苛立取引【sideミィレン】

■お借りしました:フォンミイさん、イースーちゃん
 
 
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 鈍い音が鳴った。胸倉を掴んで壁に抑えつけるように拳を押し当てる。へらりとした笑みを絶やさずかわしもしなかったのは、男女の力の差故にかわす意味はないとでも思っていたのか。それでも微かに覗く苛立ちを孕んだ瞳の色に、僅かにだが胸糞悪すぎた感情が軽くなった気がしたからこそ、私も私で性格が悪い。
 
「入店してすぐ乱暴たァ、品がないねえ」
「品を語れる口なんて持っていたのね、驚きだわ」
 
 翡翠の瞳が苛立たし気に揺れて、それに呼応するように耳飾りも揺れた。
 彼の相棒であるイースーが毛並みを逆立ててこちらを睨みつけてくるも、それを牽制するようにウーイーも相手を見下ろしている。一触即発というのはこういった空気のことを言うのかもしれないが、彼を前にしてこれ以外の空気になった記憶がない。それは初めて彼と衝突した時から変わらずじまいだ。
 とはいっても、どれだけ嫌いな相手であろうとも今日は喧嘩をしにきた訳ではない。必要情報の交渉にきただけだ。不本意だが。非常に不本意だが。舌打ちとともに掴んでいた胸倉を離せば、面倒くさそうに衣類を整え直している姿が見えた。
 
「あなたの被害にあった人からの依頼が耐えないのよ。八つ当たりぐらいさせなさい」
「へえ。そいつは可哀想なことで。で?本気で喧嘩しにきた訳で?」
「最悪なことに仕事よ」
 
 実際問題、今日は仕事のためにやってきた。私も彼も情報屋ではあるが、取り扱う情報は異なる。手広く情報を集めてはいるが、それでもどうしても私の情報網だけでは手の届かないところはある。その際はたとえどれだけ嫌いな相手であろうとも利用できるものは利用せざるを得ないということだ。
 
「金は?」
「ない訳がないでしょう」
 
 相手が求めているものを用意してから交渉するのが鉄則だ。いやでも慣れたこういう場面でのやり取りが、嫌いで嫌いで仕方がない。
 必要な金銭を床にすぐ傍にあったテーブルの上に放り投げれば、フォンミイの視線が微かにそちらに向けられた。流石の守銭奴といえば感心すればいいのか、金さえ手に入れば相手が私でも仕事は応じるのだからまだマシな方なのか。
 
「確かに。ンじゃ、しょうがねえ。情報をやるよ」
「どうも」
 
 こちらから離れて、彼はテーブルの上に投げられた金を手にする。額を数えながら淡々と告げられる情報は確かにこちらが望んだものだ。それをしっかりと脳に刻みながら、ふと、彼の左手の中指に視線が向かう。
 青い光を放つそれには、___どうしてか目が惹かれた。

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