X-GEAR10章「Xignition」

【第10章】
10章「Xignition」

【サブタイトル】
154話「開闢と終焉」

【本文】
GEAR154:開闢と終焉

・西暦23年。夜明け前の頃合いで、しかし夜空はなかった。曇天と闇を誘う暗黒の太陽が二つ地平線と大空からその邪悪な輝きを放っていた。
片方は周囲の野山を軽く超える大きさを持つ邪神アジ・ダハーカ。もう片方はもう1つの太陽と言ってもいいように、まるで地球に蓋をするかのように宇宙の彼方からやってきたスライト・デスの本星。アジ・ダハーカの出現と咆哮はいずれもスライト・デスの本星を迎撃するためのものだがしかしそれにより地球全土には病魔と冷気が容赦なく押し寄せていた。
「があああ!!寒い、寒い寒い……」
地球にまだ残っていたスライト・デスの怪人達がその悪辣な環境の襲撃を受けて身動きを鈍らせていく。そこへ同じく残りわずかとなったダハーカの軍勢が奇襲をかけては怪人達を次々と撃破していく。しかし怪人達の数は減らない。地球に最接近しているスライト・デスの本星からは夥しい量の怪人達が瞬く間に防寒対策を施された状態で地球へと飛来しているためだ。さらには怪獣化したゴーストのような全長100メートル単位の宇宙怪獣達も次々と地球に投棄されていく。
「……ふむ。具合が悪いようですね」
学園都市。フォルテが15体の怪獣を同時に迎撃する。しかし防戦一方であり、相手が学園都市の中に入るのを阻止するのでやっとの状態にある。
「グラビティツール!!」
学園都市内部では舛崎が重力と気圧の壁を作り出し、押し寄せてくる病魔と冷気をシャットダウンする。しかし完全には防げないからか戦っていないにもかかわらず学園都市の生徒たちは次々と咳き込んでいき、時には吐血して倒れる。
「レインシャワー!!」
美香子が局地的ながら雨を降らせて少しずつだが湿気を回復させていく。ないのよりはましだがしかしそれでもまだ凶悪なまでの湿気が学園都市全体を支配していた。
「一体何が起きているんだよ……」
「果名が何かをしたんだろうが……」
舛崎と大が地平線の彼方に少しだけ見える禍々しいシルエットを見る。そしてその形を変えるようにスライト・デスの怪人部隊や宇宙怪獣の軍勢が学園都市へと迫ってきていた。
「……私を始末するためか?」
フォルテは怪獣の1体を殴り倒しながらその目的を模索する。自分(フォルテ)はスライト・デスの意思を利用する形で学園都市の支配を任されていた。しかし実際にそれは裏切られ、人類に最後の希望を育てさせるきっかけを作った。だから自分を始末するためにスライト・デスが動くこと自体には何の疑問も持たない。むしろあの黒主果名達がここまでやってくれるとは一週間前には思わなかったことだ。だが、どうしてこれだけの戦力を学園都市に集中させるのか。
「……あなたは何か知っているのかな?」
背後。学校の屋上。枡藤と泪に支えられ、須田がその亜GEARを用いて傷を治す。その人物は夏目群青だった。群青がダハーカの軍勢を率いてスライト・デスと戦いながら移動して、しかし他のダハーカが全滅し、自身も大ダメージを負ったところでフォルテに拾われたのだ。
「あなたの本来の力は凄まじいものだ。それは私にも分かるがしかしどうしてその力を1%も引き出せないほど弱まっているのかな?」
「この50年一度として食事を行っていないのでな」
最低限の怪我を塞いだ群青は立ち上がり、戦場を見る。
「スライト・デスは地球を終わらせる。地球の何倍もの大きさの本星がここまで接近しているのだ。それに呼応して我が王は目覚めた。だが力は十分ではない。残り少ないダハーカの力を集めなければこの星を守り切ることは出来ないだろう」
「それでわざと敵を学園都市に集めたと?踏み潰されて終わりなのでは?」
フォルテは吹かす。しかし実際に今のは余裕ではなく苦し紛れのようなものだ。怪獣達の進撃によって防衛ラインを200メートルも下げられている。その上先程100体以上の怪人達が防衛ラインを突破したのが見えた。感覚を伸ばせば町で舛崎達が迎撃しているのが分かる。しかし、圧倒的な戦力を前にどこまで防戦できるかは全く不明。少なくとも勝利することは難しいだろう。


・X是無ハルト亭。
「地球人類どもを直ちに撃滅する!!」
その言葉を放ちながら本星からこの時代のマグマスター、トリケランチャーが部下の怪人達を引き連れて地上に向かって降りてきた。
「あかはら・めもはら・らりろれはりぴょ~ん(棒)」
「ジャックオン!!」
「「経営幼女戦士アカハライダーズ、ご無沙汰していますが只今見参!!」」
同時に紅葉と詩吹が変身。
「エクシードプラズマー!!」
「フルメタルジャック!!」
さらに追加変身を重ねて2体の幹部怪人を迎撃する。
「俺達も行くぞ!!」
シン達5人が走りながら変身して部下の怪人達を次々と打倒していく。
「ふん!!」
マグマスターが吐き散らした炎が二人のアカハライダーの進撃を阻止すれば次の瞬間にはトリケランチャーが大空を爆走して二人をまとめて弾き飛ばす。
「くっ!!久々の出番であまりに実力が落ちてる!?」
「紅葉先生、メタはちょっと……」
「でもインフレが……!!」
二人はぶつくさ言いながら地面に叩き落とされ、しかしすぐに迫りくるトリケランチャーを飛び蹴りで迎え撃つ。しかし迫りくる敵の方が圧倒的にパワーが上だった。
「ううううう!!!」
「どうした人間ども!少しは抵抗したらどうだ?それともこれが貴様たちの言う抵抗なのか?」
笑いながらトリケランチャーは二人を片手で薙ぎ払い、着地。すぐ近くにいた桜子たちに向かって突進を開始する。
「いやあああああああ!!」
「よいしょっと」
悲鳴を上げた桜子。一瞬で狂子が桜子と燦飛に目隠しをすると同時、全裸のボディビルダーに変貌を遂げてトリケランチャーを真っ向から受け止める。
「何!?」
「いつでもマッスルハッスルsuperbeautiful master oneイシハライダーWD!!」
そのまま変身を完了すると同時、廻し蹴りの一撃でトリケランチャーを蹴り飛ばす。
「きゃあああああああああああああ!!!なんかすごい人が来た!?」
振り向いた二人のアカハライダーが悲鳴を上げながらマグマスターの攻撃を受けてねじ伏せられる。そのままマグマスターが追撃をしようとしたその口にイシハライダーが飛び蹴りをねじ込む。
「ふっ、君達は些か脆弱すぎる。少しは私を見習うのだぁぁぁぁッ!!!」
着地と同時に背後から突進してきたトリケランチャーを振り向かずに片手で受け止め、マグマスター諸共軽々と持ち上げてはアジ・ダハーカの方へと投げ飛ばす。
「!!」
接近をしたためかアジ・ダハーカは投げ飛ばされてきた2体を見ると同時、目からビームを発射。マイナス2億度の冷凍光線が2体の幹部怪人を一瞬で消し飛ばした。その結果を見ることなくアジ・ダハーカはひたすら本星に向かって口から破壊光線を連射する。アジ・ダハーカが一撃放てばスライト・デス本星の質量が2%ずつ削れていく。しかし、その衝撃の反動が地上にも襲ってきている。本星から送られてきた200体以上の怪人は着陸を前に消し飛んでいき、東京ドーム2万個分もの敷地の森林は瞬く間に散っていく。
「……一体何なんだ……!?」
シリアルが病魔の風に耐えながらついに戦場へ到着した。同時に冷凍光線を凌いで着陸途中の30体の怪人と遭遇する。
「スライト・デスか……」
呟いてからシリアルは走り出す。相手はまだ降下中でありこちらには気づいていない。見たところ相手に空を飛べるものはおらず、こちらは自由に飛行が出来る。これは好機だ。
「行く!」
「な、何だ!?」
大地を蹴るのと同時に翼をはばたかせて一気に加速してミサイルのように敵に向かって突進を開始。両腕の犬の口が180度完全に開くと、牙がずらりと並び、剣山のようになる。そのまま一番近くにいた怪人に突撃。緑色の血しぶきと悲鳴を上げながら怪人の体から力が抜けていく。とは言え相手はスライト・デスの怪人。人間ならともかく今の攻撃で死ぬことはないだろう。だから素早くローリングクレイドルを使って相手の背後に回り込み、右の腕と翼で相手の伸びきった両腕と顔面を、左の腕と翼で相手の両足をがっちりとホールド。
「タワーブレイク!!」
そのまま亜音速で大木に向かっていき、着地の衝撃で相手の両手足、首、背中を同時に粉砕した。
「何だこいつ、羽があるぞ!!」
「だがスライト・デスではないようだ!」
着地に成功した怪人達が次々と臨戦態勢に入っていく。その動作をもはや振り返ることなく緋瞳で見切ったシリアルは全身ズタズタにされた怪人を担いだまま怪人達の群れへと向かっていく。
「はあっ!!」
接近すると、回転を加えながら担いでいた怪人を敵の群れへと投げつけ、陣形を崩す。関節が破壊されだらんと垂れたその手足は鞭のようにしなり、立ったままでいた怪人3体に絡みつく。
「今だ!!天空パッケージ!!」
何とか振り払おうとしている3体の背後に回り込んだシリアルはその両腕で投げた怪人の両手足を掴み、囲むようにして3体の怪人をホールド。そのまま翼を用いて空へと飛翔。
「エアリアルドロップ!!」
高度1000メートルまで飛翔すると亜音速で急降下。そのままバックドロップの要領で3体を後方の地面に叩きつける。
「がああああああああっ!!」
悲鳴を上げながら先程の1体諸共3体の怪人が大爆発する。
「さあ、次は誰だ?」
「……こいつ、とんでもなく戦い慣れしてるぞ!?」
「だが、所詮は地球人の小娘がひとりだけ!数で押しつぶせ!!」
26体の怪人が雄たけびを上げながらシリアルへと進撃を開始した。
それから1時間後。
「……間に合わなかったのか?」
果名、ライラ、ユイムが到着した時、そこには両手と両翼を引きちぎられ、これでもかと言うほど凌辱された血だらけのシリアルの姿が転がっていた。周囲には怪人の残骸が散らばっているが数が少ない。まだ近くに怪人の大群が、それこそシリアルをここまでの惨状にした数がいるのだろう。
「……聞いたよライラ君。あの子、僕とライラ君の遺伝子から生まれた子なんだって?」
「そうみたいですね。ブランチによって作り出された人造のアルデバラン星人……」
「……」
「どうしたのアルデバラン?おなかでもすいた?」
「腕だからお腹ないもん。それよりかもあの子、僕と鏡合わせみたいなものなのかなって」
「……で、あいつはどうする?まだ息があるみたいだが……」
「回収します。僕としても彼女を放って置けません」
ライラは注意しながらもシリアルに近付く。体中から出血が止まらない。しかしそんな赤だらけの姿ではあるが一瞬で分かったことがある。
「……この子、ユイムさんと同じ体をしているんだ……」
「え、そうなの?」
「はい。顔や天死の部分などは僕そっくりですけど体に関してはユイムさんそっくりなんです。毎晩見てる僕が言うんですから間違いありません」
「……そっか」
いつもなら冗談を言うところだが今回はそうしなかった。


・高原。完全に菌の温床となりそこの空気を吸うだけで全身が末期がんに侵されそうな邪悪な地域。気温もマイナス30度を超えてとても生物が住める状態ではない。しかしその場からアジ・ダハーカは一歩も動かず無数に迫りくる怪人達を百体単位で次々と消し飛ばしていく。その中でスライト・デスの怪人ではない何かがその場に急速接近していた。
「まずはお前からだあああっ!!」
ヒエンだ。右手に万雷を引き抜き、全力で真空を切り裂くと発生した烈風と稲妻が混ざり合い、一筋の竜巻となって真っすぐアジ・ダハーカへと向かっていく。
「……ナイトスパークス」
「へえ、神様は人語を解せるのかい?いいおつむしてやがるなぁ?」
無傷で振り向いたアジ・ダハーカの前でヒエンが着地。
「何はともあれお前の過剰防衛を止めないと地球が壊れちまう。スライト・デスならこっちが倒してやるからまずは力を寄越してもらおうか?」
「断る。貴様のような矮小の存在に地球を任せるわけにはいかない。かの小娘の小間使い程度で余に何を申せると言うのだ?」
「へっ、オーディンを小娘扱いか。何はともあれストレス解消にもなってもらわないとな」
ヒエンが走り出す。毎秒毎に稲妻のミサイルを連射。一発一発が3号機を消し飛ばせるだけの威力。しかしそれが数百発当たろうともアジ・ダハーカにダメージはなく、ただ吹雪と菌の温床に轟雷が加わっただけだ。
「んなくそがああああああああああああ!!!」
「怒り任せのサルが……」
地を蹴って握った拳を叩き込んで来たヒエンを軽く腕を振り回すだけで吹き飛ばす。
「ぐっ!!」
激しく地面に叩きつけられ、クレータをいくつも作り、しかしヒエンもまた無傷。
「サテライトボンバー!!」
一息つくと同時、万雷の刃先に直径3メートルほどの電気の塊を生み出し、それをサッカーボールのようにアジ・ダハーカめがけて蹴り飛ばす。命中すれば文字通り島程度なら軽く消し飛ばせるものだ。その威力を鑑みたのかアジ・ダハーカはこれまでの無防備ではなく開いた手でそれを受け止める。
「……ぬ、」
命中した途端に発生したエネルギーが吹雪をかき消し、一時的にアジ・ダハーカの病原菌の風が止む。
「うおおおおおおおおおおおあああああああああ!!」
再びヒエンが地を蹴ってミサイルのようにアジ・ダハーカに突っ込んでいく。
「死ねよや神様あああああああああぁぁぁぁぁッ!!!!」
アジ・ダハーカの二つの首をまとめてぶった斬るようにヒエンは万雷を巨大化させて横振りで叩き込む。実際、そのまま斬首とはいかなかったが1本目の首を3分の1くらいは切り裂いた。しかし、そこで。
「なるほど。かの眷属にしては異常なまでの力だ。だが、所詮は命ある程度の物が我々の真似をしているだけに過ぎない」
「あん!?」
「まずはその力を封じさせてもらおうか」
「!」
次の瞬間、ヒエンは真っ逆さまに地面に落下した。
「……な、なんだ!?」
気付けばその手の中に万雷はない。そして何度念じても万雷は出て来なかった。
「馬鹿な、どうして万雷が……それに万雷だけじゃない、ただの電撃も出ないだと!?」
「力を封じると言った」
アジ・ダハーカは斬撃で受けた傷を修復させながらヒエンを見下ろす。
「馬鹿な、どうしてそんなことが出来るんだ!?」
「愚問。余は邪神と言えど神。そして貴様にその力を与えたものもまた神。神の力を一部だけ貸し与えられている程度の貴様からその力を奪うことくらいあまりにもたやすいことだ」
「……くっ、う、うううう……!!」
ナイトスパークとしての力を奪われた。零のGEARもない。プラネットの力も目の前にいるアジ・ダハーカが所有している。つまり今自分には何の力も残っていない。それを理解するほどに恐怖と絶望がヒエンを襲う。それに伴い、昨夜のことまでトラッシュバックされた。
「……ば、罰だってのか……!?」
「廉君!!」
声。見れば千代煌が飛行形態で飛来していた。
「ほう、いずれ神に肩を並べる可能性を持った機体か」
「廉君は逃げて!!大体理解したから!!」
「だ、だけど……歩乃歌ちゃんが……」
「格好悪いよ廉君!!」
怒号。それを合図に千代煌が加速して景色を塗り替えるほどの攻撃を次々と繰り出す。アジ・ダハーカにダメージはない。だが、怯ませてはいる。
「くっ、性殺女神を倒したっていうのにどうして効かないのさ!」
「性殺女神か。あれは所詮下位の神。いや、その眷属に過ぎない。コップ一杯の水と海を比べるようなものだ」
「……とんでもないね本物の神様ってやつは……でも、終億の霹靂なら!!」
変形しながら千代煌が引き抜く。そしてそれを先程ヒエンが万雷で切りつけた部分に叩きつける。
「ぬ、」
「至上の万雷と終億の霹靂はとんでもない武器なんでしょ!?神様だって死んじゃうくらいにさ!」
傷が癒えていなかったこともありその刃は先程以上にその神の皮膚や肉を深く切り裂いていく。そしてついに刃が首の半分以上に達した時。
「なら、これはどうか?」
「!」
アジ・ダハーカはそれに対する防御をしなかった。代わりにこちらに背を向けて無様に逃げるヒエンに向かってビームを放ったのだ。
「くっ!!」
終億の霹靂を引き抜き、変形して光速の数倍の速さで移動してビームを先回りする。しかし防御の手段はなく、千代煌はその攻撃を真っ向から受け止めた。
「あああああああああああああああああああ!!!」
「っ!歩乃歌ちゃん!?」
衝撃と悲鳴に振り向くヒエン。
「……こんなことなら防御装備でも用意しておくんだったかな……?」
呟いた歩乃歌。次の瞬間には千代煌は黒い光に包まれて大爆発した。
「歩乃歌ちゃあああああああああん!!!」
ヒエンの悲鳴は爆風に消え、ヒエンの体が遠くまで吹き飛ばされる。邪神の一撃は大地や山脈をも大きく削り砕き消し飛ばし、爆発が収まる頃には荒野しか残らない。そしてその荒野に再び汚染された空気と吹雪が彩り始めた。
「……みんなは……どこ……?」
やがて、そこから遠く離れた地。血だらけの右足を引きずりながらヒエンは涙と痛みと流血でほとんど視界が塞がっている状態のまま歩き続けていた。零のGEARもナイトスパークスとしての力もザインの風もプラネットとしての力も失いただの男子高校生になったヒエンはひどく情けない、無残な姿で啜り泣きながら汚染された大地を歩き続けた。

------------------------- 第169部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
155話「籠城、学園都市」

【本文】
GEAR155:籠城、学園都市

・邪神アジ・ダハーカの目覚め、スライト・デスの空襲。その二つは同時に始まり、そして現在進行形で地球の形状を変え続けている。地球上のほぼすべての海は汚染されつくされて毒沼のように変わり果てている。この毒色の海をもとに戻そうものなら数百年は軽く要するだろう。
「まさかこれほどとはな」
校長がコーヒーを一口飲みながらため息で吐き返す。その場にいた蛍達も大体同じ心境だ。現在蛍達は学園都市に向けて飛空艇を走らせている。アジ・ダハーカの近くにいては例えX是無ハルト亭や飛空艇の中にいようとも確実に体調を崩しそのまま死んでしまうと判断したからだ。
「……スライト・デスを何とかできると思って学園都市を離れて2週間。ようやく地球上からスライト・デスを殲滅できたと思えばまさか邪神の襲来によって地球全土が汚染されてしまうとは」
校長は窓から外を見下ろす。かつてもお世辞でしか綺麗と言えなかった風土だがしかし今となっては枯れ尾花すら見かけない、完全に殺されつくされた最悪の大地となっている。こうなれば未だに殺し合いを続けている学園都市の少年少女達ももう1か月と持たないだろう。しかしそれでもこのまま飛空艇で空の上に居続ける事は出来ない。一度どこかで食料などを調達する必要がある。その食料ももはやほとんど見込めない状況ではあるが。
「なあ白百合。やっぱり一度俺達の世界に戻った方がいいんじゃないか?あっちも確かに油断ならない状況だけどそれでもこの世界よりかははるかにましなはずだ」
「……歩乃歌が戻ってくるまではここにいるわ」
しかし蛍は知っている。数日前に千代煌の反応が途絶えたことを。百連程度ならまだしも千代煌は歩乃歌の切り札だ。それが撃墜されたとなれば歩乃歌も無事では済まないだろう。それに歩乃歌だけじゃない。あの時歩乃歌とヒエンは邪神を止めてくると言って独走した。再びあの二人を一緒にするのは気が進まなかったが現時点での最強戦力はあの二人だ。あの二人でなら邪神を止められるだろうし止められなかったらもうどうしようもなく無理だ。そして数日前に千代煌の反応が途絶え、現在も邪神の活動が続いていることからするに二人まとめて倒されてしまった可能性もあり得る。……いやそれが一番高いとみるべきか。今この状況自分しかいなければとっくにアズライトで歩乃歌の探索に向かっていた。
「……」
だが蛍はモニターを見る。そこは医務室だが現在必要がない食堂と格納庫のスペースを再構築してもはや1つの病院としているがそこには20人を超える仲間達が倒れて治療を受けている。紅葉と詩吹もスライト・デスの怪人や幹部と戦ったらしくかなり消耗している。シン達もそうだ。蛍がこの飛空艇を離れれば彼らは野に放たれることになりそのまま死んでしまうだろう。それに今外に出るのは健常者であっても勧められない。アジ・ダハーカのばらまく毒の風は既に生物が普通に生活してはいけないレベルにまで地球環境を汚染している。この中で無事に外出できるのは爛かアルケミーくらいなものだ。微生物を使って縦横無尽神出鬼没に動き回れるルーナもいるが現在外では微生物でさえほぼ死滅状態であるため事実上その力をほとんど使えない状態らしい。
人類よりよほど生命力が高い微生物ですら死滅している状況はよく考えなくても相当にヤバい状況だと思う。
「……三日よ。三日何の進展もなければセントラルの世界に帰ります。宝子山先生もよろしいですか?」
「…………まあ、仕方ないな。故郷が滅ぶことにはもう慣れたよ」
打倒スライト・デスに何十年もかけてきた校長は、熟慮を重ねたうえで言葉を返した。


・文明の荒廃と秩序の崩壊の象徴でありながら世紀最後の希望である地域・学園都市。その学園都市が見えてきたのは2時間が経過してようやくだった。当然蛍は風景を知らないためそれに最初に気付いたのは校長だ。
「あれだけひどかった学園都市が今では一番まともに見えるとはな……」
飛空艇が着陸態勢に入ってから校長は様々な感情をため息とともに零す。
当初、飛空艇を見た多くの生徒たちはただ見上げることしか出来ず、そして飛空艇がいきなり消えたかと思えば見慣れたトレーラーが出現した時には腰が抜けるほどに驚いた。
「宝子山先生!!」
それから1時間程度した後、校長の元に舛崎や大が大慌てで走ってきた。
「おお、舛崎君に小林くん。久しぶりだね」
「先生こそ、よくぞご無事で」
「果名さんも久しぶりだな」
「ああ、お前達ちゃんと生きてるか?」
「二人とも、今すぐ可能な限り生徒たちを集めてくれ。今この星で起きている事、そして私達が今まで何をしてきたのかを説明する」
校長の宣言。舛崎と大は顔を見合わせることなく同時に返事した。
そして1時間足らずでその時はやってきた。校長が佇むトレーラーの前に300人程度の生徒が揃った。
「……もうこれだけしか残っていないのか」
「あの後伊藤が死んでいる事が発表されて海東の軍勢が一気に進撃。伊藤の軍勢の残党が反撃したものの結果伊藤のグループはほぼ全滅。残ったメンバーは海東のグループに参入することになりましたがその海東のグループも伊藤軍との戦いで半数以上が死んでしまいましたので……。それに最近になって出現するようになった巨大生物の迎撃でもたくさんの犠牲者が出ています」
「…………そうか」
校長は無言で時を刻む。30秒ほどが過ぎて校長は口を開いた。内容は学園都市を離れていた間に起きた事、現在この星に起きている出来事。そして場合によっては故郷を捨てて新たな世界に亡命する必要がある事。
校長の言葉を聞いた生徒たちは、しかし多くが動揺すらしなかった。これまでの日々で絶望しなかった日々は一度もなかったからだ。皮肉にも校長の言葉を聞いて絶望をしたのは果名達と出会って世界にまだかすかな希望があると心のどこかに思っていた舛崎達だけだった。
「だが、絶望をするにはまだ早い。邪神アジ・ダハーカはスライト・デスに勝つつもりだ。実際にそれだけの力は持っていると判断できる。今現在も吹き荒れる邪悪の風に耐えきり、アジ・ダハーカが見事スライト・デスに打ち勝った際には我々は100年ぶりにまっとうな地球人として生きることが出来るも同然。だからまずは三日間。この三日を何が何でも生き延びることから始めようと思う。各々が描きたい未来もあるだろう。まずは自由をその手で掴み取ってみたいとも思うだろう。絶望以外の日々も見てみたいと思うだろう!毎日生きることを最優先としてそれ以外はすべて夢と諦めなければならない日々以外も見てみたいだろう!!私は、生き残った数少ない大人として君達に夢を見る権利を与えないといけない責任と義務がある。だからこの三日を生き延びて、しかし状況が変わらない場合は蛍君の提案通りに君達を別の世界に送る。そこで下らないと笑い捨ててしまった夢を取り戻してほしい。それが私の願いだ」


・それから、学園都市では72時間分持ちこたえるための籠城準備が整えられた。
フォルテや枡藤、泪からスライト・デスが100メートル級サイズの怪獣を進撃に使っていることを聞くとPAMTをその迎撃に充てる。
「……一度破壊されたPAMTも私の能力も元通りね」
蛍が自分の能力が滞りなく発動できることを発言で告げる。と、火咲が
「でしょ?お姉さま。あの人は何だかんだで使える凄い人なのよ。確かに歩乃歌を襲ったことはショックだったけどもう歩乃歌を襲わせたりしないわ。そういうことは私に任せてください」
「……あなたはそれでいいの? 最上火咲でも火核咲でもない、まだ赤羽美咲だった頃はあの人の事が好きだったのでしょ?」
蛍の指摘に火咲は数秒だけ時間を置いた。
「ええ、確かに。赤羽美咲はあの人が、甲斐廉が好き。達真に言われるまでもなくそれは遺伝子の中で既に刻まれています。でももう、私に赤羽美咲を名乗る資格はないんです。私は最上火咲として汚され尽くされている。かつての夢に嬲られるならそれは本望でしょう」
「……本当にそうかしら?」
「え?」
「最初の最上火咲は一体何を思ってそれをあなたまで継がせてきたのかしらね?」
「…………」
火咲はその質問に答えられなかった。

------------------------- 第170部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
156話「帰還と生還」

【本文】
GEAR156:帰還と生還

・シリアルが最初に意識を取り戻して見たものは無機質な空……つまりは天井だった。
今まで野に放たれたまま生きとし生けていたならばまだしもシリアルはこのような造られた無機質の空を知っている。しかし、それを実際に見るのは初めてだった。知識として、記憶として持ち得てはいたもののまさかそれが天井だとは気付くのに数秒を要した。そして、目に見えるのが天井だと言う事は自分をこの未知の部屋へと連れてきた存在もおのずと予想がつく。
「ん、ライラ。この子、気が付いたみたいだよ」
ラモンが最初にシリアルの覚醒に気付いてライラに声を飛ばす。
「……やはりライランド・円cryン……どうして僕を助けた?」
近付いてきた自分と同じ顔の少女にシリアルは問うた。その同じ顔の少女は、しかしやや気後れしているものの笑顔でこう言う。
「僕には君を見捨てるなんてこと出来ないよ」
「……お前とユイム・M・X是無ハルトの血を引くからか?だが僕は天死だぞ?お前は特にこの血を憎んでいたはずだ」
「確かに僕は中学時代、何度も自殺を図った。生きてはいたけれど、死ねなかったけど決行自体は何度もした。でも今は決してそんな気分にはなれないよ。大好きな人たちがこうして傍にいてくれるから」
「……でも僕にはいない。お前は僕にそれを自慢するために僕を助けたのか?」
「ううん。言葉でわかってくれないのは重々承知の上だった。だから、ユイムさん」
「うん、ライラくん」
ライラの声に合わせて笑顔全開のユイムが歩み寄ってきた。その笑顔を見ると思わずシリアルは顔をそむけてしまう。たとえ自分に近い姿をしていようが忌々しいことにこの体を流れる血がどうしても彼女を特別視してしまう。そしてそんな特別な彼女がものっそい邪悪なご機嫌でもっと自分に歩み寄ってきた。
「……く、臭いよ?」
「うんうん。お互いにね。外最悪だし。だからまずはお風呂に入ろっか。シュトラ、手伝って」
「はい、ユイムさん」
そう言って二人はシリアルを連れて飛空艇の女湯へと消えていった。
「……じゃあ僕は」
「はい。連れて来ましたよ、ライラ」
ちょうどいいタイミングなのかケーラがやってきた。一人ではない。ケーラ同様ややボロボロの状態の剣人が隣にはいた。
「……ライラ、強情な子だなこの人。俺にカードを使わせたい条件で決闘申し込んでくるとは」
「結果はどうだったんですかケーラ?」
「私が勝ちました。とは言え棒術と剣術の対決でしたけれども」
「仕方ねえだろ。お前達が使ってるパラレルカードは俺達のナイトメアカードとはかなり性能が違う。同じ条件でなんか戦えっこない。……まあ、その結果俺が負けたわけだけど」
ティラから受け取った絆創膏を頬や手に貼りながら剣人は続ける。
「で、俺に何のカードを使ってほしいんだ?」
「造物(オブジェ)と移植(インストール)です」

