X-GEAR7章「輝き、反撃」

【第7章】
7章:輝き、反撃

【サブタイトル】
106話「荒廃した100日」

【本文】
GEAR106:荒廃した100日

・赤羽美咲はバケツを運んでいた。両手に1つずつ、ともに満タンにまで水が入っている。元々空手で鍛えた体や三船機関で調整された肉体のために本来ならば彼女ほどの年齢の少女では耐えられない重労働を彼女は難なくと言うほどではないがいい運動レベルで毎日行なっている。現在の状況では当然ながら空手も三船での調整もどちらも行なえる状況ではないからちょうどいい。
「戻りました」
「あ、美咲ちゃんだー!」
扉を開けて部屋の中に入ると全速力で久遠が飛びついてきた。
「只今です、久遠」
「お帰り美咲ちゃん!」
久遠が抱き着いたままバケツを壁際の床に置く。
「あら、帰ったの」
続いて奥の部屋から火咲が出てきた。
「はい。戻りました。……奥では?」
「ええ、まだやってるわよ」
赤羽もまた久遠を抱いたまま部屋の奥に向かう。そこはかつてリビングだったと思われるやや広い空間。
「反応が遅い!」
「いででっ!!」
「くっ……!」
紫音が足を放てば、大悟が吹っ飛び、達真が膝を折る。そしてその様子をつまらなそうに小夜子が見ていた。
「小夜子さん、今日はどんな感じでしょうか?」
「ああ、先輩。おかえりなさい。相変わらずですよ。兄さんはまだまだ紫音先輩の攻撃に全然ついてこれてません。矢尻先輩もいつかは互角に戦えたみたいらしいですけど2手3手届いていませんね。2対1で何とか互角ってところです」
「そうですか」
「その紫音ちゃんでも久遠ちゃんにはちょっと及ばないけどね」
「GEAR使ったら楽勝だけど?」
「それを私に対しても言うつもりかしら?鈴城さん」
久遠、紫音、火咲がにらみ合う。その様子を見ながら赤羽は視線を窓の外に向けた。
既に死んで何年も何十年も経過したであろう荒んだ街の風景がそこにはある。自分達7人がここへ飛ばされて今日でちょうど100日目。最初は訳が分からなかった。あのパラドクスとの戦いの最中、同じ顔をした二人が地球を出てすぐにあの世界は寿命を迎えて自分達は暗闇の中に閉ざされてしまった。そして気付いたらこのメンツでこの街にいたのだ。情報確認しようにも当然ながらスマホは電波圏外。と言うか自分のはあの時、姫火と言うPAMTで戦ったからか即バッテリー切れ。充電できる場所を探そうにも見つからず、そしてこの街の惨状を見た。完全に荒廃した街。時折民家や電柱に激突して変形している自動車。そして何よりも無事な人間は一人もいない。自分達7人以外は誰もがみんな異形の姿で街をさまよっている。最初は何かのGEARかと思ったがそうではない。ほぼすべての人間が頭を失い、しかし体中腐りながらもゾンビのように徘徊している。一体何があったのかはさっぱりわからない。ただ街を数万人ものゾンビが歩き回っている。当然最初は呼びかけた。しかし、反応はなかった。強いて言えば視界に入った自分達に何体かのゾンビが襲い掛かってきただけ。触れたら危なそうだったけど幸いこのメンバーの内ほぼ全員が空手をやっていたから相手が何かする前に相手の洋服を着た部分だけを攻撃して撃破に成功した。その体は自重にギリギリ耐えられる程度の強度しか残されておらず、全力で攻撃すれば一撃で崩れ落ちる。それに気付いてからは久遠の制空圏が猛威を振るい、1時間ほど戦えばとりあえず視界のゾンビは全て砕け散った。少しだけ火咲のような気分が味わえた。
自分達に襲い掛かるゾンビを掃討した後は住居を探すことにした。鍵がかかっている家も多かったが火咲によって簡単に中に入ることが出来た。電気が使える場所はもうなかった。当然水もないし、冷蔵庫の中の食料も腐っていた。どうしたことかと困っていたがとりあえずせめて水を探す事にした。だが、
「今までどの民家を当たっても結果は同じだった。だから街の中を探しても結果は変わらないと思う」
と言う紫音の提案により街の外を目指した。赤羽や火咲、そして小夜子が空から探す事で北東の方に川があることを発見。3時間ほど歩いて川に到着した。川には水はもちろん、近くにはリンゴに似た果実が生えた木がたくさんあったためそこで飢えと渇きをしのぐことが出来た。しかし、空を飛べる3人はともかく他の4人では川を超えることは難しそうだった。何せ、橋もない上対岸までの距離が結構ある。そして3人に偵察に出てもらったが川の向こうには住宅街と言うのは見えなかった。だから結局先程の街に戻って適当な家で生活をすることになった。
「水を汲んだり食べ物をとってくるのは私がやりましょう」
赤羽は真っ先に立候補した。体を動かしたいと言うのもあるし、やはり空を飛べると言うのは大きい。帰り道でも何体かゾンビと遭遇したこともあってまだまだゾンビは全滅したわけじゃないことを知る。だから片道3時間、往復で6時間以上の道。ゾンビに遭遇しない可能性の方が低い。そんな中行動するなら空を飛べる事は大いに有利。実際この世界に来てから100日で遭遇しなかった日はなく、しかし単独でぶつかり合ったことは一度もない。
「最上さんや小夜子さんも手伝ってくれればもっと水が多く運べるのですか」
「面倒だから嫌よ」
「僕もパスで」
二人そろって同じリアクション。
しかし火咲の方は時折夜中に部屋を抜け出しては外で大暴れをしているらしく、赤羽が水を運ぶ際いつの間にか新しい死体の山が出来てる事も少なくはない。それも合わせてこの100日で撃破したゾンビは1000体以上。
小夜子は最初この世界で発見した時は意識を失っていた。あの最終決戦の際に最後の方で二人の小夜子のどっちかが分からない状態になって回収されたという報告を聞いた気がする。大悟の様子からもそれは見て取れた。しかし、ゾンビ狩りの最中に彼女は目を覚ました。雰囲気としては本来の彼女……カシワギサヨコに近いが他人と接する時とかは新しい方の、長倉小夜子に近い気もする。大悟の意見も大体同じだった。
「あなた達も少しは手伝いなさい!」
叱る紫音。この場では最年長だからか基本的にはリーダーなのだが元から剣呑だった火咲はもちろん小夜子や達真とは少し気まずい感じ。それに本人もどこか無理をしているように見える。一度だけ気持ちを窺ったがやはり大悟から鈴音の最期を聞いた事が痛かったようだ。それに義兄の黄緑とも喧嘩別れして以来再会できていない様子だ。不安と緊張とが彼女を苦しめているのは間違いない。どちらも何か相談できることはないためか赤羽は何も出来ない。
「まあまあ紫音ちゃん。小じわが増えるよ?」
「私はまだそんな年じゃない!」
からかう久遠。あの場で唯一赤羽とは一緒にいたメンバー。だから最初はトゥオゥンダやジキル、十毛にライラも一緒なのではないかと思ったが少なくともこの100日にそう言った情報はない。ただ、仲間の中でも年下に入る久遠と小夜子が真っ先にこうして見つかったのは悪くない状況だ。もしもこんな状況で一人だったらこの二人では……いや、誰であっても耐えられるとは思えない。他のみんなも心配だがとりあえず久遠が無事な事には安心できた。
「さあ、大悟君達真君。そろそろ休憩は終わりで次行くわよ」
「は、はい……じゃなくて押忍!!」
「……押忍」
大悟と達真が立ちあがる。
大悟は最初に発見した時はひどい状態だった。顔色がとても悪く、ひどい怪我でもしているんじゃないかと思った。何せ近くにゾンビが来ていることにも気づいていない様子だったから。しかし、一度合流してからは毎日紫音や達真に稽古を頼んで体力作りに励んでいる。あの日の最期のついても詳しく聞かされた。鈴音が消えて世界が滅んでそして本来のこの世界に飛ばされた。どのような形で飛ばされるのか、あの人はかなり心配にしていたが実際は結構最悪な部類だ。人員だけがしかもバラバラにこちら側に飛ばされる。そして既にこの世界は滅んでいるも同じ。この世界に来てから数日。大悟は突然こんな事を言った。
「あのゾンビたち、天死に関連してるかもしれない。俺の中の天死のDNAが少しだけ反応してるんだ」
しかし、それが何なのかは分からない。一体天死がどう関わればこのような事態になるのか。まさか天死に殺された人はゾンビになってさまようとでも?しかし一回大悟が外を歩いていた時に近くまでゾンビが来たことがある。しかし、そのゾンビは決して大悟を襲うことはなかったと言う。天死に殺された人間はゾンビになり、天死はそれを使役する。そう言う仮説を立てるのはそこまで早計ではないのかもしれない。
次に達真だ。実際このメンバーの中では一番読めない。紫音や大悟とは飛べない組でよく一緒にいて稽古を行っている。火咲がどういうわけか少し素直と言うか明るくなったように思える中、達真は逆に以前よりもっと寡黙になり、表情が変わらなくなった。火咲が言うにはこの世界にいるであろう探し人の事が気になっている可能性が高いらしい。最終決戦前に一度ルネとキャリオストロの力でこの世界に来た時に再会したらしく、相手も他に何人かいるグループの中にいたらしいからまだ絶望度は低いかもしれないがしかし、心配に変わりはない。久遠が見つかってほっとしてる一方であの人がいない現状に不安を募らせてる現状があるのだから。
「それで、これからどうする?」
久遠が赤羽の胸に顔をうずめながら聞いてくる。
「どう、とは?」
「これからの生活だよ。とりあえず衣……はともかく食住は安定してるけどこのままじゃまずいんじゃないの?」
「ですが川を超えた先には民家はありませんでした。代わりにゾンビもいませんでしたが」
「でももっと先に進めば他に誰かと会えるかもしれないよ?」
「……でも、」
「野宿は危険よ、天才少女」
久遠の頭に火咲の手が乗せられる。撫でられているのは分かるが火咲のGEARがGEARのため引きつった表情になる久遠。
「……久遠が脅えています。やめてください」
「何よ。私の時にはこの子いなかったんだからたまには私に貸してくれてもいいじゃない」
「あなたには0号機や黒がいたはずです」
「今いないから貸してって言ってるのよ2号機。大丈夫よ、ちょっと一晩私の味を教えるだけだから」
「いいえ、お断りします。あなたが0号だろうが00号だろうが分かりませんが久遠は私のものです。たとえ過去の私だからと言ってお貸しいたしません」
「あはは、これってハーレムって言うのかな?」
「知らないよ。でもうれしそうでいいじゃない久遠ちゃん」
プカプカ浮きながら小夜子は左右の姿を見る。
「……野宿は危険だよ、久遠ちゃん。こういう建物なら身を隠せるから寝ててもゾンビに襲われることはない。でも、野宿だと身を隠せないから寝てる間に襲われやすい。それに、赤羽先輩。昨日の話しなくていいの?」
「……それは、」
「何?2号機何か見たの?」
「……その呼び方はやめてください。昨日の夜に小夜子さんと巡回してたら川の向こうに巨大な怪獣のようなものを見たんです」
「怪獣?」
「はい。確か前に伏見機関と協力してあの人が倒したあの、」
「……UMX?」
「はい。雰囲気としてはそれに近いかと」
「……他に何か見えなかった?」
「……いいえ」
「……そう」
「……火咲ちゃん、何か知ってるの?」
「……私は最上火咲になる前に一度この世界を経由しているのよ。いいえ、正確に言えば矛盾の安寧が作られる直前かしら」
「……その時はどうだったんですか?今のこの状況と同じだったんですか?」
「いいえ。矛盾の安寧程じゃないけど平和だったわ。でもそこではUMXが度々出現してはPAMTを扱える数少ない戦力で迎撃するのが日常だった」
「……じゃあ火咲ちゃんもPAMTを使えるの?」
「いつの間にかなくなってたけどね。矛盾の安寧に来てからはルーナさんと再会するまでほとんど記憶を失っていたから気にもしていなかったけど。ただ、世界の崩壊具合からあの頃から何年も経っているみたいね」
「じゃあ、もう知り合いとかいない?」
「いや、一人だけこの前見たわ。まだPAMTと戦っていたわあのバカ娘は」
「……そうですか。せめてその人と会えたらいいですね」
「……と言うか2号機、あんたはあいつの事を覚えてないの?私があいつと一緒に戦っていた時にはあんたもいたはずなんだけど」
「……記憶にありませんね。赤羽美咲と言う存在は1つじゃない。それはあなたの方がよく分かっているのでは?」
「……それもそうかもね」
そこで話が終わった。話題が尽きたからではない。大きな衝撃があったからだ。
「!」
7人全員で窓の外を見る。夕暮れの空に巨大な影が浮かんでいた。
「……UMX……!あれは確か5号!」
それはメデューサの逆バージョンのようないで立ちだった。下半身が人間で上半身が大蛇。不便極まりないとも言える姿だが大きさは16メートル。それが狂ったように大暴れしていればそれだけで人間からすれば脅威としか言いようがない。まだ遠いように見えるがしかしいつここを踏み潰すか分かったものじゃない。
「避難しましょう!」
7人、急いで家を出て暴れるUMX5号とは別の方向に走り出す。
「おい最上!お前触っただけでどんなものでも粉々に出来んだろ!ならアイツにも通じるんじゃないのか!?」
「触れるんだったらそうでしょうけど普通は速攻で踏みつぶされて終わりよあんなもの」
「……赤羽、PAMTはやはり使えないか?」
「……無理ですね。そもそも充電できていないので」
口々に言いながらもとりあえず走る。しかし、先頭を走っていた火咲がそれを止めた。
「最上さん?」
「……まさか、」
立ち止まり、驚いた表情の火咲。その視線の先。
「オラオラオラオラオラオラアアアアッ!!!」
けたたましい叫び声。街並みを踏み散らしながら走ってくる巨大な赤い姿。
「てぃ、ティラノサウルス!?」
「違うわ、あれはPAMT……インフェルノ!!」
赤いPAMTは火咲達に気付かないまま突進し、UMXを弾き飛ばす。
「おpやああああああああああああ!!!」
アルファベット交じりの奇怪な悲鳴を上げてUMX5号は後ろに倒れる。
「花京院!先走りすぎよ!」
続いて空をまるでステルス機のようなフォルムをしたPAMTが貫いた。
「……PAMT:アボラス……それに花京院ですって……!?」
「……ん、花京院!気を付けて!近くに人がいるわ!」
「んあ?ゾンビじゃなくてか!?」
「ええ、女の子がたくさん……あれ?あの子って確か……火核(ひさね)さんじゃない!?」
「火核って、あいつが!?元の世界に帰ったんじゃなかったのかよ!」
驚く二つの声。その間にUMX5号は立ちあがる。しかし、次の瞬間に5号はピンポン玉のように空高くぶっ飛んだ。
「……花京院君」
「あ、ああ!」
新しく入った3人目の声に反応し、インフェルノは大きな口を開けた。
「くらえ!!バニシングノヴァアアアアアアア!!!」
ボタンを押し、大きく開いた口から滝とも柱とも形容できるようなとんでもない量の炎が吹き放たれた。まったく勢いを殺さぬまま火炎は空を貫き、空中で無防備にアルファベット交じりの奇声を上げるだけの5号に命中し、跡形もなく消し飛ばした。
「……アズライト……」
小さく言葉を吐いた火咲の正面。銀色の質素とも言えるようなシンプルな姿をしたPAMTがライフルを構えていた。
「……咲(えみ)……」
やがて3機のPAMTは火咲達の前で光輝き、姿を消すと代わりに3人の中学生の姿が現れた。
「……花京院(かきょういん)繁(しげる)……牧島(まきしま)眞姫(まき)……そして、蛍お姉さま……」
火咲が零した発言。新しい出会いがこの100日目に現れたのだった。

------------------------- 第118部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
107話「最上火咲のあれこれ」

【本文】
GEAR107:最上火咲のあれこれ

・矛盾の安寧が破られて100日が経過してやっと現地の人間と出会った。
会った3人は花京院繁、牧島眞姫、そして白百合蛍。いずれも中学3年生で、PAMTを使う。
「……ふう、」
赤羽が息をつく。隣には久遠や紫音、火咲に小夜子に眞姫、蛍が全裸でいた。そう、温泉である。
「まさかこちらの世界でもまだ文明が生きているところがあるとは」
「正確に言えば少し違うわ。ここもセントラルが管理している世界だから私がアクセスして少しずつ世界を修復しているのよ」
「白百合さんがこの世界を?」
「そう。私はセントラル最高責任者の一族だからそう言う権限があるのよ。……それにしても、」
蛍は火咲の方を見た。それも顔ではなくその物凄い大きさの胸を。
「……咲、随分な姿になったわね」
「……これが本当の私です、お姉さま」
多少気まずそうにしている火咲。
「あっれぇ~?火咲ちゃんがお姉さまだって!美咲ちゃんファミリーで一番上なはずなのに火咲ちゃんってひょっとして本当はそっちだったの?」
「……いい子だからちょっと黙ってて」
「それに、咲(えみ)ってどういうことですか?」
「彼女は3年前に私の家が保護した記憶喪失の少女だったのよ。持ってた荷物で火と咲の2文字しか見えなかったから火核(ひさね)咲(えみ)って名前を付けていたんだけど。確か本名は最上火咲と言うのだったかしら?」
「もっと正確に言えば赤羽美咲だと思うけどね」
「赤羽美咲?それってあなたでは?」
「……久遠」
赤羽が久遠の頭にゴツンと一撃。しかし堪えない。どうやら久々のお風呂で興奮しすぎてちょっとおかしくなってるみたいだ。
「……色々ありまして私は彼女のクローンみたいなもので彼女こそが本物の赤羽美咲なんです」
「やめなさい2号機。私はもうその名は捨てたのよ。今は最上火咲。そしてお姉さまの前では火核咲。それでいいのよ」
バスケットボールみたいな胸を揺らしながら火咲は頭を洗う。
そのまた一方。男湯。
手短に体を洗った3人は脱衣所で卓球をしていた。
「くっ、やるな!!」
「お前こそ!!」
特に大悟と繁が熱戦を繰り広げていた。それに対して達真はカウントをしてやりながらどこか上の空だった。
「どうした矢尻?最上に彼女(おねえさま)がいてショックだったか?」
「そう言う意味じゃない。ただ、あいつに俺が知らない知り合いがいて驚いていただけだ。……花京院だったか?あいつは、最上火咲はどんな奴だったんだ?」
「んあ?最上火咲って確か火核咲だったっけか?そうだな、俺は一度アイツに殺されたぞ」
「は?」
「お、隙あり」
「あるかぼけぇっ!」
繁の放った強力な一撃をもっと強烈に大悟が跳ね返してポイントをとる。
「ちぇっ、だけど本当だぜ。白百合の奴が戦いの犠牲者もろとも生き返らせてくれなかったら俺は今こうしていない。あいつらはセントラルって言って俺のいた世界やこの世界を管理している組織の一員、それも特別な奴みたいでな。PAMTが本当にUMXを倒し、世界を救える存在なり得るかのテストの試験官みたいな感じだった。今はともかくちょうど1年くらい前まではPAMTは機密的な存在で持っているのは俺とアイツら二人くらいしかいなかった。まあ、俺は一人で正義の味方気取ってたからそれよりもっと前からずっと一人で戦ってたこともあってあいつらの事もセントラルの事も知ったのはもう少し後だけどよ。どっちも何考えているのかよく分かんない女子だったぜ。白百合の方は何も喋らないし、火核の方は白百合にべったりでちょっと何かあるとすぐキレるし」
「……それでお前もアイツに殺されたのか?」
「ちょっと違うな。どうして殺されたのか、俺は生き返る際に一度記憶がリセットされてるからよく覚えてないんだけどよ、俺達にもう一人いた紫って仲間とあいつが敵対関係にあったみたいで紫を挑発するために俺を殺したんじゃないかってセントラルの一員であり俺達の学校の先生だった人は言ってた」
「……セントラルのメンバーは学校にも何人かいたのか?」
「と言うか、俺達がいたあの世界はPAMTの性能テストのために作られた世界……正確に言えば何もなかった非文明的世界の1つを改造して作った世界みたいでな。大人の大半はセントラルの人間だったみたいだ。まあ、俺の家は違ったけどよ。ただセントラルも一枚岩じゃなかった。このままPAMTを、それを使う俺達の成長を見守って慎重に行きたい連中とそうじゃない連中。後から知ったけど後者の連中がUMXを仕入れては俺達を襲ってたみたいでな。俺が死んで少ししてからセントラル内部でもちょっとした諍いがあったみたいであいつら大変だったらしいな」
「……お前や最上はいいとして白百合は何者だ?世界を操るなんて聞いたことないぞ。どんなGEARだ」
「GEAR……か。紫や火核が使える超能力みたいな奴だったか?白百合のは違うはずだ。アイツは別にGEARがあるみたいだし。まあ、俺も今になってもあまりアイツとは話さないからな。仲間内で一人だけ男子だし」
「じゃあその紫って奴はどうしたんだよ」
「さあな。1年くらい前に色々あって世界を救ってそれからすぐにどっか行っちまったんだ。最初は白百合や火核も一緒だったが帰ってきたのは白百合だけだった。色々ありはしたらしいが紫の奴はまだ無事だろう。むしろ火核の方が心配だったみたいだがお前達と一緒にいたようだからな。顔には全然出さないが白百合の奴も安心してるだろうさ」
「……そうか」
「じゃあ今度は俺の番な。矢尻だったか?お前と火核ってどういう関係なんだ?」
「知り合いを殺された」
「……あー……なるほど。で、さっきの死んだ人間を生き返らせるって言うのに驚いていたから少なくともお前の世界には人を生き返らせる技術はないわけだからお前のその知り合いはそのままなんだよな?」
「……ああ」
達真は一瞬だけ大悟を見た。こちらの視線には気づかず繁の方を見ていた。
「だが、別にうらみがあるわけじゃない。俺自身にもあいつに対してどんな思いがあるのかは分からない。決して恋愛だとかそんな浮ついた話じゃないだろうがな。かと言って復讐をしたいと言う訳でもない。……そうだ、花京院。質問の追加だ」
「何だ?」
「陽翼(よはね)って少女を知らないか?」
「ヨハネ?なんじゃそりゃ。外国人か?」
「いや、きっと誰よりも日本人だ。苗字はなく、名前だ。下の名前の陽翼」
繁は一瞬言葉の意味が理解できなかったが数秒経ってから物凄い驚いた顔をとり、そして数秒経ってから元の表情に戻った。
「いや、知らないな。俺達自身もこの世界に来てからそんなに経ってないんだ。まだ一週間くらい。白百合の奴のおかげでこの世界の情報は粗方分かってる上あいつの力でこういう施設とかあるし、PAMTの充電も出来るからそこまで困ってないってだけでな。悪い」
「いや、いい」
それから、2ゲーム程続いて達真が圧勝したころに女子達の声が聞こえてきたためそちらに向かった。


・飛空艇。キャンピングカーやバスよりも大きい、空飛ぶ船のようなもの。
赤羽達は蛍が用意したその中にいた。久方ぶりの湯を浴び、スマホの充電をさせてもらいながら会議室に向かう。
「……」
「……」
「……」
歩く一行の中心。蛍、火咲、達真が無言で、しかし何らかのオーラを出している。久遠が何か言おうとしていたため赤羽は速攻でその口をふさいだ。
「……しかし、」
「どうしたの?兄さん」
大悟が隣を歩く小夜子に対して口を開く。
「いや、小夜子と普通に並んで歩くなんて初めてだなぁと」
「まあ、今はもう完全に浮遊のGEARを制御してるからね。赤羽先輩と同じような感じだよ」
こうして並んで歩いていると本当に妹と言う感じがする。小夜子がいるのは安心できるが他のメンツはどうしているか気になる。最後ほとんど会えなかった噂の双子や八千代など。それにトゥオゥンダやジキル、ヒエンなども。こうしてセントラルの3人に出会えて少しだけ期待していた。もしかしたらすでに保護されているんじゃないかと。しかし、それもないようだ。
「到着したわ」
蛍が部屋のドアを開けて会議室に入る。そこはかつて使っていた会議室を模したものだ。椅子に関しては学校で使う木製のもの。黒板やチョークまである。少し前までは毎日当たり前のように見ていた景色に少しだけ感慨を覚える。
それぞれが席についてから蛍は黒板の前に立った。
「まず私がこの一週間で調べた情報を整理します。この世界、セントラル管理世界ナンバーは不明……管理世界Xとでも仮称します。この管理世界Xは西暦2303年だと推測されます。推測なのは既にこの世界には文明がほとんどないからです。ただ、100年前に第三次世界大戦が終わっていると言う情報は見付けられたため年表に間違いはないかと」
「……」
蛍の説明はまだ始まりに過ぎないと言うのに冷静に受け止められた者はいなかった。
「その戦争により20の国家が滅び、文明レベルも著しく低下。そしてそれから何があったのかは分かりませんがそれ以上の何かが起きて世界は壊滅状態になっています。本来他にいくつも大陸があったはずですが現状人間が生きている大陸はこの大陸だけです。大陸の中心からちょうど十字に川が走っていて北東にデスバニア高原と呼ばれる雪原が、北東にはこの世界を管理していたセントラル軍の領地が、南西には先程あなた達がいたグレートシティと呼ばれるかつての市民達の住居地帯が、そして南東には学園都市と呼ばれる学生が通う学園の集合体のような地域があります」
「……外の様子は?」
「セントラルの元軍領地は特殊なバリアに守られていて情報は不明、デスバニア高原には僅かに人間がいます。学園都市、グレートシティにも。しかしそれらを合わせても人口は1万人に満たないでしょう」
「……」
「そのセントラルの元軍領地にはバリアが張られていると言ったがどういうことだ?」
「調査中です。私達と同じセントラルの所属と言うのは使っている電波や器具、技術から見るにほぼ確実なのですが一切の接触を拒んでいます。彼らの領地を守るバリアはPAMTの火力を以てしても私の権限を用いても突破が不可能ですので」
「……あのゾンビみたいな連中は何だ?」
達真は続ける。不安を不満で押し殺すために。
「調査中です。ただ生命体としての反応はありませんのでただただ死体が動かされていると見た方がいいでしょう」
「……」
「ただ、気になる情報もあります。この大陸で使われている技術の中に明らかにセントラルのものではない技術の痕跡がいくつか見受けられました」
「どういうことだ?」
「私達やあなた達のような異世界人か、或いは宇宙から来た存在がいると言うことです」
「……宇宙人……」
赤羽はその胸に抱く久遠に力を籠める。
「……美咲ちゃん……」
「……どうかされましたか?もしかしてあなた方の世界には宇宙人が珍しくないとでも?」
「珍しい事は珍しいのですが私達も決して全くの一般人と言う訳ではありません。今まで何度か世界の危機と戦ってきています。その中で宇宙人だと思われる方々を数人知っているので……」
「……彼らの技術力は?」
「私達地球人と変わりません。組織立って行動していたわけではなくほぼほぼ個人でしたから」
「……外見は?」
「女性の方でも生えていること以外は地球人と変わりません。あと、たまに翼が生えます」
「……女性でも生えている?何の話?」
「男のあれが股座に生えていると言うことですよ、お姉さま」
「……」
「……へえ、ふたなりか。本当にそんな生き物いるんだな。……そう言えばあの双子の下の方も似たようなものだっけ」
「双子?」
「ああ。仲間にいるんだ。PAMTを使えるわけじゃないから今回は元の世界に残ったままだがな。どうかしたか?」
「……いえ、私達の仲間にも双子がいるのですが彼女達がその宇宙人の血を引くものでしたので」
「妹の方が生えてるって言うのも同じね。けど花京院。星矢(せいや)は普通に男よ、あれ」
「あ、そうなのか」
「……話を戻します。その宇宙から来た何者かによって世界はこうなった可能性があります。もしかしたらあのゾンビたちもその宇宙人の仕業かもしれません。それに、UMXの存在もあります」
「……そのUMXについてだが俺達はほとんど情報がない。教えてくれないか?」
「はい。UMXはUnnown Monster Xの略であり、元々は私達のいた世界に別の世界から来た者が変貌してしまう怪獣の事を言います」
「……じゃああいつらはみんな元は人間なのか?」
「いいえ。場合にもよりますが戦車や戦闘機などの兵器が世界線を超えてやってきてもUMXになることが確認されています。……中に人が入っていた場合は結果は変わらないかもしれませんが。しかし元に戻すことはほぼ不可能です。アレを人間と思う必要はないと思います」
「……だが、」
しかし、達真はそれ以上を言うのを拒んだ。それを見た火咲は、
「……でも、異世界から世界線を越えたらあの姿になるって事はもしかしたら大倉機関のメンバー、いいえ私達のいたあの世界の人間が今UMXとなってこの世界で暴れているって解釈も出来なくもないわね」
「!」
その発言に赤羽、久遠、紫音、大悟、小夜子は驚き、そして達真は火咲の胸ぐらをつかみあげた。
「……何よ。後で気付かせるよりはましでしょ?」
「……時と場合があるはずだ」
「だから?」
「……お姉さまの前で張り切ってでもいるのか?」
「……っ!!」
火咲は右手を上げた。それがまっすぐ猛スピードで達真の頭に向かおうとした時、間に立ちふさがるものがあった。
「……やめてください」
赤羽が椅子を持ち上げて二人の間に挟んでいた。
「……またあんたなのね」
「……咲、やめなさい」
「……はい、お姉さま」
「ふん、」
達真の手を強引に払って火咲は席に着いた。達真の手は赤くなってはいたものの破砕はされていなかった。
「……咲の言った通りもしかしたらと言う可能性は否定できません。ですがあなた方と言う前例もありますし、何より私達がPAMTに乗っていたと言うこともありますがこのように人間の姿のまま世界を超えています。そして先ほども言いましたがUMXは一度その姿になってしまえばもう元には戻りません。だからPAMTで倒すしかありません。酷な話かもしれませんがその可能性は忘れてください」
「……分かった」
「つきましてはこれからの方針を決めたいと思います。何か意見はありますか?」
「……私達としては仲間を、元の世界の人達を探したいと思います。そして他にもいくつかの情報があれば可能な限り……」
「……そうですね。遅くなりましたがあなた達の事ももっと詳しく聞いておくべきでした。赤羽さん、お願いできますか?」
「……はい」
赤羽は一瞬だけ火咲が肩を震わせたのを見てからこれまでの事情を話した。GEARを監視する3つの組織の事、自分含めた三船機関のクローニングの事、大悟が作り出してしまった矛盾の安寧の事、ライラ達アルデバラン星人の事、宇宙の歪みを糧に破滅を誘うパラドクスの事、そして共に戦った仲間達の事。本当ならルーナやルネと言った非アルデバラン星人の天使についても話した方が良かったかもしれないが自分も説明できるほど詳しくはないためそう言う人物もいると言うだけ話しておいた。
「……」
「……」
「……」
蛍、眞姫、繁は誰も言葉を発せられなかった。正直言って信じられない事ばかりだった。しかし疑いの視線を火咲に送れば火咲は首を縦に振る。つまり信じるしかない事実だと言うことだ。
「ねえ蛍。やっぱり一度セントラルに戻った方がいいんじゃない?和佐さんなり職員に相談した方がいいと思うわよ。私達3人でどうにかなる問題(スケール)じゃないわ」
「……そうかもしれない。でも、状況は速さを必要とするかもしれないわ」
「そう。そして君達が帰る必要はない」
「!」
聞きなれない声がした。反応して声のした方を見て見れば部屋の壁沿い。そこに白銀の男がいた。
「誰!?」
「あの人は確か……パラディンさんでは……?」
蛍と赤羽は同時に反応。対してパラディンは笑みを浮かべる。
「まさかこんなことになってるとは思いませんでしたよ大倉機関の諸君」
「あなたもこちらに来ていたのですか?と言うか甲斐爛さんの件の後からどこへいたのですか?」
「私にもプライベートというものがあるのでね。しかし、少し見ない間にこの世界はとんでもないことになっているようだね」
「この世界の事を知っているのですか?」
「私の故郷になった世界さ。まだ私が不老不死になってすぐの頃の時代。しかし、ナイトメアカードは降ってこないわ天死がいるわ、ダハーカがいるわ、UMXまで姿を見せるわ、さらに見たこともない宇宙文明まで来ているわで散々だね」
「……その宇宙文明とは?」
「宇宙の死神とまで言われた組織スライト・デス」
「スライト・デス……?」
「そうだ。今この時代は彼らが支配をしている」
「教えてください、パラディンさん。一体この時代に何があったんですか?」
「私にも分かりかねるな。私も先日この世界に来たばかりでね。ただ、当初爛達が想定していた世界よりもひどいことになっているのは確かだ。そしてその原因がスライト・デスにある可能性が高い。アルデバラン星人が活動的過ぎるし、しかも本来の無秩序な暴走ではなくしっかりとした統制がされている上での行動だ。黄緑君のお父さんである群青さんもかなり苦労しているようだしね」
「……」
急に出された兄の名前に紫音は胸を押さえる。
「それで、私達は何をすればいいんでしょうか?」
「今、学園都市ではスライト・デスを倒すための力が集まっている。彼らと合流してセントラルに行くんだ。その間に私も行動を移させてもらう」
「……学園都市……」
「そう。そこの黒主果名と言う男を訪ねればいい。君達の知っている彼の関係者だ。十三騎士団ではないが力にはなるはずだ。スライト・デス相手では厳しいかもしれないがね」
「……あの人の関係者……」
「他の奴らを見なかったか?」
「何人かはちゃんとこの世界に来ているようだね。一番人数が多いここに来ただけで反応は他にもあった。残念ながら連れてくることは出来なかったけど」
「……そうか」
パラディンは懐から名刺を取り出して蛍に渡す。
「……トリプルクロス……?」
「そう。この時代では珍しいけれども彼らほどの実力なら生活にも余裕がある。だから暇つぶしと情報収集のために他人の助けに報酬ありで向かう人間もいなくはない。現在も学園都市で大きな依頼に巻き込まれているがそれもそろそろ終わりそうだ。君ならば彼の報酬条件を満たせるだろうから君に任せたい」
「……報酬?資金なら確かにありますがこの世界で意味があるかは……」
「……そう言うのに興味のない人物だよ彼は。……それでは私はそろそろ行動に移らせてもらう」
マントを翻し、一同が一瞬目を奪われれば次の瞬間にはその姿はなかった。
「……相変わらずよく分からない奴だ」
「ですが、希望がないわけではないみたいですね」
「……まずはこのトリプルクロスを訪ねるために学園都市へ行く必要があるようね」
蛍が改めて受け取った名刺を見ると、違和感に気付いた。
「……これは、」
裏面。そこにはぎっしりと文字が書かれてあった。
「……どうかしたんですか?」
「……これを」
「……」
蛍に渡された名刺の裏面を赤羽と久遠が見た。
「……あのゾンビと呼ばれているグールは天死と呼ばれているアルデバラン星人に殺された人間の末路……!?」

