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X-GEAR1章「始まる世界」

【第1章】
1章:始まる世界

【サブタイトル】
1話「失われた記憶(ギア)、落ちてきた彼女(ギア)」

【本文】
GEAR1:失われた記憶(ギア)、落ちてきた彼女(ギア)

・気付いた時にはその少年は過去を失っていた。
 視界に見えるのは機械ばかり。
どうして自分がここにいるのかが分からない。
記憶喪失という奴かも知れない。
所謂エピソード記憶と言うのはある。
日本語が使える。あと何故か中国語と英語とフランス語も。
だからか自分の名前を示す手帳に記された3文字の漢字を最初見た時には
「ジアフェイ・ヒエン……?」
全部混ざってそんな読みになった。

・それから半年が過ぎた頃。
記憶を失いながらも外見年齢と警察と病院を頼りに
通い始めた高校から賃貸アパートに帰る途中のことだった。
熱せられたアスファルトの坂道を冷めた表情で歩いていた時にどこからか声が聞こえた。
「ん……」
ヒエンが空を見上げる。
その目に映るのは紅に染まりかけた空だけではなかった。
「……!」
ほぼ真上の空からひとりの少女が降ってきた。
「ぐべっ!!」
「っ!!」
まるでラリアットかのように少女の腕がヒエンの顔面に命中し、
二人揃ってアスファルトに倒れこむ。
痛みはなく代わりに嗅覚が刺激された。
鼻をくすぐるのは少女らしいいい香りの他にも汗の臭いも混じっていた。
それを堪能してから瞳を開ける。
少女は自分の上に乗っていた。
「……大丈夫……ですか?」
表情はない。
が、その声色からは心配の声が見える。
「ああ。問題ないよ」
言いながら改めて少女を見やる。
中学生くらいだろうか?
赤い長い髪を2つに束ねた頭、この辺りでは見かけない制服。
跨られていながらほとんど体重を感じない身軽さと
華奢の外見にそぐわない大きさの胸の膨らみ。
夕暮れで少しは顔を赤く見えてもいいのに彼女は表情に色を加えていない。
未だに自分の腹の上に置かれている少女の部分の柔らかさとは
裏腹のその硬い表情には違和感を感じざるを得なかった。
……とは言え間違いなく美少女の部類に入るだろう。
「……君、どこから飛んできたんだ?」
「…………それではこれで」
質問に答えず少女は立ち上がった。
が、すぐに足を止める。
やや右足を庇っているようにも見える。
……今ので足を挫いたのかもしれないな。
「…………分かった。理由は聞かない。
だが、せめてその傷が治るまでうちで休んだらどうかな?」
「…………何をするつもりですか?」
「やらせてくれるのなら何でもするつもりだが、
まあそこまで正直にしたら逆に何されるか分からないからな。
……とりあえず桶に氷水でも汲んで冷やすかな?」
「……ならばいいでしょう」
肩を並べる。
少女はやはり背が低くヒエンの肩にも満たなかった。
「僕の名はジアフェイ・ヒエン。
これでも一応記憶喪失経験者なのでね。
名前もよく分かっていない」
「私は赤羽美咲といいます。14歳の中学2年生です。
私は別に記憶喪失とかではないので普通に本名です」
「では赤羽。肩を貸そう」
「それはありがたいのですがどうして手を脇の下に?
これでは胸が当たってしまいます」
「態とだ。気にしないでくれ」
「…………なるほど。そういう人ですか」
表情なく彼女は声を放つ。
しかしその態度には否定的な動きはなく、
あっけなく服の上から自らの胸を触らせて自分の体重の半分をあずけた。
ヒエンの指には中々柔らかい感触が生まれている。
もちろん心地いい感触であり出来ることならずっと揉み続けていたいものだが
しかしそれ以上の何かが彼の頭を揺さぶっていた。
違和感と言うよりかは既視感に近い。
一瞬今と同じ光景が過去のものとして脳裏を焼いた。
「……どうしました?ひょっとして公然猥褻が目的で?」
「いや、それは半分だけだ。そろそろ動くぞ」
半分どころか彼女の体重のほぼすべてをその手で担いながら
夕陽に向かってまっすぐ歩き始めた。
……デジャヴのほとんどがただの勘違いだと言う。
だから過去の記憶と関係していると早合点するのは迂闊だろう。
今はただこの手の中の感触を堪能していればいい。

・そのアパートは男子高校生が一人住むだけの安くボロい風情だった。
 トイレと風呂がセットとなった別室があるだけのワンルーム。
広さとしては10畳はないだろう。
どこかの鈴城さん家の庭よりも狭いのは間違いない。
部屋の中央にはちゃぶ台と布団。
その脇にはゴミで溢れかえったゴミ箱が倒れている。
一応奥の方にある台所はほとんど使われていないからか埃で白ずんでいる。
「…………いかにも男の一人暮らしと言った感じの間取りですね」
「賞賛として受け取らせてもらうよ」
彼女をちゃぶ台に就かせつつ自らは初めて台所で水を汲み、
一応用意してあった冷蔵庫から氷を出して水に含ませた桶を運ぶ。
「さあ、足を上げるといい」
「……一応確認しておきます」
「何かな?」
「私はスカートです。
そしてここには椅子がないので畳の上に直接腰を下ろしています。
女の子座りです。
この状態で足を上げるとなるとスカートの中が中確率で見えてしまうと思います」
「そうだな。そしてそれを望んでいる」
「………………なるほど。
ならもう1つ確認をします。替えのズボンはありますか?
もしあれば今スカートの下に履くためお借りしたいのですが」
「男はズボンしか履かないからそりゃ替えはいくらでもある。
けどその要求は却下する。理由は君の想像に任せる」
「…………了解しました。日が沈み切る前に早々にここを離れた方がよさそうですね」
「そう邪険にせずにもう少しゆっくりして行ったらどうかな?例えば朝までとか」
「……私にはまだ理想の殿方はいません。
ですがまだ14なので出来ればもう少し操は取っておきたいと思っています。
なので1時間ほどで上がらせてもらうことにします。」
「………………そうか、それは残念だ。…………ぐすっ!」
「あの、出来れば本気でべそを掻くのはやめてもらえませんか?
誰も見ていないかもしれませんが一応私の良心が騙されかけてしまいます」
「その良心が有るというなら是非朝までゆっくりして行ってくれ。
あ、風呂の準備もしなくては……」
「…………あなたはどこまで私の女を知りたいというのですか」
「無論全て!」
「…………なるほど。大変男らしい発言だと思いますが
それとあなたへの好感度が反比例している事実を伝えておきます」
そう言いながらも彼女は慎ましく右足を上げると足首から先を桶に入れた。
氷が水面を泳ぎぶつかる音を聞けば自然と風流が生まれる。
その音を聞けば少しは表情も柔らかくなると思いきや
赤羽はスカートの裾の前後を片手で握り締めながら無表情を崩さない。
「今度はこちらから確認……いや、要求をしたい」
「…………聞くだけ聞いておきましょう」
「君の笑顔か下着か、どちらかを見ておきたい」
「……」
彼女は無言。
呆れているのかそれとも熟慮しているのか、その口元は動かない。
氷が滑り、桶の塀に流れ音を鳴らす。
やがて、彼女は口を開いた。
「申し訳ありませんが私はこの表情を崩せないんです」
「どうして?そこまで僕を生理的に拒んでいるのか?」
「それもあるかもしれませんが」
「……あるのか」
項垂れるヒエンをしかし彼女は一瞥もせずに言葉を続ける。
「私は今まで一度も笑顔を見せたことがありません。
いえ、表情を変えることができないんです。
詳しくは話せませんがそういう体質のようなものなんです……。
ですので、これでどうか勘弁してください」
そう言って彼女は裾の前後を握っていた手を解き、丁寧に前の裾をたくしあげた。
いたってシンプルな白いショーツが顔を覗かせる。
その光景に対して心の中でガッツポーズをとりつつもしかし少々勿体無い気もする。
「……不満なんですか?流石にこれ以上は見せられませんよ?」
「いや、確かに素晴らしい光景だが君の選択肢と説明は些か寂しすぎる。」
「どういう事ですか?」
「なに、いつか君の全てを見てみたいって言う事だよ」
言いながら試しにその下着の股布に手を伸ばすも届く前に叩き落された。

・夜になった。
 特におかしいこともなく下着以上の物を露にすることもなく
二人は蝉の声と夜の静寂にその身を任せていた。
「1ついいですか?」
「君は質問が多いな」
「迷惑ですか?」
「質問の多さにも君の居候にも一切の迷惑はしていないよ。
ガンガン質問も居候もしてくれて構わない。それで?」
「この部屋、圧倒的に物が少ないと思うのですが……。
冷蔵庫の中に食物も入っていないようですし。
もしかしたら常日頃は外食で今日は私がここにいることで食事が出来ずにいるのでは?」
「ふっ、この僕が少女一人のために何かを遠慮するとでも?」
「……それは何となくこの数時間で把握していましたがしかし……」
「僕はね、食事をしないんだ」
「……え?」
「僕は半年前に記憶を失った。
だからそれ以前がどうだったかは分からない。
でも、それからの半年は一度も飲食をしていないんだ。
一度病院にも行ったけど特に問題は見当たらなかった。
何かの病気か特殊な体質かは分からないけどね」
「……それは……」
彼女が何かを言い淀む。
それを推察出来た時だ。
蝉のセレナーデにドアを叩く無粋な音が混ざったのは。
それもただのノックとは思えない程の大きな音だ。
恐らく扉を蹴りつけているような・・・。
そしてついに扉が蹴破られ黒服の男が3人程土足のまま上がり込んできた。
いや、よく見ればその後ろには次々と同じような風貌の男達が身構えている。
そのいずれもがスパイ映画にでも出てきそうな強面でサングラスだった。
「無粋だな。何事だ?」
「おとなしくその少女を渡せ」
「さすれば記憶1つで貴様の生を許そう」
二人がこちらを睨む。
「……残念ながらこれ以上記憶を失うわけにはいかないのでな」
一歩。
渡せと言われたその少女を背にして少年はその身を敵前に晒す。
「1ついいことを教えてやろう」
飄々と、
「如何なる常識も勝算も捨て放ち、
ただ一縷吹いた気まぐれという風にその身と全ての力を注ぐ。
……人、それをロマンと言う」
言い放つ言葉。握る拳。
それに対して男達は冷たく放った。
「……下らんな」
「坊主、俺達からもいいことを教えてやろう。
格好つけたがるのはいいが時と場合と相手を考えるんだな」
一切の憚りをなしに男達は畳を靴の土で汚す。
誰が問うまでもなく住居不法侵入罪。
そして何より男のロマンを涜すは男に非ず。
「…………」
ヒエンは無言でさらに一歩進み一番近い男の眼前に迫った。
足を前に出すのと同時に拳を前に突き出す。
スーツの胸を打つ拳に自然と全体重が加わる。
「!?」
ごく自然な動きで負担もないただの発勁の一撃は
背丈190は超えるであろう黒服を容易く吹っ飛ばす。
その結果には放った本人も内心驚いていた。
どう見ても今の動きは慣れがあった。
過去の自分は中国拳法の達人か何かだったのか?
しかしその疑問は今はいらない。
それに、それ以上の疑問が目の前にはあった。
「……」
次々と押し寄せてくる無数の黒服。
自分と少女を取り囲む数は既に20を超えている。
さらに玄関からは家がパンクしそうになるほど増援が迫る。
……数が多すぎる。
劣勢による恐怖ではなく不自然さへの疑問が勝っていた。
最初いたのは3人だけだった。
そこから応援を呼んだにしてもやはり数が多すぎる。
ただの男子高校生一人を相手するのにこれほどの人数がいるだろうか?
黒服の一人を一撃で圧倒したあとならまだ分かる。
だがこれだけの人数が現れたのはその直後だ。
連絡する暇さえなかったろう。
サングラスで隠した表情や似たようなその強面からまるで
量産型(クローン)の様などと巫山戯た予想が生まれてしまう。
「…………」
背後の少女からは相変わらず言葉を発さず表情も崩さない。
ただ、自分をかばう少年よりも一歩前に出ただけ。
「あ、おい!?」
「もういいです。あなたがこれ以上危険な目に遭う必要はありません。
……いつかまた会えたらお礼をします」
一歩。
尚もまた一歩をする彼女の肩を掴む。
が、次の瞬間には彼女の廻し蹴りが後頭部に叩き込まれていた。
隙を見せた覚えはない。
しかしどこからその一撃が来たのか分からないまま
ヒエンの意識は闇の中に落ちた。

------------------------- 第2部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
2話「走る理由(ギア)と火を咲かす少女(ギア)」

【本文】
GEAR2:走る理由(ギア)と火を咲かす少女(ギア)

・学校。
 午前8時をやや過ぎた時刻ともなれば多くの生徒が
全て同じ衣を身に纏っては群れを成してこの学び舎へと足を運ぶ。
真夏の暑さで男子達は無貌に汗をたらし、女子達はケアに嘆く。
校門前で警備をする体育教師もまた麦わら帽を被り片手に飲料水(ペットボトル)を握っている。
「……」
会釈をして校門へ入る生徒達の中には当然ヒエンの姿もあった。
この猛暑の中汗ひとつかいていない。平静を現した表情だ。
考えるはきっと今自分が同じ表情となっているあの少女のことだ。
何故かあらゆる外傷を受けることがないヒエンが昨日初めて蹴り倒された。
数分後に目を覚ました時には既にもぬけの殻だった。
……記憶は失っていても知能までなくしたわけではない。
彼女とあの黒服の男は間違いなく関わりがある。
そして恐らく仲間同士であろう。
彼らの裏に何があるのかはまだ興味に至っていない。
今脳裏を焼くのは地味な下着を履いたあの少女とあの無尽蔵に増えたくる黒服どもの事だけだ。
前者はともかく後者は特に理由が未だに分からない。
偶然彼女を発見してすぐに仲間達が集まっただけなのだろうか?
もしそうなら嫌な奇跡もあったものだ。
どこぞの幽霊少女の言葉を叩き込んでやりたいものだ。
他にも色々推測出来ることはあるが自分の記憶と知識が半年分しかないのでは
どんなに高く見積もっても正解率は50%行っていればいいところだろう。
「……」
昇降口。
全ての生徒が靴を履き帰るそこで落ちているバットを発見した。
野球部が回収し忘れたのかあるいは何か理由あってここに置いてあるのか、
しかし由来など今はどうだっていい。
ヒエンはそのバットを手に取り握り締めると
手首のスナップを利用して自分の頭を殴った。
誰がどう見ても奇行だろう。実際周囲の生徒達が小さなざわめきをつくる。
だが本人はいたって真面目だ。
無言のまま二度三度と殴り続ける。
本来ならばこれだけやれば出血沙汰だろう。あるいは骨折もありなん。
しかし、折れたのはバットの方だった。
そしてその結果にヒエンは一切衝撃を受けていない。
感じるのは、やはり正常な状態だと言う確認だけだ。
あらゆる外傷を受けない自分が正常であるはずがないと認識していたのは
半年前までで今ではその事実を通常なものとして受け止めている。
そしてその通常を破った彼女の蹴り。
直感的にこの2つは何か関係があるのではないだろうかと結びついた。
つまり彼女を追えば自分の事が何か分かるかも知れない。
それを由来にヒエンは授業中、次なる行動の施策を模索していた。

・放課後。
 あの少女と出会った昨日と同じ夕暮れ。
ヒエンはもう一度彼女と出会うために走り出した。
未だ散歩をする犬が熱射病で倒れるほどの熱を放つアスファルトの上を走る。
相変わらず汗は一滴も流れない。
流石に走り続ければ息は切れるがそれでも熱気は感じない。
……つくづく生物学に逆らい続ける肉体だと苦笑を気休めに走り続ける。
目指すは彼女が着ていたのと同じ制服を着る少女だ。
彼女がどこから来たのかは分からないが学校に通っていて
あの時間にここを通りすがるのであればそこまで遠い場所ではないだろう。
幸い名前は聞けているのだ。
同じ制服の少女を見つけたら拉致監禁……もとい少し話をするため場所を移動すればいい。
もし仮に本人がいたならば余計に話が早い。
今度こそあの少女の下着以上のものと笑顔を見させてもらえれば……。
と、年相応以上のツァイキングアップをしていた時だった。
「……!」
悲鳴が聞こえた。
同時に向かいの歩道の曲がり角から赤い何かがバラ撒かれた。
うめき声や今際の抵抗をするその赤い塊は恐らく人間だろう。
胸から下が両腕ごとちぎれていて動かせるものはもうほとんど残っていない。
そうして時間ももう残されていないだろう。
だからそんなものに興味を向ける必要はない。
それよりも警戒すべきはその奥。
「つまんないの」
声。少し子供じみているが少女の声に間違いない。
姿は見せていないがまさかこの声の持ち主が今の人間破壊を行なったのだろうか。
トラックやダンプカーと言った重量車に轢かれたのなら
あのような状態になるのも分かるが一体どうして人間の少女が行えたのか。
やがて、紅と黒の曲がり角に少女はその姿を見せた。
見覚えのあるものよりもさらに苛烈な赤い髪。
一瞬ボールでも含んでいるのかと疑うような凄まじき巨乳。
制服を着ていた。だから中高生なのだろう。
しかしあまりに背が低い。身長は140にも満たないだろう。
制服の袖先から見える手も小学生並かそれよりも小さい。
そして何よりその制服は昨日の少女・赤羽美咲が身につけていたものと同じに見える。
「ん?」
それを確認し、彼女と目があった瞬間に地を蹴った。
地を蹴り、ガードレールを足場にさらに蹴って跳躍して、
横断歩道のない車道を左右の確認をしないまま走り抜けて
不思議そうな顔でこちらを見ている少女のいる向こう側の歩道に到達した。
「あなた誰?あなたも壊されたい?」
「4つ聞きたいことがある」
少女の不遜な問い掛けなど最初から聞こえていないとばかりに問を放つ。
「……いきなり何あなたは。聞きたいこと?4つも?
まあ、この状況でそれを言えるんだから聞いてみても面白そうかも。
で、何?何を聞きたいの?どうして殺したって?」
「そんなことはどうだっていい!……何カップ?」
「…………は?」
「胸だ胸!その巨乳は何カップだって聞いているんだ!」
「………………………………」
少女は一歩下がりながら自身の胸を両手で覆った。
手首から先が力が入っていないのか宙ぶらりんとなっている。
この少女は手首から先が使えないのか?
「さあ、言ってもらおうか!?」
「……け、Kカップ……」
「………………何ということだ。そのロリスタイルでKカップをお持ちだと……!?」
「……」
「おっとまだ逃げてくれるな。まだ質問が3つ残っている!」
「……あなた、痴漢?」
「質問をしているのはこっちだ!赤羽美咲と言う少女を知っているか!?
君と同じ制服で同じくらい……のはずの年齢だった!」
「赤羽?さあ、聞いたことないけど……ってどうしてはずなの?」
「君が小学生で中学生のコスプレをしているという可能性が……」
「ないわよっ!!」
直後、怒鳴りと共に少女は膝蹴りを放った。

・その膝蹴りは今まで多くの人間含む物体を破壊してきた。
 最上火咲にとっては唯一にして最大の武器であった。
どこかの世界の自分とは違い特別何か武術の類をやっているわけではない。
膝でなくともこの体に触れて消えろと思ったものは何だって粉々になってくれる。
かつて自分を襲った父親だってこの掌で粉微塵にした。
だから、目の前のこのナンパ男もそうなるはずだった。
だが、放った一撃はいとも容易く片手で受け止められてしまった。
「え……!?」
「いきなり膝蹴りとは随分じゃないか。
まあいい、女の子は人形のようにお淑やかか、これくらい元気な方がいいからな。
で、3つめの質問だが……」
「……」
どういうことだろうか?
自分は本気でこの男の粉砕を目論んだ筈。
それなのに片手で止められた?ありえない。
晴れぬばかりか体積を増していく疑問の中、眼前の男は続けた。
「君の名前と年齢は?」
「……どうして答える必要があるのよ!」
「僕にもこれくらいのことは出来る」
そう言って男は矛先を見ぬまま右手を背後の壁に置いた。
そうして一歩後ろに下がったかと思った瞬間。
彼の背後の壁は粉々になった。
「!?」
「……ふむ。やっぱり発勁はこの体に良く馴染んでいるか」
発勁。聞いたことがある。
中国拳法においての基本技で空手で言えば正拳突きと同じくらいの初級技。
重心移動の応用で、手を銃身と銃口に見立て体重を銃弾として放つ技だとか。
慣れない者がやれば普通に殴るより威力はないが、
達人が行えば今のようにコンクリート壁であろうと砕ける程の威力になると言う。
だとすればこの男は中国拳法(カンフー)の達人なのだろうか。
だとしたら自分の想像の範疇も超えた何か特別な技で先程の一撃は回避されたということだろうか。
少女の疑問は眼前の男が一挙手一投足する程に深まっていく。
それを露知らず目の前の男はなおも続けた。
「ほら、言うといい。別に何か減るものじゃないだろう?
それとも君が名乗りを上げてしまえばその立派な胸は大きさを減らすとでも言うのか?」
「……純粋にセクハラ男相手に名前を名乗るのは現役女子中学生からしたら危険すぎるだけよ」
「なるほど。人間一体をああも見事に破壊しておいても
制服を着込んでいればどんな殺人鬼も現役女子中学生か。
まあ、12~5歳であることは分かったからいいか」
「…………」
この男は一体何を考えているのか。セクハラカンフーマン?
別に今更一度や二度襲われたところで減るものは何もないが
かと言って恐怖を感じないわけではない。
むしろ色々と未知過ぎて恐怖しか感じない。
「では、最後の質問をしよう」
恐怖が口を開けて言葉を走らせた。
「朝まで付き合わないかな?」
「…………」
ストレートだ。
どストレートだ。
たった今ここで殺人を犯した凶悪女子中学生を相手にこの男は直球を放った。
……なんなのコイツぅ!?
理不尽だ。理不尽を感じるほど直球ナンパ野郎だ。
と言うか一撃でコンクリートの壁を粉砕する技を見せられてからこんな質問をするって
それは断ったら無理矢理にでもすると言う意思表示なのではないだろうか。
ナンパですらない。ただのレイプ魔じゃないのかコイツは。
「答えはノーよ!!」
右足を上げ鋭く廻し蹴り。
膝蹴り以外はあまり得意ではないがこの際だ。手段は選んでいられない。
しかし、せっかく選ばずにはなった手段も男は軽く片手で防ぐ。
「うん、悪くはないが素人丸出しだな。ついでにパンツも」
「……っ!!」
パンツなどこの際どうでもいい。
しかしまたしてもこの男は破壊されるべき一撃を簡単に防いだ。
もしかしてこの男も……。
そう考えが油断を現した時だった。
「…………」
背後に少年の気配を感じた。

・矢尻達真は学校の帰りに血の匂いを感じて走った。
 距離を稼いだのではなく詰めたのだ。
何の根拠もない直感にも満たない気まぐれかも知れない。
だが、走り抜けた先にあの少女がいるような気がした。
その可能性だけで今この足を走らせている。
そうした先では目当ての少女が見知らぬ年上の男に廻し蹴りを放つ光景が流れていた。
足元にはあの男の仲間だろうか?
別の男の残骸が転がっている。
「…………」
足を止める。
その音で前方の二人が揃ってこちらを向いた。
「……今日は女難ならず男難の日かしら」
少女が言葉を放つ。
……自惚れだろうか。
その声には困惑の他に微かだが安堵の色が混ざっていたような気がする。
そしてこちらを見やる男の視線からは何だか悔恨の念を感じる。
あの女に彼氏なるものがいるとは到底思えないがどうやらタダの被害者ではないようだ。
「君は、この子の彼氏か何かかな?」
「「冗談」」
二人は全く同じタイミングと語調で返す。
と、男は一瞬眉間に皺を寄せてから大きく笑い出した。
「怒」
口に出した怒りのままにあの女は連続で蹴りを放ったが
男はその全てを片手で受け止め、時に流す。
・・・あれは確か中国拳法の化勁だ。
相手の攻撃の威力を完全に受け流して殺している。
人体だろうが壁だろうが何であれを一撃で粉砕するあの女の蹴りを
あそこまで無力化する人間がいるのは驚きと言うしかない。
やがて、女は疲れたのか息を切らせ肩を上下させながら男を睨むだけに留まる。
「少年、君にも2つ尋ねよう。
1つ、赤羽美咲と言う少女を知っているか?
2つ、この少女の名前を教えてもらおうか」
男の視線がこちらに注がれた。
声とその外見からそこまで自分と年齢は離れていないようにも見える。
窺っているとその男が、ん?と首をかしげた。
「……どっちも知らんな」
「………………」
「……そうか」
男よりも先に女の方がこちらに対して視線を飛ばしたが気にする必要はない。
これ以上ここにいてもしようがない。
あの男ならあの女を上手く御せるだろう。
踵を返し、来た道を戻る。
そう言えば足元に死体が転がっていた。
乏しい人通りのお陰でまだ誰にも見つかっていないようだがあまり長居すると面倒そうだ。

・少年の背が夕日に燃える曲がり角に消えていくのを見送ってから
 ヒエンはため息をこぼしながらさも当然のように眼前の少女の胸を揉む。
「な、何してるのよ!?」
「いや、本当に本物だな。
昨日の彼女も年かさにしては大きい方だったが君の方が圧勝だな。
ところで、質問を1つ追加してもいいだろうか?」
「……それで最後にして欲しいけどね」
「よろしい。君のその力は何か?
これまで8発ほど君の蹴りを受けているがどれも人体を破壊出来るだけの
威力を有しているとは到底思えない。何かトリックでもあるのか?」
「…………そう、知らないのね」
少女は初めて迷惑そうな顔から表情を変えた。
哀れむような、あるいは寂しそうな顔色だ。
「知らない?何をだ」
「自分の役割をよ。それ以上は言っても仕方ないからこれで帰らせてもらうわよ」
「……いいだろう。また会えたら会おうぞ、ロリ奇乳少女よ」
「……なによそれは」
「君の渾名だ。何しろ名前を教えてもらえなかったからな。
こうして見たままの名前を付けざるを得ない。
奇乳が気に入らなかったのなら超乳とかはどうかな?」
「…………火咲よ。最上火咲。私の名前。
だからもうそんな奇っ怪名前で呼ばないで」
まったくもう、と嘆息をしてから少女:最上火咲は踵を返して去っていった。
「……自分の役割……か」
小さく呟き改めて進行方向を見やった。
……もうすぐ夜の帳が下ろされる。
それでもまだ自分に静寂が訪れるのは久しいようだ。

------------------------- 第3部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
3話「語られる役割(ギア)、3つの組織(ギア)」

【本文】
GEAR3:語られる役割(ギア)、3つの組織(ギア)

・その少年は沈みかかっていた夕陽を背に空き地の中央に立っていた。
「……やれやれ。これはこれはお兄様方、ご機嫌麗しゅう?」
肩を上げ両手を上げため息をこぼすヒエン。彼の周囲には昨日同様の黒服がざっと見ても30人以上。
「赤羽美咲の事を嗅ぎ回るのはやめたまえ」
「昨日は彼女の意思を尊重したために危害を加え無かった」
「だが、これ以上関わるというのならもう容赦はしない」
「さあ、諦めろ」
口々に投降の旨を放つ黒服達。対してヒエンは相変わらず飄々として今度は両手をズボンのポケットに突っ込んだ。
「1つ、いいことを教えてやろう」
そして、言葉を走らせる。
「一度持ってしまえば他のあらゆることなぞどうでもいい、男が言えば空駆ける稲光、女が言えば星の数ほどの美麗。人、それを欲求と言う。そして欲求は生物に欠かせない代物だ。覚えておけ」
「ならばやはりこちらも1ついいことを教えてやろう。大人の忠告を無視した餓鬼は誰だって痛い目を見るとな!!」
黒服達が今度は群れを成して一斉に襲いかかってくる。袖をまくることなくその丸太のように太い腕を使って大振りに殴りかかる。ヒエンの目には止まって見えた。
だが、避けてやるのも面倒だったからか或いは結果が見えていたからかその場から動かない。当然黒服の拳は次々とヒエンの顔面や腹に吸い込まれていく。ドゴッ! ドゴッ! と響く鈍い音は骨が折れる音。しかしそれは断じてヒエンの骨ではない。
「が、があああああ!!!」
決して壊れぬものを全力で殴った黒服達の拳が砕けたのだ。
……やはり、連中相手にもこちらの無敵は健在のようだな。
確認をしてからヒエンは動き出した。手が折れて怯んでいる手前の男の腹に発勁を打ち込む。みぞおちでも胸でもなく腹だ。
……殺してしまってもかなわないだろう……?
とは言えその一撃は身長190を超えた巨体を5メートルは吹っ飛ばす。
「ぐはっ!?」
その巨体が嗚咽をこぼすのと同時にヒエンの手足がまた周囲の黒服に吸い込まれていく。
正拳・裏拳・手刀・貫手・横蹴上げ・足払い・廻し蹴り。今度は空手だった。
……本当に過去の自分は何をやっていたんだろうか。また新たな疑問が生まれてしまったがそんなことは今はどうでもいい。手が、足が、時に肘や膝が相手をぶっ飛ばし蹂躙するこの感覚はやはり心地いい。
「オラァァァッ!!」
一人がどこから用意したのか金属バットを振り下ろした。が、やはり結果は同じ。その金属バットは真っ二つに折れ、持っていた男の手を痛覚が襲う。と、
「ならこうしてやるぜ!」
戦場へとさらに10人以上が押し寄せてきて巨大な網を放った。
「!?」
網は鉄でトゲを有していた。ヒエンは捕われぬよう足を運ぶ。だが、周囲の黒服がヒエンの手足にしがみついてそれを封じた。
「攻撃をしなければ問題ないのだろう!?」
「やはりこいつら、量産型なのか……!?」
数だけならいくらでも揃えられるかもしれない。だが、情報を現在進行形で揃えるのはほぼ不可能だ。しかしそれを相手は今行なっている。果たして、ヒエンは抵抗むなしく鉄網の中に加わてしまい、10人が鉄網ごと持ち上げてはどこかへと連れて行く。ヒエンはあらゆる外的干渉を受けない。だが、このような抜け道があるとは思わなかった。黒服達はヒエンの入った網を荷台に乗せたトラックに乗ってアクセルを踏んだ。

・どれだけの時間が経ったのだろうか。開いた目から見える空は既に闇の色をしていた。
「出ろ」
網から解放されると同時にその言葉が浴びせられた。言われた通りに荷台から降りて前方を見やる。
縦に長い建物が見えた。オフィスにもビルにも見えるがそのどちらでもない。首を正面に戻す。正面エントランスは自動ドアでそれを10人の黒服が囲んでいた。
「ついてこい」
また、自分の周囲も10人の黒服が囲んでいて自分の手足に鎖を巻きつけていた。一本の鎖ならば力ずくでどうにかなったかもしれないが4本が四肢を繋いでいてはそれも出来そうにない。
……ここは大人しく従っておくしかなさそうだ……。
ヒエンは周囲と足並みを揃えながら正面エントランスを抜けた。中はホテルのようでまず到達したのはフロントだ。右手の受付には上品そうな受付嬢が、左手の待合ソファにはテーブルを挟んだ対面でスーツで白髪の男達が何か話をしている。正面のエレベータとは距離が近付いて行く。鎖を持っていない右手前にいた黒服が先行してエレベータのボタンを押す。やがてヒエン達がエレベータの前に着くと同時に扉は開かれた。
中へ入り、同じく右手前の男がボタンを押す。そのすぐ近くのエレベータの情報を見やる。重量制限:なしと書かれてあった。それを確認すると自分含め11人全員がエレベータに入り、重力の移動を感じる。
無音。
箱の中には人間が呼吸をする幽かな音以外には何も響かない。一瞬だけ不動を疑ったが体に掛かる重力の移動は感じ取れる。エレベータ1つ取っても通常のモノではないようだ。やがて無機質な音を鳴らし重力が留まると眼前の扉が開かれた。長い通路が正面に一本のみ存在していた。左右の壁には扉が一切なく、正面……20メートルほどに1つ扉があるだけだった。
鎖が引っ張られる。前に進めということだ。再び10人に囲われながら前に歩き始める。左右の壁が目尻に入る。やはり部屋は正面の1つだけ。やがてその1つしかない部屋の前まで歩くと右手前が扉をノックした。
「入り給え」
声。男性の声だ。ややしわがれているところを鑑みるに中年か初老……。
「失礼します」
10人が一斉に声を上げ開かれた扉の中に進んでいく。
「ご苦労だった。下がれ」
手前にはソファとそれに挟まれたテーブル。その奥に声の主がいた。
高そうな机に左腕の肘を乗せてこれまた高そうな椅子に腰をかけその上半身は奥の全面ガラスから見える夜景に向いていた。
「失礼します」
いつの間にか手足を戒めていた鎖が解かれ黒服は自分を残し部屋を出た。重い扉が閉ざされるまで振り向いていた。
「……すまないね、手荒く扱ってしまったようだ」
声。
先ほどと違い今度はこちらにベクトルが向いていた。視線を前に戻すと正面の人物はこちらを正面に見据えていた。茶色いスーツに身を包んだのはやはり初老の男性だった。柔和な、好々爺のような声とは裏腹にスーツの下は随分とガタイがよさそうだった。
「私の名は大倉和成。この大倉グループの会長だよ」
「……ジアフェイ・ヒエン」
「ほう、随分と妙な名前だね。前半は中国風で後半がフランス風か」
「生憎と記憶がないんでね。
自分が持っていた手帳に書かれていた3文字を自然と読んだらそうなった」
「3文字? ……なるほど。そういう事か」
「それで? そんな記憶喪失の男子高校生を拉致って何をしようと言うのかな?」
「……うむ。君の役割が分かった事でこちらの仕事が1つ減ったようだ」
「役割?」
「そう」
言うと、目の前の初老は腰を上げて右手の人差し指を立てた。
すると、その爪先に風が逆巻いた。
「!?」
まるで小さな竜巻が指先から生えたようだ。
「これが私のGEARだよ」
「ギア? 歯車?」
「GEARとは役割であって力である。力であって宿命であり、やっぱり役割となる。私のGEARは竜巻さ。私を中心として周りを動かす役割であり力」
「……特殊能力だとでも言うのか?」
「表面的にはそうとも言えるだろう。それに、君にも心当たりがあるのではないかね?」
「……」
空から降ってきた赤羽美咲、際限も隙間もなく数を作る黒服、
大した力もなく物体を破砕する最上火咲。
そして、
「あらゆる外的干渉を受けない肉体を持った君、ジアフェイ・ヒエン」
「…………なるほど。そういう事だったのか。で、僕の役割は何だって言うんだ? まさか無敵だとか小さいことを言うつもりかな?」
「違うさ。本当に無敵ならばこうして私の前に姿を見せることはないだろう。第一そんなものは実在しない。……GEARと言うのはね。世界と言うたった1つしかない舞台(ステージ)を構成する歯車なんだ。
勇気・友情・愛情・知識・純真・誠実・希望・光・優しさ・闇。世界にはいろんな概念がある。大地・土・草・木・水・海・空・風・空気・炎など様々な現象がある。言葉・数字・感情・宗教・神・悪魔などの虚数概念も。君はそれらの始まりが何か、言えるかね?」
「……それがGEARとでも?」
「そうだ。いつ、何が原因でそれら概念が我々人間に宿ったのかは分からない。
だが、確実に言えることはこの世の万物はこの世を構成する概念を宿らせた役割を担っていると言う事だ」
「……もしそれが真実ならば全ての人間がそのGEARと言う超能力を使えるということか?
しかし今までにGEARを使ったと確信出来る人間は片手で数えるほどしかいない」
「分からないことだらけで済まないが、どうやら多くの人間は自分が担った役割を自覚していない。だから、その役割を果たすための力・GEARが使えないのではないかと言われているよ」
「……」
あの少女・最上火咲の言葉を思い出す。
なるほど、役割とはそういう事だったのか。
つまりあの少女は万物を破壊するために生まれその力を振るっているという事。それならばあの黒服達は群れを成し、数と言う物を証明するGEARと言う事だろうか?
「それで、あなたには僕の役割が分かるのか?」
「推測だけどね」
「ずばり?」
「零、だよ」
「……零……?」
「そう。零のGEAR。数字の0に何をかけてもそれ以外のものにはならず、どう割り切ろうとしてもやはりそれ以外のモノにはなってくれないこの世でただ一つの存在・零。その役割を君は担わされたのだよ」
「……ふむ。だがまだとっておきの矛盾が有る」
「何かね?」
「僕は今日ここで今あなたに言われるまでGEARと言う概念自体を知らなかった。しかし今日まで僕は零のGEARを行使していたようにしか思えない。あなたの話では自分の役割を自覚していないものにはその力は使えないのではなかったか?」
「それについても正答を持ち合わせていない。だが、今までの実証からこの世でただ一人でその役割を担った人物は喩えそれを自覚していなくともその能力を無意識に行使出来るだろうとは推測されている」
「……この世でただ一つ? ……なるほど、大体わかった。喩えばこの世界に友情のGEARを持った奴が8人いたとしてその8人全員が死んだらこの世界から友情という概念は消滅してしまい、誰も他人を省みることをしなくなる……と言う事かな?」
「……その通りだ」
「……それで、あなたは僕を、零の役割を担わされたただ一人だと言った。ならば僕が死ねばどうなる? たった一人の生死だけで0という数字はこの世からなくなるのか? いや、そもそも僕が生まれる前には0という数字がなかったとでも言うのか?」
「……君に1つ残酷なことを告げよう」
ヒエンの問いに対し大倉は一度目を伏せた。そして、予め用意しておいたその残酷を告げるため口を開く。
「役割を担う人物が一人しかいないGEARを我々はオンリーGEARと呼称しているが、そのオンリーGEARは寿命で死ぬることはない。事実上の不老不死だ」
「……」
ヒエンは今度こそ閉口せざるを得なかった。絶句も絶句だ。会ったばかりの他人に自分は不老不死だと告げられる。
……ダメだ、理解が及ばない。
どんなに理に適っていたとしてもそれを真実だと認めるには人間と言う生き物はあまりに幼すぎる。
「…………良し、分かった。僕が不老不死であるかどうかは今は置いておこう。GEARについては大体分かった。やっと自分が傷を負わない理由も飲食をしない理由も分かった。それでいいだろう。で、あなたが僕をここへ連れてきた理由は?」
「最初は君のGEARを聞き出してそれ次第で我々に与するか仇成すかを決めてもらう予定だった。しかし今ここで君のGEARが零であると分かったので前半の目的は果たされた。……では、後半の目的を果たそう」
「……っと、その前に、まだあなた方の目的や実態を聞いていなかった。それすらも知らないまま行く末を決めてしまえるほどの蛮勇は持ち合わせていない」
「……そうだったな」
大倉は腰を下ろす。
「我々大倉グループの表の顔は空手道場の経営と国際空手連盟の一員となっている。そして本来の目的はGEARの統括だ。GEARを自覚した人間を集めて組織する。さっきも言ったとおり同じGEARを持った人間が全滅するとそのGEARの概念はこの世から消えてしまう。それはよほどの破壊者か魔王でもない限り誰もが望まぬことだ。そして同じ目的を持った組織は他にも存在する。こことは違い表向きは陸軍となっている伏見基地。
そして生物研究所の顔を持つ三船研究所の2つだ。先程君を手荒にここまで連れてきておいてなんだがここは一番安全だと思うよ。まあ、君が軍人や科学者になりたいというのなら他二つも選択肢にあるだろうが」
「そのどれにも属さないと決めたら?」
「……他二つがどうかは知らないがうちの場合は生涯監視を続けさせてもらうことになる。GEARと言うのは他人を傷付けることも出来てしまうものだからな」
「……2つ、いいかな?」
「どうぞ。」
「1つ、あの黒服達のGEARは?」
「数のGEARだ。自然と群れを成す。三つの組織はいずれも数のGEARを持つ人間を集めて尖兵として使っている。大数をいつでも用意出来るというのは大いに状況を有利にしてくれるからな」
「なるほど。では次に。赤羽美咲について聞かせてもらいたい。彼女はここの所属なのか? 昨日は一体何をしていた?」
「その質問には先程の私の質問に答えてからにしてもらいたい」
「……なるほど。身内にしか話せないという事か。ならば補足説明を頼みたい。あなたが言った3つの組織だが、敵対関係にあるのか?」
「……基本はそれぞれに中立だ。だがしかしそれは表面上に過ぎない。対立しているとまでは行かないし、ましてや敵対関係にあるわけでもない。移籍をした者も何人かいる。だが、言ってみれば同じ職業の企業同士と言ったところか」
「なるほど。商売敵か」
「……特に彼女、赤羽美咲に関しては現状トップシークレットに近い。彼女に関わろうというのなら是非もない」
大倉は真っ直ぐにこちらを見やる。座っている初老だと言うのに全く隙がなく、腰が引けそうになるほどの威圧感に襲われる。頬を一縷の汗が滑り落ちる。
「……フッ、」
それを舐めずり、軽く笑った。
「あなたの部下には先に伝えたが1ついいことを教えてやろう」
指を一本立て、告げる。
「如何なる常識も勝機も捨て放ち、ただ一縷吹いた気まぐれという風にその身と全ての力を注ぐ。人、それをロマンと言う。男なら沼に片足突っ込んだとしてもそれが自分の意志であるならば最後まで浸かってやりたいモノだ。それが女のためであるなら尚更というもの。いいさ、どんなGEARが敵でも味方でも構わない。世界がただ自分を殺すためだけの役割を作ろうとも知ったことじゃない。何よりまだあの子の笑顔を見れちゃいないんだ。
ここで引き下げれるわけがない。あなたの下の泥沼、浸かってやろうじゃないのさ……!」
言い切った。
手足がやけに冷たく感じる。だが一歩も引かない。目も足も。
「……いいだろう。君の覚悟、然と見届けた。……今日はもう遅い。明日君の家に迎えを用意する。そこで彼女について話そうじゃないか」
「……いいだろう」
上擦った声で返す。どうやら零のGEARと言えども人の子ではあるようだ。その由来が事実の認証か或いは現状の緊張が解れたからかは彼にも分からなかった。

------------------------- 第4部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
4話「再会の少女(ギア)、並立の組織(ギア)」

【本文】
GEAR4:再会の少女(ギア)、並立の組織(ギア)

