プリパラ~Lost of the prism~
・2015年冬。南みれぃはプリパラアイドルをやめた。理由は簡単だがその思いはきわめて複雑だった。尊敬できるし世話の焼けるきれいでかわいい先輩で親友の北条そふぃの才能にはどうあっても勝てないと悟り、その上でほかの仲間たちを連れ出した勝負を挑んでは負けた。そのせいで仲間たちが不自由な思いをすることになった。
どうあっても自分が情けなくて、許せなくて、泣くことも出来ずに夢であり日常であったアイドル人生からも逃げた。
「違うよ、みれぃは逃げたんじゃないよ。ちょっと休んでるだけだよ?」
そう言ってくれるのはあの日一緒にアイドルをやめた二つ年下の真中らぁらだ。1年前から一緒にアイドルをやって、そふぃと3人でソラミスマイルを結成してアイドル活動をして、プリパラで毎日楽しい生活を送っていた。それももう過去の話だ。現実としてはただ、アイドルになると言う夢からもソラミスマイルとして楽しく活動してきた幸せの日々からも逃げだし、年下の、まだその夢も日々も諦めていないはずの女の子まで巻き込んでしかも時折自分の自堕落に巻き込んでしまっているだけの話だ。風紀なんてあったもんじゃない。プリズムのきらめきなんてかけらほどもない最低な日々。
・みれぃがプリパラアイドルをやめて2ヶ月が経過した。
みれぃとらぁらがいたフレンドールと言うチームは空中分解してその結果セレパラ歌劇団の、紫京院ひびきの野望を止めることが出来ないままその戦いは終わってしまった。その結果プリパラの世界は大きく変化を遂げてしまった。
まず語尾が消えた。ギャグにしか見えない表現で最初は誰も大した変化ではないと思っていた。しかし、徐々にその禍々しさが姿を見せてきた。アイドルにとって語尾含めたキャラクター性というのはポップアイドルだけでなく大事なものだ。純粋に自分を表現しているアイドルならともかくそれ以外の多くのアイドルはキャラ付けをする形で自分というものを表現している。しかし、紫京院ひびきの願いはそれを奪った。最初はそれだけだったが少しずつほかのアイドルに対する友情とか愛情というものも消えていった。3人でチームを組んでライブをするのが当たり前のプリパラで加速度的にチームの解散が蔓延り始めたのだ。いの一番に解散したソラミスマイルだけでなく多くのチームが消えていき、プリパラにはいわゆるがちのソロアイドルばかりが目立つようになってきた。やはりトップアイドルと言えばある意味この事態を引き起こす元凶となったといえる北条そふぃだ。元々ファンシー&クールな彼女だが語尾なき世界の影響か或いはみれぃの絶望、ソラミスマイルの崩壊を招いた自責もあるのかかつての面影はない。目は虚ろでテンションはローとかハイとかそう言うレベルではなく、無気力と表現できる。しかしその実力は依然として高いままだ。むしろなにも考えずにライブを表現している分、その高い技術力と才能をありのままに引き出しては老若男女を問わず多くの人々を魅了している。恐ろしいことにこの前の閣議で彼女のソロ曲「Noisy Crimson Love」を国歌にすると言う議案が通ってしまったほどだ。中国では既にそふぃクローンズが大量生産され、しかし完璧にはほど遠い再現度のためか毎日400人規模で破棄されている。クローンではない多くのソロアイドルも弱肉強食と化した今のプリパラでは長く生き残れずに消えていく。彼女を相手に一番長く渡り合えたのは唯一現存していたチーム・ドレッシングパフェだ。多くのチームが1ヶ月を待たずに解散しているのに対しドレッシングパフェのみ既に3ヶ月以上も存続してはそふぃを相手に負けず劣らずのライブを日々行っていた。だが、それももう過去の話だ。
