流れ

<前回の話>

ごく短期間でアルバイトを転々とするなか、ようやく落ち着いたのは、家の近所にあった某大手運送会社でした。

家で使っていた家族兼用パソコンが、ある日壊れてしまい、インターネットを断たれた私としては、一刻も早く自前のパソコンが必要でした。生きるのに欠かせないパソコンが壊れてしまったにも関わらず、じゃあ新しいのを買おうか、みたいな流れが「無」だったのです。

困った私は、すがるような思いで「短期引越アルバイト募集」の文字に飛びつきます。引越のバイトは、当時としては時給が高いほうでした。

しかし、私はろくに重い荷物も持ったことがなかったものですから、今考えると、信じられないくらいのポンコツでした。ただ、どんなにポンコツであっても「もう来なくていいよ」なんて言われることはなく、温かい目で見守っていただけたことが、本当に助かりました。後年、その時いたメンバーに聞いたところ「こいつは2日で来なくなると思った」そうで、たしかにそれまでの私の経歴を考えれば、あまりにも正確な見方で笑ってしまいました。

それでも私は、自分専用のパソコンを買うという大事な目的のために、どうにか乗り切ります。

プレイステーション2の場合もそうでしたが、私は「眼前にニンジンがぶら下がっていないとモチベーションが続かない」という自身の性格に、初めてはっきり気付きました。目先の欲望を逐一設定していくことで、今後も「目の前の辞めたい気持ち」に対処できるかもしれない。そんなことを思いました。また、最初から短期間とわかっていることも「ゴールが見えて」良かったのでしょう。近々の目標は大事です。

そうして、春の引越シーズンも最後まで完遂。初めて自分専用のパソコンが手に入りそうだとホクホクしていたところ、何か、いつの間にか「流れ」で、構内作業のバイトとして、そのまま継続することになりました。

「どうせ暇でしょ?やらない?」という感じだったと思います。

この後、バイトは1年以上続きます。翌年の引越繁忙期にも、2年連続で参加しました。構内作業のバイト自体は、夕方から夜にかけて短時間のものでしたので、引きこもり時代に馴染んでいた夜型生活ともマッチしました。夜中にインターネットをしたり小説を書いたりして、明け方に眠り、午後遅くに起きてバイトへ。いい流れでした。もう引きこもりじゃないですね。

この流れが一瞬、途切れることになった事件として、当時の一番偉かった人と、殴り合いのケンカになったことがありました。殴り合いのケンカはこれが人生で、最初で最後です。まあ、私がナメた態度でいたところ、連日の疲労なども手伝ってブチ切れた一番偉い人が手を出してきたので、そのまま応戦したという、実にしょうもない展開でした。

さすがに居づらくなったため、しばらく休もうということに。会社に籍は置いたままです。その間は、肉体労働にあまり抵抗がなくなっていたので、当時たくさんあった軽作業の日雇い派遣バイトへ行ったり。あとは会社から人がやってきて、私たちの事件を軽く聴取していきました。先に手を出したのは相手で、その相手がいる限り私は仕事に戻れないので、その分の「補償」をいただけませんかと言ったら、これがすんなり通ったりして驚きました。

とはいえ、このままずっと日雇い派遣も何なので、これからどうしようかなと思いながら、とりあえず辞めるつもりで制服を返しに行ったところ、たまたま引越のときからお世話になっている方(やや偉い人)と会いました。

そして「どうせ暇でしょ?配達やらない?」と、ついさっき聞いたようなセリフで、またもや誘われました。外回りなら(殴り合った一番偉い人とも)そんなに顔を合わせないから平気でしょ、みたいなノリです。

私は快諾しました。返すつもりで持ってきた制服を、そのまま家へ持って帰りました。

<次の話>

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