南佳孝 松本隆を歌う「Simple Song 夏の終わりに」
南佳孝 松本隆を歌う「Simple Song 夏の終わりに」
令和4年9月10日(土)開場15:00 開演16:00
於、大手町三井ホール
南佳孝さん作曲、松本隆さん作詞の楽曲のみを演奏するという特別なコンサートです。二人の共作、80曲くらいあるらしい。これまで松本隆さんのイベントで何度か南佳孝さんの歌声を生で聴いてきたけれど、単独ライヴはこれが初めてです。シブい名曲がたくさんあるので、期待を抱いて会場へ足を運びました。結論から申し上げますと、ハードルを高めに設定していたにもかかわらず、それを更に上回る至高のコンサートでした。佳孝さんのギター、二人のサポートメンバーによる鍵盤とサックスのみのシンプルな編成が、歌詞とメロディーをより際立たせていたと思います。いつものように(?)微に入り細を穿つ渾身のレポを書こうと思ったところ、追加公演があるとのことなので、ネタバレなしの微妙なレポではありますが、記録として残しておきます。
会場ロビーには佳孝さんの描いた、楽曲に関連する油絵が数点飾られていて、みんな興味深そうに撮影していました。歌の世界観そのものという絵もあれば、「え、これ?」というものもあり、退屈せずに開演を迎えることができました。
ステージの配置は、センターにギターを抱えた佳孝さん、向かって左がピアノの松本圭司さん、右に住友紀人さん。住友さんは2本のサックス(アルトとバリトンかな?)と、キーボードで曲によってストリングスやベースラインを加えていて八面六臂の大活躍。オープニングのイントロ、最初の一音からハードボイルドでカッコいい佳孝さんの音世界を表現していました。控えめながら、照明もそれに一役買っていたように思います。
ゲストの松本隆さんは数曲終えたところで登場。細かく楽曲の解説を語るというよりも、二人の出会いからこれまでの関係などを佳孝さんと独特の間合いでトークを展開。本当に信頼し合っている二人の様子が見て取れました。男の友情、いいね!あくまでも演奏がメインなので、トークはほどほどでしたが、別の機会にじっくり聞いてみたいものです。佳孝さんが言いかけてやめてしまったこととか、いくらでもネタはありそう。というか、全曲解説やってほしい・・・。
全編聴いて思ったのは、歌詞とメロディーに齟齬がないこと。この歌詞あって、このメロディーあり。実際は作詞も作曲も悪戦苦闘しながら推敲を重ねた末に生み出しているのでしょうが、そんなことは全く感じさせないほど自然に存在しているかのようです。複雑なパズルの全てのピースがぴったりはまっている感じ。歌詞、メロディー、歌唱、アレンジ、演奏の全てが完璧。デビューから50年弱、ポピュラーミュージックの範疇で、これほど大人の鑑賞に堪える高度な作品群を生み出し続け、演奏を続けているのは驚異的なことです。
ネタバレなしと言いつつ、ひとつだけ例外をお許しください。追加公演に行かれる方は以下、読まないで下さい。
「Paradiso」は、カッコよさを旨とする佳孝さんの作品の中でも特にカッコいい曲です。オリジナルのアレンジは今聴いても新鮮で、発表から30年以上経っているにもかかわらず少しも古びていません。ギター大好物のワタクシとしては、カッティングの妙にしびれっぱなし(もうちょっと前面に出してもいいよね)。ロビーに展示していた絵もイメージに違わないハードボイルドなものでした。それが今回の演奏では、これ以上、音をそぎ落とせないくらいシンプルなアレンジ。抑え気味のヴォーカルも渋すぎる~。タイトルどおり、天国的な素晴らしさ。デビューの時から既に老成していたかのような佳孝さんにあって、半世紀近くの年月を経てたどり着いた境地なのではないでしょうか。
アンコールを含めて2時間を悠に越えるステージ。まだまだ活躍は続きそうです。松本隆さんさえその気になれば、新たな共作が生まれる可能性もあります。ステージ上で二人、アイコンタクトを取りながら、なんとなくそれっぽいことを話していましたから、期待できます。
奇しくもこの日は中秋の名月。ホテルの窓から見えた月とともに忘れられない一夜となりました。
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