・飛空艇。とは言え現在離陸はしていない。学園都市に着陸したままだ。常時滞空する分のエネルギーをライフラインに充てるためだ。それでも当然ながら生成と消費では後者の方が勝っている。蛍の計算ではもう一週間分もエネルギーは残っていない。だからあと三日……事実上二日半したらこの世界を起つと言うのは気持ちの問題だけでもない。残り60時間未満をどう言う心境で過ごそうかと蛍は考えていたがしかしそれはあっさりと変化を迎えた。
「…………」
舛崎、大から見知らぬ誰かが学園都市の結界前で倒れてると聞いて救助させてみればそれはヒエンだった。血だらけで、冷え切っていて、ほとんど死体同然の体をこの人が晒していた。その事実を蛍と火咲は中々受け入れられなかった。果名、切名の手を借りながら医務室に運び、体力の回復を待つ。果たしてその時は2時間後に来た。
「……悪い」
ヒエンは最初にその言葉を蛍達に作った。
「…………それはどういう意味ですか?」
「………………歩乃歌ちゃんは僕を庇って奴の攻撃を受けた。僕は逃げるので精いっぱいだった。プラネットや零のGEARだけじゃない、ナイトスパークスとしての力も奪われてしまったんだ。もう僕には何の力も残っていない」
そう、弱々しく話す父の姿を果名は直視できなかった。
「正輝、黒竜牙を蛍ちゃんに渡すんだ」
「な、何をさせる気だよ!」
「蛍ちゃん、歩乃歌ちゃんの仇を討て。少なくとも僕がいなければあの子は死ななかった」
「…………ですがその前に歩乃歌はあなたに命を救われています」
「だがレイプもした」
突然の告白に果名と切名は思わず咳き込んだ。
「蛍ちゃんに出来ないなら火咲ちゃんでもいい。火咲ちゃんなら破砕のGEARでやれるはずだ」
「……それは、どういう立場で言ってる?」
「……」
「もしもそれが私の師匠として、甲斐廉として言っているんだったら私は今一度その弟子赤羽美咲として最後の職務を果たします。でも、自堕落で、何者でもない男が不遜にもそんな口をきいているんだったら今のあなた、死ぬ価値もないわ」
「じゃあどうしたらいいんだ!?今の僕には何の力もない。ぶっ殺したくて仕方がない神様が守らなくちゃいけない地球を貪っているのにだ」
ヒエンの激昂。しかし火咲は続けた。
「あなたにはまだ力が残ってるじゃない。私とルーナさんだけが知ってることだけど」
「は?」
「お姉さま、1つお願いしていいですか?」
「何?」
「あの切り札、この人のために使っていいですか?」
「…………咲、本気で言ってるの?」
蛍の疑問は怒りを由来していなかった。言うなれば心配に近い。ヒエンは確かに受け止めてはいなかったがしかし、どこか失礼な感じはあった。
「火咲ちゃん、何を……」
「ヒエンさん」
そこで赤羽と久遠がやってきた。手には軽食。恐らく借名が作ったであろう木材シチュー。それをヒエンへと運びながら言葉を続ける。
「他の現存しているほぼすべてのPAMTを一度リセットして可能な限り最強のPAMTを1機製造して最上さんと蛍さんに操縦してこの危機に立ち向かうと言う最終作戦です。この作戦を失敗もしくは実行すら出来なかった場合にはこの学園都市にいる全員で蛍さんのいた世界に渡航してこの世界を見捨てることになります」
「……それを僕のために?」
「そうよ。あなたは力は奪われたとしても存在そのものは宇宙最強の騎士ナイトスパークス。その力をPAMTの力で再現してあげるのよ。まあ、作戦自体が決行できたとしてもそれに見合うだけの性能のPAMTを残り50何時間かでつくれるかどうかは分からないけどね」
「……咲、あなたの思惑は分かったわ。でも、私はこの人に期待できない。正直この人のために最終作戦を使いたくない。それにたとえ実行したとしてもこの人はあの邪神には勝てなかった。それに歩乃歌さえも勝てなかった。いくらこの人を庇ったからってこの人の強さも歩乃歌の千代煌の強さも知っている。だから庇ったからって一方的にそれだけで倒されるとは思えない。元々勝てない勝負だった可能性が高い。それをどうしてこの人一人にやらせられるの?」
蛍からの糾弾は今のヒエンにはむしろ気持ちのいいものだった。誉め言葉以上に最大のディフェンスと言う奴だ。だからこそここまで見下げ果てているはずの火咲からの期待に対しては疑問しか生じない。
「賭けですよお姉さま」
火咲は告げた。
「失われたはずのナイトスパークスが、もしも再び人工的なもので甦ったらそこには重大な矛盾が、歪みが発生すると思いませんか?」
その提案。ヒエン以上にたまたま廊下で聞いていたアルケミーが驚きのままに飛び出してきた。
「あなたまさか、パラドクスを招来するつもり!?」
「そうよ。パラドクスもこの状況を見逃せないでしょ?あんたが説得なりその身をささげるなりすればこの人と一緒に戦ってくれるかもしれない」
この作戦、まず最初に青ざめたのはアルケミーだった。
「……終わったなアルケミー。最後に盛大に抱いてやろうか?」
「結構よ!!」
十毛がにやりと笑い、アルケミーが叫ぶ。
「……けど火咲ちゃん、少し無茶過ぎないか?パラドクスがそう簡単に共闘に応じるとも思えない。第一応じたとしても共闘した程度で奴を倒せるような奴がここにやってきたとしたらそれは今以上の脅威になりかねないぞ。仮に僕自身のパラドクスであるカオスナイトスパークスがやってきたとしたら共闘はしてくれるかもしれないが、ナイトスパークスだけの力じゃ奴を倒せないのは織り込み済みだ。……まあ、あいつは世界何か興味ないだろうから共闘の後は僕とアルケミーを始末するだろう。だが君達は助かる。……まあ、あいつが来る確率なんて30分の1。実際には50年間経過したとはいえ50年前にカオススパークス、ディンゴ、インフェルノは倒されて復活に時間がかかるだろうからやってくるのは他のパラドクスだろうな」
「それに十三騎士団でも大物のナイトスパークスに関する歪みよ。最低でも万全の状態のナイトスパークスを相手に出来る最上位クラスのパラドクスが来るわね。インフェルノ以上の」
「で、インフェルノクラスだとしても共闘してあれを倒すなんて厳しいだろ。火咲ちゃん、これは無理があるな」
「でも来るのはパラドクスだけじゃないかもしれない」
「は?」
「そんな上位パラドクスが現れたなら、来てくれるんじゃないかしら?他の騎士が」


・脱衣所を抜け、再びやってきたのはユイム達にあてがわれた部屋。
「………………すごい世界だった」
これまでにない異質な疲労感と快感に襲われ尽くしたシリアルが可愛らしい寝間着に着替えさせられた状態でベッドに倒れる。その姿に翼や異形の腕はなく、ブラワとして行動していた頃のような少女の姿のままだった。
「……今まで15年生きててこんな衝撃初めてだ」
「でしょ?」
「……?」
少女の声。ベッドに倒れたまま顔だけ上げるとそこには見慣れない少女がいた。いや、正確に言えばどこか見覚えのある姿だ。と言うか今日だけでも何度も見ている。
「……僕やライランド・円cryン、ユイム・M・X是無ハルトに似ている?」
「初めましてかな?僕はアルデバラン……じゃなかった来夢(ライム)・M(マルクライン)・X是無ハルトって言います」
「……来夢・M・X是無ハルト?」
「そ。ライラお父さんとユイムお母さんから生まれた3番目の娘。あ、でも次女か」
「?」
ユイムとライラの間に子供がいるのは知っている。しかしまだ1歳にもなっていない。だがこの少女はどう見ても自分とほぼ同い年くらいだ。
「僕はね、未来から来たの」
「未来……」
「うん。200年後。あ、でもこの世界からしたら600年後?あ、でも生まれたの30世紀だし……うう~ん?」
よく分からない。しかし、あの二人の娘と言うならばあの二人にそして自分に似ているのは当たり前だ。……うん、そうだ。あの二人よりかも自分に似ている。妙な話だ。いくらあの二人から生まれた、作られたとはいえあの二人を始末するのが目的なのにその二人の娘に似てしまっていると言うのは。こうして並べばまるで姉妹のようではないか。……ふたなりボクッ娘姉妹。考えちゃだめだ、業が深すぎる。
「……」
「きゃ、何するの!?」
「馬鹿な、生えてないだと!?」
「お、女の子が生えてるわけないじゃん!」
「いや、君のお父さん女の子だけど生えてるぞ。……僕だって」
シリアルはやや赤面しながらズボンを下ろした。先程散々弄られ尽くしたモノが露出される。
「うわあ、僕と同じ顔なのに生えてるとか衝撃。潮音ちゃんみたい」
「前例知ってるじゃん!」
どうもこの少女相手だと敵意や害意が前に出て来ない。
「……で、見せたままどうするの?セックスする?」
「しないよ、女の子同士で」
「あはは。僕はその女の子同士のセックスで生まれたんだけどね。と言うかさっきユイムお母さんやシュトラおばさん……」
直後、どこからか刃付きロケットパンチが飛んできて来夢の頬をひっぱたいた。
「……こほん。シュトラ……お姉ちゃん?とセックスしたんだよね?業が深すぎだよブラワちゃん」
「……それは仮の名前。僕はシリアル」
「それすらも本名じゃないんでしょ?」
「……だってもう僕に本名なんてものはないから。僕はライランド・円cryンともユイム・M・X是無ハルトとも呼ばれていたんだ。15歳までの二人の記憶が入り混じっている」
風呂で聞いた話にあった最上火咲と赤羽美咲の関係に近いかもしれない。あちらと違って来世以降まで確約された関係ではないが自分のはもっと複雑だろう。
「じゃあ、お話しよ?」
「……僕となんか話してどうしようっていうのさ」
「いいからいいから」


・別室。しかし、来夢とシリアルの様子をカメラで見ながら。
「うんうん。ちょっと複雑だけどいいものだよね。娘同士の会話って」
ユイムが背を伸ばす。しかし、いま彼女の両手は伸びていなかった。
先程ライラから受け取った2枚のカードの影響で現在彼女は両腕を失っている。
「それにしてもまさか僕までお姉ちゃんと同じ義手になるなんて思わなかったよ」
「予備があったからいいものを、あなたはまた無茶ばかりして……」
キリエが義手を持ってきては嘆息。口では文句ばかり言ってる姉妹だがしかしその間にユイムは無事義手を装着できた。
「で、あっちは何してるの?」
「キチガイ退治」
部屋の反対側。果名がひとりの青年をコブラツイストにしていた。
「え、キチガイ!?それって誰の事かな~?僕はただおにぎりのおかずを求めてちょっと邪神の傍まで寄っただけだよ?」
「んな理由でラスボスのとこ行くなや!!」
どうやらその奇行を連れ戻したのは果名だったらしい。
「で、あっちが、」
ユイムが見ると、そこにライラと升子が歩み寄る。
「こんにちは。レイライラス・Xanミル斗ンさん。それとも来斗(ライト)・S(さの)・円cryンって呼んだ方がいいかな?」
「いえいえ。僕は未来永劫レイライラス・Xanミル斗ンですよ?まあ特定条件下でちょっとだけ来斗に戻りますけども」
「……これが未来の来斗……私、育て方間違えたの?」
愕然とする升子。慰めようと、ハグしようと近付いたユイムにはばっちりにらみ効かせる塩対応。
一方でライラはレイラと果名の並びに感慨を覚えていた。
「あはは、ライラくんが可愛い顔してお父さんの顔してるよ?」
ユイムが升子からバックブリーカー受けながら笑う。
「……で、どうする?」
果名がコブラツイストしたままレイラに問う。
「何が?」
「部屋だ。都合上一人部屋は無理だから既に誰かいる部屋に住んでもらうことになる。俺のところか母親のところどっちがいい?」
「う~ん、どっちも危険だと思うんだよね~?ってあれ!」
カメラの映像。来夢とシリアルがにゃんにゃんしてる部屋に誰かが間違って入ってはぶっ飛ばされていった。
「……今のってひょっとして舛崎さん?」
「あいつを知ってるのか?」
「…………あ~だからさっきから話しかけてもピクリともしないのか。舛崎さんも石原さんも天川さんもいないしアルデバランもいない。あれ、僕今無力なのでは?」
「……アルデバランって天死の事だよな?そして、ライラとユイムの間の娘の名前」
「本名は来夢・M・X是無ハルトって言うらしいけどね」
「積もる話があるようだな。どれ、今日は俺のところに来いよ。世界を救った英雄の息子同士、そして親からもらった名前ではない名前を名乗っている者同士でな」
「…………あまりそういうの好きじゃないんだけどね」
しかしレイラは拒否せず果名と共に退室していき、見送ったライラは終始笑顔だった。

------------------------- 第171部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
157話「Next step to next level」

【本文】
GEAR157:Next step to next level

・ヒエンは今、紅葉、詩吹と共にグレートシティまで来ていた。
先日までここをスライト・デス怪人への最終防衛ラインとして二人のアカハライダー及びエターナルFは迎撃し続けていたのだがアカハライダーとしての性能不足により敗戦。それぞれエクシードプラズマ発生装置を失くしてしまったらしい。
「……スライト・デスはまだいるのか」
蛍が言うには怪人の反応は200以上。無傷の怪人はほとんどいないそうだがそれでも今の3人で迎え撃つのは無謀とも言える。本来ならエターナルFの5人も同伴すべきだったところだが例の最終作戦のために今日は待機する予定らしい。
蛍曰く、完全に無から作り出され、生み出されたPAMT……フォノメデスの秘密を知ることが出来れば最終作戦の成功率も上がるかもしれないとのこと。
「でも、どうしてヒエンさんまで?蛍ちゃんから聞いたけどもう力残ってないんでしょ?」
「……いや、1つだけ残ってるんだ。僕自身も実感がないんだけど。でも確かに忘れていたけれど僕にはあと1つだけ能力が残っている。今日ここでその力を引き出すんだ。と言う訳で火咲ちゃんから手紙を預かってきた」
「手紙?」
「そう。なんでもその力について秘密が書かれているそうだ」
と、軽率にヒエンは中身を開いた。同時に紅葉と詩吹も中を読む。内容はこうだった。
「二人のアカハライダーを戦場で脱がすこと」
「…………は?」
3人は同時に目を疑った。力の秘密がアカハライダーを戦場で脱がす?全く意味が分からなかった。文章は続く。
「あんたはアカハライダーズより5分くらい遅れて出撃しなさい。その上で敵に囲まれている状態の二人を脱がすの」
余計に意味が分からなかった。
「……なんかそういう系の能力?味方を脱がすと相手を無力化するとか?」
「いやそんな能力は聞いたことないし僕は持ってない」
「……聞いた事あるというか身内にいたんだけどね。そういう系」
詩吹の言葉が学園都市にいた紀香をくしゃみさせた。
「とりあえず、やろうか。そろそろ生身でこの汚染された空気吸うの厳しくなってきたし」
「……そうですね、紅葉先生」
紅葉と詩吹がそれぞれアイテムを取り出す。
「あかはら・めもはら・らりろれはりぴょ~ん(棒)」
「ジャックオン!」
「「経営幼女戦士アカハライダーズ!!意味不明なセクハラミッションでも気にせず只今見参!」
「おお、」
変身した二人が駆けていき、ヒエンが声を漏らす。
「変身ヒーローでも魔法少女でもないデザインだな。確かに変身してるけど服を脱がすことは出来そうだな。……で、あの子はセクハラ加害者のくせにトラウマしてる僕に再びセクハラさせてどうしろって言うんだ?」
走り去る二人の背中を見ながらヒエンは呟いた。


・学園都市。機関室。
「やはり、PAMTとは根本的に中身が違うようね」
蛍は召喚された5機を分析する。エターナルFの5人が召喚したメカはPAMTに似ているが、やはり別物だった。
「少しは参考になったか?」
シンが心配気味に声をかける。
「いえ、すみませんが参考にならないと言う事が分かりました」
蛍のコンピュータには8機のPAMTが初期データ状態で保存されている。現状、それらをすべて合わせて可能な限り高性能のPAMTを作り出してもフォノメデスや千代煌には遠く及ばない。それに及べたとしてもやはりあの邪神を相手に出来るものではないだろう。
悩んでいると火咲が歩み寄ってきた。しかも珍しくその胸には久遠とリッツを抱いていた。
「お姉さま、千代煌はともかくフォノメデスは参考になるんじゃないかしら?」
「……それよりその子達は……」
「たまには愛でておこうかなっと」
「美咲ちゃんには悪いけどおっぱいに体重を預ける感じが全然違うんだよね!」
「……白百合蛍さん、この奇乳妖怪はこういう危険人物なんです。もっと妹の情報を知っておくべきです」
「…………それで咲、フォノメデスが参考になるってどういうこと?」
「あ!蛍ちゃんが話を逸らした!」
ブーイングの久遠&リッツを抱きしめながら火咲は続ける。
「フォノメデスは武器そのものは大したものじゃありません。でもあの5人のソウルプラズマーと言うものを使うことでその性能や能力を何倍にも引き上げています。ソウルプラズマーそのものをあの男は持っていませんが似たようなものなら使えるでしょう。だから素の性能を上げるよりかはソウルプラズマーによる性能倍増機能を参考にすればまだ勝負は分からないんじゃないですか?」
「火咲ちゃんはなんだかんだ言いながら死神さん大好きだよね。達真君泣いちゃうんじゃない?」
「……大丈夫よ。あの変態師匠に肩入れするのはこれで最後だから」
そして火咲は一度久遠を撫でてから背後を振り向く。実際のプログラミングをしている来音、智恵理がそこにいる。
「あんた達ならもっと意味不明なくらい強く出来ると思ってたのに」
「う~ん、PAMTはちょっとよくわからないんだよね。蛍ちゃんもあまり教えてくれないし」
「でも、その代わりにこれは強化改造してますよ~?」
智恵理が軽く見せる。それは失われたはずのエクシードプラズマー回路だった。つまり、ヒエン達に回収に行かせてはいたものの既に昨夜突然の失踪及び疾走を果たしたレイラを回収しに行った果名が偶然回収していたのだ。しかし報告が遅れたわけではない。これはわざとだ。はっきり言えばエクシードプラズマーがあろうがなかろうが今の事態に影響はない。PAMTだって一度すべて回収してまで強化を図っているのだ。
「蛍ちゃんの分析が終わるまでの間、これを改造してるから待っててね」
と、来音が後ろを見ずに行った。仕方ないので蛍はソウルプラズマーについて分析を始めることにした。


・グレートシティ。
「はああああああっ!!」
紅葉が走り抜け、バッファローガンに向けてラリアットを叩き込み、そのまま走り抜けつつどこからか出したシュールストレミングを頭にのせる。
「バルトフォーム!!」
フォームチェンジを終えるとバッファローガンを頭上に抱え上げ、跳躍。地面に向かってダンクスマッシュを叩き込む。そして落下しながらメイスを振り下ろす。
「響輝奏光!!バルトロメガインパクト!!」
全体重と腕力を掛けた一撃が鳩尾に炸裂し、バッファローガンは光になって消えていく。
「隙ありだ!」
着地したばかりの紅葉の背後にスイカラミティが襲い掛かる。しかし、紅葉はシュールストレミングを外して元の姿に戻ると同時、左足にプラズマーエネルギーを集約する。
「オーロラプラズマ返し!!」
そして振り向きながら左足の廻し蹴りを繰り出し、電光一閃。スイカラミティの胴体を真っ二つにした。
「はああっ!!」
一方で詩吹はブレスレットを変形させた槍で次々と怪人を串刺しにしていき、最終的に壁に叩きつける。
「ジャックブラスト!!」
その状態で槍からエネルギーを発射して一気に怪人達を消し炭にする。
「ん、」
砕けた壁。奥に見えるのは建物。そこには負傷しているものの70体を超えるであろう怪人達が鎮座していた。その光景にひるむ詩吹だが、紅葉は逆に駆け込んでいく。
「紅葉先生!?」
「いいの、やっと来た出番だから!!」
言いながら紅葉はジャックオランタンを彷彿とさせるかぼちゃの帽子をかぶる。
「超変身!ヴラドフォーム……」
直後、紅葉の姿が豹変する。如何にもスーパー戦隊っぽいヒーロースーツとビキニアーマーを合わせたような姿のプラズマーフォーム、全身新緑の装甲を纏った重装甲騎士と言ったいでたちのバルトフォーム。どちらもまだヒロイックに見える。しかし、この姿は違った。まるで女吸血鬼のような露出の激しい漆黒のコスチュームだった。おまけになんか紅葉の様子もおかしい。
「……詩吹ちゃん」
「は、はい?」
「今の紅葉に近付いちゃだめだよ……?ハートの奥までビビって来ちゃうから……」
「……なんか妙に色っぽい?」
とは言えこれが話には聞いていた、夜間か室内でしか変身できないと言う紅葉第三のフォーム・ヴラドフォーム。
紅葉はまるで酔っているかのようにおぼつかない足取りでゆっくりと廃墟ビルの中に入っていく。同時、まるで露出狂のようにマントをババっと広げると、周囲に100万ボルトの高圧電流が放たれる。上から見ると翼を広げた蝙蝠のシルエットに重なるような稲妻のライン。
「ヴェノムインヒューズ……」
放たれた横薙ぎの雷撃は立ち上がったばかりの怪人達を次々と巻き込んでは感電させていく。さらには放たれた稲妻の全てをまるで人形遣いの糸のように指で操り、稲妻が蛇のようにうねり、広がり、変幻自在に雷撃をまき散らす。
「す、すごい……」
ぽかんとして棒立ちの詩吹。格闘能力が著しく低下している代わりに純粋なエネルギー出力ならエクシードプラズマーフォームにも匹敵すると聞いていたがこれほどとは。もしかしなくとも雑魚殲滅に限ればエクシードプラズマーを超えているのではないだろうか?
そしてそれ以上にぽかんとしていたのがやっと現場に到着したヒエンだ。今までずっと自分の武器として扱っていた稲妻。それが今ではスライト・デスの怪人達すら焼き尽くす広範囲殲滅兵器となっている。
「……もしかしなくともこの室内に跋扈する雷の海の中突入してあの子の服を脱がさないといけないのか?」
零のGEARがあったなら余裕だっただろう。だがそれがない今となっては確実に即死出来る状況だ。まずとりあえずとして。
「詩吹ちゃん」
「はい?ってきゃああああ!!」
振り向いた時にはもう詩吹は服を脱がされていた。どうやらアカハライダーとしてのコスチュームの下には何も着ていないようでつまりは全裸だった。それを0.01秒で脳内HDフォルダに保存しつつヒエンは電撃の海の中に走り出した。
「くっ、うううううううううううう!!!」
一歩踏み出しただけで尋常でない電圧が全身を焼き焦がす。電気でやけどを負うなど2000年ぶりだろう。当然、恐怖しかない。だが、フラッシュバックもあった。かつてもまたこうして稲妻の海に飛び込んだ記憶の奥底にあるまだ普通の人間だった頃の気概。
「さあ、どうする?お前の前には無限に広がる稲妻の海。ここを渡らなければこの星は消える。歴史ごと跡形もなく消滅する。だが、飛び込んで、お前に素質がなければ灰となって終わるぜ?」
もう誰のものかも忘れた声。あの時はすべてを終わらせないようにするために飛び込んだ。そして今回は、
「まだそんなに会って話したこともないあのロリババアを脱がすために!!」
阿呆な理由だと思う。だが、
「勝利と言う名の侵略の采配を奏でん!!!やぁぁぁってやるぜ!!!」
その無理難題こそ最大のパワーを引き出す絶対条件。爆走するヒエンは荒れ狂う電撃の海をものともせずに一直線で紅葉の元へと走りこんではその危ない服装を一気に引っぺがした。
「……ふぇ……?」
直後、電撃の海は収まった。焼け爛れた一室の中央には全裸の紅葉が立ち尽くしていた。
「な、な、なんなのぉぉぉぉぉ!?」
裸体を隠しながら膝を折る紅葉。その前方で、
「……なるほど。こんなものだったか」
30体以上の怪人の首を足元に転がしたヒエンが立っていた。
「詩吹ちゃん、そのまま外に向かって全力ダッシュ頼む」
「え、あ、はい」
言いながら既に詩吹は新しいコスチュームを身に纏っていた。どうやらアイテムさえあれば服などいくらでも再生できるらしい。そして100メートル5秒のスピードで走り出す。やがて、前方には逃げていたのか隠れていたのか1体の怪人がいた。視認次第詩吹は身構える。しかし詩吹の拳は届かなかった。
「詩吹ちゃんのマン肉をつまむ!!」
などと邪な祝詞を吐き捨てながらヒエンが一瞬で詩吹より先行して怪人を拳の一撃で粉砕していたからだ。ちなみに今の一瞬で詩吹の股間の部分の布が全部剥がされていた。
「な、何なんですか!?」
「……倒錯のGEAR。まったく凹むよな。圧倒的意味不明な条件下でもなおセクハラに命を懸けた状態でしか発動しない力なんてよ」
頭をポリポリ書いてやり場のない気持ちで落ち着かないヒエン。その背後に紅葉と詩吹が来た。もう二人とも普通にアカハライダーの姿だ。
「ヒエンさん、あなたの零のGEARって失われていたんじゃないんですか?」
「奪われたさ。けど、この世界には未覚醒ならともかく完全に1つもGEARを持っていない状態で存在を保つことは出来ない。正輝の奴の名を果たすGEARでGEARを破壊された時も同じだな。だから零のGEARが奪われた状態なら本来こっちゃ存在を保てない筈だから不思議に思ってはいたんだ。けど、謎がやっとわかったわけだ。……僕は最初から、それこそ零のGEARやナイトスパークスとしての力を与えられるよりも前から自分本来の力を、倒錯のGEARを持っていたんだから。存在自体忘れてたし当然使い方も忘れてたけど」
ため息。
「……今すぐ学園都市に戻って火咲ちゃんの爆乳を揉む」
呟く。と、1%秒でヒエンは紅葉と詩吹を抱き上げ、分速200キロの速さで爆走した。

------------------------- 第172部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
158話「世界に願いを」

【本文】
GEAR158:世界に願いを

・夜の医務室。医務室と一口に言ってしまうとそこには語弊が生じるだろう。
何故ならば、そこに眠るのは焼け爛れたルネと腹部と胸部がぺちゃんこにつぶれた黄緑。つまりここは霊柩室だからだ。ヒエンはいつかプラネットの力を取り戻した際には蘇生できるだろうと語っていたがしかしその目処は立たない。そのためか医務室の奥に設けられたこの部屋の中に置かれた冷凍カプセルの中に二人はそれぞれ安置されている。既に邪神アジ・ダハーカが目覚めてから誰もこの部屋には訪れていない。しかし、今その封印は破られていた。
「……」
ルネが眠る棺の前に一人の少女が降り立った。巫女服の少女・甲斐和佐(ナイトアルテミス)だ。あの激戦から数日。敗死したと思われていた彼女だがしかし現在は無傷に見える。顔色が悪く見えるのは彼女の娘と無言の再会を果たしているからだろう。
和佐は棺の壁を一度だけ消滅させるとルネの遺体を優しく抱きしめる。と、少しずつだがルネの遺体が修復されていく。頭よりかも大きくあけられた胴体の穴も30秒ほどで完全に塞がり、死後硬直を果たしていた筋肉に再び血が巡り始める。
「……どなたですか?」
突然和佐はルネを庇いながらその手に杖を握り、振り返った。
「……まさか噂の巫女騎士がいるとはな」
そこにいたのは体中至る所を包帯で巻かれた中年男性だった。つまりは夏目群青であり、パラドクスのひと柱・カオスナイトブルーメアだ。
「……パラドクス……!!」
「慌てるな。こちらに抗戦の意図はない。お互い倅が気になってわざわざここまで来たのだろう?」
言いながら群青はルネが眠っていた棺とは別の棺まで歩み寄っていく。警戒のままの和佐をしり目にしながら群青は棺をこじ開けて黄緑の遺体を片手で持ち上げる。
「四つ足の……、もういいだろ?」
「……ええ、そうですね」
突如響いた第三の声は黄緑の体の中から。そして、緑色に輝くと同時黄緑の前に槍のように鋭い四つ足の獣のような生物が出現していた。
「……四つ足のダハーカ……」
「初めまして、ナイトアルテミス」
「……お互い、触手を持った倅だと思ったかもしれないが生憎うちのバカ息子は後付けなのでな」
「……あなた達はもしや自分達の主に抗うつもりなのですか?」
「逆よりかはマシだろう。今ここにはパラドクスが二柱いることになる。目的が一緒だから、利害関係が一致している事が戦わない理由になるのは不服か?」
「……」
「残念ながら我らの主は憎き太陽神との戦いの果て、永い眠りから目を覚ましたばかりでご乱心でおられるようだ。それを止める」
「待ってください、あなたはパラドクスではないのですか!?パラドクスならどうして私を見逃してそんなダハーカのために戦うのですか!?」
「私は確かに種族としてはパラドクスだが、既に生き方あり方はダハーカなのだよ」
それだけ言い残して群青と四つ足のダハーカは霊柩室から去っていった。

