飛べない百舌の帳(スカート)

飛べない百舌の帳(スカート)

【あらすじ】
汎用や優秀よりも凡庸を選んだ男と
全てを失ったが故にすべてを破壊する喜びを求める少女と
過去がないために不器用ながらも0から物語を始めていく少女。
3人の飛べない百舌達の一夏の物語。


------------------------- 第1部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
1話「矢尻達真」

【本文】
「矢尻達真」

・矢尻達真は小学校に入るまでは海外にいた。

両親が考古学者のためによく砂漠を幼いながらも渡っていた。

くるぶしまでを完全に埋める砂金の海。

容赦なく押し寄せる熱砂と熱風に体力を蹂躙されていた。

夜は夜で極寒の冷気と猛毒生物が蔓延る、まるで雪原とジャングルが

混ざり合ったような恐怖に怯えながらも体力を回復させないといけない。

親の手を握っていなければ砂嵐の渦に苛まれてそこで生涯を終えていても

おかしくはなかった。5歳になったある日のこと。

ついに転んだ拍子に親の手を離してしまい砂の渦に飲まれ、

気が付けば全然知らない場所まで流されてしまっていた。

見渡す限りの砂金と青空。体を襲うは熱砂、心を襲うは恐怖。

その中でも一人で歩き続けた。

伊達に一日20時間以上も歩き続ける生活を送ってはいない。

体力だけは自信がある。脚力もだいぶ強くなっている。

少なくとも同い年で勝てる相手はいないだろう。

「・・・速く走れば追いつくかも知れない。」

でも、暑いのは苦手だ。だからもう少し日が沈んでからにしよう。

日が沈めば親達も歩みを止める。止まっていれば見つけやすい。

夜通しで走り回ればこの広い砂の雪原でも無事合流できるだろう。

それまでの間岩陰に座って体を休める。

やがて見渡す限りの金色が銀色に輝き出した頃に走り出した。

いつもは全速力で走ってはいけないと注意されていたが

非常事態だ。親も納得してくれるだろう。

「・・・気持ちがいい。」冷風が運動する体を適度に冷やしてくれて心地いい。

これならいくらでも走れそうだった。

だが心地いいことは体力を保てるということではない。

むしろ気持ち的に安楽を感じれば感じるほど体力は奪われていく。

そのため1時間程度走ればもう足が言うことを聞かなかった。

「はあ・・・はあ・・・・はあ・・・・・」

くるぶしまで足が沈む。汗が冷風に煽られ著しく熱が奪われていく。

そしてその匂いに誘われてかコヨーテの群れが近づいてきていた。

犬のような生き物だがれっきとした肉食生物。

飢えたコヨーテから見れば自分はこの上ないほど都合のいい獲物だろう。

迫るコヨーテの群れ。腰に携えたナイフで追い払おうとするも

既に体力はほとんど尽きている。一匹の喉に突き刺しても

勢いは止まらない。その爪や牙で肉を引き裂かれていく。

・・・ここで死ぬのだろうか・・・・?

体力も精神力も限界だ。もはや痛覚さえ感じない。

が、腕から力が落ちると持っていたナイフがコヨーテの首を掻っ切った。

と、他のコヨーテはそれに反応したのかその一匹の死体に

群がり貪り始めた。

「・・・・ああ、そういうことか・・・」

貪ることに夢中なコヨーテの一匹を後ろから刺殺。

これに反応して他のコヨーテがたった今殺したコヨーテを貪り始める。

これを繰り返したことですべてのコヨーテを殺すことに成功した。

その頃にはもう日が昇り始めていた。

コヨーテの肉を食べて体力を取り戻し走り始めた。

先程までのような全力疾走はもう出来ない。

でもゆっくり走ったおかげで1時間程度で倒れることはなく

4時間後に無事両親と合流できた。

それから10年後。中学3年生となった達真は今はもう日本にいた。

小学3年の頃から極真空手を始めて今ではもう全国区の猛者だ。

あの砂漠で学んだこと、それは得意技に頼らず苦手な部分に怯えないこと。

そして使えるものは何でも使うこと。たとえ自らの手足を犠牲にしても。

「今日も頑張ってるな。」「権現堂か。」

朝練。学校の部室でサンドバックを叩いていると友人の権現堂と遭遇した。

権現堂は隣の柔道部の所属で汗を掻いてる所を見るに

自分と同じく朝練をしていて今からシャワーを浴びに行くところだろう。

「・・・俺も行こう。」「ああ。」

それから二人でシャワーを浴びて道着から制服へと着替える。

「しかし達真は相変わらず基礎ばっかりやってるんだな。」

「ああ、奇策や特技はそれだけで相手に対策を与える事になる。

だから俺は基礎を高めて定石を打ち続ける。

誰にも得意も苦手も見せない。」

「なら乗り物酔いも見せてくれるなよ?」

「・・・どうにも自分の足以外で景色が変わることは慣れない。」

部室棟を抜け、自分の教室に向かう。

この中学校はやけにスポーツにこだわっていて26ある運動部の中で

20以上が一度は全国大会に出場しているし卒業生の中には

オリンピックに参加した選手になった者まで何人かいるらしい。

そのためか中学校にしては中々豪華な部室棟がありシャワー室まで用意されている。

ここの出身というだけで高校はもう決まったようなものだった。

だから3年生になっても運動部はどこか余裕があり

朝から晩まで練習を続けていた。

しかし達真にはどこか焦りがあった。なぜなら現在空手部には達真以外に部員がいない。

去年までは1つ上の先輩が8人いたのだが今年はもういない。

そして今年の新入生に期待していたのだが口下手なのが災いして

上手く勧誘活動ができないのだ。

このままでは今年の全国大会は愚か部の存続自体が危ない。

「・・・誰か入ってくれるのはいないだろうか。」

翌日。新入生歓迎の意味も込めて全学年合同で遠足が行われた。

バスで富士山まで行きハイキングだ。

バス21台を使っての大移動。かかる時間は4時間半ほど。

当然車両での移動に不快感を持っている達真は

到着する頃にはエチケット袋5袋を片手で持ってくらくらしながら

専用ゴミ捨て場へと向かう羽目になっていた。

その帰り、前後不覚のまま歩いていると運悪くガラの悪い青年達とぶつかってしまった。

いつもならなんてことない相手だが現在は最悪のコンディション。

やられるままにやられてしまっていた。

が、そこへ一縷の風が吹いたような感じがした。

同時に青年の一人が右方にぶっ飛んだ。

「・・・あれは・・・」薄明の意識の中青年達をなぎ払っていく小柄な少女の姿が見えた。

足運びや繰り出す技から恐らくムエタイだろう。

しかし明らか素人相手に繰り出すにはあまりに鋭く重い攻撃達を繰り出す

その様は正義の味方と言うよりかは戦う力のない無辜の民を蹂躙する

悪魔のような感じだった。

------------------------- 第2部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
2話「最上火咲」

【本文】
「最上火咲」

・最上火咲は家族に恵まれていない。
実の父親は3歳の時に過労死、実の母は火咲を連れてすぐ新しい男と再婚。
そこで4年間過ごすが2番目の父からは性的虐待を受け続けた。
母親は火咲を置いていつの間にか家を出て他の男になびいてしまい、
火咲が5歳の時に新たな子供を出産。
火咲が8歳になる頃には娘への性的虐待が警察にバレて2番目の父親は逮捕。
その後里子に出されて子供に恵まれない夫婦の許に引き取られるも
わずか半年で火咲の妊娠が発覚。DNAを検出したところ検察のミスで
介抱をしていた3番目の父親が夫として扱われてしまい
2番目の母親と大喧嘩して裁判沙汰となり最終的に家庭崩壊。
精神崩壊寸前の3番目の父によって腹を殴られ続けて流産。
母胎が壊れてしまい身寄りのない状態で入院。
その間に3番目の父親は完全に精神崩壊してしまい精神病院に隔離。
2番目の母親は酒に溺れた末に大量の借金を火咲に押し付けた後に自殺。
1年間の入院の後にDNA検察のミスをした検察官に引き取られることになるが
ミスからの失職が原因で危険ドラッグに身を染めていて火咲もまた
その被害に遭ってしまい手首から先に力が入らなくなってしまう。
もはや生きる意味も見い出せずに
車に轢かれて死のうと思って道路に飛び出したところ
ひとりの少年に助けられた。
「どんなに苦しいことがあっても
死んでしまったらもう苦しいと思うことすらできなくなるぞ。」
「・・・でも、もう私・・・」
「何があったのか知らないが死んだらもう何もできない。」
「・・・・・・」
「いくら他人を恨んでもいい。だが自分を恨む必要はない。」
「・・・・・・」
その少年とはそれ以来会ったことはないが
それからは初めての希望が生まれた。
「この憎しみが晴れるまでは生き続けてみよう。」
それ以来4年間ムエタイ道場に通い続けた。
武術の才能はあまり優れている方ではないが自分以外の全てに対する憎しみが
原動力となったのか恐ろしい速度で強くなっていき中学に入る頃には
本場タイの大会でも好成績を挙げられるようになった。
「この手はもう何も掴むことはできないけど。
でも、この手足は何もかも破壊することができる。」
この増長に敢えて溺れることにした。
背はあまり伸びなかったが幼い頃から女としての喜びを覚えていたことで
やけに胸の育ちは良かった。それが男達にはウケがいいようで
街を歩けば不良に言い寄られることもあったがその度に粉砕してきた。
何もつかめなくなったこの手で相手の頭蓋骨を粉砕する感触が
どうしようもなく心をくすぐってくれる。
自分を引き取った元検察官の男は延髄蹴りで半身不随にして
一生病院生活にさせた。今は補助金を受けて一人で暮らしている。
一人は気楽でいい。特に暗くて狭い部屋は陵辱されていた過去を
鮮明に思い出せる。その憎悪が生きる希望をくれるから。
中学生になってからは世渡りを覚えて
学校では静かな優等生として過ごすこととなった。
ムエタイ部はなかったがあったとしてもあまり意味はない。
火咲の技術自体はお世辞にもいいとは言えないが
破壊力は尋常じゃない。人を壊すのには十分すぎる。
そんな自分が部活に馴染む?ありえない。
でもいくら抑えていても2年も経てば学校の男子の間では噂になっていた。
人体を壊して回る小柄な女子がいるって。
それが火咲のこと断定できる男子はまだいないが推定しているのは
数知れずいるらしくこの学校の男子の間では身長140センチ未満の女子には
関わらないほうがいいという暗黙のルールができているみたい。
そのおかげか最近は少し振るえずに不満である。
3年生になった。
4月。どうやら受験というのがあるらしいが
自分にはあまり関係ない。無駄に成績優秀になってしまったせいか
学校側で既に推薦がされているみたいで国立高校3つの中から
自由に行きたいところを選べるそうだ。
どうやら東大卒の実父の血が強く出ていたようだ。
・・・もう顔も覚えていないけど。
「最上さん、隣いいかな?」
「・・・構わないけど。」
バス。
隣に女子生徒が座る。確か委員長になった穂南紅衣だ。
自分と比べれば胸は寂しいが年頃らしい富んだ体格。
本当の優等生というのはこういう子のことを指して間違いない。
「でも、私に関わって平気?噂になってるでしょ?私は・・・」
「関係ないよ。昔のことなんて。大事なのは今!なんだからね。」
「・・・・・変な子。」
「え、そうかな?」
「・・・・ふふ・・・」
そう。
この子の言うとおりだ。過去なんてもうどうでもいい。
確かに4年間も下半身に激痛と快楽を送られ続けて慣れてしまったせいか
最近は寂しいけれど今となっては相手を蹂躙して粉砕する感触が何より嬉しい。
それに昔はただ男達は自分の体を肉便器としか思っていなかっただろうし
そんな風な扱いしかされなかったけど今では国立高校に認められるほどの
好成績を収められるし街の不良達じゃ束になっても敵わずに
皆一様に赤い海の中に倒れこむ。
この下克上は快感だ。
それに最近は恋愛にも興味が湧いてきた。
4月に入って上玉も見つけられた。何回かアタックもしてるし。
今でもあの顔を見るたびににやけてしまう。
バス車内でなければ自慰してしまうほどにくすぐられてしまう。
バスに揺られる4時間は穂南さんの話を半分に聞きながら
21台のバス群のいずれかに乗っているあの子に思いを馳せていた。
やがてバスから降りるとクラス1の大柄である権現堂が
やはり大きな声を出しながら友人らしき男子に何やら話しかけていた。
どうやら酔ってしまったらしい。
弱者を狩る趣味はないからどうでもいいけれど。
「ねえ、あれ危ないんじゃない?」
「え?」
穂南さんの声。
見れば先ほどのバス酔いした男子が不良5人に絡まれていた。
一方的にボコボコにされてる。
でもあの打たれ強さは恐らく素人ではない。
バス酔いしていなければ相当に強いはずだ。
だからアピールも含めてそして本来の虐殺快楽を求めて
不良達へと飛び込んだ。この膝は弾丸のように不良の脇腹を穿ち、
反対側の脇腹から内臓が飛び出ながらその不良が同じ方向に飛んでいく。
着地と同時に力の入らない両手を鷹の爪のように振り回して
一番近くにいた男の股間を両手首で握りつぶして
昏倒したその男を廻し蹴りでぶっ飛ばす。
舞うようにそのまま後ろに居た3人の足を粉砕し、倒れたら頭蓋を踏み潰す。「・・・ふう、」12秒で5人の虐殺を終えた。
久々の快楽で気持ちよくてちょっと濡れちゃったかも。
「・・・・・・・」
「・・・ん?」
視線を感じる。さっきまで襲われていた男子。
確か矢尻と言った。
「お前、」
「何?」
「すごくいいな。・・・恋しそうだ。」
「・・・・は?」
なにこのゲロ&血まみれの男子。今なんて言ったの?
「・・・おいおい、」
「・・・・え、え?」
ギャラリーが湧いてしまう。
かなり目立っちゃってるし。
あまり喝采を浴びるのは好きじゃない。
だからその場から逃げ出した。

------------------------- 第3部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
3話「リッツ=黒羽=クローチェ」

【本文】

「リッツ=黒羽=クローチェ」

・そこは陽の光さえ届かない闇のどこか。

視力には何も映らない。

聴力では同じ空間にいる少女たちのかすかな息遣い。

嗅覚としてはおおよそ自然界では発生しないであろう薬や器具の匂い。

リッツはそこにいた。

いつからいたのかは分からないしいつまでいるのかもわからない。

ただこの場にいる少女達はいずれもただ一人だけの完成品のために

生まれ落とされ育成され部品としてのみ生命を許されている。

その完成品が一体何のために作られるのかはわからない。

ただ少女達に許されたのは彼女の部品になることだけ。

自分に与えられた名前は黒羽律。

何故かは分からないがここにいる少女達は

みんな苗字に羽という文字が入っている。

「はあ・・・・はあ・・・・」

本日与えられた命令はサンドバッグを蹴り続けること。

どうやら脚力検査らしい。

ここで一番の足が完成品の彼女に与えられるのだろう。

隣をちらりと見る。自分より頭一つ分背が低い少女。

たしか与えられた名前は白羽睦月。年齢は変わらないはずだが

性能を求めすぎたために身長が低いことになってしまった。

今この場にいる少女達の中で一番脚力がある。

サンドバッグの揺れ幅も段違いだ。

今日この実験は彼女の足の見定めだろう。

部屋の外にいると思われる研究員がモニターで計測している。

彼らにとっては少女達は完全に部品。

だから服も着せずに文章だけで実験を与えている。

先月頃に酒に酔った研究員の一人が少女達の一人をレイプしたそうだ。

少女に否定権はない。

いや、否定という発想自体がない。

ただされるがままに体を踊らされた。

しかしここでは部品交換以外で少女に触れることは許されていない。

次の日にはその研究員は洗脳処置を施された上で少女達の

実戦実験の対象物として48時間殴られ続け最終的には絞りすぎて

ボロボロになった雑巾のような姿となって別の研究員に運ばれていった。

ここにいる少女達に戸籍はない。みんな人の姿をしているけれど

中身まで一緒とは限らない。少なくともそれを知る術はない。

律に与えられた役目は恒常性。

研究によればこの体は時間制限があるものの

常に100%の性能を発揮できるように調整されているらしい。

多分これも性能テスト。

時が来れば完成品である彼女にすべて明け渡される。

でもそれに疑問も恐怖もない。

そういう風に設計されているから。

「今日からお前はリッツ=黒羽=クローチェと名乗れ。」

所長からの命令。返事はする必要がない。だって意味がない。

それから私は暗闇の研究所からトラックで輸送された。

その間に催眠学習で日常を学んだ。

これから行く場所は中学校という学習施設らしい。

そこで1年生として入学する。白羽睦月の両足が完成し、

彼女の足となるまでの間に恒常性能のテストと日常生活を学習。

そこから彼女に移植して

黒羽律・・・リッツ=黒羽=クローチェの役目は終わりだ。

そうなるはずだった。

でも、その時はいつまで経っても来なかった。

風の噂に聞けば研究所が発見され完成品の彼女が没収されたそうだ。

これでは役目を果たせない。

けど言われた指示通りに動くしかなかった。

4月。指示通りに中学校に入学する。

住居は事前に用意された小さな家。

飲食は必要がない。

ベッド式のメンテナンスマシンに入って3時間眠れば21時間分は

100%の活動が保証される。

とは言えこの生活も長くは続かないだろう。

このメンテナンスマシンは機密保持のために

年に一度パスワード認証しないといけない。

自分にはパスワードは教えられていない。

だから多分自分の寿命はあと1年間。

それまで何をしていればいいのだろう。

「・・・・・・・・・・・。」

学校の廊下を歩く。

まずは校舎内の確認と記憶をしておこう。

「・・・・・・・・・・・・・。」

とりあえず背後からする異様な気配はなんなのだろうか。

そっと後ろを向くと何やら背の低い少女が尾行していた。

多分漫画とかだと目がハートか星になっているだろう。

胸のバッジを見るに3年生らしい。

背丈は多分140行っていない。

何か自分に用があるのは間違いないだろうが

とても話しかけていい雰囲気ではない。

というか普通に怖い。

何あの人。とりあえず動きがあらゆる意味で尋常じゃない。

リアルTASかってくらい無駄がない。

それに何故かあの人が動くたびに周囲の男子が走って逃げ出している。

たまに1年生らしき男子が近寄ると目にも止まらぬスピードの

肘打ちが顔面を直撃。窓を突き破って4階から落ちていった。

素人目から見たら勝手に男子が自分から吹っ飛んで行ったようにしか見えない。

そしてあんなのに嬉々とした表情で尾行されている自分。

追手?変質者?それとも睡眠学習に失敗して実はあれが正当な女子生徒?

「・・・・・・・」

とりあえず走って逃げる。

身体能力では生身の人間には負けない程度の性能はある。

そのはずなのに足を止めて後ろを見ればさも当然で平然のように

彼女はいた。恒常性を与えられてる自分ならともかくどうして生身の彼女が

息も切らさずにこの動きについてこれるのだろうか。

「・・・・・」

試してみたくなった。

全性能をフル稼働して逃げ回る。

100メートルの廊下を6秒で走り、3メートルある階段をひとっ飛び、

3階の窓から飛び降りては

そこから300メートル離れた女子トイレへと17秒で向かい、

個室に突入する。これでも撒けていなかったらあれは妖怪だ。

そう思っていた。

「はい、こんにちは。」

「・・・・・・・」

背後。声。先ほどの少女が個室に先回りしていた。

・・・この人、妖怪どころか仏の一種なのだろうか?