------------------------- 第119部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
108話「真紅の再翔」

【本文】
GEAR108:真紅の再翔

・蛍が個人用の高速ヘリで学園都市へ向かうことになった日の朝。
「……」
懐かしい匂いの中で火咲は目を覚ます。自身は裸。そして昨夜共に寝た人もまた裸だった。そして朝になって目を開ければその人は既に服を着て窓際に立っていた。
「お姉さま……」
「咲、目を覚ましたのね。おはよう」
「おはよう……ございます。お姉さま」
「別に無理に敬語じゃなくてもいいのよ。同い年なのだから。もうあなたは火核咲じゃなくて最上火咲なのでしょう?」
「関係ないです。私にとってあなたはお姉さま。拾ってくれた恩人です。あなたの前でだけまだ火核咲は生きているのです」
「……私の兄があなたに迷惑をかけたとしても」
「はい。レイプなんてもう慣れてますから」
父親、不良、警官、隆宏、あの男、魔王野郎と既に片手の指じゃ数えられない。前半4つの傷を癒してくれたのはこの人だから。
……もっと前に誰かに生きる希望を与えられたような気もするけれど……。
とりあえず火咲もベッドから起き上がり自分の服を探す。
「……」
一挙手一投足するごとにまるで生き物のように動く火咲の胸に蛍は視線を集中させた。
「……なんですかお姉さま?」
「いえ、この1年見ない間に随分と育ったみたいだから」
「私の中では2年半ですけどね。11歳から13歳までは何回かやり直してますし。何より前世の記憶までありますし」
「……三船機関が生み出した赤羽美咲のクローン計画?」
「はい。確かに私はかつて赤羽美咲でした。変態だけど強くて頼れる師匠がいて、仲間達がいて、でもある日を境にその世界は終わりを迎えて……気付けば私は最上火咲として転生していました。……まあ、外見も胸以外はほとんど転生前と一緒だったんですけどね。そして最上火咲としての人生はとてもきついものでした。幼い頃から薬に狂った父親からは凌辱される日々。小学生の頃に妊娠して、でも無理矢理下ろされて、子宮を除去されて、頼れる家族もいない。そんな廃れた生活からか私は赤羽美咲であることを完全に捨てて最上火咲として生きていくことにしたんです。まあ、5年ほど前に最上火咲としての自分さえ忘れてお姉さまと出会ったわけですけどね」
「……彼とはその後に出会ったのね」
「彼?達真の事ですか?」
「……下の名前で呼び合う仲かしら?」
「確かに一度レイプされて2回くらい中に出されましたけど別にそういう仲じゃないですよ。相手がお姉さまだから素直に言えるってだけで。まあ、妙な奴ではありますよ。ストーカーみたいにどこまでも私を追ってくるんです。よく分からない奴です。でも、どこに行っても着いて来てくれる。そんな奴ですよ。まあ、あの世界にまではこれなかったみたいですし、あいつにはそもそも思い人がいるみたいですけども」
「……陽翼さんと言ったかしら?」
「らしいですね。私も一度しか会った事ないです。詳しい事情は聞いたことないですけど察するに天皇の娘だと思います」
「天皇……日本の平和の象徴である王位だったかしら」
「ええ。セントラルは国際系だから天皇ってシステムは歴史の教科書くらいにしか出てきませんけども。まあつまり陽翼って子は日本のお姫様な訳です」
「……矢尻君は?」
「さあ?ただの男子中学生じゃないですか?私と同じで家族はいないみたいですけども。ただ、陽翼って子は本来苗字がないはずなのに矢尻陽翼を名乗ってたりするみたいですからもしかしたらもう達真とは婚約してるのかもしれませんね」
「……いいの?」
「私に関係ある所じゃありませんから。これからはお姉さまもいますし」
「……私ももう長くないかもしれないわよ」
「え?」
「こんな世界じゃ誰もが明日を生きれないかもしれない。特に私は重要な役割を担っている。きっと真っ先に敵に狙われるわ。せめてスピローグだったらよかったけどもアズライトじゃどこまでやれるか分からない」
「だったら私がお姉さまを守ります。……あ、でもクリムゾンスカートがないですね。あの戦いでパラレルフォンごと破壊されてしまいましたから……」
「それなら大丈夫。いつかあなたが帰ってきた時のために新型を用意しておいたわ」
「本当ですか!?」
「ええ。でも、それはあなたのために使って。私は……歩乃歌ともう一度会うまでは絶対に死なないから」
「……大丈夫ですよ。アイツならちゃんと帰ってきます。だからそれまではちゃんと私がお姉さまを守って見せます」
「……ありがとう、咲」


・食物庫。
「……」
火咲がむっすーとしていた。
「……何をむくれている」
インスタントな食べ物を段ボールに詰めながら達真が声だけを飛ばす。
「……別に」
「……そんなにお姉さまとやらと別行動が嫌ならばいっしょに行けばいいだろう。あのヘリなら二人までなら変わらない筈だ」
「お姉さまは関係ないわ。あと、あの人は白百合蛍って言うの。あんたがお姉さまって呼ばないで」
「そうか」
視線を交わす。
どうにも煮え切らない態度。こいつらしくない。何故だかむかむかしてくる。
不遜。妙以上に突っかかってくる。しかも何だかイラついている。一体何が言いたいのか自分でも分かっていない?
蛍用にそして学園都市用に食べ物を段ボールに詰めて格納庫にあるヘリへと運んでいく。
「……」
「何よ」
達真の視線。段ボールを運ぶこちらの手に。
「……手、使えないんじゃなかったのか?」
「どっかのクローン達のおかげで治ったわ。まあ、そのお陰でまた無様な姿に戻ったわけだけれども」
「赤羽美咲か」
「その名はもうあの2号機のものよ。そして来世なんてものがあれば今度はあの2号機から生まれた2号機がそう呼ばれることになる」
「……クローンは何体いるんだ?」
「さあ?2号機が生まれる前に私から作られた0号機。1号機……と3号機は別として2号機は0号機と同じで私から作られた。まあ、完全なクローンじゃなくて後天的な改造だけれども。その後に2号機の強化計画として羽のシリーズが作られたわ。あんたをあの日銃撃したのはきっと黒の羽のりっちゃんね。あの魔王野郎にそそのかされたんでしょうけど」
「……」
そう言えば銃で撃たれて死にかけたこともあった。大倉機関の病院で助けられてその後すぐにあの魔王との戦いやら天死との戦いがあってそれからアイドル先輩との因縁やら長倉大悟の戦いがあって完全に忘れていた。と言うか、
「お前が0号機と呼ぶアイツは昔会った事がある」
「へえ、まああの子はちょっと特別だからね。でもあの子ずっとイギリスにいたはずよ」
「ああ、海外だ。そこで俺は陽翼とも出会った」
「……そう言えば、」
前にシフルが言っていた話を思い出す。シフルは大事な友達を達真に殺されたから復讐がしたいと言っていた。実際に陽翼は別の世界で生きていたわけだがしかし達真も陽翼が生きていたことを知らなかった。だが達真はかつてイギリスで陽翼やシフルと出会っている。と言う事はシフルの言っていた親友と言うのは陽翼の事だろうか。陽翼の素性が天皇家と言うのは推測出来たが日本の王族が三船機関のトップの血族であるクローチェ家と関わりがあったと言うことだろうか?他の機関、例えば伏見ならば自衛隊だから天皇家と関わりがあるのは分かる。大倉も意外と底が知れない怪しさがある。だが、確か三船はラァールシャッハ所長が作り上げたまだ数十年程度の小さな組織のはずだ。
「……どうかしたか」
「別に。何でもないわ。そうね。どうして陽翼って子はイギリスにいたのよ。話によれば単に短期間滞在していたってだけじゃないんでしょう?」
「……イギリスに移住していた。身分を隠してな」
「どうして隠す必要があるのよ」
「……あの子は今の皇太子がその地位につき、ちゃんと妻をとって子供を作る前に作ってしまった隠し子だ。だから公表されることはなく、しかし悪用されないようにするために海外に逃亡したんだ」
「……」
何かいまとんでもない話をされたような気がする。もう何もかも遅い話だがもしその話が公表されればとんでもないことになりそうだ。しかし、そうなればシフルが天皇家の娘と仲が良かったと言うのも偶然なのだろう。
「と言うかむしろ逆にどうしてあんたがイギリスにいたのよ」
「親の都合だ。両親揃って考古学者でな。イギリスの僻地の遺跡を調べていたそうだ」
「あんた一人暮らしじゃなかったっけ?」
「……どうして知ってる。まあいい、俺が謝って陽翼を殺してしまった。俺の両親はその責任を取らされてそれ以降行方知らずになっている。どうなったかは俺にも知らされていない」
「殺したって生きてたじゃない」
「……そこが俺にも分からない。2年ほど前にイギリスからともに日本へやってきて、彼女がそばアレルギーだと知らずに俺は彼女にそばを食べさせてしまった。それが原因で脳皮質が破壊されて廃人同然になった。一度は諦めずにリハビリをした。俺も全力で協力した。だが、少し調子が良くなったと思ったらその次の日には完全に頭がパーになった。指を動かす事も出来なくなった。だから殺した。この手で直接な。被害者が被害者だから警察は関わらなかった。……その筈なのにどうしてか陽翼は生きていた」
「……答えならあそこにいるじゃない」
「ん?」
荷物を置き、会議室に戻る帰り道。窓から外を眺めている小夜子を指さした。
「……ああ、なるほど」
確かあれが大悟の妹だと言うのはここに来て聞いた。あの少女は世界が矛盾の安寧によって分岐化してしまった際に何故か二人に分かたれてしまったと聞く。いつの間にか一人に戻っていたようだが。しかし、それを陽翼にも当てはめるのなら自分が2年前にこの手で殺した陽翼は二人に分裂した内の一人と言う可能性があると言うことだ。だが、長倉小夜子がかつて二人に分かたれた時は片方はその時に作られただけの偽者だったと聞く。ならばあの時自分が殺したのはどちらだ?この前再会した陽翼はどっちだ?
「……では、作戦会議を始めます」
全員揃ったのを見て蛍が前に出た。
「昨日も申し上げた通りこれから私は学園都市に向かいます。信頼と協力の証としてとりあえず食料100キロ分も用意しました。そのスペースもあってヘリには私一人と言う最低単位しか乗れません。そして私がいなくなればその間はこの施設も使えなくなります。きっと一両日以内に帰ってこれる保証はないでしょう。なのでその間、おおよそ一週間程度は地上で生活してもらうことになります」
「……まあ、久遠ちゃん達からしたら元通りの生活ってわけだよね」
「そうですね。仲間が多い上食料も足りているので幾分か安心できます」
久遠と彼女を抱いている赤羽が言う。蛍と達真が一瞬だけ二人を見た。
「私は30分後には向かおうと思います。それまでに一週間分の食糧と水と電気を用意しておきますので皆さんは格納庫に向かってください。では……」


・30分後。
地上に降りた飛空艇。近くには廃れた民家がある。比較的十路川には近い場所だ。その民家の中に食料を詰め込んだ段ボールを運ぶ。先程空から確認したところ周囲にはUMXもグールも姿はなかった。
「……準備はいいわね」
「はい、お姉さま」
「それじゃ、行ってくるわ」
飛空艇が消えるとヘリに変わり、火咲を抱きしめた蛍がヘリに乗り込む。蛍一人を載せたヘリが音もなく離陸して地上を離れてだんだん小さくなって空に消えていく。しかし、それを見送ることは出来なかった。
「!」
背景となっていた土色の空。それをガラスのように割って新たな姿が見えたからだ。
「あれは!UMX!!」
全員が表情を変えて侵略された空を見上げる。
「しかも、見たことないタイプだぜ!」
「……いや、あれはD型UMX!?」
「D型!?」
「私と歩乃歌が別の世界で戦ったUMXよ!……倒したはずなのにどうして……いや、そう言えばあの時も一瞬だったけど見た気がする」
「奴らの強さはどんな感じだ?」
「あの時は歩乃歌の百連と私がクリムゾンスカートでやって私がPAMTを破壊されたわ」
「……昨日の5号よりは強いか。場合によっては10号クラスか……」
口々に言う。その間も鳥のような姿をした鬼のような怪物は蛍が乗るヘリに向かっていく。
「お姉さまが……!!……やるしかない!!」
火咲は今朝新しく渡されたばかりのパラレルフォンを握りしめて起動した。
「これは、」
発せられた赤い光の中に火咲と、そして達真が巻き込まれた。
「……おお、」
他のメンバーが見上げる。そこには全身真紅の人型が立っていた。
「久しぶりに見るがちょっと姿変わってないか?」
「確かに……。羽なんて生えてなかったと思うけど……」
繁と眞姫の感想。その新型クリムゾンスカートはランドセルを背負い、そのランドセルからは蝶のようなビーム状の翼が生えていた。かつてはスカート状に下半身にまとわりついていた16本の刃もまるで時計の針のように背中に浮かんでいる。両腕には小型機関銃のメタルファイヤー、そしてリボルバー式となった大型プラズマーライフル。
「……久々の感覚ね。でも、どうしてあんたがいるのかしら」
火咲はコクピットの背後を見た。そこには達真がいた。
「……知らん。二人乗りじゃないのか?俺は操縦方法知らないぞ」
「……新型は複座式なの……?そんなの聞いてない。でも、やるしかないか」
火咲が念じると背中のランドセルの反重力エンジンが起動してクリムゾンスカートが一瞬で空へと飛翔。
「……Gがない……?」
「これがPAMTよ!」
そのままヘリとUMXの間に入り込み、至近距離でライフルを発射。一発で数十メートルを弾き飛ばされたUMX……に2発目と3発目がほぼ同時に命中する。
「……達真、ライフルの弾がなくなったわ」
「みたいだな」
「そっちの画面から弾薬の再補充(リロード)が出来るからやっておいて」
「……どうしろって言うんだ」
「いちいち言わなくても脳に情報が入り込んできてるでしょ。早くやりなさい」
「……ったく、」
達真は目の前に出現した画面、タッチパネルを使ってプラズマーライフルの弾薬を再補充。同時に3発しか撃てない事も知る。
「……3発しか撃てないのか」
「その分、威力は折り紙付きよ。……まあ、まだ相手の再生能力の方が上みたいだけど」
前方。右腕と首だけになっていたUMXはものすごい勢いで体を再生させ、移動中に完全再生を終えてこちらに向かってくる。再生した左腕には全長100メートル以上もの長さと太さのこん棒が握られていた。
「アイアンスカートクロニクル!!」
火咲が言葉を飛ばすと背中に浮かんでいた刃の1本がクリムゾンスカートの左手に瞬間移動して握られ、それを以て敵のこん棒の一撃を受け止める。通常であれば自身の10倍近いサイズの物体の攻撃を受ければダメージは尋常ではない筈なのだがクリムゾンスカートにはダメージは見受けられない。ばかりか、激突から数秒でこん棒は真っ二つにされた。本体から切り離されて落ちていくこん棒の半身。それを火咲は見ないまま発射したライフルの一撃で消し飛ばす。
「……夏目黄緑の牙を思い出す」
一瞬だけ火咲は目を閉じてあの夜の公園での出来事を思い出す。そして、
「ナビゲートホライゾン!!」
新たな武器の名前を叫んだ。するとランドセルに生えていた6枚の翼がまるで生き物のように動き始め、槍のように細長くなるとそのまま光の速さで敵に向かっていく。景色を塗り替える6枚の槍が迫るのを見たUMXは口から破壊光線を吐き、迎撃。激突は一瞬にも満たなかった。伸びた槍の1本がまるで蛇のように先端が口みたいに開き、その破壊光線を呑み込む。と、残った5本がそのままの勢いでUMXを連続で貫き、その体を粉々に破壊する。そして残った残骸を6つの口が吸いこんで完全に消滅させた。
「……とんでもない兵器だな」
「まあ、歩乃歌(あいつ)の二百連よりはマシってところかな」
超光速戦闘時間を終えて火咲は一度飛び去るヘリを見た。ヘリは一度として旋回はもちろんルートの変更も行なっていなかった。
「……ありがとう、お姉さま。行ってらっしゃいませ」
小さくつぶやき、地上へと戻った。

------------------------- 第120部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
109話「合流、レジスタンスチーム」

【本文】
GEAR109:合流、レジスタンスチーム

・蛍が出発してから三日が過ぎた。
「……やるわよ、2号機」
「……あなたの前で言うのは少々気が引けますが私は赤羽美咲です」
土色の空に2つの赤い影。姫火とクリムゾンスカート。赤羽、火咲、達真が空にいた。
前方画面に見えるのは数百数千ものグールの群れ。そしてその後方には見たこともない姿の化け物までいた。スライト・デス怪人のクジャクロスだ。敵はまだ上空のこちらには気付いていない様子でこちら側の本拠地を狙って進んでいた。いや、本当にこちら側の本拠地があちらにあることを知ってそちらに向かっているとは限らない。何せグール達ならともかくスライト・デスの怪人と遭遇するのはこれが初めてなのだから。そもそもまだ赤羽達はあれがスライト・デスの怪人であるという確証を得ていない。ただパラディンからの情報でそう推測しているだけだ。あの人間離れしたと言うかとても自然的ではない造形(フォルム)は宇宙人だと説明されればなるほど、それが一番納得してしまえるだろう。ただ、それだけの話だ。
1時間前に偵察任務を兼ねて火咲が赤羽にPAMTの使い方を教えてくれているその最中にまさか本丸本命を見付けてしまうとは思わなかったが。ともかくそのお陰で残りのバッテリーが少ない状態であるのが心配だがそれでも先手の奇襲が可能となれば御の字だ。グール達は確かに数が多いがまだどうにかなる。問題なのはスライト・デスの怪人だ。サイズ的には大きな差があるとはいえPAMTで勝てるのかと言う心配があった。火咲は流石にD型UMXには劣るから倒せるはずだと計算しているが結果にはまだ至っていない。
「じゃあ、やるわよ」
「はい……!」
二人同時にボタンを押す。赤羽の姫火はミサイルの雨を降らし、火咲のクリムゾンスカートは両腕のメタルファイヤーで銃弾の雨を降らす。
「ん、」
発射され、何か大量の物体が空を切り裂く音を聞いてクジャクロスは空を見上げ、状況を確認するより先に横に飛んだ。
「ちいいっ!!!」
そして建物の陰から景色を見渡す。見える視界全てを焼き払うようにミサイルの爆発が襲い、僅かに存在する爆発の見えない空間を無数の銃弾が貫き、容赦なくグール達を地形ごと粉砕していく。
「あれが異世界人が有すると言うPAMTか。時間制限があるとはいえとんでもない火力だな」
クジャクロスは爆撃がやむのをひたすら待ち続けた。そして、30秒ほどでその時は来た。
「今だ!」
クジャクロスは飛翔した。まっすぐ空へ浮かぶPAMTへと向かっていく。
「……来てるぞ」
「分かってるわよ」
後ろからの声にそっけなく答えながら火咲は画面を変える。
「あの宇宙人、今のを生き延びたのでしょうか?」
「まさか。焼け跡すら全く見えないのだから逃げ延びたんでしょ。けど厄介ね。敵が小さすぎる」
火咲は小さく表示されていた武装画面を見る。先程1600発撃ち尽くしたメタルファイヤーは既にリロードされていた。2度目の出撃にしては悪くない反応だと後ろの奴を誉めてやろうかと思わなくもない。しかしそれよりも先にメタルファイヤーを再び起動させ、こちらに向かってくる小さな的に向かって1600発の弾幕を張る。
「ちっ、これはまずいな……!」
クジャクロスは弾幕の回避を行った。しかし、3秒ほどで右翼を貫かれ、左足を消し飛ばされた。しかしそれでも翼を止めてはいけない。1秒でも同じ場所に居続ければ次の瞬間、自分は粉微塵と残らないだろう。だから風に流されるようにルートを変えて地上へと向かう。つまり退避だ。
「2号機、あいつの降りようとしているところにミサイルの弾幕を」
「分かりました」
「……最上、名前で呼んでやれ」
「あんたが呼んだらね」
やり取りの中、姫火からミサイルの雨が発射される。左右の翼からそれぞれ8発ずつ発射されそれを5回繰り返す。そして敵の逃げ去った場所が完全に炎の海に包まれた。それからPAMTのバッテリーが切れる1分前まで見続けていたが敵の姿は見られなかった。
「達真、いい仕事をしたじゃない。セックスしてあげようか?それとも口がいい?」
「性悪なら性悪らしくその醜悪な胸でも使ったらどうだ?」
「……出来れば私のいないところでそう言う話をしてください」


・それから1時間後。
「……それで、今の状況になったというわけね」
怒りのまま紫音はドアを全力で押さえていた。ドアの向こうには20体以上のグールがいて、その奥にはボロボロ姿とは言え今すぐ息絶えるようなそんな様子でもないクジャクロスの姿があった。
「……すみません、紫音先輩」
平身低頭の達真。PAMTのバッテリーが切れて拠点に徒歩で向かうことになったのだがしかし、その場のノリと言うか勢いに負けて移動する前に達真と火咲は事を始めてしまった。ため息をつきながら赤面の赤羽が警備をしていたのだがちょうど1ラウンド目が終わったあたりでクジャクロスとグールの部隊と遭遇してしまい、結果拠点に逃げ込んだことで拠点の場所を知られてしまったのだ。
「……ちょっとやばいかもね」
天窓にいて外の様子を窺っていた小夜子がつぶやいた。
「どうした小夜子?何かあったのか?」
「あの宇宙人に増援。サイみたいな化け物が来たよ」
「え!?」
紫音がのぞき穴から外の様子を見る。押し寄せるグール達の背後で確かにその数は増えていた。スライト・デスの怪人サイチンゲールである。
「……無様になったな、クジャクロス。人間相手に後れを取るとは」
「だがこうして奴らの居場所が分かったのだ。傷の功名と言う奴ではないか」
「怪我の功名じゃなかったか?まあいい、どいてろ」
サイチンゲールがドアを見て構えた。
「やばっ!!」
紫音が飛びのいた次の瞬間、
「オラァァッ!!!」
サイチンゲールが突進してドアを粉砕した。
「おわっ!!」
「ふっ!」
大悟が飛びのき、逆に火咲が跳躍して回し蹴り。サイチンゲールの角をサラッと粉砕する。
「ぬお!!俺様自慢の角がああああ!!!」
「最上さん!無茶しないで!」
「楔を外したんだからいいでしょ、はい次!!」
次に火咲は床を踏み砕く。それにより地面に直接建てられていた家の床は地割れを起こしてサイチンゲールを巻き込む。
「っとっとっと!?」
地割れに落ちはしなかったがバランスを崩したサイチンゲールは転倒。その間に火咲達は後方に走る。既にPAMTの充電装置と最低限の食糧は段ボールに積んで繁と達真が運んでいた。
「最上!」
「はいはい」
地面を爆発させ、一気に加速した火咲が奥の壁を粉砕し、空いた穴から外に走り出す。そしてそれだけでなく壁構造で出来た家は壁を二つ破壊されたことで支柱を失い、崩壊を始めた。
「……なんてこった」
目の前で全てのグールと相方が家の崩壊に巻き込まれるのを見たクジャクロスが思わず額に手を置いた。そして数秒後に、
「ずがああああああ!!!」
瓦礫を粉砕してサイチンゲールが姿を見せた。
「よくもやってくれやがったな人間どもめ!!」
立ち上がったサイチンゲールが前方を逃げる火咲達を見て突進の構えを取った時だ。
「そこまでです!」
少女の声がした。そして後方から相方の悲鳴が聞こえて振り向けば
「「経営幼女戦士アカハライダーズ、異国の地を支配から解放するため只今見参!」」
そこには二人のアカハライダーがいた。さらに奥には家3件くらいの面積がありそうな馬鹿でかいトラックまで見えた。
「アカハライダーだと!?次々と我らが同胞を倒していると言う奴らか!」
「行きますよ、詩吹ちゃん!」
「はい、紅葉先生!」
二人が動かなくなったクジャクロスの体を踏み台にして跳躍。
「アカハライダーパンチ!!」
二人の拳が命中。しかし、サイチンゲールは一歩後ずさるだけでその二人の手を掴んで止める。
「え……」
「ふんっ!!!」
そしてそのまま二人を同時に投げ飛ばす。
「なんて力なの……!この……えっと、何の怪人でしょうか?」
「カピバラ……にしては毛がありませんね。スライト・デスの母星にいる何らかの生物でしょうか?」
「サイだ!!サイ!!俺様の名前はサイチンゲール!!角がないからってバカにするな!!」
突進の構え。同時に詩吹がブレスレットをロープに変えて相手の両足を投げ縄で縛る。
「おおおっ!?」
「今の内に!」
紅葉が脱臭炭を右足にセットして走り出す。
「オーロラプラズマ返し!!」
「ふんっ!!!」
放たれたプラズマの回し蹴りを胴体で受け止めるサイチンゲール。しかし数秒の異音の後、
「てえええええええええええええりゃあああああああ!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
その胴体が両足から切り離されて左方に飛んで行く。そして左の空でサイチンゲールは大爆発した。
「Follow the SUN!! Catch the SUN!!」
「JACK ON!!」
その爆発を背に二人はポーズを決める。
「……何あれ」
「アレがパラディンの奴が言っていたスライト・デスに対抗する力か?」
火咲達が振り向いて戦いを見ていた。すると、火咲が何かを見つけて踵を返す。戦いの後方に止まっていたトラックから蛍が姿を見せたからだ。
「お姉さま!!」
「……よかった。みんな無事だったのね」


・トラックの中。作戦会議室。
「狭いところで済まないがまあ、足を休めてくれ」
校長の言葉で赤羽達が椅子のない部屋の床に直接座り込む。正面には校長、紅葉、詩吹、果名、切名、借名、シン、愛名、ライ、発、桜子、燦飛、狂子がいた。赤羽達と互いに自己紹介を行う。
「……なあ、どっかで見覚えないか?」
「さあ?気のせいでしょう」
大悟が狂子を見て謎の戦慄を感じる。
「……本当に女の子が多いんだな。学園都市に残った連中よりも多いとは」
果名が口笛を吹く。と、火咲と目が合う。
「うわ、すげぇ胸。誰か貧乳の女の子と絡ませたいな」
「……そのセンス、その顔。割と本気でどっかで見覚えあるんだけど思い出せないわね」
とりあえず胸に向かって伸びてきた手を切名と共に払った。
「……」
「……」
その際に一瞬だけ互いに視線が至近距離で交錯する。
「……最上さん?」
「切名、どうかしたのか?」
「「……いや、なんでも」」
二人同時に同じ反応。しかしそれらを見てか、借名が一歩下がって何だか青い表情をしていた。
「……これは少しまずいかもしれませんね」

------------------------- 第121部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
110話「逢瀬の夜」

