X-GEAR8章「my monochrome maybe」

【第8章】
8章「my monochrome maybe」

【サブタイトル】
121話「暗躍のセントラル」

【本文】
GEAR121:暗躍のセントラル

・丘の上。風行(かざゆき)剣人(けんと)はとある人物を求めてそこへやってきた。腰には亡き父譲りの刀。懐には僅かに残った数枚のカード。普段ならば着いて来ている仲間達も今はいない。普段ならまずありえないこの不用心さだがしかし現状ではこれも仕方がなかった。
「……ヴァルピュイア!!」
叫ぶ。声と視線の先、断崖絶壁の上、自身とは同じ水平線に立っているのは緑色のシルエット。鳥女神と言う異名の通りに背中からは翼のようなジェットエンジンを背負っている。全身を緑色の装甲に覆ったやや小柄なその姿。ヴァルピュイアが剣人を振り向いた。
「……来たか、風行剣人」
「ここらで一番近くにいたのがお前自身を恨め!!」
言うや否や剣人は刀を鞘から抜きながら全力疾走、彼我の距離を一気に縮める。止まると言う事を想定していない全力の加速、そしてその勢いを利用した袈裟斬り。
金属音が鳴る。しかしそれは期待していないが予想は出来ていたもの……剣人の一撃をヴァルピュイアは腰から抜いた双剣で受け止めていた音だ。それだけではない。
「っ!!」
剣人は思わず体重を前に落とした。自分の腕力と体重と速度を全て込めた剣が受け止められたのはほんの一瞬。次の瞬間には受け流されていた。バランスを崩した剣人は、しかし敢えてそのままに体重を任せて前方に転んで見せた。直後に先程まで剣人の首と心臓があった場所を二振りの剣が切り裂いていた。
「……ほう、」
小さく息を漏らしたヴァルピュイアはバックステップ。着地と同時に起き上がった剣人を正面から見据える。まだ未成熟の、しかし子供と呼べるような齢ではないだろう。恐らくはまだ15,6歳程度の年齢。どれほど剣の鍛錬を積んだのかは分からないが、
「はあっ!!」
剣人は踏み出した。今度は受け流されないようにと横薙ぎの一撃。それを半歩下がるだけでヴァルピュイアは回避して同時に攻撃を放つ。右の細長い刃で刺突を、左の野太刀は首に向けた横薙ぎを繰り出す2段構え。
「くっ!」
剣人は最初の刺突を防ぎ、放たれた2発目をしゃがんで回避。続けて下から切り上げる形での攻撃を繰り出す。逆袈裟だ。放つのは敵の左側……防ぐとすれば長さ1メートル程度の左の野太刀になるだろう。となれば攻めに回せるのは右の細長い刃のみ。その長さは70センチほどで彼我の距離に満たない。依って次の攻撃を繰り出すには半歩を踏み込んでからか、防いだ野太刀を構えなおしてからになる。……ワンテンポ必要と言うことだ。懐に手を伸ばすだけの時間はある。
「……」
現実は剣人の予想通り。ヴァルピュイアは左の野太刀で受け止めた。が、同時に踏み込みもした。
「!」
剣人の攻撃を受け止めれば自然と足は止まるだろう。だのにヴァルピュイアは前に進んだ。尋常でなき脚力があったからではない。受けた左手を軸に独楽のように半身を回転に近い形で前進させたのだ。
そう剣人が理解したと同時にヴァルピュイアの刃が迫る。
「っおおおおお!!」
ヴァルピュイアの防御を誘って全身を封じたのと同じように剣人もまたその重心は前に向いていた。だから後退に厳しい。
「くうううううっ!!!」
だから剣人は少し無理をした。足を地面から離した。再び転がるような形で剣人は難を逃れた。……前髪が数本切り裂かれたが。
地に背中を打ちながらも素早く体を転がすことでヴァルピュイアから距離をとる。さもなければこんな無防備、一瞬でお陀仏にされてしまう。10メートルほどの距離をとって立ち上がる。ヴァルピュイアは追撃をしていなかった。
「……どうして私を狙う?」
「しらばっくれるなよテンペスターズ!!お前達がナイトメアカードを、そしてこの世界を支配しているのは分かっているんだ!それに第一お前達は俺の父さんを殺した!お前を襲う理由にはなるはずだ!」
走り出す。加速する。再びの横薙ぎ。今度は防御の剣も打ち砕くつもりで。そして激突は果たされる。
「……何!?」
それは今度もやはり野太刀で受け止められた。が、完全な防御ではない。こちらが繰り出す攻撃……それが完了しきる前の腕の伸び斬る寸前の状態で受け止められた。攻撃潰しだ。そしてそれだけでは終わらず再びその激突点を支点にして回転。
「はっ!」
流れるような右の剣閃は剣人の反応を超えてその心臓に放たれた。
「ぐっ!!」
「……ん、」
胸のあたりから血を流しながら剣人は後ずさる。
しかし違和感はあった。手ごたえもあり、流血も確認できている。しかし剣人の心臓を斬り破ったにしては浅すぎる。かと言って防御や回避が出来たタイミングでないのはヴァルピュイアが一番分かっている。ならこの結果は何故か?その結果はすぐに目に見える形となった。
「剣人!!」
剣人の血だらけの懐から光と声が響く。すると数秒後に剣人の傍らに獣が出現した。翼の生えた獅子……グリフォンに近いか。だが、もっと表現するにふさわしい呼称をヴァルピュイアは知っていた。
この世に3枚しか存在しない召喚系ナイトメアカードの内の1枚。黄金の空牙・煌(キマイラ)。10年以上も行方が分かっていないカードとして有名だ。まさかそれをこの少年が持っているとは。しかし同時に合点がいった。心臓向けて放たれた一撃は偶然にもキマイラのカードによって受け止められたのだ。汎用系ではない、この世に数が限られているカードは破壊が出来ない。だから剣閃が心臓に達するまでの骨肉だけしか斬り裂けなかったのだろう。
「き、キマイラ……」
「いったん退くぞ!!」
「だ、だけど……」
「いいから!!」
キマイラは強引に剣人を自らの背に乗せるとそのまま4枚ある黄金の翼で飛翔していった。
「……」
追撃は容易だ。そして長年見つからなかったキマイラのカードを見たと言うのであればその回収は優先順位が高い事だろう。しかしヴァルピュイアはそうしなかった。幸い自分は無傷だ。互いにカードも使っていない。周囲には他人の気配もない。なら自分は何も見ていないし誰とも剣を交えていない。報告しなければいいだけの話だ。存在しないものなど優先のしようもないだろうし。
「……」
あの少年の命を助けたかったわけではない。あの少年の言葉を信じるわけでもない。しかし、その言い分にわずかながら賛同の意を示しているのは事実だ。ここ最近の我々の組織・テンペスターズはどう見てもおかしい。在り方も動き方も。元来はこの地上に降り注いだナイトメアカードの回収と守護を優先して人類が無闇矢鱈にその力を手にしないよう、そして手にしてしまい犯罪者となったものを裁くために我々は存在していたはずだ。だが、
「……遅かったな」
本部に戻り、真っ先に出くわしたのがこの男。キングスト・グランガルドガイツ。テンペスターズの6番目であり、そして現在の司令官。
「そんなに楽しいものなのか?空中散歩は。こんな滅亡した星の地上を眺めて何が楽しいのか俺にはさっぱりだな」
「……何か理由があったわけではない」
「相変わらずそっけない奴だな」
「……それで私に何の用か?貴様がこんなところにいるのは偶然ではないのだろう?」
「ああ。そうさ。テンペスターズ全員に集まってもらってる」
「……何かあったのか?」
「まあな」
キングは来いと指で合図をしてにやりと笑いながら廊下を歩く。その見せられた背中を何度切り裂いてやろうと思ったことか。この男が司令官になってからテンペスターズもセントラルも街への干渉が出来なくなっている。確かに既にこの星はスライト・デスによって滅ぼされている。もはや希望など欠片ほども残っていない。たとえスライト・デスが手を引いて宇宙の彼方に帰ったとしてももはやこの星に文明はなく、文明のない集団は滅亡を待つだけだ。スライト・デスが何かの気まぐれに手を引き、宇宙に帰っていったら唯一と言っていい文明が残されたこのセントラルが地上を統べてもいいだろうし自分含めて多くの幹部はそのつもりでいる。スライト・デスが地上を支配している事は既に承知している。何せ自分が生まれた時には既にこの状況だった。そしてセントラルが動けずにいる理由もわかっている。スライト・デスの目的はただの殺戮と侵略。しかしその方法を選び、少しでも人類が長く生きていけるようにするために敢えて地球を守るための組織であるセントラルは彼らに降伏して自ら人類たちの支配を行うことにした。
だが、3年前。突然にキングは命令を下したのだ。セントラルは地上の、ほかの地域への支援や支配を直接的にも間接的にも一切出してはいけないことになってしまった。
当然ヴァルピュイアに関わらず反論を述べたものは少なくはなかった。しかしキングは一切それを赦そうとはしなかった。力ずくでどうにか決断を覆そうとしたこともあったがしかしキングは人間ではありえない力を手にしていた。ナイトメアカードではない。カードも使わず、指一本すら使わずにこちらの全ての攻撃を打ち破り、無効にしては完全支配を企み実行する謎の力だ。
10年近く前にナイトメアカードではない人工的に作られたパラレルカードと言うものが誕生した。その中には自然に干渉して一時的に世界の理を蔑ろにして相手を支配してしまうカードが非人工的に作られたといううわさを聞いたことがあるがしかしそれでもナイトメアカードを圧倒的に上回る支配力を持つわけではないはずだ。第一パラレルでもナイトメアでもカードを使うのには魔力が必要だがしかしキングからそれを感じることはなかった。ヴァルピュイアだけでない、多くの同志はキングがスライト・デスの、宇宙人の力を使っているのではないかという考えに至った。実際にキングの年齢は既に50歳近いはずだがその姿は30代程度に見える。キングは地球につかの間の平和を与えるためだけではなく自身に異常な力を与えるために身も心も宇宙人に売り渡してしまったのではないかと考えたのだ。
そして一週間ほど前。暫くの間姿を消していたテンペスターズの同志であるパラディンが帰ってきた。元々胡散臭く、正直キング以上に信用できない男だった。だから今更帰ってきたのには理由があるのだろうと推測。恐らくはスパイとしてやってきた可能性が高い。しかしどの組織からのスパイだろうか。今更この地球上でスパイを出す意味のある集団が存在するものなのだろうか?パラディンがナイトメアカードをこの地上で最初に見つけてそれを全人類に流布したというのは公然とはされていないがテンペスターズは全員知っていることだ。本人にナイトメアカードを作り出す能力が存在するとは思えないが、しかしその誕生の情報を知っているのはほぼ確実だろう。だとすればもしかするとパラディンはそのナイトメアカードを作り出した可能性のある未知の存在の使者として再び我々のもとに姿を見せたのかもしれない。その意図はつかめてはいないがもしかしたらこのスライト・デスに支配された地球をどんな手段かは分からないが救おうと、或いは少しでも変えて見せようとそういう気質でやって来たのかもしれない。期待とまではいかないが少なくともヴァルピュイアはそのような予感をこの男の再来の際に感じていた。
だが、その感傷は瞬く間に打ち砕かれた。パラディンが我々の前に姿を見せたその瞬間にキングはその謎の力を以てパラディンを無力化した。それだけではない、その意識をさらには記憶までも奪いテンペスターズの中でも異質でしかし強力な彼を意のままに操ることに成功させてしまったのだ。そしてキングはしばらくの間パラディンから奪った記憶情報を集めるために部屋にこもっていたのだがそれが解かれた今日招集がかかったと言う訳だ。
「……これで全員揃ったわけだな」
会議室。この荒廃した時代からしてみればもはや異質のものとなった裁判所のような風景。しかし裁判にかけられるべき存在はなく、そこにいたのはキング含めて10人。
双緑の風剣ヴァルピュイア、苛烈なる魔嬢・偽艶(ぎえん)、怪力無双グラーザン、イカれたサンダーボルトスター・ソゾボルト、孤高の槍将ゼスト・グランガルドガイツ、赤き冷徹なる炎レッドバーン、蒼き爆熱なる氷ブルーバーン、豪腕なる猛将ミネルヴァ・M・ヘルマン、銀色の暴風パラディン、そして凶(まが)つなる支配者キング。
「それでキングよ、我々を呼び寄せた理由は何じゃ?」
「下らねえ用事なんて作ってくれるなよ?俺様は新曲を作るのに忙しいんだ」
偽艶は扇子を軽く揺らし、ソゾボルトはエレキギターを一度鳴らす。
「なに、そんなに下らない話ではない。少しこの男の情報を探っていて面白い情報が見つかったものでな」
キングはパラディンを指さす。パラディンは意識を消されているためか無表情のまま微動だにしない。そのパラディンの背後で映像が出現する。この地上からはとっくの昔に消滅したパソコンと映画を組み合わせたようなものだ。他の地上人からしてみれば意味すら理解できない光景だがしかしテンペスターズの10人からすればそこまで珍しいものではない。この場で最も不器用で機械音痴なソゾボルトにすらその原理や使い方などは完全に理解されている程度には。そしてそのモニターにはいくつもの映像や文字が表示されていた。
最初に表示されていたのは夜空から無数のカードが雨のように降り注いでいる光景だった。それは今から200年近くも前には当たり前のように見えていた光景だ。つまりパラディンが最初にナイトメアカードを地上にばらまいたあの日のことだ。ヴァルピュイアたちはそれを情報として知っていたがしかしこうして直接目で見るのは初めてだ。わずかに驚愕の表情やつぶやきが放たれる。
第三次世界大戦よりも前にナイトメアカードがばらまかれていた。しかしそれは本来ありえない話だ。第三次世界大戦は旧世紀文明の技術の結晶、その最終地点である最後の殺し合いだ。ナイトメアカード、つまり魔術の類はまだこの時代には関していないはず。仮に秘密裏に、我々すらも知りえないような形で使われていたのだとしてもそれこそ矛盾は生じる。何故ならばナイトメアカードがどんな形であれ戦争に関係してしまっていれば地球上の国家で生き残れるところなど性殺女神が眠るとされるあの泉湯の王国くらいしか思い当たることはない。だが実際に生き残った国家はそれ以上あったのだから。
「見ての通りナイトメアカードは200年近く前にこの地上にばらまかれていたのだ。しかしそこで諸君たちは矛盾を覚えるだろう。第三次世界大戦で滅んだ国家はわずか20程度。ナイトメアカードが兵器として使われていたのだとしたら被害が少なすぎる。私もナイトメアカードがいつの時代にこの地上にばらまかれたのかは気になっていた。100年前に集結した第三次世界大戦。だからそれ以前はあり得ぬだろう。しかしそれからはスライト・デスの襲来と支配があった。その力があればスライト・デスに従属する未来を選ぶ必要はなかったのかもしれない。だったらいつナイトメアカードはこの地上に姿を見せたのか?それが200年前だ。ではどうして第三次世界大戦でナイトメアカードは使われなかったのか。その理由をこいつは知っていたのだ」
キングが指を鳴らすと映像は切り替わる。それは4枚のDNA構造図だ。これもまた外界の者どもに見せても何なのか理解するのは不可能だろう。テンペスターズに至っても詳細を知るものは少なく、わずかな時間でこれがDNAだと気付いたものはヴァルピュイアとゼストだけだ。
「これは現在地上に存在する人間から集めた遺伝子情報図だ。詳しくないものが見ても相違点は見つけられないだろうが実は現在人間は4種類に分けられていることが判明した。人類の半数近くを占めるA型……研究の末ナイトメアカードが使用できるものは我々含み全てこのA型に分類される。逆を言えば他3種にはナイトメアカードを用いることが不可能なのだ」
「……つまり第三次世界大戦当時にはそのタイプの遺伝子を持つものが存在していなかったあるいは少なかったと?」
「そうだ。今を生きる人間の半数以上がこのA型を占めているが、実際にはこのA型以外のタイプの人間が第三次世界大戦ではほとんど根絶やしにされてしまったということだな。……だが問題はそこではない。他の3種だ。B型遺伝子はA型遺伝子と極めて似た遺伝子を持つがしかしその体質を持つ存在からは魔力を検知されていない」
「……存在?」
「そうだ。このB型遺伝子は天死と我々が呼ぶ存在の物だ」
その言葉に衝撃を覚えたのはヴァルピュイアだけではない。それまでの話をぼんやりとしか理解していなかったソゾボルトやミネルヴァですら驚愕を覚えた。
「馬鹿な……貴様は正気か?」
「その疑念を最初に持ったのは私の方だ。つまりこれが正しいとなれば我々魔力を持ったA型遺伝子を持つ人間と天死は極めて近い遺伝子情報を持っていることになる。天死は宇宙から来た存在だと我々は信じてきたがそれに従うのだとすれば我々もまた宇宙人に近い存在だということになり、そして逆説を信じるとなれば天死は元来地球の生命である可能性が高くなってしまう。……一度この話を置いとくとして3番目、C型遺伝子の情報を説明するとしよう。このC型遺伝子情報もまた地球上の生命体の遺伝子情報だ」
「まさかスライト・デスの物だと言うつもりではないだろうな?」
「まさか。そんな馬鹿なことがあるわけないだろう。このC型遺伝子は100年以上前の人間のものだ。つまり第三次世界大戦以前の人間の遺伝子だ。当然先程説明した通りナイトメアカードが使えるものはA型遺伝子に限られるためこの遺伝子を持つものは恐らくナイトメアカードが使えず魔力を持つこともない。その遺伝子情報はやはりA型に似ている」
「……まさか、」
「そう。我々A型遺伝子はB型とC型の交配によって誕生した可能性が高い。A型遺伝子を持つものがこの世界の大半を示し、そしてC型遺伝子を持つ者の多くが100年以上前の物であることから我々A型遺伝子を持つものはこの100年の間に大量に発生したものだと考えるのが妥当だろう」
「……では4つ目の遺伝子は何だ?まさか魔力を持った天死の遺伝子でも手に入れたのか?それともスライト・デス関係者か?」
「違う。これは客人の物だ。D型と言っていいのかは分からないがC型とも違う、我々の知りうるタイプのものではない」
「客人?」
「そうだ。私と同じ、スライト・デスに対抗するための幹部として選ばれたもの、その関係者らしい。これそのものには特に変哲はない遺伝子だ。だが問題なのは複数いる客人のうちいくつかは全く同じ遺伝子情報を持っているのだ。本来遺伝子と言うのはどれだけ酷似していようとも全く同じ遺伝子情報を持ち合わせる複数の人間と言うのはあり得ない話だ。それをあの客人達は持っていた。どういう細工がしてあるのかは知らないが私はこれよりその客人達の研究に入る。あ奴の許可も取ってあることだしな。だが、それをおとなしくじっくりと行うにはふさわしくない事態になりつつある」
キングはさらに映像を変えた。それはつい先ほど行われていた巨大怪獣となったゴーストの大暴れとそれを迎撃するフォノメデスの姿だった。
「片方はスライト・デス最高幹部のゴーストだろう。どうしてあのような姿になっているかは知らないが通常でもテンペスターズ10人係で挑もうがまず勝ち目がない奴だ。きっとあの奴はそれ以上の強さを持っていたはずだがそれを打ち破ってここを目指している者共がいる。お前達にはその者どもの迎撃を頼みたい」
「……お前がそこまで言うような連中に我々が勝てるのか?まさかと思うが生贄にするつもりではないだろうな?」
「まさかだな。スライト・デスは最高幹部を失ったことでこの星に対して間違いなく興味を持ち、そして今後本腰を入れて支配を開始するだろう。そうなってしまえば我々セントラルの目論見としては何としてでもその支配に抵抗して人類に緩やかな滅亡をくれてやらなければならない。それを行いたいというのにお前達をわざと失わせる意味が私にあるとでも?」
「……了解した」
動いたのはヴァルピュイアだった。
「ほう、空中散歩から帰ってきたばかりのお前が早くも迎撃に参加するのか?」
「任務は早く終わらせた方がいい。人類を生きながらえさせるためだというのならなおさらだ」
「……まさかとは思うが裏切るつもりではないだろうな?」
「そのような余裕が人類に残されているとでも?」
それだけ言うとヴァルピュイアは背中のブースターを起動させて窓から会議室を去った。
「……あいつをひとりでいかせてしまってもいいのかい?」
筋骨隆々な女丈夫のミネルヴァが飄々と話しかける。
「お前には何か策でもあるというのか?」
「いんや?だが、あたしの情報だとあの化け物を倒した連中はデスバニア高原寄りにいる。可能性は低いかもしれないがあの森にいる奴と遭遇することを考えるとあの緑の嬢ちゃんだけじゃ厳しいんじゃないかい?」
ミネルヴァはウィンクした片目でパラディンを小さく見た。無表情のまま微動だにしないが、しかしパラディンは無傷ではない。マントの下に隠された左腕は肘のあたりで切断されては再生用カードで少しずつ回復されている状態だ。その背中にも大きな傷跡がある。
「……だとしたらお前が行ってフォローでもするのか?」
「様子見くらいならしてもいいけどさすがのあたしもそいつにそれほどのダメージを追わせられるような奴やあの化け物を倒せるようなやつを相手にするつもりはないさ」
「……ふん、だったら黙っていればいいだろうに。それとも父親からの差し金か?」
「さあね。ま、出撃命令がないって言うのならあたしは部屋で筋トレでもさせてもらおうかな」
「好きにしろ」
その言葉を以てその場にいた9人は自然と会議を終えて退室を始めた。

------------------------- 第134部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
122話「風は集う」

【本文】
GEAR122:風は集う

・セントラル世界製飛空艇。先の戦いでの損傷を回復し、各PAMTの充電も完了した。
果名はその報告を蛍、校長と共に受けながら改めて状況の確認を行う。今から向かうのはこの荒廃した世界を支配している人類最後の希望と言ってもいい組織・セントラルだ。本来セントラルはこの荒れ果てた地上を再生して時代を復活させることが目的のはずだがしかしそれが出来ない。理由としては宇宙からの脅威であるスライト・デスの力が強大すぎるためだ。宣戦布告からたった50年ほどでこの地上、人類のほぼすべての文明は駆逐されてもはや服を着て人語を解すだけのサルがのさばっているようなひどい時代となっている。スライト・デスの主力は怪人だ。どういう理屈やメカニズムで生成されているのかは分からないがその力は通常の人間ではまず太刀打ちできない。
人類側に与えられた亜GEARと言う力を以てしても、当然ながら与えた張本人たち相手では時間稼ぎが限界だ。その怪人相手にも十二分に通用し、実際にこの2週間ほどで数百体以上もの怪人を倒してきたアカハライダーの二人やフラワルドなる謎の存在から力を与えられたことで変身できるようになったスカーレッド達……命の戦士、心愛戦隊エターナルFの5人。この7人が主な戦力としてやっとスライト・デスに対抗できる程度だ。スライト・デスが用意した幹部の内、学園都市を支配していたフォルテや最高幹部のゴーストを撃破することには成功したがまだまだ戦力には夥しいまでの差があるはずだ。何よりも仮に残された幹部をすべて倒し、スライト・デスの支配者であるキル首領を倒せたとしても既に地球上の文明は死んでいて、この状況を何とかしない限りは人類は100年と待たずに滅亡してしまう。
この状況を打破するための策略はすでに何度も話し合わされていた。それがスライト・デスの戦力を知っているがゆえに逆らうことなく、しかし緩やかな人類の死を目論んでいるセントラルと言う組織だ。現状唯一と言っていい人間らしい文明を持ったまま存在を存続させている組織である。果名達はフォルテやゴーストをも倒したその実力を担保にセントラルに協力を求めようとしている。最高幹部であり実力はキル首領に次ぐとされているゴーストにさえ勝利した自分達がいれば他の幹部も問題なく各個撃破できる可能性は高いだろう。だからセントラルにはスライト・デスを裏切り、再び人類側の希望として活動を再開してもらいたいという交渉に出るのが目的だ。聞けばセントラル側にもスライト・デスの幹部になり、人類が少しでも長生きするために緩やかな滅亡を制御している幹部がいるらしい。その彼に協力を仰げるというのであればさらに人類側の希望は増す。
「でも、気になるのがパラディンと言う男よね」
十毛に首輪で繋がれながらパラドクスのカオスナイトアルケミーは進言した。
「同僚のカオスナイトフリージア……あなた達の言う夏目群青から聞いた話だけれどもそのパラディンと言う男はナイトメアカードの司界者。私達パラドクスほどではないにせよ、普通の人間が叶う相手じゃないわ。スライト・デスにだってゴースト相手では厳しいかもしれないけどそれ以外の相手だったらそこの7人よりかは強いはずだから負けないはず。セントラルと目的が一緒で敢えてスライト・デスについて人類の滅亡を緩めたいというのならまだ話は分かっても本気であんた達を襲おうとなんてしないはずよ。況してや夏目群青と本気でやり合うなんてことも」
「……あの時の奴は普通の姿ではなかった。洗脳に近い処理をされていることは間違いない」
「それも妙ね。第5階級の司界者を人間が洗脳だなんて出来るはずがないわ。けど実際にそれが出来ているということはセントラルにはそれを可能とする未知の何かが存在するということ。洗脳された司界者だけでなくセントラル側には人間以外の何かが待ち構えていると見た方がいいかもしれないわね」
「……アルケミーって言ったな。あんたならパラディンを止められるのか?」
「手足のないこの姿じゃ無理。さっきゴーストとやり合ったように一時的にでも本来の力を取り戻せたなら問題ないと思うわ。ただ問題なのがその司界者を食い止めた夏目群青の行方よ。夏目群青ことカオスナイトフリージアは私よりも格上の存在。パラドクスにしてはかなりの変わり種で地球の代行者であるザ・プラネットとも協力関係にある存在で、本来パラドクスからしたら数段下の存在であるダハーカの要素を取り込んでいるから本来の実力からは大幅に弱体化されているらしいけれどもそれでも司界者程度では止められない強さはあるはずよ。でもだとしたら現在この星にいる数少ないパラドクス同士として私に何らかの情報提供はされてもおかしくないはず。だのにまだ一切コンタクトを取ろうとはしてこない。……パラドクスと言えばゴーストも妙なことを言っていたわね。本来31体しかいないはずのパラドクスが32体いるって」
「そのパラドクスに関して俺達はまだ詳しく知らないんだがな」
「別に知らなくていい話よ。決してあんたたち人間の味方ではないんだから。ただ今回の件に限って言えば敵ではないと言っていいかもしれないわね。まず私は見ての通りこの男に逆らえない、非常に気に食わない状態になっている。手足がないしエネルギーも半分も出せない状態だけれどもそれでもスライト・デスの怪人を1000体以上殲滅する事くらい容易いわ。そしてその私よりかも格上のカオスナイトフリージアはかなりのもの好きで人類ではなく、地球の味方であることは確実よ。だから人間を助けようとはしないけれども地球をこんな状態にしているスライト・デスを赦すはずもないでしょうからこちらから何か仕掛けようとしない限りは向かってくることはないはずよ。……まあ32体目とやらが気になるけれども戦力だけで言えば決して向こうにも負けていないはずよ」
「……つまり、アレは何かの間違いかそれ以上の何かがあるってことだな」
果名が窓の外を見る。
「……」
空を飛ぶ飛空艇。その正面に一つの姿。背中のジェットエンジンで空を飛び、両手に構えた双剣が幽かに光る。
「……聞こえているか、愚者たちよ」
ヴァルピュイアは口を開いた。どういう訳か本来なら届くはずのないその声ははっきりと果名達にまで届いていた。
「私は地球治安統制組織セントラルの地上統制部隊テンペスターズが第一の刃ヴァルピュイア」
「……こちらは並行世界治安組織セントラルの対UMX攻撃部隊チームPAMTの指揮官である白百合蛍です」
わざわざ張り合ったのは無意味ではない。相手と同じ名前の所属を言い、張り合うことでこちらへの興味を持たせるためだ。相手がこちらのことを知っているかどうかも分かるかもしれない。
「……蛮族風情が我々と同じセントラルを名乗るか」
「私達の目的はあなた方、この世界のセントラルとの対話です。こちらに戦いの意はありません。どうか通していただけないでしょうか?」
「度し難い力を持った蛮族たちをここから先に通すことなど出来るはずがない」
そう言ってヴァルピュイアは懐から1枚のカードを取り出した。それを見た火咲と歩乃歌は警戒を叫ぶ。
「蛍!!回避を!!」「お姉さま!!正面に立たないで!!」「!!」
「もう遅い!龍嵐(ストーム)・サブマリン!!」
しかしヴァルピュイアの行使の方が先だった。カードから放たれた巨大な竜巻は一本ではなく、決して小さいものでもない。一本一本の直径はこちらの飛空艇よりもなお広く、そしてそれが6本並んでこちらを吹き飛ばす。
「ぐっ!!何だ……!?」
驚く果名は室内で何度も受け身をとらされる。当然それが出来ないものもいて室内はいきなりパニック状態になる。
「風なら……!」
湊が窓を開けてそこから飛び降りる。
「ん、」
一瞬でグリューネに変身してはヴァルピュイアに向かって飛んでいく。
「緑色で風使い……どこまでか見させてもらおう」
「……ふん、」
亜音速で迫り来るグリューネ。小さな竜巻を含んだ拳の連打をヴァルピュイアは急加速で回避。加速に生じた背中のジェット圧がグリューネの風力計算を狂わせて軌道を暴れさせた。
「くっ、」
「見知らぬ力、そんなものをつけてまで貴様達は……」
双剣を握ったヴァルピュイアはジェット圧を操作して逃避の飛行からグリューネに向かって急加速、突撃の飛行へと移行する。
「!」
「唸れ剣!!」
グリューネの物の数倍以上の風圧の竜巻を纏った双剣が振るわれる。
「ぐっ……!!」
急加速で逃げの一手。しかし放たれた一撃はどこまでも自分を追ってくる。否、どれだけ距離をとって回避しようとしても何故かそれが全くできずに自身が敵の攻撃に引き寄せられていく。
「ぐっ!!」
威力に備えてグリューネが十字を組んだ時だ。
「うおおおおおおおお!!」
そこへシュバルツが飛来してグリューネをかばう形でヴァルピュイアの双剣を受け止めた。
「ライ!!」
「があああああああああああああ!!」
しかし目の前でシュバルツの重装甲はまるで紙のように容易く切断、破壊されてライの姿に戻ったのも一瞬。次の瞬間にはもう既に竜巻のせいでどこか遠くにまで吹き飛ばされてしまっていた。グリューネは急いで追いかけようとするがしかし前方で双剣を構える緑色の影がそれをさせてはくれなかった。
「ぐうううううううううううう!!」
風圧と剣圧が混ざった斬撃がグリューネに無防備のまま受け止めることを強いる。ミサイルのようにグリューネの体が地面に叩きつけられては湊の姿に戻り、そのまま動かなくなった。
「……なんて奴だ」
未だにバウンドを繰り返す室内の中で果名は見た。5人セットだったとは言えあのゴーストを2度も倒したシュバルツとグリューネがまるで歯が立たずに倒されてしまった。いくら不利な空中戦だったとはいえ勝負ともまともに言えないような圧倒的な実力差で。
「借りるよ!」
「え?あ!!」
受け身をとったその一瞬、歩乃歌によって黒竜牙が引き抜かれそのまま彼女は窓から飛び降りてしまった。
「歩乃歌!」
しかも火咲も一緒になって飛び降りた。
「……おいおい、マジかよ」
未だに複数の竜巻が猛威を振るう空中。しかしそれをものともせずに歩乃歌と火咲が空中を疾走してヴァルピュイアに向かう。風圧によって聞こえるものはいないが歩乃歌は歌を歌っていた。
……僕でも黒竜牙を扱うには最大限注意を払わないといけない。久々にGEARを最大出力で行かせてもらうよ!
「せぇぇぇのッ!!!」
「!」
ヴァルピュイア向けて黒竜牙を引き抜き、黒い竜巻と共に攻撃を開始した。ヴァルピュイアは竜巻の1つを使ってその黒い竜巻を相殺させながら歩乃歌の斬撃を左の剣で受け止める。カードの力によって鋼すら砕くだけの風圧がまとわれている剣だがそれでもまだ黒竜牙の方が剣圧は上なのかヴァルピュイアの方が押されている。
「火咲!!」
「分かってる!!」
しかも、竜巻を打ち破って火咲が急接近。ヴァルピュイアの顔面向けて高速の後ろ廻し蹴り。
「白虎一蹴!!」
「くっ!!」
しかしヴァルピュイアはそれを受けることはなく、背中の加速で歩乃歌ごと振り払って回避。空中で二人はぶつかりそうになるが歩乃歌が火咲の廻し蹴りを受け止め、ジャイアントスイングでヴァルピュイアに向かって火咲を投げ飛ばす。
「青龍紫電!!」
「!!」
黒い竜巻を纏いながらマッハ20で迫り来る火咲。
「……くっ!!」
ヴァルピュイアは迷わず双剣を迫り来る火咲に対して振るう。衝撃は一瞬。夫婦手のように重なり合うように放たれた双剣の斬撃を火咲は右手の拳でまとめて粉砕した。それを視認しながらヴァルピュイアは火咲の腹に蹴りを入れて助走をつけて飛翔。
「双剣(カンビャク)・サブマリン!」
砕けた双剣を新しく生成して再び戦場を見る。正面の火咲は腹を抑えながらも落下することなく空中で体勢を立て直している。だが、歩乃歌の姿が見えない。
「こっちだ!!」
「!」
それは真上の上空から。光の速さで歩乃歌が迫り来ては黒竜牙を全体重と腕力とそれらとは比べ物にならない剣圧で振り下ろす。
「歩乃歌あたたたたたたたっく!!!!」
「ぐっ!!!」
それを双剣で受け止められたその反応はヴァルピュイア本人も奇跡としか言いようのない偶然の防御だった。しかしそれがなければヴァルピュイアの体は真っ二つになっていただろう。そうでなくとも衝撃から本人を守った双剣は再び粉々になり、握っていた両腕も骨にひびが入っていた。
「ひええ~、今の受け止められる!?普通さあ!!」
「あんたが余裕ぶっこいて技名叫ぶからでしょうが!」
空中で言い合いになる二人。それを黙って聞きながら呼吸を整えるヴァルピュイア。
どうして空を飛べるのか、片側はどうして双剣を殴打で打ち砕けるのか、もう片方はどうしてこちらのように黒い竜巻を打てるのか……。疑問が絶えない。しかしやることに変わりはない。この負傷では先程のような剣術は不可能だろう。だったら手段を変える。ヴァルピュイアは発生させている竜巻に意識を移す。現在でもなお飛空艇をお手玉にしている竜巻だ。それを操り、飛空艇そのものをまるでハンマーのように振り回すことで二人への攻撃を再開する。
「マジ!?」
一瞬早く気付いた歩乃歌が驚きながらも、しかし冷静に行動を開始する。中の人がひとり残らずミンチになりそうな程の圧力だろうが今は無視だ。止められるものではないし、蛍なら何とかしてくれるだろう。だから歩乃歌は逆方向に、ヴァルピュイアの方に向かった。
「!」
「この距離なら関係ないよね!」
言いながらタックル。爆発こそしないがミサイルのような攻撃。ヴァルピュイアの決して小柄ではない体がピンポン玉のように吹っ飛ぶ。
「くっ!!」
吹き飛ばされながら、しかし無抵抗ではない。ヴァルピュイアの意識した竜巻は飛空艇を乗せたまま遥か彼方まで吹き飛ばす。
「げっ!!」
生じた一瞬の隙。そこへヴァルピュイアは迫った。一瞬で双剣を再錬成して歩乃歌へと振るう。その一瞬後に歩乃歌は反応して黒竜牙で双剣の攻撃を防ぐ。しかし、双剣は左右から黒竜牙の上下を挟み込むようにして放たれていた。梃子の原理だ。
「あ!!」
「二刀流ならこういうこともできる」
瞬く間に黒竜牙は歩乃歌の手から弾き飛ばされてしまう。同時、身をガードする歩乃歌の両腕の上からヴァルピュイアのキックが炸裂する。
「ぐっ!!」
「歩乃歌!」
苦悶の表情を浮かべて落下する歩乃歌を先回りして火咲がキャッチする。それと同じ速度、モーションでヴァルピュイアは双剣を二人に向かって振り下ろす。
「!」
「まず一人だ」
冷徹なる一閃。うなる金属音。しかし衝撃は襲ってこなかった。
「……貴様」
火咲が振り向くとそこにはヴァルピュイアの振り下ろされた双剣を一振りの剣で受け止める少年の姿があった。キマイラに乗った剣人だった。
「テンペスターズ!!第二ラウンドだ!!」
剣人は受け止めた双剣を払い飛ばして懐から1枚のカードを出す。
「神速(クイック)・サブマリン!」
発動を宣言する。同時、剣人が次に放った剣の一撃は時間よりも早く動いた。当然それを抵抗どころか認識すらできるヴァルピュイアではなく、
「ぐっ!!」
胸の鎧に一閃打ち込まれた。緑色の胴当てが砕けて赤いものが飛散する。しかし量からしてそこまで深い傷ではない。しかも、ヴァルピュイアは既にこちらへの攻撃姿勢に入っていた。
「剣人!クイックは連発できないぞ!」
「お前がばらすのかよ!!」
「重畳!」
「くっ!」
叫ぶ。振り下ろされた双剣を受け止める。キマイラはやや顔を伏せながら飛翔して距離をとる……口から火炎弾を吐く。
「……」
ヴァルピュイアは双剣に魔力を走らせた。風の魔力だ。走った魔力が空気中のバランスを崩して旋風を巻き起こす。それは決してキマイラの放った火炎弾を霧散に出来るほどではなかったがしかし、大きく軌道をずらすことは出来た。そして、そのずらされた火炎弾の陰に隠れながらヴァルピュイアは剣人たちの頭上を奪う。
「!」
「死ね」
振り下ろされた双剣。受け止める剣人。その剣の内側を抜くようにヴァルピュイアの鋭い蹴りが剣人の鎖骨を砕く。
「ぐっ!」
「これで今まで通りには剣をふるえまい」
再びの剣閃。目では追えている。筋肉も反応している。しかしやはり鎖骨を折られては元通りに腕が動かない。防御が遅れる。だが、因果は帰ってきた。
「お返し!!」
パンチラを恐れようともしない歩乃歌のダイナミックな飛び蹴りが横からヴァルピュイアに命中。甲冑も貫くようなダメージがヴァルピュイアを襲い、攻撃が止まる。
「……くっ!」
わき腹をかばいながらヴァルピュイアは100メートルほど距離をとる。100メートル先で歩乃歌と剣人、火咲が構えているのが見える。しかも剣人は回復用のカードを懐から出している。鎖骨の骨折を直そうというのだろう。そうなれば3対1、明らかな不利が待ち受けている。
「……仕方ない」
ヴァルピュイアは彼我の間に竜巻を発生させ、同時に背中のブースターを加速させた。
「……逃げたか」
竜巻の向こうで歩乃歌は判断する。竜巻が消える頃には敵影は跡形もなく、さてこれからどうしようかと考えるばかりだった。

------------------------- 第135部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
123話「聖騎士(ハンター)達」

【本文】

GEAR123:聖騎士(ハンター)達

・果名は今もしかしたら人生で一番の不満の中にいるかもしれなかった。5分ほど揺れ動かされまくった飛空艇の中にいて上手く受け身を取り続けたからか打撲や擦り傷以上のダメージはない。十路川での生活で船を使うことも少なくはなかったから揺れに関しても不快感以上の何かを生み出されてはいない。ではなぜここまで不満を爆発させているかと言うと室内の惨状だ。
「……臭い」
待機用の会議室。そこが阿鼻叫喚となっていたからだ。40人近いメンバーのほとんどがそこにいて、しかしそのメンツの大半と言うか9割以上が顔面蒼白で腹の中の物を上下と言わずにまき散らしているのだ。おまけに無傷なものなど自分くらいのもので大半が打撲や下手をすれば骨折までしている。それも無理はない。この世界の住人は自分含めて人生の9割以上を己の足で地面に立って暮らしているのだ。だのにいきなり空を走る船に乗せられ、しかも5分もの間絶え間なく縦横無尽に転がされまくったのだ。一番マシな状態である果名だって一連の流れが終わったのに気付いたのは終わってから数秒が経ってからだ。そこまで頭がバランスを崩している。
「……悪いな」
「いや、別にいいって」
自分以外でほぼ唯一無事だった爛に肩を貸してもらいながら立ち上がる。
「……しかし」
すぐ隣。来音が紫音と共に意識を失っているのだがどちらも口から見たくもないものを吐き流しながらしかし、来音が紫音にマッスルスパークを叩き込むような形となっている。この5分で戦争でもしたのだろうか?その光景が見えるような少し離れた位置で黄緑が白目をむきながら気絶しているのもまた怖い。
「……さて、着地ないし轟沈はしているはずだがどうなってる?」
窓の外。見えるのは木々の繁みだけ。偶然にも底面部分がちゃんと地面についてはいるようだった。これだけ大変な衝撃があったにもかかわらず窓が一切割れていないところから、恐らく飛空艇そのものにも致命的なダメージはないと想定。
「……借名、平気か?」
「はい、果名様」
ルネの触手を払いのけながら借名が姿を見せた。何故か上着を着ておらず、シャツ姿だったが理由はあえて察さないでおこう。乙女の事情だ。その肩には切名が担がれていた。気絶はしていないようだが決して無傷ではなさそうだ。
「誰か死んだ奴はいるか?」
「恐らくいないかと。しかし現状まともに動けるのは私達だけのようです」
「……あの色々いかれた奴らも動けないのか」
果名の視線は部屋の片隅で互いに首を絞めながら気絶している十毛とアルケミーを見た。色々末期である。
「とりあえずブリッジに向かう」
4人が会議室を出て廊下を歩く。ただ普通に歩いているだけだが未だ脳がそれを曲解してくる。
「どうしてお前は平気なんだ?」
「俺魔王だし。状態異常とか効かねえんだ」
「……何の話だか分からん」
言いながらブリッジに到着して扉を開ける。と、
「……無事だったのね」
蛍がいた。しかしやはり普通の姿ではなかった。まず校長を逆エビ固めにしている。よく見れば蛍の下半身は校長の下敷きになっているのでどかそうとしているのだろう。しかし状況が動かないのは蛍の腕が1つしかないからだろう。左の義手は肘のあたりでもげていた。仕方ないので果名が校長をジャイアントスイングで投げ飛ばして蛍を救出する。その上でよく見れば蛍の表情もやはり悪いままだ。血流は通ってなくとも神経が通っている義手がもげたのだから仕方ないだろう。ただでさえ先程の衝撃があったのだから無理もない。
「船は大丈夫なのか?」
「……ええ、問題ないわ。ゴーストに落とされたことを踏まえて前のよりはるかに頑丈にしておいたから。ただ、ここがどこだか分からない。コンパスが正確に作動していないのよ」
「どういうことだ?」
「何かで妨害されているって事かも。……とりあえず一度船を再構築するわ。…………色々ひどいことになってそうだしね」
蛍が念じると一瞬で飛空艇は虚空に帰り、果名達含むメンバーが全員外に放り出される。ほぼ同時に。
「!」
果名はその気配に気づいた。迫りくるのは火炎弾だった。それを見てから腰に手をやり、うかつに気付く。
「あのボクッ娘め!!」
黒竜牙はなかった。身構える。しかし、火炎弾は眼前で消える。
「危なかったな」
爛だ。その片手で火炎弾は受け止められ、威力を失って消えていく。
「へえ、やるな。何のカードを使ったんだ?」
正面。半裸の少年がいた。何が面白いのかとんでもなく馬鹿笑いしている。
「カード?はっ!手品師からのカミングアウトかよ!」
「手品だ?小細工なんざねえよ。とにかく燃やすぜ!!」
少年が笑い、両手から火炎弾を生み出してはグミ撃ちのごとく連射する。対して爛は片手を向けるだけでそれら全てをほぼ無傷で受け止めていく。
「……おいおい、マジで何のカードも使ってねえぞ!?」
「おい、魔王」
「分かってるさ。どのみち魔王(おれ)は迎撃しか出来ないしな」
爛は果名に目配せ。それを見た少年がさらなる一手を繰り出そうとした時だ。
「次は俺だ!!」
その少年の頭を踏み台にして同じく半裸の青年が大きな剣を持って繰り出してきた。
「またか!」
「俺は剣一(けんいち)!!七星(しちせい)剣一!!この世の何よりも剣での戦いが大好きな不肖者だ!!」
「そりゃ残念!」
剣一の斬撃を爛はそのままの片手で受け止めた。わずかに手の皮がむける。
「へえ、威力はあるんだな」
「……おいおい、マジかよ」
剣一が下がると同時、爛が一歩前に出て追撃。わずかに炎を纏ったアッパー。格闘技も何も習っていない素人の一撃だ。しかし玄人目に見ても尋常じゃないほど速く、どう見ても目に見えるだけの範囲ではない炎の両方とが組み合わさり、剣一はガードさえ叶わずに吹き飛ばされた。
「カードも使わずに炎を出すなんて何なんだあいつは……まさか噂のスライト・デスか!?」
「俺をあいつらと一緒にすんじゃねえっての。だが、まあそのセリフからして俺達の敵じゃあないらしいな」
爛は拳を下ろす。
「俺達は敵じゃあない。俺達もスライト・デスとは戦っている者同士だし、セントラルでもない」
「……」
剣一はもう一人と視線を合わせる。
「俺は火村(ひむら)火乃吉(ひのきち)って言うんだ」
半裸の少年が名乗りを上げては手を差し伸べる。それを見た爛はやや表情を柔らかくしながら握手に応える。
「甲斐爛だ」
「よぉし、じゃあ続きをしようか?」
「は?」
「火竜(サラマンドラ)・サブマリン!!」
言うや否や同時、火ノ助の懐のカードが真っ赤に燃え、火乃吉自体も盛大に燃え上がった。当然手を握ったままの爛も一緒に。
「お、お前、だまし討ちかよ!」
「いやいや、お前達がまだ誰の相手でも無くて助かったぜ。誰かのライバルだったりして勝手に因縁潰しちまったらそれはそれで面倒だからな!」
「このバトルマニアが!」
爛は無理やりに手を離して距離をとる。しかし、火乃吉は当然のように引き離した分だけ距離を詰めては手足に炎を込めたまま空手のような格闘技で爛を攻撃していく。
「おいおい、大丈夫か?」
果名がやや心配そうに声をかけるが、
「これくらいならまだ平気平気。火咲ちゃんの方が手ごわかったぜ」
と言いながら火乃吉の手を掴み上げては尋常じゃないほどの怪力でねじり上げた。
「あでででで!!!」
「あのな!俺達はお前のお遊びに付き合ってる場合じゃないんだ」
そのまま一本投げにして火乃吉を大木に叩きつける。燃え移らないようにと爛は素早く指から水圧砲を発射して鎮火。
「み、水は苦手なんだよな……」
「止めてほしかったらまずは戦いをやめろっての」
一瞬だけ水圧を上げて火乃吉の肋骨を何本かへし折ると水圧砲を止める。
「……ぐっ!マジで何なんだよ。カードも使わないでこんなこと……」
「俺達はそのカードってのを知らないんだがな」
「……ナイトメアカードだ」
「あ?」
答えは後ろ。果名から返ってきた。
「十路川に流れてきた書物で見たことがある。昔、突然空から雨のように降ってきた魔法のカードがあるって話を。ただのおとぎ話か比喩かと思ったんだがどうやら本当だったらしい」
「……ナイトメアカードっていえば祟の奴が言ってたっけな。確かあいつが数百年後にばらまいてそれがきっかけに世界を大幅に減衰させてしまった聖騎士戦争が勃発してしまったとか。じゃあこの世界は聖騎士戦争があった未来なのか?……いや、第三次世界大戦が100年前にあったはずだ。聖騎士戦争はそのあと行われたって聞く。じゃあ、この世界はスライト・デスの襲来によって聖騎士戦争が勃発しなかった世界なのか?」
「……何をよくわからないこと言ってやがるんだ。まあ、このご時世だから俺たち聖騎士(ハンター)を知らないって言うのも無理はないか」
「聖騎士(ハンター)?」
「俺達のことだ。……やれやれ。田舎者を相手にしちまったか。けど世界はまだまだ捨てたもんじゃないな。まさかカードも使わずにここまで強い奴がいるとは」
「……そんなに喧嘩が好きなら俺達の仲間になれよ。いやでも腐るほど戦いが楽しめると思うぜ。尤も俺でさえまともに相手にならないくらいの化け物ぞろいだがな」
「……それよりもだ」
果名が一歩前に出た。
「お前たちはこの辺りに住んでいるのか?スライト・デスを知らないみたいだがどういう生活だ?」
「まったく知らないってわけじゃないがまあ、戦ったことはないな。なんせ俺達の相手は……」
剣一が喋ろうとしたその時だ。尋常ではないほどの殺意が空間を支配した。爛、剣一、火乃吉、そして果名の順にそれに気付いた。
「……噂をすれば来やがったぜ」
東の空。最初はただの点だったそれはやがて一つの姿を見せながら急接近した。
「……天死か!」
爛、果名が身構える。
「……それもただの天死じゃねえぜ」
起き上がった火乃吉が掌から直径2メートルほどの火炎弾を作り出しては無躊躇に発射する。それはミサイルのように敵影に命中し、消えていく。だが、肝心の敵影は姿を消していなかった。加速を経て数秒でこちらの目でも姿がとらえられるようになった。
「……数が増えている」
それは少女の姿をしていた。両腕は天死特有の双頭の犬の腐った上半身。背中からは4枚の翼が生えている。そして何よりも会話が出来ている。
「奴の名はシリアル。俺達が束になってやっとどうにかなる相手だぜ、気をつけな!」
剣一の言葉と同時に彼女、シリアルは爛達に襲い掛かった。