「・・・私に何か用・・・ですか?」

「ううん、別に✩」

「・・・・」

どんどん声が潤ってる。っていうかさりげなく後ろから腰に手を回されてホールドされてる。

背丈に合わない大きな胸の柔らかい感触

・・・とちょっと硬い先端の感触が

腰に押し付けられている・・・だけじゃない!?

自分のお尻のあたりに股間を押し付けてきている。

ちょっと水音までしてるんですけど・・・・。

「あの・・・離して欲しいんですけど。」

「えぇ~?」「・・・・」

脳内CPUを検索。ヒットしたのはただ一つ。

これは妖怪でも仏でもない、レズという生物だ。

結局それから1時間はホールドされ続けた。

・・・多分彼女はその間に4回はイってた。

お尻についてた液体がそれを物語っている。

とりあえずこの人には近寄らないほうがいい。本気で怖い。

それから女子トイレを出て廊下を歩いていると一人の男子生徒とすれ違った。

「・・・・・・・・」「・・・・・・・」

ひと目で分かった。この男とは絶対に馬が合わない。

次に会った時はきっと命を取り合う時なのだろう。

それは恐らく相手にも伝わっている。

だからこの時は立ち止まりもせず言葉も発さずにすれ違いそのまま去っていった。

------------------------- 第4部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
4話「ハイキング」

【本文】

「ハイキング」

・4月下旬。富士山麓。
バスでやって来た21クラス840人の中学生達。
「・・・・・・・。」
リッツは異常な程周囲を警戒しながら登山していた。
「どうしたの黒羽さん?あ、クローチェさんの方がいいかな?」
「どっちでも。」短く返事をする。
そして周囲に敵も妖怪もいないことを確認するとそれでも気を緩めずに
クラスの仲間のあとを付いていく。
最初は運動部が多いからか2時間の登山から始めて1キロにある
キャンプ場で昼食をとるのがスケジュールだ。
3年生から順番に登山を始める。
既に3回目のため多くの生徒は楽観して登山をするのだが
妙に足運びが悪いのが2名いた。
「・・・・・・・」
「・・・・・・」
達真と火咲。同じ班になったのだが互いに何も喋らない。
「えっと、何かあったのかな?」「・・・ま、まあな。」
同じく班員の権現堂と穂南が顔を見合わせる。
あの告白の後二人は何も言葉を交わさない。
元々互いに名前も声も顔も知らない仲だったが
あの告白ゆえにさらに距離が離れているようにも見える。
「・・・・・・・・」
達真は思い出す。あのムエタイの鮮やかさを。
中庸を心がける自らの戦術ではありえないあの破壊力。
嬉々として人体を破壊し殺戮したのは少し疑問だがそんなことは軽い。
ないに等しい。実際に火咲は現場からさっさと逃げてしまったために
あの不良達は車にひかれて死んだことになった。
すっかり体調と体力を取り戻した達真が火咲の姿を探していると
偶然同じグループになっていたという形だ。
言葉をかけないのは羞恥からではない。
普段の彼女には何の魅力もない。少し胸がでかいだけのチビだ。
他の男子から見れば魅力なことこの上ないのかもしれないが
生憎と自分には魅力を感じない。
他の女子よりかは可愛い部分もあるかもしれないがそれ以上の心はない。
ただ、いつか近い内に一騎打ちで勝負をしたい。
あの目立つだけの胸を殴り破いて肘膝(ぶき)を粉砕したい。
異種格闘技にも興味はあるがそれ以上に強敵との相手は久しぶりだ。
いつでもいいができるだけ早く手合わせを願いたい。
「・・・・・・」
対して火咲の方は当然のように感想は悪いものだ。
最初は素人ではない、壊しがいのある男子だと思った。
偶然体調が悪いだけでそれでも自分のような殺人鬼を見れば
無様に歯向かってくれると思った。
それなのに告白?愛せそう?気味が悪いったらありゃしない。
せっかくの挑発(ポーズ)もチャームに映ってしまうほどの大鈍感男。
これでは粉砕する価値もないし一気に興味も失せてきた。
大幻滅。これだから男って奴は下半身だけの生き物なんだ。
と、こんな両者に挟まれている2名は中々に気まずい。
「・・・あ、」
道を歩いていると火咲が水筒を落としてしまう。
しかし何故か拾おうとはしない。
咄嗟に達真が拾おうとするとすごい目で睨まれた。
「えっと、最上さん大丈夫?」穂南が拾い、火咲に手渡す。
「・・・ありがと。」
「ううん、何かあったら言ってね。」
火咲はやや照れながらも先行。逆に穂南は後方の達真に向かう。
「最上さんは手首から先に力が入らないの。
それに先生から聞かなかったの?過去に養父から虐待を受けたって。
それ以来男の人が苦手なんだよ、多分。」
「なんだ、レイプされたのか。」
「・・・・っ!!」
その発言に火咲が足を止めて踵を返す。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・えっと、」
穂南をはさんでにらみ合う両者。
挑発。すぐにでも戦いたい。握力に問題があるなら風上を譲ってやる。
逆上。レイプされた?処女を虐殺された?何て無神経な言葉遣い・・・・!
一触即発の二人。冷ややかな笑みと期待の眼差しの達真と、
血管が切れそうなほどに怒りをあらわにする火咲。
「も、もう!矢尻くん!そんな失礼なこと言っちゃダメだよ!
最上さんも落ち着いて!ね?ね!?」
必死に取り繕う穂南だが両者の視界には入っていない。
「達真、」
しかし権現堂が達真の前に立つ。
「・・・・」
「お前の気持ちはわかるが今は抑えるといい。
そんな安い挑発で相手を刺激するのはお前らしくない。
相手に得意も苦手も見せないお前の余裕はどこに行ったんだ?」
「・・・・そうだな。少し焦りすぎていたようだ。先を急ごう。」
「・・・・・」
火咲の横を無表情で通り抜ける。
火咲もまたその背中を見て感情を
因果地平の彼方へと突き放して登山を再開した。
それからは何事もなくキャンプ場に到着して昼食の時間となった。
既に予約がしてあり中々豪勢な山の幸が目白押しだった。
「・・・・・」
そんな中その山の幸には目もくれずベランダに移動するのが二人。
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
達真とリッツ。
互いに存在に気付いていながらもしかし背中を向けながら
正反対の方向にいる。
達真はポケットからカロリーメイトを出して口に運ぶ。
使用していない方の手はいつでも出せるように集中している。
対するリッツは全殺気を背後に放ちながら山麓の景色を目に入れている。
やがて妙な気配を感じた達真が部屋に戻る。
不審に思うリッツだが次の瞬間違和感が下半身を襲った。
「スベスベ・・・スベスベの処女・・・」
「!?」
妖怪だ。レズ妖怪だ。完全に気配を殺して足にまとわりついて
股間を指でなぞっていた。
いや、年齢からすればそりゃ高確率で処女なのは推測できるだろうが
どうして下着越しに触るだけで処女膜の有無を確認できるのだろうか。
いや、そうじゃなくて・・・。
「・・・・・・・・先輩、何してるんですか。」
「りっちゃんをイかせようとしてるの。」「りっちゃんって・・・・」
変なあだ名を付けられてしまった。というかどうして名前を・・・?
しかしこの人の指テクは凄まじい。
咄嗟に性感刺激をカットしておかなかったら
この場で醜態を晒すところだった。
・・・いやカットした今でも何故か違和感を感じるのだけど。
「りっちゃんは変な男とかについていかないでね。」
「・・・あなたに心配されるまでもなく
私は男遊びをするつもりはありません。」
「だよね!だから私と女遊びしない?ってかしよ?今すぐ!ね?ね!?」
「そっちの気もありません!」
「だって~りっちゃんさっきあの男といい雰囲気だったし~」
あの殺気と殺気のぶつかり合いで
殺伐とした空間をいい雰囲気と感じるのか。
「そんなつも・・・」
「大丈夫。りっちゃんがどうしてもって言うなら私があの男を殺すから。」
「・・・・・・・・」今随分と物騒なことを言わなかっただろうか?
そりゃあれだけ凄まじい意味不明スペックを
使えばあの男も殺せるだろうが・・・。
「余計なお世話です。あれは・・・いつか私が倒しますから。」
それだけ言って部屋に戻っていった。
「・・・・あの男、りっちゃんにまで迷惑かけてるんだ。
その暴挙、軽く許せない。」無意識で放った膝が手柵を粉砕する。
そして殺気を押し殺しながら部屋に戻っていった。

------------------------- 第5部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
5話「因縁」

【本文】

「因縁」

・ここは町にある極真空手道場。
達真が6年間通っている場所でもある。
当然既に黒帯3段。指導員免許も持っていて毎週月曜・火曜・木曜を担当している。
どうして空手を始めたか。
確かに最上火咲のようにムエタイでもいい。
もともと軍用武術だ。その実践性や破壊力は抜群だ。
あの女はそれを最大限使って人体を粉砕している。
けど破壊力に特化しすぎていてはポリシーに反する。
なら権現堂のように柔道を?確かに柔良く剛を制すという言葉がある。
だが柔術は格上の相手には通用しない。
あの砂漠で左手の腕力が2割削られ左利きから右利きに代入した自分では
自分より大柄な相手を投げるのは無理だ。才能もない。
カロリパヤトゥ道場という珍しいものもあったがヨガはよくわからなかった。
ボクシングじゃパンチに偏りすぎるしキックボクシングになっても
あそこまで体重を絞っては体力もそれなりに落ちてしまう。
テコンドーをするにしては少々足が短い。
結果悩むに悩んだ末に汎用性を求めて空手をすることになった。
才能が有るとは言えなかったが努力に努力を重ねて3年で関東大会を優勝した。
翌年には全国大会に出場、
未成年の世界ランク6位という仰々しい称号を得た。
去年は諸事情あって出られなかったが今年は参加する予定だ。
2年前は同じ関東出身で3つ年上の男に敗れてしまった。
本名は覚えていないが
たしか巷では拳の死神とかふざけた名前で有名だった気がする。
その男も噂に聞けば右足を損傷して一線からは退いたらしい。
勿体無い。
去年もし出られたらリターンマッチができたかもしれないのに。
・・・ifは必要ない。やめておこう。
「失礼します。」
道場へと入室する。
「ん?」挨拶に応じたのは見覚えのある後輩だった。
三箇牧巻太郎。2つ年下でかつての弟子。そして今はライバルでもある。
「お前、担当は水曜と金曜じゃなかったのか?」
「ああ、今週水曜は用事があって来れないから今日はその代わりだ。
連絡網来なかったのか?」
「ああ。」
この男とは考え方が違う。
何となくあの拳の死神と同じ思考回路をしていると思う。
敢えて自分を逆境に追い込んでから一気に逆転して勝利を掴むタイプだ。
奇しくも拳の死神と同じく右足を損傷していてそれを撒き餌にしている。
去年その考えた方の相違が原因で決別した。
・・・とは言え互いに指導員。いわば大人だ。
公私の分別は弁えているつもりだ。
少なくとも小学生の教え子たちがいる前では喧騒の素振りは見せない。
とは言え格も年齢も2つ上の達真相手にタメ口を聞いているということで
ある程度推測している勘のいい生徒もいるようで
なんとなく空気を読んでは周りを律してくれる。
「ってわけで今日は俺の道場だ。あんたは明日から三日間やってもらう。」
「・・・分かった。」それだけ言って仕方なく道場を出ていく。
しかし、これでやることがなくなってしまった。
持久走でもしようかと思ったが生憎の空模様だ。
幼い頃長い間雨など降らない砂漠にいたからか未だに雨は物珍しい。
それにあまりいい思い出があるわけでもない。
さっさと帰ろうとしたが水の匂いに紛れて妙な匂いが風に混じっていた。
「・・・裏路地?」普段寄り付かない建物と建物の間にある裏路地。
大体は換気扇や空調の管や機器が置かれている狭い通路。
雨日和だからか余計に人の寄り付かない場所だ。
だが今日はそこに人はいた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」見覚えのある顔。
最上火咲だ。しかしその姿は凄惨だった。
それは今から15分ほど前。
いつもどおり不良を虐殺しようと裏路地に回った火咲。
だが今日は都合が悪かった。10人いた内6人は虐殺したが
そこで運悪く落雷により電線が切断。
火咲の側に落下、足元を滴る血液を通して火咲は感電。
手足が動かなくなってしまったところ残った4人に鉄パイプで
ひたすら殴られた挙句輪姦され体力を大幅に奪われた。
「・・・・・・・・」服を引き裂かれ股間に夥しい量の精液を溢れさせて
物言わず虚空に焦点を泳がせるだけの最上火咲が倒れている。
無様だな。だがその醜態は悪質的に男としての心をくすぐった。
バカなことをと思いながらも倒れて動かない火咲に跨り
いきり立った己を突き立てて腰を前後。
不良の惨殺死体に囲まれながら雨の中で言葉も交わさずに陵辱。
2発ほど彼女の中に解き放つとそのまま彼女を見捨てて立ち去った。
それから1時間。火咲は意識を取り戻した。
「・・・・・・」なんだか股間に快感がある。
精液がたくさんまとわりついていた。へその下が重たい。
多分結構な量中出しされた。もう母胎が死んでるから妊娠することはないけど
あまりいい気分ではない。しかしそれよりも自分の体には
醜いあの男の匂いが残っているような気がした。
「・・・あいつ、私をレイプしたんだ。」
引き裂かれた衣服を脱ぎ捨てて全裸を雨の中に晒す。
伸びをしてあくび。それから小さく笑って惨殺した不良の制服の上と下を
盗んで着込み笑いながら雨の中走り去っていった。
翌日。まだ雨が降り続ける窓を見ながらの最上火咲の姿を見て
教室に入ったばかりの達真は驚愕した。
あのような無様を晒しておきながら生き長らえているのかコイツは・・・。
無言のまま自分の席についた。
「最上さん、そこら中傷だらけだけど大丈夫?」
「うん、大丈夫。」「・・・えっと、何か嬉しいことでもあったの?」
「ううん、別に。」しかし声は嬉しそう。
尻目にあの男の姿を見る。
ここからでは角度的に背中しか見えない。
こないだは愛せそうだなんて言っておきながら私をレイプしたんだ。
私に反逆したんだ。あはっ、見直しちゃったなぁ。
それから授業中密かにプリントの裏紙にメッセージを書いて
あの男の下駄箱に届けた。
放課後、達真が靴を迎えに来るとメッセージに気付く。
今日配られた体育祭のプリントの裏に書かれた文字。
「私、美味しかった?」「・・・・!?」
たったそれだけで大体の情報は推測できた。
なんだあの女は?異常すぎる。
「・・・あんな汚くて味のないものなど誰が好むか。」
プリントをクシャクシャに丸めて投げ捨てた。
その様子を後ろから見ていた火咲は密かに、しかし激しく興奮していた。
なんてご褒美!腐ったゴミかと思えば雨に濡れただけで
息を吹き返し素晴らしく太ってくれるとはなんてブロイラー!
いつ来るかわからない収穫の時期もこれではそう遠くはなさそうだ。
一方、その様子を更に遠くから見ていたリッツ。
「・・・・妖怪が腰を振っている。あれは危険すぎる。」
その後昇降口で拾ったプリントの文面から状況を察した。
「・・・・理解不能」
近くの3年生にそれを渡すと同じように学校を後にした。


------------------------- 第6部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
6話「体育祭・前準備」

【本文】

「体育祭・前準備」

・5月。体育祭が月末にあるこの一ヶ月は
その練習のために朝練や放課後練習などで忙しい。
「ぬおおおおおおおおおおおあああああああああああ!!!」
権現堂が綱引きで一気に3人の男子を釣り上げる。
対して達真は持久走に出場する予定だ。
3000メートル持久走。どのクラスもこれに参加するのは
罰ゲームの一種のようなものだったが
達真は3年連続で自ら立候補している。
得意を見せないスタンスだが
しかし時にはやっておかねば得意も鈍ってしまう。
このために朝練では毎日外周、一周2キロを1時間ずっと走っている。
8キロ走っても息ひとつ切らせずに教室に戻ってくれば
つくづく他の男子からは怪物扱いされる。
「空手よりもマラソンの方が向いてるんじゃないのか?」
よく言われる。だけど得意を武器にはしたくない。
それに全然本気は出していない。道の整った公道などくるぶしまで
埋まる砂漠に比べれば全然足ごたえがない。
5月の気温は28度だが40度を超えても珍しくない砂漠に比べれば
少し肌寒いほどだ。
「・・・・・・」
ちらりと女子側の練習風景が視界に映りこんできた。
委員長の穂南が指示をして女子一同まとまって練習している。
ただひとり、最上火咲はひどく不満足そうな表情をしていた。
どうやら周囲にはあの日だと言って休んでいるようだが
協調性がないのは当然に見て取れる。
・・・子宮もないくせに月経など笑わせる。
しかしその視線の先にあの気に入らない1年生を発見すると
地面が爆発するほどの踏み込みで200メートルを数秒で
走り抜けて標的を拉致り去っていった。
・・・ムエタイ屋が震脚を使うな。
少しペースが速くなる。なるべく動揺を殺しながらペースを戻す。
それから練習を終えてシャワー室で汗を流し制服に着替えて
教室に戻る。同時に何かが高速で飛んできた。
「・・・・くっ、」一人の男子生徒。
たしか今年からこの学校に転校してきたという末原だ。
しかしやけに顔が崩れている。よく見れば顎が砕けている。
その衝撃で頭蓋骨の一部が脳天から突き出ている。
「はぁ・・・。つまらない。」声。
「よりにもよってこの私を好きですって。
信じられない、
あなた達に与えられたのはこの手足を濡らす血となることだけなのに。」
「・・・・・・・・・」
教室の奥には最上火咲がいた。
膝についた血液や言動からも間違いなく犯人はコイツだ。
現在教室には血だらけで倒れている末原を除いて
達真と火咲しかいない。
「その点、あなたは中々よかった。
雨の中チンピラ達に襲われてさらに感電している私を
さらにレイプしてくれる男子なんてそうそういないわ。
それに素人じゃない。なんて壊し甲斐があるのかしら。」
饒舌に、情熱的に、嗜虐的にその女は語る。
達真は何も言わずにその殺気と狂気を真っ向から受け止めている。
「あの時のお返しをするよ、私はあなたを愛してるほど壊したい。
私のほうが壊れちゃうほど愛しちゃいたいほど壊したい。
でも、この告白に応えようものなら意味もなく圧殺しちゃうくらい
物足りない。幻滅よ。踏み潰す価値もない。」
今にも自慰を始めそうなほどの恍惚とした表情から一変して
憎悪の仮面を被ったような無表情になる。
対して達真はその存在を無視するかのように末原の方へ向かう。
まだなんとか息はある。今から病院に運べば助かるかも知れない。
「無視するのは好きじゃないかも。」
「悪いがキチガイを相手にするのは懲り懲りなんでな。」
「そんなに勃起しておいてよく言うね。
あなたは汎用と中庸を取り繕っていながら私のような異端の破壊者を
射精しちゃいたいくらい好んでいる。
得意も苦手も見せないと言いながら所詮男子中学生。
私の胸にも膝にもに肘も性器にもどうしようもないくらい魅了されている。
どんなに平静を気取りながらも自分の心をくすぐるものには逆らえない。」
「・・・・・・・・」
「でも私的にはまだ貴方を殺すには時期尚早。
もっと、もっと、もっと、もっともっともっともっと熟してから
一撃で粉砕したい。だから今度の体育祭の男女混合障害物競走で
私と勝負(デート)させてあげるわ。」「・・・!」
その言葉にまた股間が疼いてしまう。
「あはっ、本当におかしい人。そんなに反応していながら、
目の前に解き放つための肉便器があるというのに
それに背を向けるなんてあなたってば本当にドМさんね。」
「・・・・・・・」これ以上交わす言葉はない。
興奮を抑えるためにも末原を抱き上げてから急いで保健室に走った。
本当に一体何なんだあいつは。
本当に狂っている。もう取り返しのつかないほどに。
だが、男女混合障害物競走。そこで一区切りが付きそうな気がする。
その後ホームルームでの出場競技調整の際に
男女混合障害物競走に達真と火咲が同時に参加を表明した。
同じ頃。1年のクラスではリッツが出る種目に迷っていた。
「お前、何か興味ないのか?」三箇牧がお節介を焼く。
とは言うものの参加種目が決まっていないのはもはやリッツだけだった。
「・・・別になんでもいい。」
「なら俺と一緒に男女混合障害物競走に参加な。」
「・・・分かった。」リッツは参加を表明した。
その日の放課後練習。
早速リッツと三箇牧がペアを組んで練習に励む。
とはいえ本番ではペアではなく個人同士の潰し合いだ。
しかし練習では他の全員はそれぞれ自分の個人種目の練習で忙しいため
必然的に余ったこの二人で練習するしかない。
「・・・・」「どうした?そんなにキョロキョロして。」
「いや、いつもならこの時間帯には妖怪が襲来してくるから・・・」
「?何じゃそりゃ。海外ではそういう遊びが流行ってるのか?」
「・・・誰かと一緒ならあれは来ない・・・?」
ひどく周囲を警戒しながらも練習を続けた。
一方。
屋上では数人の男子生徒の残骸を椅子に火咲が校庭を見下ろしていた。
「何だかとっても面白いことになってるかも。」
夕焼けと向かい合いながら血と愛液の混合液を口元になぞり微笑む。

