Now is the time

<前回の話>

イギリスのバンドKasabianのCDを買ったところ、タワーレコード新宿店の屋上で開催されるという「インストアライブ」のチケットをもらいました。

「ライブって、一体どういう感じなんだろう?」

軽い気持ちで行った私を待ち受けていたのは、圧倒的な体験でした。

この日演奏したのは、たったの4曲。しかし、私の人生に与えた影響は計り知れません。すぐにKasabianは世界的な人気バンドとなりましたが、私が初めて観たライブがKasabianだったのは、いま考えると本当に贅沢です。屋上にはかなりの人数が詰め込まれていましたが、入場順の都合などで、なぜか私はステージにほど近い、真正面の位置から開演を迎えることになりました。

歓声とともにステージにメンバーが登場し、やがて音が鳴り始めた瞬間の、空気の変わり方がたまりませんでした。目の前で生み出された轟音が支配する空間が、こんなにも心地が良いものなのかと。未だかつて感じたことがない刺激を浴びている間は、うっとりするような濃密なひとときでした。会場の盛り上がりとともに、次第に人々が四方八方からぶつかってきますが、何だか一個の液体に近づいているような感覚で、そんなに悪い気はしませんでした。

私は初めてのライブなので、たった4曲で終わることが、まだ短すぎるということすらわかりません。ただ、恍惚のような余韻が「ぼわんぼわん」と続いており、もっとライブへ行ってみたいと願うのは、自然な流れでした。

当時の私は洋楽専門でしたので、聴いていたものの中から来日が近そうなバンドを調査して、早速いくつかチケットを買います。スウェーデンのガレージバンドMando Diaoや、前回も書いた、音楽を聴くきっかけを作ってくれたイギリスのThe Music、ラスベガスのニューウェイブバンドThe Killersなどを、この頃に観ました。

特にThe Killersのライブは、恵比寿にあるリキッドルームというライブハウスで行われたのですが、本当に信じられないような盛り上がりで、私は心身を完全解放した状態に初めて突入しました。

ライブへ通うなかで、そんな風なことが度々起こるようになっていきます。いつしか、自らリミッターを外す「コツ」をつかんでからは、ある程度の条件が揃った瞬間、蛇口をひねるようにリミッターを外して、理性をブッ飛ばせるようになりました。私の生きる喜びは、ライブに結集するようになっていきます。

当時の配送業務は日中が中心で、夜を空けることは難しくなかったため、平日のライブに行くことも(朝はつらくなりますが)容易でした。気になるライブがあれば、好奇心のままに次々とチケットを押さえて、その日に向けてウキウキで過ごします。

以前にも書きましたが、当初イメージしていた「仕事の移りどき」をいつまでも逃してしまったのは、ライブに行きやすいお気楽な環境だったことが、一因としてあります。

もっぱら洋楽に傾倒する日々の、ある深夜のこと。フジファブリックという日本のバンドの、デビューアルバムのCMを初めて見たときには、旋風が吹き荒れました。

当時の私は、一応成人しているとはいえ、音楽に関しては尻に蒙古斑の残るような、クソガキ同然の認識です。「洋楽は優れているが、邦楽は大したことない」と、まだまだ何も知らないというのに、勝手に思い込んでいました。

ところが、このフジファブリックによって、認識は鮮やかに覆され、邦楽と洋楽という区分に優劣をそのまま当てはめていた考え方は、完全に愚かで無意味だと気付きます。ラベルが何であれ、音が良かったら、音楽はそれが全てなのです。

そうして、行きたいライブ・行けてしまうライブが、爆発的に増えます。しかも、フジファブリックのような日本のバンドが出るライブは、それまで行っていた海外のものと比べると、チケット代がほぼ半分以下です。ライブ漬けの日々にはさらに拍車が掛かっていき、月に10回以上ライブへ向かうタイミングも発生するなど、もはや楽しさで多忙を極めていきます。

当時の私は「ライブのために生きている」と、よく豪語していました。遅れてきた青春を取り戻すだとか、配送業はライブに向けた体力づくりのウォーミングアップだとか、言っていました。振り返ってみれば、燃え盛る炎のようでした。

さらに、フジファブリックからも数珠つなぎ的に、日本の優れた音楽を数多く知ることになっていきます。まずは、スパルタローカルズというバンドに出会って、そのスパルタローカルズのライブへと熱心に通い詰めていたら、あるとき対バン相手として登場したのが、POLYSICSというバンドでした。

今はなき渋谷のライブハウス「SHIBUYA-AX」で、POLYSICSのライブを初めて体験した瞬間、ついに見つけたと思いました。

これが、ずっと探していた「答え」です。

この地点が、私の好きな音楽の中心、「核(コア)」です。

とうとうたどり着いた「私の山頂の景色」は、ライブを開始して2曲目の時点でフルスロットルのまま客席にダイブをしてくる、POLYSICSのギターボーカルの人の姿でした。

かれこれ10年近く、私は「zenpoly」という名前とIDでやってきていますが、ご覧の通りPOLYSICSは、その名前の由来となっています。

<次の話>

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?