナイトスパークスの証である稲妻の剣・至上の万雷が飛来してそれを手に取ったことでナイトスパークスとしての力を取り戻したヒエンによってカオススパークスは撃破される。
・深夜。二人の小夜子が対決。勝者の方が大悟と結ばれて近親相姦。
・朝方。カオスインフェルノに寄って噂の双子が拉致されてしまう。

二日目
・朝。大悟の精神が極めて乱れているのが発見されたためすぐさま二人の小夜子を回収。月仁、八千代が多大な代償を払って時間を12時間巻き戻す。
・キャオリストロが英雄部の世界からやってくる。伏見機関の雅劉現る。
・かなり多くの力を使った八千代は生き返った方の小夜子と共に帰宅。
・昼。チートになって帰ってきた十毛とヒエンが学校で決戦。プラネットの力をある程度自由に使えるようになり辛勝。
・夕方。本格的に大倉機関に接触する伏見機関。爛と雅劉が模擬戦。
・夜。八千代が大悟に真実と現状を話す。

三日目
・未明。インフェルノの攻撃を受けて生死不明だった加藤が死亡。
・期末試験。終了後にヒエンは赤羽とデート。
・イシハライダーにぶっ飛ばされたトゥオゥンダ、ジキル、十毛がインフェルノと遭遇して対決。最強フォームになったイシハライダーの参戦もあってインフェルノは撃退される。その後、ヒエン&赤羽、トゥオゥンダ&ジキル&十毛、キャリオストロ、大悟&姉妹が遭遇する。

6日目
・夕方。大倉機関入りを果たしたトゥオゥンダ、ジキル、大悟が訓練。
・夜。ルネとUMX襲来。大悟にダハーカのDNAが混入される。UMXがヒエンに倒される。

7日目
・午前中。大倉と伏見で会議。噂の双子の場所が異次元だと判明。
・夜中。ヒエン達が伏見に黙ってキャリオストロとルネの力で双子救出に向かう。ライラにナイトメアカードが復活する。達真と陽翼が再会する。大悟が暴走した潮音から天死のDNAを吸収することで止める。

8日目
・かなりいじけたトゥオゥンダとジキルだが勝負の末納まる。

10日目
・夜。赤羽、久遠がヒエンの家に止まる。そこでルネの母親がヒエンの妹であり十三騎士団の一人和佐だと判明する。
・夜中。大悟が目を覚ます。双子からダブルフェラされる。しかし大悟が果てた後双子が近親相姦。中出しはライラに止められる。
・早朝。紫音と火咲が殺し合う。
・昼休み。大悟と八千代が屋上でセックス。
・午後。ライラ&十毛VSカオスナイトアルケミー、トゥオゥンダ&ジキルVSカオスナイトディンゴ、優樹VSカオスインフェルノ、ヒエンVSカオススパークス。すべて味方側の勝利。それから大悟が矛盾の安寧を終わらせる。

回想
・2年前に大悟、八千代、小夜子、鈴音は故郷に帰る。
・謎の男:パラディンから開示(オープン)のカードを受け取る。
・大悟は過去に枯れない桜の木の悪意の部分を取り込んでしまっていて1年に1度故郷に帰って浄化しないといけない。
・鈴音は大悟の中の悪意を肩代わりできる。そのために浄化の儀式で犠牲になりかかる。
・小夜子の助けもあったのだが結局鈴音は死んでしまう。
・最果ての扉の先に待つものの声に導かれるがままに大悟は枯れない桜の木の力で莫大なまでに強化された主人公のGEARを発動。鈴音が死ななかったifの歴史に世界を分岐させた。それが本編で矛盾の安寧と呼ばれる世界である。

------------------------- 第100部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
設定資料集5

【本文】
<用語解説>
十三騎士団(じゅうさんきしだん/ゾディアック):現宇宙の平定を司る邪神オーディンに仕える12人の存在とオーディンが自らの本体から切り離して有する戦闘用の化身を合わせた13人で構成されている集団。オーディン以外の階級は2であり、純粋な戦闘能力としては右に出るものはほとんどいない。オーディン以外の12人をまとめてゾディアックとも呼称する。GEARが高まり、昇華して進化を繰り返した結果であるディオガルギンディオと違ってオーディンないしは他の騎士による力の譲与によって誕生する。ただしオーディン以外が力を与えた場合与えたものは騎士としての力を失う。大抵は1つの銀河系に対して一人しか派遣されない。
基本的に不老不死であり、一度派遣されれば数万年以上はその場所に身を置くためほとんどの場合複数の騎士が揃うことはない。しかし毎晩12時になると特殊な結界が張られ、それぞれが化身だけを飛ばして定例会議を行う。
存在理由が宇宙の平定であり、それを破ろうとする者がいれば躊躇なく容赦なく粉砕しなければならない。そしてそのための力ならば幾らでも湧いてくる。逆にそれを由来としない戦闘では100%の力を発揮できない制約がある。もっと言えばオーディンの意にそぐわない行動の場合は一時的に騎士としての力を封印される場合もあり得る。
現時点での討伐対象は宇宙の歪みが実体化した存在パラドクスと全宇宙の星々で大掛かりな実験を行い続けている全宇宙の調停者<ディオガルギンディオ>である。もう1つの勢力であるプラネットに関しては協力体制にある。一応のモデルは某光の巨人。

