心のこり

 今でもあの光景を思い出す。きっと皆はもう忘れているのだろうけど。


 高校3年生の球技大会。私はクラスの中の良い女子たちとソフトボールに出場することにした。

 種目が決まった次の日、友達から「ごめん、キャプテンにしちゃった」と言われた。

 どうやら誰が出場するかの報告をする際に、キャプテンを決めなくてはいけなかったようだが、友達は悪ふざけで私をキャプテンにしたらしい。特別することもないし、別に嫌ではなかった。

 最後の球技大会だからとかそんなことは考えてなかったけれど、キャプテンになったら不思議と責任感はあった。

 受験生で進学校だから怪我をする訳にはいかないし、無理に練習とか言われても嫌だろうなと思っていた。しかし、私が家からグローブやボールを何個から持ってきて、夏期講習の後集まれる人だけやろうと言うと、意外と集まってくれた。

 毎日のようにある夏期講習。欠けても1人か2人。1時間くらいただキャッチボールやバッティングをした。勉強のストレス発散にもなったのか、皆楽しんでやっていた。

 皆あまり打てなかったり、投げられなかったりしていたけど、短時間でも毎日のように練習すればある程度出来るようになってきた。ポジションを決め、私はファーストだったが、色々あってピッチャーになった。

 1年生の球技大会の時、私はソフトボールを選び、ピッチャーだった。練習の時よりも投げる距離は遠く感じるし、初戦の相手は3年生で圧が凄いし、雨も降っているしで全然上手く投げられなかった。ボロボロに負け、私は責任を感じた。

 3年生になって、仲の良い人たちが皆ソフトボールをやるというので、リベンジのつもりで選んだ。でも、また1年生の時のようになるのが怖くて、ピッチャーは嫌がったのだが、皆下から投げることが出来ず、私になった。


 1年生のようにはならない、勝ちたいって思った。


 球技大会当日。晴天で、暑すぎず、試合日和って感じだった。

 私は他の人より緊張していたけど、違う種目を選んでいた人も応援に来てくれて、円陣を組んで、少し緊張が解けた。

 円陣とか、球技大会とかそういうノリは嫌いだったけど、仲の良い人でやるこういうノリは楽しいんだなって初めて思えた。

 初戦は1年生との勝負だった。

 ストライク、ストライク、ストライク。1年生の時のようなボールばかりではなく、しっかりストライクを投げれた。

 初戦は、少し押され気味な時もあったけど、最後はなんとか勝てた。

 2時間後、準決勝。同じ3年生と勝負。

 この勝負を、私はずっと忘れないだろう。

 勝負の中盤、同点だった。相手の攻撃。バッターはよく打ち、よく飛ばす子だった。

 私が投げたボールは打たれてしまった。すぐに外野から私のところにボールが回ってきて、後はキャッチャーに投げるだけ。

 私はふわっとボールを投げた。でも、キャッチャーの子は投げられた一番ボールを取るのが苦手な子だった。だから、このポジションがいいと言っていた子だった。

 投げた瞬間は今でもたまに思い出す。彼女はキャッチ出来ず、ボールをはじいてしまい、後ろに転がっていった。その間に、相手チームに2点入ってしまった。

 私たちはその後、逆転出来ずに負けた。

 あの時、私がボールを投げず、走っていれば。

 スポーツで、何かでこんなに悔しいと思ったのは初めてだった。もちろん友達は私を責めなかったけど、私は自分を責めた。

 私たちは同率3位。キャプテンだからと友達はこんな私を前に出て賞状を取りに行く人に選んでくれた。

 毎日のように頑張って練習して、皆どんどん上手くなって、一度のミスで負けてしまった。何かで賞状を貰うのは初めてで、皆で取れた賞状が凄い嬉しかった。

 でも、私はキャプテンだからこそ、あそこでミスをしなければ皆で1位になれたんじゃないかなと悔しくなってしまう。

 今でもたまにあの光景を思い出す。あんなに皆で頑張って、あんなに悔しくなることはもう無いのではないだろうか。

 楽しかったけれど、忘れられない。私の心のこり。


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