・翌日。
「離せ!!!」
獣のような叫びをあげるのは紫音だった。
数日の眠りから覚めた紫音は来音から黄緑の死を伝えられて大変取り乱している。まず速攻で来音の顔面をぶん殴った。一発で前歯が折れた。それでも当然のように襲い掛かろうとしたためライラや潮音によって止められている。
「どうしてお兄ちゃんが死ななきゃいけないのよ!!」
「紫音ちゃん……」
来音は口から大量の血を流しながらまるでその身を捧げるように紫音へと歩み寄る。
「いいよ、ライラちゃん潮音ちゃん。紫音ちゃんを放してあげて」
「で、でも……」
「……おねがい」
来音からの頼み。ライラと潮音は顔を見合わせてから手を離す。と、紫音は跳ねるように二人から離れて来音に接近。鋭く重い膝蹴りをその下腹部に叩き込む。
「ううっ!!」
来音の体が宙に浮き、やがて背中から床に叩きつけられる。
「……ライラ、潮音。兄さんはどこにいるの?もう燃やしちゃった?」
「……霊柩室にいます」
「いま、案内します」
紫音はライラと潮音と来音の案内で霊柩室に向かった。と言っても紫音が眠っていたのは医務室だったため距離的にはすぐだったが。
「……兄さん……」
暗黒の部屋があけられた。紫音は胸部と腹部がぺちゃんこになった黄緑の遺体を見て表情と膝を崩す。
「…………あれ、」
ライラはふと隣の棺を見る。暗くてよく分からないがルネの遺体の傷が治っているように見えたのだ。気のせいだろうか?
「……来音」
「……何?」
「本当ならあなたを殺したいところだけどそれは兄さんが悲しむからやらない。でも、半分は覚悟してもらうわ」
「半分?」
疑問を口にする来音を紫音は振り向いた。その目はあの時と同じ。右目には黄緑が、左目には来音が映っていた。角度的に背後を向いている黄緑はその目に映らない筈なのに。
「紫音ちゃん、それは……」
「知らない。でも、使えるようになったのよ。命を分ける力を。この力で来音の命を半分兄さんに分けるの。半分しか分けられないから多分そんなに長くは生きられないと思うけどそれでも生き返らせることは出来るはずよ」
「……もしそんなことが出来るんだったらいいよ、私の命を使って……」
両手を広げた来音。その身を捧げるように紫音に向かう。紫音は数秒の不動の後、その力を使い始め……
「それ以上はさせないわよ!!」
る直前に突然隣の棺から2本の触手が伸び、1本が紫音を張り倒すと、もう1本はその背後の暗闇に伸びた。
「くっ、何が……!!」
起き上がった紫音が見ると、棺をぶち破って死んだはずのルネが起き上がった。
「え、紫音ちゃんルネちゃん生き返らせたの!?」
「ち、違うわよ!え、どうしてあんたが生きてるの!?」
「説明はあと!!」
全身を棺から出したルネは10本の触手全てを使って暗闇にいる何かを殴り始めた。
「おい、何の音だ!?」
騒音響いたからか、シン達5人とヒエンが駆け込む。
「ルネ!?」
「お父様!ルネのおてての先にいる奴を攻撃して!!」
「……分かった!!」
と、返事をしたヒエンは近くにあったパイプ椅子を暗闇に向かって投げつける。
「えええぇっ!?」
驚くルネ。多少申し訳なさに心を焼かれながらヒエンは紫音と来音を下がらせる。
「ライラちゃん!」
「はい!破滅(スライト)!!」
同時にライラが破滅の拳銃から弾丸を数発発射。緋瞳でわずかに見える何かに向かって弾丸が飛んでいき、命中する。すると、
「流石はナイトスパークスとナイトアルテミスの忌子。いい反応だね」
声とともに暗闇から何かが姿を見せた。
「あれは、フラワルド!?」
湊の声。それに呼応するようにフラワルドは一歩を前に進んだ。
「フラワルド、確かこの5人に力を与えた張本人だったな。だが、おかしいな。あんたとは前に何度か会ったはずだ。鼻が覚えてるぜ」
ヒエンは確信を持った笑みをこぼす。
「そうだろ?ヘカテー!」
「覚えていてくれてうれしいよ、お兄さん」
フラワルドは変身を解除した。すると、和服姿の少女が光の中から姿を見せた。その姿は紛れもなくヘカテー……どういう訳かダハーカに深い関係のある足なし幽霊幼女だったがしかし今見るその姿は両足は生えていて、外見年齢も十代後半から20前後くらいに見える。
「ルネ、状況を説明しろ。どうして生きてる?」
「お母様が生き返らせてくれたの。それでお母様から聞いたの。鈴城紫音に邪神の手の者の息がかかってるって!」
「…………なるほど。ヘカテーはどういう訳かダハーカ側だったな。辻褄は合ってる」
「正確には私はダハーカではないんだけどね。邪神アジ・ダハーカの伝説のためにその昔この世全ての悪として、悪の身代わりとして葬られた数千年前の村娘。まだ8歳だったのに生贄にされて、死んだ。それがこの私ヘカテーだよ。でもアジ・ダハーカは私の魂を拾ってくれた。死んだままの姿だったし、ダハーカ以外には見えない幽霊にすぎないけれど肉体もくれた。そして今、ソウルプラズマーの力もくれた。この地球上のすべてを原初の姿に戻すために」
「地球を原初に?そんなことをしてどうする?ダハーカはもう絶滅寸前だぞ」
「ダハーカなんて私には何の関係もないよ。しいて言えば親戚の子みたいなもの。それに何のためかなんて関係ない。これが私に与えられた役割なの」
「ま、待て!フラワルド!だとしたら俺達のこの力は……!!」
「そう。あなた達がエターナルFと呼んでいるその力はすべて邪神アジ・ダハーカの力の一部。だからあなた達もまた私同様邪神には逆らえない。あなた達の力は、この星を原初に戻すためのものなのよ」
ヘカテーは再びフラワルドの姿に戻ると、霊柩室を出る。と、正面に大悟がいた。
「じゃあ、あの時俺があんたの奇跡の力を使ったらどうするつもりだったんだ?」
「ヘカテーとしては賛成したし、そのままこの命を使うつもりだった。その場合こうしてフラワルドとしての姿を得られたかどうかは分からないけどね」
フラワルドは大悟の脇を通り抜け進んでいく。その先には舛崎達がいた。
「な、なんだ……!?俺達には関係はないはずだ!」
「ううん。ものすごい関係があるよ。だってあなた達が亜GEARと呼んでいるその力は全部私が与えた力なんだから」
言うと、フラワルドのすぐ横に錠前が出現する。それはあのフォルテとの戦いの時に見えたものと同一だった。それを舛崎が認識すると同時にフラワルドの前にフォルテが出現した。しかもよく見れば灯と泪も一緒だった。
「あなたが私のシステムに干渉していたと?」
「そう。50年前に私は枡藤灯と辻原泪にいわば最初の亜GEARを与えた。地球上に衰退を呼ぶための自滅装置としてシステムフォルテを開発させ、地球上全人類の共倒れを目的としてね。でも、想定外の出来事が起きた。そう、スライト・デスの襲来。地球人類が自滅するのはいいけど宇宙人に皆殺しにされて乗っ取られるのはよろしくないからね。人類の寿命を先延ばしにするためにセントラルを作らせて優秀な性能を持っていた三船の改造人間3号機をスライト・デスに引き渡して緩やかな滅亡と言う名の時間稼ぎをさせたの」
「時間稼ぎ……?」
「そう。邪神アジ・ダハーカが完全復活するまでの。でも、完全復活するまでの時間は稼げそうになかった。だからあなた達を集めさせたのよ。力を与えてね。エターナルFの5人を集め、フォルテと合流させてセントラル組と合流させて。まあ、ゴーストの地球襲来や3号機の暴走は想定外だったけどそこは同じく想定外である異世界からのPAMT所有者達やナイトスパークスの渡来で何とかなった。そして今、邪神アジ・ダハーカは完全復活を遂げた。もうあなた達の役目は終わったの。大人しく地球最後の人類として無様に散ってほしいかな」
微かな笑みを浮かべたフラワルドは背中と両肩にそびえる宝石のような突起物を光らせた。
「まさか自爆……!?」
身構えるヒエン。しかしその時は来なかった。
「……間に合ったみたい」
フラワルドの肩に切名の手が触れていた。
「名を切るGEAR……!」
宣言すると同時、フラワルドの突起物が粉々に砕け散る。
「くっ!!」
「俺達を忘れていたようだな!」
さらに果名がやってきて、
「名を果たすGEARもくらいな!!」
指パッチン。同時にフラワルドの両肩から血が柱のように噴き上がる。
「あ、ああああああああああああうううううううううううう!!!」
フラワルドが苦しみの叫び声をあげる。次の瞬間にはヘカテーの姿に戻り、その両足が破裂する。
「……フラワルドとしては殺せたってところか」
「……いや、だとしたらまずい」
頬を緩む果名と視線を鋭くするヒエン。その先でヘカテーは苦痛の表情のまま浮遊。
「なるほど。想定外だったよ……!君達3人だけは完全に想定外の存在……最優先で倒すべき標的だった。君達を学園都市に行かせたのは失敗だった……!」
「……学園都市に?ってことは最初の依頼主はあんたってことか。通りで依頼主と会えない代わりに行く先々でシンや愛名、ライの変身を目の当たりにするわけだ」
果名が再び指を向けると同時、ヘカテーは煙のように姿を消した。
「……出来ればここで倒しておきたかったんだけどね」
ルネが触手だけで歩いてくる。
「ルネ、もう大丈夫なのか?」
「ええ、大丈夫よ父様。でも、父様?その無様は一体どういうこと?」
「……それは、」
ヒエンは状況を説明した。説明が終わるより先にルネの触手が腹に叩き込まれた。
「もうさいってー!!父様の馬鹿!ロリコン!」
そう言って去って行ってしまった。
「……娘に反抗期が来た気分はどうかしら?」
火咲が鼻で笑う。ヒエンは何も言えずに立ち上がるしかなかった。

------------------------- 第173部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
159話「燃えよハート、プラズマのように」

【本文】
GEAR159:燃えよハート、プラズマのように

・夜が明けた。それを蛍が認識したのは5分ほどの転寝を経た後だった。一刻も早く例のPAMTを完成させねばという思いから夜を徹していたがどうやら疲れて少しだけ眠っていたようだった。
「目が覚めましたか?」
声。振り向けば火咲がコーヒーを淹れていた。
「……ありがとう。でも咲は寝なくても大丈夫だったの?」
「いえ。お姉さまが頑張っているのですから私が眠るなんて出来ません」
「でも……」
「ボディガードだって兼ねています。スライト・デスの怪人がもしやってきたとしても1体くらいなら私一人でも十分倒せます。相手が亜GEAR使いの学生だったら暇つぶしにもなりません」
火咲がやや窓の外を見る。蛍も目で追うと、両足と頭部がない死体が数体転がっていた。
「お姉さまを夜這いしようとした不埒は輩どもです。食料の節約にもなるしいいことづくめでしょ?」
「……あなたが善意でやってくれていることだから何も文句は言えないわ」
「安心してください。歩乃歌がいない間に花京院をもう一回殺すなんて真似しませんから」
「……歩乃歌がいてもやめてあげて。あの人がいる以上確かにあの子は私を選ばない。それでも歩乃歌が悲しい顔をするのはもう見たくないから」
「……まあいいですけど。達真とも仲がいいみたいですしね。本当、あの年頃の男子は美少女が近くにいればそれだけで仲が良くなれるみたいでうらやましいですよ。私と歩乃歌なんて結局2度殺し合いしてやっと今の関係になりましたし」
蛍は冷や汗をかきながらコーヒーをすする。そう言えばこの二人はこんな仲だったなと感傷を抱きながら。
「……じゃあ咲始めましょうか」
「はい、お姉さま。そろそろ牧島も呼んできましょうか?」
「……あの子も夜遅くまで頑張ってくれていたから自分で起きて来るまでは眠らせてあげて」
「分かりました、お姉さま」
そうして2時間後に眞姫がやってくるまで二人きりの研究は続いた。


・昼を前にした朝。
「何でこんなことになってるんだよ!!」
全速力で走るヒエン、剣人、大、果名、レイラ、舛崎。その理由は背後の爆音。
「遅い!!遅いぞ君たち!!どうしてバイクに徒歩で勝てず、疾走ですら追い抜かれそうになっているのかね!?」
「人間だったら当たり前だ!!」
全裸のボディビルダーにバイクで追い回されているからだ。
「彼女達を見たまえ」
ボディビルダーは顎で手前を指す。ヒエン達よりも前を走るのは二人のアカハライダーだ。当然だが変身した二人はただ突っ走るだけでもバイク並みの速さだ。ヒエン達より距離を稼げるのは当たり前だ。しかし、
「とうっ!!」
突然アクセルをふかしたボディビルダーが男どもを薙ぎ払い、先を走っていた二人に接近。
「ひいっ!!」
「君達どうして変身しているのかね!?私はそんなことを赦した覚えはないのだが?」
「そ、その前の服を着てください!!」
「いいやむしろ君達も脱げ!どうしてライダーのくせに服を着ているのだ。そんなんだからあのような低俗な連中にも後れを取るのだ」
「あの時助けてくださったことには感謝していますし、時折鍛えてくれているのもライダーとしての戦い方を教えてくれているのも感謝しますがあなたは基本的に女性の敵だと言う事を自覚してください!!」
「遅い!もっとスピードを上げろ!いやスピードそのものになるのだ!!」
言うや否やボディビルダーはバイクに乗ったまま変身して両手をハンドルから離して二人のアカハライダーの手を掴む。
「ひっ!!」
「レイラ君!私と君のセッションした姿を覚えているかね!?」
「えっと、一応……というかどうしてむしろ石原さんの方が知ってるんですかそれ?」
「ならば叫ぶがいい。私と君の魂がセッションした姿のその名を!!」
「えっと、レイライラス・デンジャラスマッハ!!」
「よくぞ言った!!」
同時、レイラの体が光の粒子となってイシハライダーに吸収され、その姿がイシハライダーとデンジャラスマッハが合体したかのような姿になる。
「これぞ!!イシハライダーV2デンジャラスマッハだ!!」
「え、今のでパワーアップしたんですか!?」
「そんないい加減な……」
「そんないい加減な事こそ我々の力の源なのだよ!今どきのライダーはアイテムなしでは変身できないだのフォームチェンジできないだの甘えているとしか言いようがない!ライダーを名乗るのであれば気合と根性でパワーアップくらいしてみるがいい!!理性など捨てるのだ!!

「きゃあああああああああああ!!」
そしてそのまま文字通りマッハで二人を連れて爆走していった。
「……じゃあ解散って事で」
ヒエンの合図で剣人達は汗をぬぐいながら飛空艇へと帰っていく。


・グレートシティ。そこをさらに走り抜けてセントラル跡地にまでやってきた。ここまでくると邪神アジ・ダハーカによる環境汚染も激しくなっていて、変身した状態でもアカハライダーの二人は体調不良を実感できるほどだ。しかし、イシハライダーはまるで動じず、道すがらにいたスライト・デス怪人を次々と跳ね飛ばしていき、それだけで粉砕。やがて15体目を粉砕するとブレーキを踏み入れ急停止。慣性の法則に従ってアカハライダーの二人が前方に投げ飛ばされる。
「な、何するんですか!しかもこんなところまでやってきて……」
「決まっているだろう!特訓だ!!」
「と、特訓!?」
「古来よりヒーローは傷つき倒れ膝を折ってもなお立ち上がることで強くなってきたのだ。君達にはそれが徹底的に足りない!!」
「そんな戦前のスパルタ教育じゃあるまいし」
「素でおぞましい記憶が蘇りました」
何かレイラが体内で言っているが気にしない方向を取ったイシハライダーはバイクから飛び降りると指パッチンをする。と、突然地面を激しく揺るがしながら大槍を持った紫式部が150人這いあがってきた。
「!?」
「まずはステップ1。この槍持ち式部を全員倒すところから始めてもらおうか」
イシハライダーが言うと同時、150人の紫式部が俳句を読み上げながら槍で襲い掛かってきた。
「何このカオス!」
言いながら紅葉も詩吹も臨戦態勢を立て直し、応戦。しかし、相手は意外と手ごわかった。
「くっ!並みのスライト・デス怪人より強い!?」
「あたりまえだ!弱い相手と戦って何になる!」
言うとイシハライダーはその場で廻し蹴り。それによって発生した衝撃波が前方にいた20人の紫式部を粉砕し、そのまま紅葉と詩吹を弾き飛ばす。
「あああああああっ!!!」
「3秒で1体倒せない場合にはこのようなペナルティが待っているから気を付けるように」
「さ、3秒って……!!」
持ち直した詩吹が紫式部の攻撃をギリギリで回避して、ブレスレットを変形させた槍で攻撃するもあっけなく受け流され、左足を貫かれる。
「くっ!普通にやっても苦戦するくらい強い……!!」
それから5分。イシハライダーのペナルティキックが半分以上倒した状態だがしかし何とかアカハライダーの二人は150人抜きをクリアした。どちらも疲労困憊の状態だった。
「何と言う体たらく。第一ステップなど20秒程度で十分かと思っていたが私の想定外だったか」
「い、いや、ちょっとハードすぎませんか……?」
「何を言うか。私ならここから一歩も動かなくてもあの程度分速12万体くらい消し飛ばせる。よし、次だ。ステップ2はこれだ」
再び恐怖の指パッチン。顔を蒼くする二人の前に現れたのは毛髪の全てが蛇で出来た女邪神。即ちメデューサだった。
「ギリシャ神話まで……!?」
「で、でも1体きりですよ……?」
「がはははは!!確かに1体だけだがこのメデューサは私でも少してこずるぞ?戦闘力で言えば2万くらいか?」
言うや否や蛇髪の怪物は音速を超える速さでアカハライダーズに迫った。認識できない速さで放たれた移動と攻撃をくらった二人は100メートル以上離れた岩盤に叩きつけられ、そこで初めて一部始終を認識する。
「は、早い……!!」
「まるで意識を石にされたみたい……!」
そしてまた激痛により全身が石になったように感じる。見たものすべてを石に変えると言うメデューサの伝説の真実はこのようなものだったのかと現実逃避しながらしかし二人は立ち上がる。くじけない正義の意思と言う名前のアドレナリンが二人の体内を激流のように走り回っていた。
「……」
二人は一瞬だけ目配せをする。そして走り出す。その数秒後。再びメデューサは認識より早く動き二人に迫る。しかし、メデューサの攻撃は二人には届かなかった。代わりに紅葉の出したヒトデらしき謎物体と詩吹の散弾がメデューサの胴体に突き刺さる。驚愕含むあらゆる感情を一切持たない化け物は地面を転がっていく。しかしその視界は確かに見ていた。今二人が繰り出した技で一番ダメージを受けていたのはメデューサではない、二人自身だった。つまり、二人のアカハライダーは迫り来るメデューサを察知して迎撃したのではなく、襲来を予想したタイミングで互いに互いを攻撃したのだ。もちろんただの自爆にならないようにと範囲を広げた状態で。
「ほう、なかなかやるではないか」
イシハライダーは軽く高揚した。正直あの二人には期待していなかったのだがまさかこのような方法であの化け物にダメージを負わせるとは思わなかった。自分ならば真っ向から叩き伏せるだけだ。
「ふむ、弱者には弱者の強さがあるのかもしれないな」
イシハライダーの視界で再び二人のアカハライダーが悲鳴すら上げられずに吹き飛ばされる。しかしやはりただではない。攻撃を終えたメデューサが動きを止めた。見ればその手足に鳥もちのようなものがねばりついていた。どうやら詩吹の仕業のようだ。触れれば動きが止められる。メデューサほどなら数秒ほどしかその機能は活躍しないだろう。しかし、今の二人にとってはそれだけでもかなり有益だ。
「響輝奏光!バルトロメガインパクト!!」
「ジャックナイフサタンバースト!!」
殴れば相手を光にするハンマーと、触れれば大爆発が起きるナイフ12本がマッハ2で迫りくる。そして2発同時にメデューサに炸裂した。同時、
「エクシードプラズマー!!」
急造品である簡易式エクシードプラズマーフォームを発動して出力を倍増。メデューサに刺さった12本のナイフが起爆するより前にハンマーで撃ち抜き、まるで杭のようにメデューサの体内に侵入。ナイフの大爆発はメデューサの体内から生じその爆発が体外に出ないようにハンマーで押し込めつつ体外からメデューサの肉体を光に変えていく。
メデューサの反撃は0.2秒後に来た。鳥もちが寸断され、解放された2本の腕が接近してハンマーを叩きつけたままの紅葉を弾き飛ばし、膝から発射されたビームでナイフを発射したばかりの詩吹を爆撃する。
「ぐっ!!」
ダメージを受けた二人の体力はそろそろ限界に近い。だが闘志が彼女達を起ち上らせた。敵の姿を見る。今の攻撃は確かにメデューサにダメージを与えている。普通のスライト・デス怪人どころか先程の意味不明紫式部ですら一撃で倒せるだけの連携。それを受けたメデューサは打点から煙が上がっていた。肉は削られどす黒い血液まで流れている。しかしそれだけだ。まだまだ決定的に攻撃力が足りていない。そしてメデューサは今までにない動きを見せた。頭に伸びている無数の蛇たちを延長させて動かし始めた。その長さは現状10メートル以上。数は100匹以上。断じておぞましい光景だが二人は怯まない。蛇どもが塞がってるせいでこちらはメデューサの姿が見えないがしかしそれは相手も同じはずだ。
「詩吹ちゃんは少し休んでて」
「はい」
返事と同時に詩吹は変身を解除してブレスレットを紅葉に向かって投げる。紅葉はそれを後ろを見ないままキャッチして自身の脱臭炭にはめる。
「ダブルエクシードプラズマーモード!!」
左手にショットガン、右手に剣を携えた紅葉が先程までの3倍の出力で接近を開始する。
「はああああああっ!!」
牙をむく蛇たちの前で跳躍。伸び続ける蛇たちの真上を飛び行き、上を向いたメデューサと視線が交錯する。同時に左手のショットガンをひたすら連射。空中で散弾することなくその弾丸はすべてメデューサの顔面に炸裂。わずかに怯んでいる間に紅葉はメデューサの背後に着地し、振り返ることなく右手の剣をメデューサの背中に突き刺す。
「エクシードオーロラプラズマ返し!!」
そして振り向くと同時、10倍のエクシードプラズマーエネルギーを纏った右足をメデューサの右側面に叩き込む。激突と同時に突き刺した剣を引き抜き、蹴りを放ったままメデューサの後頭部に再び突き入れる。尋常ではない皮膚の硬さからか貫通はしない。しかしぶっ刺さってはいる。が、先程以上に刺さりが悪い。
「くっ!」
見ればメデューサが後ろ手に回した左手で剣を抑え込んでいた。さらに前方に向かっていた蛇たちがまるで雨のように背後の紅葉に向かって降り注ぐ。
「エクシードバーストショット!!」
宣言すれば紅葉の背後から歪な機械音が鳴り響き、ミサイルランチャーが生成されて120発以上の小型ミサイルが一斉に発射、迫りくる蛇たちを迎撃。それでも迫りくる数匹の蛇の牙が紅葉の首筋に食らいつく。
「ううううっ!!」
激痛と尋常ではない濃度の毒が紅葉の体を襲う。既に右足を走っていたエクシードプラズマーエネルギーは途絶えていて、剣を握っていた手も離れて紅葉が2歩を下がった。ミサイルも発射しつくしてランチャーを分離破棄する。
「紅葉先生!!」
詩吹がこちらに向かって走ってくる。だが今交代することは出来ない。今変身を解除したらその瞬間に自分は毒で死ぬだろう。二人分のエクシードプラズマーエネルギーが毒死をギリギリで食い止めているのだ。だがこのままではじり貧。1分もしないうちに巡った毒で死ぬだろう。ならば今すぐ死んででも詩吹に力を返すべきでは?
「詩吹ちゃん!!生きてね!」
「何言ってるんですか!!アカハライダーは二人じゃないと……!!」
「でもまだあなたは若いじゃない!!私なんかより全然若くて可愛い女の子……未来に生きて!!」
「諦めないでください!!」
詩吹が走っては紅葉に噛みつく蛇に飛び込み、脇を通して引き剥がそうとする。生身の状態だと牙に刺されずともその鱗から発せられている瘴気だけで呼吸器系が致命傷を負う。口までもたない、胸のあたりから既に血が体の外に溢れて流れ出ている。
「だめだよ詩吹ちゃん!!」
紅葉は咄嗟に前進しては剣を引き抜き、自分に噛みついている蛇を切断して詩吹を回収して離脱。
「どうして言う事を聞いてくれないの!?」
「あなたが死ぬつもりだからです!!」
「二人とも生きて帰るなんて出来ないよ!なら若い詩吹ちゃんの方が!」
「でも紅葉先生の方が強いじゃないですか!!」
「詩吹ちゃんには未来がある!すぐに私なんかより強くなれるよ!!」
「紅葉先生にだって未来を生きる資格はあります!!」
「その資格を使ってでも私は詩吹ちゃんを守りたいって言ってるの!!」
「そんな必要はないって言ってるんです!!!」
「どうして!?」
「私がまだ諦めていないからです!!私をあなたのつまらない諦めのために敗走者にしないでください!!」
詩吹は一瞬の隙をついて紅葉の脱臭炭とブレスレットをひったくる。
「あっ!」
髪が下ろされた紅葉を背後に、ダブルエクシードプラズマーフォームになった詩吹が2メートル以上もある大きな銃剣を担いでメデューサに向かっていく。既にまともに呼吸も出来ない状態で詩吹はビーム砲を発射。その砲撃でメデューサが楯にした蛇どもを焼き払う。が、そこで詩吹の様子が変わる。ついに限界が来たのか膝を折った。
「ぁ……ぁ……ぁ……」
呼吸になっていない喉の悲鳴が空気を微かに揺るがす。その景色を紅葉は涙で歪ませていた。無意識の前進が詩吹との距離を縮ませていく。伸ばした手が詩吹の髪に届きそうで、しかし距離が遠のいた。
「……ぁ」
ついに詩吹が前のめりに倒れる。その手から銃剣が落ちる。その時。
「大丈夫だよ」
声。倒れるはずだった詩吹の体を抱きとめて立ち上がる少女。
「発さん……」
それは発だった。詩吹をその胸で抱き留め、紅葉が伸ばした手を掴んで優しく握りしめる。同時に空から1発のミサイルが飛来してメデューサに炸裂。
「……本当に無茶を……」
空を飛ぶ姫火の中で赤羽が目を見張る。赤羽は発をここまで運んできたのだ。そして発は100メートル以上の空から飛び降りて二人の前に姿を見せた。あるものを運ぶために。
「これを」
発は紅葉と詩吹にペンダントのように小さなナイフのようなものを差し出した。
「これは……」
「来音ちゃん達が作ったんだよ。新しいプラズマの可能性を」
「プラズマ……まさか……」
紅葉は詩吹から受け取った脱臭炭にナイフを差し込む。詩吹もブレスレットにナイフを差し込む。
「さあ、唱えて。紅葉先生、詩吹ちゃん」
ほほ笑む発。紅葉と詩吹は一度顔を見合わせ、
「「あかはら・めもはら・らりろれらりぴょ~ん・ハイパァァァァプラズマアアアァァァァァァァッ!!!」」
叫びの声が柱のように燃え上がったプラズマのエネルギーに響き、二人の体を全く新しい存在へと変換する。
二人の肉体をむしばんでいた蛇邪神の毒さえも消えゆく。
「……ぬ、」
近くで暇つぶしに見ていた邪神アジ・ダハーカがその力を感じてわずかに声を上げた。
「ほう、」
発をキャッチして地面に送り届けてから異変に気付いたイシハライダーが声を上げる。
「あの二人、とんでもない力を手にしたものだな。WDの私かそれ以上の……!!」
悪質な極寒の地と化した旧セントラル支配地の山岳地帯にそびえたった二つの光の柱。その中から新たな姿になった紅葉と詩吹が一歩前に出た。
「アカハライダー・ハイパープラズマーフォーム!!!」
「アカハライダージャック・ハイパープラズマーフォーム!!」
名乗りを上げる。同時にミサイルの爆炎を抜けてメデューサが迫りくる。そのマッハ9の拳を紅葉は指一本で受け止め、同時に詩吹が右目からビームを発射してメデューサの胸を貫通、衝撃でその体を何メートルも吹き飛ばす。
「……すごい。あのメデューサがなんてことないように感じる……」
二人は自分で自分の力が信じられなかった。恐らく純粋なエネルギーだけでもダブルエクシードプラズマーフォームの500倍以上は確実。今まで目で追うことも出来なかったメデューサの動きがスローで見える。
再びメデューサがマッハ10で迫りくる。その胸には直径3センチほどの穴が開いている。その状態のまま。それを見ても二人に恐怖はない。むしろ、あれだけちっぽけな命をこの手でわざわざ潰す必要があるのかと言う感傷が渦巻いている。その逡巡はメデューサの拳が紅葉の頭に触れられるコンマ0.0001秒の直前まで続いた。だが、それ以上はなかった。紅葉が一歩も動かずに視線も動かさずに放った裏拳の一撃がメデューサの顔面にぶち込まれた。その直後、メデューサの肉体は100万度のプラズマ火球へと変換され、マッハ50の速さで吹き飛ばされた。そしてその元メデューサの火球は微動だにしていなかった邪神アジ・ダハーカの右手の小指に炸裂。僅かなやけどの跡が生まれた。
「……我を傷つけるか……」
「あなた相手ならちょうどいいかも?」
二人のアカハライダーが邪神アジ・ダハーカに視線を向けた。

------------------------- 第174部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
160話「神に挑みし者達」