反神三十一柱(パラドクス):知的生命体が複数誕生し、文明が生まれたことによって発生した歪みや矛盾と言ったものによってその文明が著しく崩壊しないようにその歪みなどを集めてひとまとめにするシステム。そこにバグが生じて生物特に人間に酷似した姿の擬似生命体として誕生した存在。今でもその概念(システム)は存在し、パラドクスの個体が撃破されたとしてもそのシステムに歪みがある程度たまり次第蘇る。システムは本来合計で30個存在し、何億年かけてやっと1つが埋まりパラドクスとしての姿を作ってしまう程度だったがここ数万年はディオガルギンディオの実験場として次々と新しい宇宙と文明のある星々が作られていき、爆発的に歪みが発生してしまうようになったため30体のパラドクスが作られてしまったばかりか2000年前に甲斐廉が元来プラネットでありながら十三騎士団に、さらにディオガルギンディオのブフラエンハンスフィアとして兼任されてしまったという大きな歪みが原因で本来ありえないはずの31体目のイレギュラーパラドクスが誕生してしまっている。この項目の他の組織とは違い、種族と称すべき組織であり、横のつながりも縦のつながりもほぼ存在しない。場合によっては自分しかパラドクスがいないと思い込んでいる個体すら存在しうる。
ちなみに人型であったりカオスナイトと言う称号があるのは、パラドクスと言うシステムを作ったのがオーディンであるため。一応のモデルは怪獣。

全宇宙の調停者<ディオガルギンディオ>:数えるのも馬鹿々々しくなるほどの太古、オーディンの知らない宇宙のどこかで誕生した概念的存在。世界の概念たるGEARを生まれたままに有している。ある意味オンリーGEARとは同様の存在である。実際にオンリーGEARの持ち主が何らかの原因でディオガルギンディオに昇華する事例も度々確認されている。そしていつしかディオガルギンディオやオンリーGEARしかもっていなかったGEARと言うものは全宇宙のあらゆる物体、生命体に宿るようになった。
基本的にその目的はあらゆる文明の監視と成長ないしは進化の促進。もしくはその見込みがない文明の破壊やリセット。ただしそれらをすべて独断で行えるわけではなく、複数の個体が集まって議論した末に行動を行う。
発生原因が不明であり、またその実態も不定形且つ空間や概念そのものと言ってもいいため十三騎士団ですら滅ぼすどころか個体1つを撃破することすら困難な状況にある。とは言えディオガルギンディオの方も十三騎士団に本気で攻め込まれてしまった場合、時間稼ぎの抵抗しか出来ない。また、他の3つの組織とは違い、バンバン数が増えていくため総数は不明である。その上唯一全く人型の形をとっていない。
現在地球を実験場にしているのは<終の進化>を司るヒディエンスマタライヤンであるが、何やら様子がおかしく何の議論もないまま頻繁に文明をリセットしている。モデルは某異次元人。ただしそれをもっとハイパー強くして意味わかんない存在にしたバージョン。

星を司るもの(ザ・プラネット):各それぞれの星々に存在する存在。星そのものが体であればプラネットと呼ばれる存在は脳である。そのため自由自在に自分の星を操ることが出来る。基本的にはプラネット同士は不干渉であり、それぞれ自分の星で文明を生んで育てていくのが役割。そのため他の星や宇宙などからの侵略者に対しては容赦をしない。そのため十三騎士団とは協力関係にあり、ディオガルギンディオは自分達の意思や役割を無視して自分達を利用する絶対の敵対者。他の3組織と違って攻勢に出ることは苦手だが防衛や迎撃に集中すればディオガルギンディオでさえ容易に侵略することは出来ない。現在地球では本来のプラネットに代わってルーナがこの役割を担っているがその力の全てを使える
わけではないため容赦なくディオガルギンディオの侵略を受けている。モデルは某光の巨人の平成三部作。

<新規登場人物>
白河ひばり
年齢:12歳
身長:145センチ
体重:38キロ
3サイズ:70・54・66(B)
所属:風見学園中等部
GEAR:歌
属性:秩序・中庸・風火
好きなもの:走ること、甘酒、チキン
苦手:姉、歌うこと
世界階級:13未満
出展作品:D.C.P.F〜ダ・カーポ ファンタズマフォーチュン〜
出せないといったな?あれは嘘だ。と言う訳でD.C.P.F〜ダ・カーポ ファンタズマフォーチュン〜の最後のヒロイン。姉って言うのは某桜の木の下のカナリア。原作設定無視は仕方ない。まだif発売前に原作を書いたんだもの。小夜子と事情がかぶっているのは原作第二部で絡みがあるため。もちろん本作では彼女の姉達は出せないためそんな流れにはならない。小夜子の方が姉の腹黒と言うか面倒くさい部分を知っているためあまり好きでいないのに対して彼女の場合は完全に嫉妬。
GEARは歌。歌っている間はいいことがあるよ、みたいな能力。これを突き詰めれば歩乃歌のGEARや南風見光志郎のGEARみたいな大暴れも可能なのだが。どのみち姉に引け目を感じすぎてしまっているため歌うこと自体を拒んでいる。

キリエ・R・X是無ハルト
年齢:18歳
身長:166センチ
体重:58キロ
3サイズ:88・61・87(E)
所属:X是無ハルト家、政府議会
GEAR:保護
属性:秩序・中庸・林火
好きなもの:ダブスタ、贅沢、義妹
苦手:実妹、義妹の義妹
世界階級:蒼(ブルー)発動中ならば9。未使用なら13。
出展作品:パラレルフィスト
ご存知ウィィィィィンと回転しそうな黄金ドリルヘアーのお嬢様。ユイムの実姉で、後のライラの義姉。音終島にいたのはプロトとも原作とも違った世界から来たキリエであり、矛盾の安寧にいるライラが知っているキリエはパラディンが言った通り元の世界の実家で過ごしている。
世界に5枚しか存在しない空間支配系カードの1つ、「蒼(ブルー)」の持ち主。あまり出番に恵まれないがナイトメアカード2枚発動させたライラと互角以上の持ち主である。
上述通り本人はまだ登場していない。
GEARは保護。原作ではライラやその家族やら、本作ではもっと多彩なメンバーを集めて保護しているため。戦闘には関係しないが、逆にこれ以上キリエの武器を増やしたらヤバい。

