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幼命

幼命


幼くして命を失う子供の不運と、ただ単に不運と仕切ってのけておくには余りに重く、とはいえ不可避の事象として、日々どこかで幼命が失われ、取り戻されることもかなわずに、出来ると言えばかつてあった幼い命を静かに偲ぶことだけなのだが、とても長い時間を過ぎ、やがて記憶は延べられて、薄く透ける布のような思いとなって、そのときに初めて記憶は、ふわり、と柔らかく折り畳まれて、なにもない広い部屋に改めて秩序を持たずに留め置かれ、そこに足を踏み入れたときに、それらの薄い布のまとまりがかつて確実に存在した幼くして失われた命だと認識をあらたにした上で、そっと腰を下ろしたり時にはひざまづきながら、横からその薄布に軽く息を吹きかけるなら、ほどけそうでいてぼどけることのないそのひとかたまりはくすぐられたように身をよじり、そしてわずかに、心から楽しげな笑顔や愛され抱きしめられて目を堅く閉じたかつての姿をかすかに立ちのぼらせることもあろうと、そのように幼くして失われた命を慰撫するのだと教えてくれた園丁たちにいつも見守られながらいまも在るように幼い魂は漸減していく。

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