酷いことをしたら【sideリピス】

■お借りしました:スウィートくん、フェリシアちゃん、Dくん(すこしだけ)

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 夏。澄み切った海に陽の光が反射して輝きを落とす。この地方に実に相応しい輝きのようだ。と思いながら散歩をしていた矢先の出来事。

「衝撃だわ………」
「………あんた出会い頭に何してくれてんの???」

 日陰で横になり休んでいたその存在と、横で戯れるようにリボンを絡めて遊ぶニンフィアに既視感を抱き、近付いて覗き込んで反射で手にしていたタオルを落とした。
 海水で冷やしていたそれは水気に満ちており、容赦なく休んでいたその人の顔へと命中。濡れたサングラスを外し顔を衣類で拭うその人、つまりはわたしが嫌いな青年は相も変わらず宝石のように美しい異なる瞳の色をこちらへじとりと向けていた。あ、日焼け跡残ってる。ちょっと面白いわ。
 横にいる彼の手持ちであるニンフィアは威嚇するようにわたしの方を見ながら青年の横に立っていて、その子には彼には違う感情を抱く。

「驚いて落としたのよ。不可抗力だわ」
「子供がまた難しい言葉を……」
「ここにいるってことは調査にきたのね」
「オレの話聞いてる?」
「聞いてるわ、流してるだけで」
「ムカつくなコイツ……」

 寝転がっていた青年はゆっくりと身を起こす。仕方ないわね、とわたしは持っていた乾いたタオルをDに濡らしてもらい差し出した。やや不服だが今回先に無礼を働いたのはこちらなのだからこれぐらいはしておこうと思っただけだ。
 流石に海水でべたついたままは不快感が勝ったのか、彼はわたしの手元から雑にタオルを奪い取る。いや何でここにいるのかしら、と思ったが別に聞いても答えないだろうと思ったので深く追求するのは時間の無駄だと思い、やめた。
 あ、そうだわ、そんなことよりも。わたしは青年から意識を外し、横にいたニンフィアへと視線を向ける。むっとしたようにこちらを向くその子の前にしゃがんで、膝に手をついて頭を下げた。

「あなたには悪いことをしたと思っていたの。綺麗なリボン、引っ張っちゃってごめんなさい」

 わたしが怒っていたのは、殴りたいと思っていたのはあちらの青年だけだ。あの時ポケモンバトルとして彼の手持ちとして指示を受けていたこの子に罪はない。まあ、懐きが進化に関係しているニンフィアである以上この子はこの子で彼に懐いており、加担している以上何かあるのかもしれないが。それでもわたしの目線からではこの子は酷く無邪気で、どうしてか憎めなかった。
 だから直接的な攻撃はこの子には当てないようにとムムにも指示をしていた。よくよく思い返せばあの時のバトルで傷ついたのはわたしとムムが主体であり、青年には一発の平手打ちをお見舞いできたぐらいだ。あっなんかまた苛苛してきた。落ち着こう。この場で乱闘したら困るのはこの場所にいる全員だわ。無関係の人を巻き込む訳にはいかないもの。
 ふう、と息を吐いてニンフィアにわたしは鞄の中に入れたままだったポフレを差し出す。物で釣るのは、とも思ったが今のわたしにはこれ以上の誠意を見せる手段はない。

「これはあなたへのお詫び」

 ごめんね、の意を込めてわたしはまたその子に向かって小さく頭を下げた。

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