愉快犯の悪戯【sideリピス】

■お借りしました:スウィートくん
 


 
 クッカムナの祭りは本当に穏やかで楽しいものだった。中々初対面の人とはそう話す理由もなければ話すことはないのだが、それでもこういった祭りの場では祭り気分で浮かれているからか初対面の人とも何ともないことでも話せてしまう。
 行方不明になっていたササに今日は絶対に行方不明にならないでよと口を酸っぱくして共に歩く。というかもう体に紐を巻き付けた。これで流石にそうそう離れることはないだろう。
 そういえば今日はユメキチは何をしているのだろうか。昨日も宿に戻るまでは放置していたので何をしていたのかは深くは追及していないが、どうせ何もしていないだろうな、と当たりをつける。僅かによれたシャツがどう足掻いても寝転がっていたに決まっていることを物語っていたのだから。
 隠されていたタマゴ型の玩具。愛らしい花が用いられたトゲピーの形を模したマトリョーシカのそれを手にしていると隠したのであろう老人が楽しそうに声をかけてくれた。
 
「おお、よく見つけたね」
「あなたが隠したのね。これはトゲピー?」
「ああ、それとグラシデアの花を装飾にね」
「グラシデア?」
「おや、お嬢ちゃんグラシデアの花は知らないかい?」
「ええ。はじめてきいたわ」
「じゃあ花運びについても?」
 
 花運び?と思わず首を傾げれば不意にササの身体に巻き付けていた紐を持つ手が引っ張られる感覚に襲われた。まさかと思いそちらを見れば、ササが通りがかりのケンタロスにそのまま転がされていっていたのだ。あ、と思った時にはもう遅く、ササの身体に巻き付けていた紐が引っ張られた衝撃で引きちぎられる。
 そうなればどうなるかなんて、答えは明白だ。転がるのだ。ケンタロスに転がされるがままに。
 
「あっ、もう!おじいさん、後でそのお話聞かせてちょうだい!」
「え?あ、ああ」
 
 慌ててササを追いかける。追いかけて、追いかけて、その子は町の中心から外れたところまで見事に転がっていく。どうしてあの身体であんなに転がるというのか。いやあれもう途中から転がるのを楽しんでいるところがある。間違いない。
 
「!ササ!」
 
 声を張り上げる。何故なら転がり続けたササの向かう先に人影が見えたからだ。このままでは間違いなくぶつかる、と慌ててこちらに背を向けていた人に声を張り上げた。
 
「ぶつか、」
 
 しかしササがぶつかるスピードの方が速かった。待って、今あの子加速したわね?何で、と不思議に思いながらも駆けよれば、ササがぶつかった人物は不機嫌そうにこちらを振り向いて、すぐに目を逸らした。
 すぐに目を逸らされたがその特徴的な瞳の形を忘れる訳がない。黒髪に、酷く地味な恰好。片方の目は隠れている。それでもどう足掻いても彼だと一瞬で気付いてしまった自分が憎い。
 
「は? スウィートじゃない何してるの」
「人違いだけど」
「わかりやすい……」
 
 というかもしかしてササ、スウィートがいると気付いたからこそ面白くてぶつかりにいったわね。何をしてくれているのかしら。折角面白い話を聞けそうだったというのに。
 
「はぁ……」
「ぶつかっておいて何その態度……」
「面白い話が聞けそうだったのに、あなたのせいで聞きそびれたわ」
「は?」
「あ、そうだわ。あなた花運びって知ってる?」
 
 完全にスウィートであるのに、目の前の人物はそれを認める素振りを一切として見せない。逆に滑稽ではあるのだが、容赦なくそう問いかければ、僅かにその瞳の色が変わったような気がした。

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