矢尻(やじり)陽翼(よはね)
年齢:13歳。
身長:151センチ
体重:44キロ
3サイズ:74・58・72(B)
所属:ちょっとここでは言えない。
GEAR:希望
属性:混沌・善・風
好きなもの:達真、犬
苦手:そば……アレルギーで天敵。
世界階級:13未満。
出展作品:飛べない百舌の帳(スカート)
矢尻達真の思い人。ボクッ娘。大体の流れなどは原作と同じ。ただし本作では帰国して達真と過ごすことになるところまでは同じだがそれより後が違い、陽翼はその後矛盾の安寧により音終島に飛ばされてしまい、達真は原作通りに陽翼を失ったという情報を得てしまった。そのため存命している。ちなみにその2年前の時期から直接やってきてるため13歳のままである。
育ての親でありそして実の親でもある陣崎とははぐれている。その素性は音終島でのメンバーは大体勘付いてはいる。
GEARは黄緑達と同じ。このGEARがあったからこそ原作と違って本編では生きている……のかもしれない。

月美(つきみ)来音(らいね)
年齢:16歳。
身長:158センチ
体重:46キロ
3サイズ:76・55・70(C)
所属:高校生
GEAR:発明
属性:秩序・中庸・風
好きなもの:黄緑、パソコン、オークション、マイクラ
苦手:体育、紫音
世界階級:13未満
出展作品:世界は奇跡(あのこ)を残さない
夏目黄緑の思い人であり紫音にとっては色々因縁深い相手。紫音の両親が健在、黄緑と紫音が一線を超えていない事以外は原作とほぼ同じ。実際は小夜子に近いパターンで肉体を矛盾の安寧に残してしまった。しかし自身のGEARによって作り出した有機体ボディに魂を移植したため音終島でも問題なく生活できている。元とは違う肉体だからかナルコレプシーやストレス性過眠症は治っている。しかし再び処女に戻っている。背丈やスリーサイズは年相応に。
ちなみに音終島の現状が現状だからか原作と違ってダハーカの存在を知っている。
GEARは発明。とは言えもはや錬金術とかに近いレベルで半ば物理法則を無視している。まあ、原作からしてちょっとおかしいレベルだったが。

ブラワ
年齢:15歳
身長:150センチ
体重:41キロ
3サイズ:64・51・62(A)
所属:???
GEAR:不明
属性:混沌・善・火
好きなもの:女の子、ライ……なんとかとシュ……なんとか。
苦手:キリエ
世界階級:11
出展作品:ネタばれ回避
両腕がやけどしてて精神汚染もあり、ずっと人形のようだった少女。GMの手によって意識を取り戻してからはキリエを憎むボーイッシュな口調。
ぶっちゃけもうほとんどこの子の正体明かしてるようなものだけど。でも本編での再登場はしばらく先。まあまだ会わせちゃいけない子がいるので仕方ない。元々のキャラからはかなりかけ離れているが多分そのうち元に戻る。外見的には元になったあの子をかなり病みや身にしたような感じ。でもキリエが気付かない程度には変化はある。ちなみに意識が戻った際に記憶も同じように戻っている。が、戻っていないふりをしている。

近藤(こんどう)智恵理(ちえり)
年齢:21歳
身長:168センチ
体重:59キロ
3サイズ:90・61・88(E)
所属:円谷大学、英雄部、近藤財閥
GEAR;発明
属性:中立・善・風
好きなもの:女の子
苦手:特になし
世界階級:13未満
出展作品:爆走!英雄部!〜Sircle of Hero〜
実家の発明で世界線を超えるシステム作ってたら100年後の世界にやってきてしまった女子大学生。原作の1年後の姿である。残る英雄部の二人を出すかは不明。GEARは来音と同じだが智恵理の方が発想そのものがぶっ飛んでるため結果的に効果は上。とは言え性格が逆だったら同じように効果も逆転する。……黄緑の胃袋が大変なことになるだろうけど。
ちなみに無駄にメダルのコンボは増えているため無駄に地味に戦力にはなる。それでも天死とかが相手では厳しいが。どのみちいろんな意味でルーナは驚きだろう。ちなみに既にヒエンは智恵理の事も思い出しているが、それ以外の部員メンバーは別人のためそもそも記憶にない。
なおどうでもいいが原作プロット版ではここまで変態ではなかった。

GM/紫(むらさき)歩乃歌(ほのか)
年齢:14歳
身長:148センチ
体重:37キロ
3サイズ:73・56・68(B)
所属:中学生、セントラル
GEAR:侵略、歩乃歌
属性:混沌・善・風林火山
好きなもの:ジャンクフード、ゲーム、繁
苦手:甘いもの、最果ての
世界階級:生身なら7、千代煌なら3、終億の霹靂込みなら2。
出展作品:霹靂のPAMT
自身のGEARやPAMTの力であらゆる世界を旅している少女。原作から一年近く経っている。ちょっと前までは赤羽や火咲と行動を共にしていたがとある理由により今は一人。火咲から話を聞いているため達真のことは知っているがヒエンの事は知らない。ちなみに当然ながら赤羽と火咲の関係については知っている。原作や原作外伝のシリーズの後の時間軸のためライラやぷりぷり言うアイドル達やアルデバラン星人じゃない方の天使についても知っている。また、ルーナとも既に顔見知り。
GEARは2種類あるが説明は割愛。原作の方で。
本来はもう少し先に登場する予定だったがゲームをするにあたってGMに相応しい世界人と言えば歩乃歌くらいしか思いつかなかったため本名を伏せて登場した。ちなみにX-GEARの方がプロットは先のため当然ながらプロット版に彼女はいない。だからいろんな意味でイレギュラーな存在。