・朝。
意識を取り戻し開かれたばかりの瞼を朝日が照らす。完全に覚醒するまで数秒かかった。昨日は結局寝に帰っただけの我が家。ヒエンは畳の上に直接敷いた布団から身を起こす。目をこすり、欠伸を鳴らし唾液で口の中の乾きを止める。頭をかきむしりながら立ち上がり壁に打たれた時計を見やる。
時刻は10時30分を回っていた。遅刻だ。
「……少し眠りが深すぎたか」
寝間着としても活躍していたワイシャツの袖をまくり、ズボンにベルトを通す。
「零のGEAR」
奏でる、その言葉を。一瞬輝く、自らの体が。その状態が昨日の出来事は真実だったと伝えてくれる。

……大倉機関。GEAR。

昨日知った事実は多すぎる。未だに半信半疑である。それもそうだろう、突然自分は超能力者でしかも不死身だなどと言われては。
「……そう言えば」
そっちの方に記憶を奪われていたが今日は連中からの迎えが来るのだった。そこで彼女:赤羽美咲についての話が聞ける。そのために自分は初めて汗をかきながらあのような啖呵を切ったのだ。今思えば多少早計だったかもしれないと思うところはある。それでもせっかく無敵であることが立証されたのだ。多少の無茶や危険のあるステージに行けるというのなら面白いものだと減らず口も叩ける。洗面台へ行き、顔を洗う。この家で水を使うのは顔を洗う時くらいなものだ。なにせ汗をかかないのだから風呂に入る必要も服を洗う必要もない。とは言え昨日ので場合によっては汗をかく事が分かったからもう少し気を付けてみた方がいいかも知れない。まあ、その前にはまずタオルや替えの下着を購入しなくては。 せっかくこうして遅刻したのだ。この際に学校へ行くなど勿体無い。そうだ、下着を買いに行こう。窓を閉め、靴を履き、ドアを閉めて施錠。財布の中身を見る。バイト代の残金は8万5000円。借金返済にのみ資金を充てていたから思いの外懐は頼もしい。

・青い空の下。目の前の車道には車が行き交う。歩道を行き交う人相はいつも見る顔ぶれとはやや違い、やはりというか当然ながら同世代の人間の姿はない。
……これがサボりという奴か……。
携帯電話も持たず家にも電話を置いていなかったのは正解だったようだ。
「……携帯電話か。どこぞのリリカルマジカルな18禁出身の魔法少女のように精々吟味してやるのも悪くはないな」
購入予定物品が1つ増えた。しかし契約のためには家に戻り仮発行された身分証明書が必要だろう。ひどく面倒だがもしこれから出会うべくして出会った美少女達とメルアド交換をするためには必須。その未来を鑑みれば手に入れておくのは決して早計ではないだろう。渡ったばかりの横断歩道を引き返しアパートに戻る。唯一置かれた家具たる冷蔵庫の中に仕舞っておいた身分証明書を取り出して懐へ。

……いや、つい昨日自分の無敵性が発覚したのだから下着の中にでも入れておけば万一の紛失もありえないが、どうするか……?
いや、出す時に白い目で見られるから考慮するか。いくら無敵でも精神攻撃に耐性はないのは先日嫌というほど分かった。

・携帯電話を手に入れたヒエンは2時間ほど弄り回して使い方をマスターした。しかし、まだ迎えは来ない。当然だ。まだ時刻は正午を僅かに回った所。なのでGEARに関して情報を集めることにした。まずは自分の、零のGEAR。自傷含めあらゆる攻撃が通用しないというのはこの半年で実証済みだ。だが、先日赤羽美咲の攻撃は防げなかった。それが彼女のGEARと言う事だろうか?しかしあらゆる物体を破壊する最上火咲のGEARは防いで見せた。と言う事は純粋な威力ではないということ。あの大倉会長が竜巻を起こすだけでなく自分の部下を自由に扱う役割を含めていることからGEARがただ戦闘のためだけに使える事でないことは承知。と言う事は逆に言えば戦闘で使ったGEARが戦闘用でない事もあり得るということ。本来 は日常生活用のGEARを戦闘で使えるよう工夫したりその逆もまた然り。
「……ならば」
冷蔵庫から小さな氷を1つ出した。そしてあることを試すことにした。
………………
…………
……
迎えが来たのはそれから5時間が過ぎたことだった。やはり黒服が部屋へ押しかけると畳の中央で汗まみれのヒエンが発見された。
「はあ……はあ……はあ……ん、もう時間か…………」
息を切らせ汗を流しくたびれた表情のヒエンが驚愕の表情で見やる黒服達を見返した。黒服達は既に大倉からの報告でヒエンのGEARの仕組みを知っている。つまりヒエンがここまで汗をかく=新陳代謝をしていると言う事は本来ありえないことと知っている。だからいずれもしばらくかけるべき言葉を失っていた。
「迎えに来てくれて済まないが少し汗を流させてくれ。流石にこんな痴態では確率レベルとは言えレディに合わせる顔がないのでね」
そう言ってヒエンは部屋の奥にある浴室へと消えていった。5分後にヒエンは完全に清潔な状態で戻ってきた。
新陳代謝が起きない零のGEARであるヒエンはやはりシャワーを浴びる必要性はない。しかしいままた現れた彼は間違いなくシャワーを浴びただろう。黒服達は驚きを隠せない。
「どうした? 僕を連れて行くのがあなた方の役目ではないのか?」
問。その表情には余裕や皮肉の類は見られない。
答。黒服達はその行動を取るまでに数巡を必要とした。


・夕刻に落ちた太陽。自転車に乗って帰路をくたびれた様子で走る学生やサラリーマンの群れを見やりながら
ヒエンは車窓からの光景に感嘆した。思えば車にまともに乗るのは初めてのことである。なにせ、昨日はぐるぐる巻きにされた上でトランクに詰められたのだから。
「1つ聞きたい」
車窓から目を離さずにヒエンは口を開く。
「あんたら数のGEARを持った人間は何人いるんだ?」
「……数のGEARは世界で最も所有する人間の多いGEARだ。凡そ4割の人間は数の役割を与えられている」
「……なるほど。よく他人と群れたがる奴は自然と胸中に持った役割を果たしているというわけか」
視線は崩さず返答する。やがて車は見覚えのある建物の前までやって来た。言うまでもなく大倉グループのオフィスビルである。
「……これを」
車から降りると黒服の一人からバッジのような物を渡された。
「これは?」
「会長からあなたに渡せと言われたものだ。それがあれば自由にオフィス内を歩いて回れる」
「通行証……いや、免許証(ライセンス)の類か」
受け取ったバッジをワイシャツの胸に付ける。黒服に取り巻かれながらエントランスの自動ドアを抜けてエレベータまで歩く。同様に右手前の黒服が開閉ボタンを押す。
「……あんた下っ端か何かなのか?」
「いえ、昨日とは別人で交代制です」
「……内情をありがとさん」
11人でエレベータに入る。相変わらず右手前がボタンを押す。昨日とは違うボタンだ。
「そう言えばここのエレベータの荷積重量上限がないのも誰かのGEARなのか?」
「いえ、このエレベータが持つ運搬のGEARの効力です」
「……は? 生物ですらない人造の物体にさえGEARが宿るとでも?」
「その通り。どんな物体でも専用のGEARを持っているから役割を果たせるのです」
「…………ここまでとは」
絶句。その間にエレベータが役割を終えて扉を開く。感覚からして昨日よりは短い。つまり割合下の階層と言う事だろう。開かれた扉の先はパーティ会場のようだった。誰ぞの結婚式かと疑うほどの規模。しかし参加人数はかなり少なく、10人に満たない。ヒエンが一歩すると10人の黒服は降りないままエレベータに消えた。彼らは招待されていないのだろう。
ヒエンが一歩する。
「ようこそ」
声。
最奥の席に大倉は座っていた。
そしてその同じ席、右隣に……
「………………どうも」
彼女、赤羽美咲はいた。
「まさかここまで来るとは思っていませんでした」
「言ったはずだ。まだ君には見せてもらっていないものがある」
「……セクハラのためだけに裏社会に足を踏み込んだというのですか?」
「駄目かな?」
「……軽率だと判断します」
「軽率? なるほど。まだ僕を多く知っていない証拠だな。これからじっくり丹念にその体に刻み込んであげなくては。このジアフェイ・ヒエンと言う男の味を」
「食事の席に気味の悪いことを言わないで下さい」
「それは失敬だな。大体僕は食事などしたことがないのでね」
「…………そろそろいいかね?」
二人の会話を遮るように大倉が言葉を放つ。
「改めて紹介しよう、赤羽美咲。君が会いたがっていた少女だ」
「改めて自己紹介します。赤羽美咲、14歳です」
「改めて名乗ろう。ジアフェイ・ヒエン、一応15歳ということになっている。高校2年生でもある。さて赤羽、早速で悪いが今日は何色かな?」
「早速セクハラですか。一応言っておきますが今ここにいる人達は最低でも一般人を10人は一人で圧倒出来る実力者ぞろいですよ。GEAR同士の戦闘にも手馴れている猛者達です」
「なるほど。GEAR同士、か。しかしそれを以てしても君の下着の色を尋ねない理由にはならないな」
「もっと別の理由があるとは思えないのですか?」
「ないね」
「…………そうですか。二日ぶりですが相変わらずですね」
「……君達?」
また、大倉が遮る。
「それで会長、彼女に関して聞きたい」
「その前に本当に我々の一員になるのだな?」
「会長、こう言う言葉を知らないか? 男に二言はない、と」
「……いいだろう。ならば答えるが彼女は三船の改造人間だ」
「…………」
三船。確か3つのGEAR統括組織の1つで研究施設の顔を持つ。
その改造人間と言う事は……
「順を追って説明しよう。彼女の両親は彼女が生まれる前から三船の一員だ。そうして彼女が生まれてから数年で三船はある技術を確立させた。それがGEARの後付けだ」
「GEARの後付け?」
オウム返し。
「うむ。本来GEARは人間に限らず森羅万象あらゆる全てが持っているものだ。だが三船は恐ろしいことにある程度自由に新たなGEARを人間に付与させる事に成功したのだ」
「……つまり彼女は本来のものと与えられたものの2つのGEARを持つとでも?」
「その通り。もちろん普通のやり方じゃない。だから彼女の体に掛かる負担も尋常ではない。……2年ほど前に我々が三船の研究所の1つを潰した際に保護したのだ。その際に彼女から三船に関する情報を聞いた。……酷いものだったよ。人道を完全に踏み外している」
「…………」
彼女は無言。ヒエンも顎に手を当て無言。
「先日、君が彼女と出くわしたのは彼女の後付けされた方のGEARの実験中だった」
「それで、僕を三船と勘違いして数の黒服を派遣したと言う訳か」
「……結論から言えばそうなる。……さて、彼女に関して話せることは話せた。これで満足かね?」
「まだだ。彼女の家族は三船だと言った。ならば彼女は今どこで誰と過ごしているというのか?」
「…………そこはかとなく嫌な予感が」
赤羽が小言。
「我々の管理下にあるホテルに住んでもらっているよ」
「率直に言おう。彼女をくれ」
「……どういう意味かね?」
「何故か彼女を初めて見た時から、ずっと前から一緒だったのではと思う事がある。彼女の名を耳にすると心が安らぐ。もしかしたら失われた記憶に関係しているのかもしれない。彼女と一緒にいればそれが何なのか分かるかも知れないんだ……」
「…………一応聞いておこう。…………本音は?」
「男子高校生の身で年下クール系美少女と一つ屋根の下のハッピーライフなどまさに超サイッコォォォ!! 天や神、あらゆる倫理が許さずとも男なら一度は夢見るもの! それを叶えられるまさに二度とない熱きチャァァンス!! それを逃して果たして立派な思春期男子と言えるだろうか? や、言えるはずがなかろうに!!今はまだ笑顔が見せられぬと言うがこの男ジアフェイ・ヒエンの手で必ずや笑顔に変えて見せ、幸せを与えてくれようぞ!!! そうしてそんなチャンスを逃してなるものかってぇぇんだよおおぉぉぉぉぉっ!!!!」
「……」
「……」
力説。絶句。熱狂。静寂。嗚咽。負の全てを無視してヒエンが赤羽の手を取る。彼女は光より早くその手を払った。
「……まあ、建前の方も決して嘘じゃない。君を抱き、君と話し、君と一緒に過ごした一時は確実に僕の記憶を刺激していた。まさか零のGEARの持ち主には過去さえ0だと言う訳でもなかろうに。せめて記憶が戻るまでは一緒にいたいものだね」
「……赤羽くん、君は?」
「……構いませんよ。ですが、私はあなたの性欲の捌け口ではない事を重々念頭に置いてください。飽くまでもあなたの記憶復活のためだと」
「いいだろう。ただし時には念頭に置いたそれをどこかに蹴り飛ばすかもしれないが」
「……私はいつでも出ていけるように私物を置かない方がいいかもしれませんね」
「そのような心配はいらない。既に今日君のために新しい布団や歯ブラシ、食器を買っておいた。改めて私物を持ち運ぶ必要性は感じられないな」
「……やっぱり考えを改めたいのですが」
「ジアフェイくん、君はここを劇団か何かと勘違いしていないか?」
「いえいえ、光栄ですよ。よく見れば彼女以外にも美少女が居るではありませんか。こんな素晴らしいところに連れてきて頂き公営の極み。明日から誠心誠意あなたの下で働かせていただく所存ですよ、会長」
視線を右往左往。会場の中には基本的には成人男性や青年ばかりだが数人程ティーンの少女も混じっていた。ヒエンが視線を配るとひきつった笑顔を返してきた。
「……存分に不安はあるがまあいい。」
手を叩き、大倉が席を立つと散っていた他のメンバーが音もなく傍らに集まる。それを見てヒエンはほう、と息を吐いた。
「大倉グループの幹部(スタッフ)を紹介しよう。
まず経営している空手道場の代表、加藤研磨」
「押忍、いい啖呵だったぜ。……関わり合いたいかどうかは別としてな」
非常に体格のいいマッチョが一歩前に出る。40前後と言ったところか。
「次に副代表である岩村利伸」
「……真っ先に言わせてもらおう。君とは関わりたくないな」
メガネをかけた如何にもエリート風サラリーマンのような男。こちらは30半ばか?
「部隊長(エース)である馬場雷龍寺と次兄の早龍寺、三男の龍雲寺」
「…………」
「…………」
「あ、あはは……よろしく」
長男は20前後で次男もそれに近い。三男は自分と同じ程度か? 苦笑をこぼす三男はともかく兄二人は目も合わせようとしない。だが、その動きや身なりに一切の隙はない。達人の動きに相違ない。むさいと言うのもあって近寄りたくはない印象だ。
「女子部の部長である鈴城紫音だ」
「……よろしく」
今度はどこかで見覚えが有る。クラスメイトが見ていた雑誌で見たような顔だ。アイドルか何かか? 間違いなく美少女の類だ。背丈は自分と大差ない。しかし組んだ腕の奥にある双丘は反比例しているようだ。
「副部長である天竺(あまがさ)=リバイス=鈴音だ」
「どうも、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
中学生くらいだろうか。名前からしてハーフか? 金髪が眩しい。いいところのお嬢さんかも知れない。ちょっとだけ彼女の姿には寒気を覚えるが。
「あの……いつまで手を握ってるんでしょうか」
「君が嫌だというま……」
「嫌です」
「よろしい」
手を離す。腰まである長い髪を揺らして彼女は後ろに下がった。……ちっ!
「そして君がお望みの赤羽美咲。幹部でなく保護観察中要人だがね」
「…………」
「よろしく、全力でよろしく」
両手を差し出す。彼女は一切反応しない。
「残念ながら所用で今日はこれなかったがまだ何人か幹部(スタッフ)はいる。で、次は君だ」
「ん、ああ、そうか」
会長に言われ泣く泣く手を引っ込めて咳払い。
「ジアフェイ・ヒエン。一応15歳で高校2年生で記憶喪失だ。女の子は大好きだが野郎は嫌いだ。何やら皆さんから嫌悪の視線を感じるが可能な限りお互いノータッチで行こう。以上」
目を伏せたまま早口で告げる。
拍手は一切ない。
どうやら本当に印象が最悪らしい。
「ジアフェイくんには明日から道場で指導員の補佐をやってもらう」
「指導員補佐? 僕は空手初心者ですが?」
「今日中に基礎を教えるよ。君の腕は黒服から聞いている。ついては、一人対戦相手を選んで欲しい。それを相手に君の腕をこの目で見よう」
「なら、目があったからコイツで」
指差す。それは一瞬だけ視線をこちらに送ってきた馬場次男・早龍寺に。
「…………」
「早龍寺くん、いいかね?」
「構いません。ですが、いいんですね?」
「ああ、彼の気の済むように相手をしておやりなさい」
大倉がいい、早龍寺はスーツの上着を脱ぐ。
「……どこまでかな」
ヒエンがネクタイを外す。

------------------------- 第5部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
5話「二人の夜(ギア)、遅れてきた日常の歌(ギア)」

【本文】
GEAR5:二人の夜(ギア)、遅れてきた日常の歌(ギア)


・テーブルがどけられた会場。ネクタイを外し、上着を脱ぎ捨てたヒエンは倦ねていた。
……この男、何のGEARか知らないが純粋に強いな……。
正面にいるスーツの男は自分と同じで息を切らせていなかった。それを見て体に力が入る。
「うおおおおおおおお!!」
踏み込み。握る拳。体重を乗せて正面に放つ正拳突き。
「……」
真っ直ぐにスーツの黒に吸い込まれるように進む拳は、一瞬だけ手首に衝撃を受けてからそのまま空を切り続けた。最低限度の動きでこちらの攻撃が受け流されていたのだ。さっきからこれを2回。今ので3回だ。対して向こうの攻撃はパンチだろうが回し蹴りだろうが面白いように当たってしまう。GEARのおかげで全くダメージはないがしかし面白くない。だが、それは向こうも同じ。殴ろうが蹴ろうが全くダメージを与えられないどころか逆に手足を傷つけてしまっている。顔色は変わらないが皮膚の色が変わってる事から間違いなく痛覚(ダメージ)にはなっているはずだ。
……それで怯まないとは、流石は武闘家ってところか。
「……」
早龍寺が動く。回し蹴りがこちらの空いた脇腹に向かって放たれる。
……その間隙を献上するほど甘くはない!
ヒエンは肘を立て、僅かに膝を落とす。0,1秒。僅かな間隙の後に生まれた結果は、
「……くっ!」
早龍寺が初めて苦痛の声を漏らし、その色に表情を変えた。ヒエンの鉄壁の肘に向かって全力の回し蹴りを放ったのだ。中足(ちゅうそく)には尋常ではないダメージが生まれているだろう。
「行くぜ!」
そしてまた、ヒエンから動き始めた。手前の相手には遠く及ばないもののしかし素人とは思えない打撃の数々。
早龍寺はやはり必要最低限の動きでこれらを受け流していくのだがヒエンの手は止まらない。しかもヒエンの攻撃はいずれもまるで鮫肌のように触れると痛く、避けようとすると余計に深く切り裂くような物に変わっていた。
「らああああああああありゃあああああああ!!」
そしてついに生まれた完全なる間隙にヒエンは叫びを込めて一歩し、必殺の掌底を放った。
……これは回避できない……
早龍寺は十字受けで掌底を受け止める。受け止めてしまった。
「ふっ、」
にやりと笑うヒエン。その表情が速度を以て離れていくのが早龍寺には分かった。否。早龍寺の体が今の一撃を受けて遠く速く後ろに飛ばされていたのだ。
「がっ!!」
5メートルはあろう壁に背後をぶつけ、大きな衝撃を広げながら口から液体が小さく飛ぶ。しかし転ぶ事も倒れる事もなくその両の足で着地してみせた早龍寺はより表情を険しくさせてこちらを見やっていた。
「そこまでだ」
声だ。大倉会長の。
「ジアフェイ君。君のは空手じゃない」
「へ?」
「最後の一撃は発勁と言う物だ。中国拳法の」
「あ、やっぱり? ルール違反でしたかな?」
「そういう訳ではないが空手を教えるのに中国拳法の技を使っては意味がないだろう?」
「……そう言えばそんな背景がありましたっけ。ただこいつをぶっ飛ばして女の子達にいい顔したいなぁって事しか頭にありませんでした」
「どこまでも素直だな君は」
会長は嘆息。視線をヒエンから早龍寺に向ける。
「早龍寺君。君に落ち度はない。今回は正しく君に落ち度はなかった。実力ではなく相性の問題だ。そう飲み込み給え」
「……分かりました」
しかし早龍寺は表情を変えていない。口元を拭い、ボロボロになったスーツの上を脱ぎ捨てる。
「弁償しようか? 流石にそこまでボロボロにしちまったら気の毒だ」
「気にするな。気を遣われたらこちらが惨めだ」
「ちぇっ、都合を知らない奴だな」
ヒエンは椅子にかけていたスーツの上着を取って羽織った。その時だ。一瞬ブチッと言う鈍い音が聞こえた。
「!」
それはシャンデリアだった。しかも赤羽の頭上のシャンデリアが支えを失って天井から落下を始めようとしていた。
「赤羽!!」
「!」
赤羽は気付き、離れようとするが間に合いそうにない。それを確信したヒエンは目を輝かせ、同じ色の光を視線の先にいた赤羽にもまとわせた。直後シャンデリアはけたたましい音を立てて赤羽に落下した。
「赤羽君!!」
騒然が起きる。部屋のルクスがやや落ちる。金属が割れる音、女性陣の悲鳴、男どもの状況確認の声。その中で声を出さず額から汗を流すヒエンは一瞬の躊躇の後にシャンデリアに向かった。
「手伝うんだ!」
会長の言葉で他のスタッフも一斉にシャンデリアに向かう。男6人掛かりで落ちたシャンデリアを持ち上げる。すると赤羽が姿を見せる。
「……」
「無事か?」
「……はい。何故だか無傷のようです」
「……そうか」
ヒエンとの会話。それに安堵を覚えない者はいない。しかし疑問を覚えない者もいなかった。
「ジアフェイ君、君はまさか、」
「何か?」
「……いや、何でもない。赤羽君。本当に怪我はないのだな?」
「はい。申し訳ありません。ご心配の種となってしまって」
「いや、そんな事は構わないさ。……ふむ。さっきのジアフェイ君の一撃でシャンデリアの紐が緩んでしまったようだね」
「ありゃ、って事はそれってば僕のせいだったりしますか? 嫌だなあ、赤羽ちゃんに対しては性欲以外の感情は向けていなかったのに」
「あなたさっき自分で何を言ったか覚えてます?」
「もちろん」
「……あなたはそこまで私に後悔を覚えさせて何をしたいのですか」
「ジアフェイ君」
声。会長だ。表情は変わらず穏やかにも厳かにも見える。
「それはあまり使わない方がいい。オンリーGEARが一時的とは言え自分の役割を他人に渡すのは感心しない」
「……ありゃ、バレちゃってましたか」
「どういう事ですか?」
「……」
しかし会長は言葉を返さない。その反応と今の会話とで後ろに居たスタッフ連中の一部は様々な色の声を出した。その後に騒ぎを駆けつけた黒服が大量に入ってきた。
「……処理をしろ」
「はっ!!」
加藤が指示を出し、20人の黒服が崩落したシャンデリアの回収作業を始めた。その作業の中で早龍寺はヒエンを見やった。
……外的影響を一切受けずそのために一種の無敵となっている零のGEAR。奴はそのために外からの攻撃はもちろん自傷すら受けない。飲食も取らないと聞いた。それを、一時的とは言え他人に貸し与えるだと!? いくらオンリーGEARと言えどそんな馬鹿な話があっていいのか……!?
焦燥の肩に手が置かれた。兄の雷龍寺だ。
「気にするな。会長も仰られていた通り、相性が悪すぎた。あれは俺でも難しいかも知れない」
「……分かった」
一方。シャンデリアを片付ける黒服達を完璧無視しながらヒエンはテーブルに並べられていた七面鳥を見やった。恐る恐る手を伸ばし、足を掴んで口に運ぶ。
「うおっ!? スゲェ! これが食事か!」
「……あなた、食事できないのでは?」
「あれ? 赤羽ちゃん気付いてないのか?」
言って、ヒエンは伸びた爪で彼女の手を掻く。割と力が入れられていて普通なら血が出る程だろう。しかし彼女のそこには一切の傷はなかった。どころかヒエンの爪の方が割れていた。
「これは……」
「僕のGEARを一時的に君に貸し与えていたんだよ。今日迎えが来るまでの間に練習して試してみたんだ。他の物体に出来るのはそれで分かっていたけど他の人間に出来るかどうかはまだ分からなかったが、どうやら咄嗟の賭けには勝てたようだ。とりあえずこの生まれて初めての食事を終えるまで待っていてくれ」
「いや、流石に生まれて初めての食事ではないと思うのですが」
しかし彼女の言葉を聞かずヒエンは七面鳥を不器用に暴れるように貪り始めた。それを見ながら赤羽はとりあえずテーブルの上の春巻きに手を伸ばそうとして、ヒエンに止められた。
「え?」
「やめた方がいい。そんな体にした僕が言うのもなんだが、零のGEARが発動している状態で食事はしない方がいい。前に食べられない事を知らずに食事をした時は無意識に解除されるまでの間ずっと胃もたれが続いた。きっと胃液が出ない状態なんだと思う。だから待っててくれって言ったんだ」
「……なるほど」
「しかしいま君はすごい状態にあるんだな。GEARが3つも適用されているんじゃないのか?」
「……確かにそうなります」
赤羽の返答。同時にヒエンが食事を終えるといきなり赤羽の胸を触った。
「何するんですか?」
「おっぱいを揉んでいる! ……あ、嘘です! 嘘じゃないけど悪気は無いんです。なのでそんな目で見ないで! ……いや、GEARを返してもらおうと……」
「体に触れないとダメなんですか?」
「僕は君にこのGEARを与えた時に見えないボールみたいなのを投げつけるイメージをしたんだ。だからいま君の体が受け止めていたそれを直接触れて返してもらったんだ」
「……胸を触る必要ありました?」
「赤羽、便宜と言う言葉を知っているかな?」
「ええ、知っていますよ。都合が悪い時に男の人が自分を正当化するために使う言葉ですよね?」
「……セメントだなぁ、君は」
自分の腕をつねり、GEARが自分に戻った事を確認。それを確認した赤羽が春巻きを口に含んだ時だ。
「それで、妖怪作品潰しちゃん」
「待ってください。それを一体どの口が言うのですか」
「この口だ。マウストゥマウスならいつでも歓迎だ」
「春巻きとでも接吻していてください。と言いますか質問いいですか?」
「何かな?」
「他の物体に譲渡していないとあなたは自分のGEARをオフに出来ないのですか?」
「……いや、どうだろ。無理じゃないかな?」
「……やはりオンリーGEARだからですか」
オンリーGEAR。その言葉を自分で言う分にはまだ誤魔化しが出来る。しかしいざ他人の口からその言葉を吐かれると考えてしまう。この世で一人しか担い手がいないGEAR。GEAR自体が担い手が全てを失うと概念ごと消滅してしまう世界だ。オンリーGEARはもっとデリケートになる。自分が死ねばこの世界から零と言う概念はなくなってしまう。それがどういう事かはイマイチ想像がつかない。しかしそれを世界が望んでいるとは思えない。さっき言った初めて食事をした時も無意識に解除出来たのは胃の中の物が消化して排泄されるまでの数分にも満たない僅かな間だけだった。
今も既に先程食べたばかりの七面鳥がものすごい速度で消化されているのが分かる。
「失礼」
なのでトイレに走った。

・ヒエンの入会パーティは終わり、その帰り道。
「何!? 一緒に住んではくれないのか!?」
ヒエンは叫んだ。
「当たり前じゃないですか。私とあなたは一応男女です。そしてあなたは性欲100%。一緒に生活したら私はきっとあの中学で卒業式を迎えられない状態になりそうです」
「大丈夫! 避妊すれb……ごべぁぁぁっ!!」
鋭い前蹴りが鳩尾に入った。ダメージはないのだが喋ってる途中にいきなり攻撃が来たために肺が踊った。
「こ、この前と言い、君は僕をGEARの上からでもダメージを与えることが出来るGEARでも持っているのか?」
「……私のGEARは狙撃です。つまり相手の弱点を速やかに見つけてそこを的確に攻撃出来ます。どうやらあなたの場合まだ完全な無敵と言うわけではないようですね。私の攻撃は僅かながら通用するようです」
「……むむ、」
「それにGEARは本来戦闘のためだけの物ではないものです。世界の役割。だから多種多様です。今日戦った早龍寺さんはあなたとの相性は最悪でしたが中にはあなたが最悪だと思う相性のGEARもあるものです。と言うか大倉機関にもいます。あなたじゃ絶対に勝てない人が」
「……会長、じゃないよな」
「はい」
「……」
あの雷龍寺と言う奴か? 何だか小声が聞こえたような気もするし。
「ともあれ不死身かも知れませんが無敵というわけではないと思うのであまり無茶はしないでください」
「お、心配?」
「……あなたは記憶喪失なのでしょう? 私といれば何か思い出すようなものがあるのでしょう?」
「それが何なのか分からないけどね」
「もはや赤の他人ではないんです。それなのにそんな事言われたら素直に興味と言う物が湧いてくるものです。気になります、私」
「惜しい! 順番が逆だ!」
「……」
赤羽は嘆息しながらも回し蹴りの準備を整えた。


・朝だ。目が覚めた。
「……むむ、」
ヒエンが見慣れた天井を目にいれ、上体を起こし、周囲を見回す。当然ながら我が家我が部屋だ。そして認識が終わると情報の整理を行う。
昨日、結局赤羽美咲と出会えて彼女の秘密を知った。自分のGEARの事も少しだけ詳しくなった。しかし彼女と一緒に暮らすことは出来なかった。念のため自分の布団の横に彼女用の布団やらサイズの大きなワイシャツを置いておいたのだがそれらが使われた形跡は当然ながらない。むしろあったらホラーである。
「……そんな洞穴、いやホラーな事を言ってないで支度するか。はぁ~」
時計を見ればいつもどおりの時間。食事をする必要がないからか恐らく他の学生からすれば中々遅い時間だと思う。……そう言えば昨日は休んでしまっていた。それも無断だ。多少行くのが億劫だが仕方がない。自分としては学校のつまらない授業なんかよりも生死や世界に関わるとまでされている自分のGEARについての認識を深めたいところだと言うのに。
「……そう言えばメルアド聞けなかったな」
畳の上に放置された携帯電話の残骸を見やった。あの馬場早龍寺とか言う気に食わない野郎との模擬戦で奴の攻撃を受けて完全にお釈迦になっていた事に昨日帰ってから気付いたのだ。……弁償しろよあの野郎。
トントン……
「ん?」
音だ。それも多分ドアがノックされるような。しかし自分に来客などそう滅多にあるものではない。それにここは安家賃のボロアパートだ。誰かがドアの前の通路を走って通るだけで似たような音はいくらでも出る。
トントン……
「またか」
これはもしや本当に来客なのだろうか? 半裸の寝姿のまま玄関へと向かう。
「どちらさんで?」
「私です」
ドアを開けたら制服姿の赤羽美咲がいた。
「ほほう、夜這いならぬ朝這いかな? しかも制服姿でやって来てくれるとはサービスが聞いているじゃないか」
「誰もそんなクレイジーな発想のために16キロも離れたここまで来たりしませんよ。会長からの指示でこれから可能な限りあなたと一緒にいる事になりました。……生活はしませんけど」
「ほほう、通い妻かな? あの会長も中々いいことをしてくれる」
「……」
「あ、帰るの無し! 禁止! って言うかその冷たい目をデフォルトにするのやめてくれ!」
「あなたがそうさせるのが悪いのでしょう。とりあえず着替えてきてください。そのような格好をレディに見せるものじゃないと思います」
「ほほう、もっと見たいと?」
「日本語が通じないのですか? 零のGEARだと学習機能も0なのですか?」
彼女の前蹴りに鳩尾を打たれた。
それから顔を洗い、制服に着替えてから家を出て彼女と道を歩く。
「学校はこの近くなのか?」
「いえ、スタッフに送ってもらいます」
階段を降りると正面にここ最近よく目にする黒服とその車が見えた。
……デートかと思ったらまたあいつらかよ。
「あ、そうだ。おい、数の黒!」
「……それは私達の事で?」
黒服を妙な呼び名で指差し、ポケットから壊れた携帯を出す。
「これ、あの馬場なんちゃらって奴に弁償させろ。昨日ので壊れたんだ」
「……は、はぁ……」
「……あなたが入ってるのを確認しないで勝手に戦ったのでは?」
「だからって人の物壊したら弁償だろう? 弁償。それ、今日中な」
「か、かしこまりました。とりあえず、お乗りください」
「けっ!」
開かれたドアから車内に乗り込むと、やがて赤羽も乗り込んできて隣に座る。
「この距離から1センチでもこちら側に近付いたらあなた側のドアを開けて車道に落とします」
「ふっ、愛のムチという奴だな」
直後、走行を始めたばかりの車は煙と共に一人の男を捨てていった。

・円谷高校と言う高校がある。三年制で共学。部活動は運動部も文化部も隔たりなく平等だ。制服も夏服が少々露出が激しいが特に変わったところはない、普通科の普通の高校だ。
「ガンジスギャンザ! 今は犬の限界を超えるんだ! さあ、超えて見せろぉぉぉっ!!!」
たくさんの見て見ぬふりが集まる昇降口で一人の男子生徒がバーニーズマウンテンドッグのガンジスギャンザ相手に玉ねぎとチョコをこれでもかと言う程混ぜ込んで直径10センチ程の球体にした物を次々と口の中に放り込んでいる。すぐに動物愛護団体所属の武装職員達がゴム弾を入れたライフル片手にやってきて彼はどこかに連れ去られていき、ガンジスギャンザは手術をすることになった。
「……”犬”の奴も相変わらずだな」
ヒエンが校門をくぐったところで一部始終を見て呟く。”犬”こと山谷修平はクラスメイトであり、自称”犬と話が出来る男”だそうだがよくあの団体に拉致されては数日後に血涙を流しながら帰ってくる。
「……俺は、いま宙を制覇した!!」
と言いながら正座に竹馬で爆走しているのは”鳥”こと柚馬俊介だ。
「鳥! 俺はようやく鳥になれたんだ!!」
「鳥、クラスメイトの好としていいことを教えてやろう。確かに足を使っての歩行以外で移動には成功しているが飛べてはいないぞ? 宙には至っていない」
「な、何だと!? ここ最近徹夜してネットオークションで探した結果こいつを見つけ出したと言うのに! この瞼の下の隈をどうしろと言うのだ!?」
「帰って寝ろ」
とりあえず竹馬を蹴り壊して鳥を倒してから下駄箱で靴を履き変える。と、
「遅刻だ遅刻だあぶねえ!!」
声。今度は何かと思って振り向くと、やはりクラスメイトのジキル・クルセイドがフランスパン咥えて走ってくるのが見えた。
「まだ10分あるぞ。大丈夫だ」
「ごぼびびばばら、……んくっ! そう言いながらパンを口に押すな! 窒息死する!!」
「それにお前でそれならあいつはどうなる?」
「え?」
指差す。左手の方向。階段が見える。
「……あぁ~、だるいなぁ……」
3段目に腰を下ろして蒼白の表情の男子がいた。これもやはりクラスメイトのトゥオゥンダ・ギミーである。
「あいつまたあんなところで……。きっとまた1時間くらい早く来てるのにああしてるんだろうな」
「何故だと思う?」
「ん? そりゃ極度のもやしっ子だからで……」
「それもあるが、違うな。分からないか? ならいいことを教えてやろう。あそこは階段だ。そしてその上には1年生の教室がある。つまり1年生はあの階段を通ると言う訳だ」
「……? それが何だ?」
「後輩の女子のスカートを覗いている!!」
「! な、何だと!? な、なるほど……! 確かに何であっち側の階段にいるのかとずっと疑問に思ってたがまさか、そんな役得を目指していたとは……」
拳を握り、血相を変えて二人はトゥオゥンダの下へ走った。そして彼と同じように階段の3段目に座り込み、だるいだるい言いながらスカートの下を目指していた。
直後だ。
「イイイイィィィィィィリイィィィィィィィイイィャアッッッッッホゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥイイイイイ!!!」
廊下を全裸のボディビルダーがバイクで爆走! 階段を駆け下りたと思えばそのまま3人に突撃をかました。
「な、何しやがるこの全裸!」
「はっはっはっは、ダメじゃないかこんなところでそんな格好。破廉恥だ」
「常に全裸のあんたらにだけは言われたくない!!」
「ふむふむ。やはりここは心地がいいものだな。自分の体がある喜び、素晴らしいものだ」
「は? 何言ってんだ? 幽体離脱でもしてたのか?」
「うむ。ちょっとな」
この全裸のボディビルダー・石原狂。信じたくはないがこれでも教師でしかも担任である。そして複数形で呼んだ意味は、
「どうした狂。敵か?」
「朝から大変ですねぇ」
全裸のボディビルダーに並ぶのは透明ジャージのジョギングマン・片淵死狼と露出民族少年・平良Amazonだ。
前者はドン引きしながら通ろうか通るまいか悩んでいる女子生徒にねじりよってはスカート丈の長さを三角定規で測ろうとし、後者は廊下で友達と話しているらしき男子の持つペットボトルの中にカンディルを鬼のように入れている。
「お前ら、久しぶりだからってはしゃぐなよ!?」
「はっはっはっは、何を言っている零くん。昨日来なかっただけで一昨日も会ったじゃないか」
「ジアフェイ・ヒエンだ! いつもの癖で呼ぶんじゃない!」
「おや、予鈴だ。早くその二人を起こして教室にきたまえ。二日連続で遅刻をしてみろ、妹さんの着替え中にダンクシュートしてやる」
「やめろ! こんな形で記憶の底を揺らがせるのはやめろ!!」
とりあえず一応丁寧に欠席届を提出してからヒエンはトゥオゥンダとジキルを置いて教室に走った。
教室。
「……Aの6だな」
「……残念。Jの6だ」
机を8つ繋げて8人の男子が一人を中心にルーレットをしていた。勝負に負けた男子は逃げようとしたがすぐに3人に追いかけられて羽交い締めにされる。別の一人がその男子のポケットからUSBメモリを取り出す。
「や、やめてくれ! その中には下は2歳、上は80歳の男の裸体をあらゆる角度で盗撮した画像が……!!」
「これをグアネスに提出して、これこそが日本男児が追い求める真のポルノだと認識させ、複数の男を同じ空間に入れないようにする。するとどうなるか。必然的に男子は一人だけが他の女子大勢と同じ教室で授業を受けることになる。さらにさらにぃ!! 更衣室やトイレなどまさに犯罪の温床! だから男子が複数揃って以下略な状況を作らぬためにも男子は女子更衣室で着替える事となる! 素晴らしい作戦だろう!?」
「だがしかし問題があるぞ! 女子側がそれを受け入れなかったら俺達はただ寂しく一人独房みたいな部屋で着替えたり授業を受けることになってしまう! それでもいいのか!?」
「貴様、グアネスの狂いっぷりを見誤るな! 奴ならばどんな独善も適当な理由と不適切な裏金によって押し通すに決まっているだろう!!」
「くっ……!! だが博打すぎる……!!」
「おい、その辺にしておけ。色々危ない」
謎の作戦を始まる前に叩き潰すヒエン。しかし片手にはエロゲのビジュアルブックを持っていた。
「馬鹿な! ジアフェイ! 貴様はその武装を片手にしながらも女子達と同じ部屋で着替えたくないのか!?」
「そう言う発言がその理想を遠ざけるものだとどうして分からない!? 見ろ、クラスの有様を! お前達のせいで男女が冷戦状態になって既に2ヶ月だぞ!? そのせいで将ウィーンの奴が男に目覚め、場合によってはお前達が餌食になるかもしれないぞ! それでもいいのか!?」
「……ぐっ!! 俺達に救いはないのか!?」
「……見つけようぜ、男達のフロンティアって奴を男達の手で!!」
「応!!」
「ふっ、そこの男子ども。謎の絆を結ぶのはいいがそろそろ従業の時間だ。これ以上学級崩壊を助長させたものは罰として某悪の組織によって改造人間にされるといい。まあ、私のようになれるとは限らないがな!」
全裸のボディビルダーがバイクごと教室にやってきてはゲーム○アをプレイし始めた。間違いなく学級崩壊のきっかけの1つくらいにはこのボディビルダーはなっているに違いないと誰もが思っているが誰もが突然いなくなってしまうのを避けるため誰も指摘はしない。そしてそうなると、十中八九。
「今何を思った貴様はぁぁぁぁぁ!?」
アクセルを踏み入れ、教卓やら机やらをぶっ飛ばしてヒエンに向かってバイクを走らせてくる。
「何も思っちゃいねえ!!」
「嘘を付け! 担任が全裸で授業を始めると言いながらバイクにまたがってゲームをやっているのを見て何も思わない人間がいるものか!!」
「100%確信犯じゃねえか!!」
「ふっ、褒め言葉だよ」
ボディビルダーのラリアット。ヒエンの顔面に直撃。そしてそのまま煙と爆音を残して走り去っていった。
「……で、授業は?」
ジキルが沈黙に言葉を生んだ。

------------------------- 第6部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
6話「荒々な愉快(ギア)、出会った二人の赤(ギア)」

【本文】
GEAR6:荒々な愉快(ギア)、出会った二人の赤(ギア)


