割れた銀世界【sideグリモア】

こちらの流れをお借りしています。
  
■お借りしました:ラヴィーネちゃん、レーニアくん
 
 
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 凍てついた世界が眼前に広がる。礫を溶かしきったと思ったら追撃とばかりに放たれたの別の技だ。
 煌めきと共に放たれたそれによって、周囲の気温が下がり、輝きを生み出す。はらはらと舞ったそれは季節外れの大地から重力にも逆らって降った雪のようだった。
 
 そちらが真っ向勝負を挑むのなら、とフォカロルはあえてねっとうを放ち続けた。それが凍てつかされようとも、それならば更に溶かせてしまえばいいだけだと、更に水泡の威力を強める。
 凍てつかせるのが先か、溶かすのが先か。いいや、どちらも同時に行われ続けている。凍てついては、溶かされて。その繰り返しが行われて二匹のぶつかった技は停滞を続ける。一歩でも引き下がった方が負けだ、とでも言わんばかりに。
 
 グリモアは、自分でも意外なことに驚いていた。それはフォカロルが押されていることにだ。彼女が強いというのはなんとなく直感で理解していた。してはいたのだが、フォカロルがここまで押されるとは思っていなかったのだ。
 だから。だからだろうか。はじめてフォカロルよりも強いかもしれないトレーナーとポケモンの組み合わせに出会えたからか。
 ぽつりと、グリモアは零す。
 
「名前は?」
「……ラヴィーネです」
 
 そういえば二人共名乗っていなかったため、トレーナー同士のやり取りで名前が出たのはこれがはじめてだ。グリモアは厳密には興味がなかったから名前を聞く気すらなかったというのが正しいのだが。
 
「俺は、グリモア」
 
 この名については、何とも思っていない。だってこの名は自分に対する皮肉と嫌味だけで込められた名前なのだから。”母が父を捕まえておける道具を授かれてよかったな”と祖父母が嫌味だけで自分につけたのだとグリモアは知っている。
 でも、別にどうだってよかった。それが普通だと思っているからこそ、何とも思わない。だからこそ手持ち達にも同様に酷い名をつけたと思っている。それなのに彼らは自分に対してどこまでも甘くやさしい。
 だからだろうか。彼等のことは好きで、強くなりたいと願うのならその力になりたいと思ったのは。
 
「強いね」
 
 でも、その中でフォカロルだけは違った。彼だけは自らこの名をつけろと一番に言ってきたのだ。まるで、自らもグリモアと同等だ、仲間だ、とでもいうかのように。だからフォカロルにだけはグリモアは感情を抱いていたし、尊敬していた。
 目の前で、世界が割れる。均衡を保っていた熱と氷は、水を凍てつかせた氷が世界を割る形で収束を迎えた。
 疲労困憊とばかりにフォカロルはその場に座り込み、首を横に振った。それは彼なりの降参だ。それを見て、グリモアはチップを指先で弾いてラヴィーネの方へと飛ばす。
 
 グリモアにとって世界の中心で、世界のヒーローだったフォカロル。そんな彼が、今こうして負けた。そうなれば心に生まれたものは素直な悔しさと、……相手に対する賞賛の感情だった。
 
 うまれてはじめて、呪われた子は微笑んだ。はじめての負けとともに。
 
 
***
 
■末尾判定の結果、グリモア側の負けとなります!
 そのためスイーツチップ5個をラヴィーネちゃんにお渡ししました。

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