------------------------- 第136部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
124話「シリアル絶たれた翼」

【本文】
GEAR124:シリアル絶たれた翼

・急接近のシリアル。一層の警戒を纏った爛がそれを受け止める。
「ぐっ、」
暴れまわる両腕4頭の犬の牙が腹の皮膚を食い破る。しかし肉までは届かず、爛は両手の火炎弾を至近距離で発射してシリアルを吹き飛ばした。
「……おお!あいつの攻撃をはじき返すと来たか!」
「ムラマサでも無理だぜあんなの!」
驚きながらも二人は追撃を仕掛けた。火乃吉は周囲の木々を一切鑑みないまま炎の雨を降らし、剣一は大剣で彼女の首を狙う。だが、炎の雨は翼の羽ばたきだけで消し飛ばされ、剣一の斬撃は片手で受け止められる。さらに翼を少しだけ羽ばたかせることでシリアルは滞空のまま剣一の懐に入り込み、その鳩尾に膝蹴りを打ち込む。
「ぐっ!」
「……ヴァラレルギア」
そして一瞬で背後に、回り込むと両手で相手の両手を噛み引き寄せて上半分の翼で相手の首を絞め、下半分の翼で両ひざの関節を決める。
「剣一!!」
「ちっ!!」
火乃吉より先に爛が加速して接近。剣一の首、手足がちぎれる寸前でシリアルを殴り飛ばした。
「がばっ!!」
地に倒れた剣一。肉の大半が剥がされた両腕からは流血、両肩は脱臼しかかっていて首には痣。両ひざの半月板も破壊されていてまともに動けない状態だった。
「……天死があの体で殺人プロレスかよ。知性のある天死ってのは厄介だな……!」
「天死を知る存在が増えている……でも僕には関係ない」
「あ?」
疑問の爛。構わずシリアルは飛翔。すぐさま太陽を背に爛に向かって急降下。
「!」
「ヴァレ・クレッシュ」
自身の腹に相手の顔面を押し付けるように着地、両肘と両膝で押しつぶすように顔面を固定。そのまま両手の双頭を伸ばして爛の両足のふくらはぎに食らいつく。
「ぐっ!!」
ダメージは想像以上。普通の人間が食らえば数秒で両足は食いちぎられ、頭はつぶされて死んでいるだろう。爛でさえもふくらはぎの筋肉が食い千切られかかっている。相手の腋のあたりを掴んで引き離そうとすれば4枚の翼がこちらの腕を締めては関節を決めてくる。
「許せよ!!ファイヤーボルト!!」
火乃吉が魔力を解放。先程までの数倍もの熱量の炎の滝を頭上から、爛もろともにシリアルに叩き落とす。
「……ぐっ、」
数秒間シリアルは耐えたが皮膚の一部が溶けてきたのを見て、爛をその態勢のまま火乃吉に向かって投げ飛ばすと離脱。
「おああああ!?」
火だるまになった爛が飛んできては火乃吉に激突する。
「……悪いな。けどあいつ強いぞ」
「……言っただろうが俺と仲間たちが束になってもギリギリで勝てるかどうかだって」
ボロボロの二人が倒れながらぼやく。それでも迫りくるシリアルの突撃を止めたものがいた。
「経営幼女戦士アカハライダーズ!!ちょっと遅刻しましたがただいま見参!!」
二人のアカハライダーだった。だけでなく先程までダウンしていたクルーがほぼ全員意識を取り戻して来る。
「!来音ちゃん!あれって!!」
「……うん、ブラワだ……!」
陽翼と来音がその姿を見る。智恵理も双眼鏡で見てはうなずく。
「知り合いか?」
「音終島ってところで一緒に暮らしてた子だよ。ここに避難してくる間にはぐれちゃったんだけど……」
「まさか天死だったなんて」
「……ねえ美咲ちゃん」
「……はい久遠。彼女はどこかライラさんに似ている。天死だからって理由ではなく、雰囲気が……」
赤羽と久遠の会話。それが終わる頃には二人のアカハライダーはシリアルによって首を締めあげられていた。頸動脈が食い破られそうになる。さらに翼が二人の胴体を両腕ごときつく締めてはサバ折にしている。
「……!」
それを見た発がその巨体を生かしてタックルを打ち込み、二人を解放する。しかし心配の声をかける暇はない。シリアルが飛翔、両腕で発の両腕の二の腕にかみつき、肉と骨を食い千切る。さらに翼の上半分で発の顔面を覆い、頭蓋骨に亀裂を走らせながら両足でひたすらその胴体に蹴りを打ち込み続ける。
「発さん!!」
紅葉が手を伸ばす。しかし届く前にシリアルは発を掴んだまま飛翔。見上げれば太陽を背に、やがて血の雨が降ってきた。
数秒後には両手足を失い、腹に風穴を開けた発が落ちて来ては紅葉の前に叩きつけられた。その目から色は消え失せていた。
「……くっ!!」
涙をためて紅葉は地を蹴った。
「……」
空中。様子見に降下していたシリアルに紅葉が蹴りかかる。
「オーロラプラズマ返し!!」
「くっ!!」
電光を纏った廻し蹴り。シリアルは右腕で噛み止める。威力そのものは受け止めて殺せたがしかし流れてくる怒りの電流に身を焦がす。だがそれ以上は紅葉にも何もできず電流の痛みを失禁しながら耐え伸びたシリアルが両足を紅葉の両脇に踏み込み、左腕でも紅葉の右足の太ももに食らいつきながら急降下する。
「!」
「フルブラクトドライバー」
マッハ2の速さで紅葉は頭から地面に叩きつけられる……寸前に詩吹がそれを受け止めた。
「ぐっ!!」
「邪魔」
紅葉をキャッチしたと同時、4枚の翼が詩吹を殴り飛ばす。さらに立ち上がった二人を再び首噛み締めして持ち上げる。今度はそれだけにとどまらず翼を使ってその場で高速回転を始める。目を回し、三半規管を傷つけるどころか気圧で内臓を深く切り刻むほどのものだ。
「くそっ!!肉体労働反対!!」
叫びながらも爛が走り、シリアルにタックルを打ち込んでは二人を解放、同時に火炎弾をバラまいてはシリアルの全身を焼き尽くす。
「……」
炎の中からほぼ無傷のシリアルが姿を見せると、
「うおおおおおおおおおああああああああああああ!!!」
スカーレッドが飛び掛かってはその顔面に拳を叩き込む。炎と魂の込められた一撃はシリアルの小柄を容赦なく吹っ飛ばし、激突した大木の幹を貫通する。
「……今来てつい勢いで思い切りぶん殴っちゃったけど相手女の子だったよな?いいの?」
「いいんだ。この状況の原因はあいつだ」
爛が返答。着地したスカーレッドはやや冷や汗をかきながら土煙の中の相手を見る。背後ではエンジェルがアカハライダー達や発の傷を治す。さらにスカーレッドの隣にはアズールも立った。
「……相手が女の子だとやりずらい?」
「……少しはな。だけど仲間達を傷つけるなら話は別だ」
会話。終わると、土煙をかき消しながらシリアルが姿を見せる。流石に今の攻撃は効いたのか、鼻から血を流していた。鼻が折れたのは間違いないだろう。しかしそれでも表情を変えることなくこちらへと急接近を仕掛ける。
「……でも私は容赦しないから」
アズールは足元から大量の水を呼び起こすとそれでシリアルの突進を受け止め、水圧を上げることで身動きを止める。さらに魂の込められたビンタを打ち込んでは水の鋏ごとシリアルをぶっ飛ばす。シリアルは勢いを殺すため翼を広げるがそれまでのダメージも相まって翼に亀裂が走る。
「接近戦が怖いなら近づけなけりゃいい。……接近戦でも負ける気しないけど」
淡々と言いながらアズールはシリアルに歩み寄っていく。鼻が折れ、翼にも亀裂が走り、確実に消耗を見せるシリアルだがしかしアズールの接近よりも早く加速を行い、両腕の4つの牙を向ける。
「……」
アズールに触れそうになった瞬間再び巻き上がった水圧に挟まれて動きを封じられる。だが今度は両腕を前に出していた。身動きを封じられると同時に両腕の4本ある犬の首を伸ばしてアズールの両肩両膝に食らいつく。
「……くっ、」
苦痛に表情をゆがめるアズール。そのアズールを犬の首を縮めることで引き寄せたシリアルは水圧に押しつぶされそうになりながらも跳躍して両足をアズールの首にかける。するとすぐに水圧によりシリアルの体が地面に潰され、それに引き寄せられる形で同じ勢いでアズールもまた地面に伏せられる。
両肩と両膝を噛みつかれ、そして首を後ろから両足、前からは股間で挟まれて圧力がかかる。首が締まる。恐らく自身が水圧をかけ続けている間は離脱するのは不可能。
「アズール!!」
スカーレッドが来てアズールの首を絞めるシリアルの両足を外しにかかる。しかしこの状況で炎や魂の力を下手に使えばアズールを巻き込んでしまう可能性がある。だから慎重にならざるを得ない。そしてそれを見越したのかシリアルは4枚の翼を伸ばし、地面と垂直になっているスカーレッドの胴体と平行になっているアズールの胴体をまとめて締め付ける。互いの胴体で十字になるように固められた今両者の内臓は強烈な圧力を受けていた。
「ぐっ……!!」
内臓がきしみながらもフリーのままの両手で翼をもぎにかかる。外れない。それどころか間に張り込ませた指が抜けなくなり8本指の骨が徐々に潰されていく。
「……あいつら二人でさえも……!」
「おい果名、例のGEARでどうにかならないのか?」
「俺のGEARは相手がGEARを使っていないと意味がない。さっき試したがあいつには効果がなかった。そもそも天死にGEARなんてあるのか?」
「……さあな」
仲間達が見ている前で異変は起きた。アズールが変身を解いてメイの姿に戻ったのだ。意識を失ったのかと疑った次の瞬間。
「!?」
メイは押し付けられている股間にかみついた。
「……女の子じゃなかったのか!?」
「いや、天死は両性具有だ。アレがあってもおかしくはない」
爛の解説。終わる前にシリアルは水圧が解けたのを気付くと、たっぷり血糊や皮肉が付いた両腕を離してメイの頭に迫らせた。
「メイ!!」
頭に牙が当たる寸前でスカーレッドが蹴りを放つ。それで4つの頭が怯むと同時にメイは再変身してシリアルが絡んだまま立ち上がる。
「ふんっ!!」
そしてそのままパイルドライバー。スカーレッドが巻き込まれたが気にしない方向で。パイルドライバーの威力に翼の締めも解除されてシリアルは距離をとる。
「……大丈夫か、アズール!?」
「……平気」
心配の声。実際にアズールは両肩と両膝から大量に出血していた。骨も見えているのだから恐らく立っているのがやっとだろう。やや腹をかばう気配も見せているため内臓や骨も危険かもしれない。スカーレッドも内臓が変形しているような感覚がある。対してシリアルは頭と鼻から血を流しているが呼吸も乱れていない。その緋瞳にも一切の揺らぎはない。
「……天死のタフネスはスライト・デスの怪人とは比べ物にならないな」
ため息の爛。血が滲みながらも拳を握り機会を待つ。スカーレッドやアズールもいつでも迎撃できるように身を固めている。
「……血祭りにする」
シリアルは軽くつぶやくと、4枚の翼をフル稼働して全速力の加速を見せた。
「!」
そのスピードは誰の目にも映らなかった。ただ気付けばスカーレッドの隣からアズールの姿が消えていた。そして、見上げた空では太陽を背にアズールが大文字に広げた両手足を後ろからシリアルの両腕に噛みつかれていた。さらに下半分の翼がアズールの胴体をきつく締めあげている。
「ぐっ!!」
「血肉になれ……ヴァグバスター」
長すぎて3重に締め付けた翼に膝を置き、上半分の翼だけで再加速。アズールを大文字の姿勢のまま地面へマッハ2で叩きつける。が、しかしそれは果たされなかった。
「壁(ウォール)・行使(サブマリン)!!」
「!」
降下を始めたシリアルの前……空中に突然1畳分の鉄壁が出現し、降下が止められる。
「磁(マグネット)・行使(サブマリン)!」
再びの声に鉄壁が地面にゆっくりと引き寄せられ、同じようにシリアルたちも引き寄せられる。
「雷(サンダー)!!」「炎(フレイム)!!」「「双行使(ツインエミッション)!!」」
そして放たれた炎と雷の塊が無防備となっているシリアルを側面から殴り飛ばす。
「がっ……!」
アズールから離れて空中を漂うシリアル。そこへ、
「踵(ステップ)・行使(サブマリン)!!」
「……あれは!!」「ライラちゃんだ!!」
聞きなれた声。赤羽と久遠が反応するその視界にライラが出現。地面を強く蹴ればミサイルのような加速で一気にシリアルへと距離を詰める。
「握(グリップ)・行使(サブマリン)!!」
握力を強化して左手でシリアルの顎を掴み自身の左側へ、右手でシリアルの凶悪な右手の肘を掴んで右側へと勢い良く伸ばす。
「到達点(ジュネッス)!!」
さらにライラ自身の背中からシリアルのと同じ2枚の翼が生え、その目が緋瞳に染まる。
「コブラツイストドライバー!!」
コブラツイストの姿勢のまま翼を使って急降下。シリアルを頭から地面に叩き落とす。
「……ライランド・円cryン……!!」
土煙の中から立ち上がるシリアル。彼女の視線の先には翼をはやしたライラとその左右に二人ずつの少女。
「……シリアル・M(マルクライン)・X是無ハルトさん、いい加減暴れるのはやめてください」
ライラがその緋瞳でシリアルを見た。

------------------------- 第137部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
125話「合流!X是無ハルトにて」

【本文】
GEAR125:合流!X是無ハルトにて

・シリアルの前に立つ5人の少女。中央先頭にはライラ。天死の力を保ちながらカードを使っている=到達点(ジュネッス)の姿だ。
「シリアル・M・X是無ハルトさん、僕たちが戦う必要なんてどこにあるんですか?」
「……天死である我々に戦う理由などない。ただ人間は蹂躙して我々の種族を増やす。それはお前も理解しているはずだ。だから既にお前も3人もの人間にその種を植え付けている。天死の本能だ。何を否定する必要がある?」
「確かに天死の本能に間違いはない。でも、今は地球人と僕たち天死が争っている場合じゃないんです。それはこの200年間であなたも分かっているはず……!」
「……言葉もないな」
言いながらシリアルは翼を広げた。身構える果名達だがしかしそこに殺気がないことには気づいていた。
「……ライランド・円cryン、まだその命は取らないでおく。しかし、回数を重ねればいずれは……」
「……シリアルさん……」
視線と言葉を流し、シリアルはどこかへと飛び去って行った。


・それから1時間ばかりが過ぎた。そこはデスバニア高原の僻地……X是無ハルト亭。40人近くが急に押し掛けたというのにもかかわらず全く問題ないどころか一人ずつに部屋が割り当てられるほどには豪華な場所だった。
「改めて心遣い感謝する」
果名が礼を言う。相手はこの家主であるキリエ・R・X是無ハルトだ。
「いいえ。ライラさんがかつてお世話になったと聞きましたので。それにこのご時世、どうにか変えようと動こうとしている方々をどうして無碍に出来ましょうか」
果名とキリエが義手同士で握手する。その脇では、
「うわあ。これがライラちゃんの子供?可愛い!!」
「うん。この子が来斗で、こっちがラインド。あっちのがライムって言うんだよ」
ライラが自分の子供たちを赤羽や久遠たちに見せていた。
「ライラさん、あなたはどうやってここに?」
「はい。矛盾の安寧が終わって僕はデスバニア高原に倒れていました。バッグの中に入っていたカードたちがちゃんと反応していたからすぐにこの世界が僕のいた世界だってわかって……。それからは天死やスライト・デスと戦いながらこの世界を回っていたところでこの世界で唯一無事な家としてX是無ハルトのうわさを聞いて急いでやってきたら昔の仲間たちと再会できたんです」
ライラが言うと4人の少女たちが歩み寄ってきた。
「初めまして。あたしはティラ。ティライム・KYM(けーわいえむ)って言うの」
「私はラモン。赤羅門(あからもん)・ミドリュエスカラナイトさ」
「私はケーラ。ケーラ・ナッ津ミLクと申します」
「んで私はシュトラ。シュトライクス@(アットマーク)・YM(イグレットワールドマルクライン)・X是無ハルト。名前長いからシュトラって呼んでいいわよ」
「……えっと円cryンでX是無ハルトって……」
「私はライラ君ともユイムさんとも結婚してるのよ。だから二人のラストネームを持ってるの。少し前まではシュトライクス@・イグレットワールドって名前だったけどね」
「ユイムさんって確か」
「はい。僕の一番愛している人です。キリエさんの妹でもあります。あ、言い忘れていましたけど僕もユイムさんやシュトラさんとは結婚しているのでフルネームはライランド・M(マルクライン)・X是無ハルトってなってます。……でもまだユイムさんは見つかっていないんです。皆さんが言うには僕がここに来る前には行方不明になっているみたいで……」
「ですがライラさん。あなたは確か1000年以上未来の方だったはず。ですがここは200年後。時代が合わないのではないでしょうか?」
「はい。僕も最初はそう思いました。でも僕が世界の壁を越えてヒエンさんや皆さんたちのところに来てすぐにこのX是無ハルト亭だけが何故かこの世界にやってきてしまったらしくて……」
「その際はとても大変でしたわ。突然こんな荒廃した世界になってしまっていて。政府議会とも連絡が取れませんし。外はスライト・デスなんて言う宇宙人で溢れていますし、全滅したはずの天死がまだ群れを成して飛び回っていることもありますし」
言いながらキリエは視線に気づく。それは陽翼や来音のものだ。
「……今度はキリエさんだね」
「うん。でも私達のことは知らないみたい。パラレルワールドの別人って奴だよね」
「……パラレルワールドかどうかはわかりませんが理解がないわけではありませんわ。私達も彼らと会った際には驚きましたもの」
キリエの視線は移り、治療を受けている剣一たちを見た。
「彼らは私達の時代の400年前に起きた聖騎士戦争でブランチから人類を守り抜いた伝説の聖騎士達として文献にも載っています。そんな方々が生きていただけでなくまだ若い姿で現役として活躍していらっしゃるのは信じるのに三日はかかりましたわ」
「おまけにブランチのことを知らないって言いますしね」
「……あの、ライラさん。先程のシリアルと言う方は?」
「はい。僕がこの世界に来てから何度かお会いした方です。天死であり、円cryンとX是無ハルトの名前を持っていることから僕と何かしらの関係があるのではないかと思うのですがよく分かっていません。理性を持っている天死は僕の知っている限り二人だけ。僕と、泉湯の王国で会った赤い天死さんだけです。特殊な天死と言うのは分かりますがそれ以上のことは……」
「向こうはライラ君のこと知ってるような感じなんだよね」
「このおかしい世界だからあれだけど実は先祖かあるいは祖先だったりしたりしてね」
「……先祖はともかく祖先って可能性はありますね」
「……あのさ、どうしてみんなライラちゃんをライラ君って呼ぶの?」
久遠の疑問。それを聞いてティラたちは何とも言えないような表情を取る。
「最初ライラ君はあたし達に男の子だって話してたんだよ」
「当時はまだ天死っていう事情も知らなかったからね。ただ生えてるだけだなんて知ってるのはライラ本人くらいしかいなかったんだ」
「まあ、色々事情もありましたから。僕が天死としてこのような姿になったのは小学生の頃ですしもう慣れてますから君でもちゃんでもどちらでも」
「妹のリイラちゃんにはまだお兄ちゃんって呼ばれてるしね」
「え?妹さんだったら最初から天死だってこと知ってたんじゃ……?」
「いえ、実はあの子は元々家族じゃなかったんです。僕の両親は5年前に再び天死が動き出したためにその調査のために行方知らずになっていて、その代わりとして父さんの妹の家族に預けられたんです。全く血がつながっていないわけではありませんが……。まあそれでもその頃はまだ僕も普通の女子のつもりでしたから最初の内はリイラも僕をお姉ちゃんって呼んでくれていましたよ」
「……その妹さんは?」
「大丈夫。ちゃんといますよ。多分僕たちや皆さんのためのご飯を作っている頃だと思います。本当はメイドさんたちがいたんですけどこの世界にはついてこなかったみたいですから」
「え!?40人以上もいるんだよ!?それを一人で!?」
「いえ、升子がいます。……えっと、この子の、来斗の母親で僕の幼馴染なんですけど」
「それでも二人じゃん。大変じゃないの?」
「い、いえ、ちゃんともっといるので大丈夫ですよ!?」
久遠に詰められて後ずさるライラ。すると、突然背後のドアが開かれて、
「何私以外の小学生とじゃれてるのよお兄ちゃん」
「うわっ!」
声と同時に放たれた足払いでライラは右方に転んだ。代わりに姿を見せたのは久遠と同い年くらいの少女だった。使(メイド)のカードにより8本に増やした腕全てで料理を運んでいる。
「いたた……。もう何するのさリイラ!」
「別に。相変わらず女の子ならだれでもいいんだなって思っただけよ」
「ライラちゃん、もしかしてこの子が?」
「あ、はい。リイラです。リイラ・K・円cryン。ちょうど久遠ちゃんと同い年くらいだと思います」
「どうも」
「わあ、リイラちゃんなんだ。どもども、久遠ちゃんだよ!」
久遠が元気にリイラの素手を掴んでぶんぶん振り回す。わずかにバランスを崩したがリイラは問題なく料理をテーブルに置く。料理は1つ1つが大きく、3人分ほどの量はある。つまり今リイラが運んできたものだけでも24人分はあると言う訳だ。
「……ライラ」
「あ、升子」
続いて入ってきたのはソフトクリームみたいな髪形をした金髪の少女だった。しかし異様なのは髪形ではなくその両手。料理がぎっしり置かれた長大なテーブルを片手ずつ2つも持ち運んでいる。料理も合わせればテーブル1つでも数十キロはありそうだというのに。
「……力のGEARか何かでしょうか?」
「いえ、彼女は……ちょっとわけあって怪力なだけですよ。僕の世界ではまだと言うかもうと言うべきかGEARはありませんから」
「……佐野升子です。よろしく」
升子がテーブルを置くと、来斗が母親の登場に気付いたのか四つん這いで歩いてくる。
「来斗……危ないわよ」
升子は優しく、しかしどこかぎこちない感じで来斗を抱きあげた。
「……まだ見つかっていない仲間もいるし傷も回復していないが頂けるものは頂くか」
果名の発言によりとりあえず夕食を取ることになった。ちなみにその見つかっていない仲間である歩乃歌、火咲、湊、ライ、そして剣人がやって来たのは食事が終わってからの事である。

------------------------- 第138部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
126話「剣の道は双月前に遡る」

【本文】
GEAR126:剣の道は双月前に遡る

・朝。しかしまだ朝日が昇る前。X是無ハルト亭の庭先でいくつかの音が風を切っていた。
「くっ!」
果名が虎徹(ブレード)のカードで生み出された剣を振るいながらもしかし追いつめられていた。
「どうした!?剣術が止まっているぞ!」
相手は剣人だ。いつもの剣でなくこちらもまたカードで生み出された剣を使っている。振るう速さは果名のそれよりも数段上。しかし回数に関しては最低限で、果名を追い詰めている。そして今、
「があっ!!」
果名の手から剣が弾き飛ばされて、その首に刃先が止まる。これでこの結果は3度目だった。なお1度目の際には果名は他人の剣ではなく黒竜牙でやっていたのだが結果は第一号だ。
「黒竜牙の力に頼りすぎているようだな、あんたは。相手は人間じゃない化け物ばかりかもしれないが化け物みたいに強い人間だっているんだぜ?」
「……お前みたいにか?」
「俺なんてまだまだだ。徹夜で修業した後の兄さんに万全の状態で挑んだって一本もとれやしない。……まあ今まで剣の相手がいなかったんだから多少仕方ない部分もあるけどな」
果名は立ち上がり、再び剣を取る。
「朝飯はまだいいのか?」
「俺が強くなるための努力はそれ以前の問題だ。せめてもう少し付き合ってくれ、剣人」
「……いいぜ、果名」
そうして再び剣戟の音が朝の庭に生まれ始める。
「……僕も男だったらなぁ……」
「構わず混じってきたらどう?男子といつもサッカーやってるじゃない」
「僕だって女の子。少しはそう言うの気にするようになってきたんだから」
庭の外周では歩乃歌と眞姫がライラたちと一緒にランニングをしている。
「でも驚きだよね、ライランドさんが僕のこと知ってたなんて」
「まあ、少し前に会ったことありますし。あのマリリィスール事件の時」
それを聞いた歩乃歌は頭の中で整理をする。今のライラの様子からしてあの事件からそこまで時間はかかっていないようだがあの時のライラは少なくとも火咲や赤羽の事は知らなかった。しかし今の時点では既に顔見知り。ならあの事件は彼女にとってしたらいつの時間軸なのだろうか。まあ、何はともあれだ。
「……憧れのユイムさんとは最後までやっちゃったんだね」
「え、あ、はい。結婚もしました。ありがとうございます」
「う~ん、やっぱ女の子同士だと結婚も早いのかなぁ?でも蛍は怖すぎるし……眞姫とするのは妥協だと思ってるしなぁ」
「おいそこの銀髪」
眞姫が歩乃歌のポニテを引っ張った。


・朝食。50人近くが集う大食堂。比較的静かなメンツが多いがしかし人数が集まればそうもいかない。
両腕を負傷している爛と剣一に誰が食わせるかで男どもは真剣にじゃんけんをしている。結果最後に負けた湊が嫌々ながらも食べさせてやることにした。
「……うわ、」
トイレから戻ってきた眞姫が思わず声を漏らす。それはとある1つの食卓。
繁、歩乃歌、蛍、火咲、達真、陽翼が同じ卓を囲んで厳かに食事をしていた。苦笑歩乃歌の視線から逃げるように眞姫は次のテーブルを探す。
「うんうん。やっぱりこれがいいや」
今度はアコロがエンジュだけでなくアルケミーも隣に並べて右手の断面の肉を削って出した骨にリボンを結んでいる。隣にいる十毛、トゥオゥンダ、ジキルは顔が引きつっている。
「……サテラがいたら間違いなく同じ目に遭っていたわね」
紫音が静かにつぶやく。その紫音に来音が近づこうとするも睨み返される。どうやらここも静かに食事をするには少々趣味が悪いようだ。
「……」「……」
メイと升子が無表情で食事。その手前では走り回る久遠、追いかけるリイラ。それを追い回す赤羽とライラの姿。それを微笑ましく見ている愛名、智恵理。……少し賑やかすぎる。残ったのはティラ達パラレル部組くらいだ。そこにお邪魔させてもらうことにした。
「いやぁ、元気でいいよね」
「いつもあんな感じなんですか?」
「ううん。ライラ君はだいぶ明るくなったと思うよ。まあリイラちゃんが久遠ちゃんって言う遊び相手が見つかってやっと年相応にはしゃぐようになったからうれしいんじゃないのかな?」
「確かに少し元気になってるかもね」
別の卓。小夜子がパンをむしゃむしゃ食べながら言う。その隣には大悟、八千代がいる。八千代は3兄弟そろっているのはいいがワニがいないので少し寂しそうだった。大悟もまだ見つかっていない噂の双子が気になっている。
「……これだけ大勢での食事だなんて考えたこともなかったな」
少し離れた場所で果名がシチューを食べながら語る。果名の隣では切名もまたサンドイッチを食べている。
「……やっぱり個室にした方がよかったか?」
「……ううん。ここでいい」
切名の様子はいつもと変わらない。しかしだから逆に心配でもある。今まで自分たち3人だけだった。しかし今はそうではない。いずれは別れるだろうがしかし今は彼らは仲間たちなのだ。だからもしも切名が他の仲間たちとうまくいっていないとなるとあまりよくはない。少し前に自分や借名とも別行動をしていたのだからその時に少しは関係がよくなればいいとは思っているが……。聞くところによれば今ここにはいないアカハライダーの二人とは少し仲良くなったらしいが本人たちは今発の看病のため席を外している。そしてもう一人。借名もまた体調を崩していて部屋で休んでいる。先程様子を見に行ったが眠っていた。
ひょんなことからこんな大げさなものに巻き込まれてしまっているがそれは彼女達には負担のかかることだったかもしれない。場合によっては世界の事は他の仲間たちに任せて自分達は十路川に帰るという選択肢も考えた方がいいかもしれない。場合によってはここで暮らすというのも悪い話ではないだろう。何故だかは知らないがこういう豪勢な屋敷には覚えがある。明らかに時代も世界も違うというのに。それに自分はともかく切名はこういうお屋敷がよく似合う。まさに深窓の令嬢と呼ぶべき雰囲気を醸し出している。しかしそう思えば思うほどに心のどこかで違和感があふれてくる。
視界の限りに違う世界から来たという人間がいるのだから自分もそうではないかと言う可能性は数日前からあった。数年より前の記憶がないというのもそうだ。その可能性を考えてみれば切名ももしかしたら昔はどこか別の世界のお嬢様だった可能性がある。借名は……その召使のメイドが相応しいか?けどだったら自分は何なのか。執事だのおぼっちゃまだのははっきり言って全然違うだろう。切名や借名の兄弟にしては顔が違う。この黒竜牙と言い、ボディガードの剣士でもやっていたのだろうか?
「……なあ、果名」
考え込んでいると剣人が歩み寄ってきた。
「どうした?」
「いいものがあるんだ。ちょっと話してみないか?」
「?」
剣人に誘われて廊下に出る。と、すぐに剣人は1枚のカードを出した。
「それは?」
「逆光(リターン)のカードだ。これを使えば過去に飛べる。正確に言えばそいつの記憶をもとに作られた仮想世界だがな。そこで何をやっても別に歴史が変わるとかって話じゃない。ただ過去の強敵と再戦が出来るって考えたら修行に便利と思わないか?」
「……過去の強敵……」
「あんただって素人じゃない。全く実戦をやってこなかったってわけでもなさそうだ。だったら過去にそういう経験だってあるだろ?そうだな、まずは俺と同い年くらい……あんたで言えば4年くらい前の世界から行ってみようか」
「あ、おい、ちょっと待て」
「ってわけで逆光(リターン)・サブマリン!」
剣人の手から放たれた光が廊下の一角を包み込み、そして次の瞬間には二人の姿はなかった。その代わりに。
「……遅かったか」
数秒後に少女の声。同時に突然何もないところからその姿が作り出されていく。


・果名の意識が最初に認めたものは屋敷だった。しかしX是無ハルトの物ではない。細部が違うし、あそこまでのスケールではない。しかしそんなことよりかもこの脳を刺激するのは既視感だった。自分は間違いなくこの場に来たことがある。
「……へえ、屋敷か。やっぱあんたもどっかのボディガードでもやってたのか?」
「……いや、違う。ここは……」
走り出し、窓から外を見る。そこはもはや今の時代では決して目にかかれないはずの、しかしどうしようもなく見覚えもなじみのある景色だった。
「……これは町か?4年前にまだこんなところが残ってたなんてな」
「……いや、ちがう。ここはこの時代(せかい)じゃない……」
「は?」
「……ここは西暦2008年の……柊咲(しゅうさき)町だ……!!」
「……西暦2008年?それって300年近く前じゃないのか?おかしいな、リターンの設定を間違えたか?」
「……いや、ここで合ってる……。俺は、ここを知っている……!」
驚愕の果名と剣人。すると、にわかに人の気配が生まれた。廊下を一人の少女が歩いていた。
「……もう正輝様はまたお寝坊ですかね?いくら早朝からお稽古があったとはいえ学校に遅れてしまいます」
その少女はメイド服を着ていた。ローティーン程度の姿をしていた。背中まであるややブルー掛かった髪。年齢などの違いはあれどそれはどう見ても借名だった。
「あれって借名ちゃんじゃないのか?」
「……ちがう……あれはアリスだ……」
「アリス?」
疑問の二人。明らかに声を出しているというのにアリスは一切二人に気付いていないような素振りで脇を通り過ぎて行った。
「どういうことだ?」
「言っただろ?ここは飽くまでもあんたの記憶をもとに作られた仮想世界だ。こちらから接触を望まない限りは俺達はこの世界には干渉できない。ただ見ているだけさ。だからやろうと思えば気になった女の子と好きなことできるが……そんな空気でもなさそうだな」
「……俺は2年より前の記憶がない。少し長居してもいいか?俺は、俺であることを確かめたい」
「……まあいいか。半ば無理やりここに来ちまったし」
二人はアリスの後をついていく。5分ほどするととある部屋に到着した。
「正輝様、入りますよ?」
アリスがノックをしてから中に入る。部屋の中が姿を見せた。そこでは制服姿でハンモックに揺られながら爆睡している少年がいた。年頃は剣人と同じくらいだがしかしその姿、相貌は紛れもなく果名だった。
「……正輝……ああ、そうか。黒主(くろす)正輝(まさき)……それが俺の本当の名前だった……」
果名は引きつった表情のままアリスに起こされるかつての自分の姿を眺めていた。

------------------------- 第139部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
127話「My garnet1~金と銀の翼~」

【本文】
GEAR127:My garnet1~金と銀の翼~

・食堂。寝ぼけ眼と朝から疲労を隠さない姿の正輝がそこに姿を見せると既に自席の隣には見覚えのある顔が座っていた。
「美咲、早いな」
「……」
腰まである金髪で如何にも気難しいお嬢様と言った風貌と雰囲気の少女……黒主美咲はこちらの顔をチラ見しながらも何も答えない。
「あ、悪い。……おはよう、美咲」
「……おはよう正輝。早いと言ってももう8時過ぎてるから」
「げ、マジか。アリス、5秒チャージのあれ!」
「正輝様は先程ご朝食を取られたじゃないですか」
「4時間前にな!しかも朝練の前だ。腹減ってるに決まってる」
「はい、どうぞ」
アリスがペットボトルを渡す。それを正輝は一気飲みにする。飲んでいるのはただの水ではない。飲めばエネルギーが一気にあふれてくる超栄養ドリンクだ。怪しいかそうでないかと言われれば間違いなく前者なのだが正輝は安心している。作っている人を知っているからだ。
「……やっぱり栄養ドリンクといえばこれだよな」
「ありがとうございます、正輝様」
新たな声。それは台所の方から。美咲の物か、トーストを運んできたのは巫女服姿の少女だった。年頃は正輝よりかは果名に近い。十代後半くらいだろうか?
「和佐(かずさ)さん、おはよう」
「おはようございます、正輝様。でもこれって今日2回目ですよね?まだ私の朝練は厳しいですか?」
「……いや、確かに異次元のスパルタだけども間違いなく強くなってるってわかるよ……まだ全然和佐さんには及ばないけど」
「及んでもらってはまだまだ困ります。でもいずれは超えてくれなければ困りますよ?」
「努力します」
超栄養ドリンクを飲みほした正輝はペットボトルをテーブルに置く。代わりにテーブル下に置いてあったかばんを手に取る。
「あ、待ってください。正輝様、あの方々を忘れていますよ」
「あの方々?……ああ、すっかり忘れてたな。アリス起こさなかったのか?」
「雷歌(らいか)様は既に起きられています。結羽(ゆん)様は……」
「……仕方ない。起こしに行くか」
かばんを置き、正輝は食堂を離れる。
「……和佐さん。どうして正輝に結羽のところに行かせたの?」
「その感情が正解ですよ、美咲様」
美咲の疑問を和佐は笑顔で返す。
一方、正輝は再び長い廊下を渡り、とある部屋に到着して小さくノックをしてから中に入った。
「結羽、朝だぞ」
正直に言えば確信犯である。何故なら正輝が入った部屋にはまだ寝間着姿……それも大分肌けた姿の少女が眠っていたからだ。
「すー……すー……」
「……ごくり」
つばを飲んでから正輝は歩み寄る。少女:結羽が眠るベッドに。近づくほどに女の子特有の甘い匂いが鼻と下半身を刺激する。結羽はもはや寝間着など来ていないも同然の下着姿だ。その髪色と同じ栗色の下着が再び正輝に留飲を赦す。しかし同時にその背中から見えるそれには未だ違和感を感じる。翼だ。結羽の背中からは小さいながらも金色の翼が生えていた。天使。結羽は天使だと、二日前の初めて会った時に言っていた。その証拠がこの小さな羽なのだと。あまりにも小さくて服を着れば完全に隠れてしまう。
「……天使か」
二日前。いつも通り夕方の稽古を終えて夕食を待つだけの状態になったこの家の廊下で、正輝はこの少女と出会った。
当然最初は驚いた。だがもっと驚いたのは結羽の放った言葉だ。
「こんにちは、黒主正輝さん。私は結羽と言います。見ての通り天使です。……まだ見習いですけどね」
「……天使?」
「はい。この空の上、オゾン層の中に私達が住む天使界が存在します。私はそこから来ました」
「……天使かどうかはともかく確かに羽があるな。動いてるし本物か?」
「はい。そうですよ。あまり飛ぶのは苦手ですけどね。……それでですけども、私はとある目的のためにこの地上界にやってきたんです。私達見習い天使は対象者と呼ばれるランダムに選ばれた人間の心からの願いを叶えることで一人前の天使になれます」
「……で、君の対象者が俺ってわけか」
「はい。その通りです。正輝さん、あなたは本当の自分を追いかけている。……ご両親を探しているんですよね?」
「……」
「不躾かもしれませんが私はそのお手伝いをしたいと思っています。天使にはそのための力も備わっています。……クリスマスまでの半年間しか意味のないものですけどね」
「……いまいち信じられないな。何か証拠を見せてくれよ」
「はい。では、」
言った結羽は正輝に歩み寄り、その胸に体重を預けた。わずかに赤面した正輝だが次の瞬間異変は起きた。その脳裏にフラッシュバックが起きたからだ。ある雪の日……あの雪の日、とある晴れた春の日に正輝は人生を大きく動かされた。その時々の光景。
「……いまのは……」
「……はい。わたしの能力です。正輝さんの願いを叶えるための。ですがどういうことかプロテクトがかかっているようです。本当ならあなたの記憶の奥底にあるはずのご両親の姿まで見えるはずでしたのにそれが叶いませんでした……」
「……俺は7歳より前の記憶はないからな。そのせいなんだろう」
「……いいえ。そんなことは関係ないはずです。記憶喪失というのは記憶を自力で引き出せなくなっているだけの状態であってその頭の中に記憶と言うのは存在し続けるものなのですから。私のこの力はそれを他力で引き出すというものなので必ず見えるはずです。……でも、どうしてだろう……?」
考え込む結羽。まだ彼女は腕の中にいる。鼓動が伝わってしまいそうなのを恐れて正輝は半ば無理やりに結羽を引き離す。
「まあともあれだ。ゆっくり話したいこともある。一度来てくれ。ちょうどそろそろ夕食だ。うちの自慢のメイドが作った料理を食べてみたらどうだ?それとも天使は人間の物が食べられないか?」
「ご飯ですか!?ご相伴にあずかります!!」
ひどく正直だった。
「……若いな、果名さんや」
「……言うな」
一部始終を見て顔を伏せる果名と肘で軽く小突く剣人。
「しかし天使か。天死とは違うのか?」
「……ああ、そうだ。天使はイメージ通りの善なる存在さ。……少なくとも何の業も背負っていない見習い天使に心の闇は存在しないし、平和、秩序、正義以外その心にはない。だが、例外も確かにいる」
言いながら果名は先を進む。……過去の中のさらなる過去の世界。まるで回想の中でさらなる回想に入るみたいなややこしいことだなと心でつぶやきながら。
食堂。そこではいくつもの金属音が響いていた。
「……何してるんだ?」
剣人が入室。見れば正輝が一人の少年と割とガチ目に戦っていた。正輝は腰にしていた刀を抜き放ち、少年は両手のナイフと靴の爪先に付いた刃で。
「あれは?」
「雷歌だ。俺のところに結羽が来たのと同じように美咲の、妹のところにも天使が来ていたんだ。それがあいつ。天使は8割以上が女性だが当然残った2割には男の天使もいる。ただ、あいつが例外なのはそれだけじゃない。どういう訳か知らないがあいつの心には闇があった。詳しいことは分からなかったが何かしらの共通点があって雷歌は美咲を対象者に選んでうちにやってきたんだ」
果名の解説。過去の自分はその間も天使の少年と激しくやり合っている。しかしそれをしり目に結羽と美咲は仲良さそうに食事を行っていた。好戦的な性格を持った相方を持つと面倒だとか言いながら。料理を運ぶアリスは慣れていないのかあたふたしている。だが、その時間もそこまでは続かなかった。
「正輝様。お食事の時間中は騒いではいけません」
和佐だ。彼女が来てはそれぞれ一瞬で正輝も雷歌も組み伏せられてしまう。
「強いなあの人」
「ああ。和佐さんは合気道2段の腕前で結局俺は一度も彼女に勝てなかった。剣術は不得意らしいがそれでも俺に毎朝稽古をつけてくれている」
「今なら勝てるか?」
「まあ、無理だろう。この黒竜牙も彼女から託されたものなんだ」
果名が一瞬黒竜牙を見る。
「……」
そのため果名は気付かなかったが剣人は一瞬見えた。和佐が果名を見ていたことを。
「……いや、偶然だろう。ありえないな」