------------------------- 第7部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
7話「体育祭・男女混合障害物競走」

【本文】
「体育祭・男女混合障害物競走」

・そして5月末日。ついに体育祭の日がやってきた。
部屋で制服に着替える達真。
もしかしたらもうここへは戻ってこれないかもしれない。
今から向かうのは今まで通ってきた平穏な学び舎などではない。
下手をすればあの砂漠よりも死に密接した魔窟かもしれない。
そこで待っているのはコヨーテのような猛獣などではない。
そんなもの愛玩動物でしかないような奇々怪々の怪異か死神か。
「・・・・さて、行くか。」
しかしそんなものは関係ない。いつかは挫かなければ命が危ない。
そのいつかが今日になるというだけの話だ。
だから淡々と学校へと向かった。
800人以上の学生が参加する体育祭。
体育会系のある意味エリートな生徒たちの
それはある意味オリンピック以上に富んでいる。
実際オリンピック各種目の監督達が視察にやって来るレベルだ。
今日もサッカー、マラソン、柔道、バレー、バスケの
国際クラスの監督が見に来ている。
選手宣誓はもはやオリンピックのそれに近しい。
準備体操はなく、それぞれに一任されているためいきなり種目が始まる。
1年生の100メートル徒競走と
2年・3年生の3000メートル持久走が同時に行われる。
東京ドーム並みかそれ以上の敷地がある
校庭が2つあるからこそ出来る工程だ。
「・・・・・・・・」
達真は当然これに参加するのだがしかし意識はそこにはない。
こんなもの準備体操にもなりはしないし調整にもならない。
「・・・・・・・・・」
客席から顔を覗かせるあの悪魔のような売女の殺気の方が重要だ。
それに注意を払いながらも当然のように3年連続で一位をとった。
そして毎回同じマラソンの名門監督からは声をかけられるが相手をしない。
「・・・ふう、」ここから午後までは一切出る種目がない。
道場にでも行ってアップをしておこう。
それにすれ違うように権現堂が綱引きに参加する。
「うおおおおおおおおおおおああああああ!!!!」
身長187センチ、体重94キロ、
握力165キロの超人的ヘビーボディを
存分に発揮して一般男子の5倍強の活躍を果たした。
こちらは既に1年生の時に世界柔道の監督に認められていて
中学卒業と同時にオリンピックのための学校に通う予定だ。
それから個人種目に参加しない学生による組体操やらリレーやらが
行われ昼休みをはさんで午後の種目だ。
「・・・いよいよか。」食事をせず水分補給だけ済ませて達真が
校庭へと向かう。隣には火咲。後ろの方に三箇牧とリッツがいる。
この男女混合障害物競走は1000メートルの距離に散りばめられた
障害物の海を参加選手42人同時に走り、先着5名が表彰されるものだ。
この種目にはレスキュー隊員も視察にやってきている。
乱闘も予想されるため医療班はいつでも対応できるように準備している。
「ここで恥をかかせてやるぜ。」
「やってみろ。だが今日はお前に用はない。」
三箇牧を尻目に火咲とリッツに注意を送る。
「あぁん!りっちゃん。おんなじ種目に出られるなんて感動~!!
全障害物にりっちゃんの愛液をばら撒いてあげるね!」
「・・・・全力で棄権したいんですが・・・・」
「でもでもぉ~りっちゃんだけに構ってはいられないの。
りっちゃんも知ってるあの不遜な男を
今日は可愛がってあげないといけないの。」
「・・・別に、あげますよ。あんな男。」
「うんうん。
拗ねなくてもちゃんとりっちゃんとレズレズする分は残しておくからね。」
「・・・・・・・はぁ。恨みます、三箇牧巻太郎。」
それぞれの開戦前が過ぎていく中ついに戦いの火蓋が切って落とされた。
「ふふっ・・・!!」
「いきなりか・・・!!」
火咲の信じられないスピードの膝が達真の右足に迫る。
それを跳躍して回避。
そのまま最初の難関である跳び箱のブロック山に突入。
5段から11段まである無数の跳び箱を跳びながら進んでいくのだが、
火咲はそんなことお構いなしに跳び箱の山を粉砕しながら迫り来る。
その破片が他の選手の体に突き刺さり何人かがリタイアした。
「・・・何だあのおっかない奴は・・・」
「・・・関わらないほうがいい。あれが妖怪だから。」
三箇牧とリッツは少し離れたところで競技に参加。
跳び箱の山岳を突破したら
今度はプールの上を少ない足場で超える第二難関だ。
「くっ、」
「あははは!!」
達真の立つ足場を火咲が踵で粉砕する。
咄嗟に達真は水面に着地して着水前に水上を走り抜ける。
「あんなことができるの・・・!?」
粉砕された足場だった欠片に
着地してそこからひとっ飛びで一気に対岸まで移動する。
ふたりの対岸到着はほぼ同時。
よって互いの拳が同時に放たれて空中で激突。
次に廻し蹴り同士が火花を散らす。
やはりパワーはあちらの方が圧倒的に上。
このまま激突を続けていれば競技どころか体が壊れる・・・!
放たれた膝を受け止めてその小柄をプールに投げ飛ばす。
「ふふ・・・」
それを偶然プールエリアを越えようとしていた
男子生徒の体の上に着地。跳躍の際の震脚で両方を粉砕して
超スピードで達真へと向かってくる。
そのまままるで砲丸のような膝を達真の顔面に目指す。
「くっ、」達真はそれを廻し蹴りでギリギリ受け流す。
そのまま第三エリアである濃霧木人拳に突っ込む。
人口濃霧で視界を遮られた上狭い通路には無数の木人が
立ち並ぶ第三の難関。普通に入ればわずか20メートルしかないのに
3分はかかってしまうだろう。
だがおそらくあの女は破壊しながら来るだろう。
ならばこそ・・・・!
「あははははは!!」
目論見通り木人を粉砕しつつ濃霧の中を走り抜ける火咲。
達真は木人の頭を足場にして狭い通路故の短間隔壁を開脚して空中固定。
そのまま標的が下を通過するのを待つ。
「・・・・かかった・・・!」
そして通過すると同時に足を閉じて落下。
「!」
「せっ!!」
墜落寸前に両足を火咲の首に引っ掛けて
そのまま空中回転。
自分が墜落するより先に火咲を頭から地面に叩きつける。
「・・・・くっ!!」木人の残骸の中に沈む火咲。
やがて立ち上がると当然頭からは流血。
赤い毛髪と同化してまるで毛髪が増えたようだ。
「さっすがぁ!ここで殺そ。」「怪物が・・・・!」
先ほどの数倍のスピードで放たれた肘をバックステップで回避、
そのままエリアを走破する。
第四エリアの砂場道。そこは多くの生徒にとってはひどく足枷になるが
達真からすればホームグラウンドに等しい。
よって他を寄せ付けないスピードで走破。
火咲は足を砂に取られて200メートルは背後に居る。
あの女は肘しか手が使えない。だから受身は取れない。
なら投げ技が有効か・・・。
けれど対策を見せてしまえばすぐにその対策をとられる。
やはり自分のスタイルに足りないのは
一撃で相手を粉砕する破壊力か・・・!
対策を考えつつ次のエリアへと向かう。

------------------------- 第8部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
8話「Skat」

【本文】

「Skat」

・男女混合障害物競走は続く。
競技時間はまだ180秒。既に脱落者は20名を超える。
今のところ1位2位は第七エリアを走っている。
3位は達真で第五エリアに突入したところだ。
第五エリアはまず階段を昇り地上10メートルまで上がってそこから
対岸までの100メートルを綱渡りするエリアだ。
「・・・ん、」
階段を上ろうとするとそこへ三箇牧がやってきた。
「勝負!」「いいだろう、休息してやる。」
二人同時に階段を駆け上がり細い綱の上を全速力で走り抜ける。
「・・・見つけた・・・」
中盤まで来たところで火咲がエリアにやってきた。
同時に地面を爆発させて跳躍。一気に10メートル上の綱まで
やってきて達真の走る綱を回し蹴りで切断する。
「くっ、」
「あははははは・・・!!!」
空中で無防備な達真に膝蹴り。
体重が乗っていない分威力は半分以下だが
口から内臓を吐き出しそうになる威力。
そしてそのまま10メートル下に落下。
3重のマットとは言えかなりの衝撃が全身を走る。
「・・・・・ぐはっ!!」
受身を取ったが膝の爆撃のダメージも合わさって
まるで車にはねられたような激痛に全身を襲われていた。
失神してもおかしくないレベルだが運悪く失神は出来そうにない。
それに、すぐ上から奴が迫る。
「いただきます・・・!」
「くっ!」
体を横に転がす。
次の刹那には先程まで頭があった場所を火咲の足が貫いていた。
「おいおい、さっきから気になってるけどあの二人・・・」
「ああ、本気で殺し合ってるんじゃないのか・・・・!?」
流石に客席からも焦燥の声が上がる。
「はあ・・はあ・・・・はあ・・・・」
血の味がする酸素を無理やり肺に送りつつ
立ち上がり次の攻撃に備える。
「ここがあなたの墓場・・・!」
「死ぬつもりはない・・・・!」
弾丸のような膝を受け流し、槍のような肘を回避。
鎌のような廻し蹴りをガードすると同時に
クイックで反対側の軸足にローキック。
「う、」無防備な場所に強烈な一撃を受けて初めて火咲が怯む。
その顔面にひたすらパンチの連打を打ち込んでいく。
女子の顔面だからといって手加減は一切できない。
スナップを効かせ腰を入れた本気の拳打を次々と打ち込んでいく。
ガードのために手を動かせば空いた脇腹に廻し蹴りを叩き込み、
続けて顔面に飛び蹴りをブチ込む。
「くううっ・・・・!」
「ここで本気で潰しておかないと・・・・!!」
両足をすくい上げて階段を全力で駆け上る。
当然段差に何度も頭をぶつける。
そして3メートルの高さからジャイアントスイングで投げ捨てる。
まるでミサイルのようにマットに上に叩きつけられる火咲。
顔面はもうボロボロだ。
「・・・止めを・・・」
刺そうと階段を降りようとした時、
そのエリアにあの少女が、リッツ=黒羽=クローチェがやってきた。
「・・・・」
「・・・・・・・ちっ、」
ここであいつに隙を見せるのは危険すぎる。
だからゴールを目指すことにした。
「・・・大丈夫ですか?」
「・・・・りっちゃんかぁ・・・」
「一応美人なんですから顔は遠慮させたほうがいいのでは?」
「・・・えへへ。りっちゃんに心配されちゃった。」
「・・・あとは私が引き受けてもいいですよ。」
「だいじょぶだいじょぶ。まだインターバルにもなってないよ。」
それから平然と立ち上がり二人で階段を上がっていった。
第六エリア。直径3メートルほどの巨大なゴムボールの上に乗って
100メートルを転がっていく。
とはいえ呑気に転がってなどいられない。
敵が二人に増えたのだ。
だから勢いをつけてボールに飛びかかり、
その弾力を利用して一気にボールごとバウンド。
これを繰り返してかなりの速度でこのエリアを走破する。
第7エリアに到達するとアナウンスが入り、
1位と2位がゴールインしたそうだ。
3位は順位が入れ替わって三箇牧となって現在最終エリア挑戦中のようだ。
一方、この第7エリアは100メートルの
逆走するベルトコンベアを走破するようだ。
勢いをつけて走ろうとした瞬間、
後方第6エリアで何か大きなものが破裂する音が響いた。
「奴が近づいてきているのか・・・・!」
勢いを増してベルトコンベアを走り抜ける。
あともう少しで走破仕切るところでベルトコンベアは急に機能停止した。
「!?」
「まだデートは終わってないよ・・・?」
振り向けば火咲がベルトコンベアを踏み砕いていた。
隣には無口なあの少女もいる。
あの女だけならまだしもあの少女までいて
2対1など勝ち目は愚か生き残る確率も低い。
あのふたりに組まれた時点でもう勝負どころではない。
だから二人に背を向けて次のエリアを目指す。
第八エリアは落ちれば即失格の20メートル雲梯。
これはチャンスかも知れない。
あの女はおそらくこれを突破できない。
ここをクリアしてしまえばもう追っては来れない。
だから全速力で雲梯をこなしていく。
「・・・・・・・」
「どうしたんです?追わないんですか?」
「りっちゃん、おんぶして。」
「はい?」
「いいから!おんぶしてここやって!」
「・・・・・はいはい。」
「・・・おいおい、あれいいのか・・・!?」
達真の後ろから火咲を背負ったリッツが迫ってきていた。
若干加速して20メートルを超えた達真は急いで次のエリアに向かう。
第九エリアは30メートルの壁をロッククライムするエリアのようだ。
これも本来火咲単独ではクリアできないだろうものだが
今のあの状態ならば問題ないだろう。
だから全速力で岩壁を登っていく。
中盤まで登ったあたりで例の二人もやってきて登り始める。
そして3人同時に第九エリア走破、同時に火咲の鋭い膝が迫る。
「くっ、」ギリギリでガード、しかし防いだ腕にひびが入る。
次のエリアに行こうにもまるで見届け人か
あるいは通せん坊をするかのように
リッツが出口に立っていたため出来ない。
こうなったら手段はひとつしかない。
火咲の肘を受け流すとその長い髪を掴んで
今登ってきた岩壁を飛び降りた。
「くっ!!」
当然髪を引っ張られた火咲も落ちそうになるが
落ちる前に髪の毛がちぎれて達真だけが落下した。
だがだいぶ落下の衝撃が軽減されたのか達真はそこまで傷を負わなかった。
そして達真は落下=失格であり既にこの障害物競走に参加している人数が
クリアした二人を除いて3人だけ=上位5人が決まったことで
競技終了の合図を告げられた。すぐに負傷者に医療班が駆けつける。
それは達真の許にも来て達真はすぐに担架で運ばれていった。
「・・・・つまらない。」
それだけ言って火咲は医療班を断って去っていった。


------------------------- 第9部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
9話「シフル・クローチェ」

【本文】

「シフル・クローチェ」

・そう。それは体育祭が終わった三日後の月曜日のこと。
リッツ=黒羽=クローチェは学校に登校すると
やけに視線が刺さるのに気づいた。
「何かあったので?」
「ん?ああ、なんでもお前と同じ名前の転校生が来るらしい。」
三箇牧巻太郎は両足を机の上に乗せスポーツ雑誌を腹と両足の間に置いて
リッツを目尻に抑えつつそう返す。
「私と同じ名前?」
「ああ。噂じゃラストネームが一緒ってだけらしいが。」
「・・・・・。」
ラストネーム、つまりクローチェと言う文字。
そう言えばこの名の由来は聞いていなかったが
所長の苗字がクローチェだったはず。
自分の白銀の髪は日本人離れしているからハーフという設定にしたいために
このラストネームを頂いた。
イギリス系のラストネームらしいが・・・。
「残念ながら恐く私とは関係ありませんよ。
私は生まれてこの方日本から出たことはないので。」
「そっか。」
興味がないらしく三箇牧はそっと答えた。
・・・あと、読んでいるのは外から見ればスポーツ雑誌だが
紙面を見ればおおよそ中学生が読むにはふさわしくない、
しかし男子中学生ならば誰もが興味を抱く年齢制限のある雑誌だった。
年頃な隠蔽工作。
生憎と性的なことに一切の興味を埋める教育をされていないからか
たとえページいっぱいに美少女の裸体が映し出されていても何も感じずに
見て見ぬふりをして隣の席=自席に座る。
それから数分後に朝のホームルームが始まる。
担任の先生がひとりの少女を伴って教室にやってきた。
どうやら転校生というのはこのクラスにやってくるようだ。
尤も気になるのはそこではなくその顔。
自分と瓜二つではないか。髪の色は相対する黄金だったがそれ以外は。
「転校生のシフル・クローチェさんだ。」
「Hello,My name is Sifl=Croce.nice to meet you my new classmate.」
流暢な英語での挨拶。簡単なものではあるが英語を習いたての
中学1年生で聞き取れたのはごく一部だった。
リッツも最初は聞き取れなかったが脳内録音を再生して1秒で和訳。
「彼女はまだ日本語に詳しくないようだが仲良くしてやってくれ。
では、彼女の席は同じラストネームのリッツ=黒羽の隣にしよう。」
「Yes,teacher」
「・・・・・・・」
そしてリッツの隣にシフルが座る。
こちらには全く視線を送らない。
しかし誰もが自分と彼女の顔を見比べていた。
無理もないだろう。ラストネームも同じ。顔も同じ。
今がホームルームでなければすぐに関係を聞かれるだろう。
だがむしろ自分の方が聞きたい。
6月初頭にもなって所長と同じラストネームで、
自分と同じ顔でまだ日本語も話せないような少女が
どうして転校してくるのか。
例の研究所はもう潰されたはず。あれだけの所業が明らかになれば
所長は責任を追及されるよりも先に処刑されていてもおかしくない。
・・・もしかしてそれで所長の娘であろうこの少女が身寄りがないため
唯一無事である自分の所へと送られてきたのだろうか?
とりあえず今のうちに英語を話せるプログラムを脳内で作成。
休み時間にこの少女に詰問をせねば・・・。
だが、直後に脳内プログラムが機能停止を果たした。
「・・・・っ!」
「ん、おい!」
床に倒れる寸前で三箇牧に抱きとめられる。
・・・体が動かない。いや、頭が働かない。
改造知能に一体何かの事故が・・・・?
「Teacher,I carry her to health room.」
「え、・・・・ああ、保健室に運んでくれるのか。頼む。」
それから頭の中が空っぽの状態で彼女に運ばれていった。
「・・・・なんだあいつ。」
三箇牧がここで初めてシフルに感想を抱いた。
保健室。まだホームルームの時間ということで担当の先生は
学校に来たばかりであり一度職員室に用事があるらしく
保健室には二人のクローチェだけとなった。
「・・・・・」彼女の指が額に触れる。
と、同時に改造知能が機能を再開して体の自由がもどる。
「・・・あなたは一体・・・」
「Hi,my exasperating sister」
「愚妹?私が?私に姉妹なんていない。」
「It's difference.Your many sisters has origin sister.」
「オリジナルの姉?私達のオリジナルがあなただというの・・・?」
「because you and I do same face and voice.」
確かに。彼女の言うとおりで彼女は自分達と同じ顔だ。
それに向こうは英語だから一見わかりづらいが確かに声も同じだった。
という事は自分たちは所長の娘をモチーフに作られたということか。
「Father to love and respect was caught,
and it was whereabouts-free,
and even more my little sisters came to you
which stayed alone in missing now.」
やはり、所長も他の試作型達も押収されて
唯一無事な自分を頼ってきたか。
「Rely?you amuse me! I hold your life. Do not leave it.」
「命を?どういうこと?」
「Because,I know the passward.」
パスワード?何の話?と聞こうとしたところで思い出す。
自分の命を支えるメンテナンスマシンには専用のパスワードが必要で
1年に1度入力しないと機能しないため事実上自分の命は
年末には尽きてしまうことに。
だがそのパスワードを彼女は知っている。
つまりそれは彼女が言うとおり自分の命は彼女が握っていることとなる。
「・・・何が望み?」
「There is a person wanting you to murder him.」
「始末して欲しい人?あなたに?」
「He got my close friend out of order.
His name is Tatuma Yajiri.」「!」
矢尻達真が彼女の友人を壊した?
あの男が?確かにあの男は先日容赦なく少女の顔面を殴っていたし
通常なら重傷を負っていてもおかしくないほどの攻撃を加えた。
だが雰囲気からしてあれは戦闘中、それも命がけの戦いの上だ。
元々戦いとは遠く離れている彼女の友人をあの男が壊すのだろうか?
とはいえ。ここで逆らっては自分の命はない。
どうせあの男とはいずれ殺し合う運命にあるのだ。
都合のいい都合ができてむしろ礼を言いたいくらいだ。
「・・・いいわ。あの男は私が殺す。」