2016年の7月。プリパラ最後のチームであるドレッシングパフェはついに事実上の解散を果たすことになってしまった。その最大の理由はチームのムードメイカーと言えるドロシー・ウェストが病んでしまったからだ。観客のいない、一緒に楽しく笑う友達ももういない。そんな状況で日々死んだ目をしたそふぃと戦い続けている事に心が疲れてしまった。だからある日の朝、ドロシーはついに部屋から出てこなくなってしまったのだ。双子のレオナは最初の数日こそケアをしていたが、根本的な解決がない状態でドロシーを復活させることは出来ないと確信して諦めた。だが、レオナは行動を変えた。
「ここかな?」
一人で到着したその場所は男プリがある隣町だ。他の女子アイドルでは立ち入り出来ないそこにレオナはやってきた。女子のプリパラを救うために男子のプリパラの力を借りようと思ったのだ。もちろんただ力を借りるだけではない。そこでレオナは1ヶ月ほど特訓をすることにした。毎日そふぃとシオンの一騎打ちライブを中継で目にしながら。
そして迎えた決戦の日。レオナは1ヶ月ぶりにプリパラに帰ってきた。
「よく帰ってきたな」
シオンが出迎える。相変わらずのレディサムライだがしかしその気勢には既に諦観が見え隠れしている。
「シオン、テンションリラックス」
「おいおい、私はそんなに興奮しているか?」
「ううん。でも、私に言えるのはリラックスだけだから」
「……そうだな。リラックスがんばってこい。風林火山」
「……うん!」
レオナは答え、そふぃが待つプリパラTVに向かった。
エレベーターを越え、最上階にたどり着けばそこに君臨していたのは虚無の女王。共に過ごした1年半には片鱗すら見えなかった表情をした北条そふぃが真紅の玉座に座っていた。
「……レオナちゃん」
「そふぃさん、リラックスしすぎちゃったのかな?」
その目、その雰囲気はまるで初めて会った頃のファルルの様。
「そふぃさん、私と戦って」
「……レオナちゃん一人と?」
「そう。私がそふぃさんを元に戻してみせる」
「……いいわ、やりましょ」
他に誰もいない夕暮れのステージの上に二人が立つと同時、その戦いのリズムは流れ出した。
EZ DO DANCE……EZ DO DANCE……
EZ DO DANCE……EZ DO DANCE……
・南家。
「はあ……」
快楽と悔恨とが入り交じったため息をみれぃはこぼした。
せめてらぁらが中学にあがってからと思っていたのについに手を出してしまった。
「気にしないで……みれぃがいてくれればそれでいいから……」
ベッドに倒れたままらぁらは涙をこぼして笑っていた。その表情に、その声色にプリズムボイスと呼ばれた頃の彼女はもういない。
自分のために壊れてくれた彼女の姿にみれぃは心が引き裂かれそうだった。身勝手なことこの上ない。
「ん、」
気晴らしにテレビをつける。と、
「レオナとそふぃが戦ってる!?」
夕暮れのステージで二人の紅は激突を重ねていた。そふぃが奏でる無情のハーモニーをレオナの情熱の炎が打ち消し、しかし爆炎へと変えて夕暮れを激しく彩る。
「レオナ……すごくきれい……」
「それに楽しそう……。そふぃも……。あの二人になにがあったの……?」
EZ DO DANCE……EZ DO DANCE……
「バーニングスプラッシュ!!」
弾けるレオナの炎がそふぃが放つ煌びやかな光をかき消し共に炸裂する。
EZ DO DANCE……EZ DO DANCE……
「咲き乱れ……レッドフラッシュミラージュ!!」
爆発の中からより紅い花びらがいくつも沸き上がり、炎を啄む。
EZ DO DANCE……EZ DO DANCE……
EZ DO DANCE……EZ DO DANCE……
「私がそふぃさんの新しいレッドフラッシュになる!!レッドレオナルドハリケーン!!」
啄まれた炎、そこから太陽のように輝きながらレオナが出現してそふぃの体を抱きしめる。
「レオナちゃん……あったかい……」
「私にだって出来る何かがあるんだよ……そふぃさんを暖めてあげることとか」
炎と光のライブは終わり、音楽は鳴り止み、二人はステージ外におり立つ。
その目に確かな光を宿らせたそふぃは一度だけテレビカメラの方を向く。
「ひびきさんとファルルを捜して……!」
未だ完全に戻ってはいない感情をすべて込めた叫びを放った。