・6月30日。結羽や雷歌が来てから一週間。その日は正輝にとっては新しい特別な日となった。今まで休校し続けてきた学校に行くことになる日だった。過去の経験から美咲を守るために基本的に屋敷の外に出ることはなく、高校の入学式にしか出ていない正輝だったが正輝が不在の間は雷歌が美咲を守ると言ったのだ。
「お前がこの屋敷の中から一歩も出なければ結羽は絶対に試験をクリアできない。お前はあいつを浪人にさせる気か?」
「……だが、」
「まだ俺が信用できないか?」
「……正直に言ってしまえばな」
「ならば、」
「ああ、示してみろよ。俺にお前の存在を!」
その日、正輝と雷歌はお互いに本気で戦った。今までの小競り合いではなく、本気の戦いだった。流石に美咲や結羽も気迫に表情を変えたが和佐によって止められた。
「どうして!?」
「訓練だけでは正輝様は正真正銘の戦士にはなれません」
「正輝は、ただ男子高校生をしたいだけ……。この2年間私のせいでまともに外出もできてないのにどうしてまだ戦士にこだわらせるの……!?」
「……あの子には育ってもらわないと困るのです」
そう悲しい表情を取った和佐が見守る中で正輝と雷歌は死力を出し尽くした。結果的に正輝の刀は折れて、それでも徒手空拳で戦った結果共倒れに終わった。鼻は折れるわ肋骨にひびが入るわ、両足から出血するわ、右腕を脱臼するわで大変だったが午後からは普通に登校した。そのおかげで学校ではかなり悪目立ちをした。
「……ここが学校か」
正輝と剣人はハモった。
「……あんたもやっと学校に来たわけね」
声をかける女子生徒。茶髪の短髪で元気そうな女子と三つ編みで奥手そうな女子の二人。更舞(ざらぶ)好美(よしみ)と美良(びら)舞(まい)だ。どっちも中学時代からの付き合いだった。
「それにしてもひどいけがね。どんな生活送ってたのよ」
「大丈夫?」
「……まあな。正直もう少し休みたい気分だ」
朝礼台。体育を見学する正輝。正直体操服なんて持ってないのだからどのみち参加は出来ない。今頃は連絡を受けたアリスが買いに行っているだろう。あのいつもメイド服のアリスにあえて男装をさせて美咲あたりと絡ませてみるのも面白いかもしれない。結羽でも似合いそうだ。美咲や和佐にやらせるには少し命が足りないだろう。
「おい正輝!!どうして逃げてるんだ!!俺と勝負しろ!!」
体操服姿でバットを振り回すのはやはり中学時代からの仲である絶乱(ぜらん)刀斗(とうと)だ。剣道部には入っていないが実家が剣道場なためか剣術を嗜んでいる。昔はよく一緒に組み手もしたのだが最近はまるっきり会ってすらいない。寂しい思いをさせているのだろうが少しやかましくなりすぎているのは気のせいか?
「まったく、君がいない間彼のお守をしていた僕の気にもなってくれよ」
隣に座るのは才門(さいもん)秀人(ひでと)。IQ190の超天才だがそれ故か体育はあまり好きではなさそうだ。
「……お前は?」
「才門秀人ってさっき挨拶しただろ?にしても君も剣をやるのかい?」
「分かるのか?」
「ああ。刀斗と同じような動きをする。人と会って話すときの距離の詰め方とかそっくりだしね」
「……外見の話だな。するとお前自身は?」
「やるわけないじゃん。剣道自体はいいとしても剣そのものは時代遅れだよ。200年前なら日常生活でも役に立ったかもしれないけどね」
正輝は少しだけ怒りが沸いたがしかしこれが普通なのだと思って拳は握らなかった。
「……」
その会話を聞いて剣人は驚愕していた。
「……まあ、時代が違うから仕方ないさ」
「……落ち込むわけでも怒るわけでもないが、いろいろ凄い時代だな」
言いながら剣人は体育館裏から数人のDQNを引きずって歩いてきた。わずかにニコチンのにおいがした。タバコを吸っていたのだろう。しかしタバコの知識が剣人にあるとも思えないため単純にさぼっていたのを見て対処したというだけの話か。
「……で、いつまでいるんだ?」
「時間制限とかあるのか?」
「ない。一応言っとくとここでどれだけ過ごそうとも現実世界での進みはほぼないに等しい。とは言え仮にここで4年も過ごせば向こうで数日は過ぎてるだろうがな」
「……不満は?」
「肝心の剣の稽古が出来てないだろうが。せいぜい相手になりそうなのはお前の師匠とあの刀斗って奴くらいだろう。……よし、ちょっとやってくるか」
「あ、おい!」
剣人が1枚のカードを出して刀斗に向かう。出したカードから2本の剣が出て片方を刀斗に投げる。
「ん!?」
受け取った瞬間に刀斗は一度世界から拒絶されて剣人たちを認識した。
「難しい話をするつもりはない。ちょっと剣の相手をしてもらおうか!」
「……よく分からないが面白い!!」
反応。同時に刀斗は踏み込んだ。
「!」
その速さは果名どころか剣人ですら予想外の物だった。
「おらおら!!おらおらおらおらおらおらおらおら!!!!!」
「っと!マジか!!」
刀斗の嵐のような連続剣戟。剣人は最初こそバランスを崩したが徐々にそのテンポと速さになれていき、自分のペースに持って行こうとするがしかし中々攻勢に出られない。刀斗の一見乱雑に見えるその剣戟の全てが剣人からそれ以外の隙をすべて奪っていた。とんでもない手数と速さだで分かりづらいがしかし凄まじく効率的で効果的な剣術だった。剣人が無理に攻勢に転じようとすればその瞬間に手痛い一撃を受けることになるのは避けられないだろう。
「くっ!!」
結果、それから数分で剣人の握力に限界がきて持っていた剣が弾き飛ばされてしまった。
「俺の勝ちだな」
「……まいったな。こいつ、とんでもなく強い」
「……あいつ、こんなに強かったのか。通りで俺が全く勝てなかったわけだ」
果名もまた呆れたような表情でその決着を眺めていた。

------------------------- 第140部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
128話「My garnet2~9月11日~」

【本文】
GEAR128:My garnet2~9月11日~

・9月11日。本当なら一日単位でしっかり見たかった果名だが流石に剣人に怒られたため日にちを絞ることにした。その結果次に体験することになったのがこの日だった。
「……この日には何があるんだ?誕生日か何かか?」
「いや、2008年6月30日、2008年10月28日と並ぶ俺にとって重要な日なんだ」
朝日が昇る。ビデオの早送りのように或いはDVDのチャプター機能のように時間が高速で流れていき、朝9時。担任の五十嵐先生が進めるホームルームは夏休みが終わって一週間たった今でも生徒たちの日常ではあるがしかしわずかに違う部分はあった。
「今日は皆に転校生を紹介します」
五十嵐先生の言葉が放たれてから数秒してからドアが開かれて一人の女子生徒が教室に入ってきた。薄い紫色の長いツインテール、新品同然の柊咲高校の制服、そして目を引くのが15歳とは思えないその巨乳。
「……大したものだな。キリエさんレベルじゃないのか?」
剣人が口笛を吹く。その間に少女は教卓の前にやってきた。当然ながら男子から燃え上がるようなうなり声が上がる。……果名は目をそらしていたがその中には正輝の姿もあった。剣人は何も言わず果名の肩をたたいた。
「菅原(すがわら)歌音(かのん)です。今日からよろしくお願いします!」
明るく、奇麗な声だった。
最初の休み時間が来れば忽ち質問ラッシュになる。それを完璧に受け流していた歌音はその中には入っていなかった秀人と視線が合った。
「やあ、君。Eカップだろ?」
歌音が胸を隠すと同時に男子達がうなり声をあげ、秀人を英雄とみなす流れが一気に作られた。その中で秀人は好美に蹴り倒されていたが。
ちなみに歌音に一切質問をしなかったのが刀斗だった。ずっと一心不乱に金属バットを素振りしていた。
「……あいつは巨乳嫌いなのか?」
「いや、そういう訳ではないと思うが。……確か夏に一度雷歌と出会ってるんだ。その際に組み手をすることになって偶然はあったが刀斗は負けている。だから少しいじけてるんだ」
「……あいつに勝ったのか。どんな偶然があったんだよ。調子でも悪かったのか?」
「さあ……そこまでは覚えてないな」
果名は目を逸らす。しかし脳裏にはうっすらと記憶が残っている。確か雷歌よりも前に結羽と出会っていて一目ぼれしていた。だがそれを快く思っていなかった雷歌の怒りと、女に現を抜かすことになってしまった自身を恨みすぎて徹夜で素振りをしたために雷歌との試合では思うように体を動かせずに紙一重の差だったとはいえ破れている。一方でそれを見て真相に気付いた結羽は雷歌からも気を引き締めるようにと厳しい忠告をもらっているのだ。あの頃は正輝も梅雨のせいで左腕の義手が錆びてしまったり剣の修復の時間がかかっていたりで焦燥していた。全く嫌な思いでしかない夏だったと果名は奇妙な感覚で追憶する。
「で、あの転校生に一目会いたかったのか?確かにいいものを持ってはいるがそれだけのためにか?」
「それもなくはない。あいつとは長い親友になっていたがある意味その関係の一番最初のきっかけを作ったのが今日これから起きる出来事にあるんだ」
その出来事を無理に追憶する必要はないだろう。何せ、それをもう一度見るために自分はあえてこの日を選んだのだから。
再び時間が異常な速さで進み、あっという間に時刻は放課後だ。秀人の案で歌音含めたメンツは黒主家にお邪魔することになったのだ。正輝は先に電話でそのことをアリスに伝えて雷歌と結羽には買い物に行かせた。ちなみに当然ながら刀斗はその二人が正輝の知り合いでしかも一緒に住んでいるだなんて知らずにいる。
「……なあ、剣人」
「ん?」
先に黒主家にやってきていた果名は剣人に投げた。
「ここで何をしても現実の歴史には一切関係ないんだよな?」
「ああ、そうだ。まあ、俺達は一応実体がある。少し程度の負傷ならともかく例えば命に関わるような負傷を負えば影響は出てくる。それでも歴史そのものには影響はないだろう。今俺達がいるのは既に確立された過去の世界だ。その一部をコピーして切り貼りしているだけに過ぎない。だから例えばここで急にゲームだからと開き直って誰かを殺しても何も影響はない。たとえ昔のお前でも同じだろう」
「……そうか」
言葉と共に果名は義手の手で黒竜牙の柄を強く握った。
やがて正輝達が家にやってきた。果名達の脇を通るが当然反応はない。しかしわずかながら歌音からはそのにおいを感じたような気がした。
「……そう言えば結羽や雷歌のにおいもしたような気がする……ひょっとして……」
新たな疑問を感じながらも果名は後を追う。正面の正輝たちはアリスに出迎えられ、可愛いもの好きを公言する歌音はすぐさまアリスに抱き着いた。その間に先に食堂へと入る。いつもこの時間は窓際で読書をしている美咲だがしかしその姿はない。事前にクラスメイトが来ていると聞かされて部屋にでもこもっているのだろう。……当然美咲も学校に入っていない。入学式にも行っていない。だから正輝からすればやや馴染みのあるメンバー相手でも岬からしたら完全に初対面。まだ回避しようとするのは別におかしいことではない。和佐もいないが恐らくこの時間は買い物に出ているのだろう。……もし彼女がいれば歴史も変わったかもしれない。
「お、また早送りするのか」
剣人がお菓子に手を伸ばそうとしたがしかし一瞬で消えてなくなった。代わりに得たものがあった。
「……おい、何だこの殺気は」
「……奴が来たんだ」
剣人と果名が身構える。同じように刀斗が身構えていた。正輝は違和感こそ感じているようだがそれが何なのか分かっていないようだ。
「失礼。ちょっと手洗いに」
秀人が席を立った。直後刀斗もまた席を立つ。いつの間にかその腰には刀があった。
「……ん?」
「どうした果名?俺達は別にトイレに行く必要はないはずだぞ?」
「……いや、ただこの時刀斗も動いたっけと思ってな」
「……?動いてたんじゃないのか?前にも言ったがこの世界は飽くまでも記憶の中の光景を再生しているだけだぞ?」
「……そうなんだろうが……」
気になって果名と剣人はあとを追いかけた。秀人は刀斗の案内でトイレまで向かう。
「……普段使われてなさそうなトイレだねえ」
「……まああいつは基本自分の部屋の前のしか使わないからな」
「……おやおや男子トイレだったか。自宅なのにトイレが男女で別れてるなんてすごいじゃないか。……けどだったらどうして誰かが使った跡があるんだろうね」
「何?」
秀人がトイレのドアを開ける。その瞬間。いくつかの出来事があった。
まず刀斗がタックルで秀人をぶっ飛ばしながら抜刀。同時に扉をぶち抜いて何かが迫りくる。それは刃先……刀剣だった。見えないはずなのに真っすぐと刀斗の胸に迫りくるそれを刀斗は剣で払う。
「ほう、」
次に声。ドアの向こうからだ。ゆっくりとドアが開かれて中から一人の男が姿を見せた。まるで中世の貴族が使っていたかのような仮面を被っているが背格好からして同い年くらいだろう。血を浴びることを求めている吸血鬼が如く純白のタキシードを着ていながらその左手には剣が握られている。
「……少しは剣をやるようだな」
「いずれその形容詞を変えてやるさ。……どんな奴が相手だろうと負けない剣をふるう男ってな!!」
刀斗は距離を詰める。その速さは相手の予想以上。
「!」
「ぜやぁッ!!」
振るう、剣の一撃。男はそれを受け流すつもりだったが受け止めるにとどまる。そしてそれは信じられない間続いた。
「……くっ、」
男は全く攻勢に出れずにいた。刀斗の太刀筋が正確でしかも速すぎるのだ。とてもまだ高校生とは思えない。いや、たとえそこから10年鍛えたとしてもこの域に達することが出来る人間はほんの一握り程だろう。故に10秒が過ぎ、
「……ほう」
男の持っていた剣が根元から折れた。直後にその首筋に刃先が向かう。
「殺しはしないが傷者にはさせてもらうぞ一生のな!!」
「……ふん、男が男に言うセリフか?」
男は一歩を下がる。刀斗は同等以上の速さで追撃を駆けようとした。だが、想定外の出来事が起きた。
「……ぐっ!?」
刀斗の右足を何かが貫いていた。それは先程折られて床に転がったはずの刀身だった。それがまるでひとりでに動いたように他力を受けることなく刀斗の足を貫いていたのだ。
「な、何だと……!?」
「認めよう。我が剣術は決してお前には勝てない。だが、勝負と言うのは何も剣術だけしかないわけではない」
男が指を鳴らす。と、廊下に設けられた手すりがドロドロに溶けては床に流れ落ち、新しい形を整えながらまるで蛇のように男の手に納まった。それは槍だった。
「槍だと!?」
「さあ、ここからが本番だ!」
男は踏み込んだ。しかし間合いは違う。槍の間合いは剣の倍以上。足を負傷している刀斗ではうまく踏み込みや回避が出来ずに剣で捌くだけに留まる。それも2度続いた時だ。
「ぐっ!!」
再び刀斗に不意の痛みが走った。右足を刺していたはずの刀身が伸びて今度は左足を貫いていた。その不意の痛みがわずかに刀斗の判断を鈍らせ、次の瞬間には放たれた一撃が刀斗の左肩を貫通していた。
「がああっ!!」
「……ん!?」
しかし次に違和感を感じたのは男の方だった。
「……悪いね、刀斗。これくらいしか僕にできることはなかったよ」
刀斗の後ろから秀人の声。秀人は刀斗の肩を貫通した槍の柄を握って止めていた。そして、
「いや、十分だ」
「くっ!」
次の瞬間、刀斗は刺されたまま刀を振るい、しかし男は一瞬で刀斗を貫いていない部分の槍を刀に変えてその一撃を防いではバックステップで距離を取った。と、今度もまた不意が襲う。男の顔に液体が噴射された。
「……汚いけど、それってイコールで効果的ってことなんだよね」
秀人が小便を放っていた。その最初の勢いが男の顔から仮面を弾き飛ばす。同時に刀斗が貫かれた足ながらも無理やり距離を詰めて刀を振るった時だ。
「!?」
男の顔を見た刀斗は一瞬だが動きを止めた。その一瞬に男は刀斗の襟首をつかんでは一本背負い。
「がっ!!」
地に背中を叩きつけられて動きが止まる刀斗。その刀を持つ右肩を男が踏みつけ、体重の大半を注ぎつつ手にした刀を刀斗の胸に振り下ろす。が、殺意なき敵意を感じて振り向く。
「戦士ってのは化け物かい!?」
背後からは先程刀斗の方から抜いた槍の穂先だけを向けて秀人が走ってきていた。
「ふん、」
男はアイアンクローで秀人の顔面を打ち抜き、ぶっ飛ばしながら落ちた槍の穂先を新しい仮面に変えて装着する。その時だ。
「女子トイレはあっちだ」
食堂から正輝と歌音が出て来て場面の中に入ってしまった。
「え……」
「く、黒主正輝!!」
正輝の姿を見ると同時、男は走り出して手にした刀で正輝を狙う。正輝は迎撃のためにと腰に手を伸ばすがしかしまだ刀は戻っていない。だが、そのはずなのに、正輝は一本の刀を抜いていた。それは、
「黒竜牙!?」
見物していた剣人が驚く。次いで見れば果名の腰から黒竜牙が消えていた。それを手にしていた正輝は黒竜牙の抜刀だけで発生した剣圧で男を後方に弾き飛ばす。
「ぐううっ!!」
無数のかすり傷を負いながら5メートル離れた場所で男が着地する。
「な、何だってんだ……!?」
正輝は黒竜牙含め景色を見て仰天していた。血だらけで倒れている刀斗、何故かズボンをはいていないまま壁に叩きつけられて動かない秀人、そしてたった今自分が行った行為によって吹き飛ばされた謎の仮面男。その仮面が今再び男の顔から落ちた。
「……何!?」
正輝が見たその男の顔は自分のそれと全く同じだった。隣で歌音が二人を交互に見ている。
「……俺と同じ顔!?」
「……くっ!まさか既に黒竜牙を手にしていたとは……!!その命、預けておくぞ黒主正輝!!」
仮面を手にしてから男は窓をぶち破って外に飛び降りた。一瞬遅れてから窓際まで駆け寄り、外を見た正輝だったがしかし既に男の姿はなかった。
「……ここ3階だぞ?」


・来た救急車は2台。刀斗は刺し傷切り傷が多いが命に別状はなく、一か月もすれば元通りだそうだ。秀人の方も鼻が折れていただけで一週間だけ入院してすぐに復学した。
「……で、これは間違いなくお前の記憶と違うんだよな?」
状況を見てから剣人は問う。隣の徒手空拳な果名はうなずく。
「ああ、本当なら刀斗が倒されるのはあの時じゃない。あの時、トイレに出た秀人は人質としてあの男に捉えられ、過去の俺と一騎打ちをするんだが黒竜牙もない、剣は刀斗の借り物って不利な条件なこともあって歯が立たずに負けるんだ。そのまま俺は殺されそうになるんだがそれを歌音が庇い、さらにそれを歌音に一目ぼれしていた秀人が庇って事なきを得る。……結果的に秀人はそのまま死んでしまうんだが。その後俺は和佐さんから黒竜牙を渡されてあいつとのリターンマッチに応じて一度は勝利するんだ。ただ、それからあいつは黒竜牙と対になる白竜牙って言うのをどこからか手に入れて……そこで奴との最後の戦いになる」
「……あいつは一体何者なんだ?お前と同じ顔だったし黒竜牙の事も知ってたみたいだが」
「……あいつは月(ゆえ)無沙紀(むさき)。天使界で作られた俺のクローンだ」
果名は今もまだない黒竜牙を収めていた鞘を握りしめながら答えた。

------------------------- 第141部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
129話「My garnet3~消えた黒竜牙~」

【本文】
GEAR129:My garnet3~消えた黒竜牙~

・記憶世界の10月を迎えた果名と剣人。この辺りでは特にイベントと言うイベントがないためか果名は正輝の見物を離れて屋敷の中の捜索を行っていた。何故ならば果名の黒竜牙がなくなってしまっているからだ。過去の自分=正輝にあの日渡したのだから確かに一度は失われるものなのだろう。しかし、過去に自分は和佐の案内でこの屋敷の中から黒竜牙を出されて受け取っているのだ。ならばかつての自分の代わりにこの屋敷の中から黒竜牙を探せばいいだけの事と思っていた。しかし、それがなかなか見つからない。
「過去のあんたから返してもらえばいいんじゃないのか?」
「黒竜牙だけが目的ならそれもいいかもしれない。だが、おかしいとは思わないか。ただの名刀とかの類ならともかくただ抜くだけで相手を倒せるようなオカルトブレードがこの世界に存在することが。和佐さんは黒竜牙のことをよく知っていた風だった。だから黒竜牙に関する手がかりもこの屋敷のどこかにあるはずなんだ。……それなのにまさか黒竜牙自体が見つからないだなんてことあるのか?もう三日も探し続けているんだぞ?」
「……ならあの巫女さんに直接聞いてみればいいだろ。不都合でもあるのか?」
「……それはそれで気になるというか……」
「……まあ過去の師匠だしな。見たところ今のあんたよりも年下に見えるし。それでも怖いものは怖いか」
「……このまま俺が黒竜牙を手放したまま元の世界に戻ったらどうなる?」
「どうにもならない。ちゃんと元の世界に黒竜牙は帰ってくるだろうさ」
「……なら最悪それでもいいかもしれないが」
果名にはまだ気になることがあった。和佐の存在だ。この屋敷には10年といなかったがそれでも人生の大半はここで過ごした。しかし彼女のプライベートな部分と言うのはほとんど見たことがない。アリスや美咲が病気で寝込むことはあっても彼女はない。そして、彼女の部屋と言うのも見たことがなかった。
「……そもそもあんた本当にここに住んでたのか?所々入れない部屋があるぞ。つまりあんたの知らない部屋ってことになる」
「……俺がこの屋敷に、黒主家に入ったのは12歳の時だ。当時まだ10歳だったアリスを連れてな」
「妹は?」
「……美咲は便宜上俺の妹となっているが血のつながりはない。あいつは俺がこの町に来た最初の日に出会ったんだ。当時のあいつはろくに口もきけないよく分からない奴だった。ただ変な白衣の奴に狙われててな。興味本位で俺はあいつを助けてしまった。代償に俺は左腕を失っちまうわけだが。大けがを負った俺や美咲をアリスが見つけてくれてそれで3人で逃げて、たどり着いたのがこの屋敷だった。この屋敷に一人で住んでいたのが和佐さんなんだ」
「……それはそれで妙だな。彼女とて当時は中学生くらいじゃないのか?」
「……いや、見た目は今と大して変わっていない。そもそも俺はあの人の年齢を知らないんだ」
「まさか不老不死だとでも?」
「分からない。だが、その神秘性も今となっては確かに不気味かもしれないな。だから俺はこの屋敷を探るんだ。……昔のことはしばらく置いておこう。俺が黒主正輝として生きた最後の日であるあのクリスマスの日まで」
「……三日前に10月30日も重要な日って言ってなかったか?」
「ああ、確かに重要だな。あの日は美咲が初めて学校に行く日なんだ。当時の俺はそわそわしすぎてて大変だった。心配のし過ぎで女子更衣室にまで入ったわけだしな」
「よく退学にならなかったな」
「その時に着替えていたのが美咲と好美と舞と歌音だけだったからな。当然コテンパンにボコられたが報告とかはしないでくれたから問題はなかった。まあ、ともあれわざわざ見に行くようなまでの重要度ではないだろう。美咲の制服姿を見たくないかと言われれば見たいがそれはクリスマスでも間に合う話だ」
「……まあ、いいとしよう。けど尚更巫女さんに話しかけた方がいいぞ。確かに記憶世界で現実や歴史には一切関係しないがその一時の時間をもとに作られている。だから部屋の内装を知らない、記憶にない事で入れない部屋はあるだろうが知らない情報を知ることは出来ないことはないんだ。だからせめてここで黒竜牙についてだけでも調べておいた方がいい」
「……そうだな」
と言う訳で一度稽古場へと戻る。そこでは正輝が和佐から稽古をつけられているはずだ。
「……」
それを見ながら再び果名は違和感に襲われる。
「今度はどうした?」
「……いや、どうして和佐さんは平然と当時の俺に黒竜牙の使い方を教えてるのかと思って」
「?」
「だって本来ならあの黒竜牙は和佐さんから渡されるんだ。でもこの世界では俺が直接渡したから当時の俺は和佐さんからは受け取っていない。和佐さんも俺に黒竜牙を渡したという事実はないはずだ。だから和佐さんの手元にはまだ黒竜牙は残っているはず。あれだけの力を持った剣だ。複数用意されているだなんて考えづらい。それをどうして不思議に思わないんだ?」
「……」
やや考えてから剣人は畳の上を歩き、正輝たちに歩み寄った。
「おい、」
そしてそのまま和佐の肩に触れた瞬間だ。
「やっ!」
「!?」
その直後に剣人は投げ飛ばされた。水切りのように何度も背中を畳に叩きつけられながら果名の傍まで戻ってきた。
「大丈夫か?言ったろ?あの人は柔術の……」
「そうじゃない……!この世界の人間は俺達のことを基本認識できないんだ。こちら側から接触しない限りな。だが、今は違う。まだ接触はしていなかった。それなのに俺を投げ飛ばすだなんてあり得ない……!」
言われて理解した。そしてもう1つ。和佐が急に認識できないはずの剣人を目の前で投げ飛ばしたというのに正輝が無反応だ。剣人のことは認識できなくとも和佐のことは認識できるはずなのに。和佐は確かにすぐに稽古に戻ってはいるがしかし確実に剣人を投げた時にその動作は行っている。
「……」
今度は果名が畳の上に上がる。ゆっくりとしかし無遠慮にかつての自分へと近づき、腰にある黒竜牙に手を伸ばす。しかしその手が阻まれた。
「やっ!!」
「ぐっ!!」
気付いたら剣人と同じように和佐に投げ飛ばされていた。起き上がったばかりの剣人の足元に転がり、衝突しては二人で転ぶ。
「悪い」
「いや、それよりも何なんだあの人は。今度はあの人関係なかったぞ!?制空圏とかそんなもんじゃない。あれは明らかにこっちに気付いている……!!」
「……どうして……」
果名が疑問を持ち、立ち上がった時だ。屋敷にインターホンの音が響いた。この時間、アリスは買い物に行っているため不在である。天使たちも確か外に出てそれぞれ目的のために調査中だ。美咲はいるが間違いなく来客に応じるようなことはしない。とすれば必然的に応対するのは和佐だ。
「はーい」
すぐに和佐が巫女服姿のまま畳部屋を出て玄関まで向かう。
「……しめた!」
その後をすぐに剣人が追いかけ、すぐに果名も後を追いかける。
「おい?」
「足止めするぞ!!そうすれば俺達を無視できまい!!」
「!わかった!」
二人が長い廊下を走り始めるのだが、しかしすぐに立ち止まった。和佐の背中が前に見当たらないのだ。いくら足が速くとも一般人の女性であれば剣人や果名が見失うようなことはあり得ないはず。とりあえずそのまま玄関まで向かうと既に和佐がいて対応をしていた。
「と言う訳でこの人を運んできたんですけども」
そこには一人の少女がいた。そして少女は明らか具合が悪そうな結羽に肩を貸していた。顔が赤く、こちらにまで熱気が伝わってくる。あまり外の干渉を受けないから気にしていなかったが今日は10月にしては異例の暑さだ。気温の変化がほとんどない天使界に住んでいた天使達が地上にやってきて最初にぶつかる壁はこの気温差だろう。昨日まで15度程度だったのが突然20度を超えればそれまでの厚着では体調を崩すのも無理はない。しかし気になることはある。確かに記憶の中でも一度10月に真夏日はあった。結羽が体調を崩すこともあった。しかしその時に介抱したのはあの見ず知らずの少女などではなく歌音だった。
「ありがとうございます。お礼と言っては何ですが少し上がってください。お菓子をお出しいたします」
「あ、ありがとうございます!……でもその出来ればまずはおトイレを貸していただけたら……」
赤面の少女。彼女から結羽を引き取り、おんぶにした和佐はすぐに少女を女子トイレへと案内した。
「……なあ、もしかしてあの日秀人が死なずに済んだからこの世界の中で歴史は変わっていってるんじゃないのか?」
「その可能性は普通にあり得るぞ。前の例で言えばこの世界のお前を殺しても今のお前には一切の影響はない。しかしとどまっている間この世界ではお前が死んでしまったifの歴史が作られていく。そういうシミュレーションが見てみたいって奴には中々人気のあるカードなんだがな、リターンは」
だとすれば今歌音が現れなかったのは秀人とデートでもしてるのか或いは秀人が死ななかったことで塞ぎ込まなかったから好美達と遊んでいるとかか。
「東雲(しののめ)咲(さき)です」
和室。最中を食べながら少女は名乗りを上げた。その名前には当然聞き覚えはないが、和佐は縁側でやや薄着に着替えさせた結羽を膝枕にして彼女の相手をしていた。
「その子はあなたの妹さんですか?」
「いいえ。でも妹みたいなものですよ」
軽く結羽の頭をなでる。わずかだがその顔色もよくなっている。そしてそんな彼女の背中を咲は見ていた。
「……その子、天使ですよね?」
「あら、天使をご存じなんですか?」
「はい。私のところにも一人いますので。本当はあの子の知り合いかなって思ったんですけどもあの子は他人の天使にはかかわらない方がいいって言うものですから」
「……天使は基本的に友好的なはずなのですが……」
少し困ったような表情の和佐。その後ろでまたしても果名は難しい顔をしていた。
「そんなに他の対象者は珍しいのか?」
「……ああ。結羽に聞いた話じゃ当時この街にやってきた天使は結羽と雷歌だけのはずなんだ。だからそもそも対象者そのものがいるはずもない。この時点でまだ秀人が死んでいないってことがこの世界の歴史に多少変化をもたらしているのは事実かもしれないがしかし、そんな前提条件まで変わるものなのか?それに、和佐さんは天使の事を知らないはずなんだ。結羽と雷歌が天使だって知ってるのは俺と美咲だけのはずだから……」
「……確定だな。前者はともかく後者に関してはあの巫女さん絶対何か握ってるぞ」
言うと、剣とは剣を抜いた。そして果名が止める間もなく咲に歩み寄り、彼女の頭に剣を振るう。当然その一撃に殺意はない。しかし、気付いた時には剣人は赤を見た。当然咲の物ではない。それは、剣人自身の物だった。
「……何があった……!?」
見れば自分は畳の上に倒れていて鼻から大量の血が流れていた。どうやら思い切りぶん殴られたらしい。しかし自分は今気絶していたわけではない。だとすれば自分は今認識できない速さで殴られたということになる。速さだけならともかく未だに脳震盪しているように頭が重いため当然力も相当に込められたものだろう。技術だけならまだしもこうまで自分が手も足も出ない力と速さを有している少女の存在が信じられない。
「仮定を決めておこう」
今は不在の正輝の部屋。そこで剣人が治療を受けながら言葉を作った。
「仮定?」
「そうだ。もう完全にあの巫女さんは黒だ。ほぼ確実にただの再現された一般人じゃない。かと言って思い当たる節もない。だから多少無理があってもまだ無理のない何か別の可能性を考えておくんだ。いつまでも未知だなんて居心地の悪い想像をしたくはない」
「……で、たとえば?」
「お前の金属を操るGEARだったか?あれと同じでこの世界においても作用できる何らかのGEARを持っているというケース」
「……まあ、ありえない話じゃない。俺を含めてあの頃にもGEARを持っている奴はいる。GEARはただの力じゃなくて役割だって聞いたことがある。そうだとすると和佐さんの役割は何なんだ?」
「俺が知るか。別にリターンのカードで仮想世界を作ることもそこに身を投じることも決して秩序を乱すような事じゃあないから何かそういうタイムパトロールみたいな感じではないだろう。仮想世界の中で作られたレプリカだからこそ発動するだなんて超局所的なGEARだってそうそう思いつきもしない。そういう細かい話は今はいい。つまりだ。俺達側から彼女に接触を果たそうとしたら抵抗されるってだけで別にここにいて眺めている分には何もしてこないってことはつまり俺達の敵ではないのは確かだ。じゃあ何が目的なのか?」
「……接触を止めてくるってことは邪魔をされたくないってこと。でも俺達を認識していながら排除しようとはしてこないってことは和佐さんの目的には俺達が必要かもしれないってことか?」
「直接的な邪魔をしなければ別に問題がないってのは確かだろうな。だが、確実に異例な存在だな……」
鼻声になりながら剣人はリターンのカードを見る。

------------------------- 第142部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
130話「強襲のテンペスターズ」

【本文】
GEAR130:強襲のテンペスターズ

・剣人たちが仮想世界に行ってから5分。歩乃歌はすぐに果名がいないことに気付いた。
「……リターンのカードで修行にでも行ったんじゃないのか?」
相談すれば火乃吉からはそう返ってきた。同時に剣一からはその説明も受ける。
「便利なものもあるんだね」
「その分魔力の消費は半端ない。俺とこいつが協力してもせいぜい向こうで1日分くらいしか持たないな」
「だが、剣人は幼いころからキマイラと行動を共にしていた。召喚系カードであるキマイラを常時発動させているうちに通常では考えられないくらいの魔力を保有しているんだ。数年くらいは余裕でいけるだろう」
「そんなに差があるんだ……」
「未来でも僕は剣人さんには大変お世話になりましたからね……」
ライラがやや遠い視線を作る。その脳裏の中にはもう一人。
「……ライラさんはパラディンさんをご存じなんですよね?」
赤羽からの質問。
「ええ。この先数百年も続く剣人さんの……ライバルみたいな方だそうです」
「奴がセントラルに成り下がっていたのは驚きだな。いつも飄々としてどこの組織にも中途半端にしか手を貸さない奴だったが」
「火乃吉さん達もご存じなんですか?」
「ああ。この時代でもちゃんとあの野郎がナイトメアカードを世界にばらまいた張本人だってのは俺達聖騎士の間では有名な話だ。当然最初は信じられなかった。何せカードは降り注いだのは100年以上前だって噂だからな」
「それなのにあの若さはあり得ないだろ?だが奴は嘘か本当かは知らないが全てのカードに触れたことでナイトメアカードの司界者になった。司界者になったことで不老不死になったらしい」
「……不老不死」
ライラは脳裏で未来の剣人を思い出す。自分を何度も助けてくれ、そして1度は本気でこの首を狙ってきた彼は確かに数百年生きていた。それも司界者になったことで不老不死なのであれば納得できるものだが同時にまだ身近と言える存在が不老不死であることには驚きを禁じ得ないし半信半疑だ。尤もこの時代の剣人はまだまだ司界者ではなく自分よりも年下の少年だが。
そして問題はパラディンだ。火咲の談によれば彼らに襲い掛かってきたという。しかも普通ではない素振りで。間違いなくカードによる洗脳だろうが、しかしそれでも解さない部分はある。さっきも言ったようにパラディンはナイトメアカードの司界者だ。手元になくとも全種類のナイトメアカードを自由に扱える。ナイトメアカードにどれだけの種類があるかは分からないしパラディンがそれをすべて把握しているわけでもないだろうがしかしその彼をカードで洗脳出来るとは中々信じがたい。しかもパラディンはこのカオス極まる世界に来て警戒しているはずだ。カードの使いとしては今の剣人達をも上回るであろうテンペスターズの他9人が総出でかかったところで達成できる可能性はかなり低いだろう。しかもそうまでして洗脳するという手段を取っているのがもっと不思議だ。わざわざ洗脳なんて手段するくらいなら倒してしまった方が幾分かは楽に済むはず。だとすればテンペスターズにはパラディンを生かしたまま利用するための計画があるか、或いは倒すのはもちろん洗脳するのだって楽に済むような仕掛けがあると言うことだ。
ライラが深く考え込んでいると、
「あ、またライラ君が悪い癖してる!」
「へ、きゃ!」
いきなり後ろからティラが抱き着いてきてはその胸を揉み始めた。
「てぃ、ティラさん……!?」
「ライラ君はおちんちんよりかもおっぱいの方が感じやすいんだもんね。本当はパイ摺りしてほしいんじゃなくてしたい方なんじゃないの?」
「そ、そんな……み、皆さん見て……はうううっ!!」
「あ、そだ!」
ライラを悶えさせながらティラは赤面している赤羽たちを見た。
「蛍ちゃんから伝言で、夏目黄緑さんって人が目を覚ましたらしいよ?」


・病室。純白のベッドの上で黄緑が上体を起こしていた。表情は苦悶でこそないが未だ青白い。そんな黄緑の傍には紫音と来音がいる。
「……目を覚ましたのですね」
「……まあね」
赤羽に黄緑は返事をする。元の世界でもあまり面識がなかったからか言葉は少ない。むしろ黄緑の前で手四つの組合をしている紫音と来音の方が気になる。またそれとは別に何やら空気がおかしい達真、火咲、陽翼も気になる。
「……相変わらず元気がいいな」
「……黄緑さん。お聞きしてもよろしいでしょうか?」
「何かな?」
「あなたを襲ったパラディンさんについて。そしてあなたは私達と違ってあの世界から直接この世界まで生き抜いたと聞きます。この世界に何があったんですか?」
「……パラディンって言うあの化け物に関しては知らないよ。いきなり襲い掛かってきたんだ。時間を止めてもお構いなし。天死やスライト・デスなんて目じゃない。僕達ダハーカなんてアリみたいなものさ。それで、この世界だけども確かにあの矛盾の安寧からは200年近くが過ぎている。矛盾の安寧が終わったと思ったらいつの間にか世界は天死とダハーカの全面衝突で人類はほぼ絶滅状態。それでもまだ国が残っているし人口も1億人くらいは残っていたはずだ。だが、それから第三次大戦、そして奴らスライト・デスの襲来。これによってもうこの星に人間が生きる場所はなくなった。人口の9割9分以上が死に絶えた。……君達も見てきただろう?誰も住んでいない破壊された町の数々を。わずかに生き残り、毎年わずかずつだが新しい命が増えていく場所もあった。学園都市だ。だが、そこではもしかしたら死んだ方がマシだったかもしれないような惨状で溢れていた」
黄緑の言葉にシン達は唇をかむ。
「……だけど状況は少しは良くなっているはずだ。トリプルクロスの彼が動いてからは学園都市からスライト・デスが排除されて学園都市を支配していた幹部も撤退した。そして何よりも最高幹部を名乗っていたゴーストさえ君たちは倒したそうじゃないか。スライト・デスの幹部は4人。そのうち半分は既に倒されている。この200年、そんな事態は一瞬でも妄想すらできないような惨状だったんだ。……間違いなくこの世界はいい方向に向かっているよ」
「でも黄緑……」
紫音をヘッドロックしながら来音は続ける。
「もう世界の人口は1000人を切ってる。文明も終わりかけている。スライト・デスがいなくても正直人類には厳しい状況だと思うよ?」
「かもね。それでもやるしかないんだ」
黄緑が一度ベッドに横になる。今のだけでも体調的には厳しかったようだ。深い息を吐く。しかし次の瞬間だ。黄緑は勢いよく起き上がった。
「黄緑?」「兄さん?」
「……どうやら望まれない客が来たようだ」
「客?」
「セントラルの上層統括組織・テンペスターズが数人来ている……ここが嗅ぎつかれたようだ」


・二つの闊歩がある。一歩するほどに片や爆炎をまき散らし、片や凍結を広げる。およそ人間とは思えない姿をした二人組はレッドバーンとブルーバーンだ。赤いトカゲのような姿をしたレッドバーンとさらにもっと化け物じみた怪物のようないでたちの青い奴がブルーバーンだ。
顔以外は全く似ていない二人だが双子である。そしてどうみてもスライト・デスの怪人にしか見えないがれっきとした地球人である。手品は簡単だ。彼らの母親が寄生型の怪人に襲われて凌辱されては彼らを生んだ。その後その怪人は分裂して今度はこの二人に寄生したのだ。ほとんどの怪人が自力では子孫を増やせない中こういう例外は非常に珍しく、そして有力だ。この二人は完全にスライト・デスの細胞に脳や肉体を支配されている。しかし二人に含まれているGEARやナイトメアカードの魔力が彼らをまだ人類側の立ち位置に属させている。何より彼ら自身はこの事実を知らない。そのおぞましい姿もこの非文明的世界が生み出してしまった奇形だとすれば誤解できないこともない。
「しかし妙なこともあるものだ」
「ああ、まさか本局の大臣から直接命令を受けることになるとはな」
二人を動かしているのはキングからの命令ではない。本来テンペスターズの上に立つ者の指示だった。ここ最近はキングの好きにやらせていて一説によればすでにスライト・デスに殺されているのではないかと噂にもなっていたが杞憂だったようだ。
「……さて、言われたからにはここにいる人間を皆殺しにするぞ」
「ああ、最後の残党退治だ。他の奴らが盛大に妬むくらい派手にやってやるぜ」


・セントラル。キングの部屋。
「なんだい?あの双子を行かせたのか」
筋トレ明けで半裸で酒をかっ食らいながらミネルヴァは問いかけた。それを見ては一瞬蒼白の表情を取ったキングは気を取り直しながら
「1つ聞こう」
「何だい?」
「どうして裸……」「あん!?」「いや、違う。なんでもない。俺が聞きたいのはあの双子が人間に見えるかってことだ」
「……は?スライト・デスの怪人を騙くらかすか生まれたてのあいつらを攫ってストックホルムにでもしたんじゃないのか?」
「……お前はセントラルを何だと思ってるんだ」
「地上を支配し、文明を死滅させて地球を枯渇させようとしている悪の組織」
「……お前は父親からの命令とは言えそう思っていた組織に属そうと思ってここに来たのか?」
「あたしゃそういうキャラだからね。で、あの双子は何なんだい?どっからどう見ても怪人じゃないか」
「……まあ間違ってはいない。体細胞のほとんどがスライト・デスだし医学的に見てもまあ、その通りだろう。だが一応あいつらは精神だけ見れば地球人だ。昔から弟とよく馴染んでいたのを見てきたからわかる。どうやらナイトメアカードの影響らしい」
「……カードの力で化け物になったんじゃなくて化け物だったがカードの力で人間の心を得ているってわけか。そう言う奇跡もあるものなんだな。で、どうしてそいつらを行かせたんだ?……捨て駒として」
「もしものことを考えてだ。俺達の上にはスライト・デスがいる。もしも連中が俺達を見限ることがあればその最初の一手に奴らを使ってくる可能性は十分に考えられる。あいつらのことが信じられないわけじゃない。むしろ反骨心たっぷりな愚弟の数倍はあてになる。だが、身と心、そのうちどちらか片方だけでも奴らの手の物である以上もしもを考えておかなければいけない。それに……」
「ん?」
キングはミネルヴァが持っていた酒瓶をひったくって一気飲みする。大口を開けて呆然としているミネルヴァの前で完全に酔っぱらったキングはしかし慎重を期した声で放った。
「もしも奴らが本当にスライト・デスを倒し地球を救う存在だって言うならばあの双子との戦いは中々の見ものになる。あの双子を相手にどうするか次第で奴らを天秤に乗せることだって考えられないこともないのだからな」
酒瓶を窓の外に放り投げるキング。ミネルヴァは肩をすくめながらも口笛を吹いた。


・X是無ハルト亭。庭園。そこは今真っ赤な炎と真っ青な氷に覆われていた。
赤青双子が存分に力を発揮しているのだ。そしてその相手は偶然近くにいた達真、火咲、紫音、来音の4人だった。火咲がどうにかして近づこうとしても炎や氷に遮られてどうしようもない。
「あんたも何かしなさいよ」
「俺に死ねというのか?」
火咲の軽口、達真の淡々。その中紫音は深呼吸をしていた。
「紫音ちゃん何するつもり?」
「……あんたには関係ない……っ!!」
そう叫んだ紫音は真っすぐ炎の中に飛び込んだ。当然その身は激しく焼かれ、名校の制服はすぐに灰となって紫音は全身火傷の下着姿となる。必死に自重を支える両足は皮膚が爛れて骨が見えて来てはさらにその骨まで少しずつ溶けて行く。
「……ふっ!!!」
煌びやかな笑みだった。浮かべた紫音は烈火のような視線を双子へと向ける。
「逆上(アベンジ)ィィィィィッ!!!」
「!?」
燃えるような絶叫が轟くとその最中に双子は膝を折った。突然全身を炎が燃え盛っているような激しい熱が襲い、さらに両足が軋むように痛みを生み始める。
「……な、何だこれは!?」
「……まさか、あの少女は自分が受けたダメージを他人に移すことが出来るのか!?カードもなしにこれがGEARか!?」
瞬く間に双子の両足が焼け爛れて皮膚と骨と肉が同時に溶けて流れていく。反対に紫音の両足や全身は逆再生するかのように元に戻っていく。
「……そこっ!!」
その紫音の頭を飛び越えて火咲が庭園の中心に着地。同時に周囲に超局地的な地震が発生。大地に亀裂が走っていき、事前に察知した達真たちが避難すると同時、動けない双子は発生した地割れの中に落下していく。穴は相当深く、少なくとも肉眼では底が見えないほどだ。しかし、火咲も達真たちもこれで勝利したとは微塵も思っていなかった。何故ならば、
「……GEARとはとんでもないものだな」
「ああ、まったくだ」
双子は背中の翼で落ちていなかった。ばかりか取り出したカードの力で両足を治療する。そして、その場に似つかわしくない爆音が響いた。
「……何だ、お前まで来たのか」
ブルーバーンが振り返る。それは屋根の上。そこではソゾボルトがエレキギターを全力で鳴らしながらヘドバンしていた。
「Hey Everybady!!光をめざせぇぇぇッ!!!」
何か熱唱しているが当然聞き惚れるわけもなく火咲たちはより緊張を高めた。自分達が戦うべき相手であるテンペスターズの聖騎士がまた一人増えたことをすぐに理解したからだ。

------------------------- 第143部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
131話「テンペスターズVSメンバーズ!!」

【本文】
GEAR131:テンペスターズVSメンバーズ!!

