逃げ場はどこに【sideミィレン】

こちらの流れをお借りしています。

■お借りしました:バロックさん、フォンミイさん
 
 
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 気障ったらしい言い回しにこの男本気でオーロラに燃やされればいいのに、と冷静に思った。
 わざとらしく手を撫でながら指輪を見せつけておいて、何がデートのお誘いだか。勿論この男にデートだかに誘われたとて私が頷くことはあり得ない。
 しかし含みのある言い回しに、真っ先に生まれたものは懸念だ。各地から様々なトレーナーが集まるバトルイベントの情報自体は私も勿論仕入れていた。人が多く集まるところには影も渦巻く。強い光の裏で、闇は動きやすくなるものだ。
 大々的に行われる祭りごとだからこそ、そこには純粋無垢なトレーナーも多く集まることだろう。だからこそ不安が生まれてしまう。この男が向かうというだけで、よからぬ動きがあるかもしれないという予想と、それに巻き込まれる無関係な人間とポケモン達という図式が。
 
 はあ、と溜息をついて差し出されたそれに口をつけた。おかしなものを入れられていたら殴り飛ばすつもりで。生憎とこういった世界に片足を踏み入れてからはそういう耐性もつけられたおかげで、薬物関係には強くなってしまったのでそれだけは有り難いと思うべきなのか何なのか。……元々いた芸能界でも、同じようなものだったか。
 舌の上を通り、喉を通っていくそれに不快感はない。ただ、これのカクテル言葉を考えれば益々腹が立って仕方がない。微塵も思っていないことをさらりと嘯くこの男に、本当に本当に反吐が出る。
 
「無様なエスコートは認めないわよ」
「受けて頂けるのですね、嬉しい限りです」
「腹の立つ顔と声ね……」
「お褒めの言葉ですか?」
 
 ああ言えばこう言う。本当に腹の立つ男だ、とカクテルを置いて揺れる液体に視線を落とした。
 カウンターに置かれた衝撃で波紋を広がせて揺れる青。美しくて、なんて不安定なのだろうか。
 
 
***
 
 
 バトルイベントを純粋に楽しむ子ども達の姿を見ると純粋に嬉しくなった。あの子達は今どうしているだろうか、と最愛の子達のことを思うものの、横にいるのが大嫌いな男なため浸る余裕もない。
 他チームに配るために持ってきたのだといいうドリンクの一つを貰い、本当に顔だけはいい男だなと思う。今日着ている服は普通にださいが。スポーツウェアだからこそ仕方ないといえば仕方ないが、大体をこの男顔で誤魔化していないか?と思えてしまう。
 
「お好きなんですね、子どもが」
「嫌いな人間の方が少ないでしょう」
 
 人の視線の先を見ているんじゃない、と吐き出しそうになった溜息を堪えて、こちらが支援用にと持ってきていたきのみの整理をしてくれていたベイシャンの頭を撫でてやる。その子は嬉しそうに私を見て微笑むが、やはり昼の記憶は戻らないまま。この子が不調なのか、それとも、私を騙しているのか。それは私にはわからないことなのが歯がゆくて仕方がない。
 
「うわ……」
「?」
 
 不意に視界に入った見知った顔に、思わず顔を反らす。チップを手に歩く、包帯を頭と上半身に巻き付けた仮装をした赤毛の男。左腕に赤の腕章をつけていることから、フォンミイもこのバトルイベントに参加していると理解出来てしまい既に帰りたくなった。
 
「お知り合いでもいましたか?」
「いないわ」
 
 とはいっても向こうもこちらに気付いたのか、視線が向いたのを一瞬捉えてしまった。私はひとまず視線を逸らして、バロックの後ろに隠れた。
 何でこんな男しか周りにいないんだ。と今更かつ自業自得なことを考えながら。

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