・教室。2年3組は在籍人数28人と比較的少数だった。同じ2階の1組と2組もまた31人と少なく、逆に一番離れた7組は一人も欠員がいないため36人である。では何故2年3組は8人も生徒が減ったのか。理由は簡単だ。
「よし、では境ホラ2下の137ページを開けなさい。この挿絵の状況を英語で……おら! そこのテメェ答えやがれ!!」
突然キレた全裸のボディビルダーが92代目総理大臣名義で顔本本社にサイバー攻撃を仕掛けながら一番後ろの席で、リアル虫キングとしててんとう虫とカマキリを戦わせていた”兜”に問題を物理的に叩き込んだ。
「はい! そもそも教科書買ってないので分かりません!!」
「バカ野郎!! そもそもこれは教科書じゃない! ラノベだ! ヘビーだがラノベだ!! 教科書じゃない! そんな事も分からないお前にはいいものをくれてやる」
そう言ってボディビルダーは兜を連れて別室へ行く。30分後にボディビルダーが一人だけ帰ってきた。
「……あいつは?」
ヒエンが恐る恐る尋ねると、
「ん? ああ。突然AUOを召喚したいから世界で初めて脱皮した蛇の抜け殻を求めてシュメールに行くと言って旅立ったよ。ちなみに旅費は私が出した」
「……何があったんだよ」
「あ、サイバー攻撃の犯行がバレてる! ちっ、福田(デコイ)は7秒でICPOに捕まったか……! まあいい、代わりは既に用意してある」
「おいあんた、とりあえず世界を奪うのはやめておきなさい」
「軌跡を許さない彼女なら2年後に入学してくるぞ」
「そう言う何年後になるか分からないネタバレもいいから」
「じゃあてめぇがこの問題解けや!!」
「……いきなりキレてるし」
教科書と指定されたクソ厚いラノベを読みながら、しかしページ数を忘れて周囲を見渡す。
「立て! 立つんだ! 城之内!! まだお前のライフは残っているはずだ!!」
”犬”はまだ生まれたてのポメラニアンを椅子代わりにして座って何かほざいてる。あ、城之内と呼ばれたポメラニアンがすごい顔芸しながら立ち上がって犬を吹っ飛ばした。
「あ~あ、今度の鳥人間コンテストどうしようかな?」
”鳥”は体から黄金の気を放ちながら何か考え事をしている。既にいろんな意味で浮いているのは教えないでおこう。
「お~い、”結”。FF15をアドバンスに移植したんだがやらないか?」
「お、いいねえ」
”結”と”無良”はどうやったのか不明だがアドバンスに移植したFF15をプレイしている。ちょっとだけ画面が見えたが中々異次元だった。
”兜”は……さっき謎の勧誘を受けて旅立った。
「……了解。次期大統領候補のOだな? 今から尾行任務に入る」
”砂”はどこからか無線を受けるとやはりどこかに旅立った。その移動は目には見えなかった。
「う~う~!! ああちくしょう!! この問題分かんねえよくそがぁぁぁぁ!!」
”鎌”が突然立体パズルを握りつぶしてキレては床を踏み砕く。
「……ザ~ザ~ザ~ザ~。あ、異次元からメールが来てる」
”鴨”は目の前の空間をくぱぁと小さく縦に割るとそこから1枚の手紙を出した。
「ジュルルルル……!zazazazazazazaza!! 時代は俺に傾いてきた!! 間違いない!!」
”十毛(とげ)”は突然奇声をあげては机の上に片足乗っけて腕を組み、高笑いを始める。
「……うん。今日も可愛いなぁこのP60は」
”雲母”がその機関砲の銃口を磨く。時々暴発しては天井をぶち抜き、悲鳴が落ちてくる。
「っしゃ! 三毛・ランジェロの薄い本ゲットだぜ!!」
”龍”がBL系薄い本をどこからか仕入れてはズボンの中に隠す。
「鳥には負けたくないなぁ……。っし、俺もちょっと薔薇色の気を纏ってくるか」
”鷲”はそう言ってどこかに瞬間移動した。
「ニンニニン。今日も任務は完了。いやあ疲れたなぁ、竜巻が一時間で何回転するかの実態検証」
”蟹”が忍者装束から一瞬で着替えて机に突っ伏して爆睡を始める。
「……だっるいな~。帰ってソシャゲしてぇ……」
トゥオゥンダは相変わらず蟹と同じようなポーズで時間を蔑ろにしている。
「……ぐぁ~……ぐぁ~」
そのさらに横ではジキルが爆睡しているが何か超スピードでノートに魔法陣のようなものを描いている。
「……」
全てがいつもどおりの景色だがよく見たらこれはおかしい。いや、別に普通のもあるのだが明らかにおかしいのがいくつかある。どうして今まで気付かなかったのか不思議なくらいだ。これはひょっとしたらGEARの一種なんじゃないだろうか? 鳥や無良、龍は色々と意味不明だが蟹や鷲は何となく分かるような気がしなくもない。
こいつらはどこかの機関にスカウトされているのか? それとも気付かれていない?
「ヒエンくん、呆けているのかね!? 私の授業で随分と余裕が有るではないか!!」
そう言ってボディビルダーは黒板に描いた顔は可愛いが首から下がタフマッチョと言うかもはやクリーチャーの領域な白熊を実体化させてヒエンを襲わせた。
「わ、バカやめろ!!」
と、油断させておきながらも零のGEARは完璧。殴られようが噛み付かれようが全く……
「ゴガアアッ!! フグシャアアアアアア!! ヴァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
一撃で前歯全部折れて、次の一撃で両腕がドリルのように回転を始め、最後の一撃でぶっ飛ばされ2秒で地球一周した。
「何だこの白熊ぁ!?」
「はははは!! 一瞬で怪我を治しながら言うセリフじゃないなぁ!」
2秒後に教室に戻ってみれば既に白熊の姿はなかった。この変態もGEAR所有者なのか? 色々意味わからなさすぎるぞ。意味不明のGEARとかだったりするのか? 全裸の股間には自動でモザイクが掛かってるし。と言うかそのキャラ性でこの教科書という名のラノベを読ませるのか。誤解されるぞ!? 一応こっちの方が先なのに。と言うかどこの機関でもいいから動けこの状況。
「……ったく、」
零のGEARでは精神的ダメージは防げないと言うのに。
「大変だな」
隣に座る斎藤新が声を掛けてきた。この教室に馴染むために必要なのかあるいはその逆のためなのか悟りを開いたような表情になっている。
「……なあ斎藤」
「ん?」
「GEARって知ってる?」
「攻撃時に相手魔法罠の発動を許さない……」
「それはカードだ。ってか引き出しの中でストラク3箱開けんな」
「俺は今忙しい。どうしたら最強のデュエリストになれるのか」
「授業中に模索するような事でもなさそうだが……いやまあありがちだけど」
「もくししくもくしももくししくも……」
「そっちのデュエルかよお前!!」
怒鳴る。直後ヒエンを再び白熊が襲い、地球一周旅行に案内した。


・放課後。あれだけ騒がしかったクラスも机に突っ伏して機能停止しているトゥオジキ二人を除いて全員が煙のように姿を消していた。担任であるはずの全裸は帰りのホームルームをマイナス1時間半(=5時間前半ば)に終わらせて早々に帰宅した。……どこに居を構えているのか不明だが。
「うむうむ。これから早速大倉道場か。道場と言うからには赤羽は道着で来るんだろうなぁ。エロイといいな。とりあえず某女体化三国志の闘士みたいに脱がなきゃ死ぬんじゃね? って作風があったらいいな」
カバンを抱えて廊下をスキップは、今日だけで2度地球一周したヒエンだ。1度目は2秒で済んだが、2度目は途中地上から発射されたRPGの直撃を受けて落下。その後数時間にわたり某国の内戦に巻き込まれてはGEARのおかげで無事無傷で過ごし、ツーリングでやって来た全裸に回収されて無事事なきを得たのだ。
そのヒエンが昇降口で靴を履き替えると、違和感を感じた。
正面。
そこに死の気配が満ちていた。複数だ。しかも現在進行形。
「……出来れば今日はこれ以上の面倒は御免被りたいんだがな。と言っても校門前だし。あそこ通らないと外に出られないしな。まあ、無敵だからいいか」
そうして内心ドキドキしながら校門まで行くと、予想通りそこにはバラバラ死体が散乱していた。どれも見覚えのある黒服だった。
「数の黒か。きっと迎えに来てたんだろうな。他の機関からの襲撃か? いや、どの機関も穏便に事を運びたいはずだ。わざわざ学校の前でこんなバラバラ殺人なんて目立つ真似はしないだろう。……って事は」
嗅覚を最大限にする。姿勢を低くしてフットワークを軽く。鼻を撫でる風にその匂いが混じっていないと言う事は対象は風下に居るという事か! 感付かれる前にクラウチングスタートで風下へと全力ダッシュ!
……いる! この匂いは確かにいる!! 見えたぞ……!!
「火咲ちゃあああああああああああああああああああああああああああああん!!!!」
「っ!?」
両手足から赤を垂れ流しながら夕暮れを歩く超乳少女に低姿勢でタックルをかます。
「な、な、何!?」
「いやあ、会いたかったぜ火咲ちゃんよお! また校門前に派手なラブレター置いてくれるじゃねえのさ!!」
少女の小柄を簡単に抱え上げてはピザを作るように胸をこねくり回す。
「あ、あんたあの時の……!?」
「いやあ、このオカルトな胸は揉んでも顔埋めても挿れても全く信じられねえ感触だよなぁ!!」
「いい加減に……離れなさいよ!!」
「げふっ!!」
火咲のサマーソルトを受けて回転しながら吹っ飛んでいく。しかし彼が無傷なのを着地した火咲は確認した。
「……相変わらず私の力が通じない。どうして……?」
「ふっ、無意識にあった君の愛と言う名の手加減が僕の存在を許してくれたのさ」
「あんた、前より圧倒的にキモくなってるわよ」
「まあ、それはいいとして、」
立ち上がり、いくつものマイナスをよせ集めたような表情の火咲に歩み寄る。
「あの後直ぐに見つかったよ。赤羽美咲」
「……そう。それで?」
「それから君の言う役割って言うのも知った。だからこそ聞くけど、君どこの機関?」
「はぁ? 機関? あんた高校生なのに中二病なの?」
「へ?」
おかしい。大倉会長の言葉ではGEAR保有者は少なくともどこかしらの機関から勧誘を受けている筈だ。いや、待てよ。そう言われておきながら自分はGEAR保有者でありながらこの半年、向こうから接触を受けたことはなかった。見つからなかっただけ? 自分の無敵っぷりは少なくとも校内ではそれなりに有名だというのに?
「ねえ、質問ばかりしてないでたまには私の質問にも答えなさいよ」
「お、何何? 彼女ならいないよ? 今からホテルでも行く?」
言葉が終わった。彼女の廻し蹴りがこちらの両足を払ったからだ。げぶっと言う声を吐きながら顔面から地面に落ちるヒエンに火咲は言葉を落とす。
「あんたの役割は何なの?」
「役割? GEAR?」
「正式名称なんて知らないけど」
「そうだね。僕のGEARは、」
すると、突然にヒエンの肩をまた別の少女の手が叩いた。
「……あまり他言するのは良くないと思いますよ」
それは赤羽美咲の手だった。


・夕暮れ。自分の学校での全ての授業を終えた赤羽は当然のように校門前に待ち構えていた黒服とその車に乗った。昨日までならただ帰るか、道場か本社に行くかのどれかだったが今日からはメニューが違う。あまり本意ではないもののあのジアフェイ・ヒエンと言う記憶喪失な変質者を迎えに行かなくてはならなかった。
本当に嫌ならば会長はやめてくれるだろう。しかし、どこかそんな気はしなかった。世界レベルで重要なオンリーGEARの持ち主を自分達の仲間として管理するためと言う使命感もないではない。しかし、一度しか会ったことがない自分の、それもまだ見せたこともない笑顔のために裏社会入りを果たすと言う無茶を一両日内に仕出かしてしまったあの男のインパクトが強すぎて興味が無理矢理惹かれているようだった。
遠く彼方、もはや空虚となってしまった忘却の世界に落としてきた自分の笑顔、楽しい思い出。それをあの男ならばまた自分の前に持ってきてくれるのではないだろうか? などと言うファンタジックな想いがあるのは彼女も認めていた。その想いを抱いていたら車が急ブレーキを掛けた。額が前面座席背部にぶつかった。
「失礼」
「何か?」
「ここでお待ちください……!」
声を残し、2人が出て、10人となって走っていった。何があったのかと窓を開けて前面を見やった。人だかりがあった。僅かに鼻を撫でる血の匂いから事故あるいは事件の可能性を脳裏に生む。そして黒服達が10人となって向かって言ったところを見るに機関の関係者が関わっている可能性が高いだろう。
……まさかあの人が……?
いや、ジアフェイ・ヒエンのGEARは対外不干渉だ。喩え煮えたぎるマグマに沈めようが、太陽に射出しようが、どこぞの海底監獄に叩き込もうが、野戦地帯やサバンナに送り込もうが、ブラックホールに消えた奴になろうが全くの無事で済むはずだ。……帰ってくる手段は別として。その彼がどうなろうといい意味では知ったことではない。だとしたらあの青年ではない。まだ自分の立場では彼が通っている高校の情報は入手出来ていないからここに機関の誰かが所属しているかどうかは分からない。いくらGEARを持っていても不死身ではない。一部を除いて普通の人間同様交通事故などに遭えば死の危険性も十分に考えられる。
死。
ふとその単語を心中で作ると、脳裏にあの研究所での生活が蘇る。
「……遠くまではいきません。ちょっとだけ外の空気を吸います」
言葉を残して車外に出て約束通り少しだけ歩く。
ざわめきと救急車の音が混じった秋の夕暮れの風が車内で火照った体を冷ます。最初の内は心地よかったが30秒もすれば肌寒くなってくる。そう言えば車内に上着(コート)を置いてきてしまった。
肌寒さを感じながら歩いていると、正面に二人の影を見た。片方は背中からでも分かる。あの青年だ。しかしもう片方は正面からでも誰かは分からない。年格好は自分と同じくらいか? ……体の一部分は除外して。
「……」
彼の知り合いだろうか? しかしよく見たらあの少女の手足には血が付いていた。ひょっとして怪我したところを彼が変態的に救助した? 事実なら実に気が多い事だが見たところ怪我にしては少女はピンピンしている。ならどうして? それとも自分が知らないだけで最近はああいう感じのファッションが流行っているのか? いや、滴っているしそれはない。落ち着け。……ともかく接触してみよう。


・声を掛けられた。肩を叩かれた。振り向いたら赤羽美咲だった。
「おお、どうした?」
「どうしたじゃありませんよ。そう簡単に他人にGEARを話すのは良くないことだと思います」
「あれ? やっぱりそうか。会長とか普通に話してたからてっきりいいものかと」
「そんなわけないじゃないですか。会長だって仲間にしか話しませんよ」
「あのさ、今私が質問してるんだけど」
声。ヒエンと赤羽の会話を遮るのは正面やや下から。火咲だ。ややご立腹そう。
「ふうん、ひょっとしてその子が赤羽美咲?」
「はい。赤羽です」
「私は最上火咲だけど、あなたこの変質者の保護者?」
「うちのジアフェイが何かしましたか?」
「さっきと先日に渡って執拗なまでのセクハラを」
「おいおい火咲ちゃんよ、脚色はよくないんじゃないかな?」
「……いきなり朝まで一緒にいないかとか胸のサイズや名前を聞いてきたり、いきなり後ろからタックルカマしつつ胸をまさぐって来たのはセクハラって言わないのかしら?」
「……」
「待て。少女が前後からジト目を浴びせるでない。照れるじゃないか」
「最上さん。慰謝料は後で払わせますので口座番号あるいは学校がどちらか教えていただけませんか?」
「いいわよ。はっきり言ってこいつへの印象悪すぎだし。正直もう関わってくれなければ慰謝料なんていらないわ」
「だったら今すぐ今度はそのスカートの中をヴぇ!?」
バカを黙らせる二人の前蹴り。
「……最上さん、何か格闘技を?」
「ムエタイをちょっとだけやってたけど。あなたの動きも素人じゃなかったわね」
「私のは空手です」
「そう。あなたとはいろんな意味で友達になれるかも知れないわね」
「友達ですか。考えておきます」
「……どうかそれ以上の関係になってくれたら自分、役割放棄してもいいかも知れないぞ」
バカを黙らせる二人のスタンピング。
「そう言えばあんたの役割って結局何なのよ?」
「えっと、」
踏まれながらもヒエンは顔を上げた。ちょうどいいように茜色をバックに二人の下着が見える。赤羽は今日も白でリボンが付いている以外に飾り気はなしか。火咲もまた飾り気のない白いショーツだ。
「……はぁ、君達女子中学生だよ? もう少し色気のあるパンツを履いてみても罰は当たらないと思うんだよね僕は」
バカを黙らせるキャメルクラッチ&逆エビ固め。
「あぁ~! 女子中学生二人の股間の感触が後頭部と腰に密着ジャストフィットぉ~!!」
「……こいつ痛覚もないわけ? 完全に極まってるのに」
「最上さん。確かにこの人に物理ダメージを与える事は難しいですが、変態と言う理由で大抵の事に決着がつきます」
「物理ダメージが通用しない、か。それがこいつの役割なのかな? えらく限定的だけど……」
「……」
「ああ、そう言えばこいつが言ってたけどあなたも機関とかって言うのに入ってるの?」
「それはお答えできません」
「それはもう答えのようなものだよね」
「……」
赤羽は数秒の思考に決着を終えた。
「あなた、まさかどこの機関からも声が掛かっていないのにGEARを認識しているのですか?」
「どっちの言葉もさっき聞いたばかりだけど、多分そうじゃないかしら」
「……最上火咲さん。私達の属する大倉機関へ来てくれないでしょうか?」
「断るわ」
「どうして?」
「私は誰にも縛られたくないの」
「……Kカップのブラジャーには縛られてるくせに」
とりあえず変態の両足をリボン結びにしながら言葉を続ける。
「私の役割は、破砕。破砕が別の関係を生むわけないじゃない」
「……破砕のGEAR? という事はまさかさっきの救急車は……」
「あら、ごめんなさい。通行の妨げになったかしら」
「……」
赤羽はヒエンの頭を踏み台にして跳躍。火咲から5メートルの距離を取る。
「どこの機関にも属していないのにあなたはGEARで他人を傷付けると言うのですか?」
「傷付けてなんていないわよ。粉々にしたの。昔からそう。とりあえず近付く男はみんなぐちゃぐちゃにするの」
「……」
構える。それを見た火咲は舌なめずりをしながら無力な両手をぶら下げて立ち上がった。
「私はそう、男は嫌い。私が好きなのは私に歯向かう役割の存在。とことん私に逆らって、向かってきて、愛着湧いて、尽くしてあげて、その上で愛しちゃいたいくらい壊したくなったらこれでもかって言うほどあっけなくこの手で壊すの。これが私の役割だもの」
「……最上火咲さん。あなたは危険すぎます。三船の手に渡ってしまう前に多少無理矢理にでもあなたを保護します」
「赤羽美咲さん? あなたになれるかしら? 私の好きな役割に」
嗤い、火咲は地を蹴って地と水平に飛んだ。超低空だが超スピードでの突撃。拳は握らず右膝に力と意識を注ぐ。それを見限った赤羽は膝には触れてはならないと確信。
「あははは!!」
「シュッ!!」
ロケットのような膝蹴りを中段外受けで受け流す。想像以上の衝撃に赤羽は2歩下がる。もし今防いだのが外受けでなく内受けだったら受けきれずに最悪の展開になっていたかもしれない。
「へえ、やるじゃない。今のを避けたのは二人目よ」
火咲は嗤う。赤羽は一瞬の躊躇の後から地を蹴って火咲の側面を奪うことに決める。彼女はムエタイが得意と言った。ムエタイの主戦場は正面だ。今の相対から彼女の独壇場で戦うのはあまりに危険だと判断出来る。
……それに、彼女の両手。
戦闘の際でありながら拳を握っていない。どころか指先まで力が入っていないのか宙ぶらりんの状態だ。先程の折檻の時もそうだったが彼女はもしかしたら両手が使えない可能性がある。そうなると必然的に武器は足だけになる。なら、蹴足の至らぬ懐に入り込んでしまえば一方的に無力化出来るはずだ。
地を蹴って距離を詰め、正面から行くように見せてから中足(ちゅうそく)に力を込めた右足を使って素早く相手の右手側面に回り込む。
……相手が反応するより前に攻撃を……!!
赤羽が空中を貫き、左足で彼女の後頭部向けて廻し蹴りを放った時だ。
「はい、そこまでだ」
声。直後にベクトルがそこで止まる感覚が生まれた。
赤羽の左足と火咲の右手がヒエンの右手を挟んでいた。否、この二つの激突をヒエンが右手で止めていた。
「1つ、いいことを教えてやろう。命の意味を他人が強いることは出来ない。されど生まれた時から持ったその美しさを他人が褒める事は雅とされる。散りゆく宿命と知りながらもその雅に人は心と目を奪われる。人、それを華と言う。……その華同士がこうして短い命を削ぎ合うのを見るのはあまりに痛々しいものだぜ」
「……ふん、あんたって本当にムカつく。それがあんたの役割? やっぱあんた嫌い」
火咲は鼻を鳴らし、手を下ろすと鞄を拾って踵を返し、去っていった。
「待ってください。あなたは……」
「赤羽。君じゃあの子には勝てない。少なくとも今のは君の負けだった」
「え?」
「彼女はその気になれば触れたもの全てを破砕する。それは足に限らない。僕はあの子が手を使えない事は見抜けなかったがそれでもカウンターとして手を使うためにわざと側面を取らせたのは分かった。……的を絞りすぎたな」
「……しかしならば私とあなたが協力すれば……」
「あの子は道端に咲く花さ。花瓶に生けて生きる花じゃない。時折歩く道のりで見つけて目で愛でるものだ」
「……敢えて干渉せず遠くから監視すると?」
「お、やっとジアフェイ語録が分かるようになってきたみたいじゃないか」
「……はぁ。まあ、いいです。あなたがいなかったら私は今頃コントラバス地味たギプスを嵌めるようになっていたかもしれませんから。今日はあなたに従います」
「え!? だったら今から家に行ってクスリを……」
「誰がそこまで従うと言いましたか」
再び変態は宙を舞った。

------------------------- 第7部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
7話「畳の上の素人達(ギア)、吐露された願望(ギア)」

【本文】
GEAR7:畳の上の素人達(ギア)、吐露された願望(ギア)

・と言う訳で妙な時間を使ってしまいながらもヒエンと赤羽は無事大倉道場まで送られた。本来の時間より15分の遅れが出ている。道場へやってきてみれば既に多くの門下生が道着に着替えて基本稽古に入っていた。稽古の担当は馬場3兄弟の3番目である龍雲寺だった。黒服を通じて状況は報告されているためか二人はすんなり中に入れられた。
「男子更衣室はあちらです。中にあなた用の道着が用意されているそうなのでそちらを着てきてください」
「君と僕専用の更衣室はどこかな?」
「あなたの脳内です」
短く言葉を伝えると赤羽は女子更衣室に消えた。
「……やれやれ」
頭を掻きながら仕方なく男子更衣室に入った。
「あ」
入って最初に飛び込んできたのは下着姿の少女だった。髪は短め、しかし整えられていて男には見えない。顔は小さく目はタレ目だが何故か気の強そうな攻撃的な色が混じっている。視線を更に下げてみると、桜色のブラジャーに包まれた小さな双丘が見えた。Aカップ……に届いているかどうか。AAカップとやらだろうか?その左右にある両腕は赤羽のよりなお細く、普通の女子学生と言ってもいいだろう。さらに視線を下にする。白い肌と小さな臍と桜色のショーツ。ショーツは先程見た二人の物と比べて、比べるのが失礼なほど可愛いらしいデザインだった。
「……うむ。流石は女の子。女の子とはこう言う可愛い下着姿じゃないといけないね」
「なるほどなるほど。新しい方が来るとは聞いていましたがこういう方だとは知りませんでしたわ」
彼女はそのままの姿で言葉を捨てる。と、
「可愛い? 女の子なら当然の話ですわね! 無骨で、下着なんてきれればいいやなんて考えは自愛を知らない殿方か同じく自愛を知らない辺鄙な女子に限りますわ! ああ、同じ女の子にはよく世辞も憐憫も嫉妬も含まった言葉をよく聞かせられますが、殿方から可愛いという言葉を聞かされ、そしてこの私があらゆるショーツブランドから選んで、選んで、選び抜いた結果どれも納得が行かず、結果的に自分で、私好みのショーツブランドを作り上げることに致しましたの! そして自分で家庭科の成績2でありながらも頑張って頑張ってデザインを考えた結果、考案したのがこの初音桜セットですわ! ああ、殿方にもこのセンスが分かる人がいるだなんて素晴らしい世界になれたものですわね。どこかの上下対応シスコン野郎もどうせ作るのでしたらこんな世界にしとけよって感じで私あの何度も繰り返される12月にずっと思ってましたもの。……あ、ごめんなさい先輩。あなたがいない前だと言うのにここまであなたを褒め腐るようなセリフを垂れ流してしまいましたわ。私ったら少しはしたない? ええ、そうかもしれませんわね。でもそれを気にしない。それがこの私・乃木坂(のぎさか)鞠音(まりね)の美点だと私の世界は心得ていますわ!」
「……」
20秒だ。ヒエンはとりあえず誤解を防ぐためドアを締め、止まる気配がなかったためロッカーにあった自分に用意されたであろう新品の道着と、その近くにあった女子の制服を確認してからとりあえず用意されたガラケーでこの鞠音と言う少女の下着姿を連写した。
「と、少し話しすぎてしまいましたか?」
「話すというか一方的に言葉をマシンガンみたいに捨てられていたのを写真を撮りながら聞いていただけだけどな。で、乃木坂鞠音ちゃん」
「はい、何ですの?」
「ここ男子更衣室だよね? どうして君ここで着替えているの?」
「部屋などと言う小さな区切りなど私、一切興味ありませんもの」
「じゃあ次。何歳?」
「もう、レディに年齢を尋ねるのはマナー違反ですわよ? でもだからこそ許してしまいます。14歳の中学2年生ですわよ。どうです? 14歳にしてはこの体は美しいとは思いませんか?」
「美しいかは僕には分からないが間違いなく可愛いのは確かだよ」
「犯したくなるくらい?」
「犯したくなるくらい」
「も、もう。正直でよろしいですわね。先輩にすらそこまで褒められたことはないと言いますのに。まあ、あのヘタレで上下対応シスコン野郎で世界を何度間違えたら気が済むのか分からない人に私の美点を褒めろなどとは言ってしまう方が悪いというもので……」
「あのさ、鞠音ちゃん。君が犯したくなるくらいの美少女なのは十分分かったんだけどさ。出来ればもう少し話は短くしてもらいたいかな」
「あらやだ。せっかちな男性は嫌われますわよ? 私は誰よりせっかちですけど」
「ならいっそせっかちなほど最速にその2枚を脱ぎはらし、より美しい姿をこのフィルムに収めさせてはくれないかな?」
「何をしているんですかあなたは」
直後。ドアが開けられ、真紅の道着姿だった赤羽に二人まとめて蹴り倒された。
「君は粗暴だな!」
「あなたは私と同年代の少女でより扇情的であれば誰でもいいと言うのですか?」
「む、それは少し違うな。火咲ちゃんの胸はオカルトだし、君は少々セメントが過ぎるし、この子はちょっと頭おかしいし」
「あ、頭おかしいですって!?」
「鞠音さんは黙っていてください。あと何度も言っているようにちゃんと女子更衣室で着替えてください。潮音さんがいないからって羽目を外さないで下さい。遠回しに言ってあなた頭おかしいからって理由で今まで何事もなく無事に過ぎている事を少しは自覚してください」
「うわ、赤羽さんにまで言われた!」
「うん? やっぱり二人は知り合いなのか?」
「はい。彼女は乃木坂鞠音さんと言って私と同じクラスです」
「日頃の彼女から夜の彼女まで知っています」
「鞠音ちゃん、情報を言い値で買おう」
廻し蹴り。
「あの時、大倉会長が仰っていたあの時には来れなかったメンバーの一人です」
打点を抑えながらヒエンは追憶する。大倉機関のメンバー紹介時にそう言えば所用で来れなかったがまだ他にも幹部(スタッフ)がいると言っていたような気がする。
「となると、この子もGEARを?」
「ええ。非常に悪趣味なものをお持ちです」
「もう、そんな褒めないでくださいまし。思わず右手が行けない場所をなぞり出してしまいそうですわ」
膝蹴り。
「赤羽にしては珍しいな。女子にまで手を出すとは」
「この人はずっとこうなので。ちょっとMの気質も見え隠れしていますし」
「赤羽さんは素直じゃないのに時折このようにオブラートを忘れる事のある可愛い女の子ですわよ」
「うわ、その余裕が僕に欲しい」
「これ以上厄介な人にならないでください。あと鞠音さんはいい加減服を着てください」
「あら、でも私稽古中はノーブラ派なので今からおっぱい見せる必要があるんですけど」
「構わんぞ。バッチコイだ」
ジャイアントスウィング。ヒエンは無情にも男子更衣室の外に投げ飛ばされた。


・10分後に道着に着替えたヒエン、赤羽、鞠音が畳の上に立った。
改めて赤羽の道着を見やると明らかに他のそれとは違うのが分かる。赤羽が身に纏うのは帯を必要としない上下一体のワンピースタイプの道着だった。はっきり言ってまるで道着には見えない。そんなものは漫画やアニメでさえ見たことがない。敢えて近いのを言うならばレスキュー隊のレスキュー服だろうか。あれをファッションで着るためにかなり省略化したような感じだ。ヒエンの視線に赤羽が気付いたのか、言葉を返す。
「これは三船の開発した超常服(サイスーツ)です。これを着込めば私は身体能力が120%向上するそうです」
「それ、試合とかだと反則じゃないのか?」
「しかし私はこれ以外の服装では全力を出せないように手術を受けているので。……正確には手術で全力が出せないようにされた体でも全力を出せるように設計されたのがこの服なのですが」
「へえ、って言うか全力じゃなかったのか。全力だったら火咲ちゃんにも勝てていたとかか?」
「……あなたは非道人だ」
「しっかし、君に空手を教わるとはまた、何というか、核ミサイル級の違和感に襲われるね」
「……何故だか私もそんな気配がします。ですが私もそこまで空手の腕がある訳ではありません。身体能力ではあなたの方が上でしょう。なので今からあなたにはここで指導員をするのに必要な基礎だけを教えるつもりです」
「一日で平気なのか?」
「まさか。今日から一ヶ月間みっちりです」
「なるほど。空手と言うのは年下の少女二人から一ヶ月間丸々教わってやっと基礎が身につくものか。……販促かな?」
「何を言っているのか分かりませんが基礎体力のあるあなただから一ヶ月で済むのです。それに、鞠音さんはあなたと同じでほぼ素人ですよ」
「……驚くべきなのだろうが何故だか全く違和感がない」
「弱い? 弱いと言いたいんですか先輩? うふふ、全くその通りですわよ。この乃木坂鞠音。こう見えて空手は2年目なのですがどうしても体が技を覚えてくれませんの。私、これでもお嬢様なのでDNAレベルで体が労働を拒絶しているのかもしれませんわね。だって武術は本来兵士が姫や国を守るためにむにゃにゃにゃ!?」
話の途中で鞠音に前蹴りが繰り出された。


・畳の上。赤羽を正面に基本稽古からヒエン……と鞠音が教え込まれる。
確か鞠音は素人同然ではあっても素人ではないはず。少なくとも基本稽古は出来そうなものなのだが。
「そろそろ休憩にしませんこと? あまり年頃の女の子を汗まみれにするものじゃないと思うんですの。それとも赤羽さんは汗まみれの女の子が好みだったりするんですの? ……はっ!! だから空手道場に……」
「む、それは素晴らしい情報を聞いた! 流石鞠音ちゃん。後でウチくる?」
「……」
沈黙のまま二人の顔面に飛び蹴りが襲った。着地してから赤羽は口を開く。
「鞠音さん。まだ始まってから5分しか経っていませんよ。後、私にそんな趣味や性癖はないので」
「赤羽さんの恥ずかし攻撃は強烈ですわね! よくこんな一撃を持っていながら今まで大会での成績がありませんわね。やっぱり汗まみれの女の子が素敵すぎて手が止まり……ふにゃっ!!」
立ち上がったばかりの下腹部に前蹴り。
「赤羽。蹴られて仕方ないと思うしそれが正義だと思うんだが流石に容赦が無さ過ぎると思うぞ」
「ここは空手道場です。よほどじゃなければ暴力沙汰はない方がおかしいのです」
「……問題発言はやめてくれ」
悟りを開いたような目で発言の赤羽。この2年で何を見てきたのだろうか? そしてこの2年でどれだけ鞠音は赤羽に蹴られてきたのだろうか。にしても素人と言われておきながら赤羽の蹴りを先程から何発も食らっていてケロリとしている鞠音は何か防御系のGEARなのだろうか? 先程は悪趣味な物と言われていたが……。
「……くすん。ともあれ私はこれ以上体を動かしてしまえば泡になって溶けてしまいますわ」
「人魚姫気取りですか」
「女の子であれば誰にとっても憧れだと思いますわ。そして永遠の黄昏。朝が来ない夜はないとかよく言われますが、そもそも落日のまま夜が来ない洛陽もあると思いますの。そこにロマンを求めるもの、それが……」
「人、それを淑女(レディ)と言う? ってかな?」
「そう! あなたは分かっていますね先輩! むしろあなたが私の家にいらっしゃいますか? あなたお望みの中学生お嬢様の体の味を教えてあげてもいいですわよ?」
「おお、逆ナンか! 中学生の体を味わえる夜が待っていると言うのなら何度洛陽を迎えようとも構わない。人、それを覚悟と言う」
「……神聖なる道場で売春を確定させないでください」
廻し蹴り2発。
「大体、鞠音さんも年頃の女の子なんですからもう少し肌を慎んでください」
「あら? どっかの誰かさんは会ったその日に助けられたとは言えスカートを自らたくしあげて下着を見せたと聞きましたがそれは慎みのある行為ではないと……ひゃん!!」
膝蹴り。
「どうしてあなたがそれを知っているんですか? まさかあなたが……?」
「……言ってないし。そう言えばそんな事もあったな。ひどく興奮したものだ。しかしそれと引き換えに君は笑顔を見せてはくれなかった。それがきっかけでここまで来ちまったんだからな。我ながらよくやるよ」
「……」
「先輩先輩。今、赤羽さんは思い切り抱きしめてほしいと願っていますわよ?」
「ほう、真実であるならば抱いて進ぜよう……ぐべっ!!」
飛び膝蹴り。舌を噛んだ。怪我はないが痛みを錯覚する。何となくヒリヒリする舌を吐息で冷やしていると、疑問が生まれる。
「鞠音ちゃん、どうして赤羽の願いがそれだと分かったんだ?」
「それが私の願いですから!」
「……は?」
「ここではGEARと言うんでしたっけ? 私のGEARは他人の願いや望みもしくはそれに関係した情報を知る事ですわ。なので私には誰がどんな願いを求めているかが分かるんですの。赤羽さんは自分を温めてくれる人を探していて、あなたは失った記憶を埋めるもの、さらには停滞している性欲を吐き出させてくれる者を探している。ですわよね?」
「……」
今度の錯覚は胸だ。ドッキリとした。この少女が言った事が真実だと諦観するのに時間が掛かった。
「あなたが望まないまま得てしまった願いは不変。故にどれだけ性欲を抱いても吐き出せず、時間の経過などでごまかすしかない。私が手や上下の口でご奉仕したところであなたは気持ちいいだけで絶頂には至れない。きっとあなたが一人でやっても結果は同じだったのでしょう? 出すものが出せない……。私にはあなたの苦痛は分かりませんがさぞ苦しいものなのでしょうね」
「……」
沈黙。なるほど。この少女、頭はおかしいし体力はないが決して馬鹿ではない。むしろ聡明と言ってもいいかもしれない。赤羽が悪趣味と言っていたが、彼女のGEARとこの思考力があれば頷けるのも仕方ない。
と、彼女がこちらの手を握ってきた。
「我が家のコネを使って無精子症の方を何人か紹介いたします。きっと何かの参考になるでしょう」
「……ありがたいけど流石に生々しいよ、君」
「……そろそろ稽古を再開したいのですが」
赤羽が今度は言葉を挟んだ。


・更衣室(ロッカー)。手招きのヒエンを、しかしその誘いに乗ろうとした鞠音を赤羽が羽交い締めにしたまま攫っていったためヒエンは一人で着替える事になった。女子二人は汗をかいたためシャワーを浴びるそうだがヒエンにはそれがない。零のGEARのおかげで汗は全くかいていない。しかし当然疲労はある。
「……しかし妙だな」
稽古を追憶する。赤羽からも言われたが自分の体はどうも空手に慣れているらしく、正拳突きや前蹴りなどのキレはとても素人のものではなかった。もしや記憶喪失なだけで自分は過去に空手家だったのだろうか?
いや、それにしては会長に言われたとおり空手らしくはない。総合すれば空手もやっていた事は間違いないがしかしそれ以上に他の武術が混じっていて自分の中ではどれが空手なのかが分かっていない……と言ったところか。
……零のGEAR含め、オンリーGEARの持ち主は不老不死。
会長はそう言っていた。つまり自分は一応15歳と言う事になっているがそれ以上の年齢という可能性もある。つまり失われた過去は15年ではない可能性もあるのだ。今のジアフェイ・ヒエンと言う名前を市役所に提出する際に同じ名前の人物は過去にはいない事が明らかになっている。自分の本名は知らないままだ。誰も自分の過去を知らない。誰も本当の自分を知らない。そう思ってしまえばこの世界は何と孤独なことか。
「……やめよう」
零のGEARはあらゆる物理干渉を受けない。しかし精神的苦痛はあるし疲労もする。今のところ目立った弱点はこの程度だがそれが自分自身で自然発生するものなのは厄介だ。とは言え自傷も出来ないのだから自殺の類も出来ないのだろうが。しかしどうせなら受けるものはプラスな方がいい。
「……癒しが欲しい」
吐いた時だ。
「お答えしましょう!!」
突然ドアが開けられたと思ったら全裸の鞠音が姿を見せた。
「!?」
体中滴っている。シャワーを浴びていた途中だろうか。いや、それより、
「あなたは癒しが欲しいと望みましたね? だったら私の出番ですわ! どうぞ足りないAAカップですが惜しみなくお見せしますのでどうぞどうぞ。何なら手でしてあげてもいいですよ?」
蠱惑! その表情の下にあるそのままの状態で空気に晒されていた胸は確かに小さく、そこだけ見ると一瞬男のそれかと思いそうになるが全く膨らみがないわけではなかった。それに、その小さな双丘の遥か下。可愛らしいへその下だ。そこには男ならばあるはずのそれがなく、代わりにあるのは彼女の頭から生えたのと同じ色の淡い茂みと2本の指で隠された性の亀裂。やがて、その指達が左右に分かれ……
「それとも、ここに入れたいですか?」
「是非!!」
「非にして下さい」
しかし凝視していたその縦の割れ目は顕にされた瞬間に背後からの手によって本体ごと姿を消された。
「あなたは何て事をしているんですか? 羞恥心というものがないのですか? それとも痴女なのですかあなたは?」
「他に誰もいないからってここまでスッポンポンで来たあなたに言われたくないですわ……はにゃ!!」
「さあ、シャワーの続きをします。……今度は人が頭を洗っている間に逃げたり出来ないようしっかり見張っておきますので」
「あらやだ。私あられもない姿の全てをクラスメイトに見られてしまいますのね……! 衝撃的ですわ!」
「衝撃的なのはあなたの頭の中身です。この1年で慣れたと思っていましたがまさか本当にここまでするような頭の構造だとは思っていませんでした」
「……」
どんどん小さくなっていく声を一言も聞き逃しはしなかった。しかし、この中途半端に屹立したこの感情とかその他いろいろをどうすればいいのだろうか?