【本文】
GEAR110:逢瀬の夜

・果名一行と赤羽一行が合流したその日の夜。十路川沿いの道端に車を停めてその場の全員が外に出た。手に持つのは網とか炭とか肉とか。つまり、バーベキュー兼キャンプファイヤーだ。これは繁の案であり、シン達はもちろん果名にもその知識はなかった。その上赤羽や火咲、達真、蛍も経験はなかった。
「……俺の仲間エンジョイライフしてなさすぎじゃねえか!?」
提案者は肉を焼きながら驚愕に表情を変える。
「私はずっと研究所生活でしたので」
「前世がそれな上に今世だと親に犯され捨てられだったし」
「親の都合でよく海外連れまわされた挙句中学入ってすぐの頃親が超法規的措置で蒸発した」
「両親も兄も研究研究で忙しかったから」
4者それぞれ暗い表情と死んだ瞳で燃え盛る炎を眺める。
「繁、お前達の世界だと意外とセレブな趣味なんじゃないのか?」
「いや果名さんよ、至って普通の家庭である俺だって何回か経験してるぜ!?サッカーの合宿とかでも毎年やってるし」
「と言うか、蛍含めて暗いメンツばかりなんじゃないの?」
眞姫が飲み物を運ぶ。運ばれたコーラを口にした学園都市組は皆一様に表情をゆがめて息を尖らせた。
「まさか炎を料理に使うとは……」
校長がそれまでとは違う生き生きとした顔で炎を眺めていた。
学園都市組のために胃薬を用意してそれから肉を食べ始めてひと段落した頃。
「それじゃお前達でもまた別の世界から来たって言うのか?」
肉肉肉肉米米米米セットセットセットの割合で頬張りながら果名は尋ねる。声はともかくその視線の先には赤羽と火咲がいてその顔とか胸やらを見比べている。
「はい。そうですね。私と最上さん、矢尻さん、久遠、長倉さんに小夜子さんに紫音さんは西暦2010年の世界から来ました。この世界の300年くらい前ですかね」
「そして私と花京院君と眞姫は西暦2114年から来ました。正確に言えば私達の世界はこの世界の21世紀後半に作られた別の世界における2114年ですが」
「西暦とか年数とかで言われてもな」
その概念がない果名は紫音が席を離れるのを見た。きっと生理現象だろう。二人いるならともかく一人でならまるで興味はない。やがて自分に向けて火咲が視線を送っていることに気付いた。
「そんなに俺と誰かが似ているのか?」
「……どこかで見覚えがあるのよあんた達」
「ですが最上さん。彼らは西暦2303年の人間ですよ?あなたが飛ばされた未来は白百合さん達のいた22世紀では?」
「あんたは気にならない?あの男の異名と同じ苗字の持ち主たちを」
「……確かに珍しい名前ですから最初は驚きましたが血縁関係はないのでは?あの方の本名は甲斐ですし」
「ん?」
その言葉にシンが一度反応した。肉を食べていい意味で死にそうになっていた。隣の愛名は変身してないのに天使になりかけていた。
「……同じ苗字と言うのならまだシンさんの方が可能性としてはあり得るのでは?」
「……在り得ないのよ、それは。あの男にはもう子供を作る事は出来ない筈だから。あの男が作った子供は全部で3人。上から順にアルデバラン星人じゃない方の天使……ルーナさんとかと同じ種族のあの始まりの一人になった長女、次に天使界で作られた剣を手にして天使界で起きたクーデターを食い止めた長男、そしてあの下半身タコ娘な次女。でもあのタコ娘以外の二人はもう死んでいるはずなのよ。長女は天死の祖先になったって言葉通り最低でも1000年前には、長男は2つ前の世界と共に滅んだ」
「……最上さん、あなた2つ前の世界を知っているんですか?確かあなたは1つ前の世界で赤羽美咲だったと聞いていますが」
「私の感覚としては1つ前の世界で赤羽美咲として生き、まだ矛盾の安寧に分かたれる前の21世紀を最上火咲として生き、矛盾の安寧に分かたれたと同時に22世紀の世界に飛ばされて火核咲になるし、元の世界に帰ろうとしたらトラブルで2つ前の世界に行っているのよ。そこから帰ってきたら矛盾の安寧に分かたれた後の最上火咲となったわけ」
「……凄まじい人生ですね」
「あんたの時はもっとすごいかもね」
「御免被りたいです。ですが、それだと果名さん達をどこで見かけたのでしょうか?一番近い22世紀の世界でも100年近く離れているわけですし」
「……どれ」
「でっ!?」
いきなり火咲が焼き鳥の串で果名の右腕を刺した。結構力入れたからか血が出てきた。
「い、いきなり何するんだ……?」
「ちゃんと傷ついてるわね。だったら零のGEARを継承して不老不死になったわけでもない、と」
火咲が実験している間に席を離れた蛍は他のメンバーからやや距離をとっていた借名へと歩み寄る。
「……つまり、そういうことなのでしょう?」
「……まだ話さないでください。きっとそこに意味はありませんから」
「咲はあの時いなかった。だから気付かないのも無理はないわね。でも、私や歩乃歌ならすぐにわかるはずよ」
「……」
それだけ言って蛍は用を足しに車内のトイレへと向かった。


・満月の光が辛うじて大地に届く。そんな暗闇に汚された空の下。
「……」
狼男になろうかと言うくらいに小さな満月を睨み続けていた者がいた。その背後。
「……やっと見つけた」
紫音が黒い髪を揺らしながら後ろに立つ。
「お兄ちゃん!どうして合流してくれないの!」
「……紫音」
振り向いたそれは黄緑の顔だった。
「少し前から気付いてた。お兄ちゃんもこの世界にいて、そして近くにいるって事。来音を探しているわけでもない。一体どうしたって言うのよ」
「……僕はもう君達の前には戻れない」
「どうしてよ」
「あの矛盾の安寧からこの世界に来れたのはごくわずかな人数だけだ。その条件は人を殺したことのある者」
「え?」
「赤羽美咲は自身の強化実験のために無数のクローンを失わせている。馬場久遠寺は分からないが、最上火咲は言わずもがな。矢尻達真は矢尻陽翼を、長倉大悟は矛盾の安寧を作り出したことでこの世界を生み、たくさんの犠牲者を出した。長倉小夜子は本当の自分になるためにもう片方を殺している」
「……私は、来音を眠らせたから?」
「多分ね。そして僕はこの条件には当てはまらない」
「どうしてよ」
「……ダハーカだから。僕は200年以上の間生き続けてきたんだ」
「……え?」
「矛盾の安寧が終わって僕はこの世界における21世紀にいた。と言っても白百合蛍達が生まれたあたりの終盤だけれども。そこから僕は来音を探し続けた。でも見つからなかった。それでもいつかは会えるかもしれないと、だから罪もない人々を捕食し続けた。時には他のダハーカと協力して天死や別の方の天使も捕食した。このグレートシティがグール達しかいなかったのはね、このグレートシティにかつていた人間たちは皆天死か僕達ダハーカに殺されたからなんだ。そしてもうここにいる天死やダハーカはほとんどが死滅している。天死とダハーカが互いに生存戦争で殺し合った戦争の終盤にスライト・デスなんてよく分からない連中が介入してきたしね」
「……ダハーカは、お兄ちゃんは時間を止められるんじゃないの?」
「飽くまでも人間の知覚できない空間を移動するだけだよ。そもそもヒエンとか奴らみたいな人間を遥かに超えた連中は時間と言う概念はないに等しい。だから止まったところで意味もない。所詮生物と言うくくりの中にいる僕達ダハーカはあいつらに勝つのは厳しいんだ」
「……じゃあ、一緒に行こうよ。この世界で合流した中にはスライト・デスと戦える人たちだっている。あの人達となら……!」
「駄目だよ。紫音。彼女たちの力は僕も見た。確かにスライト・デスの幹部級にも匹敵する強さだ。けど、それだけだ。彼女達ではその上にいる存在達には勝てない」
「その上にいる存在?」
「ああ。今、地球に近付きつつある。スライト・デス最高幹部であるゴースト将軍。そして、スライト・デスの首領であるキル首領。こいつらとまともに戦えるのは僕の知る限りヒエンしかいない。けど、この世界にはヒエンは来ていないみたいだ」
「どうして?誰かを殺していることが条件ならあの人は満たしているんじゃないの?少なくとも二人はダハーカを倒しているわけだし」
「……分からない。けど、この世界に来ていないのは事実なんだ。紫音、仲間を集めるのはいい。実際にこの世界を生き残るのには必要だ。だけども、奴らに立ち向かうのはやめるんだ。この世界は、奴らの支配を受けている方がまだ生き残れる」
「……でも、」
その時だ。背後に現れた気配に、二人は同時に振り向いた。
「スライト・デスの支配を受け入れろとはな」
「……そんなこと許せない」
薄暗い月光を背に立つのは背の高い青年と反面、背が低い少女の二名。孤高そうに、しかしどこか寂しそうな表情を見せる二人の姿はどこか自分達と似たような風情を感じた。
「誰!?」
「緑風(みどりかぜ)湊(みなと)」
「……清水(しみず)鳴(メイ))」
凛々しく、しかしどこか大人しい青年の声と、弱々しくもどこか刺々しい少女の声。どちらもこの荒廃した世界では珍しくはない組み合わせだ。苗字が違うから兄妹と言う訳ではないだろうがしかしそれは自分達も同じだ。
……自分達と同じ。そう言うことか。紫音がわずかに表情を変えると湊と名乗った青年は一歩を前に出て言う。
「ダハーカと言ったな。それは何だ?学園都市由来のチームか何かか?」
「……君達に話すことなんてないよ。でも君達だってどんな亜GEARを持っているかは知らないけれどもあの宇宙人達相手には強い態度を見せない方がいい。もう、手を繋ぐ相手がいなくなるよ」
「亜GEARか。そんなものはもう捨てた。全てはスライト・デスと戦うために」
「……」
黄緑と湊は視線を合わせた。勇ましくも、しかし孤独と寂しい覚悟を胸に秘めた眼差しで。その二人を傍目に見ながら紫音はメイと名乗った少女を見る。雰囲気としては前に一度だけ見た赤羽美咲クローンの0号に近い。外国人っぽくはないがお嬢様みたいな風貌。とは言えこの世界が世界だから高いものを着飾っているというわけではない。雰囲気の問題だ。中学生程度に見える外見もやはり平均よりは小柄に見える。こっちの世界に来て若干以上に痩せた小夜子や久遠と並んでもなお痩せている。黄緑や果名達が特別なだけでやはりこの世界の人間は本来ただ生きていくだけでも苦しんでいるのだろう。
「……行くぞ、メイ」
「……分かった」
やがて、二人は踵を返し、歩き去っていった。そして振り向けば兄の姿も背後にはなかった。
「……一体何がどうなってるのよ……平和に生きたことがそんなに罪なわけ?」
紫音は僅かな間夜風を孤独に浴びてから皆の元へと戻っていった。


------------------------- 第122部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
111話「襲来者」

【本文】
GEAR111:襲来者

・祭りの夜は空けた。ここは男子部屋。
「一緒の肉を食った俺達は仲間だ。仲間だからこそ俺達は秘密を共有すべきだと思う」
果名が帯から黒龍牙を外しながら立ち並ぶ男子メンバー……運転手である校長除く……の顔並びを見る。それに合わせてシン、ライ、達真、大悟の4人は喉を鳴らし、緊張をあらわにした。
「これだ」
果名が懐から紙束をテーブルへと放り投げた。それは全て金属でできた写真だった。素材は100%金属なのだがかつて平成の時代にあったデジタル写真と何ら変わらなく見える異次元技術の代物だった。そしてその中身は……。
「俺が今まで見てきた秘蔵のシーン集だ」
つまり、今まで依頼の報酬で見てきた少女同士レズってるシーンの盗撮写真である。
「おお!!」
並ぶ目の色が変わる。と言うかシンは今のでスカーレッドに変身した。
「……感情が高ぶると変身してしまうって愛名とやる時不便じゃないのか?」
「いきなりだな。って愛名の写真まである!お前達は見るんじゃない!い、いつの間に!?」
「昨日風呂に入ってた時に早速あの奇乳ちゃん……火咲だったか?と絡んでたみたいだからな。借名に頼んで盗撮させてもらっていた」
「……」
「おいおい矢尻。いくらセフレの裸が公開されてるからってそんな殺気をむき出しにしなくても……って小夜子までいるぞ!しかも二人!?融合したんじゃなかったのか!?」
「何だ、そういう事情があったのか。借名から妙な事が起きてると聞いて盗撮させていたが……」
写真では二人の小夜子が互いの股間をこすり合わせている。非常にいい表情をしている。大悟は経験から分かるがこの勝負は長倉小夜子の勝利のようだ。カシワギサヨコの方が行く寸前の表情をしているからだ。どうやら本物でも偽者に性の経験値で劣っているようだ。まあ、本物とは一度しかしたことがないから仕方ないかもしれないが。
「と言うかお前達人の妹同士のシーンを見るんじゃない!」
「……と言うか顔見知り相手ばかりじゃこういう事態になってしまうのは仕方ないだろう。他の顔はないのか?」
と、冷静にしかしやや早口にライ。意外な奴から積極性が見られたなと思いつつ果名は写真をめくる。
「落合姉妹のこれはどうだ?舛崎ならともかくこの中に晒して問題ある奴はいないだろう」
学園都市を離れる前。姉妹同士でやらせた結果しばらくの間美香子がレズセックス中毒になってしまっていたのを思い出す。逸材だから連れて行きたかったが亜GEARでスライト・デスの相手は厳しいため泣く泣く置いてきた。とりあえず学園都市での戦いが無駄ではなかったことを証明する250枚を公開した。
「お、可愛い子だな。小夜子と同い年くらいか?」
「……姉妹でやっているのか」
「……知ってる顔だがしかしそこまでなじみがあるわけでもないから……いいな!」
「ライ、落ち着けよ。シュバルツに変身しかかっているぞ?」
「さあさあ!俺はこのコピーを既に何枚も持っている。と言うか俺が生きている限りいつでもいくらでも出せる。これが何を意味しているか分かるか?」
果名の発言にライは変身を解きながら指を3本出した。
「……トイレ掃除3週間」
「……いいだろう。好きなのを30枚持っていくといい」
「そう言うシステムかよ!」
罵声を浴びながらもライは再び変身しながら美香子x紀香14枚と美香子x須田8枚と美香子x借名8枚を懐にしまった。
「……舛崎に殺されないようにな」
「スライト・デスよりも強敵そうだな」
しかし握手をする二人。ライはトイレへと走り、果名は次々と差し出される数を示す指を眺め始めた。


・変わって女子部屋。
「……何だか男子の方が騒がしいわね」
切名が窓際で正座して本を読んでいる。その近くにはメイド姿の借名がいる。
「……借名、可愛い服だけれどもそれは?」
「め、メイド服です。蛍様がどうしてもって……」
「……っ!!お姉さまどうしてこの子にメイド服を!?」
突然立ち上がった火咲が蛍のいるブリッジに向かって走っていった。
「……火咲ちゃんも随分変わったよね」
「……未来で私がああなると分かっていなければまだ奇異の目で見るだけで済んだかもしれませんがね」
久遠を抱きながら遠い目をする赤羽。やがてその視線の先に紫音の姿が入った。昨夜からどうも元気がない様子だ。
「紫音さん、何かあったのですか?」
「……何でもないわよ。ただちょっと世界が嫌になりそうなだけ」
「……この世界ですからね。私達がいた平成の世界とはまるで違います」
「……私、そういう話気になります。美咲ちゃん、教えていただけませんか?」
紅葉、愛名が赤羽に歩み寄った。
「……やめておいた方がいいと思うけどね。余計にこの世界が嫌になるだけよ」
紫音がため息とともに零したがしかし既に赤羽や久遠が会話を始めていた。そこからやがて女子らしく恋の話に変わる。
「美咲ちゃんは好きな人っている?」
「久遠がいます」
「いやんもう、美咲ちゃんってば素直に大胆で本当にかわいいんだから~!!」
胸の中で愛しく抱きしめていた久遠が悶える。本当に可愛いと見下ろしながらしかし赤羽は正面の表情が変わらないことに気付く。
「どうしました?」
「う~ん、美咲ちゃんと火咲ちゃんの関係知ってるからさ。蛍ちゃんの事も矢尻君の事も好きな火咲ちゃんの事だから美咲ちゃんも久遠ちゃん以外に誰か男性で気になってる人がいるんじゃないかなって」
「……全くいない訳でもないですけどね」
「美咲ちゃん、それって死神さんの事?」
「死神さん?」
「そーだよ。ジアフェイ・ヒエンさんって言ってね。前の世界ではすっごい活躍してたんだよ。あの人がいなかったら多分もっとひどいことになってたかも」
「その人の事が好きなの?」
「久遠ちゃん的には優しくないお兄ちゃんや頼りにならないお兄ちゃんばかりでアレな中、スケベだけど優しくて頼りになるお兄ちゃんって感じ。久遠ちゃん的には美咲ちゃん以外考えられないんだけど誰か一人ずっと一緒にいてもいい男の人を選ぶんだったら死神さんかな、やっぱり」
胸を張る久遠。それを見てから赤羽は口を開いた。
「……不思議な人ですよ。久遠が言うように優しくて頼りになる人です。でもそれ以上にあの人は抱えているものが大きくて……。大体あの人は既にご結婚をされています。お子さんも数人いらっしゃるみたいですし、私のような子供なんて相手にしないと思います」
「……この前はいいところまで行きはしたけどね」
「……ふぅん。平成でも色々あるんだね」
「……愛名ちゃんもさ、シンさんって人と恋人同士なんだよね?キスとかした?」
久遠の無邪気。愛名はやや溜めてから、口を開いた。
「キスはしたよ?でも、子供は諦めてるんだ。だってこんな世界だし。自分達がどうやって生きるかって世界だから……」
愛名の語り。切名は傍目で聞く。借名はややドキドキした面持ち。紫音は興味なさそう。
「じゃあ、エッチな事もしてないの?」
「……久遠ちゃんはまだ小さいのに色々知識があるね」
「申し訳ありません。私が快楽を求めすぎました」
愛名の視線に頭を下げる赤羽。愛名は一瞬意味が分からなかったが紅葉の冷たい視線に気付いて合点がいく。
「……そう言うことは最後の時に出来たらしようって言う話になってたんです。だから学園都市の南東にあるって言われてる楽園島を目指していたの」
「楽園島?」
「勝手に呼んでるだけで実在するかもわからない。ただそこに行けば学園都市での殺し合いや天死の襲来もないって噂だったから」
愛名の視線は下がる。それは自分の中でもどこかあきらめの気持ちがあった証拠だ。
「でも、ここに来てからは本当に大丈夫なのか心配になるくらいいい生活をさせてもらってるよ?人間以外の肉なんて食べたの初めてだし」
「……愛名さん。一応久遠の前なのでそう言う発言は……」
「あ、ごめん。平成じゃそう言うのよくないんだったっけ」
恐ろしい事を笑顔で言う人だなと赤羽は思った。


・それから2度の夜が過ぎた。トラックを収納した飛空艇が空からスライト・デスの居場所を探る。怪人を見つけ次第、ミサイルによる空襲を仕掛けては一気に殲滅する。既にこの方法で4体の怪人を葬っている。
「奴らはどこから現れるんだ?」
「宇宙人なのだから宇宙からって線が強いけどもそんな反応もないし。どういうことなのかしら」
果名と蛍がブリッジから外の様子を見る。その隣で校長がコンピュータを弄っていた。
「ふう、やっと出来たか」
「出来ましたか?」
近くにいた大悟と小夜子が歩み寄る。
「うむ。白百合君からPAMTの製造技術を学び、それを実行できるプログラムを渡された時から苦労の連続だったが何とか1機完成したよ。いやぁ、最初にアズライトのデータが流用されるって聞いていればもっと早く済んだかもしれなかったね」
「……申し訳ありません。宝子山先生。アズライトは全てのPAMTの原型となっているので新しいPAMTの製造はもちろんPAMTを修理する場合でも最初はアズライトが生成されるのです」
「いやいや。しかしそれが分かればもっとやりやすくなる。特に私は先日の矢尻君と最上君が搭乗するクリムゾンスカートには可能性を感じていてね。やはりどんな作業でも一人ではなく二人以上で行なった方が効率的だ。だからこの48時間で私が作り上げた最初のPAMT……ヴァルブロッサムは二人乗りだ。大悟君にはPAMTのシミュレーションから才能があると分かっていたからね。その上で大悟君と最も息の合った作業が可能だと思われる小夜子君をサブパイロットに選ばさせてもらったのだよ」
「……これが俺のPAMTヴァルブロッサム……」
大悟は受け取ったパラレルフォンを眺める。画面にはまるで巨大な桜の木のようなロボットが表示されていた。説明を読んでみると繁のインフェルノとよく似た火力重視型で重さ4トンで伸縮自在の枝を鞭のように扱ったり葉っぱからビームを発射したり出来るらしい。さらにはPAMTの弱点とも言えるバッテリーの短さも大地からエネルギーを吸収することである程度賄えるようになっているらしい。ただし補給中は無防備になるらしく、そのために装甲はかなり厚めで機動性は低い。
「……なんか俺の思い描いていたロボットと違うけどまあ、力になれるのはいい事だよな。小夜子、早速練習に行くぞ。確かシミュレーション装置からやれるはずだ」
「……でも兄さん。そんな時間はなさそうだよ」
「え?」
小夜子は窓の外を見ていた。大悟が振り向くと同時、何かが迫った。
「!?」
突如、強い衝撃に襲われて飛空艇が激しく揺らぐ。
「何だ!?」
果名が何とかバランスをとりながら窓の外を見る。同時に蛍が周囲の反応を探る。
「……いたわ。3時の方向6キロ先。反応は1つ」
「……その条件でここをこれだけ揺らすだけの攻撃を出せるんだ。スライト・デス、それもただの怪人じゃあないな」
果名の判断。そして2発目が轟いた。再びの衝撃が全ての室内を激しく揺れ動かし、家具と言う家具や壁などを破壊する。飛空艇そのものを動かすコンピュータもダメージの大きさにシャットダウンを求めてきている。……3発目はない。
「着陸させるわ!」
蛍が操作すると飛空艇は炎と煙を上げながら高度を素早く落としていく。同時に車内アナウンスで現状を伝える。いつでも脱出できるように準備をすることと。そしてその時は1分もしない内にやってきた。3発目である。3発目の攻撃が飛空艇に命中。衝撃を和らげることも出来ずに攻撃は装甲を貫き、中腹で爆発を作った。その爆発の中から全ての乗組員がパラシュートで脱出し、地上を目指す。
「何て奴だ……」
着地してから果名が空を見上げる。爆発しながら残骸を地面に突き刺す飛空艇。その頭上に1つのシルエットが見えたことに気付く。
「貴様達だな。我々スライト・デスに歯向かうおろかな人間どもは」
鎧とも見まがうような硬質で漆黒のマントで首から下を隠す姿はフォルテともまた違った意味で魔人と形容しやすい。人間の胴よりもやや太くて長い角を2本生やしたその頭。鉄仮面のように冷たく硬い、人間離れした相貌がこちらを見やっている。その視線の中には敵意以外の文字はない。
「お前は何者だ!?」
素早く変身したスカーレッド、エンジェル、シュバルツが身構える。やや遅れる形で二人のアカハライダーも変身して構える。狂子もまた木陰に身を隠し手鏡をスカートから取り出す。
「……我が名はゴースト。スライト・デスが最高幹部」
「……ゴーストだって!?」
確かその名はフォルテから聞いた。フォルテをもはるかに超える実力者であり、スライト・デスで2番目に強い存在。そんな大物がいきなり現れてしまっている。勝てるはずがない……!
「今すぐ地球を開放しろ!!」
しかし、スカーレッド、エンジェル、シュバルツは走った。エネルギーを込めた一撃を伴って。だが、その攻撃は届かなかった。まるで見えない壁のような何かがゴーストの前にはあった。いや、それだけじゃない。空間ごと金縛りにあったかのように3人は空に跳躍したまま身動きが取れなくなり、張り付けられたかのように空中で固定させられていた。
「エクシードフォーム!!」
紅葉が変身して剣をとる。
「ほう、エクシードプラズマーか」
「知っているんですか!?」
剣の一振り。生じた衝撃波が見えない壁を打ち破り、しかしゴーストの片手に吸い込まれて虚無となる。
「私が扱うエクトプラズマーと対を成す存在。その一歩手前と言ったところか」
「エクトプラズマー……!?」
「これだよ」
ゴーストが指をパチンと鳴らす。それだけでゴーストの眼前から黒い竜巻のようなものが発せられた。大きさも出力も先程紅葉が放った攻撃とは比べ物にならない。現に、解放されたスカーレッド達と合わせて5人で攻撃を放つが竜巻は全く止められず威力も殺せていない。
「大がいれば……!」
果名は指を鳴らすがやはり意味がない。それを理解したらあとは回避するだけだ。しかし範囲が広すぎる。無茶苦茶に全力で走って何とか威力の圏外に出られるかどうかと言うレベルだ。あんなものに巻き込まれてしまえば生身の人間なんて跡形も残らないだろう。反撃に出たあの5人ですら生き残るのは厳しいに違いない。
「……なんてこった。ここまでレベルが違うものなのか……!!」
その言葉を最後に果名はただただ無心に走り続けた。


・黒い竜巻の中。
紅葉は変身が解けた姿で体を宙に浮かせていた。
「……まずいかも……」
髪は下ろされ、脱臭炭はさっき目の前で粉々になった。スーパープラズマー回路が破壊されてしまったのだ。このままでは変身できない。出来てもゴーストに勝てる見込みはない。そして、出来なければこのまま自分も粉々にされてしまうだろう。
ふと視線を送る。詩吹も同じように変身が解けていたがブレスレットは無事のようだ。そしてそれを確認すると同時に竜巻の外へと弾き飛ばされていった。
「詩吹ちゃん!」
声を飛ばすがまったく先に進まずに消える。このままでは自分もいずれ……そう思った時。一瞬だけだが竜巻の回転が止まったような気がした。そして次の瞬間には竜巻の外へと弾き飛ばされていた。
「……これで全員か」
竜巻の外。緑色の戦士と水色の戦士がそこにはいた。傍らには気絶しているシンと愛名がいた。
「……どうするの?」
「スライト・デスの最高幹部であるゴースト。その力の一端を見る事は出来たがまだまだ実力に差がありすぎる。勝機を見つけるまではしかけない」
「……そう」
それだけを言い残し、二つの影は消えた。


------------------------- 第123部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
112話「相死相愛の関係者」

【本文】

GEAR112:相死相愛の関係者

・果名は目を覚ました時、規則的な揺れを感じていた。この感覚はバイクに近い。しかしあれほど荒々しくもない。未だぼんやりした意識の中ではこのどこかで覚えのある感覚の正体も掴めていない。
「……ん、起きたみたいね」
声は火咲のものだった。その声を聞いてから数秒で果名は目を覚まし、起き上がる。振動と共にちょっとずつ景色が変わっていくこの感覚は機械仕掛けになっていないバイクのようだ。つまり、
「……馬車か?」
「そうよ」
荷物のせいで前が見えないが火咲から正解の言葉をもらった。肝心の馬の姿は見えないが獣臭い匂いから疑う余地はなさそうだ。そして今自分がいるのはその荷台のようだ。しかしなぜ馬車なのか。考えようとすると強いイメージが遮った。それはゴーストの放った黒い竜巻。
「……!あいつはどうした!?ゴーストは!?」
「……知らないわよ。私も気付いたらあいつの姿なんてなかった。ただ気付いたらここにいるメンバーで一緒に拾われていたのよ」
「……」
よく見れば周りにも見知った顔が何人か倒れていた。紫音、達真、蛍、眞姫の4人だ。
「……切名たちはいないのか」
「悪いわね、あんた達しかあのあたりにはいなかったわよ」
知らない声。それは馬車の前から。
「誰だ?」
「今あんた達を載せてやっている馬車の持ち主。……まあ、正確に言えばあたしのものでもないんだけどね。あ、あたしはアコロ。アコロ=ピリカプって言うの」
明るい声は女性のものだ。明るいていても落ち着いた声色から自分と同じか少し年上かと思われる。姿が見えないから詳しくは分からないが。
「……そうか」
自己紹介を始める。その内に他のメンバーも次々に目を覚ましては同じことを繰り返す。不安と安心をごちゃまぜにしながら。
「それで今はどこに向かっているんだ?」
「あたし、追われてるんだよね。だから出来るだけ遠くに」
「追われてる?」
「……それが原因じゃないの?」
火咲が指さす。それは荷台の中で唯一屋根があって薄暗い日差しすら届かない場所。そこに何かが置いてあった。いや、それは手足のない少女だった。しかし人形と見まがうように全くと言っていいほど動きを見せない。着ている服装も確かにお姫様人形といった趣だ。人間用ならもちろん人形用だとしてもこのセットをそろえるのは中々骨が折れるだろう。そして何よりもわずかだが動きが見える。つまりは……。
「これは……」
「あ、その子?その子はね、エンジュって言うの。あたしの大事な人よ」
「……生きた人間なのか?ほとんど動かないし俺達の話も聞こえてないみたいだが」
「あぁ~うん。その子ちょっとあってね。基本そんな感じなんだ。動けないし喋れないし。でもちゃんと生きてる」
「……」
果名は話が分からなかった。このエンジュと言う少女は恐らく全身不随か神経麻痺かで体を動かせないしもしかしたら聴覚などほかの感覚も死んでいるかもしれない。このご時世だ。先天的でも後天的でもそう言うことはいくらでもあり得るだろう。そして男女間での恋愛、もっと言えば生産的な行為があまり勧められていないのならと女性同士で愛し合うと言うのも決してなくはないし今まで10を超えるペアを無理矢理ながら見てきた。きっと彼女達もそんな感じでたとえ体が動かせない、人形のような今の姿になってでもこの少女を愛し続けている。そんな話であれば成程、お涙頂戴には悪くないかもしれない。だが、それが原因で追われていてしかもこの少女の服装から決して普通ではない出身と言うのは想像がつく。問題なのはこの2つの話がどう結びつくかだ。まあ、どう転がってもいい話ではないのは確かか。
「色々思うこともあると思うけどあまり深入りしない方がいいよ?どっかちょうどよさそうな場所見つけたらあんた達も下ろしてあげるから」
「ちなみにさっき遠くに向かってるって言ったがどこから遠くに離れてるんだ?」
「ん、セントラル」
「……」
そしていまある意味では一番聞きたくない言葉を聞き、一番陥りたくはない状況になってしまったことに気付いた。
「……その恰好でセントラルが逃げ出してきたって事は……」
「はいはい、あまり突っ込まないでね。多分ご想像通りだと思うけど」
声はどこまでも呑気に、しかし決して冗談を言っているような感じではなかった。
このアコロと言う女性はセントラルの中でも決して低くはない身分の少女を誘拐してきてそれで追われている。果名だけでなくこの場にいた者の多くがその結論に至った。それだけでも敵は殺意のみを纏って駆け付けるだろうがこのエンジュと言う少女を見ればもっとひどいことになりそうな気もする。
「……」
達真が時折エンジュを見ては表情を青くする。手足がないため背丈からは分かりづらいがそれでも虚ろな目で唾液を垂れ流しにしていいような年齢ではないのは分かる。しかしその不気味に表情を変えているわけではなさそうだった。
「達真?どうかしたの?」
「……いや、少し昔を思い出しただけだ」
「……昔?」
火咲は首をかしげる。達真の過去と言えば先日も話題になっていた陽翼と言う少女。かつて死んだとされていたが以前にここへ来た時に生きていたことが判明してしかも直接遭遇も出来たあの少女。もうこの世界では存在していない国家で秘匿されている禁じられたお姫様。身分で言えばこのエンジュと言う少女にも負けないだろう。ひょっとすれば達真は陽翼が手足のない姿をしていると重なって見えるのだろうか?
「……」
その思案を蛍が見ていた。それを見ていた眞姫はにやりと表情を変えながら、
「やっぱり下級生ちゃんが気になるんだ。そりゃ気になるよねぇ、ちょっと前までお姉さまお姉さま言ってきた子が男の事で真剣に考えてるんだもの」
「……別にそう言う訳じゃないわ。咲もちゃんとお兄様以外の男を知るべきだし、彼の方が長く咲の面倒を見てくれていたみたいだし、感謝しているわ」
「……お兄様以外の男?」
言葉を達真が拾い、火咲を振り返る。
「な、なによ?」
「何だお前。女だけでなくこの世界でも男を食っていたのか。そう言えばあの魔王野郎のところでも拉致監禁されてたな」
「……何が言いたいわけ?」
「性欲は胸を育てると聞いたことがあるがなるほど、それでその胸か。納得がいくわけだ」
「……何よ。そんなにまた甘えさせてほしいわけ?陽翼って子の代わりを求めてさ」
「ふん、前世どころかもっと前から遺伝子レベルであいつに惚れているくせにその代役をそこのお姉さまやら他の男やらにさせているお前が言えたことか」
「なんですって?」
「おい、お前達いい加減にしておけよ」
果名は黒龍牙の柄を握りしめながら言葉を走らせた。それは別に脅迫を込めた行為ではないのだがしかしそう受け取ってしまったのか達真も火咲も言葉を止めてそっぽを向いてしまった。
達真と火咲と蛍の三角関係もそうだが、紫音もどうやら火咲とは仲が悪いようだし、このメンツは中々に危ういかもしれない。ここは無関係の眞姫と連携をとるのもいいかもしれない。ちょうど同じような思考に至っていたのか眞姫と視線が合った。同時にサムズアップで答えた。