【本文】
GEAR160:神に挑みし者達

・邪神が敵視をしたのは復活して2度目の事だ。アジ・ダハーカが二人のアカハライダーを見降ろす。実力だけなら二人合わせても数日前に屠ったナイトスパークスには遠く及ばないだろう。しかし、エネルギー出力だけならもしかしたら匹敵するかもしれない。そして神を由来としない力だ。権能を用いて奪うことは出来ない。それに、
「私も加勢しよう」
ボディビルダーが二人の背後に立ち、手鏡を出した。
「いつでもマッスルハッスルsuperbeautifulmasterone!!イシハライダーWD!!」
同時に変身して究極狂人ライダーへと変貌を遂げる。……変身した際に少年がひとり地平線の彼方に飛んで行ったが。この3人が揃った時点でその出力は十三騎士団を超えているのは確実。と言うか今現れた狂人ライダーは騎士の力を二つも有している。ナイトスパークスのそれと違い騎士そのものではないからか権能で奪うことは不可能。厄介と言うにはまだ足りないがしかし面白いと呼ぶには十分な力が揃っている。
「いいか君たち、出し惜しみはするんじゃないぞ!!」
「分かっています!!」
「倒し甲斐は十二分以上にありますので全力でやらせていただきます!」
最初に動いたのは詩吹だ。その掌から直径10メートル以上のエネルギーの塊を生み出すや邪神に向けて発射する。放った一撃の火力は先程メデューサを貫いたものの50倍もの火力。だが邪神アジ・ダハーカはそれを微動だにせず真っ向から受け止める。人間で言えば肩の筋肉のあたりに命中し、皮膚が数センチほど削れる。そして削れた皮膚のあった場所に紅葉とイシハライダーがいつの間にか上っていた。
「ハイパープラズマァァァァァパアアアアンチ!!!」
「ライダーエタアアアナルナアアアァァアァックルッッ!!!」
二人の拳が幾層も皮膚をぶち破っていく。その間も詩吹はビームとミサイルと火炎弾とを鬼のような弾幕で発射しまくっている。もちろん立ったままではなく、戦闘機のように空を飛び回りながらだ。その猛烈な火力の海は次々とアジ・ダハーカの皮膚やボディを削っていく。僅かずつだがダメージと言うものも与えられてきている。
「だが、猪口才だ」
アジ・ダハーカは双頭を動かす。その二つの口からは100万度とマイナス280度の火炎を吐き散らし、汚染されている地球の寿命を著しく削り取っていく。恐らくこのまま放置していれば地球はもう1万年と持たずにブラックホールと化すだろう。しかしアジ・ダハーカは全く躊躇することなく攻撃を続けて戦場そのものを破壊していく。
「……信じられない」
閉ざされた時空の中、ヘカテーは戦場を見て絶句していた。
「あのアジ・ダハーカを相手に1分以上満足に戦えているだなんて……あのお兄さんでさえ戦いにならなかったのに……。これはもしかしたら……」
「これが人間の力だ、ヘカテー」
「!」
声。振り向けば群青と四つ足のダハーカがそこにいた。
「生きてたんだ」
「当たり前だ、我らがある時の目覚めを前に死んでいるなんて出来るものか。だがなヘカテー。お前はとっくに気付いているはずだ。我らが主が目覚めた本当の理由を」
「本当の理由?そんなものあるわけないでしょ?アジ・ダハーカはかねてからの望みを叶えるために生き返った」
「それは目的であって理由ではない。いや、私が聞きたいのは理由ではなく原因だ」
「いくらヒディエンスマタライヤンであってもそう簡単にこの星に眠る邪神を蘇らせることは簡単な事じゃない。況してやたったの50年で復活だなんてあり得ない話。あなたも分かっているでしょう、これくらい」
「……そうかもね。でも、私はともかくあなた達はダハーカなんだからアジ・ダハーカには従う宿命なんでしょ?」
「そうだ。だが、まずは我が主の目を覚まさせる方が先だ」
「……本気で言ってるの?いくら上位であってもダハーカである以上創造主である邪神アジ・ダハーカに逆らうなんてこと、存在が許されると思うの?」
「逆らうことと裏切ることは同義ではない」
それだけ言って群青と四つ足のダハーカは去っていった。
「……信じられない。ダハーカがアジ・ダハーカを裏切るだなんて。アジ・ダハーカが復活した本当の原因がどうのこうの言ってるけど一体どこの誰に吹き込まれたんだろう?」
ヘカテーは少々考えてから戦場に視線を戻した。

・1分にも満たない時間だが既に戦場はとても先程と同じ場所とは思えない状況になっていた。周囲の山岳は全て砕け散り、しかしそこら中に火口や溶岩が生まれその上で猛吹雪と轟雷雨が大地を汚している。自然では絶対にありえないまでの天変地異。アジ・ダハーカはこの1分間で地球の寿命を数百年分以上も縮めている。そしてそれだけの事をしておきながらもまだ標的は消えていなかった。
「はあああああああああああああ!!」
アジ・ダハーカが繰り出した600万度、直径2キロの火炎弾を紅葉はサッカーボールのように蹴り飛ばす。帰って来た破壊の球をアジ・ダハーカは軽く受け止めその出力を3倍にして投げ返す。
「この私に死狼以外の数学が通用すると思うなぁぁあああッ!!!!」
10億人に分身したイシハライダーがそれを真っ向から受け止め、数千万人分の分身の全エネルギーと引き換えに出力を100倍にして投げ返す。
「ライダァァァァァエタアアアアナルクラアアアアアアアアアアアアアフト!!!」
投げ返した破壊弾が空中で反物質へと相転移されさらに秒ごとに無限に分裂しながらアジ・ダハーカに迫る。その威力は受け止めそこなったものから順番にアジ・ダハーカの肉体を0.2%単位で削り取り消滅させていく。
「ハイパープラズマバアアアアアアアアスト!!!」
さらに詩吹が上空からミサイルの雨を降らす。一発一発が日本列島を小石程度にまで粉砕するだけの火力を秘めている。それが10000億発以上。それらすべての直撃を受けてなおアジ・ダハーカは動じず、受けたダメージを片っ端から修復しながら空の詩吹を掴んでは200光年以上の彼方に投げ飛ばし、しかし3秒後に帰って来た詩吹の放ったミサイルを冷凍光線で全て粉砕する。その3秒の間に紅葉が総重量10000万トン以上はあると思われるアジ・ダハーカの肉体を足から持ち上げて太陽に向かって投げ飛ばしているが、アジ・ダハーカは無傷で1秒で帰還して紅葉を踏み潰す。紅葉は踏まれた瞬間に瞬間移動して回避しつつ、全長200キロ以上の剣を召喚してアジ・ダハーカ向けて振り下ろしては右首を斬りこむ。そしてイシハライダーが10億体に分身しては太陽の5倍の出力を誇るエネルギーを纏っては次々とアジ・ダハーカに突撃していく。
「面白い。だが!!」
それらを経ても無傷だったアジ・ダハーカが地球の体積を15万倍へと急成長させつつ太陽系の各星々を3人に向けて落としていく。
「たまには力も使わねばな……」
アジ・ダハーカは木星と天王星の間に3人を挟みつぶしたまま2つの星を強制的にブラックホールに縮退させ6000億光年の彼方まで投げ飛ばす。
「これが神の力だ!」
さらに投げ飛ばしたブラックホールに向かって太陽の10万倍以上の出力のビームを秒速20万発以上連射して6000億光年後に完全消滅させた。
「……ふむ」
10秒後、足元を見れば3人が帰還していた。しかし、
「……ありえないくらいのばけもの……」
3人共にスタミナを切らしていた。出血こそしていないがこのレベルの戦いになると空間ごと敵を消滅させない限り損傷などに意味はないだろう。
「スピードだけならこちらの方が速いんですけどね……」
「相手は生き返ったばかりの死に体とはいえ神と言う事だな……!」
息を切らせ、肩を揺らす3人をアジ・ダハーカは目を細めながら見下ろす。
「確かに面白い。驚かせてくれる。だが、どうしてもこの程度では脅威にはなりえないな」
アジ・ダハーカは3人に向かって太陽を23個落とす。そのまま直撃すれば3人はともかく地球は蒸発してしまいかねない。しかしその時は来なかった。
「……ほう、」
声を上げるアジ・ダハーカ。何故なら降り注ぐ23個の太陽全てをフォノメデスが受け止めていたからだ。
「あれは……!!」
「遅くなりました!!」
スカーレッドが答え、フォノメデスが23個すべての太陽を吸収する。
「マグマブラスター!」
そしてそのエネルギーを力に変えて火炎弾を2発発射する。つまりこの2発の火炎弾は太陽23個分だ。それをアジ・ダハーカは片手だけで握りつぶす。と、
「うおおおおおおおおおおおおああああああああああああ!!!」
その握った拳にフォノメデスが拳を叩き込み、震度40以上の衝撃をアジ・ダハーカの右腕に走らせる。握りつぶしたばかりの火炎弾が掌の中で大爆発し、アジ・ダハーカの右腕全体がまるで火柱のように燃え上がる。
「この力、ヘカテーが与えたものか……!」
「だが!!あんたの知るそれとは違う!俺達の魂が、ソウルプラズマーが含まれているんだぁぁぁぁあッ!!!」
5人の叫びが魂の輝きとなり、アジ・ダハーカの巨体が後ろに倒れる。
「アルティメットサンダー!!!オーバークライシスハリケーン!!ダイターンロストウェエエエエエエブ!!!」
倒れたアジ・ダハーカに100億ボルトの電撃×1億と風圧50億の竜巻と水圧500億以上の大津波が押し寄せその巨体を完全に攻撃の中に包み込む。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおあああああああああああああああああ!!!」
そしてその現象となったアジ・ダハーカを丸ごと持ち上げて150000億光年のかなたにまで投げ飛ばす。
「くらえ!!ソウルバニッシャァァァァァァッ!!!」
両腕のブラスターを宇宙の彼方に向けてソウルプラズマーのエネルギーを集約。15万倍の大きさになった地球全体を激しく揺るがすほどの凄まじい天文学的エネルギーが全てフォノメデスのブラスターに集中、5秒のチャージの後発射される。1秒で2000億光年突き進む光線は掠っただけで木星の100倍の大きさの星をも粉微塵に消し飛ばす。
「ぬうう……!!」
そして宇宙の彼方でアジ・ダハーカに命中すると、とんでもない出力の大爆発が発生。周囲6000億光年にあるすべてのものが光となって消滅し、宇宙全体の体積が15%消失する。
「……なんて馬鹿力だ。この私にここまで言わせる存在があったとはな……!」
イシハライダーが冷や汗をぬぐう。しかしやがてそれも別の色に変わる。
「ど、どうしたんですか……!?」
異変に気付いた紅葉と詩吹が尋ねる。
「……神というのは想像以上に化け物らしい」
その言葉が終わると同時、アジ・ダハーカは地球に帰還した。
「そんな、あれを喰らって無事なの!?」
だが無傷ではない。アジ・ダハーカが攻撃を受け止めたであろう右腕は肩口から完全に消滅していた。それに全身の至る所が焼け爛れている。消滅以外の損傷は無意味と言ったがしかしこれだけの損傷を与えられる火力には意味があり、そしてそれですら倒し切れていないと言う事にもまた意味がある。
「……なんて奴だよ……!!」
危うく変身が解けそうになりながらスカーレッドは驚愕のままに愚痴る。
「……あの力、確かにスライト・デスとも比べ物にならないようだ……!!」
「当然である。我は神なるぞ。神である以上貴様達生物が想像し、創造しうる全てが通用するはずがなかろう。とは言えその16歩手前にまで迫ったこの威力には驚かされたものだが」
言いながらアジ・ダハーカの右腕が再生していく。
「ふん、」
再生途中でアジ・ダハーカは光の70倍の速さでエネルギー弾を吐き、対応しきれなかったフォノメデスに直撃。
「ぐあああああああああああああ!!」
所々爆発しながらフォノメデスは転倒し、中の5人が外に弾き出される。
「さて、肩慣らしはこの程度で十分だ。そろそろこの星を灰燼としよう」
アジ・ダハーカがそのエネルギーを地面に向ける。と、そこへ二つの陰。群青と四つ足のダハーカだ。
「ダハーカか。何用だ?」
「我が主。お聞きください。あなたは利用されている」
「戯け続けろ」
「お言葉ですがあなたは完全なるあなたではありません。アフラ・マズダに殺戮されたその存在は決して修復されてはいないのです。今のあなたはあなたでさえも気づいておられないが偽物の存在です」
「続けろ」
「我が主よ。どうかご自分を取り戻してください。矮小な存在に利用されている主の姿を見たくはありません」
「……何を言うかと思えばこの我が一体何者に利用されていると言うのだ?ダハーカは失敗作だな。戯れ未満の暇つぶしに作った低俗な種族だがまさかここまで無能だとは」
「私を消すつもりでしたらそれで構いません。だが、あなたが本当の自分を取り戻すまでは私は何があっても死ぬつもりはありません」
「……そういえば貴様は……」
言うと同時、群青は跳躍。アジ・ダハーカと同じサイズにまで巨大化すると、アジ・ダハーカを正面から担ぎ上げてプレーンバスターを叩き込む。そして倒れたアジ・ダハーカの背中を手で貫くと何かを引き抜く。
「これが生前のあなたにおありでしたか?」
引き抜いたそれはフォノメデスそっくりの巨大ロボだった。
「これは……!?」
邪神アジ・ダハーカは初めて声色を変えた。つまり、自分の中にそれが眠っていたことを全く知らなかったと言う事だ。
「あれはフォノメデスなのか!?」
シンが見上げる。しかし、フォノメデスは今自分達の前で霧散化している。再びシン達が変身しない限り動きはしない。それにこちらのフォノメデスは5人のカラーリングが合わさったような姿をしているが今引きずり出されたそれは黒一色だ。さびているわけではないだろう。しかし、そのロボが出現してからアジ・ダハーカは言葉は話せても微動だにしなくなった。
「動かない……何が起きている……!?」
「………………やはり、そういうことか」
群青は舌打ちをする。
「我が主よ」
「貴様……」
「あなたは今精神体のようです。完全に復活したわけじゃありません。いいえ、復活したのはその精神の一部のみ。今まであなたが動いていたその肉体はすべてその機械が代わりに動いていただけのようです。あなたの今のそのお姿は着ぐるみのようなもの」
「……ならば一体何者がこのようなことを」
「……そういうことか」
新たな声。見れば先程まで発がいた場所にヒエンとルーナ、ルネが立っていた。
「どういうことよ、瑠那」
「ルーナ、お前は今のジ・アースが二人いると言ったな。そのうち片方があの邪神アジ・ダハーカだと。と言う事はつまり……」
「そうだよ、廉。私は二人だと思っていたがジ・アースはやはり一人しかいなかった。あの邪神アジ・ダハーカは傀儡のジ・アースだったんだ。ジ・アースの力を持つものが二人いるように見て、実際にはもう片方が演技をしていただけなんだよ」
ルーナはそう言いながらも決してアジ・ダハーカに近寄らない。絶対にその身を動かすことが出来ないと分かっていながらも相手が圧倒的な強さを持つ邪神であると認めて警戒しているのだろう。その代わりに弁を続ける。それをその場にいた全員が聞き耳を立てる。だからか、その続きはルーナではなく群青が告げた。
「我が主よ、今のあなたは精神以外すべて偽物であるようです。全てはこの時代のこの星の支配者が目論んでいた事」
「……たとえ神であってもその星にいる以上ザ・プラネットには逆らえない。特に、精神の一部だけを蘇らせて自分で用意したかりそめの肉体を与えて傀儡しているだけの状態で逆らうのは無理な話だ」
「ルーナ、教えてくれ。あの邪神さえも操っていた本物のジ・アースとは何者なんだ?」
「それは、」
「アドバンスだよ」
声は別に来た。そしてその声をヒエンは最初信じることが出来なかった。ただ、ルネがやや歓び交じりのため息をついたことで確信を得て振り向く。
「歩乃歌ちゃん!?」
「はぁい、可愛い歩乃歌ちゃんですよぉ……」
溶岩と火口と雷雨と猛吹雪を超えてげっそりした表情の歩乃歌が戦場に歩いてきた。
「馬鹿な、貴様はあの時滅んだはず……」
「傀儡なんかに僕が負けるわけないじゃん。でも傀儡にしては過ぎた力を持ってるし、それでも傀儡だしで全く訳が分かんないから色々調べてたんだよ。それで分かったんだよ。あなたは本物のジ・アースであるアドバンス・M・クロニクルに操られていただけなんだ」
「……アドバンス・M・クロニクルってどこかで聞き覚えがあるな……何か、すげぇ嫌な雰囲気だけど」
「……祟が言っていただろう。ライランド・円cryンや三船所長の祖先にしてあなたの孫。進化のGEARを有する存在だ」
「……孫かぁ……。ってかまだ生きてたのかそいつ」
「そうだよ廉君」
歩乃歌がいつの間にかすぐそばまで歩いてきていた。正直声を聴きそのボロボロの姿を見ただけで心がどうしようもなく痛むが、どうしようもなく振り向きその存在を認める。
「もしかしたら言ってないかもしれないけど僕が元居た世界で戦ったけど決着がついていないラスボス。UMX0号。それがアドバンスなんだ。蛍の話だと今も僕のいた世界を支配しているみたいな感じだったけどどうやら既にこの世界に来ていたみたいだね」
「……そいつがこの世界に……!?」
「そうだ……」
またしても新たな声。今度は地底深くから迫りくるような厳かな……ジョージボイスみたいな声。同時に地震が起きる。しかし崩壊や破壊を生むような邪悪な気配はない。それどころかアジ・ダハーカがばらまいた環境汚染やら15万倍への拡張やらが元に戻っていく。そして微動だにしないアジ・ダハーカのすぐ近くに巨人が姿を見せた。イメージとしては鎧武者姿の織田信長。どこまでも生真面目でしかし無遠慮な魔王と言った厳格な初老の男性……しかしサイズはけた違いである。アジ・ダハーカほどではないがしかし1000メートル以上は確実か。
「……やあ久しぶりだねUMX0号いやアドバンス・M・クロニクルって言った方がいいかな?」
「終億の霹靂を手にした少女紫歩乃歌か。まさかお前までこの世界に来るとはな」
「で?僕の世界を滅ぼしたって話だけど今度はこの世界でどうしようって話なの?見たところ地球を破壊しようと言う訳じゃなさそうだけども」
「だが結果の1つとしては考えている。私の目的が果たさなかった場合にはこの母なる星も破壊させてもらおう」
「その結果としていよいよ十三騎士団とかに倒してもらおうってこと?」
「かもな」
話は終わった。アドバンスはヒエンを真っすぐ見た。
「お初にお目にかかる。元ナイトスパークス。今その力をお返ししよう」
アドバンスは言うとアジ・ダハーカから出た黒い機体に歩み寄り、拳の一撃でそれを破壊する。
「ぐっ、な、何を……!!」
「邪神アジ・ダハーカ。悪いが私の計画のために利用させてもらった。私の目的は果たせなかったがしかしもう用済みだ。悪いがまた眠っていてもらう」
その言葉を最後にアジ・ダハーカは霧のように消えていった。それを見もせずにアドバンスはヒエンを見直す。見ればヒエンの腰に一本の刀が再生されていく。
「……万雷が……」
「さあ、話をしようか。……おじいちゃん」
アドバンスの発言にヒエンと歩乃歌はずっこけた。

------------------------- 第175部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
161話「統夜一緋」

