都落ち

<前回の話>

ある日、転校をすることになりました。

私はもう二度と学校へ行く気がないので「退学」をしたかったのですが、中学は義務教育なので退学することはできず、あくまで「転校」という手続きになります。

そのタイミングで、ちょうど我が家も引っ越しをすることになりました。当時の我が家は、いま考えると家賃の相当高い賃貸マンションに住んでいました。そして、高額な家賃を払えなくなったため、出ていくことになったのです。

ここでの金額はあくまで(仮)ですが、父は「家賃20万円を滞納したため出ていかなければならない」となったときに、どういうわけか「家賃25万円の家に引っ越すことを決めてくる」人間です。

大人になって振り返ると「それって審査通るの?」「初期費用は?」とか色々と不思議に思いますが、こうしたやり方を、私の知るだけでも何回か繰り返していました。そのたびに、一定期間はなんとかなっていたのでしょう。「無理やりなんとかしていた」が正しい認識だとは思います。東京に進出したてのお笑い芸人が「あえて高めの部屋を借りて勝負に出る」的な発想だとは思います。ちなみに父は自営業で、仕事の内容は今でもよくわかりません。

このような、自転車操業的に家賃をどんどん上げていく「見かけ上の立身出世」も、不景気などもあってこの頃とうとう叶わなくなり、一気に半額以下の家賃のところへ転居する運びとなったため、併せて私の転校も実施された、というのが実情です。

ところで私は、気ままに過ごして周囲に迷惑をかけるケースを起こしがちで悪名高い「長子の長男」でして、妹が一人いるのですが、彼女は小学校をあと一年ちょっとで卒業というところで転校することになってしまいました。卒業までは何とか学区内に踏み止まるという選択肢も当然あったかと思いますが、私の不登校がそうした流れに水を差していた部分が確実にあります。この点は、非常に申し訳なく思っています。

かくして、転居は進みました。

例によって家は父が探してきたのですが、「友人の紹介で安く借りられる一軒家を確保した」とのことで、都心から少し離れたその家に入居しました。ここへ来て、生まれて初めての一軒家住まい。建物が多少古く、放置されていた庭は雑草で生い茂っていましたが、今までで最も広い家でした。

しかも、ペットを禁止されていない一軒家でしたので、マンション住まいでは飼うことができなかった犬や猫が突如として飼えるようになり、一気に夢が広がりました。

私は浮かれていましたが、なかでも最も浮かれていたのは、意外にも母でした。それまで全然知りませんでしたが、母はもともと猫がものすごく大好きだったのです。

引っ越してから1週間あまり。庭の開拓を優先したため、まだ部屋によっては未開封のダンボールがたくさん積まれている状態の、ある日のこと。近所のスーパーの掲示板に貼られていた「里親募集」のチラシを見つけた母は、さっそく連絡を取って子猫を一匹もらってきてしまいました。生後3ヶ月に満たない、茶トラのオス猫でした。

余っていた部屋が物置になっていましたので、とりあえずそこを閉め切ってキャリーバッグから出したところ、ビビってそのままどこか奥深くへ逃げ隠れてしまいました。部屋に人がいると全く出てこないため全員で出て行き、しばらくして戻ると、その瞬間に慌ててまたどこかへ隠れてしまう、といった状態でした。

最初こそこんな有様でしたが、このあと10年以上、彼は家族として我が家で暮らしていくことになります。

<次の話>

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