・馬車道から3時間。最初の休憩時間が訪れた。かつては休憩も兼ねた甘味処か或いは関所だったのか、麓にあった小さな小屋。そこに馬車が止まり、果名達はそこで初めてアコロの姿を見た。声は落ち着いていたから年上かと思ったが意外と幼くも見える。果名よりは年下で達真や火咲達とほとんど同い年くらいかもしれない。しかし、その割にはその背丈以上の大きさを誇る馬鹿でかい武器が片手で握られていた。
「それは?」
「ん?ああ、これ?方天画戟(ほうてんがげき)だよ。大昔も大昔に使われてた武器でね。あたしの獲物なんだ」
笑いながら言う。そして握った方の手でそのままエンジュも持ち上げた。いくら手足がないからってそれなりに育った人間を片手で持っている。しかも推定30キロ以上はありそうなごつい武器と一緒に。あの細腕のどこにそんな力があるのだろうか。
「……それより、この匂い。覚えがあるんだけど」
火咲と達真、紫音が微かな反応を示す。
「あ、知ってる?ここはね、温泉なの」
小屋。中に入るとそこは脱衣所だった。そして奥には天然の温泉があった。煙が立ち上らないように室内ではあるが。
「温泉って風呂のことか?」
「そうだよ。このあたりではあまり温泉はないみたいだからね。だからか混浴なのよね。達真君はともかく果名君はあたしと歳も近そうだからちょっと恥ずかしいかな?」
「……え!?アコロさんあんたいくつだよ!?」
読みが外れて思わず地声。
「ん?22だよ。まあ、この姿だと15歳ってことになってるけどね」
「……どういうことだ?」
「うん。そろそろいいかな」
しかし動じずアコロは服を脱いだ。方天画戟を持てるとは到底思わない細身。恥ずかしいと言いながらも裸体を隠すそぶりはなく、続いてエンジュの服を脱がす。まるで人形のように持ち上げられ服を脱がされる。しかしそこで手足の断面が露わになった。特に右足。断面からは僅かに骨が見えていて、そこには可愛らしいリボンが飾られていた。そこも十分以上に奇異だがちょっと視線を上げた際に見える彼女の陰部。そこにはまるで太陽のような不思議な紋章が刻まれていた。
と言うかあの手足、切断されたのではなく溶かされたって方が近く見える。
何はともあれちょっと武器ではある物の裸の少女同士が抱き合ってる姿に果名は興奮しない訳もなく、その反応を見られた達真から膝蹴りをもらった。
「で、そろそろいいか?」
湯船。据え膳食わぬはの原理(ノリ)か自らも服を脱いで湯船につかる果名が声を上げる。
「さっきのこの姿って何なんだ?」
左の義手を湯船から出すと同じように義手で髪をかき上げていた蛍にぶつかる。彼女もまた裸でありじっくり見ようとすれば火咲に義手を破壊される。その火咲もまた全裸なのだが。ちなみにこの場で裸ではないのは紫音と眞姫だけだ。二人は足湯にしている。
「うん。実はあたしこの世界の人間じゃないんだ」
「……え?」
「信じられないかな?あたしとしては蛍ちゃんとかそうじゃないかなって思ってるんだけど」
「……じゃあ聞きますけどアコロさん。あなたは西暦何年から来たのかしら?」
「お、通じてるね。あたしは2016年。北海道の小樽出身なんだ」
「……2016年か。俺達よりも未来だな」
「達真君達は?」
「俺達が、俺と紫音先輩と最上がいたのは2010年だ。それにそれだけじゃない。アコロ・ピリカプって名前の日本人が普通に日本に住んでいるなら俺達のとは別の世界かもしれない」
「あははは!!!それは違うよ!アコロ=ピリカプって言うのはこの世界での名前。日本にいたころは春洗(はるあらい)白亜(はくあ)って名前だったわよ。大学4年生!」
「……俺達は中学生だ。紫音先輩は高校生だがな」
「それでも1つしか違わないわよ」
言いながら紫音はアコロ、果名に次ぐ年上が自分であることに気付く。
「アコロさん、ここでは15歳って言ったけど確かにあなたの姿はそれくらいに見えるわ。少なくとも22には見えない。どういうこと?」
「う~ん、君達の、2010年ぐらいの世界じゃもしかしたら知らないかもしれないけど異世界転生って知ってる?」
「異世界転生?」
「そ。死んだら別の世界に転生するってお話。2016年の世界だと結構流行だから説明しなくてもみんなわかるし正直食傷なんだけど。あたしは大学4年の冬にちょっとひと悶着あって死んじゃったのよね。それで気付いたらこの世界に転生してたのよ。このアコロ=ピリカプって姿でね。それで最初にこの世界に来た時は訳が分からなかったけど最初に聞いた声に導かれてセントラルに行ったのよ。そこでこの子がいた」
アコロは視線を、自らが抱くエンジュに向ける。相変わらずその視線はどこも見ていない。しかし心なしにもどこか気持ちよさそうだ。
「エンジュのお願いであたしはこの子を攫ってセントラルから逃げているのよ。この子はね、セントラル内で帝って呼ばれてた。どういう役職かは知らないけども名前からしてそれなり以上なのは確かでしょ。だから今までも何度か追手に襲われてる」
「……エンジュは最初からこうだったのか?」
達真の質問はエンジュのこの姿、状態が先天的なものなのかアコロのものなのかを聞いている。それを把握したのかアコロは
「あたしと会った時のエンジュは普通に手足もあったし喋れもした。その口であたしにお願いしたのよ。あたしの力で手足を落とし、喉を潰してほしいって。だからあたしはその指示に従った」
「どうして?普通は惑うはずだ」
「この世界を救うためだって言われたからよ。あたしだってこの世界のひどさは知ってる。あたしが生きていた時代の未来の世界だってことも知っている。あたしを裏切って殺したこの世界だけどもせっかく生まれ変わったんだから普段じゃやれなかったことをしてみたいじゃん?」
「……それが、」
「アコロがエンジュと出会った意味?」
火咲と紫音が同時に言葉を紡いだ。気付いた二人は気まずそうにそっぽを向く。
「多分ね。でもま、最初は世界を救いたいって気持ちでエンジュに出会ったんだけど一緒に逃亡生活送っていく内に好きになっちゃってね。話せないのはアレだけどLGBTになってみたのよ」
「LGBTって?」
「お前みたいな奴の事だ」
火咲の疑問に対しコンマ1秒で達真は即答した。少し口元がにやけていた。
「……達真君ちょっと不謹慎かも。概ね同意だけど」
紫音がどうともつかない微妙な表情で吐き捨てた。


------------------------- 第124部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
113話「時空を超えた者達」

【本文】

X-GEAR113:時空を超えた者達

・温泉での一休みを終えたアコロ一行は再びセントラルから離れる道筋をたどることにした。また、今更ながら気づいたが今まで果名達を運んでいたのは馬車ではなく、車輪のついた神輿のようなものだった。それをアコロが一人で引っ張っていた。いくら車輪があるとはいえエンジュ含めて7人分の体重の乗ったそれを一人で何キロも運んでいたのはやはり驚愕でしかない事だった。流石に気が引けたので降りようとしたのだが筋トレとダイエットにちょうどいい運動になるらしいのでそのままでいいと言われた、前者はともかく後者は、必要最低限生きることすら難しいこの世界からしたら恨み殺されても仕方ないくらい贅沢な概念だ。実際果名は言葉の意味を理解するのに数分を要した。
「いや、だってあたし何故かこの姿になってから睡眠も食事も必要なくなっちゃったんだよね。それ知らずにちょっと旅先で甘いものとか食べちゃうとすぐに余計な肉がついちゃうし」
果名はもはや疑問を投じなかった。それは諦めからではない。巨体の出現をその目にしたからである。
「UMX!?」
人気のない山道。生い茂る森林で隠されたのは下半身だけ。見えた上半身はどちらかと言えばUMXよりかはPAMTに近い姿。その姿を見た者は全てに驚愕の表情を生み出したが火咲、蛍、眞姫だけはそれが幾分か違った。
「あれもUMXなのか!?」
果名の疑問にも数秒反応がはなかった。
「おい!」
「……ええ、そうよ。私達が元の世界で戦った最強のUMX……UMX8号……!!」
「……手厳しいわね」
「歩乃歌がいない時にアレと戦って勝てる見込みがないくらいにはね……!」
3人の表情から果名はアレの強さを悟る。今までのUMXは数体掛かりでもPAMTがいれば何とかなった。そのPAMTが3機あってもあれに勝てる見込みはないと3人が判断しているのだ。幸い相手はまだこちらを視認していない。急いで逃げればいいか?
「あの化け物は何?」
アコロが疑問を放った。
「UMXって言う怪物だ。俺達にはUMXと戦えるだけの力はある。だがあいつは別次元の怪物できっと勝ち目はない」
「へえ、天死とかダハーカとかは知ってたけどこんな怪物もいたんだね」
アコロは木陰に身を寄せた。神輿も同じように木の陰に隠し、果名達が息を殺しながら地面に降りる。
「アレは俺達を探していると思うか?」
「以前に私達が戦った8号は人間が元になっていたから会話が出来たわ。PAMTに似た姿なのも誰かがPAMTに乗ってそれがUMXになったからよ。おまけに小賢しい真似も得意だったわ。だから何の意味もなくこんなところにいるとは思えない。ここがセントラルの近くならともかく、だいぶ離れたこんなところまで来ているのだから……」
「……ここがセントラルからどこまで離れているのかは知らないがスピードもきっととんでもないのかもな」
「1000万分の1秒を行動できるわ。……アレと戦うつもり?」
「……多分アイツからは逃げられない。ここでどれだけ隠れてても必ず発見されるだろう。だからたとえ虚をついてでも乗り切る必要がある」
「……あいつの速さはとんでもないなんてレベルじゃないわよ。追えるのは私だけ。他はきっと目で追う事も出来ないわ。それでどう戦うつもり?」
「……確かPAMTは重力発電だけでなくPAMTのGEARって言うので動いているんだよな?」
「ええ、そうよ。……それが何?」
「……あいつがPAMTからUMXになったって言うなら……!」
果名は右手の親指と人差し指を8号に向けた。その瞬間だ。
「見つけた……!」
「!!」
声が聞こえた。瞬間に景色は変わった。聴覚で認識されない程の爆音、視覚では認識されない程の光熱がその場にいた全てを襲った。気付いた時には森林だったそこは荒野となっていた。そしてその荒野に倒れる果名達。左腕の義手が消し飛んでいた果名が気付く。倒れている自分達の中に火咲と達真の姿がない。
「……まさか、」
立ち上がる。体重を支える両膝が血を吐くようにきしむ。折れてはいないようだが骨にひびが入っているかもしれない。左腕の義手を再錬成して周囲を見上げた。確かに目では負えない。残像(シルエット)が錯覚と疑える程度にわずかに見える程度だ。しかしその速さの中で激突は行われていた。
「……説明くらいしろ」
コクピットのような閉鎖空間の中で達真は血を吐いた。PAMTの無効限界をもはるかに超える強烈なGで内臓が潰れた証だ。倒れていないのはこの空間内に重力がないからだ。死んでいないのはそれに見合うだけの根性があるからだ。
「……無茶を言わないでほしいわね」
視線の先の火咲。冷や汗。そしてやはり口元には微かな赤。潰れてまではいないが内臓をひどく痛めている証。そして緊張している証だ。その理由は達真にも分かっている。火咲と同じものを見ているからだ。
「……ほう、我に続くか」
1000万分の1秒。そのスピードの中で8号はビームサーベルを握っていた。既に攻撃は何度か放たれている。しかしそれらは全て相対する真紅の機体……クリムゾンスカートが握る2本の刃と背中の6つの翼で全て受け止められていた。完璧な防御ではあるがしかし防戦一方。ただそれだけならまだしもこの超光速戦闘はPAMTの限界に肉薄している。中学生の二人にはあまりにも強烈な負担が秒ごとに掛かっている。火咲はまだしも達真は致命傷と言ってもいいかもしれない怪我を負っている。果名が何かやろうとしていたがあちらの世界で何かするための1秒はこちらで言えば最大で115年分の時間を要してしまう。このまま戦っていれば115年なんて馬鹿げた数字どころか現実的な……例えば5分程度の時間も厳しいだろう。
「……せめて相討ちくらいには持ち込みたいわね」


・文字通り1秒で生死が決まる戦いを果名は無様に見る事も出来ずにいた。
「……使いたいが対象を絞りたい。範囲を優先させる事も出来るがそれだとあの二人まで巻き込んじまうな」
考えている時間も惜しいだろう。圧倒的実力差がある相手と一騎打ち。それもあれほどの超光速戦闘下で。そもそもいったいどうやってあんな超スピードで戦えているのかが分からない。GEARではないだろう。最上火咲のGEARは破砕と飛翔だけだ。2つあるだけで超レアなのに3つ目は流石にあり得ない。……いや、余計な事を考えるな。今はどうやって自分の攻撃を相手にぶつけるかだ。
そう、考えた時。再び果名の行動は中断させられた。
「む、」
「……何!?」
シルエットが消え、敵の姿とクリムゾンスカートの姿が現れた。普通に肉眼で認識できる程度にまで減速された。いや、見れば両者の両足が半分くらい地面に埋まっていた。体重だけで埋没した?いや、そんな間抜けな事をするとは思えない。ならば?その答えはいつの間にか出現していた岩山の上にあった。
「無様じゃない。赤羽美咲」
声は少女のもの。しかし姿の中で少女のものは上半身だけだった。
「……私はもう赤羽美咲じゃないわよ。ルネッサ=峰山……!」
火咲が見下ろす。岩山の上に立っていた……浮遊していたのは下半身がタコやイカのようなよく分からない触手で出来た少女……ルネだった。
「助けに来たぜ、火咲ちゃん」
「こんな状況、御免なんだがな」
さらにその後ろには爛と月仁がいた。
「甲斐爛さんと甲斐月仁さん!?彼らもこの世界に来ていたの!?」
驚く紫音。それを見て果名は味方の合流だと知り、内心ほっとする。
「……ん?あいつ、どこかで見たような気が……」
そんな果名をルネが一瞥した。その果名は再び指を8号に向けた。
「じゃあ、改めて裁きの時間だ」
指を鳴らす。それは巨体からは無音にも等しい小さな音。だが、起きた異変は決して小さくはなかった。
「何だ……これは……!?」
その感覚は幽体離脱。本来ありえない感覚を不自然に冷静な脳だけが理解しているような現象。全身の内外が全く例外なく崩れ始めている。デモリッションで崩れる建物のように。機械じみた肉体でなければきっと一撃で廃人と化すであろう凄まじい激痛が全身をくまなく襲う。そして、その奔流は一瞬で終わった。
「こおiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiii!!??」
言語は続かなかった。ただの奇声、いや獣の咆哮だった。
「……8号が1号になった!?」
驚きの声を上げた火咲の前で起きた現象はその言葉通りだった。PAMTにもよく似た姿だった敵は一瞬で泥で出来たような怪物の姿になっていた。
「……果名君、何をしたの?」
「GEARさ。俺のGEARは名を果たすGEAR。効果を言えば相手のGEARを殺すGEARさ。PAMTって言うのはGEARで出来てるって聞いたからな。だからあいつの中からPAMTを殺した。UMXって言う別物になったからもしかしたら通じないかもって思ったが効果てきめんだったようだな」
果名の前で1号となった8号はクリムゾンスカートが放ったライフルの一撃で粉々になった。


・戦いが終わり、内臓が潰れて死にかけていた達真は月仁を見て安堵の顔を浮かべた。
「まさか、こんなところで会うとはな」
「俺もだぞ、矢尻。世界を一晩だけリセットして気付いたら別の世界になってたんだからな。桃丸やまほろもいないしくそ兄貴とかよく分からない触手の化け物と一緒だし」
「あら、そのよく分からない触手の化け物のおかげで今日まで生き延びてきたじゃない。お父様たちと同じ苗字だから生かしてあげてるって言うのに」
うねうねと触手をうならせながら移動するルネ。その傍らで月仁が達真と火咲の怪我を嘘に変えた。
「で、次はこの人形みたいなのか」
月仁がアコロに抱えられているエンジュに歩み寄る。
「あなた、治せるの?」
「正確に言えば嘘に出来る、なかったことに出来るんだがな」
「ふぅん。でもいいよ、この子は」
「は?」
「この子の望みでこうなってるんだからさせてあげてよ」
「……よく分かんねえけどそう言うならいいや。っておお!鈴城紫音!!サインください!!」
「……こんなところでまで?まあいいけど」
しかしサインペンがなかった。へこんでうるさい月仁を触手でぶっ飛ばしながらルネは果名に近寄った。
「な、なんだ?」
流石に今まで類を見ない少女の姿に冷や汗を流し、表情を青くする果名。その顔をルネは穴が開くほどじ~~~~っと見続けた。
「……似てる。けどまさかそんなことはないわよね。私と違って普通の人間だったはずだし。GEARが違うし。でも黒龍牙持ってるし」
「……君、黒龍牙知ってるのか?」
「ええ。昔、もうとっくの昔に死んでるはずの腹違いの兄が持っていたわよ。あなたはそれをどこで手に入れたのかしら?」
「気付いたら家にあったぞ」
「あんたの名前は?」
「黒主果名」
名乗った瞬間果名はぶっ飛ばされた。
「は?」
そして頭から地面に落下する。
「な、なにするんだ!?」
「黒主を名乗っていいのはお父様だけなの」
「苗字が一緒だっただけだろ!」
「それでも嫌なものは嫌なの!……でもだとしたら祖先か何かかもね」
機嫌がいいのか悪いのかよく分からない異形の少女を見て納得いかない仕草を見せながらも素直に立ちあがる果名。
「それで紫音。こいつらは?」
「元の世界で一緒に戦った仲間よ。私もあまり面識はないけど」
「じゃあ俺達と合流するのか?」
「別に構わないわよ。私もお父様探さないといけないしね」
「少なくとも安定した生活は欲しいぜ。ネカフェが欲しい」
「……こんな世界にあるわけないだろ馬鹿兄貴」
口口の3人。とりあえずメンツが自己紹介を済ませる。
「……だったらこのあたりで解散でいいかな?あたしとエンジュはもっとセントラルから離れたいんだけど」
「ああ。助かったよ、アコロさん」
果名とアコロが握手をする。その胸に抱かれたエンジュは変わらず動かない。一度だけこの少女を人質にしてセントラルへ行き、何とかしようと思ったこともあったが結果を期待できそうになかったため諦めた。
そして、踵を返し別れようとした瞬間。
「ぐっ!!」
苦痛に満ちた声が聞こえた。
「え……?」
紫音の傍。そこに突如少年が倒れた。……黄緑だった。
「お兄ちゃん!?」
介抱する。久々に触れるその体はひどく傷ついていた。ダハーカの頑丈な肉体がこれほどまで傷ついているのだ。
「相手は!?」
火咲が構えなおす。PAMTでの超光速戦闘の名残か感覚が常人の数百倍に残っている。黄緑はダハーカだ。時間を止められる。それが立つ事も出来ない状態で倒れてきたのだ。少なくとも第9階級以上の敵が近くにいる事は確かだった。
「……いるわね」
ルネが浮遊し、触手を伸ばした。一本一本がアナコンダのように太く長い。それら10本が1万分の1秒の速さで一点に迫った。しかし、一瞬でそれらは迎撃され粉々となった。
「……おいおい、まじかよ」
現れた敵の姿を見て声を上げたのは爛だった。何故ならそこに立っていたのが見覚えのある顔……祟(パラディン)だったからだ。それもいつものような気障ったらしい白銀のタキシード姿ではなくまるで囚人のような姿。手足と首には黒く禍々しく輝く金属の枷。そこから血流のように液体のようなエネルギー状の闇が平然とパラディンの頭に流れていき、その度に野太い絶叫が発せられる。
「あれは?」
果名は短く問うた。
「パラディンよ。第5階級でナイトメアカードの司界者の一人。私達にあんたと合流するように言った奴なんだけど」
火咲の言葉はそこで終わった。何故ならパラディンが向けた掌からすさまじい質量のエネルギーが発射されたからだ。この場にいる誰もがその名前を知らないが、それは激流(ストリーム)のカードの力だった。その一撃は咄嗟に躱したアコロの傍らにあった神輿を一瞬で消し飛ばし、地平線の彼方まで続き、やがて尋常ではない大きさの爆発を生んだ。
「敵なのか!?」
「今はそうみたいね。スライト・デスの情報を探りに行ったはずだから……捕まって洗脳でもされてるみたいね」
冷静に、しかし危機的に会話は続けられる。正攻法では勝ち目がなかったUMX8号。そいつが倒されたからなのかもっととんでもない怪物が送られてきたと言うことなのだろう。つまり確実に居場所が捕捉されていてそして確実に仕留めに来ている。今度こそ状況はまずいかもしれない。
「……何しに来たんだ」
その時、黄緑が声を発した。果名は驚き、そして事態の変化を見た。荒れ狂うパラディンの前。いつの間にか一人の男が立っていた。後姿だから顔は分からないが髪の毛は白髪が掛かっていてふと見えた腕の皺から最低でも40代後半以上の男性であるのが分かる。
「……ここは私に任せてお前達は逃げろ」
「……相手は第5階級でそもそもあんたはあの子を……」
「だが、我々の敵だ。……行け!!」
男は叫び、同時に荒れ狂うパラディンに向かっていく。
状況はよく分からない。だが、果名達は眞姫が呼んだアボラスの掌の上に載ってその場から全速力で遠ざかった。一瞬だけ見えた男の顔はどこか黄緑に似ていた。
これ以上は遠く逃げても仕方がない。はぐれた仲間達は恐怖以外の理由ではセントラルから離れる理由がない。だから眞姫にはセントラル方面へ行くように頼んだ。場所はアコロが知っていた。
「いいのか?」
「あたしも一応追われてる立場だからね。あんなのに狙われたらひとたまりもない」
確認を終える。

------------------------- 第125部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
114話「名前を切るということ」

【本文】
GEAR114:名前を切ると言うこと

・果名がアコロに拾われたその頃。
切名、赤羽、久遠、シン、愛名、繁の6人は先程川を挟んだ対岸に借名、ライ、紅葉、詩吹、発、大悟、小夜子の姿を目撃した。しかし、合流は叶わなかった。
「いたぞ!!」
ゴーストの置き土産とも言うべきかスライト・デスの怪人が追って来たからだ。不幸中の幸いと言うべきかそれぞれにスライト・デスに対する手段が分かれていたためかそれに対する迎撃にはあまり不安はなかった。ただいつゴーストの追撃が来るか分からなかったため急いでその場を離れる必要があった。互いに分かれる必要があった。
「あの大悟って奴には一応俺とアドレスがつながってる」
避難した先で繁が言う。それはPAMTを持つ者同士の最低限の繋がり。しかしそれはまだ大悟には説明されていないもの。さらには蛍や眞姫とは電波圏外で繋がっていない=どこまで離れたのか不明のまま。その説明をしかし不十分に聞いているものがいた=切名は冷静を装う不安そうな表情で曇り空を見上げる。
「切名さん」
呼ぶ声=赤羽。疲れて眠った久遠を皆の傍に置いたまま一人で切名の傍による。
「何?」
「一人では危険かと。まだ私達を追っているスライト・デスは健在です。せめてシンさんと愛名さんがまた戦えるようになるまでは一緒にいた方がいいのでは?」
「……でも果名の傍にはスライト・デスと戦える力はいない。UMX所有者が何人かいるけど変身して戦えるのはいないわ」
「……きっとみなさんこのままいない人とはぐれたままではよくないと分かっているはずです。まずは借名さん達と合流してそれから果名さん達と合流すべきです。あちらもライさんがまだ戦えない筈ですから」
赤羽は振り向く。錆びたベンチにシンと愛名が倒れていた。切名しか知らないが、初めての二人と会った時と同じかそれ以上に今の二人は憔悴していた。全身の擦り傷や骨折なども無関係ではないだろうが原因は他にありそうだ。
「花京院さん、PAMTで蹴散らしながら合流を果たすのはどうでしょうか?」
「悪くはないと思うし間違いなく現状を打破できるだろうな。少なくとも大悟はまだPAMTを使ったことがない。アイツが俺達と同じことをするよりかはマシかもしれない」
繁の思案。その裏を赤羽は知る。腕の中の久遠がどういうことかと首をかしげる。
「PAMTならスライト・デスの怪人達を蹴散らすのは容易でしょう。しかし、先程のゴーストと言う幹部相手では厳しいのではないかと思われます。まだ隠れられている今ならともかくPAMTの巨体で敵を撃破しながら進めば自ずと敵に居場所がばれてしまう」
「どうしてそれで小夜子ちゃん達の方がそれをするよりましなの?」
「あちらは一つしかPAMTを使えないと言うこととまだ不慣れだからです。長倉さんのPAMTがどういうものかは分かりませんがゴーストを相手にするだけの力はないと思います」
「俺達にはPAMTは二つある。ゴーストと遭遇してもまだやりようはあるかもしれないからな。と言う訳でどうする赤羽?俺が先に出すかお前が先か」
「……姫火には手がありません。一人で移動は出来ても他の方々を連れる事が出来ません」
「じゃあ俺のインフェルノだな」
「……あの短い手で大丈夫でしょうか?」
赤羽は一度見たインフェルノの姿を思い出す。典型的な恐竜の姿であり、人間などのそれと比べるとかなり使い勝手が悪そうに見える。しかし繁は笑った。
「まあ見てろって」
そして繁はインフェルノを発動させ巨体に姿を変える。……だけではなく、
「変形してる!?トランスフォームだよ美咲ちゃん!」
興奮の久遠。彼女を含むメンツの前でインフェルノは人型に変形を完了した。その腕はどういう理屈か人間のそれと変わらない長さと形状となっていた。しかしその分あの太くて長い尻尾は姿を消していた。
「変形できるPAMT……」
「そう珍しいものでもねえよ。俺が知る限りあと4機はあるぜ?さ、乗れよ」
「……切名さん、手伝ってください」
「……分かったわ」
赤羽、久遠、切名の3人でシンと愛名を差し伸べられたインフェルノの手の上に運ぶ。その間繁は全方位モニターを使って周囲を警戒していた。同時にシミュレーション。先程一撃でこちらをバラバラにしたゴーストの一撃。それとインフェルノの主砲(バニシングノヴァ)はどちらが上か。仮に向こうが上だとして、どれだけ相殺させられるか。……恐らくまったく無意味と言うことはないだろう。バニシングノヴァの火力はまともに命中すれば8号以前のUMXならば跡形もなく消し飛ばせる。どんなに強くても人間とさほど変わらないサイズのゴーストならば多少の手傷は負わせられる筈。
「花京院さん、準備ができました」
「おう。じゃあ、行くか」
手に5人が乗ったのを見てから繁は前進を始めた。600メートル程度先にはスライト・デスの追手が推定6体いるのがレーダーで判明しているためとりあえず火炎弾を2発発射しておく。数秒後にレーダー内から反応が消える。
「……PAMTって色々なのがあるのね」
「私もあまりPAMTは詳しくないのであまり言えませんが確かに」
切名と赤羽が行儀よく座っては前方の焼け野原を見る。
「……なんかさ、切名ちゃんと美咲ちゃんって似てるよね」
「そう?」
「そうでしょうか?」
「息ぴったりだしさ。流石に顔は似てないからシフルちゃん達とは違うんだろうけど。でも冷静にしながらも誰かさんがいなくて寂しそうにしているのはやっぱり似てるかな」
久遠に言われて顔を見合わせる二人。判断を求めようにもシンも愛名も未だ気を失ったままだ。
「俺的には白百合の奴も何となく似てる気がするけどな」
上から繁の声。
「もう、恐竜さんは少し違うよ。そう言うんじゃなくてさ。分からないかなぁ、恐竜さんには」
「……確かにインフェルノは恐竜型だけどさ」
若干微妙な声。無視して久遠は続ける。
「ねえねえ切名ちゃん。聞かせてよ。あの人、剣士さんとはどういう仲なの?」
「……赤羽さん。あなたはこの子にどんな教育をしているのかしら」
「あるがままです」
切名の赤羽を見る目が少し変わった。数秒置いてから切名は口を開いた。
「果名とは物心ついた時から一緒だったわ。親の顔を二人とも知らないから私達は兄妹なのかもしれないし他人なのかもしれない。気付いたら十路川の家にいたわ。借名も一緒に。それからずっと3人で暮らしていたわ。果名が川で色々なものを拾ってきてたまに外に出ては外の事情を知って、果名が趣味のために気まぐれで人助けをしたりして、私や借名まで使われて。……でも、一緒にいるのが当たり前な奴よ」
「……果名さんの趣味とは?」
「……あなた達二人を同じベッドに向かわせて始まるのを見せたら喜ぶ奴よ」
切名が目を細めれば赤羽は赤面する。久遠はまだちょっとよく分かっていない様子。事情を知る繁は変な声が出たり昨晩の事がばれないようにと変に息を殺している。
「切名ちゃん、親がいなかったって事はさ。その切名って名前は誰がつけたの?剣士さん?」
「……最初に呼んだのは確か借名だったかしら」
「借名ちゃん?でも借名ちゃんの方が年下だよね?美咲ちゃんと同じくらいだと思うけど」
「……そう言えばそうね。昔の事だからあまりよく覚えてないけども」
「それにそのお洋服。ゴスロリって言うんだっけ?可愛いけどもサイズぴったしだよね。そこの二人みたいにボロボロの学生服ならいくらでも出回ってるみたいだけども切名ちゃんのそれってどうなの?買えるお店もないよね?」
「……」
久遠の質問はどれも鋭く、今まで使われたことのない脳の領域にまで伸びていた。少しでも考えれば自分にもこの疑問は生まれてきてもおかしくない筈だ。むしろ今まで最低でも3年間の記憶の中で生まれてこなかったことがおかしい。3年以上前の記憶がないと言うのもそうだが、だとしたら自分達はいったい何なのか。そして、美咲と言う名前を聞くたびにどこか胸や頭で引っかかるものがある。つい、自分の事と錯覚してしまう。これはいったいどういうことなのか。
「久遠、そろそろ失礼ですよ。両親と言うならば私に関しては未だに謎なのですから」
「どういうこと?」
切名の口から疑問が出た。
「……難しい話なのですが私と最上火咲さんは未来がリンクしているのです。私のいた世界……ここでいう300年ほど前に世界と言うのは何度かリセットされていると言うのが判明したんです。ほとんどの人間はリセット前の記憶を持たない。でも何故か全ての世界において赤羽美咲はリセットされると記憶を持ったまま最上火咲として次の世界を生きることになっている。そしてその最上火咲から赤羽美咲と言うクローンが作られる。あの最上火咲さんはその内DNAの中に消えて私が最上火咲になるんです。これが延々と繰り返されていれば私にも彼女にも親と言う者は存在しないのも変わらないんです」
「……正直信じられないわ」
「でしょうね。私も半信半疑です。理性としては信じられる筈がない話なのに何故かそれが自然のものだと理解している。……どうしてこうなったのかはまだ誰にも分かりません」
「……」
その謎の感覚は切名の中にもあった。それどころか一瞬とんでもない理屈で納得しそうになった。だが、文字通りそれはとんでもない事だろう。ありえない話だ。しかし、もし仮にそうだとしたら自分の中のこのもやもやに決着がついてしまうのだ。少なくとも自分に関するすべての謎は解けてしまう。たとえそれを信じるわけにはいかなかったとしても。
「……ううう、」
そこで途端に呻き声が上がった。シンだ。意識を取り戻したシンが激痛をこらえながら起き上がる。すぐに赤羽が事情を説明した。
「……そうだったのか。けど今の俺じゃこの体じゃゴーストじゃなくてもまともに戦えない」
「……今まで骨が折れた時はどうしてたの?」
「亜GEARには物理的に何かするってのがあまりないから基本的に骨折は起きないんだ。基本的に一撃で殺すかどうかだったから……」
「……そう」
話している間、シンは苦悶の表情を浮かべながらまだ気絶したままの愛名の胸に触れた。しかし性情的なものではなく命に別状はないか、ろっ骨が折れていないかなどを詳しく調べる真剣な表情と手探りだった。そしてその最中に突然地響きは終わった。
「花京院さん?」
赤羽は見上げた。インフェルノが停止していた。
「……正面。来たぜ」
繁の緊張した声が静かに響く。言われたままの正面。そこの空間が歪んでいた。そしてその歪みの中から鳥のような鬼の怪物が出現した。D型UMXだ。完全に出現を終える前に繁は赤羽達を地面に下ろす。
「久遠、切名さんの言う事を聞くように」
「うん!」
それだけ言うと赤羽もPAMTを起動して一瞬で姫火となってインフェルノの隣に立つ。戦いが始まる前にシンは愛名を背負い、切名に肩を借りながら久遠が先導してそこから離れる。十分な距離を離れるよりもやや前に背後で爆音が轟く。距離を稼いでから戦場を見るとやはり3者の戦いが始まっていた。しかし2対1でありながら戦況はあまりよくないように見える。赤羽の姫火は武器がミサイルしかない。それはそれで強力なのだが近くに久遠達がいる事を知っているため上から下に降らすミサイルがほとんど使えず劣勢に立たされている。繁の方も比較的火力の高いPAMTだがそれ故にあまり強い武器を使えず真っ向勝負で馬力負けしている。そして何よりもD型UMXは通常の50倍の速さで動いている。赤羽はおろか繁でさえも何とかついていけるレベルのスピードだ。久遠達を庇うと言うハンデがなかったとしても厳しい戦いだろう。そしてその厳しい戦いでも時間をかけてしまえばゴーストに見つかる可能性が高くなっていく。この状態でさらにゴーストまで来てしまえば生き残る未来はない。
「いたぞー!!」
そしてさらに状況は悪くなった。スライト・デス怪人のポテトマトが久遠達を発見して走ってくる。芋にトマトがいくつも付いたファンシーな姿だが軽く掠っただけで大木の太い枝がちぎれ飛ぶところを見るにやはり怪物なのだろう。
「逃げるなくらえトマトロール!!」
体についているトマトをちぎっては投げてくる。投げられたトマトの速さはやがて音速に達し、発生したソニックブームだけで木々をなぎ倒し、3人を吹き飛ばす。そして空中で無防備になったところに次なるトマトが発射される。
「制空圏で!」
集中。久遠は音速で迫りくるトマトを手首のスナップだけで反らして軌道を変える。しかしソニックブームを受けてさらに吹き飛ばされる。
「久遠!!」
それを見た赤羽。しかし次の瞬間にはUMXの攻撃を受けて姫火は高度を落とす……落下を始めた。
「……久遠……」
姫火が空中分解した。投げ出された赤羽は全身から血を垂れ流しながらも空中で気を失っている久遠を抱きしめる。そして落下する赤羽に3発目のトマトが迫ったその瞬間。トマトは赤羽に命中するよりも100メートル以上前で突然砕け散った。
「何!?」
「まさかこんな怪物が本当にいるなんてな」
「お手柄だね、ジキル君」
「すっげぇ面倒くさい」
「でも、なんとかしなきゃですよご主人様」
「トゥオくんならやれるよ」
驚く声に混ざる聞きなれた声×4+聞きなれない声1。さらに、
「ドリル!翼!智恵理!!ドォォリィィバリィィィ!!」
奇声と電子音を上げながら何かが飛来しては赤羽と久遠を回収する。
「……あなた達は……」
着地した赤羽が見るとそこにジキル、慈、トゥオゥンダ、キャリオストロ、そして見慣れない少女とドリバリーコンボを発動した智恵理がいた。
「きゃーん!!中学生の赤羽ちゃん可愛いですぅ~!!」
「だ、誰ですか!?」
「あぁんもう!!本当に覚えてないんですね!でもいいです。私は近藤智恵理。過去で未来のあなたの頼れる、英雄部のお姉さんですよ」
「……そちらの方は?」
「私は南風見(はいみ)円華(まどか)って言うの。コンビニの店員の方じゃないよ?トゥオくんの彼女なの。なんか変な異次元人がいるけどこっちの方が先なの!」
小柄な少女、しかし自分(あかばね)よりは年上にも見える。
「……トゥオゥンダさん、ジキルさん。ご無事だったんですね」
「ああ。アイツに言われた通り仕方なく化け物と戦ってなんか地球が大変なことになって気が付いたらこの世界にいたんだ」
「慈さんも何故かいた上になんか別の世界の俺を知っている人達がいて合流したんだ」
言うと、ジキルは懐から拳銃を取り出してシンと愛名を撃った。驚く切名の前で二人は一瞬で怪我が治り、起き上がる。
「これは……」
「否定の銃。やっとまともに使えるようになったぜ」
「そりゃ怪人を200体以上射殺していればそうなるだろうな」
逆にトゥオゥンダは赤羽の壊れたスマホにカードを載せるとその機能や姫火を完全修復する。
「ありがとうございます」
「いや、それはいい」
「え?」
「先に謝っておこうかと思ってな」
トゥオゥンダはそのままそのカードを2枚に増やすと指をパチンと鳴らす。今度はその2枚のカードが赤羽のものの色違いのスマホに変わった。
「……まさか……」
「行くぞ、ジキル!」
「ああ!シミュレーションはばっちりだ!」
トゥオゥンダ、キャリオストロ、円華が白いスマホを、ジキルと慈が赤いスマホを手に取った。触れた指の指紋からスマホ内のあるアプリを起動させ、一瞬であるデータを構築した。
「PAMT、起動!!」
叫ぶ。声が光となり、苦戦するインフェルノの前に2つの巨体が姿を見せた。
「白き翼の使者・ニーヴェアリー!!」
「黒き風の使者・ヴェントゥルム!!」
降り立った2体はPAMT。
背中に白き翼×4、右腕に巨大な斧、左腕にはビームワイヤー発生装置+両足はなく下半身全体が1つの大きなジェット機+腰の左右にはプラズマビーム砲=白き翼ニーヴェアリー。
背中にキャノン砲付きロケットブースター、両腕に巨大なガトリングガン+蜘蛛のような、しかし屈強な8本足の下半身=黒き風ヴェントゥルム。
「……なんじゃありゃ」
驚愕の繁。その前でニーヴェアリーがジェット噴射で勢いよく空に舞い上がる。そして斧を抱えて超高度から相手に向かって急降下する。同時、ヴェントゥルムが両腕のガトリングガンを斉射。秒速1万発を超える銃撃のラインが50倍以上の速さで動く敵UMXに命中。排莢のない銃弾の雨を受けたUMXは一気に身動きを緩めた。足を踏ん張らないと吹き飛ばされてしまうからだ。そしてそうなると自然に同じ場所に立ったきりとなり、その場所めがけてニーヴェアリーが突撃する。
「くらえ!!」
重さ200トンを超える大斧がそのまま叩きつけられUMXの巨体を容易く押しつぶす。視界にニーヴェアリーが入った瞬間にヴェントゥルムは銃撃をやめて肩から伸びたキャノン砲の照準を合わせる。背後を見る事も通信を入れる事もなくそれを察したニーヴェアリーは素早く空に舞い上がり、照準の先にはぐちゃぐちゃになりながらも再生を始めているUMXの姿だけが映る。
「ファイア!!」
ボタンを押す。双発の砲門から凄まじいエネルギーが迸る。一瞬だけ周囲の温度が10度上がる。次の一瞬には敵の姿は跡形も残っていなかった。
「……すごい……」
赤羽が身を低くしながら戦いを見守る。そこから200メートル離れた場所。
「ブレイズアップ!!」
変身したスカーレッドがポテトマトに走り込む。迫りくるトマトの雨を全て炎で燃やし尽くしながら。
「うあああああああああああああああああっ!!!」
雄たけびを上げながら地を蹴って、倒れ込むように迫ってはポテトマトの顔面に全体重と腕力と炎を込めた拳を叩き込む。
「ごぶっ!!」
拳を受けた顔面が一瞬で大きくゆがみ、首から下が爆炎を上げて燃え上がり、上半身と下半身がちぎれ飛ぶ。すぐに地面に落ちた下半身は地上で、殴り飛ばされた上半身はそのまま空中で大爆発を遂げた。


