どっちもどっち【sideムム・リピス】

■お借りしました:Eさん


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 変なことを頼んだ自覚しかなかった。だから期待なんてどうせしてなかった。
 いつだってボクは蔑ろにされる。いつだって優先されるのはリピスだ。
 リピスをまもるためにと、リピスのためにと。リピス、リピス、リピス、リピス。みんなみんなリピスのことばかり。
 もう、うんざりだ。

 だから嫌いになりたいのに。ボクはリピスを気持ち悪いとも思っているのに、どうしても嫌いになれない。
 悔しい。狡い。リピスは本当に何もかもが、卑怯だ。


 Eに撫でられて、ボクはその感覚に言葉を失った。彼女が自らの名を口にする。お喋りがしたくなったらまたおいでとも言ってくれている。
 不思議な感覚だった。撫でられた箇所に意識を傾ければ、先程の感覚がすぐに戻ってくる。
 あたたかかった。やさしかった。こころがおちつくような、そんな感覚だった。

『……エウラリオ』
『ああ。何だい?ムム』
『……ありがとう』

 考えて考えて、発せた言葉はそんな簡素で陳腐なものだ。生まれて数年した子供が言えるレベルの程度の低いもの。それでも今のボクにはそれぐらいしか紡げそうになかった。

『また、暇になったら声をかけるよ』

 ふるふると軽く頭を振ってからエウラリオに背を向けた。今度は何を言われても立ち止まる気も振り返る気もなく、ただ走り続けて。逃げた。


***


「E」

 ムムがEから離れたのを見て、わたしはEに近付いた。Eはじっとわたしを見下ろした。普段のやさしい表情で。

「ムムと話してくれたのね、ありがとう」

 Eが返事をするように鳴き声をあげる。わたしには彼らの言葉はわからない。それでもその声音と表情から、大体の予想は出来る。

「わたしもムムも、こどもなのよ」

 わたしよりもムムは少しだけお姉さんだ。けれども、それはムムがそうあろうとしているだけで、わたしが好き勝手しているからそうなっているだけ。
 本当はわたしとムムは同い年ぐらいのこどもに他ならない。けれどもあの子にはわたしには与えられなかったプレッシャーが与えられている。
 皮肉なものね。わたしは両親にもっと期待されたかったのに、期待なんてされたくないムムにそれは向かってしまったなんて。

「また、ムムとお話してあげてね」

 きっと今日は照れて逃げてしまっただけだから。きっと今ごろ泣いているであろう、素直ではない親友を想像してわたしはやさしいお母さんに微笑むしかなかった。

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