白銀世界の景色【sideレフティア・ロスカ】

こちらの流れをお借りしています。
 
■お借りしました:テオさん、リーリオさん
 
 
------------------------------------------------------------
 
 テオがバトルは得意ではないことを知っていた。だから彼が攻撃技を口にしようとした際に言い淀んだのを見て、心配したのが半分。もう半分は、どうすれば力になれるだろうか、という思考だった。
 はじめて向かってきた攻撃技。ここは陸地、ロスカの体躯で躱しきることは難しい。相手が放ってきた技の命中率も加味して今ここで取るべき行動は、とレフティアは思考して、下す。
 
「しおみずで払いきって」
 
 刃も空気も何もかもを防ぐように冷たい水の壁を作り出す。すくい上げるように放たれた水流が放たれた空気の刃を飲み込んでは白に溶けた。
 静かに雪が降り始める。それがこのフィンブルの土地の常ではあるのだが、この寒さもテオの手持ちであるリーリオには厳しいものだろう。それでもテオがリーリオを選出したのに意味があるのなら、下手な気遣いは不要だ。誠心誠意まっすぐに全力でこのフィールドを使いながら戦うこと。それが今のレフティアに求められたものだと信じて、彼女は言葉を続けた。
 
「そのまま。今度は羽を狙ってください」
「リーリオ!躱すんだ!」
 
 リーリオの動きは速い。しっかりと鍛えられたしなやかな身体は空中を旋回し、しおみずが届かない高さまで飛び上がる。だからほんの少しだけ羽にしおみずはかかった程度だ。だがしかし、それだけでよかった。ほんの少しだけの水滴が、このフィンブルでは重りとなる。
 
「!」
「追撃です」
 
 テオがはっとした表情を浮かべる。その表情を見てレフティアはすぐに動くべきだと判断し冷静にロスカへと指示を出した。
 
 
***
 
 
 レフティアという女は、酷く歪な女だ。そう感じたのは本能的なものだったが、ランタとの関係や在り方を見ていればそれが間違いではなかったのだと確信した。
 だから関わり合いになどなりたくなかったのに、怪我が完全に癒えるまであの女は俺を逃してくれなかった。歪で砕けそうな氷なのは己のくせして、他者を助けようと、力になろうとしてくる。
 嫌いだった。その在り方が。触れたら壊れそうな心が怖くて近寄りたくなくて、だから距離をとっていたのに。結局のところ自分も弱い生き物でしかなかったのだ。傷付き弱っていたところを下心も打算もなしに看病をされて、絆されない訳がない。種族の垣根も越えてレフティアに抱いていた感情が恋慕だったことなどすぐに気付いた。勿論そんな感情を抱いていようと想いをぶつけるような真似はしたくなかったし、やがて風化して愛だけになることを待っていたのだ。
 今回のバトルに立候補した理由はその風化待ちの愛が、あの男は本当にレフティアに相応しいかどうかを見極めろと煩かっただけのこと。久方ぶりのバトルな上に、不得手な陸地のフィールド。動きにくいったらありゃしない。それでも今このバトルで負けるつもりは毛頭なかった。
 
 追撃の指示を受けて俺は空へ向かってフリーズドライを放つ。ジムトレーナーをしているだけあってか、それともアニーニケの訓練のおかげかレフティアのバトルは賢い。お手本を準えたうえで、チャレンジャーを試すような変化球を仕込んでくる意地の悪さだ。
 この極寒の土地ではほんの少しの水滴が氷と化すのなど一瞬のこと。動きの悪くなった翼が機能するのに生まれるラグが、鈍臭い俺の攻撃を当てる時間を埋めてくれる。
 
「マジカルフレイム!」
 
 それでも間一髪で技を放ってきたのは、トレーナーとポケモン双方の意地だろうか。それならば技を放ち隙が生まれたそこに追撃を与えるだけだと思っていた俺に飛び込んでくる、それが見えた。
 炎だ。熱い炎を纏ったリーリオが、こちらに向かって降りてくる____。
 
「ロスカ!」
 
 レフティアが俺の名を叫ぶ。問題ないと告げるように頭を振って、俺に突撃した反動で空に戻ったリーリオに視線を向けた。凍りついた翼などどこにもない。代わりといってか、少し焦げあとが残ったのはお互い様だ。
 僅かにだが身体が重い。嫌味な技だ。けれどそれでこそ、というものでもある。こうでなくちゃあ、戦り甲斐もない。レフティアが何か言うよりも早くに、俺はしおみずを空へ向かって放った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?