・そふぃとレオナの対決は全国で放送され、プリパラに対して否定的なイメージを抱いてしまっていたかつてのアイドルたちにも届いていた。それはとあるアイドルにも。
一週間後。
パプリカ学園に緑風ふわりがやってきた。4ヶ月ぶりの復学だ。
「……ドロシー……」
本来なら同じクラスにいるはずの元気印は今はいない。代わりに隣のクラスに向かう。
「あ……」
入ってすぐにみれぃと遭遇した。自分がパルプスに帰ってすぐ後にみれぃとらぁらがアイドルをやめたという話はあじみから聞いた。自分はフレンドールとセレパラ歌劇団の対決には参加さえしなかったからみれぃの行動に文句を言う筋合いはないだろう。
「大丈夫?みれぃ。心が嘘で覆われているわ」
「……よくわかるわね、ふわり」
「今のあなた、全然ナチュラルじゃないもの。それに、さっき少しだけ見たけどらぁらだって……」
「……全部私が悪いのよ。私のせいでプリパラがあんな事になってしまった」
「だったら私も少しは悪いわ。みんなの力になる前にパルプスに帰ってしまったんだもの」
「……仕方がないわよ。あなたはひびきさんに騙されていたんだから」
「でも、私ならもしかしたらひびきさんを止められたかもしれなかった。そしてそれを過去形で終わらせたくないから私はまたここにやってきたの」
ふわりは一呼吸する。みれぃの視線が向いたタイミングで言葉を放つ。
「レオナとそふぃのライブは見たんでしょ?あの時そふぃが言っていたように私はひびきさんとファルルを探そうと思うの。ボーカルドールになろうとしていたひびきさんもファルルもどっちもプリパラで姿を見せないのはおかしいと思うから」
「どういうこと?」
「……何かあったんだと思う。そふぃもたぶんそれを知っているんだわ。……そふぃは?」
「病院だ」
新たな声はシオンのもの。
「久しぶりだな、ふわり」
「シオンも元気そうで何よりだわ。それえでそふぃが病院ってどう言うこと?」
「知っての通りプリパラでは感情が破壊されてしまう。そう言う世界になってしまった。だが、こちらの世界に戻ってくれば元に戻る。しかしそふぃの場合は学校以外ではずっとプリパラにいて感情の振り幅が大きくなってしまっているんだ。この前レオナと戦って憑き物が落ちたように帰ってきたはもののあれからずっと眠りっぱなしらしいんだ」
「……そう。レオナは?」
「プリパラにいる。そふぃほどではないがまだプリパラの闇に取り込まれたままのアイドルがたくさんいるからな。プリパラを元の世界に戻すより前におかしくなってしまったアイドル達を救出しようと言うのだろう。うむ、知勇双全」
「レオナは一人でがんばっているのね……」
「それで、私の役割としてはだ」
シオンはみれぃに視線を移した。そしてややおびえた表情のみれぃに向けて言う。
「みれぃ、おまえを取り戻しにきたんだ」
「……どういうことよ」
「セレパラ歌劇団だった私が言うのもなんだがお前はフレンドール敗北の責任をとってアイドルをやめた。そのせいで紫京院殿の願いが叶い、今回のプリパラ事変が起きた。だからあんたにはその責任をとる義務があると思う」
「……今更私になにが出来るって言うのよ」
「私たちドレッシングパフェはあれから3ヶ月以上もチームを組んだままライブをしてそふぃと戦っていた。ドレッシングパフェ最大のライバルであるソラミスマイルなら同じ事が出来るはずだ」
「私にまたソラミスマイルでライブをしろって言うの!?」
「そうだ。今すぐじゃない。プリパラの闇にとらわれたアイドル達を救い、紫京院殿を見つけてからプリパラのシステムに対してライブを行う。それもスプリングセレクションでセレパラ歌劇団が行ったもの以上のライブをだ。そして鐘を鳴らしプリパラを元の世界に戻す。これが目下最大の良策のはずだ」
「……でも、」
「頭ではわかっているな?この理論の正しさが」
「そりゃそうよ。私だって迷うわよ。今更らぁらやそふぃと一緒にライブなんて出来る訳ないじゃない」
「らぁらはお前のためにアイドルをやめたんだ。なら多少身勝手でもお前がもう一度アイドルになれば一緒にアイドルを再開させるだろう」
