優しさを知っているから【sideレフティア】

こちらの流れをお借りしています。

■お借りしました:テオさん、フェイくん
 
 
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 髪に触れることも、触れられることだって。自分にとっては何ら特別なことではない日常的なことだ。家族にも実の兄や姉のように慕う彼らにも、手持ち達にも触れられることは好むし、ルスカの髪を結うことだって好きだ。
 だからなんてことのない日常の動作の一つのはずなのに、どうしてテオに触れられるとこんなにも、どこか心が浮足立つのだろうか。
 
 
 チェックポイントを目指しながら歩いている最中、テオは手持ち達の話をしてくれた。クッカ・ムナで共にいたアメリーの姿は今回はなく、控えめな様子のタブンネは愛らしい微笑みを湛えながらついてくる。そんな彼の名前はフェイというらしいこと、アメリーの兄であるオスカーというギャロップのこと、順々にテオの手持ちの説明を聞く度にレフティアは嬉しくてたまらなかった。
 彼が自分の手持ちのことを大切そうに話してくれるからというのもあるし、彼が自分の大切な手持ち達のことを自分に話してくれることも嬉しいという理由もあった。けれども、最後に紹介されたトゲキッスのリーリオの話になった際に、少しだけテオは表情を曇らせた。それを不思議にも不安にも思ったが、繋がれた手に込められた力の強さに、レフティアは何かを口にすることは止めた。
 きっと、彼にとっての柔らかい部分なのだろうと。そう思えば自分に出来ることは何かと考えて、やさしく手を握り返した。そうすることで少しでも彼の心が楽になるのなら、彼の支えになれるのならと願って。
 
「ふふ、わたくしの番ですね」
 
 それなら、とレフティアは一つのプレミアボールを手に取った。軽く宙に放り投げれば出てきたのは、未だにテオには見せたことのなかった手持ちの一匹だ。クッカ・ムナではテュッキュと共にいたことや、キノスとランタが迎えにきてくれたからこそもあったが、フィンブルに留守番にしていた子達もいた。
 その内の一匹であるロスカは”今も”バトルをする気にはならないようで、エリューズのポケモンセンターに預けてきている。だからこそロスカの代わりにと、普段は手加減をしたバトルしかしないでいてくれているその子を連れてきた。たまには何もかもを気にすることなく、楽しんでくれたらいいなと希望を抱いて。
 真白の光に包まれて現れた姿も、これまた白い。ひやりとした冷気がその身からははらはらと舞っており、それを掬いとるかのように___ミュラッカは手を動かして口元に添える。
 ユキメノコのミュラッカ、彼女はボールの中からレフティア達のやり取りを聞いていたようだ。だからこそ、テオとフェイに向かって淑やかに微笑んで頭を下げた。
 
「綺麗なユキメノコだね。それもすごい、礼儀正しいや」
「ミュラッカと言います。アニさまから頂いた卵からわたくしが孵した子のうちの一匹で……よくわたくしの手伝いをしてくれるのです」
 
 アニーニケと名を出せばテオはああ、と納得の声を出す。クッカ・ムナでははぐれたレフティアをアニーニケが見つけてくれて、その時共にいてくれたテオとも出会ったのだ。
 ここまで考えて、思い出して。レフティアは一つのことを思い出す。
 
「あっ」
「え?」
 
 テオの少し後ろからついてきていたフェイにミュラッカが微笑みながら握手を求めるように手を差しだす中、レフティアが言葉を零す。実にそれは、やはり、彼女らしい発言だった。
 
「……ええと、アニさまに連れてきてもらったのですが、はぐれてしまいまして」
「えっ」
「アニさまも探しながらでも大丈夫でしょうか?」
 
 テオと共に行くことも、彼のサポートをすることもやめたくはない。けれども、ここまで自分を連れてきてくれたアニーニケのことも気がかりであったことは確かだ。とはいってもアニーニケは一人でも逆にこのイベントを楽しんではしゃぎ倒していそうなので不安に思っている点は特にはないのだが。それでも大切な兄なのだ。単純に再会して安心させたい、という想いもある。
 
 きっと彼なら勿論と言ってくれるのだろうな、と思いつつレフティアはテオを見上げた。

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