・戦いが終わり、赤羽、久遠、切名、シン、愛名、トゥオゥンダ、キャリオストロ、円華、ジキル、慈、智恵理が一堂に会する。
「さっきあっちの方で戦火が上がってたな」
「そっちにお前達の言う仲間がいるかもしれない」
トゥオゥンダとジキルが示す方角。若干分かりづらいが確かに数時間前に借名達を見かけた方角だった。
「戦火が上がったと言う事は大悟の奴、PAMTを使ったな」
「いいえ、きっとそれだけじゃないでしょう。こちら側に来た怪人の数が少なすぎてます。朝吹さん、火衡恵舞さんが倒したとしてもまだ……。なので多くの怪人はきっとあちら側に行っています」
「あっちはライだってまだ戦えない筈だ。急ごう」
「……また運び屋インフェルノの始まりか」
「いや、その必要はない」
キャリオストロが一歩前に出て空間に歪みを作った。
「ワープ通路だよ。ここから一気に仲間のところへ行っちゃおうか」
「……そんなの出来るのかよ」
思わず繁はパラレルフォンを落とす。
「あの、キャリオストロさん。それを使ってヒエンさんのところに行くことは出来ないのですか?」
「……残念ながらこの世界には来てないみたいですね。何回か気配を探ったのですがまだこの世界には来ていないようです」
「……そうですか」
落ち込みながらも赤羽達はキャリオストロが開けた穴に入って行った。

------------------------- 第126部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
115話「名前を借りるということ」

【本文】
GEAR115:その名を借りると言うこと

・黒い竜巻が貫いた荒れた森の中をインフェルノが闊歩している頃。
「……くっ!」
詩吹は苦痛を感じていた。しかし表情は映らない。何故ならアカハライダーとして戦っているからだ。
今、自分はヒトデーモン、サメントモリ、イノシシオの3体の怪人と交戦している。ヒトデーモンの放つ毒潮、サメントモリの牙手裏剣に注意をしながらイノシシオの炎の突進を受け止め……切れずに多少足腰に無理を掛けながらもなんとか受け流して投げ飛ばす。空中の背中に向けてブレスレット槍を投げて貫通。
「CCO!!」
謎の雄たけびを上げてイノシシオは空中分解。しかしそれを見届けることは出来ない。回収するまでブレスレットなしの状態で詩吹は2体の怪人の飛び道具に対応しなければならない。毒潮は大木の幹を貫通してから腐らせ、牙手裏剣は大木を両断する。どっちも直撃を受けてしまうわけにはいかない攻撃だ。接近したいところだが弾幕の前には厳しい。
ブレスレットが自動で帰ってくるまで6秒。
そう計算した瞬間に異変は起きた。まだ時間のかかるはずのブレスレットが急に目の前に落ちてきた。
「拾って!」
空には小夜子がいた。声でそれを感じ取ると返事もなしにブレスレットを回収して鞭に変える。それで迫ってきた2種の攻撃を薙ぎ払い、接近を開始する。
「キシャヤアアア!!」
業を煮やしたサメントモリは牙手裏剣を握りしめながら突撃を開始。予定よりも素早く詩吹との接触を果たし、殴りかかる。
「はっ!!」
張らせた鞭でパンチを受け止めつつ巻きつけてからサメントモリを投げ飛ばす。
「うぉつ!!」
投げ飛ばされたサメントモリだが鞭が張り、空中で旋回して引きもどされる。
「やああああああっ!!!」
そして頭から地面に叩きつけられ大爆発。その炎を突き抜けて詩吹が走る。炎そのものはブレスレットの効果で和らげ、仰天しているヒトデーモンにタックル。毒棘を以てタックルで使用した右肩に無数の穴が開く。しかし、歯を食いしばった詩吹はひるむことなくヒトデーモンの腰に手をまわして持ち上げる。
「やああああああああっ!!」
そのまま大ジャンプしてヒトデーモンの頭を大木の幹にこすりつけながら急降下。
「あびゃあああああああああああ!!!」
顔の上半分を摩擦で失い、その摩擦で大木が炎上。炎がヒトデーモンの全身に燃え移ると詩吹は蹴りを入れて距離をとる。着地すると同時に正面を見やればヒトデーモンは大木ごと大炎上していた。
「……っ!!」
周囲を見やる。敵影は見当たらない。しかし、戦火の後だ。姿を隠していてもおかしくはない。上空を見れば小夜子が同じように周囲に敵影がないかを確認している。と、
「あっち!!」
小夜子が2時の方向を指さす。
「数は2!こっちに来てる!……あ!」
報告中。謎の物体が小夜子の傍にいきなり現れた。カエールンガカである。
「死ねぇ!!」
「くっ!!」
詩吹は跳躍。燃える大木の幹を第二の踏み台にしながらさらに跳躍。カエールンガカの牙が小夜子に触れる寸前にその牙を掴んで止め、膝蹴りでへし折る。
「ぐっ!!」
「はあああっ!!」
へし折った牙をカエールンガカの胸に突き刺し、股間を膝蹴りで潰し、全力のパンチで腹をぶち破り、小夜子を抱えて落下と同時に背後でカエールンガカが大爆発する。その爆風に乗って無数の残骸が詩吹の背中を撃つ。
「ぐううううううううううううううううう!!!」
「詩吹さん……」
小夜子は詩吹の体から力が抜けていくことに気付くと落下から飛翔に切り替えて素早くその場を去った。


・戦場となっていた場所から200メートル離れた洞窟。小夜子はそこに詩吹を運んだ。既に変身が解除されていて彼女は気を失っていた。
「兄さん」
「ああ!」
大悟が詩吹を受け取り、奥まで運ぶ。洞窟の奥に進むとそこでは気を失っているのがもう一人。ライだ。そのライに濡れたハンカチを充てる紅葉、火のついた薪で暗闇を照らす借名、殴り倒したクマを捌いている発がいた。
「詩吹ちゃん!」
紅葉が運ばれてきた詩吹を見て表情を変えた。よほど無理をさせてしまっているのだろう。その思いがより紅葉の表情を曇らせる。小夜子から受け取ったハンカチを濡らして詩吹の額に乗せる。本来なら自分が戦うべきなのだがゴーストとの戦いで紅葉はエクシードプラズマー回路=脱臭炭を破壊されてしまっている。校長と合流すれば修復ないしは2号機の製作が可能かもしれないが今しばらくは無理だろう。ゴーストとの戦いから3時間。ここまで死に物狂いで逃げてきた。詩吹だけでなく全員体力が限界だった。詩吹はその状態からさらに追手である怪人を次々と迎撃していた。しかしそれももう限界だろう。
「……ごめんね」
紅葉はゆっくりと詩吹の右手首からブレスレットを抜き取って自分の手首に巻く。
「けど、いいのか?」
詩吹の胸に触ろうとして、しかし小夜子にぶん殴られながら大悟は口を開いた。
「PAMTを使えば詩吹さんに無茶させなくてもスライト・デスくらい倒せるんじゃないのか?」
「それは危険だと思います」
クマの肉を調理しながら借名が答える。
「まだゴーストからそこまで距離をとっていないと思われますので巨体で目立つPAMTを出せば場所が見つかってしまいます」
「けどPAMTでならゴーストにも勝てるんじゃないのか?」
「厳しいと思います。蛍さんのアズライト、眞姫さんのアボラス、花京院さんのインフェルノ、赤羽さんの姫火、火咲さんのクリムゾンスカート、そしてあなたのヴァルブロッサム。6機のPAMTがあればまだいい勝負が出来るかもしれませんが今のままでは……」
「……借名だったっけ?」
「はい?」
「可愛い顔して随分冷静に戦況を見れるんだな。果名さんと一緒にこういうの経験あるのか?」
一瞬何を言われているのか分からなかった。夜の事かと一瞬思ったが違うみたいだ。
「どういうことですか?」
「いや、あの二人の妹分兼メイドさんみたいな感じかなって思ったけど何というか戦い慣れていると言うか……」
「え?ああ、そう言うことですか。まあ、慣れていると言うほどではありませんけれども不慣れではありませんかね。……はい、できましたよ」
借名が人数分のクマ肉シチューを作り、どこからか取り出したお椀に入れて配る。起きているものは全員食べれたがライと詩吹は口に出来なかった。
「で、これからどうする?」
2杯目を食べながら大悟が言葉を放つ。当然このまま洞窟にこもっていてもあまり長い間は持たないだろう。大悟的にはこの世界での基本的な生活どころかそれより遥かにマシなはずのあの100日間の生活ですら正直トラウマに近い。なのでこんなところで野宿するのは御免だ。もちろん色々な立場からそんなことは裂けても口には出せない。今の現状の全ては大悟のせいだと言われても何も弁明出来ることはない。それでも贖罪のためだけに生きようとするのは男子中学生にはとてもじゃないが難しい相談でもある。その事情を唯一知る小夜子は何も言わない。
「どうにかして他の皆さんと合流しましょう。先程切名様達の姿を一瞬だけ見ました。私達が3つに分割されているとなればおそらく私達に割り当てられた戦力は一番苦しいものでしょう。助けを求めて待つだけでは心苦しいと思いますが今はそれが一番ではないかと」
「……けどいつまでも待ち続けるって言うのはどうなんだ。ここで生活するにしたって限界はあるだろ?」
「はい。ですがライさん、詩吹さんがこの状態では動きようもありません。ですのでお二人が意識を取り戻し、せめて歩けるようになるまではどのみちここからは離れられないのではないでしょうか?」
「……それもそうだな」
ちらっと二人の様子を窺う。詩吹は制服がボロボロで上も下も下着が少しだけ見えている。いや、そこじゃない。表情に関しては確かにかなり悪いと思う。小夜子によれば毒を使う奴と戦ったらしいからそれにやられた可能性が高い。だが、毒となれば薬がないといけない。そしてそれが果たしてこの世界にあるかと言われたら無差別に探しても何とか少数見つかるかどうかだろう。スライト・デスの宇宙人が使う毒に対応した薬があるとはとても思えない。せめて校長と合流すれば彼の発明でどうにかなるかもしれない。蛍と合流して飛空艇に乗れば解毒の施設があるかもしれない。
「……PAMTは使わないって約束する。だから俺に外を探させてくれないか?」
「危険すぎます」
「分かってる。けど俺にも何とか戦う力はあるんだ。身を護るくらいのことは出来る。こんな洞窟に籠ってたらあいつらも俺達を見つけられないと思う。だから案内する役が必要だと思う」
「……僕も行く」
小夜子が名乗りを上げた。
「もちろんPAMTは使わない。場合によっては使うかもだけど。でも空から様子を窺えるのは大きいと思う。場合によっては逃げる事も出来る。兄さんだけを生かせるのはあまりにも無謀すぎるし」
「小夜子……」
「……分かりました。でもあまり長い時間はダメです。……3時間を目安にしてください。3時間以内に仲間が見つからなければすぐに帰ってきてください」
「……分かった」


・食事を終えてしばらくしてから大悟と小夜子は洞窟の外に出た。
「で、兄さん。どうするの?」
「……時間を止めてみる」
「は?」
大悟が念じると少しずつだが周囲の時空が歪み始めていることに気付く。完全に時間を止める事はダハーカと一部融合した今でもまだ無理だが望めば周囲をスローモーションにすることは可能そうだ。大悟は一度解除してから先に進むことにした。
「小夜子、飛んでくれ。あまり遠くには行かずに他に誰かいないか、敵がいないかを見てきてくれ」
「ん、わかった」
寸分の迷いもなく小夜子は空へと飛翔した。近くの大木よりも高い位置で停止してスマホの拡大などを用いながらなるべく遠くを見て周囲を見探る。大悟が見上げれば天死の血を引いたからか視力が強化されていて100メートルくらいの高さにいる小夜子がスマホを使って周囲を見ているのが見えた。あと、スカートの下の下着も。
「……やろうと思えば透かせるな」
好奇心からやってみると小夜子の白い下着の中身が見えた。
「あ、あいつ毛が生え始めてやがる。まだ12歳だってのに。いや、いい時期なのか?姉さんも確かそれくらいには生えてたような気がするし。こっちに来てから全然エロいことしてないってのに成長するとは。お、もっと中まで見えるぞ。……ん、膜がない。どういうことだ?」
「……なんか下から不遜を感じる」
小夜子は一度ジト目で地上を見下ろす。大悟とは違って小夜子の視力では大悟が何をしているかまではよく分からない。況してやセクハラしてるだなんて全く想像もしていない。そしてもっと想像もしていない事が起きていた。
「やば!」
小夜子が凄い勢いで地上に戻ってくる。大悟は一瞬セクハラがばれたのかと思ったが様子からそうではないと分かった。
「兄さん!すごい数の敵!まっすぐこっちに来てる!」
「は!?見つかったのか!?数は!?」
「2,30体くらいはいたよ!全部スライト・デスの怪人!理由なんて知らない!」
「……洞窟に戻ろう。正確な場所までは分からない筈だ」
急いで踵を返した時だ。頭上を怪人クジャクジラが飛んでいた。しかもまっすぐ洞窟に向かっている。
「完全にばれてる!?」
「急ごう!」
「先に行け!」
「へ?」
大悟はちょっと浮いてる小夜子の足を掴むと自身を中心に振り回し始めた。そして勢いがついたところで手を離して小夜子をまっすぐ洞窟の方に投げ飛ばす。
「妹に対してジャイアントスイングって兄さんは馬鹿なんじゃないのかな!?」
悲鳴を上げながら飛んで行く小夜子。しかしいつも以上の速さだ。おかげで敵より早く洞窟にたどり着けた。
「敵の大群だよ!何故か知らないけどまっすぐこっちに向かってる!」
報告。当然驚きの声だけが帰ってくる。数秒考えてから借名は詩吹を見た。
「……詩吹さんは毒を受けたって聞きました。でももしかしたらそれだけじゃないのかもしれません。何かフェロモンのようなものが与えられたのかもしれません。急いで避難しましょう」
「……私は、時間稼ぎをしてみる」
紅葉がブレスレットを握りしめて洞窟の外に出た。ちょうど大悟が走ってきていた。
「大悟君、詩吹ちゃんとライ君をお願い」
「紅葉さんは?」
「戦う」
言うや否や空から迫りくるクジャクジラを見据えた紅葉。
「ジャックオン!!経営幼女戦士アカハライダー!1号だけど2号に変身して頑張ります!」
変身した紅葉が跳躍してクジャクジラを膝蹴りで迎え入れる。
「コケ……!?」
「はあああああっ!!!」
ガッチリと相手の体を抱きしめるように固定して落下、頭から相手を地面に叩き落として粉砕。生じた爆発を貫通してカマキリギリス、リステマが突進してくる。それを気配で感じ取った紅葉は後ろ回し蹴りで2体を横方向に蹴り飛ばし、大木に叩きつける。そして素早くステップを用いて接近すると、発勁に近い形のダブルパンチで2体をまとめて爆砕。
「……すげぇ、」
思わずあっけにとられる大悟。数秒後に復帰して借名が肩を貸して運ぶライを受け取る。そして小夜子と借名が二人で詩吹を運び始める。
「あれ、あのデカ女は?」
「発さんならあそこです!」
指さした借名。その先は今から進む予定の逃走通路。そこで発がホタルクス相手にラリアットを、コブラツイストを決めて粉砕していた。その光景に若干引きながらも大悟は先に進む。一度だけ振り向くと、退路を塞ぐように爆発が生じた。そしてその炎の中から紅葉が姿を見せた。その両手には複数の怪人の残骸が握られていた。しかし、視線はこちらには向いていない。
「……誰!?」
視線をはじいた方向。そこには怪人ツラライブとツラランスが立っていた。紅葉が視線を飛ばして数秒、2体の怪人が地を蹴って紅葉に迫る。ただ迫るだけでなくツララを、ただのツララではなくマシンガンの銃弾のように飛ばしながら。目視してから紅葉は回し蹴りの衝撃波だけで迫りくる無数のツララを粉砕。そのままツラランスに向かっていき、タックル。右腕を掴んでサブミッション。だけに留まらず膝を用いて右腕の関節を粉砕し、右腕を引きちぎる。が、背後から迫ったツラライブのツララ槍を受けて吹き飛び、ツラランスが再生させた右腕で下腹部を殴りつける。
「ぐふっ!!」
血を吐き、紅葉は何度も地面をバウンドして大木に叩きつけられた。
「我ら二人に、」
「一人で勝てると思うな!」


・走ること15分。大悟達はついにその足を止めた。正面に怪人モグラクス、トマトマホークがいたためだ。その殺意に気付いてかライと詩吹が目を覚ます。しかし、まだ自力で立つのがやっとの状態だ。詩吹に至ってはブレスレットもない。その二人を振り返ることなく発が身構える。
「詩吹ちゃんや紅葉先生には絶対に手だしさせない……させてたまるかぁぁぁっ!!!」
全力ダッシュ。勢いよく距離を詰めてはモグラクスにドロップキック。着地と同時にトマトマホークにラリアット。しかし、耐え抜いたトマトマホークがトマト型のトマホークを振り回し、発の左乳房を切断する。心臓が空気に晒される。激しい出血と食いしばりすぎて砕けた歯が宙を舞いながらも、しかし発はひるまずに頭突きでトマトマホークの鼻を砕き、股間を蹴り砕き、トマホークを奪っては相手の首を切り落とす。だが、背後からやってきたモグラクスの爪を受けて背中を切り裂かれてはついに膝を折った。
「人間のくせに」
モグラクスが発の頭を掴みあげては、300キロの握力で圧力を与えていく。
「……まだ……詩吹ちゃん……紅葉先生……」
両目から血を流しながら、しかし己の体重すら支えられず意識を酷薄にしていく発。その薄れゆく意識の視界に変化が生じた。
「さあ、侵略の始まりだ」
背の高い青年が姿を見せた。同時にモグラクスの動きが止まり、反対に発は負傷が回復していく。はっきりした視界で見て見ると正面にはやはり自分と同い年くらいの青年と、首輪と鎖でつながれた手足のない少女がそこにはいた。そこで後ろから大悟達が到着する。
「あ、お前、どっかで見覚えあるぞ!!」
大悟が指さし、小夜子がその名前を呼ぶ。
「メンバーズ10番目……十毛」
「YESだな!!」
十毛、そして首輪で繋がれたアルケミーが大悟達の姿を見た。さらによく見れば十毛の背後には複数の少女達がいた。それは、陽翼、来音、八千代だった。
「貴様!!」
モグラクスが血気立って十毛に挑むが一歩するごとに凄まじい勢いで生命力を奪われて手が届く3歩前の時点で骨になって動かなくなった。
「聖支配領域(ホーリーナイトジャッジメント)!!!」
狂気の笑い声と共に十毛が叫ぶとアルケミーに透明の手足が生える。
「さあ、やれ」
「……仕方ないわね」
アルケミーがため息交じりに返事、そして正面から迫りくる10体の怪人を見ては人間の脳では理解できない何かの攻撃で一瞬で10体を粉々にした。
「スライト・デスだったかしら。少しだけ聞いたことあるけど私程度が知ってるんだから十三騎士団や調停者とは比べ物にならない小物よね」
その調子でアルケミーは半径500メートル以内にいるスライト・デス怪人を全て反応すらさせずに砂へと変えた。
「ふん、性奴隷のくせに小生意気にも便利ではないか」
「あんたなんかに負けて支配の種を植え付けられたのは私の人生で一番の汚点よ、まったく」
再び手足を失ったアルケミーが十毛に引きずられて移動する。
「……一体……」
反応を示した詩吹はいつの間にか負傷が完治していることに気付く。毒もない。代わりに手にあるのは脱臭炭とシュールストレミングスとかぼちゃの飾り。
「……詩吹ちゃん」
「……はい。あかはら・めもはら・らりろれはりぴょ~ん(棒)」
詩吹は脱臭炭を握りしめながら踵を返して走り出す。前方では自分のよく知る、しかしこうして目で見るのは初めてな姿が2体の怪人に攻められて苦戦している光景。加速した詩吹は変身しながらツラライブの背中に飛び蹴りを撃ちこんだ。
「経営幼女戦士アカハライダージャック!姿は変われど2号只今見参!!」
「詩吹ちゃん!」
ツラランスのキックを受け止めながら紅葉が反応。素早く詩吹がツラランスのもう片方の足を掴んで大木向けて投げ飛ばす。
「ちっ!」
幹の上で着地するツラランス。少し離れたところから走ってきたツラライブ。その正面では一度変身を解除してから二人が本来のアイテムで変身をし直した。
「「経営幼女戦士アカハライダーズ!!ここからが絶対なる叛逆の時間です!!」」
構える二人。そして2対2の対決が始まった。
「はあああああああああああっ!!!」
紅葉が走り、カウンターのために放たれたであろうツラランスの氷槍を片手で受け流しながら勢いを全く殺していない飛び膝蹴りをその顎に叩きこむ。
「ぐふっ!!」
「はあああああっ!!!」
足をつくと同時に発勁込みのダブルパンチを相手の胸にぶち込み、その氷の体を100メートル以上ぶっ飛ばす。
「やあああっ!!!」
放たれたツラライブのツララをすべてブレスレットのバリアで打ち消しながらダッシュ。やがてブレスレットを槍に変えてツラライブを薙ぎ払い、空中でドロップキック。
「ぬうううううう!!!」
そして飛ばされた2体が背中合わせに激突して大量の血を吐きながら倒れる。
「エクシードプラズマー!!」
「フルメタルジャック!!」
エクシードプラズマー回路が発動され二人の姿が変わる。
「エクシードプラズマー返し!!」
「フルジャックバースト!!」
強化された電撃の回し蹴りと強烈なプラズマ散弾砲が発射されて2体を両断してから貫通して大爆破する。
「Follow the SUN!! Catch the SUN!!」
「Just Dream On!!」
爆発を背に二人がポーズを決めた。それを見た発は人知れず声も出さずに涙を流した。

------------------------- 第127部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
116話「緑と青の宿命」

