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団地

団地


雨の朝方、団地へ行った。団地へ行ったそれほど古くない自分で運転した白い車で。団地には来客用の駐車場があった。訪ねてくる人もそれなりにいると言うことだ。そこへ頭から車を入れて、エンジンを切った。一拍置いてエンジンが止まり、車の薄い屋根をぱつぱつと雨が鳴らす音が主音となった室内の、シートベルトをはずして、後部座席においた鞄を身を乗り出して取り、ドアをあけるとともに傘をかかげ、手元に位置するボタンを押した。傘が開き、団地のまわりの木立が匂い、黒い地面にゴム底の革靴で降り立った。横に長い団地のメインの入り口を探して、傘をさして歩いていった。郵便受けがたくさん並んだここが正式な入り口かと思った。郵便受けはガムテープでふさがれ口が閉じていたり、チラシの投函お断りという縦長のシールが貼られていたりした。雨の吹き込むことがないコンクリート地に自分の歩いてきた後が水に濡れていた。傘の先から雨水が零れていた。雨にたたかれ植え込みが続いていた。つつじの咲く植え込みだったがまだ、季節ではない。少し、肩口と髪が濡れた。ハンカチを取り出して手と服と髪を拭いた。雲が厚くはないために雨の割には明るかった。訪ねる人の名前を郵便受けの名札から探したが無かった。名前を出さない理由がその人の中にはあったのだろう。困った。代わりの方法を考えてみた。いろいろな方法が思い浮かんだ。そのときは、今までにはなくいろいろな方法を思いついたが、どれとして実行する気にならなかった。したがって、何もしないことで処理としようと考えた。しない。となれば、団地に用事はもうなかった。足下はほとんど乾いて傘はまだ少し湿っていた。コンクリートの通路を戻った。雨は来たときよりも弱くなって、止まっている白いクラウンが止まっていた向こうに乗ってきた白い車が。雨の水滴が車体に無数に貼り付いている。流れて落ちたそれらが絶えず撥水の網目網目と流れて落ちた。

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