J2第2節 【いわきvs岡山 1-1】 レビュー
どうも、ゼロファジです。
「運がなかった」「自分たちが難しくしたゲーム」
開幕戦の快勝に続いてアウェイいわき戦へと臨んだこの試合でしたが、結果的には1-1のドロー。しかも、終了間際のラストプレーで同点にされてしまうという非常にモヤモヤ感の残るゲームとなりました。
去年延々と繰り返された「先制しても逃げ切れない」パターン。それがまた繰り広げられてしまったか、ということで試合後のXも若干の荒れ模様に。ネガポジ戦争がいたるところで発生し、良くも悪くも「ああ、シーズンが始まったなあ」という。
まあ、サッカーの試合は強めのお酒といっしょですからね。90分飲んで酔っ払ってるのとあんまりかわらないので、試合後は多かれ少なかれみんな気持ちが熱くなりすぎていますから。そこに「ああしろこうしろ」と言っても誰も耳を貸したくないでしょう。強めの酒を飲んだ後ほど、酔いさましが必要なのかもなと思います。
ということで、ATにいわきに刺されるまで死のカウントダウンを待つようにもう一度試合を見直してみました。
結論から言うと2つありまして、まずひとつは運がなかったなぁということ。そして、このゲームを難しくしたのは自分たちだったなということ。この2点だったかなと思います。
スタメン
勝ってるときは変えるなの格言もありますが、岡山は前節の快勝を受けてスタメンはそのまま。一方いわきはシャドーに西川を起用。ここがちょっとしたポイントになっていました。両チームとも3421のフォーメーションを採用するチームなので、このゲームはミラーゲームとなりましたね。
ミラーゲームとはこのように「誰が誰とマッチアップするか?」がはっきりするゲームになるのが特徴です。ちなみに、3421同士、442同士ではこのようになりやすいですね。
ゲームの流れ
前半は風上でスタートしたファジアーノ岡山ですが、序盤から前半終了までコンスタントにチャンスを積み上げることができていました。決定機もちょっとひいき目でカウントすると前半だけで7つあったかなぁと。結局その内最後のCKで田上が背中で押し込んだのがゴールになり先制。
後半は風下となりましたが、55分あたりから風の勢いがかなり強まって風下で戦うには非常に厳しい状況になります。しかも、いわきのGKからのロングフィードが風にのって伸び、抜け出そうとしたいわきの加瀬を田上が倒してしまい一発レッド。岡山は10人でのこり30分、強風のなか向かい風で戦わないといけなくなります。退場者が出たので531でセットして丹念に跳ね返していきましたが、ATにFKから押し込まれ1-1で終了と、まあキツイ試合でしたね。
運がなかった
試合を見直してみて一番に思うのがちょっとツキがこちらに向いていなかったなということでした。というのも、後半風が強まってしまって最も不利益を被る時間を岡山が迎えてしまったんですよね。前半いわきも向かい風だったんですが、きれいなロングフィードをCBから右WBへ通すシーンもあったように、蹴れないことはない範疇だったんですよ。ところが、後半はペナルティエリア近くからロングフィードを蹴ったらハーフウェイラインすら越えないような状況で、めっちゃ押し戻されると。これではいかにグレイソンが対人圧勝しまくっているとはいえ、そもそも落下地点に入るのも難しい。さらに、田上の退場は風に乗ったボールの伸びが読みづらかったためですし、そういう意味ではほんと運がなかった。
そしていわきの同点ゴールですが、あれは多分オフサイドだと思います。ところがここはVARのないJ2ですし、さらにあれだけ密集しているとレフェリーが視認するのは難しかったことでしょう。そういう意味でも運がなかった。まあ、これはしゃーない。
田上の退場後の粘りといわきのとまどい
田上が退場し木村太哉を下げ、柳(育)を投入し、531で構えることになりました。もともと強烈な風下で攻めにくい上に、一人少ないということで岡山は基本耐えるしかないかなという状況になっていきます。浮き球をキャッチしに行ったブローダーセンが、風に乗ってボールがのびてくるので慌ててはじき出したシーンもありましたが、浮き球の処理はとても神経を使う作業だったかなと思います。そういう意味では、一人少ない中30分近く耐えきった守備のねばり強さは非常によかったですね。特に、寄せる、体を投げ出すといった泥臭い守備をいとわないで継続していてそこが去年のどこか淡泊だった守備とはかなり変わってきているなと思います。
一方、いわきのほうは一人多い状況なのでもっと攻撃に迫力が出て来るか?と思いましたが、案外単調な攻めに終始してしまった印象が強かった。というのも、岡山が基本リトリートしてセットしてくるのでスペースがあまりない。岡山のブロックの外を回してはサイドからクロスをあげていくという形が多く、岡山としては整った守備で跳ね返すことができていたので大筋で守備は安定していたと思います。後半も正直そこまで決定機らしい決定機は多くなかったですし。