------------------------- 第8部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
8話「蛮族の宴(ギア)、問答無用の闇遊戯(ギア)」

【本文】
GEAR8:蛮族の宴(ギア)、問答無用の闇遊戯(ギア)


・10月。最初の火曜日。円谷高校では体育祭を行う日程だ。例年通りならばネット世界に脳だけをプラグインして第二次世界大戦を起こすのだが今回は生身(リアル)だった。

「うん。運動はいいと思うんだ」

全裸のボディビルダーがホットドッグを貪る。隣では透明ジャージのジョギングマンが某梨の妖精とボクシングをしている。二人が見やる正面には1年生から3年生までの総勢600人が30キロのフル装備を着込んで丸太を抱えて山登りをしていた。今、この富士山の樹海はアサルトライフルやら補給物資やらで装備を固めた600人の高校生の歩行訓練の舞台となっていた。
「おい全裸!! なんでこんな事になってる!?」
「何を言う。ネットもいいがリアルもいいぞ。まあ、どうしてもネットがいいと言うのならまた君には龍の影を纏い、赤い血を感じる龍騎士ライダーと戦ってもらうことになるが」
「……それあんたと会う何年も前の話だぞどうして知ってる? って言うか世界を飛ばすな。ギャラリーが困惑する」
「ギャラリーなんているんですかねえ?」
「やめろ(建前)。やめろぉ!!(本音)」
叫びながら、しかし汗もかかずに平然と丸太を運ぶヒエン。その隣ではわざわざ局部だけを露出させた改造軍服とフルアーマーを着込んだ露出民族少年が投げた丸太の上に飛び乗ってどこかに飛んでいく。その後ろでは多くの生徒がギブアップと言わんばかりに汗と吐息を全身から漏らしながら緑の大地にその身を投げていた。
「ぜえ……ぜえ……最後にゆかりんのライブに行きたかった……」
「救急車!! 救急車を!! トゥオゥンダが辞世の句を詠み始めてる!!」
「ふん、如何にもだらしがないじゃないか」
瀕死のトゥオゥンダとそれを庇うジキルの横では十毛が腕を組みながら宙を浮いて移動している。それに続くように鎌と鴨、雲母もまた涼しい顔で丸太を抱えて歩いている。
……なんであの変人どもは無事に?
多くの生徒がくたびれながら現実離れした光景を目の当たりにしているが、それを一向に気にせず変人どもはひたすら歩行訓練を続けている。
「なあ、どうしてお前ら平気なんだ?」
ヒエンが十毛達に声を飛ばす。
「それは俺がこの世界の支配者だからだ!!」
「……支配者が富士の樹海まで来て歩行訓練かよ」
「隊長?」
雲母が声を返してきた。
「私達メンバーズはこの数ヶ月隊長に鍛えられたから無事なんですよ。むしろこれで大丈夫じゃない連中はメンバーズ失格なんですよ」
「……巻き込まれた俺からしたらさっさと辞めたいくらいなんだがな」
遥か後方で無良が小さく声を飛ばす。
メンバーズ。それはヒエンがこの高校に入学してすぐに同じクラスの連中を使って作り上げた遊戯集団だ。最初はただ友達を作っておこうという強迫観念から声を掛けていたのだが某カエルの宇宙人の漫画を見てせっかくだから小隊と言う形でひたすら面倒なことばかりして周りの笑いとってみない? として結成した。結果元ネタの3倍近い人数が集まり、同時に警視庁に対メンバーズの部署が作られたとは風の噂。
「犬、ゴールデンに乗るの禁止だ。どっから連れてきた?」
「俺が呼べばいつどこでも……あ」
「犬が犬に殴り倒された!?」
「実況はいいから、早く助け……ごぼっ!!」
「……いいクロスカウンターが入ったな」
「私、犬とボクシングする人初めて見たかも。しかも負けてるし」
「……向こうで梨の妖精とボクシングしている奇人ならいるけどな」
「いくなっしよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「ふははははははははははは!!!」
「……木々の中で戦う透明ジャージのおっさんと着ぐるみ。シュールすぎる」
「公共の電波では写せないよなあれ」
「と言うかこれいつまでやってればいいんだよ。生徒の9割死んでんぞ」
「じゃあ10割死ぬまでやるんじゃないのか?」
「……富士の樹海まで来ておいて今更だが殺す気マンマンだなあの裸連中」
「ふははははは!! 鳥くん! 私は裸ではないよ! よく見給え!!」
「ジャージが透明で裸しか見えてねえんだよわいせつ物陳列罪教師!!」
「教師に何たる無礼。ここは1つ教育的指導をしなくては」
梨の妖精と戦っていた透明ジャージが一足飛びで一気に100メートル近い距離を縮めてスナップの効いた裏拳を鳥の顔面に叩き込んだ。
「あ~あ、ボクシングやっててテンションもコンディションも100%な変態のパンチを顔面モロか」
「あいつ、あんまりいい奴じゃなかったのにな」
「鳥人間コンテストで1ミリも空を飛ばずにローラースケートして落ちていったって噂だぜ?」
「おかしいな。毎年テレビで見てるのにそんなシーンなかったぞ」
「……哀れ。場を盛り上がらせるガヤにすらなれずに落ちていく鳥とは」
「で、おい全裸。いつまでやらせてる気だ」
「ん? まだやってたの?」
「……おい、」
丸太の上で寝そべりながら64で遊んでいた全裸のボディビルダーはため息をしてから立ち上がる。
「仕方ない。こうじょうけんがくも無事クリアできなかった事だしそろそろつまらないから別のゲームをするとしよう。君達も参加だ」
「どうせまた碌でもない事だとしか予想出来ないが聞いてやる」
「うむ。紅白に分かれて玉入れ競争だ」
「意外とまともだ!?」
「メンバーひとりひとりが玉を1つ持ってこの樹海のどこかに置いてあるカゴの中に入れる。そして3時間後に締め切って入れられた球の多かったチームが勝ちだ。それ以外にルールはない」
「……3時間でこの樹海を調べ回るのかよ」
「なおカゴは今からAmazonが仕掛けに行きます」
「キキィィィィィッ!!」
紅白2つのカゴを持ってAmazonが樹海の中に消えていった。ヒエン達は可能な限り目視でそれを追う。
「スタートはいつからだ!?」
「もうとっくに始めてもいいぞ!!」
全裸の声で全生徒がフル装備を解除して樹海に走り出した。


・紅白の紅組はヒエン、犬、鳥、砂、ジキル、鴨の6人が所属していた。樹海を走るヒエンは勝利を確信していた。本来3時間でこの30平方キロの密林ダンジョンから、先程見た直径1メートル程度のカゴを探し出すのは中々難しい。300人全員で三回して虱潰しにでもすれば10分の1の30人程度なら見つけられるかも知れない。少なくとも白組にいる幸運の持ち主たる結は間違いなくカゴを見つけられるだろう。もしも敵300人全員が結に付いていけば高確率で300人全員が玉を入れられて勝ち目がなくなってしまう。あの全裸の事だ。きっと敗者の人権など考えていない。場合によってはここに放置で勝者と共に帰るということさえあり得る。
「でも隊長、やることえぐくないですか?」
鴨が指示に従いながらヒエンに声を掛ける。
「何が起こるか分からない絶対幸運持ちな結(タクシー)に大自然の支配者たる兜(トラック)って言うトラクシーコンビが揃ってる上、意味不明に覚醒した十毛までいる。それに体力面ではクズ以下だが頭は切れるトゥオゥンダまで向こうにいる。忍者の蟹もな。単純な能力の勝負じゃ向こうが圧倒的に有利だ。一発ぶん殴ってやりたいくらいに。だが、それでもこっちは勝利を確信している」
何故ならば、
「犬っころが犬を使って、砂がお得意のストーキング技術を使ってあの露出民族野郎を追いかければ自然とカゴの在り処にたどり着ける。蟹がこちらを狙ってくるかもしれないが他全員で相手をすれば大丈夫だろう。それに蟹以外の相手は物理面は乏しい。物理に全振りした鎌がいるが脳筋だから役に立たないだろう」
「……確かに真っ向勝負はしたくないメンツですね」
言う鴨の両手は視界の中にはない。肘からの部分に光輪のようなものが浮かんでいて肘から先を別の場所に飛ばしていた。


・白組。鎌に肩車されたトゥオゥンダと先頭を歩く結、木の上を移動して周囲の警戒と調査を進める蟹。その他大勢が後ろに居て、兜と十毛が殿(しんがり)を務めている。トゥオゥンダ発案の布陣だ。絶対幸運の結を先頭にしていれば迷うことなく目的にたどり着けるだろう。……普通だったらだ。
「あの野郎、普通ここまでするか?」
しかしトゥオゥンダは今自分の足で歩いていた。しかも周囲には誰もいない。何処を歩いているのかも分からない完全に遭難している状態だ。
「よく考えれば分かっていたはずだが、まさか雲母が裏切るとはな」
数分前だ。スタートから20分。完全に紅白で居場所が別れた頃に鎌の背後にいた雲母が後ろから鎌の股間を蹴上げて戦闘不能にしてはトゥオゥンダと結を連れてどこかに去ってしまったのだ。しかもそれからトゥオゥンダはどこかも分からない場所に置き去りにされてこの状態。
「……家庭がまるで分からなかった。まるでワープかクロックアップだな」
言葉を投げるが受け取るものは草木しかない。
「……ってかどうするんだよこれ。司令塔を独立させたいのは分かるがやりすぎだろこれ!!」
シャウト。もしかしたら蟹あたりが気付いてくれるかと思ったが2分経っても来る気配はなかった。
その蟹は今、
「……くっ!」
木の上から木の上へと高速で移動を続ける。その両足は確かに自分の体重を移動させるために枝を蹴っているし着地の感覚もある。だのに蟹はその場から一歩も移動出来ていなかった。
「……俺も俺で昔からなんでこんなことが出来るんだろうって思っていたがこれはいくらなんでも才能とか願いとかそういうレベルじゃねえだろう!?」
叫ぶ蟹。その声は周囲には届かず、しかし数キロ以上離れたヒエン達の耳には届いていた。
「なあヒエン。そろそろ説明してくれよ」
ジキルが言葉を投げる。
「何をだ?」
「何をってことはないだろ。どうして鴨の腕が消えてるんだよどうして遠く離れた場所にいるはずの蟹の叫び声が聞こえるんだよ」
「……ああ、それか。いいか? これはな、とある機関から改造手術を受けたからだ」
「……はぁ?」
「鴨と雲母は二人揃って光の国の技術で昆虫人間になるための改造手術を受けて自由自在に空間を移動する事が出来るようになっているウルトライキュアーなんだ」
「語呂悪すぎだろ。ってか流石にそれは信じられない……でも説明出来ちまうし……うん?」
腕を組み、首をかしげるジキル。
「まあいいだろう。結果的に敵の司令塔であるトゥオゥンダマンは他から隔離。何をしでかすか分からない単純優秀な蟹は無限ループで動きを封じる。たった2名とは言え欠員を出させれば300と298でこちらの勝ちだ。……いや、雲母はこちら側に寝返っているから301と297かな?」
「その雲母ですが今、十毛と交戦中のようです」
「は?」
鴨からの報告に間抜けな声を返した。


・密林。白組を裏切って出来るだけ早く紅組に合流しようと走っていた雲母は、今その進路と退路を奪われていた。全力で走っているというのにまるでサーキットのように同じ場所をぐるぐる回ってるような錯覚に襲われている。そして、それは錯覚ではなく事実だった。
「どうして……!?」
「それは、俺の領域だからだ」
声。どこから聴こえてくるのかが分からない。前からも左右からもあるいは上下からかもしれない。ただしその声の持ち主が十毛こと針生莚十郎だと言う事は分かる。
……十毛は一体何の役割を与えられているの……!?
雲母の調査では一週間前にはまだ何の役割(ちから)も与えられていなかった筈だ。だから役割を担われてまだ一週間未満の未熟と言う事になる。それでいてこの意味不明具合。まるであの全裸のボディビルダー……いや、それよりかは透明ジャージのジョギングマンを想起させる。
「探っているようだが全部無駄だ。ここは俺の領域。だからお前は俺の虜となっている。それだけの事だ」
「あんた、いつから超能力者に覚醒したのよ」
「超能力者? 違うな。俺は世界を変える男だ。そんな小さい括りにしてほしくはないな」
「その世界を変える男が別に世界をどうしようとか思っていない女の子に無駄足踏ませるために何してるのよ」
「思ってなくてもそのような男に就いていれば先ず、封じておくのも悪くはないと思ってな」
「……あたしを壊すつもり?」
「まあ、泳がして情報を探るのもアリなのかもしれないが、俺はそんな小さな事はしない。俺の世界の障害になるのなら塵一つ残しはしない……!」
静かに、しかし強い言葉が聞こえると雲母の足が止まる。瞳を下ろせば、両足が錆び付いていた。数年間水の中に浸からせた自転車のようになっていた。
「そんな……!?」
「水のない樹海の中で鉄くずになるといい……ん?」
言葉が終わった。続いて打撃音が響いた。
「……何が起きたの……?」


・樹海の一角。枝の上に座っていた十毛が頭から緑のカーテンに落下した。
「ぐっ!」
「よう、随分人のペットを虐めているみたいだな」
見上げれば自分の代わりに枝の上にヒエンが立っていた。
「ヒエン……!!」
「”支配”のGEARか。しかし”零”までは支配出来ないだろう。それがお前の統治の限界だ」
「何を馬鹿な事を言っている」
「だったらこっちを支配して見せろ。やれるもんだったらな」
言われて、十毛は意識を集中させた。ヒエンを錆びつかせてやろうとそう願った。だが、自分を見下ろす存在に何一つとして変化は訪れなかった。
「馬鹿な……!? どうして、どうしてだ!?」
「安心しな。相性と……格の問題だ」
枝から飛び降りたヒエンは、未だ立ち上がることなく腰を下ろしたままの十毛の襟首を掴み上げてから、
「雲母を元に戻すまで続くと思え」
言葉を残し、ひたすら右の拳を叩き込み続けた。


・夕暮れ。制限時間まであと15分。
「あった!」
「見つけた!」
紅白同時にカゴを発見し、向い合わせになった。それを認識すると同時に身構える両軍だったが、
「……もうさ、普通に入れとかない?」
「……それもそうだな」
結果、残っていたメンバー全員でそれぞれのチームのカゴに玉を入れることにした。
紅組はヒエンを除いた299人が、白組はトゥオゥンダ、十毛、蟹、雲母を除いた296人が玉をいれ、結果紅組の勝利に終わった。
「ありゃ、間に合わなかったか」
時間終了のホイッスルが鳴ると同時にヒエンが走ってきた。右腕には両足を包帯でグルグル巻きにした雲母を、左腕にはボコボコになって動かない十毛を抱えていた。
「隊長、もう大丈夫です」
「いやいや、歩けなきゃ意味がないだろ」
「しかし、」
「じゃあここからは私がやるので大丈夫です」
鴨が歩み寄り、雲母に肩を貸す。と、全裸のボディビルダーと透明ジャージのジョギングマンと露出民族少年がバイクに乗ってやって来た。
「勝ったのはどっちだ!?」
「紅組らしいぜ?」
「よし! 紅組には勝利記念として今日から一週間授業免除の許可を与える! ただし休めば欠席になります」
「意味ねえよそれ!?」
「私の一存で決められる事ではないからな」
「急に真面目になるなよ!?」
嘆息の勝者達。それを背に3人の変態はバイクで走り去ってしまった。
「今日はもう解散でいいぞー」
言葉を残し。
「……いや、ここからどうやって帰るんだよ」
結果。鴨が蟹の封印を終えて蟹の誘導で樹海を出てバスで帰ることにした。
「あれ? 何か忘れてない?」
「気のせいだろ。今日はもう疲れた」
疑問のジキルをヒエンは嘆息で返す。
「……絶対俺忘れられてるだろうな」
夜の樹海。置き去りにされたトゥオゥンダが言葉を捨てた。

------------------------- 第9部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
9話「噂の双子(ギア)、もう1つの戦場(ギア)」

【本文】
GEAR9:噂の双子(ギア)、もう1つの戦場(ギア)


・ヒエンの通う円谷高校から5キロ離れた場所にある剣峰中学。変人教師や意味不明集団などいない至って普通の中学校。赤羽美咲が通う中学校でもある。毎朝黒服の車で送られるため住まいとしているホテルから徒歩で行ったことはない。一度黒服に徒歩で行きたいと言ったところ何時間もかかるからやめてくださいと言われた。実際に距離を調べたら確かに徒歩では行けない距離だった。そもそも車でも1時間以上掛かるのだから仕方がないか。
「……」
校門前で下ろされ、スカートの裾を整えながら鞄を手に車を降りる。
「お戻りは?」
「いつもどおりでお願いします」
「分かりました」
一礼してから車は去っていった。それから赤羽は校門をくぐり、昇降口へと向かう。目に見える校舎は決して一般的の領域から出るものではない。築30年だそうだが何度も改装しているらしく古臭さは感じない。正面に見える時計塔ご自慢の巨大時計が記す時間は始業10分前。いつもはもう少し早く到着するのだが最近は荷物が一人増えたことでこの時間になった。それに高校に到着したと言うのに駄々をこねて渋るどこぞの変人のために貴重な朝の時間が削られているのもある。狙撃のGEARのおかげでダメージは通るもののかなり微量。本気で殴っても常人相手に軽くど突くくらいにしか感じないだろう。だから最近は投げ飛ばす事にした。
「おはようございますわ、赤羽さん」
声。背後を振り返れば鞠音がいた。ただし直立徒歩ではない。セグウェイに似た乗り物に乗っていた。よく見れば宙に浮いている。どこかの3人目が見たら発狂するだろう。
「鞠音さん。おはようございます。……あ、」
挨拶。その後に気付いた。鞠音の背後に同じ顔が立っていたのを。
「潮音さん。お久しぶりです。お体は大丈夫ですか?」
「……うん。ごめんね」
乃木坂潮音。鞠音の双子の”妹”である。しかし体調不良のためここ数日は学校を休んでいた。彼女は双子の姉の肩を掴んで空中を疾走するセグウェイに乗っていた。
「鞠音に聞いたけど新しい人が来たんだってね」
「はい。オンリーGEARの持ち主です」
「男の人ですわよ? あまり背は高くないですが私的にはセーフですわね」
「ですがとびっきりの変態ですので潮音さんも気をつけてください」
「大丈夫だよ。僕を襲うような男の人なんていないから……」
「もう潮音? 朝からネガティブしたらダメですわよ? 今日は久しぶりの学校なんですから。全力で私達双子のステージを踊りましょうよ」
「私としてはあなた方にはもう少しお淑やかを願いたいのですが」
「……あら? この気配は……やっとこの世界の持ち主が来たみたいですわよ」
振り向く鞠音。赤羽や潮音が釣られて視線を動かすと、
「小夜子! 飛ぶな! もしくはもう少し遅く飛んでくれ……」
「もう兄さんはもう少し足腰を鍛えた方がいいと思うよ?」
2つの声。1つは男子……3年生の長倉(おさくら)大悟(だいご)のもので彼は朝から汗だくになって走り込んでいる。そしてもう1つは女子……1年生の長倉小夜子のもので彼女はプカプカと宙に浮いていた。
この二人が目の前にいる双子と並んでこの中学で有名な兄妹である。理由としてはまあ、見れば分かる通り宙に浮いている妹の姿だ。理由を聞けば昔は普通だったのだがある日を境に急に体重が激減してしまい、浮遊霊地味た状態になってしまったと言う。もちろん怪奇現象の類ではない。小夜子は浮遊のGEARの持ち主で、そのある日というのは2年前、彼女がまだ10歳だった頃にGEARに目覚めた日の事である。本来、常時発動のものを除いてGEARと言うのはオンオフが可能なのだが彼女は何故か制御が出来ないらしくあのように常に浮かんでいるのだ。当然既に大倉機関から声が掛かっていてスタッフとなっている。
「あ、赤羽先輩。それと噂の双子先輩。おはようございます」
宙に浮いたまま頭を下げる小夜子。赤羽は頭を下げ、双子は手を振る。
「はあ……はあ……、ん? ああ、えっと赤羽と……げっ! 噂の双子!」
「随分な挨拶ですわね先輩。こんな美少女を相手にげっ! などとは。私も潮音もあなたの手に余るほどの美少女。そして私達双子はいつか世界を手に入れる器ですわよ? ……ああ、まああなたのおもちゃの世界なんかじゃくてですね。おもちゃな世界はあなたのご自由に……と言いたいところですけどどんな世界でも私達のものでQEDでございますわ! 喩え近親相姦やら現実逃避やらにまみれたしょうもない世界であったとしてもですわ!」
「お前少しうるさい」
「きゃん!」
大悟のチョップが脳天に。しかしそれは当たらず潮音に止められた。
「先輩、姉さんに手は出させない」
「げっ、また蹴られる……!」
「……あなたにはもう手出ししない。あなたのお姉さんのためにも」
「姉さん? お前まさか姉さん怒らせたとかか? 大変だぞ、姉さん怒ったら」
「……先輩じゃないんだからそんな事はしない」
「そうですわよ先輩。潮音は先輩のような不良予備軍でもなければリアルエロゲ主人公的でもないんですから年上の先輩を怒らせるようなことなんてするわけないじゃないですの。そもそもあの方は私達より3つ上で同じ学校に通う機会なんてそうそうないわけでして、プププ。中3にもなってその程度の知能指数なんですか? そうなんですか? 小夜子さんも大変ですわね。デリカシーも脳みそもないかわいそうなお兄さんができてしまって」
「だからお前うるさすぎ」
「きゃん!」
「先輩……」
チョップ。悲鳴。防御。
「小夜子さん、お手をどうぞ」
「あ、はい。ありがとうございます先輩」
赤羽が出した手を握り、小夜子は着地する。こうして他人の手を借りないとまともに着地する事も出来ない自分は確かに小夜子は度し難い虚実(げんじつ)ではあるがしかしこの手のぬくもりは確かにここに在る。その体重を地面に引き寄せると、違和感を感じた。今、自分達を横目に通り抜いた生徒達の中に見慣れない、しかし見覚えのある姿を見えたような気がした。
「あれは……」
「ん、」
赤羽の声を聞いてその姿は足を止めた。赤羽の記憶はその姿を最上火咲の物だと認識した。
「最上さん、あなた、どうしてここへ……」
「ああ、なるほど。急に転校手続き取られて何事かと思ったらあんたらの仕業ってわけね。同じ学校で私を見張るつもりなのかしら」
「……」
あり得る。火咲がどこの中学だったかは知らないがこの剣峰よりも機関の人間がいる学校はないだろう。ヒエンは敢えて干渉せずにと言ったがどうやら上の連中は彼女のステージを変える事にしたようだ。
「最上さん、あなたはここでも……?」
「関係ないわ。私はただ破砕するだけ。……ここにはいたらいいんだけどね、私の玩具になれそうな人が」
「……」
「そんなに睨んで……この前の続きを今ここでしたい?」
「……今の私ではまだあなたに叶わないでしょう。ですが好き勝手にはさせませんよ」
「したらどう? 結果は変わらないんだし。……それに、」
火咲は赤羽の後方を見た。赤羽は警戒を保ちつつ背後を見やる。見知った仲間達のさらに後方に一人の男子が立っていた。
「……」
「まさかここまで付いてくるとは思わなかったわ。よっぽど私に夢中なのかしら」
「……」
無言。少年、矢尻達真は無言で正面の少女を見やった。ある日突然転校したと聞いて思わず自分も転校してきた。最上火咲の危険性を知る人間が自分しかいないと思っていたからだ、表向きは。
「……狩場を変えたか」
「さあ? どうかしら」
「……お知り合いで?」
「先週、雨降ったでしょ?」
「え? ……火曜日でしたか?」
「そう。その日、そいつ私をレイプしたの」
「……人聞きの悪い事を言うな」
「事実でしょ?」
「……あの、聞いてもいい話なのでしょうか?」
「勝手に判断したらいいわ。でも、あの時私を陵辱した事は一生忘れないわ。だってもしかしたら私にとって最高の相手(おもちゃ)が見つかった日かも知れないんだからね」
「……見ての通りコイツは壊れている。警察を呼びたくなっても呼ぶな。下手に犠牲が増えるだけだ」
「大体分かっています。危険度はともかく人格破損具合で並ぶ人がすぐそこにいますので」
「それは私の事だったりします? ああ、なんという言葉。人格破損具合と言われましたよ私。私、そこまで不遜な小娘ではありませんわよ。ああ、でもでも赤羽さんがどうしてもというのでしたら是非に私は」
「だからお前うるさいっての。シリアスなんだから黙ってろっての」
「ひゃん」
「……先輩」
弾幕。チョップ。防御。嘆息。
「……続けますね。最上さんが何をしているのかは私も直接ではないとは言え目撃したので分かります。一応同僚が何人か犠牲になりました」
「……」
「あなたと彼女の関係がどういうものなのかは私には分かりません。ですが既に私も無関係ではないので」
「……そうか。忠告はしたぞ」
「はい。ありがとうございます」
会話を終えて達真は赤羽を、火咲を通り過ぎて昇降口に消えた。それを見送ってから赤羽は火咲に視線を戻す。
「あなたにもご友人がいたんですね」
「あなたにも冗談が言えるとは思わなかったわ。あと、私3年生だから一応注意してね後輩ちゃん」
「……言葉遣いなら心配ないと思いますが」
「あなたは冗談が好きなのね」
言って火咲もまた昇降口に消えた。それを見送ってから傍らにいた小夜子が小さく言葉を作る。
「もしかしてあの人が報告にあった?」
「はい。スタッフを殺害した張本人……と思われる方です。私も彼も直接現場を見たわけではないので確証はありませんが」
「私は役に立ちそうにないので赤羽先輩お願いしますね」
「……可能でしたらですけどね」
「……何こそこそしてるんだ?」
「先輩先輩先輩先輩? 今こそあなたの言ったシリアスではなくて?」
「お前に言われたくはないっての」
「ひゃん」
「……」
「お約束はいいですが、そろそろ時間がまずいのでは?」
朝の風景に赤羽は言葉を落としながら昇降口に急いだ。


・新しい担任に案内された教室は3年の6組と書かれた表札のある場所だった。担任は二人の転校生を連れて珍しい事もあるものだと思いながらもしかしその珍しい二人の奇妙な雰囲気に飲まれて言葉を出せずにいた。
「最上火咲よ、よろしく」
「……矢尻達真だ」
そんな空気も知らずに二人は名乗りと儀礼を放り、空いていた席に歩いて行った。火咲は窓際の、金髪ロングの女子がいる隣の空席に寄った。
「私、天竺=リバイス=鈴音。よろしくね」
「ええ、よろしく」
握手を求める意思表示の彼女の手に、火咲は応えなかった。指ではなく手首を使って椅子を引いて自分の体重を支えさせた。椅子に座るとマジックアームのようなもので持っていたカバンから教科書を取る。
……この子が報告にあった最上火咲さん。両手が使えないのは本当らしいわね。
鈴音は手を引っ込め視線を正面に戻した。
一方で達真は火咲とは正反対の廊下側後尾の席に着いた。後ろには上体を机に突っ伏していびきをかいている男子が居る。達真が椅子を引くと、背もたれが机にぶつかったのかその男子が一瞬ビクッと体を震わせ、勢いよく立ち上がった。
「うわ!!」
「……悪い、どこかぶつかったか?」
「あ、いや、何でもない。で、お前誰?」
「矢尻達真だ。寝ていたのか?」
「妹と姉が寝かせてくれなくてな」
「……それはまた随分な夜を過ごしているようだな」
「ん? いや、誤解するなよ? 出し入れをするような時間を過ごしたわけじゃない。気付いたら二人共ベッドの中に入ってきてたんだ。追い出そうとしても片方はグースカ寝ながら俺をベッドから突き落とそうとするし、もう片方は絞め技してるのかってくらい体に密着してくるし。……ってこんなにマシンガンしてたらあの噂の片割れみたいに思われちまうか。……俺は長倉大悟。ってお前さっき会ったな」
「……そうか?」
記憶にない。今朝はあの女の事しか覚えていない。だがもしかしたらあいつの周囲にいた人物の中にこの顔が混ざっていたかもしれない。ともあれ上下対応シスコン野郎と覚えておこう。
「お前、あのデカパイの子とヤったんだってな」
「ん? ああ、今朝の話か」
「付き合ってるのか?」
「そういうんじゃない。先週だってあいつがチンピラに絡まれて輪姦(まわ)されてるところを摘ませてもらっただけだ。一時の気の迷いって奴だな」
「……お前、中々ヤバイ発言してるぞ」
「否定はしないがさっきのお前も中々だぞ」
ひそひそ話。しかし支配を取り戻した担任の注意によってそれは中断され、今日も授業が開始された。

------------------------- 第10部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
10話「烈火の襲撃者(ギア)、秋雨の血糊(ギア)」

【本文】
GEAR10:烈火の襲撃者(ギア)、秋雨の血糊(ギア)

・週末だ。多くの学生ないし労働者は近くまで来ている休息のためにヤケになる頃合だろう。そしてその日に雨が降ったのであればそこに漂うのは怠惰な空気か空元気の虚しさのどちらかに違いない。そしてそのどちらでもない空間がそこにはあった。
「じゃ、お先」
ヒエンが声と手を上げた。その直後にその手と襟首とを掴む手が生まれた。
「いや待て待て」
「まだ部活始まったばかりだぞ!?」
トゥオゥンダとジキルだ。他に後輩が二人程いるそこは一応、囲碁部の部室だった。空調もない6畳間しかない社会科の資料室に5人が居座り、ヒエン以外の4人が対局をしていた。しかしまだ4人がホシに石を置いたところでヒエンは荷物を持って席を立ったのである。
「何故だ!? どうして邪魔をする!?」
「いや、部活始まったばかりだぞ?」
「最近付き合い悪いが何かしているのか?」
「ああ。空手道場に行って可愛い女の子と遊んでいる」
「最悪だな!」
「爆発すればいいのに」
「ふっ、爆発しようが空襲されようが我、無敵なり! って事で帰らせてもらいます」
「「だ~か~ら~!!」」
背を向ければ再び止められる。
「せめて部活くらいは出てくれよ」
「5人いないと部活としては認められないし。第一俺はまだ勝ち逃げされたままなんだぞ!?」
「強くなれ、少年。じゃ、」
「ええい!! トゥオゥンダ! お前との対局は後回しだ! 今、俺はコイツとやる!」
「ふっ、そこまで言うならやってやろうじゃないか。……で、今度は何賭ける?」
「駅前のラーメン屋。とんこつラーメン半チャーハンセット790円だ」
「……いいだろう!! あ、でも石置かせて。2つ」
「焼き餃子もセットならいいぞ」
「乗ったぁ!!」
トゥオゥンダを窓の外に投げ飛ばし、ヒエンが代わりに席に着いた。怒り狂った全身包帯まみれのトゥオゥンダが部室に戻ってきた時にはヒエンが20目差で勝利を収めて帰り支度をしていた。
「のおおおおおおおおらあああああああああ!!」
咆哮と共に殴ってきたトゥオゥンダだがしかし無抵抗で過ごせば不変に弾かれ、トゥオゥンダは同じだけの咆哮を吐いて膝を折った。
「じゃ、忘れんなよ」
負け犬二人に言葉と背中を放ってヒエンは去っていった。最後まで隣で打っていた後輩二人は無言で真面目だった。


・傘。当然雨から身を守るための道具だ。多雨な6月や10月には必要不可欠だろう。しかし、現代日本にはゲリラ豪雨というものがある。予想の難しい大雨だ。今、ヒエンの眼前の景色を襲うものでもある。
「……この体って風邪引くのか?」
傘を忘れ、豪雨を見やるヒエン。気の効かせた黒服がここまで傘を届けに来てくれたらいいのだが。
「……うむ。ここからだと校門が見えないのが難点だな。仕方ない。濡れるけど行ってみるか」
濡れるのを覚悟で野に走った。不変のGEARであろうと温度は感じるものだ。ゲリラ豪雨に晒され、さらに寒風荒めば身震いを起こす。体力の低下による免疫力などの問題は起きないため病気にはならないが、体力の低下は起きる。きっと豪雨の中に1時間も立っていれば指先までカッチカチになって空手などまともに出来ないだろう。
「心頭滅却すれば火もまた涼しって言うがその逆の方が普通だろうに。いや、それも出来ないけど」
言葉で誤魔化し、校門前に走る。しかしそこに目当ての黒服や車はなかった。目の前の車道に数々の車が我先にと猛り走っている事から事故の類ではないのだろうが、もしかしたら中々姿を見せないから先行したと思って通り過ぎて行ってしまったのだろうか?
「薄情な奴らだ。会長に言いつけてやる」
誤魔化し、仕方なく家まで走って帰ることにした。携帯をかけられればいいのだろうがこの豪雨の中精密機械を晒すのは気が退く。手も濡れているし。
「……ん?」
やがて、10分程走ったところで景色に違和感を感じた。
豪雨の雨空。そこに黒服の姿が見えたような気がした。否、事実だった。二人の黒服が一人の男に両手で抱えられながら空を飛び、眺めて数秒で落とされた。
「……2週続いて災難すぎるだろうあの数の黒は」
言って、黒服の落ちた場所へ向かうことにした。ただ黒服が襲われているだけなら気に留めなかったかもしれない。しかしこの時間だ。赤羽美咲が関わっている可能性は捨てきれない。
走ること数分。あれからさらに10人が落とされた。そして、ついに目前に幾人もの黒服の残骸とその先にいる二人の男女の姿を捉えた。
「あなたは……!」
片方は赤羽美咲。もう片方は、
「何だ、黒服じゃないのか。なら、お前は少しはマシなんだろうな?」
筋骨隆々と真紅の装束とを纏った男。歳は十代後半か20前後だろうか。そして、どことなくその顔つきは彼の前で膝を折っている少女に似ていた。
「……赤羽、そいつは?」
質問。しかしそれに答えたのは男の方だった。
「今お前は答えを言ったぜ?」
「何?」
「俺の名前は赤羽(あかばね)剛人(つねひと)。美咲の兄であり、三船の幹部だ」
受け取った言葉を飲み込む。三船は確か三船研究所で、赤羽の出身とする機関で、赤羽美咲を今の体に改造した非人道的組織。その幹部に赤羽美咲の兄・剛人がいて今、妹を襲っている。
「彼女の身内となったなら別の意味で挨拶をしたかったんだがな」
「んあ? ……ああ、こいつとヤりたいのか。いいぜ? 兄の命令でヤらせてやっても」
「それでは意味がない。第一その子の初めてをもらうのはその子に笑顔をもたらしてからだ。そして、それを妨げる最大の要因であるあんたは目下のところ、敵だ」
「……ああ、そうかい。つまりお前はここで死にたいってタマだな?」
「1つ、いいことを教えてやろう赤羽兄。本気で遂行したい目的や本気で守りたいと思っている存在のために命を張れ、そして最大最強の力を発揮出来る者。人、それを漢と言う。分かりやすく言うなら、誰がお前のような奴に負けるかボケ」
言葉は終わった。剛人が動いていた。奥に立っていた左足で地を蹴ると、まるで地面が爆発したかのような音を残し、ミサイルのような速度でこちらに向かってきていた。
「なら、お空のリゾートに連れて行ってやるぜ」
一瞬でこちらの胴回りにラリアットの形で絡みつき、そのままもろともに雨空へと飛んでいく。やはり想像していた通りこの男は空を飛ぶ、飛翔のGEARを有している。
「最後に言い残したい言葉はあるか?」
「お前じゃ勝てんよ!」
空中で抱きつく形に剛人の腰に手を回し、強く締める。
「絞め技か。時間がないのにいい度胸してるぜ」
「時間? 確かにこのまま豪雨の下じゃ彼女は風邪をひいてしまう。そうなれば……後で看病と託けて色々出来るな。うん」
「そんなものは架空の未来だ!」
あっさりとこちらの腕を外し、同時に腹に蹴りを入れてヒエンは剛人の体から空に落ちてしまう。
「ぐっ!」
「高度100メートルからの自由落下だ! お前に未来があるかどうか大地に聞いてみたらどうだ!?」
「聞くまでもない。既に未来は掴んでいるのだからな!」
数秒の滞空。その果てにヒエンは通常に着地をした。
「何!?」
「対空発勁パアアアアアアアンチ!!!」
そしてわざわざ近くに降りてきた剛人の下腹に全体重を込めた右アッパーを叩き込む。踏み込んだ足の踵から膝、背から肘、そして手首と拳を一直線に力が走り、拳の先にあった剛人の部分にねじ込まれる。
「ぐっ……がはああっ!!」
落ちる己の体重と、ヒエンの体重が拳の一点によって下腹を貫き、一瞬その衝撃に滞空し、やがて受身も取れないまま濡れたアスファルトに落下した。
「ぐううううううううう……!! ぐっ、ごぼっ!!」
悶える剛人の口から複数の赤が漏れる。どうやら胃袋が破裂してしまったようだ。
「悪い、少しやりすぎたか?」
赤羽を背後にやりつつヒエンが言葉を投げる。対して剛人は必死に立ち上がろうとするが数秒置きに漏れる赤達に阻まれてついには大文字になって転がった。
「救急車いるか?」
「ふざ……けるな……!!」
言葉を受け取ると剛人の背中が浮いた。そして空気の上に立ち上がるとまっすぐこちらに上段前蹴りを放ってきた。
「っと!」
しかし雨を切り、疲弊したその速さではヒエンに当たらない。まだ妹の蹴りの方が速いくらいだ。
「て……めえ、何のGEARだ……? 今のは、てめえの腕も折れてるだろうが……!?」
「おいおい、本気で言ってるのか? 他人に自分の役割を言うべきではない。それをこっちゃあんたの妹から教えてもらったんだぜ? もっと妹とのコミュニケーションをとったらどうだ?」
「くっ……! まさか美咲がここまで大倉の連中と通じていたとは……! 貴様、名は!?」
「ジアフェイ・ヒエン。生憎と自分の本名が分からない身でな。こう名乗らせてもらっているよ」
「ジアフェイ・ヒエンだな? 覚えたぜ……! で、どうして俺に止めを刺さない?」
「値しないからだ」
「……いいだろう。今はまだ無理だ。だが、いつか値させてやる……!」
言葉を残し、剛人は再び雨空の中に飛んでいった。それを見えなくなるまで見送ってから改めて後ろを向いた。
「よう、大丈夫だったかな?」
「……はい」
「まさか兄貴直々に迎えに来るとはな。……聞きそびれていたがどう言う経緯で君は大倉に来たんだ?」
「……私が関わった実験の最中にそれを見かねた両親によって大倉機関に通報されたからです。それで私の両親は粛清されましたが大倉会長や加藤さん達が来てその場にいた研究員達を全員倒して私を回収しました」
「実験? 君のGEAR上書きは2年前に行われたものなのか?」
「いえ、それはもっと昔です。2年前に行われていたのは人造人間製造実験です。詳しいことは聞かされていませんでしたが恐らく後付けの改造手術が被検体に強い負担をかけるため最初から2つのGEARを持たせた人間を作ろうとしているのでしょう」
「……そして人造故に数を用意出来る、か。そして、君をモデルに人造人間実験か」
「それが何か?」
「つまりは君のクローンが数を揃えていると言う事じゃないか! ひゃっほー、さっきの野郎に三船まで案内してもらえばよかったかな」
「……」
「まあ、冗談は置いといて」
「冗談に聞こえなかったのですが」
「どうして君なんだ?」
「え?」
「どうして君が被検体として人造人間の製造実験がされていたんだ? あの赤羽剛人じゃダメだったのか?」
「……それは、私にも分かりません。兄も私と同じでGEARの後付け手術を施されています。ただ、私よりも何年も前に同じ改造手術を受けています。それ以外にも肉体の強化手術などを受けているのでもしかしたら改造のしすぎでクローニングモデルには不向きだったのではないでしょうか?」
「……わあい、今軽く恐ろしい情報を2つも口走らせられたぞ。ってかもはや僕くらいじゃないと勝てないんじゃないのか?」
「……馬場の雷龍寺さんならもしかしたら相手を出来るかもしれません」
「馬場雷龍寺? ああ、早龍寺の兄貴か。まあ、かもしれないが相手になるよりかは確実な僕がやった方がいいだろう。……まさかこんなアニメみたいなことになるとはな。それで死んでいったそこの数の黒どもは残念だがな」
残骸を見れば同時にやって来た1台の車から数十人の黒服がやってきて事後処理を始めた。いつでもあれだけの同じ姿の数を用意されている光景はいつ見ても不気味な光景だと思う。
「お送りいたします」
二人が残り、ヒエンと赤羽を車に乗せた。
「今日は稽古には代理が入ることになっていますが、どうなさいますか?」
「こっちゃ構わないが……」
「私も構いません」
「……分かりました。なら道場へ向かいます」
シートベルトを締め、車は雨道を走り始めた。

------------------------- 第11部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
11話「その名(ギア)は天才少女、発動する本能(ギア)」

【本文】
GEAR11:その名(ギア)は天才少女、発動する本能(ギア)


