空白の加護【sideシャッル】

こちらの流れをお借りしています。

■お借りしました:ベラドンナ(ミランダ)さん
 
 
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「貴方に月の女神の加護があらんことを」
 
 自分と対を成すようにシスターの仮装を選んだ彼女の言葉も、仕草も、表情も。何もかもがまさに”それらしい”ものだった。
 女神の加護、なんて大層な言葉は天地がどうひっくり返っても己に向けられるものではないことを理解している。彼女だってきっとそれは理解しているだろう。それでいて言葉を遊び、微笑む彼女は。やはり彼女らしいと思えた。
 
「それなら」
 
 こちらの頭を撫でていた手が完全に引っ込められてしまう前に、右手を伸ばす。造り物でもない人のもの。自分の右手とも左手とも異なる細く柔らかいそれを壊してしまわないように掴んだ。
 壊すことは得意だ。壊すことを好む。けれども全てを壊すことを望むかといわれるとそうではない。それはただの愚かな思考と行いであり、自らが望むものとは大きく離れる。
 壊れ間近のラジオなんて壊しても楽しくない。そうなるべき定めが直にやってくるのだから手を下す方が無駄な労力を割くのだから、愚かで仕方がない。
 
「天の花嫁からの加護を」
 
 手折らないように掴んだ手首。抜けてしまわないように引いた手。薄布越しの手の甲に、贈り物を。手袋越しだからこそ感触も体温も感じはしない。それでも、落した口付は僅かな波を生み出した。
 
「なんて」
 
 ふふと笑って手を離す。今回ミランダとは同じ緑のチームであり、敵対してバトルをする立場ではない。同じチームで共闘してバトルをすることも勿論出来るが、それは彼女が望めばすればいいことであり自分から発言することではない。
 そもそも彼女は自分とバトルすることを望んでいるのだろうか。あの日あの時、ビジネスパートナーとして手を差し伸ばしてから彼女との関係は実に良好だ。互いに一線を引いて、踏み入られたくないところには入らない。見せたくないものは覆い隠す。冷たいと言われてしまえばそうかもしれないが、それはとても楽なことだ。
 感情なんてものを持つ方が、どうかしているのだから。
 
「また後で」
 
 微笑んで手を振った。造られた義手を。

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