【本文】
GEAR116:緑と青の宿命

・緑風湊は今から19年前に生まれた。両親がどちらも手足のない人間だったため閉じ込められていたタンスの中で生まれた。生まれた時からろくに体の自由が利かない個室で生まれ、3年間は同じくタンスの中に閉じ込められていた死体を食べて生活をしていた。風も光もない声だけが存在する世界だ。その暗闇が終わったのは5歳の時だ。亜GEAR同士の戦いで住んでいたタンスが破壊されて外に放り出された。そこで湊は初めて光を知り、自分の手足の存在に気付いた。生まれながら5年間一切足に力を入れたことすらなかった湊はしかし、外に投げ出された時に自らの足で立ちあがった。その時、湊は感動でしばらく立ち尽くしていた。が、亜GEARによって両親が残骸へと変わり、目の前に弾き飛ばされてきたのを機に湊は駆け出した。親が殺されて恐怖で逃げだしたわけじゃない。単純にタイミングが重なっただけだ。そもそもあれが親だとは気付かなかった。ずっと暗闇の中だったから親の顔も姿も見たことがないからだ。そして、どこまで手足を伸ばし、走ろうとも限界のないこの自由さが何よりも心を奪った。生まれたのに成長する機会を失っていた遺伝子がここに来て発動したのか、暴走したのか、それまで身長が60センチ程度しかなかった彼は1年後には130センチを超えていた。巷では亜GEARによる殺し合いが日常だったが湊には亜GEARは与えられなかった。しかし、年かさにしては大きい背丈がそのまま武器となった。それに、亜GEARでの殺し合いで見渡す限りの場所にはどこかしら死体は転がっている。食べ物には困らなかった。
湊が自由に生を謳歌して6年が過ぎた。12歳で身長は170センチを超え、進化した視力と反射神経はもはやどんな亜GEARでも捉え切れずに数多くの学生が彼に容易く殴り殺されては贄となる。毎日毎日毎日毎日走って殺して食べての生活。
しかし、その生活にも終わりが来た。いや、分岐点とでもいうべきか。湊は初めて殺し合いをしない人間の集合地域にやってきた。それまでこんな場所があるなどとは妄想すらしていなかったため誰も亜GEARを使わず笑顔とまでは行かなくとも穏やかな表情で複数の人間が集まって他愛ない日常的な会話をしているその風景は皆との心を激しく揺るがした。その場で倒れて何度も嘔吐を繰り返した。頭の中で自分の今までの12年間を否定されたような気分になった。或いは自由のために脳裏の奥底に封印されていたタンスでの生活の記憶が刺激されたのか、とにかく湊は自由になってから初めて夜以外に地べたに背中をつけて気を失ったのだ。
ここがゴールなのかと薄れゆく意識の中で思いながら、しかしその続きである覚醒直後と言う想定していなかったシーンが存在していた。
「……ここは」
気付いたらそこは部屋だった。今まで部屋と言う概念を知らなかった湊からしたら不思議な感覚だった。あの狭くて暗いタンスの中でもなければ自由に走り回れる外でもない。なるほど、こういうのもあるのか。しかし落ち着かない。
「ん、」
適当に体を動かしていると手が引き戸に当たり、戸が開かれた。部屋と言う概念を知らなければ扉と言う概念も知らなかった。何度か扉を閉めたり開けたりして初めて湊はどういう仕組みかを知った。部屋を出て廊下に出てさらにいくつもの扉を開けてついにはまた外に出た。
「……これが、人間の住居なのか」
再び脳裏を激しく揺さぶられる。再び生きてきた道を否定される。今度は倒れずにまたさっきの部屋に戻ろうとしたがしかし、道順を覚えていなかった。長い廊下に出て歩いてどれがそうなのか分からない。
「ここか?」
適当に扉を開けた。そこには一人の少女がいた。歳は自分よりやや下だ。ちょうど自由になった時の自分と同じくらいだろう。それが分かったのは本能かもしれない。
「……」
少女はこちらを見ない。生きてはいるようだが壁に背を預けたまま座り込んで動かない。湊はどうしていいか分からなかった。今までなら立って歩いてる人間がいれば男女関わらずそれは敵なのだから殴り殺してきた。動かずに倒れていた者がいればそれは殺す手間が省けるだけの餌だ。だが、目の前の少女はそのどちらでもないのではないかと脳が判断を下していた。
「……」
歩み寄り、隣に座ってみる。やはり少女に反応はない。むしろただ座っただけなのに湊の方が激しく動揺していた。殺し合うことも捕食する事もなくこうして隣に人間がいると言う事がどうにもどうしようもなかった。しかしどこか安らぎを感じるのはもうほとんど覚えていないあの頃を思い出すからだろうか。
湊は少女の手足を触れてみる。自分の手足と同じように暖かかった。顔に触れてみる。生気を失ったような眼をしていた。しかしこちらと視線が交差する。やっと自分の存在を認識してくれたような、心の奥底が求めていた者に出会えたような、そんな気がして湊は生まれてきて以来長年ぶりに力の限り号泣した。少女の体を壊れんばかりに強く抱きしめた。
それが中断されたのは大泣きの声に反応してやってきた大人だった。この家の住人らしい。正確な年齢は分からない。だがそこら辺の学生よりかはよほど年上に見える。
「お前、名前は分かるか?」
「……緑風湊」
「ほう、苗字まであるのか。いい親だったんだろうな」
「……見たことない。あの子は?」
「……彼女は清水鳴。私の娘だよ。今年で6歳になる。だが、見てのとおり何が悲しいのかまったく何にも心を開いてくれなくてね。まあ、外が外だから仕方ない事でもあるんだが」
「……どうしてここは襲われないの?食べ物だってあるのに」
「私の亜GEARだ。結界を張っているんだ。亜GEAR持ちが中に入れないようにね。だからこの村では争いは一切発生しない」
「……亜GEARって何?」
「この学園都市を支配しているものが与える力の事さ。常軌を逸した闘争本能や意欲を持つものほど与えられやすいとかって噂もある。……今時子供で亜GEARを持っていないのは珍しいことだね」
「……俺、わからない。あの子は?」
「あの子はここで生まれたんだ。だから亜GEARも持っていない。でも、だからか、外に出られないことに退屈しているのかもしれないね」
「……ここにいた方がいいと思う。外はなんっていうか、とても冷たい。堅い」
「その感性は間違っていないよ。大事にするといい。けど、人間だけでなくどんな生物にも自由は必要なんだ。だから今すぐじゃなくてもいい。いつかこの村を離れる時でいいからあの子も一緒に連れて行ってほしい。それまではこの村でずっと暮らしていってくれ」
「……」
12年間謝礼と言う言葉の存在を知らなかった湊だがしかしこの時ばかりは自然とその意味が頭に浮かび、約束をした。
そして、その約束が果たされたのは3年後の話だ。村に異形の化け物が出現した。スライト・デスだ。
「まさか、こんな村なんてものがこの星にまだ残っていたとはな」
怪人は亜GEARを持たない。だから結界に引っかからず村を襲撃した。湊が芝刈りから帰ってきた時には既に村の中では懐かしき殺戮の臭いだけが残っていた。急いで家に戻り、様子を探る。
「あん?」
そこでは怪人がいてメイの前に立っていた。メイは変わらずこの世のものを見ようともしない虚無の表情。しかし服を引き裂かれていた。今までも湊は何回かメイの裸を見ていた。体を洗ってやったことも10や100じゃ効かない。だからその手の興奮はしなかった。覚えた興奮は怒りのものだ。メイの股間から血と薄汚い液体が零れていたのを確認したからだ。
「貴様ぁぁぁあっ!!」
久しぶりに殺意のまま怪人に殴りかかった。だが、次の瞬間には湊は倒れていた。
「ふん、人間風情が。……だが、もう二度と人間は我々スライト・デスに逆らうような真似はしなくなるだろう。この娘の中に服従の種を仕込んだ。喜べ、この娘は生かしてやる。その代りこれから何度も何度も我らが同胞をその身で産んでもらう。適合率の高さに喜ぶんだな」
屑が……!!
しかし怒りに燃える湊の体は動かない。どうやら先程の一撃で首の骨を折られたらしい。首から下にはもう神経が通わない。残された道はただただ怒りに燃えながら僅かな最後の時間を待つしかない。……それを許すのだとしたら。
「……あなたには風が似合う」
「……!」
声が聞こえた。それはどこからでもない。ならば、死の間際の天使の声か?
「……あなたは自由な風。支配を嫌い、貫き、砕く自由な風」
しかし、意識は天に昇らない。どころか燃える怒りが再び全身に力と神経を這わせてきた。繋がってきた。
「……ん、なんだ?」
凌辱を続ける怪人が異変に気付く。振り向けばそこには緑色の姿が立っていた。
「何だ貴様は!?まさかもうこの娘が生んだのか!?」
「違う。俺の名は自由の戦士!グリューネ!!」
湊:グリューネが手をかざすとそれだけで突風が発生して怪人を家の外まで吹き飛ばす。
「ぐっ、」
怪人は体勢を立て直して着地……しようとして異変に気付く。その体が浮いたままで地面にたどり着かない。
「な、なんだ!」
「もうお前がこの村の土を踏むことはない」
家の中からメイを抱えたグリューネが歩いてくる。
「あなたには水」
声。
「あなたは命を生み出す水。水の逆巻きはどんな支配をも打ち砕く、怒涛の水」
その声を聴いたメイは初めて自分の力で立ち上がって、強い意志……絶対の殺意をみなぎらせた視線で怪人を見やった。一度だけ裸の下腹部に手をやってからメイは姿を変えた。
「……私はアズール。生命の戦士、アズール!!」
アズールは左手を怪人に向けた。同時に凄まじい量の水が生み出されては川のように怪人に向かって流れていく。
「うああああああああああああああああ!!!!」
穢れ、殺されつくされてしまった村を洗い流すように、その原因たる眼前の敵の生きた証がこの世のどこにも残らないようにアズールの放った瀑布は全てを呑み込み、押しつぶし、洗い流した。
「……メイ」
「……私のお腹の中にはスライト・デスの子がいる。でもそのお陰で私は命を感じる事が出来る。アズールとして戦えるんだ。……戦うよ、湊。私はどこまでもスライト・デスを許さない」
「……俺もだ。スライト・デスの支配を必ず俺の風で打ち砕いて見せる」
変身を解除した二人は村の民族衣装に袖を通してその地を去った。それから2か月に1度メイはその体からスライト・デスの怪人を出産するが全てその場で始末している。それを含めてこの4年で1000体を超えるスライト・デスの怪人をこの二人は始末してきた。
「……だから、俺達は負けない……!!」
グリューネが血を吐く。膝が折れんばかりに地面と体重に挟まれる。隣で倒れるアズールも必死に残りの力を振り絞って立ち上がろうとしている。しかし、どちらも叶いそうにはなかった。
「……スライト・デス狩り(ハンター)とはまた生意気なものよ」
二人の正面。浮遊する黒い怪物。スライト・デス最高幹部のゴースト将軍。その身に一切の傷は見当たらない。
「馬鹿なものどもだ。ずっと二人でコソコソしていればまだ長生きは出来たかもしれないと言うに」
ゴーストは低く笑う。あの時、スカーレッド達をこの二人が助けたのを見ていたのだ。そして姿を消した先を追撃して現在に至る。ゴーストはその場から一歩として動くことなく指一本だけを動かして二人を圧倒していた。ゴーストが指を動かせばアズールの、メイの胎内から強制的に怪人が出産され、そしてその場で自爆。アズールもグリューネもこれを3度繰り返されるだけで既に瀕死の状態だ。まだ、風も水も出せていない。一歩を進む事も出来ていない。ゴーストはただ笑うだけ。
「……さて、少しお遊びが過ぎたかもな。苗床には大人しくしてもらわないと困る。このところ少し地球で数を使いすぎている。大体1500体くらいか。しかし、総数の0、1%にも満たないがな」
「……ぐっ、くあああああああっ!!!」
怒りに立ちあがったグリューネ。しかし、産み落とされた4体目に簡単にねじ伏せられる。
「そろそろ終わりだ。……む?」
その時だ。初めてゴーストが声色を変えた。異変にグリューネが気付いたのは自分をねじ伏せていた怪人が一瞬でバラバラになり、ゴーストの放った黒い竜巻が霧散になってからだ。
「……あなた達は死なせない」
声と背中。倒れた自分達の前、ゴーストの前に自分達と似た姿が立っていた。白銀の姿こそ似ていたが目に見えて違うのはところどころ走っている黒と黄金のライン。そこから伸びた結晶のような突起物。
「……貴様は何者だ?どうやって私のエクトプラズマーを破った?」
「……私は森羅の戦士フラワルド。ゴースト将軍、スライト・デス。この星から手を引きなさい」
「断る。少し前までならいいがエクシードプラズマーを使う者が出てきたのだ。見逃すわけにはいかない」
「……ならば、私の命の輝きを以て排除します」
フラワルドの体が輝くと、ゴーストの放ったものと酷似した白銀の竜巻を繰り出す。
「!これは、まさかソウルプラズマー!?」
ゴーストが抵抗の攻撃を放つも相殺できず、直撃を受けて数十メートル以上も後ろに吹き飛ばされた。そして、見渡せばすでにフラワルドの姿もグリューネたちの姿もなかった。
「……エクシードプラズマーだけでなくソウルプラズマーまで用いるだと……!?これは非常事態だ」
ゴーストはマントの中に滴った黒い血液を払ってから姿を消した。

------------------------- 第128部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
117話「全員集合!総迎撃準備!」

【本文】
GEAR117:全員集合!総迎撃準備!

・ゴーストとの戦いから逃げ延びた湊とメイ。途中まではフラワルドがいたのだがいつの間にかいなくなっていた。
「……くっ、」
フラワルドの放った攻撃が何らかの影響を伴っていたのか二人ともある程度傷が治っていたがそれでもダメージは決して低くはない。4時間以上歩いていつもの半分も距離を稼げていない。しかし休んでいる時間はない。後ろの方からスライト・デスの殺意を感じる。ゴーストではないだろうが怪人の追手が来ている事は間違いない。
「いたぞー!!」
そして誤算は起きた。空から怪人ワシューベルトとコアランページが飛来した。どちらも翼のある怪人で武器を持っている。今の変身できない二人では厳しい相手だ。しかし、生き延びなくてはならない。その想いだけで湊が構えた時だ。
「うあああああああっ!!!」
「たあああああっ!!」
どこからかスカーレッドとエンジェルが飛来して2体の怪人を攻撃した。
「あれは……!」
さらに後方。二人のアカハライダー、シュバルツが追手の怪人5体に挑んでいた。
「……大丈夫ですか?」
同じように空から飛んできた赤羽と小夜子がふらついている二人の肩を支える。
「……どうして俺達を助ける?俺達が誰だか知っているのか?」
「知ってるわよ」
さらに、火咲に抱えられながら紫音が飛来した。
「……お前は、」
「紅葉さんから聞いたわよ。誰かがゴーストから助けてくれたって。それってあなた達でしょ?」
「……重い。早く降りなさい」
「うるさいわね」
火咲から飛び降りた紫音が湊の肩を支える。
「……」
湊が黙って紫音の顔を見つめた。
「何よ」
「いや、表情が変わったな」
「……まあ、いろいろあったからね」
会話が終わる頃には戦いも終わっていてスカーレッド、エンジェル、シュバルツが二人の前に来て変身を解除した。
「甲斐シンだ」「姫宮愛名です」「黒山ライだ」
「……お前達もあの声に導かれた戦士か」
「ああ。あの黒い竜巻の中でお前達の姿を見た気がする。助けてくれてありがとう」
「……お互い様だ。正直、今は助かった……」
それだけ言葉を零すと湊もメイも意識を失った。


・今朝のものとは違う飛空艇。しかし同じ以上のメンバーがそこに集まっていた。
果名、切名、借名、紅葉、詩吹、発、校長、狂子、桜子、燦飛、シン、愛名、ライ、湊、メイ、赤羽、久遠、トゥオゥンダ、円華、キャリオストロ、ジキル、慈、紫音、黄緑、来音、達真、火咲、陽翼、大悟、小夜子、八千代、アコロ、エンジュ、蛍、繁、眞姫、十毛、アルケミー、爛、月仁、ルネ。41人。全員はまだ一堂に会していない。何人かは病室にいる。
「……陽翼……!!」「達真……!」「……ふん、」
「来音!?」「黄緑!?紫音ちゃん!?」「……来音」
「あら、皆さんもご無事でしたのね」「あぎゃああああああああ!!!!」
再会を喜ぶもの、生存を訝しむ者、擬態した超常生命を見て心からの悲鳴をあげる者達。
何はともあれ自己紹介を行うことにした。
「陽翼です!あまり僕の家系の事は話せないんだけどね!」
「……もうみんな知ってるわよ」
達真に抱き着いたままの陽翼に火咲が突っ込み。
「ねえ、どうして紫音ちゃんそんな離れてるの?」
「……紫音にもいろいろあるんだよ。それより本当に来音なの?」
「そうだよ。黄緑は何だか……おばあちゃんっぽくなっちゃった?」
「何それ」
「……イライライライライライライライライライライライライッラ」
イチャイチャする二人を見て紫音がとにかく地団太を踏む。そして同じようにしていた火咲と目が合った。そして両者が同時に何かを言うよりも前に赤羽、久遠、大悟、小夜子、八千代が間に割って入った。
「姉さんも無事でよかった」
「……うん。……鈴音ちゃんは?」
「……もういないよ。本当の世界に帰ったんだ」
「……そう」
「……」
八千代と会話している間の小夜子の視線が怖い。小夜子が何か言うよりも前に久遠が後ろから抱き着いてそれを止めた。
「……何だか、せっかく仲間と再会したり合流したりしたのにぎすぎすしてる気がするな」
果名が切名と借名を抱きしめながら言う。
「果名、」
「ん、どうかしたか?」
「……ううん、何でもない。借名、ちょっといい?」
「はい、なんですか切名様」
「……私を美咲様と呼んでみなさい」
「……!い、いったいどうして……」
「……やっぱり、そうなのね」
「……切名様、あまりお考えにならないでください。今はまだこれでいいんです。もう、どうしようもないんです」
「……そう」
話す二人。それをルネがじっと見ていた。
「……やっぱりそう言うことだったんだ。それならやっぱり早くお父様を探さないとね。出来ればお母様も」
病室。
改めてシン達が湊達を赴き、事情を聴く。最初は何も話すつもりはなかったが蛍がメイの中にスライト・デスの種を見つけたことで話さなざるを得なくなり、事情を話す。
「……まだ美香子ちゃんと同い年くらいなのに……」
愛名がメイを抱きしめる。メイは嫌そうに、しかし拒否しそうにはなかった。
「だが、メイの中からスライト・デスの子種を除去するわけにはいかない。してしまえばメイはもうこれ以上戦えなくなってしまう」
「……無理に戦わせる必要はないんじゃないのか?まだこんなに幼いんだ」
「……メイ、お前が決めろ」
「……私の意思は変わらない。スライト・デスを倒す。そのために私も戦う。たとえ一人になっても死ぬまで戦う」
「メイちゃん……」
「でも、危険な状態です」
メディカルマシーンの前で蛍が口を開く。
「彼女の肉体はもう限界だと思います。下半身の機能がほとんど停止していますし出産を行う際にはかなりの栄養やエネルギーが失われます。それによって彼女はもう全身の細胞が寿命に近い状態です。元々栄養をほとんど摂取できないこの時代でその幼さで戦いながら何度も出産を行っているのですから……」
「……持ってあとどれくらいだ?」
「二度と戦わずにスライト・デスの子種を除去して日常生活を送るのであれば2年は……。しかしこのままの生活を送っていればいつ亡くなってもおかしくありません」
「……メイ」
「変わらないよ、湊。私は戦い続ける。死ぬまで戦う」
「……けど、死んでしまったらスライト・デスの思うつぼだぞ」
シンが割って入った。敢えて湊は何も言わない。メイがシンの視線を睨み返す。
「それでもいい。それ以外の何かなんて私には分からない」
「じゃあ探せばいいだろう。見つけたらいいだろう!生きていなくちゃそれも出来ないんだぞ!!」
「……」
「シン、そこまでにして。今はメイちゃんを安静にした方がいいわよ」
「……悪い」
シンはメイと、そして湊に頭を下げた。
「……甲斐シン、どうしてお前は赤の他人にそこまでする?」
「一緒に戦う仲間だからだ」
「ならメイが戦えなくなったら仲間じゃないのか?」
「そんなことあるわけないだろ。一度でも一緒に命をかけて戦えばもう仲間なんだ。そいつが困っていたら命がけで戦うだけの理由にはなる。それが仲間って奴だ」
「……綺麗事だな」
「人間には必要な事だ」
言ってからシンは退室する。決して喧嘩で気まずくなったような感じではない。
「……姫宮、メイを頼む」
「あ、はい」
「……黒山、」
「ああ。部屋を案内するよう言われてるからな。と言っても一人部屋は無理そうだから俺達と一緒だ。我慢してくれ」
「構わない」
そしてライと湊も退室した。その後もずっと愛名はメイを抱きしめ続けていた。


・会議室。蛍が到着した時にはアコロがエンジュと共に自己紹介をしていた時だった。何がどういうわけなのかは分からないがエンジュはルネと気が合ったらしく無反応ではあるがルネの触手に巻き付かれて、悪そうな表情はしてなかった。
「アコロ、この子に触手生やしていい?」
「趣味じゃないからい~や!」
「むかっ!!」
むかついたルネは何故か触手で爛をぶん殴る。
「いでっ!!どうして俺なんだよ!?」
「あんたタフでしょ?」
「だからってHPガンガン減らさないでほしいんだけど……いでっ!!」
漫才が続く中、それは突然に終わりを告げた。アラートが空間を支配した。蛍が急いで情報を見る。
「……D型UMX。数が3。まっすぐこっちに来ています」
「どうして場所が分かる?」
盗撮鉄板片手に果名がトイレから出てくる。紅葉がすぐに挙手した。
「別行動中に似たようなことがありました。詩吹ちゃんが毒に犯されてそこから出てたフェロモンのようなものを追われていました」
「……じゃあ似たような何かを追われてるって事か」
「……まさか、」
蛍は先程取ったばかりのデータを目にした。それはメイの胎内にあるスライト・デスの子種。
「……これを辿って……!?」
「どうする?空戦が出来るPAMTは多くないんじゃないのか?それに超光速戦闘だって」
「……はい、そうです。でも、敵がセントラルにいると言うことが分かっているならこのままセントラルに向かいます」
蛍の提案により校長がコンピュータを操作して進路を変えて加速する。同時に艦内アナウンスを流して総員に警戒を呼びかける。
飛空艇が時速800キロの速度で空を飛び、それを15倍の速さで3体のUMXが追いかける。このままでは数分で追いつかれてしまうだろう。そして徐々に彼我の距離が縮んでいくと、行動が起きた。
トゥオゥンダが1枚のカードを出してモニタ越しに念じると3体の間にちょうど間隔を埋め尽くす程度の巨大な岩石が出現する。さらにルネが念じればその岩と触れている3体の部分が融合し、一気に3体は飛行速度を落とす。トゥオゥンダが計算して150万トンの岩石をルネに融合させたのだ。今の3体は超光速戦闘は不可能。
「……よし、やるぞ」
飛空艇の甲板の上。そこにヴァルブロッサム、クリムゾンスカートが姿を見せた。
「まさか矢尻とこうしてロボットで一緒に戦う日が来るなんてな」
「驚きはあるだろうがもう色々慣れた」
「……」
「……最上さん、今は集中してください」
「私はいつだっていつも通りよ」
火咲の怒気のこもった声。誰も何も返事できなかった。一人を除いて。
「……咲、色々あるかもしれないけど頑張って」
「……はい、お姉さま」
少しだけ気持ちが落ち着いた火咲は照準を達真に渡す。達真は何も言わずに送られてきたデータを使って構えられたライフルの照準を少しずつ高度を落としていく鈍い敵に向ける。
「兄さん、シミュレーション通りにね」
「分かってる!」
小夜子から送られてきたデータを使って大悟もヴァルブロッサムの8本の触腕型キャノンを相手に向ける。本来は全方位砲撃を行うためのものだが今は火力を集中するために一束にして使う。
「プラズマーライフル!」
「ブロッサムエイト!!」
「「発射!!」」
そして発射された2つの砲撃がゆっくり落ちながらも迫りくる3体に命中。中心地で砲撃の爆発が起きて真っ先に岩が大爆発する。その岩は引火性の強いものであり、爆発が通常よりも倍増する。ただの爆発と、倍以上の火力の大爆発と、無数の岩の残骸が降り注ぎ、3体のUMXはバラバラになり、そのバラバラになった残骸もヴァルブロッサムによってすべて同時に焼却された。
「……あのD型UMXを3体同時にここまであっさり落とされるなんてな。俺達のPAMTじゃもう戦力外かもな」
「そうかもね。でも、今は新しいPAMTを作り出す力は蛍にはないし。宝子山先生に頼るしかないかもね」
遠い目で繁と眞姫が様子(インフレ)を見届けた。
「……来たわ」
ブリッジ。蛍がつぶやき、校長が減速を行い、果名が睨む。
「……」
正面の空。そこにゴーストが浮遊していた。


------------------------- 第129部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
118話「未来のための戦い」

【本文】

GEAR118:未来のための戦い

・セントラルへの空路。軍領地まではあと30キロ程度。しかしそのわずか30キロ程度を永遠のものに出来る存在がそこには浮遊していた。
「……」
ゴーストは何も言わずに黒い竜巻を放つ。しかし、それは飛空艇には届かなかった。
「……ほう、」
甲板の上。そこに十毛とアルケミーがいた。アルケミーは既に手足を用意されていた。
「おい、あいつはどれくらいの強さなんだ?」
「あなたとどっこいってところかしらね。本来の私なら秒殺できるけれども、どう?」
「馬鹿言え。ライランドと合流するまではお前を野放しになんて出来るか。俺と互角くらいならお前とタッグを組めば何とかなるだろう」
「……アレは恐らくパラドックス。どうしてこの星に?既にこの星には干渉していない筈だ。だが、ハンデがあるようだな」
ゴーストは警戒レベルを数段上げて、自分の周囲に直径2メートルほどのエネルギー弾を無数に作り出す。そしてすべてを音速で繰り出す。まるで縦ではなく横に振る黒い雨だ。それにやや遅れて十毛が自身の支配結界を展開してその中に入ったエネルギー弾が次々としぼんでいき、後から来たものとぶつかっては相殺していく。その間を縫うようにアルケミーが跳躍して空を舞う。首の鎖は無限に伸びる。黒い雨の中を貫き、アルケミーがゴーストに接近。一撃で地球を256個破壊するパンチ……その1%の威力がゴーストの懐に撃ちこまれる。が、同時に直径2センチにまで凝縮された黒い竜巻がアルケミーの胸を貫いた。
「……ぐっ、」
「まさかお目に掛かれるとは思っていなかったよ宇宙の歪みを集めて邪神によって作られた32の柱のひと柱」
「……32……!?」
会話の間も傷がふさがっていくアルケミー。しかし若干スピードでは勝てずゴーストの打撃を無防備に受け止めた。
「ぐっ、」
「だが、あまりに情けない姿になったものだ」
放たれた黒い稲妻。受けたアルケミーは再生を封じられて毎秒49回感電する。さらに鎖を通じてその電撃は十毛にも通じる。
「ちっ、役立たずが……!!」
鎖を引っ張ってアルケミーを引きもどす。しかし、それより早くゴーストが飛来して十毛の上半身をエネルギー波で消し飛ばした。それでも少しずつ再生を始めながらも、しかし十毛の下半身はアルケミーを伴いながら高度1000メートルから落ちていった。
「邪魔者は消えた。そろそろ……」
「うああああああああああ!!」
振り向いたゴースト。しかしいきなり開いた時空の歪みからスカーレッドが出現してその顔面を炎を纏った拳でぶん殴る。
「来たか」
「ゴースト!!お前を倒すぞ!!」
「落ちながらよく言う」
浮遊するゴーストに対してスカーレッドは飛行手段がないため落ちていく。しかし、飛来したエンジェルによって回収される。そしてそのエンジェルが飛行するアボラスの上に着地する。アボラスの上にはシュバルツ、グリューネもいた。
「……眞姫、この船は平気だから思い切りやって」
「分かったわ、蛍!」
アボラスが飛行形態のまま飛空艇を巻き付くように飛行を開始する。そこから投げ出されるようにして、しかしグリューネの作った風の道筋を走ってスカーレッドとシュバルツがゴーストへと走る。放たれた炎と雷を片手で打ち消しながらゴーストは黒い竜巻を放つ。
「俺達だっているぜ!!」
その放たれた竜巻をヴェントゥルムがガトリングで相殺し、空からバレルロールしながらニーヴェアリーが飛来して斧を叩き下ろす。
「……ちっ、」
防ぎきれずにゴーストは右腕から血を流しながら落下を始める。それを追いかけるように二人のアカハライダーが変身しながら落ちてきて
「エクシードプラズマー落とし!!」
「フルジャックセンチネル!!」
エクシードプラズマーを伴った2種の攻撃を叩き込む。ゴーストがわずかに口を開きかけると、アボラスの放ったミサイルの雨、ヴェントゥルムの弾幕が襲う。発生した爆発などはキャリオストロが時空操作をすることでゴーストだけに及ぶようになっている。
「厄介な……!」
爆発を抜けて体勢を立て直したゴーストは迫りくるニーヴェアリーの攻撃を今度は両腕で受け止めるとそのまま投げ飛ばし、ヴェントゥルムに激突させる。同時に空気を蹴って再飛翔。50メートルまで巨大化した黒い足で2体まとめて蹴り飛ばす。黒い竜巻で追撃しようとすると、アボラスとインフェルノが降ってきたためそちらに攻撃をまわす。
「うおおおおおおおおおおお!!」
風の道を走ってスカーレッド、シュバルツ、二人のアカハライダーがやってきては、ゴーストの前後左右に回って打撃の連打。放たれたパンチやキックを全て変形したマントでからめとり、超高速回転する事で自らが発生させた竜巻で4人をまとめて吹き飛ばそうとすればグリューネが逆回転の竜巻を発生させて相殺。同時にヴァルブロッサムが8つの砲撃を開始。尻目ではクリムゾンスカートが超光速戦闘領域を発動させている。
「手が多すぎるか……」
ゴーストは8つのビームを発射してヴァルブロッサムのを迎撃して貫通して撃破。同時に自身も超光速戦闘を開始して100万分の1秒の世界で迫りくるクリムゾンスカートの斬撃を全て発生させた黒い刃で受け流しながらその手足を切断させ、巨大化させた足でけり飛ばす。超光速戦闘を終了させると、それに追随しようとしていたなんか全裸のボディビルダーをビームで撃退。と、ビームを撃った手に詩吹の放った銃撃が命中して5本指全てがへし折れる。それに一瞬意識を持っていかれたと思った瞬間にはスカーレッド、シュバルツ、グリューネ、紅葉がそれぞれ必殺の一撃を叩き込む。
「ぬうううううう……!!」
そして、ついに着地したゴーストはしかし同時に膝を折り、ダメージの大きさを認識する。続いて着地したスカーレッド、エンジェル、シュバルツ、グリューネ、紅葉。
「覚悟しろ、ゴースト!!」
スカーレッドはこの戦いの間ずっとチャージしていた火炎弾を発射。ゴーストが回避しないようにシュバルツが電磁結界を張ってゴーストの両足を地面に吸着させる。動けない状態で迫る火炎弾に、ゴーストは3倍の威力のエネルギー弾を放って打ち破る。そのまま正面の5人も消し飛ばす予定だったがしかし着弾前に5人は姿を消していた。
「……くっ!」
空を見上げる。そこではインフェルノ、アボラス、クリムゾンスカート、ヴェントゥルム、ニーヴェアリー、ヴァルブロッサム、姫火が一斉に攻撃を開始していた。まるでこの地域一帯全てを焼き払うかのように。そして目論見通りか、まるで世界の終わりのような大爆発が発生して周囲250キロに震度6の大地震が発生した。
「……とんでもないな」
キャリオストロの力で飛空艇の上にまで転移していたスカーレッド達が地上を見下ろす。
「……本当ならPAMTは全機出撃させるべきではないわ。けれども、相手が相手だもの。全力を出して倒さないと次はないかもしれない」
蛍が正確にレーダーで相手の情報を探る。火力だけならD型を20体くらいまとめて消し飛ばせるであろう今の全火力集中攻撃。しかし、不思議と今ので倒せてるとは思っていなかった。
「……くっ、」
爆心地。ゴーストは膝を折ったままの姿でそこにいた。ダメージ自体はあまり多くはなかった。ほとんどの攻撃をバリアで防いだためだ。しかし、防ぎきれたものではなく数発ほど直撃を受けた。それが今の結果だ。
「……生きてやがるのか」
思わずスカーレッドが高い声を出してしまう。しかし、隣に立つもの全員は同じ感想だった。今の総攻撃は本丸であり、最終手段のようなもの。実際にほぼすべてのPAMTが今のでエネルギー切れになってしまい、姿を消している。
「どうする?地上に送ってもいいけど、まだ戦う?」
キャリオストロの声が聞こえる。そして全員が首肯した。
「……」
ゴーストの前に立つスカーレッド、エンジェル、シュバルツ、グリューネ、二人のアカハライダー。