「とるべきときにとれない」が続く2試合
運がなかった、だったら仕方ないよねって言っていたらいつまで経っても勝ち続けられるチームにはならないでしょう。そこで、矢印を自分たちに向けてみるとやっぱり思い至るのがチャンスを逃しすぎた、ということです。
結果論ではありますが、この試合の岡山は後半かなり劣勢に立たされてしまいました。退場はもとより、風下の影響が強すぎてチャンスを作るのが難しかった。そういう未来を予測して動くのは難しいですが、90分トータルで考えるとやはり前半のチャンスの山を外しまくってしまったことが尾を引いたゲームだったということになるかなと思います。なんせ7つも決定機があって、1点ですからね。チャンスを作れていること自体は素晴らしいですが、それで1点というのはちょっともったいなさすぎた。
前節の栃木戦も同じような展開で決定機が4つか5つか前半にありました。それでなんとか1点リードでしたからね。2試合続けていい形を作れているが、複数得点に結びつけられていないというのは大きな課題と考えておいたほうがいいのかなと思います。
試合後自分もガッカリしすぎて冷静さを若干失っていましたが、やっぱりこういう難しいゲームをモノにして、「キツかったけどなんとかなったね」って体験を積み上げていく必要があるんだろうなと思うんですよね。そうなるためにも、やはり勝負所で仕留めるところは仕留める。悔しいですが去年の町田はそういうところを逃さないチームだったと思います。なので、まだまだ足りない。そういうディテールを詰めていってもっとスキのないチームになる必要があるんじゃないかな?というのが正直なところです。
特に、この試合3つのビッグチャンスを仕留められなかった岩渕弘人は相当に悔しかったはずです。彼が2つ決めることができていれば、仮に後半退場者が出て風下であったとしてももう少し楽にゲームをすすめられたことでしょう。もちろん、だからといって彼が悪いとか戦犯扱いするつもりは毛頭ないですが、ここで刻み込まれた悔しさを次どこでゴールに結び付けてくれるか?を楽しみにしたいと思います。次節はシャドーの人選どうなるでしょうね?他の選手も「俺だったら!」って思っているでしょうし。黙っていないでしょう。岩渕含め競争の激化を期待したいところです。
いわきはどんなサッカー?
今年岡山は元いわきの村主コーチを招聘しています。他の岡山のレビュワーさんが指摘してくれてわかったんですが、今年の岡山はいわき的な要素を積極的に取り入れています。まあ、ざっくり言えば同キャラ対戦的要素があったゲームだったと言ってもいいのかなと。
じゃあそのいわきはどういうサッカーをしてきたのか?についてお話してみたいと思います。まず、フォーメーションは3421で前から積極的にプレスに来ます。そして、奪ってからのカウンターを軸としたチームでそこの人数のかけ方が特徴的かなと。また、自分たちのボールのときには後方からショートパスをつなぐ路線も模索しているようです。この試合のキーマンは右のシャドーの西川、そしてとびぬけたスピードをもつ右WBの加瀬です。
この試合の解説を務めていた南雄太さんも指摘していたシーンをやわらかフットボールでふりかえってみましょう。
つなぐいわきとハメる岡山の見ごたえある攻防
いわきが後方からボールをつないで運んでいくのに対して、岡山は前プレで迎撃しに行きます。先ほど触れたようにこのゲームはミラーゲームなので、誰が誰をマークするかはっきりしやすい試合になっていました。
いわきはボールを持つと、まず右WBの加瀬が高い位置を取ります。そして、そこに右シャドーの西川が落ちてくる。さらにはボランチの山下が少し前に出てボランチがタテ関係になっていました。ちなみに、解説の南雄太さんが指摘していた「岡山の523の2の横」というスペースは、田部井とタッチラインの間のスペースですね。そこに西川が下りてくるという狙いです。
で、西川が降りてこずに前線に留まっていればそのまま鈴木喜丈がマークすればいい話なんですが、このように低い位置まで下りていくと誰が西川をケアすればいいのか?難しいことになってきます。このようにポジションをズラすことで、岡山の守備を混乱させて後手を踏ませたいというのがいわきの狙いでしょう。いわきとしてはここで”浮いている”西川にボールを預けて、前を向かせて運んでいきたい。
こういうポジションのズラしって対応するのに若干時間がかかるんですが、岡山が素晴らしかったのはそこが実にスムーズだったことです。ではどういう風に対応したのか?というと、