・道場。そこへ着く頃には雨も止み、光の帳が窓から見えていた。車から降りた二人は嘆息しながら30分遅れで道場入りを行う。
「そう言えば代理が来ているって言ったな。誰だ?」
「……どうせあなたは女の子なら誰でもよくて男だったら誰でも嫌なんでしょう?」
「失敬な。可愛い女の子と走狗に使える男だったらいいんだ。それ以外に用はない」
「清々しいまでのゲスですね。私、世の中の男性に失望をしてしまうかもしれません」
「それはいい。僕だけに希望を持て。さすれば救われる」
「失望と絶望の根源が人間の口真似ですか? あなたを少しでもいい人だと思った私が馬鹿でした」
「おいおい、性欲は人間に限らずあらゆる生命体にとって必要不可欠な事だぞ? なにせ、性欲がなかったらカインすら生れず、人類は一代限りのミュータントで終わっていたはずだ」
「……あなた性欲封じられているでしょうに」
「それは違うな。正しく言えば発散できないだけだ。しかしだからと言って求めないわけではないぞ」
「とりあえずあなたと会わせちゃいけない人物が私の中で既に何人か浮かんでいるので」
「ほほう、それは楽しみだ。さぞかし美少女なのだろう。ああ、この性欲を満たし、発散させてくれる可愛い子はどこにいるのだろうか!」
「あなたが自分の役割に殉じている以上は誰でも不可能だと思いますよ」
歓談をお供に階段を上り、道場への鉄扉を開けた。
「失礼します」
礼をしてから中に入る。その時だ。悲鳴と共に一人の少年が二人の足元にぶっ飛んできた。
「く、久遠……! や、やりすぎだよ……」
「もう、相変わらず雑魚なんだからりゅーくんは」
二つの声。とりあえず少年の方は見捨ててもう1つの方を見やった。それは少女だった。腰に巻く帯は純白。その上下に凹凸は見られない。そして背丈はかなり小さい。顔は整っていて、間違いなく美少女の類だろうがしかし幼い。まだ小学生だろう。
「あ、来たんだ。美咲ちゃん」
「久遠。これは何事ですか?」
「珍しくりゅーくんが指導員やるって言うから茶化しに来たの。そしたら相変わらずみんな弱くって困っちゃうよ」
久遠と呼ばれた少女の周囲には足元で血を叫ぶ少年と同じように畳の上に倒れ伏して痙攣する少年少女達でいっぱいだった。それから思い出す。そう言えばこの足元で倒れている少年。見覚えが有る。確か馬場早龍寺の弟の龍雲寺ではなかったろうか? 赤羽よりかは年上っぽいから彼女の代わりに指導員を取り持っているのも頷ける。ただ、そうなるとあの早龍寺の弟をこの小学生っぽい少女はここまで圧倒したということか。
「久遠、ここではあなたは新参。ならば兄であり先輩である龍雲寺さんの指示には従ってください」
「嫌だよ。久遠ちゃんは、美咲ちゃん以外だったら久遠ちゃんより強い人にしか従いたくないもん」
「赤羽、その子は?」
「……ああ、はい。この子は馬場4兄妹の末っ子である馬場久遠寺です」
「久遠ちゃんって呼んでね。……ああ、美咲ちゃんが一緒って事はその人が例の」
「例の?」
「色んな場所で色んなハプニングを起こす死神さんかぁ」
「し、死神!? 何だそのデジャヴを激しく刺激される呼び方は!」
「……あなたそんな呼び方をされていたのですか?」
「いや、こう、前世的に?」
「あははは! 聞いていたより面白いじゃん死神さん。ええと、死神さんみたいな人なんて言うんだっけ? ああ、そうだ。変態だ! 変態さん!」
「ぐっ! ロリに変態呼ばわりされて喜ぶ趣味はないぞ……!?」
「……どうして疑問形なんですか」
「あはっ! 初対面なのにもう久遠ちゃんの魅力にメロメロかな? 正直だなぁ、死神さんは。でも久遠ちゃんは久遠ちゃんより強い人じゃないと認めないよ?」
「久遠。彼はまだ空手を始めたばかりです。初心者同士とは言えあなたの敵ではありません」
「いや、やってもいいぜ。さっきのでエンジン入りっぱなしなんだ。この際ロリでもいいや」
「うわ、いい発言だね。じゃあやろうか。そーくんが勝てなかったって言うその力、見せてもらおうかな」
「……二人共……」
「まあまあ。どうせこのままじゃ稽古にはならないんだし。この子を使って運動をしようじゃないのさ」
「さっきから発言が危険ですよ」
赤羽のジト目を背に受けつつヒエンは一歩前に。手前の久遠も一歩を前に出た。互いは、距離にして3メートル離れた位置にある。こんなものは一瞬で埋まる。だからこれ以上踏み出す事は火蓋を下ろす事と同じになる。しかし、それは起きなかった。どちらも距離を開いたまま踏み込まない。
「どうしたの? 早くかかってきなよ」
「そっちこそ。レディファースト……いや、大人の嗜みって奴だ。かかってこい」
「……」
対面を見て赤羽は思う。この二人の試合はいろんな意味で試合にならないと。狙撃のGEARのようなごく一部の例外を除いてヒエンは無敵だ。地上100メートルから落とされても全くの無傷で済むと言う結果も生み出しているしそれも飽くまで結果の1つに過ぎないだろう。防御に関しては知る限りでは最高の人物だ。しかし、攻撃に関してはそうでもない。確かに素人にしては動きはいい。鞠音は論外として久遠よりかも基礎能力は高いだろう。しかし、その程度では久遠のあれを突破することは不可能だ。
「死神さん、そろそろ来てくれないかな? 久遠ちゃん待ってるよ?」
「う~ん、まあ、君がそう言うのならいいか。どれ!」
距離を詰めたのはヒエンだ。体重を乗せた後ろ足で畳を蹴り、正面斜め上に向かって体を飛ばす。空中で右の拳を構え、しかし左の拳にだけ力を載せる。右腕は背中まで大きく引き、左腕は脇を締めて銃口とする。
「せっ!!」
着地と同時に右腕を鞭のように弧を描いて久遠の目線へと放つ。久遠の視線が一瞬だけヒエンの右手に集中されるのと同時にヒエンは銃口としていた左拳をストレートに発射した。フェイントだ。最近覚えたばかりの技だ。先に出した右手は側面からの打撃、後に放った左ストレートは本命……ではなく、ただの第二撃。本命はその後の踏み込みからの右前蹴りだ。両手の攻撃はほぼ同時に来る上防ぐには両手を使うはずだ。つまり本命の前蹴りは防げない。少なくともヒエン自身には突破できない。もちろん上級者には破られるかもしれないが眼前の少女がそれに値するとは思えない。その判断だ。
しかし、その判断は眼前の例外によって打ち砕かれた。
「……!?」
3つの攻撃は全てが少女の小さな右手だけで完全に受け流された。その事実は着地してからもう一度目で確認してもヒエンの頭は認識できなかった。追い打ちをかけるように少女の右廻し蹴りがこちらの左腰に打ち込まれていた。
……着地してからの本命では遅かったか……!?
事実の認識より先に後悔が脳裏をよぎり、そして次の瞬間だ。
「いったあああああああああああい!!!」
悲鳴を上げて久遠は右足を抑えながらぴょんぴょん跳ね回った。
「今の何!? 腰骨!? 死神さん男子高校生なのにそんなに痩せてるの!? いや全然そんな外見じゃないしって言うかホント痛いよ!?」
「だから言ったでしょう久遠。敵ではないと。彼の攻撃ではあなたの制空圏を破る事は出来ません。ですが、あなたの攻撃も彼には通用しません。喩え虎徹を使っても砕けるのはあなたの足の方です。彼はあなたのお兄さんである早龍寺さんの攻撃でも傷をつけられなかったのですから」
「そーくんはエンジンかかるの遅いんだから1分くらいのエキシビジョン程度じゃ信じられないよ! うぅ~、痛いよぅ……」
「えっと、悪い。大丈夫か久遠」
「罰金だね! そーくんに言いつけてやるんだから!」
 「……一応君のもうひとりの兄貴がそこにいると思うんだが」
「りゅーくんがどうしたって言うの?」
「……」
しくしくさめざめとした声が畳に響くが久遠は気にしない方向のようだ。
「ところで赤羽。制空圏って何だ?」
「あ、はい。空手の技術の1つです。口で説明するのは難しいのですが自分の攻撃と防御が安全に、そして完全に出来る範囲を形成するようなものでしょうか。通常は手の届く範囲ですが達人の域に達すればもっと広くなるそうです。そして制空圏を完全にした達人同士の戦いは制空圏の奪い合いと言ってもいいとの事です。久遠はまだ空手を初めて半年程度ですが何故か制空圏形成に優れていて、範囲は狭いですがその質はかなりのものです。私も狙わないと彼女に攻撃を当てることは出来ません」
「ふむ。囲碁みたいな概念があるものだな。確かに空き三角程度で相手の陣地に入ろうとしたのは迂闊でしかないか」
「……? よく分かりませんが囲碁をやっているのですか?」
「一応囲碁部の部員だ。今日も一局打ってきた」
「……事前に教えてくれませんと。今日も迎えに行った際に中々来なかったので既に行ってしまったものかと」
「そうだったか。いや、ここの事だからもうとっくに知ってると思った」
「……先週に調査した際にはあなたは部活には所属していない扱いだったのですが」
「あれ? ……そう言えば入部届けは出していなかったかもな」
「……」
ジト目の赤羽。それを数秒眺めてから隣の少女に視線を送った。
「で、続きはどうする?」
「やってみたいところだけど今の久遠ちゃんじゃ無理って分かったもん。こっちは制空圏で防ぐ。でも死神さんは無条件でどんな攻撃でも無力化……どころか跳ね返して来るんでしょ? だとしたらこっちはジリ貧だよ。勝ち目がない。久遠ちゃんは天才だから分かるもん」
「ははっ、鞠音ちゃんと言い、ここの子は聡明が多いな。そう言えばその鞠音ちゃんはどうしたんだ?」
「ここだよ」
声。女子更衣室のドアが開かれ少女が姿を見せた。その姿は確かに鞠音に酷似していた。だが、何処か違う。
「あ、終わりましたの?」
それにその少女の後ろからもうひとりが姿を見せた。言葉遣いや声からこちらが鞠音だろう。だとしたら?
「君は?」
「乃木坂潮音。双子の姉がお世話になっているみたいですね」
「嫌ですわ潮音。お世話だなんてまだそこまでの関係じゃありませんことよ? でもでもでも、先輩がどうしてもというのなら……」
「鞠音ちゃん、相変わらずうるさいね君は。……ジエファイ・ヒエンだ。よろしく潮音ちゃん。それで、どうしてロッカーに? さっき来たっていうわけでもないだろう?」
「今日は久遠がいるって聞いたから巻き込まれる前に姉さんを避難させていたんだ」
「巻き込まれる? ひどい言い草だよね潮音ちゃん。久遠ちゃんはただちょっと試合をしていただけだよ?」
「久遠。君の力は確かに凄まじい。でも、それだけだ。君の願いが満たされることはない」
「鞠音ちゃんから聞いたのかな? だったら潮音ちゃんは満たしてくれるって言うのかな?」
「君がそれを望むのなら構ってあげてもいいよ。その代わり姉さんは巻き込まないで」
「OK。いいよ。潮音ちゃんとはやってみたかったんだ」
視線を交わす二人。しかし、その間にヒエンは立った。
「何か?」
「フェアじゃないと思ってね。潮音ちゃん。一度僕に蹴りを入れて見てくれないかな?」
「? どういうこと?」
「いいから」
「……」
言われ、従い、ヒエンの胸に前蹴りを打ち込む潮音。が、当然その一撃は弾かれて潮音は2歩下がった。
「……不変の願い。僕の攻撃はあなたには通じないって事ですね。でもそれが?」
「久遠はさっき同じように僕を蹴って足を痛めた。だから君にも同じように足を痛めてもらわないとフェアじゃないと思ってね」
「待ってください。どうしてあなたまでこの喧嘩を止めようとしないんですか?」
「いじめでも怨嗟でもない喧嘩ならば早めに起こさせておいた方がいい。そう判断しただけだ。同じ竈の飯を食うのに腹に一物抱えてたら意味がないだろう?」
「……ですが、」
「おほほ、赤羽さん。心配いりませんわ。うちの潮音は優秀です。聞き分けのない力だけを持ったお子様なんて穏便に倒してしまいますわよ。だから安心してあなたはそのへんで倒れている方々の手当を優先したほうがいいと思いますわ」
「……」
「大丈夫だ。もしどちらかのこれからに関わるような事態になったら僕が止めて見せよう。そういう役目でもあるんでね」
「……分かりました。鞠音さん。あなたも手伝ってください。元々稽古なのですから」
「そ、そんなぁ~?」
逃げようとする鞠音の帯を掴んで赤羽は倒れている生徒達を介抱しに向かう。ヒエンは視線を交わすだけの二人から2歩離れて、しかし構えを下ろさないまま様相を見やる。


・少し前。ゲリラ豪雨の中、火咲は傘も射さずに街道を歩いていた。小学校低学年程度の小柄でありながら、しかしKカップと言う巨乳をぶら下げてその制服を滴らせて歩いていれば当然男の目にも止まるし声も掛けられる。
……初々しい感じね。でも、保育の趣味はないの……。
一人の下卑た手が肩に置かれる。直後火咲の右足は地を離れ、肉の地を貫いた。そこから数秒は空を2色の雨が濡らした。3倍の数の獲物をしかし容易く打ち砕きながら火咲は血肉を乞うていた。
「……」
濡れたアスファルトに散らばった無数の肉片と血糊。それに雨が撥ねるのを見やりながら火咲はほとんど力の入らない右手で己の股間を慰めた。
……どうしたの? 来ないの? 待ちきれないよ……?
口から吐息ではない空気を漏らしながら火咲は雨空を見上げていた。


・道場。畳の上に二人。馬場久遠寺と乃木坂潮音。小学5年生と中学2年生の少女が構えていた。
「死神さん、主審を頼むよ」
「合図だけで構いません。決着さえつけさせてくれれば後は任せます」
「盛り上がっちゃってまあ……。よし、」
ポケットからコインを取り出す。それを真上に弾く。表裏忙しなく瞬くコインは天井スレスレで上昇を止め、同じ軌道を描きながら畳の上へと吸い込まれ、2秒。小さな落下音を生む。同時。
先攻を取ったのは久遠だった。小走りで距離を詰め、自分の制空圏を潮音へと押し付ける形をとる。制空圏は範囲内の攻撃を打ち落とすためのもの。その言葉に偽りはなく、何も間違っていない。だが、防御のためだけのものではない。己の制空圏を磨いた者は自然と相手の制空圏も見ることが可能だ。制空圏同士をぶつけ合わせることで有利な位置を奪い合う戦いとなる。手足は飽くまでもその手段に過ぎない。そして、もし相手が制空圏を磨いていない者だった場合、それは無防備にも等しい。久遠の見立てでは潮音の制空圏は自分には遠く及ばない。だとしたらそれはもうこの時点で勝敗は決しているようなものだった。
足の届く距離に達すると同時、久遠は潮音の制空圏の浅い部分へ左の廻し蹴りを放った。移動エネルギーを使った強烈な一撃だ。先程ヒエンに対して放ったものよりも威力は上。しかし、久遠の望んだ通りには未来は変わらなかった。
「え?」
久遠の廻し蹴りは確かに潮音に命中していた。しかし命中したのは左肘だ。その鋭角に中足(ちゅうそく)が命中し、先程ヒエンを蹴った時のような激痛が生まれた。そしてそれと同じ速度で潮音は両手を前に出した。
手首と手首を合わせてまるで花弁のような構えだ。久遠は見る。その花弁に凄まじく凝縮された制空圏が練られていたのを。
「桜花の太刀……」
久遠が足を下ろした時だ。潮音は一歩前に出て両手をそのまま突き出した。
……これは……!!
久遠は防御に集中した。こうなれば赤羽でも突破は不可能だろう。しかし今、突破された。久遠の鳩尾向けて何発もの貫手が全く同じ角度に放たれた。3,4発程度なら1秒に放たれても対処は出来た。だが、今の1秒に放たれたのは軽く10発を超える。そしてその攻撃に練られた制空圏は自分のそれよりも深いものだった。
「……久遠の制空圏はとても広いしそれなりに頑丈。だから広く浅くな攻撃は全てシャットアウトされる。でも、」
「……一点に集中砲火すれば防ぎきれずに突破されるってわけか。だが、それは……」
赤羽とヒエンが見やった。潮音の19発目の貫手は久遠の鳩尾に吸い込まれた。だが、潮音の下腹には久遠の前蹴りが吸い込まれていた。
「……くっ!!」
「うううっ!!」
打撃を終えて、放った二人は打点を押さえつつ一歩離れた。
「潮音ちゃんの技は攻撃に一辺倒し過ぎだ。久遠の制空圏を破るのに全振りしてる。それを見切った久遠が敢えて防御を捨ててカウンターを狙ったってわけか。それを即座に行動に移せるんだから天才を名乗るだけのことはあるな」
ヒエンは半歩前に出た。しかしそれ以上は踏み込まなかった。
「はあ……はあ……」
「ううう……!」
久遠も潮音もまだ膝を折っていない。体力を大きく削られていてもまだ倒れる段階には至っていない。それを見て、ヒエンはやれやれと肩を上下させつつも視線は逸らさず二人の相対を見届けていた。
「どうする? 潮音ちゃん。もう一度同じことをするのかな?」
「……いや、なるほど。流石は空手の名門・馬場家のひとり。才能は制空圏だけじゃないようだ。僕の空手じゃ君にはまだ届かない。もう一度同じことをしても君にはもう通じないだろう」
「なら降参?」
「いや、君の願いを叶えよう」
「え……!?」
その言葉に反応したのは鞠音だった。肩を貸していた少年を畳に落とし、視線を潮音へと向ける。冷え切った鼓動が告げる言葉は。
……まさか……!
「まさか、潮音……おやめなさい! それは……!!」
しかし言葉は届かなかった。
「え……?」
鞠音の言葉が終わると同時。久遠は襟首を掴まれてその体を持ち上げられ、何度も床と天井とにバウンドするように叩きつけられ、それから5メートルは離れた壁に向かって投げ飛ばされていた。
「っと!!」
壁にぶつかる寸前にヒエンが跳躍。空中で久遠を抱きとめ、着地を果たす。久遠は道着の上が完全に破けてインナー姿となっていた。露わになった素肌はひどく震えていた。表情もまた蒼白。蛇に睨まれた蛙に近いか。
それを確認してからヒエンは潮音を見やった。
「どう? 久遠。満たされなかった君の望み、叶えられたかな?」
こちらを見下ろす真紅の視線。それを見たヒエンはこちらに向けられたものでないと知りながらも冷や汗を垂らした。大倉会長以来2度目だ。しかし今のこれはあの時とは種類も質も違った。まるで猛り狂う猛獣と遭遇してしまった時のような恐怖が名乗りを上げていた。その恐怖を2つ誤魔化すため、震える久遠を強く抱きしめる。
同時。両手足に違和なる力が走った。その由来となる感情は恐怖から来る自衛の心ではない。空元気による狂いでもない。強いて今までで近いものを挙げるとするならばそれは、怒りの感情だった。
……おいおい、どうしたんだこれは。どうして、どうして潮音ちゃんがここまで憎い? どうしてあの可愛い顔をこの手でぶちのめしたいと思って実行しようとしているんだよ……!?
久遠を畳に寝かせ、ヒエンは立ち上がった。

「先輩?」
潮音が首をかしげこちらに疑問を送る。
「潮音ちゃん。僕は今から君を殺してしまうかもしれない。だから先に言っておく。絶対に死ぬな」
「え?」
言葉を終えると拳を握り、畳を強く蹴ってヒエンは走った。5メートルの距離を一瞬で縮め、自分より僅かに背の低い少女に向けて拳を放った。
「っ!!」
咄嗟の反応に潮音は制空圏を使った。しかし防ぐために繰り出した左手は拳圧だけで形を変えた。真っ白な皮膚を無残なほどに引き裂き、赤を生み出し、その奥の骨を暴いた。
「ぐっ……!!」
両足に全力を込めて下がり、直撃は避けられた。が、風圧で胸元の道着が粉々になり、裸の胸が露わになった。しかしそれを庇うだけの余裕はない。攻撃で左手は使い物にならなくなっている上咄嗟の回避で両足は肉離れを起こしている。もはや回避も防御も攻撃も不可能だった。そして手前の男は拳を握ったままこちらを見やる。まるで追い詰めた獲物を吟味する猛虎のように。
「潮音! 潮音!」
鞠音は叫び、走ろうとするが赤羽に止められる。
「あなたじゃ無理です!」
「で、ですが!」
「既に増援は呼んであります。私が時間を稼ぎますのであなたは潮音さんを……!」
赤羽は畳を蹴って宙を舞った。跳躍というよりは飛行と言った感じで潮音の、ヒエンの前に着地した。
「一体どうしたと言うのですかヒエンさん? 色んな意味であなたらしくありませんよ……!?」
「すまない赤羽……だが、何故だかこの昂ぶりを抑えることが出来ないんだ……! 何故だか知らないけど、僕は今潮音ちゃんを殺さないとどうしても気が済まない状態なんだ……!!」
「……」
赤羽は一瞬だけ潮音を振り向いた。彼女の表情には苦痛と疑問の色しかなかった。そしてその彼女の前に鞠音が駆けてきた。
「姉さ……」
「バカ!!」
切り傷のある左頬に鞠音の平手が吸い込まれた。
「どうして……せっかく押さえ込んだのにどうして!?」
「……ごめん」
深呼吸してから潮音は姉の顔を見やった。その時だ。ヒエンの拳が平手に開かれた。
「……」
「どうしました?」
「……分からない。一気に力が抜けた。もう潮音ちゃんに対しての殺意もなくなってる。……一体何だったんだ今のは……!?」
膝を折り、己の両手を見やるヒエン。そこで道場に黒服が大勢やって来た。


・天は光を失いつつあった。しかし夕立の前触れではなくただの落日だ。証拠に雲もまた既に落ちている。
「……」
大倉機関が管理している病院。ヒエン達はそこにいた。潮音と久遠が治療室へ入り、ヒエン、赤羽、鞠音は待合室で待っている。既にヒエンは体の調査をされたが何ら異常は見られなかった。久遠も軽い打撲がある程度で入院する必要もなさそうだ。しかし潮音は左手の損傷がひどく、完治には時間が掛かるらしいとの事だ。
それを聞いた鞠音の表情は複雑だった。
「……鞠音ちゃん」
 言葉を捨てヒエンは立ち上がると鞠音の右手を両手で包んだ。
「え?」
「今、君の右手に僕のGEARを貸し与えた。だからこの右手は何を殴っても傷つくことはない。逆に僕は今無敵じゃない。……だから気の済むまでこの手で僕を殴るといい。原因は分からないが僕は潮音ちゃんを傷つけた。これが、今の僕の願いだよ」
「……」
鞠音は立ち上がった。殴られやすいようにヒエンはやや腰を下ろす。と、即座に鞠音はヒエンを左の手で殴った。倒れることはなかったが口の中に初めて生まれる痛みと赤。自分の血を見るのは初めてだ。しかし、
「鞠音ちゃん?」
鞠音は痛みを堪えるように左手を抑えていた。
「思い上がらないでくださりませんか!? 私もあの子を止められなかった。その後悔を無視してあなたは担えるとでも!? ですからこれでおあいこですわ!」
「……鞠音ちゃん……。悪い、早まった。これで許してくれ」
言ってヒエンは右手を出した。それを見て、鞠音は同じく右手を出してそれを握った。同時、鞠音の右手の光がヒエンに移った。
「けど、潮音ちゃんのアレは何なんだ? 何のGEARなんだ? 君は何か知っているのか?」
「……あれは決してあの子の願いではありませんわ。大倉機関の調査でも詳細は分かっていません。ただ、ああなってしまうと潮音は目に入った全てが獲物に見えてしまうらしいですわ。そして身体能力も大幅に上がりますの」
「だから久遠の制空圏も簡単に破れたのか」
「昔から潮音は体調を崩しやすかった上他の女の子とは違う部分がありましたわ。どこの病院に行っても原因は不明。唯一調査が可能だったのがここだったわけです。三船の技術なら何か分かるかも知れないそうですが……」
「あそこにだけは人を譲ってはいけませんよ。私ですらあんな目に遭ったのですから……」
赤羽が言葉を落とす。
「との事なのでここにいるわけです。先輩が大倉機関へ来た際のパーティに私達が来られなかったのは潮音が体調を崩していたからです。体が弱いのとあの謎の現象を並列で考えていいのかは分かりませんが」
「……あの子のGEARではないんだな?」
「はい。あの子の願いは懸念。1つの事に一所懸命になる美麗な願いですわ。……その願いであの子は望まざるあの力を必死で食い止めていたんですの」
「……じゃあどうしてさっきは?」
「……久遠さんの願いに応じようとしたからですわ。彼女はいつも満たされずに目新しい刺激を求めていた。だからあの子は自分の身を犠牲にして彼女の願いを叶えようしたのですわ」
「……」
ヒエンは一度、考えるのをやめた。今日一日で色々ありすぎた。だから一言を残した。
「世界って刺激的すぎるよな、全く」

------------------------- 第12部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
12話「渡された贈物(ギア)、譲られる考察(ギア)」

【本文】
GEAR12:渡された贈物(ギア)、譲られる考察(ギア)


・翌日だ。赤羽を連れて潮音の見舞いへと向かうヒエンはその品を購入するために街を歩いていた。
「あなたにしては珍しい律儀ですね。やはり相手が女の子だからですか?」
「イグザクトリーだな。だが、それだけじゃないさ。昨日のあれが一体何だったのか。謝罪と弁明の機会と考察を求めてもいる。……だと言うのに後ろのお前ら何のつもりだ?」
振り向く。後方には私服姿の男子高校生二人。朝吹勇人(トゥオゥンダ)と火衡恵舞吹葵(ジキル)だ。
「いやあ、まさかお前が空手とかこつけて女子中学生とデートをしているとは思わなかったからな」
「謝罪の一言か爆発のどちらかだけでも起きやしないかと見張っている所存だ」
「……愉快なお友達ですね」
「うちのクラスの連中に個性的さで勝てる集団はそういないと思うよ。それが嬉しいかどうかは別だがな!!」
とりあえず掌底と廻し蹴り。この二人が相手なら手加減したこの攻撃でも十分脅しにはなる。そう思ってたのだが、その二人よりかはとても小さく、そして尋常じゃないほど硬いモノに弾かれた。
「死神さん、初心者相手に空手使っちゃダメだと思うよ?」
それは昨日出会ったばかりの少女・馬場久遠寺だった。
「久遠、どうしてここに?」
「一週間くらいは通院しなさいって。だから病院に行く途中だったんだけど死神さんが路上で暴力を振るおうとしていたから止めてみた。さあさ、美咲ちゃん? 久遠ちゃんを褒めてみてもいいんだよ?」
「はい。分かりました。上出来です久遠」
「えへへ」
「麗しい友情だがだからって制空圏で止める必要もないんじゃないのか?」
ピリピリする手足を震わせながら少女二人を見やる。何か言いたげにプルプルしている野郎二人にくれてやる視線はない。
「もう死神さんってば。答え知ってるくせに聞くのは悪いことだと思うよ?」
「……ん、」
そう言えばこの少女はその意味不明なほど精密な制空圏を持っていても確かそれ以外の技術は初心者に毛が生えた程度とか赤羽から説明を受けたような気がする。だから昨日の組手ではお互いの攻撃が通用せずに千日手になっていたんだった。その後の出来事が濃密すぎて忘れていた。
「そう言えば昨日は死神さん、久遠ちゃんの下着姿見てるんだよね? もう、変態だなぁ死神さんは。そう言えば潮音ちゃんのおっぱいも見てるんだろうし」
「おいヒエン。流石に聞き捨てなれないぞそれは」
「お前ロリコンしに道場に行ってるのか!?」
「野郎どもは黙れ。それに久遠、潮音ちゃんはともかく流石にお前はまだ幼すぎてそういう感情はないぞ? 第一バーサーカーじみた状態になった潮音ちゃんと対峙しながらそんな余裕はない」
「そのバーサーカー潮音ちゃんよりもバーサーカー地味た事をして潮音ちゃんの左手を引き剥がしたのはどこの誰だったかな~?」
「久遠、そこまでです。……今はその潮音さんのためのお土産を探しているところです。あなたもどうですか?」
「美咲ちゃんに言われたら断れないよ」
「……今思い出したがお前、確か兄貴も被害に遭ってなかったか?」
「そうだったかなぁ~?」
「……久遠」
赤羽からの注意を口笛で誤魔化しながら久遠は一歩を前に行った。
「でも、潮音ちゃんのもそうだけど死神さんのあの力も何だったんだろうね? 普通の役割とは別にあるだろうし。まさか美咲ちゃんみたいに後付けの役割を用意されているってわけでもないんでしょ?」
「潮音ちゃんはもちろんのこと自分の事さえも確証はないから否定できないがな」
頭の後ろで腕を組み、大股で歩く久遠とその2歩後ろで並んで歩くヒエンと赤羽。そこからさらに5メートルくらい後ろで肩を落とした二人がトボトボと歩いている。
「しかし、乃木坂姉妹は中々のお金持ちです。私達が買える程度のお土産で大丈夫でしょうか?」
「赤羽、1ついい事を教えてやる。この世の全てが富で賄えるならばうちらは腕を磨く必要はない。うちらが腕を磨くのは己を磨くためで富は己を磨けない。そして人を磨くもの。人、それを想いと言う。だからそんなものは気にしないでいい」
「……あなたにも先輩らしい言葉が言えるものだったんですね」
「見直したかな?」
「ええ、少しは」
頷いた赤羽だったが突然に後ろの二人が声を上げた。
「いやいや、こいつのそういう名言系セリフは全部こいつが読んでる漫画からのコピペだから」
「たいてい授業中にいきなり立ち上がって演説を始めるような奴だから」
「……」
「……お前らまとめて今度のサバイバル演習に参加させっぞ?」
睨みを利かせてみるがしかし隣からのジト目には勝てなかった。


・病院。大倉機関の専属病院のためかトゥオゥンダとジキルは守衛に阻まれかけた。ヒエンはスルーしていたが赤羽が許可を出したため無事二人も通行が可能となった。
「赤羽、いいのか? 一応機関の機密とかあるんじゃないのかここには」
「ヒエンさん、あなたは気付いていないかもしれませんが実はこの二人は監視対象に入ってるんです。もしかしたらGEARを覚醒させているかもしれないとの事で」
「は? こいつらが?」
一度後ろを振り向くと、
「ここがあいつのロリコンの舞台か」
「今のところ幼女の姿は見当たらないが、どこかにあいつ好みのバレエ教室でもあるに違いない」
「……あいつらの役割はこちらの邪魔か?」
「……否定できないのが難しいところです」
やがて、5人は潮音の病室の前にやってきた。最初に赤羽が中に入ることにした。
「失礼します」
「あら赤羽さんではありませんこと。一体昨日の今日でどうかなさったんですの? ああ、私しばらく稽古には参加致しませんので。べ、別に潮音を出汁にサボりたいとかそういう事を言っているんじゃありませんことよ!? た、ただただ私は潮音が心配というのもありますし昨日のでほとんど生徒がいなくなってしまった今、格上くらいしか相手がいないなんて状況で稽古なんてやったら筋肉痛とかそういうレベルじゃない状況になってしまうとかそういう懸念がありましてですね? ああ、でも懸念は潮音の役割でしたわね。でしたら、えっと、私の役割は……探求! 嗚呼、私自ら墓穴を掘ってしまい……」
「鞠音さん、外にヒエンさん達いるのですが入っても大丈夫でしょうか?」
「え? あ、はい。潮音も今は眠っているので騒がしくしなければ大丈夫ですことよ」
「だそうです」
「あいよ、失礼するぞ」
ヒエン、トゥオゥンダ、ジキル、そして最後に久遠が入室した。病室は個人仕様で、窓とつながっている壁に沿われたベッドに潮音が眠り、その隣に置かれたテーブルの椅子に鞠音が座っていた。
「えっと、先輩や久遠さんはともかくとしてこの二人は誰ですの?」
「ヒエンさんの友人で監視対象でもあります。ですがまだ機関の事は秘密にしてください」
「おいヒエン。機関って何だ?」
「また中二病か? もう高校生だっていうのに恥ずかしい奴め」
「もうこいつら、監視とか置いといて役割破棄させないか?」
「……」
「あらあら。このお二人、中々面白い願いを持っているみたいですわね。片方は赤羽さんと一緒ですし。もう片方はこれまたかなり珍しいものをお持ちですし」
「そうなのですか?」
「待て待て鞠音ちゃん。君、そこまで詳しく他人のGEARが分かるのか?」
「私の願いは探求。つまりは他人の願いを知ることですので。先輩、あなたの周囲は本当に退屈しませんわね」
「そうかい。片方と言わず両方くれてやってもいいが鞠音ちゃん頭おかしいからこいつら任せられないしな」
会話が進んでいくと、鞠音の背後に動きが見られた。
「……う、」
「潮音? 目を覚ましたんですの?」
「……姉さん、ここは?」
「病院ですわ。機関専属の」
「……どれくらい寝てたの?」
「20時間くらいですわ」
「……意外と寝てないんだね。三日くらい寝てるかと思った」
「そんなに寝られては私、寂しくて死んでしまいますわ。昨日だって一人でお風呂に入ることになりましたのに」
「……中学生なんだしお風呂くらいもう一人では入れるようになろうよ姉さん」
ゆっくりと上体を起こし、伸びをする潮音。病衣の上からでも分かる立派な胸の隆起が一度上に上がってからそして伸びが終わると同時に弾力を見せながら下ろされる。それを昨日直接見たはずなのにシリアスと謎現象のせいでほとんど記憶にない事をヒエンは心の奥底から恨んだ。
そんな心境をよそにその持ち主達を潮音は視界に入れる。
「先輩方、お見舞いありがとうございます。こんな格好で申し訳ありません」
「なら是非に今一度ポロリを……げびゃ!!」
「すみません。不浄は払いました。潮音さん、お加減はどうですか?」
「うん。悪くないよ。左手が麻酔でも使われたのか全く感覚が無いけどどうなのかな?」
「はい。細胞再生装置も使っての治療のため少し時間はかかりますが問題ないそうです」
「……そう。まあ、きっと調査なども入ってそれより少し長引きそうだけれどもう慣れたからいいかな。あの人に会えないのは少しさみしいけど」
「お、潮音ちゃん。好きな人でもいるのか? いいねえ、そう言うラブコメ」
「ヒエンさん? セリフからして間違いなくあなたではないのですが嫉妬はないのですか?」
「確かに僕は女好きだけれども僕が真実を掴めていない領域での願いは鞠音ちゃんが言ったとおりだ。恋人とかそういうのはきっと求めていないんだろう、きっと。それに普通に女の子には幸せになってもらいたいものだしな。笑ってくれるならああどうぞ見捨ててくれって感じだ。……ここまで言えるんだから昔に何かあったのかもしれないがね」
「……」
「それで久遠。わざわざついてきたんだから何か話したいことでもあるんじゃないのか?」
「もう死神さんってば。せっかくやり過ごせると思ってたのに」
言われ、口を尖らせながら久遠は一歩前に出た。その視線がちょうど潮音の視線と交錯する。
「潮音ちゃん、昨日のアレ、決着なんて言えないよね」
「……そうかな? 僕の負けだと思うけど」
「潮音ちゃんの負けだなんてありえないよ。私ボコボコにされたんだよ? 死神さんが助けてくれなければもっと怪我はひどかったかもしれない」
「……だから何かな?」
「怪我が治ったらもう一度私と戦って。今度はちゃんと勝つし、潮音ちゃんもちゃんと戦って」
「……約束するよ」
「……うん。それならもう久遠ちゃんから言う事はないよ」
ややはにかんでから久遠は2歩下がり、ヒエンの傍らに着いた。
「……それで今更だが潮音ちゃん。悪かったな」
「いえ、先輩にもあの力が何だか分かっていないのでしょう? 今の僕ならまだ抑えが効きますがそれでも昔は暴走していました。だから先輩が突然湧いて出てきた異常な力によって暴走してしまった際の感覚は分かります。そして恐らく先輩の力は僕のとは違うものだと思います。なので究明の助力には至れません。すみません」
「……いや、いいさ。まあ、今度外歩けるようになったらデートでもしようじゃないか。奢るぞ? ……あ、恋人いるんだったっけか。じゃあ悪いな」
「いえ、お気持ちだけ受け取ります。ありがとうございます、先輩」
「……と、お気持ちだけじゃなかったんだったな。はい、お土産だ。君達は桜で有名な島の出身だって聞いたからな。桜柄のペンダントだ。洒落が分からないからちょっと無骨だけど」
「いえ、ありがとうございます。……故郷を思い出します」
「私からは、これです。潮音さんは和菓子が好きと聞いたので駅前のどら焼きを」
「ありがとう、赤羽さん」
二人からお土産をもらった潮音は視線を上げると、その先にいたトゥオゥンダ&ジキルと交錯した。
「あ、いや、その、俺達は……」
「す、すまない。何もない」
「だから付いてくるなと言ったろうに」
苦笑の女性陣の前で軽い裏拳の突っ込みが二人の腹を打った。

------------------------- 第13部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
13話「破壊者達の堡塁(ギア)、切り落とされた火蓋(ギア)」

【本文】
GEAR13:破壊者達の堡塁(ギア)、切り落とされた火蓋(ギア)

・雨雲が去り、晴天を取り戻した世界の下で人口雷雨によって囲まれ、未だ暗闇の中に聳える場所があった。
三船研究所。表向きには義手や義足などの医療品の開発や、孤児、身体障害者などの支援を行う公共企業である。しかしその実態は引き取った孤児や捨てられた身体障害者などに人体改造を施して人類の限界を探る悪魔の研究機関でもある。大倉グループからは赤羽美咲やその周囲のみにしか人体実験をされていないように思われているがその魔手はもっと根深く広がっている。
「くrrrrrrrrrrrrrrrrrr!!!」
奇声を上げるのは白衣の男、この研究所の所長であり三船グループ全体の代表でもあるラールシャッハ・M(みふね)・黒二狂(クロニクル)だ。スペースシャトルのような形状をした大きな右の義手を暗い天井にかざし、緑色に変色した左手には1枚のカードが握られている。
「ついに、ついに完成したぞ! やはり私は天才だ! チケットの量産に成功できるとは、しかも夢にも思っていなかった結果だ! これで奴に売りつけてやる事も出来るっ! くrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr!!!」
雷鳴に合わせて狂った声が曇天を貫く。と、部屋の自動ドアが開かれひとりの職員が入室した。
「再調整、完了しました」
「ご苦労。して、今度の調整(カスタマイズ)は?」
「はい。複数同時に使えなかったGEARを併用可能にしました他、条件付により痛覚をなくしました。これで痛みなどというもので怯むことはなくなりました」
「ご苦労。悪くない調整だ。しかしどうせならUMX(アムクス)のDNAを入れてしまっても良かったのではないかね?」
「所長。面白いですがそれだと流石に伏見の目にとまります」
「とまっても構わんだろう。UMX1体だけでも十分奴らの相手が出来るのだから。まあいい、せっかくの人形。しかも自ら買って出たものだ。簡単に潰してしまっても叶わんか。なにせ、まだUMXの調査は終わっていない。そのDNAを人間に移植してしまえば二日は持たないだろう。して、殿火(とのか)の方は?」
「現在同調中です。一両日中には再び使用可能になるかと」
「ふむ。いずれはUMXのDNAを組み込んだ人間がPAMT(パムト)に乗って天下を横断する日が来るかもしれんな。そうすれば奴らの目にも止まるだろう。なにせ、進化大好きな既狂どもだからな。そしてこの力が認められれば私達は永遠の命さえ手に入れられるやもしれない! そうなればいずれ世界を自由に魔改造出来る未来をこの手でつかみ取れるだろう! だとすればだ、もはや笑いが止まらないというものだ! くrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr!!!!」
「はい。……それで所長、もうひとりの方ですが、」
「む? ああ、3号機か。調子はどうだ?」
「はい。全体の完成度は67%。頭脳はIQ130程ですが精神年齢は小学生低学年程度です」
「ふむ。そちらは思ったほど進まないものだな。やはり、GEARごと0から作り上げた存在は思い通りには転がってくれないか。今、2号機とやったらどうなる?」
「十中八九3号機が勝つでしょう。殿火込ならば2号機に分があります。どちらにせよ3号機の進捗速度は3分の1未満にまで落ち込みます」
「それは勿体無いな。……で、1号機はどうだ?」
「どうやらまだ飛翔のGEARを制御していない様子です。姫火ともまだ同調出来ないでしょう」
「……なら0号機は?」
「現在空の上です。あと16時間ほどでこちらに到着する予定です。その間に0号機の姫火への同調実験の準備を行う予定です」
「うむ。完璧とまではいかないが素晴らしい状態にあるようだ。それに、1号機から面白い情報が得られたことだしな。……よし、48時間後に和也をからかいに行ってやるとしよう。次元をも歩みだした我々に今更竜巻の目程度がどう抵抗出来るのか、教えてやろうじゃないか! くrrrrrrrrrrrrrrrr!!!」
再び狂った笑い声が曇天に響く。その、同じ空の下だ。
「起動実験だ。今から3時間自由に動くといい」
「……はい」
白衣に言われ、カプセルから裸体を晒し、そのまま自室へ向かう男がいた。三船の作品2号機である赤羽剛人だ。滴った体をそのままに実験室を出て長く暗い廊下を歩む。
先日の負傷は完全に癒えていた。しかし本人はそれを知らない。ただ目が覚めてから痛覚が麻痺させられていると言う事が分かるだけだ。きっと敗北して帰ってきたから再調整を受けたのだろう。
自室へたどり着き、用意された服を着る。無機質な部屋を眺め、カレンダーに目をやるとあの日からそう時間は経っていない。
あの零のGEARの持ち主との戦いの記憶は下手すると当日よりかも鮮明に脳裏を焼いていた。そして既に対策パターンが検索されている。しかし、自分の力ではあれを封じることは出来ても勝つのは不可能だと言う結果が先程から頭の中で生まれてくる。
「ん、」
机の上。書置きがあった。3時間後に4番調整室へ来い、と。あらかじめ剛人の再調整が終わりここへ来る時間を計算して職員が置いたものだろう。そして4番調整室に何があるのかは知っている。
……ついに俺は殿火を使うようになるのか……。
それがどういう事かは分かっている。だが自分に思うものはなかった。
「……少し外の空気を吸いに行くか」
カードキーを持って自室を後にする。職員に言葉を告げる必要はない。この研究所には至る所に監視カメラが有り、自分の行動は24時間監視されているだろうから外出用カードキーを手にした時点で目的は知られれているだろう。もし、外出許可が降りないと言うのならそれまでには職員に止められる。それがなければ許可されたも同じだ。3時間以内に戻ってくれば別に問題はないだろう。
「……」
豪雨の中、傘も射さずに剛人は歩いた。背後となった建物には物心付いた時からいた。科学者である両親からは実験動物以上の愛情は向けられなかったが、妹が生まれてからはやがて少しずつ関係が改善されていった気がする。しかし、2年前だ。妹が大倉機関に回収されてしまう日の前に、両親は三船に反旗を翻してしまった。その結果それ以降会うことはなくなった。きっと処分されたか実験動物にさせられたのだろう。
自分は所詮三船の実験動物に過ぎない。その実験動物が無駄な感情を持たないように再調整されたからか両親について思うことはない。ただ、三船の命令に従って所長を満足させるだけの人形だ。
「……お前は何のためにあるんだ?」
研究所から歩いて数分。針葉樹林が見える正面。その中央に生えている大木に歩み寄り、樹体を触る。この大木は生まれた時にはもうあったような気がする。ひたすら振り続けさせられているこの雨の中20年近くも生え続け、そして今もその巨体を暗闇の中に晒している。この大木は自分とは違い、何ら役割を果たしているとも思えない。いや、厳密に言えばこの大木にもGEARは存在するのだろう。だから世界にとっての役割を果たしているに違いない。その役目が終わった時この大木は死ぬ。だが、まだこの大木は生きている。ならばまだ役割は終わっていないということだ。
「……生きている限りは役割は続く。役割が続く限りは命は死なない、か」
呟いた時だ。
「あの研究所って哲学関係か何かかしら?」
「!」
少女の声だ。素早く気配を探ると、背後の木の枝の上に声の主はいた。小学校中学年並の背丈とそこからは想像もつかないほどアンバランスな巨乳。そしてだらしなく下がった力のない両腕。
「誰だ!?」
「誰でもいいでしょ? ただこのあたりは昔住んでいたから今もこうして、脚力強化の場にしてるだけ」
そう言って少女は今乗っている枝から正面、5メートルは離れた木の枝に飛び移る。雨に濡れた木の葉がふたりの視線の間を舞いながら落ちていく。
「……何の用だ? このあたりは三船研究所の私有地だぞ!」
「別にあなたなんかに用はないわよ。自分自身を見失っているようなバカ兄貴になんてさ」
「何!?」
構える剛人の前に少女は飛び降りて着地した。5メートルの高さから落ちたと言うのにその両足は折れるどころか痺れてさえいないようで軽やかに少女は歩く。
「でも、あなたも私も破壊しか出来ない。空を飛ぶ鳥の真似をしたって虚しいだけよ。でも、破壊は何も生まない」
「……お前の方が哲学的だな」
「茶化さないで。私は破壊の先にあるものを見てみたいのよ。破壊が役割ならそれは意味のあること。世界が望んだことでもあるんだから、きっと私達も誰かが必要としてくれるはずよ。私はその、はずを確定なモノに出来るかどうか確かめたいのよ」
「……」
「赤羽剛人、私と同じ破砕の役割の持ち主。私と組まない? 決して砕けない人間を知ってるんだけどそいつを砕いて見せられれば何かが変わると思わない?」
 「……なるほど。自分自身さえ壊してみせている奴のセリフか。狂っていて当然だな。だが、まあ、いいだろう。だが、しばらく待て。このあとに再調整が……」
「それは延期にしてもいいそうだよ」
背後。そこにもやはり少女がいた。
「黒か」
「黒? それにその顔は……」
「……赤羽剛人。再調整は明日にするとの事。だから今日はその子と一緒に行動してもいいって。ただしこれ指令書」
「……分かった」
当然疑問はあった。この少女、黒羽律がどうしてここに、部外者の前に姿を見せているのか。どうして部外者と自分を組ませようとしているのか。しかし所詮自分は人形。ならば疑問を持つことに意味はない。
「それで、お前の名前は?」
「最上火咲。今はそれでいいわ」
「分かった。なら行くか、火咲」
律からの手紙を指令書を受け取り、火咲と共にこの雨の中を後にした。
「ねえねえ、バカ兄貴。あの可愛い子、妹にしたいんだけど」
 「所長に掛け合え。きっと無駄だと思うがな」
「……寒気が、後で再調整が必要かも」
二人を見送ってから律は研究所に戻っていった。

------------------------- 第14部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
14話「相対する因縁(ギア)、激突する兄貴(ギア)」

【本文】
GEAR14:相対する因縁(ギア)、激突する兄貴(ギア)