「……そふぃは?そふぃは私の事なんてみたくもないはずだわ」
「言っておくがな、みれぃ。そふぃはお前のことをとても心配していた。セレパラ歌劇団時代にとてもお前のことを気にしていたんだ。……そふぃのことは今はいい。だがいずれちゃんと二人で話をするんだ。努力だとか天才だとかそんな話じゃない。お前達は仲間だったはずだ」
「……」
シオンの言うとおり頭では分かっている。だがそれ以外のすべてがそれをどうしようもないほどに否定する。自分がこの手でソラミスマイルもプリパラも壊してしまった。ならば今更自分が関わっていいはずがない。
「などとでも思っているんだろう?」
と、シオンには完全に読まれていた。
「まあ、実際どうするかはお前次第だ。けど、確かにお前でもやれることはある。その可能性を自分から捨てるな。お前は他の誰かのためにアイドルを始めた訳じゃないんだろう?」
そう言ってシオンは去っていった。
みれぃは考える。確かにここ1年以上ソラミスマイルひいてはらぁらを中心にアイドルをやっていたがそもそもアイドルデビューをした時は他に誰もいないたった一人だけの状態だった。一人で始めたものがいつの間にか他人依存のものになっていた。結局一度たりともソロ曲を歌っていないではないか。
「……ぷり!」
みれぃは頬をたたいてから一度家に帰った。
「みれぃ?」
ベッドにはらぁらが転がっていた。不思議そうな目でこちらをみている。
「どうしたの?みれぃ」
「らぁらはここにいて」
みれぃは引き出しからプリチケをとって走り出した。
そこへやってくるのは4ヶ月ぶり。プリズムストーンショップ。プリパラに繋がっている店。しかしあれ以来ショップそのものは寂しい感じとなっている。プリパラに行く者もあまり多くはない。その変化に唖然としながらもみれぃは店内に進む。
「プリチケをスキャンしてね」
機械音に従ってプリチケをスキャン。久しぶりにポップあふれるアイドルみれぃの姿に変身してステージへの道を進む。
「あれは……みれぃ!?」
プリパラの中、レオナ、ふわりがみれぃに気付く。
「レオナ、ふわり……」
「だ、大丈夫なの……?」
「ナチュラルになったのね、みれぃ」
「……まだ、大丈夫かは分からないぷり。でも、みれぃはやるぷりよ。二人はファルルとひびきさんをお願いぷり」
笑顔で返し、みれぃはステージへと進んでいく。すぐにその情報はレオナとふわりを通して全国に拡散され、みれぃがステージにあがる頃には多くのアイドル達が客席にやってきていた。
「……やるぷりよ!」
みれぃが歌い始める。曲はMake it!多くのプリパラアイドルがまずはじめに歌う初心者向けの歌だ。
「おしゃれなあの子まねするより、自分らしさが一番でしょ」
しかし単純ながらもアイドルを始めたばかりの女の子達に向けた最高のエール曲でもあり、人気は高い。
「Make it!ドキドキする時、無敵でしょ?」
みれぃの歌が全国に配信される。病室のそふぃとシオンが聞いている。
「……みれぃ……」
「今のプリパラの闇に負けるな、みれぃ……!」
「夢はもう夢じゃない、誰だってかなえられるプリパラプリパラダイス!」
誰もが最初に口ずさんだ歌。部屋に閉じこもったままのドロシーにも響きわたった。
「……何だよ、やるじゃんかみれぃ」
歌が終わり、みれぃが息を整える。同時、心に何かどす黒いものが生まれるのを理解した。
「なに……これ……。頭の中からアイドルって概念が消えていく……?これがひびきさんの願いで生まれたプリパラの闇……!?」
笑顔が消える。光が消える。夢が消える。恐ろしいまでの絶望や諦観がみれぃの心を浸食し始める。これがあの日以来すべてのプリパラアイドルに芽吹き続けているプリパラの闇の正体。
その闇に耐えきれず、みれぃの足下が揺らいだ時。
「みれぃ!!」
それを走ってきたらぁらが受け止めた。
「らぁら……」
「負けないで、みれぃ……!あたし達だったらいける……やれるから……!!