・庭園にて戦闘が起きている。その事実は過去の世界に行っている果名と剣人以外の全員が気付いていることだ。しかし他に関してはそうではない。例えば裏口。
「……こいつら……どこから……!?」
「今は逃げるしかないわよ!」
眞姫と繁が走る。背後からは首のないグールたちがざっと見ても数十人以上ゆっくりとしかし確実に追いかけてきている。グールは天死によって殺された人間の成れの果て。そしてそのグールに襲われた場合でも同じグールになってしまう可能性があるとは既にパラディンから聞いている。PAMTに乗らなければただの中学生である二人は今はただ逃げることしか出来ない。逃げながらスマホでこの事実を他のみんなに知らせようとするがしかし何故か電波が繋がらない。蛍がいればパラレルフォンでもP3でもスマホでも電波は繋がり通常通りに連絡は可能なはず。つまり、蛍の身に何かが起きたか或いは蛍の権限以上のジャミングがかけられているかのどちらかだ。前者は恐らく最悪の可能性だ。PAMTの使用すら出来ない事になる。つまり下手をすれば元の世界にも帰れない。しかしそれは蛍も分かっているだろうから迂闊なことはしないはずだ。何よりも歩乃歌や火咲が近くにいるはずだ。スライト・デス相手でも何も出来ないということはないだろう。だとすれば……。
「どこかで電波だけを妨害しているってことだな!」
「けどどうするの!?どこか部屋に逃げ込んでも突破されるかもだし……!」
「生身でも戦える奴のところに行くか、外に出てPAMTを使うかだな……!」
しかしそこは2階。1階へ降りるには長過ぎる廊下が目立つ。今まで何度か部屋を通り過ぎている。もしも誰かがこの廊下に出てしまったら……。と考えたところで勢いよくドアが打ち破られた。
「臭いのよ!!」
アコロだ。手に持った方天画戟のひと振りで一気にグール達を何体も粉々にする。気付いた他のグール達がアコロに向かうも、その手が届くはるか前に片っ端から蹴散らされていく。グール達で作られた川は中腹から少しずつ流れを止められていき、廊下には無残な残骸だけが高速で作られていく。
「……頼もしいな」
「でもアコロさん一人じゃ……」
走る二人。すると、前方の廊下に突然グールの大群が出現した。
「いきなり現れたぞ!?」
「誰かの差し金みたいね……!」
「っておい、何するんだ?」
「そろそろうざいってだけよ!!」
「いやだからおい!!??」
眞姫は繁の袖をつかむと、諸共に窓を突き破って外に飛び降りた。
「アボラス!!」
空中で眞姫はパラレルフォンのシステムを起動させてアボラスを召喚。一瞬でその中に入り、グールの川が蠢いている廊下に向かってバルカンを斉射した。UMX相手では大したことない攻撃もサイズが違うグール達相手では頼もしい。廊下を埋め尽くしていたグールの大群は数秒で粉々となる。
「さあ、敵はどこ!?」
眞姫はレーダーも活用して周囲を探る。レーダーはX是無ハルト亭やその周囲も索敵範囲に入っていて既に登録してある仲間達の反応が表示される。
「……果名さんと剣人さんがいないわ。あと、何人か知らない人達もいる。……あれ?歩乃歌がいない?」
「……!おい牧島!!」
「え?」
繁の叫び。眞姫が振り向くと同時、アボラスは宙を舞った。
「……」
先程までアボラスがいた正面に大男がいた。それも通常のサイズではない。アボラスよりもやや大きい20mものサイズだ。それは巨大(ビッグ)のカードを使ったグラーザンだった。
「……」
グラーザンはゆっくりと周囲を見回し、そして軽く手を振るった。まるで蚊でも払うように。
「くっ……!!」
わずかな感触と悲鳴があった。それは宙を飛んでいた火咲だった。不意の直撃を受けた火咲は無気力に落下していき、屋根を貫いた。
「……人の獲物を捕りやがったな」
地上。ブルーバーンが舌打ちをする。その隣ではレッドバーンが眉間にしわを寄せていた。
「……どうしてグラーザンが来ている?それにソゾボルトもだ。大臣からは私達だけが命令を受けたはず」
「そんなことよりも俺の歌をきけぇぇぇッ!!」
ソゾボルトの放ったエレキビート。それは通常の何倍もの大きさであると同時、電撃をも纏っていた。それでいてソゾボルトが望んだ相手にしか効果が及ばない。
「ぐうううううううううううう!!」
より近くにいたブルーバーン、レッドバーンには一切の影響なく、遠くにいる達真、来音、紫音が爆音と電気で苦しみの声を上げる。
「……この音、ソゾボルトだな」
X是無ハルト亭・廊下。ゼストはそこにいた。ゼストは兄の意見には反対だった。しかしスライト・デスが本格的に動いたりそれにより敵が無残に虐殺されるよりかはまだ先に自分が動いて温情的に無力化した方がマシだと判断したのだ。無意味な戦闘は行わずに敵側の主力のみを自身が倒す。そうすることで無意味な人間同士の争いは必要最低限に抑えられる。そう判断した。
「……だが、貴様ではないだろう」
ゼストの視線の先。窓淵に座るのは一人の少年。
「zazaza!!何の話をしているんだおっさん?」
それはラークを咥える十毛と鎖で繋がれたアルケミーだった。
「君達はこの地上をどうしたい?救いたいというのは無理な話だ」
「おいおい、おいおいおいおい。何勝手に決め付けてくれてるんだよおっさん。言っておくが俺達はな、あんたらセントラルはもちろんスライト・デスの野郎どもにだって負けるつもりはないんだ。いいや、奴らとの勝負だって暇つぶしに過ぎない」
「何!?」
「いいかおっさん。あんただって俺が直接相手をするまでもないんだ。……部下で十分」
十毛が笑い、煙を吐くと、その正面に時空の歪みが出現する。
「?」
「おい十毛。誰がお前の部下だ!」
声が聞こえる。やがて時空の歪みが消えると同時そこには12人の少年少女達がいた。
「臨時隊長である俺様の命令に従えよ。せっかくそれなりに強化しての臨時召喚だと言うのに」
十毛の前に立ったのは自身、零、欠番を除いた全メンバーズだった。突然出現した、それも明らかに素人だと分かる高校生たちを前にゼストは一瞬だけ槍を握る手の力を緩めた。その直後だ。
「へえ、いいものを使ってるな」
「!?」
ゼストの手にあった槍は鳥の手の中にあり、さも当然のように十毛に渡される。
「貴様!!」
「っと!」
突進してきたゼスト。しかし、次の瞬間にはその姿は消えていた。
「……ここは……?」
足を止めたゼスト。そこは見覚えのない場所。体育館のように広大な屋内施設。しかし武骨で無機質な場所。
「どこだここは?」
ゼストがテレポートのカードを手に取った瞬間だ。突然壁ともドアともつかない場所が左右に開かれ、武装した男達が無数に入室しては一斉に機銃を発砲した。
「……少しやり過ぎなんじゃないのか?」
X是無ハルト亭。廊下。砂が訝しむ。相手は鴨だ。
「いくらなんでも隊長達が赤羽兄妹を救出に向かった時空の三船研究所に強制転移はあの男でも死ぬんじゃないのか?」
「別にいいのよ。難しいことは考えなくても。今私達は十毛に一時的に召喚された仮想の存在。本物の私達がどうなっているかは知らないけどもどのみちやれることは限られてる。ならそれをやるだけじゃない」
「……割り切ってやがるなぁ」
天井に立つ蟹がため息をこぼす。
「けどさ、どうしてメンバーズだからってこいつまでいるんだ?」
龍は怪訝な顔で後ろを見た。そこにはかなり気まずそうな表情の裏闇裏丸がいた。
「……裏切りのメンバーズ16番目、零吉裏闇裏丸。零隊長のパラドクスだったか?一度こいつのせいでメンバーズは物理的に壊滅してるんだが」
鳥がにらみ、犬がブルドッグや土佐犬と共にその足や手に噛みつく。
「仕方ないだろ。こっちだって一応所属はメンバーズでもあるんだ。だから当時のこっちが召喚されるのは別に間違いじゃない」
「zazazaa!!あの憎き裏闇裏丸だって今は俺の手足も同然なんだ。しかもいくらでも使い捨てられるしな!!さあ、下僕同盟ども!俺の代わりにこの屋敷を蹂躙している下劣な魔法使いどもを叩きのめしてこい!!」
高笑いの十毛。他の12人はものっそいいやそうな顔をしながらも人ならざる速度で行動に移った。


・庭園。
「ちっ、どっから出て来やがった!?」
激高するブルーバーン。その眼前に時空の歪みが出現すると同時、全重量1トンもの凄まじい重武装を施された鎌が飛び出てはブルーバーンをひたすら殴りまくる。さらに雲母が背後からガトリングガンを斉射。
ブルーバーンの援護のためにと向かおうとしたレッドバーン。しかしその足元にいきなり出現したモグラが彼の足をくじき、バランスを崩したレッドバーンに100匹のドーベルマンと共に犬と砂と結が突撃する。
「……!」
巨大化したままのグラーザン。しかし突然眼前に蟹が出現してはその両目に向かってタバスコの塊を叩きつける。
「デンジャラスクソオオカブトォォォォォォォッ!!!」
今度は空の彼方からUMXと見まがうような巨大なカブトムシが飛来。上に載っている兜と龍の合図でグラーザンに突撃。バランスを崩して後ろに倒れるグラーザン。
「よし、いいタイミングだ」
そこでは無良が大量の地雷を敷いていた。
「で、俺はどうやって逃げればいいんだ?」
地雷原の中央&倒れてくるグラーザンのど真ん中で冷や汗を流す無良。しかし、直後に時間が止まり、鳥が無良を回収する。
「……いま、ダハーカ以外の力で時間が止まったような……」
廊下で黄緑が首をかしげる。直後に屋敷の外で大爆発が発生する。
「せっ!!」
「はぁっ!!」
屋敷の屋根の上。縦横無尽に飛び交いながら裏闇裏丸が拳を、ソゾボルトが電気の塊をぶつけ合う。
「やるな、ガキ!!」
「ふん、よくもまあこっち相手に電気を使えるもんだな!だが!」
加速。素早くソゾボルトの懐に入り込み、
「大自然の意思<ワイルドネイル>!!」
「!?」
裏闇裏丸の爪が鋭くとがり、ソゾボルトのわき腹を裂いた。
「……何だ今のは……?」
バックステップで距離を取るソゾボルト。しかし、着地叶わず転倒。地上まで落ちていった。
「……これは……毒か何かか……?」
「知性を持たないものには支配を、持つ者には神経毒を!それがこの爪の、俺の力だ!」
裏闇裏丸もまた地上に飛び降りて、仰向けになっているソゾボルトの腹にニードロップで着地。既に痛覚を失っているソゾボルトは痛みなく、しかし口から内臓の残骸を吐き散らす。
「さて!!」
続いてソゾボルトの両足を掴んで空高くジャイアントスウィング。上空100メートルまで到達してから裏闇裏丸はソゾボルトの背後に追随。上下逆の背中合わせになり、両足でソゾボルトの首をクラッチ、両腕で両足首を掴んで腹筋だけでコの字に固める。
「くらえ!!ナックルスパァァァァァァァァク!!!!」
首、背中、両足を極めた状態で100メートルの高さから亜音速で落下。
「が……がああああああああああああっ!!」
落下激突と同時にソゾボルトの両足と首が胴体からちぎれ飛び、背骨がへし折れる。激しい血しぶきをあげながら3つに分かれたソゾボルトはやがてピクリとも動かなくなった。
「……ただ相手を戦闘不能にしたいっていうときにはやっぱこれだよな」
顔に付いた返り血をぬぐいながら裏闇裏丸は小さく笑い、去っていった。

・爆炎広がる森林。そこに1つの影。
「……」
グラーザンだ。しかし元々通りの大きさで傷だらけだ。その両手には
「……くっ、」
ボロ雑巾のようになって動かない鳥、無良、蟹、兜、龍が引きずられていた。一時的な召喚による仮想生命故か既に死期による肉体の消滅が始まっている。
「……」
グラーザンがそんな3人を手から離して身構える。前方には死の爪と翼。
「……誰であってもこの森を傷つけるものは許さない」
100メートル以上先、枝の上に立つのはシリアル。グラーザンが懐のカードに手を伸ばした瞬間、その手ごとシリアルの爪が胸を貫いた。
「…………っ!!」
「……このまま……」
シリアルが翼を広げようとした時。その翼に重りが重なった。
「これは……」
「……やらせません……!!」
背後にいてシリアルの翼を捉えていたのはライラだった。
「……ライランド・円cryン……どうして邪魔をする?」
「あなたに人を殺してほしくないから……!!」
「……ふん、」
シリアルは鼻を鳴らし、ライラを引き離すと同時にグラーザンを放り投げた。
「……シリアルさん……」
「その甘さが僕達を滅ぼすことになるんだ……」
それだけ言ってシリアルは飛び去る。それを見届けてからグラーザンの方へ駆け寄るが既に出血多量で死んでいた。


・庭園。
「……やりたいことはそれだけかな?」
笑うレッドバーンとブルーバーン。その前では鎌、雲母、犬、砂、結が倒れていた。それぞれが既に肉体の消滅を始めていた。
「くっ、やっぱりだめか……」
「あたし達素人だもの……」
「け、ケルベロスにさえなれれば……」
「や、やめとけって……止めるの苦労するんだから……」
「ううう、俺のラッキーもこれまでか……」
5人の消滅。それを紫音達は物陰から見ていた。最初は助けになるかと思ったが頼もしかったのは最初だけ。あの二人がカードを使っただけで一気に形勢が逆転してしまった。あの5人が弱いのではない。相手が、ナイトメアカードが強すぎるのだ。意味のない話だがもしも相手がカードを使わなければ勝負はどうなっていたかまだ分からなかっただろう。前に何度か聞いたことがある。ナイトメアカードは1枚あるだけで国を亡ぼすだけの力を有していると。それを個人で所有している事がこれほど脅威だとは思わなかった。本来ライラたちがいる世界ではこのカードのせいで国家の大半が滅ぶ人類史最悪の戦争を引き起こしたというのも納得だった。
「……さて、かくれんぼは終わりだ」
ブルーバーンが紫音達へと歩み寄る。
「……矢尻君」
「先輩?」
「今すぐ私を半殺しにして。それをあいつらに移すから……」
「……だけどもしも死の方が先に来てしまったらあなたは……」
「それでもただ殺されるよりはましでしょ?早く!!」
紫音は達真の手を自らの首に引き寄せる。が、同時に達真は本気の力でそれを振りほどいた。
「……矢尻君?」
「………………それはだめだ……」
後ろを向く達真。後ろからでも分かるくらい滝のような汗をかいていた。そしてそれに気を取られているうちに、
「捕まえたぞ」
「きゃああ!!」
「来音!?」
振り向けばブルーバーンが来音の手を掴んで引き寄せていた。よく見ればそこから来音が少しずつ凍っていく。
「さあ、まずはおかしな力を使う貴様から始末しよう。だがまあ、また何かされても困る。だから自害をしてもらおうか。そうすればまあ、無害であるこの少女は離してやろう」
「……私に自分と来音の首を天秤にかけろって言うの?」
「そうだ。おっと、舌を噛みちぎって死ぬのはやめてくれよ。あれは窒息死を招く。窒息死を招くということは時間差があるってことでその時間に例の力を使われたらたまったものじゃない」
「……」
その選択肢はわずかだけど紫音の中にもあった。しかし意味がない事も知っていた。確かにその時間差があれば相手を同じ状態に出来るし自分は死を免れる。だが、相手は回復系のカードがある。時間差があるってことはそのカードの力で振り出しに戻されるということだ。
逡巡が紫音の体力と時間を奪っていく。しかしそれすらも突然奪われた。
「……ごふっ!?」
「!?」
何かが降ってきたと思ったら突然紫音は大量の血を吐いて膝を折った。
「……手っ取り早い方が好きでしょ?」
降ってきたのは火咲で、その手で紫音の腹に風穴を開けていた。
「……いい働きよ、最上さん……!!」
腹と口から大量の血をこぼしながらにやりと笑った紫音はブルーバーンをにらむ。
「ちっ!」
「逆上(アベンジ)!!」
その言霊が放たれると同時、紫音の腹が再生。逆にブルーバーンの腹が大爆発して風穴を作る。
「ご、ごああああああああああああああ!!!」
叫び声。その中には血も混じる。しかし血しぶき上がる彼の腕の中には来音はいなかった。
「……黄緑!」
「……無事かな?」
黄緑の声。それに気付くと同時、来音、紫音、火咲、達真は黄緑と共に屋根の上まで移動していた。恐らく時間制御で移動したのだろう。
「兄さん……」
「紫音、いくらなんでも無茶をし過ぎだ。君はもう少し自分を大事にするべきだ」
「……でもどうせ来音の方が大事なんでしょ?」
「だからって君を心配しない理由にはなれない。だって紫音は僕にとってもう唯一の家族なんだから」
「……お兄ちゃん……」
黄緑と紫音が見つめ合う。それを来音が笑顔で見ている中、ブルーバーンは素早く回復系のカードを使って開いた腹の風穴を修復する。
「はあ……はあ……カードも使わない素人のガキに2度も殺されかけるとは……!!!こうなった以上は皆殺しだ!!」
続けて2枚目のカードを手に取る。
「氷結(ブリザード)・サブマリン!!」
発動を宣言。同時にブルーバーンを中心に零下200度の寒波が発生してあらゆるものが凍っていく。一瞬で木々が生い茂っていた庭園はスケートリンクか北極のように凍てつき、氷の地獄と化した。
「一体何なのよ!」
全てのグールを蹴散らして窓から飛び降りようとしたアコロが凍り付いて開かない窓に顔面衝突した。そんなアコロをしり目に再び廊下に無数のグール達が出現する。
「……どこまであたしに無双ゲーをやらせる気なのよ……!」


・セントラル。テンペスターズ基地。
「……踊れ踊れ。すべて妾の手の中で……」
偽艶がタロットカード占いのように水晶と10枚のカードを机に並べている。水晶にはX是無ハルト亭の映像が浮かんでいて、偽艶の任意のタイミングでカードを発動すれば距離を無視してX是無ハルト亭でカードが発動される。実際に先程から転移(テレポート)のカードで地球上のあらゆる場所からグール達を引き寄せては送っている。その上で連絡手段を潰すために妨害(ジャミング)のカードも使用している。
「ソゾボルトとグラーザンが死んだか。ゼストも行方不明。レッドバーンとブルーバーンはやや苦戦中。しかしヴァルピュイアが向かっている。敵は少々やるようだがしかし我々テンペスターズの相手ではない。精々妾を楽しませてくれるといい」
偽艶は笑い、再びカードを発動させた。

------------------------- 第144部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
132話「My garnet to Monochrome」

【本文】
GEAR132:My garnet to Monochrome

・西暦2008年。柊咲町。
果名はまだ黒竜牙を奪い返すことも出来ずにいた。直接的に正輝から奪還するということはもちろん、剣人が和佐を足止めしている間に実行してもいつの間にか二人まとめて蹴散らされてしまっている。
「せっ!!」
「だあっ!?」
そして見事100回目。果名も剣人も見事壁に叩きつけられて痙攣しながら床に倒れる。
「まったく。トイレで女性に襲い掛かるだなんてとんでもないことをします」
手をたたき、洗う和佐。用は足していないはずだがしかし十分らしい。タオルで手をふき、女子トイレから去ろうとする和佐。
「ま、待ってくれ和佐さん!」
その和佐の背に向かって果名は手と声を伸ばす。
「……」
和佐は足を止め、しかし振り向かない。
「ど、どうして話もさせてくれないんだ……?どうしてあなたはこの世界で自由に動けるんだ?どうして黒竜牙を俺に……」
「…………あなたが自分の物語を放棄してしまったからですよ」
「!」
やっと果名に対して言葉を作り、和佐は振り向く。
「改めまして、こんにちは。正輝様。いいえ、そのお姿ですと果名様と言った方がよろしいでしょうか?」
「……どうして俺のことを……」
「答えはおのずとわかると思います。黒竜牙は恐らくこの先再び手に入るチャンスはあると思います。だからいましばらくはお待ちください。あなたも少しずつとはいえ記憶が戻ってきているのではないですか?それでもなお不思議には思いませんか?あなたに何があって今のあなたになったのか」
「……それなら最終日に直接……」
「いけません。あなたはちゃんとあなたの本来の物語を進むべきなんです。確かに私はあの時事情があってあのような行為をしました。ですがそれはいずれまたあなたにこのような機会が訪れると分かってのことだったのです。果名様、あなたはいくつかの疑問や違和感を感じているでしょう。2008年の柊咲には結羽ちゃんと雷歌くんしか天使は来ていないのにどうして他に天使の対象者が存在しているのか。それに答えるならば彼女たちは本来あなたが未来で出会うべき存在だったからです。しかしあなたはそうはいかなかった。何故なら……」
和佐が言い淀んだその時だ。
「それはあなたがその世界を滅ぼしてしまったからじゃないかな?和佐さん」
「!」
直後、電光のように素早い紫色の何かが飛来して和佐に激突を果たす。
「……お前……紫歩乃歌!!」
驚く果名と剣人の前で激突を果たしたのは歩乃歌だった。
「……歩乃歌さん……」
「和佐さん、久しぶりだね。でも、あなたは矛盾してるよ。果名さんに本来の物語を進ませたかったって気持ちに嘘はないかもしれないけども、その本来の物語に進む歴史を破壊したのはあなたでしょ?」
「……どうしてそれを?」
「美咲やルネちゃんの記憶を覗いたんだよ。本来別の世界なのに何故かあの二人にはあなたについての情報があった。それで気になってGEARの力で調べたんだ。そうしたらまさかあなたが所謂2つ前の世界を娘のルネちゃんと共に滅ぼした張本人だったなんてね」
「……」
「滅んでしまったものはもう仕方ないでしょ。でも、それでいてどうしてまだ果名さんにこだわるのかな?そもそもあなたはどうして2つ前の世界を滅ぼしてしまったのかな?」
「……歩乃歌さんには関係のない話です」
「……そうなんだ。じゃあ仕方ないね。ちょっとだけ付き合ってもらおうか!」
再び歩乃歌は加速して紫色の閃光と化した。PAMTなしでの超光速戦闘空間だ。果名や剣人は歩乃歌がその空間に突入したことに気付いてすらいない。しかし、相手は別だった。
「……これくらいなら驚くほどじゃないですよ」
「!」
歩乃歌のタックルを和佐は容易く受け止めていた。だけにとどまらずその勢いを利用してバックドロップで床に叩きつける。
「くっ!体術じゃ不利か……!だったら闇椿で!!」
歩乃歌はどこからか漆黒の日本刀を2本取り出して起き上がりながら和佐に切り込む。それに対して和佐は同じくどこから取り出したともしれない金色の杖でその斬撃を受け止めながら歩乃歌の下腹部に蹴りを入れる。
「くっ!」
一瞬怯む歩乃歌。その一瞬で和佐は歩乃歌の背後に回り込み、ジャーマンスープレックス。さらに足を四の字固めに締め上げる。
「プロレス技……和佐さんそこまで器用で派手だったっけ?」
「手加減してますよ?私の本気の術は別にありますから」
「……システマとか言ったっけ?どっかの軍事国家で使われている本格的な格闘技だって聞いたけど」
「……誰の知識ですか?赤羽美咲さんには見せていないはずですが」
「あの子だけじゃないよね?和佐さんがその技を見せたことのある人物はそうそう多くはないはず」
「……まさか、」
何かを判断したのか、和佐は足の力だけで歩乃歌を投げ飛ばすとすぐに起き上がってバックステップで距離を取る。
「……流石の反応だ。だが少し遅かったようだ」
声。同時に和佐の両足の血管が破裂して血の海を作る。
「……あなたは……!!」
その血の海から突然人の形が形成された。よく見れば血液中の微生物が集合している。
「……ルーナ・クルーダ……!!」
「200年ぶりくらいか、甲斐和佐(アルテミス)」
ルーナは小さく笑う。
「どうやってあなたが……?臨時とは言えプラネット。リセットではなく世界線を跨ぐには十三騎士団並みの力があってもかなりの年月を要するうえ滞在していられる時間は限られている。どうして?」
「簡単な話だ。私があいつの力を借りて一度世界線に穴をあけて私一人分のプラネットの力をまずこの世界に申請する。私程度なら100万人分位のデータ移動で済む話だからな。そうしてこの世界に来た私があいつが来れるための助力をしていると言う訳だ。本当はそのままあいつと合流する予定だったのだがあなたの気配を感じたのでな。紫歩乃歌と協力してやってきたまでだ」
「ルーナとは前にこの世界で和佐さんと会った時に会ってるからね。あの時の和佐さんは仮想で出来た擬似生命(メモリー)だったけど今度は本物のようだね」
「ともあれあなたは十三騎士団でありながら世界を滅ぼすということをしでかしている。その隠れ蓑にこんな仮想世界や紫歩乃歌の非管理世界を選ぶとはかの騎士団も夢にも思わんだろうさ」
「……ルーナさん。あなたは勘違いをしている。私はとある目的のためにここにいるのです」
「黒主正輝、あいつの息子の面倒を見ることか?ならばどうして一度世界を滅ぼした?……まあ理由はどうであれあなたには末世(ラグナロク)へと来てもらおうか」
「……あなたにあそこへ行く権限がおありなのですか?」
「あなたを見つけたと報告すればすぐにゲートは開かれるさ」
「……まだ私は止まるわけにはいかないのです」
杖を握りなおした和佐。同時に破裂した両足が一瞬で再生する。
「……ナイトメアカードを使うそこのあなた」
「俺か?」
ルーナは振り返らずに剣人に声をかけた。
「すぐにこの仮想世界を終わらせるんだ。ここでは天の目もかすんでしまう」
「……何だか分からないがリターンを解除すればいいんだな?」
「……そうはいきません」
「!」
和佐が動く。剣人の埒外の速さで。一瞬で剣人の懐まで迫り、貫手をその心臓に向けて繰り出す。
「くっ!」
やや遅れてルーナは剣人と和佐の間に立ちその貫手を自らの胸で受け止める。
「ぐううっ!!」
「ルーナ!!」
和佐の手がルーナの胸を貫くと同時に歩乃歌が闇椿を振るい、和佐に袈裟斬りを左右同時に繰り出す。
「!」
少女たちの鮮血が宙を舞う。ルーナの胸から出た鮮血、和佐の両肩から舞い上がった鮮血、そして亜光速で杖で殴られたことで歩乃歌も口から鮮血を吐き散らす。
「うっ!」
倒れるルーナ、歩乃歌。逆に和佐は倒れずに2歩後ろに下がる。しかし両肩の傷は既に塞がっていた。
「なめてもらっては困ります。私も末席とは言え十三騎士団。月光の騎士ナイトアルテミスなのですから。いくらオンリーGEARの持ち主や天使界で作られた天王種(サブリジナル)であろうとも私に勝てるはずがないじゃないですか」
「……和佐さんはもっと理性的な人だと思ってたよ……」
「歩乃歌さんの判断に間違いはありませんよ。……とりあえず、」
「!」
和佐の杖から一瞬だけ電光が迸った。その電光が剣人が持っていたリターンのカードを消し炭に変える。
「げっ!!」
「これであなた方はこの世界を終了させることが出来なくなった。……ご安心ください。私の目的が果たされればちゃんと元の世界に還して差し上げます。……正輝様以外はね」
「……和佐さん……」
「正輝様、もっとこの世界をお楽しみください。明日よりは正輝様が本来未来で出会うはずだった方々との出会いが始まります。その上で正輝様が経験された2008年の物語も続きます。……そう、カオスです。2008年の未来と2010年の未来、さらに2011年の未来も混ざり合ってあなたが本来経験すべきだった日々が始まるのです。そしてその果てにあなたは……本来のご自分の人生を果たしてください」
言うと、和佐は女子トイレから去っていった。それを合図に女子トイレの床に広がっていた鮮血も消えていく。ただし、
「……きょ、強烈だね……」
「……小さな思い1つでも世界を滅ぼすような女だ。むしろまだ存分に手ぬるい。……それでも正直厳しいがな……」
歩乃歌とルーナの怪我は消えなかった。歩乃歌は軽傷だがしかしルーナは違った。その胸には風穴が開き、彼女の小柄は床に伏したままピクリとも動かない。
「ちょっとルーナ……まさか……!!」
「……大丈夫。私のGEARはここでは終わらない……。……相変わらずあの親子との相性は最悪らしい……」
言いながらもルーナは徐々に体から力が抜けていき、最終的に動かなくなった。

・三船研究所。現実でも現在でもない時空。かつて2所長が決闘して共倒れになった場所。
「……ふん、」
ゼストはそこにいた。彼自身は無傷で、しかし周囲には無数の死体。
「……しかしここはどこだ?セントラルではないようだが、兄さんが言っていた別世界とやらか?」
密閉されたドアを打ち破り、長い廊下を歩いていく。未来世界では既にない科学技術で用いられた施設がゼストの興味を引いてやまない。しかしそれに応ずることなくゼストは先に進んでいく。たどり着いた先はとある一室。
「……何やら不埒な因果を感じる」
槍の一撃でドアを打ち破るとその先には巨大な培養槽のようなものがあった。プールと言ってもいいか。ゼストが歩み寄り、中を覗く。
「……これは」
「それは羽シリーズだよ未来からの訪問者君」
「!」
声。振り向けばそこには白衣の男がいた。年齢は自分や兄よりも上。初老よりかは少し老いている。
「何者だ?」
「ラァールシャッハ・Mだ。いやしかしまさかあのテンペスターズの一人がここに来るとはね」
「どうして貴様がテンペスターズを知っている?それに羽シリーズとは何だ?」
ゼストが培養槽の中を見る。そこでは無数の少女たちがプカプカと浮かんでいた。いずれも同じ姿、顔をしてしかし全く動かない。
「君は世界最初の女性と聞いて何を想像する?」
「……イヴの事か?」
「そうワルプルギスの夜を喰らう大怪物でもなければナノマシンを搭載した金髪美少女でもないがしかしイヴだ。しかしそれは少し違う。それは人類最初の女性であって世界最初ではない」
「……この少女達がそうだとでも言いたいのか?」
「少し違う。まあ、ほとんど当たってはいるのかな」
「……戯言を聞く暇はない。俺にはまだ使命が残っている」
「ああ、ならばそれに追加だ。君とてスライト・デスをどうにかしたいのだろう?」
「……」
「スライト・デスが西暦2200年の地球を襲ったのには原因がある。それは世界の始まりに関係しているのだ」
「……聞いてやるから要件はさっさと言え」
「世界は何度かリセットを経験している。1回目のリセットを迎えたあの世界の始まりの女性は確かにイヴだったかもしれない。だが、2回目以降は違うのだよ。意図的に世界はリセットを繰り返されている。それはとある調査実験のためだ」
「調査実験?」
「そう。世界のリセットを行い続けているその存在はとある少女に不思議な因子が含まれているのを確認した。その因子は彼の知能を以ても何か可能性があるとしか判明できていない。だが、世界中宇宙中のほとんどの情報を知っている彼すら知らないその因子の情報は彼にとってはとても興味深いものだった。だから彼はその少女を見守ることにした。だが、その少女の中の因子の成長は極めて遅い。ならばと彼は一度諦めて世界の終わりまで見届けた。そして再びリセットを施した。何かしらの理由があったわけではない。ただ彼にとってはそれが日常であり使命でもあった。そこでリセットされた世界で再び彼女を見て彼は驚いた。何故かと言えばその少女の中の因子の成長が前の世界から引き継がれていたからだ。それに気付いた彼は少しずつでもいい、確かな成長が確認されてそれがどのような可能性を作るのかその目で見たかった。そのために彼は何度も何度も世界のリセットを行ってきた。その中には少女がいない世界も確認された。すぐにリセットを跨げば存在する世界にもありつけるがね。しかしいくらリセットしても少女が存在しない世界があると言うのは非常に癪だった。一番面白い監視対象が存在しないのだからね。それだと少し困る。そこで彼は彼女のクローンを作成することにしたんだ。正確に言えば作成させるようにとある人間に命じたのだけれどもな」
「……その少女がいない世界にはクローンとして培養した少女を放つということか」
「そう。何故かはわからないがクローンにも因子の成長は引き継がれている。それを作っているのがこの機密室だよ」
「それでスライト・デスと何の関係がある?」
「気付かれてしまったのだよ。宇宙の蛮族とも言えるスライト・デスにその少女の特異性がね。だから奴らは地球を襲った。何せ全宇宙の調停者ですら興味深いと判断している因子だ。それを自分達の手で支配したいと思わないはずもない。そこでだ。ゼスト・グランガルドガイツくん」
「……」
ゼストはわずかに身構える。
「元の時代に戻ったら地球上のどこかにあるはずのこの施設を破壊してほしいんだ。そうすれば興味の対象が消えてスライト・デスは地球から離れる。あわよくば自分達の遊び場と言ってもいい地球を大いに乱した事で調停者たちないしは十三騎士団までもが動いて彼らを殲滅するかもしれない」
「……1つ聞かせろ。貴様は何者だ?」
「……私はスライト・デスが地球を襲撃した数年後にマシントラブルでこの世界、この時代に来てしまったのだよ。地球上の文明を殺しつくしてしまったスライト・デスが私は憎くて憎くて仕方がない。かと言って私では元の時代に戻る術はないし、この時代からスライト・デス対策を微力ながら行うことしかできなかった。……それすらもどこかの誰かさんがマイナスに悪用してしまっているようだがね」
「……貴様の話、信じるつもりはない。だが、一応覚えておこう」
「それでいい。……ああ、それと。そちらに行っている私の娘たちをよろしく頼むよ。せめて苦しまないようにしてやってほしい」
「……善処する。転移(テレポート)・サブマリン!」
それだけを言い残してゼストはその世界から去った。

------------------------- 第145部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
133話「Monochrome1~翼狩りの炎~」

【本文】
GEAR133:Monochrome1~翼狩りの炎~

・果名は目を覚ます。昨日、和佐が宣言した新しいカオスの世界の一日目の朝だ。
「……何が起きるのか」
傍らにはまだ黒竜牙はない。黒主果名となってから一度たりとも話すことがなかった愛刀。もはや体の一部だと言ってもいいくらいだがしかし今はない事になれつつある。
「……それにしても昨日は大変だった」
和佐に倒されてしまったルーナ。歩乃歌によって傷が塞がったのだが目を覚ます気配がない。彼女曰くルーナがいればまだこの世界から脱出することも不可能ではなかったとのことだがしかし目を覚まさないのであれば仕方がない。ルーナが目を覚ますまで、そして和佐の言ったその時が来るまでは果名、剣人、歩乃歌はこの世界に滞在して黒主正輝の物語を見続けることしかできないようだった。
「……にしても、」
果名が外を見る。そこはちょうど中庭が見える。そこでは正輝と何故か歩乃歌が一緒になって走っていた。しかも和佐のトレーナー付きで。
「和佐さんは何を考えているんだ?昨日あれだけ派手にやり合ったって言うのに当然のようにまだ日常を続けてる。しかもあのボクッ娘まで乗っかってるし」
「……まあ、いいんじゃないのか」
隣。剣人が起き上がる。
「邪魔さえしなければ向こうは何も危害を加えるつもりはなさそうだし目的もはっきりしている。あんたに関してはまだ不明だが少なくとも俺達は刻が来れば元の世界に還してくれるそうだし。」
「……」
「……あんたの場合どうしたいんだ?本来の姿、黒主正輝としてこの世界に残りたいのか?もうこの世界はあの巫女さんが支配しているから仮想の物でもない。ああやってあのボクッ娘が積極的にかかわっているから分かりづらいが既に俺達はこの世界の住人となっている」
剣人の言葉で思い出す。本来リターンで仮想世界を見学しているだけ。そのつもりだった頃は食事をする必要はなかった。しかし昨夜突然胃袋が食欲を取り戻したと言わんばかりに信じられないくらいの空腹に襲われたのだ。
既に和佐はアリスに事情を説明していたのか果名達の事を知っていてその分の食事も用意されている。アリスが剣人はともかく果名の事をどう解釈しているかは分からない。元が仮想世界だからその辺は曖昧になっているのか和佐の力で無理なく理解させられているのかは分からない。
「……とりあえずトイレ」
便意をも催すことになってしまったのは不便だが生きているのだから仕方ない。部屋を出て男子トイレに向かう。と、曲がり角で雷歌と遭遇した。
「……雷歌……」
どう反応していいか分からずとりあえず名前だけ呼ぶと、いきなり雷歌に襟首をつかまれた。
「!?」
「お前が未来から来た正輝だってのは聞いた。だから教えろ。俺と結羽の仇の正体を……!!」
「……仇の正体……?」
「未来から来たなら知っているはずだ……!!」
「……悪いけど俺が来た未来ってのは1年や2年先じゃないんだ。今からで言うと200年以上も後。お前たちの結末を知っているわけじゃないんだ」
「……ちっ、」
雷歌は掴んでいた手を離して踵を返す。
「……だが、俺はお前の知る黒主正輝よりかは成長している。結構役には立つようになってると思うぞ?」
「……黒竜牙も過去の自分に奪われたままでか?」
「じゃあ今日中に奪い返せたら認めるのか?」
「やってみろ」
そうして雷歌は振り向くことなく去っていった。


・朝食時。
「……どういうことよ、これ」
美咲が明らか不機嫌そうにしている。何故ならば事情を聴かされないまま食卓には正輝と果名が隣り合わせで座っているからだ。
「未来の正輝様ですよ、美咲様。区別のために果名様と呼称してください」
「いや、待ってくれ和佐さん!俺説明聞いてないんだけど!?どうして未来の俺って存在が俺以外に既に受け入れられているのかな!?」
正輝が抗議の声。少々やりづらいと思いながらも果名も同様の抗議を上げる。
「もう正輝君も果名さんも少しは落ち着いたらどう?和佐さんは昨日の内に僕たちに説明してたじゃん」
歩乃歌は一切気にせずにアリスを抱きしめながらトーストを食べる。
「何でそんな落ち着いてられるのかお前は……。それより、過去の俺」
「え、俺?」
「そうだ。黒竜牙を返してくれ。それは元々俺の物なんだ」
「……え?いや、そうかも知れないけどあんたは未来の俺だろ?自分でも持ってるんじゃないのか?」
「それがその黒竜牙なんだよ!この前、無沙紀とやり合っただろ!?その時に俺のを貸してやったの!」
「むさき?って誰だ?」
「あ、くそ!そう言えばあいつが名乗るのはもう少し先だったか。この前この屋敷を襲った俺と同じ顔の奴だよ!月無沙紀!」
「……あいつのこと知ってるのか?って未来の俺だから当たり前か」
「本当だったらあの時あのまま秀人があいつに殺されててその後でお前は和佐さんから黒竜牙を手に入れるんだよ。けど俺はまた秀人が殺されるのを見たくなかったから一時的にお前に貸したの!だから返せ!」
「……分かった」
「え?」
驚く果名。その目の中で過去の自分がさも当然のように腰に差していた黒竜牙を抜いて自分に渡してきた。
「……いいのか?」
「ああ。未来だとこれが必要なんだろ?」
「……けどこれがないと無沙紀に勝てないぞ?」
「努力するさ。未来の自分に力を借りないとどうしようもないだなんて頼りないにもほどがあるだろ?そんなんで美咲を守り抜けるはずなんてないじゃないか」
「…………」
沈黙。絶句。過去の自分が放った答えは間違いなくかつて自分にも持ち合わせていたものなのだろう。それを完全に失念していた自分は今、過去の自分よりも頼りない存在なのでは?だとすれば幾ら4つくらい歳が上だからって、多少剣の腕で上をいっていたからって何の関係があるだろうか。
「……おいボクッ娘」
「確かに僕はボクッ娘だけれども僕には紫歩乃歌ちゃんって言うかわいらしい名前があるんだよね」
「じゃあ紫歩乃歌ちゃんよ、これを預かっててくれ」
果名は黒竜牙を歩乃歌に渡す。
「どういうこと?」
「俺だってこんな格好で過去の自分から恵まれて黒竜牙がなければ何もできないだなんて男に成り下がりたくはない。だから黒竜牙に見合うだけの男になるまではお前が預かっててくれ」
「……あーあ、これだよ。これが男のロマンってやつ?僕可愛い女の子だからよく分からないなぁ~?ま、いいけども」
直後、美咲が投げたホットケーキが歩乃歌の顔面に衝突した。


・外。正輝が学校に行っている間果名と剣人は結羽、雷歌と共に外を歩いていた。
「なんだか不思議な感じです。正輝さんが急に大人になっているって言うのもそうですけど対象者が二人になってるだなんて」
「……なんかそういう気配とかでもするのか?」
「はい。天使には自分の対象者の反応が分かるようになってるんです。正輝さんと果名さん両方の気配を感じるんです。多分こんな天使は私が初めてだと思います」
「……そうか」
果名は思う。今は笑顔の結羽だがしかし確か自分は結羽を一人前の天使にしてやることは出来なかったはずだ。結羽も雷歌もクリスマス前に行方をくらませてしまった。もしも天使から対象だけでなくその逆の気配もたどることが出来たら探してやることもできたかもしれない。
「一応聞くが、俺には聞かないのか?結羽や雷歌の試験結果を」
「落ちたのでしょう?」
「え?」
「雷歌から聞きました。果名さんは私達の結末を知らないって。でも私達はとある事情を以てこの世界に来ています。それを明かさないまま一方的に正輝さん達の望みをかなえて一人前の天使になるだなんてこと出来ませんよ」
「……」
雷歌は確か天使でありながら心に闇を抱えている。そして結羽は雷歌と幼馴染だ。であれば同じように闇を抱えている可能性は高い。
「……なあ、結羽」
「はい?」
「過去の俺にはまだいいからさ。俺には教えてくれないか?お前たちの過去に何があったのかを」
「……」
結羽がややうつむき、雷歌が身構える。
「確かに過去の俺と君は幸運な結末には至らなかったかもしれない。だが、その先にも人生はある。俺がいる。だけど俺の中で結羽や雷歌はここで止まっているんだ。未来の君たちを知らないだけじゃない、その過去も。どんな思いを胸に秘めていたのかも俺は分からないまま今まで生きてきたんだ。……この世界は歴史の外にある世界で、本当の結羽や雷歌は別の結末を迎えているかもしれない。……未来の状況を見るにあまりいい結末は迎えていないだろう。でも、だからって無理に思いをとどめておくことが正しいことだとは思えない。この世界は夢みたいなものだ。だからこそたかが夢だとか歴史に関係しないとかって諦めずに話してほしいんだ。この世界の俺には伝わらなかったとしても未来の俺が君達の事をずっと覚えている」
果名は語る。剣人は少し下がったところで無言を貫き、雷歌は身構えたまま結羽の出方を待つ。そして結羽は、
「……軽蔑しますよ?天使だなんて言っておきながら薄汚い感情を備えている私を」
悲愴の表情で果名を見上げた。それを果名は真面目に、しかし優しい笑顔で迎えた。
「……私達は2年前に両親を殺されているんです」
最初の一言はその言葉から始まった。
「その頃は当然まだ天使界にいました。天使界には当然人間はいません。なので犯人は天使だと思われます」
果名の脳裏に一瞬だけ和佐やルネの顔が思い浮かぶが、脳裏の地平線へと放り投げる。
「天使界では事件や事故と言うものは極端に少ないんです。当然事件の方が少ないですから私達の両親が殺された事件はかなり珍しいものでした。なので元老院……天使界で一番偉い方々で構成された組織による厳重な調査が行われました。調査は1年間行われました。その間、私は非常に取り乱していて、天使界で一番大きな病院にいました。毎日雷歌がお見舞いに来てくれましたがそれ以外には何も感じません。ただ、両親の死が悲しくて、憎らしくて、一日でも早く犯人が見つかって処刑されたらいいって、翼なんてなくして堕天使になってしまえばいいってただそれだけを祈って1年間を過ごしていました。でも1年が過ぎて事件の調査は打ち切られてしまったんです。犯人も不明のまま。恐らく何か元老院の中でも触れられたくない重要機密が関わっているのだと思います。……当然私はそんな結果を受け入れることなどできませんでした。かと言って元老院に逆らうことなどできません。そんなことをすればすぐに堕天使とされて処刑されてしまいます。ただでさえ子供とは言え1年間以上も天使としてはあってはならない憎悪の感情をまき散らしていたのですからそれだけで何らかの処罰を受けることになってもおかしくはありませんでした。それでも私は諦めることなどできませんでした。元老院の支配はとても強く、非合法な手段では真実を知ることは出来ないと考えた私はただ真実を知りたい、両親を殺した犯人への復讐心だけで一生懸命に勉強して一人前の天使になり、さらには元老院付きの大天使に出世して正当な権力で事件の真相を知ろうと思っているんです。それが私の目的……」
いつも笑顔を絶やさなかった結羽。そんな彼女の真意(もくてき)が復讐だとは予想もしていなかった。しかし、伏線(ヒント)なら今までもあった。何よりも雷歌の態度だ。いくら年頃の男の天使だからってここまで不愛想で手早い奴はそういないだろう。だが、雷歌が異常なんじゃない。むしろ今まで感情を押し殺してきた結羽の方が尋常ではないのだ。そしてどうして結羽が自分の相棒の天使になったのかその理由が分かったような気がする。自分と同じで失われた両親と言う共通点があるからだ。自身も5歳ほどの時に火村の家に拾われ、そしてそれがなくなってからは黒主の家に拾われた。最初の記憶が吹雪の中だったから恐らく自分の両親はその時に死んでいる可能性が高い。
雷歌と美咲がペアになったのも似たような理由だろう。雷歌も両親がいない。美咲も、あの不審な白衣の連中に追われていたんだ。言い方は悪いがまともな境遇を持っていたとは思えない。……両親が生きていない状態だったとしてもおかしくはない。同じ条件であるアリスのもとに天使が現れていないことは不思議だがしかし結羽と雷歌、そして自分と美咲の結びつきを考えれば或いは自然なのかもしれない。
「いいじゃないか、生きる目的が復讐だったとしても」
発言したのは剣人だった。
「俺も父親をテンペスターズのキングって奴に殺されてる。しかも俺の目の前でだ。だから俺は父親の形見の剣を取ってただひたすらに奴らに復讐をするために修練している。その先に何があるのかなんてわからない。ひょっとしたらキングに復讐する前に他のテンペスターズに殺されてしまうかもしれない。けど、だからって生きる目的を失ったらどうしようもない。ただ心臓と脳が動いて生きてるだけの動物になっちまう。一体どんなケチをつけたらそれを肯定できるんだ?どんな薄汚いと罵られようが自分で定めた生きる目的だ。それを他人ならともかく自分が諦め何てくだらない理由で否定できるか。況してや外野の意見でそれを改めようなんて思うんだったら所詮その思いなんざその程度ってことだ」
「……」
結羽の表情は一層強くなる。同じように雷歌の表情もまた。それを感じながらもしかし剣人は続けた。
「だからさ、もっと自分に自信を持てよ。ここはその元老院って奴の手も目も届かない仮想の世界なんだ。せめてそこでくらい自分に誇らしい自分で生きてみようぜ?」
「……私は……」
結羽が何かを言いかけた時だ。突然耳をつんざくような爆音が響いた。
「何だ!?火の匂いが強いぞ!爆発か!?」
結羽以外の3人は素早く音の方向を見る。それは大体100メートルほど先の民家。そこで爆炎が迸っていた。火事だ。しかしただの火事にしては火の勢いが凄まじい。事故ではなく他意による爆発の方が可能性が高いだろう。
「……炎……まさかな!」
言いながらも果名は素早く爆発現場へと走る。それにやや遅れて剣人が。雷歌も続こうとしたが走るのが極めて遅い結羽を見ては彼女を背負ってから果名達を追いかける。
近づいてその目で見る。確かに爆発現場は民家だった。しかし2階建ての家屋が既に原形をとどめていないほどには全焼していた。それは明らかにおかしいものだ。爆発が起きてからまだ数分でここまで燃え広がるのは普通ではない。
「……ん!!」
「どうした雷歌!?」
「……天使の気配だ。他の天使の気配がこの近くにいる……」
「天使だと!?」
雷歌が先導して果名と剣人が追いかける。しかしそれは突然に止まった。猛烈な殺意が3人の足を止めた。直後、前方を走っていた車が大爆発する。
「ほう、耳がいいな」
声。それは左方から。黒衣の男だった。顔をまるでオペラ座の怪人のような仮面で隠した背の高い男。一瞬無沙紀を彷彿とさせたが明らかに別人だ。無沙紀は高校生くらいだろうがこの男はそれに10歳くらいプラスしたくらいだ。それよりかも果名はその脳裏と喉元に1つの名前を浮かべていた。
「……焔(ほむら)さん!?」
その背格好、声、雰囲気、何よりも無造作に炎を起こせるそのGEAR(ちから)。それはかつて自分を拾ってくれた火村一家の一員であり、アリスの父親である火村(ひむら)焔(ほむら)と一致している。だが、おかしい。彼は正輝が12歳ころの時に火事で亡くなったはずだ。炎のGEARを持つ彼が火事で死ぬというらしくなさはあったもののしかし焼死体は発見されているからその死は確実のはず。
「ほう、私の事を知っているのか。だがお前は天使ではないな。むしろその後ろにいるのが天使ではないのかな?」
焔の視線は雷歌と結羽に注がれた。その次の瞬間、再び爆炎は巻き上がった。
「……ほう、」
焔が小さく笑う。目の前で爆炎が放たれるがしかし燃焼はせずに忽ちに消えた。何故なら、
「防御(シールド)・サブマリンってな」
剣人が1枚のカードを出していたからだ。
「……剣人か助かった。けど今、カードの発動よりも前に炎を防がなかったか?」
「これはそういうカードなんだ。攻撃が放たれてから、ちょっと間に合わないタイミングであっても発動すれば時間を逆転させて相手の攻撃よりも前に展開して防ぐ。滅多に使わないカードだがうまくいったみたいだな」
剣人はそのままカードを発動したまま。つまり事前展開どころか事後展開の攻撃すら防ぐものを既に発動しているのだからある意味どんな攻撃でも防ぐという暴力的防御の脅迫とも言える。それを見計らってか、果名が一歩前に出た。
「あんたは火村焔さんじゃないのか?その炎のGEARと言い、声と言い、ほぼ間違いない」
「……確かに私は火村焔。そう呼ばれている。だが貴様など記憶にないな」
「……ならアリス……小雪のことはどうだ!?自分の娘の事だぞ!覚えていないはずが……」
「…………知らんな」
「……あんた、ひょっとして記憶がないのか……?」
「知らないと言っている。私が持つ記憶はただ1つ。あのお方の命令により翼あるもの……天使を全てこの炎で燃やしてしまえと言うただそれだけだ……!」
焔が念じる。それだけで再び爆炎が巻き起こる。今度はただ一度の爆発ではない。まるで絨毯爆撃のように果名達のいる一本道が一瞬で炎の海に飲み込まれる。
「……ふん、消えたか」
サイレン響く炎の海。しかしそこには焼死体もその欠片もなかった。しかし新たに人の気配が向かってくる前に焔はその姿を消した。
「……何とかなったか」
黒主家中庭。果名達はそこにいた。剣人が転移のカードを発動したのだ。防御のカードでは点の防御は優れているがああいう面の攻撃には不向きなのだ。
「……さて、どうする?既に明らかにあんたの想定外の事が起きてるみたいだが」
「……とりあえずあの人を放っておくわけにはいかない。この世界は仮想世界だけれども現実とは全く関係のない出鱈目が起きているってわけじゃないんだろ?」
「……あの巫女さんが余計なことをしていない限りはな」
「だとしたら結羽や雷歌と同じだ。不本意だったとはいえ過去に置き去りにしたままだった俺の関係者たちの清算を行わないと俺はまだ黒主正輝のままでしかない。黒主果名を名乗っている以上はその名にふさわしい男にならないといけないからな」
果名は立ち上がり、火柱が立ち上り、サイレンが鳴り響く街の方向を見た。