・とある昼下がり。時刻にして言えば午後2時半。カーテンから差し込む日差しを浴びて目を覚ます少女が二人。
「……ん、少し寝すぎましたか」
布団で裸のバストを隠しながら上体を起こすのは赤羽美咲だ。彼女は今、住まいとしている駅前のホテルの私室で目を覚ました。今日は土曜日で休日だ。しかしだからと言って本来こんな時間まで眠るなんて今まで一度もなかったことだ。自分で言うのも何だがかなり規則正しい生活を送っていたと思う。それがどうして体調が悪いわけでもなくこんな時間に起きたかと言えば、その理由は彼女のすぐ隣にあった。
「……すー……すー……」
「久遠、起きてください。もうお昼ですよ」
赤羽が布団を持ったまま上体を起こしたため隣で眠る久遠はその幼い胸が露出されてしまっていた。それを眺めながら彼女の肩を揺さぶる。3度揺さぶっても起きなかったためとりあえずベッドから起き上がって服を着ることにした。
「……っしゅ!!」
すると、小さなくしゃみの音が響き、久遠が上体を起こした。
「もう、なんで寒いのかな? さっきまで暖かったのに」
「久遠、もうお昼です。早く服を着てください」
「昨日の夜に脱がしたのは誰かな~?」
「……否定はしませんがそもそも急に押しかけてきたのは久遠でしょう?」
「だってぇ~、ライくん達が滝行ついでに一緒に風呂に入ろうとか言ってくるんだもん。年頃の可愛い女の子をなんだと思ってるのかなあのバカ兄貴達は」
「……上二人はともかく龍雲寺さんは止めなかったんですか?」
「りゅーくんが止められるわけ無いじゃん。それに一緒にお風呂だったり一緒に寝るんだったら美咲ちゃんと一緒の方がいいもん。まさかそれ以上の事もするとは思わなかったけど」
「……一緒に寝ただけじゃないですか。それより、今日は5時から稽古ですよ。それまでにご飯を食べて、体調を整えないと」
「もう美咲ちゃんは真面目だなぁ。この2年で一度も休んでないんじゃないの?」
「私もまだまだ未熟ですから。それに久遠、あなたもまだ初心者なんですから。今度は潮音さんに負けないように技を磨かないといけませんよ」
「むむう、潮音ちゃんはいつか倒すもん。空手を教えてくれた美咲ちゃんのために私は負けないもん。……もう、美咲ちゃんにはかなわないなぁ」
「……いい子ですよ、久遠」
「昨夜のようにとか?」
「……もう、」
それから久遠も服を着て二人で昼食を取り、時間までをゆっくり過ごすことにした。
「……」
その中で赤羽がどこかにメールをしているのを久遠は見た。
「……美咲ちゃんやっぱり……」
「……大丈夫。あなたを裏切ったりはしませんよ。なので今日はここにいてください」
「ま、待って! 美咲ちゃんどこに行くつもりなの……!?」
「兄さんがここへ向かってくるそうです。最上火咲さんを連れて。あなたを巻き込むつもりはありません。しばらくここにいてくれれば……」
「い、嫌だよ! どうしていきなり……三船に未練があるなら私も……!!」
「あなたは大倉機関の幹部の身内ですよ。裏切ればどうなるか……」
「そんなの関係ないよ! お兄さんを助けたいなら私も手を貸すよ!」
「……久遠……」
「私じゃ何が出来るか分からないし、美咲ちゃんが本当は何を望んでいるのかも分からない。でも、美咲ちゃんの力になりたい」
「……あなたは子供だからそう言えるのですよ?」
「美咲ちゃん、拒絶に聞こえないよ?」
「……そうですね」
見つめ合い、視線を交差し、手を取って、そして笑みをこぼしながら二人は部屋を出た。
「それで、どうするの?」
「兄さんを止めます。そのためにもまずは最上火咲さんをどうにかする必要があります。どうして彼女が三船と一緒に行動しているのか分かりませんが」
「大倉機関が見張ってたんだよね? その状態で三船にスカウトされたとか?」
「……どの機関に属するかはGEAR保有者の自由です。だから可能性はないわけではありません。でも、それにしたってどうして三船は……」
エレベータから降りた二人がエントランスへ行くと、同時。突如眼前に広がる赤があった。
「え……?」
「久遠……!」
咄嗟に赤羽は彼女の両目を手で塞いだ。その手の甲にも赤が付着した。
「へえ、そっちから来たんだ。でも、どういうつもりなのかな?」
正面。散らばった黒服達の残骸を踏みにじり、火咲が立っていた。そしてその背後には見慣れた長身の男も。
「どうした美咲。そのガキは……確か馬場雷龍寺の妹だったか? そいつを連れてどうしたい?」
「兄さん、あなたを三船から開放します。それが無理なら私はこの子と一緒に三船に下ります」
「……本気か? 無断でそんなことをすればどっちにしろ、そのガキは二度と大倉には戻れなくなるだろうし、お前は大倉と戦う事になる。三船に戻れば姫火の調整のためにお前は二度とその手足を動かすことが出来なくなるだろう。そのガキがお前にとって何なのか知らないが、その結果をお前は望んでいるのか?」
「喩えどんな言葉でももう変えるつもりはありませんよ」
「……」
剛人は思考した。妹からの進言はもし自分ひとりだったら応じてもいい、そんな二択だった。もはや三船以外では生きられぬ肉体だがそれでも死ぬまでの間妹と一緒にいれるのは悪くない。しかしそれを選べば間違いなく三船の追手が来て、大倉とは戦争状態になるだろう。妹だけならともかく自分までを庇う筋合いは大倉にはない。下手に戦火をばら撒くだけの不始末だ。かと言って兄妹で三船に下れば先程自分が言ったように自分達はもう二度と自分の手足を動かすことの出来ない人形となる。どうしたらいいものか……。
その悩みはある来訪者によって終わった。
「!」
即座に気配を感じた剛人がサイドステップで速やかに今居た場所から距離を取る。
「流石だな、赤羽剛人。三船に堕ちても腕は落ちていないと見た」
「……お前、」
自動ドアが開かれると、そこには剛人と近い年頃の青年が立っていた。久遠の兄である馬場雷龍寺だ。
「馬場雷龍寺……!!」
「ライくん!?」
「久遠、無断で宿泊した事は後でじっくり問いただしてやる。だからそれまで赤羽美咲を守れ。こいつらは俺が相手をする」
パーカーを脱いだ雷龍寺が剛人と火咲を見やる。
「……火咲、お前はそっちの二人をやれ。いや、殺すなよ? ただ終わるまでの間手出しさせるな」
「妹には随分と甘いんだね。もう人間の心なんて残ってないと思ってた」
「どんな時になっても兄貴が妹の事を忘れるものかよ」
「……」
「その気持ちは俺も兄だから分かるが、それがお前を許す理由にはならない。三船の改造人間としてお前を倒す」
「やれるもんなら好きにしろ」
剛人もコートを脱ぎ、忍者装束に近い黒衣の超常服(サイスーツ)姿となる。
「……邪魔は出来ないみたいだから私達は私達でやろうか、赤羽美咲さん」
「……いいでしょう」
ホテルのロビー。火咲が地面を爆発させて一気に距離を縮め、その足が赤羽の腹に届きそうになる。が、その一撃は突然矛先を変え、不発となった。
「へえ、」
「美咲ちゃんはやらせないよ!」
赤羽の前に立っていた久遠が制空圏で防いでいた。火咲が着地すると同時に赤羽は久遠の手を引いてその場から離れていく。火咲がそれを追いかければもうそこに残っているのは剛人と雷龍寺だけだった。
「……」
「……」
3人の声や足音が完全に去っていったのを合図に二人は走り出す。2秒で10メートルの距離を縮めてその中間地点で二人は手足を放った。剛人は右の下突き、雷龍寺は左の廻し蹴り。
「っ!」
剛人の拳は雷龍寺の腹に刺さる2センチ前で止まり、雷龍寺の左足が頬の横に構えられていた剛人の右手に防がれる。雷龍寺が着地してワンツーを放った。雷龍寺の肘が伸びてから剛人は動き出し、両手の平でその2発を受け止める。
「砕けろ!!」
雷龍寺の両手を掴んだ剛人の手に握力とは違う力が走り、雷龍寺の両手の体積が削られていく。が、1センチも削れぬ内に雷龍寺は右の前蹴りで剛人を前方に吹っ飛ばす。
……足りなかったか。
雷龍寺は見た。前蹴りが命中する寸前に剛人は両手を離し自ら後方に飛ぶことで今の一撃を完全に回避しつつ距離を取っていたのを。
逆に剛人はバック転をしながら10メートルを稼ぐと着地して身構える。
……相変わらずやりづらい相手だ。
剛人は想起する。雷龍寺の役割は優先権だ。相対したどの相手よりも早く自分の行動を起こす事の出来る最速のGEAR。それがある限り雷龍寺の先手を奪うことはほぼ不可能。対してこちらは室内で飛翔のGEARはほぼ意味を成さない。もう1つのGEARである破砕も、相手に走られている分行動に移させてはくれない。もしくは出来たと思っても今のように攻撃の引き金にされてしまう。相手の手足を掴めてもGEARの発動より先に向こうの攻撃が放たれてしまう。それに向こうのが常時発動タイプだと言うのにこちらのそれは任意発動タイプだ。任意で発動する分相手の行動が先に来てしまう。
ただでさえ身体能力がトップクラスの相手だと言うのに相性でも負けている。一騎打ちでしかも正攻法と言う条件ではこちらが圧倒的に不利。だから空手でも一度も勝てた事はなかった。
だが、試合でないのならば他にいくらでもやりようはある。
剛人はサウスポーの構えから右足で地面を蹴って自ら取った距離を縮める。
対して雷龍寺は自分の前方に制空圏を練上げ、敵の突撃に備える。制空圏の精度そのものは久遠がやや上だが雷龍寺はGEARもあってその制空圏で防げない攻撃はなかった。
しかし、それは飽くまでも空手での話。剛人は雷龍寺の制空圏に触れる前に着地。同時に前に出した左足でGEARを発動し、戦場となっていた足場に亀裂を走らせた。
「!」
やがて2秒もしないうちに足場は完全に崩壊して地下への暗闇が見えた。雷龍寺は落下より早くまだ足場が残っているエリアへと移動を始める。しかし、そこには既に剛人が立っていた。
「でええええいりゃああああ!!」
「ぐっ!!」
剛人の右のとびひざげりが雷龍寺の鳩尾に叩き込まれる。ノーガードだった。
「どこを崩落させるかはお前には分からないが当然俺には分かる。そして崩落より先にお前は移動出来る。だが、移動の為に優先権を使っていた今のお前に俺の攻撃はかわせない!!」
「……だが、俺の負けではない……」
「!」
暗闇の中に消えていく雷龍寺の言葉を受け取った剛人は膝を折った。右足の関節が外されていた。どうやら攻撃を喰らいながらこちらの膝に細工をしていたようだ。
「もうすぐ増援が来る。その増援を前に動けぬお前はどこまでやれるかな?」
「野郎……!!」
剛人は暗闇の中に落ちていった相手を睨んだ。


・ホテル全体の揺らぎを感じた赤羽はその振動に階段を登っていたその足を止めた。
「くっ!」
「鬼ごっこはもう終わりかな?」
地面を爆発させた火咲は階段を10段飛ばして、こちらの前方に跳躍で回り込んだ。
「美咲ちゃんはやらせないよ!」
久遠が二人の間に立ち、制空圏を練り上げた。
「防御に自信があるみたいだけど、回避できないならやめた方がいいわよ? 私、三船じゃないから別にあんた達殺しても不利益ないし」
「……っ!」
火咲の殺意を感じた久遠は半歩下がった。あの潮音と戦った時のように全身の神経が強張っているのが理解出来た。それも、潮音とは違って今目の前にいる相手には敢えて久遠を殺さない理由はない。
「最上火咲さん、」
後ろから声。赤羽のものだ。彼女は久遠の肩に手を置き、彼女より一歩前に出た。
「あなたはどうして三船に手を貸すのですか?」
「あなたのお兄さまから聞いたらどう? また会えるかどうかは知らないけどね」
「……」
赤羽が何かを言おうと喉に力を走らせた時だ。
「え?」
眼前の少女の体が宙に浮いた。否、
「……お前にもう人は殺させない」
背後から少年・矢尻達真によって持ち上げられていたのだ。
「あんた……!!」
火咲は言葉を紡ぐが、しかし達真はそれより早く火咲を外の地上に向かって投げ飛ばした。
「な、何を!?」
「……」
無言の達真を1秒だけ見てから赤羽は落ちていった火咲を見る。ここは2階と3階の間だ。頭から落ない限り死にはしないだろう。実際見下ろすと、凹んだアスファルトに大の字で火咲が倒れていたがやがて動きが見られた。
「で、何が起きてる?」
「……言えません」
「……なるほど。組織絡みか。なら俺は口出ししない。だが、あいつの相手は俺がする」
「……分かりました」
「……ねえ、とりあえず下に降りる? さっきまで続いてた音が聞こえなくなったからもう下の勝負は終わってると思うんだけど」
「……そうですね」
意見が一致。3人は言葉なく階段を下りていき、ロビーに戻った。本来これだけ騒ぎを起こせば人だかりが出来ているはずだがしかしロビーには人の気配はなかった。代わりにロビーのほとんどが爆撃でもされたかのように崩落していた。
「……お前達はテロリストとでも戦ってるのか?」
「……否定は出来ませんね」
「……ライ君は?」
久遠が穴に注意しながら周囲を歩き回る。と、
「さて、話の続きをしようか」
「!」
久遠の背後に剛人が現れ、その後頭部に手刀を打ち込んだ。
「みさ……」
「久遠!!」
「気絶させただけだ。……見ない男が居るな。まさかと思うが、」
「あんたの想像とは違う。俺はさっき下に落とした奴に用があるだけだ」
「……なるほど。大倉でもないのか。だったら行けよ。お前に用はない」
「……悪いが、」
「はい。どうぞ」
一度赤羽に声を掛けてから達真は剛人の横を通って外に出た。それを気配で見送ってから、
「で、どうする? 俺を止めるか? それとも……」
「……もう少し外の景色を見ていたかった。もう少し、自分というものを探していたかった。でも、そのために周りの人達を巻き込んでしまうのなら私はもう何も求めません」
「……分かった」
そして、赤羽兄妹はその足を地面から離して誰にも見られぬ内に昼下がりの空に消えていった。
大倉機関の増援が来たのはその数分後だった。

------------------------- 第15部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
15話「始まった崩壊(ギア)、点火の準備(ギア)」

【本文】
GEAR15:始まった崩壊(ギア)、点火の準備(ギア)


・三船研究所。久々に来る赤羽は感情を揺らしながら兄の手を握り締めて所長室への廊下を歩いていた。
「……安心しろ。姫火になれば誰もお前を止められる奴はいない」
「……間接的に誰も私のために傷つく人はいないということですか?」
「好きに解釈しろ。……だがまあ、正確に言えばここから先近いうちに来るであろう連中だけは傷つけざるを得ないだろうがな」
「……大倉機関ですか。しかし流石にこの場所までは分からないと思います。いくつもの精神結界を施していますし」
「……だが、来れる奴はいる。そして今回のそれはそいつのための実験のようなものだ。……さあ、そろそろ所長室だ。準備はいいな?」
「……はい」
歩みを止め、そして兄妹はその扉を開いた。


・大倉機関本社ビル。そこにスタッフが集まった。
「……ついに動いたか」
大倉会長を中心に、加藤、岩村、馬場早龍寺、龍雲寺、紫音、鈴音、そしてヒエンが集められた。
「……赤羽が三船に拉致されたって本当ですか!?」
「ああ、そのようだ。君が前に戦ったって言う赤羽剛人と監視対象だった最上火咲が組んでやってきたそうだ。馬場雷龍寺くんが相手をしていたようだが止める事は出来なかったようだね」
「会長、兄の失態は俺が」
「早龍寺くん……、分かった。君なら大丈夫はずだ」
「会長、大丈夫って?」
「うむ。実は三船の本拠地である研究所にはGEARを利用した特殊な結界が施されていてね。一度拒まれた者は中には入れないようになっているんだ。私や加藤くん、岩村くんに雷龍寺くんは前回赤羽くんの救出のために入った際拒まれてしまっていてもう向かう事が出来ない。だから前回行かなかったメンバーに向かってもらい、結界装置を破壊してもらいたい。その後、私達も向かう」
「……だったら会長、自分をそのメンバーに入れてください。立ち会えもしない内に幕引きなんて冗談じゃない。それにここへ来る前に久遠とは会ってきました。あいつをもう一度赤羽と会わせるためにも力が必要なはずです」
「……正直賛成出来ないな」
「なぜですか?」
「君はオンリーGEARだ。GEARの後付けが可能な技術を持った連中だ。そこへ君が行って何をされるか想像もつかない」
「けど人出は多い方がいいはずだ。それに僕は一度赤羽剛人を撃退している。そして早龍寺にもいい勝負が出来ていたと思うんですがね」
「……ジアフェイ、お前の実力を認めないわけではないが兄の仇を討つのは弟の務め。邪魔をしないでもらおうか」
「別にお前の手柄をどうこうしようってわけじゃない。が、お前だけでやれる問題でもないだろうが」
「……」
「そこまでだ。私もなにも早龍寺くんひとりだけに行かせようとは思っていない。メンバーは今夜決める。そして明日に出発だ。ヒエンくん、君の意見も前向きに考えておこう」
「……頼んだぜ、会長」
小さくつぶやきを残してヒエンは踵を返した。


・本社ビル。廊下。
「……」
早龍寺が出入り口に向かって歩いていた。数時間前の襲撃の際、兄の雷龍寺だけが動いたのは兄が一人だけ違う時間の稽古に参加するからだ。自分と龍雲寺はまだ兄の領域には至っていない。だからあの時間は稽古をしていて兄と一緒に向かえなかった。もし向かえていたならば結果は変わっていたかもしれない。
兄が心配だとか信頼できなかったとかそういうわけではない。しかしもし自分がいれば赤羽美咲の奪還を阻止出来たかもしれない。2年前に馬場家の両親と雷龍寺は赤羽美咲の救出作戦に参加した。帰ってくるまでの数日間をまだ中学生だった自分はそれでも弟の龍雲寺や妹の久遠の面倒を見て3人の帰宅を待っていた。弱音も吐かず、涙も見せず。しかし帰ってきたのは兄だけだった。赤羽美咲を憎まなかったわけではない。一度は一発ぶん殴ってやろうかとも思った。だが、傷つき倒れても任務の成功を、赤羽美咲の命を救えたと言う結果を心から喜んでいた兄の姿を見て、やめた。
それから久遠が赤羽と師弟関係を結び、プライベートでも仲良くなっていった。久遠だって両親を失って泣きたいはずなのに、まだ小学生だったと言うのに。今でもまだ自分は心のどこかで赤羽美咲を許してはいないだろう。だが、それでも両親や兄が残した彼女を、彼女と絆を育んだ妹の想いを無駄にするわけにはいかなかった。
……だから今度は俺が赤羽美咲を取り戻してみせる。赤羽剛人をこの手で倒して……!
その想いと共に歩いていた時だ。
「早龍寺くん」
「!」
声は後ろから聞こえた。振り向けばそこには紫音と鞠音がいた。
「鈴城さん、鞠音……」
「鞠音から聞いたよ。あなたの無念」
「……」
「そ、そう睨まないでくださいまし。ただあなたからただならぬ程薄暗い願いの声が聞こえたものでして……」
「……それで?」
「早龍寺くん、あなたの心境は分からない。でも、自分を捨てようとは思わないで」
「……アイドルとしての言葉?」
「私は自分がアイドルだって思ったことは一度もないわよ。ただ、これ以上仲間がいなくなるのを見たくはないだけ。出来ることなら私も今度の任務には参加したいかもね」
「……やめてくれ。あんたの役割はあそこで果たすには危険すぎる。ただ待っててくれればいい」
「……じゃあそうする」
「紫音さん紫音さん。早龍寺さんはですね、紫音さんに……はにゃにゃ!」
「お前は黙ってろ」
「……素直じゃありませんのね」
「お前は保護者のところに帰れ。まだ退院していないんだろう?」
「ええ。しかしそれならあなたも妹さんの所へ行かなくても?」
「龍雲寺がいる。ならそろそろあいつに子守をやらせてもいいだろう」
「……その弟さんはこの前あなたの妹さんにぶっ飛ばされていたのですが」
「……帰ったら特別稽古だな。妹に負けるなど言語道断だ。……そのためにもちゃんと帰ってくる。今はただそれだけでいい」
「……早龍寺くん。これ」
「……これは?」
「私のライブのチケット。本当は兄さんに渡すつもりだったんだけど都合が合わないみたいだからあげる」
「……兄のお下がりか。まあいい、都合があったら行ってみよう」
「……嬉しいくせに……はにゃにゃ!」
「……お前は黙ってろっての」
「……まあいいや。鞠音。病院行こう。私も今日こそは行ってみようかと思うし」
「……大丈夫ですの? あなたの心は願っていてもそれを望んではいませんわよ?」
「……でも、立ち止まってるだけじゃ嫌だもの」
そう言って紫音と鞠音は早龍寺より先に出入り口を抜けて夕暮れの闇に消えていった。その背中を見届けてから早龍寺はチケットをポケットに入れて同じ道を辿っていった。


・夜の闇に包まれた公園を街灯が寂しく照らす。幽かに照らされた夜のひだまりに立つ影が3つあった。
「……明日、三船に乗り込むことになるだろう。お前達も来るか?」
ヒエン。その背後には鴨と雲母がいた。
「お供しますよ、隊長」
「場所や相手なんて関係ありません」
「……そうか。まあいいや、らしくない事を聞いた。しかし三船研究所か。またあそこに行く事になるとはな」
「隊長、もしかして……」
「いや、出任せだ。けど、何故だか僕はあの場所を知っている。どういう事かは知らないが。……まあ、らしくない小難しい話はここまでだな。ただ、もう一度あの場所に行って赤羽美咲を再び救う。それだけの話だ」
「……赤羽美咲。まさか彼女の道に交わることになるとは思いませんでした」
「……でも隊長のお気持ちに沿うため、頑張りたいと思います」
「ああ……。しかし本当ならメンバーズ全員で行きたいんだがな。数はあった方がいい状況だってのにあの数の黒どもは行けないらしいし」
「どうしてですか?」
「あの方々は同じ黒服スタッフという括りですが全てが別人。なら精神結界には阻まれないのでは?」
「岩村さんが言うには向こうにも数のGEARのスタッフはいるらしいから絶対手は打っているらしい。一応護衛として何人か付いてくるらしいが、中までは入らないそうだ」
その言葉を吐いた時、ヒエンは夜の暗闇の中を睨んだ。


・夜。照明が切られ、黒服の警備員が巡回する大倉機関。その廊下。スーツを着て歩く男がいた。岩村だ。
「……」
数十年前に大倉和也の父親・大倉我聞が師範を務めていた頃の大倉道場に入門した彼は同僚の加藤や、先輩の和也と共に長い間己の武を競い合っていた。事実上の師範となった加藤や亡き父の後を継いで会長となった和也と違い、取り立てて成果を上げているわけではないがしかし久遠を除いた馬場3兄弟がそれぞれまだ小学生だった頃に彼らに稽古をつけた人物であり、3人は頭が上がらない。しかし、最近はあまり道場には姿を見せず、後輩が起業した百貨店で会計士の仕事をしていて今はそれがメインであった。しかしながら当然大倉機関の幹部と言う籍は退いたわけではないため今日のような緊急会議には参加する。
その岩村は今、一人で既に締め切られた本社ビルを歩いている。彼の役割は不可視。しかしそれはなにもアニメや漫画のようにその姿が見えなくなるわけではない。ただ、彼の姿や彼の行う行動が視認しづらくなるだけだ。故に監視カメラの映像でもただの背景として認識され、警備の黒服とすれ違っても彼自身の無音移動や挙動もあって全く気付かれずにやり過ごせている。
そして、彼は本社ビルを抜けるとそこから歩いて10分ほどの病院へと向かった。右手には本社で盗んだマスターキー、左手には同じく本社から盗んだフロッピーディスク。
彼は、大倉機関を裏切っていた。
マスターキーを使って病院のスタッフ用の裏口のドアを開けて中に入る。ドアを開けてから中に入り再びドアを閉めるまでの時間は1秒にも満たない。故に監視員もその瞬間を見る事は出来なかった。
岩村は音を立てずに夜の病院を歩き、やがて1つの病室に到達する。そこに書かれた名前は乃木坂潮音。
やはり音を立てずに一瞬で中に入ると、一つきりのベッドに潮音と、鞠音が眠っているのが見えた。
都合がいい。
岩村は懐から注射器を取り出した。そして気配なく潮音に近付くとその右腕に注射器を当てる。
「……ん、」
わずかな刺激に潮音は寝顔を変化させるが起床には至らなかった。10秒ほど彼女の血液を採取してから今度は別の注射器を使って鞠音の血液を採取する。二人の採血を終えると岩村はまた気配も音もなくその病室を去る。再び無音の廊下を渡り抜け、階段に差し掛かった時だ。
「そこまでだ、利伸」
「……研磨か」
正面。そこに加藤研磨が立っていた。そして彼の背後、さらには岩村の背後にも黒服が次々と姿を見せた。
「お前が機関を裏切っていたのは知っていた。だが、それでも別段行動を起こしているわけではなかった。だからお前を信じて見過ごしていた。しかし、今日はわざと赤羽剛人の襲撃に対する増援要請を遅らせて赤羽美咲を拉致させ、そして今乃木坂姉妹の血液を奪って三船に手渡そうとしている。俺はそれを見過ごすわけには行かない」
「……何故分かった? 俺の気配はお前にも分からないはずだ」
「確かに。お前の気配は分からなかった。今日に行動を起こすとも最初は思わなかった。よく考えれば分かったはずだがお前の役割に阻まれてそれは叶わなかった。だが、鞠音がお前の願いを見たのを聞いた。今日、お前が何かを起こそうとしていると。そしてお前が狙うとすればあの姉妹の血液くらいしか俺には思いつかなかった。だからそのフロッピーの中身が何なのかは分からない。が、そのフロッピーのおかげで俺はお前の気配を知ることが出来た。そして今、俺はお前を倒す。かつての好敵手(とも)として」
「……いいだろう。戦力を減らす機会はあった方がいい」
岩村はフロッピーと注射器を背広のポケットに入れ、背広を脱いだ。加藤も同じようにスーツの上を脱ぎ、構える。岩村が両手の肘を曲げ、構えようとした時、加藤は距離を縮めた。縮地だ。
「!」
「せっ!!」
縮地の勢いを殺さぬままの右正拳突きが放たれた。暗闇ということもあってか黒服達には今の一部始終は視認できなかった。しかし、今の一撃は岩村には届いていなかった。
「相変わらず私の構えも理解できないようだな」
岩村は手刀で今の攻撃を手首を打つことで逸らしていた。だけにとどまらず前に出していた左足で踏み込んだ加藤の右足の脛に打ち込んでいた。
「くっ……!」
「逃がしはしない」
下がろうとした加藤の鳩尾に踏み込んだ膝蹴りを打ち込む。打撃の感覚と痛みが体を走ってから加藤は今の攻撃の正体を知る。言ってみれば岩村の放つ全てはデジャブの逆だ。何の変哲もない単純な攻撃であってもまるで対処法の知らない未知の攻撃として頭が認識してしまう。しかし常時発動タイプではなく任意発動タイプだ。つまり無意識に発動していない瞬間は確かに存在する。しかしそれは逆に言えば集中して発動すれば通常以上の効果を発揮することも出来るということだ。岩村は自分のGEARの秘匿性を高めればこの戦いの最中であっても正面から逃げ遂せる事が可能である。それをしない理由は、逃げることより重要なものがあるからだ。
「せっ!!」
「ぐううっ!!」
ワンツー、膝蹴りからの飛び蹴りが立て続けに命中し、加藤は階段から転落。強く背中を打って壁にもたれかかった。
「やめてみろ。大人しくしていた方がさっさと終わる」
「馬鹿を言え。今までで一度でもお前が俺に勝てた事があったか……!?」
「勝負をしていたのは子供の頃の話だ。今はもう話が違う」
「いんや、違わないね。いつだって対決は延長線上の交差だ。過去の結果はどれだけ時間を経ても次の機会に影響を及ぼす」
「……否定はしないが、お前はどうして自分の役割を全うしない? お前のGEARは黒服同様の”数”だ。かつてお前は黒服になる運命でありながら努力に努力を重ねて幹部スタッフに選ばれた。それだけの努力は認めるが、しかし自分の力を使わない理由にはならない」
「少し違うな。俺は俺自身の力を使っている。GEARだなんて意味不明なものではない、この35年でひたすら磨き続けてきたこの体が生み出す力をな! そしてそれでしかお前を倒す事は出来ない」
「……相変わらずの馬鹿だな、お前は」
会話。いつの間にか階段の上から見下ろしていたはずの岩村の姿は眼前にあった。普通に降りてきて近寄っただけの行動が認識できなかった。
「おとなしくここで倒れておけ。そうすれば面倒もない」
岩村が加藤の肩に手を置いた時だ。
「利伸!!」
吠えた加藤はその手を掴み、手首の骨を握り折ってから正拳突きを放つ。手首をしっかり掴まれていたためか全く回避と防御は出来ず、岩村の胸に拳が命中する。
「ぐっ!」
痛みに下がろうとすると、自分の手を握っていた加藤の手が離され、一瞬の驚きの後にあっけなく岩村は2歩を下がった。
「つかみは1秒以内なら反則には取られない」
「……お前、空手の試合をやっているつもりなのか……!?」
「俺にはそれしかないからな。さあ、仕切り直しだ。夜はまだまだ長いんだからな」
「……お前という奴は……!」
暗闇の中で二人は口元に笑みを浮かべつつ再び構えた。
それから数時間後に来た朝に新たに駆けつけた黒服スタッフによって手術室前に全身を打撲や骨折でいっぱいにして倒れていた加藤が発見された。その一方で病院からそう遠くない路地で肋骨を全て折られて倒れていた岩村も発見され、共に回収された。しかし岩村の懐にはフロッピーディスクも注射器もマスターキーも入っていなかった。

------------------------- 第16部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
16話「決戦開始の凱歌(ギア)、大倉(ギア)VS三船(ギア)」

【本文】
GEAR16:決戦開始の凱歌(ギア)、大倉(ギア)VS三船(ギア)


・午前8時。大倉機関本社ビル前に集まったヒエンと早龍寺。そこで夜中行われていた加藤と岩村の戦いが知らされた。どちらも命に別状はなく、一週間程度の入院をすれば問題ない結果に終わった。ただし岩村においては反逆罪もあってか治療をしながら記憶脳裏検査(マインドスキャン)を受けるため、場合によっては後遺症が生まれるそうだがそれについて誰も言及はしなかった。
「しかし、メンバーはうちら二人だけなんですか?」
「うむ……。本来ならば龍雲寺くんも呼ぼうとしたのだが彼まで行ってしまったら負傷したままの久遠寺くんは一人になってしまう。それは偲びなかったのでな。研究所の傍まではスタッフに護衛させるが、そこから先は君達だけで行ってもらうことになる」
「……さいですか」
「……ジアフェイ、貴様もしや……」
「なんだよ、こないだの続きでもするか?」
「……ふん、別にいいか」
視線を鋭くさせた二人を黒服達は車に乗せて三船研究所へと走らせた。その一方で大倉もある準備を始めた。

・走る黒服の車。しかしまだ5分もしないうちにヒエンが停車を求めた。従った黒服が車を止めると、
「おじゃましまーす」
「どもども」
当然のように鴨と雲母が乗り込んできた。
「ジアフェイ! やっぱりお前仕込んでたのか!」
「誰がお前と二人で行けるか。花が欲しいんだよ花が! 第一どうして女性陣は一人も来ないんだ? あのアイドルちゃんとか握手してきた……え~っと鈴音ちゃんはどうしたんだ!?」
「二人共戦闘には向いていないんだ! その二人だってそうじゃないのか!? 素人を向かわせてどうする!?」
「いくらGEARがあろうがうちらは所詮ガキだぜ? いくら数を揃えたって賢しらに技を構えたって本物の戦場には勝てないだろうよ。けど、だったらどっちも揃えてたって問題はないだろ。それにこいつらは強い。間違いなく戦力になる。と言うか、無敵なだけのこっちよりかも戦力にはなると思うぜ?」
「じゃあお前が降りろ」
「だったらこの二人も降りるぞ?」
「ああ言えばこういうだな、お前は」
「文句でもあっか? と言うか、こう対立してたらいざって時に困る。せめて今回だけでもどっちが上かを決めておく必要があると思わないか?」
「……ここでこの前の続きをするつもりか?」
「それでもいいが、体力を消耗するのは好ましくない。それとも任務を放ったらかしにしてでも決着をつけたいのか?」
「……いいだろう。で、どんな勝負をするつもりだ? デュエルか? ポケモノか? どっちも自分のは持ってきてないぞ」
「鴨」
「はいです、隊長」
ヒエンが指を鳴らすと、どこからか鴨が碁盤と碁石を出した。
「……囲碁か?」
「そうだ。移動中で出来るように9路盤って言う一番小さいサイズを持ってこさせた。早けりゃ数分で終わる。基本のルールが出来ていれば実力の差はあまり出てこない。大事なのはどこに石を置くかだ。一手間違えればプロでもアマに負けることはある。どうだ? 制空圏とやらの勉強にもなると思うぜ?」
「……こんなもので制空圏が出来てたまるか。まあいい、だが、俺はルールは分かるが実際に打った事はない。ハンデが欲しいものだな」
「いいだろう。ならこちらは白で、しかも一切アゲハマを取らない。そしてコミは逆5目。5目以上奪えなければ喩え勝ってもそっちの勝ちでいい」
「……それはどの程度のハンデになるんだ?」
「空手で言えば先手を相手に譲り、判定に有利な技を一切使わず、しかし1ラウンド目で勝利みたいなもんだ」
「……勝負になるのかそれは?」
「それでお前が負ければ認めるだろう?」
「……いいだろう。やってやる」
「……それではそろそろ車を出します」
ずっと待ってた黒服がドアを閉め、走らせると同時にヒエンと早龍寺は碁石を握った。


・車が止まる。
「着きました。ここから先は私達、数のGEARの持ち主は行けないと思われますので」
「……ぐぬぬ……!!」
「……これで、どうだ……!?」
黒服の言葉を聞いたのはヒエンと早龍寺ではない。観戦していた鴨と雲母だった。対局は既に終わっていた。
初戦はヒエンが8目で勝利を収めたが納得の行かなかった早龍寺のために3本勝負にしたのだが、2本目はヒエンの3目半勝ちになったが、5目を埋められなかったため早龍寺の勝ちとなった。
そして3本目だが、アゲハマを取れないと言うルールを逆手にとって早龍寺がかなり無茶な方法でガンガン地を稼いでいき、ヒエンは事実上手出し出来ない状態となっていた。
「ひ、卑怯な奴だな……!」
「ルールを決めたのはお前の方だ」
「……なら次は19路で……」
「隊長、もう目的地に到着しました」
「じゃあもう一周を……」
「バカ言ってるな。行くぞ、生きて帰ってこられたら今度は19路とやらで相手してやる」
「言ったな? 生きて帰ってこいよコラ」
「隊長、噛ませっぽいです。と言うかフラグっぽいですよふたり揃って」
ともあれ4人が車から降りて正面の曇天領域を見やった。自分達のいる場所はただの曇天、後方は晴天。そして前方は暴風雨の中にあった。そしてその暴風雨の先に学校にも見える建物があった。
「あれが三船研究所か?」
「はい。三船機関も表向きの顔を持っている以上本拠地の情報は隠せない状態にありますので間違いないかと」
「……じゃあ警察でも呼べばよかったんじゃ……」
「いえ、条約によりGEAR同士の戦闘が予想される場合警察は動けない事になっています。なので機関に属する職員のみでどうにかするしかありません」
「……変に律儀と言うか何と言うかだな」
嘆息。それから顔を上げ、
「じゃあ、行くか」
「……一応言っておくが俺の指示には従ってもらうぞ」
「どうせ剛人を倒すのは自分だって言いたいんだろ? 好きにしろよ。けど、どう考えたってこっちが時間稼ぎしてる間にお前が装置とやらを破壊する方が効率的だと思うがな」
「……分かっている」
小さく頷く早龍寺はしかし、視線を落とさず前を向いたままだ。挨拶の黒服達を背に4人が前方の暴風雨の中に向かって進んでいく。背後から黒服達の気配が感じなくなった距離まで歩くと、逆に前方から黒服達の気配を感じ始めた。
「何だってんだ?」
「三船側のスタッフだろう。どれだけ来るかは分からないが、どのみち全てを相手にする必要はないから適当に抜けて行くぞ」
「……いや、一人も相手にする必要はないな。鴨」
「いえっさ」
ヒエンが声を送ると、鴨は立ち止まることなく右手を肩と水平に真横に伸ばす。と、肘から先が本来あるはずの景色の中から消えていた。
「……開通及び連続完了です」
「よし、」
「いや待て、説明しろ。彼女は何をした?」
「鴨のGEARは次元連結だ。今、前方から来る黒服どもはいくら前に進んでもこちらとの距離が永久に縮まることはなくなった。ゼノンの矢とか言ったか? ああいう状態にした」
「……これ程強力なGEARが今まで監視対象にされていなかったというのか……!?」
「そりゃそうだ。だってこの二人は三船の所属だからな」
「……何だと!?」
「本当ですよ。私達は赤羽美咲さん同様三船で改造された人間です」
「まあ、彼女達とは全く別の系統なのでクローンもいなければGEARの後付けもされていません。ただ、無機物との融合をさせられているので本来有機物が担うには有り得ないGEARを持たされているんですよ」
「融合させられた無機物……装置のおかげで私達は三船に狙われることはありません。まあ、あなた方大倉のメンバーには狙われるかもしれませんが私のGEARでいつでもどこでも逃げられるのであまり意味がありません」
「それに私達はとっくの昔に隊長に忠誠を誓っているのであなた方の敵に回るつもりはありませんし、もちろん三船にこぞって鞍替えするつもりもありません。隊長の意志に従って赤羽美咲さんの救出を行うのが今の目的です。その邪魔もしません」
「……ジアフェイ、お前はそれを知っていながら……」
「まあ、GEARがどうのこうのって言うのを知ったのは最近だよ。普通の人間じゃないってのは最初から知っていたがな。まあ、さっきの勝負の続きもそうだが生きて帰れたなら会長に報告するなり好きにするといい。三船で改造されたってだけで別にもう三船ってわけじゃないしな」
「……」
「信用できないか? 条件は揃ってるはずだが」
「……分かってる。いちいち言わんでもいい!」
喉を使った声を風雨の中に飛ばす。
指摘されるまでもなく、ヒエンの言い分が正しい事は分かっている。
早龍寺は一瞬、三船所属だと言ったその二人と共謀して自分や大倉機関に牙を剥くのではないかと疑った。先日ですらない時期に師匠であった岩村が裏切ったのだからその疑いが起きても仕方がない。
しかし実際それは有り得ない。ヒエンの目的は赤羽美咲の救出にあるからだ。それは仮にヒエンが三船所属の裏切り者であった場合、説明がつかない。それに、そこの二人については失念されていたがヒエンに関しては所属から半年の間は監視対象となっている。そして三船の誰かと接触したと言う形跡は今まで発見されていない。だから、ヒエンが敵であると言う理由は立証できず、その疑いはもはや言いがかりか妄想と言ってもいいようなものである。
「……そいつの能力で直接研究所に入ることは出来ないのか?」
「無理です。この能力での移動は自分一人しか出来ません」
「……なら、出来ることを言ってくれ。それほど便利で強力な力があるのにこうしてバカ正直に真っ直ぐ敵陣に乗り込むのは気が進まん」
「分かりました。まず一つ、見えている対象に対して距離を弄る事でさっきのようなゼノンの矢の状態に出来ます。隊長はゼノンループと呼んでいます。また、逆に同じく見えている対象を距離を踏まずに引き寄せたり転移させたりする事も出来ます。隊長はゼノンワープと呼んでます」
「この能力の対象は見えていれば数は関係ありません。逆に見えていなければどんなに近くにいても適用されません」
「……なるほど。その二つはお前自身に対しては使えるのか?」
「いえ、出来ません。ですが今から説明する2つ目の技で賄えます」
「それは?」
「私が能力を使う合図にもしているこの体の一部を別の空間に繋げる技です。これは私以外移動出来ませんがどんなに遠く離れた場所でも一瞬で空間をつなげて移動出来ます。隊長命名はゼノンゲート。主に忘れ物を取りに行く時とか近くにトイレがない時とか便利です。ただし条件として自分が今まで2時間以上居た場所でないと繋げられません。本当はそんな制約ないんですがその制約を無視して使用すると最悪暴走しかねませんので自主的に設けています。なのでこのような未知の場所では逃げる場合を除いて使用出来ません。ただ、目的を成功させて退避をするのにはこの上なく便利だと思います」
「……なるほど。なら退避の方法はそれで行こう。しかし、お前達は三船で改造されたと言ったがだったらここにも転移出来たんじゃないのか?」
「いえ、発動する場合は目立つので。私一人しか移動できませんし攻撃には向いていません。それに再調整のためにと、私達が改造された手術室になら行けますがそれ以外はセキュリティ貼られているので無理です」
「……なるほど。他に出来る事は?」
「制御出来ていないのが1つありますが、それは他に方法がない場合しか使えません。制御出来ている技は今の3つだけです。制御をするには三船で再調整をされなければいけません」
「三船はお前達の謀反を知っているのか?」
「はい。ですが私達が今野放しにされているのは飽くまでも動作実験の余興らしいので。それに三船は今、赤羽美咲さんを主軸としたプロジェクトをメインにしているらしいのでもしかしたら私達は忘れられている可能性すらあります」
「三船の所長はかなり頭の中ぶっ壊れてるので正気や通常度は期待しない方がいいです」
「だとさ」
「……会長の胃痛を予知出来るな」
自らの腹を軽く押さえながら早龍寺が研究所のドアの前に来た。
「ところで鴨とか雲母とか本名なのか?」
「いえ、隊長から賜ったコードネームです」
「本名は別にあります。まあ、三船が付けた名前で生まれた時の名前は記憶を消されていることもあって覚えていませんが」
「……それよりそろそろ突撃だ。こっちが開けよう」
ヒエンがドアを開ける。ノブに触れた手に凄まじい電撃が迸る。電光を見ただけで早龍寺は一歩下がる。しかし、ヒエンは無傷どころか電圧を感じないままドアを開けた。
「危なかったな。お前だったら今ので死んでたんじゃないのか?」
「……早く行くぞ」
「だから、お前が先に行ったら危ないだろうが」
と、肩をぶつけ合わせながらヒエンと早龍寺が先に進み、その後を顔を見合わせ軽く笑ってから鴨と雲母が追いかけた。