「……らぁらのその言葉が何よりのエールぷり」
語尾を言った瞬間に心の闇が加速度的に濃くなった気がする。しかし同時に負ける気もしなかった。らぁらと視線を合わせ、次の歌を始める。
「ま~ぶるMake up a-ha-ha!」
それはらぁらとみれぃが作ったデュオ曲。まだそふぃとチームを組んでいなかった頃の二人だけのエール曲。
「夢にかける全力、友情×友情!」
「まぜまぜ~ま~ぶる~!行こうパラダイス越えて!」
「出会わなかったらただ通り過ぎてた世界」
「ハート揺らすあこがれ 聞ける触れる貰える」
「愛をリップに乗せ、ぷるん」
「チークに涙色……合わない!」
「「空を駆ける想像!振って懸ける青春!気持ちもマーブル変わってくよ!一人じゃなくて二人、誰かじゃなくて君がいい!数字じゃわかんない胸のパラメーター壊せ!!」
再び始まった二人の歌声にプリパラ内のアイドル達は皆心の闇に挑み始める。最初にライブをしたときの感動、最初に友達と一緒にライブをしたときの鼓動。そして、もっともっと歌いたいという衝動。それが芽生えた少女達は次々と心に根付いた闇を討ち滅ぼしていく。闇に閉ざされていたプリパラが少しずつ光を取り戻していく。
「……計画が台無しじゃないか」
いいながらシオンはそふぃと共にプリパラへと向かった。その途中、ドロシーとも合流した。
「もういいのか?」
「ボクを誰だと思ってるんだよ?ドロシー・ウェストだぞ?」
「知っているよ。臆病なくせにこのそふぃを相手に3ヶ月もあの闇と戦い続けた私の最高のチームメイトさ、右高強餅!」
「……いいチームね」
「ああ、そうに決まっているだろう?」
「なんたってドレッシングパフェはソラミスマイル最強のライバルなんだから!」
いいながら3人はプリパラへと進んでいく。
・2曲続けて歌い、プリパラの闇に拮抗する流れを作り出したらぁらとみれぃ。クマ達スカウトマスコットとも合流し、彼らがこの4ヶ月間封じ込められていた場所へと案内される。
「そふぃはこの場所を知ってるクマ」
「でもパクト越しにわずかに知らせただけだから詳しい場所までは分からなかったウサね」
「もしかしてこの奥に……」
「ひびきさんとファルルがいるぷりね」
進んでいくこと数分。二人はついにたどり着いた。それは日本のプリパラから海外のプリパラへと続くゲートがある場所。しかし現在ゲートはガムテープや鎖やらで封じられていて代わりに玉座が二つあった。
その玉座に二人。ひびきとファルルが座っていた。どちらも色のない瞳をしていた。
「……ここから先には行かせない」
「海外のプリパラに行きたければ僕達を倒してからにしてくれ」
「どうしたのファルル?あたしだよ?らぁらだよ?」
「ひびきさんも……まるで昨日までのそふぃみたい……」
「ファルルも会った頃みたいになってる……」
「ファルルもひびきも純然たるボーカルドールになってしまったクマ……」