【本文】
GEAR161:統夜一緋

・すべてを転倒させたアドバンスは咳払いをして言葉を続けた。
「今から50年前、矛盾の安寧は壊された」
ヒエン達は起き上がりながら耳を傾ける。
「だが矛盾の安寧が始まったその2年前から既に本来の地球にザ・プラネットは不在となってしまっていた。ザ・プラネットが存在しない惑星はどうなってしまうか分かるか?」
「歴史がゆがむ」
問いにはヒエンでなくルーナが答える。
「惑星と言うのは一種の歴史再生装置。特に地球と言うこの惑星はヒディエンスマタライヤンに支配され無限に同じ歴史が少しだけ形を変えながら繰り返される」
「そう。だが考えても見てほしい。ヒディエンスマタライヤンは決して時間を巻き戻して同じ歴史を繰り返しているわけではない。地上の文明を全て物理的に消し去ってから再び同じ歴史を繰り返している。そんなことが果たして可能なのかどうかを」
「……どういうことだ?」
「いや、それを廉君が聞いちゃダメでしょ」
「廉、あなたは零のGEARを有しているからもしかしたらわからないかもしれないが普通、すべての存在は唯一無二だ。私を殺したところで再び同じ私を作れると思うか?ディオガルギンディオの超能力を以てすれば不可能ではないかもしれないが普通は無理だ。形や名前、そして能力だけなら再現は可能かもしれないが記憶や人格まではそうではない。況してやどういう行動をとるかなどは当人ですら分からないし他人が正確に制御できるものでもない。ヒディエンスマタライヤンはもちろん自分で望んで変えている歴史もあるが実際には再現できずに変貌を遂げた歴史と言うケースも存在するはずだ」
「……それは分かったがそれとあいつが話しているものに何の関係があるんだ?第一ザ・プラネットがいないってあり得るのか?プラネットは言ってみればその星の本体とか核のようなものだろう?それが存在しないってその星に未来はあるのか?」
「ないな」
ルーナは即答。
「だが52年前に実際にその現象は起きてしまっているんだ。あなたが矛盾の安寧の中で目を覚ますと言うイレギュラーを起こしてしまっているのだから」
「……その52年よりも前は確か零のGEARの効果で100年くらい眠っていたんだっけ?で、152年以上前にはルーナやキャリオストロ、まほろと一緒にいた世界があった」
「そこは今は大事ではないから飛ばすぞ。で、今までヒディエンスマタライヤンによって支配されていた地球の歴史、それをあなたはずっと支え続けていたんだ。記憶にないかもしれないがその力があれば、プラネットの力があれば先ほど言った歴史の完全再現と言うのは不可能ではない。詳しくは分からないがあなたはヒディエンスマタライヤンの文明再生を今まで止めずに歴史を不完全に戻すと言う回復手段だけを取っていた。だが52年前にそのループは途絶えてしまった」
ルーナの説明が終わるとアドバンスが口を開く。
「ヒディエンスマタライヤンによって滅ぼされた歴史は、52年前を最後に修復されていない。その結果この荒廃した世界が誕生した。羽の因子を辿ってスライト・デスまでもがやってきた。それによりいよいよ地球が持たない時が来た。しかしそれを快く思わない者もいた」
「十三騎士団か?」
「違う。彼らは此度の事変で何も動かなかった。……動いたのはパラドクスとディオガルギンディオだ。この宇宙で最もパラドクスにとって都合のいい歪みを発生させる環境が地球にはあった。調停者どもにとってもこの星は色々な因子は集まっている関係上実験場に極めて相応しい舞台だった。だから彼らは利害の一致のために手を取り合って新たなジ・アースをこの星に呼び寄せたのだ」
「……それがお前だって言うのか?」
「そうだ。私は進化のGEARを所有していた。元居た世界には他にも進化のGEARの持ち主はいた。だが、我々は進化をし過ぎてしまった。その結果進化のGEARを持たない全ての存在が淘汰されてしまい、さらには進化のGEARを持った存在の中でも最も進化したものを除き排除されてしまった。その孤独な進化者と言うのが私だった。私は世界でたった一人だけの存在になってしまったのだと思い、それを否定したくてあらゆる世界を旅してきた。その中で十三騎士団やパラドクス、プラネットに調停者達の存在を知った。紫歩乃歌のようにGEARの効果により極めて人間離れした進化した種族が存在していることも分かった。私は高揚した。私がどんなに進化をしても淘汰されない存在がいるのだと、私は決して一人になるべき運命を背負った存在ではないのだと。だが、結局私が高揚していたのはほんの数百年に過ぎなかった。私の進化のGEARはついに他の存在にまで影響を及ぼすようになってしまった。それにより多くの文明が滅んでしまった。私は再び自分が孤独になるだけではなく他人まで孤独にしてしまう存在になってしまったのだと深く絶望した。そこで調停者どもが手を差し伸べてきたのだ」
「……それで新しいジ・アースになったというわけか。だが妙な話だな。お前がいるのにこの星の人間達は決して進化をしていない。それどころか外的要因があるとはいえ滅亡寸前な状態だ。これはどう説明するんだ?」
「違う。これは新たな進化の形なのだ」
「何?」
「甲斐シンや赤原紅葉などを見ろ。彼らはGEARだけではない強い力を有している。ついにはスライト・デスの最高幹部まで倒せるようになった。先程の邪神との戦いでその力はさらに進化を重ねた。その上で他の存在が淘汰されることなく、わずかとはいえ星の文明を生きながらえさせている。新しく進化した彼らは孤独ではない上、偽りの肉体を得ていたとはいえ神にさえある程度は戦えるほど進化を得ているのだ」
「……それでいつまでもこの荒廃した星で人類の進化を促してお友達を作ろうって話か。めちゃくちゃだな。確かのスライト・デスにも負けないだろう。そのための実験として邪神を一時的によみがえらせたと言うのも分かる。だが、お前のやり方はそう長くはないぞ。あまり記憶がないから確証はないが調停者どもはごく一部の強い存在も好きだろうがしかし寿命が近いものには興味を持たない。この星はスライト・デスを倒したとしてももうそんなに長くはない。さっきの邪神との戦いのダメージもある。お前が少しは再生させたんだろうがまだ本物ではない。自然環境は治せてもこの星の寿命そのものは短いままだ。恐らく1000年は持たないだろう。人類だけに限って言えば100年も難しいだろうな。果たしてそんな星を調停者達がいつまでも後生大事にフラスコとして扱うか?きっとこんな未来を選んだ代償としてお前の始末にかかるだろう。それが目的だったらとっくの昔にお前は行動に移して調停者達にその身をささげている。つまりお前は別に自殺をしたいわけではない。死にたいわけでもまあ、ないだろう。だからお前が今ここで行動を起こした理由はこっちに助けてもらいたい、んじゃないのか?」
「……だが正直貴様は期待外れだった。こんな私を生んだ原因の原因なのだから恐らくとんでもない存在なのだと、私が期待と希望を寄せても問題ない存在なのだとそう思ってこの52年を過ごしてきた。そして貴様がやっと52年の時を経てこの世界にやって来た時には久方ぶりに高揚したものだ。だが、貴様のやったことと言えば傲慢から来る怠惰ばかり。やろうと思えばいつでもこの世界をもとの平成の世界に戻る事だって出来たはずだ。しかしそれをしないまま時を過ごし、紫歩乃歌を凌辱し、いざ復活した偽りの邪神には手も足も出ずに倒されてしまった。全ての力も奪われた。勝てて当たり前の敵のみを相手にし、出来るはずの行為を何もせず、倒すべき敵に対して何も出来ず」
「……だからすべてを諦めてこっちを始末しようと思って姿を見せたのか?」
「そうだ。だが、見込みがあるならば私は貴様を生かそう。そして元の力を返すつもりだ」
「で、一緒に力を合わせて迫りくる調停者をぶっ倒し、地上を戻す手伝いをしてくださいって腹か」
「不服かな?おじいちゃん」
「その呼び方は著しく不服だな」
しかしとヒエンは考える。既に歩乃歌も思考の渦を脳内で深めている。今までの話を整理するならば、
52年前にヒエンは矛盾の安寧の中で目を覚ましてしまい、そのせいで本来の地球ではジ・アースが存在しない関係でヒディエンスマタライヤンによる文明破壊が行われしかし再生しなかった関係で破壊と荒廃の歴史が生まれてしまった。こうなったらパラドクスも調停者も面白くないからアドバンスを別の世界から呼び寄せて仮のジ・アースとして52年間地球を任せていた。その間にスライト・デスがやって来たけどアドバンスは人類の進化を見たいからと敢えて手出しをせずに地球の荒廃を黙認した。が、やりすぎてこのままだと地球の未来と自分の命が危ないからとヒエン達を呼び寄せた。しかしヒエンが思った以上にくそ雑魚えもくじだったから計画を変え邪神を使って始末しようとしたが思った以上の進化を人類がしてくれたからもう一度だけチャンスをくれてやろう。その代わり自分に協力して調停者を倒し、地球をちゃんと元に戻す手伝いをしてくださいと言うお話だ。
メリットしかないように見える。デメリットがあるとすればそのチャンスとやらが恐らくかなり理不尽なものとなるであろう事と、もっと理不尽な戦い……調停者との戦いがその後に待ち構えている可能性が高いと言う事だ。
「……1つ聞くが、そのまま何もせずにこちらにすべての力を返してお前はこの世界を去ると言う選択肢は?」
「ないな。私の目的は地球再生ではない。それをエサに出来るからこうして貴様の前にぶら下げているのだ」
「お前の目的は孤独から遠ざかりたいと言う事だな?出来れば二度と孤独を味わいたくないと」
「そうなるな」
自分達の背丈が向こうのくるぶしにすら届いていないようなバカでかい巨人だがしかしその心はやはり人間と大差ない。だからこそ孤独を恐れる。そして、それが叶わない場合には何をするか分からない。何をしてもおかしくない力をこいつは持っている。最低限それは非常に迷惑だから取り戻しておきたい。それに孫の代に会うのは初めてだ。
「もう1つ聞くがお前はこっちがどうして記憶喪失になったか分かるか?」
「零のGEARの効果だろう。その都合上永遠を生きることになりかねない存在が感情に負けることを恐れて100年単位で記憶をリセットして100年間の眠りにつく」
「そうじゃない。こっちは未だに十三騎士団やパラドクス達の事も実はあまり思い出せていない。ルーナに会って話を聞くまでの間は自分の本名すら忘れていたくらいだ。そういう意味じゃ真の力は取り戻せていないのだからお前のお眼鏡にかなわないと言うのも無理はないかもな」
「そんなお喋りをしたいわけではない。我が母はきっぱりとしていた。その父ならば貴様もはっきりとしたらどうだ?私の最後のチャンスを引き受けるのか受けないのかどっちか今すぐに答えてもらう」
強引なやり方はどこかで見覚えがある。そんな表情をルーナや歩乃歌がしてこちらを見ている。いや、お前達が言うな。と言うか母と言ったな。だとすればこいつの母であり自分の娘であるのはルネか或いは未だほとんど記憶がない長女・怜悧(れいり)か。時間軸的に言えば後者だろう。ルネは200年近く天使界で封印されていた。怜悧はそれよりも前に生を受けそして死んでいる。
「さあ、はっきりと」
「その前にこちらの相手をしてもらおうか。地球の支配者」
声。それは巨大化したままの群青。アドバンスが振り向くと同時その胸に拳を叩き込んだ。巨人同士の拳闘がそれだけで大気を揺るがす。
「……ダハーカでありパラドクスでもある存在か」
「そうだ。貴様の事は聞き覚えがあるぞ。ギルドバンハグタリア以外で唯一他人を進化させることが出来る存在であり、いずれギルドバンハグタリアに肩を並べうる存在だと」
「そこまで知っているのなら貴様に勝ち目はないとも分かるはずだが?」
「ああ、私では貴様に勝てないだろう。だが貴様は我らが主を利用した。その罪の重さを知るといい」
「たかが神を踏みにじって何だと言う」
アドバンスは受けた拳の腕をつかみ上げて群青の巨体を持ち上げる。と、群青はそこからさらに3倍以上の大きさにま巨大化してアドバンスの顔面にドロップキックを叩き込む。
「ゾロアスターの力を思い知れ!!」
山のような大きさで肉弾戦が開始された。戦うのはパラドクスの群青と進化のGEARの持ち主であり、今や地球の代行者でもあるアドバンス。陣地を越えた男達が選んだ方法は全く原始的な肉弾戦。それは進化とは正逆に位置するような戦い。違いがあるとすれば桁が違うと言うことくらいか。
「ぐっ!」
やがて群青は膝をついた。
「パラドクスというのも大したことはないな」
アドバンスにほとんど消耗は見られない。手段は単純な肉弾戦でも既にその次元は本来肉弾戦でどうにかなるものをとっくに越えている。だからか群青の体術はまるで通用していない。
「……尤も貴様はパラドクスとしての力をほとんど使用していないな。どう言うわけだ?」
「ふん、いくら進化のGEARを有して悠久の年月を生きながらえている貴様でもどうやら知識の面ではそれほど進化は遂げていないようだな」
「……ならば言って見ろ。何が貴様からパラドクスの力を封じている?」
「私は確かにパラドクスだ。10万年以上前にこの星にやってきた。だがその時に出会ったのだよ。身も心も捧げるにふさわしい存在をな。パラドクスに上下関係はない。生まれた時から存在するのは歪みを奪うというただそれだけ。だが、私はこんな辺境の惑星にたどり着き、得てしまったのだ」
「まさか、全宇宙から歪みを喰って文明を混沌に導く存在であるパラドクスがゾロアスター教信者とは思わなかったな。いくら地球最古の宗教とは言え全宇宙から見れば赤子のようなものだろう」
「赤子のような文明でも十分だ。私はそれだけの理由でパラドクスである事を捨ててダハーカとなった。だからその誇りのまま貴様と合間見える。ただ、それだけの話だ!」
立ち上がった群青は自ら防衛本能からわき出したパラドクスの力を押し込んで両手の爪を変化させながらアドバンスに向かう。
「……パラドクスとは言え所詮は知的生命体。矜持のために己の命を捨てるか」
アドバンスは群青の突撃を片手でくい止めるとアイアンクローで頭をつかみ、数百万トン以上の握力で頭蓋骨を粉砕させながら跳躍。
「ならば散るがいい。尤も貴様のこの巨体を葬れるだけの大きさの鳥などいないだろうがな!」
上空で停止したアドバンスは群青を宇宙の彼方にまで投げ飛ばす。
「滅びろ!ヒュッケバインブレイカー!!」
そして巨大な鳥の姿をしたビームを全身から発射し、宇宙の彼方に漂う群青を覆い隠し、その肉体を跡形も残らずに消し飛ばした。
「……やりやがったな」
ヒエンが固唾をのむ。着地したアドバンスが見上げるヒエンを見下ろした。
「さあ、前哨は済んだ。次は貴様が可能性を示す番だ」
アドバンスは言う。しかし、言うまでもなくなかなか異常に厳しい状況だ。たったいまアドバンスが楽々と葬った群青にさえ今のヒエンでは勝ち目がないだろう。
「せめてあれが完成していればな」
「だったらやってみる?変態師匠」
声。それは歩乃歌のパラレルフォンから聞こえた火咲のものだ。
「火咲ちゃん!?」
「へえ、火咲は生きてたんだ」
「それはこっちの台詞よバカ娘。あんたのせいでお姉さまが大変だったんだから。覚悟しておきなさい」
「うう、したくない覚悟だなぁそれ」
「それで火咲ちゃん、まさか……」
「ええ、完成したわよ。今2号機が運んでいるわ」
「最上火咲さん。あなたの前では言いづらいですが私は赤羽美咲です。……ヒエンさん、上を」
赤羽の声に従うといつの間にか姫火が飛んでいた。心なしかわずかにフォルムが違うようにも見える。今までのは鳥に似せた戦闘機と言った感じだが現在のはメカメカしいが戦闘機よりかは鳥に見える。
その姫火がゆっくりと降りてきては中から赤羽が顔を出し、こちらに向けて何かを投げた。ヒエンが受け取ったそれはパラレルフォンだった。
「へえ、廉君もPAMTを?」
「ああ、これでやってやるぜ!」
ヒエンはすぐさまPAMTのアプリを起動。すると、黒い閃光がほとばしりヒエンの体を包み込む。そして、次の瞬間には騎士をモデルにしたような40メートルほどのPAMTが大地に君臨していた。黒と黄色のツートンゼットンカラー、腰には銃剣。右手にはPDWの機関銃。
「……これが切り札PAMT……名前は?」
「ヒエンさんが決めていいとのことです」
「だったら……行くぞ、ライクーザ!!」
ヒエンの思考に合わせてライクーザと名付けられた漆黒のPAMTが跳躍する。
「……」
アドバンスは微動だにせず。迫り来るライクーザが機関銃を発射するのを眺めていた。秒速20発、一発一発の威力は姫火が有するミサイル並。それをヒエンの魂と共鳴したことで制御が可能になったナイトスパークスとしての力によって超スピードと貫通力で強化される。
アドバンスは片手を出してその銃撃を受け止める。
「……む、」
無傷で受け止めるつもりだったのだろう。だが、結果として2、3発ほどがその分厚い手のひらを貫通してアドバンスの頬をかすりつけた。
「……見たところ通常の火器。それがここまでの威力を有するのか……?
「小回りの良さと貫通力を優先させたモデルだ。それをこのナイトスパークスが強化してんだぜ?」
「だが、調子に乗るほどではない」
「は?」
アドバンスは接近したライクーザをつかみ、思いっきり地面にたたきつける。
「ヒエンさん!」
爆発にも似た衝撃が地面に生じる。近くにいた歩乃歌は既に千代煌で退避している。ルーナの姿が見えないがまあ、無事だろう。
そして、ライクーザは。
「……ほう、」
「おいおい、マジか」
乗っていたヒエンの方が驚く声が大きかった。何故ならライクーザは無傷だったからだ。
「これは、零のGEARか……?」
「完璧に同じものじゃないけどね。機体全体が単分子で出来ているから破損しない。最強の防御力を有しているそうよ」
「十分だ!」
立ち上がったライクーザが再びアドバンスに向かって機関銃を連射しながら接近を開始する。対してアドバンスは今度は射撃を回避しながら拳を握りライクーザを迎撃する。
「ダメージは与えられないぞ!」
「だが、貴様には絶対の弱点がある」
「何!?」
「こうすることだ」
アドバンスの拳を食らったライクーザは打たれたピンポン球のように大空へと吹っ飛んでいく。瞬く間に大気圏を突破して宇宙まで飛んでいく。
「ぐううううううううううううう!!!」
ヒエンの悲鳴も途中で終わった。
「ヒエンさん!?」
「力の大半を奪われているとは言えジ・アースである存在は地球の外には出られない。それでなお地球の外に移動させたらどうなるか」
アドバンスの声を受けた赤羽は全速力で宇宙に向かって飛んでいく。
「美咲……」
歩乃歌が見る。それを背に姫火はどこまでも宇宙を飛んでいく。当然宇宙になど来たのは初めてだ。ヒエンがどの方向に飛ばされたのかも分からないし地図があるわけでもない。そもそもPAMTが宇宙空間での活動に耐えられるのかも分からない。それでも飛行を続けた。そして、見つけた。
地球から数百キロも離れた宇宙空間にライクーザは無気力に漂っていた。
「ヒエンさん!!」
声を飛ばす。しかし反応はない。アドバンスの言うとおりなら既にヒエンの命は危うい状態にあるのだろう。だが、赤羽はアクセルを押す。姫火がライクーザの背後に回り込み、その背中に装着される。ライクーザの制御権が一時的に姫火に、赤羽に移り、赤羽はライクーザを地球まで運ぶ。
「まさか……」
アドバンスが小さく驚いた。その視界の中に小さな赤い点が見えたからだ。すぐさまアドバンスが先ほど群青を葬った一撃を放とうとする。しかし、
「大人げないよ、UMX0号!」
歩乃歌の声が流れ、千代煌の終億の霹靂がアドバンスの腕を貫く。
「くっ、」
「ほら、お姫様のお帰りだよ」
その直後にライクーザは地球に戻ってきた。
「……ふぃ~、助かったぜ赤羽」
まるで溺死寸前だったように意識を取り戻すヒエン。
「いえ、このための姫火みたいなものですから」
「なら操縦系を任せてもいいか?こっちは攻撃に専念する」
「私でお役に立てるのでしたら……」
「よし、行くぞ!ライクーザ!!」
ライクーザが機関銃の代わりに銃剣を抜く。
「轟け、万雷ぃぃぃぃぃぃっ!!!」
その状態でヒエンが力を解放する。と、銃剣の剣の部分が姿を変え、至上の万雷へと変貌する。さらに銃の部分に機関銃を装着する。
「万雷・ベイオネットクロス!!やぁぁぁってやるぜ!!!」
万雷の鍔の部分を持つと同時に赤羽がアクセルを押下。ライクーザが超スピードでアドバンスに向かっていく。
「……これは……」
「統夜一緋(とうやかずひ)ぃぃぃぃぃぃ!!」
機関銃の銃口から発射された電撃が銃剣全体に覆い尽くされライクーザの左腕全体が巨大な稲妻の槍のように変わり、そのままアドバンスの胸元にたたき込まれる。
「ぐうう、」
「貫通は仕切れないか!だが、さっきのお返しをさせてもらうぜ!」
「ヒエンさん……」
「やるんだ赤羽。君がいる」
「……はい!」
ヒエンの言葉を受け、赤羽はアクセルを全開にする。先ほどまでの姫火単体のものの数百倍以上の出力を受けてライクーザの機体がアドバンスの巨体を突き刺して抱えたまま大地を離れる。
「貴様、まさか……」
「宇宙旅行につれてってやるぜ!!」
ライクーザの飛行速度がマッハ40を越え、両者は大気圏を突破。地球の重力から解放され、暗黒の無重力へ。
「貴様……」
アドバンスは意識が消えていく。ほとんどの力を失っているヒエンは当然のこと、アドバンスも現在は仮とは言えジ・アース、地球から離れる場合には命の危機がある。そして地球から1光年離れると完全にアドバンスの意識は遮断された。
「……そろそろかな」
赤羽はそう判断して出力だけでなくライクーザ全体の制御を奪い、仮死状態にあるヒエンの代わりにライクーザを操作してアドバンスから離れ、地球への帰還を果たした。

------------------------- 第176部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
162話「最終決戦に向けて」

【本文】
GEAR162:最終決戦に向けて

・ジ・アースであるアドバンスを地球外に追放したその日の夜。
「ぼおおおのおおおおぁああああああああああああ!!!」
「ちょっ!蛍どうしたの!?」
「だから大変だって言ったのに」
帰還早々歩乃歌は涙と鼻水まみれと血涙まみれの蛍にしがみつかれた。
「もう離さない……」
「いや、蛍。落ち着いて。ね?」
「ベッドに行くまで安心できない……」
「それ僕が安心できないよ!?」
と、百合百合してる中で大変申し訳なさそうにヒエンが前に出た。
「蛍ちゃん、ありがとう。ライクーザは大切に使わせてもらう」
「……いいえ。これくらい。でも、いきなり死ぬと分かってて宇宙に2度も行くのは無茶しすぎではないんですか?」
「赤羽がいるって分かってたからな。そこは特に心配していなかった」
ヒエンの言葉に赤面の赤羽。久遠が何か言い足そうにしていたが封じられる。
「でも、アドバンスはあれで死んだのですか?」
「死んだって表現がどこまで指して良いのかによるな。ジ・アースは地球から離れたら心臓が止まる。当然心臓が止まれば動きは止まるわけでその状態で地球から1光年離れたところに放置されたんだから地球圏内に戻ってこない限りは目を覚ますことはないだろう。そう言う意味では確かに死んでる。だが、あいつとて既に超常生命体。こっちみたいに心臓が止まった状態でも地球に戻ってさえこれればまたこうやって元気に息を吹き返す。そう言う意味ではまだ死んでいないって言える」
「……今更ながらとんでもない相手な訳ね」
「前会った時からも大幅に進化しているとは言え1年前にあいつと戦わなくてよかったかもね。当時はジ・アースではなかったからこんな弱点がなかったわけだし」
歩乃歌が嘆息。
「でもさ、廉君。宇宙に出られないなら廉君はスライト・デスとの戦いには参加できないわけだよね?」
「まあ、本星に乗り込むことは出来ないな。だけど、前も言ったようにその必要はないだろう。結局あいつからナイトスパークスの力を返して貰えなかったがライクーザに乗っていればある程度は力を使える。地球から砲撃してスライト・デスの本星を破壊することくらいは出来るはずだ」
ヒエンは窓の外から夜空に見えるスライト・デスの本星を見上げた。
イシハライダーとかが見張っている上、邪神復活の攻防もあってスライト・デスの怪人達は大幅に数を減らした現在再びスライト・デスが攻めてくる様子は見られない。もちろんだからと言ってこのまま放置しているわけにも行かない。遅くとも一両日中にはスライト・デスと決着をつける必要がある。
「ところでさ、廉君結局ジ・アースの力はどうなったの?」
「それがまた微妙なところなんだよな。確かに実はまだ戻っていない。ナイトスパークスの力はアジ・ダハーカに、プラネットの力はアドバンスに奪われたまま戻ってきていないんだ」
「前者はアドバンスが作り出した偽物のようなものだからそれに奪われてその邪神が倒された今どこにいったんだろうね。それに後者だってアドバンスがまだ現代のジ・アースだとしてもその力を返してもらうにはアドバンスをもう一度目覚めさせる必要があるだろうし。でも、それで返してもらったとしても今度はアドバンスは宇宙に放り出しても死なない状態。廉君はナイトスパークスとジ・アースの力が両方合ればあいつを倒せるの?

「やってみなくちゃ分からないな。あいつの進化の力がどこまでのものなのか。世界のことを考えるのなら他の騎士を呼んだ方がいいだろうな。だが、今回ばかりは自分の手で決着をつけたい」
「頑張る気だね、おじいちゃん」
「歩乃歌ちゃんまで勘弁してくれ……」
「でもヒエンさん。ジ・アースの力で地球を元に戻す事が出来なければやはりこの世界は放棄して私達の世界に避難する必要があります。そうなれば三日以内には行動を起こしたいのですが」
「まあ、その時はその時だな。うちらの世界が行方不明な状態なわけだ。まさかこの世界に永住するわけにも行かないからその時は蛍ちゃん達の世界に移住だな。ジ・アースでもナイトスパークスでもない、ただの男子高校生として人生やり直すのも悪くない」
「ただの男子高校生にしては長生きしすぎですけどね」
「はいそこうるさい」
「でも、ヒエンさんも歩乃歌さんも無事でよかったですね」
ライラとユイム、そしてレイラ、アルデバラン、シリアルがやってきた。
「……ふむ。同じ顔が4人いるように見える。この世界にも三船はいたのか」
「実際いたから3号機との戦いになったじゃありませんか。……でもライラさん。そちらの方々は?」
「あ、はい。レイライラス・XANミル斗ン君、アルデバランさん、シリアルさんです」
「もうお父さんってば娘にさん付けはやめてよ~」
「娘?いつの間に……」
「まあ、その辺はいつか話しますよ」
「父さん、」
そこに今度は果名がやって来た。
「どうした?正輝」
「あのアドバンスって奴は誰の子なんだ?」
「そう言えば説明していなかったな。おそらくだが長女の怜悧だ」
「怜悧……聞き覚えがあるようなないような……」
「あんたの姉よ、正輝」
今度はルネが来た。
「お父様の子は3人。長女の怜悧、長男の正輝(あんた)、で、次女の私。怜悧は天使の祖先になったのよ」
「天使の……」
剣人が食いつく。
「最初の世界が崩壊した時にお父様とその妻がたまたま流れ着いたのが黒主火楯がナイトメアカードで作り出した天使界。そこで生まれた怜悧は天使としての素質を多く持って生まれたの。流石に一代で天使という種族を生み出した訳じゃないけども多くの天使は怜悧を元にしているようなものよ」
「ってことはあのアドバンスも天使としての素質があるって事か」
「そんなのもうとっくに進化のGEARに飲み込まれてると思うけどね」
ルネはそう言いながら触手でシリアスを弄ぶ。普通にキレたシリアスが両腕を変化させて触手を打ち払う。
「何よ、やる気?」
「いきなり襲ってきたのはそっち」
「だめですよ、シリアスさん。ルネさんも落ち着いてください」
ライラが割って入ると、二人は鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
「ライランド・円cryン。いつまで僕にかまうつもりなんだ?」
「あなたが嫌と言うまで。どのみち僕はあなたを放っておくなんて出来ないよ」
「ライラ君は心配性だね。お母さんとしては子供には冒険をしてもらいたいと思うな」
「僕はあなたの子供じゃない!」
「え、でも僕とセックスしたじゃない。それってもう夫婦みたいなものだよね?」
アルデバランからの暴露にシリアルとレイラが吹き出した。
「来夢・M・X是無ハルト!!」
シリアルの怒号を無視してアルデバランはシリアルに抱きついた。
「……同じ顔の女の子達が絡む百合。新しいな、正輝よ」
「……今回ばかりは同意」
「この親子は……」
ジト目で赤羽は、鼻血を垂らすヒエンと果名を見下した。

・飛空挺。シミュレーションルーム。そこにヒエン、赤羽、歩乃歌がいた。ライクーザと千代煌で戦わせてみた結果、ライクーザの勝率は2割程度だった。最初の2戦はヒエンが勝利した。だが、圧倒的性能差が千代煌にはあった。シミュレーションではヒエンの、ナイトスパークスとしての能力を再現しきれないと言うのも大きいが何よりの問題があった。ヒエンと赤羽が地味に呼吸が合っていないのだ。歩乃歌の挙動をヒエンなら反応できるが赤羽はそれをとらえきれず攻撃を回避しきれない、当てられないと言うことが散見している。久遠からの提案で赤羽抜きでやろうとしたがそれでは不意に宇宙に投げ出された時に危険だ。それに現状PAMTで使用可能なのはライクーザ、千代煌、姫火のみ。姫火のみでは戦力外であろうためライクーザと合体しておく方が得策だろう。
「美咲はミサイルと、宇宙空間に放り出された時用に備えて後は廉君が操作すればいいんじゃないの?」
「それも決して悪くはないと思うし、最悪それでもいいと思うが僕がまだPAMTの操縦に慣れてないからなぁ……」
「あ、そうか。PAMTの操縦は美咲の方が慣れてるもんね」
「はい……。でも私ではお二人ほど感覚が優れているわけではないのでどうしても足手まといになってしまいます」
頭を悩ませる3人。すると久遠が悪魔の提案を投げた。
「じゃ、また死神さんとエッチして美咲ちゃんの能力上げたらいいんじゃないの?」
発言と同時にヒエンのげんこつが久遠の頭にたたき込まれ……る寸前に払われた。
「なんて事を言うんだこのエロリは」
「いやいやいやいや廉君。君、僕の前に美咲も襲ってたの?」
「いや、それが……」
「今まで2回はえっちなことしてるよね?この前のは世界線が不安定な天使界に行く時の予防策として仕方がなかったかもしれないけど最初の時は完全に性欲処理だよね?」
発言と同時にヒエンの拳が飛んだが再び久遠に弾かれる。
「と言うか廉君。ひょっとして美咲だけじゃなくて久遠ちゃんに対してもやったの!?まだ小学生だよ!?」
「……どっちも最後まではやってない。まだ他人の歩乃歌ちゃんに対しての方が性欲がそそる」
「……また火咲に泣かれるよ?」
「ひどいことを言うなこの僕っ娘は」
加害者の自分が言うのもなんだがあの時ごめんと謝った彼女の言葉は何だったのか。
「で、だよ、死神さん。とことん美咲ちゃんとエッチしてせめて死神さんに近いくらいの反射神経とか持たせた方がいいと思うんだよね」
ヒエンは万雷を引き抜こうとしたがしかし思いとどまる。久遠の言っていることが案外正論だからだ。
「……いや、落とし穴はある」
「何?」
「スライト・デスとの戦いではこっちは本星には行かない。地上から砲撃してそれで片が付けば万々歳。そうでなくとも歩乃歌ちゃん達が攻め込む話であってこっちは本格的な戦闘にはどうあっても参加しない。だからこんな可及的速やかかつ性的な案を推し進める必要性を感じない」
「……死神さん、ちょっと変わってない?何の必要性もない時にユイムちゃんに混じって歩乃歌ちゃん襲ったりしていながら美咲ちゃんには必要性がなくもない状況なのにそれを実行しようとしない。いいや、この前の時だって口だけなら私にまでさせたのにどうして?」
「……それは、」
「久遠ちゃん。答えはもう久遠ちゃんが言ってるよ」
「え?」
「廉君は、僕をレイプしたことで火咲のどうしようもない失望を買ってるんだ。……知ってるよ、火咲が前の世界で赤羽美咲として廉君と一緒にいたこと。その赤羽美咲が最上火咲として決して幸福とは言えない人生を送ってきたのに、それを最上火咲として転生した自分の運命だと諦めている火咲があの時はその覚悟を自ら捨ててまで今一度赤羽美咲として言葉を発して廉君を責めたんだよ。それがどうしようもないほど堪えちゃったんだね。だから今の廉君には他の女の子ならともかく今の美咲に手を出すなんてことは絶対に出来ない。……でしょ?」
「……続きがあるなら聞いてみる」
ヒエンの小さな言葉に歩乃歌は目を細めて続けた。
「僕は廉君を絶対に許せない、復讐相手として必ず殺してみせる……そう言って君の慰めをするつもりなんてないよ。その程度で僕も火咲も気が済むはずもないしね。せめて、立ち直ってもう一度世界を救って見せてよ。恨まれるなんて大それた事をしてもいいかはその後考えてあげる」
「……大した子だよ」
ヒエンは嘆息。冷や汗を拭いながらもう一度大きなため息を吐いた。
「赤羽、姫火に久遠を乗せることは可能か?」
「え?……蛍さんに聞いてみないと……」
「何をしようとしているのか知らないけど、僕なら即座にそう言う風に改造してあげられるけど?」
「……久遠はさっきから僕の攻撃を反応できている。赤羽よりかも僕の動きについてこれる可能性は高いだろう」
「久遠を戦場に出すつもりですか?」
「そう言う意味では君も本当は出したくはない。だが、もしもという事もある。たとえば砲撃の最中に敵の攻撃が地球を襲い、迎撃のために出撃すると言うこととかな。逆に君達がスライト・デスの本星に出向いたって出来ることはほとんどないだろう。だから僕達3人は地球に残ってスライト・デスの迎撃に集中。その間に歩乃歌ちゃん達が本星に突入して首領を叩きのめす。或いは地上からの砲撃で本星を破壊する。歩乃歌ちゃん、穴はあるか?」
「本星をそのまま突撃させる事も含めて敵に地球を完全破壊できるだけの威力が存在し、そして廉君の砲撃で本星の破壊が不可能だった場合どうするかだね」
「だが、その可能性は決して高くない。向こうに地球をどうにかするだけの力があればうちらが邪神とやり合っている間に何かしてきてもおかしくはない」
「でもそれだったらどうして向こうは何の行動も移さないんだろうね。邪神復活に際して本星が地球に接近した。でも、激突することなく至近距離で停止中。こちらをどうにか出来ないのならとっくに離れていてもおかしくないはずだよ」
「つまり、こちらを誘っているってわけだよね。迎撃の時にしか使えない何かがあるか、或いは今までの前提を覆すような武器を準備する時間に使っているとか」
久遠の補足。それは決して妄想ではない現実的な判断だ。ヒエンも、否ヒエンだけでない、多くのものがスライト・デスがどうして行動に出ないかについて疑問に思っている。邪神やアドバンスが恐ろしいから攻撃しなかったというのも考えたがどちらも消えた今の時点でも沈黙を破らない理由が見えない。その推測として現実的な案があるとすれば久遠が今語ったものだ。迎撃に徹して、それが防御でなく攻撃として最良策である、スライト・デスは今そう言う状況にある可能性が高い。
「……明日が決戦になるだろうな」
ヒエンは満月の代わりに夜空を飾る本星を見上げた。

------------------------- 第177部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
163話「Xignition1~決戦の朝~」