------------------------- 第17部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
17話「捨てられた物(ギア)、握られた物(ギア)」

【本文】
GEAR17:捨てられた物(ギア)、握られた物(ギア)


・緑色に輝く廊下を走る足音が4つ響く。
「で、今うちらは何処に向かって走ってるんだ!?」
「知らん! とりあえず奥だ! 奥!!」
「大丈夫です。私が進路の次元を弄って目的地に誘導しています!」
「現在赤羽美咲さんがいると思われる第4実験室に向かっています!」
「おい、また何か聞かされていない情報が追加されたぞ!」
「誰がお前に全てを話すものか! プライベートというものがあるだろう。それとも馬場家にはないのか? 久遠が家の事で嘆いていた気がするぞ!」
「あれはまだ子供だ。我が馬場家は空手の名門。大倉機関に率いられてはいるもののその本質は変わらん。だのに龍雲寺は色恋に感けて妹に実力で負けるわ、久遠は趣味嗜好やら女やらに走るわで全く嘆かわしい」
「前者は爆発、後者はもっとやれだな。と言うか詳しく聞かせて欲しい」
「何か言ったか!?」
「なんでもねーですよーお兄ちゃん」
「隊長、安全とは言え出来れば敵地のど真ん中に潜入中に喧嘩はやめてください」
「でも、私達が護衛するので安心はしてくださいねッ!」
言葉を交えながら走ること数分。4人は1つの部屋の前に到達した。目の前に暗く佇むのは横にスライドする鉄扉でIVと言う文字が赤く刻まれていた。
「目的地はここです。準備はいいですか? セーブポイントですよ?」
「待て、そんなゲームみたいなGEARもあるのか!?」
「演出です」
「……隊長が隊長ならその部下もその部下だな」
嘆息の早龍寺を尻目にヒエンが躊躇なく鉄扉を開けた。現れたのは廊下のそれよりさらに暗い緑の暗闇だった。しかしその暗闇からは風が吹き抜けてきた。目が慣れていないからよく見えないがどうやら拾い部屋のようだ。
「鴨、雲母」
「はい」
「いますよ。正面に」
ふたりの返事を聞くと、俄かに部屋全体を青い光が照らした。そこは体育館のような広さと様相の場所だった。そして正面に立つ二つの人影。
 「……赤羽、そして赤羽剛人……!」
鋭くなった視線の先にいたのは確かにその二人だった。正面から見たら異質なデザインのスコープをしている以外に特に異常はないように見える。だが、少し視線を横にずらすと、その異常がよく分かる。
「……」
「……」
二人の背中から電柱のような大きさと形状の金属の塊が生えていた。やがてその金属の塊はみるみる姿を変えていく。黄金と白銀の玉座のような物体がアーマーのように二人をそれぞれ囲い、その左右に20ミリ重機関砲が3本ずつ腕のように生えてくる。さらに二人の背部の金属は戦闘機のような形状をとり、電柱かアナコンダのような太くて長い金属の尻尾が後尾から伸びる。
「……なんじゃありゃ……」
グロテスクな光景に対してヒエンが呟くと、室内のスピーカーから狂った声が聞こえてきた。
「くrrrrrrrrrrrrrrrrrr!!! ご機嫌麗しゅう、零のGEAR!」
「誰だ……!?」
「そこにいる君以外の存在から聞いていないかね? 私の存在を!」
「……三船の代表とやらか!」
「そう。私が三船機関の代表にしてこの三船研究所の所長、ラールシャッハ・M・黒二狂だ! どうかね!? 私の傑作である殿火と姫火は!?」
「聞いた以上の狂いっぷりだよ! 赤羽を取り戻して何をするのかと思えばこんな金属の化物にしやがるたぁな! 一体こんなことをして何がしてぇんだてめぇは!!」
「ここで私が世界平和のためと言えば君はどうするのかね?」
「狂人に摂理はねぇ! ……こっちからも一応言ってやろう。二人を今すぐ元に戻せ」
「すると思うのかね?」
「だったらこれで挨拶は終わりだな。……鴨、雲母」
「「はい」」
「おい、こうなってもまだ剛人とひとりでやるのか?」
「……お前はどうするつもりだ?」
「赤羽を元に戻す。ついでに剛人の奴もな」
「……出来るんだったら好きにしろ」
「ああ、そうかい。こっちにも挨拶は要らないようだな。だったら……行くぜ!」
ヒエンが地を蹴って異形となった赤羽に走る。
「……」
赤羽は金属音を上げながら後尾のジェットを噴射させて飛翔、旋回して空から左右の重機関砲を斉射する。秒速数千発の弾丸の雨が降り注ぎ、しかしヒエンの体にはまるで通用せず、一瞬で彼の足元に無数の弾丸が溜まっていく。ダメージは一切ないが、ベクトルや重さまで無効化出来るわけではない。押し寄せる弾幕はもはや面となってヒエンに膝を折らせる。が、その足元が輝くと突如として岩塊が次々と出現してヒエンの足場となって彼を飛翔する赤羽へと近付けて行く。
赤羽の視界から鴨の姿が消えていた。彼女は今、地底に赴いて次々と岩塊をヒエンの足元に向けて転移させていた。同時に雲母の体を囲うように変形させた岩塊を送り込む。一瞬でトーチカが完成する。同時に雲母は虚空を右手で掴む。と、彼女の右手にアサルトライフルが出現した。火力のGEAR保有者である雲母はこうして火力を有する物体を自在に作り出す事が出来る。今作り出したアサルトライフルもただのアサルトライフルではない。外見は同じでも弾薬はミサイルだ。トーチカに隠れながら赤羽の、姫火の左翼に銃口を向ける。
「……!」
火薬を感知した赤羽はそちらに視線を向けることなく砲撃を中断して再び室内の天井スレスレを自在に飛び回る。砲座が固定されているトーチカではあれは狙えない。しかし、外に出てしまえば一瞬で蜂の巣か粉々にされてしまうだろう。
「……隊長、すみません」
「いい! 可能な範囲での援護を!」
言葉を投げるヒエンの足元に今度は巨大なバネが出現して一度軽く跳ねてから着地し、バネの力で赤羽向かって跳躍を果たす。
それに対して赤羽は再び重機関砲を斉射。その質量でヒエンの飛来を空中で止めつつ、尻尾で絡め取る。
「何!?」
尻尾はとても頑丈で人間の力ではびくともしない。追尾機能を加えた弾薬にした雲母が発砲し、ミサイルが命中するがやはり尻尾には傷一つついていなかった。
「くrrrrrrrrrrrrr! どんなGEARを持っていても人間の力でPAMTに勝てるわけないだろう!?」
「PAMT!?」
疑問を飛ばすヒエンだがしかし急加速によるGがかかり、声が途切れる。ブラックアウトや酸欠と言った状態にもならないがこのスピードで移動されると物理的に声が途切れてしまう。それに先程から自分を縛る尻尾と体の間からレーダーのような赤い光が見えている。それが何なのか正確には分からないが、先程向こうは自分を零のGEARと言った。大倉会長がその内容を知っていたのなら三船も知っていておかしくない。ここからは想像だが、もしやこの光はMRIのようなもので肉体には一切干渉せずに検査をするものではないだろうか?
「……ぐっ……!」
最悪の可能性を念頭にしながらも、ヒエンは微力に抗う。


・ヒエン達と赤羽が戦っているその横。早龍寺は先程鴨が召喚した岩塊やその残骸を利用して空から砲撃してくる剛人と相対していた。放たれた秒速数千発を早龍寺は戦場を走り抜けて回避している。そして、その走行のまま壁に足をかけるとまるで猫のようにそのまま壁を登り始めた。
「磁音(ジオ)!!」
壁を登り切り、ついには天井までをも走り抜けた早龍寺の手足が火花を発していた。そのまま天井を蹴って剛人の本体と戦闘機部分とを繋ぐ背部に着地。発火しそうなほど熱くなっていた両手で左下の重機関砲を根元から引きちぎる。重さ60キロの重機関砲が石畳の上に落とされ大破すると、今度は長い鉄の尻尾が背後から早龍寺に迫る。鎌首を作り、遠心力を用いて尻尾の先端がしなりながら空中を切り裂いて早龍寺の頭に振り下ろされる。まるで鉄槌のような一撃を、早龍寺は
「せやあああああああああっ!!」
上半身を捻り後ろを向いた状態から、白羽取りの要領で振り下ろされた自分の背丈と同じくらいの大きさの太さ、それを抱きつくように受け止めた。信じられない結果を無視と言う方向で処理しながら剛人が尻尾を戻そうと根元を動かした時だ。それを感覚で見た早龍寺は脇を締め、腰の動きだけで力を反発させて尻尾を引きちぎった。
「!?」
この結果は無視できなかった。剛人は重機関砲を手のようにして頭を掻き毟るように悶え始めた。その内の1本を肉体との接合部分を掴んで手刀の一撃で破砕して切断する。
その光景をモニタリングしていたラールシャッハは無表情でいきなりキーボードを叩き始めた。
馬場早龍寺のGEARは何か。殿火を正面から圧倒するあの力は普通じゃない。身体能力強化系のGEARの可能性が高いか。しかし今までそんな報告はなかった。報告ではリズムのGEARだとあった。相手に合わせて自分の調子(スタイル)を変えていつでも臨機応変に戦えると言うもので場合によっては兄の雷龍寺とも互角に渡り合えるそうだが所詮それは空手の試合での事情だ。UMXと戦うために作られた人造機動兵器であるPAMTと正面からまっとうに渡り合えられるはずはない。ともなれば早龍寺のGEARにはまだ他に秘密があるはずだ。
そのために……。
「!」
命令を受けた赤羽はヒエンを投げ捨て、早龍寺に向かっていく。尻尾全体に付いたGEAR識別レーダーザーで早龍寺を調べる。そして調べた情報は無線によってラールシャッハのメインPCに送られる。それによると現在の早龍寺の身体能力は常人の10倍以上まで強化されていた。
まさかと思ってさらに情報を引き出すと、ラールシャッハは即座に判断を下した。
早龍寺のGEARは確かにリズムではあるがしかし相手が強ければ強いほどにそれに合わせて際限なく能力が上がっていくのではないか。だが、そうなるとそのGEARは強力すぎる。オンリーGEARでもなければ人体の限界を超える事はそうそうない。だとすれば今の早龍寺の状態は暴走に近いのかも知れない。それも肉体の限界をはるかに超えた状態だ。確かにこのまま行けば剛人の殿火を撃破するのは不可能ではないだろう。しかし。
「おいおい、」
着地したヒエンも早龍寺の姿を見て何となくだが事情を察した。
「あのままやればもう長くは持たないぞ……! 今すぐ解いたとしてももう……!」
だからかけるべき言葉を飲み込み、走った。助走を付け、踏み込むとそれに合わせて足場にバネが出現し、ヒエンは高く跳躍する。
「赤羽!!」
滞空して早龍寺を調べる赤羽の背中の結合部分に飛び乗り、右手をかざすと鴨から巨大なトマホークが送られてきて握ると同時に振り下ろして結合部分の付け根に叩きつける。たった1発で刃こぼれを起こし、2発目で亀裂が走り、肝心の結合部分の付け根は傷一つ付いていなかった。しかし、ヒエンが投げ捨てると新しい物が転移されてきて連続して叩きつける。だが、やはり決定打は与えられず、また振り落とされてしまう。
「……このままじゃ隊長が……!!」
状況を見てから鴨がゼノンゲートでまた転移を始める。既にゲートはこの短時間で10回以上使っている。GEARは体に負担をかけないモノの方が圧倒的に多い。しかし彼女のGEARはそうではない。1回や2回なら問題なくとも回数を重ねていけば行くほどに全身が悲鳴をあげている。
「っ!!」
転移先で鴨が膝を折った。自分の足を見れば足首と膝から血が噴き出していた。
「……これじゃ、もう……もう隊長の力になれない……!?」
拳を握り、膝を押して何とか立ち上がる。と、そこで初めて周囲の景色が目に入った。
「え?」
周囲は荒れ果てた大地だった。最初に浮かんだイメージは戦国時代での合戦場。そのイメージを加速させる要因としてこのだだっ広い荒野のあちらこちらに折れた刀や弓、亀裂の走った甲冑などが散らばっていた。どれも使い物にはならないだろうし、この程度なら雲母が賄える。
「……ここ、どこ? 私こんなところ来た事ないのに……」
顔を振る疑問で周囲を塗りたくる。と、正面に何かを発見した。最初はそれが何なのか分からなかった。だが、近付いてみるとそれは複数の石で作られた墓標だった。そしてそこには漆黒の鉄扇が供えられていた。
「……もうゲートで飛べるのは元の場所だけ。だったらここで武器を調達するしかない。……そして使えそうな武器はもうこれしかない。……隊長、私に貴方の運命を開かせてください!」
鴨は鉄扇を手に取るとゲートで戦場へと戻った。
「うううっ!!」
雲母の入っていたトーチカに鴨が戻ってくると、途端に口から激しく赤を吐き散らした。
「鴨!? どれだけ使ったの!?」
「わ、私はいいから……これを隊長に……」
「……分かった!」
鴨を横にならせ、雲母は鉄扇を手に外に飛び出した。
「雲母!?」
着地し、飛翔の赤羽の動きを見ていたヒエンに雲母が走った。
「隊長! これを!!」
「これは……!!」
手渡しされた黒い鉄扇を握り締め、ヒエンは微かに声を漏らす。と、空の赤羽が重機関砲をこちらに向けて起動しているのが見えた。射線には雲母も入っている。鈍重なるターレットが回転を始めた瞬間に、ヒエンは鉄扇を広げまるでマントを翻すような仕草を取る。
「え?」
雲母は一瞬で景色が漆黒とヒエンだけに染まったのを見た。続いて無数の鈍い金属音が響いた。これは恐らく敵の砲撃。そしてそれを何かが防ぐ音だ。数秒か数分か、やがてそれが収まると、景色は戦場に戻った。
「隊長、それ……」
傍らにいたヒエンが手にしていたのは真っ黒なマントだった。ヒエンが手で握ると、それは一瞬で鉄扇の形状に戻った。
「雲母、下がっていろ。そして鴨にも礼を伝えてくれ」
「……はい!」
雲母がトーチカに向かって走っていくのを背後で感じたヒエンは赤羽を見やる。
「……やろうか、ザインの風!!」
声を飛ばす。と、鉄扇が再び姿を変える。扇の形状はそのままにものすごい速度で長くなり、上の赤羽向けて一直線にヒエンの高度が上がっていく。それは赤羽の反応速度を越えていた。
「!」
赤羽がその機能で感知した時には彼女の接合部分にヒエンがいて、鉄扇はまたしても形状を変え斧になっていた。それを握るヒエンの手から黒い光が走り、刃が短く光る。
「てえええええりゃあああああ!!!」
そしてそれを接合部分に全力で振り下ろすと今度は刃こぼれを起こすことなく直撃してたった一度で彼女と戦闘機部分とを繋いでいた部分を両断した。
「……っ!!」
「赤羽!!」
重力の空に解き放たれ、落ちていく赤羽をヒエンは抱きとめ、斧を絨毯に変えてその上に乗る。魔法の絨毯のようにそれは重力に逆らい、ゆっくりと石畳の上に降りていく。着地に成功すると今度は巨大な鋏に形状を変え、赤羽の左右に付いた6本の重機関砲を切断する。
「……本物の腕がない……!?」
6本全てを切断してから彼女の体を見ると、肩口からは何も生えていなかった。重機関砲と共に切断してしまったのかとも思ったが出血がないからそれはないだろう。きっとこのような姿にされてしまった際に既に切断されたか消滅したかのどちらかか。とりあえず彼女を抱え、トーチカへと走る。背後での戦闘が終焉を迎えつつあるのを感じながら。


・手足に感じるものはない。目で見えるものは虚ろな曇天。赤羽剛人と言う自分の名前や存在も薄い闇の中に消えてしまって久しい。ただ、何も感じないわけではない。どういうわけか心のどこかか頭の何かにあった突っかかりが1つ消えた。それが妹の救出が由来だということに気付く術はない。
「……!!」
剛人が何度目かの空襲を仕掛ける。残り2本となった重機関砲を地上の目的めがけて斉射する。
「っ!」
しかしその目的である馬場早龍寺は一発目が発射されたのを目で見てからサイドステップで砲撃を回避。先程まで足場としていた場所が無数の弾丸によって削り凹んだのを尻目で確認してから跳躍。地上10メートルを飛び交う剛人に一瞬で接近して左に残った重機関砲を右の廻し蹴りで粉砕。さらに殴るように迫り来る右の砲身をワンツーで破壊する。これで剛人は全ての武器を失った。
「ぐっ!!」
一度着地した早龍寺が吐血する。ついに内臓が悲鳴を上げ始めたようだ。吐き捨てられた赤を見ると手足に掛かる力が一瞬竦む。しかし、
……あと一撃だけだ。それで終わりだ、耐えろよ俺の体……!!
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
赤く染まった口から叫びを飛ばし、早龍寺は地を蹴った。空中で火花を上げてショートしている剛人向かってミサイルのように飛んでいく早龍寺は途中から右膝を抱えヘリコプターのように回転を始めた。そのまま剛人の頭上を飛び越えて、天井に達すると伸びた左足で天井を蹴って2メートル下の剛人に向かう。
「馬場家秘伝・腰回しぃぃぃぃ!!!」
そして、今までの回転や天井を蹴って生まれた移動エネルギー、そして脚力から作られた右の後ろ回し踵落としが剛人の接合部分に放たれた。
まるで落雷のような激しい音が部屋に響いた。次の瞬間には接合部分は真っ二つになり、機械から解放された剛人と早龍寺が石畳に落ちる姿があった。
「……間に合わないな」
トーチカからヒエンが見る。トーチカから飛び出したのと二人が落下したのは同時だった。それでも二人に駆け寄って様子を見やる。
「一応聞いてやる。何か用はあるか?」
右膝を手でさすりながらヒエンが見下ろすのを早龍寺は虚ろな目で確認した。
「……いや、別に」
「そうか。悪いが見捨てていくぞ。早いとこ装置とやらを破壊して任務を終えないといけないからな」
それだけ言ってヒエンは早龍寺の視界から消えていった。
「……」
「……聞こえるか?」
倒れたままの早龍寺に届く声。それは隣から届く初めて聞く声だった。
「……俺に何か用か?」
「……雷龍寺の弟だな。大きくなったものだ」
「俺を知っているのか?」
「10年前に一度戦っているのを覚えていないか?」
「……覚えてないな」
「そうか。……出来れば決着は草畳の上で着けたかったものだな」
「……そればかりは同意だな」
「……」
「……」
それから声は消えた。そこに残ったのは石畳に倒れる兄二人だけだった。

------------------------- 第18部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
18話「決戦の首領(ギア)、ここから始まる世界(ギア)」

【本文】
GEAR18:決戦の首領(ギア)、ここから始まる世界(ギア)


・ヒエンは一人で研究所を走っていた。鴨による補助がないためか文字通りの行き当たりばったりで進んでいる。
手に持った鉄扇で鉄扉や壁を破壊しながら進んでいき、怪しそうな機械も片っ端から破壊していく。
「こうしていけばその内見つかるだろう」
「んんんん!!! 君は何をしているのかな!?」
やがて大音量スピーカーから狂った声が響いた。常人なら鼓膜が破れそうなそれもヒエンの鼓膜は適正音量で賄う。
「三船所長か。暴れ回られたくなかったら結界装置を破壊させろ!」
「……いいだろう。殿火や姫火さえ敵わなかった君達だ。これ以上の兵器は完成していない。なら抵抗はするだけ無駄と言うものだな。だが、いくつか条件がある」
「言ってみろ!」
「ここにいる私の娘達に関しては何もせずに逃がさせてもらいたい」
「美少女か!?」
「娘を可愛く思わない父親はいないと思うがね?」
「宛にならんな。と言うかその娘達ってのも実験の被験者じゃないのか!?」
「ああ、そうだよ。しかしそれでも私にとっては大事な娘達だ。妻を早くに亡くしたから今はもういない長女以外はクローニングしたがね」
「……」
「既に避難の準備は整っている。しかし君が結界装置を破壊してしまえば和也の奴はすぐに来てしまうだろう。そうなれば娘達は回収されてしまう。君は知っているか知らないが大倉機関も実験をしないだけでGEAR保有者に対しては甘くはない。あの本社ビルの地下にはいくつもの部屋があるのだが、果たしてそこに誰もいないと断言出来るかな?」
「時間稼ぎはいい! とりあえず案内しろ! 話はそれからだ!」
「いいのかな? そう強気に出て。さっきのあの部屋にスタッフを派遣しているのだが」
「……今度は人質かてめぇ!」
「私は本音しか語らんよ? それに既に私は敗北を認めている。なにせ、面白いものを見れたからね」
「……」
「君が持つその鉄扇は現代の……いや、この世界のものではない。そしてそれを自在に操る君も……」
「だったら?」
「面白いじゃないか。世界を保持する構成物質であるGEAR。その中でも特に重要なオンリーGEARの保有者がこの世界の存在ではないとしたら一体この世界は何なのかね?」
「……こっちが例外なのかもしれないぜ?」
「いや、それは否だ。なにせ、私もオンリーGEARでありそして異世界の住人だからな!」
「……何!?」
「君に面白いものを見せてやろう。そして、私にも面白いものを見せてもらおうじゃないか」
驚くヒエンをモニターの向こうにしながらラールシャッハは1枚のカードを取り出した。
「想起(メモライズ)・行使(サブマリン)!」
「!」
声を聞いた直後、景色は変わった。
「何だお前ら遅いぞ。あれから二日もかかっている。出席は大丈夫なのか?」
「誰のせいだ!? 誰のォォ!!!」
「……妙に気張ってるな。何か嫌なことでもあったのか? このお兄さんが聞いてやろう。ほらほざけ。ん? ん?」
「……もうこいつ八つ裂きにされてもいいと思うんだ」
「と言うかもうやっちまおう。答えは聞いてない」
声が聞こえる。聞き覚えのある声達だ。
「お前、どうしてここに……!?」
「空の城もいいがたまには地に足をつけたくなってな」
「甲斐さん、昨夜突然現れてあなたを探していました。なので家に入れてしまっていたのですが何かまずかったでしょうか?」
「いや、何でもないが……」
「それにしても、赤羽美咲か。相変わらずいろんな世界と縁のある奴だな」
また新しい声。1つはやはり聞き覚えがある。と言うかこれは赤羽美咲だ。しかしもう1つは誰か思い出せない。
「兄さん、あなたはまだ世界の終わりにこだわっているのですか……!? どんなに力を手に入れてももはやあの方は帰ってこないんですよ!? どんなに気張ったって一人には限界があるんですよ!?」
「……知っているさ。けど、だからってここで立ち止まって自分を見失ってしまえば余りにも報われない。それに僕は一人じゃない」
「……兄さん」
「……だったら行くぞバカ野郎。妹泣かせやがって」
「俺はそんなお前は否定するからな?」
「……へっ、好きにしろ。……さあ、行くぜやるぜ!!」
聞こえる声達。走馬灯のように流れる景色が終わると、しかしまだ緑色の廊下には戻らない。次に見えた景色は見渡す限りの荒野と空から降り注ぐ無数のカードと言う光景だった。
「黒主火楯、あなたはどうしてこの力を持つ?」
「……これは過ぎた力だ。人の世に下れば間違いなくアカシックレコードに干渉して本来あるべき未来を変えてしまうだろう」
「今この時が本来予定された歴史ではないと?」
「……昔にこんな話を親から聞いたことがある。この星は全宇宙の調停者によって生み出された実験中のフラスコのようなものだと。そしてこの時代もその調停者達の一人によって作り出された偽りの歴史だとな」
「そんな作り話のために私の足を止めようと?」
「作り話か。だったら白夜の奇術師よ、汝が求めたこの悪夢の札達は人知を超えた物だ。古から伝わってきた世界を構成する役割を大きく無視してしまえる程の。それをどう説明する?」
「……」
「汝の望みは分かる。人類に格差があるから争いが起きる。それを止めるには全人類平等に力を与えてしまえばいい。それはもしかしたら間違ったやり方ではないのかもしれない。しかし、一度始まってしまった未来を巻き直すことは我々には出来ないのだよ。喩えこのナイトメアカードを使っても」
「……それでも私は信じてみたいと思いますがね。リンゴに手を伸ばしたアダムの判断を」
…………
……
「っ!!」
ヒエンが一歩を踏んだ。前進したのではなく倒れそうになった己の体を踏みとどめたのだ。
「……今のは……一体、」
左手で額を押さえて消えていく景色達の少しでも多くを脳裏に焼き直していく。必死に自分の中の何かを押さえ込もうとしているヒエンだが、聴覚を刺激するのはやはり狂った声だった。
「くrrrrrrrrrrrrrrrrr!!! これは、これは素晴らしい!! まさか我が世界の発端とも言うべき瞬間に立ち会えるとは!! そして、全宇宙の調停者……やはり実在していたか!!」
「……あんたも今のを見たのか……!? いや、それより今のは……!!」
「君の脳裏深くに眠っていたものだよ! そして私の脳裏に眠っていた情報でもある。君の過去、二人の共有する過去、そして世界の成り立ち! それを検索して垣間見る事が出来たと言う話さ! いや、素晴らしい! まったくもって素晴らしいよ!! 来給え。君に見せたいものがある」
声が届くと、黒服がやってきてヒエンに手を招いた。
「……」
鉄扇を強く握ってから黒服の背中を追いかける。やがて到達した部屋はいかにも実験室と言った様相だった。ビーカーや手術台、さらには見たことのない装置がたくさん立ち並ぶ。その中にその男はいた。
「あんたが?」
「そう。私だよジアフェイ・ヒエンくん。いや、彼らの言葉を借りるなら甲斐廉くんと呼ぼうかな?」
「……!」
「そうなのだろう? 甲斐(ジアフェイ)と廉(リエン)。この内リエンのスペル、rienをフランス語に読み替えればヒエンとなる。妙な名前だが絡繰が理解できれば容易いものだ」
「……こんな意味不明な話をしたいんじゃない。装置はどこだ?」
「もう止めたよ。和也が来るのもそう時間も掛からないだろう。私が欲していた知識はもう得られた。いや、欲していた物以上だったがね。さて、甲斐廉くん。これが何か分かるかね?」
ラールシャッハの背後。そこにはパソコンと繋がった巨大な装置が置かれていた。
「知るわけないだろう」
「これはこの世界の知人が発明した素晴らしいものでね。いくつもの平行世界に渡ることが出来る装置、パラレルゲートと呼ぶそうだ。私は事故でこちらの世界に来てしまったがこれがあれば元の世界に帰れる。いや、それだけでなく、他のいろんな世界、先程君も見た過去や未来の世界にも行くことが出来るのだよ!」
「……正直魅力的だが、それがどうした? 賛同して欲しいとでも?」
「違うね。私が知ることの出来なかった世界の真実を君にその目で確かめてもらいたいのだよ。……隣の装置を見給え。あれはメンテナンスマシンと言って赤羽美咲や赤羽剛人。それから羽シリーズと言うクローン達の調子を整えるためのものだ。あれがないと彼らは長い間活動できない。が、逆にあれがあれば如何な傷を負ってもたちまち修復されるだろう」
「……何を勝手に」
しかし言葉は続かなかった。
「ラールシャッハ!!」
鉄扉を打ち破って部屋に大倉が姿を見せたからだ。
「来たか、和也」
「貴様の横暴はここで止める! 覚悟しろ!!」
「覚悟? そんなものは必要ない。第一オンリーGEAR保有者である私を葬ってもいいものか?」
「貴様のような巨悪に賄われる役割など世界には必要ない!」
「……思えばお前との付き合いも長いものだ。クラスメイトだった頃が懐かしいよ。……ああ、いいよ。おとなしく貴様の手に掛かってやるつもりだったがそれでは面白くない」
ラールシャッハはメガネを置き、白衣を脱ぎ捨てた。
「40年ぶりに相手をしてやろう。それを私の今生最後の思い出にしようじゃないか!」
「……ラールシャッハ……」
「場所を変えよう。ここは私にとって余りにも大事すぎる場所なんでね。竜巻野郎に破壊されたら叶わん」
「……いいだろう」
ラールシャッハに続いて部屋を出る大倉。ヒエンは退室する前に装置を見る。と、突如に直結したPCが起動した。
「え?」
暗い部屋に青い光が差し、やがてそれは直結した装置にも連動する。
「……おいおい、まさか別世界から!? それとも過去からか未来からか……!?」
半歩下がるヒエンの前。装置の門のような部分が開かれてそこから一人の少女が姿を現した。


・4番実験室。先程も戦場になったその場所に大倉とラールシャッハがやってきた。そこでは大倉機関と三船機関の黒服達が睨み合いをしていた。数のGEAR保有者郡同士では戦っても埓があかないためこのような状況になっていた。その傍らに設置されたトーチカから雲母が顔を出している。
「……所長と、あれは確か大倉の……」
二人が来ると、黒服達は一斉に道を開けて作った円陣に二人を迎えた。
「決着をつけてやるぞ、ラールシャッハ!」
「……今更言わなくていいよ。さあ、やろうか」
背広を脱いだ大倉はこちらに向かってくるラールシャッハの姿を見た。人ならざる物に変貌を遂げた彼の左腕が真っ直ぐ伸びてくる。大倉は一瞬だけ表情を曇らせつつその一撃を完全に見切って手首で軽く当てるだけで逸らし、懐に入り込むと右の膝蹴りを打ち込んだ。半歩下がり、怯んだラールシャッハの顎に左のアッパー、さらに相手の退歩に合わせて踏み込んでから右の正拳突きと左の飛び蹴り。
「くっ……! やはり強いな」
「一応まだ現役のつもりだからな」
「ならハンデをもらおうかな」
「!」
尻餅をついたラールシャッハ。その異形の右腕の5本指がまるで蛇のように伸びて蠢き、大倉の両手足と首を締め付ける。身動きを封じるだけの力はないがしかし、締める力は強く大倉の関節と喉からは骨が軋む音が響く。
「ぬううううううう……!!」
「私も弱くなったものだ。10年前ならこのまま一瞬で絞め殺せていただろうに」
「これしき……!!」
言葉を捨てるラールシャッハの前で大倉は両手を動かして両手と首を締める指を引きちぎる。続いて赤く滴る両足を締める指をも引きちぎり、縮地で接近。右の廻し蹴りでラールシャッハの左腕を肘からへし折る。そして右足を下ろさぬままラールシャッハの左足も廻し蹴りでへし折る。
「ぬううっ!!」
「ほう、痛みは残していたか。人間を捨てていたのは心と右腕だけか?」
「和也、どんな天才発明家も寄る年波には勝てないものだ。そしてそれはお前もそうだろう?」
折れた左足に体重をかけないようにしながら半歩下がるラールシャッハ。指のちぎれた右手と折れた左手を構え、辛うじて組手立ちのままだ。しかし息は切れ、左手足を折られたその姿は誰が見てもまともに戦える体でもなければ戦い始めて20秒程度でその状態にした大倉相手に勝てるはずがないと分かる状態だ。
しかし、ラールシャッハは笑っていた。それもマッドサイエンティストのような悪辣な笑みではなく、まるで強者と戦える事を誇りに思っている格闘家の笑みだ。
「……ラールシャッハ、一体何がお前をそこまで変えてしまったんだ!? お前が異世界の人間だと言う事は知っていた! 帰りたがっていた事も分かる! その方法を探すために研究者になった事も知っている! しかしどうしてお前は道を踏み誤ってしまったんだ!?」
「変革。それが私の役割であり願いだからだ。飽くなき好奇心が私を動かしていたのだよ。それに私は一度も自分が道を踏み誤ったとは思っていない。信じた道を突き進む事、それは私もお前も雷牙も同じのはずだ」
「……緒方師匠から継いだ心構えか。まだ覚えていたとはな」
「それに対してお前はどうだ? 口では非人道的な行為をする我らが三船機関を非難しておきながら貴様はあのビルの地下で何を匿っている?」
「……彼女の意思だ!」
「だったら次の一撃で証明してみろ! 私とお前、どっちが正しいのか。拳士であればそれで分かるはずだ!!」
「……ラールシャッハ!!」
拳を握り、大倉は踏み込んだ。1秒にも満たない時間で、しかし何より重たい一歩が放たれ大倉はラールシャッハの懐に入り込み、その勢いのままに右拳を打ち込んだ。拳や手首には確かに肋骨やその奥の内臓をも粉砕した感触が滴っていた。
が、大倉の胸にも鈍い衝撃が走っていた。ラールシャッハの左足だ。折れた足では満足な蹴りは出せない。だが、ラールシャッハはかつて同じように足を怪我した際に編み出していた。足首だけで抉るように蹴り裂く足技(そくぎ)の業を。
「……ぐっ……!!」
「はは、やっと当たった。前は一度も当たらなかったが、やっとだ。あはは……」
乾いた笑いをこぼし、ラールシャッハは後ろに倒れた。その胸や口からは一気に赤が流れ出していく。対して大倉も膝を折り、連続で吐血を始めた。そして幾度目かの吐血の後に自らが作った赤い河の中に倒れた。
「……和也、僕の勝ちだ。……けどこれで三船研究所も終わりかぁ……。結局僕は一度として元の世界には帰れなかった……か……」
そして、ラールシャッハもまた声を枯らし、沈黙の底に沈んでいった。
「会長!!」
「所長!!」
すぐに黒服達が向かっていくが、結果は変わらなかった。
「……おいおい、こんな展開になってるたぁ、誰が想像出来っかよ」
ヒエンが少女を背負ってここへ戻ってきた時には既に二人の、二つの機関の戦いは終わっていた。


・翌日。
大倉機関本社ビル1階にて大倉和也会長とラールシャッハ・M・黒二狂所長の葬儀がしめやかに行われた。その一方で三船研究所に用意されたメンテナンスマシンによって赤羽兄妹と早龍寺の治療も行われた。
三船機関は解散となり、しかしその設備などは大倉機関の預りとなって職員はそのままの状態になった。当然大倉機関が見張り、非人道的な行為は行われないようにして。
また、三船研究所を調査したが既にラールシャッハや赤羽が言っていた赤羽のクローン達は姿を消していてその行方は職員達も分かっていない。
パラレルゲートから出現した少女はまだ意識を取り戻さず大倉機関の病院に保護された。DNAを調べてみたところデータベースに該当する人間はいなかった。ただしその波長に関しては類似したデータが発見された。その少女の所持品はポーチとその中に入っていた読めない字で書かれた学生証のようなものと、数枚のカードのようなものだけだった。
「……これは、」
ヒエンが本社ビルの地下に向かうと、そこには確かに何者かが幽閉されていたような跡が見られた。だが、肝心の何者かの姿はなかった。


・とある裏路地。
「……はあ、はあ、」
火咲が激痛に苛まれた体を押さえながら歩いている。と、正面に見覚えのある少女の姿を発見した。
「あれは、」
「……」
赤羽美咲と同じ顔の少女。そしてあの時赤羽剛人と一緒にいた少女だった。そしてそれは一人ではない。
「Who is she?」
「……彼女を保護しよう」
似たような声と顔の少女が近づいたところで火咲の意識は途絶えてしまった。

------------------------- 第19部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
設定資料集・1

【本文】
<用語>
GEAR:それは、力であり役割でもある。世界の構成物質にして万物に与えられた役割。
平たく言えば超能力のようなものだが任意発動して役割を執行するタイプと、
常に発動されていて役割を背負い続けるタイプの2種類がある。
事実上全人類に与えられているが全体の9割以上が未覚醒。
極稀に複数のGEARを同時に有する存在も確認されている。
世界にとって重要な概念を司るGEARを所有していれば
他のあらゆるGEARをも遥かに凌駕する強大さをつが
それ故にGEAR所有者の数が少なく、同じGEARを持っている存在が全て死んでしまえば
そのGEARが司っていた概念はこの世界から消滅してしまう。
大倉、伏見、三船の3つの組織はGEAR保有者を管理下に置いて概 念の存亡を監視している。

オンリーGEAR:GEARの中でも特別に重要なもので、その役割を担っているのは世界に一人だけとされている。本来その一人は死亡することはないが何らかの条件で死亡してしまった場合その人間が有していた概念はこの世界から消えてしまうとされる。3つの機関からすれば最優先保護対象である。
文字通り責任重大な分、操れる力もかなり強力なものが多い。尤も必ずしも戦闘に有利なものとは限らない。また、役割上オンリーGEARを持った人間はそのGEARそのものだと言っても過言ではない。

大倉機関:大倉和也が代表を務めている組織。表向きには空手道場やホテル、病院などの経営を行なっている。3つの組織の中では比較的ホワイトだがそれでも世界存亡が関わっている事象の管理をしているためか後暗い部分は少なからずあるら しい。GEARに目覚めた者はスカウトし、所属しない旨を伝えたものに関しては一生監視対象としている。が、オンリーGEARに関しては幽閉することもありえるらしい。

三船機関:ラールシャッハ・M・黒二狂が代表を務めている組織。表向きには生物科学研究所。代表であるラールシャッハが研究所の所長も務めているため表向きの顔も力を入れているが、狂人のため警察沙汰どころか軍隊沙汰になるような事も平然と行なっている。なお、ラールシャッハは異世界人だが他の職員はこの世界の住人。また、他の機関が代々受け継がれてきたのに対してここだけはラールシャッハが一代で築き上げたため歴史が短い。

伏見機関:伏見雷牙が代表を務めている組織。表向きには海上 自衛隊であり普段は国防に務めている。
上二つの機関とは別の意味で厳しい組織。今回の件にはノータッチだったが一応監視や調査はしていた模様。

ナイトメアカード:別世界で黒主火楯と言う人物が所持していた魔法のカード。その正体に関しては別作品で。

属性基準:社会属性・思想属性・行動属性の3つに分かれている。
社会属性は秩序・中立・混沌に分かれていて秩序は既に敷かれたルールに従うタイプで、
混沌はそれとは逆に自分でルールを作っていくゴーイングマイウェイなタイプ。
中立はその中間。
思想属性は善・中庸・悪に分かれていて善は自分を裏切らないタイプ、
悪は目的のためならば己をも騙すタイプで中庸はその中間。
行動 属性は風・林・火・山・無に分かれていて、
風は考えるより先に行動するタイプ。
林は行動する前によく考えるタイプ。
火は目の前の障害は自ら対処するタイプ。
山は目の前の障害は周りの人間を使って対処するタイプ。
無はそのいずれにも当てはまらないタイプ。
行動属性は複数が並ぶ事も多い。

<登場人物>

ジアフェイ・ヒエン/甲斐(かい)廉(れん)
年齢:外見年齢15歳。実年齢不明
身長:161センチ
体重:55キロ
所属:大倉機関、円谷高校
GEAR:零
属性:混沌・中庸・山
好きなもの:覚えていないけど多分特撮とかラーメンとか女の子とか。
苦手:花嫁、ボディビルダー、ジョギングマン、露出民族少年
空手階級:無級/白帯。空手のみの実力ならば3、4級程度。その他武術ありならば2段程度。
出展作品:爆走!英雄部!~Sircle of Hero~
本編主人公。しかし群雄チックなため出番がない事も。高校2年生。
半年前に記憶喪失の状態で発見され所持品に書かれた甲斐廉と言う 名前から何故かジアフェイ・ヒエンと呼んでしまいそれ以来自分の名前にしている。本編では甲斐廉が本名だと判明したがまだ記憶は戻っていない。ラールシャッハが言うには過去や未来、別世界にも繋がっている珍しい人間であり事実、三船研究所に関してはどこかで覚えがある。17話で手に入れたザインの風と言う鉄扇も使い方をマスターしていたり覚えがあったりとまだまだ謎が多い。……ないようなものだが。
空手に関しては間違いなく経験者であるのだが記憶の混乱により他の武術とこんがらがっている。
性格は中々フリーダムで格好つけたがり屋。しかし鞠音には誤魔化しだと言われている。
零のGEARのおかげであらゆる外傷やダメージを受けない無敵の状態がデフォル トであり、戦闘ではほぼ無敵の存在である。が、記憶がないためにGEARの力を全て引き出せているわけではないらしく、全く攻撃を無効にするというわけでもない。また、新陳代謝は本来0になるのだが極度の緊張などを帯びた時には冷や汗をかいたり、嘔吐しそうになったりするなどGEARの効力が弱まることがある。また、赤羽によればごくわずかな隙間があり、そこを正確に攻撃すれば通るらしいなど色々抜け目がある。
また、性欲はあるのだが射精が出来ないらしく常に欲求不満でいる。
4話で覚えた手段として一時的に零のGEARを他人や他の物体に譲渡する事が可能であり、例えば氷に対して使えばハンマーで殴ったとしても逆にハンマーの方が壊れたり燃やしても溶けないようになったりする。武器に対して使えば絶対に壊れない上バリアに近い弾力を備えるため攻撃力を増すとされるが当然そうすると本人が無防備になるためあまりおすすめはされない。
ブログでは明かしたが「爆走!英雄部!~Sircle of Hero~」の黒主零とは同一人物。ただしそれ自体にはほとんど含みはなく、どうしてその世界からこの世界に移ったかがポイント。
他の紅蓮の閃光組が原作に近いキャラなのに対して彼だけは上記の通り別作品のキャラのため性格などが違う。

赤羽(あかばね)美咲(みさき)
年齢:14歳
身長:151センチ
体重:44キロ
3サイズ:79・61・77(B)
所属:大倉機関、三船機関、剣峰中学
GEAR:飛翔、狙撃
属性:秩序・中庸・林
好きなもの:稽古、兄、年下の女の子
苦手:セクハラ、最上火咲
空手階級:7級/青帯一本線。
出展作品:紅蓮の閃光(スピードスター)
メインヒロイン。多分。中学2年生。三船での改造手術が原因で感情表現が下手。
過去の記憶があやふやであり、両親の顔はあまり覚えていない。
2年前に大倉機関に回収されたが実はそれ以降も 三船とは繋がっていた。その報告はされていたが受けていたのが同じく三船と繋がりがある岩村だったため黙認されていた。しかし赤羽が岩村がスパイだと知っていたかは不明。
空手の実力は3年目にしてはまあまあというレベル。原作の強さランクで言えば3。
本来のGEARは狙撃で、弱点などを素早く見抜いたりする戦闘以外でも使える便利なGEARだが三船の改造手術により飛翔のGEARも後付けされていた。こちらは文字通り空を飛ぶ能力だが制御出来ていない。
三船の身体改造により超常服(サイスーツ)と呼ばれるワンピース風の服を着ていないと全力を出せない。
彼女の出生には原作にも通じるある秘密があるのだがきっと今作では明かされない。
ただ今までの作品と違っ て伏線は張られているため分かる人は分かる。
メインヒロインでありながら1章ではヒエンと再会することなく終わった。2章以降ではどうなることやら。