伏見(ふしみ)雷牙(らいが)
年齢:60歳
身長:186センチ
体重:82キロ
所属:自衛隊、伏見機関
GEAR:力
属性:秩序・中庸・火山
好きなもの:戦車、戦闘機、機銃
苦手:勉学
世界階級:13
出展作品:紅蓮の閃光(スピードスター)
ずっと未登場だった伏見機関の長。軍人としての階級は中将。和成やラールシャッハとは幼馴染。本作では伏見司令呼称。
空手もやっていたが本人が一番得意としているのはコマンドサンボ。その実力は普通の人間の中では最強クラス。ラールシャッハどころか大倉所長とも共演が叶わなかった。
GEARは力。単純に腕力や脚力などが上昇するもの。しかし本人がコマンドサンボの達人でもあるため相乗効果で凄まじい強さを発揮する。

伏見(ふしみ)雅劉(がりゅう)
年齢:28歳
身長:189センチ
体重:83キロ
所属:自衛隊、伏見機関
GEAR:逆襲
属性:混沌・中庸・火
好きなもの:女遊び、酒、ガンプラ、ギャンブル
苦手:面倒ごと、秩序ある行動、命令
世界階級:通常は13。場合によれば10。
出展作品:本作
伏見司令の息子にしてサイボーグ兵士にして本作初の本作初登場キャラクター。加藤や岩村は設定だけなら紅蓮の閃光(スピードスター)にもあったがこの人は完全オリジナル。軍人としての階級は大佐。
命や心身が危機に瀕すればするほどに尋常ではない力を発揮する逆襲のGEARを最大限生かすためにごく一部の内臓と脳以外すべてを機械で補っている。そのためこのデフォルトの状態ですら普通の人間の中では最強クラス。さらにダメージを受けるごとにどんどん強化されていく上痛覚が切れているため怯むこともない。最大効力時には同じく最大出力の爛ですら一撃で倒せる。
GEARが判明した小学生時代に既にこの体にされたためかなり厭世的な性格。軍人とは思えないほど俗物的。その身の不幸を哀れんだ上層部の決定によりかなり自由な身柄が与えられている。
父親から20年以上空手とコマンドサンボを教わり続けたため徒手空拳の腕も凄まじい。さらに伏見の技術の武器転送により状況に応じて様々な武器を使用可能のためチート以外が相手ならチート。

都築(つづき)麻衣(まい)
年齢:15歳
身長:153センチ
体重:42キロ
3サイズ:70・53・72(B)
所属:自衛隊、伏見機関、円谷高校
GEAR:意思疎通
属性:秩序・善・林
好きなもの:虫
苦手:鳥
世界階級:13未満
出展作品:本作
伏見機関所属且つ自衛隊員且つ女子高校生と言う大忙し系少女。階級は軍曹。食べるのも一緒に暮らすのも虫が大好きな女の子。雅劉のお目付け役?食べ物もゲテモノがいい。素直じゃないけどツンデレではない。
かつて姉がいたが雅劉と一緒の任務中に落命している。雅劉の事は好きなのだがちょっと複雑。
コマンドサンボの達人でありその才能は本物であり、伏見親子も数年以内には自分を超えるのは間違いないとみているほど。
GEARは意思疎通で鈴音の物と同じ。なおこれで普段は虫たちと遊び、そして食事では自ら愛する虫たちを蹴散らして調理してその断末魔を肴に食べるのが趣味と言うやっぱりこの世界に常識人なんていないことの証明人=変態可愛い。

キャリオストロ・ギミー
年齢:数百年ほど。外見年齢は14歳。
身長:151センチ
体重:40キロ
3サイズ:77・54・75(D)
所属:英雄部、宇宙平和連合
GEAR:三次元
属性:秩序・中庸・風
好きなもの:マスター、宇宙の平和
苦手:ヒエン
世界階級:12
出展作品:爆走!英雄部!〜sircle of heros〜
ご存じ宇宙からやってきた三次元人。最初は敵キャラだったが今回は味方。と言うかよく考えたら初登場時も正義サイドだった気はする。元々は普通に男性口調だったのだがトゥオゥンダに肯定されたことで今の金髪巨乳女子中学生スタイルになった。それ以降は原作でも本作でも基本的に女の子な言動だが別に記憶が抹消されたわけではないため時々元の言動に戻る。作者の作品では意外と珍しい、十三騎士団でもパラドクスでもディオガルギンディオでもアルデバラン星人でもない宇宙人。ちなみにそれらの種族とは距離を置いている。
GEARは三次元。これにより様々な世界を移動できる。ルネ同様本来は自分ひとりもしくは少数のみしか移動できないが二人力を合わせることでもう少しだけ数を増やせる。ちなみにただヒエンを運ぶだけなら彼女一人だけで十分。

ルネッサ=峰山
年齢:外見年齢は11歳。経過年齢は200年以上。
身長:109センチ
体重:14キロ
3サイズ:不要
所属:天使界、ゼノセスター
GEAR:融合
属性:混沌・善・火
好きなもの:両親、女の子
苦手:瑠那(ルーナ)、母以外の父の女達。
世界階級:7
出展作品:世界は天使(あのこ)を満たさない〜Gear's of Monochrome X ZERO〜
存在忘れてて出す予定はなかったけど思い出したので出してみた。ヒエンの娘。ヒエンの倒錯性癖を大部分引き継いで生まれてきた。天使と同じく人工種族であるゼノセスターと発生が同じ。実際は人間同士の通常出産だったがそこに後天的事象が重なってゼノセスターとして生まれてきてしまった。その特性上両足は存在しない。父親同様その存在は歪なためパラドクスやディオガルギンディオからは注目されている。しかし本人はまだそのどちらにも属していない。
原作で誕生し、その終わりのきっかけを作ってしまったために200年以上もの間天使界で封印されていた。しかし天死やUMX、パラドクスなどの襲撃によって天使界が滅んでしまったために封印が解かれて再登場を果たす。
GEARは融合。あらゆる物体物質同士を融合させる。このGEARを元に空間支配系カード「融合(ネオス)」が作られた。普段はこの力を使って存在しない筈の両足を適当な素材から作り出している。
ルーナとは生まれた時期がほぼ同じなためか幼馴染のようなライバルのような関係である。それ故にルーナを天使としての本来の名前である瑠那と呼ぶ。一応ルーナの方が少しだけ年上。
ゼノセスターは世界をねり歩けるために単体および少数ならば別世界に行く事も出来る。

