停止線の前で【sideビビ・リピス】

こちらの流れをお借りしています。
 
■お借りしました:スウィートくん
 
 
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 私はまだ生まれたばかりだから、わからないことが沢山あるの。けれどもままがすうぃーとのことを好きなんだなってのはわかるの。二人が仲良しで嬉しいって言うたびに、ととは不満そうな顔をしてそっぽを向いてしまうけど、どうしてあんな顔をするのかな。いつかわかるかなあとしんに聞けば、そのうちわかると返されてしまった。
 じゃあ、そのいつかを楽しみにしようかな。なんて、未来に思いを馳せるのがあまりにも楽しかった。
 
 そういえば、と私はしんにもう一つ尋ねた。このイベントの最中、時たまままを見ていたあの男の人は知ってる?と。
 
 
***
 
 
 おかしいことに、わたしは当然のように彼と共にダグシティの彼の家に帰ることを考えていた。けれどもいつの日か追い出されることも、見放されることも想定した上で。だからこそまさかスウィートからそんな風に言われるなんて、思ってもいなかったのだ。
 
「良い出会いがあったんだろ」
 
 目が逸らされて、普段よりも素っ気なく告げられたような気がするそれに勘違いをしそうになる。だってその言い方はまるで、自分なんかよりもいい相手がいただろうと言われているかのようで。
 
「それでもまだ、あんたはオレといたいの?」
 
 逸らされていた視線が戻されて、異なる美しい青と赤の瞳が改めてわたしの瞳と重なる。わたしの瞳の色は紫だから、彼の両の瞳が合わさった色になるのかなんて関係のないことが一瞬だけ頭を過ぎって。その視線の真っ直ぐさに、どこか揺らぎが見えた気がした。
 その言い方は何だかおかしいわ。だってわたしにはそもそも選ぶ権利なんてなくて、選ぶ権利があるのはスウィートの方なのに。
 わたしはスウィートの手をとった。やっぱり手は振り払われない。わたしも彼も、出会った頃からは確実に心境の変化が起きている。互いが抱いている感情が何かは、やっぱり今でも分からない。分からないし、この手を取るべきではないと頭は理解をしているのに。わたしは、その変化が嫌ではないし、この手を離す方が嫌だと思ってしまっているの。
 
「沢山、いい出会いがあったわ。多分、お願いしたら一緒に旅をしてくれそうな人もいた」
 
 このイベントでは沢山の素敵な人に出会った。やさしい人に、明るい人に、元気な人に。今までのわたしの世界はまだまだ狭い箱庭の中のものだったのだと思い知らされる程に、素敵な出会いが沢山。
 スウィートはやさしい人ではないし、明るい人でもないし、元気な人でもない。善人どころか悪人だ。それを知っている。彼の好きなところなんて浮かびやしなくて、嫌いなところばっかり容易に浮かぶ。それでも素直なわたしは屁理屈屋で逃げようとしているわたしの思考も理解をしている。
 一緒に買い物に付き合ってくれるのだって、作ったご飯を食べてくれるのだって。手を繋いだら振り払わないでくれるのも、わたしの名前を呼んでくれるのも。時たま見せる限定的で不器用なやさしさは、なによりもとても嬉しい。
 わたし、同世代の子どもにしては賢い方なの。思い上がりじゃないかって何度だって思い直したこともある。けれども、あなたが他とは違うやさしさを向けてくれていることには、もしかして、って思っていたの。
 
「……――、……」
 
 喉元まで出かかった、本音を呑み込む。それを言ってこの関係性が壊れてしまうのだけは嫌だ。確かに彼のわたしへの態度と感情には変化があるように見られる。でも、それがわたしと同一のものである確証はないのだから。
 
「でも、それでもわたしはスウィートといたいみたい」
 
 自分でも、愚かな選択だとわかっている。絶対にやさしい人の傍に行った方がいいに決まっている。それでもわたしはやっぱり、自分の感情には素直でいたい。
 どんな理屈や論理でも説明が出来ない、好きという感情に振り回される人間はきっとこんな気持ちなのだろうな、なんてことをどこか他人事のように思いながら。
 それに、とわたしはスウィートの手を少しだけ強く握りしめる。さっき見た表情がどこか辛そうで寂しそうだったから、そんな顔させないであげれたらいいのにと。原因がわたしが共にいることだったらどうしようもないのだけれども、そうでないのなら少しぐらいは緩和させてあげれたらいいのにと思った。
 
「……まだ、一緒にいてくれる?」
 
 あくまでも、選択権は彼にある。結局のところわたしがどういおうが、彼がこの手を振り払えばわたしが彼の傍にいられる理由はなくなる。込めた力を緩和させて、わたしは彼の顔を改めて見上げた。

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