------------------------- 第10部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
10話「雷雨の病室」

【本文】

「雷雨の病室」

・体育祭から三日後。病室。
達真はベッドの上で全身運動をしていた。
「くっ、」伸びをすると背筋に痛み。
二度の墜落は想像以上にこの体に傷跡を残していたようだ。
あの体育祭は最上火咲によって大量の負傷者が出た。
死人も数人出たらしい。見舞いに来てくれた権現堂によれば
自分はまだ傷は軽いほうだという。
それでも2週間の入院が必要だし背骨へのダメージは
重大な後遺症を残しかねないそうだ。
「達真、何だあの女は。」
「分からない。分かってることは普通じゃないことと
あれは殺さなきゃもう止まらないってことだけだ。」
外を見る。雨が降ってきていた。ひとつ前の雨が降った日は
あの女のだらしなくしかし魅力に溢れた体に騙されて
レイプしてしまった日だった。
もしあそこで激励(レイプ)しなければ
あのまま雨に打たれて死んでいたかもしれない。
そうすればこんなことにはならなんだのに。
「あの女は?」
「今日は学校を休んでいる。噂では謹慎処分らしいが・・・。」
「・・・そうか。」
「とにかくあの女にはもう関わらないほうがいい。
それに機会があるならば俺があの女を二度と戦えない体にしてもいい。」
「ダメだ。お前には確約された未来がある。
ここで問題を起こせばお前の未来は大きく落ちてしまう。
・・・あの女は俺が殺す。1対1ならそこまで怖い相手じゃない。
俺があの日止めをさせなかったのはもうひとりいたからだ。」
「あの1年生か?」
「ああ。名前も声も知らないし何の武術をしているかも知らない。
だが、ただものじゃない。
まだムエタイだと分かっているあの女ならともかく
あの1年生の場合はどんな武術かわからないのに対して
俺の方は既に手を晒してしまっている。
下手をすれば何もしないまま一瞬で殺されるかもしれない。
・・・三箇牧の奴が妙に馴れ馴れしかったな。
あいつをテストに手の内を見ようと思っていたがそれも無理そうだ。」
「なら俺が・・・」
「やめてくれ。もう俺の周りで誰かが壊されるのを見たくはない。」
「・・・・そうか。」
「とにかくあのふたりには気をつけてくれ。」
「ああ。」権現堂が病室を去る。
そして独り。耳に響くは豪雨の音だけ。
だが目尻にはあの1年生の姿があった。
「・・・・あいつ・・・・、」
「・・・・・・・・・・」
雨の中、傘もささずに街路樹の前で座っていた。
視線を追うと出て行ったばかりの権現堂。
権現堂は気付いていないようだが確かにあいつは彼を見ていた。
そしてゆっくりとこちらの方を向く。
視線が合っていない。つまりこちらには気づいていないようだ。
ならどうしてこんなところに?
体育祭でクラスメイトが入院してそのお見舞い?
ならどうして病院に入ってこない。
それにあの1年生はそんなタマじゃない。
何があったのかは知らないがまともな奴ではないのは確かだ。
あいつは少なくともただの女子中学1年生ではない。
言葉にすればその背中に、その瞳に過去が見当たらない。
まるで作られたばかりの新製品のようだ。
一方。クローチェの隠れ家。
「 Were you able to meet him ?」
「いや、でも場所はわかった。」
今まで他に人の気配が出来ることのなかったこの空間に
自分と同じ顔と声の少女がいる。それだけで違和感しかしなかった。
「 Though you knew his place , how were you not to death ?」
「人の目があった。それに正確な場所まではわからない。
あの男は病院にいた。自然と人が集まる場所。
もしそこで荒事を起こしてしまえば目的を果たせても
警察に知られてこの場も探られてしまうかもしれない。
そうなればこんな重くてでかいマシンを持って逃走なんてできない。」
「such a thing minding?」
「あなたはまだ日本というものを知らない。
ここはイギリスと違って犯人はただ殺されればいいって話ではない。
・・・・それともあなた最初から私を生かすつもりがない?」
「It is up to you how you judge it.」
「・・・・・・」
この少女についてはイマイチわからない。
名言はしていないが所長の娘というのは恐く事実。
けど普通の12歳の女子中学生とはとても思えない。
普通なら助けを求めるはずだ。
確か所長は妻とは10年以上前に離婚したという。
それにベトナム戦争で両親を失っているから事実上の孤児。
その所長=父は今回の問題でおそらく処刑されている。
つまりその娘であるこの少女も孤児であるだろう。
自分のように精神を制御され過去も未来もない存在ならまだしも
普通の少女が孤児になりそして言葉も通じない外国で暮らすことになって
平気なはずがない。
「I would like to mention one more matter?」
「・・・言い忘れていたこと?」
「I have the device that your thought circuit is readable.
Because,Stop feeling me.」
「・・・・・・」
どうやら改造知能、
いや思考回路にアクセスできる装置を持っているようだ。
それで考えていることは全てお見通しらしい。
確かにこの少女は転校初日に自分の回路にアクセスして
機能停止させた。その後保健室でも即座に再開させている。
パスワードを知っているのだから不思議ではない。
「 And be careful about words because
it is another 13 years old , and I am older than you?」
「・・・・年上って1つだけじゃない。
いやそれより私に年齢は存在しない。」
「 Then all the more . Cyborg licked it ; do not speak .」
サイボーグ風情が生意気効くなと来たか。
否定はできないがしかしこの女。
自分と全く同じ声と顔してるからって遠慮していたがやはり気に入らない。
どうやら自分には女運がないようだ。
「I have forgotten to say it with it one more.」
「まだ何か?」
「 Because it is I lesbian ,
work as an all-night attendant from tonight .」
「・・・・・・・・・・・。」
しかもあの妖怪と同類ときたか。性的観念はないが
どうやらこの調子では自分の処女は女性が貰う可能性が非常に高いようだ。

------------------------- 第11部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
11話「穂南紅衣の観察日記?」

【本文】
「穂南紅衣の観察日記?」

・学級日誌、3年1組。担当:穂南紅衣。
新しい学年が始まってから既に2ヶ月が経ちました。
この学校はそれなりに有名人な人が多いので
クラスの顔を覚えるのはそこまで苦労しません。
というか出来ません。
陸上部の小松くんはルックスこそ及第点には届きませんが
その瞬足は未来のボルトと言われているほどで
この間の駅伝ではぶっちぎりの1位を
とっているのを偶然テレビで見ました。
授業中居眠りしているのか大きないびきでよく板書の邪魔をされるので
困っています。やめてください。寝るならいびきはナッシングで。
水泳部の成瀬さんはとても同い年とは思えないほどボインです。
この間着替え中にブラのサイズを見たらGカップでした。
・・・何を食べたらああなるのか同い年の女の子としては
期末テストの範囲よりも興味深いものです。
えっと、
水泳の腕前もすごくて50メートルの背泳ぎを26秒で泳ぐんです。
私なんて25メートルでも27秒がやっとなのに。
剣道部の緒方さんは世にも珍しい二刀流の剣道家で、
私よりも小柄だというのに激しく2本の竹刀を振り回す姿は
ちょっとジェラシー入ってしまいます。
回天剣舞出来るかな?本棚粉微塵。
柔道部の権現堂くんはあれ本当に中学3年生なんでしょうか。
背もそうですが握力が160キロもあるそうです。
ギネスに載ってる人は180キロあるそうですが
十分すぎるほどの怪物です。
リアル邪眼です。
この間の綱引きでは一人で何人も引っ張っていました。
もうオリンピック選手候補になっているようでよく監督さんが来ています。
けど前に聞いた話では本人は柔道よりプロレスがやりたいそうです。
あんな重量級な人にコブラツイストとかされたら私なんて
すぐにデュラハンにジョブチェンジとなるでしょうね。
「穂南か。提出物ならもう出したはずだが?」
「記入漏れです。ちゃんと全部書いてください。」
「いやしかし、どうして性経験の有無までアンケートに入ってるんだ?」
「アンケートだからです。」「・・・・・む、」
「どうしました?」
「いや、女子の前でこれに答えるのは勇気がいる。」
「お気になさらず。去年卒業した柔道部元主将の小日向先輩との
仲は一部の人にはもう周知のことですから。」
「な、な、な!?」
ちなみに私は当然にまだ処女です。
でも同じクラスでも結構やってるひとはやってるそうです。
美術部の月城さんはこの間
男子3人女子3人の乱交写生に参加していましたし。
合唱部の鈴木さんは合唱コンクールで最優秀賞をもらっていた裏では
男子相手にフェラチオ1回2500円のバイトをしているそうですし。
これ見つかったら賞状は全部取り消しですよね。
私も小学校時代に一度姉に騙されて同い年の男の子にフェラしましたし。
おっと、ここの部分は消しておかないと。
「権現堂くん、これ矢尻くんにお願いしてもいいですか?」
「あ、ああ。構わない。どうせ行く予定だからな。」
矢尻達真くん。現在唯一の空手部。
2年前の全国大会で6位と言う地味っぽいですが
恐くものすごくすごい実績を持っています。
成績優秀。なんでもすべての教科の成績が4だとか。
これといって欠点らしい欠点がない完璧な人です。
あ、でも乗り物酔いが激しいようで
4月の遠足では何度も車内で吐いていたそうです。
そんな彼ですが現在入院中。
先週行われた体育祭で大怪我を負ったみたいです。
私は見ていませんでしたがなんでも10メートルの高さから落ちたとか。
大体5階建てですよ。よく生きてましたね。
ところで彼は何故か女子からの評判が低いです。
と言うか嫌ってる子が非常に多いです。
性格面でも成績面でも特に問題はありませんし
ルックスも悪くはありません。
何ででしょう?
「紅衣ちゃん分からないと思うけど矢尻って基本的に優しいんだけど
どこか他人を信用していないというか
拒絶しているような気がするんだよね。
顔は笑ってるんだけど心では拒んでいるというか・・・。
なんか生理的にダメだわ、あいつ。」
すごい言われ様です。
そんなに話したことはないですがそこまで悪い感じはしていません。
提出物は完璧ですし日誌もバッチリ書いています。
私としては好きってほどでもないですが
別にそこまで嫌ってるわけでも・・・。
そう言えばアンケートで見ましたが彼、性経験あるそうです。
他の女子の言葉通りに受け取るなら誰かレイプしたということでしょうか?
・・・ううん。きっと付き合ってる子がいるのでしょう。
「・・・・・ん、」
ちょっとそれ関連の話をしすぎたせいか濡れてきました。
私はこんないやらしい子じゃないはずなので
一度トイレで頭を冷やしてきましょう。
「・・・そういえば、」
最近あの子を見ません。
最上火咲さんです。私よりかなり小柄ながら成瀬さん以上にボインです。
あれはもう胸にスイカ詰めてますって言っても通じるレベルです。
J・・・いやKカップに達してるかもしれません。
一度サイズの合うブラジャーはあるのかと聞きましたが
ノーブラだそうです。世界って広いんですね。
去年の修学旅行でのお風呂で生を見ましたが上も下も
同じ女の子でもしゃぶりつきたくなる程の逸材ですよあれは!
小学校中学年くらいの背丈なのにあのバディは反則です。
非常に不謹慎ですがお義父さんが手を出すのも無理はありません。
そんな彼女は最近学校に来ていません。
なんでも体育祭で矢尻くんとひと悶着あったそうですが・・。
二人共かなりいい子ですから何か悪いことをしているとは
思えませんがでも、黒い噂は絶えません。
体育祭でもあの二人は本気で殺し合っていたとかまで言っています。
そう言えば男子の間ではあの子は非常に恐れられているそうです。
何か武術でもやっているのでしょうか?
「・・・ふう、こんなものかな。」
日誌を書き終える。もちろん今までのを全部書いたわけではありません。
学級委員長の私が学級崩壊を招くようなことを
起こしては元も子もありません。
「・・・明日は全員揃うといいな。」
早くあの二人が帰ってきますように。

------------------------- 第12部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
12話「炎の梅雨」

【本文】

「炎の梅雨」

・6月になった。
やっと退院できた達真が学校の道場で
準備体操をしている。権現堂が心配に来るが実際ほぼ問題はない。
やはり背骨のダメージが医者からは心配されていたが
今更怪我の一つや二つ増えたところで変わらない。
それよりも現在の目的は年末にある全国大会への出場だ。
去年は参加できなかった分焦燥と言えるレベルで待ち遠しい。
拳の死神は足を損傷したと聞いたがもう空手はできないのだろうか?
せめてリターンマッチはしておきたい。
「お、やっぱいたな。」
三箇牧が道場にやってきた。
「お前も出るのか?」
「当然だ。今年がデビューだからな。
とりあえずニュースを二つ。
1つ、全国大会前の練習として今度の土曜日から
毎週土曜に特別訓練が行われることになった。
全国に行きたい奴はその訓練に参加しろとのことだ。
2つ、お前甲斐機関って知ってるか?」
「病院で聞いたことがある。アメリカ発祥の医療製品メーカーだったか?」
「ああ。日本の10年先を行くって文句ながら
最近日本にも上陸したんだがその甲斐機関が
担当している病院にあの拳の死神が
出入りしているところが発見されたそうだ。」
「何、拳の死神が!?」
これはいいニュースかも知れない。
甲斐機関とやらの医療技術ならば彼の損傷した足も治せるかも知れない。
となれば当然また戦えるチャンスが出来るってわけだ。
「ただ身内かもしれないが女連れでな。しかも二人。」
「・・・・・・・。」
それはいらないニュースだな。
あの如何にも堅物そうな男が女連れで病院とは・・・。
ただ二人いるのならやはり身内あるいは道場の仲間の
見舞いという可能性もある。
残念ながら彼の家族構成までは知らない。
・・・まあ、本名自体覚えていないから仕方ないんだが。
「で、お前今週土曜には来れるのか?」
「当然。今週土曜にはもう全国行きたい気分だ。」
「それは楽しみだ。」
それだけ言ってにやりと笑い三箇牧は去っていった。
そしてその土曜日。生憎の土砂降りだったが道場にそれは関係ない。
サンドバッグをひたすら殴っていく内に汗がほとばしり
体温が嫌に上がっていく。一応冷房は入っているのだが慰め程度だ。
そう言えば拳の死神は自分の体熱を相手に流し込むという奇妙な技を
使えるらしい。そして彼の弟子らしき少女がそれを使って
空手の名家とも言える伏見道場のエースを相手に後一歩というところまで
追い詰めた話を道場内新聞で見た気がする。
あの男は戦士としてだけでなく師としても有能なのか。
3つしか年齢が違わないというのに・・・・。
嫉妬か期待か自然と殴る拳に力が入っていく。
だからか外の気配には気付けなかった。
「・・・・・・・。」
道場の外。そこに雨も刺さずにリッツが立っていた。
何となく気が向かず日常を過ごしていたが
あの自分と同じ顔と声のバカ女に最後通告をされたため
今日はあの男を殺すためにやってきた。
のだが、何故か同じように道場を見上げる少女がもうひとり。
「あ、りっちゃん。」
「・・・あなたですか。」
「ひょっとして目的って同じだったり?」
「恐らくは。」
「う~ん、じゃ今日はりっちゃんにあげるよ。
前回は譲ってもらったからね。」
「次回というのがないかもしれませんよ?」
「その時はその時だよ。私が食べる価値がなかったってことだよ。
・・・じゃ、私は誰か適当に粉砕してくるか。」
「・・・一ついいですか?」
「なぁに?」
「あなたは強い男を粉砕するのを享楽としているようですが
私は含まれないんですか?」
「私がこの手でこの足で砕きたいのは男だけなの。
私に歯向かって私を傷つけて私を夢中にして、
そんな男を勿体無いほどあっけなく粉砕するのが私の生きる意味なの。
だから女の子は興味がないの。あ、りっちゃん以外ってことだよ?」
「・・・・・・」
やはりこの少女は狂っている。
でも、自分には関係ない。
自分の生きる意味はもう分からないけれどそれでも今はあの男を
殺すのが唯一の目的。あの少女のためではない。
どうせ目的を果たしたところであの傲慢でレズで悪趣味な女は
自分を助けたりはしないだろう。
ならばせめて自分が唯一殺意を向け、そして向けられた相手を
殺したいと、ただそれだけ思った。
道場内。エキシビジョンという名目で達真と三箇牧が戦うことに。
上司からはやりすぎるなと名目上の忠告をされるが
当然手加減をするつもりはない。
互いに全力を出すだけだ。それで相手が壊れようものなら
そんな相手をライバルと認め全力を出していた
自分が愚かだったというだけだ。
「さあ、やろうか先輩!!」
「おう!」
畳の上に立ち、にらみ合い、構える、二人。
「正面に礼!互いに礼!構えて、・・・・始めっ!!!」
主審の合図と共に畳を蹴る。
破壊力に特化した三箇牧の攻撃はある意味あの女以上に厄介だ。
ムエタイの一撃必殺的思考ではなく空手の詰将棋が如く
一分の隙もない制空圏をたたきつぶす連続攻撃。
汎用で定石を手段とする自分とは最悪の相性だ。
とはいえ向こうも自分を苦手としているはず。
何故なら破壊力に特化した戦術は長続きせず持続が尽きた瞬間にこそ
寓の音も出せぬほど正確で隙のない戦術に押しつぶされるからだ。
だからこそ、面白い!だからこそ、ライバルと認める理由!!
いつしか互いに制限時間もこれが練習試合であることも忘れて
力尽きるまで戦い続けるのだった。

------------------------- 第13部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
13話「雨中の決戦」

