冷たい証明【sideリピス】
■自キャラの独白です。
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わたしは恵まれていた。願えば手に入らないものはなかったし、望めば何だって叶えて貰えた。
けれども、本当に欲しいものはいつだって手に入らない。
駆けて、駆けて、少しだけ立ち止まる。周囲に敵も誰もいないことをしっかりと確認してから壁に手をついてすう、と深呼吸。
安堵と、恐怖に冷や汗か止まらない。心臓がうるさい。早く落ち着け、早く静まれ、早くいつも通りのわたしに戻れ。
こわかった、なんて恐怖を思い出すな。理解するな。問題ないと思い込め。わたしはいつだってそうしてきた。そうしなければいけない、そう在らなければいけない。
策がうまくいったことに心の底から安堵する。頭の中で弾き出した計算が間違うことはない。間違わないようにと必死こいて脳内で計算を何度も何度も何度も繰り返してシミュレートしてから実行に移すからだ。
人はわたしを天才と言った。確かにわたしは、同年代の子達に比べれば賢い方だろう。けれども、わたしの脳に身体は未だ追いついていない。わたしの脳に精神は追いついていない。けれどもわたしはわたしの脳の計算通りに動かなければならない。
わたしは、強くあらねばならないのだから。
ぱん、と軽く自分の頬を叩く。赤く腫れてしまわない程度に、それでいてかつ自らを奮い立たせるぐらいの力を込める。
気づかれていないわよね。気づかれていないといい。そう振舞った。絶対に誰にも弱いところなんて見せたくない。見せたら、だって。
引きちぎられた腕が自分のものであればよかったのにと心の底から願った。
大切にしていた宝物。すっかり年季の入ったぬいぐるみはわたしが生まれた時からムムと共にあった。
ずっとずっと大切にしていた。ずっと共にあった。抱きしめて常に歩いていた。
その子が壊されたあの日から、わたしは弱さを見せないと決めた。弱さを作らないと決めた。誰にも奪われないように、壊されないように、わたしは、強く在ると決めた。
プレッシャー?そんなものはいつだってそうだ。わたしは全てを愛しているし好いている。けれども、その上で誰も信用していない。
低俗で愚かな同年代の子ども。嘘をつくか真実を話さなければいいと勘違いをする大人。
みんなみんな、わたしの世界の外側のものだ。
好きならば嫌がらせをしていいのかしら。やさしければ言葉を隠していいのかしら。そんな訳ある訳ないでしょう。
わたしは盗んだ。隠されていたピアスを。大切そうに隠されていたそれをひっそりと盗み出して、無理矢理に自分の耳に穴を開けた。
鏡に映ったわたしの左耳からは赤が溢れ、そこにはただ愚かな盗っ人だけが映り込んでいた。
世界がやさしくないのなら、わたしだってそうあったっていいでしょう。
世界が悪であるなら、わたしだってそうあったっていいでしょう。
わたしが求めていないやさしさなんて、ないも同然。
わたしが欲しくないものしか手に入らないなんて、ないも同然。
世界はとても美しい。愛しているわ。けれども、けれども。
わたしは、うつくしいあいをしんじない。
盗んだピアスを取り出して、左耳に取り付ける。これは証だ。わたしが世界を憎み世界を呪い、悪人になることで心を救おうとした。
そんな、愚かな金二つと銀一つ。
わたしは今日も、ひどくみにくい。
これでいて、愛を求めているのだから。
ねえムム。だからこれからもあなたはわたしを気持ち悪がって、嫌っていてちょうだい。
あなたの嫌悪が、わたしにとってのつめたいあいとなる。
____わたしのいきる糧であり、証明となるのだから。
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