「友情含めたあらゆる感情を捨てた事でひびきさんはボーカルドールになり、そのひびきさんのあこがれの存在であるファルルも元通りの感情のないボーカルドールに戻ってしまったウサ……」
「それだけじゃないでしゅ」
「ユニコン!!」
「ファルルもひびきしゃんもプリパラのシステムに飲み込まれてしまっているんでちゅ」
「ってことはまさか、この事態を解決すると言うことはプリパラというシステムと戦う必要があるって事ぷり!?」
「そうクマ……」
「……やろうよ、みれぃ。プリパラのシステムとか難しいことは分からないけど今のあたし達に出来ない事なんてないよ」
「……そうぷりね。たとえプリパラのシステムが相手でもみれぃたちは常に前に進んでるぷり。それに、」
「プリパラが好きだから……でしょ?」
「!」
声。二人が振り向けばそこにはそふぃ、ふわり、そしてドレッシングパフェの3人がいた。
「みんな……!!」
「らぁら……みれぃ……いろいろ話したいことあるけれど今は……」
「いや、お前達は先に行くんだ」
「まほちゃんやファルルはただのお人形さんだろ?」
「プリパラのシステムはたぶんもっと奥にいると思う。だから、」
「「「ここはドレッシングパフェに任せて先に行って!!!」」」
「……ドレッシングパフェ……」
らぁら、みれぃ、そふぃは一度顔を見合わせ、ドレッシングパフェに道を譲る。そしてドレッシングパフェはひびきとファルルの前に立った。
「挑戦者、確認」
「全力で相手する」
ひびきとファルルは玉座に座ったまま歌を歌い始めた。
「嗚呼、終焉へのカノンが薫る」
「殺戮の福音に血反吐と散れ」
「なにこの歌、怖い……」
おびえるらぁら。威圧するように歌は鈍色を加速させる。
「奇跡など殺すと誓ったのだ」
「思い出など微塵も焼き消して」
「狂い酔えば柔きあの笑顔も」
「「世界を壊す歌が忘却へと」」
「愛など見えない」
「愛など分からぬ」
「「愛など終わらせる!!」」
その歌がプリパラ全土に闇を呼び戻す。一度は希望を手にした少女たちが再び闇の中に心を落としていく。悲痛な叫びがプリパラ全土を覆い尽くし始める。
「るLuりRぁ……消えてく、絶えてく……」
「RゥるRIラ……残してく、死んでく……」
「Genocide&genocide……」
「涙の一滴残らず搾った怒号のカタストロフ」
「根底から完全否定シテ燃ヤス」
「「奇跡など殺すと誓ったのだ、思い出など微塵も焼き消して
狂い酔えば柔きあの笑顔も世界を壊す歌が忘却へと!!」」
「愛していた日々」
「愛していたあの日々」
「「愛故、永眠らせる……」」
終焉の歌が響き、しかし対面の3人は膝を折らなかった。
「心臓に溶けるマグマ」
「消えない心の声太刀」
「一所懸命に笑ったの日に」
「「「笑われたくないから、私は/ボクは/私が、全力で笑う」」」
新たな声がプリパラ全土に響きわたる。その歌がもたらすものは光でも闇でもなく、炎だった。
「Hey go!貫けVivid Thunder!!栄光貫け竜巻ック!!」
「永劫轟けドレシのファイヤー!!