【本文】
GEAR163:Xignition1~決戦の朝~

・そして決算の日の朝は来た。
「ん、」
朝起きて最初に果名が会ったのは父……ヒエンだった。
「よう、正輝」
「父さん……」
正直、この人に対して果名は微妙な距離感がある。自分は確かに黒主正輝としての記憶を取り戻した。だが、それは飽くまでも柊咲にいた頃の黒主正輝だ。天使界で生まれ育った黒主正輝としての記憶はない。いや、部分部分にはあるから目の前にいる男が自分の父親だってことは分かる。だが、乖離している部分も多い。実際に1000年経っているらしいしその間に自分も父も1度じゃなく記憶を失っているのだから人格くらい変わっていてもおかしくはない。それに正直この人は再開して以来最初のあれ以外あまりいい印象はない。チャンスはいくらでもあったはずなのに自惚れて全部ふいにしたあげく息子である自分と大差ない年頃の少女を強姦した。幻滅と言っていい。あのレイラがあの晩なんだかんだで父親自慢をしていたが自分にはそれが眩しく見えた。あっちの方が今も父親に対する記憶などほとんど残っていないはずなのに。と言うかどう見てもあいつの父親は少女なのに。
とにかく、距離感と言うかどう接触したらいいのかが分からない。
「正輝」
「な、何だ?」
「そう気負うな。恥の多い父親かもしれないがお前はお前だ。黒主正輝……いや、今は黒主果名だったか?その名を果たしていけばいい。レイライラス・XANミル斗ンのようにな」
「父さん……」
「こっちも今はもうジアフェイ・ヒエンでいるつもりだ。黒主零の息子であることを感じ続ける必要なんてない」
「……ああ、そうかもな」
会話はそれだけに終わり、二人は会議室代わりの食堂へと向かった。
豪勢なドアを開けると同時、壁に槍が刺さった。
「……これほどとはな」
食堂では何故かゼスト、キングの兄弟と剣人、ケーラの二人が戦っていた。
「……あ、ヒエンさん。果名さん」
同じ反応をしている二人に気付いたライラがやってくる。
「ライラちゃん、これは?」
「はい。色々縁のある剣人さんがキングさんと戦ってみたいって話になって、でも色々物騒だからケーラとゼストさんが混ざってタッグマッチになったんです」
「経緯が意味不明だが何となく理解できるのが怖い」
タッグマッチが終わってからはすぐに普通の朝食の風景になった。
「剣人、いいのか?」
ムラマサは問う。
「ああ、確かに俺は父さんの敵をとりたくてキングやテンペスターズを追いかけていたけど世界がどうかって時に復讐で数を減らしてたら仕方がないしな。憎くてもキングはこの世界に必要な人間だ。この後の働きで世界をよくしてくれればそれで十分帳消しになるさ」
「……大人になったな、剣人」
ムラマサは軽く握った右手で剣人の肩を小突いた。
「……むむぅ……」
「どうしたのエンジュ?」
向かいのテーブル。疑問するアコロの隣でエンジュが難しい表情をした。
「いや、ワールドの方だって分かってるけどどうしても世界って言われると呼ばれてるように感じて……」
「……あぁ~そう言えば本名は三千院世界だっけ?」
「ひどい!何回も一緒に寝てるのに忘れてるよこの春洗白亜!!」
「……しかしこのメンツ、偽名の奴多すぎないか?」
達真の発言にヒエン、果名、切名、借名、アコロ、エンジュ、レイラ、アルデバラン、シリアル、後何故かいたパラディンが背筋を伸ばした。
「……いい機会だからその辺含めて自己紹介すっか?」
ヒエンが今更だと思いながらも起立。
「ジアフェイ・ヒエン。16歳って事になってるが実際は2000年くらい生きてる。本名は甲斐廉って言うらしい。あと、黒主零とも呼ばれる。たまにナイトスパークスとかもな。けど、もうジアフェイ・ヒエンで生きることに決めた。だからヒエンと呼んでほしい。以上」
「次は俺だな」
ヒエンが着席する代わりに果名が立ち上がった。
「トリプルクロスのリーダー・黒主果名。本名は黒主正輝で19歳。今紹介されたジアフェイ・ヒエンの息子だ。出身は天使界及び柊咲町」
「私は黒主切名。本名は黒主美咲で黒主正輝の妹。2代目の最上火咲で、ヒエンさんや果名、それに初代赤羽美咲のDNAが混ざっているけど私は私のつもりだから」
「続きまして私は黒主借名。かつてはアリスと呼ばれていましたが本名は火村小雪と申します。果名様切名様のお世話をさせていただいています」
「みんなこっちの可愛い子供たちみたいなものだ」
ヒエンが自慢げに頷く。若干果名が目を細めたが気にしない方向で。果名達3人が着席すると今度はアコロとエンジュが立ち上がる。
「どうも。アコロ=ピリカプです。本名と言うか生前の名前は春洗白亜って言います。享年は22歳だけどこの姿としては15歳だからそのつもりで」
「で、私はエンジュ。やっぱり本名というよりかは生前の名前だけど三千院世界って呼ばれてた。あまり生前のことは覚えてないけど……」
「二人そろってよろしくね!」
アコロの言葉で終わり二人は着席する。しかし次のメンバー、レイラとアルデバランとシリアルは起立しなかった。
「どうしました?」
ライラが訪ねるも、3人はどこか気まずそうな顔。
「いや、だってアルデバランは昨日名乗っちゃったけどあまり僕達名乗らない方がいいかなぁって」
「まあ、未来から来たわけだしねえ……」
「僕の場合はifの世界から来たわけだし」
3人とも自己紹介には乗り気でないようだ。すると、果名が立ち上がり
「こいつはレイラだ。レイライラス・XANミル斗ン。今はそれでいいだろう?」
「果名さん……」
「じゃあ僕もアルデバランってだけでいいや」
「……僕に関しては紹介する必要もないはずだよ」
「まあ、レイラ君はともかくアルデバランちゃんとシリアルちゃんは顔とかで何となく分かるけどね」
久遠がライラ&ユイムと二人を見比べて小さくつぶやく。
「で、偽名か本名かって言うならこの二人も必要だと思うけど?」
ルネが触手でパラディンとルーナを縛り上げた。
「零さん、娘さんをおとなしくさせてくれないかな?」
「残念だが反抗期だ。ってかお前命令はどうした?」
「歌音君に任せて少し休憩を……あ、どうもパラディンです。本名は祟って言います。天使です」
「……ルネ、どうして私まで……私はルーナ・クルーダで間違いない」
「何言ってるのよ瑠那。ちゃんと天使として名乗ったらどうなの?」
「あなたにはプライバシーってものがないのか?」
「ルネ、流石にそろそろ……」
「お父様は黙ってて。ルネはこの子が凛として澄ましているのが気に入らないんだから」
鼻を鳴らすルネ。しかし彼女が言ったようにルーナが凛と澄ませたままでいると陵辱を開始しようとしたため流石に止められた。ついでに何かを思い出したのかシン、ライ、湊、達真はトイレに駆け込んだ。
「それでだ」
20分後、再びの食卓。ルネが触手を片結びにされて大変不服そうにしている中でヒエンは続ける。
「今日は決着をつける日だと思ってる。知っての通りスライト・デスの本星は地球の傍まで来ていて、しかし静寂のままだ。色々考えてはみたものの少なくとも意味もなしに指をくわえて見ているだけではないことは確かだ。迎撃に集中しているか、何か超兵器を使う準備をしているかの二択と思われる。どっちにせよ、これ以上あまりこの状況を続けるのは得策ではない。だから早ければ正午までに作戦を開始しようと思う」
ヒエン、蛍がホワイトボードの前に立った。
「まず正午ぴったしにこっちがライクーザでスライト・デスの本星に向けて最大出力で砲撃する。それでスライト・デスの本星が粉微塵に消し飛べばその時点で作戦は終了。問題なのはこれで事態にさほど変化がなかった場合だ」
「その場合には最大出力砲撃後で動けないヒエンさんを除いた戦闘員のみなさんで本星に突入。無数にいると思われる怪人達を突破しながら敵首領のキルを見つけて拘束ないしは抹殺する。砲撃後、本星が粉々にならず大規模な爆発をする気配があった場合、もしくは突入後2時間が経過してもキル首領を発見、処理できなかった場合には撤退。私の故郷であるセントラル管理世界へと強制転移します」
ホワイトボードには本星突入を行う戦闘員のメンバーが次々と書き込まれていく。エターナルFの5人、アカハライダーズ、イシハライダー、歩乃歌、アコロとエンジュ、パラディン、シリアル、パラレル部員達、剣人達聖騎士、十毛&アルケミー、爛、トリプルクロスとなっている。
「何か質問はあるか?」
ヒエンの言葉に赤羽が挙手。
「どうしてライラさん達が?」
「シリアルさんがどうしても行きたいというので」
「本当なら僕とライラくんクラスでも厳しいから今回ばかりは辞退しようと思ってたんだけどね。でもシリアルちゃんが行くのならそうはいかないよ」
「……僕はそんなこと頼んでない。せっかくあなた達は運がいいのだからここは不運な僕を使い捨てるべきだ」
「もうシリアルったらまたそんなこと言って」
ユイムの腕からアルデバランの声が聞こえる。今回の突入メンバーに加わったことでもう一度アルデバランとレイラを腕に宿してユイムの大幅パワーアップを行ったのだ。
「けどライラ。たった4枚のナイトメアカードで無理はするなよ」
「はい、分かってます剣人さん」
「……シリアルくん」
パラディンがシリアルに歩み寄る。
「何?」
「これを。お守りとして持っておくといい」
パラディンはシリアルに1枚のカードを渡した。
「……僕、天死だからカードは使えないんだけれども」
「このカードに魔力は必要ない。それにいざとならなければいいだけの話さ」
「?」
「……他に質問がある奴はいるか?」
ヒエンは続ける。今度は達真が。
「今回の作戦とは少し違うが、どうして赤羽のPAMTはライクーザに統合されなかったんだ?」
「私の姫火が三船製だったからです」
赤羽が答える。
「他のPAMTはなんだかんだで蛍さん達の世界の技術で作られていますが姫火だけは全く違う系統のためそもそも統合できなかったんです。歩乃歌さんの力でライクーザとの合体機能は付けて貰えましたが……」
「……なるほど。それでジアフェイが宇宙で溺死せずに済むようになったのか」
「……一応言うがな、こっちは先輩だぞ矢尻」
ヒエンが少しだけ目を細める。しかし気にせず次へ進むことにした。
「他には?」
今度は舛崎が。
「最初にあんたが星を撃つって言ったがこの距離で撃ったら地球も危ないんじゃないのか?」
「それに関しては問題ない。来音ちゃんと智恵理が軌道力学であの星を爆砕した時の被害状況を何パターンも算出してくれた。結果としてキャンセラーの大がとある一点をキャンセルしてくれればほぼほぼ地球は無傷で済む計算になっている」
「怖くて仕方ないがまあやるっきゃないな」
「取りこぼしは俺が処理してやるから気にするな」
後藤がその肩を叩く。
「次の質問は?」
今度は詩吹が。
「スライト・デスの本星に突入するって言いましたけどどうやって空の上にある星まで行くんですか?」
「カードを使う」
剣人が回答。
「移動(ムーブ)を使えば大人数であっても目的地に瞬間移動できる。ちなみに帰りも同じ方法の予定だ」
「その帰りの時って絶対乱戦になってると思うんですけど大丈夫なんですか?」
「行きの時に選んだメンバーを登録しておけば帰りはどれだけメンバーが離れていても問題ないはずだ。またこのカードは念のため俺達ハンターが全員1枚ずつ持ってる。仮に撤退しなければならないのに俺達の誰かが意識を失っていたり殺されていても心配はない」
「……そうですか」
殺されるという言葉に押し黙るのは詩吹だけではない。怪物どもの巣窟に殴り込みを仕掛けるのだ。全員無事に帰ってこられる保証などどこにも微塵も存在しない。その不安を押し殺して赤羽が再び挙手した。
「この作戦の成功確率はどれくらいなんでしょうか?」
「……」
ヒエンも咄嗟には答えなかった。しかしやがて口を開く。
「決して高いとは言えない。最初の砲撃で本星を消し飛ばせたならそれでもう終了だが突入作戦実行時にはかなり成功率は下がると見ていい」
「スライト・デスの本星は地球の5倍以上の大きさです。その5倍以上の敷地に推定するのも馬鹿らしいほどの怪人が待ちかまえているのは確実でしょう。そしてその中からキル首領を見つけだし、処理する。これを2時間以内に行わないといけません」
「2時間の根拠は?」
「2時間でもう一度砲撃が可能となる。流石に1発で沈められなくとも2発撃てばあの質量の星でも粉々になる。それに、一発でも砲撃を撃ち込んだあの星は恐らく重力崩壊程度なら起こしそうなものだ。環境も荒んだこの地上と比較にならないほど劣悪の筈だ。本来突入すべきではない環境なのは間違いない。本当だったら1時間もいない方がいいだろうが流石に1時間で目標を達せるとは思えない。だから2時間を制限としているがもしやばそうだったらすぐに撤退してくれてかまわない。どうせ一発撃ち込んだ時点であの星は長くない。もしかしたら地球に激突して共に消滅するかもしれない」
「飛空挺はいつでも時空移動が可能な状態で待機しています。撤退が確認されたらその時点でみなさんを回収し、時空移動を開始。この世界を去ることになります」
言いながら蛍も本当に最終作戦なのだなと理解。すると今度はルネが触手で挙手。蛍はそれを挙手だと判断し損ねていたがヒエンが即答した。
「どうした?ルネ」
「作戦はまあいいとして父様、あの馬鹿孫に奪われたままのナイトスパークスやジ・アースの力はどうするの?」
「……一度諦めようと思う。今の僕じゃ取り返すことは出来ない。だが、その二つの力が永遠に失われるわけではないと思う。ナイトスパークスの力はいずれ他の騎士によって回収されるだろう。そこからまた僕に戻ってくるのかそれとも僕を解任して4代目が誕生するのかまでは分からない。そしてジ・アースだが地球という星が存在する以上は必ず存在し続けるはずだ。きっとこのままアドバンスを宇宙に放置していたとしてもその内戻ってくるだろう。それもまた僕に戻ってくるかは分からないがな」
「……父様はそれでいいの?」
「ああ、どうしようもない。情けない父親で悪いな、ルネ」
「……別に」
顔を背けるルネ。心苦しくなるヒエンだが次に進めることにする。しかしそれからは誰も挙手しなかった。時計を見る。現在時刻は10時30分ちょうど。
「……では、1時間後に集合し、最後の作戦を開始する」
そう告げた。


・宇宙。地球から1光年離れたそこをアドバンスの巨体は放置されていた。完全に心臓が動きを止め、その体は死後硬直を終えている。だが、その冷え切って固まった体の上に何かが乗った。
「……」
紫電の花嫁ことパープルブライド。パープルブライドは何も言わないままアドバンスの肩を蹴りつけ、その巨体を地球に向けて蹴り飛ばした。

------------------------- 第178部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
164話「Xignition2~砲撃!要撃!!突撃!!!~」

【本文】
GEAR164:Xignition2~砲撃!要撃!!突撃!!!~

・そして最終作戦は開始された。
太陽よりも近く、太陽よりも大きなスライト・デスの本星を睨むようにフレイムライクーザがそびえ立つ。
一発目のチャージは既に終えている。その砲手たる万雷ベイオネットを左手に構え、本星に向ける。
「大は準備良いか?」
飛空挺の甲板の上に視線を送る。
「おう、いつでもいいぞ。……正直参加自体したくないけどな、こんな危険きわまりない作戦。だけど、地球を守るためだから仕方ない」
「お前、そんな正義感強い奴なのか?」
「いや、学園都市で腐ったように育ってた奴なら誰だってこの事態には高揚するさ。自分みたいな奴が地球そのものを救えるなんて状況に立てるんだ。それこそ伊藤や海藤だってこの場に立ちたかったはずだ。舛崎でもない俺が立つなんてな。あと、どっか虚憶がデジャビュを囁く」
一瞬遠い目をした大。ふと見れば地上にはもしもの時の為なのか舛崎達がいた。目配りをすればサムズアップが返ってくる。やはり見覚えのある景色だ。
「……俺の方はいつでも良いぜ」
「分かった。……蛍ちゃん、剣人。カウントダウンを始める。10カウント後に砲撃を開始する。赤羽、久遠もそのつもりで」
「はい」
「うん、りょーかい」
赤羽と久遠が返事をした後、赤羽と蛍が同時にカウントダウンを開始する。それに合わせて全員の緊張感が高まっていく。
カウントが3を切ると同時、ヒエンがトリガーに指をかけた。
「2……1……」
「やぁぁぁってやるぜ!!!」
0の代わりに怒号。そして砲撃は発射される。万雷ベイオネットの稲妻を纏った全身から天文学的数値にも迫るほどの熱量が集中し、電光に乗せて今発射された。尋常でない雷光は肉眼で見れば忽ち失明するだろうが舛崎によって今はかなり軽減されている。それでも万雷ベイオネットの姿は見えない。
「……あの時にオメガの怪物を倒したデュアルクロノブレイクキャノンの100倍以上の出力だ……」
歩乃歌が計測して冷や汗を流す。これが今の、ジアフェイ・ヒエンの全力の一撃。1ナノ秒にも満たない速さで大気圏を突破してスライト・デス本星へと突き刺さる。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
手応えを感じたヒエンは現在もてる限りのエネルギーを砲撃に乗せようとして、しかし中断した。
「ヒエンさん!?」
赤羽が疑問する中、その砲撃は徐々に火力と閃光を失い消えていく。そして、見上げた空には変わらずスライト・デスの本星が浮かんでいた。
「どういうことですか!?」
やや怒鳴り気味の蛍の声が無線で響く。
「……無駄だと感じたんだ」
「え?」
「手応えはある。だがそれ以上ではない。大のキャンセラーではないが何か尋常でない程の防御力で受け止められていた。あれは破壊できない」
「蛍、僕も何か感じたよ。普通じゃない何かを」
「では……」
蛍が何かを言おうとした時だ。
「ぬはははははははははは!!!」
突如、耳をつんざく声が大空に響いた。それは一度しか聞いたことはないがまさしくスライト・デスのキル首領による笑い声だった。
「これはこれはナイトスパークス殿。初めましてかな?」
「御託はいい。それよりお前、まさかだが……」
「おやおや、ナイトスパークスやジ・アースの力は失っていながらもその慧眼は失われていないようだ」
「……ではやはりそうなのだな!?」
「いかにも。今見せたようにこの星に対して一切の攻撃は通用せんようにしている」
「……スライト・デス本星のザ・プラネットか……!!」
ヒエンの発言にざわめきが起こる。つまり、邪神復活以降スライト・デス本星が接近しても行動に移さなかったのはキル首領がスライト・デス本星と同一の存在故本星を離れることが出来なかったからだったのだ。
「我が本来の名前はザ・キルデバラン・デス!!破壊と殺戮の種族を生み出し全宇宙を支配することこそが目的の大惑星よ!!」
「キルデバラン……!?」
アルデバランが疑問の声を上げる。
「その名前、お前まさかアルデバラン星人なのか……!?や、あり得ない……!別の星の人間がまた別の星のプラネットに選ばれるなんて……!」
「勘違いをしているようだな。貴様が見上げているこの星こそがアルデバランの双子星であるキルデバラン星なのだ!」
「アルデバラン星に双子が……!」
「そうだ。しかしそんなことはどうでもいい。この72時間たっぷりと使って作り上げた我が最強最後のスライト・デス怪人達を見よ!!」
キルが高笑いをすると本星から1体1体が40メートルクラスの鳥人のような姿の怪人達が無数に飛来する。
「くっ!」
ライクーザが迎撃を開始した。砲撃で確かに大部分のエネルギーを消耗しているが最低限の性能は可能だ。
「ヒエンさん!!」
「こっちならまだ大丈夫だ!それより作戦を立て直せ!飛空挺を離陸させて地球から離れるんだ!」
「ど、どうし……」
「地球は近づきすぎている!地球を制御できない今このクラスの先兵を送り込まれ続けたら突撃どころじゃないぞ!」
飛来してきた巨大怪人にタックル、ジャイアントスウィング、タワーブリッジを決め、1体を撃破したヒエンは機関銃を使って至近距離にいた敵怪人群に斉射。アドバンスすら傷つけた貫通力が火を噴いては次々と巨大怪人達を蜂の巣にしていく。しかしそれでもまだ100体以上は巨大怪人はいる上次々と本星から飛来してくる。
ヒエンが戦っている間に蛍は言われたように飛空挺を離陸する。もちろん大や舛崎達も一緒だ。
「でも、離陸して地球を離れたとしてどうすればいいのかしら」
「……確かにそうですね。向こうがプラネットならまさか上陸するわけにも行かないですし」
「いや、そう言うわけでもない」
答えたのはパラディンだ。
「確かに予定していたような突入作戦は大規模だから不可能だろう。だが、一人か二人なら潜入してもばれることはないはずだ。そして潜入した者がキルデバランを見つけて襲撃。注意を引きつけ、黒主零に再び砲撃を行ってもらう」
「……可能かもしれませんが潜入者は危険なのでは?」
「ああ、命の保証はない。本来なら私が行きたいところだが厳命がある身分だ。他にいない場合のみ行かせてもらう」
火咲が心の中で舌打ちをした。
「で、誰が行く?可能な限り強いメンバーを2、3人用意したいんだけど」
待機メンバーがいる会議室に向けて放送をする。
「2、3人か。5人なら俺達が行ったんだが……」
シンが言う。しかし、エターナルFの5人はスライト・デスとは敵対同士。潜入には目立ちすぎるだろう。アカハライダーも同じ理由で断念する。
「……僕が行く」
と、挙手したのはシリアルだった。
「僕なら空を飛べるし派手な能力も持っていないから潜入に向いていると思う」
「シリアルさん……」
「ライランド・円cryン。心配してくれるのはうれしいけれども僕とてスライト・デスには恨みがある」
シリアルの言葉にアルデバランは思い出す。あの日のシリアルは処女でなかったことを。
「なら、後一人ないし二人は……」
言いながら火咲はライラとユイムを見る。顔に行きたいと書いてあった。
この3人は冷静ではあるかもしれないが冷酷にはなれないだろう。それにもっと実力者がいる。
「そこの変態師匠の仲間のナルシスト」
「俺のことか?」
十毛がポテト喰いながら返事をする。
「あんたとそのパラドクスならそこそこいい働きをするんじゃないの?」
「俺は特攻するのは好きじゃない」
「最初から諦めてるわけ?」
「奴がプラネットなら場合によっては潜入した時点で外敵は消滅させられる。零はああ言ったが俺はこんな手段は選べないな」
「けど籠城したプラネットをどうにかする方法なんて他にないでしょ?」
「何にもないの間違いだ。俺としてはさっさとあんた達の世界に行っちまった方がいいと思うぜ、マジで」
「私も同意見ね。平時ならともかく明確に戦闘状況にある今、防衛戦に集中しているプラネットを相手にするなんて自殺行為も良いところよ。仮に潜入して奴の寝首を掻いて集中をそらせたとしても潜入している者はまず生きては帰れないわ。こちら側にプラネットがいないこの状況は余りにも分が悪すぎる」
アルケミーも同意見だそうだ。そしてその言い分は火咲も反論しかねる程正論だ。
「そこの銀色」
「私かな?」
パラディンが返事する。
「厳命だかなんだか知らないけどもし無条件であんたが行くことになったら可能な作戦なの?」
「敵の防御次第だ。向こうが事前に潜入すらさせてくれないほど星の環境設定を変更していた場合、それを突破できる存在なんて私には見当もつかない。だがもし、そうでない場合。つまり潜入自体は可能なら私には一策ある。私は直接手に取らなくともあらゆるナイトメアカードが使用可能なのでね。潜入し、転移(ワープ)のカードで直接敵首領の近くまで行き、最大火力の火砲(キャノン)で砲撃する。うまく行けばキル首領は肉体を失い、再生まで時間を要することになる。その間に黒主零による最大砲撃でスライト・デス本星を破壊する、と言う作戦が可能になる。これでも彼が再び最大出力で砲撃が可能になるまで待つ必要が出てくるのだが今の状況ではそれも中々厳しい状況だから一筋縄では行かないだろうね」
パラディンが冷静に語る。それを聞き、思考する火咲や蛍は同じ感想を得た。つまり、本当にこのままこの世界を放棄してセントラル管理世界に移行する方がいいのでは?と。
「……何でもいいけど僕は行くよ」
シリアルが翼を広げて窓を開ける。
「でも、シリアルさん……!」
「ライランド・円cryン、あなたとの日々は決して悪くなかった。ユイム・M・X是無ハルト、あなたもだ」
「シリアルさん……」
「白河ひばり、近藤智恵理、月美来音、矢尻陽翼、乃木坂鞠音、紫歩乃歌。あなた達とのゲームも忘れない。けど、これは僕の戦いなんだ……!」
言ってついにシリアルは飛翔した。まっすぐくすんだ空を舞い、わずかな宇宙空間を貫き、そしてスライト・デス本星の重力圏内に入る。どうやら潜入自体は可能なようだった。緋瞳を用いれば地上では1000万体以上の怪人達が戦況をにやにやしながら眺めていた。上空1万メートル以上を飛んでいるからかこちらには一切気付いていないようだ。そのまま緋瞳で一番強力な反応を探る。
「……ん、」
そう言えば不思議だ。天死の力を使っているのに理性が暴走しない。かつては緋瞳を使って生物を見たら天死としての殺戮本能によって暴走するというのに。
疑問を投げ捨て、シリアルが強い気配の元へと飛んでいく。それは地球とは逆方向の火山地帯。溶岩やマグマでいっぱいの場所に玉座があり、そこにキル首領は座っていた。目を閉じ、意識を地球に向けている。まるでこの星そのものを大きな眼球として地球を観察しているように。
「……やるっきゃない」
シリアルは両腕を変化させ、亜音速でキルの元へと急降下する。
「……ん、」
わずかな気配に気づき、目を開けたキルの額にシリアルの右腕の牙が突き刺さる。
「貴様……」
「這い蹲れ!キルデバラン!!」
そのまま握力を込め、キルの2メートル以上の巨体を持ち上げて飛翔。
両翼でキルの両腕をがっちりと決めたまま200メートルの高さから急降下してキルを頭から地面にたたきつける。
「……どうだ……!」
距離をとって観察するシリアル。しかし、対象のキルは大してダメージもないように立ち上がった。
「くっ!」
「ほう、やはりアルデバラン星人か。地球にいたとはな。どうだ、同郷のよしみ。我が軍門に降らないか?」
「馬鹿は地獄に落とされてから言え!!」
シリアルが再びキルに迫る。
「残念な答えだ」
キルが右手の小指を小さく揺らす。すると、突然シリアルの前に両目のない犬のような怪物が召喚され、その突撃を受け止める。
「こんなもの!」
シリアルは素早く怪物を蹴り飛ばし、とがった両翼で貫く。ドリルのように穿つ形となった翼に胴体を串刺しにされた怪物はやがて動かなくなったがしかし、その死体が一瞬スライム状になり次の瞬間には万全の状態に戻っていた。
「!」
「プラネットと星で戦うという無謀さを知るといい」
キルが笑い、怪物は走る。その速さはシリアルがギリギリで追えるほど。迫り来る牙にギリギリで防御態勢。腕で受け止めると見せてぶん殴る。やや怯んだ怪物の胴体を翼で巻き上げ、
「フライデススープレックス!!」
そのまま自身を軸に怪物を握ったまま翼を鉄槌のように背後の地面にたたき落とす。そして頭部の潰れた怪物をキル向けて投げ飛ばす。
「おもしろい戦い方をしているようだが、」
キルは笑いながら左の手のひらを前方に向ける。
「ぬるい!」
声と共に手のひらから衝撃波が発射され、飛ばされてきた怪物を消し飛ばし、走り出していたシリアルを吹き飛ばす。
「がああああああっ!!!」
1メートルほどあった異形の両腕がちぎれ、踏ん張る両足が折れて、背中から思い切り溶岩にたたきつけられて両翼が溶ける。背骨にもひびが入っただろう。
「がはっ!!!」
吐血もマグマに溶けて消える。そこに自らも前のめりに倒れ……る寸前で支えられた。
「……?」
シリアルが目を開ける。見れば、
「後は任せてください」
そこにはライラ、ユイム、ティラ、ラモン、シュトラ、ケーラがいた。
「ここから先は僕達パラレル部が相手になります!」
ライラがナイトメアカードを発動させる。

------------------------- 第179部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
165話「Xignition3~新たなる希望~」

【本文】
GEAR165:Xignition3~新たなる希望~

・離陸を開始した飛空艇の中で剣人がため息をついた。
「思い切ったことをしたな」
ムラマサが声を飛ばす。
「シリアルがキルの野郎と接敵しているのは分かった。明らかに力不足だって事もな。だから力が必要だった。でも、俺でも戦中のシリアルを座標に増援を飛ばすことは難しかった」
「だが彼女……彼か?と波長が合っている彼女達を送り込んだのか。座標が正確でなくとも彼女達の絆があれば迷うことなく飛ばすことが出来ると信じて」
「そうだ。それに、あの7人にはどうも期待せざるを得ないんだ」
「姉でも欲しくなったのか?」
「兄さんじゃ一生無理だろ?」
直後に剣人は飛んできた火球を切り払う。
「虚憶って奴かな?どうもここじゃないどこかであいつらの事をよく知ってるような気がするんだ。そしてあいつらなら大丈夫だって任せても安心できるって頭が言ってるんだ」
「……」
「だがもちろん増援は寄越すぜ。あいつらがキルの注意を引き付けてプラネットの力を防御や迎撃から遠ざけた時がその時だ」
剣人はその時が来るのを待っている。モニターではライクーザが巨大怪人群と戦っている。途中から千代煌も混ざっている。シン達も混ざりたそうにしているが舛崎達に止められている。


