老いた竜【sideフォカロル・グリモア】

こちらの流れをお借りしています。
 
■お借りしました:レーニアくん、ラヴィーネちゃん
 
 
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 少女がボールに手をかけた瞬間姿を現したグレイシアの姿。その様子に、どうしても過去の残影が被る。勿論それは負の感情としてのものではない。
 ああ、いつの世も、いつの子らも。トレーナーとポケモンの在り方は変わらない。
 
 季節外れの白が世界に降り注ぐ。レーニアと呼ばれていた目の前の存在が放ったであろうことは簡単に推測出来た。
 勝手にボールから飛び出し、私のバトル相手を担うこと決めた若き子の瞳は恐ろしい程に真っ直ぐで、氷水晶のように澄み切っている。
 沢山の人を見た。沢山のポケモンを見てきた。沢山のトレーナーとポケモンの在り方を見てきた。その在り方は千差万別。必ずしも全く同じ
在り方などありはしない。けれども、いつ見てもいいものだと思う。
 相棒を思いやる気持ちというものは。
 
 視線だけを動かしてグリモアを見遣る。グリモアはそれだけで私の言いたいことは理解したのだろう。こくりと頷くと口を閉じた。とはいっても、あの子は基本的に口を閉じているのだが。
 
『お互い様といったことだろう。気にせずとも構わない』
『ああ……そんな感じはするかも』
 
 レーニアが私の背後に立つグリモアの表情と様子を見て少しばかりおかしそうに呟く。先ほど丁寧にレーニアは自分のトレーナーを紹介してはくれた上に名乗りがなかった非礼を詫びはしたが、それはグリモアの方も同じだ。所謂似た者同士というものだろう。グリモアも逆にやりやすそうだ。
 
『老いた身だ。若きものには劣る。……そうは告げても、君は信じないだろうな』
『そうだね。全く』
 
 一切の警戒を解くことなく告げるその子の審美眼は確かなものなのだろう。
 我が身は老いた。それにおいては紛れもない事実であり、目の前にいる彼のように若かった時とは違い動きには重さが付きまとうようにはなった。しかしそれでも、この身は弱まることだけは許さないようだ。
 
『その才、瞳。見定めよう。かかってくるといい』
 
 凍てつく銀世界。ああ、酷く懐かしくて愛おしい記憶だ。今目の前にいるラヴィーネと同じぐらいの年だった、雪遊びをしていた泣き虫だった少女は。今は____どう過ごしているだろうか。
 
 
***
 
 
「……よろしく」
 
 降り始めた雪を視認して、流石に挨拶ぐらいはとグリモアも少女に向けて声を発する。発した、瞬間だ。グリモアが指示をすることはなく、コンマの秒もなく竜が咆哮もなく光を射出した。
 目映い鋼の光が真っ直ぐにレーニアの方へと向かい、少女は瞬時に目の色を変えると回避指示を繰り出す。跳躍したレーニアの足の爪先を微かにラスターカノンが掠り、放たれたそれはレーニアと少女の背後にあった樹に命中し、薙ぎ倒す。
 
「……!」
「加減は、知らない」
 
 ぽつりと呟かれたグリモアの言葉が最後まで発されるよりも早くにやはりフォカロルは容赦なく動いた。先ほどは鋼の光を射出したその口先から、今度は竜の力を放つ。飛び出したりゅうのはどうは竜の形を蠢かしながらレーニア目がけて銀世界を駆け抜けていった。
 
「フリーズドライで凍らせて」
 
 ラヴィーネの指示に合わせてレーニアが一鳴きすれば彼の周囲に浮かび上がった氷の礫が銀を纏い放たれる。素早く打ち出されたそれがこちらに狙いを定めていたりゅうのはどうの口先に命中すると、氷を生み出す音とともに凍てつかせ、大地に落とす。氷河期に堪えられなかった竜が氷に敵う訳がない。タイプ相性は如実に答えを弾き出している。
 
「………」
「そのままシャドーボール」
 
 間髪入れず技を発動出来るレーニアと、躊躇いのない的確な指示に強いな、とグリモアは冷静に少女を観察した。それと同時にフォカロルが負けてしまうだろうかとも、”漸く自分は負けられるだろうか”なんてことも考えた。
 今は、そんな考えはどうでもいいことだ。
 
「フォカロル。世界が。お前によくない」
 
 だからとグリモアは空を見上げて、天候を司る雲を見た。フォカロルは頷きを返すと、シャドーボールをかわすことなく、空目がけて水泡を打ち上げた。大砲から放たれた砲丸のようにそれは真っ直ぐに軌跡を描き、白き雲へと命中する。
 そうすれば圧縮されたねっとうが勢いよく弾け、あられを溶かすかのようにあたたかな雨を降り落とした。

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