馬場(ばば)久遠寺(くおんじ)
年齢:10歳
身長:134センチ
体重:29キロ
所属:大倉機関
GEAR:既視感
属性:中立・善・風
好きなもの:海鮮丼、鶏肉、体育、サンドバッグ、ゲーム、みさき全般
苦手:脳トレ、勉強、龍雲寺以外の兄
空手階級:10級/オレンジ帯。制空圏アリでの実力は2,3級程度。
出展作品:紅蓮の閃光(スピードスター)
馬場4兄妹の末っ子。相変わらず舐めた口を叩く虎徹の天才少女。
赤羽とは姉妹のような関係にあり、空手は彼女に習った。彼女の最初の弟子。
原作よりも信頼関係は強いが原作以上にからかう事も。原作とは違い三船などに関する事は知っている。
赤羽の救出任務に参加した両親がその任務で死亡したため心底では彼女に対して複雑な心情を抱いている。
原作とは比べ物にならないほどカオスな状況下にあるためか相対的に常識人に見える。
ヒエンに対してはまるで死神のように行く場所行く場所で想像が起きるためか死神さんと呼んでいるが原作とは別にヒエンさんと呼ぶこともそれなりにある。
空手では赤羽譲りの基礎があるのだが赤羽の指導能力があまり高くないためか実力は平均以下。
ただし、幼い頃に兄達がやっていた制空圏の特訓を真似続けていた事で兄達以上の強力な制空圏を手に入れている。さらに隙も多いが、破壊力は常人離れしている一撃必殺の技・虎徹絶刀征もある。
GEARは既視感。相手の動きが初見であってもまるで以前から知っていたかのように即座に対処が出来るというもの。空手では制空圏と合わせて原作以上に鉄壁となっている。1章時点ではまだ未登場だが一応適用はされている。全体的に長所は原作以上に尖っているが短所は原作よりも目立っている。

乃木坂(のぎさか)鞠音(まりね)
年齢:14歳
身長:151センチ
体重:40キロ
3サイズ:71・60・69(A)
所属:大倉機関、剣峰中学
GEAR:探求
属性:混沌・善・風
好きなもの:他人の望み、潮音、自分、理不尽
苦手:空手、運動、正論、常識、長倉八千代
空手階級:10級/オレンジ帯。
出展作品:D.C.P.F~ダ・カーポ ファンタズマフォーチュン~
赤羽と同じクラスのやかましいお嬢様口調の女の子。噂の双子の姉の方。ちょっとM?
空手歴は赤羽と同じながら素質の問題なのか実力にはかなりの差がある。
両親が大倉機関の出資者のため機関内でも少し特別な立場にある。名実ともにお嬢様。
誰からも頭がおかしいとよく言われるようにちょっとぶっ飛んだ性格。
美少女センサーには掛かっているヒエンでもちょっと引くくらい。
いろんな意味で箱入りだったため身体能力は中学生どころか小学生よりも低い。ただし頭脳は高い方。
唯一原作の記憶を引き継いでいる。版権上作品名は出せないがそれ以外は結構ポンポン口走ってくる。
原作における「他人の願いを知る願い」はそのままの効果のGEARとなっている。
探求のGEARは他人が求めているものが何なのかが分かる効力がある。本来自分にも対応があるのだが鞠音はその立場からもはや望むものがほとんどないのと原作通り他人の願いに興味があるため満足している。
ヒエンがただ性欲のためだけに美少女を求めているわけではないことを知っている。
久遠と並んで鎹として機能する逸材だが基本やかましいため彼女からは敬遠されている。
双子の妹である潮音に対してはちょっと普通じゃないくらい心配している。過保護の度を越えている。
潮音のためならば本当になんでもやるタイプで必要ならば体も売る覚悟がある。
ヒエンに対してはただの人間ではないことを見抜いている。そして赤羽をからかって遊ぶ事も。
大悟とは以前一度だけ偶然出会った際に彼の願いを知り、そこから原作での内容を知ったため原作の彼の事やその周囲に関しても知っている。ただし潮音にはその事は話していない。

乃木坂(のぎさか)潮音(しおね)
年齢:14歳、
身長:155センチ
体重:46キロ
3サイズ:77・61・77(B)
所属:大倉機関、剣峰中学
GEAR:懸念
属性:秩序・悪・林
好きなもの:読書、運動全般、鞠音、長倉八千代
苦手:長倉大悟、病院
空手階級:6級/黄帯。
出展作品:D.C.P.F~ダ・カーポ ファンタズマフォーチュン~
赤羽と同じクラスの冷静なボクっ娘。噂の双子の妹。ちょっとS?
空手歴は鞠音と同じなのだが彼女と違って才能があったのか赤羽よりも強く成長している。
出生には秘密があり、そのために昔から強力すぎる力に体が耐えられずエイズに近い状態になってしまっている。
現在は大倉機関で集中治療を受けているため時折日常生活が送れるらしい。
暴走しがちでまくし立てるのが好きな姉とは違ってひたすらクール。女子からの人気もそれなりにある。
しかし姉の暴走を止める事は希であるため噂の双子とよく言われる。
鞠音とは普通に仲のいい姉妹だが過保護すぎる事には少し煩わしく思っている。彼女が世界に関する重大な隠し事をしている事には何となく気づいている。
GEARは1つの物事に集中すればするほどそれを成功させるために運命が加担すると言う物。
これは彼女だけではなく彼女の周囲の人物にまで影響を及ぼす物である。
原作通りある人物には一目惚れをしている。

鈴城(すずしろ)紫音(しおん)
年齢:15歳
身長:161センチ
体重:52キロ
3サイズ:84・59・80(D)
所属:大倉機関、北条学園高等部
GEAR:???
属性:混沌・善・火
好きなもの:JS、ロリ、幼女、年下の女の子、夏目黄緑
苦手:自分、月美来音
空手階級:2級/茶帯。
出展作品:世界は奇跡(あのこ)を残さない
大人気アイドルであり大倉機関の女子部の代表でもある。一応まだ処女。媚びは売るが真面目な性格。
空手も勉強もかなり好成績であり、空手に関しては未成年の女子に限ればまともにやりあえるのは潮音くらい。久遠程ではないが質の高い制空圏を使用する。父親は警察官で母親は銀行役員。
両親にはGEARについては話していない。大倉機関についてもただの空手道場と紹介している。
かなり真面目な性格だがロリコンに関しては既に覚醒している。とりあえず自作の一冊800ページを超える分厚い同人小説をコミケで売るくらいには。
黄緑とは家族づきあいがあり、兄さんと呼んでいるがまだ義兄妹にはなっていない。
また、ダハーカと混じり合ってもいないため興奮しても髪の毛は光らない。
GEARはまだ秘密だがかなりクセが有り、しかも任意発動なのもあって基本的に使われる事がない。
しかし、ヒエンの天敵と言ってもいいGEARの1つで、零のGEARが完全であったとしても彼にダメージを与えることが出来る上場合によっては殺害すら出来る。ただしヒエンは基本的に美少女相手に攻撃しないためそもそも戦闘になること自体ほとんどない。
ヒエン達とは違う高校に通っている。

天竺(あまがさ)=リバイス=鈴音(すずね)
年齢:15歳
身長:160センチ
体重:53キロ
3サイズ:82・60・80(D)
所属:大倉機関、剣峰中学
GEAR:意思疎通
属性:中立・中庸・林
好きなもの:動植物、海鮮料理、大悟と馬鹿をする事
苦手:戦闘、自分、海
空手階級:6級/黄帯。
出展作品:D.C.P.F~ダ・カーポ ファンタズマフォーチュン~
ツンデレ幼馴染系。ただし一緒になってバカをやるタイプ。
大倉機関の女子部の副部長。紫音とは付き合いは長く、年齢の上下はあるがお互いタメ口で話をする。
二人揃って異常な程外面はいい。原作ではあまり絡まなかったが鞠音潮音とは名前が似ていることもあって仲がいいが、鞠音には自分の素性を知られている。
空手の実力は赤羽よりやや上程度。ただしあまり熱心にやってはいない。綺龍最破の使い手。
実は世界の根幹に関わるような深い事情を背負っている。
この事実を知っているのは本人、鞠音、大悟、紫音のみ。小夜子、八千代は何となく気付いている。
GEARは意思疎通。以心伝心と違い、一方通行ではない。また、意思疎通が出来るのは動物のみである。
外国語は動物との会話で慣れているのか得意だが勉学面ではあまり成績はよくない。

長倉(おさくら)小夜子(さよこ)
年齢:12歳
身長:140センチ
体重:3,2キロ
3サイズ:66・51・65(B)
所属:大倉機関、剣峰中学
GEAR:浮遊
属性:混沌・悪・風
好きなもの:義兄、ペットのワニ3兄妹、高いところ
苦手:噂の双子、和菓子、従姉妹。
出展作品:D.C.P.F~ダ・カーポ ファンタズマフォーチュン~
長倉大悟の義妹。GEARにより体重が10分の1になってしまい制御出来ない状態。旧姓:柏木。
猫みたいな気まぐれな性格。よく寝る。義兄や義姉との仲はいい。原作では義兄とは一線超えていたが今作では超えていない。しかしいつ超えてもおかしくない状況。とりあえず既にキスはしている。たまに一緒に風呂に入る。年が近い久遠や、幼馴染である鈴音とは仲がいい。
大倉機関の所属だがその体質から空手はやっていない。
5年前に長倉家の両親が旅先で拾った孤児の少女。従姉妹はあのチョーカーが目印の妹代表。
GEARは浮遊。体重が10分の1になり、空気にプカプカ浮く。本来ならば制御出来るはずなのだが小夜子は幼い時から発現していたため常日頃から浮いているこの状況が自然だと脳が思い込んでしまっているため制御が難しいとの事。

馬場(ばば)雷龍寺(らいりゅうじ)
年齢:19歳
身長:185センチ
体重:79キロ
GEAR:優先権
所属:大倉機関
属性:秩序・善・火
空手階級:3段。
出展:紅蓮の閃光(スピードスター)
馬場4兄妹の長男であり未成年最強クラスの空手家。原作より1年若いがより冷静になっている。
ヒエンに対しては原作とは別の方向から興味と警戒を抱いている。妹弟にはそれぞれの個性を尊重していて口出ししない方向。ただし早龍寺の考えすぎるきらいや、龍雲寺の不幸体質、久遠の生意気っぷりには流石に思う所があるらしい。
GEARは優先権であり、望めばあらゆる行動を他の誰よりも優先して行える。このため徒手空拳同士の闘いならば相手の行動よりも自分の攻撃を優先させればほぼ無敵である。もっと言えば任意で行える全ての行動では雷龍寺の先手を取ることは不可能。しかし零のGEARのように常時発動タイプには意味がない。
ただしそれはほぼ例外のようなものであり大抵は雷龍寺の最強クラスの体術を対応より優先されて出されたら大抵の相手は撃破される。


馬場(ばば)早龍寺(そうりゅうじ)
年齢:17歳
身長:177センチ
体重:73キロ
所属:大倉機関
GEAR:調律(リズム)
属性:中立・善・火
空手階級:初段。
出展作品:紅蓮の閃光(スピードスター)
馬場4兄妹の2番目。ヒエンとは違う学校。兄には及ばないが上位の実力者。ヒエンのライバル。
原作では廃人だったが今作では健在。基本的に冷静なのだが悩みすぎるきらいがある。変に情熱家でもある。
ある意味原作における甲斐廉に近い性格。実は紫音に片思いしている。
GEARは相手に合わせて身体能力を調整させるリズムのGEAR。相手次第で際限なく能力を上げてしまう。
雷龍寺相手には相性的に勝てないがトップギアになればあたってしまえば一撃で砕け散るためか警戒している。ただしトップギアは使えば体に凄まじい負担が掛かる。
長兄として人間が出来ている雷龍寺や色々とまだ未熟な下二人と違って責任感が強すぎる事も。
元々出番は多い予定だったがここまで目立つとは思っていなかった。原作から大進歩。


馬場(ばば)龍雲寺(りゅううんじ)
年齢:15歳。
身長:164センチ
体重:54キロ
所属:大倉機関
GEAR:負債
属性:秩序・善・林
空手階級:5級/黄帯一本線。
出展作品:紅蓮の閃光(スピードスター)
馬場4兄妹の3番目。鈴音達と同じ中学。彼女がいる以外は超不運少年。空手の実力は赤羽よりやや上程度。ほとんど原作と変わらずGEARの役割をそのまま当てはめている。原作同様久遠には虎徹絶刀征と制空圏を破れず勝てないが純粋な実力では上。
GEARは負債。とりあえず不幸に見舞われやすい。が、それ故に魔除けとして重宝される。哀れ。

加藤(かとう)研磨(けんま)
年齢:40
身長:183センチ
体重:72キロ
所属:大倉機関
GEAR:数
属性:中立・善・火
空手階級:7段
出展作品:本作。ただし紅蓮の閃光(スピードスター)にも設定自体は存在している。
空手道場の代表。師範。空手の実力は大倉会長よりも上。出番は少なめ。
大倉空手道場の師範。大倉会長は飽くまでもグループの社長である。
本来は数のGEARの保有者であり黒服担当なのだが30年以上磨き上げた空手の腕から代表に上り詰めた。
空手の実力ならば作中キャラで最強。また、そのGEARにより黒服達あるいは他の仲間も同行している事が多いため必然的に彼や他の仲間を同時に相手することを強いられる。
なお妻子持ち。

岩村(いわむら)利伸(としのぶ)
年齢:38
身長:179センチ
体重:70キロ
所属:大倉機関、三船機関
GEAR:不可視
属性:中立・悪・山
空手階級:5段
出展作品:本作。ただし紅蓮の閃光(スピードスター)にも設定自体は存在している。
空手道場の副代表。空手の実力は機関内で第三位。同じく出番は少なめ。スパイ。
長身痩躯なサラリーマン風。加藤とは門下生時代からの仲間。
実は数年前から三船研究所と繋がりを持っていてスパイを担っている。独身。
GEARは不可視で、あらゆる気配などが見えなくなる。
しかし、久遠と戦った場合は相殺されお互い通常になる。それ故に久遠をよく思っていなかった。
馬場兄妹全員の師匠でもある。

大倉(おおくら)和成(かずなり)
年齢:60
身長:177センチ
体重:68キロ
所属:大倉機関
GEAR:竜巻
属性:中立・善・山
空手階級:8段。ただし衰えた現在では4段程度の実力。
出展作品:紅蓮の閃光(スピードスター)
大倉機関所長でありそれを含む大倉グループの会長でもある初老。
旧友であるラールシャッハとの戦いにカウンターで心臓を潰されて意外とあっけなく1章ラストで死亡した。
30年前に空手道場と金融機関を同時に運営しながら父親からGEARの存在を知り、大倉機関を継いだ。
加藤、岩村の師匠でもあるが年齢のせいで最近は上回られている。
三船所長とは幼馴染であり彼の狂気を止められず喧嘩の際に助長してしまった過去がある。そのために何が何でも三船の暴走をこの手で止めたいと願っている。その結果1章ラストで彼と刺し違える。
GEARは竜巻であり、そのまま体に竜巻を纏ったり攻撃に使ったりも出来るが彼を中心にして周囲を動かすと言う性質も持っている。

赤羽(あかばね)剛人(つねひと)
年齢:18歳
身長:183センチ
体重:72キロ
所属:三船機関
GEAR:破砕、飛翔
属性:混沌・善・火
好きなもの:覚えてないけど妹、鶏以外の肉料理
苦手:鶏肉全般、研究所、所長
空手階級:初段。ただし3年前の改造前時点。実力は3段程度。
出展作品:紅蓮の閃光(スピードスター)
赤羽美咲の兄であり三船研究所製作改造人間2号機。クローニングはされていないがほぼ妹と同じ改造手術を受けている。原作において兄妹が担っていた任務に関しては対象がまだ未完成と言う事もあって今回は存在しない。ただ完成していれば原作そのままになる予定だった。
妹と違い、幼少期から空手をやっていた。馬場雷龍寺は永遠のライバル。原作同様1つ年下。
原作ではほとんど出番がなかったがまさか今作でここまで出番があるとは思わなかった。
ちなみに死んではいない。
GEARは破砕が本来のGEARであり飛翔は後付け。妹と違ってどっちも制御しているが再調整を受けるまで併用は不可能だった。破砕は火咲のGEARと同じで触れた物体を破壊するGEAR。火咲と違い、調整により使いこなしているため様々な使い方が出来る。

ラールシャッハ・M(みふね)・黒二狂(クロニクル)/三船(みふね)俊彦(としひこ)
年齢:60歳
身長:175センチ
体重:60キロ
所属:三船機関
GEAR:変革
属性:混沌・善・風
空手階級:3段。現在は2級程度。
出展作品:紅蓮の閃光(スピードスター)。ただし設定のみ。
三船機関の代表であり三船研究所の所長。実験のため右腕が異形となっている。
様々な作品に三船機関は登場しているが代表である本人は初登場である。
異世界人であり、想像はつくだろうが出身世界はパラレルフィスト(正確に言えばその前作であるナイトメアカード)である。もちろん今作だけの設定で原作ではそんなことはなく、名前も普通の日本人っぽい。ただしイギリス人とのハーフと言う設定ではある。
表向き(及び原作)の名前は三船俊彦。とは言え日本人には見えない容姿から違和感抜群である。
オンリーGEARの変革の持ち主であり、世界に変革が必要な時に姿を見せ、世界の色を変える。
転じてそれまでの常識にとらわれない、場合によっては物理法則すら新たに書き換えるような発明を行う効果がある。それと自前の才能と技術によって三船研究所はその筋ではかなり有名であり所属スタッフからも尊敬と誇りを持たれている。
大倉和也、伏見雷牙とは中学時代のクラスメイト。GEAR管理組織の現状トップ3でありその内二人が死んだ事で世界には失われてしまった情報が数多く発生している。
なお、本来オンリーGEARであるはずの変革の持ち主でありながら作中で死亡したのは白衣を脱ぎ捨てた際に既にGEAR自らが彼を見捨て、新たな持ち主に宿ったためである。そのため変革のGEARは世界から失われてはいない。

トゥオゥンダ・ギミー/朝吹(あさぶき)勇人(ゆうと)
年齢:17歳
身長:171センチ
体重:45キロ
所属:円谷高校
GEAR:最適化
属性:秩序・中庸・林
好きなもの:人外、アニメ、ゲーム、漫画、豆腐
苦手:労働、運動、人間の女
出展作品:トゥオゥンダ・カーポ
聡明なのだがひどく面倒臭がり屋のもやし。囲碁部。一般人サイドの主人公?
一応ヒエンから発勁パンチを教わっているため破壊力は滅茶苦茶高い。
実は人外マニア。しかし人間のエロには反応する。
GEARは自分のものである最適化。リコの最善策と同じようなもの。
本名は前世同様、朝吹勇人。ジキルと違い、別に本名は嫌っていないしトゥオゥンダ・ギミーを名乗ってもいない。ただしオンラインゲームなどではこの名前を使っているらしい。

ジキル・クルセイド/火衡恵舞(かこうえん)吹葵(ふぶき)
年齢:16歳。高校2年生。
身長:166センチ
体重:55キロ
所属:円谷高校
GEAR:狙撃
属性:中立・善・林
好きなもの:銃、シューティング、FPS、思考実験、慈、海
苦手:勉強、ロボット物、シューティング以外のゲーム
出展作品:エスカニモーロ
GEARのおかげで直感が強い。囲碁部。悩み多き若者。変わり者すぎる周囲の清涼剤?
1つ上の先輩である鷹乃慈と言う彼女がいる。
GEARは赤羽のものと同じ。しかし不自覚であるためヒエンにダメージを与えるまでには至っていない。
火衡恵舞吹葵と言うのが本名。しかし仰々しいこの名前を気に入っておらず、前世から呼ばれ続けているジキル・クルセイドと言う名前を気に入っている。

”犬”山谷(やまたに)修平(しゅうへい)
年齢:17歳
身長:175センチ
体重:52キロ
所属:円谷高校、メンバーズ
GEAR:犬
属性:混沌・善・風
出展作品:メンバーズの活動日記
メンバーズの一人。毎回イヌに無茶させては報いを受ける。犬のGEARによりイヌと意思疎通が可能。
トゥオゥンダとは同じ中学。同じ理由で大倉機関には出向していない。帰宅部。
GEARは犬。イヌと意思疎通が可能。しかし本人は半分程度しか覚醒していないのか使いこなせていない。
ただし怒りと言う名のご都合主義でたまに本人が身体能力を限界まで引き出し野獣のように暴走する。
この時は自他ともにケルベロスと呼称している。
GEARの事は才能としてやや自覚している。
2つ年下の妹がいて少々やばいレベルで溺愛している。しかしその名前が小夜子がであるため長倉のと被らないようにするため多分登場しない。

”鳥”柚馬(ゆずま)俊介(しゅんすけ)
年齢:17歳
身長:172センチ
体重:60キロ
所属:円谷高校、メンバーズ
GEAR:停滞
属性:混沌・善・風
出展作品:メンバーズの活動日記
とりあえず空を飛ぶことに命を懸ける無体な輩。砂には勝てない。GEARは不自覚。
鳥人間コンテストに毎回出場しては1メートルも飛べずに落ちる常連。
GEARは停滞。それ故に物理的な進歩が非常に遅い。と言うか他人の力なしではそれを自覚することすら出来ない。恐ろしいのは周囲に伝播する事と本人が自覚していない事である。

”結”柴原(しばわら)智樹(ともき)
年齢:17歳
身長:164センチ
体重:55キロ
所属:円谷高校、メンバーズ
GEAR:幸運
属性:中立・中庸・無
出展作品:メンバーズの活動日記
頭の中ユルユルなメガネ男子。お人好しすぎる性格。天然。しかしGEARのおかげで一人舞台多め。
17歳にしてはかなりメルヘンと言うか天然であり、色々心配される。
頼めばおんぶで移動してくれるから通称:タクシー。
GEARは幸運。さりげない小さなものから命に関わるようなもの、天文学的確率まで引き出すGEAR。
龍雲寺が泣いてせびっても届かない位置にいる。

”無良”川口(かわぐち)龍馬(りょうま)
年齢:17歳
身長:169センチ
体重:58キロ
所属:円谷高校、メンバーズ
GEAR:細工
属性:混沌・善・火
出展作品:メンバーズの活動日記
ゲームオタク且つやや不良気味。面倒臭がり屋だがゲームにおいては本気。相性が合う奴は少なめ。
とりあえずゲームをしている。様々な場面でゲームをしている。
GEARは細工。物理的に不可能なものは不可能だが可能であればあらゆる細工を可能とする。

”兜”平山(ひらやま)治虫(おさむ)
年齢:17歳
身長:163センチ
体重:46キロ
所属:円谷高校、メンバーズ
GEAR:自然
属性:秩序・中庸・山
出展作品:メンバーズの活動日記
昆虫博士。結とはほぼ同類。あちらとは違いトラックと呼ばれ、まとめてトラクシーとも。
精神がほぼ自然と一体化していて人間離れしている。しかし戦闘能力はない。
ルーナの子孫。よって微生物を操る事も可能。
自然のGEARは文字通り自然と一体化してそれを操るモノ。ルーナと違ってまだ制御出来ていない。
ヒエンとはお互い何か含むところがあるらしい。また、改造前の鴨とは幼馴染なのだが鴨の外見が変わっている上記憶も薄まっているため、お互いに気付いていない。

”砂”佐藤(さとう) 昇(のぼる)
年齢:17歳
身長:169センチ
体重:68キロ
所属:円谷高校、メンバーズ
GEAR:追従
属性:混沌・善・風
出展作品:メンバーズの活動日記
ストーカー&ストーカー。政府公認のストーカー。色々とどこかで何かをしている。
GEARは追従。このおかげで目標を見逃すことはありえない。

”鎌”小須田(こすだ)誠一郎(せいいちろう)
年齢:17歳
身長:183センチ
体重:80キロ
所属:円谷高校、メンバーズ
GEAR:力
属性:秩序・中庸・風
出展作品:メンバーズの活動日記
巨漢。短気。よくキレる。3つ離れた妹が居る。基本的にいいように使われる力持ち要員。
GEARは力。怪力。本気でのパンチは成人男性を100メートル以上ぶっ飛ばし、空中分解させられるほど。
GEARの事はどこかおかしい何かと思っている。

”鴨”山中(やまなか)鴨子(かもこ)
年齢:17歳
身長:154センチ
体重:45キロ
3サイズ:76・60・77(B)
所属:円谷高校、三船機関、メンバーズ
GEAR:次元連結
属性:中立・中庸・林
出展作品:メンバーズの活動日記
メンバーズで二人しかいない女子の一人。ヒエンの側近的ポジション。実は三船の改造人間の一人。
雲母とセットで異次元連結装置(パラレルゲート)の役割を果たしている。雲母とは違い生身が存在する。
基本的に明るい性格。側近と言うか秘書と言うか。
GEARは次元連結。三船によって上書きされたGEARであり、汎用性と威力がかなり高い分、消耗が激しい。ヒエンから零のGEARを譲渡された状態ならば消耗を無視出来、その際には某冥王とほぼ同じ事ができる。
劇中で早龍寺に説明したゼノンゲート、ゼノンループ、ゼノンワープ以外にも使える技はある。
投稿作品では出番がないが、実際にはイシハライダーの更なる前作である「メンバーズの活動日記」に登場しているためイシハライダー世界や爆走!英雄部!~Sircle of Hero~の世界にも存在自体はする。

”十毛”針生(はりゅう)莚十郎(えんじゅうろう)
年齢:17歳
身長:188センチ
体重:76キロ
所属:円谷高校、メンバーズ
GEAR:支配
属性:混沌・善・火
出展作品:メンバーズの活動日記
メンバーズ。頭がおかしい系男子。よく奇声を上げる。ヒエンに近い存在。長身クレイジー。
論理や物理が通じない頭おかしい系男子。劇中でヒエンや雲母と戦ってはいるが、あそこまでのは一度もなかったにせよ日常でもあんな感じの喧嘩はよく起きている。
GEARは支配。オンリーではないがかなりレアでそれ故に強力。自分が物理的に支配している空間の法則を自由自在に書き換える能力。初登場時である6話に覚醒する。零のGEARには通用しない。
十毛でトゲと読む。

”雲母”刀根山(とねやま)留姫(るき)
年齢:便宜上17歳
身長:140センチ
体重:40キロ
3サイズ:67・54・68(A)
所属:円谷高校、三船機関、メンバーズ
GEAR:火力
属性:混沌・悪・林
出展作品:メンバーズの活動日記
三船の改造人間でサイボーグ。鴨と共にパラレルゲート制御の役割を担っていた。
サイボーグとは思えないほど明るい性格。鴨同様ヒエンの腹心的存在。揃って三船を寝返る。
GEARは火力で、銃火器などの武器を具現化するGEAR。三船によって上書きされたGEARであるため世界にはあまり関係ない。

”龍”菊池(きくち)浩二郎(こうじろう)
年齢:17歳
身長:177センチ
体重:70キロ
所属:円谷高校、メンバーズ
GEAR:懸念
属性:秩序・中庸・風
出展作品:メンバーズの活動日記
腐男子。野球部。他のメンバーズとは違って真面目だと思っているがかなりカオス。同人作家でもある。
少しだけ昔書いたホモギャグ小説の主人公である将ウィーンが入っている。と言うかペンネームが吉田将ウィーン。
GEARは潮音と同じ。ただし滅多に戦闘行為はしないし、不自覚。

”鷲”古畑(ふるはた)仁哉(じんや)
年齢:17歳
身長:180センチ
体重:62キロ
所属:円谷高校、メンバーズ
GEAR:同調
属性:中立・中庸・火
出展作品:メンバーズの活動日記
鳥にライバル心を抱く。と言うか誰にでもライバル心を抱く。陸上部。
GEARは同調で、GEAR以外の相手の特徴や能力に可能な限り近似させる。呼吸を合わせることも可能。
どちらにせよ、ペアがいないと意味がいない。早龍寺のリズムとの違いは合わせる相手が敵ではなく味方である事。早龍寺のように限界を超えられる人物がペアでない限り人体の限界を超えることはない。
ちなみに本人は不自覚。

”蟹”小泉(こいずみ)マダラ
年齢:17歳
身長:174センチ
体重:60キロ
所属:円谷高校、メンバーズ、風魔
GEAR:忍
属性:秩序・悪・火
出展作品:メンバーズの活動日記
忍者。隠密。ただしやってることはストーカーなど。たまに砂と合同任務に出る。
いろんな人物に変装して色々な場所に紛れ込んでいる。実は最後の集合した三船のスタッフの中に紛れていて今回の事件についても把握しているが関わってはいない。ただ、同僚が3人何か面白そうなことをしているから付いていこうとしたらあんな大事件になっていて胃痛マッハ。
GEARは忍。世俗に広まっているあらゆる忍者を体現しそれを世界に流布する。決してふざけただけのGEARではない。

石原(いしはら)狂(きょう)/イシハライダー
年齢:不詳
身長:246センチ
体重:180キロ
所属:円谷高校
GEAR:意味不明
属性:混沌・善・火
出展作品:イシハライダー
全裸のボディビルダー。最近よく登場する。しかし版権の都合もあって多分変身しない。
存在そのものがギャグであるからか本来何千年もの未来であるパラレルメフィストの2章までの記憶を持っている。3章以降の記憶がないのはまだ原作が未執筆のため。
GEARは意味不明。文字通りの効果であり、物理法則にも従わない意味不明な言動をする。
十毛が近いが、意味不明のGEARを持っていないのに同じくらいイカれてる分十毛の方が頭やばい。

石原(いしはら)狂子(きょうこ)
年齢:仮称15歳
身長:141センチ
体重:35キロ
所属:円谷高校
GEAR:意味不明
属性:秩序・中庸・山
出展作品:一撃必殺!
上の仮の姿。イシハライダー三部作最終作「一撃必殺!」での基本形態。一応完璧にロリ美少女の姿になっているのだが正体を知っている人が見れば一発で分かるらしく、大抵それだけでショック死させられる。
まだ未登場の友人が3人いて内二人にはバレていない。そもそもこの姿自体まだ未登場。

片淵(かたぶち)死狼(しろう)/カタブライダー
年齢:不詳
身長:199センチ
体重:105キロ
所属:円谷高校、ICPO
GEAR:意味不明
属性:混沌・善・山
出展作品:イシハライダー
透明ジャージのジョギングマン 。やはり多分変身しない。と言うかコイツの場合原作でも必要ない。
ボディビルダーとは呼ばれないがコイツの体格も十分すぎるほどボディビルダーである。
GEARはデンジャラスライダーズ共通。つまり3人全員同じ事が出来る。そのためやろうと思えば一人で3人分暴れることも可能と言う原作以上の地獄絵図が待っている。
一応デンジャラスライダーズの中で一番知性的。知能指数は166ある。しかしその知性を使ってやばいことをしでかすため結局こいつもやばい奴。

平良(たいら)Amazon(アマゾン)/タイライダー
年齢:17歳
身長:149センチ
体重:43キロ
所属:円谷高校、ブラジル警察
GEAR:意味不明
属性:混沌・善・風
出展作品:イシハライダー
露出民族少年。3人の中で唯一年齢がはっきりしている&名前の元ネタに変身できる。本作では出来ないけど。元ネタ同様かなり痩せている。原作では変身前なら一番冷静で落ち着いているが変身すると一番凶暴になる。反面、攻撃が全て物理な分まだ被害が少ないが今作ではGEARによりやろうと思えばカタブライダーの技を使えるなどカオス。
ちなみに通常時の服装は上半身はネクタイだけ、下半身が股間部だけ生地のない通常の制服ズボン。

斎藤(さいとう)新(あらた)
年齢:16歳
身長:176センチ
体重:72キロ
所属:円谷高校、大倉道場
GEAR:炎
属性:中立・中庸・林
空手階級:3級/緑帯一本線
出展作品:トゥオゥンダ・カーポ
GEARが未覚醒不自覚のため普通に生徒として大倉道場に通っている。ヒエンや早龍寺とは友人同士。
ぶっちゃけ日常パートの人であり出番は少ない。

矢尻(やじり)達真(たつま)
年齢:15歳
身長:164センチ
体重:55キロ
所属:剣峰中学
GEAR:???
属性:混沌・悪・林
好きなもの:陽翼、空手、殺し合いと言うかスリル、努力、携帯食
苦手:最上火咲、リッツ=黒羽=クローチェ、甲斐廉(ジアフェイ・ヒエン)
空手階級:4級/緑帯
出展作品:飛べない百舌の帳(スカート)
1章現在ではイマイチ出番の少ない、と言うかどういうキャラか掴めないキャラ。
火咲を追って転校してきたため権現堂や紅衣は置いてきた。代わりに大悟と仲良くなりそう。
あらかじめネタバレすると今作では爆走!英雄部!~Sircle of Hero~同様死なない。
甲斐との因縁以外はほぼ原作同様の経歴を持っている。とは言え爆走!英雄部!~Sircle of Hero~では甲斐との因縁含めて原作通りのため、それを引き継いだ本作でも因縁がないわけではない。
……現状一度しかヒエンと会ってないけど。多分二人揃って互いの存在忘れてるけど。
GEARは未覚醒。ちなみに原作で言う5話までは既に終了済みである。ただしまだリッツは関わっていない。


最上(もがみ)火咲(ひさき)
年齢:15歳
身長:136センチ
体重:37キロ
3サイズ:86・42・67(K)
所属:剣峰中学
GEAR:破砕
属性:混沌・善・火
好きなもの:破砕、虐殺、自分に抵抗する存在、リッツ
苦手:自分を愛する存在、赤羽美咲
出展作品:爆走!英雄部!~Sircle of Hero~
達真以上に出番が多い、ある意味1章2章でのメインヒロイン。作者の記憶違いのせいで赤羽より1つ年上になった。まさかの剛人とのタッグだったが実は原作とも同じ関係がある。当然面識もある。
達真同様、過去に関しては原作と同じ。握力が2,3キロしかないのも同じ。しかしGEARのおかげで手を使った技も使用出来るようになっている。
GEARは破砕。剛人と同じで、触れた物体を破壊出来る。実際このGEARに対して、零のGEAR以外で相手をすれば一撃でも貰った時点でアウトとなる強力なGEAR。ただし剛人程使いこなせていないため、ふとした事で発動してしまい日常生活に支障が出ることがたまにある。
もしかしなくともきっと今作中、まだ未登場のキャラが腐るほどいるがそれでもトップ1の巨乳であるだろう。

黒羽(くろはね)律(りつ)/リッツ=黒羽(くろはね)=クローチェ
年齢:便宜上12歳
身長:156センチ
体重:48キロ
3サイズ:71・60・70(A)
所属:三船機関、剣峰中学(2章より)
GEAR:???
属性:秩序・中庸・林
好きなもの:まだない。
苦手:最上火咲、最上火咲、最上火咲、最上火咲、矢尻達真、シフル=クローチェ
出展作品:飛べない百舌の帳(スカート)。ただし紅蓮の閃光(スピードスター)にも設定自体は存在している。
赤羽クローンの一人。原作同様、赤羽との面識はない。しかし剛人とは面識がある。
GEARはまだ不明。
1章ラストで妖怪と遭遇する。きっとその判断が一生彼女を苦しめる事になるだろう。主に性的に。

長倉(おさくら)大悟(だいご)
年齢:15歳
身長:168センチ
体重:55キロ
所属:剣峰中学
GEAR:???
属性:秩序・中庸・林
好きなもの:姉と妹、友達、和菓子
苦手:海、ワニ
出店作品:D.C.P.F~ダ・カーポ ファンタズマフォーチュン~
まだほとんど出番はないがしかし実はかなりの重要キャラ。
名前はここでは出せないが鞠音達が登場する原作における主人公。
まだ未登場だが大倉機関所属の姉がいる。しかし他の同郷キャラが所属している大倉機関については実態は知らない。義妹の特異体質を調べている医療機関程度の情報しかない。
しかし、姉や義妹が所属しているために生活費などはその大倉機関から出してもらっている事は知らない。
両親は考古学者であり、よく海外の遺跡に向かうため、彼以外で家には姉&義妹&姉がトチ狂って購入したワニ3匹しかいない。
GEARは不明。しかし本人は自覚している上、発動している。しかもかなり特殊。
また、自覚はないが脳内には原作での記憶が残っているためそこから鞠音は原作という存在と現状を知った。
義妹にはもちろん実の姉にも性的好意を抱いているため、某非公式新聞部の23区野郎には上下対応シスコン野郎と呼ばれている。本作でも鞠音が発信源で有名になっている。


<各キャラそれぞれの状況>
ヒエン:謎の少女を救出。束の間の平和へ。
赤羽:兄と共に三船研究所で治療中。
久遠:大倉機関の病院に通院中。
鞠音:潮音の付き添い。
潮音:大倉機関の病院に入院中。
紫音、天音、小夜子:待機中。
雷龍寺:入院中。
早龍寺:三船研究所で治療中。
龍雲寺:実家待機。
加藤、岩村:入院中。岩村はスキャンも。
大倉:死亡。
鴨、雲母:三船研究所で治療中。
それ以外のメンバーズ:日常の中。
デンジャラスライダーズ:日常の中。
剛人:妹と共に治療中。
ラールシャッハ:死亡。
達真:火咲を捜索しながらも日常の中。
火咲:傷だらけの状態でクローチェの二人に保護される。
リッツ&シフル:研究所から避難しつつ、火咲を保護。
謎の少女:大倉機関で保護され検査中。まだ意識を取り戻していない。
大悟:日常の中。

------------------------- 第20部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
忙しい人向けのX-GEARあらすじ1章

【本文】
1:主人公はジアフェイ・ヒエン。本名は甲斐(かい)廉(れん)だけど記憶喪失のためフランス語読みと中国語読みが混ざってこんな名前で覚えてしまっている。
2:空から赤羽美咲が降ってくる。赤羽は飛翔のGEARと言うのを持ってて空を飛べるがまだ制御できていないため訓練中に降ってきてしまった。ヒエンと激突するけどヒエンは零のGEARって言う能力があり、対外干渉を一切受けないので無傷でセーフ。
3:足をくじいた赤羽を一人暮らしのアパートまで運ぶ。どういう訳か感情と表情が死にかけてる赤羽を不思議に思うヒエン。
4:赤羽を回収するために大倉機関を名乗る黒服達が来た。ヒエンは抵抗するも数が多すぎてどうしようもない。見かねた赤羽が自ら投降することに。また、赤羽はもう1つGEARを持っててそれは零のGEARの僅かな隙間を狙える狙撃のGEARだからヒエンにわずかながらダメージを与えられ気絶させた。
5:翌日から赤羽捜索を行うヒエンは人間を触れただけで粉々に出来る破砕のGEARの持ち主である爆乳少女の最上火咲と出会う。ついでに火咲のクラスメイトでストーカーやってる矢尻達真とも遭遇する。
6:黒服達に捕らえられたヒエンは大倉会長に直談判して大倉機関入りを果たす。そこで赤羽とも再会するし、機関の仲間達とも出会う。
7:学校での遠足中にヒエンの仲間<メンバーズ>の一人である十毛が支配のGEARに目覚めて暴走。他の仲間を襲うもヒエンにボコボコにされる。おかげで暫く登場しません。
8:赤羽の中学に転向してきた火咲と達真。大倉機関関係者の中学生組もほとんど同じ中学に通ってる。
9:大倉機関の表の顔である空手道場に通い始めたヒエン。そこで噂の双子や久遠などと出会う。双子の妹・潮音と久遠のガチ勝負が起きるもお互い命に別状はなし。険悪な関係も生まれずに済んだ。
10:赤羽と出会って数週間。2年前に赤羽が監禁されて色々肉体改造などを受けていたりクローンの製造をされていたりした三船機関から赤羽の兄である剛人が妹を連れ戻しにやってきた。妹と違って完全に飛翔のGEARを制御していたがヒエンの前に敗れる。
11:火咲が剛人と接触。三船機関からの任務で本格的に赤羽の奪還を行うことに。
12:赤羽が暮らしている駅前のホテル。そこを襲撃した火咲と剛人。赤羽は可愛がってる久遠と共に投降しようとするがそこに大倉機関のトップエースである馬場雷龍寺がやってきて剛人と対決。さらに火咲も達真によって止められては高層階の窓から投げ捨てられる。
雷龍寺との戦いを相打ちに近い形で制した剛人はギリギリの状態で赤羽の奪還に成功し、共に三船機関へと去っていく。
13:三船のスパイとして活動していた岩村が大倉の病院から興味深いとされている噂の双子の遺伝子を採取して三船へと戻ろうとしていたが同期であり大倉の相方でもあった加藤に見つかって夜通しバトル。お互い動けなくなるまで戦ったことで岩村の三船入りを阻止できたが双子の遺伝子は何者かに回収されていた。
14:赤羽の救出に向かうヒエンと、雷龍寺の弟である早龍寺。メンバーズから鴨と雲母も随伴して三船機関へと襲撃。
三船所長ラールシャッハによって兵器として改造されていた赤羽兄妹と対決。追いつめられるが鴨が次元連結によって謎の空間から偶発的に持ち込んだ鉄扇「ザインの風」によりヒエンは赤羽を撃破して救出。早龍寺の方も捨て身の切り札で剛人を撃破するも互いにダウン。
15:ついにラールシャッハと対面したヒエン。そこで零のGEARが100年置きに記憶をリセットするだけで不老不死の存在であることを聞かされる。さらにはラールシャッハは異世界から来た事も判明。しかし抵抗する気はないらしくヒエンに自分の研究材料として使っていた娘(クローン)達を任せる。そこでついに乗り込んできた大倉所長と学生時代以来の対決。互いの拳が相手の心臓を潰したことで大倉、三船両機関の所長は共に息絶えた。
16:目的も達したことで帰ろうとしたヒエンだが突然ラールシャッハが所有していた機械が起動してそこから謎の少女が出現するのを見た。