【本文】

「雨中の決戦」

・練習試合開始から23分。
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・・」
体力が尽きてもなお殴るのをやめない二人。
しかし偶然に近い達真の掛け蹴りが命中して
三箇牧は倒れて気絶した。
「・・・・はあ・・・はあ・・・・くっ、」
そしてその上に達真も倒れて気絶した。
「やれやれ。どうも最近は試合を死合と履き違えている奴が多すぎる。」
主審がため息をついてから二人を抱え上げて隅の方に寝かせた。
二人共打撲は多いが幸い骨折はどこもないようだ。
拳の死神亡き今空手界を盛り上げることになるであろうこの二人が
練習試合で潰し合うのはどうにも腑に落ちないが
しかし拳に人生を捧げると決めた二人である以上は
もはや治しようもない病気なんだろう。
そう思うことにした。
やがて2時間してふたりが目を覚ますとただ拳と拳を
重ね合わせる。
「次は負けないからな。」
「ああ。今度こそまともに勝ってみせる。」
普段の喧騒がどこへ行ってしまったのか
素直に笑い合う二人だった。
それから訓練が終わり二人が道場を出る。
「・・・・!」
達真の前にはあの少女。
「・・・・・・・・。」
リッツ=黒羽=クローチェ。
周りに人はいっぱいいるが間違いなく用があるのは自分だろう。
互いに何も言わないまま目配せだけして歩き出す。
着いたのはそこから1分程度の裏路地。
かつてあの女を陵辱した場所でもある。
あの時と同じく土砂降りの中だ。
「・・・・・。」
傘を捨て上着を脱いで道着姿となる。
相手は最初からそのつもりだったのか半袖に短パンと
動きやすい服装だった。
互いに準備が終わると無言のまま身構える。
どうして日本(ここ)にいるのか分からないが
いつかはこうなる運命だった。それが今日、ここなだけだ。
一縷の雷鳴。それを合図に走り出す。
先ずは足を潰すための下段。定石中の定石。
それをリッツは跳躍して回避。同時に素早くこちらの頭上を奪う。
しかしそこまでは普通に読める。だから対空の飛び蹴りを放つ。
「・・・・・・・・。」
と、信じられないことに奴は放たれた飛び蹴りの
上に乗ってさらに跳躍。既に地上3メートル以上。
そこから体をフィギュアのように回転させて
まるでギロチンのような手刀を振り下ろす。
「くっ・・・・!」
防御・・・間に合わず右肩に叩き込まれる。
かなりの威力で一瞬意識が飛んだ。
が、すぐにその手を掴み取って真横の壁に叩きつける。
「・・・っ!」
着地するリッツ。
まずは小手試し。武術はやると思っていたがそれでも敵の武術が
何なのかが分からない。
それに自分は先ほどの戦いでかなり消耗している。
この勝負は圧倒的に不利である。
とはいえ逃がしてくれそうな雰囲気でもない。
人気のないところな上雨だ。一通りも皆無と言っていい。
助けは期待できない。だからここで倒すしかない。
「・・・・・・!」
リッツが先に地を蹴る。
応対して構えを取りリッツのラリアットを防ぐ。
が、逆の手が首裏に迫っていた。
「くっ、」
ぎりぎりで回避。そこで敵の目的に気づく。
コイツの武術がなんなのかはまだわからない。
だけどコイツの狙いはわかった。
首周りの毛細血管を潰すことで血流を逆流、
脳梗塞を起こす算段だ。
最上火咲が純粋な力で相手の肉体を粉砕するのに対して
こちらは人体の弱点を利用して脳を潰す、潰せなくても
相手に後遺症を与える非常に殺人特化な戦術だ。
おそらく長引けばこちらが人生レベルで圧倒的に不利。
ならば不本意だが一撃で仕留めるしかない。
構えを下ろす。しかし視線は敵から一切外さない。
「・・・・・・。」
リッツは警戒を上げる。
自分の狙いがわかっただろうというのに構えを下ろした?
自殺願望があるわけでもないし、狙うは・・カウンターか。
恐く必殺で来るだろう。ならばこちらも必殺を取るまで。
「・・・・・・・。」
「・・・・・・。」
雨の中、静寂、戦慄。
そしてリッツは跳躍した。
両の手を相手の両肩・・・首寄りを
押しつぶすように叩き込む。
「くっ!!」
対して達真はノーガードとなったリッツの顎に
アッパーを叩き込んだ。「・・・・ぐっ!」
凄まじい威力が瞬く間に顎から脳天を貫通する。
「・・・・・・・・・・・」
受身も取れずにリッツは水たまりの中に倒れて
微動だにしなくなった。
「はあ・・・はあ・・・・・、くっ・・・!」
両肩のあたりから血が一気に頭に昇っていく感覚。
これは・・・まずいかも知れない。
急いで病院に・・・・。
裏路地を抜けてタクシーを呼ぶために駅の方へ向かう。
だがその途中、歩いてすぐでどうしても見逃せない光景があった。
「あーあ、りっちゃんやられちゃったんだ。」
最上火咲だ。いや、それよりも彼女の足元に転がっている少年。
胃袋らしきものが背中から突き出ているその少年は
まさしく先程まで命懸けで戦っていただけでなく
数年間一緒に闘ってきた弟子でありライバルでもある三箇牧巻太郎という
少年の余りにも無残な姿だった。
「この人、すごかったよ。私が2発以上使ったのなんて
あなた以来。でももう、終わりみたいね。」
立ち止まってよくその姿を見れば首が変な方向に曲がっていた。
それでも僅かに手先が動いていた。
まだ生きている。安心。だがしかしそれ以上に、
「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
怒りが体中を駆け巡り敵への殺意が力を蘇らせていく。
だが、それも長くは続かなかった。
「・・・・・!?」
突如として意識が酷薄になっていく。
本人は気付いていなかったが頭から血が一筋飛び上がっていた。
「・・・・なぁんだ、残念。あなたももう壊れていたのね。」
その声も届かずに矢尻達真は雨の中倒れ落ちた。

------------------------- 第14部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
14話「拳士の雨は降り止まず」

【本文】

「拳士の雨は降り止まず」

・気が付いたら見慣れたカプセルの中だった。
「Huh,sure relive in this capcel.」
声。自分に似た声。
「・・・私は・・・・」
「I carried you here.Can you thank me?」
シフル・クローチェが見下ろしていた。
どうやらあの戦いの後自分を拾ってここまで運んでくれたらしい。
あの一撃で確かに自分は顎を砕かれその威力で脳に重大な
ダメージを負った。どうやらこのメンテカプセルはこの程度の負傷なら
いとも簡単に治せるようだ。でも、まだひとつだけ疑問が。
「・・・何してるの?」
「Cunnilingus.」
そう、この少女何故かカプセルの中に入ってまで自分の
陰裂をまるでコーヒーを嗜むように舐めていたのだ。
「But,There is not
the cuttlefish and others fun you sexual feeling.」
確かにこの少女はいつも自分に行為をさせていた。
たまにはと他人にもしてみたが性感がないため
全く反応しないのでは面白みもないだろう。
・・・まあ、そもそもこんなことしてるのがおかしいのだが。
「って生き返ったって言ったけど?」
「I saw that you were dead for cerebral contusion.」
脳挫傷・・・やはりあの男の一撃は重大どころか致命傷だったか。
けど、死んだのにカプセル一つで生き返るなんて
いまさらだが本当に自分は人間では・・・いや、生命体でもないようだ。
「Why do you cry?」
「え・・・・?」
泣いている?・・・自分が?
どうして?どうして私は泣いているのだろう・・・・。
そんなに自分が人間ではないことにショックを受けていたのだろうか。
「You are still a human being
if shocked by not having possibilities to be a human being.」
「・・・・・。」
まさか、この少女は自分を慰めているとでも言うのか?
確かに股間を慰めてもらってはいるがまさかこの少女が
他人のために心配を?
「・・・・You are unexpectedly quite rude.」
「・・・電気信号を読んでまで傷ついてどうするの。」
とりあえずまだ完治はされていないようだ。
あの男の殺害には失敗したけれどまあ、
この少女に自分への殺意がないってことが分かっただけでも
十分すぎるかもしれない。
それに・・・あの男も長くはないだろう・・・。
病院。
権現堂が手術室前の椅子に座って待っていた。
今達真と三箇牧が手術を受けている。
4時間の手術を終えてふたりが病室に運ばれた。
互いに意識はない。
達真は脳出血でかなり深刻な状態だったが今は安定している。
が、問題は三箇牧の方だった。
骨折した首はコルセットで固定して行けば3ヶ月ほどで治るだろう。
ぶち破られた胃袋も今までどおりの食事は出来ないだろうが
無事に縫合された。しかし偶然だろうが脊椎を大きく損傷していた。
そのため意識を取り戻しても
脳に異常が起きている可能性が高いとのことだ。
全身不随か、それとも精神崩壊か。
どちらにせよ元の生活には戻れない。
「・・・一体何があったんだ。」
権現堂はただ横たわる二人の前で
頭を垂れて無事を祈るばかりだった。
やがて三箇牧の両親が来て症状を医師から聞かされると
悲観にくれていた。
一方。降り止まない雨の中火咲は公園にいた。
「・・・・・・・。」
せっかくの標的だが自分が手を下す前に壊れた。
確かにあっさり壊すのは好きなんだけど壊す前に壊れるのは
それはそれで嫌だ。物足りなすぎる。
「・・・そろそろ潮時かな。」
ここでの生活も悪くはなかった。
でも、学校だけでない。街を歩けば大抵の男性からは
忌避されるし目をつけていた標的も手を出す前に壊れてしまった。
街一つでもこれだけ楽しみがあるのならほかの街に行けば
新しい楽しみが見つかるかも知れない。
そう思って立ち上がった時だった。
「・・・まさか討伐対象がこんな小さな女の子だったとは。」
コントラバスみたいな杖とギブスが一体化したような物を
右足に付けた男子高校生が背後に立っていた。
「誰?けが人に用はないんだけど。」
「俺もそのつもりなんが嫁がね。
近頃男子が襲われまくってるから襲われる前に
先に倒してしまえって言うんだ。近々眠るというのに。
だから悪いけど犠牲になってもらう、死神の鎌のな。」
一縷の稲妻。いや、それはただの一撃。
ただの一撃なんだけど目にも映らぬ速さの拳が
火咲の腹に打ち込まれた。
「!?」
「青龍・・・一撃!!!」
打点から全体重が打ち込まれて火咲の小さな体は
10メートル以上も離れた公園の公衆トイレの壁にミサイルのように激突。
壁が粉砕されて和式便器に上半身が突っ込む形で倒れる。
「・・・・・くっ、」
「立たないほうがいい。
すぐに立つと打点から血流が急降下して両足の血管が破裂するようにした。
2時間くらいはそこで頭を冷やしていてもらう。」
「・・・何者・・・・?」
「名前は出すなって言われてる。
だからこう名乗らせてもらう。大倉道場の拳の死神。」
その男はそれだけ言って立ち去った。
火咲は初めての敗北の味に同じく初めて悔しさで涙を流した。
「・・・もう少しこの街にいよう。」
「・・・もう少し生きていてみたい。」
二人の少女の涙の誓いが雨に捧げられた。

------------------------- 第15部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
15話「陽翼」

【本文】

「陽翼」

・それはいつか。
陽翼(よはね)と言う少女がいた。
苗字はない。・・・そういうお家柄だから。
テレビをつければたまに出てくるあのお家だが、
しかし彼女にテレビに映る機会はおそらく一度もないだろう。
何故なら不義の子だから。
父親がお家事に縛られることに我慢できず
聖上(おや)に反発して一週間ほど家を出ていた時だ。
高校時代の後輩との間に作ってしまった娘。
それが陽翼という少女である。
見つかってしまうといけないからか身篭ってすぐに
母は欧米へと移住することとなった。
当然旅費生活費は今はよくテレビに映る父がずっと出し続けている。
新王よりも前に出来た第一子だから・・・。
でもそれが公共の電波に乗ることはありえない。
そもそもその事実を知る者自体ほとんどいないのだから。
と、そんな複雑な経緯を持って生まれてしまった陽翼は
イギリスで日本語を習いながらも御年10歳まで成長した。
地元に住む高名な遺伝子化学者クローチェ博士の娘さんである
シフル・クローチェとは仲のいい親友同士だ。
クローチェ博士は知らないがシフルには自分の経緯を教えた。
付き人であり母でもある陣崎には誰にも言うなと言われていたが
もう4年の付き合いだし唯一といっていい同年代の親友なのだ。
しかしシフルが親の転勤により別れることになり、
それと入れ替わるように考古学者がやってきた。
矢尻家である。そこの長男である達真とはすぐに仲良くなった。
とは言え初めて見る同年代の日本人男子に興味津々でもあった。
達真も悪口でも賎しめられないような美少女には
正直に一目惚れと言っていい状態だった。
半年前に一度日本に行った時に習い始めた空手を見せてやったり
左手の傷を見せびらかしたりとよくわからないアピールを続けていたが
陽翼は嫌がることなく達真と付き合い続けていた。
陣崎は安心と不安を同時に抱えていた。
「いいですか?陽翼。あまり日本人とは仲良くしないように。」
「どうしてそんなこと言うの?達真は優しい子だよ。
不器用だけど僕が嫌だってことは絶対にしないよ?」
「あの子がそうでもあの子の両親がそうとは限りません。
あなたが誰の子か忘れたのですか?」
「・・・わかってるけど・・・。」
「それとちゃんと言ってありますか?あなた蕎麦を食べられないと。」
「うん、言ってあるよ。でもアレルギーってなんだかわからないみたい。」
「・・・これは私からもしっかりと言っておかなくては。」
矢尻の家とは真向かいにある。
矢尻の両親はよく隣町の遺跡に行ってはそこの職員と共に
数日単位で調査に出かけるため基本的に達真は独りだった。
だから同じように割と独りでいることが多かった陽翼とは
いつも一緒だった。
「陽翼ちゃんはどうして苗字がないの?」
「そういう家なの。でも気にしないで。僕は全然気にしてないから。」
「なんで自分のこと僕って言うの?女の子だよね?」
「女の子だよ。陣崎さんが持ってきてくれた漫画で
自分のことを僕っていう女の子がいたんだ。
それを見ている内に慣れちゃって。変かな?」
「ううん、可愛いと思うよ。・・・あ、」
「・・・もう正直なんだから。」
失言に赤面する達真を抱きしめそして唇を交わした。
「え・・・・・」
「僕には誰もいないの。だから僕の初めてになってくれる?」
「・・・?友達って事?」
「もっと、もっと大事な人に。」
「うん、いいよ。俺が陽翼ちゃんを絶対に守ってあげるよ。」
「・・・・うん、ありがとう。」
それからはますます仲良くなりその様子はまるで恋人同士のようだった。
「・・・陽翼、あなたまさか・・・」
「・・・うん。好きになっちゃったかも。」
「・・・・まったく。」
「あれ、怒らないの?怒られるかと思ってたけど・・」
「・・・いえ、むしろ嬉しいかもしれません。
私はあなたを勝手に産んでおきながら勝手に不幸だと思ってしまっていた。
だけどそのあなたがこうして幸せそうな顔をして
男の子を話すとは思っていませんでした。」
「じゃ、認めてくれる?」「私の一存では決められません。
あの人に聞いてみなくては。でも、私はいいと思いますよ。」
「・・・ありがとう、陣崎さん。」
それから2年が過ぎた。
陣崎の口から父親に達真のことが話されて無事許可も得られた。
12歳になった二人は夜の仕方も知り、
まだ幼いながらも愛し合うようになった。
しかしそこで達真の両親の転勤が決まった。
場所は日本だった。
「・・・陣崎さん・・・僕・・・」
「・・・行きなさい。」
「え?」
「日本に行きなさい。
あなたはもうあの子のお嫁さんなのだから。」
「・・いいの?僕日本に行ってもいいの・・・?」
「ええ。矢尻さんには毎月生活費を送ります。
あなたの身の上も既に話してありますし。
問題はないでしょう。学校には通えませんが我慢できますか?」
「・・・うん、ありがとう・・・お、おか・・・・お母さん・・・」
「・・・陽翼・・・・」
それから半年後に達真と両親そして陽翼が日本へと旅立った。
「・・・・。」
「陣崎さん、」
「あら、シフルちゃん。帰ってきたのね。」
「陽翼は?」
「日本へ行ったわ。」
陣崎はシフルにこの2年間の事を話す。
「・・・そう、陽翼に恋人が・・・。日本に行ったんですね?」
「ええ。あなたと入れ違いになっちゃったわね。」
「私も日本語が話せれば日本に付いて行ったのに。」
「あら?お父様は日本へ?」
「はい。今まで見たことがない遺伝子の少女が
日本で発見されたとのことでその調査に。」
「・・そう。なら行きましょうか?日本に。私が連れて行くわ。」
「いいんですか!?」
「ええ。」
それから陣崎とシフルも日本へ向かうこととなった。

------------------------- 第16部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
16話「崩壊」