・惑星キルデバラン。
「はあああっ!!」
ライラが破滅の弾丸をまき散らす。一発一発が命中すればパラドクスにすらある程度の効き目がある消滅の塊。
しかし、キルはそれを召喚した怪物を盾にして防ぐ。さらに銃弾を受けて消滅していく怪物たちを再構築してより強力な怪物を生み出す。
その怪物の突撃をティラとラモンが止め、シュトラとケーラが攻撃を加え、ユイムが消し飛ばす。そして再びキルが怪物を生み出しては質と量の両方で6人への攻撃を開始する。
「填(チャージ)!!」
ティラがチャージのカードを3回発動し、合図を見たラモンがティラの傍らにつき集中力を分け合う。
「「海(ダイダロス)・行使(サブマリン)!!」」
二人分とチャージ3回分の魔力をエンジンにティラ最大の魔法が発動する。それはかつてはナイトメアカードで町を水没させたこともある、ダイダロスのカード。発動と同時にカードを中心に大津波が全方向に発生して100体を超える怪物が激流に飲み込まれていく。
「ほう、これが海と言うものか……!」
僅かに感嘆しながらキルは浮上して空に飛翔する。見ればジュネッスとなったライラとユイムがシュトラ、ケーラ、シリアルを抱えて空を飛んでいる。その中でライラはスク水姿だった。
「ハイドロマグナアアアアアス!!!」
水難(シプレック)の力によりたった今発生した大津波を何倍もの量に増加しては惑星キルデバランの大地の半分以上を海に変える。当然今まで海などなかったためか多くの怪人は溺れて死んでいく。
「き、キル首領ぉぉぉぉ!!」
キルの前で怪人サメサーモンが流されていくのが見えた。
「……ふむ。一時的とはいえ星をも変える力を有するか。地球に降り立ったアルデバラン星人と言うのは不思議なものだ」
「キル!!」
ライラが破滅の銃弾を発射。しかしキルは指一本動かさず眼下を流れる水流を操りその破滅の弾丸を受け流す。
「!」
「プラネットならこの程度、出来て当然!」
続いて惑星の半分を占めていた海を1つ集めにして全長2000メートルはくだらない大きさの大怪人を生み出す。ライラが巨人を構成している水を操ろうとするが制御が出来ない。どうやらキルがコントロールしているらしい。今度は破滅の銃弾を撃つ。銃弾は命中した部分の水を確かに消し去ったが全体の水量から見たら大した損傷ではなかった。水のない惑星でありながら既にキルは水の特性を完全に理解しているのだ。
「だったら僕がやっちゃうもんね!!ナイトスパークスの力・ライトニングクロノブレイクキャノン!!!」
ユイムが発動し、本来の7割程度の電撃砲をレイラ、アルデバランと共に発砲。尋常でない出力の砲撃が巨大水怪人に命中、1秒と持たずに貫通し、その場所からその巨体を構成している水を電気分解していく。とは言えやはりは微々たる量だった。おまけにあまりに威力の高い技故かユイムの体力がガンガン減っていくためユイムは3秒で砲撃を中止した。
「くっ、これ厳しいね……!」
「ふん、少しは面白かったが所詮地球人などこの程度と言う事か」
キルは再び水なき大地となったそこに着陸する。代わりに水の巨人はその巨体とは思えないほど敏捷に動き、まるでボクサーのような動きで空中に止まっていたライラ達にパンチをくらわす。
「くううううううううううう!!」
「ライラ君!!」
落下したライラ達はラモンの発動させた壁(ウォール)によって受け止められる。しかしその壁も水の巨人によって容易く踏みつぶされる。
「……くっ、」
衝撃の後、シリアルが目を開ける。と、自分には手足と翼以外大した怪我はなかった。だが、眼前には自分を庇ったのか傷つき倒れるライラ達が見えた。
「ライランド!!」
四つん這いになりながらシリアルは何とか歩み寄り、ライラの傍につく。
「……シリアルさん……」
「どうしてあなたはそこまでするんだ!?僕があなた達の分身だからか!?同じ数少ないアルデバラン星人の生き残りだからか!?」
「……あなたは僕達の子供に優しくしてくれた……」
「そんな、そんなことでこんなになるまで僕を……!?」
「……不安だったんです。僕達の子供はもしかしたらその血のせいであまりいい未来を迎えていないんじゃないかって。でも、シリアルさんとの関係を見ているとそうじゃなかった。ちゃんとあの子達は明るい未来を進めていたんだってそう思えた……」
「それに僕は関係ない……」
「関係ありますよ……」
嗚咽のシリアル、吐血のライラ。静かな時間。激しい視線の交差。
「僕達はもう助からないでしょう。子供達も多分そうだ。でもあなたはまだ逃げられる。歩乃歌さんと一緒に新しい世界に行ってそこで幸せに生きてほしい……!シリアルさんには生きていてほしいんだ……!!」
ライラがシリアルの肩に手を置くと、その翼が再生する。
「生きてね……シリアル……」
「ライランド……」
シリアルは翼を広げた。離陸して空に飛んだ。だが、後ろには下がらなかった。
「……僕は生きたい。生きてみたい。この人達と一緒に。きっと多くのアルデバラン星人がそうだったように」
シリアルがキルを睨む。
「ふん、話は終わったか?心配することはない。貴様たちは始末した後クローンを作る。アルデバラン星人とキルデバラン星人の合作がどうなるか興味があったのだ」
嗤うキル。シリアルはその緋瞳に炎を宿らせた。そして、その懐の中で何かが赤く輝く。それはあの時パラディンから渡された1枚のカード。シリアルはその輝きの元、新たに生えてきた頭のない犬の腕でそのカードをつかみ取る。
「この醜い姿でも生きたいと思う願いがあるんだ!!」
折れた両足を誰かが支えた。それはライラ達ではない。今まで散っていったアルデバラン星人達の翼たちだ。
「希望(シリアル)・行使(サブマリン)!!」
そして魔力ではなく積み重なってきたアルデバラン星人たちの想いを糧にカードは発動した。激しい光がシリアルの体を包み込み、晴れると同時その背中には6枚の翼が、その両腕は顔のない犬ではなく龍のような形に、シリアルは新たなるシリアルとしてその姿を見せたのだ。
「あれは……」
シリアルから放たれた光がライラ達の傷を治していく。
「……そこで見ていて、ライランド。僕の戦いを!」
6枚の翼をはばたかせ、水の巨人へと一瞬で距離を詰める。
「はあああああああああっ!!!」
放たれた左ストレート。嘶きを上げながら龍は巨大化してその大きな口で水の巨人を頭から飲み込み、粉々にかみ砕く。
「何……!?」
「はあああああああっ!!」
そして驚いて動きが止まったキルに右ストレート。嘶きを上げながら龍がドリルのようにその身を捻じらせてキルをぶっ飛ばす。
「ごほおおっ!!」
「まだだ!!」
ぶっ飛ばされたキルにシリアルが追い付き、6枚の翼でキルの両手足、顔面を縛り付ける。
「シリアルバスタァァァァァッ!!!」
さらに両腕のドラゴンをキルに巻き付け、8か所を同時に締めた状態で高高度からキルを頭から地面に叩きつける。
「ぬうううああああああああああ!!!」
キルの悲鳴と血反吐と両手足腰首が砕け散る音が響き渡る。
やがて雨が降った。地面に頭から突き刺さったまま動かないキルを冷たい雨が濡らす。
「……勝った……」
シリアルはその姿のままキルから離れてライラ達へと向かう。
「シリアルさん……」
「シリアルでいいよ、ライラ。それより早く地球に戻ろう」
「はい、シリアル……!」
ライラとユイムが再び翼を広げて飛べない4人を連れて離陸した時。
「何をしている……?」
声。地獄よりも暗く冷たく野太い声。それは手足も腰も破壊されて頭からは脳漿も血も出放題になりながらも立ち上がるキルだ。わずかにシリアルは驚いたがキルはプラネットだ。本星が無事なら所詮肉体など入れ物に過ぎない。現にキルは既に傷の回復が始まっている。
「遊びはここまでだ……。この星から生きて出ていけるなど夢にも思うな……!!」
叫ぶと、キルは破裂した。しかし死んだわけではない。その逆だ。それまでキルがいた場所には100メートルほどの黒いドラゴンが立っていた。
「あれがキル首領の本当の姿……!?」
「いや、キルデバラン星人はアルデバラン星人と大差ない姿のはず。つまりあの姿もまたキルのものではない筈。でも、キルは自分を改造したんだ。使い捨ての入れ物に過ぎないとはいえ自分の肉体を怪物の姿に……!」
「この姿になった以上貴様たちに出来ることなどないぞ!!」
怒声と火炎をまき散らすキル。シリアルが前に出て両腕の口から爆炎を吐き散らし、キルのそれと激突させる。しかし圧倒的なまでに出力が違いすぎ、一瞬で打ち破られてしまう。
「くっ!」
直撃を回避しながらシリアルは緋瞳でキルの動きを見る。しかし、その動きを予測することは出来なかった。
「緋瞳が通じない……。キルはプラネットの力で自身を強化している……!!」
驚いたシリアル。その僅か一瞬にキルは迫り、膝蹴りでシリアルを吹き飛ばす。ピンポン玉のように空に飛んで行ったシリアルを先回りしたキルが尻尾で叩き落とす。地面に勢い良く叩き落とされる寸前に追いついてきたキルがシリアルを踏み潰す。一連の流れは1秒にも満たず、ライラ達には反応すら出来なかった。ただ、起きた衝撃と砂嵐と雨が晴れた後にはボロボロのシリアルが倒れているのを確認しただけ。
「シリアル!!」
ライラ達が歩み寄る。と、
「羽蟲ども!」
キルが接近してライラ達に拳を振るう。その拳が気付いていないライラ達に命中しそうになった時。
「あかはら・めもはら・らりろれらりぴょ~んハイパアアアアアアプラズマァァァァァァァァァァァッ!!!!」
可愛い声から叫び声に変わったそれが響き、キルの拳の前にハイパープラズマーフォームのアカハライダーズが出現して拳を逆に殴り返す。
「ぬ、」
「「ハイパアアアアアアプラズマァァァァァァァァァァァパアアアアアアアアアアアアアンチ!!!」」
二人の拳がキルを後ずさらせた。
「貴様達エクシードプラズマーの……!」
キルの前でアカハライダーズが着地する。
「「経営幼女戦士アカハライダーズ、最終決戦でも全力全開で頑張ります!!」」
「紅葉さん!詩吹さん!」
「ライラちゃん達は下がってて!!作戦は第二段階に入ったから!!」
「は、はい!」
何の事かよく分からないがライラはシリアルを回収してキルデバランを離れていく。
「ふん、貴様達だけで相手になるかな?」
「私達だけじゃありませんよ?」
紅葉の後ろ。ライラ達と入れ替わるようにシン達5人が姿を見せた。
「む、」
「やっと会えたな。スライト・デスのキル首領!!」
「あなたによって蹂躙した人々の無念を晴らす!」
「見下し続けてくれた俺達人類の絆の力を見せてやる!!」
「……覚悟しろ」
「……死ね」
5人が身構え、心の中に輝きの力・ソウルプラズマーを灯す。
「ダフェードライジング!!」
魂の叫びが5人の姿を変える。
「燃える心が明日を照らす!スカーレッド!!」
「天より恵みをあなたの元へ!エンジェル!!」
「絆の稲妻、黒き闇を貫く!シュバルツ!!」
「緑の旋風が自由を拓く!グリューネ!!」
「青き命の水が未来を創る!アズール!!」
「永遠の未来のために!我ら、心愛戦隊エターナルF!!」変身を終えた5人。
「……ふん、エクシードプラズマーをさらに昇華させたか。だが、それでもこの圧倒的なエクトプラズマーの前では屁でもないわ!!」
嘶きを上げたキルは空に向かって無数に火炎弾を吐き散らす。そして空中に散らばった無数の火炎弾が雨のように7人に向かって降り注ぐ。
「ソウルイグニッションフォース!!」
対して5人は魂の力を1つに集めてその輝きを放出させ、迫りくる無数の火炎弾を真っ向から打ち破っていく。さらにアカハライダーズが跳躍して亜光速でキルに迫る。
「ぬ、」
「ハイパーエクシードソード!!」
「ハイパーフルメタルバースト!!」
眼前で二人は技を繰り出し、キルを再び後ずらせる。同時にすべての火炎弾を撃ち破った魂の輝きがキルの胸に叩き込まれる。
「うおおおおおおおおおおおおお!?」
この威力を受けたキルは後ずるだけでは済まなかった。まるで背後に全力疾走しているように後ろに飛んでいく。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおああああああああああああ!!」
スカーレッド達の輝きは加速度的に増していき、キルの黒い龍鱗に亀裂を走らせていく。しかし、
「こんなものなど!!」
キルは星中からエクトプラズマーをかき集めては放たれた魂の輝きを押し戻していく。さらに火炎弾をまき散らして空中のアカハライダーズを撃墜。それにスカーレッド達が気を取られた瞬間にエクトプラズマーの威力を上げてついに打ち破る。
「破滅せよ!!魂の輝きなど!!」
魂の輝きを打ち破ったどす黒い闇色の輝きが5人を穿つ。激しい大爆発が発生し、惑星キルデバランの質量の13%が消滅する。しかし、
「フォノメデス!!」
火柱を、黒い爆発をぶち破ってフォノメデスが走ってきた。
「何!?」
「うおおおおおおおおおおおおお!!」
そのままフォノメデスがキルの顔面に拳を叩き込み、たじろいだキルの胸に飛び膝蹴り、ショルダータックル。ついに倒れたキルに向かって
「ファイヤーボルトブラスター!!」
両腕のブラスターを連射。一発一発が先程のソウルイグニッションフォース並みの威力。それぞれが発生した黒い火柱を貫き、キルの黒い肉体を穿っていく。
「こんなもので……魂の輝きごとき……ソウルプラズマーごとき!!!」
耐え抜いたキルが翼を広げ、飛翔。見上げた直後のフォノメデスの顔面に闇色の炎を纏った飛び蹴り。怯んだフォノメデスを両手で持ち上げて空高く投げ飛ばす。
「ぬおおおおおおおおお!!」
空中のフォノメデス向けてエクトプラズマーを多く含んだ火炎弾を発射。一発だけでなく2発3発と連射。
「くっ!」
ダメージの関係で動きが鈍くなっているフォノメデスは回避できず直撃を受けてしまうだろう。しかし、それは来なかった。
「行きます!!!」
アカハライダーズが跳躍して火炎弾の前に来た。その全身からは出力250%のハイパープラズマー。
「ハイパアアアアアアアアアアアオオオオォォォォロラプラズマ返しいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!!!!」
「ハイパアアアアアアアアアアアアアジェノサイドバズウウウウウウカアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
紅葉が全長3光年もの凄まじい長さのプラズマの刃を右廻し蹴りと共に放ち、詩吹が惑星キルデバランを5度は消し飛ばすだけのプラズマ砲を発射。空中で火炎弾を跡形も残らず消し飛ばし、キルの巨体をぶった斬り貫く。
「お、おおお……!!」
滝のように黒い吐血を行いながら後ずさり、ひざを折るキル。その間にフォノメデスは着地してソウルプラズマーの輝きを集中する。ソウルプラズマーが集中され凝縮されていくほどに5人の意識もまた凝縮され、1つになっていく。
「フォービドゥンセイバー!!」
フォノメデスの右手に大きな剣が生まれる。それを握るとフォノメデスの全身が黄金に輝く。
「これで終わりだ!!キルデバラン!!」
フォービドゥンセイバーから発射された黄金の竜巻が惑星キルデバランに息づくすべてのエクトプラズマーを巻き込み浄化して力に変え、黄金の竜巻がキルの肉体を空間に縛り付ける。
「何だこれは……これがソウルプラズマーとハイパープラズマーの力だと言うのか!?エクトプラズマーとプラネットの力をも打ち破る力になると言うのか!?」
「これが、生きとし生ける者達すべてに宿った魂の力だぁぁぁぁっ!!!黄魂剣(おうごんけん)・フォービドゥンフィニイイイシュ!!!」
一筋の閃光となった黄金のフォノメデスがその剣でキルを袈裟斬りにして通り抜ける。フォノメデスの輝きが消えると同時にキルの闇に包まれた肉体は黄金の光となって消えていく。
「ば、ば、馬鹿なあああああああああああああああああああ!!!」
キルの断末魔が響いてからその巨体は大爆発を遂げた。

------------------------- 第180部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
166話「Xignition4~最終決戦は滅び行く地球で~」

【本文】
GEAR166:Xignition4~最終決戦は滅び行く地球で~

・惑星キルデバランから飛空挺に帰還したライラ達はすぐに火咲から状況を聞いた。
「あの銀色から、キル首領がプラネットの力を自身に集中させていることが分かったわ」
「それって、もう惑星キルデバランにはバリアがないって事ですか?」
「そこまでは分からないけど少なくとも潜入阻止や惑星全体から異物を一斉消去するなんてことはできないそうよ。だから今のうちに戦力を投入して奴の気を引いて、準備万端になったらあの変態師匠に砲撃して惑星キルデバランを消し去ってもらう第二段階に突入したの。あんた達は十分役に立ったからもう休んでて大丈夫よ。シリアルにはもちろん治療を受けさせるし」
火咲が窓の外をちらっと見る。既に巨大怪人達は千代煌や舛崎達が相手をしていて、ヒエンと赤羽は近くで休んでいる。
「で、変態師匠。次の砲撃はいつ出来るのよ」
「火咲ちゃん、僕はそんなに変態じゃないと思うんだけどなぁ……」
「自分の子供よりも年下の女子中学生をレイプしておいて何言ってるのよ。もう責めてなんてあげないんだからね。で?」
「20分くらいだな。ただ、完全に消し飛ばさなくてもいいなら10分後に50%程度でいけるけど」
「それでどこまで破壊できる?」
「何も防御がなければあの程度の星なら一撃で粉微塵。防御があっても並大抵のレベルだったら貫通までいけるだろう。たいていの星は貫通を受けたら普通は大爆発間違いなしだ。とは言え計算は大いに狂うだろうから大に爆発をキャンセルしてもらって地球への被害を防ぐって言うのは厳しそうだ」
「その時は仕方ないからこのままセントラル管理世界に行くしかないわね。どのみち10分後にキルデバランに突入したメンツを回収しないと」
「……待って咲」
蛍の声が遮る。
「お姉さま?」
「……フォノメデスが敵首領を撃破したそうよ」
敵首領の撃破、つまりエターナルFとアカハライダーズがキル首領を倒したという事だ。当然地上では寒気の声が挙がる。
「だが、本体であるキルデバラン本星を破壊しないと奴は何度でも蘇るぞ……!」
「今、残ったメンバーが惑星を攻撃中。ただ自分達がまだ星の中にいるから思い切った攻撃は出来ないみたい」
「すぐに撤退させるんだ。あの7人を回収次第飛空挺で離脱。大気圏外より集中砲火して惑星キルデバランを粉砕する。確かアカハライダーズの火力なら十分可能なはずだ」
ヒエンが指示出しをして赤羽と共に地上から飛空挺へと飛翔する。回線を聞きつつ最後の巨大怪人を撃破した歩乃歌が舛崎達も飛空挺へと運ぶ。エターナルFとアカハライダーズ以外の回収が終わり、飛空挺が地球から離れていく。大気圏を突破したあたりでヒエンが意識を失う。
「……これ、大丈夫なんでしょうか?」
「……見たところ呼吸してないわね。……心臓も止まってる。でも、この人もそろそろ眠らせてあげてもいいんじゃないの?」
「どういうことですか?」
火咲の意見に赤羽が視線を送った。
「そのままの意味よ。この人は2000年以上も生きてる。しかも100年おきに記憶のリセットなんてしてまでね。もう零のGEARはないしナイトスパークスでもない。ならこのまま永遠に眠らせてあげるのも手じゃないのかしら」
「……ヒエンさんは私と会ってから一度もその現実から逃げたい素振りは見せませんでした。確かにここ最近はややテンションが低めですがそれも元をただせばあなたの仕業の筈です」
「私のせいだって言うの?じゃああんたに耐えられるって言うの?あんたより先にあの人が久遠ちゃんとかライランドに手を出したとしても?」
「……ただの性欲じゃないと信じています」
「ただの性欲よ。男が女を襲う理由にそれ以上があるのかしら?」
「あなたは最上火咲だからそう言えるんじゃないですか?」
「その意見は所詮赤羽美咲って事よ」
「そこまでになさい、咲」
「…………はい、お姉さま」
蛍の声で火咲は押し黙った。赤羽もそれ以来火咲と口論はしなかった。しかし次にうちを開いたのはやはり蛍だった。
「……これは、何か強力な反応が地球に接近している……!?」
「え?」
言われて火咲がレーダーを見ながら気配を探る。
「……これって0号機……アドバンスじゃない!」
火咲が驚く中、アドバンスの死骸は飛空挺の傍を通り抜け、大気圏を突破して地球の大地に激突した。
「…………ぬう、」
土煙を上げ、アドバンスが覚醒した。もう二度と目覚めることはないと思っていた。だが実際に覚醒した。プラネットの力で地球から歴史を読みとり、現在の状況を確認する。
「……ふむ。スライト・デスを倒したか。だがあの男の力ではない。まだ私が望むものではないか」
アドバンスはオーストラリア大陸を一本の槍に再構築してキルデバラン本星へと投げ込む。
「まずい!」
火咲が驚き、その眼前で本星が槍に貫かれた。それから1分と待たずにキルデバランの星は寿命を迎えた故の大爆発を起こした。
「な、なんだ!?」
ギリギリで大気圏外に飛び込んだ7人が驚愕の声を上げる。
「さあ、来い黒主零」
アドバンスの声は飛空挺の中にも響いた。
「……うう、」
「え?」
赤羽と火咲が驚く中、ヒエンが目を覚ます。
「どうして、まだ地球の外なのに……」
「……あの野郎か」
ヒエンが上体を起こす。
「どうして目を覚ましたのですか?」
「アドバンスの野郎だ。あいつからジ・アースの権限が100%変換された。ついでに奴の進化のGEARがわずかにあったからかこれくらいなら地球から離れていても問題ないみたいだ。が、まだナイトスパークスの力は返ってきていない。……スライト・デスを倒した褒美とでも言うつもりか?」
ヒエンが舌打ちをする。
「蛍ちゃん、地球へ急行。アドバンスを最後の敵として撃つ」
ヒエンの指示を受け飛空挺は再び大気圏を突破して地球に着陸した。付随してフォノメデスとアカハライダーズも着地する。ヒエンも同じようにライクーザに乗ってアドバンスの前に立つ。当然赤羽も背中に乗っている。
ヒエンとアドバンスの視線が交差する。
「まずはスライト・デスをよく倒せたと言っておこうか」
「侮辱として受け取ってやるぜ、馬鹿孫」
「ならばもはや言葉は不要。この私を認めさせて見ろ、黒主零!!」
「ジアフェイ・ヒエンとして受けて立つぜ、アドバンス・M・黒ニ狂!!」
発言と同時に赤羽手動の元、姫火からミサイルが発射される。6発のミサイルが空を裂き、アドバンスへとまっすぐ向かう。
「ふん、」
アドバンスはそれを真っ向から受け止める。もちろん無傷に終わる。が、そのわずかな爆発を目くらましに、ライクーザが離陸して迫り来る。すぐさま右手の機関銃を乱射。その貫通力を知るアドバンスは防御ではなく回避を取り、しかもただの回避だけでなくカウンターとして拳を握る。
「散れ!!」
ライクーザが身構えるより早くアドバンスの右ストレート。
「くっ!」
放たれた右の拳をライクーザは中段内受けで防ぎ、受け流し、左手で引き抜いた万雷の刀身を伸ばしてアドバンスの左肩を貫く。が、痛みを感じさせずアドバンスは腕を振るい、ライクーザをぶっ飛ばす。
空中で立て直したライクーザが銃剣と機関銃を同時に構えて乱射。貫通力に優れた機関銃の銃弾と、100億ボルトが備わった銃剣の弾丸が秒速2000発以上宙を切り、アドバンスの上半身に次々と突き刺さり、しかしその弾丸は皮膚以上に届かず、アドバンスは彷徨をあげながら跳び蹴り。ほぼノーガードだったライクーザに直撃、
「ぐううううう……!!」
地平線の彼方にまで吹き飛ばされ、繰り上がった岩盤に叩きつけられる。
「ぐっ!赤羽、大丈夫か!?」
「は、はい。でも姫火のダメージが大きくてしばらく私の操縦が受け付けられないようです!」
「……今宇宙に投げ飛ばされたら終わりだな。だが!」
背後の岩盤を蹴ってライクーザが跳躍。その勢いのままにアドバンスへと向かう。
「万雷ベイオネット!!」
銃剣に機関銃と万雷を装備して強化。
「統夜一緋!!」
ベイオネットを持ったままの左腕が稲妻に覆い尽くされて跳躍の勢いのまま迫り、雷撃砲をほぼ零距離でたたき込む。が、
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
アドバンスは攻撃を受け止めながら両手でライクーザを挟み込みがっちりと掴んだまま跳躍、高高度から勢いよく地面に投げつける。マッハ30以上の速度でライクーザは地面に叩きつけられ、大きなクレーターが生じる。さらに、アドバンスが全身から凄まじいエネルギーを放出、それを凝縮して直径1キロメートル程の球体にしてライクーザに向けて投げ込む。
地上に命中すると同時に激しい大爆発が何段階にも発生して衝撃により周囲の建物どころか山々さえも崩れていく。
「……」
息も切らさずにアドバンスが着地。眼前には火山が噴火したかのような煙が一面に立ちこめる。実際に溶岩やマグマが発生している。噴火どころか爆発している大地すら存在する。だが、アドバンスは決して勝利を信じてはいなかった。やがて、眼前の荒廃がすべて消え、またもや別の荒廃が招来した。アドバンスの視界は一瞬で雷雨と暴風で洪水した港町へと姿を変えた。前方にはほぼ無傷のライクーザが立っていた。だが、異変もあった。
「……あれは、」
姫火の背後にはクリムゾンスカートのホライゾンナビゲートが召喚されていた。
「黄緑、センスを借りるぜ!ホライゾンナビゲート!!」
背中の8枚の刃が広がり、生き物のように蠢きながら宙を切り裂き、アドバンスへと迫る。アドバンスはそれを受け止めようとするが、
「朱雀幻翔!!」
突如、リズムが狂い、アドバンスでも見切れないほどの動きとなってアドバンスの上半身を切り刻む。
「こんなもので……!!」
アドバンスは先ほど同様受け止めてから8枚の刃をつかみ取り、引きちぎる。が、直後にベイオネットから発射された電撃弾が右肩に直撃し、激しく出血する。
「ごおおおお!!」
「まだまだ行くぞ!」
続けて発射。アドバンスは回避に移るが放たれた電撃は雨によって誘導されてアドバンスに命中、左足を穿つ。さらに命中し、炸裂した電撃が手の形となり焼けただれた左足を掴んでアドバンスを地面に叩きつける。
「くっ、」
「敵に塩を送りすぎたな」
倒れたアドバンスの首筋に稲妻の刃を添えるヒエン。
「お前の負けだ。降参してどこへなりとも消えろ」
「……ふん、この程度で勝敗が決まると思っているのか!」
アドバンスは刃を振り払い、右肩と左足を回復させて殴りかかる。ライクーザから見て数十倍の大きさの巨体がまっすぐ全力で殴りかかってくる中、ライクーザは真っ向から受け止めた。
「!?」
「そう来ると思ってたぜ!!ライボルトクラウザアアアアアアァァァッ!!!!!」
アドバンスの全身に稲妻電流を流し込み、磁力を使ってその巨体を持ち上げて飛翔。
「ガイアリボルビングブレイキング!!」
ジ・アースとしての力を発動、地球を直径200メートルのプラズマの塊に凝縮して鉄槌のようにアドバンスの胸にたたき込む。
「ぬうううう!!」
「まだまだまだままだまだまだだぁぁぁっ!!!」
さらにベイオネットから延びた電気のロープにつなげてモーニングスターにして何度もアドバンスに叩きつける。
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
地球を戻してからアドバンスを地上に向けて投げ飛ばし、頭から地面に叩きつける。
「……少しは効いたんじゃないのか?」
ライクーザが地面に着地。正面では息を切らせたアドバンスが立ち上がっていた。アドバンスのダメージは見て取れた。本来ならば末期と呼んでいいレベルにまで進化したその進化のGEARの影響で片っ端から受けた攻撃に耐性を持ってもおかしくはない。だが、今はプラネットの力でそれを封じている。アドバンスはもう進化出来ない。その上で先ほどから連続で攻撃をたたき込んでいるのだからその無尽蔵にも思えるスタミナとて限界が近いのではないかと思える。だが、アドバンスは諦めずに立ち上がった。
「……お前、まさか……」
「無駄口を叩く余裕があるか!」
地を蹴ってアドバンスは迫り来る。再びの右ストレート。ライクーザはそれに合わせてベイオネットの電撃砲を発射。殴打のインパクトと砲撃が真っ向からぶつかり合い、空中で爆発が起きる。その爆発を貫き、アドバンスの左ストレート。対してヒエンはベイオネットから万雷を引き抜き、
「稲妻電光斬り!!」
電光を纏った一閃で左の殴打を切り裂く。アドバンスの左手が肘まで切り裂かれ、ライクーザが後ろに吹き飛ばされる。
「ぐううううう……!!」
アドバンスは引き裂かれた左腕を掴んで絶叫した。それを見てヒエンは確信した。
「あいつ、死にたいんじゃないんだな」
「え?」
「あいつは進化のGEARのためにもう肩を並べる者がずっと昔からいなくなっちまったんだ。だからあいつの言う孤独は仲間なんじゃなくてこうやって全力でぶつかり合える宿敵がいないことだったんだ。そして、今回の件でわざと悪役を演じて生き残った世界のすべてを敵に回して満たされようとしていた。それがあいつの最後の願いだったんだ……」
「……そんな……」
「……武人の家系だよ全く」
嘆息のヒエン。正面では絶叫したアドバンスの左腕がついに再生を遂げた。進化のGEARの力がプラネットの束縛を上回ってしまったのだ。
「だがな、アドバンス。お前のその進化はもう宇宙にとって危険なんだ。だから、ここで終わらせる!!」
ヒエンは意気込み
万雷を構えてアドバンスへと突撃する。
「行くぞ!アドバンス!!」
「来い!!黒主零!!」
放たれた左ストレート。それに対して再びヒエンは稲妻の一撃をたたき込む。結果として再び空中で大爆発が起きた。その衝撃に万雷の刀身に亀裂が走り、中程から折れてしまう。しかしアドバンスの巨体もまた宙を舞った。ライクーザは右拳を握り、前に倒れるようにして走り出し、地を蹴ってミサイルのようにアドバンスへと迫る。
「青龍一撃!!!」
電光石火の一撃がアドバンスの胸元にたたき込まれ、爆音を轟かせながらその巨体を再び吹っ飛ばす。今度は大気圏を突破して宇宙空間に達した。既にジ・アースではないアドバンスは今度は心停止せずに無重力の中で体勢を立て直す。
「……」
眼下に広がるのは青い地球。そしてライクーザが大気圏を突破して遣ってきた。
「これで終わりだぁぁぁっ!!」
拳を構えるライクーザに対してアドバンスは目を閉じて小さく笑った。
「ガイアフォオオオオオオオオオオオオオオオオオス!!!」
拳から話たれた一撃はアドバンスを容易く貫いて大爆発を引き起こした。


・戦いは終わった。
「……アドバンス」
アドバンスが聞いたのは遙か太古に聞き馴染んだ母の声。
「……母さん……」
目を開ける。眼下に広がるのは一面の花畑。そして、母・怜悧の姿。
「……母さん……」
遠近感がおかしい。どうやら自分は今かつてと同じ通常の人間のサイズに戻っているようだった。だが、既に体は動かない。
「ごめんね、もうお母さんは一人にしないから。ほら、見て。懐かしいでしょ?あなたが好きだった変形合体ロボのおもちゃ。お母さんね、ずっととっておいたんだから。ずっと忙しくてあなたとゆっくり出来なかったでしょ?ほら、おいで。一緒に遊ぼ?」
母の姿がかすんで見える。いや、それはアドバンスの涙だった。どこまでも進化していったアドバンスは、遠い遠い、もう記憶の片隅にしかない、昔の未練にいま涙を流していた。それに、距離はとっているが母の後ろにはその弟妹が見えた。表情までは見えない。
「ほら、アドバンス。今日はお母さん仕事休みだからめいっぱい遊べるよ。ほら、アドバンス。お母さんにこの格好いいロボの遊び方を教えて?」
「……うん、お母さん」
アドバンスは重さのない手を伸ばした。涙に崩れた景色には母とその弟妹、そしてさらに3人の祖父母が見えた。太古の彼方に夢見た景色がそこにはあった。夢だとは分かっていた。だがそれでも彼方に置き去りになった幸せに涙が止まらなかった。
「……果名、やってくれ」
「……アドバンス、今その名を果たしてやる」
そこでアドバンスの無限の旅路は終わった。

------------------------- 第181部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
167話「Xignition5~Xignited~」