このように、左WBの末吉を一個前まで張り出してそのまま西川をつかませます。そうすると、後方で鈴木喜丈vs加瀬、中央でも2vs2になり数的同数になりますが、ここで西川を捕まえてしまうことで迎撃してしまおう!という対応に出ました。これにより、右サイドで西川が解放される機会が減りいわきの狙いをくじくことができていました。おそらくは、西川ー加瀬のラインで、テクニック、スピードで優位に立ち、運んでいきたいというのが目論見だったんじゃないかな?と思いますが、ここの岡山の対応がめちゃくちゃスムーズだったのですごくよかった。正直びっくりしました。もっと混乱してもいいはずだったのに。プレッシングの洗練という意味でもこうした混乱しそうな状況を整理して対応するというのは極めて重要なので、今後にも期待できる大きなポイントでした。
12:30あたりから一回だけ入れ替わられてしまって運ばれてしまうシーンがあるんですが、それ以外の対応は問題なかったと思います。もしかしたら、いわきのスタメンを見て「こうやってくるんじゃないか?」と監督、コーチの予想があったのかもしれないですね。
こうして西川ー加瀬問題には上々の回答を提示して見せた木山ファジですが、逆サイドではちょっと今後を考えるうえで上げていきたい課題も見つかります。
いわきがボールを持ち、そこに岡山が前プレをかけていく。いわきはGKへのバックパスを使って左CB生駒へと展開したシーンです。試合時間は9:40。ここから左の生駒→嵯峨とボールが渡ります。
展開が左サイドに移ったので、ボランチの田部井はマークしていた鏑木をリリースします。9:44では明らかにグレイソンか岩渕に「ボランチの鏑木を頼むね」とジェスチャーを送っていることが確認できます。ところが、前線の選手たちは鏑木を自由にしてしまいます。するとどうなるか?
そうするとこのエリアで鏑木が前向きになってボールを受けるチャンスを作れる。まあ、このシーンはパスが短くて左CBの生駒とかぶってしまい有効な攻撃にはなりませんでしたが、岡山とすると前プレに行ってはがされてしまっています。これではボールを奪うどころか相手の前進をストップさせることができない。ここもうまく対応する必要があったんですが、前半の終わりごろにはシャドーとグレイソンで相手のボランチをつかむことができるようになっていて、ここの守備の修正もお見事だったなと思います。岡山が前プレに出る以上、そして相手が繋いでくる以上は、このように味方とうまくマークを受け渡してもれなくスキなく相手を追い詰める守備をしていきたいですね。
そして、もう一点やわらかフットボールスタイルでチェックしておきたいのが、前半43分の岩渕の決定機にいたるシーンです。このシーンはこの試合のテーマ、お互いの特徴が実によく出たシーンだったかなと思います。
左サイドでボール争いが発生します。いわきの特徴は、マイボールにできる時間ができそうだな!と見るやグワーッと選手が上がっていきカウンターに入るところです。このようにボール周辺に味方を増やし、わちゃわちゃするゾーンで球際争いに勝つ。
もし、誰かが密集から前向きになれれば、違うエリアでは誰かが走ってますからそこにボールを逃がしてカウンターに入ると。このようなサッカーをやってきます。これをやらせないためには、まずもって密集で負けない。マイボールにしてこちらが前に行く必要があります。
ところが密集を制したのは岡山。末吉がタッチライン際で前向きにボールを保持します。こうなると困るのはいわきです。なぜなら、
いわきは攻めあがるために選手を前に送っていますし、密集エリアに人を集めているので後方にたくさんスペースが空いています。岡山がボールを前に運ぶと、いわばカウンターのカウンターの形になり非常に危険です。
密集から岡山ボールになる瞬間から田部井が空いているスペースに侵入。そこに末吉からボールが出て大きなチャンスに。ここの田部井の切り替えの早さ、反応の良さがマジでいいですね。
田部井は冷静に中を見て岩渕にパスを通すと。ここでのファーストタッチもうまく収まって、あとは決めるだけ!というシーンでしたが残念ながら岩渕のシュートははじかれてしまった。惜しい!というシーンでした。
このように、いわきはマイボールになると一斉に前に上がろうとしていきます。あるいは密集で人数をかけてボールを握ろうとしてくる。ここで負けていては、先ほどのようにカウンターに入られてしまいます。したがって、こうして局面で負けてはならない。こちらが勝つと、このようにカウンターのカウンターに入ることができてビッグチャンスにつなげることができるというわけですね。切るか切られるか?というリスクとリターンの隣り合わせの展開ですが、密集での勝敗がカギだった。そこを見事に制したよね!ってシーンでした。
