夢現のはざまで【sideミィレン】
▼こちらの流れをお借りしています。
■お借りしました:マリステラさん、アステルさん
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弱っている子どもを見るのは嫌いだ。それは孤児院にいた時から変わらない。だってあんなにも苦しそうに助けを求める声を、手を。私は放っておける程図太い性格を出来ていない。それは私にとっての最愛の二人に対しても同じこと。ああ、あの子達は今どうしているだろうか。健やかに元気に生活をしてくれたらいいと、たったそれだけが望みだ。
警戒を解かないままのゾロアークの視線も態度も気になりやしない。そんなことよりも今は熱を出している子どもの介抱が優先だと脳が判断を下しているからだ。
店主から借りてきた氷にハンカチを巻いて、ゾロアに姿を変えていたゾロアークにその状態だと難しいでしょうから勘弁して頂戴よと言い切って子どもの額に簡易的な氷嚢をのせた。重さはそうない。小さな身体に負担がかからない程度のものにしたつもりだ。
こちらを射るような視線を寄越してはくるものの、先程出ていこうかという問いかけには首を横に振ってみせた。それならいても問題はないということだろう。
別に私がこの子どもの面倒を、介抱をする理由はどこにもない。知らない出会ったばかりの子どもだ。この子の介抱をして、面倒を見て、私に何かメリットがあるかといえばない。けれどもただ子どもであるから、熱を出しているから、たったそれだけで私は自分にメリットの無いことにも簡単に動けてしまう。たったそれだけの女なのだ。
だから、あんなにも簡単に騙された。裏切られた。陥れられた。
脳裏に走った記憶のノイズを追い出す。あんな男の顔、思い出したくもない。けれども忘れることも出来ない程にあの時間は幸福で、それでいて。その分の絶望と憎悪が心に焼き付いて一向に離れてくれやしない。
忘れられたら、と願って。愚かな分身を生み出した私はきっと本当にただの愚か者なのだろう。
すっかりくたびれた様子のハンカチを手にすれば、熱で氷が解け切っていることがわかる。替えをもらってこようと立ち上がろうとすれば、ベイシャンが代わりにいくとばかりに私からハンカチをとった。それならその好意に甘えようと、私はベイシャンを見送ってから熱に魘される子どもとゾロアに変化しているゾロアークを見つめた。
「綺麗なものね」
ぽつり、と零したそれは本当に無意識下に零したものだったのだろう。子どもを心配するゾロアークの情。それは出会ったばかりで、彼らのことをよく知りもしない私から見ても本物で、美しいもののように思えた。
まあ、騙されたことのある私の審美眼なんてたかがしれているのだろうが。それでも目の前の彼らの関係は、美しいものとして認識したままでいたいと思ったし、そうであってほしいと思った。
直に夜が明ける。現実逃避の時間がやってくる。終わらない夢なんてある訳がないのに。
私が夢の世界に戻るまでに、この子の熱が下がればいいとぼんやりと思った。
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