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トッド・ラングレン「魔法使いは真実のスター」

トッド・ラングレンを一言でいうと「鬼才」ということに尽きる。作詞、作曲、編曲、プロデュース、歌とあらゆる楽器演奏、全部自分でやってしまう。音楽の内容も、ロック、ソウル、ポップス、プログレ、美しいバラード、前衛、なんでもあり。これに匹敵する人を日本人で探すと・・・細野晴臣さんかな?(細野さんをめちゃ明るく行動的にした感じ。)

そんなトッド・ラングレンの全体像をざっと把握するのに73年リリースの4枚目のアルバム「魔法使いは真実のスター」を挙げたい。全19曲、約56分の大作だ。ジャケットが気持ち悪いけれど、そこはぐっと我慢なのだ。

とりあえず1曲目から聴いていきましょう。

1、世界的意識  いかにもトッド・ラングレンらしい、装飾音を散りばめたポップな作品。これが好きじゃないという人は無理してトッドを聴く必要はないと思います。

2、ネヴァー・ネヴァー・ランド  基本的にピアノ弾き語りによる美しいバラードなのだが、やはりシンセで音を加えてしまうのがトッドなのですね。

3、時は流れる  万華鏡を音で表現するとこんな感じになる、というインスト・ナンバー。これが好きな方にはアルバム「未来人」の、アナログでいうとB面全部を占める「宇宙炎に関する論文」という曲をおススメします。クラクラします。LPレコード片面に36分も詰め込んでいます。溝が極限まで細くカッティングしてあるので、「大音量で聴きたい人は一旦カセットテープに録音してボリュームを上げて云々」と注意書きがありました。あの当時、プログレバンドのシンセサイザーというと、ムーグやメロトロンによるストリングス系のクラシカルで荘厳なサウンドが多かったけれど、トッドのシンセの使い方はそれとは一線を画していました。

4、必要なのは頭だよ  5、ロックンロール・プッシー  ヘビメタ・ナンバーが2曲続きます。

6、犬の笑い 犬の笑い声(?)をシンセで作り上げたお遊び。フランク・ザッパにも通じます。まったく、こういうことを平気でやるから一般受けしないのだなあ。

7、キャンプなんてつまらない  一転して(というか、ずっと一転ばかりしているのだが)お花畑をルンルンとスキップしているかのようなおめでたいナンバー。歌詞の内容はわかりませんけど。

と、ここまでで約10分経過。19曲も入っているというのは、実は1曲が短いのです。ほとんどメドレーで怒涛のごとく続きます。だいたいこのへんまで聴けばトッド・ラングレンの音楽性がわかると思います。

アルバム中、無視できないのは15曲目(アナログではB面3曲目)のソウル・ナンバーをカバーしたメドレー。「アイム・ソー・プラウド」〜「ウー・ベイビー・ベイビー」〜「ララ・ミーンズ・アイ・ラブ・ユー」〜「クール・ジャーク」の4曲。本格的。山下達郎さん並みのソウル愛を感じます。敢えてジャケの気持ち悪いこのアルバムを選んだのは、このカバーが入っているからです。

ちなみにトッドは後年、ビーチ・ボーイズの「グッド・バイブレーション」やヤードバーズの「幻の10年」などを完全カバーしています。「完全」というのは、原作と同様の録音機材を使い、音質まで再現する凝りよう。自分の好きな音楽に対する敬愛の度合いがものすごい。

トッド・ラングレンの美しい曲は好きなんだけど、ガチャガチャしたやつは苦手、という方には、シングルのみを集めた二枚組のアルバム(「シングルズ/トッド・ラングレン」という、そのままのタイトル)があるので、それを聴くことをオススメします。

最後に、このアルバムには入っていないのですが、「キャン・ウィ・スティル・ビー・フレンズ」という美しすぎる最高傑作だけでも聴いていただけると嬉しいです。昔、飯島真理ちゃんもカバーしていました。   


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