裏闇裏丸(うらやみらまる)/カオスナイトスパークス
年齢:2000歳程度
身長:178センチ
体重:82キロ
所属:パラドクス
GEAR:絶対零度(アブソリュートゼロ)
属性:混沌・中庸・山
好きなもの:特撮 ラーメン 女の子
苦手:梅、とろろ
世界階級:2
出展作品:メンバーズの活動日記
パラドクス異例の31番目。ヒエンこと甲斐廉をモデルに発生した。本人ではないためGEARは別にあるし記憶や能力も違う。発生当初はあまり強くなかったがオリジナルであるヒエンがどんどん意味不明な存在になっていくほどにこちらも進化を続けてきた。ここ1000年ほどは再発生しなかったためそこで強さが止まっている。それでもパラドクスとしてはかなり上位の強さを持ち、十三騎士団やディオガルギンディオにも匹敵する上これからもどんどん強くなっていく。
GEARは絶対零度(アブソリュートゼロ)。倒した相手のGEARや特性を文字通りに奪う能力。過去にはこれを用いてメンバーズ全員の能力を奪って世界を制圧しかけた。かつてはそれだけだったが今回はそれに加えて「My garnet」の月無沙紀のキャラも混じってるため素の力もかなりのものとなっている。ただし白竜牙は持っていない。
なお偽者キャラではあるが本物を数度倒している。

甲衆院(こうしゅういん)幽至(ゆうち)/カオスナイトインフェルノ
年齢:数百万歳
身長:169センチ
体重:61キロ
所属:パラドクス
GEAR:幽獄の反神
属性:混沌・中庸・林
好きなもの:混沌
苦手:甲衆院優樹
世界階級:4、全盛期は2
出展作品:メンバーズの活動日記
パラドクスの結構古参の存在。しかしとある事情により2000年前に素体が再決定されてしまったため実力は数段落ちている。外見は中世の老紳士風。オリジナルはもちろんカオススパークスに対してもあまり快くは思っていない大老害。しかし残念ながら今までで一度も十三騎士団を倒したことはない。しかしそれはその強さにマークがされていてインフェルノが出てくる時には異例の複数の騎士が揃うようになっているため。騎士が一人しかいない今作では好都合だったはずだが数々のイレギュラーから中々任務を達成できない。
GEARはカオスナイトインフェルノと言うパラドクスとしての能力を行使するもの。オンリーGEARであるがそもそも人知を超えた存在のためあまり意味はない。


カオスナイトアルケミー
年齢:8万とんで8000歳
身長:162センチ
体重:51キロ
3サイズ:86・61・85(D)
所属:パラドクス
GEAR:永年の実験
属性:混沌・善・風
好きなもの:実験、性行為
苦手:他のパラドクス
世界階級:4
出展作品:本作
パラドクスの一人。うさ耳をした高校生くらいの外見年齢の少女。本来パラドクスに性別はないのだが肉体も精神も完全に女性のものとなっている。パラドクスの中では若い方であり、あまり強い方ではない。能力そのものが戦闘向きではないと言うのもあるがそれでもナイトメアカードの司界者である剣人やパラディンでも一騎打ちでは勝てない程度には強い。戦闘終了後には十毛によってレイプされ、両手足も動かせないサテラ状態になった。一人くらいは死なずに仲間サイドになるパラドクスがいてもいいと思って即興で作った。なおアルケミーに対して行ったライラと十毛のコンボはパラドクスで最弱クラスだったアルケミーだからこそ出来た手段であり他のパラドクス相手にやったら行う前に存在を消される。多分第二部では唯一登場するパラドクス。


カオスナイトディンゴ
年齢:数十万歳
身長:272センチ
体重:260キロ
所属:パラドクス
GEAR:不定の混沌
属性:無
好きなもの:無駄な事
苦手:特にない
世界階級:4
出展作品:本作
パラドクスの一人。背中からもう一つの上半身が生えている不気味な人型。存在の発祥が奇形であるのが由来。ギネスの生みの親かも知れない。4本の腕から様々なアイテムを出しては遊ぶようにして戦う。アルケミーほどではないがあまり強い方ではない。ヒエンに対してあれだけ時間を稼げたのは相性故。
アルケミー同様インフェルノによって地球に派遣されたが先にディンゴが倒されたためその歪みを利用された。一応利用され上書きされたのは今回の肉体として利用していた歪みだけであるため本人が消滅したわけではない。しかし、歪みを全て利用されたため復活するにはかなりの時間がかかる。

甲衆院(こうしゅういん)優樹(ゆうき)
年齢:2020歳
身長:175センチ
体重:61キロ
所属:十三騎士団
GEAR:一点集中
属性:中立・中庸・風
好きなもの:肉、サッカー、辛い物
苦手:勉強、じっとしてる事
世界階級:2
出展作品:メンバーズの活動日記
十三騎士団の一人・炎の騎士ナイトバーニングでありヒエンこと甲斐廉の義理の弟。義兄の半年後にとある事件が原因で十三騎士団入りを果たす。所謂2号ポジション。性格は至って熱血馬鹿の一言で済む。
義兄とは誕生日が2か月しか離れていないため同学年。事実上騎士団の下っ端のためかこの2000年間あらゆる宇宙で使いパシリをさせられていた。いい加減な性格だが一応しっかりと上からの指示は聞き、2つ返事で数百年物間別の宇宙で活動をするとかざら。義兄が勝手すぎるためいつもその責任を取らされている。しかし本人もミクロなスケールでは結構好き放題やってるため、ヒーローとしては問題なくともいっぱしの人間としては問題点だらけの青年。
リメイク前はともかくリメイク後の紅蓮の煌星(フレイムスター)には存在している。ヒエンとは小学校に入る前に義兄弟となる。一応義兄弟ではあるが互いにそれは意識しておらず別居していたこともあり感覚としては幼馴染に近い。
ナイトバーニングとしては当初はその力に振り回されては町1つを焼き払ったり太陽を二つに増やしたりなど散々なトラブルメーカーだったが流石に2000年以上も全宇宙を舞台に戦い続けているためか現在はこの宇宙の誰よりも炎の使いに長けている。その火力は通常の5倍の出力の太陽を秒速20個作製を48時間ぶっ通しで出来る程度。と言うか実際にそういう任務もやらされた。
月仁とは同一人物がモデル。けど性格的には大悟の方が近いかもしれない。……童貞だけど。
GEARは一点集中。懸念のGEARに近いがあれよりももっと愚直でスケールアップしている。実際本人にはあまり次元突破の能力は備わっていないがこのGEARのおかげで別世界に移動する事が可能となっている。本来GEARの力は十三騎士団の力の前にはほぼ無力も同然だが優樹に限っては人間だったころから多用して進化しているためか限定的ではあるものの十三騎士団としての能力にも負けていないところまで達している。

