そして青は混沌を引き寄せた【sideキマリス・グリモア】

こちらの流れをお借りしています。

■お借りしました:テラーさん、シュテルさん
 
 
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 月に愛されますように。グリモアに向けられたその言葉を不思議そうに聞いていたのはキマリスだ。
 
 月、月というのはどうしてか母がよく口にしていた。月が好きだとも言っていたし、母のトレーナーであった人間は月に深く関係する人間だったのだとも。
 ああ、まただ。コランダという地方にグリモアに連れてきてもらってから、キマリスは何度も何度も母を思い出す事柄に遭遇する。
 夏祭りのパフォーマンス、あれは本当に綺麗でずっと見ていられる程に美しくて。先ほどのシュテルとイポスのバトルもとても美しかった。
 イポスはシュテルの技を利用しただけなため、実際に美しいステージを造り上げたのはシュテルなのだが。だからこそ、キマリスはシュテルにも憧れの意識が強くなってしまった。
 テラーの膝の上で丸まってで休んでいなければ、手を伸ばしてもっともっとと、先の美しい幻想を強請ってしまいそうな程に。
 
 
***
 
 
「………」
 
 旅を応援している、と言われて思い出したのは父の願いだ。”家族に会いたい”という、酷く自分勝手で、愛さなかった子どもに告げるには残酷すぎる我儘な願い。けれどもグリモアは父の願いのために旅に出た。自分と母以外の家族を望む父のために旅に出た。
 一度目の旅ではアローラ地方を旅した。父の望む家族はそこにはいなかった。得たものは手持ちと、強さと、世の無常さだけ。けれどもグリモアはそれに慣れてしまったし、それが当然のものだと思えば辛くともなんともなかった。
 
 ああ、けれども。コランダ地方にやってきてからは、何だか不思議なことに物好きとばかり関わっている気がする。
 
 父に思い当たることがあるというお節介な店主は沢山の道具を好意でくれた。人見知りな少女は自分のバトルを近くで見たいからと旅の同行を願い出てきた。そして今、こうしてボールをくれて頭を撫でてくれるやさしい声を落とすテラーが目の前にいる。
 
 不思議な土地だと思った。今までになかった出会い。今までに得られなかった何か。それらが少しずつ胸の内に堆積していっていることに、グリモアはまだ気付けていない。
 
「………ありがとう」
 
 けれども、テラーが渡してくれたこのボールはもう効果を発揮しているのかもしれない。と、そう思うのはグリモアではなく、ボールの中からグリモアの成長を見守っているフォカロルだ。ボールの中からじっと様子を伺っていたフォカロルは、グリモアの言葉に連なるようにテラーへと感謝の意を込めて頭を下げた。
 まだグリモアは感謝の言葉が言えるようになっただけ、大分マシだろう。おそらく本人はまだあまりよくわかっていないのだろうが。
 
「ん?どうした?」
「?」
「その子、シュテルのことすごい見てないか?」
 
 テラーに言われて、ようやっとグリモアはじっとシュテルを見上げていたキマリスに気付く。足元にいたその子を抱き上げて膝の上に乗せれば、キマリスは自分の視線に気付かれたことに驚いたのかテラーを見て目を輝かせた。純粋な尊敬の念だろう。
 
「………」
 
 そういえば、とグリモアは思い出す。キマリスはダグシティの夏祭りではぐれた際にコンテスト会場にいたことを。そしてパフォーマンスを披露していたトレーナーに抱き着いていたことを。
 好きなのだろうか。
 
「……好きなのかもしれない」
「え?!」
 
 キマリスはシュテルの放った先のような美しい技の出し方が好きなのかもしれない。そう言いたかったのだが、あまりにも言葉が足りなさすぎる。
 勿論テラーからは驚きの声が零れ、キマリスは困惑のあまり固まった____。

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