この試合に出場した選手の印象について
GK:ブローダーセン
かなり難しい試合になりましたが、そこまでダーセンがビッグセーブを披露しそうな展開はなかったかなと思います。一点気になったのが、前半岡山のバックパスを田上につないで奪われそうになったシーン。去年、山田大樹と輪笠のやりとりで甲府戦でやられましたけどあれに近い形が出ていたので、そのあたりは経過を見たいなというところですね。そこは別記事で書こうと思います。
CB:田上
この試合では得点を挙げ、なおかつ退場もし、と大変な試合になりましたが物足りないと思う点は少なかった印象です。退場のシーンは・・・まあちょっと難しかったかな。こちらからは「ああすればいいのに」とかいろいろ言えますけど、風でロングボールが伸び、なおかつスピード自慢の選手と並走ですからね。風がなければああいう窮屈な対応にはならなかったでしょう。一発レッドなので次の試合出られませんがこれはチャンスです。田上の座を脅かす選手が頭角を現す機会ととらえて楽しみにしたい。
CB:阿部
海大はほんとにたくましくなったなというところで。特にボックス内での体を張るところ、井上黎生人を思い出させるような頼もしさは純粋にうれしいですよ。この試合では1本決定機があったので、うまく沈めたいところでしたね。CKからの得点とかもありそうなので、今後に期待です。
MF:田部井
この試合のMOMを選ぶとしたら田部井で決まりかな!という印象でした。いやもう、ほんとに判断の早さと、キックの正確性がすばらしい!たとえば、6:03のサイドチェンジ。14:05のタテパスとかうまい!って感じだし。38:05の木村太哉に出したトリッキーなスルーパスも動き出しと合っているし、非常にチームを動かしているな!という印象を受けます。さきほどのアシストになりかけた動き出しも良かったし、欠かせない選手になりつつあるなと。はやく次の試合で田部井をみたいぜ、という気持ちになっておりますよ。
FW:グレイソン
この栃木戦、いわき戦を通じて誰もとめられないな・・・というのが率直な感想です。すごくすごくいい選手が岡山に来てくれたなと。まず、空中戦勝率がとても高い。彼は多分落下地点の予測が早くて、早めにジャンプできるタイプでしょうね。競り合いのシーンとか見ても、ほとんど先に飛んでる。長身選手なので先に飛ばれると相手は思ったようなジャンプをさせてもらえないんじゃないでしょうか。
そして、スローインのように相手を背負うプレーでの安定感は一体なんなんだ。まったく動じない。壁を作って、相手に関与させずに自分はボールを触れる。そういうプレーが凄く上手い。また周囲の味方の位置を常に把握しているので、フリックも的確と。これはちょっとすごいぞ。いわきのCBはほとんど問題になってなかったと思います。グレイソンを夏を越えて保有できるかどうか?はひとつ焦点になりそうですよマジで。
いわきの右シャドー:西川
この試合のキーマンとなっていた西川潤選手、非常にいい選手でしたね。高いテクニックを持っていてなおかつ彼はクレバーな選手だなと思いました。たぶん俯瞰的に局面を読む力があって、次を予測して動くのが上手いなと。
U-22代表で高校生の頃から期待されつつもなかなかという感じでしたか。いわきはフィジカルに優れた選手が多く、最後の仕上げの段階で彼のように一味違ったアクセントを作れる選手が融合してくるとなかなかやっかいだなと思います。今季はプロ五年目でJ2でのシーズンということで覚悟を決めて迎えていることでしょうね。
いわきの右WB:加瀬
この試合のもう一人のキーマン右WB加瀬選手。やはりちょっととびぬけたスピードの持ち主だなと感じました。この試合でもアクシデンタルな要素はあったとはいえ、田上を退場に追い込みましたし、あの武器は強力なオプションをチームにもたらしているなと思います。グレイソンみたいな力も凶器ですけど、やっぱりスピードも凶器ですよ。対戦するWBやCBは相当に嫌だろうなと思います。なんか田中達也選手(現福岡)が出てきた時を彷彿とさせますね。
また去年の繰り返しか!という気持ちは普通に理解できる感情だと思いますし、自分もそういう気持ちがないわけではないです。しかし、明らかに去年よりはいいチームになってるのは間違いないです。ここからどこまで強いチーム、勝てるチームになっていくか?楽しみにしたいですね。
こんな風にサッカーを言葉にできるとすごく楽しくなってきます。そのために必要なベーシックな知識を、YouTubeのメンバーシップでやっているサッカー観戦入門講座『やわらかフットボール』でお伝えしています。
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