------------------------- 第146部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
134話「Monochrome2~東雲大輝~」

【本文】
GEAR134:Monochrome2~東雲大輝~

・燃え盛る街並み。それがちょうど見える丘の上に黒主の家はある。
「……あれが和佐さんのお望みなの?」
シャワーを浴び、下着姿の歩乃歌が窓の外を見る。
「……あれはまだ序章にすぎませんよ」
同じように下着姿の和佐は答える。
「……確かにまだ強い気配って言うのはない。僕が出張れば一瞬で片が付きそう。だから僕の傍にいるわけ?」
「無きにしも非ずですね。と言っても私ならたとえ別の世界にいようともすぐに追いかけることが出来るので傍にいる意味はあまりないですけれど」
「……」
歩乃歌は試しに和佐の胸を揉もうとするが気付いた時には自身が数回行かされていた。
「……近親相姦がお好きな巫女さんは女の子相手もお上手なんだね……っ!」
「娘が色狂いですので。定期的にかまってあげないと枯れてしまいます」
「……本当去年の今頃には想像できないくらい中身見せてるよね」
その言葉を最後に歩乃歌はぐったりと倒れた。とりあえずもう少しくらいレズ技術上げておこうかと思った。

・柊咲町。燃え盛る街並み。
「……どうして私を助けたのですか?」
背中に純白の羽をはやした少女がいる。天使だ。名前は桜葉(さくは)。天使界全体の少子化対策として近頃発足した人工量産型天使の一人である。結羽や雷歌とは違い、両親はなく同じ姿をした同タイプの天使が100人まとめて試験的にカプセルから産み落とされた。生まれた時からこの姿であり、本来なら性格や修練、生まれ持った素質によって上下する天使としての能力も全て均一にされている。人格の歪みもなければ感情の揺らぎも存在しない。ただ元老院が目指す世界を作るための使徒である。まだ試験的に量産された最初の100体であるため寿命は短く、20年ほどしか生きれないと言われているがしかしこの個体はどうもそれより早く天に還りそうだった。
「言ったはずだよ、桜葉ちゃん。私は私の周りの人達だけじゃなくて皆を幸せにしたいんだって。そのために桜葉ちゃんを助けたんだから……!」
桜葉を背負う少女がいた。咲だ。しかし足取りは重たい。
「……私もあなたも恐らく助からないと推測します」
「……その可能性を変えるのが人間ってやつだよ……!」
足元には炎の海。先程までいた家は既に燃える廃墟と化している。ばかりか落ちてきた木材に打たれて咲は右腕を失っている。切断というよりかは無理やり引きちぎられた形だ。大量に零れ落ちている血液が足元の炎をより盛らせている。一方で桜葉も背中の2枚の羽に炎が燃え移っていて肉体に引火まではしないがしかし天使にとっては命でもある羽が既に半分以上燃え散っている。ダハーカの牙のように天使の羽は損傷してしまえば簡単には戻らない。既にチェックメイトと言ってもいい状態にある。
そして何よりも……
「……まだ生きていたのか」
正面。そこに仮面の男。焔。指を鳴らせば次の瞬間には咲の両足が火だるまになる。
「ぅぅぅぅぅぁぁぁぁぁっ!!!」
自意識で倒れるよりも前に両ひざの関節が融解してしまい咲は炎の海に前のめりに倒れる。
「……あなたの狙いは天使である私ではないのですか?」
「ああ、そうだ。だがその対象者と呼ばれる人間も一緒に殺していいと言われている。……それに何故かは知らないがその年頃の娘を見ると頭痛が起きるのでな。だがしかし、こうして丸焼きにしていると中々気持ちがいい」
薄笑いの焔はゆっくりと二人に歩み寄る。それを見た桜葉は立ち上がり、咲から離れながらその手に槍を召喚する。天使が罪を犯した者に対して粛清する時の最低限度の武装だ。本来見習い天使どころか一人前の天使でも所有しているものは少ない。しかし桜葉はそもそもが元老院によって作られた量産型兵器のようなもの。既に感情だの人格だのだによる個体差(きぼう)は夢見ていない。
桜葉が生まれた時からインプットされている技術で焔に接近してその槍術を発動する。しかし、それはすぐに何物でもなくなった。
「……っ!」
焔に届く前に槍はドロドロに溶けて消えてしまった。しかもその温度が桜葉にも伝わり、彼女の両手首から先も溶け落ちる。さらに溶けた物体たちが足に落ちたことで足までもが溶けていく。靴は一瞬で消えた。
「……ほう、少し妙な気配がしたが貴様量産型か。相変わらず元老院はろくでもない事ばかり考える」
焔が笑いながら桜葉に近づいたその時だ。何かを感じ取った焔はすぐに後ろへと跳躍。その直後に先程まで自分がいた場所をビームが貫いた。
「……何だまだいたのか」
左方。そこには剣人、果名、結羽、雷歌がいた。
「……おい、人が……しかもあの子見覚えがある……確か東雲咲……」
果名が刀を構えながら咲へと歩み寄る。彼女は既に右腕と両足がなく、その断面から流れる大量の血液で意識がない。恐らくもう手遅れだろう。それに、その咲を庇うようにしていた天使……桜葉も両手足が溶けていて立つことが出来ない状態だ。こちらは断面が丸く変形しているため出血は少ないように見える。しかし結羽と雷歌はこの天使こそもう命がないように見えた。何故なら既に背中の羽は根本以外焼け落ちていてその根元の一部も風前の灯火であった。
「おいあんた!どうしてこんなことをするんだ!?」
「言ったはずだ。天使を殺すのが私の使命。そしてそれに付随する対象者もまた虐殺の対象。それ以上の理由などない」
軽く吐き捨てた焔。同時に果名が一瞬で彼我の距離を詰めて袈裟斬り。
「ぐっ!」
「……分かった。あんたはもう火村焔じゃない。魂なんてもうないただの放火殺人犯だ。他の誰かに見つかる前に俺が成仏させてやる」
果名が指を構える。それは奇しくも焔の技の合図と同じ構え。
「火村焔、あんたの名を果たさせてやる」
そしてその合図は果たされた。同時、焔の体内で異常が起きた。恐るべき速さで細胞が死んでいく。
「こ、これは……」
その言葉を最後に焔は仮面を残して消滅した。その最後を見ることなく果名は咲や桜葉へと歩み寄る。
「……大丈夫か?」
「…………ぅ」
僅かな反応が咲から生まれた。しかしそれはもう返事とかではなく本当にただの反応。そしてそれが断末魔であった。果名はそれを確かめると優しく彼女の両眼を閉ざす。そして天使の方を振り返る。
「あんたはどうなんだ?」
「天使としての生命線である羽がもうほとんど残っていない。助からないだろう」
返事は雷歌から。隣の結羽は涙を流している。
「……あんたはまだ喋れるんだな」
「……はい。肉体の方はそこまで危篤ではありませんので。ただ天使番号199992番……雷歌が申し上げたように天使としての生命線である羽を失いかけているので恐らく私の命は持って数分でしょう」
「……おかしい話かもしれないが何か遺言があったら聞いておくぞ」
「なら彼女の……東雲咲さんのお兄様である東雲大輝さんにこのことを連絡してください。彼は既に両親がいない中妹さんを大変可愛がっていましたので。番号は咲さんの携帯電話のアドレス帳に」
「分かった」
既に結羽が動いていて咲のポケットから携帯を取り出して操作を行う。
「あんた個人では何か?」
「ありません。私は量産型ですから。ただ天使を狙ってその対象者ごと殺害する存在がいた事は元老院に伝えねばなりません。私の遺体はそのまま天使界に移送されるのでもしよろしければ何か書置きのようなものを私の体に貼り付けてください」
「……剣人」
「ああ、書留(メモ)・サブマリン」
剣人は1枚のカードを取り出し、発動。桜葉の言葉をそのまま一瞬で文字化して彼女の腹に添える。
「……これはナイトメアカードですか」
「!どうしてナイトメアカードの事を知っている!?あれが世界中にばらまかれたのはこの世界からして100年以上後のはずだ……!まだこの時代はパラディンですらカードを知らないはずだ……」
「……そのパラディンという方については分かりませんがナイトメアカードは天使界で封印されている悪夢のカード。元老院の方々でなければ手に取ることは不可能な筈ですが……すみません。どうやら私はこの辺りが限界のようです。そろそろ天に還らなくてはなりません」
「……分かった」
その言葉を最後に桜葉は一瞬だけ咲の遺体を見てから幽かに微笑み、消滅した。


・黒主家。そこにはまた見慣れない青年がいた。先程亡くなった咲の兄・大輝である。
「…………」
両親を失い、大学生ながらバイトで生活費を稼ぎながら妹と暮らしていた青年。しかし果名の連絡を受けて駆け付けてみれば妹も同居人も家も全部がなくなっていた。残っていたのは妹の無惨すぎる遺体のみ。自分以外の全てを失った彼に対して果名達はただ黒主家に招くことと咲の葬式を申請することしかできなかった。
「……なあ、ナイトメアカードで死人を生き返らせることは出来ないのか?」
部屋で果名は剣人に尋ねた。
「……ナイトメアカードがいくら魔法のカードと呼ばれていようが奇跡を起こすことは出来ない。俺達が人間である限りな。俺が生まれるよりずっと前にナイトメアカードは突然雨のように世界中に降り注いだ。今までのいくつかの証言によりどこからかナイトメアカードの封印を解いて世界中にばらまいたのはパラディンと言う奴だと言われている。本人も否定はしていない」
「……死人を生き返らせるような奇跡ができないとしても1枚1枚がとんでもない力を持っている。なのにどうしてスライト・デスには対抗できなかったんだ?」
「……テンペスターズだ。セントラルの特殊部隊であり政府公認の聖騎士部隊であるテンペスターズがスライト・デス襲来の前後に世界中からナイトメアカードを収集した。本当ならそれを使ってスライト・デスを迎撃するはずだった。少なくとも当時の人間たちは全員そう予想していた。だが、そうはならなかった。どんな薄汚い野望が息をひそめているのかは知らないが奴らは唯一スライト・デスに対抗できそうな力を全てかき集めてはそのまま無抵抗の服従を選んだんだ」
「……どうして剣人達はまだカードを?」
「テンペスターズは今では10人だったが元はもっと大人数いたんだ。だが10年以上前に離反した。その際にそれぞれが幾分かのカードを持ち込んでセントラルから俺達聖騎士連盟のもとに返還した。それにカードにはかなり特殊な召喚系カードって言う奴もある」
剣人は懐から1枚のカードを取り出す。煌牙(キマイラ)と書いてあった。
「こいつのようにカード自身が人格を持ち、自由に行動するカードも存在する。こういう奴は滅多なことでは人間に使われない。キマイラはどうしてか俺の父さんと仲が良かったらしくてそこから俺にも引き継がれたが、もし俺に何かあればキマイラはまた人間に使われない自由なカードとなるだろう」
剣人はそれを懐に戻す。そして逆に切り出した。
「今度はこっちの番だ。あの仮面の奴は何なんだ?」
「……火村焔さんだ。俺が黒主家に引き取られる前に引き取ってくれた人でもある。そして今はアリスと名乗っているあの子の父親なんだ」
「火村小雪とか言ったっけ?」
「本人は忘れたがっている。だからその名は口にしないでくれ。今回の件に関しても」
「……一応聞くがやっぱり過去とは違う歴史になりつつあるんだな?」
「ああ。この時期にこんな出来事は起きていない。和佐さんが言う通りこれは恐らく本来俺が未来で経験する出来事をその時期を早めているんだ。まだ結羽達の試験や無沙紀との決着もついていない時期だって言うのに」
「ええ、そうですよ。それくらいの着けは必要でしょう」
と、そこへ和佐がやってきた。
「和佐さん、本来の歴史って何なんだ?」
「先日も説明したように正輝様が本来辿るべき歴史の事です。正輝様はとある出来事が由来で本来進むべき歴史とは違う歴史に進んでしまっているんです」
「……その出来事っていうのは和佐さんが世界を滅ぼした事じゃないのか?」
「その原因ですよ。それは、本来存在してはいけない存在がやってきてしまった事です」
「存在してはいけない存在?」
「はい。記憶を少し窺わせていただきましたがあなたも一度見ているはずです。UMXを」
「UMX……確か歩乃歌や蛍達が去年ずっと戦っていたって言うあの化け物か」
「はい。本来と同じように進むはずだった歴史ですがしかしそれはUMXの出現のせいで叶わなかった。何故ならばUMXの襲来によりまだ小学生だった頃の東雲咲さんは亡くなってしまうからです。それにより桜葉さんが咲さんを対象者として選ぶこともなく故にあなたと大輝さんが出会うこともなく、歴史が変わってしまうのです。……あと強いて言えば版権の壁」
最後、ちょっとよく分からないことを言った。しかし、もっと分からないのはUMXの出現だ。あれは歩乃歌が言うには22世紀世界で誕生したほぼ人工的な存在だ。それがどうして21世紀の柊咲を襲うのか。歩乃歌たちとの世界ともまた違うあの世界にも現れたのだから世界を超える力を持っている?
と、推測したところで随分と申し訳なさそうな表情の歩乃歌がやってきた。
「それなんだけど、実は僕が原因なんだよね」
「……お前UMXだったのか?」
「そんなことあるわけないじゃん。違うよ。……1年前に僕は世界を超える力を持つPAMTの千代煌を使って旅行半分で別の世界へ行ったんだ。それが今の果名さんがまだ正輝君だった頃の、2008年の世界。でも僕のミスであの世界にも僕を追いかけてUMXが出現してしまったんだ。それで後は和佐さんが言ったとおりだよ」
「……」
「正輝様は本来の歴史とは違う歴史を歩まれてしまっているのです。……正輝様は本来今のあなたと同じくらいの年齢の頃に起きたとある出来事が原因で天使界は滅亡し、しかし地上の人間界は無事に済む。そう言う世界規模の歴史が本来待っていたはずなのです。しかし、それは叶わなかった」
「……その天使界を滅ぼす原因って言うのは東雲大輝なのか?」
果名は告げた。違う可能性は十分にある。しかし東雲咲が自分の前で死ななかったことで自分と東雲大輝が会えずに歴史が変わってしまったというのなら、その歴史の先に天使界の滅亡が待っているというのならその原因が東雲大輝である可能性もまた十分にあるだろう。それに理由も何となく推測は付く。天使に何かしらの恨みを持つものがあの焔を使役していたことはほぼ確実。そしてその焔が彼の大事な妹を殺害したのだ。どういう理由があるのかは知らないがしかし天使界の方に何らかの落ち度があったことは推測できる。そしてもしそれを全部大輝が知ることとなれば……。
「……まあ、原因の1つであることは間違いありません」
和佐はただそれだけ答えた。
「……で、咲ちゃんが予定より早く死んでしまったことで大輝さんは正輝君に会うことなく世界に大した影響を与えることもなかった。でも、世界の修正が起きてしまったんだね」
「はい、そうなります」
「世界の修正?」
「歴史って言うのはどんなルートを辿ったとしても結局結末は変わらないってことだよ。咲ちゃんがその焔って人に殺されようとUMXに殺されようと結局早死にすることに違いはないのと同じように天使界も大輝さんが滅ぼさなくても他の誰かが滅ぼすことになるってこと。と言うかもう既に外の世界じゃ滅んでいるんだよね?」
「はい。しかもその修正の力は本来の歴史とは違ったルートを辿っていた場合そのルートの距離が遠ければ遠いほどより力を増します。そのせいで天使界だけでなく地上界まで滅亡しかかっているのです」
「……東雲咲が焔さんに殺されていれば天使界の滅亡だけで済んだ。それが正しい歴史だけどもそこの阿保のボクッ娘がやらかしたせいで本来よりもかなり前にしかもUMXなんて別世界の化け物に殺されてしまったことで正しい歴史とはかけ離れてしまった。だから強い力で歴史を修正しようとした結果天使界だけでなく人間達の世界もスライト・デスによって滅ぼされてしまった、と」
「スライト・デスがやってきたというのは飽くまでも修正の手段の1つであってあまり関係はありませんがね」
「……けど仮にその仮説が正しいとしてもだ。この世界は別に元の歴史とは違う。カードの力で作られた仮想世界なんじゃないのか?たとえこの世界で本来の歴史通りに事を進めたところで現実世界に影響は……」
「ありますよ。何故ならここは別に仮想世界と言う訳ではありませんから」
「……どういう事だ?」
「剣人さんがリターンのカードでこの仮想世界に来たというのは事実です。刀斗さんに干渉するまでは確かに現実世界には何の関係もない仮想世界でした。ですがそこで刀斗さんと干渉してしまい、本来別の世界にいた私に仮想の私から合図が来たのです。仮想世界とは言え2008年の世界に正輝様がやってきたと。そこで本物の私がここへやってきて仮想の私と入れ替わり、その時点でこの世界は仮想世界ではない、言ってみれば修正中の世界となったわけです。この世界を閉める時に現実の世界が上書きされます。本来通りにこの世界が正史の1つとなり、地球は滅びることがありません。そして剣人さんや歩乃歌さんはその上で自分達の時代に帰ることになるでしょう」
「……で、果名さんは元々この世界の、この時代の住人だからどこに行くこともなく残るわけか」
「はい。それがこの世界での私の目的です。2008年の時にはまだこのような手段は実現不可能でしたので一度私が滅ぼしたのです」
「……地球を守るために天使界だけを滅ぼすために一度世界を滅ぼしたのか」
「もちろんただ滅ぼしたわけじゃありません。正確に言えばリセットのタイミングを合わせたんです」
「リセットのタイミング?」
「はい。地球上の歴史は既に何度か物理的にリセットされています。ゲームで言えばもうバッドエンド間違いなしって状態になったらおとなしくセーブしたところからやり直すでしょう?それと同じようなものです」
「……誰がそんなことを?」
「……全宇宙の調停者<ディオガルギンディオ>。あらゆる世界や惑星を対象に弄ぶ宇宙の実験者達。そのうちのひと柱であるヒディエンスマタライヤン。彼がこの地上を支配している限り地球上に本当の明日はやってこないのです」

------------------------- 第147部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
135話「時空を超えた悪手」

【本文】
GEAR135:時空を超えた悪手

・X是無ハルト亭。戦場となっている庭園。
「どこだ!?どこに行った!?」
ブルーバーンとレッドバーンが炎や氷をまき散らしながら相手の姿を探す。その相手である黄緑達は時間制御を繰り返して一度会議室に集合していた。
「現状を確認いたします」
蛍とキリエがホワイトボードに文字と図を描き始める。それをその場にはいない果名、剣人、歩乃歌以外の全員が見る。
「現状、中庭には炎と氷を使うスライト・デスの怪人じみた姿の騎士が二人います。相手が使うのはナイトメアカード。正直パラレルカードしか使えない私達では厳しいでしょう。ならばと使える方々にお願いしたいところですが」
キリエの視線が包帯ぐるぐる巻きの剣一と火乃吉を見る。同時に二人は肩をすくめる。
「と言うことなので正面切って敵二人をどうにかするのは非常に厳しいと思われます。十毛さん、アルケミーさん、ルネさん。あなたがたはどうでしょうか?」
蛍の言葉に3人は同時に同じ言葉を返した。
「倒すのは余裕。でもあんな雑魚と張り合いたくない」
一瞬こめかみの神経が切れるかと思ったキリエはしかしポジティブシンキング。この3人はこの3人がいないとどうしようもないって時に精々全力でこき使わせてもらおう。そのために今は温存だ。その方が自分の神経にとって都合がいい。……今度蒼の地獄を見せてやる。
「そしてもう1つ。敵の姿は確認されていませんがしかし確実にもう一人います」
「あのグールを召喚してくる奴と電波を妨害してくる奴ね」
エンジュ抱きしめながらアコロはいやそうな表情を作る。
「はい。その姿を隠している敵をどうにかしない限り恐らくいくらでもグールを送り込まれてくるでしょう。それに電波妨害も中々痛い。こうして黄緑さんに無理をさせなければろくに話し合いも出来ないのですから」
キリエの視線。それは部屋の隅っこで横になってぐったりしている黄緑に。紫音と来音が心配そうに見ているが黄緑はやせ我慢の笑顔を見せるだけで上体も起こそうとしない。かつて聞いたことがある。ダハーカは非常に燃費が悪い生物だと。さらにその最大の武器である時間制御を行うには非常に体力を消耗する。それを補うために人間を捕食する必要があるのだがしかし今のところそれを行っているらしき仕草は見られない。
「……夏目黄緑さん。確認ですがあのグールを捕食して体力を補給することは出来ないのですか?」
「……無理だね。あのグールは確かに首がないだけの人間の姿に見えるかもしれない。だが、既に人間とは別の生物……いや、物体にされてしまっている。どういう訳かダハーカが栄養として捕食できる生物は人間とそしてダハーカ同士に限られているんだ。同じ理由で中庭にいる二人を食い殺すことも出来ないよ。あれは見た目通り人間じゃない。スライト・デスが混じってる」
逆に言えば混じってるだけで100%じゃないという事実に少しだけ波風が立つ。
「けれどスライト・デスが混じってると言うなればシンさん達エターナルFはどうですか?」
蛍の視線がシン達に来る。一瞬エターナルFと言われてピンとこなかったがそう言えばそんなことも名乗ってたなと思いつつ考える。
「確かにどうしようもないって言う時は戦うし、直接見たわけじゃないからどうかは分からないがゴーストよりも強いってことはないと思うから多分倒すことは出来ると思う」
「でも、相手は人間でもあるのよね」
「そうだ。そして俺達が本来セントラルに行こうとしていた目的はそこにいる人達と協力してスライト・デスを迎撃することだ」
「……そういう訳で可能であればまだ人間でもあるその二人を殺したくはない」
「……でも私達が戦えばもしかしたら倒してしまうかもしれない」
5人の意見はまとまっていた。とりあえず速攻で自堕落が為断った3人よりかはマシのようだ。
「ならどうしますか……」
「……それにセントラルは精鋭を送ってきています。確か10人いると聞いていますが今のところ確認しているのは4人。まだ半分以上も残っています。その6人がここを襲撃しないとも限りません。今のところ撃破に成功している二人も厳密には私達の力で倒したわけではありませんし、どうにか対策を考えるべきですね」
「それだが……」
剣一が挙手。その手に視線が集中する。
「……これだけの目に一気に見られたら流石に気が引けるな」
「七星剣一さん、何か?」
「ああ。剣人がいないで思い出したがそろそろ俺の仲間である聖騎士二人がこの辺りに来る筈なんだ」
「仲間?」
「ああ。どっちも頼りになる。……勝手に単独行動しがちなのがアレだが、この状況を打破するだけの実力はあるだろう」


・屋根伝いにレッドバーンが標的を上から探す。本来なら背中の翼で飛行も出来るのだがそれはアイデンティティに反するからやりたくない。それ以外にも自らの炎でこの豪邸を丸焼きにしてしまうと言う手段も無きにしも非ずなのだがこれもまた美学に反する。先程から少しずつしか敵の姿が確認できていないのも気になる。もしかしたらスライト・デスを退治している人物はごく少数であり、現在は何らかの事情で動けない、もしくは死んでしまっているのではないだろうか。だから二軍のメンバーが出てきてはこちらを少々足止めするだけに留まっている。否、そうすることがやっとだ。だから攻め込むとしたら好都合なのだがしかしこの豪邸。気配だけ探っても人数はかなり多い方だ。それで先ほど出てきた戦力が最大戦力だとしたら残りは非戦力。つまり銃後の民である可能性が高い。だとするならば屋敷ごと丸焼きと言うのはもはや戦闘による殺害ではなくただの虐殺だ。それでは些か興が醒めすぎるというもの。
「それにしてもグラーザンやソゾボルトはどこに行ったのか」
ビッグのカードで巨大化できるグラーザンや常に爆音を鳴らしまくるソゾボルトは嫌でも目立つはず。だのに先程の異次元から召喚された数人組の襲来から姿を見ないし気配も感じない。カード1枚あれば余裕で虐殺可能なあの程度の戦力を相手にあの二人がてこずるなんてことあるのだろうか。どちらも自分達とは違って戦闘はただの任務と弁えているから無駄な仕打ちで楽しんだりもしない筈。
「……もしかしたら既に中に潜入して説得を行っているのかもしれないな。ならば私も向かおう。口下手やいかれたロックシンガーよりかはまだマシなはずだ」
レッドバーンが凍てついた壁の一角を溶接(バーン)のカードで溶かして中に入ろうとしたその時だ。
「ほう、聖騎士と言うのはいつの間に火事場泥棒になったんだ?」
「!?」
声。同時に烈風が吹き荒れて背中の翼や手足に無数の切り傷を作る。一瞬ヴァルピュイアかと思った。少なくとも風の使いでは知る限り彼女しかいない。だが、ヴァルピュイアにこのようなことをする理由がない。だからすぐに思い至った。これは敵の攻撃だと。
「何者だ」
「異な事だ。まさか不法侵入を働くような奴が相手に名乗りを求めるとはな」
再び声。しかし不思議なことにそれがどこから聞こえてくるのかが分からない。まだ屋敷の中には入っていない。だから室内で音が反響すると言う訳でもない。だのにどこから声が聞こえてくるのかが分からない。隠密(アサルト)のカードを使っているのかもしれないがしかしだとしたら魔力反応が近くで起きているはずだ。しかしそれもない。
「魔力を探っているのか?無駄なことだな。俺はカードを使っていない」
「何を……」
言葉は続かなかった。代わりに左手首が切断寸前なほど深く切り刻まれた。爆発したかのようにあふれ出る血液。すぐに回復のカードを使おうとした時今度は右手首が同じように血を爆発させた。しかも今度は切断されていた。
「ぐっ……!!」
「どうだ?今度は分かりやすいようにカードを使ってやったぞ」
「……私はセントラルの特殊部隊テンペスターズ所属の聖騎士レッドバーンだ。曲者め、姿を見せろ」
痛みに耐えながら何とか左手で懐のカードを取ろうとする。直後、その手を後ろから何かが貫いた。刀だ。刀が背後から胸と左手を同時に貫いていた。
「……がっ!!」
「俺か?俺は李狼(りろん)。小(しゃお)李狼(りろん)だ」
「……まさか、貴様……陰陽協会の……!?」
李狼が刀を抜くと同時、レッドバーンの言葉と生命が終わり、自らが出した血海の中に倒れた。
「……セントラル、やはりメスを入れた方がよさそうだな」
李狼は刀を背中の鞘に入れると片方の手で懐からカードを取り出した。
「まずはこの邪魔な結界から破壊するか。除去(ディスペル)・サブマリン」


・セントラル。偽艶の部屋。
「……くっ!」
テーブルの上にあった水晶が突如爆発し、偽艶は破片をいくつか浴びながら退く。
「……まさか妾の術を破る事が出来る者がいようとは。レッドバーンが何かを言っていたな。陰陽協会?聖騎士協会以外にも組織があるのか?」
ぶつぶつ言いながら偽艶は席を離れて同じ室内の本棚へと移動する。そしてその中から一冊手に取ろうとした時だ。
「偽艶」
声が入室した。それはゼストだった。
「ゼスト!?貴様、任務に出ているのではないのか!?」
「聞きたい情報があってな。転移で戻ってきた」
「……何を聞きたい?」
「このセントラルの中に、或いはどこかほかの場所でもいい。200年以上も前から存在する施設のような場所はあるか?」
「…………何を馬鹿なことを。そんなよく分からないもののために戦場を離れたというのか?」
「……答えよ。場合によってはこの事態を切り抜けるきっかけになるやもしれぬ」
「そんなくだらないことに興味を示さなければあのような反逆者にも勝てないと言うのか?貴様が暇をつぶしている間にもレッドバーンが死んだぞ?」
「……レッドバーンが……!?」
「彼奴だけでない。グラーザンやソゾボルトも既に倒されて死んでいる。貴様は早く任務を再開するのじゃ。その後でなら調べてやらないこともない」
「……分かった」
やや不満そうな表情をしながらゼストは再び転移で座標移動を行った。
「……全く。キングが手を焼くわけじゃ」
再び本棚に視線を移そうとしてしかし部屋の扉が開かれたままだと言うことに気付く。舌打ちを行ってから扉に近づき、閉めようとしたその時だ。
「っ!!」
偽艶は全力で退いた。人生で一番素早いバックステップだったろう。そのおかげか粉々になったのは扉だけで済んだ。
「……貴様……」
「いい反応だな。こそこそと裏で暗躍しているのが性分のおばさんとは思えない」
姿を見せたのはミネルヴァだった。その両手にはトマホークを持っている。二刀流だ。一本は最低でも20キロくらいはありそうな鋼鉄で愚鈍の凶器そのものだ。仮にも女性であるミネルヴァが持つには重すぎるのではないか?そんな疑問は彼女にはあまりにも無用だった。
「おばさんは貴様も一緒であろうに。それで何の真似じゃ?いくら役人の使いだからと言ってやっていいことと悪いことがあるだろうて。……今妾は猛烈に機嫌が悪い。悪ふざけや組手の相手ならば他をあたってほしいものじゃが……」
「そのどれかに思えるかい?」
「……どうやら本気のようじゃな。ならば簡単。水晶越しに戦いを見ていたら血が滾って仕方がない。少し憂さを晴らさせてもらおうか」
偽艶が懐から出したのは2本の鉄扇。それがゆっくりと風を吸うと同時、偽艶は一気に距離を詰めた。それはとても人間が出せる速度ではなかった。
「へえ、」
しかし、それだけの速さで放たれた左右同時の二撃をミネルヴァもまた左右の斧で防ぐ。攻撃を受け止めた感覚があったかと思えば既に次の攻撃が繰り出されている。それが断続的に、しかも加速度的に繰り出されていく。
「……」
ミネルヴァはそれを着実に、そのガタイと人格からはとても想像できないほど緻密で正確な防御で凌いでいく。当然既に相手が常人離れしただけではない、カードの力を使ってこれだけの高速連撃を繰り出していることに気付いている。
(……これがナイトメアカード、その肉体強化系だな。発動の兆しは見えないが恐らくあの鉄扇の中にカードが仕込まれているんだろう。鉄扇を武器として扱うと同時に発動して肉体を強化する。……パラレルカードとは性能の格が違う。だけど、それで=勝利だとは思ってほしくないな。例えば……!!)
「チャッ!!」
偽艶の鋭い双撃。それはミネルヴァのガードをすり抜けて胸へと迫る。その胸には心臓や内臓部分を守るための装甲が施されてはいたがしかしその程度、偽艶の攻撃力の前では一瞬程度しか持たないだろう。……それが命取りだった。
「デヤァァァッ!!!」
ミネルヴァが左右から振り下ろしたトマホークが偽艶の両肩に真上から落とされた。20キロ以上もある愚鈍の刃が深々と無遠慮に偽艶の両肩から胸までの肉体を容易く切断する。
「ぐううっ!!」
自身の攻撃がミネルヴァの装甲と胸筋の一部を破砕したのを感じると同時、偽艶は再び自己ベストを更新するようなバックステップを行い、両肩を深く裂いたトマホークから逃れる。同時に手を介して脳からの命令が鉄扇の中のカードに伝わり、回復(ヒール)が発動。科学や医学ではとても信じられないほどの速さで偽艶の両肩や胸の傷が塞がっていく。しかし、それを悠長に待つ相手ではなかった。
「オラオラオラ!!」
一気に距離を詰めたミネルヴァはまず廻し蹴りで偽艶の右膝を破壊すると左右のトマホークを雨あられとばかりに偽艶に向かって連続で振り下ろす。加速(アクセル)と回復(ヒール)の2枚を発動させた偽艶はこれ以上カードを使えない。否、この状況に耐えるだけのカードを持っていなかった。何故ならば常に先手必殺を心掛けて、愛用の鉄扇に最低限度のカードしか忍ばせていないからだ。現にそれで今まで何人もの強豪を破ってきた。スライト・デスの怪人も200体以上殺せている。だからそんな偽艶にこれほど苛烈な攻撃を繰り出せる人間がいるとはとても予想していなかった。
「っ!」
「オラオラ!オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァァァァッ!!!」
嵐のような連続攻撃。それが容赦なく数秒で偽艶の鉄扇を破壊して偽艶の肉体そのものをミンチへと変えていく。回復のカードの効果が発動しているが破壊の勢いには全く追随できていない。しかしわずかでも回復の兆しがある限りミネルヴァは攻撃を続ける。
……2分が過ぎた。ミネルヴァがやっと両手のトマホークを止める。もはや眼前には肉片ひとかけらすら残っていなかった。あるのはただの血の池。
「……あんたの敗因はな、相手を殺すことだけに特化しすぎてたんだよ。やるかやられるかだけで戦いなんてものが務まるかっての。ガキじゃあるまいし」
セリフを吐いてからわずかに喀血。それを偽艶の着物の切れ端で拭うと、パラレルフォンを出した。
「民子、ラットン。出番だ。来ておくれよ」
それだけ言ってパラレルフォンをズボンのポケットにしまうと数分。
「随分と派手にやりましたね」
「あんた、一応テンペスターズの一員でしょ?裏切っていいの?」
二人の少女がやってきた。民子(たみこ)・J(じょん)・ミドリュエスカラナイトとラットン・M(ミスナルジ)・Hル卍である。どちらもミネルヴァの関係者であり、パラレル部の一員でもある。
「それで、どのような用件で?」
「おう。この本全部運べ」
ミネルヴァは顎で本棚を指す。
「……200冊以上あるのですが」
「それにこういう肉体労働はあんたの方が向いてるんじゃないの?」
「ばぁか。もし運んでる間に敵に見つかったらどうするっての。あんた達だって生身じゃないんだから肉体労働は普通の人間より楽だろ?」
「人種差別ですね」
「全部あんたの父親が悪いんじゃない。それに私達を巻き込まないでほしいわ」
「……一応あたしとあんたは父親一緒だろうが」
なんだかんだ言いながらも民子とラットンの二人だけで本棚ごと運ぶことにした。

------------------------- 第148部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
136話「Monochrome3~終わらない炎~」

【本文】
GEAR136:Monochrome3~終わらない炎~

・西暦2008年。10月下旬。本来ならばそろそろ美咲が高校に通い始める時期だ。美咲本人も大輝や天使達、果名達との会合を経て少しずつ外への興味もむけつつあり、出てもいいかなと思っているそうだが逆に果名と正輝の二人がそれを止めた。
「ただの2008年の頃だったらまだよかったんだがな」
果名が遠い目で新聞を見る。そこには連続火災の記事がこれ見よがしに乱立していた。それは先週に終わった火村焔の件なのだがしかしどうもおかしい。見出しを飾っている2つの火災はどちらも昨夜起きたものと出ている。どちらも柊咲ではないが、不安は募るものだ。確かにあの時自分は名を果たすGEARの力で生き返った焔を再び消滅させた。だが、一度生き返ったのだからもしかしたら何度でも蘇るのではないか?と言う漫画みたいな予想がどうしても脳裏から離れない。そもそもまだ彼がどうやって生き返ったのかが分からないままだ。当然どんな方法かは知らないがそれを以て彼を生き返らせて天使達を殺して回っている黒幕の正体も依然として不明のまま。
現在この柊咲の町にいる天使は結羽と雷歌の二人だけ。しかし先週はもう一人いた桜葉と言う天使を襲撃しては彼女の対象者である咲ごと殺害している。本来は桜葉と言う天使が来るのは早くても来年以降のはずだ。それを和佐はどうやったのか知らないが1年以上早めて今年召喚させた。同じように焔の襲来は2008年にはないものだった。……今にして思えば無沙紀の正体も不明のままでその無沙紀は自分を狙ってやってきた。そして自分には結羽と言う天使もいる。もしかしたら無沙紀と焔は裏で繋がっているのかもしれない。だとしたら生き返っているのかもまだ分からない焔やその黒幕を探すよりかは無沙紀を探して情報を聞き出した方が早い。無沙紀と戦闘になったのは9月と12月のそれぞれ2回ずつだけだがしかしその間も会ったことはある。だから恐らくまだこの柊咲のどこかにいる可能性は十分にあるだろう。
「と言う訳でだ。この前のあの仮面のクローン野郎を探すことにした」
黒主家食堂。刀斗、秀人を集めてちょっとした会議を行う。ちなみに既に二人には正輝から果名達については説明がされている。
「奴にはリベンジを果たさなくちゃいけない。俺は賛成だが、この1か月探しても姿を見たことはないぞ」
「まあ、どんな理由があるのか知らないけども敵には何かしらの目的がある。ただただ正輝を狙っているわけじゃあないだろうね。この家が知られている以上ただただ正輝を殺したいって言うなら夜襲でもかければいいわけだし」
二人の意見。どちらも正論だ。
「剣人、何か相手を見つけられるカードはないのか?」
「あるぞ。索敵(サーチ)のカードだ。とは言えこれだけではどうにもならない。何かあいつの手掛かりになるようなものが必要だ。体液でも髪の毛一本でもいい」
「……確かあの時あいつの仮面を2度とれたよな?あれはどうしたんだ?」
「……すみません。捨ててしまいました」
謝るアリス。若干残念だがしかしこのようなこと、あの頃は想像もしていなかったから仕方ない。まだあの頃のアリスは自分達を認識すらしていなかったのだから。当然髪の毛一本とかでも落ちてないだろう。と言うか自分のクローンだから自分のと変わらないか。
「……ん?」
「どうした?」
「そうだよ。あいつと俺はクローンなんだ。もしかしたら俺自身を手掛かりに探すことは出来ないのか?」
「……確かに。出来ないことはないだろうな。恐らくお前を頼りにサーチをかけた場合、お前と過去のお前、そして同時にあいつも対象になるはずだ。DNAとかが一致しているのだったら……」
「よし、それなら早速……」
「お待ちください」
と、そこで和佐が止めてきた。
「どうしたんだ和佐さん?」
「その方法は少しまずいのです。私も協力しますのでそれだけは考え直してくださりませんか?」
「……どうしてだ?」
「まだ正輝様が知るわけにはいかない情報が分かってしまうかもしれませんので」
「……なんてこったい」
果名と正輝が同時にため息。それを秀人は静かに見ていた。

