愚か者と愚か者【sideミィレン】

■お借りしました:ダヴィドさん


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 頭が重い。明らかに飲みすぎた。今日は昼の姿に代わるのはやめて、このままゆっくりするとしよう。
 昼の時間は記憶が私のものではないとはいえ、ずっと稼働し続けることに変わりはない。故に体調不良の時に何も理解していない昼の人格に無理をさせる訳にはいかないのだ。
 少し休んだら陽の光を浴びに散歩にでもいこう。私だって太陽の光は浴びたくもなるのだから。


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 早々に外に出たことを後悔した。何でこう体調も気分も最悪な時に出会ってしまうというのか。
 いけしゃあしゃあと私の対面に座り料理を頼み終えたそいつは顔色が悪いけど大丈夫かい?なんて宣ってくる。よくなりかけていたのに悪くなった訳だから大体はお前のせいだ。
 街で評判の洒落たカフェテラス、日差しが直接当たることの無いそこで先に運ばれてきた紅茶を眺めて額に手を当てた。目の前のこいつがいなければ実に好ましい時間帯だというのに。

「美味しいよ?」
「あんたの顔がなければね」

 紅茶に口をつけてにこにこと笑うそいつが普段通り私の話を聞かないのはいつものことだ。いや本当にアイ返せ。そうは思うが普段ともにいるウーノがいないことからアイはあいつに連れ回されているのだろう。何なんだトレーナーもポケモンも揃って最低最悪な女好きめ。

「アイならお出かけ中だよ」
「誘拐の間違いでしょうが」
「あんなに愛らしい組み合わせなのに」
「その口本当に縫い付けてやりたい………」

 体調不良は再びぶり返してきていることは確かだ。頭痛が酷い。いやもうこいつのせいで。はあ、と溜息をついて紅茶を流し込んでいればダヴィが勝手に頼んでいた私の分のメニューも運ばれてくる。香辛料が使われたそれに相変わらず好みは変わっていないのだなと、ぼんやりと思考する。いや、どうだっていいが。

「昔もこうやって出掛けたよね」
「はいはい、そうね」
「あの時はあんなに幸せそうだったのに」
「そうね、愚かなことに幸せだったわよ」

 それで満足?とじとりと睨んで返してやれば勿論!と嬉しそうに返してくるものだから手にしたナイフを眉間に突き刺してやろうかと思う。店に迷惑がかかるからしないが。

「楽しい夢だっただろう?」

 上品にナイフとフォークを動かしながら微笑むその姿に、昔の私ならば胸の高鳴りを抱いていたのだろうが今では口にした美味しい料理が哀しい味に変わるだけだ。

「最低なマジシャンね。夢を明かすなんて」
「誰だってマジックのネタばらしを楽しみにするじゃないか」
「っていうか何マジシャンって、腹立つわ」
「それは流石に理不尽な怒りすぎないかい?」
「それぐらいの理不尽向けられるぐらいのことをしたって理解してるくせにいい加減にしてくれないかしら???」
「本当に君面白いよね」
「誰のせいだ、誰の」

 はあ、と溜息をつく。もう何回今日吐き出したかわからないし、私の幸せなんてものは掻き消えたに違いない。

「誕生日おめでとう」

 ぽつりと呟かれた言葉に時を止めた。沈黙の後にダヴィの方を見ればにこにこと笑みを絶やさないままだ。
 私は思わず手を伸ばす。指先を宙で踊らせて、彼に手を触れさせた。

「あんたにいっっっちばん言われたくないわね。あと残念ながら昨日の話よ!!」
「はは、勿論分かってるさ!」
「本当に腹立つ!!」

 もう我慢の限界だ。私は容赦なくダヴィの胸倉を掴んで揺すった。


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11月7日、ミィレンお誕生日おめでとうの話。

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