【本文】

「崩壊」

・達真と陽翼が日本へ来て数日。
今まで自分とごくわずかしか話していなかった
日本語がそこらじゅうで聞こえることに違和感を覚えつつも
漫画で見たような景色に興味津々な陽翼がうろちょろとしている。
達真はこれからは日本に永住することになるだろうからと
両親から中学への進学のための手続きを受けている。
今まで通信教育だけで培ってきたがいよいよ学校へと行けるのだ。
「陽翼が一緒じゃないってのが寂しいけれど・・・。」
「大丈夫だよ、達真。僕なら大丈夫だから。」
「陽翼・・・・」
昼間からキス。
そして自室に連れて行き鍵をかけてから服を脱がして
行為を始める。もはや子供が出来ていてもおかしくないほどに
たくさん行なっている。とは言え達真の方がまだ未成熟のためか
実は射精が不十分で子供が出来るには足りないのだが。
それから日本に来てからは空手も積極的に行い、
道場に入り年内には全国大会に参加した。
「がんばれー!達真ー!僕のご主人さんなら負けるなー!」
「がんばれー!廉くぅぅぅん!!僕の騎士なら勝ってねー!!」
「あれ?」
「え?僕?」
顔を見合わせる隣に座る少女二人。
そして意気投合。
「「がんばれー!僕のご主人様ぁぁぁぁぁ!!」」
全国大会決勝トーナメント。
達真は拳の死神と呼ばれた甲斐廉と対決することとなった。
「陽翼のためにも・・・!」
「へえ、ボクっ娘をお嫁にしているのが他にもいるとは。」
試合が始まった。だが勝負は一方的な展開だった。
「ぐっ!!」
死神と呼ばれた男の拳はまるで本物の死神の鎌のように
達真の体力を命ごと削っている様な錯覚が起きるほどの威力。
「朱雀幻翔!!」
「動きが読めない・・・・がああっ!!」
「白虎一蹴!」
「ガードの上から・・・がああっ!!」
「玄武鉄槌!」
「攻撃が通じない!?ぐううううう!!」
「青龍一撃!!!」
「!?があああああああああああっ!!!」
開始23秒で猛烈なラッシュを受けた達真は気絶した。
「強い!さすがは拳の死神!大倉道場期待の星は全国を狙えるのか!?」
「ま、こんなもんだな。おい、大丈夫か?」
「あ、はい・・・」
「お前強いのにどうも思い切りが足りないんだよ。
何か迷いがある内は畳の上に立たない方がいい。」
「迷い・・・・」
「自分でも気付いていないならなおさらだ。
うちの嫁と一緒にいるお前の嫁さんにでも相談してみろ。
その迷いを超えてこそお前は本当の戦士になれる。
・・・来年を楽しみにしているぞ。」
それから病院。一応診察を受けたところ左腕にヒビが入っていた。
「大丈夫?」
「ああ。さすがは拳の死神。俺なんかじゃ全く歯が立たなかったよ。」
「・・あの人が言っていた迷いって?」
「・・・分からない。」
それから数日の入院。今回の怪我もそうだが
以前にコヨーテに食いちぎられた傷も見てもらったところ
手術の必要があるかもしれないとのことだ。
陽翼が毎日見舞いに来てくれた。中学で友達になった権現堂もまた
見舞いに来てくれて陽翼を紹介した。
陽翼のことはあまり深くは教えなかったが
しかしまあ一番大事な部分は教えた。
まだ会ってそこまで経っていないが権現堂はいい奴だった。
「あ、達真。ご飯こぼしてるよ。」
「あ、悪い・・・って陽翼ストップ!」
「え?」
陽翼が口に入れた物。それはソバ飯だった。
当然陽翼がアレルギーとしているソバが使われている。
「!?あ、あああああああああああ!!!」
即座に拒絶反応。胃から大量の吐瀉物が逆流してくる。
「権現堂!すぐに医者を呼んでくれ!!」「おう!」
権現堂が病室を走り去り達真が陽翼の背中を叩く。
しかしそこでつい力が入ってしまい吐瀉物が喉に詰まってしまう。
「~!!!~~~!!!!!」
「陽翼!陽翼!!!」
「達真!今空いている医者がいないらしい!
他の病院まで運ぶそうだ!!」
「そんな時間があるかよ!!喉が詰まって息ができないんだぞ!?」
「それしかないんだ!!」
それから5分後に救急車が来て陽翼が運ばれていく。
「酸素欠乏状態が長い・・・!これはまずいぞ・・・!!」
それから15分後に手術が始まった。
達真と権現堂、
さらには何故か日本に来たという陣崎とシフルがやって来た。
「どういうことですか!?」
「陽翼がソバ飯を食べたんだ!」
「そんな・・・!あれだけ注意していたのに!」
「What happen!?MssZinzaki!」
「Johnnes has an allergy and is carried to the hospital
and has an operation!」
それから3時間。手術が完了して陽翼が車椅子で運ばれてきた。
「陽翼!大丈夫か!?」
「・・・・・・・・」
「陽翼?」
「・・あははははは・・・・」
「・・・・よは・・ね・・・・?」
「アハハハハはははハハハハ・・・・・・・!!!!」
「・・・・・」絶句。合間を見計らって医師が口を開いた。
「酸素欠乏状態が長く続いたことで
大脳皮質が重大な損傷を起こしてしまい、
記憶と知能が・・・・・」
「・・・・そんな・・・・」
「アハハハハはははハハハハ・・・・・・・!!!!」
絶望し膝を折る達真の前で陽翼はただ壊れて笑い続けるだけ。
それから壊れた陽翼を家へと連れて帰るが当事者以外は
黙ったまま何も言えずにいた。
「陽翼・・・俺のことがわからないか・・・?」
「はひ?あははははわかんなぁぁぁぁい!!!
はひゃひゃひゃひゃひゃひゃ・・・!!!」
「・・・・・・・・っ!!」
机を殴る。
その音に怯えた陽翼が今度は涙を流し失禁する。
「Johnnes・・・・!!!」
シフルが抱きしめる。だが陽翼に反応はない。
それに心が割れたような喪失感を感じたシフルは
同じような目をした達真を全力で叩いた。
「If there was not you, this did not happen to her.
I never forgive you.
... not to permit even if I die!」
何を言っているのかはわからなかったがしかし憎悪の
感情をぶつけているのは理解できた。
そしてそれに対して何も反論はできない。
あの時陽翼がソバを食べてしまったのは自分がソバを食べていたからだ。
陽翼がいない間にソバを食べようと思った自分が軽率すぎたのだ。
いや、そもそも自分なんかが彼女の恋人になって
ソバがありふれた日本なんかに連れてきてしまったのが愚行過ぎたのだ。
そしてそれを痛感するにはもう何もかも遅すぎた。
もう全ては崩壊したあとなのだから。

------------------------- 第17部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
17話「真実」

【本文】

「真実」

・陽翼が壊れてから半年が過ぎた。
達真は壊れてしまった恋人を精一杯介護した。
学校に行かない日も多くなった。
あれ以来両親は帰ってこなくなった。
代わりに陣崎がこの家にいる。
あのシフルという少女は見当たらない。イギリスに帰ったのだろうか?
「陽翼、そろそろ。」
「あい、よはねちゃんのごはんのじかんだね?」
「・・・・ああ、そうだよ。」
自分では何もできなくなった陽翼。
それでも最近は少しずつだけど言葉を覚えてくれてきた。
一度目を離した隙に外に出て知らない男を達真と認識してしまい
数時間の間陵辱されていたがその男は当然殺した。
それ以来陽翼を部屋に閉じ込めて24時間体勢で監視を続ける。
「達真君、そろそろ休んだほうが・・・・」
「いいんだ、陣崎さん。俺が陽翼を守り続けるって約束したんだから・・・」
「でも、このままでは・・・」
「・・・いいんだ。」
こんなことになったのは何もかも自分が悪い。
だからこのまま自分が壊れてしまってもそれで構わないんだ。
学校を休み続け不眠のまま監視を続けて10日。
「・・・・ん、」
「・・・起きたか。」
「・・・だぁれ?」
「・・・・・え?」
「ここどこぉ・・・ぼくだれぇ・・・
だれなの・・・みんなだれなのぉ・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・」
病院に連れて行ったところ再び記憶が壊れてしまったらしい。
ただ精神は前よりかは安定している。
もしかしたら記憶は戻らないにせよ、
正常者に戻せるかも知れないとのことだ。
少しだけ希望が見えてきた。
もし、陽翼が自分で考えることができるようになったら
考え直させよう。これ以上自分と一緒にいてもいいのか。
もうそれは陣崎には伝えてある。
陽翼がもし望むのなら自分と会う以前のようにイギリスで陣崎と
二人で暮らす生活に戻そうと。
心のどこかではそれが一番いいのだと思っていた。
けどもっと奥底のどこかでは陽翼と一緒にいたいとも
思っていたのかもしれない。
それから半年の間必死になって陽翼に学習をさせた。
元通りの生活を送らせるために。
「・・君の名前と年齢は?」
「・・えっと、えっと、やじりよはね・・・13さい・・・です。」
「・・・うん、それでいい。」少しだけホッとした。
今夜は久しぶりにいい眠りが出来そうだ。
陽翼と共に風呂に入る。
やっと自分で体を洗えるようになった。
まだあの長い髪を自由には扱えないようでそこは達真がやってあげる。
「えっと・・・えっと、ありがとう・・・・・?」
「・・・陽翼・・・」
久しぶりに陽翼が自分から声をかけてくれたことに
興奮が蘇ってきた。
「陽翼・・・陽翼・・・!」
「たつま・・・・いたいよ・・・でも・・きもちいい・・・」
風呂場で久々に行為をする。
もう達真も成長して射精も十分だ。
今なら陽翼を孕ませることも出来るだろう。
ようやく、ようやくだ。ようやく望んだ生活ができるようになる。
その想いで久々に深い眠りにつけた。
だが、次の日の朝。
目を覚ますとそこには完全に自分というものを失った陽翼の姿があった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「陽翼?」「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
椅子に座ったままピクリとも動かない。
目の焦点があっていない。
呼吸は微かにしているようだが生きている感覚が無い。
すぐに病院に連れて行ったところ脳死と判定された。
「・・・・・そんな・・・・せっかく・・・やっと・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
陽翼はもはや何も反応しなくなった。
最初に壊れた時も音には反応していたし声も聞こえていた。
だが今は完全に無反応。肩を揺さぶっても頭を撫でてやっても
胸を揉んでも手を握っても唇を重ねてもまるで人形としているようだった。
後ろの陣崎はそれほど驚いてはいないようだった。
どうやら以前に脳のレントゲンをもらった時に薄々こうなることを
予測していたらしい。
それから家。マネキンのようにあるいは美容師の実験台人形のように
ただ椅子に座って虚空の一部と化している陽翼を
暗闇で見つめる達真。
脳死していても心臓も肺も動いている。ただ頭が働かないだけだ。
「・・・・」
達真はそっと立ち上がり陽翼に迫り
最後に唇を重ねてからその首をへし折った。
それから陽翼の葬式が行われた。
厳重に身分を隠して陽翼の父親も参列した。
既に状況は知っていたから達真を攻めようとはしなかったが
しかし会おうともしなかった。
「・・・・・・」
カレンダーを見る。数ヶ月ぶりの仕草だ。
今日は全国大会の日だった。
当然参加はできない。何もない、自由だけが自分を抱きしめている。
「・・・・ああ、そうか。」
やっとわかった。拳の死神が言っていた迷いという意味が。
あの砂漠には自分の命が掛かっていた。
日本に来てからは陽翼と言う守るべき恋人がいた。
彼女が壊れてからは監視を続けていた。
二度目に壊れてからは復活を望んでひたすら学習をさせていた。
そして3度壊れて廃人になった彼女を面倒くさくなって
その手で殺したことで理解した。
何も支えるものがなく何も守るものがない。
気にかける誰かもいなければ望むべき目的もない。
背負う者が全くない今の自分がものすごく楽だったんだ。

「・・・・ここは・・・・」
目が覚めればそこは病院。
「確か、あの女を倒してそれから・・・・」
記憶をたどる。
日本へ渡っていたあの女を倒し三箇牧を倒した火咲のもとへ
迫った時に頭から血が吹いて倒れたのだと。
「・・・・俺はまだ何かを背負っていたようだな。
そんなもの、ないのが一番強いというのに。」
それから着替えて退院した。

------------------------- 第18部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
18話「悪夢の再来」

【本文】

「悪夢の再来」

・事実最上火咲の精神状態はそこまで歪んではいない。
幼い頃のネグレクトや近親強姦、薬物による触覚麻痺からの
欝とそれを打ち消すために日々チンピラを得意のムエタイで
粉砕していく。それ以外は価値観も仕草も普通の女子中学生だ。
中学に入ってから優等生のフリをしていくことで
少しずつだが異常性も収まってきていた。
事実このまま成熟していけば数年で異常行動も取らなくなるだろう。
だが、それを許さぬものもいた。
「・・・・・・え?」
「・・・よう、遅かったな。」
誰もいないはずの自宅に人影。
それは記憶の奥底に閉じ込めたはずの人物。
2番目の父親、幼い頃に自分を数年にわたってレイプし続けて
孕ませたトラウマ以外の何者でもない悪夢だ。
「ど、どうして・・・・・」
「お前の最初の母親の再婚相手が裏の人間でな。
そいつに金積んでたった10年で釈放してもらったんだ。
・・・子宮をとったんだってな。」
「・・・・・・・」
「これでもう誰にもバレることはないってわけだ。」
「くっ・・・・!」
「どうした?お前が常日頃からやってる男殺しはしないのか?」
「・・・・うううう・・・・・!!」
「ま、出来ねえか。レイプとは言えお前は俺の愛を受け続けたんだ。
何百人もの男を殺していようとも肉親だけは殺せないよなぁ?」
「あんたの愛なんて・・・・!!」
「じゃあ俺が怖いのか?」
「・・・・・・うううう・・・」
「いいから黙って服を脱いで股を開きな。
この10年でどこまで男を気持ちよくできるようになったか
お父さんが確かめてあげよう。」
それから最上火咲の人生は逆戻りすることとなった。
言われるがままに義父相手に股を開きひたすらに陵辱されていく。
本来ならこんな男などムエタイで粉砕するのだが
今までトラウマと向き合ったことなどないからか
全く抵抗できず悲しむ余裕すらないほどの恐怖で押しつぶされそうだった。
「学校には行かせてやるよ。だが余計なことは喋るなよ?」
「・・・・・・・・・・。」
「返事はどうした!?」
「・・・はい・・・」
灰皿を叩きつけられ頭から流血。
それを無理矢理隠して学校へと向かった。
「・・・ん、」
登校中。リッツとシフルが火咲の後ろ姿を見つける。
「What you?」
「・・・いえ、あれは・・・」
「・・あ、りっちゃん・・・が二人?」
「・・・元気ないようですね。何かあったので?」
「・・・・ううん。」
そう言って火咲は去っていった。
「・・・・・・・・。」
「What do you think about her?」
「・・・気になるだけ。それよりあなたはいいの?
まだあの男は死んでいないみたいだけど。」
「Is he broken by you,Isn'tyou?」
「・・・そうだけど・・・」
「If he arrive to us,that you kill him.」
「・・・・・・・。」
リッツは火咲の背中を遠くに置きながら同じ道へと向かった。
「火咲ちゃん、大丈夫?」
「・・・・・うん。」
教室。委員長の穂南紅衣・・・さんに慰められる。
確かに今日はおかしい。りっちゃんにも陰核が反応しなかったし。
全体的に元気が出ない。
「今日は調子悪いみたいだね。何かあったの?」
「・・・2番目の父親が帰ってきた。」
あれ?何で言っちゃったんだろう・・・・?
「2番目って・・・・ええっ!?逮捕されたんじゃ・・・・」
「裏金使って釈放されたって・・・・。」
「・・・そう、だったんだ・・・・。」
どうして・・・言ってしまったんだろう・・・?
こんなことをしてしまったら自分以外を巻き込んでしまうのに。
「・・・ひょっとしてまたやられたの・・・・?」
「・・・うん。今朝も・・・・・。」
「・・・・そうなんだ・・・・」
ひょっとして自分は慰められたいのか?
一人で閉じ込めておきたくないのか?
「なら早く警察に言わないと・・・・」
「裏金って言ったでしょ?多分また直ぐに帰ってくる。
・・・・あなたもこれ以上私に気を遣わないで。
私ならもう穢されているからいいけれどまだ純粋なあなたは・・・・」
「・・・火咲ちゃん・・・・。でも、放っておけないよ。
だって友達でしょ・・・?」
「・・・友達・・・・」
「だから今日は私の家に泊まって行ってよ。
ううん、今日だけじゃなくていい。
火咲ちゃんが大丈夫になるまで、ね?」
「・・・穂南さん・・・」
「紅衣でいいよ。」
「・・・紅衣・・・。」
友達・・か。考えたこともなかった。
男子は基本的に粉砕対象だし、女の子はそこまで関係を持ったことがない。
りっちゃんだって嫌がってるあの子を勝手に襲ってるだけ。
何度もあっていく内に情が移ったから
最近は心配(かんちがい)されるようになっただけ。
そんな自分に友達だなんて・・・。
でもりっちゃんが二人いるように見えたのだから自分は
相当やつれているように見えるのかもしれない。
それから授業が終わり紅衣の家へと案内されることに。
でも、やはり運命ってのはそこまで上手くはいかないもので。
「よう、何してんだお前?」
「!?」
歩道でばったりと遭遇してしまった。
「誰が逃げていいって言った?それとも俺に3Pさせてえのか?あぁん?」
「あ、あの、」
「部外者は黙ってな!」
「きゃ!!」
「こ、紅衣に手を出さないで・・・!」
「誰が反論しろって言った!!」「くっ!」
あっという間に二人まとめて組み伏せられてしまった。
・・せめて紅衣一人だけでも逃がさないと・・・・!
でも、体に力が入らない。
「さあ、まずは・・・・ん?」
「・・・?」
急に抑えられる力が弱くなった?手を振り払って気絶した紅衣を
連れてあの男から離れる。
「・・・・・・・・・・・・。」
そこではあの男、矢尻達真が義父の首を捻っていた。
「・・・らしくないな。所詮女か。」
「・・・随分雰囲気変わったようだね。」
「いや?俺は元々こう言う奴だ。」
それだけ言って矢尻達真は去っていった。
彼に何があったのかは知らない。
「・・・・紅衣をどうにかしないと・・・。」
今は考えないようにして紅衣の回復を待った。

------------------------- 第19部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
19話「朽ちゆく羽」

【本文】

「朽ちゆく羽」

・ある梅雨の日のこと。
7月中旬になっても降り止まぬ雨で
ただでさえ陰鬱となっているというのに。
「・・・・・・・・・。」
リッツ=黒羽=クローチェとシフル・クローチェは
学校から家に帰宅すると呆然としていた。
水道管が破裂していたのだ。
元々この家があるのは地下に水道管が集まっている場所なのだが
どれも老朽化した物ばかりらしい。
何十度目かの梅雨前線で今日ついに破裂してしまい、
蛇口が壊れ、それがちょうどメンテナンスマシン向けて大噴射していた。
確認するまでもなく不気味で不器用で不穏な機械音が
鳴り響き時折火花を散らす様子を見れば壊れているのは一目瞭然だろう。
「・・・・・・・・・・」
リッツはとりあえず0120の500・500をコールする。
しかし、その声はどこか震えていた。
「・・・・・・・。」
「I may be imprudent, but cannot but laugh.」
「・・・・・・。」
笑ってる場合じゃない。これは今までで一番まずい。
先月にあの男に頭を破壊されて事実上殺された時よりもヤバイ。
どんなに無残に・・とまでは行かないにせよ
軽く事故事件で人の手によって殺された程度ならば
以前同様このマシンに肖れば一晩で修復されるだろう。
だが、そのマシンそのものがご臨終されてしまえばどうしようもない。
リッツは飲食が出来ないのだ。
このマシンからの栄養補給以外では体力を回復できない。
そしてそれが長く続けばそれは当然栄養失調で機能停止してしまうだろう。
「・・・一応聞くけれどこれを治せる人は?」
「All the members have been already arrested it long ago.」
「・・・・やはり・・・・。」
もうあの研究所の社員は誰ひとりとして表社会には出てこれない。
いや、下手をすればそのまま秘密裏に殺されていても全くおかしくない。
それほどの非人道的組織だったのだから仕方がないだろう。
けれど、そのせいで勝手に生み出された自分は今ここで
勝手に殺されそうになっている。それは少し、かなり納得できない。
せめてアフターケア完備のスタッフでも派遣して欲しいところだ。
「Show nobody the machine for the time being though you say.」
「分かってる。」
とりあえず修理業者が来る前にカーテンを取って
マシンを覆いかぶす。その後すぐに修理業者が来て
水道管を直していった。修理中にも覆い被せたカーテンからは煙が
発生してしまっている。が、業者はそれに気付かずに
仕事を終えると去っていった。
すぐにカーテンを外すとああ、それはもう完全な完璧なまでに
ショートして火花を上げてぶっ壊れるまでぶっ壊れているマシンのお姿。
作動ボタンを押しても何も反応しない。
別のボタンを押すと不規律で不気味で不穏な音を奏でながら
そしてついにコンピュータ部分が爆発した。
「っ!!」
飛散した金属片が右目を引き裂いた。
「Are you all right? 」
「・・・大丈夫なわけ・・・ない・・・!」<
右目から大量の血が溢れる。
目を開けても何も見えない。これは。失明しているようだ。
カーテンの切れ端を使って簡単な眼帯を作って右目に纏う。
とはいえこれはあまり意味がない行為。
自分の命をつなぐ機械が完全に壊れてしまった。
それを直す人間ももはや存在しない。
自分の命は保っても数日以内。
それなのに目など心配している場合ではない。
結局その日はどうすることもできずシフルの夕食を作ると
夜伽もなしに眠ることにした。
マシン以外では初めて就寝する。
ベッドのやわらかい感触が何とも言えない。
深夜に左目を開けてみれば自分と同じ顔の少女が隣で寝ている。
・・・何故か片手で処女膜をくすぐられていたが。
翌日。学校へ行こうとするもやはり体力に問題がある。
立ち上がってもフラフラする。おまけに失った右目だけでなく
左目の視力まで低下してきたような気がする。
「Are you all right? 」
「・・・だから大丈夫なわけがない。」<
結局今日はふたり揃って休むことにした。
とは言え何もやることがない。
仕方なくシフルのために昼食を作り始める。
「・・・・・あ、」
しかし途中で包丁を落としてしまう。
右手の神経が弱くなっているのかモノを握れなくなっていた。
拾おうとするも視界がぼやけて包丁がどこにあるのかわからない。
「・・・・・」
シフルはそれを背後から見ている。でも何も喋らない。
やがてインターホンが鳴り、シフルが玄関に向かう。
直後何やら悲鳴が響く。
「どうしたの?」
怪訝。玄関に向かうと、
「あ、りっちゃん。今日学校来てないから心配できちゃったよ。」
そこへはあの妖怪レズ1号がシフルを後背位で押し倒していた。
「・・・・っ!!」
シフルは明らかに顔が普通じゃない。
とは言え恐怖というよりは・・・感じてる?
「・・・何してるんですか?」
「うん。このりっちゃんソックリな子を
最近拾ったばかりのバイブで苛めてるの。」
よく見ればシフルの股間には柄だけでも
相当太いバイブがぶち込まれていた。
出血してる所を見るにどうやら処女を奪われたようだ。
「ってどうしたのその目!ううん、それだけじゃない。
重心がおかしいし、右手だってまるで神経が通ってないみたいじゃない!」
「・・・ちょっとありましてね。」
この問答の間にもシフルは太いモノをぶち込まれて
ありえないほどに振動するそれに何度も絶頂させられていた。
っていうかどうしてこの妖怪はこの家がわかったのだろうか?
「じゃ、私が作ってあげるね。」
「・・・あなたも両手が使えないのでは?」
「私のはひと工夫してるの。」
そう言って台所に来ると
握力補強用手袋をはめて包丁を拾って料理を始めた。
なお、その間シフルは裸に剥かれて股間を足で踏まれ続けていた。
もはやリッツ以上に体力を消費しているようで
かなりグロッキーだったがそれでも肉体は死ぬほど元気なようだった。