・町。屋敷にアリスと美咲と大輝と歩乃歌を残して他のメンバー全員で無沙紀の足取りを探すことになった。のだが何故か好美、舞、歌音まで一緒になっていた。
「へえ、これが噂の未来正輝かぁ」
「……意外と変わってませんね」
「でもでも、結構イケメンになってない?」
3人の女子高生にちやほやされて満更でもない果名は、
「……3人で寝てくれたらうれしいな……」
「へ?」
「いや、何でもない。それより和佐さん。あの無沙紀って奴は一体どうやって作られたんだ?今の時代クローンなんてそう簡単に出来るものでもないんじゃないのか?」
「ええ、確かに。地上での技術でクローニングは実用段階には入っていませんね」
「……待ってください。地上ではってことはまさか……」
「……ええ、彼は天使界で作られた存在です」
当然、その言葉に驚きがなかったと言えば嘘になる。しかし、同時に納得いく部分もあった。それは桜葉の存在だ。彼女は確か量産型の天使だと言う。見たことはないが恐らく外見などは同じなのだろう。それを数多く作ると言うのは言ってみればクローン技術を使っていると言えるのではないか?だとすれば人間一人をクローニングすることくらい……いや待てよ?クローニングしても元の人格や記憶がそのままと言う訳ではない。それは非個性が成された桜葉ならともかく無沙紀を見ればわかる。だとすれば先週に見たあの焔もまたクローンなんじゃないだろうか?
「そうだよ、果名」
秀人が肩をたたいた。
「君が考えていることは恐らく正解だ。君のクローンである無沙紀ってのも君が先週見たって言う焔って人もみんな天使界で作られたクローンなんだろう。無沙紀がどうかは分からないけどもまだ連続火災が続いている以上焔さんは確実に複数造られている。そしてそうした焔さんの裏にいる人は天使の技術を使っていながら天使界に恨みを持っているんだ。だとすればその黒幕と言うのも大体想像は付く」
「……堕天使……」
「そう。何らかの罪を犯して天使界を追放された天使。確定ではないだろうけれどもしかしその可能性は高い」
「いや、難しいだろう」
雷歌が口を挟んだ。
「確かに天使は罪を犯せば堕天使になる。だが、堕天使と言うのは人間が考えるほど甘いものではない。人間で言えば極刑の決まった囚人のようなものだ。桜葉の件でも知っていると思うが天使にとって背中の羽は心臓よりも大事なものだ。そして堕天使と言うのはその羽に刻印を刻まれる。刻印を刻まれた天使の羽は段々と黒澄んでいき、最終的には根本から抜け落ちる。そういう毒を仕込まれた天使の事だ。だからそもそも大々的に活動できるほど自由は与えられないし、そんな力も残されていないだろう。力の強い大天使であれば多少は負担を軽減できるそうだが大天使がそうそう罪を犯すはずもないし仮に罪を犯したのだとすれば堕天使にされる前にそのまま処刑されている可能性が高い。それを逃れてしかも大々的に行動しているとなれば天使界が黙っていないはずだ。少なくとも俺達が今ここにいる可能性は低い。すぐに退避の指示が来るはずだ」
「……いや、そうでもないんじゃないかな?だってもしもいま起きている連続火災が天使を狙っての犯行だとすればその時点で君達には退避の指示が来ているはずだ。いや、退避でなくとも何らかの連絡は来ているはずなんだ。けれど実際には来ていない。だとすればだ。天使界の連中はこの事を全部知っていてそれでも君達を野放しにしているんじゃないかな?理由があるとすれば餌として」
「餌だと……?」
「そう。大々的に動けば敵の動向がつかめる。その標的としてわざわざ君達を地上に残しているんじゃないかな?ひどい話だとは思うけれども。そして堕天使化と言う強い厳罰にも耐えられるような大天使が堕天したということも既に知っていて冷静に対処をせざるを得ない。ということだったりするかもよ?」
秀人は言うが、しかし果名はそれだけじゃないとも思っていた。自分も知らなかったことだがどうして天使界は桜葉のような量産型を作ったのか。単純にクローニング技術の試運転故か?仮にそうだとしても、没個性型の量産型を作って運用しているということはそちらを主流にしたいということ。そして、結羽達非量産型の天使に帰還命令が出ていない理由はここでその数を減らして本格的に量産された没個性型天使主流の時代を作り上げようとしているからだ。秀人も一切口外していないがしかしその可能性には間違いなく気付いているだろう。けど、こうなるとまた1つの可能性が出てくる。天使狩りを行なっている敵の目的はその計画を推すために地上で暴れて連続火災を起こしているのではないかと言う説。地上界での事故と言う形でそれまでの非量産型の天使を殺害してその数を減らして量産型天使の時代を起こそうとしている説。だが、これには欠陥も存在する。確かに非量産型の天使を殺しているだろうがしかし、彼は実際に量産型の桜葉を殺害している。だからその計画を推しているものではない。……だが、それを隠れ蓑にして天使界への復讐のために天使の総数を減らしているのではないか?だとすればやはり黒幕はそれなりに位の高い天使……大天使である可能性が高い。堕天使であるかどうかは分からないままだが……。
「……」
秀人は自分に視線を送っている。そして一瞬だが和佐の方に移った。自分もまた一瞬だけ和佐を視線に移す。
和佐はクローニングに関して自分に知られたくない情報がまだあると言っていた。そして今秀人が言っていることは結構核心をついていると思う。しかし、彼女はそれを止めようと言う気配は見せていない。つまり、和佐が知られたくない情報と言うのは他にもあると言うことだ。恐らくこんなものでは済まされないくらい重要な何かが。そしてそれが今回の件に関わっている。……改めて自分はとんでもないスケールの物語の中心にいるのだと思わされてしまう。そしてそれらを知る和佐とは何者なのだろうか?歩乃歌やあのよく分からない銀髪は十三騎士団とか言っていたような気がするがそれは何なのだろうか。
「……ん、歌音。どうかしたか?」
気付けばぼうっとしている彼女が目に入った。
「あ、ううん。なんかよく分からないスケールの話だなぁ……って」
「まあ、普通そうだよな」
好美とか舞とか既にスマホ見てるし。理解を諦めている感じだ。刀斗に関しては言わずもがな。
「果名、今更だけれども黒竜牙とやらを取りに帰った方がいいかもしれないよ」
「え?」
「相手が誰だか分からないけれども君が黒竜牙なしでは勝てないと言ったあの無沙紀が下っ端として動いているんだ。これはきっとスケールの大きい話だ。君はもしかしたらこの世界では死なないのかもしれないけれども僕からしたら是非守ってくれたらうれしいんだけどね」
確かに。自分はあの時、秀人が死ぬ姿を2度は見たくないと思ったからこそ過去の自分に自分が持っている黒竜牙を渡したんだ。だがこれから待つ相手は秀人たち一般人どころか自分や剣人でさえ及ぶかもわからない天使界の闇だ。スライト・デスには及ばないかもしれないが個人がどうにかできる相手ではないのは確かだ。

------------------------- 第149部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
137話「セントラルの白き闇」

【本文】
GEAR137:セントラルの白い闇

・ゼストはしかし、素直に戦場には戻らなかった。一度自室に戻り、カードデッキの調整を行う。その際には監視(ウォッチ)のカードを使って戦場の様子を確かに見ていた。
「……グラーザンはあの森の死神に殺されたか。ソゾボルトは……よく分からないな。毒のGEARを使う相手か?しかしむごいことだ。レッドバーンが戦ったのは陰陽協会の使徒か。まだ若いが、連戦の間隙に突かれたとはいえあのレッドバーンをここまで鮮やかに殺せるとは。世界は広いものだ。……しかし偽艶の結界が消えている。あの陰陽少年の仕業か?」
デッキの調整が終わり、ウォッチを解除して部屋を出る。と、
「お、あんたかい」
ミネルヴァが廊下を歩いていた。戦場には出ていないはずなのに胸から血を流していた。
「……どんな特訓をしていればそうなるんだ?」
「なに、ある程度強い奴とのを想定していれば少しくらい怪我も負うさ。あんたも一戦やるかい?」
「……お前となど命がいくつあっても足らんよ。私は戦場に戻る。……一応お前にも聞いておくか。この辺りで200年以上残り続けている施設のようなものはあるか?」
「あるさ」
「……何?」
ゼストはミネルヴァの不敵そうな顔を見た。しかしその表情に嘘偽りはなさそうだ。
「それはどこだ?」
「上さ」
ミネルヴァは親指を上に向ける。ゼストは少しだけ天井を見て、その先にあるものを思い出す。セントラルは何も前線に出て実力行使を行うテンペスターズだけで成り立つわけではない。況してや現在テンペスターズをまとめている兄(キング)が頭と言う訳でもない。この荒廃した地上を支配する存在がこのセントラル本拠地の上層階には住んでいる。いつからそこにいるのかは分からない。ただ自分が20年前にこのセントラルのテンペスターズに所属した時には既に今の状況だった。しかしだとすれば確かに古い施設と言うのは分かる話だ。
「……どうしてお前がそれを知っている?」
「あんたも知ってるはずだよ?この上に住んでいる中にあたしの父親がいるってね」
ミネルヴァの父、ステメラ・I・Hル卍。実際にお目にかかったことは一度もないが彼女をテンペスターズに出向させた張本人でありセントラル上層部の一員。だとすれば確かにセントラルと言う組織やこの施設について詳しくても不思議ではない。そう思ったところであの白衣の男の言葉を思い出す。スライト・デスがこの星を狙う因子たるクローン少女たちがその施設にいる可能性がある。しかし、それをどう兄や上層部に説明すればいいのか。まさか過去で出会った怪しい男から聞いたなどとは言えないだろう。それに兄もそうだがもはやセントラルであってもスライト・デスに逆らおうなどと思っている人間はいない。それどころか喜んで従っている人間だって少なくはないだろう。越権行為してまで目的がスライト・デスを地球から追放できるかもしれない、では反感を買うだけかもしれない。
「……行ってみるかい?」
「ん?」
「上だよ。あたしなら入れるぜ?」
「……ほう、」
どうやら鴨葱とは筋骨隆々な渡り鳥の事を言うらしい。
ミネルヴァが専用のカードキーを使って入れる隠し通路を抜けて数分。少しずつ見慣れない景色に変わっていく。明らかに壁や床の素材が変わっているからだ。それも想像していたのとは違う。200年以上も前なのだから下階層のそれと比べて古いものだと思っていたが実際は全然違う。最初に思いついたのはあの白衣の男と会ったあの施設。あの施設とどこか似ている。言ってみれば近未来的な感触。しかし考えてみればある意味当然かもしれない。あの白衣の男はあの培養槽で眠る少女の持つ因子がスライト・デスを呼び寄せると言った。そしてあの培養槽はその少女を増やすためのものであり、あの部屋はそれを行うための部屋。だとしたらここがあそこに似ているのも当然だ。何故ならばここが現在のあの部屋である可能性が高いのだから。
「……」
そして到着したのは高層階とは思えないような大広間だった。最初に驚いたのが扉がないと言うことだ。長い階段を上っていくとすぐにこの大広間に入る。確かにまるで草原のように広いがしかし個室と言うものがないそこはプライベートな空間が存在しない、あまりにも異質な空間だった。
「……ここは」
「セントラルの上層部。さっきレッドバーンやブルーバーンに抵抗者どもを攻撃するよう命令したあのお方がいる場所さ」
「あのお方?貴様の父親か?」
「……そんなものはもうどこにもいないさ」
声。それはミネルヴァの物でもゼストの物でもない。青年のような声。それが突然生まれた。ゼストはゆっくりとミネルヴァの顔を見た。
「……ああ、そうさ。今の声がこのセントラルを、そしてこの星を支配しているお方さ」
「……貴様の父親がどこにもいないというのはどういう意味だ?」
「そのままさ。今まであたしはセントラル上層部のステメラの娘として名乗っていたがもうとっくに親父はおっ死んじまってる。代わりにあのお方の権限を借りていたのさ」
「……」
ミネルヴァの告白も中々聞き捨てられないものだがしかし今はこの状況だ。どうしてミネルヴァはここへ自分を連れてきた?……考えるまでもない。妙な動きをしている自分を黒幕の元へ連れて来て裏切り者として処刑するためだ。
ゼストは無言で槍を構えてミネルヴァへと繰り出す。が、それをミネルヴァはトマホークで受け止めた。
「おっと、」
「随分と堂々とした御用だな」
「さて、何のことだい?」
ゼストはミネルヴァに違和感を覚えている。どうにも相手から敵意を感じない。もちろん殺意もない。まるでただおもちゃを自慢する子供のような感覚でここまで連れてこられたような感じだ。当然そんなもので済まされるような行為ではない。
「やめるんだ、ミネルヴァ」
声。支配者の声。
「やめろも何も攻撃されたのはあたしの方なんだけどね」
鼻で笑いながらミネルヴァはトマホークを下ろす。そしておどけたようにゼストにウィンク。その胸筋しかないような胸をわずかに穂先へと近付けた。……本当に何がしたのか分からない。
「ゼスト・グランガルドガイツ」
支配者の声は自分の名前を呼んだ。ミネルヴァへの警戒をそのままに、しかしどことも言えない空間にゼストは意識を向ける。
「私を知っているようで光栄だ」
「あははは!!不思議なことを言うんだね。この僕がこの地上で知らない事なんて何もないよ?さっきミネルヴァも言ったけど僕はこの地上を完全に支配しているんだから」
「……」
訝しむ。それなりに落ち着きのある声だがしかしまるで子供を相手にしている感覚。声が聞こえるだけだから正確な判定は難しいが20も行っていないのではないだろうか?
「僕が君をここへ呼んだ理由は1つだけだ」
「……何か?」
「君は先程妙な連中の妙な技を受けてどこか別の時空に飛ばされたね?そこで何が起きたのか、どうして200年以上前の施設なんて探しているのか、それを聞きたくてね。僕は確かにこの地上を支配しているけれどもさすがに別時空までは把握していない。けれどもここ最近起きているイレギュラーな戦力。半分近くは確かに確認済みの個体だけれどももう半分くらいは一体どこから現れたのか全く分からない。まあ、精々過去くらいが妥当かなって思っているけれども」
何故だろうか。咄嗟にあの白衣の男が自分に口止めをしているような気がした。そして同時に何かこの問いが自分だけでなくこの世界の全ての運命をも変えるようなとてつもない重さを孕んでいるようにも思える。いや、自分と世界、その命運を天秤にかけられているかのような感覚か。しかし、
「……どこの時代、どこの場所かはわからないがとある男と出会い、近くに200年以上前から存在する施設はないかと尋ねられた。それだけのことだ」
「……いろいろ妙だね、それは。少なくともあの間君はこの時空にはいなかった。だから過去か未来か或いは別の惑星に飛ばされたとみるべきだ。だとすれば君の近くにだなんて言わないはずだ。狂人でもない限りはね」
「……その相手が狂人ではないと否める要素はどこにもないな」
「あるよ。君の保身っていう要素がね」
「……答えを最初から用意しているのであれば質問などしないでもらおう」
「きちんとした答えを持ちながらお試し感覚で適当に添削をして話さないでもらおうかな。情報は例え拙かろうが鮮度と純度を失えばそれだけ価値は下がる。君は保身をしたつもりかもしれないがその添削が逆に君の価値を貶めているんだよ」
「その物言いが目的であるのならば私は帰らせてもらおう。まだ行くべき戦場が残っているのでな」
そう言ってゼストは後ろを向き、階段から降りようとした時だ。
「……」
先程は気付かなかったが階段の左右。そこに小さな透明の部屋が2つあった。そこには同じ顔の少女が二人椅子に座っていた。こちらの様子に気付いていない様子はどうやら向こう側からは外の様子が見えないつくりになっているようだ。ただそれだけならまだいい。だが、同じ顔の少女と言うのが気がかりだった。
「ゼスト・グランガルドガイツ。どうかしたのかい?」
「……あれは?」
「客人だよ。君のお兄さんが言っていただろう?3か月ほど前にいきなり現れたんだ。君達が今戦っているどこから来たのか分からない者どもと同じく彼女達もどこから来たのかよく分かっていない」
「……彼女達に聞けばいいのでは?」
「そうしたいのはやまやまだがどういう訳か言葉が通じなくてね。片方はまるでお人形のように動かないし、もう片方は聞いたことのない言葉しか話さない。試しに自分の名前を書かせたらこんな字を書いてきた」
言うと、どこからか1枚の紙が落ちてきた。ゼストはそれをつかみ取り、そこに書かれていたSifl=Croceという文字を見る。当然それが何と書いてあるかは読めない。
「けど、妙なこともある。彼女は確かにこういうよく分からない言葉を使うんだけれども君達の敵である異世界人たちは僕たちと同じ言葉を使う。どういうことなんだろうね?」
「……俺にその敵どもをここへ連れて来いと?」
「それはいい考えだ。命令を上書きしよう。ゼスト・グランガルドガイツ。君は今から異世界人たちをここへ連れてくるんだ。全員連れてくる必要はないよ。二人……いや3人ほどで構わない。それ以外は殺してしまっても構わない。どうせ死体が残っているならいつでも生き返らせることは出来るのだからね」
ゼストは悪趣味な声を聴きながらさらに少女達がいる部屋の奥を見た。そこには培養槽が存在し、中には脳髄のようなものが2つ浮かんでいた。


・X是無ハルト亭。
戦況が少し変わったことを黄緑は皆に知らせた。謎の剣士がレッドバーンを倒したという情報だ。
「どうやら早速やってくれたようだな」
剣一はやや表情を和らげる。
「ここへ連れてきた方がよかったかな?」
「いや、そいつがどっちであれこのままにして置いてもいい。屋敷の中をさまよいながらグールどもを蹴散らしてくれるだろうし場合によってはもう一人の敵も倒してくれるかもしれない。どっちにしろ気難しい奴だろうしな」
剣一が言うと、数秒。眞姫が声を上げた。
「みんな、電波が戻ってる!」
その声に乗じてスマホ、パラレルフォン、P3を持っているメンバーがそれぞれ電波の有無を画面で確認する。眞姫はそのまま歩乃歌に連絡をしようとするがやはり通じなかった。
「歩乃歌ってばどこ行ってるのよ……」
「もしかしたら剣人と一緒かも知れないな。流石にカードの効果で作られた仮想空間まで電波は飛ばないだろう」
「あの子ってば。こんな大変な時に……」
「……!」
と、いきなり別の場所に黄緑が出現した。どうやら今の瞬間に時間制御で移動していたようだが何やら様子がおかしい。それに見慣れない少年を担いでいた。
「李狼!!」
「……5分おきに館内の様子をうかがっているけれどもこの人が倒されそうになっていた」
「相手は青い奴か?」
「いや、槍を持ったおっさんだ。……あ、」
と、次の瞬間。会議室のドアが蹴破られてゼストが出現した。さらにヴァルピュイア、ブルーバーンまで一緒だった。
「テンペスターズ……!!」
傷だらけの剣一、火乃吉、李狼が身構える。しかしそれに目もやらずゼストは一同を見渡す。
「我々はセントラル所属地上統括部隊テンペスターズだ。同胞を3人も葬ったその罪並びに我々の処罰を妨害し続けてきたその罪の重さを知れ」
「今大人しく投降したもののみその生命を保証しよう。投降を望むものは抵抗せず前に出てひれ伏せ」
「命を捨てたものだけがその場に立ったままでいろ。兄の仇も含めて全員凍土の標本へと変えてやる」
三者の発言に黄緑達はどうすることも出来ない。紫音は一度黄緑を見たが李狼を助けた際の時間制御で体力を消耗しているのかどうやら続けての時間制御は厳しそうだ。見たところ青いのを除いた二人は人間に見える。時間制御が可能になった瞬間貴重な餌になってもらうことは不可能ではない。問題はそれまでの時間をどう稼ぐかだ。それを考えよう。その時だ。
「意見を言ってもいいですか?」
言葉を出したものがいる。来音だ。
「何かな?」
「あなた方の正義も分かります。でも私達にも正義はあります。私達もここで大人しく投降するわけにはいきません。だから、勝負をしませんか?」
「勝負?」
「はい。そちらは3人。それに対してこちらは人数こそ多いですがしかし戦士と呼べる人数は限られています。その無辜を抵抗するとは言え殺してしまうほどの大義があなた方にあるんですか?」
来音に陽翼が続いた。
「あるのだとしたら僕達は全力で抗います。でも、ないのだとしたらせめて相対戦と言う形でこちらから選んだ3人とあなた方で勝負をしたいんです。それでそちら側が勝ち越した場合僕達はあなた方に従い、全員が服従します」
「……そちら側が勝利した場合は何を望む?」
「あなた方との対話です。僕達もあなた方と同じで無意味な殺戮や抵抗を望んでいるわけではありませんから」
二人の視線を真っすぐに受けるゼストは一歩下がり、左右の二人に視線を送る。
「どうか?」
「私は構わない。無意味な殺戮程好ましくないものはない」
「俺は殺せればそれでいい。相手は殺してしまっても構わないのだろう?」
ブルーバーンの発言。ゼストが陽翼たちに視線を送る。
「……はい。戦士同士の正々堂々とした勝負に生死は問いません」
陽翼は力強く答えた。

・中庭。
最初に敵側からはブルーバーンが中央に立っては首をゴキゴキ回して対戦を待ちわびる。
「兄を殺した奴出てこいよ。それともさっきボコボコにされた中華のおチビちゃんがそうなのかい?だとしたら逆に兄の恥を雪いでやるから誰でもいいから殺されにかかってこい」
挑発のブルーバーン。対して黄緑達は作戦会議を行っていた。
「いいかな。来音と陽翼ちゃんがせっかく時間稼ぎの作戦を作ってくれた上で申し訳ないけども僕が時間制御を行うまで軽く見積もってもあと1時間はかかる。だが、時間制御が出来たなら残った二人を捕食して僕の体調を戻すことは出来るだろう。だからあの青い奴とは1時間以上戦える人が出て行ってほしい」
とは言え、それが厳しいオーダーと言うことも黄緑だけでないその場の全員が理解していた。中庭での戦いを達真が報告した通り、ブルーバーンは冷凍系のカードを使う。その精度はこの300坪あるX是無ハルトの中庭を数秒でスケートリンクに変えるほどだ。しかも他の属性と違って時間が経過しても残り続ける。それを相手に持久戦をやれと言うのは酷な話だ。だけにとどまらず仮に時間稼ぎと言う目的がなかったとしてもナイトメアカードを使う相手に対して真っ向勝負を挑むと言うのは難しい話だ。対等に戦える聖騎士の3人はこちら側にもいるが全員負傷していて恐らくまともな勝負にならない。そしてその3人以外に中々挙手の手が見当たらないと言うのも厳しい。
「花京院、インフェルノでやったらどう?」
「いやお前流石にそれは卑怯すぎないか?と言うかPAMT使ったら1時間も持たねえよ」
「……だったらやはり僕が行きます」
ライラが挙手。それをシュトラ達は心配そうな表情で見た。
「僕は一応ナイトメアカードも使えます。それに僕が使うプロレス技はこういう時間稼ぎには向いているはずです」
「でもライラ君、相手は氷使いよ。近接戦闘も、水難(シプレック)も相性が悪いし、それにユイムさんがまだいないのにそんな……」
「……帰ってくるまでここを守り抜かないと。大丈夫。僕は死ぬつもりはありませんよ。必ずまたユイムさんと会うつもりですから」
そうしてライラがブルーバーンの前に立った。
「ほう、誰が来るかと思えばこんな小娘か。あそこにいる男どもは全員ろくでなしの種袋ってわけか」
「種袋って言う点なら僕も同じかもしれませんけどね。でも不毛な特攻精神で僕が出てきたわけじゃありませんから」
視線をぶつけ合わせる両者。木枯らしが吹き、凍てついた枝が氷柱と化した庭木から落ちた瞬間に二人は動き出した。
「踵(ステップ)・行使(サブマリン)!!」
「氷技(アーツ)・サブマリン!!」
ライラが脚力を大幅に強化し、その場から跳ねるように移動すると同時、周囲の氷が集まってできた巨大な球体が地面に叩きつけられ大爆発した。
その中心どころか周囲数十メートルに横薙ぎの氷の雨が降り注ぎ、庭木を次々と貫通して瓦解させる。そんな中、ライラは奇跡的に無事だった。たまたま最初の移動地点が大木の陰だったために直撃も第二陣も回避できた。
「……やっぱりナイトメアの威力は凄まじいな。だったら私も……破滅(スライト)・行使(サブマリン)!!」
ライラは急出現した1枚のカードを発動させた。それにより制服姿に暗黒の甲冑が装備され、その手にはハンドガンが出現する。
「相手のカードだけを、もしくは魔力だけを破滅させる……!」
木陰から姿を見せて敵に向かって数発発砲。破滅が込められた弾丸が寒風を貫通してブルーバーンへと迫る。
「!」
ブルーバーンは咄嗟に畳返しをしたように地面から氷の壁を召喚してその銃撃を全て受け止めた。
「ほう、攻撃速度は中々だな。だが、こんな厚さ50センチほどの氷も貫けないような火力じゃ鼻で笑えもしない」
この状況、シュトラは失敗したように頭の上に手を置いた。気になって赤羽は質問する。
「どうしたのですか?」
「ライラ君のあの技はあらゆる防御や攻撃、それに限らない本当にいろんなものを破滅させる効果があるの。もしライラ君が望めば、ううん。望まなくてもあれくらいの氷ならあの男が言うように簡単に貫けるうえそのまま掠りでもすれば一瞬で殺す事だってできる。そういう技なんだけど多分ライラ君相当手加減してるんだよね。きっと相手の魔力だけとかカードだけとかって破滅対象を限定しているんだと思う」
「……でも時間稼ぎが目的ならばそうして相手の戦力をじわじわと削っていく作戦は有効では?」
「いくらライラ君がパラレルの天才だったとしても相手はナイトメアの使い。使ってるカードが全然違うのよ。言ってなかったかもしれないけど私達が使ってるパラレルカードは戦争の道具として使われていたナイトメアカードをスポーツ競技の道具としてかなりデチューンしたものなのよ。だから根本的に性能が違い過ぎる。確かにライラ君も何枚かナイトメアカードを持ってるし使えるけど攻撃手段全てがナイトメアカードな相手だと不利に違いはない。私達よりかはまだマシってレベルなのよ」
「……そんな、」
赤羽が再び戦場を見る。ブルーバーンが手本を見せてやるとばかりに直径2メートルほどの氷塊を次々とライラに向けて発射する。ライラはそれを強化した脚力で回避したり、それが厳しい時には銃撃で相殺している。既に戦闘が始まってから5分が経過している。確かにこの調子で引き延ばせば1時間くらい行けるかもしれない。そう思って紫音が黄緑を見る。
「……」
だが一向に黄緑の体力が回復しているような素振りは見えない。現在も立っているだけで精一杯と言う感じだ。そもそも既にこの中庭自体がブルーバーンによって凍結されていて気温が寒すぎるのだ。夏服の制服を着ている紫音だってさっきから寒くて仕方がない。ならそれよりも薄着に見える黄緑の体力が回復しないのも無理はない。
「兄さん、中入った方がいいんじゃない?」
「……けどここは少しまずい」
紫音が周囲を見渡す。本来中庭を見渡せるよう屋敷の内側にはいくつもの窓があるのだがしかし今はその全ては壁ごと凍結されている。屋敷の中に入るには先程同様回り道をする必要がある。だが、そうしているとタイミングが難しくなる。
(……私のGEAR、逆の効果があればいいのに)
紫音は微かに思った。自分の損傷を相手に与えるのではなく自分の体力を誰かに分け与えられたら、或いは自分以外の誰かの痛みを他の誰かに引き渡せたら……。
そう意味のない考えをめぐらせていた時だ。
(……力が欲しいか?)
「え?」
突然紫音の脳裏にどこかで聞き覚えのある声が響いた。
(欲しいならくれてやろう。だが、その先に救いはない)
(ま、待って……!!)
しかし時すでに遅し、紫音の脳裏で何かのスイッチが押されたような感覚が広がった。頭の中に浮かんでいた逆上の文字が天秤へと再構成される。そうした時には既に紫音はその新しい力を使っていた。
「……天秤(エクスチェンジ)……!!」
「……っ!?」
紫音の能力を込めた視線がゼストを捉えると同時、ゼストは尋常ではない寒気を覚えた。いや寒気だけではない。突然眩暈や吐き気が襲ってきたのだ。確かにこの戦場は寒いが自身はロングコートを着ている。全身メタリックスーツなヴァルピュイア同様に寒気にはそこそこ強いはずだと言うのにこの突然の現象。故意の何かであることは間違いない。ゼストが周囲を見渡す……までもなくこちらに真っすぐ視線をぶつけてきている存在に気付く。紫音だ。その右目には黄緑が、左目にはゼストの姿が映し出されていた。
「……新しいGEARか何かか……?」
「……ゼスト、どうかしたのか?」
「……気をつけろ。微動だにしないままでもこちらに攻撃が出来る者がいる」
「何……?」
ヴァルピュイアはゼストの視線を追う。その先には両目から血涙を流す紫音がいた。
「……あの小娘か」
「証拠はない。だが、先程からどうも体調がよくない。もしやあの小娘はこちらの体力そのものを奪うか、或いは病気を巻き起こす力を持つ可能性がある」
「……GEARと言うのはそんな力まであるのか」
「……どちらにせよあの小娘は危険だ。いますぐに……」
「いや待つんだゼスト・グランガルドガイツ」
「!」
新しい声がした。それはつい先ほど聞いた声。セントラルの支配者の声。
「……ゼスト・グランガルドガイツ。今君が受けている謎の現象、僕にも未知なものだ。研究のためそのまま受け続けていてほしい」
「……何を馬鹿な」
「死ぬかどうか分からないものを受け続けているのと今ここで死ぬのどっちがいいんだい?」
「……」
「……どうしたゼスト?」
「いや、何でもない。もう少し様子を見よう」
「……そうか」
ヴァルピュイアは不思議そうな顔をしている。どうやら支配者の声は自分にだけ聞こえたらしい。
それらの様子を確かに紫音は見ていた。しかし、とてもじゃないが理解できるような余裕はない。新しいその謎の力、今までのアベンジなんて比べ物にならないほど扱いが難しいうえ負担が重すぎる。
黄緑の不調をゼストに与え、ゼストの体力を黄緑に与える。そんな魔法のようなことを今この両目で行っているのだが両目と頭が尋常じゃないほど痛い。
「……ちょっと紫音ちゃん……!?どうしたの!?」
様子に気付いた来音が走ってくる。
「……ら、いね……」
「目から血が……それにものすごく顔色も悪いよ?一体どういう何が起きてるの……!?」
「……ちょっと、だまっ……て。集中が……」
言葉を話していくごとにどんどん集中と力が消えていき、ついには紫音の両目から黄緑とゼストは消え、紫音はその場に倒れた。
「紫音ちゃん!!」
「……紫音……!」
座り込んでいた黄緑が紫音に歩み寄る。紫音は一瞬だけ目を開けて、さっきよりだいぶ顔色がよくなった黄緑を見ては意識を失った。

------------------------- 第150部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
138話「降臨する究極」

【本文】
GEAR138:降臨する究極

・氷原と化しているX是無ハルト亭中庭。そこをウサギのように軽やかに舞うライラ。もちろんただ舞うだけでなく隙あれば破滅の銃撃を繰り返している。しかし、相手は氷さえあればいくらでもどのようにでも操り、こちらを一撃で粉砕する武器として操る上その弾である氷を領域レベルでいくらでも展開できるブルーバーンだ。一度中庭全体の氷を銃弾の雨で打ち消したが次の瞬間には再び凍てつかせられてしまった。
しかも、その際に両足が膝まで凍ってしまった。足が触れてさえいれば今までの半分以下にはなるが飛び跳ねることは出来るため回避にはそこまで困らないが両足を治すための弾丸を撃つ暇が与えられない。
「……思った以上に厳しいかも」
ウサギよりかはボールのように鈍く跳ねまわりながらギリギリのところでブルーバーンの攻撃を凌いでいく。しかし突然ブルーバーンの攻撃は止まった。
「?」
着地と同時に両足の氷に銃弾を撃って氷を解きながら様子を見るライラ。
「……いい加減飽きてきた」
ブルーバーンは無毛の頭をかく。両眼を瞑った表情はひどくイライラしているようだった。そしてそれが数秒の後、開かれた時だ。
「別に殺せればいいからな!!」
突然直径10メートル以上もの大きさの氷塊を作り出すとそれをライラではなく観戦しているキリエ達に向かって発射した。
「!」
咄嗟に凍土を蹴って発射された先へと全速力で向かうライラ。が、
「甘すぎるぜ雑魚虫ウサギちゃんよぉ!!!」
同じようにブルーバーンも凍土を蹴って距離を詰め、ライラを後ろから羽交い絞めにした。
「っ!!」
そしてライラの眼前で氷塊は観客達に炸裂した。
「キリエさん!!シュトラさん!!」
「他人の心配をしている場合か!?」
ブルーバーンはライラの両腕を背後までひねり上げては背中ごと凍結させ、その尻尾をライラの両足に巻き付けてはバキバキに骨をへし砕く。
「!?」
「処刑の時間だ!!!」
額から1メートル以上の氷の角が生えて来てはライラを担ぎ上げてバックブリーカーのように背骨をがっちりと決め締めてはそのまま角にぶっ刺す。
「ぁ、ぁああああああああああ!!!」
両腕が無理な態勢で固定された状態で凍結、両足はバキバキに砕かれ、背骨が折れんばかりにひん曲げられた状態でさらに腰のあたりから角で貫かれる。
「……まずは一匹」
零れ落ちてきた流血を舐め上げてからブルーバーンは血だらけで動かないライラを思い切り投げ飛ばし、凍結した壁に叩きつけた。
「……で、こっちはどうかな?」
ブルーバーンは下卑た顔で観客席を見た。そこでは想像とは違った光景が見えていた。
「……貴様……!!」
正面。スカーレッドがいた。その背後に他のメンバーが全員無傷の姿でそのままでいた。どうやら先程の氷塊はスカーレッドが粉砕したらしい。
「次は俺が相手だ!!」
「炎の使い手……どうやらお前達はよほど無惨な死に方をしたいらしいな」
ブルーバーンが再びカードで一面の凍結を始める。
「そんなものがあああっ!!」
スカーレッドが大地を蹴って距離を詰める。当然ものすごい寒波が迫ってきて手足が凍ったが次の瞬間には炎で溶かして接近。ブルーバーンの懐に入り込んでは炎の拳を叩き込む。
「うああああああああああああああ!!!」
体重と腕力と炎とが高密度に混ざり合った一撃が爆発さえ生んでブルーバーンを激しくぶっ飛ばす。殴り終えたスカーレッドが見た時には既に泡を吹き散らしながら溶けていく小さな氷だけになっていた。
「……おかしい。体積が少なすぎる……」
「ふん、よく気付くものだな!」
「!」
声。上を向く。そこには無傷のブルーバーンがいてもう1つの太陽かと見まがうようなバカでかい氷塊を掲げていた。そしてそれが今振り下ろされる。
おおよそ直径は30メートル以上。重さに関しては100トン以上あるだろう。先程と同じ手段で砕くことは難しい。
「だったら炎でサイズを!!」
両手を前に突き出し、肘から先全体から熱線を放射した。温度は2000度以上。100トン程度の氷塊を排除するには十分なはず。咄嗟に考えて放った技にしては上出来だ。
「防御策としてはな」
「!」
声。それは背後から。振り向けばブルーバーンがいた。しかもその手にはもだえ苦しんでいるライラが。
「だが攻撃を攻撃で防ごうと言うのであればこういうことだってあるのを覚えておけよ!!」
「!やめろ!!」
しかし両手が塞がれているスカーレッドの前でブルーバーンは熱線と氷塊が激突しているそこへライラを放り投げた。
「ライラ君!!」
シュトラが走るがとても間に合いそうにない。黄緑が時間制御を行なおうとしてもまだ体力が少し足りない。スカーレッドが熱線をやめてしまえば氷塊が自分ごとライラを押しつぶす。火咲が走りながらPAMTを呼ぼうとするが達真が間に合っていない。そのままライラが激突の中心点に飛ばされて消滅してしまうその寸前だった。
「流(ストリーム)・行使(サブマリン)!!」
「!今の声は……!!」
ひどく聞きなれた声。ライラの耳に届いた瞬間にものすごい出力の魔力のビームが迫ってきては氷塊も熱線もまとめて一瞬で消し飛ばした。
「ライラ君!!」
落下していくライラをシュトラがキャッチする。そして二人して声がした方向を見た。それは西の屋根。そこに一人の少女がいた。
「危なかったけど何とかなったかな?」
「ゆ、ユイムさん!?」
それはまさしくユイム・M・X是無ハルトその人だった。
「やっほー、ライラ君。シュトラ。会いたかったよ」
「ユイムさん……嗚呼ユイムさん!!」
泣きじゃくるライラだったがしかし手足のせいで動けない。なのでユイムの方からライラに歩み寄る。
「もう、ライラ君ってば。ひどい顔だよ?可愛い顔が台無し。ほら、ちゃんと笑って?僕に可愛い顔見せて?」
「ユイムさん……」
「シュトラも久しぶり。元気してた?」
「は、はい!ユイムさんはいままでどこに?」
「それがよく分からない場所なんだよね。昔ブランチや剣人さんと初めて会ったあの森の中のどこかだったと思う。なんかザ・プラネットって人が声だけ近くにいたんだけどその人曰く僕とライラ君とでパラドックスが起きててライラ君は無事なんだけど僕だけ体が使われてるから新しい体が必要だって事で結構時間がかかっちゃったんだよね」
「?えっと、何ですかそれ?」
「さあ?あ、とりあえず」
ユイムがブルーバーンを見た。
「僕の可愛い可愛いお嫁さんをここまで苛めてくれたお礼はきっちりとさせてもらうからね。……この新しい力で!!」
ユイムは右腕を前に出す。
「きゃー!!お母さん可愛い!!ちっちゃいお母さん格好いい!!」
「もうアルデバラン?シリアス決めてるんだからいい子にしてて」
「はーい!!」
何故かその右腕からは少女の声が聞こえていた。だけでなく、
「うわあ、何だか凄いことになってる。これが僕が普通に育っていたらのifの世界なのかな?う~ん、まずは鮭おにぎりでも食べて落ち着こう。……ってこの姿じゃ食べられないよ!?ガガントス!!なんてこったい、よくアルデバランはこんな姿で耐えられてたなぁ……」
「でしょ?レイラくん。少しは僕の苦労も知った方がいいんだよ。ほら、ちょうどお母さん達もいるんだし。ここは長男が頑張ってくれるのが一番いいんじゃないのかな?」
「そ、そうだね!茜ちゃんがいないのは寂しいけど僕ももう15歳。やるときはやるぞ!男なんだから!まずは鮭おにぎりと光化学スモッグ早食い競争で優勝してからだ!」
「……そろそろいいかな?」
ユイムはちょっとだけ眉間にしわを寄せたまま喋る右手と左手を全力で叩き合わせた。少女と少年の悲鳴が同時に響く。
「えっと、ユイムさん?ひょっとして腹話術師の修行でもしてきたの?」
「ううん。さっきも言ったように僕の体の大部分が誰かに使われてるからその代わりが必要だったの。それで何故かこの喋る両腕が用意されちゃって」
「どうもー!アルデバランです!」
「どうもー!レイライラス・Xanミル斗ンです!」
「「3人合わせて……!!」」
直後ユイムの両腕が輝き、その背中から4枚の翼が生えていく。
「!それはまさか……!?」
「「ジュネッストリニティー!!」」
光が収まった。ユイムは背中から4枚の翼……天死のそれよりかは天使に近い……を生やし、両目はエメラルドから真紅の緋瞳へと変わる。
「……ユイムさんが天死の力を……!?」
「天死だけじゃないよ?こんなのもある」
ユイムは翼から1枚のカードを出す。それはパラレルでもナイトメアでもなかった。
「ナイトバーニングの力!偽紅蓮の槍!!」
カードに映し出された甲州院優樹(ナイトバーニング)の槍が実体化してユイムが握る。
「えええええ!?何しちゃってるのあの子!!」
「どうしたアルケミー?」
「どうもこうも、あれは十三騎士団の一人、灼熱の騎士ナイトバーニングの持つ紅蓮の槍じゃない!どうしてそれをあの子が使えちゃってるの!?」
アルケミーが驚く中、ユイムは翼を使ってマッハ6で飛行。
「!?」
ブルーバーンが気付いた時にはもうその槍で100回以上薙ぎ払われた後だった。
「がはっ!!!」
「次はこれ!!平井芽吹の力・ブラックダミーハンド!!」
槍をカードに戻すと、今度はユイムの両腕が5メートル以上もの長さの黒い腕へと変わり、空中でワンツーをかましてブルーバーンをマッハ10で地面に叩き落とす。
「がああああああああああっ!!!」
「……あれは学園都市にいた平井の……」
スカーレッドが驚きの声を上げる。
「……ユイムさんまさか……」
「そう。今の僕は短時間且つ劣化コピーだけどそれでもあらゆる人の力を自由に使える。おまけに天死で言うジュネッスの倍の能力も持ち合わせてる。やっぱ僕が最強じゃないとね!!」
「……なあ牧島。あの子見てると何かデジャビュを感じるのは気のせいか?」
「……奇遇ね。私もなんかずっと隣にいた何でもしでかすあの白髪を思い出したわ」
「お姉さま、ユイムには萌えないんですか?」
「……どうしてかしらね。多分あの子、性に関しては歩乃歌より私寄りだからかしらね」
「ああ、攻めと攻めって感じですからね。相性あまりよくないのかもしれません」
白い眼をしている4人の上を通り過ぎてユイムは太陽を背に上空で待機して次のカードを手に取った。
「デンジャラスマッハの力・フェイクサイクロン号!!」
空中でバイクを召喚してマッハ30の速さで爆走。アクセルをフル稼働にして地上にいるブルーバーンへと向かう。
「くそったれがああ!!」
迎撃しようとするブルーバーンを、しかし全く間に合わない速度でユイムは轢き飛ばした。
「最後(ラスト)ォ!!馬場久遠寺の力・虎徹絶刀勢(こてつぜっとうせい)・偽(フェイカー)!!!」
久遠が万雷の拍手を叩く中、ユイムの神速の廻し蹴りが落ちてきたブルーバーンの左腰に叩き込まれ、その骨を粉砕した。
「……くっ、何だこれは……」
もはやダメージが大きすぎてまともに動けもしないブルーバーンは割れた凍土に横たわる。
「僕が相手じゃなければ勝ててたのにね。でも悪いのはあなたなんだよ。僕の可愛いライラ君に酷いことをしたんだから僕が黙ってるわけないでしょ?」
「……けっ、知るかそんなこと……」
しかしそれを最後にブルーバーンは意識を失った。
「……ブルーバーンは敗れたようだな。次は私が行こう」
ヴァルピュイアが一歩前に出る。その間にライラとシュトラはユイムに今回の作戦について説明する。
「時間稼ぎか。でも今の僕ならあの二人相手でも負けないと思うんだよね」
ユイムが翼からカードを取り出しながらヴァルピュイアの前に出る。その間にスカーレッドによって両腕の氷を解かされ、剣一からカードで治療を受けたライラが黄緑を見るがまだ時間制御は使えなさそうだ。
「すみません。あまり時間を稼げなくて」
「大丈夫だ。見たところ彼女は相手を殺すつもりはないようだから彼女があの二人を本当に倒せるなら倒した後で捕食させてもらえれば結果は同じだよ。今のものすごい戦いを見せてもらったから判断するけど多分あの二人程度なら勝てると思う。すごいね、君の彼女は」
「……はい。ユイムさんは僕のヒーローですから」
笑顔で返し、ユイムの背中を見るライラ。すると、突然天気が崩れ始めた。さっきまで晴れていたのに数秒で空が曇天となり、大粒の雨と勢いの強い風が発生する。そして発生した雷がちょうどユイムとヴァルピュイアの間に叩き落とされた。
「げっ、何!?」
「……雷か」
二人が後ずさりながら、雷の中で人影を見た。
「誰かいる……!?」
「ユイム・M・X是無ハルト……」
声。その声はゼストだけが聞き覚えがあった。つまり、
「……この声、セントラルの支配者か」
ゼストの声を全員が聞いた時、雷光は消えて代わりに一人の青年の姿がそこにはあった。十代後半程度に見える白帯の空手胴衣を纏った青年。
「……!!あれはまさか!!」
その姿に火咲が表情を変える。
「咲?」
「ど、どうしてあいつがあんな所にいるのよ!!」
「やあ、久しぶりだね。0号機最上火咲」
「……3号機……!!」
火咲の言葉に赤羽もまた驚きの表情を作る。
「どういうこと?」
「……三船が作り上げた改造人間プロジェクト。0号機が最上さん、1号機が兄さん、2号機が私で、3号機が彼なのです」
「え!?三船の!?どうして三船の人がこの世界にいるの!?」
「分かりません。そもそも彼は大倉機関に三船機関が制圧された際にはまだ未完成で研究所のどこかに保存されたままだったはずです。それがどうして200年後のこの世界にいてしかもセントラルの支配者なのか……」
「簡単だよ2号機赤羽美咲」
3号機は笑顔のままで赤羽の方を向く。
「僕は確かに三船機関で作られた。しかも生身の人間を改造して強化した君達2号機以前までの3体とは違って僕は完全に無から作り出された。人工頭脳を持った完全人造人間(パーフェクトサイボーグ)、それがこの僕3号機、白夜(びゃくや)一真(かずま)。そしてこの僕は200年後のこの時代、正確に言えば150年後つまりスライト・デスがこの地球にやってきた際に彼らによって目覚めさせられたのさ」
「……つまりあなたはスライト・デスの一員と言うことですか?」
「そう。表向きにはスライト・デスの四天王の一人と言うことになってる」
「……あんたの声、どっかで聞き覚えがあるんだけど」
アコロが一歩前に出た。
「ああ、春洗白亜か。いや今はアコロ=ピリカプを名乗っているんだっけ?久しぶりだね。僕は君をこの世界に呼んだ、転生させた張本人だよ」
「……あの時はチートオブマスターなんてろくでもない名前を名乗ってなかったっけ?」
「間違いじゃないよ。だってそれは僕のGEARの1つだからね」
3号機が指を鳴らすとそれだけで今度は竜巻がいくつも発生してX是無ハルトの屋敷を破壊していく。
「あ、僕の家が!!」
「あなただけのじゃありませんわ馬鹿ユイム!」

・西暦2008年。柊咲の街角。
「!!」
「どうしたんだ和佐さん」
「……どうやら私の目論見が危なくなってきたようです。ちょっと私は一度現世に戻ります!」
「あ、ちょっと和佐さん!?」
果名達の前で和佐が姿を消した。
「……どうするんだ?」
「……とりあえず黒竜牙を取りに行った方がいいかもしれない。ここまで来てなんだが急いで戻ろう」
果名達は一度黒主の屋敷まで戻ることにした。


・X是無ハルト亭。中庭。
「どれ、ユイム・M・X是無ハルト。突然消えた君のその謎の力、どこまでの物か見せてもらおうじゃないか」
「……一応僕タイトルホルダーなんだよね。ちゃんと手順を踏んでからじゃないと相手してあげられない立場なんだけど」
しかしユイムは相手の危険さを理解している。その上で手札を用意した。
「だからこれで!チートオブマスターの力・ディザスターコールダミー!!」
「!?」
3号機の下半身が凍てつき、同時にそこへ落雷が叩きつけられた。激しい音と光と衝撃が中庭全体を激しく揺るがす。
「……今のは……」
森の奥。シリアルが異変に気付き、翼を広げた。

------------------------- 第151部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
139話「稲妻、一閃……!!」

【本文】
GEAR139:稲妻、一閃……!!