「「「白黒決めるぜPrisma Qing!!」」」
歌が心に燃える原点、そのあこがれの炎を今一度燃え上がらせる。多くの膝を折った少女達が倒れることなく持ちこたえ、拳を握りプリパラにそびえ立つ暗雲をにらんだ。
「「「Let's go! 輝け Dressing Fire!!閃光貫け竜巻ック!!永劫轟けDressing Fire!!白黒決めるぜPrisma Qing!!」」」
歌に、アイドル達の心の炎が加わりプリパラに蔓延る闇に亀裂が走り、ついにはドレッシングパフェの3人を中心に発生した火柱が暗雲を、闇を貫く。そしてちぎれた闇からプリズムの女神像が出現し、その場にいたらぁらたちを見下ろした。
「今度はあたし達の番だよね!」
らぁらがみれぃとそふぃの手を引いて一歩前に出る。
「ソラミスマイルの歌でプリパラを救おう!みれぃ!そふぃ!!」
らぁらの声に二人は顔を見合わせた。
「Get Dance!プリパラ今日はもっと Dance!輝くよ胸のRainbow ときめきのNeverLand!!」
燃える炎が闇を打ち消し、そこから虹色の光が次々と生まれ出す。
「いつかかなえたいもの」
「それじゃ満たせないもの」
「どきどきなメロディがもうすぐ聞こえるよ」
「決してなくせないもの」
「これは譲れないもの」
「Let's Dance!ミラクルな友情はForever」
「Dream of live 素直な気持ちがいいよね」
「言葉じゃはかれないmusic」
「逃せないね、今すぐハッピーデイズ 抱きしめたい」
「「「Crystal rainbow shower!描くよ Shooting star!憧れ叶うステージまで運命のタクトでshow time!クローゼットを開けて眩しい未来へ 神アイドルだってなってみせるから」」」
闇と炎と光が渦巻くステージの上でソラミスマイルの3人は跳躍した。
「メイキングドラマ・スイッチオン!!」
「はじめはだれも一人で小さな一歩だった」
プリパラの外のらぁら、小学生時代のみれぃ、8歳時のそふぃが暗闇の道を歩む。
「でも、一人じゃなかった!憧れた瞬間からずっと心の中にあるもの!それが、プリパラなんだよ!!」
「「「オールウェイズ プリパラ for you!!」」」
「Crystal rainbow shower!描こうよ Dreeming star!さあ、ステージに大好きを抱きしめにおいで it's show time!!」
「「Princess 終わらない旅の向こうへ」」
「「「躊躇わずにぎゅっと、踏み出しちゃえよ!Smile!Ready parade今日はもっとDance!輝くよ胸のRainbow!ときめきのNeverland!!」
ライブが終わる頃には既に女神像はなく、そしてプリパラ全土を覆い尽くしていた闇も消えていた。
「……ひびきさん……ファルル……」
ふわりが静かに、横たわったままの二人に歩み寄る。
・それから2ヶ月が過ぎた。プリパラは元のプリパラに戻った。プリパラアイドル達もこの4ヶ月での出来事を忘れたわけではない。時折胸の闇に傷つくこともあるが、それでも友達と会いに、ライブをするためにプリパラへと足を運んでいる。
あれから紫京院ひびきはプリパラの病院に運ばれた。まだどこか割り切れない部分はあるようだが以前の感情も取り戻している。ボーカルドールになってしまったためにプリパラの外に出ることが出来なくなったが毎日ふわりやファルルがお見舞いに行くため寂しさはない。みれぃたちと再開したときもどこか吹っ切れた様子があった。
みれぃもそふぃとのわだかまりを解消するためにEZ DO DANCEで一度対決することになった。すべてを出し切った勝負はやはりそふぃに分があったが勝負の後は二人とも笑顔だった。
そしてらぁらはレオナからみれぃとの行為についての意味を聞かせられ、最初は拗ねていたがすぐに元に戻った。
それから1年後に神アイドルグランプリが開催。数々のライバルを撃破してソラミスマイルは決勝戦でドレッシングパフェと激突するのだった。
夢のために。悔いを残さないために。しかし笑顔で。それが6人の決戦だった。