スタッカートで 血しぶき
彼女はちょうど木陰になった所
にボートをつけて三省堂の紙カバー
のついた本を読んでいた
昼過ぎに本を閉じるとボートの上に
手でつまめる食べ物とステンレス
ボトルを並べて食事を始めた
かなりの時間ボート上で飲食を
愉しんだ後 彼女はふたたび本を読み
はじめ ボートは木陰からとうに
離れた沖の方へと流れていた
水上で彼女とすれ違ったとき
アルコール原液のようなにおいが
漂い顔全体が唇の色になっていた
フルートを吹いているうちに彼女
は鼻血を出し始めテヌートのところで
ぼたぼたと垂れ始めスタッカートで
血しぶきとなり吹き終わるか
終わらないところで頭からごとっ
と倒れた
血をタンポがすって元に戻らない
キーが小指の方まで来ていたので
誰もが命がけの演奏だったと
勘違いした
という思い出を妻が語った
ネットオークションで活字の鉛が
売りに出されていた 溶かして
魚釣りの錘にするらしい 活字は
深く海に沈められ釣魚を待つ
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