・病室。メイは今が戦闘状態であることに気付いてはいた。しかし、外に出て戦うことは禁止されていた。ならば勝手に行くしかないがここは高度1000メートル。生身どころか変身しても降りれはしないだろう。ゴーストが近いと言うのは先程から響く子宮の痛みで分かっていた。何度も立て続けに起きる爆音。その中でも痛みは消えない。ゴーストは倒されていない。ここには戦力が揃っている。だから自分ひとりが行っても何の役にも立たないかもしれない。それでも燻ってなどはいられない。今一度許可を得るためにブリッジに連絡しようとするが無線が通じない。
「……どうすれば、」
「あなたは、どうしたいの?」
声。いつかもそして最近も聞いたような声。背後に半透明な少女が立っていた。
「……あなたが、この力をくれたの?」
「……そう。私はこの星の命を司る者。あなた達に力を与えたの」
「……でもあなたはフラワルド。あなたもゴースト相手にある程度戦える。どうしてあなたがゴーストと戦わないの?」
「……私には時間がないの。あまり私が地球の奥底から離れていると邪神が目覚めてしまう。でもスライト・デスも放っては置けないから」
「……お願い。私にもっと力を。たとえ次の戦いで死んでしまっても構わない。だから、ゴーストを倒せるだけの力を……!」
「……あなたの力の源は命の輝き。でも、それは死んでしまっても構わないって言う人の心には芽吹かない。だから、信じて。命の輝きを。そして、それはあなた達5人全員に言える事だから……」
「……フラワルド……」
そこまで言うと、少女は姿を消してしまった。しかし彼女が残した輝きはメイの胸に刻まれたような気がする。
「……戦いたい?」
いつの間にかルネが部屋にいた。メイは静かに首を縦に振った。


・傷ついたゴーストの猛攻は今まで以上だった。
「でやああああああああああ!!」
スカーレッド、シュバルツが同時に繰り出す拳を軽く回避すると同時に回し蹴りで吹き飛ばす。と、その回し蹴りに合わせるように紅葉が走り、
「エクシードプラズマ返し!!」
電撃の回し蹴りを重ね合わせるように繰り出す。が、激突は一瞬で終わった。放った紅葉の左足は炭化して、紅葉はうずくまる。ゴーストの右足は変形した骨が見えていたが徐々に回復されていく。そこへ詩吹が火力を集中するが再生の方が速く、ビームの一撃で吹き飛ばされてしまう。
「トルネードシフト!!」
グリューネの竜巻に乗って飛来したエンジェルの斬撃。しかしそれも指で受け止められ、ビームでグリューネごと吹き飛ばされる。
「……強い……」
6人はいつの間にか変身が解除されていた。紅葉と詩吹のプラズマ回路はショート寸前であり、次に変身したらまた壊れてしまうだろう。対してゴーストは倒すどころかどんどん傷が治っていき、既に右足も完治していた。
「諦めろ、これが絶望だ。そしてそれが我がエクトプラズマーのエネルギーとなる」
「……だったらこれはどう?」
「ん、」
声。突如ゴーストの眼前の空間が歪み、メイが姿を見せた。さらに突然マッハで伸びた触手がゴーストの右足をへし折る。
「ぬ、」
「メイ!」
シン達4人がメイの傍まで駆け寄る。
「……みんな、諦めないで。命の輝きがあればゴーストを倒せる」
「……いいんだな、メイ」
「勘違いしないで。私は死ぬために戦ってるんじゃない。未来のために戦っているの。これからも生きていくために」
メイの目が、5人の眼光がゴーストを見やる。すると、5人の前に火柱が、ハートが、稲妻が、竜巻が、水柱が出現する。
「……あなた達に力を……この世界を守るために」
少女の声、フラワルド。5人が手を伸ばすとペンダントみたいに小さなナイフと鞘がその手に握られる。5人は一度互いに視線を配るとナイフに祈りを込めてから鞘に突き入れる。
「ダフェードライジング!!」
声が光を呼び、5人の姿を変えていく。
「燃える心が明日を照らす!スカーレッド!!」
「天より恵みをあなたの元へ!エンジェル!!」
「絆の稲妻、黒き闇を貫く!シュバルツ!!」
「緑の旋風が自由を拓く!グリューネ!!」
「青き命の水が未来を創る!アズール!!」
「永遠の未来のために!我ら、心愛戦隊エターナルF!!」
5人の変身が終わるとその姿は今までとやや違っていた。左手首についたナイフと鞘はもちろんだが、フラワルドのようにところどころに黄金の突起物や白銀のラインがあった。
「……ふん、また地獄を見たいようだな」
ゴーストが指を鳴らし、アズールの胎内から怪人を強制出産させようとした。しかし反応はない。
「何……!?」
「もう私に絶望はない!」
どころかアズールが足裏から水を出し、その勢いで一気に距離を詰めてゴーストの腹に膝蹴りを叩き込む。
「ハイドロクラッシャー!!」
その状態で膝に大量の水を集約させ、爆発させる。
「ぬ、」
2歩を下がったゴースト。そこへシュバルツが走り、
「サンダーバースト!!」
黒い電気の塊をバスケのダンクのようにゴーストの顔面に叩きこむ。
「ウィンドスライサー!!」
「ホワイテストスラッシュ!」
さらにグリューネが風の刃を、エンジェルが刃から衝撃波を放って同時にゴーストを直撃。
「馬鹿な、我がダメージを……?まさかソウルプラズマーを宿しているとでもいうのか……!?」
「そんなの知るかぁぁぁっ!!」
スカーレッドが右手に炎を纏いながら走り抜け、地を蹴って跳躍。
「サラマンドルァマァグナム!!」
いつもの100倍以上の温度の炎、全体重、腕力、そして心の力が込められた拳をゴーストの胸に叩きこむ。
「ぬうううううう!!」
直撃の瞬間に大爆発が起きてゴーストの体を100メートル離れた岩山まで吹っ飛ばして叩きつける。
「……認めない。……今の内に奴らを……ソウルプラズマーを滅ぼさなくては……!!」
立ち上がったゴースト。それまでの悠然とした態度からは想像もつかない程の重傷。鎧のように硬質だったマントはズタズタに引き裂かれ、角は折れている。だがその状態で持てる力の全てを集約して放った黒い竜巻。それは以前放たれたものの数倍以上の大きさと出力だった。
「……アレを通せば俺達でも粉々になるし、後ろのみんなも危ないだろうな」
スカーレッドは振り向くことなく、飛空艇を感じ、そして4人が自分の傍まで来ている事を知る。
「私達の心の力を集めよう」
「そうすればきっと奴の一撃だって突き破れる」
「ゴーストを倒せる」
「……やろうよ、みんな」
5人が左腕を伸ばして円陣を組んでは、力のシンクロを始める。スカーレッドの力がエンジェルに、エンジェルの力がシュバルツに、シュバルツの力がグリューネに、グリューネの力がアズールに、そしてアズールの力がスカーレッドに。その力の永久機関が一周するごとに魂の力……ソウルプラズマーは輝きを増していく。
「ソウルイグニッションフォース!!」
そして極限まで高まった魂の輝きを放出する。放出された、見たこともない輝きは迫りくる黒い嵐をいともたやすく打ち破る。
「……馬鹿な……そんな馬鹿な……!!」
抵抗のゴースト。しかし何も出来ないまま魂の輝きの中に吸い込まれていき、跡形もなく消し飛んだ。
「……やったのか……?」
輝きも竜巻も消えた後にスカーレッドがつぶやく。平穏の静寂に5人は混乱する。しかし、蛍からのその報告を受けて5人はどこまでも喜びの声を上げた。
「……すごい、もう完全に追い抜かれちゃったかな」
紅葉と詩吹が少しだけ残念そうな表情をしながら、しかし喜びの涙を流す。それは飛空艇艦内でも同じだった。
校長と果名はブリッジ内で熱く握手をし、桜子と燦飛と何故か包帯姿の狂子が抱き合い、ルネは再生中の十毛とアルケミーを拾う。
「貸し1つね」
「調停者候補のくせに。けどなんかブリッジ騒がしくない?何かあったの?」
「ゴーストを倒したみたいね」
「……へ?何言ってるの。アイツの気配消えてないんだけど」
「へ?」
アルケミーの声。その場にいたルネはもちろん通信で聞いていた蛍達の時間を止める。
「それに、この気配はスライト・デスの頭だね」
アルケミーが見上げる。と、確かにそれまで青空だったのがいつの間にか夜のように、いや宇宙のように真っ暗だった。そしてそこには、空一面には人間の老人のような顔が大きく映し出されていた。
「私の名はスライト・デス首領のキルデバランだ。まずはよく、ゴーストを倒したと誉めてやろう」
その声に一同が唾を飲みながら静かに見上げる。
「ソウルプラズマーがまさかこのような星で見つけることになるとは思わなかったぞ。褒めて遣わそう。だが、見つけた以上は根絶やしにする。それが我々スライト・デスの目的なのでな。……さて、ゴースト将軍。魂だけの状態でまだ残っているようだな。ならば、君には最後の名誉を与えよう」
映像の中の目が光ると同時。ゴーストが消し飛んだそこに同じ色の光……禍々しい闇色の光が瞬く。すると、
「ひyuxxxxxxxxxxgbgbgbgbgbgbxxxxxxxxxxxxxxxxxxx!!!!」
擬音交じりのとても地上の生命には出せない奇声が上がった。そして、巨大なシルエットが一瞬で出現した。それは怪獣のような姿こそしているがゴーストで間違いなかった。
「ゴーストがUMXになって復活した!?」
「さあ、ゴースト。灯火の命を以てその星を破壊するがいい。ぐわっはっはっはっは!!」
醜い笑い声が消えると同時、ゴーストは怪獣のような雄たけびを上げて震度8を引き起こす闊歩を始めた。

------------------------- 第130部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
119話「覚醒する機神」

【本文】
GEAR119:覚醒する機神

・激しい咆哮を上げながら闊歩するのは全長70メートルほどの怪獣となったゴースト。元々の声以上に人間離れした叫び声を上げるだけでもはや言葉を話す事も出来ずに大暴れする漆黒の巨体はただ両腕を激しく動かし、闊歩するだけで周囲に災害をもたらす。一歩するだけで震度8の地震が発生し、多くの者はまともに立ちあがることすらできない。そしてそのままゴーストの足や本体よりも長さのある尻尾に届きそうになった時、そうではない者達が動いた。
「うあああああああああああああっ!!!」
スカーレッドが地を蹴ってゴーストの膝に炎の拳を打ち込む。本来ならその膝にある半月板よりも小さな体だが魂のこもった一撃はその半月板を破砕し、歩みを止めるどころか2歩を下がらせた。同時にエンジェルがシュバルツとアズールを抱えながら飛翔して相手の頭上から落とす。
「うおおおおおおおお!!」
「やあああああっ!!」
シュバルツの落雷を纏った踵落としが、アズールの生み出した200リットルの水で出来た鉄槌が同時にゴーストの2本角に命中する。さらに、自身で起こした竜巻に乗って飛翔してきたグリューネが別の竜巻を纏った回し蹴りで喉笛を狙う。
ゴーストからすれば豆粒のような小さな者達の攻撃だがしかしその威力は決して無視できる程度ではない。角にも喉笛にもダメージは損傷は見当たらないがしかし確実にダメージを与えられている。そして、5人がゴーストの右肩に着地すると、
「ソウルイグニッションフォース!!」
放たれた魂の輝きは間近な距離からゴーストの首から上半身を包み込み、爆発と言ってもいい浄化の光が巻き起こる。反動で5人が肩から吹き飛ばされるとその光が範囲を変えてゴーストの全身を線状に焼き尽くしていく。だが、着地した5人が見上げるとそこではまだ暴走を続けるゴーストの姿があった。先程本来の大きさのゴーストを容易く消し飛ばした一撃は今のゴーストには軽いやけどを負わせる程度にしか通用しない。
「……今の攻撃を以てしてもダメか」
飛空艇の中、果名は状況を見やる。一度はゴーストを倒したことでぬか喜びしていたがまさか敵の大将自らがゴーストを、しかもあのような姿に復活させるとは思わなかった。UMXやらパラディンやらを用いて冷静に、狡猾に自分達への追撃を行っていた敵の知将は見る影なく大暴れする巨大怪獣となっている。しかしそんなことに憂いを感じているような余裕はない。どのPAMTも今は充電時間中であり、使用は不可能。おまけに人間サイズのゴーストとの戦いでまともに戦える人材ももはやあの5人だけである。その5人で大したダメージを与えられないのであればこの状況は非常にまずい。
ゴーストの闊歩に合わせて戦場は少しずつ後退している。セントラルとの距離も遠ざかっている。さらにレーダーを照らしてみれば進行先のセントラルには多くの生命体反応が集まってきている。間違いなくこちらに対する迎撃準備だろう。つまりこの場を何とか切り抜けて先に進んだとしても手荒い歓迎が待っている。
「……退くのも手かもしれないな」
「そうですね。……いや、待ってください」
蛍がレーダーを拡大。
「このままゴーストが進むと予想される経路の中にはデスバニア高原があります」
「確か、天死の住処だったな、それがどうかしたか?」
「そこには現状唯一と言ってもいいまともな生活が出来ている生活圏・山TO氏が存在しています。このままいけばゴーストは山TO氏に……」
「……予想到着時刻は?」
「およそ7時間後。あそこには一応の迎撃手段なども用意されているようですがあの規模が通じるかどうかは……」
「……まあ、無理だろうな。しかし、これで7時間あるならば一度撤退して1時間後か2時間後にでも再びPAMTが使えるようになってから出撃するのはどうだ?」
「……それしかないのなら」
しかし蛍はその行動を移せなかった。何故ならば突然空から何かが姿を見せたからだ。それはまるで巨大な羽蟲のような姿。
「UMX2号!?」
200メートルサイズの2号はその身を少しずつ削り落とすとそれらが小型サイズの2号となって一気に編隊を組んでは飛空艇へと突撃を仕掛けてくる。1体1体は10メートルサイズでそこまで威力はないが数十体で迫りくるそれは下手をすればゴーストより厄介かもしれなかった。飛空艇のジェットエンジンの発射口に集団でまとわりついては燃えながらも少しずつふさいでいき、飛行能力を奪っていく。
「……」
蛍は校長に目配せをしてからパラレルフォン片手に席を立つ。
「……蛍?」
「私が出るわ。私のPAMTはまだ使える」
「だが、アズライトはPAMTそのものの試作品であって性能はかなり低いんじゃなかったか?それに君が死んでしまえば結局この船も沈むし、感情的にも戦略的にも行かせられないぞ」
「でもこのままだったら、」
「……PAMTを貸してくれ。俺が出る」
「……駄目よ。素人には無理。……大丈夫、私は歩乃歌の次に強いんだから」
「歩乃歌?」
果名の疑問。次いで光る蛍の体とパラレルフォン。気付けば次の瞬間には飛空艇の上にアズライトが立っていた。
「……アレは、お姉さま……」
格納庫の窓から火咲が見上げる。
「おいおい、白百合の奴大丈夫か?あいつが死んだら俺達も死ぬんだぞ?」
「いくら蛍が強いからって少し無茶だわ」
「……達真、まだ充電は出来てないの?」
「まだだ。さっき充電を始めたばかりだから……170分は必要だな」
「……くっ、」
待機組が見つめる中、アズライトはライフルを片手に走り出した。走る音を立てればそれに反応して2号が何体か迫りくる。
「……」
引き金を引く。相手を一瞬見てから。銃口からはあらかじめセットされていた通り一発の弾丸が発射され、数秒で無数に炸裂。散弾となって飛来しようとしていた7体の敵をハチの巣に変える。それを数度繰り返していく内に後尾にあるジェット噴射口が見えてきた。引き金を引く。
貫通力を強めた一撃は密集していた敵を次々と落としていく。エンジンの出力が回復して飛空艇が高度と速度を取り戻す。
その結果を見ながらも、しかし果名の表情は暗いまま。
確かに蛍の技量は十分だ。あの敵程度なら落とされる心配はないだろう。しかし、手数の問題で落とすと言うところまでは行かないだろう。このままPAMTのバッテリーが尽きるまでの間エンジンを死守するのが限界であり、PAMT2号本体の撃墜やゴーストへの攻撃は難しい。
「……最悪の場合はあの5人を置いてここから退避するしかないか……?」
その問いに校長は答えなかった。だが、代わりにその目には戦う5人の姿が映っていた。
「ふんんんんんんっ!!!」
ゴーストの足の下敷きになっている5人。しかし潰されはせずに踏ん張っている。その状態で5人全員息を合わせて拳を繰り出し、ゴーストの巨体のバランスを崩して転倒させた。そして、
「機神召喚!!」
左手のナイフで虚空に円を描くと、それぞれ炎、ハート、雷、風、水の魔方陣が形成されてやがてそれらが20メートルほどの大きさまで膨張する。
「機神獣推参!!」
炎から出た獅子にスカーレッドが吸い込まれ、体内のコクピットに収納される。同じようにエンジェル、シュバルツ、グリューネ、アズールも孔雀、カブトムシ、キツネ、大ヤドカリとなった光の中に吸い込まれてコクピットに収納される。
「アレは、PAMTか!?」
驚く果名の前。5体の機神獣がそれぞれゴーストへの攻撃を開始する。大きさや火力ではやはりゴーストには全く勝てていないが先程よりかもいくらか勝負は変わっていた。スピードやら手数やらで確実にゴーストを押し始めていた。コクピット内の5人も体を休められている。しかし、体力の消耗に関しては先程よりもはるかに上だった。必要な時にだけソウルプラズマーの輝きの力を使っていた先程とは違い、20メートル級の機神獣を具現化し、そのまま戦っている現在ではすべてを賄う輝きの力の消耗は先程の数十倍以上。恐らくゴーストの攻撃を一度でもまともに食らえば気力が尽きてしまうだろう。
「うああああああああああああああ!!!」
全身、炎を纏い、直径30メートルほどの火炎弾となった獅子の機神獣が隕石のようにゴーストに正面から激突を果たす。一瞬だけゴーストはそれを受け止めたがあまりの熱量に10本の指が手首ごと溶けてしまう。が、炎の薄い場所=腹にゴーストは膝蹴りを撃ちこんだ。
「ぐああああああああああああ!!」
吹っ飛ばされる獅子の機神獣。いくつもの大木を押しつぶしながら転倒。やっと止まったと思ったらその動きまで止まっていた。
「はあ……はあ……」
スカーレッド自身がコクピット内で既に力尽きる寸前まで消耗していた。気持ちだけで何とか機神獣を持たせているが指一本たりとも動かすだけの体力は残っていない。
「……ここまでか……」
「ううん、まだだよ」
「……え?」
声が聞こえる。それは機神獣の中から。しかし、どこかで聞いた事のある少女の声。
「機神獣にはまだ使われていない力が残っているわ。だから諦めないで」
「……機神獣の力……」
目を開けるスカーレッド。見ればコクピットには1つだけボタンがあった。好奇心に最後の力を込めてスカーレッドは指でボタンを押す。すると、獅子の機神獣だけではなく5体の機神獣が動きを止め、より強い輝きの力を解き放つ。ゴーストの突進を受け止め、弾き飛ばすとそこには1体に集結し合体した姿の機神獣が存在していた。同時に5人はいつの間にか同じコクピットの空間に。
「……さあ、その名前を呼んであげて……」
声に導かれるままに、
「機神王フォノメデス!!!」
動物の形から人間に近いフォルムとなった機神の王。フォノメデスはそれまでとは全く世界が違った。まず、一定値以上の輝きの力があれば消耗が一切なくなった。そして何よりも、それまでの何十倍、下手をすれば何百倍ものパワーがあった。
「はあっ!!」
フォノメデスの拳。ただのその一撃が自身よりややサイズが大きいゴーストのそれを空高く吹き飛ばす。跳躍して追いかければ0,1秒で追い抜き、もう一撃の拳でゴーストを地面まで吹っ飛ばし、光速の30倍の速さでゴーストが空を貫く。フォノメデスが着地して様子を見ればゴーストは背骨が完全に粉砕されていて首から下が物理的に動かなくなっていた。時折尻尾が痙攣して動くだけだ。
「……あのゴーストをたった2発で……!?」
今日だけで何度驚きの声を上げたかは分からない。だが、今回の驚きは果名が今まで生きてきた中でもトップクラスのものだった。今起きた現象を見て驚かないものはいない。だからか、次に起きたその事故には対応できなかった。
「あ!」
倒れて動かなくなったゴースト。僅かに痙攣していたそれも終わって尻尾がだらんと垂れた時だ。まるで呻き声のように小さく動いたその口から黒い火炎弾が発射されてまっすぐ伸び、その先には偶然飛空艇とアズライトがあった。
「っ!!」
アズライトはライフルの銃口を向けるがしかし、引き金を引く前に事態は変化を遂げた。突然一発のミサイルがどこからか飛来して側面から火炎弾と激突、その爆発も込みで火炎弾は飛空艇から100メートルの距離で消滅した。
「……今のは、まさか……!!」
蛍が、火咲が、眞姫が窓の外、黒い渦が巻く空を見上げる。その中心。視点が合わさると同時に暗雲が消し飛び、紫色の閃光がこちらに向かって伸びてきた。そのシルエットは戦闘機のようなものから機銃を撃ちながら少しずつ形を変えて変形していき、いつの間にかハチの巣になっていた2号本体が落下してきた飛空艇の上に立ってはどこからか出したのか一振りの剣で消し飛ばす。
「……百連……まさか、歩乃歌!?」
「違うよ、蛍。これは百連MK-II名付けて二百連だよ」
アズライトの隣に立ち、終億の霹靂を鞘に戻しながら二百連の中の少女・紫歩乃歌はかつてと変わらない声でそう返した。

------------------------- 第131部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
120話「荒廃した霹靂」

【本文】
GEAR120:荒廃した霹靂

・UMX2号は粉々に消し飛び、動かなくなったゴーストもやがて光となって消えていった。
飛空艇は各部メンテナンスのために一度森の中に着陸して、しかしいつ敵の追撃が来てもいいように準備だけはしていた。
「……つ、疲れた……」
医務室。シン達5人がベッドの上で微動だにせず呻く。紅葉がマシンで調べたところ、メイの胎内からスライト・デスの子種が除去されていた。しかし、輝きの力が宿ったメイはそれだけでもう変身が出来るため問題はないようだ。
「……くたびれちゃったけど、お風呂入りたいよねメイちゃん」
「……お風呂?」
答えを聞かないまま愛名はフラフラとした足付きながらもメイを抱えてシャワー室の方に向かっていった。その後を追うように借名がカメラを片手に走っていく。果名がその背中にサムズアップしながら。
「しかし、よくやったなお前達」
親指を戻し、シン達に歩み寄る。
「まさかあのゴーストを2度も倒すとは思わなかったぞ」
「お、俺達だって思わなかったさ」
「けど、無我夢中でやったら勝てた。俺達人間の生きる力も捨てたものじゃないって事だな」
「……そうかもしれないな」
寝たきりの3人。一息ついてから一斉に同じタイミングで果名を振り向く。
「医務室掃除一週間を担おう!」
「……命がけで戦ったばかりの仲間に対してもその対応とか逆に誇らしいよ、お前達」
しかし果名は早速借名から送られてくるデータの複製を開始した。


・で、そのシャワー室。脱衣所。
「いやぁ、まさか蛍達までこの世界に来てるなんて知らなかったよ」
服を脱ぎ、髪を下ろす歩乃歌。そのしぐさの変わらなさとしかし以前見た時よりも育っている胸に眞姫は目を丸くする。対して蛍はためらいなく服を脱いではその義手を歩乃歌に見せつける。
「……えっと、何?」
「ううん。覚えてる、これ?」
「まあね。僕がやっちゃったあれでしょ?それが何?」
「ううん。覚えていてくれたらいいの」
「……ねえ眞姫。蛍ってこんなヤンデレだっけ?……って、あ!眞姫のおっぱいまた大きくなってる!本当にそれで中2なのかー!!」
「もう3年よ。まあ、ほとんど学校は行ってないけどね」
「ぐぬぬ……。火咲は火咲で本当におっぱいお化けになってるし」
「元々こうだし」
「美咲は美咲で僕の事全然知らないし」
「……ごめんなさい」
歩乃歌、蛍、眞姫、火咲、赤羽が服を脱ぎ終えるとシャワー室に。そこでは愛名がくまなくメイの体を素手で洗っていた。そしてそれを借名がカメラで撮影している。
「……アリスちゃん何やってるの?」
「ヴぇ!?ほ、歩乃歌さん!?いや、あの、私アリスじゃありませんから!借名ですから!」
「……どういうこと?僕の名前知ってるみたいだし。君アリスちゃんだよね?」
「……歩乃歌、何か事情があるみたいだからそっとしておいてあげて」
「ふぅん。まあいいけど。でもどうしてあの子が?あの子前にD型初襲来の時にいなくなっちゃったんじゃなかったっけ?」
「妙なからくりで生きてたみたいよ」
と、そこへ両足触手な幼女がやってきた。ルネである。
「あ、ルネちゃんだ」
「本当に面白い世界よね、ここは。まさかあんたとまた会えるだなんてね。しかも地続きみたいじゃない。普通は世界超えたらリセットされるんだけど」
「君だってリセットされてないじゃんか。……ああ、そう言うことか。だから美咲は僕のこと覚えてないのか」
「……歩乃歌、一応聞いておくけど私と別れてからどれだけの時間経った?」
「ん?えっと、半年くらいかな?性殺女神(セキシキルアルクス)倒して、正輝君の家に蛍と行って、D型倒してから今度は火咲や美咲と一緒にみれぃ達と会って、ライブして色々あって僕個人ではD型の出処である宇宙の彼方まで行って、そこだと時間の流れが違うからどうなんだろ。火咲は?」
「……2年ね」
「うわちゃー。あれでも、眞姫達は3年生なんだよね?どういうこと?」
「下級生ちゃんとは別の時空の世界にいたのよ」
歩乃歌の髪を以前同様に眞姫が梳かす。この感覚は1年ぶりだった。自分だけは歩乃歌と一緒に時空を超えた旅には行けなかった。だから久しぶりの時間だ。
「歩乃歌、髪少し伸びた?」
「まあね。同じ髪型にするのちょっと厳しくなってきたんだよね。まだあのお店やってる?美容院さん」
「それどころかあの世界そのものがもう滅んでるわよ」
「へ?どういうこと?」
「列強宣言世界から打ち切られたのよ、あの世界は。カードの雨が降ってきて性殺女神(セキシキルアルクス)もUMXも現れなくなってもうPAMTの存在もいりませんってなったら急にね。でもある日突然滅ぼされたのよ」
「誰に?」
「UMX0号」
歩乃歌は思い出す。あのとてつもないサイズの巨人を。UMX0号確か元は人間だったと聞く。しかし、進化のGEARを持ってしまいどこまでも進化を遂げていったが故に人間だけでなくどんな生物よりかも進化を遂げ、最終的には調停者クラスにまでなったあの強敵。確かにあれほどの強さならば世界の1つや2つを滅ぼすくらいは出来るだろう。正直、終億の霹靂を持った千代煌だってまともに戦えるかどうかは分からない。
「……どうして?」
「知らないわよそんなもの。でも私達だけは生き延びた。そしてこの世界に来たのよ。あ、でもセントラル関連ならまだ生きているわ。和佐さんも無事よ。と言ってもここ数週間は連絡が取れないけどね」
「……あの人ならそう簡単に倒されたりどうにかなることもないだろうけどね」
歩乃歌はシャワーを浴びているルネを見た。両足がないために床に寝そべる形で温水を浴びている。それでいて触手を伸ばしながら盗撮している借名を性的にいじめている。初めてではないことを知っているからか容赦なくその股間にも触手を這わせては何度も絶頂へと導いている。
「……レイプされながら他人の盗撮してるよあの子」
「そう言うあんたは人の胸を揉むんじゃない」
「だってとても中学生の胸じゃないよこれ!火咲のはもう論外だけど、僕だってライラみたいに生えてたら挟み込んでみたいもん!ねえ、ルネちゃん僕に生やしてくれない?」
「それで歩乃歌が私を襲ってくれると言うのなら私からもお願いするわ」
「うん。蛍は黙ってて、怖いから」
「と言うか処女は面倒だから嫌」
言いながらルネはついにカメラを自分で持って愛名、メイ、赤羽のシャワーシーンを盗撮しながら借名を直接その手で犯し始めた。
「ひゃううううう……ひゃん……ひゃ……ぁぁぁぁ……」
もはや借名は自分と言う物を失っていた。ただただルネの指や触手に全てを預けて代償に快楽を受けていた。その股間からは夥しい量の愛液やゼノセスターと交わった証である天使の卵を放出している。
「で、アリス?そろそろ話しなさいよ。どうして200年以上前、いいえこの世界で言えば400年前?に滅んだ世界の人間であるあなたが、あなた達が生きているかを」
ルネの新しい触手はついに借名の尻にまで加わり、ひたすらに貫いていく。前後両方の穴と胸を人外の領域で攻められながらアヘ顔を晒す借名。10秒で8回以上も絶頂を迎えさせられまくって酸欠寸前にまで陥りながらも与えられる快楽に完全に全てを任せている姿は従順なメイドではなく完全にただの雌豚だ。
借名の秘密の穴を容赦なく2本の触手が貫けば数秒に一度のペースでルネは自身の絶頂の証拠である液体を借名の子宮へと流し込み、それらは一瞬で卵の姿を形成してはどこにそんな隙間があるのか分からない場所から体外へと排出される。
「……究極的に醜悪だわ」
シャワーを浴びている火咲が嘔吐をこらえながらつぶやく。
「……………………」
15分もの凌辱を終えて200個以上の卵を産み終わった借名はシャワー室に全裸で倒れたまま動かない。
「歩乃歌もこうなりたい?したい?」
「う~ん、ちょっと御免かな」
既に頭を洗い終わった歩乃歌が借名に歩み寄り、膝枕をする。興味本位でその股間に手を伸ばすとピンポン玉サイズの卵が出てきた。
「……ところで歩乃歌、あんたはこの後どうする?私達は多分セントラルに殴り込みをかけるけども」
眞姫の提案。この15分の間に歩乃歌は大体の事情を聞いていた。
「う~ん、別行動でも問題はないかもしれないけどもう会えないって思ってた眞姫達に会えたんだもん。一緒に行くよ。スライト・デスだっけ?あんな連中に僕の知っている可愛い女の子たちがひどい目にあわされるとか許せるものじゃないもんね」
「……前から思ってたけど歩乃歌は絶対バイよね」
「ひ、ひどい!眞姫がいぢめてくる~!!」


・病室。そこでは黄緑が休んでいる。肉体的なダメージはもうほとんど残っていない。しかし合流して以来一度も見せていない牙が紫音の不安を誘う。ダハーカについては元の世界でもこっちの世界に来てからもいろいろ話を聞いている。ダハーカはその牙と呼ばれる特殊な器官を使って生命体を捕食して通常とは別に栄養を摂取しなければならない。既にあらゆる生命のほとんどが死に絶えてしまったこの世界では同じようにダハーカも死に絶えてしまい、もうほとんど数が残っていない。そして牙を失ったダハーカにも未来は残されていない。負傷が治ってなお目を覚まさない黄緑はもしかしたら牙を失ってしまっているのではないだろうか。
「……あのぉ、」
「……何よ」
背後。来音が入室してきた。
「まだ黄緑、起きない?」
「……ええ、そうよ」
前の世界、正確に言えばそのさらに分岐する前の世界からだろうか。正直来音は苦手だ。普通にしていればそりゃ可愛い女の子で済む話かもしれないが黄緑の恋人と言うのがどうしても気に入らない。そこから始まってもうもはや何もかもが気に食わない。完全に八つ当たりにも満たない幼い感情だと言うのは分かっているし、果てしない程に自虐を引き寄せてはそれを咀嚼して己を慰めているのだと認めてもいる。しかしそれでも気に入らないものは気に入らない。
「紫音ちゃん」
ふと、声がする。相手にもこちらの態度や気持ちが伝わっているのか来音は無理に近付いてこようとはしない。
「そんなに私の事、嫌い?紫音ちゃんが好きな黄緑を好きな私がそんなに嫌い?」
「……ええ、そうよ。全部知ってるじゃない。話しかけてこないで。……でも生きてくれてありがとう。兄さんはずっと元気がなかった。あなたと再会した時の兄さんは心から笑顔だった。……そこだけは感謝するわ」
「……そうなんだ」
それだけ言うと目も合さずに紫音は退室した。何故か分からないがもう二度と背後の二人には顔向けできないと感じた。ふとその陰に何かが差し込んだ気配がした。