<既存人物変遷点>
ヒエン:十三騎士団として8割がた力を取り戻している。階級で言えば2の上位。段々とチートになっているが第二部では少しデフレする予定。
赤羽:少しだけ出番多め。一応彼女のエンディングも想定完了したがどこまでそのまま進むか。3章にて火咲とシンクロしたことで飛翔のGEARも制御可能となっている。
久遠:出番あったっけってくらい今回影薄め。一応麻衣との関係は決まっていたが。
鞠音:一時期記憶喪失して人狼やってた頭おかしい系ヒロイン。近親相姦で処女失っちゃった子。繋がっていない筈なのに原作から直接来たひばりちゃんの事を思い出したちょっとやばい子。
潮音:踏んだり蹴ったりな状態。なお現状魔力を持たない天死はこの子と後一人くらいしかいない。
ライラ:一気に出番が減った。しかしナイトメアカードを取り戻し一気に戦力に。まあそれでも実は弱い方になってしまうのだが。ちなみにジュネッスにはまだ慣れないがネイティブを制御してはいる。
達真:やっとまともな出番が。でも第二部ではまたちょっと空気に戻るかも。本番は第三部だ。
火咲:ぶっちゃけると霹靂のPAMTでの記憶も目覚めています。それも込みで今回は結構出番多め。赤羽同様既にエンディングは大体決定済み。
月仁:最初の方に出番はあったが一日だけとはいえ時間軸のリセットを起こしたためそれ以降ずっと寝たきりに。一応出展作品ではこちらの方が主人公なのに。
爛:かませの魔王。ルーナよりは強いがナイトメアありのライラやルネには劣る。最初の方はナンバー2だったのに。
ルーナ:正妻戦争関係者だが参戦していないくせに現状一番の勝ち組。しかしルネにあのまま殺されてしまう予定だったり。
大悟:4章5章におけるもう一人の主人公。と言うか4章はメイン主人公だし。なお4章の文章がちょっとひどいのは仕様。
小夜子:大悟の最後の力によって一人の存在に戻ったがまだドラマは終わらない。
鈴音:4章5章のキーキャラ。当然ながら第二部以降には登場しない。
八千代:結構記憶とか脳のあたりがやばいことになってる子。ジキルによる否定がなければ世界の終わりより前に精神崩壊してた。
トゥオゥンダ:物語に参戦。当然ながら現状にはまだ馴染めていない。一応キャリオストロとは同居している。ジキルよりは力の使いに長けている。
ジキル:物語に参戦。現状そのものには馴染んでいるがまだいろいろ準備ができていない状態。月仁同様救世主の一人。
斎藤:正直存在を忘れている人もいるだろう。しかし久々の登場。けど多分2部には登場しない。
十毛:かなりのチートになって再登場。階級は6程度。
イシハライダー達:ヒエンが十三騎士団の力を取り戻したのがきっかけで原作最強フォームにまたなれるようになった。その状態での強さは第4階級程度。
黄緑:とうとう紫音にばれた。意外と大悟には絡まなかった。
紫音:この子がただの近親相姦希望なゲテモノ趣味アイドルでないことが明らかになった。そしてそれはこれからも続く。3部に出番あるかなぁ。
加藤:殉職。もう少し出番はあると思ったのだが相手が悪すぎた。


<お遊び要素>
ジアフェイ・ヒエン
レベル:290/400
才能:剣1 体術2
属性:雷
スキル
万雷斬り AP消費2 近接3倍ダメージ
零のGEAR リーダー時スキル ダウン、石化、スタンしない

赤羽美咲
レベル:21/60
才能:体術1 学習1 囲碁1
属性:炎
スキル
朱雀幻翔 AP消費2 近接必中2倍ダメージ
白虎一蹴 AP消費4 近接4倍ダメージ 重装甲破壊

馬場久遠寺
レベル:18/80
才能:制空圏3 人心掌握1
属性:氷
スキル
虎徹絶刀勢 AP消費6 近接7倍ダメージ 重装甲破壊
制空圏 リーダー時スキル 回避率アップ

乃木坂鞠音
レベル:1/6
才能:勉学2 騎乗1 英会話1 マゾ1
属性:光
スキル
いっぱい聞けていっぱい喋れる AP消費0 AP1回復 偶数ターン限定
状態異常回復 消費0 異常回復

乃木坂潮音
レベル:28/44
才能:体術1 料理1 サバイバル1 サド1
属性:闇
スキル
飛空爪 消費1 近接2倍ダメージ
援護防御 リーダー時スキル 支援:物理防御ランク2 発動率20%

鈴城紫音
レベル:33/60
才能:アイドル1 接近戦1
属性:闇
スキル
徒手空拳 消費0 近接1倍ダメージ
反逆のGEAR 消費6 魔法10倍ダメージ HP20%以下限定