------------------------- 第20部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
20話「新たなる飛翔のために」

【本文】

「新たなる飛翔のために」

・とりあえず食事を作ってくれた事や
シフルが完全に陥落されてしまったこともあって
最上火咲にすべてを話すことにしたリッツ。
「ふぅん。りっちゃんはこの子のクローンみたいなもんなんだ。」
騎乗位でガンガンシフルを攻めまくる火咲。
そろそろシフルの股間が心配になってくる。
この2時間で26回くらいイカされてる。
結局シフルのために作られた料理も食べることはなかった。
「なら、あの子もクローンだったのかな?」「え?」
「こないだりっちゃんそっくりの女の子がいたの。
でも身長とかは違ったよ。あの子の方がおっぱい大きかったし。」
「・・・その人はどこに?」
「分からないけどやっぱり知り合い?」
「・・・もしかしたらそうかもしれません。・・行かなくては・・・」
「あ、りっちゃん!その体で歩けるの?」
「・・・ですが・・」
「なら私がりっちゃんをおんぶしてってあげる。
体育祭の時の代わりにね。」
「いえ、あの、嬉しいのですが私のほうが大きいんですけれど・・・。」
「へーきへーき。」
27回目の絶頂を迎えさせられたシフルの回復を待ってから
リッツを背負って街へと向かう。
「・・・・・・」
「えらく静かだけど何か?」
「Anyone is like that
if insulted exceeding a limit so over and over again.」
自分と同じ顔なので少し言いづらいが
美少女らしからぬガニ股で明らかにビタミン不足っぽそうな
まるで完徹した後にフルマラソンさせられたような
疲労を超えた疲労の表情のシフルを見下ろす。
と、また一段と視界がぼやけてきた。
そればかりか意識もはっきりしなくなってきた。
「・・・りっちゃん?」
「・・・・・くっ、一瞬記憶が飛んでいました。
多分両足も今は動かせないでしょうね。」
既に右手だけでなく左手も麻痺しているように思える。
なるほど。たった一日欠いただけでこれではあの研究所で
どれだけ高性能がいても脱走できないわけだ。
「あれ!?美咲ちゃんが二人いる!?」
すると、右の横断歩道。赤信号の下に小学生くらいの少女がいた。
問題なのは自分達、
つまりリッツとシフルを見て今の言葉を出したということだ。
そしてそれ以上に。
「失礼ですよ、久遠。」久遠と呼ばれた少女の隣に立つ少女は
まさにこのふたりと同じ顔をしていた。
「あの子だよ。こないだ見かけたのは。」
「・・・お手柄過ぎますよ、先輩。」
「・・・Misaki akabane・・・」
手前と隣から声。
とりあえず信号を渡って二人と合流した。
「・・・・ああ、なるほど。そういうことですか。」
自分と同じ顔の少女は自分とシフルを見比べると事情を察せたらしい。
「初めまして・・というのは少し論外でしょうか?」
「・・・なら、やはりあなたが・・・」
「ええ、私があなた方のオリジナルであり完成品となるべき存在だった
赤羽美咲と言います。」
確かに火咲が言うとおり自分より背も胸も大きい。
と言うより年上のようだ。ただ気になるのが顔の肌色と違う色の両足。
日焼けした程度の色だがしかしその色の足には見覚えがあった。
「それは・・・まさか・・・」
「・・・はい。白羽睦月の足です。」
「・・・あなたは睦月を・・・・・」
「いえ、彼女は生きています。」
「っていうか死んじゃってたら
それって私が死なせちゃったってことになるからね。」
久遠と言う少女がえへへと笑う。
それから二人に事情を話す。
「そういうわけなのでメンテナンスマシンを
保持していないのでしょうか?」
「・・・残念ながら私は飲食ができるタイプでしたので。
ですが、あなたの体を直す方法があるかもしれません。」
「本当ですか・・・?」
「ええ。」
「あ、そうか!死神さんのあれを使うんだね!?」
「死神?」
火咲が小さく呟く。
それから3人は二人に案内されて甲斐機関が所有している
病院にやって来た。
「え?あれれ?赤羽ちゃんが3人!?」
「違います。
それよりこちらの方をカプセルに入れさせては頂けないでしょうか?」
「え、いや、いきなりそんなこと言われても・・・」
「お願いします。」
「・・・・う~ん、今は廉くんもいないし。
僕が決めるしかないのかなぁ?」
「Boku・・・・・」
今度はシフルが小さく呟いた。
それからリッツはメンテナンスマシンによく似たカプセルに入れられた。
隣のカプセルには顔は見えないが誰か入ってるようだった。
「赤羽ちゃんと同じ状態だね。かなり危険な状態だったかも。」
「それで治るでしょうか?」
「それは君の存在が結果になってるよ。」
「どれくらいの時間がかかるのでしょう?」
「赤羽ちゃんと同じだから2ヶ月くらいかな。
ちょうど夏休みだからいいんじゃないのかな?」
2ヶ月。意外と長い。だが、文句は言ってられない。
このままでは自分は恐く今日中には死んでいただろう。
「・・お願いします。」
それからリッツ=黒羽=クローチェは長い眠りについた。
「・・・・夏休みの間りっちゃんとは会えないのか。残念。」
火咲はそう言いながらシフルを担いで去っていった。
「・・・でも珍しいね。美咲ちゃんが知らない人を助けるなんて。」
「私をコミュ障みたいに言わないでください。
それに全く知らないという訳でもないんです。本当は・・・。」
赤羽が静かにシフルの去った後を見送る。
「・・・あれ?ねえ美咲ちゃん。」
「なんですか久遠?」
「美咲ちゃんがあの子達何ちゃら羽シリーズのオリジナルなんだよね?」
「何ちゃら羽シリーズって・・・」
「じゃあさ、あのシフルって子はどうなるの?
オリジナルが二人もいるってありえるの?」
「・・・・いえ、あの子は恐らく・・・・」
それからもシフルの背中を見送り続けた。

------------------------- 第21部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
21話「悪夢」

【本文】

「悪夢」

・夏休みに入った。
しかしこの学校の中学3年生には
受験よりも先に修学旅行があるのだ。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・む、むう・・・」
「・・・あはは・・・」
同じ班になってしまったのは達真、火咲、権現堂、穂南。
4人で見回る場所を決めるのだが達真と火咲は全くの無関心。
「えっと、火咲ちゃん。どこか行きたいところある?」
「紅衣が決めて。私はそれでいい。」
「おい、達真。お前までなんで黙ってる。」
「・・・そう言うのやめたんだ。」
「え?」
それから授業を終えると部室へ向かう。
サンドバッグをひたすらに打ち続ける。
「・・・・っと、」
パンチが外れてしまい揺れたサンドバッグが顔面を直撃した。
「・・・。」
最近どうもたまに一瞬だけ視界がぼやける時がある。
それに難聴が多くなってきている。
強くなること、生き抜くこと以外への興味を捨て去ったせいだろうか?
それとも先月は二人も殺したことから頭の中で何かが壊れたのか。
・・・どちらにせよ、あまり関係はない。
死ぬ時は所詮誰だって死ぬ。
そんな時のことを考えてもなんの意味もない。
面倒なものは一切持ち込まない。
持ち込めばそれはあの時と同じように破滅を呼ぶだけ。
「・・・・・」
「・・・・ん?」
視界に何かが映った気がする。
だが、何の気配もない。
「・・・気のせいか。集中ができていない証拠だな。」
そのままサンドバッグを叩き続けた。
その後道場に寄る。三箇牧がいなくなったことで
シフトが増えてしまったがあまり関係ない。
もうすべてが何とも関係がない。
そう思うことで嗚呼、なんて楽なことなのだろうか。
夜。家に帰る。かつて陽翼が使っていた部屋は今はただの物置。
彼女の私物はすべて捨てた。写真も1枚も残っていない。
陣崎さんもあれから一切姿を見かけていない。
・・・まあ当然か。もう彼女の娘はどこにもいない。
自分と出会ってしまいその心を奪ってしまった時点で
もう彼女の知る陽翼はどこにも・・・・。
「そんなことないよ・・・」「!?」
声。幻聴か?ついにそこまで堕落してしまったのだろうか。
「達真、」
「・・・・・・・陽翼・・・・・・!?」
幻視か?誰もいないその部屋に陽翼がいるように見えた。
まだ壊れていないあの明るかった頃の陽翼。
「・・・いや、これは幻だ。だって陽翼はこの手で・・・」
「達真、自分を壊さないで。僕は勝手に壊れただけだから。」
「・・違う、これはきっと俺のいいわけだ・・・。
都合のいい解釈が生んだ夢幻に過ぎない・・・!!!」
頭を掻き毟る。
「達真・・・・。僕の言葉があなたを傷つけるのなら
もう僕は何も言わない。だから、ただ一言言わせて。
・・・ありがとう。」「!?」
そして陽翼の声は聞こえなくなった。姿も見えない。
「・・・なんて最悪なんだ俺は・・・!!」
コップを投げ捨てる。壁に叩きつけられてガラスが割れる。
「・・・今日はもう寝よう。こんな自慰的幻に飲み込まれないように。」
それから自分に睡魔を呼び寄せるかのような呪詛を
頭の中に巡らせながら無理矢理意識を闇に落とした。
それから数日。夏休みに入って最初の週末に修学旅行が行われた。
「・・・・・・。」
「お、おい達真。顔色悪いが大丈夫か?」
「・・・家にいるよりはマシだ
どうかしたのか?」
「・・・何でもない。」
それから電車で空港へ行き、そこから飛行機で北海道まで飛んだ。
達真は電車の中でも飛行機の中でもずっと眠っていた。
「矢尻くんどうかしたの?」
「いや、分からない。この様子からして寝不足のようだが・・・」
「・・・・・。」火咲が黙って達真に近寄る。
「おい、何をするつもりだ?」
「・・・何か言ってる。」
「え?」
権現堂が達真を見る。
「・・・・・・陽翼・・・・・俺が・・・俺が悪いんだ・・・
だから・・・・謝らないでくれ・・・・。
謝るくらいなら・・・俺を謗ってくれ・・・・・・陽翼・・・・・・」
「!?」「ヨハネ?こいつってキリスト教徒なの?」
「違う。陽翼と言うのは達真の昔の関係者で故人だ。」
「・・・ひょっとして恋人?」
「・・・・ああ。」
「・・・・・そ。」
「去年亡くなったんだがまさか悪夢にうなされてるのか・・・?」
「へえ、ならこうしてあげればいいんじゃない?」
そう言って火咲は達真のチャックを下ろして顔を股間に近づけた。
「え、え!?火咲ちゃん何してるの!?」
「フェラだよ?」
「お、おい!飛行機の中で何を・・・!」
「くちゅ・・くちゅちゅ・・・・ちゅ・・・・」
「・・・・うううう・・・・陽翼・・・陽翼・・・・・!!!」
火咲の口の中に射精。その瞬間は他の生徒や乗客にも見られた。
「はあ・・・はあ・・はあ・・・・」
流石に達真も意識を取り戻し、
眼前に自分の精子にまみれた火咲を発見すると全力で殴り倒した。
そして殴り倒した火咲に向かって嘔吐。
それから気絶するように再び椅子に持たれて眠り始めた。
「・・・この人ってこういう趣味?」
「・・・いいから洗って来い。」
精液と吐瀉物にまみれた火咲は穂南と共にトイレへと向かった。
その一方で闇に堕ちた意識の中で
達真はずっと陽翼の姿を見続けていた。
出会ってから壊れ、そしてその手で殺した瞬間までを。
そして先日の幻を。
壊れている間の記憶を封じて幸せだった日々の記憶に溺れても
少し気を緩んでしまえばあの壊れた陽翼の姿が脳裏に蘇る。
焦点のあっていない視線、手入れのされていない悪臭の毛髪、
まるで野獣のように食物に直接口をつけて貪る姿、
その全てが幸せを打ち砕いていく。
そんな陽翼を鎖につなぎまるで犬畜生のように自分は扱った。
排泄も犬用のトイレセットで済まさせたり
数日に一度適当に体を拭いてやったり
そんな、地上最低の自分の歴史が脳裏を激しく焼き尽くす。
「・・・・・あ、」
気付いたら飛行機は空港に到着していた。
見れば自分は失禁していた。
「達真、お前・・・・」
「・・・・何でもない。」
素早くトイレへと行き、下着を着替えると再び嘔吐した。
体中のすべてを吐き捨てるように。

------------------------- 第22部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
22話「火中の告白」

【本文】

「火中の告白」

・旅館に到着した。旅館といっても甲斐家と言う名家が
かつて住んでいたと言う古びた和館を改築したものだが。
「ふむ。暑くもなく適度に涼しい。この時期の北海道は最高だな。」
権現堂が深呼吸。その隣で達真は俯いていた。
正直電車に乗る前よりも表情は傷んでいた。
5時間のフライトで大半の生徒が疲れているからか
その日は自由行動となった。
女子達は旅館自慢の檜風呂に向かった。
流石に大人数が入れる広さではなかったので4人ずつとなった。
火咲と穂南が風呂に向かうと見たことのない少女が着替えていた。
「あれ?あなた誰?」
「私甲斐杏奈と申します。」
「甲斐ってことはひょっとしてこの旅館の?」
「えっと、結構複雑なんですけれどとりあえずこの旅館にとっては
遠縁の身内だと思ってください。」
それから3人で檜風呂に入った。
「え?甲斐機関の元オーナーの娘さん?」
「里子ですけれどね。私も日本人ではありませんし。」
「今のオーナーのあのボクっ娘とはどういう関係なの?」
「会ったことがおありで?」「一度だけね。」
「・・・あの方にはたくさん迷惑をかけてしまいました。
いつかまたお会いした時には目一杯謝りたいですね。」
「・・・ふぅん?」
それから風呂を出て杏奈と別れる。
と、庭の方で達真を発見した。
「矢尻くん、何やってるのかな?」
「・・・様子見てくる。」
火咲が駆け出して達真へと向かう。
達真も当然その気配には気付いているだろう。
しかし、どうも本人は放心状態にあるようだ。
まるで先日の五体不満足なリッツと同じような状態。
「ねえ、」
「・・・お前か。」
「・・・何だかこうして普通に話すのって初めてだね。」
「・・・俺はお前と話なんてしたくない。」
「私もあんたは嫌い。
でも愛しちゃいたいくらい壊したいってのは今も変わらない。」
「・・・お前は変わってるな。」
「・・昔ある人が死のうとしていた私にこう言ったの。
自分以外の何を恨んでもいい。だけど自分だけは恨むなって。」
「・・・・・・それは・・・・」
「え?」
「・・・・まさかな。」
「?だから私は世界を恨み壊したいなぁって思いながら
生き続けることを選んだの。あの人は何を恨みたかったんだろうね。」
「・・きっと将来何もできずに愛さなきゃいけない人を
その手で殺してしまうことになった自分自身を恨んでいたんだろうさ。」
「・・・あなた・・・まさか・・・・」
「・・・そろそろもどるか。」
そう言って達真は歩き出した。
しかし、そっちは旅館とは逆の方向だ。
「?ちょっとどこ行くの?」
慌てて追いかける火咲。
やがて達真は物置のような場所に入っていった。
「真っ暗だ。停電か?」
「あなた、一体どこに目をつけているのよ。」
「目?・・・ああ、そうか。目を開けるのを忘れていた。」
「・・・・あなた・・・・・」
「電気をつけなきゃな。」
手探りで暗闇を泳ぐ。
やがて手にはチャッカマンのようなモノがぶつかった。
どうやらこの物置は電気が通っていないランプ式の照明のようだ。
「待って!今のあんたにそれは点けさせられない!」
「だからって物を握れないお前じゃ無理だ。」
そう言って達真は点火した。ランプと間違えて本棚の古書に。
当然結果として物置は炎上を始めた。
すぐに出ようとするも炎は先に出入り口を塞いでしまった。
「ちょっと何してるのあんたは!」
「ちっ、」
炎の中を進もうとするも途端に転んでしまう。
「・・・あんた、目だけじゃない。
足も・・・・いや、頭がどうかしてるの?」
「・・・お前には関係ない。」
立ち上がろうとしても上手く足に力が入らない。
麻痺してるように足が言うことを聞いてくれない。
けど、何故か危機感は襲っては来なかった。
「早く脱出しないと・・・」
「・・・・・・。」
「あんたが言ったんでしょ?自ら死のうとはするなって。
他の何を恨んでもいいから自分だけは恨まずに生き延びろって!」
「ああ。だが、俺はどうしようもなく自分だけを恨みたい。
他の誰をも巻き込みたくはない。たった独り苦しみながら
果てるのが俺に与えられた唯一の贖罪の方法なんだ!」
「ふざけるな!もう巻き込まれているのよ!
私もヨハネって子も!!」
「・・・っっ!!!」
「あんたとその子に何があったのかは知らないしどうでもいい。
だけど関わってしまったのなら一生その歴史を背負い続けなさい。
その歴史を私が一瞬で終わらせてあげるから。
独りで勝手に死んだところで何を残せるというの!」
「・・・・・ああ、そうか。」
今になってやっと分かった。
陽翼の幻が残した礼の言葉の意味を。
「・・・分かった。だが、俺もそう簡単に殺されるわけには行かない。」
すっと立ち上がる。もう足に異常はない。
「行くぞ!」
「ガッテン!!」
二人同時に虚空へと廻し蹴りを放つ。
その速度が風を巻き起こし、出入り口の炎を和らげる。
その隙に全速力で物置を脱出した。
物置は全焼。当然担任陣からはこっぴどく叱られたが
普段の行いもあって処罰は検討されなかった。
その夜。意識を闇に落とす達真。
その闇の中で燃える炎。
その中に陽翼の姿が見えた気がした。
「達真、」
「陽翼・・・・。俺はやっと分かった。
俺は、壊れてしまったお前をこの手で殺せたことを全力で感謝したい。」
「・・・うん。殺してくれてありがとう、達真。」
その日以来陽翼の幻を見ることはなくなり、
またその夜達真は久々にぐっすりと眠れたのだった。
「・・・・ふふっ、」
「どうしたの?火咲ちゃん。随分と嬉しそうだけど。」
「うん、懐かしい昔のことを思い出したんだ。」
「それって矢尻くんと何か関係あるの?」
「ジャスタイよ。昔私が自殺しようとしていた時に
説得してくれたのがあいつだったの。」
「へえ、ロマンチックだね。」
「そうなの。だからお礼としてあいつは私が殺すことにしたの。」
「・・・・へ?」
「・・・それだけが私にできる恩返しだろうから。」
夜空を見上げる火咲。
やはりその日もぐっすり眠れたような気がした。

