青が、漸く顔を出す【sideグリモア・フォカロル】

こちらの流れをお借りしています。

■お借りしました:テラーさん
 
 
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 ゆるりと抱きしめられる。グリモアからすれば不思議な感覚だった。流石に今まで一度も抱きしめられたことがないなんてことはない。けれども、記憶にあるのは母がしてくれたものだけだ。父が自分を抱きしめてくれたことなど一度もない。そう。ないのだ。
 
 テラーはやはり不思議なことばかりするし、口にする。グリモアはそんな失礼なことを考えながら見上げていた。
 抱きしめられたことは嫌ではない。だって痛くもないし、苦しくもないやさしいだけのものだから。
 迷惑になるかと言われても別に迷惑ではない。だって不快に思うのは本来は自分と話す側の存在なのだから。
 
 人は、難しい。ポケモンとは言葉が通じないからこそ、共にあれる。何を言わずとも、だって所詮ポケモンの言葉は人であるグリモアにはわからない。だからこそ言語でのコミュニケーションを不要としても問題がない。
 けれども人はそうではない。無表情で感情の機微がわかりにくい自分を嫌う。嫌うまではいかずとも、相手をするのが厄介で面倒だと距離をとる。別にそれをグリモアは責めてはいないし、不快にも思っていない。
 だって、そういうものだと納得してしまえば何も思わないからだ。
 
 じっと見上げていた顔は依然としてやさしいままで。それでいて、それだけじゃないように感じられたがそれが何なのかはグリモアにはわからない。グリモアは首を横に振った。
 
「!よかった」
 
 どうしてかテラーは嬉しそうな笑顔を見せる。その理由は、グリモアにはわからない。テラーの腕を振りほどくこともなく、グリモアはただただ不思議そうにテラーを見上げていた。
 その顔は嫌じゃないな、と思いながら。
 
 
***
 
 
 ___昔の記憶だ。グリモアの母の家は、少しばかり厄介な家だった。浜辺に流れ着いた記憶障害の男。そんな風変りな男との恋も結婚も許すような家ではなかった。けれども母は家族に愛する男を認めてもらいたかった。身に宿った生命の祝福を望んだ。
 それだというのに、あまりにも残酷な名を母の家族はグリモアに与えた。
 
 その意味を、母がちゃんと理解せずにいられたのが唯一の救いだろうか。当時の記憶も全て持ち、未だ赤ん坊だったグリモアをあやしていたフォカロルはただそう思う。
 知らぬが仏ということもある。だからこそフォカロルは何も言わない。けれども何の罪もない赤子がそんな風に扱われるのだけは気に食わなくて。うっかり家を壊してしまったが、その点についての後悔は一切ない。
 
 旅に出た切っ掛けがなんであれ、フォカロルはグリモアが旅に出てよかったと思っている。どうか、その身と心で世界に触れてあたたかさに包まれてほしいと願う。
 
 ボールの中から久方ぶりにやさしさに包まれる愛しい子をただただ、父の眼差しで眺めていた。

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