愛情【sideシャッル】

■お借りしました:ミランダさん
※温いですが流血に欠損、痛みの表現を含みます。
 
 
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 時を忘れる程の鮮烈な痛み。色鮮やかに飛び散った液体。宙を飛んだ自分の身体の一部だった右腕。ああ、右腕が斬り落とされたのだとどこか遠い世界のことのようにしか思えなくて。痛みと共にやってきた感情は愉快でしかなかった。
 
「​───、は、ぁ、……あははっ!」
 
 我を忘れて狂ったように笑った。出血が収まらない右肩を左手で抑えつければ、左手すらも赤く滲んでいく。それすらもそれすらも何もかもが面白くてたまらなかった。
 十何年と生まれ落ちた時から体の一部であったそれがこんなにもいとも簡単にとれてしまうことが。それを成してしまえるあのガブリアスの残忍さと容赦のなさと力強さが。あまりにちっぽけで惨めな程に無力な己に。笑いがどうしたって抑えられない。
 
 ああ、あれは欲しいかもしれない。
 
 面白かった。面白かったからこそあのガブリアスが群れから孤立し一匹でいた理由を考えて、考えるのが面倒になって群れを全て捕まえて売り払った。どうせ色が違うことで差別迫害を受けたなんてオチだろう。そうでなかったとしてもこちらとしてはいい金になったから何一つとして問題はないし、泣きわめくガブリアス達の様子は面白かったからマイナスは一切としてないのだ。
 群れがいなくなりたった一匹となったガブリアス。自分の腕を奪ったガブリアス。お前は一体どんな反応を見せるのかと背後から近寄って笑い掛ける。振り返ったガブリアスは__恍惚とした満面の笑みを浮かべていた。
 
 
「というのが出会いやったなあ。あと腕とのお別れも」
「気狂いしかいないことがよくわかるわね」
「辛辣やわ~」
 
 ミランダの返しに自分はただ笑う。なくなった右腕の箇所には今は特注で作らせた義手がついている。持ち歩きが面倒だからとキーストーンも嵌めこんだのは実にいい考えだった。義手内部に他に色々と気分で仕込めるのもいいポイントだ。
 
「人間てわかりやすいやん。義手ってだけで可哀想な人、助けてあげないといけない人って勝手に判断して、阿呆なお人好しはあれやこれやと勝手な世話焼いてくれる」
「そうね」
「ただの自己満足程使いやすいもんはない。隙だらけで愚かで面白いこと」
 
 それに、と手にしていた表の仕事の書類を机の上に置いて、洗濯物を取りまとめていたイグドゥを見上げた。
 こちらの視線に気付いた色違いのガブリアス、自分の腕を切り落とし、顔に消えない傷を残したそいつは、嬉しそうに微笑んだ。
 
「大きな収穫が二つはあったし?」
「二つ?」
 
 ソファーに座る自分の手が届く位置まで頭を下げてきていたイグドゥの頭を撫でながらミランダを見遣る。
 
「愛しとるよ」
 
 ____使えるものは。
 
 有用で理性的な人間と、圧倒的な力を持つ残忍なポケモン。そのどちらともが、手中にあるのは便利といっていいだろう。
 
 だから、愛する使うのだ。


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