------------------------- 第23部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
23話「帳」

【本文】
「帳」

・修学旅行を終えて多くの中学三年生は受験戦争へと
飛び込み始めるこの季節。
「・・・くっ、」
達真は道場へと戻りひたすら練習試合を繰り返していたのだが
やはり体がおかしい。睡眠はしっかりとってあるし
もう迷いなどないはずだ。なのに時々目が見えなくなる。
足が重く感じる時も多く今までなら確実に勝てる相手にも
10回やって3回は負けている。
「そうなんだ。それで負けてきちゃったんだ。」
「言っておくが勝ち越してはいる。」
「負けちゃった時点で敗者は敗者だよ。」
あれ以来何故か最上火咲とはよく会っている。
名分上は
「お前が誰か人を殺して面倒なことが起きないように見張らないとな。」
「せっかくのあなたがふらふらって
死にに行かないように見張ってないと。」
とごまかしている。
そう言いながらも胆力や体力を確かめるという目的で
愛のあるセックスも連日行なっている。
「ねえ火咲ちゃんって矢尻くんと付き合ってるの?」
8月に入ったあたりで久々に会った穂南。
「言っておくけど恋愛じゃないよ?互いに監視が目的だもの。」
「いや、でも、あれから何回かデートとか、
せ、せせ、セックスとかしてるんでしょ?」
「してるけどそれが何?私達の場合そこに感情はないわ。
・・・私が感じているとすれば憂いね。」
「憂い?」
「・・・あいつ、どんどん目が見えなくなってきてる。
それだけじゃない。足・・というか腰から下の反応が鈍くなってきている。
多分そう遠くないうちに失明するし下半身は動かなくなる。」
「・・・なにかの病気かな?」
「・・・多分体育祭の時のあれと一ヶ月後のあの雨の日が原因だと思う。」
「体育祭って矢尻くん結構高いところから落ちてたね。それ?」
「そう。それで脊髄を損傷したんだと思う。
で、あの雨の日は多分りっちゃんとの戦いでのダメージだと思うけど
私と会った時頭から血を吹いて倒れた。
それで大脳皮質が壊れ始めたんだと思う。」
「・・・そんな・・・・」
「でも、私は謝らない。
謝ってしまえばあの人は絶対に独りで死にたがるから。」
そのまま二人は達真の家に向かった。
既に権現堂が先にいた。
「権現堂くん、矢尻くんは?」
「ああ。道場に忘れ物らしい。」
「・・・紅衣はここにいて。」
「あ、火咲ちゃん!!」
「待て最上!お前は達真を・・・・」
「・・・殺すわ、あの人のために。」
それだけ言って火咲は走り出した。
「穂南、あいつはどうなってるんだ?」
「よくわからないよ。
でも最近の火咲ちゃんは変わったと思う。
多分矢尻くんのおかげだと思う。
・・・でもそれでどうして矢尻くん
を殺そうとしているのかは分からないよ・・・。」
「・・・・あの二人にしか分からない世界なのかもな。」
一方。達真が通っている道場。
そこに火咲がやってくるのだが達真は道場前の階段に倒れていた。
「・・・・・」
様子を見る。意識がないようだ。
とりあえず救急車を呼んでおいた。
それから数時間。
達真が意識を取り戻すと病室だった。
「・・・ここは・・・?」
「病院だよ。」
火咲が隣に座っていた。
「・・・容態は?」
「ただの脳震盪。でも、それはあくまでも今回だけの話。
MRIとかってので検査したところ脊髄損傷と大脳皮質の損傷が
見られてるそうよ。」
「・・・大脳皮質・・・か。」
「脊髄損傷のせいで少しずつ下半身が麻痺していく。
大脳皮質損傷で視力と空間認識能力が落ちていくそうよ。」
「・・・・そうか。」
「・・・・・・・・・・。」
沈黙。思えば少し前までは互いに口を利かなかった気がする。
あれからまだ大した時間は経っていないはずなのに不思議なものだ。
もうひとり口を利かなかった相手はいたがそいつはもうこの手で
殺めてしまった。後悔も興味もないが。
「ねえ、あなたは最後に何を望む?
ヨハネって子との再会?全国大会優勝?
安らかな死?私を未亡人にすること?」
「・・・・それもいいかもな。」
「・・・それとも、私との決闘?」
「・・・ああ、そうだな。・・・ああ、そうだ。
俺はお前と決着をつけたい。死にゆく命ならば
この身も以て全てを懸けてお前と最後の死合を行いたい。
セックスをいくら重ねようともそんなんじゃ届かないくらいの
互いに互いを殺す力の重ね合い。
それこそが俺の最後に望む願いにふさわしい。」
「・・・うん、わかった。なら明日。
明日、ふさわしい場所を用意するから。」
そう言って火咲は退室した。
それから声もなく涙を流した。
そして翌日。
病院側に黙ったまま達真は道着を着て火咲に
指定された場所に向かった。
とは言えそこは達真の自宅である。
「・・・決闘は午後11時からか。それまではゆっくりしていよう。」
部屋に行く。だが、何故かどこの部屋もカギが壊れていて入れなかった。
唯一空いていたのが陽翼がかつて使っていてそして殺した部屋だけだった。
「・・・・・陽翼、俺はもうすぐ逝く。
笑えるだろう?俺はお前と同じで大脳皮質が壊れたんだ。
お前とは症状は違ったけれどそう長くはない。
だけど、これは俺の願いなんだ。頼むからそっちに行くまでは
化けて出ないでくれよ。」
陽翼が座っていた椅子に座って
少しの間眠りに入った。
「・・・・」
家の外では火咲とシフルがいた。
「I expect nothing other than it if I take an enemy of Johnnes.」
「何言ってるのかはわからないけれど
あなたはもう帰っていいよ。」
「・・・・・・」
シフルは去っていく。
「・・・せめて最後の眠りはあの子と一緒に。」

------------------------- 第24部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
24話「征~Resolution~」

【本文】

「征~ReSolution~」

・そして、8月3日午後11時。
矢尻家の庭で構える達真と火咲。
「・・・・・・・。」「・・・・・・・・。」
言葉はいらない。互いに初めて対立したあの時のように
ただ相手を殺す対象として一切の余裕や油断を排除して
構えたままに月夜に照らされた相手を見やる。
そして一陣の夜風が二人を通り抜け、過ぎた瞬間に走り出す。
やはり脚力は火咲の方が遥かに高く、
走り出したばかりの達真の眼前にまで迫り膝を額に放つ。
「・・・っ!」それをギリギリで回避して足払い。
だが、それを読んでいた火咲は跳躍して回避。
真上に回って達真にかかと落とし。
一発でも体に触れれば元には戻らない。
だから防御も捨てて回避に専念。
着地する寸前の火咲の背後を奪いその背中に前蹴り。
「くっ!」前のめりに倒れる火咲だがすばやく体勢を立て直してから
バック転の連続で距離を取る・・・かと思えばすぐに距離を縮ませて
達真向けて廻し蹴り。
「ぐうううううっ!!!」
回避する寸前に視界がぼやけたせいで直撃。
凄まじい衝撃が脇腹を貫通する。
が、その足を捕まえて関節を決める。
「な、」
「せっ!!」
立っている足の脛に廻し蹴りを叩き込んでから
捕まえた足で体を持ち上げて投げ飛ばす。
受身が取れずに火咲は庭石に頭から激突し、
即頭部から流血。
対する達真も左脇腹が3センチ削られ
口から砕けた骨のかけらを血に乗せて吐く。
互いに衝撃でよろけるし足はガタガタだ。
だが、損傷程度など一切の阻害には値しない。
再び互いに走り出して攻防を畳み掛ける。
火咲の膝蹴りを威力を殺しながら受け止めてから
彼女の内股に膝蹴り。次いで丹田にワンツー。
ひるんだ火咲に迫りその動かないであろう右手を掴み上げて
空いた右脇腹に廻し蹴りを叩き込む。
「くっ・・・・!」
それに耐え、掴まれた右手を使って達真を投げ飛ばす。
そして倒れた達真の右手をかかと落としで粉砕する。
「があああああああああああっ!!!」
肘と手首の間にかかとがぶち込まれ下の地面が削れる。
立ち上がれば完全に右手は肘から先に神経が届かなくなっていて
ぶら下がっていた。
しかしそれでも立ち止まる理由にはならず走り出す。
火咲の下バラにラリアットを打ち込みそのまま担ぎ上げて走り出す。
「っ!?」
「はああああああっ!!!」
10メートルほど走って急停止。右足を軸に一回転してから
火咲を朽木落としの要領で投げ倒す。
「くううううううっ!!」左手から地面に叩きつけられて
左手が妙な方向に折れ曲がるばかりか肘から出血する。
「くっ・・・・あああああああああああああああ!!!!!」
初めての激昂。地面を強く蹴り上げて高く速く跳躍。
ミサイルのように達真めがけて発射されていく。
高速を以てすべてを破砕する飛膝蹴。
恐らくこれは回避できないしましてや防御なんてできない。
ただ対象を粉砕するだけの一撃。
ムエタイにとっては基本にして最大の武器。
だから達真は防御も回避もしない。
2年前、拳の死神との戦いでは陽翼との生活が負担になっていたため
躊躇して出来なかった唯一にして最大の奥義。
今でも右腕がないためにその威力は半減以下だろう。
だが、必ず勝てる。
「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁりゃあああああああああああっ!!!!」
火咲の膝を胸で受け止める。
当然紙粘土を指で破った時のように背中から火咲の膝と、
無残に血肉が飛散する。
が、その直後に達真の全てを懸けた左拳が
火咲の胸に打ち込まれた。
「帳返し・征!!!」
「!?」
命中した火咲の右胸の乳房がちぎれ飛ぶ。
「くっ・・・・・・うあああああああっ!!!!」
錐揉み状に回転して火咲は達真の右方に倒れた。
破れた乳房から流れ出る血液と乳液の中に
沈んだまま火咲は起き上がってこない。
「・・・・・・・」
達真は何も言わないまま部屋へと戻っていった。
それから、達真は自分と言うものを失った。
陽翼のいた部屋に壊れたおもちゃのように座り込む。
幾星霜を迎えたのかそれとも僅かな刹那だけか。
その頭には既に時間という概念が理解できなくなっていた。
あるいはこの部屋は時間という概念から忘れられているのか。
どちらにせよ既に今の達真には時間が流れることを理解できていない。
「・・・・今、終わらせてあげる。」
それから、初めて耳が刺激された。
目にも刺激が入った。片胸が潰れた少女の姿だ。
その足が地面を離れた次の瞬間には自分の脳漿が爆散していた。
やがて時は過ぎた。
権現堂と穂南は姿を消した友人を探し続けている。
やがて片方は変わり果てた姿で発見された。

「・・・・ここは・・・・」
リッツは2ヶ月ぶりに覚醒した。
不調どころか全身の改造すら修復されていて
完全に通常の人間と同じ体となっていた。
また、隠れ家に戻ってみると既に引き払われていた。
シフルとは連絡が付かなかった。
それに、あのレズレズな妖怪先輩も姿を見かけなくなった。
「それで、君はどうする?」
「あなたは?」
「甲斐機関の主・・・の夫かな?」
「・・・あの方はそんなお歳でしたか。」
「いや、年齢自体はそんなに君と変わらないよ。
で、君はどうする?行く宛がないんだろう?」
「・・・・そんなものはある人の方が少ないのでは?」
「・・・かもね。」
「私はまだ生きる意味を見つけられてはいませんから。」
そうしてリッツ=黒羽=クローチェは10月の学校へと向かっていった。

------------------------- 第25部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
人物設定資料

【前書き】
改訂版です。

【本文】
紅蓮の閃光(スピードスター)の外伝であり
時期的には本編の21話~真夏の閃光少女までの間。

・矢尻達真(やじりたつま)
1996年4月1日生まれ。15歳。
身長:164センチ
体重:55キロ
本編の主人公の一人。
実戦空手を10年間習っている。
過去の経験から突出した何かを得るより平凡であることを
意識して日々を過ごしていくことを決めた。
しかしそれでも空手でも学業でも成績は優秀。
本来左利きであったが幼少期の怪我で握力が低下してしまったため
右利きに矯正した。利き足は左のまま。
愛した人である陽翼を壊し自らの手で殺してしまった絶望から
あまり他人と関わることを避けるようになってしまった。
しかしそれ以前からの仲である権現堂や三箇牧相手は素の性格を見せる。
陽翼をその手で殺してしまいたくさんの人を傷つけながらも
生きながらえている自分が許せないためか
それに比べれば他のどんな人間の命でも肯定するようになった。
それと同時に他人への理解をやめてしまっているためか
リッツを陽翼の親友であるシフルと勘違いしたまま、
そしてその手で殺したと思ったまま結末を迎えた。
どんなに大切だと想っているモノでも
心の底までは愛せずやがて捨ててしまうタイプ。
外見モデルはないが性格モデルなどは
「心輝人形(クッケ・パツェリナ)」における伊王野塔矢
あるいは作者におけるマイナスの理想。

・最上火咲(もがみひさき)
1996年6月6日生まれ。15歳。
身長:136センチ
体重:37キロ
3サイズ:86・42・67(Kカップ)
主人公及びヒロインの一人。
幼い頃の複雑な家庭から来る心労や薬物レイプなどの影響で
両手の手首から先に神経が届きにくくなってしまった少女。
握力は大体1~2キロほど。そして彼女の母胎は完全に壊れている。
しかしムエタイを4年間習っていて
肘や膝は凶悪な武器そのものとなっている。
まともな教育をされなかったからか倫理観などはかなり歪んでいて
気分次第で殺人することも厭わない。
気に入ったものほど勿体無いくらいあっさり壊したくなるタイプ。
達真に対しては「殺したくなるほど愛してる」ならぬ
「愛しちゃいたいほど壊したい」感情を抱いているが
最終的に通常の愛情になったらしい。
なおリッツに関しては最初から最後まで好感度マックスで割と一目惚れ。
紅衣に関しては最初はただのクラスメイトだったが後に親友同士に。
さりげなく本編で一番多くの人物と関わり
それなりに友好な関係を築けていた。
しかしあらゆる意味で権現堂は天敵。
最後は一人姿を消すが・・・。
紅蓮の閃光(スピードスター)でも名前は出ないが登場する。

・リッツ=黒羽(くろはね)=クローチェ
2009年1月14日製造。便宜上12歳。
身長:156センチ
体重:48キロ
3サイズ:71・60・70(Aカップ)
本名:黒羽律(くろはねりつ)。
三船の研究所でクローチェ博士によって
赤羽美咲をモデルにクローニングされた少女。
特別な個体というわけでもなく無数に存在するクローンの1体に過ぎない。
元々外の世界で生活する想定がされていなかったからか
飲食は出来ず代わりに24時間に1度カプセルによる
メンテナンスを必要とする。
このカプセルは365日ごとに
パスワードを更新しないと機能停止してしまう。
火咲に対しては時折助かるが正直迷惑な先輩として認識している。
達真に対してはシフルが達馬に対して強い憎しみを抱いている時に
人格のモデリングが行われたためか無意識に強い敵意を持っている。
赤羽クローンの中でも後期の個体だからか性能は高めで
よほど激しく損傷していなければ
たとえ死んでいてもカプセルで回復できる。
まともに格闘技を覚えさせていれば
赤羽美咲とも互角に渡り合えるだけの能力がある。
もちろん逆襲を恐れてかそのようなことはされなかった。
白羽睦月とはほぼ同時期に作られた姉妹のようなもの。
他の個体と比べて姿を似せる必要が無くなったからか
あまり赤羽と似ていない。
しかし顔と声はほぼ同じ。
3人の主人公の中では唯一未来に生きる結末となった。
紅蓮の閃光(スピードスター)でも登場するが本名しか名乗っていない。

・権現堂(ごんげんどう)
1997年3月31日生まれ。14歳。
身長187センチ、体重94キロ。
達真の数少ない親友。
とても中学生とは思えない巨漢。柔道部。
しかし本人はプロレスが好みらしい。
作中の人物では数少ない陽翼と面識のある人物。
性格的にも握力的にも戦術的にも火咲では絶対に勝てない相手。
だからかメインキャラで唯一心を開いてくれなかった人物。
あとさりげなく馬場久遠寺と誕生日が一緒。
あと下の名前が設定されていない。
似た名前で同い年で不動の決闘が
どうの言うあのキャラ同様昇でもいいかもしれない。

・穂南紅衣(ほなみこころ)
1996年11月23日生まれ。14歳。
身長152センチ、体重44キロ。
3サイズ:74・60・73(Bカップ)
達真、火咲、権現堂のクラスの委員長。
この学校の生徒にしては珍しく運動音痴で普通の生徒。
ある意味この作品の良心。
本当は終盤にもう一話彼女の観察日記を入れる予定だった。

・シフル=クローチェ
生年月日不明。便宜上13歳。
身長151センチ、体重40キロ。
3サイズ:3サイズ:71・60・70(Aカップ)
リッツのクラスに転校してきた少女。イギリス人。
日本語が全く話せず常に英語。
リッツ含め全ての赤羽クローンのオリジナルとされている少女。
クローチェ博士の娘とされている。
メンテナンスカプセルのパスワードは
もちろん彼女達の頭脳に干渉する方法まで有している。
火咲同様レズだがその火咲はリッツ同様苦手としている。
本編では彼女の正体が明かされることはなかったが
紅蓮の閃光(スピードスター)では明かされている。

・三箇牧巻太郎(さんがまきかんたろう)
1998年9月29日生まれ。12歳。
身長166センチ、体重60キロ。
達真の空手の後輩にしてライバル。
達馬と違い一撃必殺をポリシーにしている。
本編では無念すぎる退場の仕方をしたが死んだわけではない。

・陽翼(よはね)
1996年1月1日生まれ。享年14歳。
身長149センチ、体重45キロ。
3サイズ:77・58・72(Cカップ)
名前は出せないあの人の隠し子。ソバアレルギー。
食べる蕎麦だけでなく原料であるソバ自体のアレルギー。
何だか恒例になってしまいつつある今作代表のボクっ娘。
アレルギーによるアナフィラキシーショックと酸欠により
大脳皮質をひどく損傷してしまった結果精神崩壊に。
なお仮にそのようなことが起こらなかったとしても
達真のタイプから近い将来別れていた可能性も。
お互い幸せそうだったから問題ないが
互いにとって確実に不幸な出会いであった。

・陣崎(じんざき)
当時47歳。
達真の世話係であり母親。
達真もシフルも世話になったが結末はバッドエンドに。
陽翼を失ったあとの動向は不明。

・赤羽美咲(あかばねみさき)
1997年1月14日生まれ。14歳。
紅蓮の閃光(スピードスター)のメインヒロイン。
少ししか出てこないが重要人物である。
赤羽側とは違いシフルがその存在を名前ごと知っていたことから
シフルは自分の正体に気付いていた可能性がある。
ニックネームしか出てこないが久遠も登場している。

・甲斐廉(かいれん)
1994年1月14日生まれ。17歳。
紅蓮の閃光(スピードスター)主人公。
本編では拳の死神と言う名前でしか出てこない。
3人の主人公全員とそれなりに関係しているが
本人にとってはかなり些細なことであるためか
紅蓮の閃光(スピードスター)においては忘れている