【本文】
GEAR167:Xignition5~Xignited~

・アドバンスは逝った。
ヒエンは自身の孫が最後はとても幸せそうな表情をして世界から消滅したのを確認した。果名も、ルネも。
「……怜悧……」
息子の最期を看取った娘にヒエンは声をかけた。
「……お久しぶりです、お父さん」
彼女は振り返った。それはアドバンスの進化のGEARが一時的に生み出したに過ぎない幻だ。だが、西暦2008年の和佐と同じように本人の人格を持ってもいる。だからこうして会話が出来る。
「正輝も、ルネちゃんも」
「……姉さんなのか……?」
「……本当に怜悧だ」
呆然とした果名とルネ。でも怜悧は笑い、二人を抱きしめた。
「こうして弟や妹と会えるだなんて夢みたい。ううん、夢なんだけどね」
二人から離れた怜悧はヒエン達3人と向き合う。その顔を見ればヒエンの脳内に眠っていた怜悧の記憶が蘇る。そしてそれとは非対称的に怜悧の体が透けて消えていく。
「怜悧!」
「大丈夫だよ。私はもう幻。遠い過去の人だから。でもね、お父さん。正輝。あの子を止めてくれてありがとう」
「……怜悧、さっきアドバンスは僕達を見ていた。だがそこにはあと二人誰かが見えていたように見える。それは一体……」
「……お母さんと和佐さんだよ」
「……どっちも会ったことないはずだぞ……?いや、和佐とは天使界で会っている可能性があるのか」
「いいえ。お父さん。あの子はお母さんに会ったことがあるんです」
「何だって!?」
知識を総動員する。確か自分の妻は怜悧が2歳のころに亡くなっている。その怜悧の息子であるアドバンスがどうやって会えるのか。
「詳しくは私にもわかりません。でも、あの子は確かに最後、お母さんを見ていました」
怜悧の消滅がもう上半身を終えている。
「そろそろですね。では、お父さん。あなたより先に逝く不幸をお許しください。正輝、ルネちゃん。元気でね」
最後は笑顔で怜悧は消えていった。消滅の別れではない、ただ夢が覚めるだけだ。


・その後、ヒエンによって地球は再生された。完全なるプラネットの力を使えばこの地球を50年前の状態に戻すことも可能だった。だが、
「俺は父さんたちの未来を生きてみたい」
果名がそう言った。だからこの世界をスライト・デスが来なかった場合の西暦2300年にすることにした。大きな混乱を避けるためにあまりこの世界と文明を大きく変えないようにしておいた。ただし学園都市のような殺し合わなければ生きていけないような荒廃さはない。
「だったら私達はどうすればいいんですか?」
「その西暦2300年から見て過去の2010年に戻るさ。矛盾の安寧ではないちゃんとした地球の時代に。……ちなみに一応聞いておくが元々21世紀出身でありながら23世紀に残りたい奴もしくは逆に23世紀出身だけど21世紀に行きたい奴って誰かいるか?」
ヒエンの発言にざわめきが起こる。
「そんなことできるんですか?」
「元々どっちも本来の地球の歴史から大きく逸脱してるからな。矛盾の安寧もこの荒廃した世界も。だからそこで多少住人を入れ替えてもあまり問題はなかったりする。まあ、その後歴史を正しくするから時空旅行みたいなノリで行き来することは難しいと思うから軽々しく決断するのはやめておいた方がいい」
ヒエンの言葉を最後に一度休憩が挟まれることになった。歴史の修正は24時間後に行われる予定で、20時間以内にそれぞれのメンバーは決断をすることになる。


・校長のトレーラー。
「私達はどうしましょうか、ダディ」
紅葉が窓を拭きながら訪ねた。近くには詩吹もいて手伝っている。
「紅葉君は紅葉君のやりたいようにすればいい。私はここに残る。学園都市の生徒達を見守り続けるのが私の使命……いや、やりたいことだからな」
「……じゃ、私も残ります。23世紀の経営がどうなるか、ダディに教えてもらった経営戦術が通用するか。今から楽しみで仕方ありませんからね!詩吹ちゃんはどうします?」
「私も多分ここに残ると思います。もうアカハライダーになる必要はないかもしれませんがやはり生まれ育った地ですしそれに紀香も同じでしょうから」
「……もちろん私も残る」
バケツをいくつも運ぶ発が答えた。


・学園都市。荒廃していないまともな学校と呼べる建物となったその場所を舛崎達は違和感全開と言った表情で眺めていた。
「……本当は逆なんだろうけど不気味だな」
「ああ、俺達が知ってる中で一番まともな建物ですら半損状態だったからな。ここまで健在だと逆におかしく見える」
「俺達が眠る前までは当たり前だったんだぜ?」
後藤、枡藤が続く。
「毎日毎日授業が行われるんだ」
「授業?」
「そうだ。俺達未成年の学生は毎日勉強して汎用性の高い立派な大人になるのが義務なんだ。これからはこの世界もそう変わっていく。校長や紅葉さんがそのまま先生をやってくれるらしいし、フォルテにもそういう知識はあるから今後先生としてやっていくだろうな」
「……フォルテ先生って呼ぶのは何となく全身の遺伝子が拒絶するんだが」
舛崎と後藤が身震いをするのを枡藤は笑う。
「でもお前達、そういう知識とかだったら絶対平和な時代、それこそあいつらが帰る2010年の方がマシだと思うぜ?こっちでいいのか?」
「ああ、紀香さんが子供を産むんだ。その影響で美香子ちゃんもここに残るみたいだし俺も残る。向こうには亜GEARなんてないんだろ?じゃあこっちでいい」
「俺もそうだな。結局行方不明の大川や平井を探さないといけない。あいつらとは終始敵だったが平和になった世界でなら分かり合える可能性だってあるだろうしな」


・学園都市の外れ。小さな教会跡。ジキルに知らされるまではそこがそういう場所だとは知らなかった。だが知った今だからこそシンと愛名はそこに来ていた。二人だけの結婚式を挙げるために。……そのつもりだったのだが。
「何でお前たちまで……」
視線の先にはライ、湊、メイがいた。
「いいだろう?一緒に戦った仲間なんだ」
「餞(はなむけ)くらいさせろ」
「……愛名さん綺麗」
「ありがと、メイちゃん」
「で、聞くまでもないと思うがあっちの世界に行きたい奴はいるか?」
シンの声にこたえるものは誰もいなかった。


・飛空艇。収容していた人達を外に誘導した後、トゥオゥンダ、ジキル、十毛、アルケミー、円華、陛下、キャリオストロがジュースを飲んでいた。
「十毛、お前やっぱりそいつも連れて帰るのか?」
「いけないか?もうこいつは俺の奴隷だ」
「……私多分そう長くはないわよ?絶対他のパラドクスに目をつけられているだろうし」
「んなの零とか騎士に任せておけばいいだろ。……さて、次のメンバーズ対抗戦は何を賭けてやろうか」
「……あんた私を出汁に使うつもりだったわけ?」
当たり前だが全員2010年の世界に帰るつもりだった。


・飛空艇、会議室。もはや会議などはないが達真、火咲、陽翼、歩乃歌、蛍、繁、眞姫、紫音、来音が掃除をしている。
「お前達はどうするつもりなんだ?」
達真が歩乃歌たちに問うた。わずかに視線が火咲も中に入れていた。
「僕達?僕達は元の世界に帰るつもりだよ?だから2010年でも2300年でもないね。帰れるんでしょ?蛍」
「ええ、問題ないわ。でも……」
蛍の視線が火咲に注ぐ。同じように他のメンツも火咲を見た。
「……」
火咲は口を開かない。
「……別に帰ってもいいんだぞ?」
「……一晩だけ考えさせて」
火咲はそれだけ言った。それを見て難しい表情をする歩乃歌は飛空艇内に違和感を感じていた。


・医務室裏にある霊柩室。そこでは傷こそ治されているがまだ心臓が止まったままの黄緑が眠っていた。そこに、
「……」
ヘカテーが姿を見せた。否ヘカテーだけではない。四つ足のダハーカも一緒だ。
「……いいのですね?ヘカテー」
「うん。これが私が望んだ奇跡だから」
言いながらヘカテーは黄緑の傍に寄る。
「……さようなら、黄緑。ずっと一緒だよ……」
その唇に唇を重ねた次の瞬間、霊柩室には黄緑だけが残った。
「……う、ここは……」
そして、黄緑が目を覚ました。


・食堂。大悟、小夜子、八千代、鞠音、潮音、ひばりが集まっていた。
「え、兄さんここに残るんですか!?」
「ああ。どんな事情があれど、この世界は俺が作ってしまった世界なんだ。だったら俺が逃げるわけにはいかない」
「……でも」
「お前達は元の世界に帰ってもいいんだ」
「……大悟……」
「あらあら。長倉先輩ってば急にそんなヒロイックと言うか中二チックと言うかどうしてそんな風に自分を捨ててしまえるようになってしまわれたんでしょうかね?そんなのが流行りだとでも思ってるんですの?矢尻先輩とかからそんな文明を教わってしまったのですか。はぁ、やれやれですわね。私たち攻略ヒロイン全員を見捨てて世界の方が気になるだなんてあなたそんな役割は2とか3の主人公に任せて元々の主人公に戻っては如何ですの?」
「……相変わらずうるさいなこいつ」
チョップ。しかし潮音に防がれる。
「でも先輩。他の人達は皆自分達の世界を優先させています。ヒエン先輩も気軽に世界を選ばない方がいいと言っていました。それでもですか?」
「……ああ。この世界の全ては俺の被害者のようなものだ。だから俺が……」
その時、ひばりのビンタが炸裂した。
「え」
「先輩?何を言ってるんですか?次は頬骨砕きますよ?私のどこが被害者に見えるんですか?確かにみんなひどい生活を送ってきたかもしれません。時代を恨んでいるかもしれません。でも一度として諦めたこともあなたを恨んだこともありません。みんな一所懸命に生きてそして死んでいったんです。いくら加害者だからってそれを侮辱するのはよくないと思います。それに悪いのはスライト・デスなんですから先輩の出る幕じゃありませんよ」
「……けど、」
「兄さん。鈴音お姉ちゃんが矛盾の安寧と道連れにしてでも兄さんを生きながらえさせたのはこんなことのためじゃないんだよ?」
「でも、」
「大悟。あなたが罪の意識でここに残る事なんて誰も望んでいないわ。……一緒に帰りましょ?」
「姉さん……小夜子、鞠音、潮音、ひばり……」
大悟が真っ赤になった頬を抑えながら5人を見る。
「……そうだな。帰るか。鈴音が眠るあの世界に」


・剣を振るう剣人、剣一、李狼。隣で火をふかす火乃吉。すると、ムラマサとキングが並んでやってきた。
「兄さん、それにキング。どうしたんだ?」
「ああ、カードを使って2300年の世界とやらを見て来た」
「以前までのセントラルの勢力では随分管理が大変そうなことが分かった」
「それで、俺達は何を?」
「率直に言う。死んだテンペスターズの代わりにセントラルに入らないか?政治とか管理とかの分野は俺やゼストが教える」
キングの発言は剣人達が想像もしていなかったものだった。少し前だったなら考える余地もなくこの場で切り捨てただろう。だが、
「たまにあんたと手合わせ願えるのなら」
「……喜んで受けて立とう」
キングは笑顔で答えた。
「あと、剣人。紹介したい人がいる」
「は?」
そうして咳払いのムラマサに応じてやってきたのは花嫁姿のヴァルピュイアだった。


・迷う火咲は廊下でライラ、ユイムと出会った。
「ライランド、ユイム」
「火咲さん、どうかなされたんですか?」
「浮かない顔してるよ?」
「……あんた達はどうするのよ。あんた達も2010年とも2300年とも違う世界から来たじゃない。でも原因不明だから帰れないんじゃないの?」
「いえ、パラディンさんが手配してくれるそうです。それでみんなで山TO氏に帰るつもりです」
「……火咲ちゃんはどうするの?ヒエンさんのところに帰るの?それとも歩乃歌ちゃんのところに帰る?」
「……まだ分からないわよ。どっちも私の居場所だったんだもの」
「じゃあ選ぶ必要なんてないんじゃないですか?」
「え?」
「運よく歩乃歌さん達はある程度自由に時空移動できる世界にいるわけですし2300年にいても2010年にいても連絡さえ取れれば……」
「……ライランド、あんたナイスじゃない」
火咲はライラの手を握った。ライラは瞬間ものっそい冷や汗をかいた。


・学園都市からやや離れた場所。そこに旅支度のアコロとエンジュがいた。
「エンジュ、どうかしたの?」
「アコロ、本当に挨拶もなしに旅に出るつもりなの?」
「うん。別にあたしそこまで関係あったわけじゃないしね。それともエンジュは2010年の世界に行きたい?」
「うん」
「え、まじで?」
「うん。分かったんだよ、わかってたんだよ私。無責任なまま終わらせたくないって。逃げてばかしじゃダメだって。だから私はもう一度三千院世界をやり直そうと思うの」
「……エンジュがそういうなら仕方ないか。あたしも春洗白亜をやり直すとしますかね」
「いいの!?」
「だってあたしとエンジュはずっと一緒だよ?」
「アコロ……!!」


・そして旅立ちの朝。最後の全員そろっての朝食。
「最後だ!大食い競争で行くぞ!!」
「おう!!」
繁の発案で達真、大、大悟、ライ、湊、舛崎、後藤が一斉に食卓に噛みついた。
「みんな、ボクッ娘は永遠に健在だよ?」
歩乃歌による謎の宗教にユイム、ライラ、シリアル、アルデバラン、潮音、陽翼が集まる。
「じゃあな、レイラ」
「そっちこそお元気で」
レイラと果名が握手をする。
「では、お姉さま」
「ええ、パラレルフォンの電波はいつでもつながってるから」
火咲と蛍は同じ部屋から出て来る。そして正面。何か話している赤羽と切名と合流した。
「正直嫉妬しちゃうわ」
「え?」
「赤羽美咲でも最上火咲でもない生き方が出来るあんたがうらやましいって言ってるのよ」
「……そんなの関係ないわよ。私は黒主切名で黒主美咲。あなたは最上火咲で、あなたが赤羽美咲。来世や前世がどうあれ今に関係はないわ

「……案外そんなものかもね。2号機、行くわよ」
「……ですから私は赤羽美咲です」
言いながら赤羽は火咲の後についていった。いつの間にかリッツやシフルとも合流していた。
「よし、みんな準備は出来たな?」
ヒエンの合図。
ヒエンの傍には赤羽、久遠、大悟、小夜子、八千代、鞠音、潮音、ひばり、黄緑、紫音、来音、達真、火咲、陽翼、リッツ、シフル、トゥオゥンダ、ジキル、キャリオストロ、円華、陛下、智恵理、まほろ、ルーナ、ルネ、十毛、アルケミー、爛、月仁、アコロ、エンジュ。
果名の傍には切名、借名、シン、愛名、ライ、湊、メイ、舛崎、美香子、後藤、郁美、枡藤、灯、桜子、燦飛、紅葉、詩吹、校長、剣人、剣一、李狼、火乃吉、ムラマサ、キング、ゼスト。
歩乃歌の傍には蛍、眞姫、繁。
ライラの傍にはユイム、ティラ、ラモン、シュトラ、ケーラ、ミネルヴァ、ラットン、民子、キリエ、パラディン、レイラ、アルデバラン、升子、シリアル。
「……歩乃歌ちゃん、助けになったぜ。色々とごめんな」
「もういいよ、廉君。またいつでも遊びに行くから。火咲の様子も見に行きたいし」
「ヒエンさん、僕もたまには遊びに行きます」
「おう。まだライラちゃんの私物は部屋に残したままだからいつでもいいぜ」
「あ、あれ教育上よくないので出来れば隠しておいてもらえたらなぁ~っと」
「いいぜ。シリーズ買いだめしておいてやる」
「父さん」
「おう、正輝……いや果名。多分お前とは二度と会わないだろうな」
「ああ。だけど俺は父さんたちの未来で待っている。だから、がんばれよ、ヒエン」
「おうともさ、果名!」
4人が最後に握手を重ね、
「さあ、ナイトスパークスとジ・アース名のもとに!!」
ヒエンが発動した力と、飛空艇の時空エンジンと、パラディンの転移カードによって4者はそれぞれの世界へと旅立った。


・時空を超える光を3つ見た。
「……行ったようですね」
和佐が彼方からそれを見る。
「……あなたはどうするんですか?」
振り返る。そこにはパープルブライドがいた。
「……追いかける」
「……ですよね、やっぱり」
そう言って二人もまた時空を超えた。


・2か月が経った。
「お?」
大学帰りの果名と切名。二人の前に別の二人が突然飛来した。
「お久しぶりです。正輝さん、いいえ果名さん」
「……きたぞ、切名」
結羽と雷歌がやってきた。
「お前達が来たってことは……」
「はい。私達が今度こそ一人前の天使になるためにまたお二人とご一緒させてください」
「よろしくな、果名、切名」
「……へっ、おうともさ!」
こうして果名と切名は二人の天使と共に新たな黒主家へと帰っていった。

------------------------- 第182部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
設定資料集10

【本文】
<第2部までに明かされた伏線一覧>
・1章以来行方不明となっていた三船機関の3号機→スライト・デスに改造されセントラルの支配者である白夜一真として再登場。
・ルネの母親→甲斐廉/黒主零の妹である甲斐和佐
・ルーナの正体→黒主火楯によって生み出された人造天使第1号。ただし失敗作。本名は瑠那。
・Sforza学園における亜GEAR、エターナルFの変身能力、紫音に邪眼を与えたのはフラワルド。ちなみにSforzaに関しては原作でも同じ。ただしSforza最終作が構想だけの状態で未執筆。エターナルFでのフラワルドの正体は別にいる。本作で出て来るかは不明。
・ヘカテーの正体→原作と同じだが原作と同じ結末を迎えなかったが為にフラワルドとして扱われることになる。
・ダハーカでもありパラドクスもである夏目群青の過去→地球黎明期にアジ・ダハーカに会い、その在り方などに感服してゾロアスター教を伝えるべくダハーカとして地球に残り続けた。ヘカテーとも旧知の仲。ちなみに原作ではパラドクスではないため過去も違う。
・噂の双子の父親がアルデバラン星人であり元女性。本来なら双子には均等にその血が流れるはずだったが潮音に集中した。潮音が5章以来発情して鞠音を襲っているのは自分に流れるアルデバランのDNAを鞠音に流そうと言う本能故。
・作中のPAMTで姫火のみライクーザに統合されなかったのは姫火のみ三船機関で製造され、ソースが他PAMTと異なるため。ちなみにPAMTとして完成されていないが殿火も三船製品のためもしその場にあったとしても統合はされていない。逆にその場にいたら二百連はもちろん千代煌も統合は可能だった。
・スライト・デスが地球を襲撃した理由はラァールシャッハが語っている通り、パラドクスや調停者達も注目する羽の遺伝子を求めていたから。その羽の遺伝子をラァールシャッハが量産したりなんだりしている。代表格は言うまでもなく赤羽美咲。そして最上火咲。なおどうしてその遺伝子が特殊なのかはまだ未回収。ちなみに赤羽美咲及び黒主美咲には子宮が存在しない。
などなど


<新規登場人物一覧>
キルデバラン
年齢:1000歳以上
身長:209センチ
体重:98キロ
所属:スライト・デス
GEAR:侵攻
世界階級:本人だけなら3、プラネット合わせてだと2
出展:心愛戦隊エターナルF
スライト・デスの首領であり、その母星であるキルデバラン星のザ・プラネット。
プラネットのため星の中ではやりたい放題できる。母星が移動可能なためそれを最大限生かしてこれまでの間宇宙海賊を行なってきた。
完全に防衛に徹した場合、騎士クラスでも突入は困難を極めるため、その実力とは裏腹に全宇宙で危険視されている。
ゴースト同様エクトプラズマーが使用可能であり、生身での戦闘力もかなり高いのだが実はプラネットの力なしで戦った場合ゴーストの方が強い。と言うかゴーストの方がはるかに年上だし。プラネットであるが故不老不死に近い存在のためあまり年齢は意識していない。
元々は惑星アルデバランの双子星であるキルデバラン星の住人だったがプラネットに選ばれたことで惑星キルデバランを完全に支配、スライト・デスを結成して宇宙での暴挙を開始した。プラネットは自分の星から出ることが出来ないため本来侵略には向かないのだが母星が移動可能だったために起きた特例である。
原作ではプラネットと言う設定は出て来ないが惑星そのものを自由に扱えるうえキルがエクトプラズマーを用いて惑星そのものを自由自在に操れると言う状態であまり今作と変わっていない。

邪神アジ・ダハーカ
年齢:数えきれない太古より此方まで死に残り続けている
身長:600万キロメートルくらい
体重:2000億トン以上
所属:神
GEAR:邪神アジ・ダハーカ
世界階級:1、ただし劇中では2寄りの1
出展:X-GEAR
ゾロアスター教で祭られている邪神……の使い魔。本来の邪神はアンラマンユだが……。
ダハーカと言う種族を生み出した創造主。紛れもない神格であり本物だった場合十三騎士団でも歯が立たない。とは言えすでに太陽神アフラ・マズダによって成敗されているため死に残った神を完全に復活させられる存在はそうそういないのでそういう事態にはならない。
今作ではジ・アースの能力を用いたアドバンスによって仮の肉体に宿った不完全体として登場。その時点でも十三騎士団総出でかかってギリギリ倒せるレベル。
ちなみに関係しているエターナルF、世界は奇跡(あのこ)を残さない、Sforzaでは本人は登場しないため本人の登場は今作が初となる。
GEARはやはり自身を保つためのものだがこれが神にも適応されていると言うところがポイント。


アドバンス・M・黒ニ狂
年齢:1000歳以上2000年未満
身長:2500メートル
体重:2000万トン
所属:なし
GEAR:進化
世界階級:3
出展:霹靂のPAMT
UMX0号にして黒主零の孫にしてライランド・円cryンの祖先。長きにわたる第二部のラスボス。
元々今作のプロット版ではこいつがラスボスの予定だった。ただし設定などは別で、進化のGEARを持つしアドバンスって名前だけど別人。
第二部の黒幕ではあるが元凶ではない。黒主零の長女である甲斐怜悧の息子。故に天使でもある。それによりかなりの遠縁ながらライラにも天使やヒエンの血が流れていることになる。……アルデバランの血で上書きされているだろうけども。
第2部最初の構想では8章くらいで登場してヒエン再登場の際に軽く戦闘になり、そのままライクーザによって宇宙に運ばれて一時期死亡後復活してラスボスと言う流れだった。3号機との戦いで熱中しすぎたんだ……。
GEARは進化。当初はただ天使の血が混ざっているだけの人間だったがこのGEARのためにどこまでもけた外れに進化していき、親どころか自分の子供や孫までもが老衰で死んでいった後も成長期すら終わらずに人外に進化していった。そのためにオンリーGEARではないにもかかわらず他の進化のGEARの持ち主を淘汰していき、現状数少ない生き残りの進化のGEARとなっている。その進化具合は凄まじく、十三騎士団やパラドクス、調停者にもマークされている。特に調停者からは<成長>を司るディオガルギンディオのギルドバンハグタリアにいずれ匹敵するのではないかと目されている。そのため本編では地球を台無しにしたために粛清されるのではないかと言われていたが実際にはブフラエンハンスフィアに続きディオガルギンディオ候補にまで上り詰めたその存在を讃えて粛清まではしないと思われる。ちなみにパラレルメフィストの時代には既に倒されている設定のためパラレルメフィスト及びそしてカメは覇者になったの時代には存在しない。
どこまでも進化していき自分が属する文明は1つ残らず滅亡してしまったために常に孤独。それを嘆いて希望ある死を求めていた。
プロット版での設定どおりに果名が天敵。まあ、そもそもプロット版が「進化のGEARを持ったこいつを果たしちゃった為に世界から進化の概念が消えてこの先人類は進化のない世界を歩んでいくことになる」と言うエンディングを最初に想定したうえで書き始めたために当然と言えば当然だが。

甲斐(かい)怜悧(れいり)
年齢:西暦2012年生まれ。享年51歳。
身長:157センチ
体重:40キロ
3サイズ:81・64・80(C)
所属:天使界
GEAR:天使
出展:紅蓮の閃光(スピードスター)
甲斐廉が黒主零となる前に生まれた娘。長女。天使の祖となった少女。母は幼いころに亡くなっているためあまり記憶にない。アドバンスの母。正輝(果名)の4つ年上でルネの7つ年上。
甲斐廉と甲斐三咲の間に生まれた娘でまだ甲斐廉が人間離れしていない頃の奇跡。
火楯によってそのGEARを使われ天使と言う種族を生み出されることになった。
ちなみに正輝とは15年ほど一緒だったがルネに関しては1,2年程度しか一緒にいなかった。
天使界で生まれたため天死と言う種族第一号でもある。だが……。
アドバンス含め多くの子供を産んだが天使界の特異な環境からか51歳で天寿を迎えることになる。
167話で登場した際にはアドバンスを生んだ20代前半くらいの外見年齢。
紅蓮の閃光(スピードスター)原作時点で既に母体にいる。つまり今作に繋がるあの世界の場合は紅蓮の閃光(スピードスター)最終話からさして日数が経っていない頃にブランチによる地球文明のリセットが起きたことになる。その際に初代の赤羽美咲や久遠は死亡しているため彼女達との面識はない。
ちなみに母親は2歳の頃に死亡、父親は零のGEARの効果により100年後までコールドスリープ、正輝は16歳になると火楯によって西暦2008年の世界に転移、ルネはパラディンによって封印されるため一人だけ取り残されたまま生涯を終えた。

<Potable Armerd Machinical Troopers>
ライクーザ
全高:40メートル
重量:3万5000トン
動力:ジ・アース、PAMTのGEAR
出力:5000万キロワット~測定不能
<武装>
対近接戦闘用機関銃
万雷
銃剣
万雷ベイオネット
<機体概要>
蛍と火咲が最終作戦用に、姫火と歩乃歌が有する者を除いたすべてのPAMTをかき集めて統合し、製作した最強クラスの性能を持ったPAMT。本来は蛍と火咲が乗って戦うためにその性能は単純ながら凄まじい、しかしリアル系と言った程度だったが途中からヒエンがこの機体に乗っている間だけでもナイトスパークスの力を取り戻せるなら取り戻してその力を最大限生かせるようにと言うコンセプトで製作された。当たり前だがヒエン専用機。
姫火を背中に装備した状態をフレイムライクーザと呼ぶ。
本来は統夜一緋が名前だったが後のためにライクーザと言う名前に変更した。統夜一緋は必殺技の名前に。
また、8章構想時には別の地球であっても本来ヒエンが担当しているものとは別の地球のためそのままではジ・アースであるヒエンは転移不可能、そのためこの機体にのみプラネットの素質を残して時空転移をすることで地球外でも使用可能と言う設定でヒエン再登場時には既にこの機体に乗っていた構想だったがそれだと機体の外に出られない&ヒエンとは関係ないPAMTの技術を使っているのは妙&流石に格下の3号機相手にこの機体を用いて戦うのもおかしい、のため没に。


千代煌
全高 14メートル
全長 2メートル
全幅 3メートル
重量 通常:4トン
動力:電気(重力発電)&「PAMT」のGEAR
出力:10万メガワット(通常)、100万ギガワット(最大瞬間)
速度(時速)人型:マッハ20 戦闘機型:マッハ85
最大稼働時間 機能最大時:15分間 平常時:2時間 無機能行動時:無限
最高跳躍高度:地上1000メートル
最高歩行/走行速度(時速):800キロ
<武装>
機銃
ミサイル
ビーム指
終億の霹靂
<概要>最果ての扉の先で待つものから受け取った歩乃歌専用の最強PAMT。ただしフォノメデスやらライクーザやら同格以上の存在が出ているため本作ではあまり最強と言うイメージががががが。機体性能よりも最高火力を求められる場面が多いから仕方がない。
実は第2部の世界には最果ての扉の先で待つものが関与していないため本来の性能を出せていない。ただその分終億の霹靂の火力で補っているためやはり……。

<既存人物変遷点>
ヒエン:絶望の淵に落とされながらも舞い上がってきた主人公。十字架の中心点。ここから彼の最後の終焉が始まる。
赤羽:以前よりやや出番多め?それでも火咲に奪われがち。
久遠:第二部での冒険は久遠を間違いなく成長させたでしょう。そして天才少女は……。
エターナルF:原作での宿敵が色々飛び火している中ちゃんと決着をつけられた。第三部には登場しない予定。
アカハライダーズ:版権の都合上原作での敵が出て来なかったし中盤出番が一切なかったが無事最強フォームとヴラドフォームが登場しました!
歩乃歌:出番は多いが目立った活躍は……。ただし第三部にも登場は決定している。ご期待をば!
紫音:5章の設定資料集で匂わせていたように本来なら第二部で原作同様に死ぬ予定だったのだがそれより早く黄緑が死んでしまったため無事生存。そしていまだに処女。彼女は夏目ではなくまだ鈴城紫音なのだ。

<ナイトメアカードメンバーの原作との差異>
剣人:奥義皆伝ならず。ただしキングを殺さずに済んだ。
剣一:闇落ちせずに済んだ。
李狼:原作よりかなり早いタイミングで仲間入りを果たす。
ムラマサ:まさかの結婚。
キング:改心して生き残る。セントラルの管理者に。


<第三部への課題>
・GEARの存在、流布原因
・パープルブライドの正体
・悪魔とは
・32柱目のパラドクス

To be continued……
X-GEAR第三部「新世界編」へ」