天竺=リバイス=鈴音
レベル:14/21
才能:天然ボケ1 家事1
属性:炎
スキル
突撃3 消費3 近接3倍ダメージ
世界の守護 リーダー時スキル ダウン、スタン、石化しない

長倉小夜子
レベル:8/15
才能:性技2
属性:雷
スキル
浮遊状態 リーダー時スキル 支援:浮遊状態発生 3ターン近接無効 発動率20%

馬場雷龍寺
レベル58/80
才能:体術2
属性:氷
スキル
神速ねじ伏せ 消費1 近接3倍ダメージ ラウンド1限定
突撃4 消費4 近接4倍ダメージ

馬場早龍寺
レベル:42/79
才能:体術1 臨機応変2
属性:炎
スキル
突撃 消費0 近接1倍ダメージ
力をためる 消費2 支援:力溜め

馬場龍雲寺
レベル:26/66
才能:体術2 汎用1
属性:雷
スキル
突撃2 消費2 近接2倍ダメージ
応急処置 消費2 体力回復 AP累積

加藤研磨
レベル:73/73
才能:体術2 統率2
属性:光
スキル
連続突撃 消費3 近接1倍ダメージ3連撃
全力突撃 消費1 近接2倍ダメージ AP累積

岩村利伸
レベル:41/50
才能:体術2 隠密2
属性:闇
スキル
隠密突撃 消費1 近接1倍ダメージ 必中
暗殺 消費3 敵暗殺 ボス以外

大倉和成
レベル:49/80
才能:体術3
属性:闇
スキル
全力突撃 消費2 近接5倍ダメージ AP累積
征遠鎮最破 消費5 近接6倍ダメージ 敵支援2つ除去

赤羽剛人
レベル:66/90
才能:体術1 戦術2
属性:闇
スキル
飛空落とし 消費2 遠隔2倍ダメージ 敵支援1つ除去
全方位破砕 消費3 遠隔3倍ダメージ 敵支援2つ除去

ラァールシャッハ
レベル:25/64
才能:体術1 発明3
属性:光
スキル
触腕 消費1 遠隔0,4倍ダメージ5連撃
斧膝 消費3 近接5倍ダメージ 必中 体力20%以下限定

トゥオゥンダ
レベル:15/70
才能:軍師2 戦術2
属性:炎
スキル
大火炎 消費4 魔法5倍ダメージ
二段矢倉 消費2 支援:物理防御1&軍師効果2

ジキル
レベル:21/68
才能:銃撃1 狙撃1 騎乗2 ゲーム1 ガード1
属性:氷
スキル
ガン=カタ 消費1 遠隔2倍ダメージ 必中 AP累積
狙撃 消費3 敵暗殺 ボス以外


レベル:8/32
才能:才能引き出し2 軍師1
属性:雷
スキル
策謀 消費1 支援:軍師効果1
作戦2 リーダー時スキル 支援:軍師効果2 発動率20%


レベル:26/29
才能:運搬1 翻弄1
属性:光
スキル
突撃 消費0 近接1倍ダメージ
タイムストップ 消費5 相手スキル2つ差し押さえ 使用後ダウン


レベル:10/100
才能:幸運3
属性:光
スキル
幸運突撃 消費2 近接4倍ダメージ 使用後50%ダウン
絶対幸運 リーダー時スキル 状態異常の被弾率50%ダウン

無良
レベル:19/30
才能:プログラミング2 ゲーム2
属性:無
スキル
ちょこっと改造 消費2 支援:ランダム発生
もうちょっと改造 消費3 敵支援6つ除去


レベル:16/18
才能:隠密1 ガード2
属性:炎
スキル
ボディガード リーダー時スキル 他の誰かがダウンするとき身代わり
暗殺 消費4 敵暗殺 ボス以外


レベル:11/70
才能:数学1 生物学2
属性:闇
スキル
毒針 消費1 遠隔1倍ダメージ 50%毒
毒強化 消費2 支援:毒強化


レベル:30/30
才能:突撃1
属性:炎
スキル
突撃1 消費1 近接2倍ダメージ
全力突撃 消費2 近接5倍ダメージ AP累積


レベル:28/55
才能:次元操作1
属性:氷
スキル
ゼノンゲート 消費3 敵暗殺 ボス以外
ゼノンウィンザード 消費6 魔法8倍ダメージ

十毛
レベル:88/200
才能:支配2 進化2
属性:無
スキル
次元障壁 消費2 支援:物理防御3
絶対服従 消費2 敵暗殺 ボス以外 使用後ダウン

雲母
レベル:31/61
才能:射撃2 奉仕1
属性:炎
スキル
砲火 消費1 遠隔2倍ダメージ
一斉射撃 消費3 遠隔5倍ダメージ 使用後ダウン


レベル:22/40
才能:ホモ2 体術1
属性:雷
スキル
ホモ突撃 消費1 近接3倍ダメージ 相手が男性限定
支援除去 消費2 敵支援3つ除去


レベル:11/33
才能:ボンド術1
属性:無
スキル
粘着地面 消費1 ラウンド制限を3ラウンド増加 AP累積
同調のGEAR 消費3 1つ前に発動されたスキルをそのまま発動


レベル:24/47
才能:忍者1
属性:闇
スキル
手裏剣 消費1 遠隔1倍ダメージ 50%相手スキル差し押さえ
暗殺 消費3 敵暗殺 ボス以外 使用後ダウン

イシハライダー
レベル:186/不明
才能:体術3 文章読解3 騎乗2 不死身2 心理学2
属性:炎
スキル
変態突撃 消費2 近接3倍ダメージ
太陽神の力 消費10 魔法20倍ダメージ

カタブライダー
レベル:140/不明
才能:数学3 魔法3 体術2 持久走2 陸上競技2 
属性:光
スキル
カタブールプラス 消費3 支援:力溜め3
カタブールキック 消費8 近接10倍ダメージ 必中