・別室。そこは倉庫。
「馬鹿!!」
乾いた音が先程から何度も響いている。それは陽翼が達真の頬をひっぱたく音だ。
「達真?もう一回言ってみて?あの火咲って子と何回セックスしたの?」
「……20回くらい」
「馬鹿!!」
再びビンタ。既に達真の口の中は血でいっぱいだ。しかし達真は何も言わない。
「……達真の中では僕は死んでしまった。それはあの世界では正しい事なのかもしれないけどわざわざ僕本人に言うんだから殴られる覚悟は出来てるんだよね?」
「……ああ」
再び乾いた音。
「しかも達真は僕を一度殺してるそうじゃない。どんなに壊れたって僕はいつまでも達真と一緒に居たいって思ってたはずだよ?陣崎さんから聞かなかったの?」
「……あの人は関係ない。けど、俺はあんな姿の陽翼を見たくなかった。だからせめてこの手で……」
再び乾いた音。今度は3発。
「それで達真が壊れて火咲ちゃんまで巻き込んじゃって!完全に僕のせいじゃない。達真は僕のせいにしたかったの?」
「そんなことはない、だから俺が……」
「その妥協を受け入れないで!」
今度は膝蹴りだった。見事に顎に決まって達真はあおむけに倒れる。そして陽翼はそんな達真に向かって服を脱いでから馬乗りになった。
「陽翼……?」
「20回だったよね?じゃあいまから30回やろう!僕は達真との間の子を新しい日本の王子様にするんだから!」
「……もう日本はないと思うけど」
「だったら新世界の王子様にするの!……それとも達真はもう僕の事嫌い?火咲ちゃんの方を選ぶの?」
「それは……」
「答えられないくらいもうあの子の事が好きなんだぁ?でも僕だって負けないから。また達真に僕だけを見てもらえるように頑張っちゃうんだから」
陽翼は心の底からの笑顔を見せてから腰を沈めた。達真のズボンに鮮血が広がった。
「……は?」
「あ、うん。来音ちゃんに言って新しいボディを作ってもらったの。だから2回目の初めて。もうソバも平気だもんね!」
そうして本当に達真は30回絞られた。男子部屋に戻ってシン達が見ていた盗撮映像にもピクリとも反応なかったときは流石にやばいと感じた。しかし果名の表情を見て心持を変える。
「……どうかしたのか?」
「ん、ああ、いやなんで映像だけで音声はないのかってな。借名に渡したカメラは壊れてたのか?途中からあの触手うねうねが持ってたみたいだし」
ちょうど映像は借名の産卵シーンだった。男どもはゲロ吐きそうになりながらもしかし興奮に右手を走らせた。


・ブリッジ。2時間の休憩&メンテナンスを終えて全員が集合する。
「紫歩乃歌、15歳です」
歩乃歌が自己紹介をする。蛍からもらったのか2年生の制服から3年生の制服に着替えていた。
「……あんたどっかで見覚えないか?」
そのデジャヴを感じたのは果名と切名の二人。
「さ~あ?僕知らないもんね。それよりこの後どうするの?」
「……飛空艇の修理も終わったし。そろそろPAMTの充電も完了する。完了次第セントラルに向かう」
「それで?一気に攻撃して皆殺しにするの?」
「いや、まずは話し合いからしようと思う。俺達はスライト・デスで2番目に強いゴーストを2度も倒したんだ。相手だって無理に戦おうとはしない筈だ。だから交渉の余地はあるはずだ」
「……それで?」
「ゴーストを倒した力、セントラルにいる3人目の幹部。そして学園都市にいるフォルテ。俺達が力を集めればスライト・デスにだって勝てるって思わせる。実際に不可能ではない筈だ。だから停戦を求める。そして無事にスライト・デスに勝てた暁には人類の復興を行なってもらう。このままじゃこの世界は数十年後には確か滅亡するんだからな」
「……まあ、僕達も住む世界がないみたいだから協力せざるを得ないけどね。セントラルって同じ名前なのも気になるし」
「でも歩乃歌、もしも0号が待っていたらどうするの?一人で勝てる?」
「厳しいだろうね。でも、ここには千代煌でもびっくりな意味不明ロボがいるじゃない」
「……フォノメデスか」
果名がシン達5人を見る。
「あのロボと千代煌が組めば勝てないことはないと思うよ。でもまあ、あの時と同じようにスライト・デスの本軍と同時に来られたら厳しいかもしれないけどね」
「……どちらにせよ、足は速めた方がいいって事か」
果名達は見た。未だに続く空に帯びた暗雲の源……セントラルを。

------------------------- 第132部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
設定資料集・7

【本文】
<用語解説>
超光速戦闘:霹靂のPAMT原作から時折描写として存在していた概念。基本的に1000万分の1秒を自在に動いて戦闘を行うもの。超光速戦闘領域や超光速空間とも呼称する。この場合のxx分の1秒は速度よりかはチャンネルもしくは優先権に近く、違うチャンネル同士ではまともな勝負にはならず直接的な干渉も行なえない。しかし当然ながら速度の速いものの方が有利であり、近ければ近い程直接的な干渉が可能になっていき、遠い程低いものに対して優位に先手を繰り出せる。超光速戦闘を行えるものとそうでないものの戦いだと1秒が経過する前に勝敗が決定するようなことはないが超光速戦闘領域が終了して動き出した1秒の後に好き放題仕掛けられていた先攻の雨に撃たれてほぼ反応出来ないまま勝負がつく。
これを行えるものは先天的にあらかじめ決まっていてまったくの生身で使えるものはほとんどおらず、ほぼすべての存在が何らかの条件を携えることで可能とする。その条件そのものが変わることはないが場合によっては速度が上昇する事もある。

<新規登場人物>
白百合(しらゆり)蛍(ほたる)
年齢:15歳
身長:167センチ
体重:55キロ
3サイズ:82・61・77(C)
所属:セントラル
GEAR:燐光
属性:秩序・善・風
好きなもの:歩乃歌、魚、ジャンクフード
苦手:甘いもの(本当は好き)
世界階級:13未満
レベル:9/70
才能:勉学1、PAMT戦闘3
出展作品:霹靂のPAMT
登場は6章から。左手義手のセントラルのお嬢様。ただしこの世界とは別の世界のため機械的な干渉は出来ても知り合いなどはいない。
歩乃歌の事大好き。元々女子中学生にしては背が大きい方だったが今作ではさらに成長している。果名と一緒に風呂に入って裸も見せているが男に興味がないため特に何とも思っていない。また、歩乃歌以外とレズレズしないと言ってはいるものの今作では久々に出会った火咲とレズレズしてる。本人の希望もあって火咲を未だに咲(えみ)と呼び続けている。
陽翼、達真、火咲、蛍、歩乃歌、繁の関係はずっとやりたかった内容でありどんどん面白くなっていくかもしれない。
初期試作型PAMTのアズライトを使用しているものの流石に時代遅れとしか言いようのない性能のためかあまり戦闘は行わない。しかし歩乃歌や火咲にも並ぶほどの操縦技術も合わさって下級UMX相手ならば問題なく撃破可能。
GEARは燐光。GEARの中では珍しく他人にしか効果を及ぼさないもので、蛍が意識している人間が蛍が待っているから頑張れると意識すれば通常では考えられない規模の力を引き出せると言う物。
もはやモデルとは全く違う人物になっている。まあ、元から別物に近い形だったが。

牧島(まきしま)眞姫(まき)
年齢:14歳。
身長:162センチ
体重:55キロ
3サイズ:86・63・85(E)
所属:セントラル
GEAR:未覚醒
属性:中立・中庸・林
好きなもの:何はともあれ肉。高級な方がいい。
苦手:野菜。肉と混ぜようだなんて邪道ですよ、ええ。
世界階級:13未満
レベル:21/21
才能:陸上競技1、家事1
出展作品:霹靂のPAMT
歩乃歌の幼馴染。陸上部のエース。でも最近は巨乳が邪魔になってきてる。誕生日が12月のため14歳、数えで15歳。
原作では常に支えてきた歩乃歌がいないために今回では主に蛍と組む事が多い。それが続いているからかいつしか互いに下の名前で呼び合うようになっている。ちなみに才能の問題で原作組の中では一番PAMT戦闘力が低い。
GEARは未覚醒。
歩乃歌がいなせいで結構地味になりつつある。

花京院(かきょういん)繁(しげる)
年齢:15歳
身長:173センチ
体重:65キロ
所属:セントラル
GEAR:攻撃
属性:秩序・善・火
好きなもの:ジャンクフード、肉、サッカー
苦手:海鮮料理
世界階級:13未満
レベル:27/27
才能:サッカー2、PAMT戦闘1
出展作品:霹靂のPAMT
歩乃歌が片思いしている同級生。ただしクラスは別。原作勢で唯一の男子だが本作で結構仲間が増えた。ミスターデッド。
本作で基本的に男子中学生が多いためか原作ではいるかどうか不安なレベルだった友人関係も良好な部類。原作よりかはまだ歩乃歌を意識している。しかし今は世界を救うために戦うヒーロー気分。本人の自覚は少ないが陽翼から始まる複雑な関係の中に入れられている。原作では色んなプロットで死にまくってたし生き返ったとは言え本編でも死んでいたが流石に本作では死なないと思う多分。
GEARは攻撃。自身が攻撃に出ている時には通常以上の力を発揮すると言う物。GEARに目覚めたのはつい最近で、そのためにPAMTでの戦闘の成績も若干よくなってる。しかし本人が言うようにとっくの昔にインフレに乗り遅れているため色々と厳しい状態。

アコロ=ピリカプ
年齢:15歳。本当はと言うか享年は22歳。
身長:161センチ
体重:47キロ
3サイズ:76・63・75(A)
所属:特になし
GEAR:未覚醒
亜GEAR;遅延魔法(スロイヤー)、溶解魔法(アグニッシュ)、消滅魔砲(イレイザー)
属性:混沌・善・火
好きなもの:エンジュ、図面、酒、風呂
苦手:特になし。強いて言えばレイプ或いは売女呼ばわりされること。
世界階級:12
レベル:47/100
才能:方天画戟戦闘2、図面作製3
出展作品:世界は軌跡(あのこ)を赦さない
ついに(?)登場したせかのこ2組。主人公。原作通り3つの亜GEARを持つ。その上で未覚醒だがGEARまで持っている。中々にチートなのにまだまだ全然インフレに乗り遅れている。概ね原作通りだがリコは登場しないかもしれない。
他のメンツとは違い異世界転生してきた。本名は春洗(はるあらい)白亜(はくあ)。
GEARは未覚醒。亜GEARは3つ。1つは物体の動きを1000分の1にまで落とすスロイヤー。1つは触れただけであらゆる物体を溶かすアグニッシュ。そして切り札であるイレイザーの3つ。
亜GEARも合わせればスライト・デス怪人ですらも圧倒できるが流石に頭おかしい勢には歯が立たない。相性の問題で爛には完封されてるし。
本作では同じせかのこ組やSforza達と絡む予定。

緑風(みどりかぜ)湊(みなと)
年齢:19歳
身長:191センチ
体重:78キロ
所属:なし
GEAR:自由
属性:中立・中庸・風
好きなもの:自由
苦手:騒々しい場所、閉所
世界階級:変身前は13未満、変身後は9
レベル:61/61
才能:体術1、接近戦1
出展作品:心愛戦隊エターナルF
4人目のクールな緑。風、そして湊と言う名前からピンと来たあなたは作者と握手。ただし絡ませるかどうかは不明で本人ではない。
当然ながら原作ではここまで深刻な状況ではない。……スライト・デスに家族殺されてるけど。この世界にしては中々に大柄だが実は巨人症。もっと背が伸びるがあまり将来は明るくない。原作では何回かスカーレッドやシュバルツと戦ったりもしたが本作では本人に余裕がないのと運命のめぐりあわせから戦うことは1度もなかった。
GEARは自由。生まれた時から自由を求めていたためにあの地獄のような空間でありながら五体満足で生き延びて成長した。エターナルFの5人で唯一、能力にGEARや亜GEARが絡んでいない。別に特に理由はない。
メイ同様、心の力を使う戦士の中では最も長い間戦い続けている。この手のものにしては作者にしては珍しいかもしれないがメイとは別に何もないし、互いに最も信頼のおける相棒以上の感情はない。

清水(しみず)鳴(メイ)
年齢:13歳
身長:139センチ
体重:27キロ
3サイズ:61・49・58(A)
所属:なし
GEAR:生命力
好きなもの:特になし。これから見つけていく。
苦手:スライト・デス。絶対皆殺しにする。
世界階級:変身前は13未満で変身後は7くらい。
レベル:39/80
才能:料理1
出展作品:心愛戦隊エターナルF
青のロリ5人目。原作以上にとても悲惨な境遇。劇中でも言われてる通り美香子とは同時期に作られたキャラのためかぶってる部分が多い。
村を襲ったスライト・デスによって恐怖の子種を埋め込まれていて2か月に1度強制的に怪人を出産させられる。しかもそれによってしか命を感じる事が出来ず、アズールに変身する事が出来ない。
生まれてからずっと結界内の村のごく一部の空間でしか生活してこれなかったため5歳くらいの頃から生気を失っていた。しかし、スライト・デスによって村が滅ぼされてからはその復讐心を頼りに生き抜くことを決めたと言う壮絶な境遇である。原作では流石にここまでではなく、湊同様家族をスライト・デスに殺されただけ。正確に言えばもう少し事情は違うが大体そんな感じ。
GEARは生命力。これによって不死身と言うくらいに死なない。村での状態や作中における生への執着心などはこれが由来となっている。また、このGEARのおかげで本来ならとっくの昔に破壊されててもおかしくない母胎も機能を破壊されることなくそのままでいる。
原作ではゴースト戦が終わってもまだ生に関して無頓着な状態が続くが本作ではゴースト戦で覚醒を果たしている。素の状態でソウルプラズマーを発動しているためか5人の中では一番強い。

南風見(はいみ)円華(まどか)
年齢:15歳
身長:154センチ
体重:45キロ
所属:学生
属性:混沌・善・火
GEAR:欲望
好きなもの:トゥオゥンダ
苦手:陛下
世界階級:13未満
レベル:19/38
才能:勉学1、経営1
出展作品:トゥオゥンダ・カーポ
トゥオゥンダ大好きな男の娘。なので欠コンで同名の人とは別人。別に他意はなかったはずだが何故か名前が被ってた。
トゥオゥンダ大好物の最高級豆腐の製作会社の長男であり、それを理由にトゥオゥンダに婚約を迫っている。もちろん本人は断っているがルートによっては無事結ばれる。そのルートだと全ルート中最もとんでもない事になる。
苦手な物の陛下とは同じくトゥオゥンダ・カーポのヒロイン。昭和ライダー8号のお面をかぶってる少女。本来なら一緒に登場させるはずだったが忘れてた。出す予定はあるのでしばしお待ちを。
GEARは欲望。トゥオゥンダ愛のために色々やらかす。
ぶっちゃけ原作は色々版権ぶっちぎってるために出せるキャラが少ない。なんせメインヒロインすら出せないのだから。

ゴースト
年齢:6万歳以上
身長:240センチ
体重:不定
所属:スライト・デス
属性:混沌・善・火
GEAR:なし
好きなもの:侵略、抵抗、虐殺
苦手:ソウルプラズマー
世界階級:4
レベル:168/168
才能:侵略1 エクトプラズマー2
出展作品:心愛戦隊エターナルF
スライト・デス最高幹部。負のエネルギーの集合体であるエクトプラズマーを操り、今までに幾多の惑星や文明を蹂躙してきた。キル首領の右腕と言ってもいい存在だが原作でも本作でも最初に倒される幹部となった。実は本作でもどのタイミングで倒されるか結構迷っていた。原作では湊の両親を直接殺した張本人のため個別に恨まれている。
所属はスライト・デスだが種族としては某ヒッポリトな宇宙人。仮面で覆われているがその下にはあの3方向に広がる触覚みたいなのが生えている。相手をタール化させる事も出来るがエクトプラズマー能力に覚醒してそっちの方が全然強いため使わない。
スライト・デス幹部で唯一宇宙人であるためかパラドクスや十三騎士団についても知っている。階級は同じ4だがアルケミー相手だと全盛期だと勝ち目がなく、現在の十毛よりかは2枚くらい上手。
原作では巨大化しないが……。

<Potable Armerd Machinical Troopers>
PN-200百連MK-II名付けて二百連
全高 飛行形態時:1メートル 人型時:3メートル
全長 飛行形態時:4メートル 人型時:60センチ
全幅 飛行形態時:1メートル 人型時:2メートル
重量 通常:1トン 全備重量:2,2トン
動力:電気(重力発電)&「PAMT」のGEAR
出力:7万キロワット
速度(時速) 飛行形態時:20キロ~マッハ40 人型時:700~マッハ38
最大稼働時間 機能最大時:15分間 平常時:2時間 無機能行動時:無限
最高跳躍高度:地上500メートル
最高歩行/走行速度(時速):15/8000キロ
<武装>
飛行形態時
機銃
ミサイル
60ミリ散弾砲
ビーム指
闇椿
<機体概要>
歩乃歌が有するPAMT。原作終盤の時点で仄めかされ、既にいくつもの外伝作品で登場している百連の後継機。
千代煌程ではないがそれなり以上のスペックを持つ歩乃歌3番目の機体。外見はほぼそのままにギリギリインフレについていける程度にまで性能が底上げされた機体。かつての百連を2、頂A雷を10とするならば本機は200程度。当然超光速戦闘にも対応していてD型UMX相手でも互角以上に戦える。この機体でも一応終億の霹靂は使用可能だが出力が100分の1にまで落ちている。
なお、名前は百連MK-IIでも二百連でもいいが正式名称は「百連MK-II名付けて二百連」である。歩乃歌のふざけたセンス。

PN-101アボラス
全高 飛行形態時:3メートル 人型時:14メートル
全長 飛行形態時:11メートル 人型時:3メートル
全幅 飛行形態時:6メートル 人型時:5メートル
重量 通常:8トン 全備重量:14トン
動力:電気(重力発電)&「PAMT」のGEAR
出力:4500キロワット
速度(時速) 飛行形態時:220キロ~マッハ3 人型時:40~400キロ
最大稼働時間 機能最大時:15分間 平常時:2時間 無機能行動時:無限
最高跳躍高度:地上30メートル
最高歩行/走行速度(時速):10/50キロ
<武装>
60ミリレールカノンライフル
ワイヤースリング
腕ライフル
マキシマムファイア
<機体概要>
牧島眞姫が設定し、使用するPortble Asultism Mechanical Truper。
歩乃歌の百連を補助するための機体として設定された。
そのため低出力&小柄故の運動性な百連とは逆に大出力&運動性が低い代わりに重武装となっている。
インフレに出遅れているが、数少ない空戦戦力のためそこでは活用されている。
スペック評価は3程度。


PN-53インフェルノ
全高:23メートル
全長:28メートル
全幅:8メートル
重量:150トン
動力:電気(重力発電)&「PAMT」のGEAR
出力:7000キロワット
速度(時速) :空は飛べない
最大稼働時間 機能最大時:15分間 平常時:2時間 無機能行動時:無限
最高跳躍高度:地上180メートル
最高歩行/走行速度(時速):40/マッハ2
<武装>

火炎
バニシングノヴァ
<機体概要>
花京院繁が設定し、使用するPortble Asultism Mechanical Truper。
ティラノサウルスの形状をした赤と黒のカラーリング。
コンセプトは「単騎であらゆる敵を撃破するだけの性能を有するPAMT」。
圧倒的火力や出力を全て攻撃のために使い、逆に飛行は出来ないなど汎用性を犠牲にしてまで火力を得ている。
のだがインフレにはついていけず最大火力であるバニシングノヴァでも通じるかどうかレベル。しかし繁のGEARのおかげでまだ原作の時よりかはマシになっている。スペック評価は6程度。


PN-01アズライト
全高 6メートル
全長 2メートル
全幅 1メートル
重量 通常:3トン 全備重量:6トン
動力:電気(重力発電)&「PAMT」のGEAR
出力:2000キロワット
速度(時速) 40キロ~マッハ1
最大稼働時間 機能最大時:15分間 平常時:20時間 無機能行動時:無限
最高跳躍高度:地上30メートル
最高歩行/走行速度(時速):10/50キロ
<武装>
アックスブレイザー
プラズマセイバー
斥力発生装置
<機体概要>
白百合蛍専用のPortble Asultism Mechanical Truper。
PAMTそのもののプロトタイプであり、あらゆるPAMTのモデルになった機体。
PAMTそのものの運用と斥力発生装置の実験のために製作してそのための訓練と調整を受けた蛍にしか扱えない特別なPAMT。
流石に既に旧式も旧式、最旧式ではあるため戦闘に出る事は少ないが斥力装置や蛍の能力により超光速戦闘は可能だったりする。しかし蛍の肉体にとてつもない負担がかかるため基本的に行わない。歩乃歌や火咲にも止められている。
スペック評価は1。蛍込ならば20くらい。


PN-02-2クリムゾンスカートMK-II
全高 8メートル
全長 3メートル
全幅 4メートル
重量 通常:1,4トン 全備重量:8トン
動力:電気(重力発電)&「PAMT」のGEAR
出力:9万キロワット
速度(時速)人型時:40~マッハ30
最大稼働時間 機能最大時:15分間 平常時:2時間 無機能行動時:無限
最高跳躍高度:地上840メートル
最高歩行/走行速度(時速):20/900キロ
<武装>
アイアンスカートクロニクル
メタルファイヤー
プラズマーライフル
ナビゲートホライゾン
<機体概要>
火核咲のために用意された専用Portble Asultism Mechanical Truper。
しかし火咲不在の間に蛍によって大幅な改造が施され、達真との二人乗りに。さらに全体的に性能が上昇していてほぼほぼ二百連と同程度。機動性では劣るが火力では大幅に上。超光速戦闘に対応している上、複座式となり臨機応変な戦術を可能としている。またそもそもとして飛行が可能となっている。
形式番号や正式名称は変わっているが一応元のクリムゾンスカートから地続きの改造となっている。
武装も変わっていて本数と切れ味が倍になったアイアンスカートは達真の副操縦によりファンネルとしても扱える。新兵器のナビゲートホライゾンはまるで生きた蛇のように自由自在に動く6枚の翼で攻撃する。超光速戦闘でなくとも光の速さで動き、あらゆるエネルギーを文字通りのみ込むトンデモ性能。こちらも達真による副操縦可能。
従来の武器でもプラズマーライフルは段数が3発となっている代わりに火力はかつてのバニシングノヴァの5倍以上。段数の少なさも達真によるサポートで補える。
元々は蛍がいい加減アズライトでは性能不足のため自身が火咲と共に戦うために改造したが達真になら託せると思ったためにサブパイロットには名乗りを上げていない。
スペック評価は240程度。

HPN-01ヴァルブロッサム
全高:30メートル
全長:24メートル
全幅:28メートル
重量:1500トン
動力:電気(重力発電)&「PAMT」のGEAR
出力:24万キロワット
速度(時速) :空は飛べない
最大稼働時間 機能最大時:15分間 平常時:2時間 無機能行動時:無限
最高跳躍高度:地上180メートル
最高歩行/走行速度(時速):40/マッハ9
<武装>
エイトブロッサム:一本当たり重さ4トンある触腕8本。それ自体が強力な打突武器にもなる上先端からはビームを発射できる。見た目はか細く、反動もほとんどないが出力はバニシングノヴァの倍以上ある。さらに地面などに突き刺せばエネルギーを直接本体に送り込むことが出来、PAMT共通の弱点である燃費の悪さを補える。さらにさらに触腕そのものが破壊されたとしても再生は可能である。
ピンククラウド:頭頂部に当たる桜の花びらを模した部位。そこからエイトブロッサム以上の出力のビームを全方位にばらまける。二人分の脳を有する小夜子が位置情報などを確認してそのまま副操縦で発射できるため文字通り全方位をカバーできる。
<機体概要>
宝子山の作った複座型PAMT。大悟と小夜子の二人が乗る。外見は8本の枝のような触腕を備えた桜の木そのもの。外見通り鈍足だが超光速戦闘にも耐えられる設計で、大地からエネルギーを補給できる。
宝子山自体は真相を知らないが小夜子の極めて高い空間認識能力を評価してこのような全方位同時迎撃用PAMTとして設計した。偶然ではあるが結果としてクリムゾンスカートが点の攻防を得意とするのに対してこちらは面をカバーしていてパイロット同士も関係や共通点があると言う状態になっている。スペック評価は140程度だがパイロットの二人が超光速戦闘を行えず運動性を補えないため10分の1以下の9程度しか引き出せていない。

PNEX-01ニーヴェアリー
全高:17メートル
重量:50トン
動力:電気(重力発電)&「PAMT」のGEAR
出力:7万キロワット
飛行速度(時速) :120キロ~マッハ60
最大稼働時間 機能最大時:15分間 平常時:2時間 無機能行動時:無限
最高跳躍高度:地上100メートル
最高歩行/走行速度(時速):40/マッハ25
<武装>
ガチガチアックス:30メートル/200トンもの大きさを持つ巨大な斧。とても小回りは利かないが破壊力は抜群。肘についたブースターを起動させないとまともに振り上げることすら不可能で、地上で持ち上げると足腰が重さに耐えきれずに破損する。非超光速戦闘状態での移動時など邪魔な時には亜空間に戻せるため足手まといにはなりにくい。さらにサブパイであるキャリオストロの能力で直接相手の真上などに転移させる事も可能。
フォトンワイヤー:両手の指から生成されて最大2000メートルまで伸びる光粒子のワイヤー。数秒程度なら指から切り離しても大丈夫。通常であればダイヤモンドの5億倍=大体D型UMXと同程度の強度の物体を一瞬でミンチに出来るが、切断力を落として救命用ロープにする事も出来る。遠心力を利用しないと下手すると全身全損するがアックスをこれで掴んで振り回す事も出来る。
頭部80ミリバルカン:装弾数8000発。秒速20発の小型機関銃。接近戦での目つぶしやミサイルなどの迎撃、歩兵の殲滅などに使われる。決して火力は低くはないのだがインフレには遅れている。
<機体概要>
トゥオゥンダが使用し、キャリオストロ、円華と共に3人で乗るPAMT。外見は天使のようだが両手の武器が物騒すぎる。背中の翼は天使みたいだが飛行などは某ゼロカスのような感じ。
時空転移が可能なキャリオストロはともかく円華はサブパイとしてあまり必要ではないのだがいないよりはマシと言う理論で置いている。故にたまに置いて行かれる。武器は上記だけでなく、ジキルのヴェントゥルムといくつか転送用の武器を共有している。
某スーパーな学園シリーズでは運命の名前とアロンダイトの剣を持つ機体によく乗るトゥオゥンダなのでそのイメージを少しだけ使っている。また、変形できる予定だったがドッグファイトの才能がなかったためオミットされた。スペック評価は190くらい。

ヴェントゥルム
全高:21メートル
重量:320トン
動力:電気(重力発電)&「PAMT」のGEAR
出力:30万3000キロワット
飛行速度(時速) :200キロ~マッハ30
最大稼働時間 機能最大時:15分間 平常時:2時間 無機能行動時:無限
最高跳躍高度:地上70メートル
最高歩行/走行速度(時速):70/マッハ8
<武装>
へヴィガトリングキャノン:両腕に装着した90ミリのダブルガトリング。装弾数は事実上の無限で、秒速8000発。これ自体が1つ60トンもあり、かなり頑丈なため鈍器にもなる。装備する際にはこれ以外に何も使えない=特化できるためか肘から先をこの武器と同化している。転送武器などを使いたい場合はこの武器を解除して肘から先を発生させてからじゃないと不可能。そしてそんな手間を要するのが面倒だからか基本的にこの武器でご奉仕しますわぁ(ダダダダダダ!!!)しかしない。しかしそれでも威力はかなり高い。ニーヴェアリー同様肘などにもブースターが付いていて重量を完全にカバーしているため運動性も低くはない。
頭部80ミリバルカン:一応頭についてる。本人すら忘れている。
ミサイルポッド:背中のオメガブースターについている。正確に言えば亜空間からミサイルを転送して発射する装置がついている。やっぱり本人には忘れられている。
ヴァーミリオンキャノン:オメガブースターに直結しているエネルギー砲。基本的にはガトリングで事足りるが足りない相手用の必殺兵器。たまに忘れられる。
<機体概要>
ジキルが製作し、慈と共に乗るPAMT。火力重視だが機動力や運動性も忘れていない機体。ただし武器はたまに忘れる。
手足についた小型ブースターもそうだが背中についたオメガブースターはとんでもない出力を持ち、これが最大出力で発揮されていないと本機はまともに動けないレベル。しかしタックルだけでたいていの相手であれば粉々になるくらいの威力を発揮できる。さらに余ったエネルギーを使ってキャノンも撃てる。トゥオゥンダと共用の転送武器がいくつかあるが結果的にガトリングで事足りるためかほとんど使われず、ほぼほぼトゥオゥンダの独占状態となっている。スペック評価は190くらい。

フォノメデス
全長:75メートル
重量:2万トン
動力:電気(重力発電)&「PAMT」のGEAR&ソウルプラズマー
出力:7000万キロワット~測定不能
飛行速度(時速) :80キロ~マッハ80
最大稼働時間 機能最大時:15分間 平常時:2時間 無機能行動時:無限
最高跳躍高度:100~無限メートル
最高歩行/走行速度(時速):240/マッハ20
<武装>
ファイヤーボルトブラスター:両腕についたブラスターを発射する。一発一発が生身で放つソウルイグニッションフォースと同じ威力。しかしこれでも牽制程度の役割しか持たせられていない。
フォービドゥンセイバー:5人の心の力を表現した剣。いくらでも形を変えるトンデモスペック。それによって必殺剣が変わる。
<機体概要>
エターナルFの5人のソウルプラズマーが一段階進化したことで誕生した5機の心獣機が合体した姿。最果ての先の扉で待つものですら想定していなかった最強クラスの機神であり、その性能は千代煌に肩を並べるほど。5人の能力を数百倍にまで強化して繰り出す事も出来る。地球の、人類のスライト・デスに対する最大究極の切り札として存在する。それ故か宇宙製である至上の万雷や終億の霹靂は使用できない。しかしそれ以外の点では最強クラスのPAMT。と言うかPAMTと言っていいのかどうか不明の存在。評価スペックは最低でも1万前後から測定不能。


<既存人物変遷>
果名:予想以上にボロが出てる。正体を隠すのが下手すぎるなぁ……。けど8章で明らかになる予定だし意外とちょうどいいのかも。
切名:初期設定および本来の正体とは少し違ってきているがまったく違うと言う訳ではない……多分。最果てさんパターンだ……。
借名:当然と言えば当然だが上二人からもう正体が見えてきているかもしれない。こちらは原作見てないと分からないかもしれないが。
紅葉&詩吹:完全に「ふたりは」状態。しかしいつになったらヴラドフォームは出てくるのか。
赤羽:もはや当然のレズロリコン。今回と言い、外伝と言い、ひょっとしてあの男がいない方が出番多い?少しずつ伏線用意中。
火咲:そしてそんな赤羽以上に出番が多いし目立ちまくってる人。蛍の前だと思わず前世に近付く。一応現状PAMTの腕は歩乃歌、蛍に肩を並べる程度。
歩乃歌:やっと登場&参戦。しかし出てきたと思ったら千代煌と肩を並べるかそれ以上の怪物と遭遇した。まさか千代煌すらインフレの波に飲み込まれかけているとは思わなかっただろう。流石に千代煌よりも強いPAMTはそうそう出てこないが。