困ったお願いごと【sideレフティア】

■お借りしました:イゼットさん
 ※時期的には不思議ナ森ノ遊技場の後のユールです。
 
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 フィンブルの冬は厳しい。平素から雪と氷に覆われている町は、冬がこれば本番だとばかりにその勢いを増した。
 今日はクリスマス。夜には家族とともに大切な時間を過ごす予定が詰まっている。あまりお酒は得意ではないが、この日ばかりはホットワインを食卓で頂くと決めているのだ。
 そんな予定が夜にあるなか、レフティアは昼の時間は何をして過ごしているのかというと、配達員を探していた。今日は確か配達員の方が来る予定だったはずだ。その記憶通り、向かった先には目的の人がいた。雪の世界に溶け込んでしまいそうな程に美しい白髪は、きっと結われて帽子の中に収められているのだろう。レフティアは呼んだ、その人の名前を。
 
「イゼットさん」
「ん、レフティアさん。こんにちは」
「こんにちは。今日も寒い中ご苦労さまです」
 
 快活な笑顔が向けられて、レフティアも自然と微笑みを返す。誰に対しても分け隔てなく明るさを向ける姿を見ているからか、レフティアにとってイゼットは素敵な人として認定されている。勿論人として。
 
「配達してもらいたいものがあるんです」
「勿論。どれっすか?」
「これを」
 
 レフティアが差し出したのは真っ白な小さな箱だ。しっかりと閉ざされたそれは彼女が触れた以外には誰も開封していないことだろう。
 
「その、どこにいるか普段はわからない人への配達なんです。普段旅をされていて……大丈夫でしょうか?お名前はテオさんと仰るのですが」
 
 恐る恐るレフティアは尋ねた。この贈り物を渡したい人はこの地方を旅しており、一つどころに止まってはいない。だからこそ宅配など無謀ではないかと思っていたのだが、それでもどうしても贈りたいという意思が勝ってしまった。レフティアは基本的にフィンブルから離れられない。だからこそ宅配でなら何か贈れないかと思ったのだ。
 イゼットが何かを考えて口にする前に、やはり無茶なお願いだっただろうかと思ったレフティアは言葉を発した。
 
「あの、もしも厳しいようでしたらいいのです」
 
 慌てて差し出した箱を下げて苦笑を零す。本当は下げたくはないが、それでも相手に面倒をかけることだけは一番したくなかった。

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