故に愚者でありたがる【sideガラド】

▼花ト卵の後の時間軸の話です。
 
■お借りしました:ルーミィちゃん
 
 
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 卵からは新しいポケモンが生まれてくる。それを組織のために回収することは、果たして生まれてくるポケモン達にとっては幸福なのだろうか。
 わからない。わからないのだ。組織が何のためにポケモンの卵を集めることを自分達に命令しているのかも、この卵たちが回収された後どうなるのかすらも。
 去年の夏を思い出す。あの時捕まえたアマルは有難いことにレゼルが受け取り、旅に連れていってくれた。それに俺がどれだけ安堵したことか。俺がどれだけ卑怯な大人なのかを知らないレゼルもアマルも、知らない。最低な男だと思う。何も知らないレゼルを利用したようなものなのだから。
 降り積もる罪が重い。この腕に抱いたままの、卵すらもまるで鉛のような重さだ。
 トラックに積んだ後、俺は結局耐えられなくなってボスに報告して自分が回収した卵を受け取った。育てる度胸も勇気もないくせに。ただ、怖かったから引き取らせて欲しいとお願いしたのだ。
 
 それでいて、俺はまた愚かな行為に及ぼうとしている。
 
 以前よりも多く訪れるようになったグリトニルを歩き、ルーミィの元へ向かったのだ。付き合うようになって数ヶ月が経った今、少しは慣れてくれただろうか。俺の横を歩く彼女は楽しそうにクッカ・ムナでの話をしてくれた。
 お互いにクッカ・ムナの会場には向かっていたが、俺はラグナロクとしての活動があったのと、ルーミィも友達と向かう約束があったことからそう共にはいなかったのだ。
 だからこうして今彼女が楽しんでいたことを聞けることを嬉しく思う。俺ではあげることのない喜びに違いないからだ。
 
「せや、ルーミィ」
「?はい」
「クッカ・ムナでポケモンの卵拾ったんや。やけど俺育てる余裕がなくて。よかったらどやろ」
 
 鞄の中にしまっていた卵を取り出し、ルーミィへと差し出す。受け取ってくれたらと願う反面、受け取らないでくれたらと願う自分が心のどこかにいることも確かだ。
 喜ぶ反面、また良心の呵責に苛まれるだけなのだから。けれどもそれは俺だけの問題であって、生まれてくるポケモンにとっては、俺の手元から離れた方が絶対にいいのだ。
 それがまた、純粋な善人を利用する形になるとしても。俺だけが最低な愚者で、悪人でいればいいだけの話なのだから。

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