かっこいい中学受験

<前回の話>

私が学校へ行かなくなったのは、中学生になって最初のゴールデンウィークが明けて、しばらく経った頃。ということは、私がまともに中学生だったのは、全部で一ヶ月ちょっとしか無いんですね。

行かなくなってから、その後は二度と通うことはありませんでした。

話は中学からさらに遡り、小学6年生のことです。

私が通っていた公立小学校では30人ほどのクラスのうち、大体2〜3割の子たちが中学受験をする雰囲気がありました。

受験に臨むべく準備をしてきた彼らを近くで眺めているうち、何だか私も受験したくなってきました。

「中学受験しよう!」

そうと決めたら特に深く考えず、受験まで1年を切っているにも関わらず両親に無理を言い、もともと学習塾には通っていましたので急遽「進学コース」に切り替えて、かっこいい感じの私立中学を目指して勉強していきます。

夏休みの間に毎日通った夏季短期集中コースやら、冬休みの勉強合宿といったものにも顔を出しました。学校とも今までの塾とも違う環境へ行くと、さすが進学コース、見たことないタイプの子たちがたくさんいます。パーマをかけてピアスを開けて、薄っすら化粧をしている女の子。当時の知識では理解不能な下ネタをさらっと言ってのける男の子。何だかとっても華やかなところに来たと思い、胸が躍ったのを覚えています。

思えば「受験に向けて準備をする体験ができた」このあたりの段階でもう、私はけっこう満足していました。みんながそれぞれの目標に向かって集まり、ひたむきに勉強をする空気は、思いのほか気持ちのいいものでした。

そして、受かったらその学校へ行って、その後の3年間を少なくとも過ごすことになるわけですが。

私の場合、受験にあたってのそういった想像や心構えは、ほとんどありませんでした。

準備期間が少なかったこともありますが、そもそも当初の目的であった(と今になっては思う)「受験体験」ができて満足している私には、さしたる向上心も未来の目標もなければ、絶対に受からなければいけないような自分に課すプレッシャーも、受験当日までついに芽生えませんでした。

もともと勉強ができるほうでもなかったので、第一志望の一番かっこいい感じの学校では「充填不足の意気込み」がそのまま結果となって現れ、順当に落ちました。

この後も2つほど学校を受ける予定でしたが、第一志望の学校以外は正直あまりかっこいいと思えず、一番かっこいい学校へ行けなくなった段階で、小学校からの友人が少なからず通うことになる従来の公立中学校を検討する選択肢も、十分あり得たように思えます。

しかし「今さら公立なんて」みたいな傲慢さや、「負けたまま終われない」という見栄やプライドに包まれ、完全に引っ込みがつかなくなった私は勝手に退路を絶ち、やがてかっこいい感じの学校から偏差値を一回りほど落とした、私立のよくわからない学校へフワッと入ることになりました。

かっこいい学校の試験が「岩」だとしたら、よくわからない学校の試験は「プリン」かと思うくらい、スプーンがサクサク入っていくような明確な手応えを感じたのを覚えています。

小学校は徒歩で通学していましたので、春からは初めての自転車+電車通学です。ブレザーの制服を、百貨店へ母と作りに行きました。これからは毎日ネクタイを締めます。朝起きるのも、小学校の頃より1時間くらい早くなります。今からやれと言われても、だいぶイヤな内容です。

さあ、(一ヶ月ちょっとで終わってしまう)中学生活の始まりです。

<次の話>

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