・ユイムの放った落雷が3号機に直撃した。しかし、その青年の姿に一切の変化はなかった。
「どうして!?」
「そう驚くことじゃないよ。君じゃ勝てない。ううん、僕には誰も勝てない。ただそれだけのことなんだから」
無傷の3号機が大地を蹴って一瞬、ユイムの背後に回り込みその背中に廻し蹴りを打ち込む。
「!」
ユイムの小柄がまるでミサイルのように吹っ飛び、地面に叩きつけられる。
「くっ、」
「いきなり僕の力を使ったのはびっくりしたけれども飽くまでも僕が使える力の一部だけ。しかも7割程度の劣化コピー。それで僕に少しでも抵抗が出来ると思ったのかい?タイトルホルダー」
3号機はゆっくりとユイムに近付く。今のたった一撃が想像以上のダメージなのかユイムは中々立ち上がることが出来ない。
「ユイムさん!!」
ライラが走り出した。
「破滅(スライト)、水難(シプレック)・双行使(ツインエミッション)!!」
2枚のカードを発動させ、
「到達点(ジュネッス)!!」
さらに天死の力も解放して3号機へと向かっていく。
「ふふ、振り向くまでもない」
しかし、3号機はライラの放った銃撃を振り向かないまま全て回避。さらに念じただけでライラが操ろうとしていた300リットルもの水が一斉に蒸発する。
「!?」
「僕は1%の力も使わないでこの子を倒せるんだ。それなのにその半分よりかも弱い君が相手になるとでも?その甘い判断には罰を与えないといけないよね」
言いながら3号機はユイムのスカートをめくり、パンツを掴んで下ろす。
「ひっ!」
「な、何を!?」
「君の前でこの子をレイプするのさ。NTRって奴かな?いくら時代が時代だからって複数人の女の子に種付けしているんだ。その君がまさか自分の物に手を出すななどと喚くつもりかい?無力なふたなりちゃん。……っと、胴衣だと出しにくいな。チャックくらいつけてくれてもいいだろうに」
「ユイムさんから離れろぉぉぉっ!!!」
翼で空気を打ち、猛スピードでライラは3号機へと迫る。その手にあったハンドガンはいつの間にか消えていた。それでも変化した両手で相手を引き裂くためライラが飛ぶ。しかし、やはり3号機は振り向かないままでその攻撃を片手で受け止めた。
「くっ!」
「……ああ、そうか。なるほど。先に君からレイプされたいのか。そう言えば君は種付けしてるふたなりだけれどもまだ処女だったね。光栄に思いたまえ。この地上最強の支配者の種をもらえることを」
初めて3号機がライラに振り向き、デコピンの一撃でライラの全身から体力を奪い、カードの発動をキャンセルさせた。ゆっくりと崩れ落ちるライラの背中の翼を掴むと、まるで紙のように引きちぎる。
「う、うああああああああああああ!!」
「ライラ君!!」
ユイムが立ち上がり、1枚のカードを出す。
「後藤和也の力・アウトホール!!」
空間を歪ませ、局地的なブラックホールを生み出す。しかし周囲の瓦礫は吸い込めても3号機は微動だにしない。
「そんな……」
「こんなおもちゃみたいな力で僕をどうにか出来るわけないじゃないか。僕を1ミリでも動かしたいならこれの1万倍はないとね」
「ならこれはどう!?」
新たな声。新たな影が3号機を覆った。それは召喚されたクリムゾンスカートだった。
「これが0号機の……」
「ホライゾンナビゲート!!」
火咲の殺意と破砕のGEARが込められた6枚の翼を達真が操作する。一見しただけではどう動いているのかも分からないような複雑怪奇な、しかし必ず相手を殺すと言うのを表現した動きで3号機に放たれる。だが、
「200年前ならこれでどうにかなったかもしれないが」
3号機は片手で6枚の翼を全て受け止めて掴んで止めていた。
「……あんたどこまで強化されてんのよ」
「キル首領も驚いていたよ。元のコンセプトの完成度の高さにね。僕の肉体や基礎を生み出した三船所長は素晴らしい働きを後世に残してくれた」
「……スライト・デスはこの星を滅ぼすつもりよ?」
「違うよ。僕が新しい世界を作るためにその邪魔となる前文明を片付けてくれているのさ。知ってるよ?君達はゴースト将軍を倒したその力を材料にしてセントラルに対して交渉をするつもりだったんだよね。スライト・デスの支配から抜け出そう。共に残された四天王とキル首領を倒して地球に平和を取り戻そうって。でも残念だったね。セントラルには僕がいる。この僕がそんなバカげたことをすると思うかい?君達の思いや行動は全部無駄なんだよ。PAMTごしにその悔しそうな顔を見れたらよかったんだけど」
3号機がほくそ笑むとクリムゾンスカートの翼が砕け、その体が瓦解する。
「くっ!!」
「PAMTが破壊されたのか!?」
瓦礫が消え、代わりに血だらけの火咲と達真が地面に倒れる。
「ほう、0号機。よく見たらいい体をしている。しかもその体には複数人もの男の種を浴びた遺伝跡がある。レイプ慣れしているようだね。三船は僕の前にこんなダッチワイフを作り上げていたとは知らなかったよ」
「誰がよ……!!」
火咲は膝を放つ。が、3号機は指の一本でそれを受け止めた。
「くっ、」
「破砕のGEAR。赤羽美咲から最上火咲に転生した際に狙撃のGEARから変質した力。普通の人間相手だったら無双できたろうに僕が相手じゃ爪切りにもならないね」
3号機は軽く息を吐いた。ただそれだけで火咲は全身の神経が切れたかのように倒れて動けなくなった。
「どうだい?本物のダッチワイフにしてあげたよ。ついでに子宮も再生させておいた。これで君は一生僕の肉便器として快楽と出産をループできる。素晴らしい人生になったよ!あははは!!」
「咲……!!」
蛍が声を上げれば3号機はその眼前まで移動する。
「!?」
「なるほど。君が元祖セントラルの姫様か。確かに君の権限でこの世界でもごく一部の自由が利くみたいだけれど正直邪魔なんだよね。1チャンネルしか映せない不便なリモコンでもあったら邪魔だろ?そういうものさ」
「……くっ!」
「ああ、無駄だよ。君のPAMTなんてガラクタにもならない。確かに他のPAMT乗りと比べればそれなりの腕は持っているみたいだけども僕相手じゃ意味がない。どんなテクニックを持っていたところで自転車が新幹線に速度や利益で勝てるわけないのと同じさ」
再び3号機は息を吐いた。
「い、今何を……」
「君からセントラルの権限を全て剥奪したのさ。これで君達はこの世界でPAMTを出す事が出来なくなった。あと通信も出来なくなったのかな?これで君はもう何も出来ない。ただのお姫様さ。そしていらなくなったお姫様は首だけを残してこの世から去るんだ」
3号機が手刀を蛍に向けて放った。だが、その手刀は蛍の首に届かなかった。
「……ほう、」
「これ以上好きにはさせません」
3号機の手刀を止めたのは和佐だった。
「あれは……」
「お母様!!」
アルケミーが驚き、ルネが歓喜の声を上げる。
「誰かと思えば何百年も行方をくらませているナイトアルテミスじゃないか」
「私の事を知っているようですね」
「一定以上の強さを持ってて十三騎士団や調停者を知らない者はいないよ」
「それなのにこのような暴挙をして許されるとでも?」
「だから君以外に十三騎士団が来ていないんじゃないか。まあ、あそこにパラドクスの一人だった雑魚娘ちゃんならいるけども」
「くっ!」
アルケミーからの怒りの視線。それを無視しながら3号機は続ける。
「……どういうことですか?」
「この200年どうして地球に十三騎士団が姿を見せていないと思う?それはいくらスライト・デスが裏にいるとは言え基本的に地球内部での内乱に過ぎないからさ。君達は地球人の騎士だからこの星の危機が全宇宙の危機に相当するとでも勘違いしているのかもしれないけれど他の騎士からしたらどうでもいい話さ。中学生チンピラ同士の喧嘩にICPOとかが出張ると思うかい?」
「……ですがあなたは歴史を変えようとしている。いいえ、いつまでも赤羽遺伝子を保持したままでいてその結果スライト・デスを呼んだ。世界の歴史を本来とは別の物にしようとしているあなたの罪は重いはず」
「だからさ、和佐ちゃんや。現実を見たらどうかな?君がどんなに自分を誤魔化そうとしていたとしても現実に十三騎士団は動いていない。それとも今からでも君が呼ぶかな?君が裏切ったお仲間どもを。確かにそうなったら僕は危ないかもしれない。でも一番危ないのは君だよね?その力でどこまでも逃げられる君が自らこうして表舞台に出ているんだ。むしろその方が彼らの癪に障る大問題じゃないかな?」
「……そこまでの必要はありません。私があなたをここで倒せばいいだけですから」
そして和佐は動いた。3号機からの存在干渉の海をものともせずに動き回り、次々と攻撃を加えていく。打撃、投げ、関節技、電撃。
「いくら私が騎士達の中で最弱でもあなた程度ではそれこそ抵抗くらいしか出来ないはずです」
「馬鹿だね君は。むしろ逆だよ。いくら騎士でも君程度の実力では僕相手にどこまで抵抗できるかが見物なんじゃないか」
3号機は和佐の連続攻撃に対して防御だけでなく反撃も行っている。時には空間そのものを爆発させても見るが巫女服の裾をわずかに焦げさせる程度でしかない。和佐が光速の10倍の速さで接近してエルボーを連続で叩き込むと、62発目で3号機が肘を受け止めては膝蹴りで腹を穿つ。和佐がやや怯むと3号機はそのまま和佐を投げ飛ばし、空中で何度も和佐が触れている空間を爆発させ続ける。
「……意外と互角ね」
「アルケミー。あいつらの実力はどんなもんなんだ?」
「あの3号機って奴は確かにゴーストよりやや弱いわ。でも基本的なスペックは上だし、エクトプラズマーではない未知の特殊能力を使ってる。多分私が万全でもギリギリ勝てないわ。で、あのナイトアルテミスだけど」
「ああ、零の妹だな。昔会ったことある」
「……別の世界の話をしないで。とにかくあのアルテミスは速度がとんでもないわね。私でも跡を追うのがやっとよ。実際あの3号機もほとんど目で追えていない。でも、3号機を倒し切るだけのパワーはないみたいね。アルテミスがそれでもと3号機の体力を削り切るのが先か、3号機がアルテミス対策を完成させて仕留めるのが先か。それで勝負は決まるわ」
「と言うか今更だけどお前パラドクスだろ?騎士の前にいていいのか?」
「いいわけないでしょ!!あんたが縛ってるんでしょ!あんたが私をここに止めてるんでしょ!?だから逃げられないんじゃない!どっちが勝っても私の未来はここで終わりよ!!うええええええええん!!!!」
「な、泣くことないだろうに」
大号泣のアルケミー。それをしり目に大空で何度も激突する和佐と3号機。互いに既に拳と肋骨に負傷と血糊。息は切れていないがダメージは確かに表情に出ている。
「……どうしたんだい?まさか君、手加減してるんじゃないよね?」
「……あなたなど所詮その程度でしょう!」
「まさか。だって君特殊な空間を作ってるよね。黒主果名と風行剣人、それから紫歩乃歌がこの地上のどこにも見当たらない。あと何か一瞬だけ姿を見せて紫歩乃歌と接触していた虫の子もいない。死んだわけでもないから死体も残っていない。何を企んでいるか分からないけれども君がこの4人をどこか別の世界、それも君が作り上げた世界に置いているのは分かっている。そしてそれを維持するために君は全力を出せない。でもいいのかな?このままだとわずかながら僕の方が有利。速さだけが取り柄の君の技ももう見慣れてきた。力を解放しないとこのまま僕に削り殺されるだけじゃないのかな?」
「だったらそのままやってみては如何ですか?かと言って私も黙ってそのままの結果に終わるつもりはありませんけども」
3号機の放った拳を受け止め、肘関節を極めながら3光速で急降下して頭から地面に叩きつける。
「……パワーなんていくらでも補えるのですよ、そのための格闘技なんですから」
大地に叩きつけた3号機の背中に両膝立ちで着地した和佐はそのまま肘と肩の関節を極めていた腕を引きちぎる。しかし、
「!?」
「まさか、これで勝ったつもりじゃないよね」
突然和佐は全身に力が入らなくなったのを確認すると同時その場に倒れ、代わりに左腕を失い頭から血を流しながら3号機が立ち上がる。
「な、何を……」
「僕の能力はザ・プラネットのそれに近い。そう言えばわかるかな?」
「……地球の大気を利用して私に抗生プログラムを……?」
「そう。中々大変だったよ。いくら末席とは言え騎士の体に僕のウィルスを入れるのはさ。決してこちらのダメージも低くはない。でも、これで騎士相手に勝利を掴めるなら十分安い方さ」
3号機がほほ笑むと同時、彼の体が輝き、次の瞬間には負傷がすべて治っていた。逆に和佐の方は体中が壊れた液晶のように崩れていく。
「とは言えまだ僕のウィルス程度じゃ君の命を奪うまではいかない。精々幾永年とその身動きを封じるのが限度。まあでも君の場合は今まで裏切り者として逃げ回ってきたその力が使えなくなったんだからすぐにかつての同胞たちにつかまって処刑されるかもね。でも、それだけじゃ僕の気が済まない」
3号機は和佐の襟をつかんで無理やり体を起こさせる。
「……精液だけとはいえ僕の体の一部を君に与えるとなると逆に解析されかねないからレイプは出来そうにないな。ただ、それでも君の目論見を打ち砕くことは出来る」
言いながら3号機は和佐の胸を掴む。そして彼女の体内から1枚のカードを取り出した。
「……そ、れは……」
「君が何かを構じている仮想世界の中に行けるゲートだろ?残念ながらこれも破壊は不可能。ただ、」
3号機の指からカードに黒い光が映りこみ、和佐の肉体同様に色が崩れていく。
「ウィルスを混ぜさせてもらった。もうこの世界は君の思い通りには動かない。これで僕にとっての最大の障害は消え去ったわけだ」
3号機がカードを背後に払うと同時、正面の地面に大きな穴が開きそこに和佐を投げ捨てると穴が閉じた。
「くくく……ふふははは……あっはっはっはっはっは!!!!倒した!!僕は騎士を倒した!!調停者ですら手を焼くほどの騎士を一人!!ふはははははははははは!!!!!」
「お母様!!」
そこへルネが飛来したが3号機は見もしないままエネルギー弾を発射し、そのまま撃墜した。
「……お、かあ……さ……お……と……ま」
下半身の触手がすべて灰となり、両手も爛れて骨まで露出し、指の何本かはやはり灰となりながらルネは閉ざされた地面を見ながら動かなくなった。大きく穴の開いた腹と背からは本来流れ出るべき血液が出る前にすべて蒸発していた。その両目は開いたままだった。
「……ああ、悪い悪い。大物と戦った後だから加減できなかった。カトンボにしてはまあまあ強かったんだろうけど」
黒くくすんだカード、ルネの死体を笑いながら踏みにじり、X是無ハルトの中庭にまで戻ってくる。
「え……ルネちゃんどうなったの……ねえ、美咲ちゃん!!」
「…………」
赤羽は久遠の問いに答えられずに俯いた。その赤羽の傍まで3号機はやってきた。
「さて、赤羽美咲。来てもらおうか。君が来れば他に誰の命も奪わないと約束しよう」
「……どうして私なのですか?」
「少し事情があってね。もしかしたら僕をも超える4号機が誕生するかもしれない」
「……疑問がありました」
「何だい?」
「あなたはご自身が一番になることを望んでいないのですか?和佐さんを倒した時には喜んでいたはずなのに」
「愚問だね。君、本当に三船製?僕達はただ三船の科学力が進化することだけを望んでいるはずじゃないか。だから僕も3号機の段階で末席とは言え十三騎士団の一人を倒せるくらいにまで強く生まれてきたことに喜びを感じている。もう三船機関は残っていないけれどもこうして3号機である僕がいる以上三船の野望は残り続けている。……0号機は世界のリセットを体験したことでもはや三船とはほぼほぼ無関係な存在になった。1号機もこの地上にはいない。どうして2号機の君が残っているのかは分からないがまあ構わない。君と僕がいればいい。そうすれば三船はまだこの地上に残る。そして僕がこのままこの地球を支配すれば地球人とは全てが三船製になるんだ。そしてもっともっと強い改造人間が生まれる。4号機だけじゃない。5号6号7号とどこまでも続いていき、進化していく。そしてそれが宇宙の蛮族と呼ばれているスライト・デスによって全宇宙に向けて使われるんだ。僕のデータを使えば十三騎士団をメインの標的にすることだって不可能ではないかもしれない。僕よりも性能を数倍上げた量産型が作られたとすればそれだけで十三騎士団と互角以上にわたり合えるんだ。三船の科学力がだよ?」
「……あなたは本当にそのためだけに……」
「そのため?本望じゃないか。それ以上の何があると言うんだ?……見たところ君にはバグがあるみたいだ。それを修正しよう」
3号機は無垢な笑みを浮かべながら赤羽の後ろ……涙しながら狼狽える久遠やそれを支える小夜子達を見た。
「……何を……」
「こうするんだ」
3号機は跳躍した。
「!」
迫る。黄緑の眼前へ。
「まずはお前からだ。正直ダハーカはもう邪魔なんだ」
黄緑が身構えるより先に飛び蹴り。一撃で肋骨全てと内臓全てが砕け散り、黄緑の体がミサイルのように吹っ飛ぶ。
「黄緑!!」
来音と紫音の足元に叩きつけられた黄緑。まだ息はあるがしかしそう長くないだろう。
「な、何を……」
「君が僕のところに来るための材料である君の仲間達をこうやって一人ずつ殺していくのさ。別に僕は君以外を全員殺しても構わないんだ。君はそれを一人でも多く残すために決断をしないといけない。僕の元に来て三船の再興を行うんだ」
3号機の手が来音に伸びる。しかし届かない。アコロが方天画戟でその手を払ったからだ。
「君か」
「赤羽ちゃんが目的ならどうしてあたしをこの世界に呼んだの?」
「そりゃゲームだから敵は必要だろ?」
「ゲームですって……?」
「そりゃそうさ。スライト・デスによって改造を受けた状態で覚醒した時点で僕はこの地球上のどんな生物や個体にも負けない程の能力を持っていた。このままいけば地球上の支配なんて容易い。出来て当たり前なんだ。だったら少しは障害になりそうな奴をどこからかとってくるのは別に不思議じゃないだろ?君だって亜GEARを3つも持ってて不思議に思わなかった?まあ、まさか君以外にもこんなに大勢がどこからか来るとは思わなかったけどね」
「あんた、頭おかしいんじゃないの?」
「古い人間の価値観で判断してほしくはないな。僕は新しい地球人類になるんだ。だから君ももういらない。少し強力なだけの亜GEAR3つじゃ障害にはなりえなかったみたいだね」
拳。それだけで方天画戟が砕け散り、アコロが吹き飛ぶ。
「……ぐっ!!」
何度も地面を転がりまわり、先程自分が抱いていたエンジュの置かれた地面の傍までやってくる。
「……」
「おや、三千院世界。君もまだ生きていたのか。でもみんなのこの様子からして君がわざわざそんな姿になってまで先に知った僕の正体をみんなに明かすと言う目的は果たせなかったようだね」
3号機は笑いながらエネルギー弾を生成してエンジュに向ける。と、その前方に赤羽が立った。
「……何の真似だい?」
「……これ以上はやめてください。あなたの指示に従います」
「そう。じゃあまずはその証拠と言うか覚悟を見せてもらおうか」
少しだけ笑顔が消えた3号機が泣きじゃくるままの久遠を掴んで赤羽の前に投げる。
「ひっ!!」
「久遠!!」
「2号機。その子を殺すんだ」
「え……?」
「僕達の目的を忘れたかい?いずれはこの星の人間はすべて三船製の新人類だけになるんだ。だったらそれ以外の旧人類なんて邪魔だから皆殺しにするに決まってるじゃないか」
「……私が出れば他のみんなの命は助けるって……!!」
「殺さないって言っただけさ。君を連れてセントラルに戻ればその後はどうせまだ時間がかかるだろうからね。天寿を全うさせてやるくらいの時間はあげるよ。でも、新人類量産の準備が整った瞬間に旧人類は根絶やしにする。その時には君にも手伝ってもらうんだ。これはその予行演習にして覚悟を示す儀式だ。だってそんなこと言いながら君は僕を裏切るかもしれないだろ?だからまず手始めに君が一番大事にして愛しているその子を君自身の手で殺すんだ。そうすれば君はもう精神的に後戻り出来なくなる。さあ、君が一番愛しているその子を君自身の手で……」
「……そんな……そんなこと……」
赤羽は膝を折る。すぐ近くには血だらけで泣きじゃくる久遠がいる。
「美咲ちゃん……」
「久遠……」
「美咲ちゃん……もういいよ……わたし、もういいから……。じゃないと……もっとほかの誰かが死んじゃう……ルネちゃんみたいにみんな死んじゃう……だから……もういいの……美咲ちゃんは優しいから……わたしを、もう苦しませたりしないよね……?」
久遠は折れ曲がった足で赤羽の傍まで這い寄る。涙でくしゃくしゃになった顔をしながらボロボロになった指で彼女の手を弱弱しく握る。
赤羽は……既にその視界を崩していた。生まれて初めての涙だった。どうしようもない悲しみが、絶望が、どうしようもないほどに胸を締め付ける。その情動を赤羽はこらえることが出来なかった。
「うわあああああああああああああああああああああ!!!!」
叫びをあげた。喉が潰れんばかりに、ただ感情のままに。こんな慟哭は初めてだった。
「……美咲ちゃん……」
「久遠!!」
赤羽は久遠を抱きしめた。その小さな最愛の体を思い切り、壊れてしまいかねないほどに。……もう壊れてしまっていることを実感しながら。
「久遠!!久遠!!久遠!!!」
「……痛いよ、美咲ちゃん……」
「くお……ん……!!」
涙色で濡れた二つの唇が重なった。それを最後だと心に決めた最後のひと時。そのひと時が終わり、赤羽は久遠を抱いたまま背後の3号機に言葉を放った。
「……殺してください」
「ん?」
「……私にはどうしてもこの子を殺す事なんて出来ません……ならせめて私ごと殺してください……私はもう……」
「…………やっぱり僕以前はどうしようもないね。君を補助役にって思って生き残らせてあげようと思ったけどくだらないセンチメンタルを覚えすぎてる。やっぱり旧人類はどいつもこいつも失敗作だよ」
3号機は掌にエネルギー状の球体を作り出した。それを肌で感じた赤羽はより強く久遠を抱きしめる。
「……じゃあね。出来損ないのお姉ちゃん」
無表情に、3号機がそれを赤羽達に向けて放った。その瞬間。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
どこからか大きな叫び声がこだました。同時、一縷の雷光が轟き、放たれたエネルギー弾を容易く打ち消す。
「何……!?何だ!?」
3号機が上空を見上げた。どこまでも黒くどんよりとした暗雲の海の中。しかし次の瞬間にはそれが全て砕け散り、晴天が空を満たす。一つも雲のない青空の中、突然窓ガラスのように空間に亀裂が走り、打ち砕かれた。時空の歪みが生じた。そして、そこから一人の男が雷光を纏ってやってきた。
「あれは……!!!」
全てが空を見上げた。達真、小夜子、大悟、十毛、爛、月仁、八千代、トゥオゥンダ、ジキル、キャリオストロが揃って声を上げる。
「……ヒエンさん……!!」
赤羽と久遠が見上げた空にその男、ジアフェイ・ヒエンはいた。

------------------------- 第152部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
140話「降り立った稲妻」

【本文】
GEAR140:降り立った稲妻

・すべての曇天を打ち滅ぼし、雷鳴と共にその男ジアフェイ・ヒエンは飛来した。
「ヒエンさん!!」
「無事か!?赤羽!!久遠!!」
泣きじゃくる二人の前に着地したヒエン。その姿はあの日、最後に見た時と全く同じ姿だった。
「……馬鹿な、あれは稲妻の騎士ナイトスパークス!?どうしてここに来れるんだ!?」
表情を一変、驚愕に滲ませる3号機。その顔面に、凄まじい速度でヒエンが拳をぶち込む。
「ぐっ……!!」
その一撃を受けた3号機は数十メートル以上も吹き飛び、途中にあった岩盤をぶち砕く。
「……悪いな、遅くなった」
「……もう、本当ですよ……」
「……相変わらず死神さんは格好つけたがりなんだから……」
片膝をつき、涙のままの二人の頭をなでてやるヒエン。次いで周囲を見渡す。
「……来たか、ヒエン……」
「黄緑……」
「……ごめん、僕がいながら……君の娘と妹を守れなかった……」
「……ルネと和佐……!?」
「……死神さん、本当だよ……。和佐ちゃんもルネちゃんも……」
久遠を振り向いたその視線の先。よく見れば小さなクレーターがあり、そこには見慣れた少女が無残な姿で朽ちていた。
「……」
ヒエンは冷静さを欠いた表情のまま一瞬でその傍まで接近した。
「………………」
足元にはやはりルネの姿。しかし両手は至る所が焼け爛れていて骨すら見えていたりドロドロに溶けていたり。下半身の触手は完全に根元から焼け落ちている。手足がない上ただでさえ小柄なその体の腹部には彼女の頭より大きな穴が開いていた。両目を開けたまま息絶えていた彼女の焦げ付いた長い髪を撫でる。
「……どうした?ルネ。お前、父様にこうやって撫でられるの好きだったろ……?なあ、ルネ?……笑ってくれないのか?……笑ってくれよ可愛いルネ。………………そうか、お前は父様よりも先に行っちゃったんだな。あれだけ、家族揃って一緒にいたいって。また父様と母様と一緒にいてほしいって……そう言ってたのに…………」
震える左手で開きっぱなしの両目を伏せ、以前よりももっと軽くなったルネの体を抱き上げる。もう、何も入っていないその体を。
「……」
小さな風が吹く。足元に1枚の黒ずんだカードが飛んできた。拾い上げるとそこには微かだが妹の残滓が感じられた。
「……和佐。ごめんよ、君の事はほとんど覚えていない。でも目を閉じれば君の顔や声が浮かぶ。兄さま兄さまって。ルネの父様父様って呼び方は母親譲りだったんだな。やり方は間違えていたかもしれない。でも、僕の心の傷を癒し、ルネを産んだあの日の事を僕は忘れない」
ヒエンはカードに息を吹き込む。するとカードを覆っていた矮小な闇は瞬く間に零れ落ちて元のイラストを取り戻す。
「……歴史を修正するための物か。怜悧に問題はないし、ルネはこの通り。だとしたら正輝か」
呟き、腕の中の空虚な娘の遺体に数秒だけ顔を埋める。もう、何の温もりも残っていないそれから顔を離すとヒエンは赤羽達のところに戻る。
「……ルネちゃん……」
手足が折れてどうしようもないながらも久遠は地面にやさしく置かれたルネの死体を見てもう一度涙を流した。
「……ヒエン」
血の海の中来音に抱き抱えられながら黄緑は言葉を投げる。
「……紫音や来音を、地球の未来を頼む」
「……任せとけ。だからもう休んでいいぜ?」
「……ありが……とう……」
ヒエンの前で黄緑は瞳を閉じた。一度だけ来音を見てから。二度と開かれることのない瞳を。
「……」
ヒエンはそんな黄緑に歩み寄り、肩を小さく叩いた。そして壁寄りに気絶していた紫音の傍に黄緑を運ぶ。
「……君が来音ちゃん。黄緑が探していた子か?」
「あ、はい。月美来音です」
「……こいつらを頼む。特に紫音ちゃんを」
「………………はい」
肩を触れ合わせ、眠る兄妹の隣に涙を流しながら来音は歩み寄った。ヒエンとすれ違った。
ヒエンの視線の先。
「……いてて。まさかナイトスパークスまで来るとは。話が違うじゃないか」
3号機が瓦礫の中から姿を見せた。しかしその姿に傷は見当たらない。
「ま、いいか。さっきの戦いで騎士との戦いはある程度学習できた。最弱の騎士の次は上位の騎士か。まあ、腕の見せ所かな?」
パンパンと胴衣についた汚れを払う3号機。正面にはヒエンがいた。その腰には一本の刀。
「やあ、ナイトスパークス。初めましてかな?僕は……」
言葉は続かなかった。その顔を、前歯全部粉砕する拳が叩き込まれたからだ。
ぶっ飛び、地面を滑り続け、摩擦で起きた爆発が3号機の両腕と下半身を消し飛ばす。
「くっ、流石上位の騎士。ただの打撃だけでもこれほどの威力か」
次の瞬間にはダメージも負傷も回復した3号機が立ち上がる。
「でも、これくらいなら全然問題ないな。さっきのナイトアルテミスの3倍ってところかな?本気を出してどこまで削れるか」
笑顔のまま3号機は指を鳴らすと、その周囲にエネルギー弾を1000万発以上練り上げてそれを4光速で発射する。一発一発がルネを葬ったものの5倍の威力だ。だが、
「万雷ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」
ヒエンは腰の刀・至上の万雷を引き抜き、文字通り幾万もの雷鳴を呼び起こしては放たれたすべてのエネルギー弾を打ち消す。
「……え」
一瞬無表情になった3号機。その眼前にまで接近し、ヒエンは一瞬で両腕を引きちぎってから胴体を真っ二つにした。
「……なら次は数!!」
再生した3号機は次の瞬間、その数を3億体以上にまで増やした。数時間ほどしか持たないがしかし能力に関しては本物の9割ほどを保っている。3号機がいざとなればスライト・デスを倒せるとしたその力。しかし、次の瞬間。
「え?」
一縷の雷鳴が届いたかと思えば増えた3億体全てが一瞬で消し炭へと変わった。本体も今ので両腕と下半身が消し飛んだ。
「……どうした?次の手段は何だ?」
「……くっ、」
「巨大化か?巨大分身か?因果律兵器か?生贄砲か?イデか?どんな無駄骨でも折ってきたらどうだ?どこの誰だか知らないが貴様の今を支えるその半生の全てをあっけなく踏みにじってやる。虫かごの中のムカデ風情が醜態を晒すこと以外に何ら可能なことがあると思うな」
「貴様、どうやってここに来たんだ……!?貴様はプラネットのはずだ……別の世界の、貴様が統治していない地球に来れるはずがない!!」
「ああ、だから少しばかり手がかかった。先にルーナを行かせたんだが、姿が見えないな。まさか貴様がやったのか?」
質問。しかし放たれた左足が3号機の口の中に穿たれては後頭部を粉砕し、貫通する。下あごを掴んでは一気に股間まで皮肉を引き剥がす。
「が……あがが……」
空中を漂う3号機。再生には成功したが些か時間がかかった。少しずつだが再生までに時間がかかっている。いや、その生命力に底が見え始めている。妙な話だ。自分は地上の支配者。地球上にいる限り不可能はないはずだ。しかし納得も出来る。地球そのものがやって来たのだから。相手はこちらを瞬殺できるし、再生もさせない事だって余裕で出来る。だけどそれをしないのは何故か。決まってる。この魂にまで絶対的な怒りをぶつけたいからだ。こちらの存在を完膚なきまでに破滅させたいからだ。
「そろそろ再生が厳しいか?だったらこうしてやる」
ヒエンは一瞬で3号機をバックブリーカーにして完全に背骨を極めて亀裂を走らせる。
「あ、あああああああ!!」
悲鳴を無視してそのまま上昇。大気圏ギリギリまで上昇するとバックブリーカーを解除してうつぶせになった相手の背後に上下逆で密着。両足で相手の両腕を、両手で相手の両足を極めて腹筋の力だけで上体を起こして相手を弓形に反らせる。
「くらえ、ハイパアアァァァスパアアアアアク!!!」
全身に稲妻を纏い、そのまま20光速で地面に急降下。落下激突の衝撃で相手の両肘、両肩、両膝、腰の関節を完全に破砕する。
「……が、あ、ああ……」
「羅鼇(ラゴウ)ウィルスでも喰らっとけ」
ヒエンが離れると同時、3号機の全身に異常が発生する。全身の細胞を1ナノ単位で虫か何かに食われているかのよう。
一切の身動きが取れないまま、最後の永遠を絶対の苦痛だけで3号機は経た。


・ヒエンの力で完全に修復されたX是無ハルト亭。
「……こんなものか」
医務室に寝かせたルネ、黄緑の死体。そして目を覚まさない紫音。
「……ヒエンさん」
赤羽が背後で見守る。
「大丈夫だ。ザ・プラネットは他の星に行けない代わりに自分の担当する星の中でならどんな奇跡だって起こせる。ルネも黄緑も時間さえかければ息を吹き返す。……和佐やルーナがどこへ行ったのか分からないままなのがあれだがな」
振り向いたヒエンに赤羽が飛びつくように抱き着いた。
「……すごく大変でした」
「……ああ。そうだろうな」
「……さっきはいっぱい泣いてしまいました」
「そりゃそうだ。全人類を守るために目の前で仲間が殺されていく中、久遠を殺さないといけない状況になったんだ。僕だって多分泣く」
「……いっぱいいっぱい大変だったんですよ……」
「……ああ。よくやったよ赤羽。もう大丈夫だ」
「…………はい」
ヒエンは唇を重ねようとする。しかし、
「あの、出来ればそういう事をする時は久遠も一緒がいいです」
「……3P前提なのか」
きょとんとしながらも柔らかな表情を取り戻したヒエンは赤羽を一回強く抱きしめてやる。
数分後。ヒエンと赤羽は会議室へと足を運んだ。
「あ、ヒエンさん!」
「よ、ライラちゃん」
「その人がヒエンさんなんだ」
すぐにライラとユイムが駆け寄ってきた。
「君が?」
「はい、僕の一番大事な人。ユイムさんです」
「どうも!僕はユイム・M・X是無ハルトです」
「ジアフェイ・ヒエンだ。なるほど。ライラちゃんが惚れるのも分かるくらいの美少女だな。何よりボクッ娘なのがいい」
それからヒエンは一人ずつ自己紹介を受ける。とりあえず位置的に十毛の番が来たらひたすらぶん殴っておいた。
「まさか十毛の奴がパラドクスを奴隷にしているとはな」
「あ、あ、あ、あの、ナイトスパークス様……?わ、わ、私はどうなるのでしょうか……?」
「ん、別に?その姿じゃ何もできないだろうし。流石に助ける義理はないだろうが無理して殺す必要もないだろうしな。そのまま飼われてたらどうだ?」
「う、嬉しいような虚しいような……」
次にヒエンは切名と借名を見た。
「……私、あなたを知っているような気がする」
「先に謝っておくぜ。妹の無体を赦せ」
「妹?」
「そうだ。君は2代目最上火咲。妹、和佐(アルテミス)が作り出した最初のリセット経験者であり僕の息子である黒主正輝のクローンの一人だ」
「……え、」
騒然。特に赤羽と火咲は慌てて近づいてきた。
「ヒエンさん、どういうことですか?」
「今言った通りさ。彼女は初代赤羽美咲がリセットを経験したことで誕生した存在だ。その際に三船の奴と、天使界の技術を奪った妹が結託して作り上げたのがこの子なんだ。正確には初代赤羽美咲はリセットされた時に世界を跨ぐことが出来なかった。だが、その遺伝子を残すことは出来た。その遺伝子を妹が三船を通して作り上げたのが君、黒主美咲だ」
「……正直赤羽美咲さんのクローン関係だとは思ってました。でも、そこまで関係しているとは……」
「まあでも君には君の人生がある。別に今更最上火咲を名乗る必要なんてない。黒主美咲のままでいい。っと、今は黒主切名だったかな」
「……じゃあもしかして果名は……」
「……ああ、黒主果名は十中八九僕の息子である黒主正輝だ。2つ前の世界を修正するために和佐が滅ぼした。が、恐らくその前に君達3人をこの世界に飛ばしたんだ。多分正輝……果名は和佐に導かれて歴史を修正するためにどこか別の世界に行ってるんだろう。……和佐は生死はともかく一度敗れている。だとしたらたとえ穢れを祓っても世界そのものが不安定になっているだろう。早く助けに行く必要がある」
「……私も行かせてください。私も果名の力になりたいから……」
「……ああ、構わないさ。ただ、全員が行くのは少しまずい。さっきも言ったが状況はかなり不安定になっている可能性が高い。もしもの可能性もある。だからメンバーは少数に限定させてもらう」
ヒエンが懐からカードを出した。

------------------------- 第153部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
設定資料集8

【本文】
<黒主一族>
甲斐廉/黒主零:3代目ナイトスパークス兼ザ・プラネットのジアース。
ブフラエンハンスフィア:黒主零がいくつかの条件を満たしたことで分裂して誕生した<進化>を司るディオガルギンディオ。
甲斐和佐:黒主零の異母妹。ナイトアルテミス。しかし現在離反中。
甲斐修二:2代目ナイトスパークス。黒主零の父。存命しているうえナイトスパークスの座も引退していないが行方不明。
甲斐三咲:黒主零の嫁。約2000年前に落命している。
甲斐怜悧:零、三咲夫妻最初の子供。長女。2つ前の世界が作られた際に天使の祖となった。とっくの昔に寿命で死亡。
黒主正輝/黒主果名:怜悧の弟。2つ前の世界と共に滅亡したと思われていたが2年前にこの世界に記憶を失った状態でワープしてくる。
ルネッサ=峰山:零、和佐兄妹の娘。禁忌なる存在ゼノセスター。峰山は母方の名前。
アドバンス・M・クロニクル:怜悧の息子。進化のGEARの持ち主。UMX0号。天死と天使のハーフ。
甲州院優樹:零の義弟。2代目ナイトバーニング。

<果名の記憶>
・甲斐三咲死亡後に元老院の手によって零の遺伝子をモデルに造られた。
・15歳までは家族とともにいたが元老院によって10年若返らせられた状態で下界に落とされる。
・5歳時に火村家に拾われてアリスと出会う。
・12歳のころに火村家全焼のためアリスと共に旅に出る。
・13歳ごろに下界に降りた和佐の屋敷に拾われる。
・14歳ごろに美咲と出会い、名義上の兄妹となる。その際に左手を失う。
・15歳。結羽の対象者に選ばれる。
・17歳。東雲大輝と出会う。さらに朝霧烈火とも出会い、天使界でおきた戦争に参加するがその終盤、世界が終わり、滅亡を待つだけだったが和佐の手によって世界を渡る。その際に黒主果名を名乗るようになる。
・19歳。現在。


<My garnet日程>
1998年1月10日:正輝、小雪と出会う。
2005年3月7日:正輝、小雪と共に旅に出る。
2006年3月20日:正輝、美咲と出会う。左腕を失う。
2008年6月21日:本編第一話。正輝と結羽、美咲と雷歌が出会う。
6月30日:正輝、雷歌と決闘。その後悪目立ちしながら午後初登校。
8月21日:黒主家で旅行。結羽の過去が少しだけ明らかになる。
9月11日:歌音転校してくる。無沙紀初登場。秀人死す。
9月12日:正輝、黒竜牙を入手する。制御のための特訓開始。
9月18日:正輝、無沙紀にリベンジ。
10月30日:美咲、初登校。
11月中旬:版権組との関わり。
12月24日:無沙紀のリベンジ。白竜牙で正輝を撃破して美咲を拉致。結羽、雷歌、和佐行方不明になる。
12月25日:アリスと共に最終決戦。無沙紀を撃破して美咲を救出する。


<新規登場人物>
黒主(くろす)正輝(まさき)
年齢:15歳
身長:164センチ
体重:56キロ
所属:黒主家
GEAR:錬金
属性:中立・中庸・林火
好きなもの:百合、魚、ラーメン
苦手:海
世界階級:13未満
レベル:29/90
才能:剣術2
出展作品:My garnet
本編第二部主人公黒主果名の正体。黒主零の第二子。長男。結羽の対象者。当時高校1年生。
この時点で既に家族については覚えていない。5歳のころに火村家に拾われてからが記憶の始まり。
現在の果名同様、クールぶってるお気楽主義者。元老院最大の被害者。と言うか天使界最大の被害者。天使界の生まれだが天使ではない。そも自身がクローンに近い存在だというのにさらに自身のクローンが何人かいる。
GEARは金属を自在に操る錬金のGEAR。しかしこの時点では扱い切れておらず、普段は左腕の義手を維持しているだけにとどまっていて、他の使い方をするには一度義手を解除しないといけない。
出展作品であるMy garnetは作者がナイトメアカードの次に書いたオリジナル作品であり2008年の作品。だからか2代目主人公である小林大よりも古く、父である黒主零よりかも古いキャラクターである。
オリジナル作品とは言え某KIDの作品の世界観を借りているためか原作そのままを再現することは出来ない。……その内普通にやっちゃいそうだけど。
父同様海が苦手。しかしそれは義手が錆びるからと言うだけ。いつでも義手交換が出来る果名になってからは苦手意識はない。

黒主(くろす)美咲(みさき)
年齢:15歳
身長:154センチ
体重:42キロ
3サイズ:77・54・76(D)
所属:黒主家、天使界
GEAR:天才、破砕
属性:混沌・善・風
好きなもの:読書、夜更かし、ラーメン
苦手:運動、爬虫類
世界階級:13
レベル:8/100
才能:勉学1、裁縫1、料理1、暗記1、フェンシング1
出展作品:My garnet
正輝の妹。切名の正体。2代目赤羽美咲であり同時に2代目最上火咲でもある存在。現存している中では最古の羽シリーズ。正輝との血の繋がりはないが元老院の手によって正輝から作り出されたクローンでもあるためある意味では同一人物と言ってもいい存在。つまり美咲は初代最上火咲や初代赤羽美咲、そして黒主正輝3人の遺伝子が合わさってできた特異生命体である。三船の影響がない天使界で作られたためか飛翔のGEARは持っていない。しかし天使の血は混ざっている。ぶっちゃけ設定の海。メタ的に言えば赤羽美咲のモデルと言うか原型。
GEARは切名の物と同じ天才と火咲のそれと同じ破砕。と言うか世界線を超えた影響で破砕のGEARが進化したのが名を切るGEAR。オンリーGEARと言うこともあってか対人では最強クラスのGEARであり、やろうと思えば触れずしてあらゆる物体を破砕できる。
三船の手を受けていないためか改造も受けておらず武術も覚えていないがその分天使の力を持っているため普通の人間よりかも二回り以上各種能力が高い。しかしその分寿命が……。原作では運命を変える力を持つ初代主人公がいたのだが版権的に無理なためどうなるか。

アリス/火村(ひむら)小雪(こゆき)
年齢:13歳
身長:151センチ
体重:40キロ
3サイズ:72・56・71(B)
所属:黒主家、火村家
GEAR:炎
属性:中立・中庸・林
好きなもの:正輝、美咲、兄
苦手:雪、兄、静寂の夜
世界階級:13未満。
レベル:6/50
才能:奉仕1、サバイバル1
出展作品:My garnet
黒主家のメイド。借名の正体。美咲付きだが正輝との付き合いの方が長い。この時点で既に正輝とは肉体関係あり。異世界転生果たした3人の中で唯一黒主家の血をひかないため和佐の処置を受けなかった。そのため記憶が一貫している。本名は小雪だが昔のことを思い出したくはないためにアリスと名乗り続けている。そのため正輝以外の人間は彼女の本名を知らない。和佐はメイドにおける先輩にして姉のような存在。
GEARは炎。元来炎を操る火村一族のため当然に継承している。故か通常の炎のGEARに比べて出力が桁違いであり、炎だけに限定するならばユイムのフレイムとも肩を並べるほどである。ただし当然ながら本人はこの能力を使いたがらない。原作では炎の力を使えるのは火村一族だけであり且つ現状の生き残りは火村小雪だけであり炎を使えばすぐに正体がばれてしまうためでもある。それを気にかけられたからか和佐からは炎を使わなくてもいいようにと名を借りるGEARを与えられた。
原作終盤では子宮を持たず生殖能力がない美咲の代わりに正輝の子を産んだ。その際に自らの子も産んでいて準一卵性双生児となっている。それ以降は火村の問題も天使の問題も解決しているためか本名の火村小雪を名乗っている。
ちなみにその双子姉妹が次の世界における3代目赤羽美咲と最上火咲になる。

甲斐(かい)和佐(かずさ)
年齢:ヒエンの2つ下
身長:155センチ
体重:46キロ
3サイズ:80・61・77(C)
所属:十三騎士団(ただし現在離反気味)、黒主家
GEAR:光陰
属性:混沌・善・火
好きな物:海鮮料理、競輪
苦手:下の名前が「みさき」の人
世界階級:4
レベル:296/300
才能:状術2、体術2、システマ3、奉仕2、博打3
出展作品:My garnet、霹靂のPAMT
ヒエンの妹。旧姓:峰山。ナイトアルテミス。しかし若干離反気味。自由に世界線を渡る巫女少女。ルネの母。世界は天使(あのこ)を満たさない~Gear's of Monochrome X ZERO~の世界を滅ぼした張本人。冷静なヤンデレ。
これまでも度々話題になっているヒエンの妹。まだ兄と会う気はない。しかし兄のためならば幾らでも世界を壊せる破壊巫女。確実に十三騎士団の矜持に反していながらも特に罰が与えられるような気配はない。代わりと言っては何だがその実力は十三騎士団の中でも間違いなく最弱。それでもパラディンよりかは数段上。
GEARは「光陰」。速さまたは早さの優先権を最速にするというもの。雷龍寺の優先権のGEARの上位互換。さらに彼女は十三騎士団の力でブーストもしているため密室以外ならどこにでも瞬間移動できるようになっているしあらゆる世界線を跨いで移動することもできる。このGEARのおかげで逃げ足だけなら世界でもトップクラスである。尋常ではないほどのフットワークの軽さのため一か所……同じ世界に長くとどまることはない。
甲斐三咲のことを深く愛憎しているが彼女と兄が残した最後の子供である正輝については思うところがあるのか面倒を見ている。
アスク=峰瑠璃なる少女を介する必要があるがザ・プラネットの力も使用可能であり、それにより正輝、美咲、アリスに力を与えた。ちなみに正輝は違うが美咲の作成を行ったのは彼女である。
かなり高密度に暗躍して黒幕っぽくなっているが本格的な敵には回らない予定。

東雲(しののめ)大輝(たいき)
年齢:17歳
身長:176センチ
体重:66キロ
所属:柊咲高校
GEAR:不屈
属性:中立・善・風
好きなもの:妹、家族、エロゲ
苦手:勉強(ただし成績は悪くない)
世界階級:13未満
レベル:2/30
才能:勉学1
出展作品:Monochrome
天使シリーズ4代目主人公。初代と3代目は版権関係のため出せない。また正確に言えば4代目の前半の主人公は妹の咲。2009年執筆作品の主人公。ギリギリで黒主零より後発。何の力も持たないが結果的とはいえ天使界を滅ぼした青年。ある意味では大悟の先輩。
原作では正輝と出会うのは2年後なのだが正輝関連の話を8章だけでまとめるためにフライングした。
GEARは不屈。何があっても諦めない不屈の魂。それゆえに世界を愛し、世界を滅ぼし、世界を救った。
某KID作品で同名タイトルの同名主人公がいるが当時はネット環境がなくその存在を知らなかったため全くの偶然。世界は天使(あのこ)を満たさない~Gear's of Monochrome X ZERO~では版権の方の大輝を使用している。

東雲(しののめ)咲(さき)
年齢:13歳
身長:147センチ
体重:39キロ
3サイズ:65・51・65(A)
所属:柊咲中学
GEAR:心願
属性:秩序・悪・風
好きなもの:誰かの笑顔、兄
苦手:血、争うこと
世界階級:13未満。場合によっては10程度。
レベル:2/8
才能:持久走1
出展作品:Monochrome
大輝の妹。歩乃歌のページで書いた個人的最初の女性主人公。原作では高1だが事情により中1に。天使シリーズのキーワード「心願」の持ち主第3号。前二人は版権のために以下略。イシハライダーの桜子のモデルにもなっている。さらに元をたどれば剣人の妹・羽咲に至る。
GEARは心願。その命と引き換えに1つだけ願いをかなえる能力。原作でも同じ能力を持っているが、この能力を持つものは心臓に先天的な欠陥を抱くという共通点があり、この能力のことを本人も自覚している。大抵は心臓病の悪化による今わの際に使うことが多い。……はい。これで1号2号が誰だか分ったでしょう。
原作通りに死亡を果たした彼女だがその後もまた原作通りの道をたどるだろう。


結羽(ゆん)
年齢:15歳
身長:151センチ
体重:43キロ
3サイズ:72・55・72(B)
所属:天使界
GEAR:天使結羽
属性:秩序・悪・林
好きなもの:幸せ、水泳、空中遊泳
苦手:争い、自分
世界階級:13未満
レベル:2/10
才能:裁縫1
出展作品:My garnet
金色の翼を持った天使の少女。正輝を対象者に選んだ。基本的ににこやかしている甘い雰囲気の少女だが心に闇を抱えている。背中の羽を用いた空中遊泳は趣味だがしかし飛ぶのはうまくないためよく壁とかにぶつかる。雷歌とは幼馴染。
通常通りに一人前の天使になるための課題として正輝のもとに赴いたのだが実際には元老院の差し金で正輝を監視するのが目的。しかし当然本人はそれに気づいていない。
GEARは天使が自分たる証。天使としての力を使うことも可能で、その能力は精神的な鎮痛剤。

雷歌(らいか)
年齢:15歳
身長:160センチ
体重:52キロ
所属:天使界
GEAR:天使雷歌
属性:秩序・善・火
好きなもの:りんご、結羽
苦手:正輝
世界階級:13未満
レベル:21/21
才能:空手1
出展作品:My garnet
美咲を対象者に選んだ銀翼の天使の少年。性的交配以外でも個体数を増やすことが出来る種族のため生まれることがまれである男性の天使。
基本的にぶっきらぼうだが根は優しい。李狼のモデルになったあの少年がモデル。しかし身に着けているのは空手。結羽と違い、いろいろ後ろ暗いことを知っている。が、一番肝心な復讐の相手は知らずにいる。
GEARは天使としての力を使う天使雷歌。手からエネルギーを放つことが出来る。基本的には破壊光線として使うことが多いが傷の治療やバリアとして使うこともできる。

桜葉(さくは)
年齢:15歳
身長:154センチ
体重:40キロ
3サイズ:71・54・70(B)
所属:天使界
GEAR:天使桜葉
属性:秩序・善・風
好きなもの:ブドウ、日光浴
苦手:夜、ホラー
世界階級:13
レベル:48/48
才能:天使1
出展作品:Monochrome
咲を対象者に選んだ真っ白な翼をもつ天使の少女。他の天使とは違い完全なる量産型。普段は聖人君子とも言える少女だが元老院や上の階級の命令があればすぐに粛清天使としての機能を発動する。だが、羽の色同様に真っ白な心は少しずつ咲の影響を受けていく……。
GEARは天使の力を扱う天使桜葉。他人にわずかだが幸運を与える能力。そしていざという時には粛清天使として機能する。
恐らく原作シリーズでは一番不遇な天使。

菅原(すがわら)歌音(かのん)
年齢:15歳
身長:158センチ
体重:49キロ
3サイズ:86・61・79(D)
所属:天使界
GEAR:まだ秘密。
属性:秩序・中庸・山
好きなもの:人間、天使、あらゆる生命
苦手:上を脅かす存在
世界階級:8
レベル:15/65
才能:学習1、裁縫2、大天使2
出展作品:My garnet
正輝のクラスメイトである少女。巨乳。
普段はとびっきり明るい性格で女子高生を満喫しており正輝や美咲からしたら親友と言ってもいい存在である。
モデルは天使シリーズの漫画版に登場する歌鈴。そのため妹の茜音も存在自体はしている。また晶との関係もそのまま。

更舞(ざらぶ)好美(よしみ)
年齢:15歳
身長:159センチ
体重:51キロ
3サイズ:73・60・73(A)
所属:柊咲高校
GEAR:未覚醒
属性:中立・中庸・風
好きなもの:流行の物、手鏡、帽子
苦手:運動全般
世界階級:13未満
レベル:1/9
才能:面倒1
出展作品:My garnet
正輝のクラスメイト。流行大好きな今どき女子。貧乳ではあるがそれをからかわれると人が変わったようにキレる。
少しだけ鞠音のDNAが入ってる所以のやかましさのため正輝は苦手としているが美咲は案外悪くなさそう。
GEARは未覚醒。と言うか見ての通りの一般人だしね!

