ファイアリング【sideリピス】

■お借りしました:ソルシエールさん、カルミアちゃん

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「その命あたしに賭けてみないかい?悪い結果(ハイリスク)から逃してやろう」

 美しく丁寧に整えられた長い爪。それがこちらへと伸ばされたかと思うと、そっと顎下に添えられた。指先の動きを誤れば傷をつけてしまう爪の長さ。しかしその爪がわたしの肌を傷つけることはない。
 握りしめた片手からは依然として震えるカルミアの振動が伝わってくる。視線を微かに横にずらせば少し離れたところには倒れるウツロイドの姿。
 この状況ですべきことなんて、赤子でもわかること。

「BET」

 わたしは目の前の女性を見上げたままはっきりと告げた。

「こんなにもハイリターンが望めるものに賭けない訳にはいかないわ」
「中々言うじゃないか」
「ええ。守ってほしいの、この子を」
「おや、アンタはいいのかい?」

 この子を、とわたしは手を握っていたカルミアを見遣る。未だ恐怖から目を閉じているこの子と共に走り続け、逃げることは容易なことではない。当初の目的通り頼りになる強いトレーナーに出会えたのならば、わたしがするべきことはたった一つだ。

「わたしは大丈夫。この後当てがあるの。でもこの子はそうじゃない。だから、魔女の腕に賭けるわ」

 それに何より、万能でないのならば守る負担が減れば減るだけ勝算は上がるでしょう?
 万能な人間もポケモンも存在しない。このような状況であれば猶更だ。そうであれば動けるわたしは別行動をし彼女の負担を減らし、動けないカルミアを彼女に守ってもらった方が効率がいい。
 力量を理解しているということは冷静であり場の状況を見極めることに長けている実力者であるということを示している。万能な魔女ではない。そう宣言した彼女に賭けるメリットは、十分すぎる程にある。

「カルミア」
「な、何……?」
「もう大丈夫。わたしが賭けた素敵な人よ。だから、あなた達はもう大丈夫」

 握っていた手を一度離してカルミアの両手を強く握りしめた。その恐怖が少しだけでも紛れますようにと。落ち着いたらどうか目を開けて。あなたの世界には恐怖だけではない。まもってくれるやさしい世界だって広がっているのだから。

「この騒動が落ち着いたら絶対に御礼させて頂くわ。よろしくね、魔女さん」

 待たせてしまっていた女性の方へと振り返り、その長く美しい爪を手折ってしまわないように握りしめる。どこか楽しそうに微笑むその人の美しく気高い表情に、不安を抱く理由なんてない。
 にっこりと笑みを返して手を離す。わたしはそうして彼女達に背を向けて、再び船内を駆け出した。

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