タイライダー
レベル:203/不明
才能:体術3 反射神経3 国語3 水泳3
属性:氷
スキル
かみつき 消費1 近接1倍ダメージ&体力回復
大車輪 消費3 近接4倍ダメージ

斎藤新
レベル:29/35
才能:体術2 家庭菜園1
属性:雷
スキル
全力突撃 消費2 近接4倍ダメージ AP累積
攻撃力 リーダー時スキル 味方攻撃力30%アップ

矢尻達真
レベル:26/60
才能:体術1 数学1 サバイバル1
属性:闇
スキル
カウンター突撃 消費2 近接2倍ダメージ 支援:反撃
帳返し・征 消費5 近接10倍ダメージ 体力20%以下限定 使用後ダウン

最上火咲
レベル:44/60
才能:体術1 ムエタイ3 PAMT戦闘2
属性:炎
スキル
破砕 消費4 敵暗殺ボス以外 ボスに対しては近接4倍ダメージ
白虎倒木 消費4 近接6倍ダメージ

リッツ
レベル:8/45
才能:学習1 骨法1
属性:無
スキル
支援除去 消費1 敵支援2つ除去
異常回復 消費1 状態異常回復

シフル
レベル:1/42
才能:会話1 嘘1
属性:氷
スキル
敵情視察 消費0 敵データ表示
クローチェの資産 リーダー時スキル ドロップアイテムのレア度アップ

権現堂
レベル:48/48
才能:柔道3 プロレス2
属性:雷
スキル
突撃2 消費2 近接3倍ダメージ
山嵐 消費6 近接6倍ダメージ 必中

紅衣
レベル:2/28
才能:裁縫1 性技1
属性:無
スキル
後方支援 割り込み率アップ

蒼穹
レベル:10/30
才能:男引き込み2 淫乱1 水泳1 打楽器2
属性:無
スキル
宝箱アップ

陽翼
レベル:25/71
才能:サバイバル1 数学1 ナイフ捌き1
属性:光
スキル
ナイフ投げ 消費1 遠隔2倍ダメージ
大切断 消費5 敵体力半減 発動率40%

大悟
レベル:4/17
才能:女たらし2 バスケ1 PAMT戦闘1
属性:無
スキル
世界の主人公 割り込み率アップ

八千代
レベル:22/36
才能:統率1 学習1
属性:無
スキル
アナライズ 消費0 敵情報表示
精神的同調 消費2 状態異常1つを相手に移す

ライラ
レベル:53/60
才能:体術2 魔法格闘1 魔法1 料理1
属性:光
スキル
ステップ 消費0 近接1倍ダメージ
コブラツイスト 消費2 近接2倍ダメージ 必中

黄緑
レベル:10/43
才能:体術2 サボタージュ1
属性:雷
スキル
百色 消費1 近接2倍ダメージ
VICZER 消費5 敵体力半減

ヘカテー
レベル:0
才能:床作り1
属性:無
スキル
祈り 消費1 体力回復&状態異常回復 AP累積
奇跡 消費1 敵暗殺 ボス以外 1回制限

カシワギサヨコ
レベル:15/15
才能:性技2
属性:闇
スキル
急降下キック 消費2 遠隔2倍ダメージ 必中
空から落とす 消費4 敵暗殺 ボス以外 ボス相手には近接4倍ダメージ

甲斐月仁
レベル:6/59
才能:肉体労働1 ダンス1
属性:炎
スキル
ワンオペ ボス以外自動戦闘化

甲斐爛
レベル:200/200
才能:魔法2 魔王1 魔法格闘1 経営2
属性:炎
スキル
魔王突撃 消費0 近接2倍ダメージ ボス限定
魔王大火災 消費4 魔法7倍ダメージ ボス限定

桃丸
レベル:18/20
才能:財政2
属性:炎
スキル
重砲火 消費6 遠隔2倍ダメージ4連撃
攻撃力 リーダー時スキル 攻撃力30%アップ

まほろ
レベル:0
才能:学習1
属性:無
スキル
妖精の贈り物 消費3 AP5回復

ルーナ
レベル:71/80
才能:観察1 マルチタスク2 性技1
属性:闇
スキル
無数突撃 消費3 遠隔1倍ダメージ4連撃
崩食 消費6 遠隔4倍ダメージ 重装甲破壊 ボス以外体力半減

ひばり
レベル:11/19
才能:陸上競技1 アイドル1 歌1
属性:無
スキル
ランウェイ 割り込み率アップ

キリエ
レベル:68/90
才能:魔法2 経営2 政治2 会計士1
属性:氷
スキル
マグネット 消費1 遠隔1倍ダメージ2連撃
ブルー 消費10 魔法20倍ダメージ ボス限定

ブラワ
レベル:58/80
才能:魔法3 性技2
属性:雷
スキル
フレイム 消費3 魔法6倍ダメージ AP累積
ガイザレス 消費6 魔法3倍ダメージ3連撃

来音
レベル:31/66
才能:発明3
属性:氷
スキル
攻撃支援 消費3 支援:攻撃部隊3つ追加
防御支援 消費3 支援:物理防御4

歩乃歌
レベル:130/400
才能:短距離走3 歌1 PAMT戦闘3 狙撃1 FPS2
属性:光
スキル
対人空技 消費1 遠隔1倍ダメージ2連撃
終億の霹靂 消費10 2ラウンド以内限定 敵体力が半分以下ならば即死 1回限定

智恵理
レベル:36/46
才能:発明2 体術2 冒険1
属性:光
スキル
ドリバリーコンボ 消費3 近接3倍ダメージ 重装甲破壊
トディエリーコンボ 消費3 近接3倍ダメージ 対ボス効果2倍

キャリオストロ
レベル:40/80
才能:次元操作2 宇宙拳法2 盗賊1
属性:闇
スキル
風の旅人 消費2 支援:風の旅人
次元幽閉 消費4 敵支援全て除去