美良(びら)舞(まい)
年齢:15歳
身長:151センチ
体重:43キロ
3サイズ:83・63・82(D)
所属:柊咲高校
GEAR:未覚醒
属性:秩序・中庸・林
好きなもの:動物、植物
苦手:運動
世界階級:13未満
レベル:1/5
才能:勉学1 暗記1
出展作品:My garnet
正輝のクラスメイト。おっとり巨乳。しかし好美のそれと同じようにからかわれると人が変わる。中学からの付き合いだからか半年に1回くらいはガチ喧嘩してるとか。しかし同じくらい胸が大きい歌音とはその話題OKらしい。
GEARは未覚醒。

絶乱(ぜらん)刀斗(とうと)
年齢:15歳
身長:169センチ
体重:68キロ
所属:柊咲高校
GEAR:剣術
属性:中立・中庸・火
好きなもの:修行、稽古、試合、決闘
苦手:頭脳労働
世界階級:13
レベル:38/38
才能:剣術2
出展作品:My garnet
正輝のクラスメイト。脳筋の武闘派同性クラスメイトの元祖。純粋な剣の試合では正輝どころか果名よりも強い。しかし脳筋故に頭はよくない。
黎明期の作品だからか性格とかはほぼ雷歌と同じ。当然一度だけ遭遇した際にはすぐに喧嘩となった。
GEARは剣術。名前の通り剣術に優れている。これがあるために通常の才能レベル2も相まって単純な剣の勝負ではめちゃくちゃ強い。同作どころか作者世界全体を含めても勝てるのはムラマサかパラレルフィスト時代の剣人くらいで、ヒエンよりかも数段上。しかし原作のガチ戦闘では1度しか参加していない。ちなみに剣道部には所属していない上剣道そのものはやったことがないらしい。

才門(さいもん)秀人(ひでと)
年齢:15歳
身長:157センチ
体重:48キロ
所属:柊咲高校
GEAR:明晰
属性:中立・中庸・風
好きなもの:自分、歌音
苦手:刀斗
世界階級:13未満
レベル:2/10
才能:知能指数2
出展作品:My garnet
正輝のクラスメイト。名前からにじみ出るようにがり勉のエリート。口々するようにIQ190が自慢。現実味がないからと決して口にはしなかったが正輝と美咲に血のつながりがないことを一目で判断し、しかしその上で何かしら深い関係があることも見抜いていた。歌音に片思いしてるが彼女が何か重大な隠し事をしていると知って踏ん切りがつかずにいる。
GEARは明晰。もはやメタ的な部分に入り込みつつあるほど頭がいい。このGEARと合わせることでIQは4倍の760まで上がる。天才天才言ってる歩乃歌の6倍近くである。しかしそれであるが故に原作では無沙紀初登場時に歌音を庇って死んでしまう。

月(ゆえ)無沙紀(むさき)
年齢:15歳
身長:164センチ
体重:56キロ
所属:天使界
GEAR:月無沙紀
属性:混沌・悪・林
好きなもの:母、剣での勝負
苦手:美咲
世界階級:13未満
レベル:45/90
才能:剣術2、槍術2
出展作品:My garnet
正輝のクローン。剣術も正輝と互角程度だが槍術に関してはそれをも凌駕する。錬金のGEARも持たないが正輝への固執や幾度もの死闘から少しずつ変わっていく。ある意味黒咲歩乃歌の先祖。モデルはブラックビート。
GEARは己自身の存在を保つためのもの。
ちなみに実際に15年前に製造されたために普通に15歳である。正輝は10年若返らせられているため存在年齢は25歳。


火村(ひむら)焔(ほむら)
年齢:29歳(享年)
身長:181センチ
体重:71キロ
所属:火村家
GEAR:炎
属性:秩序・善・火→混沌・悪・火
好きなもの:雛水
苦手:天使、元老院、火村家
世界階級:13
レベル:42/60
才能:料理1
出展作品:Monochrome
アリスこと火村小雪の父親。没落貴族である火村家の最後の当主。しかしあまり金持ちではなく、田舎の山村で暮らしていた。しかし3年前に元老院の執行部によって殺害されてしまう。
だが大堕天使の力で復活。人格や記憶はないも同然だがその能力などはそのまま。感覚としては天死に殺されたグールに近い。
GEARは炎。炎使いである火村家当主であるため当然。
本来ならアリスのことは当然、正輝の事も知っているが記憶と人格を失っているため認知していない。
モデルは炎のアリスと毒のアリス。


風行(かざゆき)剣人(けんと)
年齢:15歳
身長:167センチ
体重:64キロ
所属:聖騎士協会
GEAR:開闢
属性:秩序・中庸・風
好きなもの:年下の少女、兄、剣の修行、戦い
苦手:射撃戦
世界階級:まだ11程度。司界者になってからは5
レベル:71/100
才能:剣術2
出展作品:ナイトメアカード
元祖主人公。魔法剣士。まだ司界者になっていない、原作中盤の時期。2003年生最古の主人公。しかし設定などは2009年のリメイク版が多め。まだわかめヘアーではない。ライラよりかも2つ年下。当然希望のカードは所持していない。
父親を10年前にキングによって殺された少年剣士。だからかテンペスターズに対して深い復讐心を持っている。まだまだ若い時代だからか未熟な面が目立つ。果名は年上だが剣の腕では剣人の方が上のためそっちでは先輩。正輝時代には年上の後輩が数人いたためか運命のいたずら。
GEARは「開闢」。無意識のうちに新たなるものを作り出す風属性の神とも言ってもいいGEAR。伝承と言う名の理想でしかなかった八又轟閃を独自のやり方で実現させたり開祖でないにもかかわらずナイトメアカードの司界者になったりと色々新しいルールを作り出している。メタ的に言えば作者のデビュー作で最古の主人公で現在にも続くあらゆる要素の礎になったキャラクターだから。
ちなみに後に妹の羽咲と結婚してヒカリ含む子孫を作り出すのだがこの物語時点ではまだ出会ってすらいない。ちなみに劇中で結羽を説得した格好いい文句は原作では羽咲に対して走らせた言葉。

七星(しちせい)剣一(けんいち)
年齢:16歳
身長:181センチ
体重:76キロ
所属:聖騎士協会
GEAR:戦闘
属性:秩序・善・火
好きなもの:剣での戦い
苦手:搦め手
世界階級:13
レベル:70/70
才能:剣術2 戦術2
出展作品:ナイトメアカード
元祖ライバル。元祖戦闘狂。2メートル近くもある大剣を用いて戦う大男。しかし某野菜王子のように勝てたことはない。剣の腕では剣人に劣るがもっと原始的な戦術レベルでは上。そのため剣人からしたらひどく戦いづらい。
GEARは戦闘。ぶっちぎっての戦いの天才である。実際殺される寸前まで追いつめられたがシリアル相手に善戦している。もしもあの時他の聖騎士メンバーだったなら瞬殺されていた可能性が高い。

火村(ひむら)火乃吉(ひのきち)
年齢:15歳
身長:166センチ
体重:63キロ
所属:聖騎士協会
GEAR:燃焼
属性:中立・善・火
好きなもの:丸焼き、戦闘
苦手:水、雨、水泳
世界階級:13未満
レベル:59/61
才能:狙撃1
出展作品:ナイトメアカード
剣人の仲間。さりげなく聖騎士メンバーの中で一度も剣人の敵に回ったことがない稀有なキャラ。と言うか多分唯一?パラレルフィストでは火ノ助なる名前になっていたが火乃吉が正解。炎属性の元祖。それもそのはずアリス=小雪含む火村一族の子孫であるため。特に考えていなかったが恐らく正輝とアリスから生まれた子供の子孫。
GEARは燃焼。本来火村一族は他を圧倒する火力の炎のGEARを有しているが火乃吉の場合それが進化している。進化しているくせに自力では炎を出せなくなっているがその分既に発生している炎を自在に操る能力を持つ。ライター程度の火でも街1つを焼き尽くす炎の渦に変えることが可能。故に自身が愛用している火炎系のカードとの相性は抜群。当然アリスよりかも火力は上で、炎に限って言えばユイムのそれよりかも上。ただし自覚していないため気分が乗っている状態でないと発動しない。最大火力が決まればシリアルすら焼き殺すことが可能。……大抵はそれより前に瞬殺されるだろうが。

小(しゃお)李狼(りろん)
年齢:14歳
身長:151センチ
体重:44キロ
所属:聖騎士協会、中華陰陽協会槃
GEAR:最適化
属性:秩序・中庸・林
好きなもの:杏仁豆腐、修行
苦手:ナイトメアカード
世界階級:13未満
レベル:44/80
才能:剣術1、陰陽道2、体術1、狩猟1
出展作品:ナイトメアカード
聖騎士協会に所属していながら聖騎士協会に敵対している中華系組織の一員である少年。ほとんど聖騎士協会に対する監視役である。まあ、モデルは名前から推測できるだろう。元はモデルまんまの性格だったが現在では割と差別化されているつもり。ツンデレと言う訳ではないのだが古参のメンバーでありながら完全に仲間化したのはかなり後半になってから。
剣術、カンフー、ナイトメアカードに加えて陰陽道まで使用する鬼才。まだ若いため成長中だが才能はかなり高い。
GEARは最適化。トゥオゥンダのそれと同じであらゆる選択肢の中から最適の物を無意識で選ぶもの。上述の鬼才ぷりに加えてこのGEARのためかなりの強豪。実際幾度となく剣人を追い詰めている。しかし剣術に関しては飽くまでも選択肢の1つであるため他のメンバーに比べるとかなり劣る。

風行(かざゆき)無良正郎丸(むらまさろうまる)
年齢:19歳
身長:186センチ
体重:88キロ
所属:聖騎士協会
GEAR:暗躍
属性:中立・中庸・山
好きなもの:家族、修行、唐揚げ
苦手:キング、パラディン
世界階級:9
レベル:99/100
才能:剣術3、戦闘2
出展作品:ナイトメアカード
剣人の兄。剣術最強の人。愛称はムラマサ。モデルは某戦国御伽草子の隻腕兄貴と明治剣客浪漫譚のジョーカー師匠。昔剣人が初めてキマイラを発動して暴走した際に左腕を失っている。それでいても最強クラスの剣豪。ナイトメアカードの技量もかなりのもの。世界階級では勝っているパラディンであっても一瞬の油断が斬首につながると警戒している。
GEARは暗躍。勝負そのものは正面からの正々堂々が多いどころか逆に待ち伏せを受けることも多いが基本的に気配の殺し方などは尋常ではなく、仲間たちと一緒にいる時よりも単独行動中の方が敵から警戒される。
風行流剣術はマスターしているが上述通り奥義である八又轟閃は剣人が成すまで妄想、伝説に過ぎないと見切っていたため習得していない。
キングが父の敵だということは知っていて、当初キングを追う剣人の前に現れては勝負を挑んでいたのは復讐の役割を弟に与えたくなかったためである。
原作中でもトップクラスの実力ではあるが、故に怪物(チート)と戦わされる確率が非常に高く、オメガ以外の強敵とは一度ずつ戦ってはすべてかませにされている。とは言えただで敗北したケースは少ない。
モデルは最初に語った通り。原作執筆時の2003年及び2009年ではまだモデルの方の左手は生えてこなかったため当然この人も左腕は不在のまま結末を迎える。
8章で登場予定だったが短縮により出番は後回しに。

ヴァルピュイア・グリーンスカーレット
年齢:26歳
身長:173センチ
体重:66キロ
3サイズ:79・65・77(A)
所属:セントラル、テンペスターズ
GEAR:飛行
属性:秩序・善・風
好きなもの:甘いもの、剣の修行
苦手:キング、支配
世界階級:10
レベル:75/75
才能:剣術2、二刀流2、空戦2、戦術1
出展作品:ナイトメアカード
テンペスターズ第一の刃。緑色の剣風。あまり明言されないが女性。モデルは某赤いレプリロイドの四天王。緑色で飛んで二刀流剣士。
背中に背負ったジェットエンジンや飛行のGEARを用いての空中戦が可能。そして何よりも二刀流剣術が飛びぬけた技量を持っている。
原作だけでなく本作でも数度剣人を打ち負かしている強豪。モデル通りか剣人とは明確な決着がつかないままオメガとの戦いで行方不明になる。原作通りキングとは深い溝がある。
GEARはもはやおなじみの飛行。ジェットエンジンに頼らなくても飛行可能。

偽艶(ぎえん)
年齢:不明
身長:155センチ
体重:38キロ
3サイズ:不明
所属:セントラル、テンペスターズ
GEAR:未覚醒
属性:混沌・善・火
好きなもの:戦い、風流
苦手:戦闘以外の肉体労働
世界階級:11
レベル:72/72
才能:扇術2、剣術1、忍術1
出展作品:ナイトメアカード
テンペスターズ第二の扇。幽玄なる貴婦人。しかし年齢は不明。と言うか人間かどうかも不明なホラー。しかし戦闘狂。和服。両手に持った鉄扇が武器。
GEARは未覚醒。
さりげなくテンペスターズの中でモデルがいない唯一の人。
ひそかに暗躍していたミネルヴァとの一騎打ちで敗北して死亡する。

グラーザン・ディスバルイ
年齢:41歳
身長:229センチ
体重:180キロ
所属:セントラル、テンペスターズ
GEAR:未覚醒
属性:中立・中庸・風
好きなもの:戦い、修行
苦手:頭脳労働
世界階級:11
レベル:77/100
才能:体術2、剣術2
出展作品:ナイトメアカード
テンペスターズ第三の拳。まあ、外見はタケシだと思ってくれればいい。無口な大巨漢。やっぱり戦闘狂。原作では火乃吉と死闘を繰り広げるが敗北して火葬される。本作では巨大化して大暴れしていたがデスバニア高原の森を焼いてしまったためにシリアルの怒りを買って彼女に殺害される。

ソゾボルト・ライトニングラッシャー
年齢:22歳
身長:180センチ
体重:83キロ
所属:セントラル、テンペスターズ
GEAR:音楽
属性:混沌・善・風
好きなもの:メタル、ライブ
苦手:普通の会話
世界階級:11
レベル:64/70
才能:ロック2、プロレス2
出展作品:ナイトメアカード
テンペスターズ第四の爆音。モデルは某7の月の熱いロックシンガー。ツインギターを年がら年中轟かせている青年。プロレスラーらしくプロレス技を用いるがギターを手放すことがないため背中や足だけで戦う。
原作では李狼を追い詰めるが爆音にキレられて逆転を許してしまう。
本作では裏闇裏丸と一騎打ちの末にナックルスパークを受けて敗死。

ゼスト・グランガルドガイツ
年齢:35歳
身長:191センチ
体重:108キロ
所属:セントラル、テンペスターズ
GEAR:突撃
属性:秩序・悪・火
好きなもの:和食、修行
苦手:侵略行為、女
世界階級:10
レベル:81/81
才能:槍術2、剣術2
出展作品:ナイトメアカード
テンペスターズ第五の槍。キングの弟。兄とは違い、結構いろんな世界周ってる。2003年版には登場しない。何故かと言えばモデル故。
テンペスターズの例にもれず戦闘狂……というか修行僧みたいな性格だがヴァルピュイア同様キングのやり方が気に食わないため彼を止めようとしている。「エスカニモーロ」でも登場し、パラディンによってそちらの世界に渡った兄を追ってやってくる上ジキルの師匠になる。しかし……。
GEARは突撃。優樹のGEARと似ていて何か1つのことを想って行動すれば成功しやすいというもの。……懸念とかとどう違うのかは不明。

キングスト・ガルドガイツ
年齢:39歳
身長:199センチ
体重:98キロ
所属:セントラル、テンペスターズ
GEAR:懸念
属性:秩序・善・山
好きなもの:洋食、ラジオ
苦手:一対一の対話
世界階級:10
レベル:61/90
才能:采配1、体術1、戦略1、魔術戦2
出展作品:ナイトメアカード
テンペスターズ第6の鉾。ゼストの兄。裏で調停者と繋がる男。リーダーではないが事実上の支配者。目指すは終極なる鎧武。モデルは某オブジェ真拳の使い手。
巨漢だし体術の才能もあるがテンペスターズの中では裏方気味だからかそこまで強くはない。しかしそれは飽くまでも自力のみの場合。この男の真価は他の全てをも巻き込んだ大戦略である。決して個人としての実力では覇を極められない事を知っての狼藉である。
GEARは懸念。お馴染み。概ね弟と同じ。

レッドバーン
年齢:33歳
身長:196センチ
体重:92キロ
所属:セントラル、テンペスターズ
GEAR:冷静
属性:秩序・中庸・火
好きなもの:地図を見ること
苦手:戦闘
世界階級:11
レベル:70/70
才能:戦術1、戦略1
出展作品:ナイトメアカード
テンペスターズ第7の炎。赤青双子の兄。竜人のような姿をしているが一応普通に地球人。情熱的ではあるが根っこはかなり冷静。モデルは4番目の邪悪龍。戦闘行為は性格的に苦手なだけで決して弱くはない。
GEARは冷静。どんな時でも機械のように感情の起伏がなく機械的に言動出来る。
しかし残念ながら大した見せ場もなく李狼に倒されて死亡している。

ブルーバーン
年齢:33歳
身長:196センチ
体重:92キロ
所属:セントラル、テンペスターズ
GEAR:熱血
属性:混沌・善・林
好きなもの:釣り、メンマ
苦手:塩素、まじめぶること
世界階級:11
レベル:62/71
才能:体術2、魔術戦1
出展作品:ナイトメアカード
テンペスターズ第8の氷。赤青双子の弟。もう完全に悪魔系モンスターみたいな外見だが一応地球人。冷静ぶってはいるもののかなり直情的。モデルは3番目の邪悪龍。テンペスターズでは珍しく戦闘狂でも修行マニアでもない。
GEARは熱血。調子に乗れば乗るほど勢いを増して強くなる。色々と兄とは正反対。

ミネルヴァ・M(マーガレット)・Hル卍
年齢:21歳
身長:202センチ
体重:225キロ
3サイズ:120・109・118(A)
所属:テンペスターズ、政府議会、Hル卍家、山TO氏学園
GEAR:熱血
属性:混沌・中庸・火山
好きなもの:戦い、修行、トレーニング、鍛錬、策略、死闘
苦手:色気
世界階級:8
レベル:100/100
才能:体術2、斧術2、戦術2、戦略1、悪略1、魔術戦2
出展作品:パラレルフィスト
テンペスターズ第9の刃金。版権的に出せない9人目の代わりに馳せ参じた女丈夫。原作よりかもマッシブになってる。モデルはもちろん北の大帝国第三将軍。
殴るのもぶった切るのも魔術戦でもさらには策謀でもトップクラスの化け物。原作とは違いいつでも死と隣り合わせな環境なためかかなり鋭く強くなっている。一応原作での頃合いはライラたちと一緒。故にもうステメラはいないのだが個人的な理由でテンペスターズに参入している。
GEARは熱血。この力を手にしたことでますます限界を突破してしまっている。ただし他のテンペスターズと違い、ナイトメアカードを使用できないため総合的な火力では大幅に劣る。……それであれだが。
今回は原作以上に大暴れしてくれているはず。

ライランド・M(マルクライン)・X是無ハルト
年齢:16歳
身長:149
体重:47キロ
3サイズ:79・62・80(C)
所属:界立山TO氏パラレル部、X是無ハルト
GEAR:可能性
属性:秩序・善・林
好きなもの:正々堂々、ユイム、シュトラ、紫音の書くJS凌辱シリーズ
苦手:自分、海鮮料理、ブランチ
世界階級:ナイトメアなしなら13未満。ジュネッスで8。
レベル:69/77
才能:魔法2、プロレス2
出展作品:パラレルフィスト
やや成長した可能性の少女。外見は原作5章のものとなっている。別行動中にパラレル部の仲間たちと出会い、ティラやケーラとも肉体関係を持ち、ジュネッスになれるようになった。山TO氏不在の間に変な性癖が付き、本編不在の間に男も女もあげている。ただしラウラが存在しないため天死に関する情報はそこまで集まっていない。
ちなみに海鮮料理が苦手なのは30世紀において魚と言うのはほぼ人工製しかおらず、珍味扱いされているため。特に田舎である旧帝都のそれは食せば間違いなく腹を壊すほど。
GEARは可能性。原作で示した通り諦めない限りあらゆる可能性が味方する。
色々成長して胸もCカップになったが身長だけは意地でも150に届かない。


ユイム・M・X是無ハルト
年齢:16歳
身長:152センチ
体重:40キロ
3サイズ:66・54・64(A)
所属:界立山TO氏学園パラレル部、X是無ハルト
GEAR:放出
属性:中立・善・風
好きなもの:シュトラ、ライラ、女の子全般
苦手:キリエ、升子
世界階級:本人だけなら12、ジュネッストリニティーだと6
レベル:71/99
才能:魔法3、性技1
出展作品:パラレルフィスト
ライラの思い人。ボクッ娘。キリエの妹。歩乃歌が性格モデルのためほぼほぼキャラ被り。ただしあちらがややボーイッシュ混じりな中性的口調なのに対してこちらは一貫して女性的口調寄り。零式ApendFilesでは歩乃歌を見てライラたちがユイムを想起していたが今回は逆にユイムを見て眞姫達が歩乃歌を想起させている。その出会いは9章をお楽しみに。
魔力暴走体質はこちらの世界では放出のGEARの制御不良と言うことになっている。
GEARは放出。魔力でも感情でも体力でもリミッターを超えてガンガン出せると言うもの。元々ユイムの魔力は常人の100倍以上を持つキリエのさらに数倍もあるため当初はその凄まじい量を制御できずに暴走していたが今ではもう完全に制御している。
パラレルフィストプロトを経由したために本来のライラとユイムの肉体にブランチなどが色々ミックスされている。
ライラ細胞:ユイム細胞:ブランチ細胞=8:1:1が本作のライラ、
ライラ細胞:ユイム細胞:ブランチ細胞=2:7:1がシリアル。
ライラ細胞:ユイム細胞:ブランチ細胞=0:2:8に本作のユイムはなるはずだったがザ・プラネットによる調整が入ったことで
ユイム細胞:レイラ&アルデバラン=8:2の状態となった。
レイラとアルデバランがどうして混じったのかは不明。多分ハプニングの類。しかしそのおかげでジュネッストリニティーなるライラやレイラをも超える力を手に入れた。
レイラのジュネッストリニティーと比較すると常時、舛崎やイシハライダー、天川の力が使えるうえ天死二人分の力を持つレイラに平均的には劣っているが世界中のどこからだろうと他人の力を7割程度とは言え持ってこれるユイムの方が爆発力は上。ぶっちゃけギンガストリウムとかみたいな感じ。元々はイシハライダー、アカハライダーに次ぐ3作目アラブライダーの能力だったが版権ぶっちぎって出せないため何故かユイムさんの新能力になった。
ちなみにアルデバランやレイラは自己紹介をほとんどしていないが常時フルタイムで起きているコントの内容からユイムは大体の事を知っている。どちらも既に過去の自分が生まれているためか本名を話していない。しかし故意にやってることではない。


ティライム・KYM(けーわいえむ)
年齢:16歳
身長:143センチ
体重:36ロ
3サイズ:85・64・87(E)
所属:界立山TO氏学園パラレル部、KYMグループ
GEAR:安らぎ
属性:秩序・善・山
好きなもの:ラモン、友達、パラレルカード
苦手:ぬるぬるしたもの
世界階級:13未満
レベル:19/38
才能:開拓1、魔法1
出展作品:パラレルフィスト
ライラの親友。パラレル部。KYMグループのご令嬢。ロリ巨乳。原作5章の時期で既にライラとは関係を持っている。だからか胸はますます大きくなっている。
GEARは安らぎ。ただそこにいるだけで周囲に安堵をバラまく。ライラにとってはある意味ユイム以上に日常の象徴である。
ナイトメアカードは使えないが原作5章と言う時期も時期なためか原作で言う強さランク的には6程度にはなっている。

赤羅門(あからもん)・ミドリュエスカラナイト
年齢:16歳
身長:171センチ
体重:63キロ
3サイズ:80・67・78(A)
所属:界立山TO氏学園パラレル部、KYMグループ
GEAR:懸念
属性:秩序・中庸・林
好きなもの:ティラ、甘いもの、空
苦手:巨乳
世界階級:13未満
レベル:28/45
才能:体術1、計算1、魔法1
出展作品:パラレルフィスト
ライラの親友。パラレル部。KYMグループ親戚の孤児。のっぽ貧乳。パラレル部で唯一ライラと肉体関係がない。最近おっぱいではなく胸筋がついてきたのが悩み。
GEARは懸念。もはや説明不要。

シュトライクス@・YM(イグレットワールドマルクライン)・X是無ハルト
年齢:16歳
身長:160センチ
体重:51キロ
3サイズ:83・66・82(C)
所属:界立山TO氏学園パラレル部、X是無ハルト
GEAR:不幸
属性:中立・善・火
好きなもの:ライラ、ユイム、女の子
苦手:義妹、ロリ、裸マント、怪力女
世界階級:13未満
レベル:31/31
才能:魔法1、体術1、性技1
出展作品:パラレルフィスト
ライラの親友にして嫁の一人。一応バイ?才能は無きにしも非ずなのだが幸運に恵まれない少女。しかし実業団のプロにも一騎打ちで勝利しているため決して実力がないわけではない。
GEARは不幸。龍雲寺と同じ。THE哀れ。しかしその中でありながら二度と会えないことを覚悟していた人物との再会だけでなくそれ以上に愛している少女とも出会いを果たせている、性愛だけは何が何でもつかみ取る執念の女。……初めては性具だったけども。

ケーラ・ナッ津ミLク
年齢:16歳
身長:164センチ
体重:58キロ
3サイズ:82・62・83(C)
所属:界立山TO氏学園パラレル部
GEAR:努力
属性:秩序・中庸・林
好きなもの:訓練、試合
苦手:騒がしいこと、えっちなこと
世界階級:13
レベル:76/100
才能:棒術2、魔法1、戦術1
出展作品:パラレルフィスト
ライラの親友。パラレル部の部長。無敗の少女。ずっとパラレルだけが生きがいだったがここ最近はライラとのエッチもライフワークになりつつあるむっつり戦闘狂。しかしまだ一応処女。結局別人と結ばれるが。原作では試合で無敗だが流石に本作では人外規模が跋扈しているためかそうはいかない。……多分。さりげなく30世紀で数少ない日本人の家系である。Hル卍のDNA交じってるけども。
GEARは努力。努力は救われます。絶望的だったパラレル部復活します。大会でどこまでも勝ち続けます。トッププレイヤーのライラやユイムと互角以上に戦えるくらい強くなります。

リイラ・K・円cryン
年齢:12歳
身長:140センチ
体重:38キロ
3サイズ:66・52・64(A)
所属:界立山TO氏学園
GEAR:未覚醒
属性:中立・中庸・山
好きなもの:姉、仲間達、家事
苦手:姉以外のX是無ハルト達
世界階級:13未満
レベル:33/70
才能:魔法2、家事1
出展作品:パラレルフィスト
ライラの妹。義妹。母の妹の娘。まだ小学6年生。だけど実力はそれなりに高め。天死の血は引いていない。クーデレ?
お姉ちゃん大好きなシスコンだが意地でもお姉ちゃんとは言わずにお兄ちゃんって呼ぶ。そのお姉ちゃんとの試合中の事故で処女膜破られている。
GEARはまだ未覚醒。

佐野(さの)升子(ますこ)
年齢:15歳
身長:142センチ
体重:36キロ
3サイズ:70・54・71(B)
所属:界立山TO氏学園、チーム風
GEAR:力
属性:中立・善・風
好きなもの:ライラ
苦手:ユイム
世界階級:13未満
レベル:22/30
才能:魔法1(現在は0)
出展作品:パラレルフィスト
ライラの幼馴染。来斗の母。ライラの体とは確かに結ばれたが本人とは一切そういうことはしていない。重力魔法のせいで怪力。その怪力だけでユイムとある程度はやり合える。まだ来斗が生まれたばかりのためかユイムとの関係は険悪のまま。
GEARはお馴染み、力。元の怪力に加えてこのGEARのおかげでさらにパワーアップしている。もう10トントラックくらいなら片手で持てる上ダンベル代わりにもなりはしない。多分純粋なパワーでは人間の中では最強。
来斗を生んだ際の事故により魔力を失い、カードを使えなくなっている。カードを使えていたら世界階級は13にはなる。

来斗・S(さの)・円cryン
年齢:0歳
GEAR:可能性
レベル:1/37
才能:変態2、魔法1、ポジティブシンキング2、性技1
出展作品:パラレルフィスト、パラレルメフィスト
ライラ、升子の息子。そして未来の2代目主人公。まだ何もできない赤子。
未来の自分が恥さらしながら活躍している現実をまだ理解していない幸せ者。

民子(たみこ)・J(ジョン)・ミドリュエスカラナイト
年齢:17歳
身長:158センチ
体重:52キロ
3サイズ:78・62・77(B)
所属:界立山TO氏学園、Hル卍家
GEAR:民子
属性:秩序・中庸・林
好きなもの:読書
苦手:ラモン以外の家族
世界階級:13未満
レベル:14/29
才能:勉学1、策謀1
出展作品;パラレルフィスト
ミネルヴァの従者みたいな感じ。ラモンのいとこ。10年前の事故で全身義体になっている生きた機械人形。プロトタイプであるため飛べません。カードも使えません。ただ普通の人間よりは頑強。
GEARは自身を保つためのGEAR。色々と戦闘では役に立たない。

ラットン・M(ミスナルジ)・Hル卍
年齢:16歳
身長:161センチ
体重:54キロ
3サイズ:82・61・80(C)
所属:界立山TO氏学園パラレル部、Hル卍家
GEAR:ラットン、努力
属性:中立・善・風
好きなもの:パラレルカード(競技)、紅茶
苦手:騒々しい場所、妹以外の家族
世界階級:13
レベル:58/70
才能:魔法2
出展作品:パラレルフィスト
Hル卍3姉妹の真ん中。民子同様全身義体。しかし最新式のため外見は人間の少女と変わらないし空も飛べるしカードも使える。名前と立場は某廃太子だが姿や性格とかはまそーさんって感じの人。もう2人姿がまそーさんの人がいるけど血縁関係はない。
GEARは相変わらず自身を保つためのものと生前からある努力のGEAR。半分しか血が繋がっていないがケーラと同じ努力のGEARを持つ。
その努力あってか、操られていたとはいえ元テロリストでありながら成績優秀で後に政府議会の一員になったりケーラとタイトルを競い合ったりするのだがそれは別の話。

陛下(へいか)
年齢:16歳
身長:146センチ
体重:33キロ
3サイズ:61・48・60(A)
所属:学生
GEAR:空間支配
属性:秩序・中庸・林
好きなもの:特撮、トゥオゥンダ、姉妹、やおい
苦手:円華
世界階級:10
レベル:3/14
才能:情報基礎2、記憶力2
出展作品:トゥオゥンダ・カーポ
別の世界におけるトゥオゥンダのお隣さん。常にライダー8号の仮面を被っている少女。腐女子。クーツン?ほぼほぼ同じ姿をした双子の妹がいる。区別法としては旧式の仮面を被っているのが姉で新式の方が妹。原作2ではどちらも登場する。最初は別の学校(女子高)だったが2で同じ高校に転校してくる。ちなみに本名は姉が川杉志津香で妹が川杉佳奈子。仮面を外した際の姿は背丈と胸以外はほぼほぼ真上のひとと同じ。
GEARは空間支配。5枚の空間支配系カードの元になったGEARであり、極めればほぼ何でもできる。佳奈子は空間融合に長けていて志津香は空間破壊に長けている。
物静かな性格だが色々と因縁がある円華とは互いに嫌い合っている。原作ではとある事情のため佳奈子は死亡してしまう。
本当なら7章で円華と一緒に登場する予定だったが忘れていたため8章での登場になった。……すみません。また出ませんでした。


白夜(びゃくや)一真(かずま)
年齢:外見年齢は19歳程度、実年齢は200歳程度
身長:187センチ
体重:86キロ
所属:三船機関研究所、セントラル、スライト・デス
GEAR:マスターホワイト、チートオブマスター
属性:秩序・善・火山
好きなもの:少女、虐殺、支配
苦手:赤羽美咲
世界階級:4
レベル:100/100
才能:魔法3、支配2、体術3
出展作品:紅蓮の閃光(スピードスター)、世界は軌跡(あのこ)を赦さない
三船研究所が作り出した最強の人造人間。2章の頃火咲が言っていた3号機。1章ラスト前にラァールシャッハによって未来に飛ばされてそこでスライト・デスに悪用された結果地球最強の支配者の一人となった。名前は偽名。
0号機は火咲(ただし表向きにはシフル)、1号機は剛人、2号機は赤羽、3号機がこいつ。セントラルの上層部にいる地上の支配者にしてスライト・デス幹部の一人。
GEARは最強の白帯<マスターホワイト>とチートオブマスターの2つ。人間に可能なものは可能な限り強化されたうえで何でも可能な前者とセントラルとスライト・デスのあらゆる装置を用いることで文明や環境を自在に操る後者2つのGEARを持つ屈指の化け物。後天的な改造を受けているとは言え人間が持つ力であるためナイトメアカードやエクトプラズマーなども問題なく使用可能。レベル表記は飽くまでも100だがほぼほぼどんな相手でも相性で打ち勝てるため実際のレベルは倍以上と換算していい。前者だけでもここまで化け物だが後者により直接戦闘を行わなくともほぼすべての相手の運命を左右できるためそもそも直接相対することが困難である。
完成されている1章時点ならともかく紅蓮の閃光(スピードスター)の時代にこのスペックのまま存在していたらヤバかった。
とりあえず人造でもなんでも生きた人間の中ではほぼほぼ最強。実力はパラドクスの下位程度には当たる。アルケミーよりかは強い。
三船の改造人間と言うか人造人間らしく三船マンセーな思考回路をしている。
なお、紅蓮の閃光(スピードスター)でのマスターホワイトと世界は軌跡(あのこ)を赦さないでのチートオブマスターが同一人物と言うのは原作執筆当時からの設定。ただし紅蓮の閃光(スピードスター)でのマスターホワイトがそのままチートオブマスターになるわけではない。

シリアル
年齢:15歳
身長:150センチ
体重:41キロ
3サイズ:64・51・62(A)
所属:界立山TO氏学園
GEAR:可能性
属性:混沌・善・火
好きなもの:女の子、ライラ、シュトラ、ユイム
苦手:キリエ
世界階級:6
レベル:79/80
才能:魔法3、プロレス2
出展作品:パラレルフィスト、パラレルフィストプロト
ブラワの正体。プロトライラとプロトユイムの合いの子。外見などはユイムがモデルになっている。天死の力を使いこなしているがカードは使えないためジュネッスには至っていない。比率的にはプロトライラ:プロトユイム:ブランチによる闇の力=2:7:1と言ったところ。
天死として生物学的にトップクラスのスペックとライラ譲りのプロレス技を用いた対人では最強クラスの実力を持つ。
GEARはライラと同じく可能性。色々壊れてしまっている彼女にはどんな可能性が待ち受けている事か。
その存在はある意味、アルデバランの背中合わせ。


<既存人物変遷>
ヒエン:ついに再登場!5章ラストよりかも記憶と力を幾分か取り戻している。登場がこんなに遅れた理由は劇中で語っている通り、既に別の世界と化している場所にザ・プラネットが行く際にはかなり申請に時間がかかるため。実は5章時点よりも弱体化している点がある。
赤羽:色々デレる。原作でもなかった大号泣を果たす。久遠が原因で激昂するのは共通。ほぼほぼ攻略済み。
久遠:あんなに一緒だった友達を目の前で殺され、自身も重傷を負い最愛の赤羽に精神的苦痛を与えてしまったために自分を諦めそうになった。小5なのにかなりハード。赤羽と揃って次回あたりでおいしく頂かれそう?
噂の双子:実はある部分で登場している。本格的な詳細は9章か10章か。
紫音:原作を超えた新たなる力を手にしたがかなり不穏。実は材料自体は既に登場済み。
黄緑:いつ死ぬかないつ死ぬかな?でも生き残るんだよなぁって思ってたら死んだ。多分復活は第二部中には間に合わない。
来音:天才なので作戦の立案とかやってます。
達真:今回はあまり役に立ってない。まあ、トラウマ発掘してるしね。
火咲:相手が三船だからかリーダー面出来ます。ダッチワイフにされたけど。当然ヒエンによって治されてます。
リッツ:……可哀そうなことに。
シフル:少しだけ登場。多分絶対あの環境は落ち着かない。
爛:最初は役に立ってたのに。もはや3章ボスのメンツが……。
ルーナ:ほぼほぼ死亡状態。ただ仮想世界の中なので……。
ルネ:まさかの死亡。こちらは黄緑と違って多分第二部中に間に合う。
パラディン:古巣であるテンペスターズ第十の銀翼として登場。しかし3号機に操られてます。9章では恐らく……。
果名&切名&借名:正体発覚。なおこの3人が黒主零と本格的に出会うのは原作ではかなり後。
歩乃歌:時空を超えて和佐と再会。色々と好き放題やってる。


<関係者たち>
甲斐廉:甲斐三咲
黒主零:甲斐和佐、ルーナ・クルーダ、最首ハルカ、アスク=峰瑠璃
ジアフェイ・ヒエン:ルーナ・クルーダ
赤羽美咲:馬場久遠寺
乃木坂鞠音:乃木坂潮音
長倉大悟:(長倉小夜子)、(カシワギサヨコ)、長倉八千代、鈴音=リバイス=天竺
夏目黄緑:月美来音
矢尻達真:最上火咲、矢尻陽翼
最上火咲:義父、その辺の不良、達真、警官、孝弘、爛、蛍、リッツ、シフル
ライランド・円cryン:ユイム、シュトラ、ティラ、(升子)
黒主正輝:アリス
黒主果名:切名、借名


<歴史岐路>
2度目の西暦2008年の際に歩乃歌が来ていない=My garnet。正輝が果名になることのない正史。天使界のみ滅びる。
歩乃歌が来ている=世界は天使(あのこ)を満たさない~Gear's of Monochrome X ZERO~の世界。正輝が果名になり、X-GEARに繋がる。結果的に天使界は21世紀末に滅び、地上界も23世紀時点でほぼ滅亡している。

<第二部キャラ強さランキング>
EX:ヒエン、優樹
(越えられない壁)
SS:カオスインフェルノ、カオススパークス
(2倍以内の差)
S+:千代煌、フォノメデス
(3倍以上の差)
S:ゴースト、和佐(万全)、カオスディンゴ
(2倍以内の差)
S-:アルケミー(万全)、3号機
(越えられない壁)
AA:パラディン、フォルテ、十毛、デンジャラスライダー3人、群青
(3倍程度の差)
A+:ユイムジュネッストリニティー、エターナルF
(以下僅差)
A:シリアル、ルネ、ライラジュネッス
A-:キリエ(ブルー発動時)、アカハライダーズ
BB:ミネルヴァ、ムラマサ、歩乃歌、黄緑(時間制御あり)
B+:ゼスト、キング、キリエ、スライト・デス一般怪人、爛(5章以前)
B:ユイム、レッドバーン、ブルーバーン、偽艶、裏闇裏丸(メンバーズ時代)、ルーナ、大抵のダハーカ
B-:ヴァルピュイア、ライラ、ケーラ、ソゾボルト、グラーザン、剣人、李狼、爛(6章以降)
CC:剣一、火乃吉、シュトラ、果名、切名、刀斗
C+:無沙紀、焔、黄緑(時間制御除く)、強化メンバーズ
C:雷龍寺、潮音ネイティブ、剛人
C-:早龍寺、月仁、メンバーズ